説明

保持具

【課題】 ベルヌーイの定理を利用して負圧を発生させて被保持体を保持する保持具を提供することである。
【解決手段】 板状面1aを備えた本体1と、この本体1の板状面11aに沿って流体を噴出させる噴出部14とを備え、この噴出部14から噴出した流体を板状面11aに沿って導き、ベルヌーイの原理によって板状面11aに負圧を生じさせ、この負圧を利用して被保持体16を保持する保持具において、上記本体1の板状面11aには、被保持体16を接触させてその位置を保持するストッパー15を設けるとともに、本体1の板状面11aと対向する仮想面に発生する圧力の合計が最大負圧になる仮想面位置もしくはほぼ最大負圧になる仮想面位置に、上記ストッパー15の先端を対応させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ベルヌーイの定理を利用して負圧を発生させて被保持体を保持する保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のものとして、例えば特許文献1に記載された保持具が従来から知られている。この従来の保持具は、本体に流体を噴出する噴出口を設け、この噴出口から噴出された流体を、コアンダ効果を利用して本体の板状面に沿って流れるようにしている。このように流体の流れを作ることによって、ベルヌーイの原理による負圧を形成し、この負圧の吸引力で上記被保持体を非接触状態で保持できるようにしている。
このようにして非接触状態で保持された被保持体は、負圧による吸引力と被保持体の自重とがバランスする位置で保持されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−181682号公報
【特許文献2】WO 02/47155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにベルヌーイの原理によって本体の板状面に沿って負圧を発生させ、その負圧で被保持体を非接触状態で保持する場合に、上記したように被保持体は、負圧による吸引力と被保持体の自重とがバランスする位置で保持される。ところが、このバランス位置において当該保持具の吸引力が最大になっているとは限らないが、この点は、次の実験から明らかになった。
【0005】
本発明者らは、上記のようにバランス位置で保持された被保持体に上記本体から離す方向の力を作用させ、そのときの力の大きさを測定した。その結果、被保持体が保持されている上記バランス位置よりも本体から少しはなれたところに、吸引力のピークがあることが分かった。
【0006】
その理由は、次のような仮説を立てることができるが、それを図4に基づいて説明する。この図4における縦軸は本体の板状面からの距離を示し、横軸は圧力の大きさを示している。そして、曲線Wは縦軸に交わる上記板状面と平行な仮想面すなわち本体の板状面と対向する仮想面に発生する圧力の合計を示したものである。
【0007】
この図4からも明らかなように、本体の板状面に近接したところでは正圧になっているが、本体の板状面から離れるにしたがって、ベルヌーイの原理に基づいて負圧が発生し、正圧と負圧とが互いに打ち消し合いながら正圧が徐々に小さくなり、a点において圧力がゼロになる。
【0008】
さらに、上記a点を越えると、今度は負圧の方が相対的に大きくなるが、a点近傍では正圧がかなり影響しているので、負圧はそれほど大きくはならない。しかし、a点からある程度離れてくると、正圧の影響が小さくなって負圧の影響の方が大きくなり、P点において負圧のピークが現われる。なお、P点を越えた後の状態は、圧力がゼロに向かっていることは推測できるが、実験ではその特性を確認していない。
【0009】
上記のことから本体に対して被保持体を非接触の状態で保持し、その被保持体を本体の板状面から引き離す方向に力を加えたとき、その力の大きさがある点で最大になったという先の実験結果は、上記仮説によって論証することができる。すなわち、この実験では、被保持体の自重と負圧による吸引力とがバランスした位置で、当該被保持体が保持されていたが、そのバランス位置が負圧のピークが現われる上記P点よりも本体の板状面に近いところにあったことが分かる。したがって、非接触状態で保持された被保持体に、本体の板状面から離す方向の力を作用させたとき、その力が大きくなったものと推測できる。
【0010】
そのために、特許文献1に記載された従来の保持具では、被保持体が吸引保持された状態でも、そのときの吸引力が最大とは限らないので、保持力を常に安定させることができないという問題があった。
【0011】
また、特許文献2には、被保持体を吸引した状態で保持する保持部を設けたものが明らかにされているが、この保持具を図5に示した。この図5からも明らかなように、本体1の周囲に複数の保持部2をもうけているが、これら保持部2は、本体1から離れる方向に広がる傾斜を持たせている。したがって、被保持体3の直径に応じて保持部2で保持される位置が異なってくる。つまり、被保持体3の直径が小さければ本体1の板状面1aとの対向間隔が小さくなり、その直径が大きければ本体1の板状面1aとの対向間隔が大きくなる。
【0012】
このように特許文献2に記載された保持具では、被保持体3の直径によってその保持位置が違ってくるので、上記した特許文献1の場合と同じように、被保持体3が吸引保持された状態でも、そのときの吸引力が最大とは限らないので、保持力を常に安定させることができないという問題があった。
【0013】
この発明の目的は、常に、吸引力のピーク位置で被保持体を保持できるようにした保持具の提供を目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、板状面を備えた本体と、この本体の板状面に沿って流体を噴出させる噴出部を備えている。そして、この噴出部から噴出した流体を板状面に沿って導き、ベルヌーイの原理によって板状面に負圧を生じさせ、この負圧を利用して被保持体を保持する構成にしている。
上記のようにした保持具において、第1の発明は、本体の板状面に、被保持体を接触させてその位置を保持するストッパーを設けるとともに、上記板状面と対向する仮想面に発生する圧力の合計が最大負圧になる仮想面位置もしくはほぼ最大負圧になる仮想面位置に、上記ストッパーの先端を対応させたものである。
【0015】
