説明

信号伝送路

【課題】 信号伝送路の変動を検出する回路などを追加することなく、コストアップを最小限に止めて、信号伝送路の特性インピーダンス補正を可能とする。
【解決手段】 誘電体の中に導体箔の信号線及びGND線が形成されて筐体に設置された場合に静電結合の影響を受ける信号伝送路において、導体箔を筐体に設置する場合は、信号伝送路の送信端と受信端の間で一定に構成した場合よりも、アイパターンにおける規定のマスクからのマージンが大きくなるように導体箔の形状を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的なFFCやインピーダンス整合されたフレキケーブル等で接続される信号伝送路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1に示す(A)はストリップライン構造の信号伝送路の断面図である。また、図1に示す(B)はコプレーナ構造の信号伝送路の断面図である。信号伝送路は、誘電体101、導体箔(信号線)102、導体箔(GND)103で形成される。ここで、ストリップライン構造は、図1に示す(A)のように、表裏面に導体箔(GND)103を形成した誘電体101内部に線状の導体箔(信号線)102を形成した構造である。これに対して、コプレーナ構造は、図1に示す(B)のように、誘電体101内部に線状の導体箔(信号線)102、線状の導体箔(GND)103を形成した構造である。
【0003】
図2はそれぞれの構造で2本の信号伝送路が近接した状態を示す図である。図2に示す(A)はストリップライン構造の場合であり、図2に示す(B)はコプレーナ構造の信号伝送路の場合である。図2において、符号111は導体間の静電結合、符号112は近接する信号伝送路間の間隔を示す。図2に示す(A)のように、ストリップライン構造の信号伝送路の場合、信号線102の静電結合111は上下の導体箔(GND)103の面により1本の信号伝送路内部で閉じており、近接した2本の信号伝送路の間で互いに影響を及ぼさない。しかし、図2に示す(B)のように、コプレーナ構造の信号伝送路の場合、信号線102の上下に導体箔(GND)103がない。そのため、静電結合111は1本の信号伝送路の内部では閉じず、2本の信号伝送路が近接した場合、信号線の静電結合は互いに影響を及ぼす。
【0004】
信号伝送路の特性インピーダンスZoは、以下の(1)式により求められる。ここで、Lは単位長当たりのインダクタンス、Cは単位長当たりのキャパシタンスである。
【0005】
【数1】

【0006】
近接する信号伝送路間の間隔112が変化すれば、導体間の距離の変化により静電結合(C成分)は変化し、信号伝送路の特性インピーダンスに変化が生じる。即ち、信号伝送路同士が近づけば、近接する導体間の静電結合が強まり、特性インピーダンスは減少する。反対に、信号伝送路同士が遠ざかれば、近接する導体間の静電結合は弱まり、特性インピーダンスは増加する。
【0007】
信号伝送において、伝送路と入出力間でのインピーダンス整合は重要であり、インピーダンス整合がとれないと、伝送路中で信号波形が劣化し、信頼性の高い通信を行うことができなくなる。つまり、特性インピーダンスが変化する信号伝送路では、インピーダンス整合をとることは難しい。
【0008】
機器内信号伝送路では、複雑な筐体形状での信号伝送や伝送路を可動させるなどの様々な用途で使用される。そのため、伝送線路の柔らかさを保ったまま特性インピーダンスの整合を取りたいという要求がある。本発明は、このような問題を解決するためになされたものである。
【0009】
従来、信号伝送路の特性インピーダンスの変化に対して、巻き付け構造になった伝送路においては、ケーブルの導体を傾斜して配線することにより、近接する導体同士がシフトした位置で重なり合い、導体間の静電結合を低減させる方法が開示されている。例えば、特許文献1参照。
【0010】
また、伝送線路に要求される特性インピーダンスとは異なる特性インピーダンスの線路接続用コネクタがネットワーク線路網上に存在する場合、ネットワーク伝送線路網全体の伝送特性の劣化を防ぐ技術もある。例えば、特許文献2には、線路接続用コネクタの接続ピン付近の伝送線路パターン幅を、接続ピンに向かうに従って漸次的に変化させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−100708号公報
【特許文献2】特開2001−313504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術では、導体を傾斜して配索する分、余分なケーブル幅が必要となるため、複数の信号を伝送する際には小型化の面で不向きであった。また巻き付け構造以外の特性インピーダンス変動に対しては適用ができなかった。更に、特許文献2に開示された技術では、二者間のインピーダンス差分が大きい場合、信号品質の劣化はさけられない。
