説明

便器洗浄用の洗浄水の排出装置

【課題】玉鎖の弛みによって玉鎖が周辺部材と干渉を起し、排水弁が良好に閉弁しなくなる問題を解決することのできる便器洗浄用の洗浄水の排出装置を提供する。
【解決手段】フロート弁からなる排水弁32と、洗浄ハンドルと、洗浄ハンドルから洗浄タンク内部に突き出た作用レバーに一端側が連結され、他端側が連結部材92にて排水弁32の側に連結される玉鎖44とを有する洗浄水の排出装置において、連結部材92に、上方に向って大径化するテーパ形状の且つ上端が開口形状の筒状をなし、玉鎖44の連結部材92への結合位置から所定長上側の部分までの下部を外側から囲い込んで位置規制し、弛みによるはみ出し防止するガイド部108を一体に備えておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、洗浄タンク内部に貯えた洗浄水を排水弁の開弁により排出口から便器に向けて排出する便器洗浄用の洗浄水の排出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、(イ)洗浄タンクの底部に開閉可能に設けられ、開弁により洗浄タンク内部の洗浄水を便器に向けて排出口から排出するフロート弁からなる排水弁と、(ロ)洗浄タンクの壁部に回転可能に設けられ、排水弁を開操作する洗浄ハンドルと、(ハ)洗浄ハンドルから洗浄タンク内部に突き出た作用レバーに一端側が連結され、他端側が連結部材に結合されて連結部材にて排水弁の側に連結され、洗浄ハンドルの開操作により排水弁を引き上げて開弁させる玉鎖と、を有する便器洗浄用の洗浄水の排出装置が広く用いられている。
【0003】
近年洗浄タンクのコンパクト化が進んでおり、洗浄タンク内部においてボールタップや浮玉、オーバーフロー管その他の部材が所狭しと並んでおり、これに伴って洗浄タンク内部に突き出した作用レバーと排水弁の側とを繋ぐ玉鎖が周辺部材と干渉し、絡まりを生じることがある。
こうした問題点については下記特許文献1にも指摘されている。
【0004】
このように玉鎖が周辺部材と干渉し、絡まりを生じる現象は、主として次のような場合に生ずる。
この種洗浄水の排出装置では、洗浄ハンドルを回転させて開操作すると玉鎖が引張状態となって、玉鎖により排水弁が引き上げられ、これにより排出口が開放されて洗浄タンク内部の洗浄水が便器に向けて排出される。
【0005】
通常の洗浄水の排出装置の場合、洗浄ハンドルは続いて元へと戻されるが、このとき排水弁は浮力によって浮き上がった状態にあり、その結果玉鎖は弛んだ状態となる(後述の洗浄切替カップ及び切替弁を備えたものにおいては、小洗浄時においても洗浄ハンドルは開操作後直ぐに戻される)。
このとき、玉鎖はこれを排水弁の側に連結する連結部材への結合位置から急激に曲り、その結合位置に続く下部が弛みによって周辺にはみ出した状態となる。
そしてその弛みによって周辺に曲りはみ出した玉鎖の下部が、周辺部材と干渉して絡まったり引掛ったりしてしまうことがある。
【0006】
このような状態になると、玉鎖の長さが実質的に短くなったのと同様となり、その後に排水弁が下降開始したときに玉鎖が引張された状態となって排水弁が閉弁位置まで下降できず、その結果排出口が開いたままとなって洗浄タンク内の水が出っ放しとなってしまう。
このような現象は、洗浄切替カップ及び切替弁を備えた洗浄水の排出装置に特に生じ易い。
【0007】
従来、洗浄水の排出装置として、(a)小洗浄時においては水抜孔の閉鎖により内部に水を溜めた状態となって排水弁に対する錘となり、排水弁を早く閉弁させて洗浄水の排出水量を小洗浄用に少なく規制する一方、大洗浄時には水抜孔の開放により水が抜けて排水弁を遅く閉弁させ、小洗浄時よりも多く洗浄水を排出させる、排水弁と一体的に昇降する大小洗浄切替用の洗浄切替カップと、(b)洗浄切替カップの水抜孔を開閉する切替弁と、を有するものが知られている(このような洗浄水の排出装置については下記特許文献2に開示されている)。
【0008】
その一例が図7に示してある。
図7において、200はフロート弁からなる排水弁、202は玉鎖で、204は洗浄切替カップである。
ここで洗浄切替カップ204は下カップ204-1と上カップ204-2とから成っている。下カップ204-1には水抜孔206-1が設けられ、また上カップ204-2には水抜孔206-2が設けられている。
