説明

保温性布帛

【課題】吸湿発熱したエネルギーを維持し、さらに除湿放熱したエネルギーを高め、冬場に暖かく着用快適な保温性布帛を提供する。
【解決手段】セルロース系繊維のスパン糸からなる厚さ0.3mm以上の衣料用布帛であって、20℃90%RHでの吸湿発熱による上昇温度が2.5℃以上であり、20℃10%RHで除湿した時の下降温度が2.0℃以内にあり、かつ20℃90%RHで30分経過した時の吸湿発熱仕事量と20℃10%RHで30分経過した時の除湿放熱仕事量との比が2.0以上であることを特徴とする保温性布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系繊維のスパン糸からなる布帛であって、吸湿発熱特性を維持し、除湿放熱しにくいことを特徴とする、冬場に暖かく生理的に快適に過ごせる優れた着用感を有することができる布帛を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、吸湿発熱保温特性に優れた繊維を用いた製品に関しては多々提案されている。
【0003】
一般に保温性・断熱性など湿熱に係わる機能、性能が優れている繊維製品は「暖かい」という表現をされるが、「暖かい」ためには暖かさを感じるようなエネルギーの出入りの制御が必要となる。そのため、保温性・断熱性を向上させるために、中空糸や練込み糸などの素材を使う、あるいは織編物の中に空気を閉じ込めるような工夫や含気率を高める組織にする、また肌に直接触れる部分の接触冷感防ぐために起毛などの色々な後加工の手法が提案、実施されている。
【0004】
さらに吸湿発熱保温特性を向上させるため、例えば、特許文献1(特公平7−59762号公報)には、透湿防水性防風性その他所望の性質を有する表地および裏地と、これら表地および裏地の間に挿入された所望の性質を有する中地からなる基材を具備する保温品であって、動物性繊維を除く吸放湿吸水発熱性繊維が中地およびまたは裏地に含有され、人体から発生する気相および液相の水分を吸収することによる三層構造からなる吸湿発熱保温品が開示されている。
【0005】
また、特許文献2(特開2001−40547号公報)には、生地表面の少なくとも一部が吸放湿発熱性繊維を含む糸で構成され、裏面の一部が吸放湿発熱性繊維を含む糸で構成されており、生地表面に露出している吸放湿発熱性繊維含む一部が生地内部で接触している二層構造(2重織物)が開示されている。
【0006】
また、特許文献3(特開2000−199180号公報)には、繊維布帛の少なくとも片面に、高吸放湿吸湿発熱性有機微粒子を含有する手法が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの技術では、吸湿発熱保温性を有した製品を得ることはできるが、三層構造体による非常に厚みのあるスポーツ用途の商品であったり、組織を限定したり、繊維にセラミックスや金属などの微粒子を錬り混んだ繊維を使うために原糸の強度低下などの問題があるなど種々の問題があった。
【特許文献1】特公平7−59762号公報
【特許文献2】特開2001−40547号公報
【特許文献3】特開2000−199180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
人間の皮膚からは、発汗による体温調節のほかに生理的な発汗機能がある。通常人体からは1日に1.5〜2リットルの水分が発散されていると言われている。発汗は気化熱によって上昇する体温を低下させる働きを持っている。汗が皮膚表面に残留することや、衣服面に保持されていることによって気化熱の作用が異なるため、蒸れたり、ベトついたり、冷えたりなどの症状を感じるのである。そのため、吸湿性を工夫し、皮膚表面からでた液体の汗をうまく処理することにより、汗で濡れた繊維が乾燥した時の気化熱による熱の移動を利用し保温性を維持することができる。
【0009】
本発明は、吸湿性を工夫し、皮膚表面からでた液体の汗をうまく処理することにより、その汗で濡れた繊維が乾燥した時の気化熱による熱の移動を利用し保温性を高めたり維持しようとするものである。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、前記従来技術の問題点を克服し、吸湿発熱したエネルギーを維持し、さらに除湿放熱したエネルギーを高め、少しでも冬場に暖かく着用快適な保温性布帛を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するための次の構成よりなるものである。すなわち、本発明は、
