説明

保存容器に貯留された液状物の重合防止方法及びその装置

【課題】 不飽和結合を持つ化合物の保存時において、例えば、従来のように、添加剤又は希釈パージによって製品品質及び環境に影響を与えることなく化合物の固化を防止できる保存容器に貯留された液状物の重合防止方法及びその装置を提供する。
【解決手段】 不飽和化合物を含む液状物を保存容器11の下部から取り出し、この保存容器11の上部に戻す循環路を備える保存容器に貯留された液状物の重合防止方法であって、循環路から分岐させて、保存容器11の下部に液状物の補助循環流を形成し、この液状物の固化を防止する。また、重合防止装置10は、循環路から分岐されて保存容器11の底部に設けられる分岐路と、循環路又は分岐路に設けられたポンプ15とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和結合を有するモノマー、特にアクリルアミド又はメタクリルアミドなどのアミド化合物の安定化に関するものであり、更に詳細には、保存容器に貯留された液状物の重合防止方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリルアミドなどのアミド化合物は、例えば、アクリロニトリルなどのニトリル化合物を硫酸及び水と共に加熱してアクリルアミド硫酸塩を得る工程を含む硫酸加水分解法、ニトリル化合物を触媒(例えば、金属銅、酸化銅、又は銅塩)の存在下で水和して対応するアミド化合物を製造する方法、又は微生物由来のニトリルヒドラターゼによりニトリル化合物を水和してアクリルアミドを製造する方法により、工業的に製造されている。なお、アミド化合物は、例えば、凝集剤、増粘剤、石油回収薬剤、製紙工業における紙力増強剤、又は抄紙用増粘剤のように、多くの用途を有する重合体の原料として有用である。
このアミド化合物は、極めて重合し易い物質であるため、この液状物を貯蔵タンク(保存容器)に貯留した場合、貯蔵タンクの底部廻りで局部的に重合するか、あるいは流動性がなくなることで、例えば開放検査による貯蔵タンクからの底液の抜き出しが必要となった場合に抜き出し困難となる恐れがある。
更に、貯蔵された液状物の一部のみに重合が進むことにより、 製品品質の低下に繋がることも考えられる。
【0003】
このため、アクリルアミドの重合抑制剤として、種々の化合物が提案されている。
例えば、特許文献1には、アクリルアミドに、チオ尿素、ロダンアンモン、ニトロベンゾール、O―トリジン、フェノチアジン、及びニトロソR塩からなる群に属する化合物を共存させて重合を抑制する方法が開示されている。また、 特許文献2には、 炭素数2以上の水溶性モノカルボン酸塩を添加するアクリルアミド水溶液の安定化法が開示されている。
そして、特許文献3には、アクリルアミド製造工程に使用する装置内部の気相部の壁面を合成樹脂系材料で被覆する方法、また、特許文献4には、接液部を樹脂製にする方法が、それぞれ開示されている。
更に、特許文献5には、タンク内で液溜りをなくすことは設計上の工夫によっては不可能であるため、工程内で希釈パージ(放出)する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特公昭39−10109号公報
【特許文献2】特許第2548051号公報
【特許文献3】特公昭49−16845号公報
【特許文献4】特開2003−221374号公報
【特許文献5】特開2003−221373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アクリルアミドの製品を貯蔵しているタンクの底部は、安定剤が存在しても極めて重合し易く、特に底部の抜出用配管(抜出路)で重合が生じ易い。このため、例えば開放検査により、タンクから底液の抜き出しが必要となった場合に、やはりアクリルアミドの抜き出しが困難になっていた。
また、流動性の無い重合ポリマー液の廃棄処理が困難となるため、環境への負荷も起こっていた。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、不飽和結合を持つ化合物の保存時において、例えば、従来のように、添加剤又は希釈パージによって製品品質及び環境に影響を与えることなく化合物の固化を防止できる保存容器に貯留された液状物の重合防止方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止方法は、不飽和化合物を含む液状物を保存容器の下部から取り出し、該保存容器の上部に戻す循環路を備える保存容器に貯留された液状物の重合防止方法であって、
前記循環路から分岐させて、前記保存容器の下部に前記液状物の補助循環流を形成し、該液状物の固化を防止する。
ここで、循環路を分岐させることで、例えば、保存容器に分岐路を設け、この分岐路を保存容器の下部にある側壁部又は底部に接続することにより、循環路を流れる液状物の一部を使用して補助循環流を形成できる。
【0008】