208は、軸210を中心として図中左右方向に揺動する切替弁で、この切替弁208に対して玉鎖202の下端が連結部材212にて連結されている。
【0009】
切替弁208は、水抜孔206-1,206-2を同時に閉鎖し、また開放するもので、下部に水抜孔206-1を開閉する下弁体214-1が、またアーム216の上部に水抜孔206-2を開閉する上弁体214-2が設けられている。
尚、洗浄切替カップ204及び切替弁208は排水弁200と一体的に昇降するようになっている。
【0010】
この図7(A)に示す洗浄水の排出装置にあっては、洗浄切替カップ204内部に溜まった水が排水弁200に対する錘として作用し、また図中実線で示す小洗浄時と、点線で示す大洗浄時とでその錘としての作用が異なり、これにより大洗浄と小洗浄とを切り替えるもので、従ってこの排出装置では小洗浄時においても洗浄ハンドルを開位置に保持している必要はない。
【0011】
ところがこの洗浄水の排出装置の場合、玉鎖202の連結部材212への結合位置の直近に洗浄切替カップ204の一部をなす上カップ204-2や、上弁体214-2が位置しているため、洗浄ハンドルを回転させて開操作した後にこれを戻すと、連結部材212への結合位置で大きく曲り、弛みを生じて周辺にはみ出した玉鎖202の下部が、図7(B)に示すように連結部材212と上弁体214-2との間や、上タンク204-2との間等で輪Wを作ってしまい、続いて排水弁200が下降開始したときにこの輪Wが、連結部材212と上弁体214-2や上カップ204-2等とで挟まれたり、上弁体214-2に引掛ったりしてしまうことがある。
その場合、玉鎖202の実質的な長さが短くなってしまって、排水弁200の下降途中で玉鎖202が引張状態となり、その結果排水弁200が閉弁位置まで下降できず、洗浄タンク内の洗浄水が出っ放しとなってしまう問題を生じる。
【0012】
尚、特許文献1ではこのような玉鎖の弛みを防止するために、玉鎖の下部を連結部材とともにビニールチューブにて取り囲むようにする点が開示されているが、このビニールチューブはそれ自体他とは独立した部材であり、かかるビニールチューブを所定の位置に装着するための作業が面倒である他、玉鎖202による排水弁200の引上げを繰り返しているうちにビニールチューブの位置が玉鎖202に沿ってずれたり移動してしまう恐れがあり、この場合ビニールチューブが本来の働きをなし得なくなってしまう恐れがあり、信頼性の点で必ずしも十分ではない。
【0013】
【特許文献1】実開昭60−4672号公報
【特許文献2】特開2007−197985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は以上のような事情を背景とし、玉鎖の弛みによって玉鎖が周辺部材と干渉を起し、排水弁が良好に閉弁しなくなる問題を解決することのできる便器洗浄用の洗浄水の排出装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
而して請求項1のものは、(イ)洗浄タンクの底部に開閉可能に設けられ、開弁により該洗浄タンク内部の洗浄水を便器に向けて排出口から排出する排水弁と、(ロ)該洗浄タンクの壁部に回転可能に設けられ、前記排水弁を開操作する洗浄ハンドルと、(ハ)該洗浄ハンドルから前記洗浄タンク内部に突き出た作用レバーに一端側が連結され、他端側が連結部材に結合されて該連結部材にて前記排水弁の側に連結され、前記洗浄ハンドルの開操作により前記排水弁を引き上げて開弁させる玉鎖と、を有する便器洗浄用の洗浄水の排出装置において、前記連結部材には、上端が開口形状の筒状をなし、前記玉鎖の前記連結部材への結合位置から所定長上側の部分までを外側から囲い込んで、該玉鎖の下部を位置規制するガイド部が一体に備えてあることを特徴とする。
【0016】
請求項2のものは、請求項1において、前記ガイド部を上方に向って漸次拡がる形状の筒状となしてあることを特徴とする。
【0017】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記ガイド部には、前記玉鎖を前記連結部材の結合部に結合又は結合解除するための作業用の側面開口部が設けてあることを特徴とする。