1.セルロース系繊維のスパン糸からなる厚さが0.3mm以上の衣料用布帛であって、20℃90%RHでの吸湿発熱による上昇温度が2.5℃以上あり、20℃10%RHで除湿した時の下降温度が2.0℃以内にあり、かつ20℃90%RHで30分経過した時の吸湿発熱仕事量と20℃10%RHで30分経過した時の除湿放熱仕事量との比が2.0以上であるもの。
2.セルロース系繊維のスパン糸からなる衣料用布帛であって、20℃90%RHで30分経過した時の水分移動に伴う発熱・吸熱性の評価装置における中央隔室の相対湿度積分値と左右隔室の平均相対湿度積分値比が0.4以上0.6以下であるもの。
3.該セルロース系繊維の原料が竹であるもの。
4.該スパン糸が動物性繊維から選ばれた少なくとも1種類と、該セルロース系繊維、合成繊維から構成されてなるものであって、かつ混紡、交織、混繊したことを特徴とするものであるもの。
5.該スパン糸の動物性繊維とセルロース系繊維の構成比率は少なくとも50%以上からなるもの。
6.該布帛の吸放湿性(ΔMR)が4.0以上からなることを特徴とするもの。
【発明の効果】
【0012】
上記したように、本発明のセルロース系繊維、好ましくはさらに動物性繊維および合成繊維からなるスパン糸を用いた布帛は、吸湿発熱特性が高くかつ除湿放熱特性が低く保温性に優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実体の形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明は、高い吸放湿性を有するセルロース系繊維からなるスパン糸を用いて布帛を構成することにより、高い除湿放熱特性があり、かつ除湿放熱特性が小さいため、いつまでも暖かい特性を維持できる布帛を得ることを可能にしたものである。
【0015】
本発明のセルロース系繊維のスパン糸からなる厚さ0.3mm以上の衣料用布帛は、20℃90%RHでの湿熱発熱による温度の上昇が2.5℃以上であることが必要である。より好ましくは、温度上昇が3.0以上である。また、20℃10%RHで除湿した時の温度の下降が2.0℃以内であることも必要である。より好ましくは下降温度が1.5℃以内である。
【0016】
布帛の厚さが0.3mm以下の薄い物であれば、湿熱温度上昇が2.5℃以上にならず、除湿放熱効果も大きくなり、保温特性をもつ布帛にはならない。
【0017】
また、20℃90%RHで30分経過した時の吸湿による発熱エネルギー(吸湿発熱仕事量)が、20℃10%RHで30分経過した時の除湿による放熱エネルギー(除湿放熱仕事量)対比で2.0以上であることも重要である。さらにより好ましくは、2.5以上である。
以下、本発明における吸湿発熱特性および、除湿放熱特性、特に吸湿発熱仕事量および除湿放熱仕事量の測定方法について詳述する。
本発明でいう吸湿発熱、除湿放熱特性を測定する水分移動に伴う発熱・吸熱性の評価装置は財団法人日本化学繊維検査協会保有の装置である。この装置は、図1に示す通り、中央隔室とその左右に位置する左右隔室からなり、水でバブリングした加湿空気(90%RH)を30分通過させた後、シリカゲル通過させた空気(10%RH)を流す。すなわち90%RHと10%RHの間で加湿および除湿の状態に移行させる。その時、試料表面に取り付けられた熱電対により温度測定、吸湿発熱性やそれぞれの隔室湿度のデータが測定できる。
【0018】
このように中央隔室に加湿した空気や除湿した空気を流入させることにより、試料への水分移動をコントロールできる装置である。
簡単に手順を説明する。中央隔離室および左右の隔離室にシリカゲルを通過させた空気(10%RH)を流し、試験片を乾燥させ、左右の隔離室の空気を止める。次に中央
隔離室へ水でバブリングさせた加湿空気を送り込む。その時の加湿空気は約90%RHとなる。10%RHから90%RHの間で加湿および除湿状態に移行させることができる。
【0019】
試験片の表面に取り付けられた熱電対により温度を測定する。その時同時にそれぞれの隔室の湿度も測定でき、そうすることで吸湿発熱ばかりでなく、試験片の透湿性能も同時に測定できる。