前記目的に沿う第2の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止方法は、不飽和化合物を含む液状物を保存容器の下部から取り出し、ポンプによって該保存容器の上部に戻す循環路を備える保存容器に貯留された液状物の重合防止方法であって、
前記ポンプとは別に第2のポンプを設け、該第2のポンプによって前記保存容器の下部に前記液状物の補助循環流を形成し、該液状物の固化を防止する。
ここで、第2のポンプは、例えば、保存容器の下部に設けられ、保存容器内の液状物を保存容器から取り出すための液状物取出口と、この取り出した液状物を再度保存容器内へ戻すための液状物供給口とを有する補助循環流形成路に設置することも、また保存容器内に直接投入することも可能である。
第1及び第2の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止方法において、前記補助循環流は、少なくとも前記保存容器の下部に設けられた液状物抜出口に形成されているのが好ましい。
第1及び第2の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止方法において、前記補助循環流を、前記保存容器から取り出された後、該保存容器の底部に設けられた液状物抜出路の一部を介して前記保存容器内へ戻される前記液状物により形成するのが好ましい。
第1及び第2の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止方法において、前記補助循環流を、前記保存容器から取り出された後、該保存容器の下部に複数設けられた液状物流入路を介して前記保存容器内へ戻される前記液状物により形成してもよい。
第1及び第2の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止方法において、前記液状物流入路を介して前記保存容器内へ戻す前記液状物を、平断面視して円形となった前記保存容器の内周面に対して実質的に接線方向から流入させてもよい。
第1及び第2の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止方法において、前記不飽和化合物は、炭素数が1以上20以下のアミド化合物であるのが好ましい。
【0009】
前記目的に沿う第3の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止装置は、不飽和化合物を含む液状物を貯留する保存容器と、該液状物を該保存容器の下部から取り出し該保存容器の上部に戻す循環路を備える保存容器に貯留された液状物の重合防止装置であって、
前記循環路から分岐されて前記保存容器の底部に設けられる分岐路と、前記循環路又は前記分岐路に設けられたポンプとを有し、使用にあっては、前記ポンプによって前記保存容器の下部に補助循環流を形成し、前記液状物の固化を防止する。
ここで、ポンプを使用して分岐路に液状物を流すことで、保存容器の底部から循環路の流出口へかけての補助循環流を形成できる。
第3の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止装置において、前記分岐路は、前記保存容器の底部に設けられた液状物抜出路の一部を介して前記保存容器に設けられているのが好ましい。
【0010】
前記目的に沿う第4の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止装置は、不飽和化合物を含む液状物を貯留する保存容器と、該液状物を該保存容器の下部から取り出し、ポンプによって該保存容器の上部に戻す循環路を備える保存容器に貯留された液状物の重合防止装置であって、
前記保存容器の下部に液状物取出口が設けられた補助循環流形成路と、該補助循環流形成路に接続され前記保存容器の底部に設けられた液状物抜出路と、前記補助循環流形成路に設けられた第2のポンプとを有し、使用にあっては、前記第2のポンプによって前記保存容器の下部に前記液状物の補助循環流を形成し、該液状物の固化を防止する。
ここで、第2のポンプを使用して補助循環流形成路と液状物抜出路の一部に液状物を流すことで、保存容器の底部から補助循環流形成路の液状物取出口へかけての補助循環流を形成できる。
【発明の効果】
【0011】
第1、第2の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止方法及び第3、第4の発明に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止装置は、保存容器の下部に液状物の補助循環流を形成するので、保存容器の底部で発生していた不飽和結合を含む液状物の滞留を防ぎ、固化を防止できる。
これにより、液状物の保存時において、例えば、従来のように、添加剤又は希釈パージによって製品品質及び環境に影響を与えることなく、また製品ロスを生じさせることなく、製品を安定した状態で貯留できる。