【0013】
また、上述の特許文献1、2では、図2と共に背景技術で説明した機器の配線状態により部分的に特性インピーダンスが変化する課題に対しての対策がなされていない。
【0014】
本発明は、信号伝送路の変動を検出する回路などを追加することなく、コストアップを最小限に止めて、信号伝送路の特性インピーダンス補正を可能にした信号伝送線路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、誘電体の中に導体箔の信号線及びGNDが形成されて筐体に設置された場合に静電結合の影響を受ける信号伝送路であって、
前記導体箔を前記筐体に設置する場合は、前記信号伝送路の送信端と受信端の間で一定に構成した場合よりも、アイパターンにおける規定のマスクからのマージンが大きくなるように前記導体箔の形状を構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、機器内の配線状態に応じて、コストアップなくインピーダンス不整合による信号波形の劣化や、ノイズの発生を低減した信号伝送路を提供することができる。従って、ノイズの発生を低減したことにより、機器外部への発生ノイズが低下し、EMI対策が容易になる。また、ケーブルの柔軟性を損なわず、新規のメカ構造を必要としないため、適用が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)はストリップライン構造の信号伝送路の断面図、(B)はコプレーナ構造の信号伝送路の断面図。
【図2】2本の信号伝送路が近接した状態を示す図。
【図3】(A)は第1の実施形態における信号伝送路の構成を示す図、(B)は筐体近接部を簡略化した図。
【図4】(A)は従来型の一定線幅による信号伝送路での特性インピーダンスを示す図、信号伝送路の全ての部分で一定となる特性インピーダンスを示す図。
【図5】従来型の一定線幅による信号伝送路を示す図。
【図6】第1の実施形態における特性インピーダンスの部分変化を施した構造例を示す図。
【図7】マイクロストリップライン構造を示す図。
【図8】誘電体厚みHを変化させたときの特性インピーダンスを示す図。
【図9】(A)は従来の信号伝送路(図5)のアイパターンを示す図、(B)は第1の実施形態における信号伝送路を使用した際のアイパターン改善結果を示す図。
【図10】(A)は第1の実施形態の変形例1を示す図、(B)は第1の実施形態の変形例2を示す図。
【図11】第1の実施形態の変形例3を示す図。
【図12】(A)はネットワークカメラの外形とその内部の機器内信号伝送路を示す図、(B)はネットワークカメラ内の信号伝送路を5つの領域に分けた図。
【図13】(A)は従来のコプレーナ構造のフレキケーブル(図5)を用いた際の各ポイントでの特性インピーダンスを示す図、(B)は第2の実施形態による信号伝送路の特性インピーダンスの改善結果を示す図。
【図14】第2の実施形態における特性インピーダンスの部分変化を施した構造例を示す図。
【図15】パン機能及びチルト機能を有するネットワークカメラの構造例を示す図。
【図16】(A)は回転部が固定部を軸に左回りに回転した状態、(B)は逆に右回りに回転した状態を示す図。
【図17】(A)はチルト回転部での特性インピーダンスの変動を示す図、(B)は目標としている特性インピーダンスの値に対して最も変動が少なくなるように補正する図。
【図18】第3の実施形態における信号伝送路の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら発明を実施するための形態について詳細に説明する。まず、本発明に係る第1の実施形態として近接する筐体に対して特性インピーダンスを補正する方法を説明する。
【0019】
図3に示す(A)は、第1の実施形態における信号伝送路の構成を示す図である。基板301と基板302とは信号伝送路303によって接続され、信号の伝達を行っている。信号伝送路303は、図1に示す(B)のようなコプレーナ構造のフレキケーブルを筐体に組み込んだものである。信号伝送路303の付近に筐体(GND)304が配置されている。また、信号伝送路303は、一部が筐体304に近接している。信号伝送路303において、基板301のコネクタから筐体近接部分前までを領域311、筐体近接部分を領域312、筐体近接部分通過後から基板302のコネクタまでを領域313として定義する。
【0020】