【0018】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記排出装置は、(a)小洗浄時においては水抜孔の閉鎖により内部に水を溜めた状態となって前記排水弁に対する錘となり、該排水弁を早く閉弁させて前記洗浄水の排出水量を小洗浄用に少なく規制する一方、大洗浄時には該水抜孔の開放により水が抜けて該排水弁を遅く閉弁させ、前記小洗浄時よりも多く洗浄水を排出させる、該排水弁と一体的に昇降する大小洗浄切替用の洗浄切替カップと、(b)該洗浄切替カップの水抜孔を開閉する切替弁とを有していて、前記玉鎖が前記連結部材にて該切替弁に連結され、該洗浄切替カップは該玉鎖の該連結部材への結合位置よりも上側まで突き出しているとともに、該洗浄切替カップと該玉鎖との間の位置に該洗浄切替カップの前記水抜孔を開閉する、前記切替弁から延び出た弁体が位置していることを特徴とする。
【0019】
請求項5のものは、請求項4において、前記ガイド部は、前記切替カップの上端部まで上向きに立ち上がっていることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0020】
以上のように本発明は、上端が開口形状の筒状をなし、玉鎖の連結部材への結合位置から所定長上側の部分までを外側から囲い込んで、玉鎖の下部を位置規制するガイド部を連結部材に一体に備えたものである。
【0021】
開操作された洗浄ハンドルが元に戻されて玉鎖が引張解除されたとき、その弛みが最も大きく生じるのは連結部材への結合位置に続く玉鎖の下部であり、前述したようにその下部が結合位置で急激に曲って周辺にはみ出してしまう。
【0022】
しかるに本発明では、連結部材にガイド部が一体に備えてあって、玉鎖における上記の結合位置から所定長上側までの下部がガイド部内に収められ、かかる下部がガイド部によって位置規制されて周辺へのはみ出しが良好に防止される。
【0023】
これにより、大きく弛みを生じて周辺にはみ出した玉鎖の下部が周辺部材と干渉したり、引掛かったりするのが有効に防止され、排水弁の下降時に排水弁が玉鎖により引張られて閉弁できず、洗浄タンク内の洗浄水が出っ放しとなってしまう問題を解決することができる。
【0024】
本発明では、かかるガイド部が連結部材に一体に構成されており、従ってガイド部のための特別の部材を別途に必要とせず、所要部品点数が従来に比べて特に増えることもなく、洗浄水の排出装置を従来と同様の簡単な構造で構成することができる。
【0025】
加えてガイド部が連結部材と一体に構成されているため、玉鎖にて排水弁の引上げを繰り返すうちに、ガイド部が玉鎖に沿って位置ずれしたり移動してしまうといった恐れはなく、従ってそれら位置ずれや移動によってガイド部が本来の機能を発揮しなくなったりする恐れはなく、ガイド部の働きを信頼性の高いものとなすことができる。
【0026】
本発明では、かかるガイド部を、上方に向って漸次拡がる形状の筒状となしておくことができる(請求項2)。
ガイド部の形状が軸方向に同径のストレート形状の筒状をなしている場合、ガイド部の上端で玉鎖の角度が急激に変化し、洗浄ハンドルの回転による開操作によって、玉鎖により排水弁を持ち上げようとしたとき、排水弁を上向きに持ち上げるための操作力が排水弁に有効に伝わり難くなり、また玉鎖とガイド部の上端との間に生ずる抵抗力によって洗浄ハンドルにかかる負荷も大きくなってしまう。
【0027】
しかるに本発明ではかかるガイド部が上端に向って漸次拡がる形状をなしているため、ガイド部上端での玉鎖の急激な角度の変化を抑制し得、洗浄ハンドルによる操作力を効果的に排水弁に伝え得、また洗浄ハンドルにかかる負荷を小さく抑制することができる利点が得られる。
【0028】
更にガイド部がこのような上向きに拡がる形状をなしていることによって、ガイド部の内部である程度の玉鎖の弛みを許容し、従ってガイド部から出た部分での玉鎖の弛みを少なくできる利点も得られる。
ここでガイド部を含む連結部材は硬質の樹脂製となしておくことができる。
【0029】
本発明では、また、かかるガイド部に、玉鎖を連結部材の結合部に結合又は結合解除するための作業用の側面開口部を設けておくことができる(請求項3)。
