説明

係船装置

【課題】 係船作業における船員の負担の軽減と、作業の効率化と、作業時間の短縮とを図ることができる係船装置を提供する。
【解決手段】 船舶2を岸壁3に係船するための係船装置1であって、上記岸壁3と上記船舶2との間にポンツーン4を配置すると共に該ポンツーン4にこれを自走可能とするための推進器9を設け、そのポンツーン4を上記船舶2と係合させるための係合手段5を設け、上記ポンツーン4を上記推進器9により上記船舶2まで自走させた後、上記係合手段5により上記船舶2と係合させるようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶を岸壁に係船するための係船装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、岸壁に船舶を係船するための係船装置として、船舶の船首と船尾とに装備され係船ロープが巻かれたウインチ式の係船機がある。
【0003】
その係船機を用いた係船作業を説明する。自力で若しくはタグボートなどを用いて船舶を操船し、船舶を所定距離まで岸壁に接近させる。その船舶から船員が係船ロープを岸壁に投げ、その係船ロープを岸壁に待機していた綱取り要員が受け取り岸壁のポールに括り付ける。その後、係船機で係船ロープを巻き取ることで船舶を所定の着岸位置に移動させ、係船するようにしていた(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−48083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の係船機による係船作業には以下のような問題があった。
【0006】
船舶を岸壁に接近させる作業では、船舶が岸壁に衝突しないように岸壁との位置関係を注意しつつ船舶を操船する必要があり、そのような操船作業は、船長などの船員にとって大きな負担となっていた。
【0007】
係船ロープの投げ渡し作業には、岸壁に待機する綱取り要員が不可欠であり、係船作業のために人員を確保しておくことは非効率的であった。さらに、係船ロープの投げ渡し作業は熟練を要する作業であるため、不慣れな綱取り要員では係船ロープを受け取り損ねることがあり、その場合には係船ロープを巻き取り、投げ直すようにしていた。そのため、係船ロープの投げ渡し作業は係船作業の作業時間を増大させる原因となっていた。さらに、重い係船ロープを人手で取り扱うことは重労働であり、係船ロープの投げ渡し作業が船員と綱取り要員とにとって大きな負担となっていた。
【0008】
船舶の移動作業では、船舶が岸壁に衝突しないようにかつ船舶が所定の着岸位置に移動するように、係船機の巻き取り速度の調整や船舶の操船などを行う必要があり、船員にとって大きな負担となっていた。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、係船作業における船員の負担の軽減と、作業の効率化と、作業時間の短縮とを図ることができる係船装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、船舶を岸壁に係船するための係船装置であって、上記岸壁と上記船舶との間にポンツーンを配置すると共に該ポンツーンにこれを自走可能とするための推進器を設け、そのポンツーンを上記船舶と係合させるための係合手段を設け、上記ポンツーンを上記推進器により上記船舶まで自走させた後、上記係合手段により上記船舶と係合させるようにしたものである。
【0011】
好ましくは、互いに係合された上記船舶と上記ポンツーンとを上記岸壁に向かって移動させるための移動手段がさらに設けられるものである。
【0012】
好ましくは、上記ポンツーンが浮沈方向に移動可能であり、上記ポンツーンが上記船舶まで自走した後浮上することにより、上記係合手段による係合がなされるものである。
【0013】
好ましくは、上記ポンツーンが、自身の浮力を調整するためのバラストタンクと、そのバラストタンクの給水および排水を行う給排水装置とを備えたものである。
【0014】
好ましくは、上記推進器が全方向に旋回可能なものである。
【0015】
好ましくは、上記係合手段が、上記船舶の船体の側面に設けられた船舶側係合部材と、上記ポンツーンに設けられ上記船舶側係合部材に係合可能なポンツーン側係合部材とからなり、上記移動手段は、上記船舶をその船舷方向に移動して上記ポンツーンを介して上記岸壁に横付けさせるように、上記ポンツーンを駆動するものである。
【0016】