第2の発明は、上記噴出部は複数の噴出口を備え、上記ストッパーは、上記噴出口から噴出される流体の流れの範囲内に設けたものである。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明の保持具によれば、本体の板状面に、被保持体を接触させてその位置を保持するストッパーを設けるとともに、上記板状面と対向する仮想面に発生する圧力の合計が最大負圧になる仮想面位置もしくはほぼ最大負圧になる仮想面位置に、上記ストッパーの先端を対応させたので、常に、最大の吸引力で被保持体を保持できる。したがって、その保持力を安定させることができる。
【0017】
第2の発明によれば、ストッパーを上記噴出口から噴出される流体の流れの範囲内に設けたので、このストッパーによって流体の流れ範囲を面方向に拡大することができる。このように流体の流れ範囲を面方向に拡大できるので、その分、面方向の負圧の範囲も拡大でき、より安定した吸引力を得ることできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本体に被保持体を保持した状態の断面図である。
【図2】本体の噴出口とストッパーとの相対位置を示した平面図である。
【図3】本体の噴出口とストッパーとの相対位置を示した図2とは別の実施形態の平面図である。
【図4】本体からの距離と圧力との関係を示したグラフである。
【図5】従来の保持具を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜図3に示した実施形態は、その板状面11aを有する本体11の中央部分に凹部12を形成しているが、この凹部12はその中央部中心に向かって深さを深くしたすり鉢状にしている。このようにした凹部12の中心には、流体圧源13に接続した噴出部14を設けている。
【0020】
この噴出部14は、図2に示すように、平面形状を円形にするとともに、その円周方向に90度位相をずらした位置に噴出口14aを形成している。このようにした噴出口14aから噴出された流体は、コアンダ効果によって上記凹部12および上記板状面11aに沿って流れるものである。
流体が凹部12および板状面11aに沿って流れると、ベルヌーイの原理によって、その流体の流れの近傍に負圧が発生する。
【0021】
上記のようにして発生する負圧は、図4に示す特性を示す。すなわち、前記したように曲線Wは縦軸に交わる上記板状面11aと平行な仮想面すなわち板状面11aと対向する仮想面に発生する圧力の合計を示したもので、点Pにおいて負圧のピークを示すが、これは前記したとまったく同じである。
【0022】
また、上記本体11の板状面11aには、複数のストッパー15を設けているが、このストッパー15は、その先端を上記負圧のピークの点Pに対応させている。つまり、本体11の板状面11aと対向する仮想面に発生する圧力の合計が最大負圧になる仮想面位置もしくはほぼ最大負圧になる仮想面位置に、上記ストッパー15の先端を対応させている。
【0023】
さらに、上記ストッパー15は、図2に示すように、上記噴出口14aから噴出される流体の流れの範囲内に設けている。このようにストッパー15を、噴出口14aから噴出される流体の流れの範囲内に設けたのは、上記噴出口14aから噴出された流体が、このストッパー15に当たって面方向に広がるようにするためである。
【0024】
上記のようにした実施形態の保持具は、上記板状面11aをウエハ等の被保持体16と対向させた状態で、流体圧源13から圧力流体を供給すると、この圧力流体は、上記したようにコアンダ効果により、凹部12および板状面11aに沿ってながれ、負圧が発生する。このときの負圧は図4に示す分布になるが、ストッパー15が負圧のピーク位置であるP点に対応させているので、被保持体16は最大負圧あるいはほぼ最大負圧によって吸引される。
【0025】
しかも、上記凹部12および板状面11aに沿って流れる流体は、図2に示すようにストッパー15に当たって面方向に広がるので、その広がりの分だけ負圧域が広くなる。例えば、図3に示すように、ストッパー15を流体の流れの外に設ければ、図2の流体の広がりが相違すること明らかである。
【0026】
このように負圧域が大きくなれば、その分、吸引力も大きくなると考えられるが、実験の結果でも、ストッパー15を流体の範囲内に設けた場合の方が、その範囲外に設けた場合よりも、吸引力が大きかった。なお、この実験では、ストッパー15の先端を上記のように点Pに対応させ、ストッパー15の位置のみを変えて、それぞれの被保持体16に板状面11aから引き離す方向の力を作用させたものである。
その結果、上記したようにストッパー15を流体の範囲内に設けた場合の方が、流体の範囲の外に設けた場合よりも吸引力が大きなことが分かった。
なお、この実施形態において、ノズルの数は限定されないし、ストッパーも複数あれば、その数は限定されないものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
ウエハの搬送用に最適である。
【符号の説明】
【0028】
11 本体
11a 板状面
14 噴出部
14a 噴出口
15 ストッパー
16 被保持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状面を備えた本体と、この本体の板状面に沿って流体を噴出させる噴出部とを備え、この噴出部から噴出した流体を板状面に沿って導き、ベルヌーイの原理によって板状面に負圧を生じさせ、この負圧を利用して被保持体を保持する保持具において、上記本体の板状面には、被保持体を接触させてその位置を保持するストッパーを設けるとともに、本体の板状面と対向する仮想面に発生する圧力の合計が最大負圧になる仮想面位置もしくはほぼ最大負圧になる仮想面位置に、上記ストッパーの先端を対応させた保持具。
【請求項2】
上記噴出部は複数の噴出口を備え、上記ストッパーは、上記噴出口から噴出される流体の流れの範囲内に設けた請求項1に記載の保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−125935(P2011−125935A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283955(P2009−283955)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(592189701)日本空圧システム株式会社 (17)
【Fターム(参考)】