図4に示す(A)は、図5に示す従来型の一定線幅による信号伝送路での特性インピーダンスを示す図である。図3に示す(A)の領域311〜313での特性インピーダンスは、図4に示す(A)のように伝送路位置によって異なる。領域311と領域313との特性インピーダンスは自由空間とほぼ同様の値である。これは、信号伝送路付近に影響を与えるものが存在していないためである。しかし、領域312での特性インピーダンスは値が小さくなっている。これは、信号伝送路303の信号線の上下、又はそのどちらかにGND面が近接したことにより、静電結合が増大したためであり、特性インピーダンスが変動している。
【0021】
図6は、第1の実施形態における特性インピーダンスの部分変化を施した構造例を示す図である。図6に示す構造例はフレキケーブルの上面図であり、フレキケーブルは誘電体101、導体箔(信号線)102、導体箔(GND)103で形成される。ここで図6に示す信号伝送路部分611〜613は、図3に示す(A)の領域311〜313に対応し、信号線の導体幅を変化させている。領域312の筐体近接部分に関しては近接する導体間の静電結合が強まり、特性インピーダンスは減少する。この特性インピーダンスが減少する分を、予め特性インピーダンスを高く設定することで補正を行う。即ち、図6に示す信号伝送路部分612の信号線幅を細くすることで補正する。尚、信号伝送路部分611、613に関しては特性インピーダンスが自由空間上とほぼ同等のため、フレキケーブルの配線幅は変化させない。
【0022】
図6に示す構造により、信号伝送路部分611〜613の特性インピーダンスは、図4に示す(B)のように、信号伝送路の全ての部分で一定となる。即ち、図6の信号伝送路使用時の特性インピーダンスと従来の信号伝送路使用時の特性インピーダンスとは同様の値となる。そして、信号伝送路部分612の特性インピーダンスの変動が従来信号伝送路使用時の特性インピーダンス(図4に示す(A))に対して軽減され、信号伝送路の特性インピーダンスが一定になる。ここでは、特性インピーダンスが一定になるようにした。しかし、筐体に設置された場合の静電結合による特性インピーダンスの減少が50%以上低減されるように信号線幅を細くすれば、インピーダンス不整合による信号劣化を十分に軽減することができる。
【0023】
次に、補正に関する具体的な算出式を説明する。まず、通常コプレーナ構造のフラットケーブルの特性インピーダンスは以下の(2)式によって求められる。εe は実効比誘電率、εr は媒質の比誘電率、Vは媒質の空気比率である。Pは導体中心間距離ピッチ、dは丸型導体外形(平型導体の場合相当円の直径を用いる)である。
【0024】
【数2】

【0025】
上記(2)式に示すように、誘電体、導体外形が決まってしまえば、導体間ピッチPによって特性インピーダンスZoが決まる。また、逆に言えば、導体間ピッチPが変わった場合、導体外形dを変化させることで特性インピーダンスの補正が可能である。
【0026】
従来、単体の信号伝送路の特性インピーダンスはケーブルの構造のみにより決定されるものであった。しかし、これでは信号伝送路を筐体(GND)に組み込む際に、その特性インピーダンスの変動が大きくなってしまう。
【0027】
信号伝送路に筐体(GND)が近接した際の特性インピーダンスは、擬似的なマイクロストリップライン構造として扱うことで近似値を算出することができる。図7に示すように、マイクロストリップライン構造とは、裏面に導体(GND)103を形成した誘電体101の表面上に線状の導体102を形成した構造を持つものである。図3に示す(B)のように、ストリップライン構造の内部導体から表面の導体(GND)103を取り除いた構造に相当する。
【0028】
図3に示す(B)は、筐体近接部を簡略化した図であり、コプレーナ構造の信号伝送路の付近に筐体面(GND)が近接しているというものであることがわかる。この信号伝送路の特性インピーダンスは、コプレーナ構造の信号伝送路でありながら、筐体近接部領域312に関してはマイクロストリップラインとして特性インピーダンスを算出する。このマイクロストリップラインとして、特性インピーダンスを計算する式を以下の(4)式に示す。ここで、Hは誘電体厚み、Tは導体厚み、Wは導体幅である。
【0029】
【数3】

【0030】
上記(4)式に示すように、誘電体の厚みHに応じて特性インピーダンスは変化する。即ち、誘電体の厚みが広がるほど特性インピーダンスは上昇する。また、導体幅に応じて特性インピーダンスのカーブが異なる。導体幅が広くなると特性インピーダンスが低下し、狭くなると特性インピーダンスが上昇する。
【0031】