好ましくは、上記船舶側係合部材と上記ポンツーン側係合部材との少なくともいずれか一方が、上記船舶の船長方向に沿った他方との相対移動を規制するための規制手段を有するものである。
【0017】
好ましくは、上記規制手段が、上記船舶側係合部材と上記ポンツーン側係合部材とに各々設けられ互いに噛合する歯部からなるものである。
【0018】
好ましくは、上記移動手段が、上記岸壁に設けられ上記ポンツーンを上記岸壁に引き寄せるためのウインチからなるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、係船作業時における船舶の操船と、係船ロープの投げ渡し作業と、船舶の係船機の操作とを不要にし、係船作業の省力化を図ることができるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0021】
まず、図1に基づき本実施形態の係船装置が設けられた港湾の概略を説明する。
【0022】
陸側には直線状に縁部が形成された岸壁3が設けられ、その岸壁3の沖には船舶2が停船する。その船舶2を岸壁3に係船するために、本実施形態の係船装置1が用いられる。例えば、本実施形態の船舶2は左舷付けで係船される。なお、船舶2などの喫水線が図1から図3および図8においてWsで示される。
【0023】
図1に基づき本実施形態の係船装置1の説明を行う。
【0024】
本実施形態の係船装置1は、岸壁3と船舶2との間にポンツーン4を配置すると共にこのポンツーン4にこれを自走可能とするための推進器9を設け、そのポンツーン4を船舶2と係合させるための係合手段5を設けたものである。すなわち、係船装置1は、ポンツーン4と推進器9と係合手段5とを備える。
【0025】
図1から図3に基づき本実施形態のポンツーン4の説明を行う。
【0026】
図1に示すように、ポンツーン4は岸壁3と船舶2との間に位置される。図2および図3に示すように、本実施形態のポンツーン4は、海上に浮かびポンツーン4の外形を形成するボディ8を備える。そのボディ8の底部に推進器9が設けられる。さらに、ボディ8内には、ボディ8の略下半分を占めるバラストタンク10と、そのバラストタンク10に接続された給排水装置11とが設けられる。また、バラストタンク10内の底部には、防水シールを施された機械室12が設けられる。
【0027】
ポンツーン4が岸壁3側から船舶2側に移動するときの方向(図2に矢印で示す)を前方とした場合、本実施形態のボディ8は、前後長より左右長が長い略直方体に形成される。また、ボディ8の前面と後面にはタイヤなどの緩衝材13が複数設けられ、ポンツーン4が船舶2や岸壁3などと接触した時の衝撃を緩衝するようになっている。
【0028】
特に、本実施形態では、推進器9がポンツーン4に対し全方向に旋回可能である。その推進器9は、プロペラ15と、そのプロペラ15を駆動するための推進モータ16と、それらプロペラ15と推進モータ16とをボディ8に対して旋回させるための旋回モータ18とを備える。
【0029】
具体的には、図3に示すように、プロペラ15と推進モータ16とが推進シャフト22を介して連結される。また、推進モータ16と推進シャフト22とは、ボディ8の下方外部に位置されるケーシング21内に格納される。そのケーシング21の上部にはラダーフィンからなる舵部20が設けられる。
【0030】
旋回モータ18は、ポンツーン4の機械室12内に設けられる。さらに、旋回モータ18とケーシング21とが、旋回シャフト19により連結される。
【0031】
以上のように構成された推進器9が、ポンツーン4の底部に複数(本実施形態では、前後長の中心に左右対称に二つ)設けられる。
【0032】
特に、本実施形態のポンツーン4は浮沈方向に移動可能である。本実施形態では、ポンツーン4の浮沈方向の移動が、ポンツーン4の浮力を増減させる(調整する)ことで行われる。さらに、そのポンツーン4の浮力の増減が、給排水装置11によるバラストタンク10への給水または排水により行われ、この給排水によりバラストタンク10内の水位(図2、図3および図8においてWbで示す)が上下する。図3に示すように、給排水装置11は、ポンプ25と、海中に連通する海中側の配管26aと、バラストタンク10内に連通するタンク側の配管26bと、それらの海中側の配管26aおよびタンク側の配管26bからポンプ25への流路を切り換えるための切換バルブ装置28とを備える。
【0033】