【0020】
なお、この装置の詳細は特開平2003−337111号公報に記載の通りである。
【0021】
すなわち、具体的に、吸湿発熱、除湿放熱特性を測定する手順は以下の通りである。
【0022】
本装置では、吸湿発熱過程と除湿放熱過程が連続的に観察できるものである。
【0023】
中央および左右の隔室に所望の試料を挟み込み、布帛表面の温度が安定するまで30分放置した後、中央隔室へ水でバブリングした加湿空気を30分間送り込む。この時の加湿空気は90%RHとなる。その後、中央隔室の加湿空気を止める。次に、シリカゲルを通過させた空気(10%RH)を30分間流し、試験片を乾燥させる。試験片の表面に取り付けられたフィルムタイプの温度計(もしくは熱電対等の同等の機能を有するもの)によって表面の温度を測定する。その時、同時にそれぞれの隔室の湿度も測定する。なお、測定環境は室温20℃65%の一定条件である。
【0024】
上記のようにして、測定した温度変化の結果の一例を図2に示す。さらに、湿度変化の測定結果の一例について図3に示す。
【0025】
布帛表面の温度が安定するまで30分放置した後、20℃90%RHの加湿空気を送り、布帛表面の温度が上昇しピークになった時点の温度を読む(図2のB)。これが「吸湿発熱による上昇温度」である。これは加湿した空気を布帛が吸湿し、布帛の表面温度が上昇するもので、2.5℃以下であれば、公定水分率が低い繊維を混ぜることでも得られるものである。本発明においては、この吸湿発熱による上昇温度が、2.5℃以上であることが必要である。さらに3.0℃以上得られればより好ましく、暖かく感じられる。
【0026】
30分した後、加湿空気を止め、次にシリカゲルを通過させた20℃10%RHの乾燥した空気を送風する。すると布帛表面の温度が下降するので、下降ピークになった時の温度を読む(図2のE)。これが「除湿した時の下降温度」である。本発明においては、この下降温度が2.0℃以下であることが好ましい。下降温度が2.0℃以内であれば、除湿放熱で涼しく、寒くなってしまう。さらに下降温度が1.5℃以下であればより好ましい。
【0027】
次に、温度変化の結果から、20℃90%RHの加湿空気を30分送り続けた後の、吸湿発熱仕事量(図2のA、B、C、Dで囲った部分)と、20℃10%RHの乾燥した空気を30分間送付した除湿放熱仕事量(図2のD、E、F、Gで囲った部分)を求める。
【0028】
面積を求めるには、ウチダ(株)製プラニングメータ等の積分値を計算するソフトウエアを用いて、吸湿発熱した時のエネルギー、すなわち図2のA、B、C、Dで囲んだ面積を測定する。また、除湿放熱時のエネルギーは、図2のD、E、F、Gで囲んだ各面積を測定する。そして、30分間で1℃昇温させることができるエネルギー量を1とした時の各吸湿発熱仕事量(℃・min)および除湿放熱仕事量(℃・min)を算出して求める。
【0029】
本発明においては、前記吸湿発熱仕事量と前記除湿放熱仕事量との比(吸湿発熱仕事量/除湿放熱仕事量)が2.0以上であることが好ましく、2.5以上であればより好ましい。
【0030】
この吸湿発熱仕事量と除湿放熱仕事量との比が2.0以下であれば除湿放熱仕事量が大きいために、人が寒く感じることを表している。そのため、2.0以上であることが好ましく、2.5以上であればより暖かく感じることができ、さらに好ましい。
【0031】
第2の発明は、セルロース系繊維のスパン糸からなる衣料用布帛であって、20℃90%RHで30分経過した時の中央隔室の相対湿度積分値と左右隔室の平均相対湿度積分値比が0.4以上0.6以下である保温性布帛である。この20℃90%RHで30分経過した時の中央隔室と左右隔室の相対湿度積分値比が0.4以下であれば、蒸れて不快となり、0.6以上であれば、セルロース系繊維からなる衣料用布帛で分離している中央隔室の高い湿度が左右の隔室へ速やかに移動していることを示し、吸湿した気化熱がすべて放出され寒いと感じる。
【0032】
前記平均相対湿度積分値比は次のようにして求める。まず、温度変化と同時に測定した中央隔室および左右の隔室の相対湿度の積分値を求める。
20℃90%の加湿した時の中央隔室の湿度変化を図3a、b、c、dに、セルロース系繊維からなる衣料用布帛で分離している左右の隔室の湿度をa、c’、dに示す。なお、図3は左右の試験片が同じ場合の例なので左右隔室の湿度変化も同じであるが、異なる試験片を取り付けた場合は、左隔室及び右隔室それぞれの湿度変化が示される。