【0012】
ここで、補助循環流を、保存容器の底部に設けられた液状物抜出路の一部を介して保存容器内に戻される液状物により形成した場合には、液状物抜出路の閉塞を防止できるので、例えば開放検査を容易に行うことができ、作業性が良好になる。
また、補助循環流を、保存容器の底部に設けられた複数の液状物流入路を介して保存容器内に戻される液状物により形成した場合には、保存容器の底部に満遍なく液状物を行き渡らせることができるので、保存容器底部での液状物の滞留を防止でき、液状物の固化を防止できる。
そして、液状物を、保存容器の内周面に対して接線方向から流入させた場合には、保存容器内への液状物の流入に伴って、保存容器の底部に旋回流を形成できるので、保存容器の底部の液状物の滞留を防止でき液状物の固化を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の第1の実施の形態に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止装置の説明図、図2は同重合防止装置の第1の変形例の説明図、図3(A)、(B)はそれぞれ同重合防止装置の第2、第3の変形例の説明図、図4は本発明の第2の実施の形態に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止装置の説明図である。
【0014】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止装置(以下、単に重合防止装置ともいう)10は、不飽和化合物を含む液状物を貯留する貯蔵タンク(保存容器の一例)11と、この貯蔵タンク11に貯留された液状物を貯蔵タンク11の下部から取り出し、この貯蔵タンク11の上部に戻す循環路とを有する装置である。以下、詳しく説明する。
【0015】
貯蔵タンク11に貯留される液状物中の不飽和化合物とは、分子内に不飽和結合を持つ化合物であり、この化合物としては、例えば、アミド化合物、カルボン酸類、又はカルボン酸エステル類を挙げることができる。
ここで、アミド化合物としては、 炭素数が1以上20以下、好ましくは炭素数が3以上20以下程度のもので、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、又はクロトンアミドの不飽和脂肪族アミドを挙げることができる。また、カルボン酸類としては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸を挙げることができる。
【0016】
このアミド化合物は、 例えば、硫酸水和法、アセトンシアンヒドリン法、銅触媒法、又は酵素法の各方法を使用し、対応するニトリル化合物を水和することにより工業的に製造することができるが、特に、銅触媒法又は酵素法を使用することが好ましい。この銅触媒法とは、ニトリル化合物を、例えば、金属銅、還元銅、又はラネー銅の銅触媒の存在下で直接水和してアミド化合物を製造する方法であり、 例えば、特公昭52−33092号公報に開示された方法を使用することができる。また、酵素法とは、ニトリルを水和して対応するアミドを生成する能力を有する微生物由来の酵素の作用によりニトリルを水和して対応するアミド化合物を製造する方法であり、 例えば、特開平11−89575号公報、又は国際公開第01/53253号パンフレットに開示された方法を使用することができる。
【0017】
貯蔵タンク11は、その外形が円柱状となったもので、貯蔵タンク11の下部、例えば、貯蔵タンク11の底面からその高さの1/3以下、好ましくは1/4以下の範囲内には、循環用配管12の流出口13が設けられ、貯蔵タンク11の上端部には、循環用配管12の流入口14が設けられている。この循環用配管12により、液状物の循環路が形成されている。
この循環用配管12の途中には、貯蔵タンク11に貯留された液状物を、循環用配管12を使用して循環混合することを目的とした循環用ポンプ(ポンプの一例)15、及び循環用配管12を流れる液状物の流量を制御する2つの流量調整弁16、17が設置されている。また、循環用ポンプ15の上流側の循環用配管12には、液状物中に混入した異物を除去するためのストレーナ18が設けられている。
【0018】
なお、循環用ポンプ15の下流側であって、2つの流量調整弁16、17の間の循環用配管12には、循環用配管12を流れる液状物を、例えば、ローリー(輸送車)への積み込み、又はユーザー(需要者)への供給に使用するための供給用配管19が設けられている。
この循環用ポンプ15及び各流量調整弁16、17の開度を、制御部(図示しない)を使用して制御することにより、循環用配管12及び供給用配管19への液状物の供給量を調整できる。
【0019】
貯蔵タンク11の底部には、貯蔵タンク11内に貯留された液状物の抜出用配管20の液状物抜出口21が接続され、この抜出用配管20の上流側、即ち貯蔵タンク11側から、抜出弁22、開閉弁23、及び抜出用ポンプ24が順次配置されている。この抜出用配管20により、液状物抜出路が形成されている。