このようにすることで、ガイド部が連結部材と一体に構成されているにも拘らず、ガイド部の内部に挿入した玉鎖を側面開口部を通じて外部に引き出すことができ、玉鎖の着脱を支障なく行うことができる。
【0030】
本発明は、請求項4に規定するように洗浄切替カップ及び切替弁を備え、玉鎖が連結部材にて切替弁に連結される形式のものに適用して特に好適なものである。
この場合において上記のガイド部は、切替カップの上端部まで上向きに立ち上がる形態となしておくのが望ましい(請求項5)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は洗浄タンクで、陶器製のアウタータンク12と、その内側の樹脂製のインナータンク14との二重タンク構造をなしている。
アウタータンク12の上部には、その蓋を兼用した陶器製の手洗鉢16が設けられており、この手洗鉢16から手洗吐水管18が起立する形態で設けられている。
手洗鉢16の底部には排水孔20が設けられており、手洗吐水管18から吐水された手洗水が、この排水孔20から洗浄タンク10内部へと落下する。
【0032】
洗浄タンク10の内部には、ボールタップ22が配設されている。
このボールタップ22は、弁部が連動アーム24及び調節用のボルト26を介して浮玉28に連設されており、浮玉28の昇降によって弁部を開閉し、その弁部の開閉によって洗浄タンク10内への給水及び給水停止を行う。
ここで調節用のボルト26は、浮玉28の上下位置の調節を行うものである。
このボールタップ22には、洗浄タンク10内部に給水を行うための吐水部29が設けられており、更にこのボールタップ22からは手洗吐水管18への給水を行うための蛇腹管から成る導水管30が延び出していて、その先端部が手洗吐水管18に差込接続されている。
【0033】
洗浄タンク10の底部には、フロート弁から成る排水弁32が配設されている。
この排水弁32は中空の球状をなしており、この排水弁32が弁座36から浮き上がることによって排出口38を開放し、洗浄タンク10内部の洗浄水を便器に向けて排出口38から排出させる。
また排水弁32が弁座36に着座することによって排出口38を閉鎖する(図1参照)。
【0034】
一方洗浄タンク10の側壁には、洗浄ハンドル40が回転可能に取り付けられている。
この洗浄ハンドル40からはL字状をなす作用レバー42が洗浄タンク10内部に突き出しており、その先端と排水弁32とが玉鎖44にて、洗浄切替カップ46を介し繋がれている。
ここで洗浄切替カップ46と排水弁32とは一体的に上下動するように連設されており、更にまた洗浄切替カップ46には円筒状のガイド部48が設けられていて、そのガイド部48がオーバーフロー管50の外周面に上下摺動可能に外嵌されている。
洗浄切替カップ46及び排水弁32は、これらガイド部48及びオーバーフロー管50の案内の下に上下動する。
【0035】
図2に、洗浄切替カップ46の構成が具体的に示してある。
この図に示しているように、洗浄切替カップ46は、主カップとしての下カップ52と、下カップ52に対して別体を成し、下カップ52とは非連通の独立したアダプタカップとしての上カップ54とで構成してある。
ここで下カップ52,上カップ54の何れも上端が開放されている。
【0036】
下カップ52は円筒形状をなしていて、その内部に水溜室56を有し、また底部には水抜孔58が設けられている。
一方上カップ54は図3に示しているように平面形状が概略矩形状をなしており、図1に示しているように下カップ52に対して洗浄タンク10の前壁側に偏った位置に設けられている。
詳しくは、上カップ54はその周壁の図2中左側の前部及び右側の後部のそれぞれが、下カップ52における周壁の対応する前部及び後部よりもタンク壁側、詳しくは前壁側にずれた位置に配置されている。
【0037】
この上カップ54は、その内部に水溜室60を有しており、また周壁後部(図中右部)の下端部に水抜孔62が設けられている。
上カップ54の下端部には、リング状の嵌込部66が設けられている。上カップ54は、このリング状の嵌込部66を下カップ52の上端部に嵌め込むことで、下カップ52に脱着可能に組み付けられている。
【0038】