【0033】
そして、ウチダ(株)製プラニングメータ等のソフトウエアを用いて求めた、加湿した時の中央隔室の湿度の積分値とセルロース系繊維からなる衣料用布帛で分離している左右の隔室の平均した積分値の比を算出する。
【0034】
20℃90%の一定条件に加湿した湿度を送る時、セルロース系繊維からなる衣料用布帛で中央の隔室と左右の隔室に分離すると、該セルロース系繊維の吸湿レベルが高い場合、中央の湿度が低くなることがある。
【0035】
したがって、左右の隔室の相対湿度の積分値のみを測定するだけでなく、中央隔室の相対湿度の積分値比を算出することによって、該試料の適正な比較ができる。
【0036】
以上のような本発明の特性は、セルロース系繊維を含むスパン糸によって布帛を構成することにより達成することができる。
【0037】
以下に、本発明に用いるスパン糸について説明する。
【0038】
本発明に用いる少なくともスパン糸はセルロース系繊維を含むものである。
【0039】
本発明で用いるセルロース系繊維としては、特に竹繊維からなるものが好ましい。竹繊維は天然に生育する竹あるいは栽培された竹を原料とし、これら繊維束として取り出したものあるいは、ビスコース法により製造された再生繊維を主成分とする繊維である。竹は吸湿性が他の原料に比べ最も高く、竹繊維は本発明を構成する繊維として最も適している。なお、竹の原産地はアジアを中心に世界各地に広がっているが、特に中国の竹が好ましく使用される。
【0040】
竹繊維の単繊維繊度は、好ましくは3.3dtex以下、より好ましくは1.1dtexから2.5dtexであり、繊維長は38mm以上のものが好ましく、51mm以上がより好ましい。断面形状はとくに限定されない。
【0041】
さらに、本発明で用いるスパン糸はセルロース系繊維の他、動物性繊維を含むことが好ましい。
【0042】
本発明に用いられる動物性繊維としては、吸湿性が高い動物性繊維を用いる。特に、動物性繊維としては、羊毛、カシミヤ、アルパカ、モヘア、アンゴラ、絹などがよい。
【0043】
さらに本発明に用いられるスパン糸は合成繊維を含むことできる。本発明に用いられる合成繊維としては、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維およびポリアミド系繊維から選ばれた少なくとも1種の合成繊維が好ましく使用される。たとえば、アクリル系繊維としては、ポリアクリロニトリルが好ましく用いられる。さらには、ポリエステル系繊維としては、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを使用することができる。また、ポリアミド系繊維としては、ナイロン6やナイロン66が好ましく用いられるが、これらに限定されるものではなく、さらに、丸断面あるいは偏平、3〜8葉、C型、H型、中空型などの異型断面であってもよい。
【0044】
これら合成繊維は単繊維繊度が1.1dtex〜2.5dtex、繊維長が38mm以上のものが好ましい。
【0045】
なお、本発明におけるスパン糸の動物性繊維とセルロース系繊維の重量構成比率は、ルロース系繊維が少なくとも50%以上からなることが好ましい。
【0046】
動物性繊維の公定水分率は非常に高く、さらに、セルロース系繊維として特に好ましくに用いられる竹繊維の公定水分率も非常に高い。公定水分率が高い繊維を用いることで吸湿発熱性の効果が発揮されるのである。しかしながら、動物性繊維単体では、熱伝導率が低く、蒸れやすい。また、竹を主としたセルロース系繊維単体では、吸湿発熱による温度上昇は高いものの、熱伝導率が高く除湿放熱性も高く寒さを感じてしまうことになる。
【0047】
該スパン糸の動物性繊維とセルロース系繊維の重量構成比率が少なくとも50%以上であれば、これら吸湿発熱性が高く、また除湿放熱が低く抑えることができそれぞれの効果が最もよく発揮され好ましいものである。該スパン糸の動物性繊維とセルロース系繊維の構成比率が少なくとも60%であればより好ましい。
【0048】
さらに合成繊維を含む場合の好ましい重量構成比率は、合成繊維がスパン糸全体の30%以下であることが好ましい。
【0049】
