説明

作製用の抗体及び抗体作製方法

【課題】目的とする抗体を確実かつ簡単に分離抽出することができる抗体作製方法を提案する。
【解決手段】抗体遺伝子に細胞外で発現させるための発現ペプチド及びアンカーペプチドを結合した状態で、宿主細胞で培養させる工程、前記宿主細胞の表面に発現した抗体と、結合する標識つき抗原を投与し、標識に基づいて前記宿主細胞を補足する補足工程よりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作製用の抗体及び抗体作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体防御機能のなかでもその中心的な存在である免疫機能の解明は、疾病の診断、治療において、重要な課題となりつつある。
例えば、癌、糖尿病等の生活習慣病の他各種疾病の診断に用いられる手法の中で、疾病に深く関わりのあるマーカー物質の濃度、量を目視可能に検出するイムノクロマト法のように、より簡易的診断が可能なものまでも提案されており、免疫学的診断、治療の分野はより拡大していくものであるが、当該方法における抗体の安定した確保は、今後より重要になってくる。
【0003】
免疫学的測定に必要なモノクロナール抗体の作製は、まずマウスに抗原を注射(免疫)する工程で約3ヶ月を要する。その後抗体を産生しているB細胞群を取り出し、ミエローマ細胞と細胞融合する。この工程によって、無限に増殖する事が可能な抗体産生細胞(ハイブリドーマ)群を構築する。最後にこのハイブリドーマ群の中から、目的にあった抗体を産生している細胞を選別(クローニング工程)し、この細胞を用いて抗体の大量調製を実施する。このクローニング工程では、ハイブリドーマ群を希釈し、1ウェルに1細胞しかいないという状態にして、1細胞から培養を行う。
【0004】
これを抗体の性質が検討できる細胞濃度まで増殖させ、抗体の性質を検査する。この検査で陽性となったウェルを再度希釈し、上記と同様に検査を実施する。この操作を複数回実施し、使用に耐えうるハイブリドーマを分離取得する。この工程1サイクルに約2週間を要し、全体で約3ヶ月以上を要する場合もある。
【0005】
この様に手間と時間のかかる作業が必要である為、専門の業者に依頼すると作製費用が高額となる。
他方、体外免疫、抗原抗体反応を利用して目的の抗体を産生する細胞を抽出し、この細胞から、一本鎖抗体等の抗体遺伝子を調整した後、発現ベクターを用いて宿主細胞である大腸菌に導入することで、目的とする抗体を生産することが特開2004−121237号公報等に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−121237号公報
【特許文献2】特開2006−180708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの手法は、最終的に抗体遺伝子が挿入された組み替えベクターを宿主細胞に導入され、形質転換されることで、導入された抗体遺伝子を発現可能とするものであるが、この宿主細胞を培養して大量に抗体遺伝子を産生したとしても、実際は抗原と反応しない抗体を発現している大腸菌や、抗体遺伝子を完全には発現しない遺伝子Wも多数有り、結局、活性のある抗体遺伝子は、その3割前後となり、スクリーニングは、効率が悪いものであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記に鑑み本発明は、作製目的とする調整された抗体遺伝子に、宿主細胞の細胞外で発現させるための発現ペプチド及びアンカーペプチドを結合し、これを宿主細胞に導入して、培養することで、宿主細胞の表面に抗体を固定的に表出させた状態とすることで、前記抗体と反応する標識付きの抗原を外部から供給することで、この標識に基づいたスクリーニングを施すことで、活性の高い抗体のみを高効率で得ることを可能とするものである。
【0009】
シグナルペプチドは、翻訳されたタンパク質を膜透過させる機能を持つペプチドである。分泌性タンパク質はリボソームで翻訳・合成される際にそのN末端に15から30残基のアミノ酸からなるシグナルペプチドを有する未成熟なたんぱく質として合成される。N末端に近い部分は、アルギニンやリシンなどの塩基性アミノ酸が含まれていて、大腸菌などの原核細胞では膜表面とシグナルペプチドを介してイオン結合し、これを足がかりとして膜内へ貫入してゆくと考えられている。
【0010】