68は切替弁で、下カップ52に対して上下位置が固定に設けられた筒体70と、その内部に上下移動可能に挿通された弁軸72とを有しており、この弁軸72の上端部に、上記の玉鎖44が後述の連結部材92にて連結されている。弁軸72はこの玉鎖44の引上げによって、筒体70内部を上向きに相対移動する。
ここで上タンク54は、玉鎖44の連結部材92への結合位置よりも上方に突き出している。
【0039】
尚、弁軸72には図中下部に段付部73が設けられている。
一方筒体70には、軸方向の対向する位置に段付部77が設けられている。
従って弁軸72が持ち上げられ、これら段付部73,77が当接した後においては、弁軸72とともに筒体70が持ち上げられる。
即ち玉鎖44によって切替弁68の全体が引き上げられ、そして切替弁68が引き上げられることによって、後に明らかになるように洗浄切替カップ46及び排水弁32が一体的に持ち上げられる。
【0040】
弁軸72の下端部には、下カップ52の水抜孔58を開閉する下弁体80が設けられており、かかる下弁体80が、弁軸72と一体にコイルスプリング82にて下向きに付勢されている。
筒体70には、図3にも示しているようにその上端部に軸74が設けられており、この軸74が、下カップ52から上向きに立ち上がった一対の軸受部76の軸孔78に回転可能に嵌合されている。
これによって切替弁68が、詳しくは筒体70が軸74の軸心周りに図2中左右方向に揺動可能とされている。
【0041】
切替弁68、詳しくは筒体70からは板状のアーム84が上カップ54側に延び出しており、そのアーム84の先端に、アーム84から折れ曲って上向きに立ち上がる板状部と、その板状部に突出状に設けられ、水抜孔62に入り込む突出部とから成る水抜孔62の開閉用の上弁体86が設けられている。
【0042】
ここで上弁体86は、図5に示しているように下弁体80が下カップ52の水抜孔58を開放したときには、上カップ54の水抜孔62を開放し、また図2にも示しているように下弁体80が下カップ52の水抜孔58を閉鎖したときには、上カップ54の水抜孔62を閉鎖する。
尚、図5(B)は大洗浄を行う際の洗浄切替カップ46及び切替弁68の状態を表しており、また図2及び図5(A)は小洗浄を行う際のそれら洗浄切替カップ46及び切替弁68の状態を表している。
【0043】
洗浄切替カップ46には、上カップ54の真下位置且つ下カップ52に対して高位置に、節水カップ88が脱着可能に取り付けられている。
この節水カップ88は、内部の水溜室90に常時水を貯めた状態にあって、排水弁32に対し常時錘として作用する。
ここで節水カップ88は、上端が開放形状とされている。
【0044】
この洗浄切替カップ46及び切替弁68は次のように作用する。
この実施形態では、大洗浄を行うために洗浄ハンドル40を図5(B)中反時計回り方向、即ち洗浄タンク10の後壁側に回転し開操作すると、玉鎖44が奥側に引張られることによって切替弁68が図中時計方向に回転動作し、下カップ52の水抜孔58及び上カップ54の水抜孔62のそれぞれを開放状態とする。
そしてこの状態で排水弁32及び洗浄切替カップ46が玉鎖44の引き上げによって一体に上昇し、図1の排出口38を開放する。
これによって洗浄タンク10内部に貯えられていた洗浄水が排出口38から下向きに排出開始される。
【0045】
洗浄水の排出に伴って洗浄タンク10内の洗浄水の水面が下がり、そして水面が上カップ54の上端に達してからは、その水面の下降とともに、上カップ54内部の水が水抜孔62から水抜きされる。
但しこのとき、水抜孔62における抵抗によって洗浄タンク内の洗浄水の水面の下降速度よりも上カップ54内の水面の下降速度は遅くなる。
その結果として上カップ54が排水弁32に対する錘として作用する。
【0046】
従ってこのような上カップ54が無い場合に比べて排水弁32は早い段階から下降開始し、洗浄水量の節水が行われる。
水面が更に下降して節水カップ88にさしかかると、内部に水を貯めた節水カップ88の排水弁32に対する錘の作用が加わり、引続く水面の下降に伴って洗浄切替カップ46及び排水弁32がともに下降する。
【0047】
尚このとき、下カップ52は水没状態にあって排水弁32に対する錘としては働かない。
下カップ52は単独では洗浄切替カップとして働き、また節水を行う機能も有するが、上カップ54を下カップ52に取り付けることによって、下カップ52の洗浄切替カップとしての機能及び排水弁32に対する錘として作用は無くなり、上カップ54が洗浄切替カップとして働き、また排水弁32に対する錘として作用する。