本発明の布帛の吸放湿性(ΔMR)は4.0以上が好ましい。通常の綿100%使いの編織物では4.0%程度であり、合繊100%使いの編織物では1.0%を超えることはまずない。本発明においては、少なくとも綿の吸放湿性(ΔMR)よりも高い、すなわちΔMRが4.0%以上あれば好ましい。このΔMRとは、外気温度の上昇や運動などで体温が上がったとき、衣服内に溜まった水蒸気を除湿し、さらに外に放出するという、蒸れにくく爽やかな機能性を指数化したものである。
【0050】
ΔMRは、布帛の絶乾時の重量と、恒温恒湿糟(例えば、型式HL−20(NAGANO SCIENCE製))の中に布帛を20度65%RHおよび30度90%RHの雰囲気下24時間放置した後の重量との重量変化から求めたものである。すなわち、
吸湿率(MR)(%)=(吸湿後の重量−絶乾時の重量)/絶乾時の重量×100
である。
上記測定した20℃65%RHおよび30℃90%RHの条件での吸湿率(それぞれMR1およびMR2とする)から、吸湿率差ΔMR(%)=MR2−MR1を求める。
ここで吸湿率差ΔMRは衣服着用時の衣服内の湿度を外気に放出することにより快適性を得るためのドライビングフォースであり、軽から中作業あるいは軽から中運動を行った時の30℃90%RHに代表される衣服内温度と20℃65%RHに代表される外気温室度における温度差である。ΔMRは大きい程吸湿性が高く着用時の快適性が良好であることに対応する。
【0051】
これらの繊維からスパン糸を製造する方法は特に限定されず、公知のスパン糸の製造方法を採用することができる。この際の撚数(撚り係数)や、撚り方向等は目的に応じて適宜設定すればよい。
【0052】
また、本発明の布帛は、上記セルロース系繊維のスパン糸からなる布帛であれば、織物、編物あるいは不織布等のいずれの形態を有するものであってもよい。本発明の目的を損なわない範囲で、他の紡績糸やフィラメントと交織、交編することも可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
<評価方法>
実施例中での測定方法は次の方法に従った。
【0055】
[吸湿発熱による温度上昇および除湿放熱による下降温度変化]
各実施例・比較例において得られた織物または編物について次の方法により求めた。
測定装置(水分移動に伴う発熱・吸熱性の評価装置)
水分移動に伴う発熱・吸熱性の評価装置は財団法人日本化学繊維検査協会保有の装置を使用した。この装置は、中央隔室に加湿した空気や除湿した空気を流入させることにより、試料への水分移動をコントロールできるものである。
【0056】
なお、この装置の詳細は特開平2003−337111号公報に記載の通りである。
【0057】
すなわち、吸湿発熱、除湿放熱特性を測定する手順は以下の通りである。
【0058】
本装置では、吸湿発熱過程と除湿放熱過程が連続的に観察できるものである。中央および左右の隔室に所望の試料を挟み込み、布帛表面の温度が安定するまで30分放置する。中央隔室へ水でバブリングした加湿空気を30分間送り込む。この時の加湿空気は90%RHとなる。その後、中央隔室の加湿空気を止める。次に、シリカゲルを通過させた空気(10%RH)を30分間流し、試験片を乾燥させる。試験片の表面に取り付けられた熱電対(温度計)によって表面の温度を測定する。その時、同時にそれぞれの隔室の湿度も測定していく。なお、測定環境は室温20℃65%の一定条件である。
上記のようにして、測定した温度変化の結果を図2に示す。さらに、湿度変化の測定結果については図3に示す。
【0059】
[吸湿発熱仕事量および除湿放熱仕事量]
布帛表面の温度が安定するまで30分放置した後、20℃90%RHの加湿空気を送り布帛表面の温度が上昇し、ピークになった時点の温度を読む(図2のB)。上昇のピークになった点の温度(図2のB)から、布帛表面の温度が安定するまで30分放置した後の試験開始時点(図2のA)、を引いた差温度を吸湿発熱による上昇温度とする。
【0060】
その後、加湿空気を止め、シリカゲルを通過させた20℃10%RHの乾燥した空気を送付する。布帛表面の温度が下降し、ピークになった時の温度を読む(図2のE)。下降のピークになった時点(図2のE)から、布帛表面の温度が安定するまで30分放置した後の試験開始時点(図2のA)を引いた差温度を除湿放熱による下降温度とする。
【0061】