また、貯蔵タンク11の下部側壁であって循環用配管12の流出口13の下方には、貯蔵タンク11内から取り出された液状物を、貯蔵タンク11の側方から貯蔵タンク11内へ戻すことが可能な流入用配管(貯蔵タンク11内の液状物を取り出すための取出用配管としても使用されている)25の流入口26が設けられている。この流入用配管25には開閉弁27が設けられ、この流入用配管25の供給口28が、抜出弁22と開閉弁23との間の抜出用配管20に接続されている。
なお、流入用配管25は、貯蔵タンク11に設けなくても構わない。
【0020】
循環用ポンプ15と供給用配管19との間の循環用配管12には、この循環用配管12から分岐して流入用配管25に接続されるバイパス用配管29が設けられている。このバイパス用配管29により、分岐路が形成されている。ここで、バイパス用配管29に送液ポンプを設けることも可能である。
なお、貯蔵タンク11に流入用配管25を設けない場合には、バイパス用配管29を抜出用配管20に直接接続する。
これにより、循環用配管12を流れる液状物を、バイパス用配管29から、流入用配管25及び抜出用配管20の一部を介して貯蔵タンク11内に流入させ、貯蔵タンク11内の下部に補助循環流を形成できる。
なお、前記した抜出弁22、開閉弁23、及び開閉弁27の開閉と、抜出用ポンプ24の運転及び停止は、循環用ポンプ15及び各流量調整弁16、17を動作させる制御部により制御できる。
【0021】
ここで、図2に示すように、貯蔵タンク11の底部に設置される抜出用配管20の液状物抜出口21の設置位置を、前記した流入用配管25と同様の機能を有する流入用配管30の流入口31から離れた位置、即ち、貯蔵タンク11の軸心を中心として対向する位置に設けることが好ましい。この場合、抜出弁22と開閉弁23との間の抜出用配管20に接続される流入用配管30の長さも長くなる。
これにより、貯蔵タンク11に設けられる抜出用配管20の液状物抜出口21から、流入用配管30の流入口31までの距離を、重合防止装置10の場合よりも長くできる。従って、流入用配管30から抜出用配管20の一部(上流側部分)を介して貯蔵タンク11内に流入した後、循環用配管12の流出口13まで移動する液状物の移動距離も長くできるので、貯蔵タンク11の下部のより広い領域に補助循環流を形成できる。
【0022】
また、図3(A)に示すように、バイパス用配管29を抜出用配管20に接続することなく、貯蔵タンク11の下部に複数の液状物流入路32を形成する流入用配管33に接続することも可能である。なお、流入用配管に形成する液状物流入路は1箇所でもよい。
この流入用配管33の流入口34は、貯蔵タンク11の底部全面に渡って略等間隔に設置することが好ましいが、特に液状物の滞留が生じ易い領域、例えば、貯蔵タンク11の内周面近傍に複数設けることが好ましい。
また、図3(B)に示すように、複数の流入用配管35を、貯蔵タンク11の底部の同一断面位置であって、貯蔵タンク11の内周面に対して実質的に接線方向に接続することも可能である。この複数の流入用配管の位置は、貯蔵タンクの高さ方向に異なった位置でもよい。なお、流入用配管は1箇所でもよい。
これにより、貯蔵タンク11内へ戻す液状物を貯蔵タンク11の内周面に沿って流入させながら、貯蔵タンク11の下部であって、貯蔵タンク11の軸心を中心とした方向に、補助循環流を形成できる。
【0023】
続いて、本発明の第1の実施の形態に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止方法について、前記した重合防止装置10を参照しながら説明する。
抜出用配管20からの液状物の抜き出しを停止させている場合に、抜出用配管20の抜出弁22を開状態、開閉弁23を閉状態にする。また、流入用配管25に設けられた開閉弁27も開状態にする。
ここで、循環用ポンプ15を運転することにより循環用配管12内を流れる液状物は、上流側に設けられた流量調整弁16を調整することでバイパス用配管29にも流れ、このバイパス用配管29へ流れた液状物が、流入用配管25を通って貯蔵タンク11内へ、及び流入用配管25と抜出用配管20の一部を通って貯蔵タンク11内へそれぞれ流入する。
これにより、貯蔵タンク11の底部に補助循環流が形成され、液状物の固化を防止できる。
【0024】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止装置(以下、単に重合防止装置ともいう)36について説明するが、前記した重合防止装置10と同一部材には同一番号を付し、詳しい説明を省略する。