その後最終的に排水弁32が弁座36に着座し閉弁して、排出口38からの洗浄水の放出が停止する。
【0048】
一方小洗浄を行うときには、洗浄ハンドル40を図5(A)中時計回り方向、つまり洗浄タンク10の前壁側に回転させ開操作する。
このとき切替弁68は、玉鎖44が図5(A)中左側(午前側)に引張られることによって、軸74を中心として反時計方向に回転動作し、下カップ52の水抜孔58及び上カップ54の水抜孔62を閉鎖した状態となる。
排水弁32は、この状態で玉鎖44の引上げによって洗浄切替カップ46とともに上方に持ち上げられ、排出口38を開放する。
そしてこれと同時に排出口38からの洗浄水の排出が開始される。
【0049】
洗浄水の排出に伴って洗浄タンク10内部の水面は下降する。
この小洗浄時においては、洗浄切替カップ46における上カップ54の水抜孔62は閉鎖された状態にあり(下カップ52の水抜孔58も閉鎖状態)、上カップ54は内部の水溜室60に水を溜めた状態にあって、排水弁32に対する錘として作用する。
【0050】
従ってこの小洗浄時においては、洗浄タンク10内の洗浄水の水面が上カップ54に差し掛かると、その上カップ54の錘としての作用が加わり且つ上カップ54内の満水状態の水全体が錘となって大洗浄時よりも重くなるため、排水弁32が洗浄切替カップ46及び節水カップ88とともに大洗浄時よりも早い段階から下降開始し、閉弁するまでの時間が短くなる。従ってその間に排出口38から排出される洗浄水の排出量が少なく規制され、少量の洗浄水にて便器の小洗浄を行う。
【0051】
この実施形態では、玉鎖44の下端が連結部材92に結合され、かかる連結部材92にて上記の弁軸72、即ち切替弁68に連結されている。
図4に連結部材92の具体的構成が詳しく示してある。
この実施形態において、連結部材92はその下部に玉鎖44と切替弁68の弁軸72とを連結する連結部94を有している。
また連結部94は、玉鎖44との結合部96を上側に、また弁軸72との結合部98を下側に有しており、そしてそれら上側の結合部96と下側の結合部98との間に側面の下部開口部99が設けられている。
下側の結合部98は概略円筒状をなしており、弁軸72の上端部を下側から上向きに差し込むことで弁軸72と結合される。
【0052】
具体的には、弁軸72の上端部には弾性を有する一対の係止爪100が設けられており、この係止爪100を上向きに挿入させ、そしてこれら係止爪100を結合部98の係止部102に係止させることで、弁軸72が結合部98に抜止状態に結合される。
【0053】
尚これら係止爪100には、互いに平行をなす平坦な形状の係合面101が設けられている。
一方連結部材92側の結合部98にも、その内面に対応する平坦な形状の係合面103が設けられ、これら係合面101と103との係合作用によって、弁軸72と結合部98との回転方向の相対位置が規定される。
【0054】
一方上側の結合部96には、その中心部に上下に貫通した係合孔106と、この係合孔106と下部開口部99とを連絡するスリット状の挿入部104とが設けられている。
【0055】
この結合部96と玉鎖44との結合は次のようにして行う。
即ち、図6(II)に示しているように玉鎖44の下端部を、下部開口部99を通じて内部に挿入し、続いて図6(II),(III)に示すように玉鎖44におけるボール107と107とを連結する細い棒状のリンク109を、スリット状の挿入部104に挿入し且つ挿入部104に沿って上方に移動させ、係合孔106に持ち来す。
この状態で、係合孔106に挿通されたリンク109の上側のボール107と下側のボール107とが、係合孔106の上,下に位置した状態となり(図6(IV)参照)、ここにおいて玉鎖44の下端が結合部96に結合状態となる。
【0056】
この実施形態では、連結部94から上方に上向きに立ち上がる形態で筒状のガイド部108が連結部材92に一体に構成されている。
ここで連結部材92は硬質の樹脂製とされている。具体的にはここでは樹脂としてPOM(ポリオキシメチレン)が用いられている。
ガイド部108は、上方に向って漸次拡がるテーパ形状の且つ上端が開口形状の円筒状をなしている。