20℃90%RHの加湿空気を30分送り続けた後の、吸湿発熱仕事量(図のA、B、C、Dで囲った部分)と、20℃×10%RHの乾燥した空気を30分間送付した除湿放熱仕事量(図2のD、E、F、Gで囲った部分)を求める。
【0062】
ウチダ(株)製プラニングメータを用いて、吸湿発熱した時のエネルギー、すなわち図2のA、B、C、Dで囲んだ面積を測定し、除湿放熱時のエネルギー、図2のD、E、F、Gで囲んだ各面積を測定する。30分間で1℃昇温させることができるエネルギーを1とした時の各吸湿発熱仕事量(℃・min)および除湿放熱仕事量(℃・min)を算出して求める。
【0063】
[相対湿度積分値比]
温度変化と同時に測定した中央隔室および左右の隔室の相対湿度の積分値を求める。
【0064】
20℃90%の加湿した時の中央隔室の湿度変化を図3a、b、c、dに、セルロース系繊維からなる衣料用布帛で分離している左右の隔室の湿度をa、c’、dに示す。
【0065】
ウチダ(株)製プラニングメータを用いて求めた、加湿した時の中央隔室の湿度の積分値とセルロース系繊維からなる衣料用布帛で分離している左右の隔室の平均積分値の比を算出する。
【0066】
[吸放湿性(ΔMR)]
評価する布帛の絶乾時の重量し、次に、恒温恒湿糟:型式HL−20(NAGANO SCIENCE(製))を使用して、布帛を20度65%RHおよび30度90%RHの雰囲気下に24時間放置した。その後のそれぞれ重量を測定し、絶乾時重量との重量変化から求めた。すなわち、
吸湿率(MR)(%)=(吸湿後の重量−絶乾時の重量)/絶乾時の重量×100
である。
【0067】
上記測定した20℃65%RHおよび30℃90%RHの条件での吸湿率(それぞれMR1およびMR2とする)から、吸湿率差ΔMR(%)=MR2−MR1を求めた。
実施例1
中国産の竹を原料とするセルロース系繊維(単繊維繊度1.4dtex、繊維長38mm)50%重量、ウール番手が64番手の動物性繊維であるウール(羊毛)が30%重量、ポリエチレンテレフタレート繊維(単繊維繊度1.4dtex、繊維長38mm)が20%重量を用い、通常の紡糸工程により紡績し、48番手のスパン糸を得た。撚り係数は3.3である。
【0068】
このスパン糸を単糸使いで経糸と緯糸に用いて通常の方法で製織し、経糸密度96本/インチ、緯糸密度56本/インチ、目付140g/cm2、厚さ0.36mm、の平織物を得た。
【0069】
得られた布帛の20℃90%RHでの吸湿発熱による上昇温度が3.1℃でその後30分も温度低下が比較的緩やかで、20℃10%RHで除湿した時の下降温度が1.6℃、20℃90%RHで30分経過した時の吸湿発熱仕事量と20℃10%RHで30分経過した時の除湿放熱仕事量との比が2.04と、除湿後の温度低下低も少なく暖かさを維持できるものであった。さらに水分移動に伴う発熱・吸熱性の評価装置における中央隔室の相対湿度積分値と左右隔室の平均相対湿度積分値比が0.48で蒸れにくく、吸放湿性(ΔMR)も7.2%と非常に良好であった。
【0070】
実施例2
中国産の竹を原料とするセルロース系繊維(単繊維繊度1.4dtex、繊維長38mm)30%重量、ウール番手が64番手の動物性繊維であるウール(羊毛)が30%重量、ポリエチレンテレフタレート繊維(単繊維繊度1.4dtex、繊維長38mm)が40%重量を用い、通常の紡績工程により紡績し、48番手のスパン糸を得た。撚り係数は3.3である。
【0071】
このスパン糸を単糸使いで経糸と緯糸に用いて通常の方法で製織し、経糸密度96本/インチ、緯糸密度56本/インチ、目付139g/cm2、厚さ0.37mm、の平織物を得た。
【0072】
同様に得られた布帛の20℃90%RHでの吸湿発熱による上昇温度が3.1℃、20℃10%RHで除湿した時の下降温度が1.8℃、20℃90%RHで30分経過した時の吸湿発熱仕事量と20℃10%RHで30分経過した時の除湿放熱仕事量との比が2.03で暖かさを維持できて、吸放湿性でも中央隔室の相対湿度積分値と左右隔室の平均相対湿度積分値比が0.48で蒸れにくく、吸放湿性(ΔMR)が5.47%と良好であった。
【0073】
比較例1
ウール番手が64番手の動物性繊維であるウール(羊毛)が30%重量、ポリエチレンテレフタレート繊維(単繊維繊度1.4dtex、繊維長が38mm)70%重量を用い、通常の紡糸工程により紡績し、48番手のスパン糸を得た。撚り係数は3.3である。