図4に示すように、重合防止装置36は、不飽和化合物を含む液状物を貯留する貯蔵タンク11と、この貯蔵タンク11に貯留された液状物を貯蔵タンク11の下部から取り出し、循環用ポンプ15によって貯蔵タンク11の上部に戻す循環路と有する装置である。なお、貯蔵タンク11には、循環路を形成し、ストレーナ18、循環用ポンプ15、及び流量調整弁17が取付けられた循環用配管37が設けられている。また、貯蔵タンク11の底部には、液状物抜出路を形成し、抜出弁22、開閉弁23、及び抜出用ポンプ24が取付けられた抜出用配管20の液状物抜出口21が接続されている。
【0025】
この貯蔵タンク11の下部側壁であって循環用配管37の流出口13の下方には、貯蔵タンク11内に貯留された液状物を、貯蔵タンク11の側方から取り出し可能な取出用配管38の液状物取出口39が設けられている。この取出用配管38の下流側端部(取出用配管38の液状物供給口となる)は、抜出弁22と開閉弁23との間の抜出用配管20に接続されている。また、取出用配管38には、貯蔵タンク11内の液状物を取出用配管38へ流すための補助循環流形成用ポンプ(第2のポンプの一例)40と、取出用配管38の流路を開閉する開閉弁27が設けられている。この取出用配管38により、補助循環流形成路が形成されている。
これにより、取出用配管38を流れる液状物を、抜出用配管20の一部を介して貯蔵タンク11内に流入させ、貯蔵タンク11内の下部に補助循環流を形成できる。
【0026】
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止方法について、前記した重合防止装置36を参照しながら説明する。
抜出用配管20からの液状物の抜き出しを停止させている場合に、抜出用配管20の抜出弁22を開状態、開閉弁23を閉状態にする。また、取出用配管38に設けられた開閉弁27も開状態にする。
ここで、補助循環流形成用ポンプ40を運転することにより、貯蔵タンク11から取出用配管38に流れ込んだ液状物は、抜出用配管20の一部を通って貯蔵タンク11内へ流入する。
これにより、貯蔵タンク11内の底部に補助循環流が形成され、液状物の固化を防止できる。
【実施例】
【0027】
不飽和化合物を含む液状物として50重量%のアクリルアミド水溶液を用いて、図1に示した重合防止装置10を使用し、抜出用配管20から液状物を抜き出した後、抜出用配管20の開閉弁23を閉状態にし、循環用配管12から分岐して設けたバイパス用配管29から循環液の一部を流入用配管25を経由して液状物抜出口21及び流入口26より貯蔵タンク11内に流入させ循環させた。1年経過して開閉弁23を開状態として抜出用ポンプ24で抜出点検を行なったところ、液状物を容易に抜き出すことができた。また、2年毎に循環用ポンプ15を停止させ開閉弁23を開、開閉弁27を閉として液状物の抜出点検を実施しても、全く閉塞することなく抜出用配管20から液状物を抜き出すことができた。更に、ストレーナ18を点検したが、重合物等の付着は見られなかった。
このような定期点検を10回実施したが、全く問題無く、重合物の発生は見られなかった。
【0028】
(比較例)
補助循環流を設けない従来例として、図1のバイパス用配管29、流入用配管25を設けずに抜出用開閉弁22を閉状態にして通常に循環運転を行なった。1年経過後、実施例と同様に開閉弁23を開状態として抜出用ポンプ24で抜出点検を行なったところ、抜出弁等で液状物の重合が発生していたため、抜出用配管20から液状物を抜き出すことができなかった。
更に、循環用ポンプ15を停止させストレーナ18を点検したところ、多量の重合物の付着が確認された。
以上のことから、本発明の重合防止方法及びその装置を使用することにより、比較的循環流の少ない貯蔵タンク底部及び液状物が滞留し易い付属配管、抜出弁等に補助循環流を形成するため、長期に渡って重合を防止することができる。
また、従来のように、添加剤又は希釈パージによって製品品質及び環境に影響を与えることなく化合物の重合を防止できる。
【0029】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の保存容器に貯留された液状物の重合防止方法及びその装置を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
なお、本発明の保存容器に貯留された液状物の重合防止方法及びその装置は、特にアミド化合物の製造工程に適用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止装置の説明図である。
【図2】同重合防止装置の第1の変形例の説明図である。
【図3】(A)、(B)はそれぞれ同重合防止装置の第2、第3の変形例の説明図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る保存容器に貯留された液状物の重合防止装置の説明図である。
【符号の説明】
【0031】