このガイド部108は、玉鎖44の連結部、詳しくは結合部96への結合位置から所定長上側の部分までの下部を外側から囲い込んで位置規制し、玉鎖44の、結合位置から所定長上側の部分までの下部が弛みによって側方にはみ出すのを防止する働きをなす。
【0057】
この実施形態において、ガイド部108は上カップ54の上端部、詳しくはここでは図2に示しているようにその上端に到るまでの高さで上向きに立ち上がっている。
尚図4において、110はこのガイド部108の上端の開口部を表している。
【0058】
ガイド部108にはまた、その側面で開口する上部開口部(側面開口部)111が設けられている。
この上部開口部111は、玉鎖44を結合部96に結合し或いは結合解除するための作業用の開口部としての意味を有するもので、この上部開口部111は、結合部96に続いてその上側に設けられている。
尚ガイド部108と連結部94とは同心状に設けられている。
【0059】
この実施形態では、図6(I)に示しているように玉鎖44をガイド部108の上端の開口部110を通じてガイド部108の内部に挿入し、そして図6(II)に示しているようにその下端側を上部開口部111を通じて外部に引き出すことで、ガイド部108が連結部94に一体に構成されているにもかかわらず、玉鎖44を支障無く連結部94詳しくは結合部96に結合することができる。
或いはまた必要が生じたときに簡単にその結合を外すことができる。
【0060】
以上のような本実施形態においては、連結部材92にガイド部108が一体に備えてあって、玉鎖44における連結部材92への結合位置から所定長上側までの下部がガイド部108内に収められ、かかる下部がガイド部108によって位置規制されて周辺へのはみ出しが良好に防止される。
【0061】
これにより、玉鎖44の下部が大きく弛みを生じて周辺にはみ出し、周辺に位置している部材、詳しくはここでは上弁体86や上タンク54と干渉したり、それらに引掛ったりするのが有効に防止され、排水弁32の下降時に排水弁32が玉鎖44により引張られて閉弁できず、洗浄タンク10内の洗浄水が出っ放しとなってしまう問題を解決することができる。
【0062】
また本実施形態では、かかるガイド部108が連結部材92に一体に構成されており、従ってガイド部108のための特別な部材を別途に必要とせず、所要部品点数が従来に比べて特に増えることもなく、洗浄水の排出装置を従来と同様の簡単な構造で構成することができる。
【0063】
加えてガイド部108が連結部材92に一体に構成されているため、玉鎖44にて排水弁32の引上げを繰り返すうちに、ガイド部108が玉鎖44に沿って位置ずれしたり移動してしまうといった恐れはなく、従ってそれら位置ずれや移動によってガイド部108が本来の機能を発揮しなくなったりする恐れはなく、ガイド部108の働きを信頼性の高いものとなすことができる。
【0064】
またガイド部108が上方に向って漸次拡がるテーパ形状の筒状をなしていることから次のような利点が得られる。
即ち、ガイド部の形状が軸方向に同径のストレート形状の筒状をなしていると、ガイド部の上端で玉鎖44の角度が急激に変化し、洗浄ハンドル40の回転による開操作によって玉鎖44により排水弁32を持ち上げようとしたとき、排水弁32を上向きに持ち上げるための操作力が排水弁32に有効に伝わり難く、また玉鎖44とガイド部の上端との間に生ずる抵抗力によって洗浄ハンドル40にかかる負荷も大きくなってしまう。
【0065】
しかるにこの実施形態ではガイド部108が上端に向って漸次拡がる形状をなしているため、ガイド部108上端での玉鎖44の急激な角度の変化を抑制し得、洗浄ハンドル40による操作力を効果的に排水弁32に伝え得、また洗浄ハンドル40にかかる負荷を小さく抑制することができる利点が得られる。
【0066】
更にガイド部108がこのような上向きに拡がる形状をなしていることによって、ガイド部108の内部である程度の玉鎖44の弛みを許容し、従ってガイド部108から出た部分での玉鎖44の弛みを少なくできる利点も得られる。