【0074】
このスパン糸を単糸使いで経糸と緯糸に用いて通常の方法で製織し、経糸密度94本/インチ、緯糸密度55本/インチ、目付134g/cm2、厚さ0.37mm、の平織物を得た。
【0075】
比較の布帛は、20℃90%RHでの吸湿発熱による上昇温度が2.3℃と低く、20℃10%RHで除湿した時の下降温度が2.3℃、20℃90%RHで30分経過した時の吸湿発熱仕事量と20℃10%RHで30分経過した時の除湿放熱仕事量との比が1.72で時間と共に温度低下が顕著に見られ、保温性の効果が低かった。
【0076】
また、吸放湿性でも中央隔室の相対湿度積分値と左右隔室の平均相対湿度積分値比が0.63、吸放湿性(ΔMR)が2.6%と蒸れやすくいものであった。
【0077】
実施例1〜2及び比較例1の評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】水分移動に伴う発熱・吸湿性評価装置の概略図。
【図2】吸湿発熱仕事量および除湿放熱仕事量の求め方を示すグラフ。
【図3】中央隔室および左右の隔室の相対湿度の積分値の求め方を示すグラフ。
【図4】実施例1の温度変化を示すグラフ。
【図5】実施例1の湿度変化を示すグラフ。
【図6】比較例1の温度変化を示すグラフ。
【図7】比較例1の湿度変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0080】
1:反応容器
2:中央隔室
3:左隔室
4:右隔室
5、6:試験片
7:温湿度計
8:フィルムタイプの温度計もしくは熱電対(試験片に密着)
9:調温加湿空気供給器
10、11:調温調湿空気供給器
12:供給ポンプ
13:温湿度測定・記録計(パソコン)
14:切り替え器(切り替えコック)
15:水(加湿材)
16:シリカゲル(調湿材)
A、D、G:試験開始時温度
B:上昇時ピーク温度
C:20℃90%RHの加湿空気送風30分後の温度
E:下降時ピーク温度
F:20℃10%RHの乾燥空気送風30分後の温度
a、d:試験開始時の相対湿度
b:中央隔室の相対湿度の変曲点
c:中央隔室の30分後の相対湿度
c’: 左右隔室の30分後の相対湿度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維のスパン糸からなる厚さ0.3mm以上の衣料用布帛であって、20℃90%RHでの吸湿発熱による上昇温度が2.5℃以上であり、20℃10%RHで除湿した時の下降温度が2.0℃以内にあり、かつ20℃90%RHで30分経過した時の吸湿発熱仕事量と20℃10%RHで30分経過した時の除湿放熱仕事量との比が2.0以上であることを特徴とする保温性布帛。
【請求項2】
セルロース系繊維のスパン糸からなる衣料用布帛であって、20℃90%RHで30分経過した時の水分移動に伴う発熱・吸熱性の評価装置における中央隔室の相対湿度積分値と左右隔室の平均相対湿度積分値比が0.4以上0.6以下であることを特徴とする保温性布帛。
【請求項3】
前記セルロース系繊維が竹繊維を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の保温性布帛。
【請求項4】
前記スパン糸が、少なくとも1種類の動物性繊維と、前記セルロース系繊維および合成繊維から構成されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の保温性布帛。
【請求項5】
前記スパン糸における動物性繊維とセルロース系繊維との構成比率の合計がスパン糸全体の少なくとも50%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の保温性布帛。
【請求項6】
吸放湿性(ΔMR)が4.0以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の保温性布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−1584(P2010−1584A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161345(P2008−161345)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】