シグナルペプチドとタンパク質との結合部分が膜から出てくるときに、膜内に存在するシグナルペプチダーゼによって結合部で切断され、タンパク質部分だけが膜を透過して成熟タンパク質となる。アンカーペプチドには疎水性アミノ酸を含む3から40残基のペプチドが利用され、大腸菌の膜状に発現するタンパク質が生来有している配列である。この配列は膜内在性のプロテアーゼによって分解されないことによって、膜に結合した状態で存在することが可能となると考えられている。
【0011】
本発明で、産生される抗体は、Fv抗体、scFv抗体、dsFv抗体、Fab抗体等が例示される。
本発明における宿主細胞は、大腸菌等の原核細胞、CHO細胞、SP2/0細胞(マウスミエローマ) 等の動物細胞や、酵母等の真核細胞、Sf9等の昆虫細胞、BY−2細胞等の植物細胞等が例示される。
本発明における細胞外発現ペプチドは、例えばペリプラズム移行シグナルペプチド が例示される。抗体遺伝子と、細胞外発現ペプチドの結合方法は、細胞外発現ペプチドをコードする遺伝子を遺伝子工学的に融合する手法が一般的であるが、その中でもPCR法で用いるプライマーに当該遺伝子を融合し、PCR法によって融合する手法が例示される。
本発明におけるアンカーペプチドは、例えば、SecY膜貫通部分ペプチドが例示され、抗体遺伝子とアンカーペプチドとの結合方法はアンカーペプチドをコードする遺伝子を遺伝子工学的に融合する手法が一般的であるが、その中でもPCR法で用いるプライマーに当該遺伝子を融合し、PCR法によって融合する手法が例示される。
本発明における標識は、例えば磁気ビーズ、蛍光物質、ラテックスビーズ、色素化合物等が例示される。
そのスクリーニング手法としては、標識が磁気であれば、磁性部材による分離抽出、蛍光物質であれば、測光手段による目視抽出手法などが例示される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、抗体遺伝子に宿主細胞外で発現させるための細胞外発現ペプチド及びアンカーペプチドを結合した状態で、宿主細胞で培養させる工程、前記宿主細胞の表面に発現した抗体と、結合する標識つき抗原を投与し、標識に基づいて前記宿主細胞を補足する補足工程により、高効率で活性の高い抗体をスクリーニングすることを可能とする。
即ち、このスクリーニングによって、抗体を完全に発現しており、且つ抗原と反応する大腸菌のみを濃縮することが可能となる。また、洗浄作業の回数・緩衝液条件を変えることで、アフィ二ティの高い抗体のみをスクリーニングすることも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例を説明する為の図である。
【図2】プラスミドCの構造である。
【図3】プラスミドDの構造である。
【図4】HRP標識−抗MBP抗体の結合を示す、450nmの吸光度をグラフで示したものである(実施例1)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、体外免疫、調整された作成目的とする抗体遺伝子を組み込んだ発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換をはかり、これを培養する工程において、図1で示すように当該抗体遺伝子細胞表面発現ペプチドと、アンカーペプチドを結合させたものを、宿主細胞に導入して培養することで、抗体を、宿主細胞の表面に結合した状態とすることができる。
図1(a)の01は、細胞外発現ペプチドであり、02は、アンカーペプチドで、03は、抗体遺伝子、04は、大腸菌である。図1(a)は形質転換後の大腸菌を培養することで得られるものである。
図1(b)において図1(a)の状態の大腸菌を含む溶液00内に、磁気ビーズの標識06を結合させた抗原05を添加した状態を示す。
抗原05は、磁気ビーズ06と共に抗体03と結合する。抗体03は、大腸菌04とマーカーペプチド02を介して結合しているため、例えば永久磁石又は電磁石等の磁性部材07を外部からあてがうと、磁気ビーズ06は、磁性部材07と結合することから、併せて、磁性部材07と間接的に結合した大腸菌も結合し、この状態で、結合しない大腸菌を洗い流すなどして除去する。
従って、磁気ビーズと共に抗原と結合した活性の高い抗体を備えた大腸菌が抽出できる。
【実施例1】
【0015】
(本発明に係る発現ベクターの構築)
(pMD19−T Simple(TaKaRa社Code:3271)上に合成された大腸菌SecY transmembrane 6配列の増幅)