より詳細には、図4に示すように、本実施形態の切換バルブ装置28は、海中側の配管26aとポンプ25の吸入口とを接続する第一の配管27aと、ポンプ25の排出口とタンク側の配管26bとを接続する第二の配管27bと、それら第一の配管27aと第二の配管27bとに接続された第三の配管27cと、第一の配管27aと第二の配管27bとに接続された第四の配管27dとを備える。第一の配管27aには第一の電磁弁28aが設けられる。同様に、第二から第四の配管27b〜27dには第二から第四の電磁弁28b〜28dが各々設けられる。
【0034】
第一の配管27aでは、第一の電磁弁28aよりもポンプ25側の位置に第三の配管27cが接続され、第一の電磁弁28aよりも配管26a側の位置に第四の配管27dが接続される。第二の配管27aでは、第二の電磁弁28bよりもポンプ25側の位置に第四の配管27dが接続され、第二の電磁弁28bよりも配管26b側の位置に第三の配管27cが接続される。
【0035】
図3および図4において実線矢印で示すように、切換バルブ装置28が給水側に切り換えられると、第一および第二の電磁弁28a、28bが開放されると共に第三および第四の電磁弁28c、28dが閉鎖される。この場合には、海水が海中側の配管26aと第一の配管27aとを通りポンプ25に吸入された後、第二の配管27bとタンク側の配管27bとを通りバラストタンク10内に供給される。
【0036】
一方、図3および図4において点線矢印で示すように、切換バルブ装置28が排水位置に切り換えられると、第一および第二の電磁弁28a、28bが閉鎖されると共に第三および第四の電磁弁28c、28dが開放される。この場合には、バラストタンク10内の海水が、タンク側の配管26bと第二の配管27bの一部と第三の配管27cと第一の配管27aの一部とを通りポンプ25に吸入される。その後海水は、第二の配管27bの一部と第四の配管27dと第一の配管27aの一部と海中側の配管26aとを通り海中に排出される。
【0037】
以上のポンプ25と切換バルブ装置28とは、バラストタンク10の上面上の空間内にバラストタンク10上に設置される。
【0038】
図5から図7に基づき本実施形態の係合手段5の説明を行う。
【0039】
本実施形態では、係合手段5が、船舶2の船体30の側面に設けられた船舶側係合部材31と、ポンツーン4に設けられ船舶側係合部材31に係合可能なポンツーン側係合部材32とからなる。
図5に示すように、船舶側係合部材31が船舶側フック34からなり、ポンツーン側係合部材32がポンツーン側フック35からなる。
【0040】
その船舶側フック34は、図5に示すように、船体30の着岸側(本実施形態では左側)の側面に沿って設けられる。より詳細には、図6(a)および図6(b)に示すように、船舶側フック34は、船体30の左側の側面の上端から船舷方向外側に突出する横板36と、その横板36の先端部から下方に延出する縦板38とから全体として上下逆の断面L字状に構成される。
【0041】
ポンツーン側フック35は、図5に示すように、ポンツーン4のボディ8の前面の上端部に沿って設けられる。詳細には、図7(a)および図7(b)に示すように、ポンツーン側フック35は、ボディ8の前面の上部から前方に突出する横板39と、その横板39の先端部から上方へと延出する縦板40とから全体として断面L字状に構成される。
【0042】
また、図2および図3に示すように、本実施形態では、ポンツーン側フック35がボディ8の全幅(ボディ8の左右方向の全長)に亘り設けられると共に、船舶側フック34がポンツーン側フック35と略同じ長さを有する。
【0043】
特に、本実施形態では、船舶側係合部材31とポンツーン側係合部材32とが、船舶2の船長方向に沿った互いの相対移動を規制するための規制手段41を有する。本実施形態では、図5に示すように、その規制手段41が、船舶側フック34とポンツーン側フック35とに各々設けられ互いに噛合する歯部42a、42bからなる。
【0044】
図6(a)および図6(b)に示すように、本実施形態の船舶側フック34の歯部42aは、船舶2の船長方向に、すなわち船舶側フック34の長手方向に、連なる複数の歯を有し、図5に示すように、船舶側フック34の全長に亘り設けられる。歯部42aは、例えば、山形状に組み合わせた板材を、縦板38と船体30側面との間に挟み込ませると共に横板36の下面に当接させて、それらを溶接などで接合して形成される。
【0045】
図7(a)および図7(b)に示すように、本実施形態のポンツーン側フック35の歯部42bは、ポンツーン4の左右方向に、すなわちポンツーン側フック35の長手方向に、連なる複数の歯を有し、図5に示すように、ポンツーン側フック35の全長に亘り設けられる。歯部42bは、例えば、縦板40の上部を山形状に加工して形成される。