【0067】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば本発明は上記の洗浄切替カップ46及び切替弁68を備えておらず、玉鎖44が連結部材にて直接排水弁に連結される形式の洗浄水の排出装置に対して適用することも可能であるし、また排水弁の構造についてもフロート弁だけでなく、フラッパ弁構造のものに対しても適用することが可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態である洗浄水の排出装置を洗浄タンクの内部とともに示す正面断面図である。
【図2】同実施形態における連結部材を洗浄切替カップ及び切替弁とともに示す図である。
【図3】同実施形態における洗浄切替カップ及び切替弁を分解して示す斜視図である。
【図4】同実施形態における連結部材の構成を詳しく示した図である。
【図5】同実施形態の大洗浄時及び小洗浄時の作用説明図である。
【図6】同実施形態における連結部材に玉鎖を取り付ける手順を示す図である。
【図7】従来の洗浄水の排出装置を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
10 洗浄タンク
32 排水弁
38 排出口
40 洗浄ハンドル
42 作用レバー
44 玉鎖
46 洗浄切替カップ
58,62 水抜孔
68 切替弁
80 下弁体
86 上弁体
92 連結部材
108 ガイド部
109 リンク
111 上部開口部(側面開口部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)洗浄タンクの底部に開閉可能に設けられ、開弁により該洗浄タンク内部の洗浄水を便器に向けて排出口から排出する排水弁と、(ロ)該洗浄タンクの壁部に回転可能に設けられ、前記排水弁を開操作する洗浄ハンドルと、(ハ)該洗浄ハンドルから前記洗浄タンク内部に突き出た作用レバーに一端側が連結され、他端側が連結部材に結合されて該連結部材にて前記排水弁の側に連結され、前記洗浄ハンドルの開操作により前記排水弁を引き上げて開弁させる玉鎖と、を有する便器洗浄用の洗浄水の排出装置において、
前記連結部材には、上端が開口形状の筒状をなし、前記玉鎖の前記連結部材への結合位置から所定長上側の部分までを外側から囲い込んで、該玉鎖の下部を位置規制するガイド部が一体に備えてあることを特徴とする便器洗浄用の洗浄水の排出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ガイド部を上方に向って漸次拡がる形状の筒状となしてあることを特徴とする便器洗浄用の洗浄水の排出装置。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記ガイド部には、前記玉鎖を前記連結部材の結合部に結合又は結合解除するための作業用の側面開口部が設けてあることを特徴とする便器洗浄用の洗浄水の排出装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記排出装置は、(a)小洗浄時においては水抜孔の閉鎖により内部に水を溜めた状態となって前記排水弁に対する錘となり、該排水弁を早く閉弁させて前記洗浄水の排出水量を小洗浄用に少なく規制する一方、大洗浄時には該水抜孔の開放により水が抜けて該排水弁を遅く閉弁させ、前記小洗浄時よりも多く洗浄水を排出させる、該排水弁と一体的に昇降する大小洗浄切替用の洗浄切替カップと、(b)該洗浄切替カップの水抜孔を開閉する切替弁とを有していて、前記玉鎖が前記連結部材にて該切替弁に連結され、該洗浄切替カップは該玉鎖の該連結部材への結合位置よりも上側まで突き出しているとともに、該洗浄切替カップと該玉鎖との間の位置に該洗浄切替カップの前記水抜孔を開閉する、前記切替弁から延び出た弁体が位置していることを特徴とする便器洗浄用の洗浄水の排出装置。
【請求項5】
請求項4において、前記ガイド部は、前記切替カップの上端部まで上向きに立ち上がっていることを特徴とする便器洗浄用の洗浄水の排出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−101047(P2010−101047A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272519(P2008−272519)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】