アンカーペプチドとして、pMD19−T Simple(TaKaRa社Code:3271)上に大腸菌Sec Yタンパク質の6番目の膜貫通配列(RQGDLHFLVLLLVAVLVFAVTFFVVFVERGQRR)を基に5’末端にPstIサイトを、3’末端にHindIIIIサイトを付加して(配列番号1)合成したプラスミド(プラスミドA)と、Sec Yタンパク質の6番目の膜貫通配列のN末端にGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSで示されるリンカー配列を付加し、さらに5’末端にPstIサイトを、3’末端にHindIIIサイトを付加して(配列番号2)合成したプラスミド(プラスミドB)を作成した。
プライマーpMD15_f(配列番号3)とプライマーpMD15_r(配列番号4)の組み合わせでプラスミドAならびにプラスミドBを鋳型としてPCRを実施した。緩衝液10μL、dNTP4μL、鋳型DNA50ng、各プライマー水溶液10pmol及びPrimeStar HSポリメラーゼ0.5μLを混合し、水を加え全量50μLとし、95℃で3分間の加熱後、98℃で10秒の加熱、55℃で5秒の冷却及び72℃で15秒間の保温からなる工程を1サイクルとしてこの工程を30サイクル繰返す条件でPCRの操作を行った。
配列番号1(約150bp)および配列番号2(約250bp)で示される遺伝子断片の増幅を電気泳動にて確認後、制限酵素PstIとHindIIIで消化した(37℃、2時間)。この消化産物を制限酵素PstIとHindIIIで消化したpMAL−p2E(NEB社code:N8067S)とDNAリガーゼを用いて連結した。
これにより、ペリプラズム移行シグナル配列を含むMBPのC末端に、アンカー配列であるSec Yタンパク質の6番目の膜貫通配列が融合されたプラスミド(プラスミドC、図3)および、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSで示されるリンカーを介してSec Yタンパク質の6番目の膜貫通配列が融合されたプラスミド(プラスミドD、図4)を調製した。
【0016】
2.本発明に係る発現ベクターの構築
このようにして作製したプラスミドを大腸菌JM109株に形質転換しコロニーを得た。これらコロニーをLB培地+Amp50にて増殖させ、アルカリSDS法にてプラスミドを抽出した。このプラスミドの塩基配列をDNAシークエンサーにて確認し、本発明に係る発現ベクターの構築とした。
【0017】
(MBP− SecY transmembrane 6およびMBP−GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS− SecY transmembrane 6の発現)
発現用プラスミドCおよびプラスミドDを大腸菌JM109に形質転換し、形質転換体を作製した。
また対照実験として、内膜にMBPがアンカーされずペリプラズム領域にMBPを発現するpMAL−p2Eプラスミドを大腸菌JM109に形質転換した形質転換体を作製し、実験に加えた。
5mLのLB+Amp50培地にシングルコロニーを植菌して37℃で培養し、OD660nmの値が0.5になったところで、終濃度1mMになるようにイソプロピル−β−チオガラクトピラノシドを添加し、25℃で15時間培養することで発現を誘導した。培養後、1.5mLの大腸菌の培養液を5000rpm、4℃、10分の遠心分離で集菌した。
【0018】
(発現させたタンパク質の局在性の確認)
大腸菌内膜表面に提示されて発現していることを確認するため、以下に示した方法で大腸菌をスフェロプラスト化した。
(大腸菌のスフェロプラスト化)
回収した大腸菌を1mLのSTE solution(10mM Tris−HCl(pH 8.0)、0.5M Sucrose、10mM EDTA)に懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。その後12000gで1分間遠心分離し回収した菌体を1mLのSpheroplasting buffer(10mM MOPS−NaOH(pH6.8)、0.5M Sucrose、20mM MgCl2)に再懸濁し、12000gで1分間遠心分離し回収した。回収した菌体を1mg/mlの濃度になるようにHen Egg Lysozymeを加えたSpheroplasting buffer 1mlLに懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベート後12000gで1分間遠心分離し回収した。回収した菌体を1mLのMACS buffer(PBS、0.5%BSA、1mM EDTA)に懸濁した。これにより、外膜が除かれ内膜の露出したスフェロプラストの調整とした。