【0046】
特に、本実施形態の係船装置1には、互いに係合された船舶2とポンツーン4とを岸壁3に向かって移動させるための移動手段6がさらに設けられる。
【0047】
図1に基づき本実施形態の移動手段6の説明を行う。
【0048】
本実施形態では、移動手段6が、岸壁3に設けられポンツーン4を岸壁3に引き寄せるためのウインチ44からなる。ウインチ44には、索45が巻きつけられ、その索45の先端がポンツーン4に接続される。また、ウインチ44は岸壁3に沿って複数設けられる。本実施形態では、二つのウインチ44、44がポンツーン4のボディ8の全幅と略同じ間隔を隔てて配置されると共に、それらのウインチ44、44の索45、45の先端が、ポンツーン4のボディ8の左右端かつ上端に各々接続される。
【0049】
さらに、図2に示すように、本実施形態のポンツーン4は、推進器9の推進モータ16および旋回モータ18と、給排水装置24のポンプ25および切換バルブ装置28と、ウインチ44、44および後述する電力供給ウインチ48とを制御するための制御装置46を備える。その制御装置46は機械室12内に設けられる。本実施形態では、係船装置1の全体が船舶2側から無線で遠隔制御できるようになっており、船舶2に送信器(図示せず)が設けられると共にポンツーン4に受信器(図示せず)が設けられる。
【0050】
さらに、図1に示すように、本実施形態の係船装置1は、岸壁3に設けられポンツーン4に電力を供給する電力供給ウインチ48を備える。その電力供給ウインチ48は、岸壁3にウインチ44、44と並べて(本実施形態ではウインチ44、44の間の略中央に)配置される。また、電力供給ウインチ48には、電気ケーブル49が巻きつけられ、その電気ケーブル49の先端がポンツーン4に接続される。本実施形態では、電気ケーブル49と図示しない信号線とを介して、ウインチ44、44および電力供給ウインチ48がポンツーン4の制御装置46に各々接続される。
【0051】
次に、図8(a)から図8(b)に基づき本実施形態の係船装置1の作用を説明する。
【0052】
船舶2が入船する前、図8(a)において点線で示すように、ポンツーン4は岸壁3に着岸している。この着岸状態では、推進器9はポンツーン4を前方に移動させるように指向される(したがって、プロペラ15は後方側に向けられる)。また、推進モータ16と旋回モータ18とポンプ25とは停止されている。さらに、ウインチ44、44は、ポンツーン4が漂流しないようにロックされている。
【0053】
港湾に入船した船舶2が岸壁3から所定距離だけ離れた位置に停船した後に、係船作業が開始される。本実施形態では、船舶2の船員が送信器を操作してポンツーン4の受信器に命令信号を送信する。この命令信号が制御装置46に送られ、制御装置46は、推進モータ16と旋回モータ18とポンプ25と切換バルブ装置28とウインチ44、44と電力供給ウインチ48とを適宜作動させる。
【0054】
本実施形態の係船装置1による係船作業の概略を説明する。まず、図8(a)に示すように、ポンツーン4を推進器9により岸壁3から船舶2まで自走させる。次に、図8(b)に示すように、係合手段5によりそのポンツーン4と船舶2とを係合させる。次に、図8(c)に示すように、移動手段6により互いに係合された船舶2とポンツーン4とを岸壁3に向かって移動させて船舶2を係船する。
【0055】
以下に詳細を説明する。
【0056】
図8(a)の工程は、ポンツーン4を所定深さだけ沈降方向へ移動させる工程と、ポンツーン4を岸壁3から船舶2まで自走させる工程とを有する。本実施形態では、沈降方向への移動工程と自走工程とが同時に行われる。
【0057】
沈降方向への移動工程を説明する。
【0058】
まず、船舶2からポンツーン4に沈降命令を送信する。その沈降命令を受信したポンツーン4は、切換バルブ装置28を給水位置に設定すると共にポンプ25を作動させる。これによりバラストタンク10に海水が給水されてポンツーン4の浮力が減少し、ポンツーン4が沈降する。
【0059】
つぎに、ポンツーン側フック35が船舶側フック34よりも低く位置するまでポンツーン4が沈降したのを船舶2側で確認した後、その船舶2からポンツーン4に浮沈停止命令を送信する。その浮沈停止命令を受信したポンツーン4はポンプ25を停止させる。
【0060】