10:保存容器に貯留された液状物の重合防止装置、11:貯蔵タンク(保存容器)、12:循環用配管、13:流出口、14:流入口、15:循環用ポンプ(ポンプ)、16、17:流量調整弁、18:ストレーナ、19:供給用配管、20:抜出用配管、21:液状物抜出口、22:抜出弁、23:開閉弁、24:抜出用ポンプ、25:流入用配管、26:流入口、27:開閉弁、28:供給口、29:バイパス用配管、30:流入用配管、31:流入口、32:液状物流入路、33:流入用配管、34:流入口、35:流入用配管、36:保存容器に貯留された液状物の重合防止装置、37:循環用配管、38:取出用配管、39:液状物取出口、40:補助循環流形成用ポンプ(第2のポンプ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和化合物を含む液状物を保存容器の下部から取り出し、該保存容器の上部に戻す循環路を備える保存容器に貯留された液状物の重合防止方法であって、
前記循環路から分岐させて、前記保存容器の下部に前記液状物の補助循環流を形成し、該液状物の固化を防止することを特徴とする保存容器に貯留された液状物の重合防止方法。
【請求項2】
不飽和化合物を含む液状物を保存容器の下部から取り出し、ポンプによって該保存容器の上部に戻す循環路を備える保存容器に貯留された液状物の重合防止方法であって、
前記ポンプとは別に第2のポンプを設け、該第2のポンプによって前記保存容器の下部に前記液状物の補助循環流を形成し、該液状物の固化を防止することを特徴とする保存容器に貯留された液状物の重合防止方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の保存容器に貯留された液状物の重合防止方法において、前記補助循環流は、少なくとも前記保存容器の下部に設けられた液状物抜出口に形成されていることを特徴とする保存容器に貯留された液状物の重合防止方法。
【請求項4】
請求項3記載の保存容器に貯留された液状物の重合防止方法において、前記補助循環流を、前記保存容器から取り出された後、該保存容器の底部に設けられた液状物抜出路の一部を介して前記保存容器内へ戻される前記液状物により形成することを特徴とする保存容器に貯留された液状物の重合防止方法。
【請求項5】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の保存容器に貯留された液状物の重合防止方法において、前記補助循環流を、前記保存容器から取り出された後、該保存容器の下部に複数設けられた液状物流入路を介して前記保存容器内へ戻される前記液状物により形成することを特徴とする保存容器に貯留された液状物の重合防止方法。
【請求項6】
請求項5記載の保存容器に貯留された液状物の重合防止方法において、前記液状物流入路を介して前記保存容器内へ戻す前記液状物を、平断面視して円形となった前記保存容器の内周面に対して実質的に接線方向から流入させることを特徴とする保存容器に貯留された液状物の重合防止方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の保存容器に貯留された液状物の重合防止方法において、前記不飽和化合物は、炭素数が1以上20以下のアミド化合物であることを特徴とする保存容器に貯留された液状物の重合防止方法。
【請求項8】
不飽和化合物を含む液状物を貯留する保存容器と、該液状物を該保存容器の下部から取り出し該保存容器の上部に戻す循環路を備える保存容器に貯留された液状物の重合防止装置であって、
前記循環路から分岐されて前記保存容器の底部に設けられる分岐路と、前記循環路又は前記分岐路に設けられたポンプとを有し、使用にあっては、前記ポンプによって前記保存容器の下部に補助循環流を形成し、前記液状物の固化を防止することを特徴とする保存容器に貯留された液状物の重合防止装置。
【請求項9】
請求項8記載の保存容器に貯留された液状物の重合防止装置において、前記分岐路は、前記保存容器の底部に設けられた液状物抜出路の一部を介して前記保存容器に設けられていることを特徴とする保存容器に貯留された液状物の重合防止装置。
【請求項10】
不飽和化合物を含む液状物を貯留する保存容器と、該液状物を該保存容器の下部から取り出し、ポンプによって該保存容器の上部に戻す循環路を備える保存容器に貯留された液状物の重合防止装置であって、
前記保存容器の下部に液状物取出口が設けられた補助循環流形成路と、該補助循環流形成路に接続され前記保存容器の底部に設けられた液状物抜出路と、前記補助循環流形成路に設けられた第2のポンプとを有し、使用にあっては、前記第2のポンプによって前記保存容器の下部に前記液状物の補助循環流を形成し、該液状物の固化を防止することを特徴とする保存容器に貯留された液状物の重合防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−63070(P2006−63070A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217702(P2005−217702)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】