(抗MBP抗体による検出)
スフェロプラスト化した大腸菌とペルオキシダーゼ(HRP)標識した抗MBP抗体を混合すると、内膜表面にMBPがアンカーされている場合に限り、抗MBP抗体がスフェロプラスト化大腸菌に結合し、ペルオキシダーゼ活性による検出が可能となる。
【0019】
スフェロプラスト化した大腸菌懸濁液 1mLに、1/1000希釈した抗MBP−HRP抗体(NEB社 code:E8038L)を50μL加え、室温で1時間インキュベートした後、1mLのMACS bufferで2回洗浄することでサンプルを調整した。12000gで1分間遠心分離し回収したサンプルに、HRPの発色基質であるSureBlue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1−Component)(KPL社 code:53−00−03)を100μL加えて懸濁し、室温で3分間反応させた。反応後、1NのHClを100μL添加することで反応を停止させ、その後15000rpmで3分間遠心分離して上清150μLを回収し、その450nmにおける吸光度を測定した。
この結果、アンカー配列を持たないpMAL−p2Eの形質転換体では未処理菌体の状態でもスフェロプラスト化菌体の状態でも、抗MBP−HRP抗体の結合を示す450nmの吸光度の値が低くまた変化もなかったのに対し、アンカー配列を融合したプラスミドCおよびプラスミドDの形質転換体では、スフェロプラスト化した状態において、有意に吸光度の増加が確認された(図4)。
これにより、プラスミドCならびにプラスミドD共に、設計通りに機能していることが確認できた。
配列番号1:プラスミドCを構築した際に用いたアンカー配列である。
配列番号2:プラスミドDを構築した際に用いたアンカー配列である。
配列番号3:プラスミドAおよびプラスミドBからアンカー配列部分を増幅する際に用いたフォワードプライマー配列である。
配列番号4:プラスミドAおよびプラスミドBからアンカー配列部分を増幅する際に用いたリバースプライマー配列である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、抗原抗体反応に基づいた疾病の診断における抗体の作製を短期間に大量におこなえることから、疾病診断に限らず免疫学的マーカー検査分野の拡大を促し得る。また、抗原抗体反応基づいた疾病の治療に利用する抗体を短期間に多種類取得できることから、抗体医薬分野の拡大を促し得る。
【符号の説明】
【0021】
01 細胞外発現ペプチド
02 アンカーペプチド
03 抗体遺伝子
04 大腸菌
05 抗原
06 標識(磁気ビーズ)
07 磁性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作製する抗体遺伝子に宿主細胞の細胞外で発現させるための細胞外発現ペプチド及びアンカーペプチドを結合した作製用の抗体。
【請求項2】
作製する抗体遺伝子に宿主細胞外で発現させるための細胞外発現ペプチド及びアンカーペプチドを結合した状態で、宿主細胞で培養させる工程、前記宿主細胞の表面に発現した抗体と、結合する標識つき抗原を投与し、標識に基づいて前記宿主細胞を補足する補足工程よりなる抗体作製方法。
【請求項3】
前記細胞外発現ペプチドが、ペリプラズム移行シグナルペプチド である請求項1,2に記載の作製用抗体及び抗体作製方法。
【請求項4】
前記アンカーペプチドが、膜挿入配列 である請求項1,2に記載の作製用抗体及び抗体作製方法。
【請求項5】
前記補足工程が、磁気標識と結合した宿主細胞を磁気発生手段によって補足する請求項2に記載の抗体作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−231092(P2011−231092A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116734(P2010−116734)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000126757)株式会社アドバンス (60)
【Fターム(参考)】