本実施形態では、ポンツーン4の浮沈方向への移動が、例えば、制御装置46によるシーケンサ制御に基づき行われる。すなわち、ポンツーン4の浮沈方向への移動は船舶2からの浮上、沈降、および浮沈停止などの簡単な命令のみで行われる。
【0061】
つぎに、岸壁3から船舶2までの自走工程を説明する。
【0062】
まず、船舶2からポンツーン4に自走命令を送信する。その自走命令を受信したポンツーン4は、推進モータ16を巡航運転させると共に、旋回モータ18を適宜作動させポンツーン4を船舶2に接近させる。また、ポンツーン4はウインチ44、44および電力供給ウインチ48を適宜作動させて索45、45および電気ケーブル49を送り出させる。
【0063】
つぎに、ポンツーン4が船舶2に接触したことを船舶2側で確認した後(このときのポンツーン4を図8(a)において実線で示す)、その船舶2からポンツーン4に待機命令を送信する。その待機命令を受信したポンツーン4は推進モータ16及び旋回モータ18を適切に制御し、定点維持する。
【0064】
本実施形態では、ポンツーン4の船舶2に対する位置の制御が、走行中も含めポンツーン4側で行われる。その制御は、例えば、船舶2からポンツーン4に位置確認信号を送信し、その位置確認信号の受信感度が最大となるように、ポンツーン4の制御装置46が推進モータ16と旋回モータ18とをPID制御することで行われる。また、船舶2に接触した後も推進モータ16及び旋回モータ18を適宜作動させることで、波による揺動があってもポンツーン4の前面の略全体を船舶2に押し当て続けることができる。
【0065】
図8(b)の工程は、沈降させたポンツーン4を浮上させることにより、ポンツーン4と船舶2とを係合させる工程を有する。
【0066】
具体的には、まず、船舶2からポンツーン4に浮上命令を送信する。その浮上命令を受信したポンツーン4が切換バルブ装置28を排水位置に設定すると共にポンプ25を作動させる。これにより、バラストタンク10内の海水が排水されてポンツーン4の浮力が増加し、ポンツーン4が浮上する。そして、船舶側フック34にポンツーン側フック35が下方から掛け合わされる。
【0067】
つぎに、船舶側フック34の歯部42aとポンツーン側フック35の歯部42bとが十分に噛み合うのを船舶2側で確認した後、その船舶2からポンツーン4に浮沈停止命令を送信する。その浮沈停止命令を受信したポンツーン4はポンプ25を停止させる。
【0068】
図8(c)の工程は、移動手段6であるウインチ44、44が、船舶2をその船舷方向に移動してポンツーン4を介して岸壁3に横付けさせるように、ポンツーン4を駆動する工程を有する。
【0069】
具体的には、船舶2からポンツーン4に接岸命令を送信する。その接岸命令を受信したポンツーン4がウインチ44、44を作動して索45、45を巻き取らせる。これにより、ポンツーン4が岸壁3に引き寄せられ、そのポンツーン4と係合する船舶2が、同時にかつ一体的に岸壁3に向かって移動する。この時、船舶2は左側に横移動することになる。また、この時に、図6(b)に示した船舶側フック34の縦板38の内側面と、図7(b)に示したポンツーン側フック35の縦板40の内側面とが当接し、ウインチ44、44の力がポンツーン4を介して船舶2に伝えられる。なお、本実施形態では、ウインチ44、44の巻き取り時に、推進器9を略180°旋回させて自走時と反対向きにすることでウインチ44、44による引き寄せを補助する。
【0070】
つぎに、ポンツーン4が岸壁3に再着岸したのを船舶2側で確認した後、その船舶2から終了命令を送信する。その終了命令を受信したポンツーン4は、推進器9とウインチ44、44とを停止させ、さらに、ウインチ44、44をロックさせる。
【0071】
以上によりポンツーン4と係合した状態で船舶2が岸壁3に係船される。
【0072】
このように本実施形態の係船装置1は、船舶2を岸壁3に係船するに際して、船舶2と、岸壁3からその船舶2まで自走させたポンツーン4とを係合させた後、ポンツーン4を駆動して船舶2を岸壁3に引き寄せることで、船舶2を岸壁3に接近させるための船舶2の操船が不要となり、船舶2の船員の負担を軽減することができる。
【0073】
また、船舶2から岸壁3への係船ロープの投げ渡し作業が不要となる。それにより、陸側に綱取り要員を待機させる必要がなく、係船作業を効率化できる。また、係船作業の作業時間を短縮することができる。また、係船ロープを人手により取り扱う必要がなくなるので、船員の負担を軽減することができる。
【0074】
また、船舶2を岸壁3に着岸させるための係船機を調整する操作や操船が不要となり、船員の負担が軽減される。
【0075】
以上により本実施形態の係船装置1は係船作業の省力化を行うことができる。
【0076】
特に、本実施形態の係船装置1は、ポンツーン4に推進器9を設けポンツーン4を自走可能にしたことに特徴を有する。すなわち、ポンツーンとは本来岸壁の一部として岸壁に係留されて、例えば、舷梯の代わりなどに用いられるものであり、動力を持たない台船などの浮体から構成される。しかしながら、本実施形態では、このポンツーンを自走可能とし、係船作業に利用するようにしている。したがって、ポンツーンにより沖に停船する船舶を捕まえることが可能となり、これにより、従来のように衝突に注意しながら船舶を岸壁の直ぐ近くまで寄せる必要がなくなる。つまり、船員は従来よりも岸壁から離れた位置に船舶を停船させることができ、よって操船作業は従来より格段と容易になる。なお、本実施形態のポンツーン4は、従来同様、舷梯の代わりとしても使用できる。
【0077】
この他、船舶側フック34とポンツーン側フック35とに歯部45a、45bを各々設けることで、例えば、ポンツーン4を引き寄せる時にポンツーン4が岸壁3に対して斜めを向いてしまった場合に、船舶側フック34がポンツーン側フック35に沿って滑り離脱するのを防止できる。また、係船作業終了後に、港湾の気象や海象条件が悪化し、波による揺動が激しくなった場合でも船舶2をある程度つなぎ止めることができる。さらに気象、海象条件が悪化した場合を想定し、船舶側の係船機を併用することも可能である。
【0078】
また、本実施形態を実施するためには、船舶2には船舶側フック34を設けるだけでよく、岸壁3にはウインチ44を設けるだけよいので、船舶2側や陸側の設備に対する影響が少なく容易に実施することができる。
【0079】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、様々な変形例や応用例が考えられるものである。
【0080】
例えば、ポンツーンの推進器は、旋回角が限定されたものや旋回しないものでもよい。また、推進器の推進モータおよび旋回モータの制御方式は、例えば、GPSを用いたより高精度な制御方式など様々な制御方式が可能である。また、バラストタンクは、ポンツーンの海水抵抗や安定性を考慮して、ポンツーンの任意の位置に配置可能である。例えば、ポンツーンのボディと別体で形成したバラストタンクをボディの外側面に取り付けるようにしてもよい。また、ポンプおよび切換バルブ装置の制御方式は、シーケンサ制御に限らず様々な方式が可能である。
【0081】
また、ポンツーンのボディ形状は、波の抵抗を考慮し、例えば、楕円形や六角形とすることも可能である。
【0082】
また、本実施形態では、ポンツーンの沈降方向への移動とポンツーンの岸壁から船舶までの自走とを同時に行ったが、これら沈降方向への移動と自走とを個別に行うようにしてもよい。例えば、まず、岸壁に着岸した状態で沈降方向への移動を行い、その後、船舶までの自走を行うようにしてもよい。
【0083】
また、本実施形態では、船舶側からポンツーンなどを無線で制御する形態を説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ポンツーンが、自身の制御装置に組み込まれたプログラムに基づき制御されるようにしてもよい。また、ポンツーンなどを、岸壁側から無線もしくは有線で制御してもよい。なお、ポンツーンの制御方式などは、ポンツーンが装備される港の気象海象条件、係船する船舶の種類、ポンツーンの作製コストなどを勘案して、柔軟に変更可能である。
【0084】
また、補給作業を容易にするために、ポンツーンに陸電ボックスや飲料水用栓などを設置してもよい。
【0085】
また、係合手段は船舶側フックおよびポンツーン側フックに限らず、例えば、ポンツーンに設けられ船体の側面などを把持する把持装置などでもよい。また、ポンツーン側フックはポンツーンの任意の位置に設けることが可能であり、例えば、ポンツーン側フックを、ポンツーンの頂部の前端部に設けた縦板のみで構成するようにしてもよい。また、船舶の航行時の海水抵抗を考慮すると船舶側フックは本実施形態のように船体側面の上端部に設けることが好ましいが、船舶側フックは任意の位置に設けることが可能である。例えば、船体の上面などに設けることができる。
【0086】
さらに、係合手段は、前記実施形態では予め沈降させたポンツーンを浮上させることにより、下から上に係合を行うよう構成されたが、逆に、予め浮上させたポンツーンを沈降させることにより、上から下に係合を行うよう構成されてもよい。
【0087】
また、規制手段を、船舶側フックまたはポンツーン側フックのいずれか一方だけに設けるようにしてもよい。また、規制手段は歯部に限らず、例えば、船舶側フックおよびポンツーン側フックを貫通するピン部材などから構成されるロック機構などでもよく、そのロック機構は手動と自動との何れにより作動させてもよい。また、係合手段には歯部などの規制手段を設けることが好ましいが、ポンツーンが装備される港湾の気象海象条件や係船する船舶の種類やポンツーンの作製コストなどを勘案して規制手段を省略してもよい。
【0088】
また、移動手段はウインチに限らず、例えば、ポンツーンの推進器のみにより船舶を移動させるようにしてもよい。つまり、推進器を移動手段として共用してもよい。また、移動手段としてウインチをポンツーン側に設けると共に、そのウインチの索を岸壁側に接続するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明に係る一実施形態による係船装置の斜視図を示す。
【図2】本実施形態のポンツーンの斜視図を示す。
【図3】本実施形態のポンツーンの概略図を示す。
【図4】本実施形態の切換バルブ装置の詳細図を示す。
【図5】本実施形態の係合手段の斜視図を示す。
【図6】(a)は本実施形態に係る船舶側係合部材の部分斜視図を示し、(b)は、図6(a)の断面図を示す。
【図7】(a)は本実施形態に係るポンツーン側係合部材の部分斜視図を示し、(b)は、図7(a)の断面図を示す。
【図8】(a)から(c)は、係船作業時の本実施形態の係船装置と、その係船装置が対象とする船舶と、その船舶が係船される岸壁とを示す図である。
【符号の説明】
【0090】
1 係船装置
2 船舶
3 岸壁
4 ポンツーン
5 係合手段
6 移動手段
9 推進器
10 バラストタンク
11 給排水装置
30 船体
31 船舶側係合部材
32 ポンツーン側係合部材
41 規制手段
42a、42b 歯部
44 ウインチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶を岸壁に係船するための係船装置であって、上記岸壁と上記船舶との間にポンツーンを配置すると共に該ポンツーンにこれを自走可能とするための推進器を設け、そのポンツーンを上記船舶と係合させるための係合手段を設け、上記ポンツーンを上記推進器により上記船舶まで自走させた後、上記係合手段により上記船舶と係合させるようにしたことを特徴とする係船装置。
【請求項2】
互いに係合された上記船舶と上記ポンツーンとを上記岸壁に向かって移動させるための移動手段がさらに設けられる請求項1記載の係船装置。
【請求項3】
上記ポンツーンが浮沈方向に移動可能であり、上記ポンツーンが上記船舶まで自走した後浮上することにより、上記係合手段による係合がなされる請求項1または2記載の係船装置。
【請求項4】
上記ポンツーンが、自身の浮力を調整するためのバラストタンクと、そのバラストタンクの給水および排水を行う給排水装置とを備えた請求項3記載の係船装置。
【請求項5】
上記推進器が全方向に旋回可能である請求項1から4いずれかに記載の係船装置。
【請求項6】
上記係合手段が、上記船舶の船体の側面に設けられた船舶側係合部材と、上記ポンツーンに設けられ上記船舶側係合部材に係合可能なポンツーン側係合部材とからなり、上記移動手段は、上記船舶をその船舷方向に移動して上記ポンツーンを介して上記岸壁に横付けさせるように、上記ポンツーンを駆動する請求項2記載の係船装置。
【請求項7】
上記船舶側係合部材と上記ポンツーン側係合部材との少なくともいずれか一方が、上記船舶の船長方向に沿った他方との相対移動を規制するための規制手段を有する請求項6記載の係船装置。
【請求項8】
上記規制手段が、上記船舶側係合部材と上記ポンツーン側係合部材とに各々設けられ互いに噛合する歯部からなる請求項7記載の係船装置。
【請求項9】
上記移動手段が、上記岸壁に設けられ上記ポンツーンを上記岸壁に引き寄せるためのウインチからなる請求項2、6、7または8記載の係船装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−103614(P2006−103614A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296018(P2004−296018)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)