図8に、上記(4)式の誘電体厚みHを変化させたときの特性インピーダンスを示す。X軸は誘電体の厚み、Y軸は特性インピーダンスを示している。導体幅W=0.3mm、0.5mm、1.0mmとし、導体厚みTは固定値とする。図8より誘電体の厚みHが小さくなるにつれ(筐体部が近づく)、特性インピーダンスが低下していることがわかる。そこで、第1の実施形態では、近接する筐体(GND)との距離が狭くなる部分での特性インピーダンス低下を防ぐため、導体幅Wを狭くし、補正を行っている。
【0032】
図3に示す領域311、313においては、特性インピーダンスの変動がなく安定しているため、従来のコプレーナ構造として特性インピーダンスを決定する。これに対して、領域312においては、コプレーナ構造でなく、マイクロストリップとして近似し、特性インピーダンスを決定する。即ち、筐体組み込み時に安定した特性インピーダンスとなるように、筐体組み込み時の変動分を想定し、特性インピーダンスを決定する。これにより、特性インピーダンスの変動を減少させ、信号伝送信号の劣化を抑えることにより、高速な信号を安定して信号伝送することが可能になる。
【0033】
図9に示す(B)は、第1の実施形態における信号伝送路を使用した際のアイパターン改善結果を示す図である。図9に示す(A)は従来の信号伝送路(図5)のアイパターンである。図3に示す基板301を送信端として、信号伝送路303を通過して基板302を受信端としている。図9に示す(A)及び(B)は、受信端でのアイパターンを示す図である。尚、アイパターンはアイダイアグラムとも言うが、以下ではアイパターンとして説明する。
【0034】
アイパターンとは、実際の信号サンプルを多数重ね合わせて信号の特徴をグラフィカルに提示したものである。波形が同じ位置(タイミング、電圧)で複数重なっていれば品質の良い波形であり、波形の位置(タイミング、電圧)がずれている場合品質の悪い波形と言える。図9に示す長方形はアイパターンの規定マスク901である。信号波形がマスク901に接触、或いは通過した場合、信号遷移の情報が正しく伝えられない可能性がでてくる。通常、アイパターンの評価では、このマスク901を閾値として、信号品質を判断する。一例としては、マスク901内に信号波形が入らなければ波形品質はOKであり、マスク901内に信号波形が通過するような場合、波形品質はNGということができる。マスク901内に信号波形が通過するような場合、波形品質はNGであるが、伝送信号の劣化を改善することができる。ちなみに、第1の実施形態では、マスク901を長方形で示しているが、このマスク規定は受信端のICの性能によって決定されるため長方形とは限らない。
【0035】
このように、特性インピーダンスの変動を低減させたことで、信号伝送路の信号の劣化を抑えることができ、波形を安定させることができる。また、アイパターンにおける規定マスク901からのマージンを大きくすることができる。
【0036】
上述の特性インピーダンスの補正方法として線幅を制御する場合、図6に示す例では、導体102の中心部から線幅を決定しているが、このような中心部への狭線化だけでなく、図10に示すような形態も実施可能である。図10に示す(A)は、第1の実施形態の変形例1である。図6と同様に、フレキケーブルの上面図であり、導体102は信号伝送路部分612では下側に配置されている。尚、上側に配置することも可能である。図10に示す(B)は、第1の実施形態の変形例2である。図6と同様に、フレキケーブルの上面図であり、導体102は信号伝送路部分612では下側から上側に向かって斜めに配置されている。
【0037】
以上の説明では、導体箔の形状を変化させることにより特性インピーダンスを変化させるべく、フラット配線材による信号伝送路において導体幅を変化させている。このように、線幅を制御する際の導体102の配置は、中心に限らずとも同様の効果がある。但し、導体間の距離でも特性インピーダンスが変化するため、導体間の幅もそれに適したものに変更する必要がある。これは、導体外形dと導体中心間距離ピッチPとの比によって特性インピーダンスが決定されるためである。
【0038】
また、特性インピーダンスを補正する手法は上述の形態に限るものではなく、信号伝送路の領域毎に、誘電体厚みの変更、導体厚みの変更、信号線の間隔変化、GND面の配置変更をすることによっても同様の効果を期待することができる。
【0039】
導体幅の変化以外の具体例に関して一例を示す。図11は、第1の実施形態の変形例3を示す図である。即ち、導体箔の形状を変化させることにより特性インピーダンスを変化させるべく、フラット配線材による信号伝送路において導体間の間隔を変化させても良い。信号線の幅を変化させるのでなく、信号線との間隔を変化させることにより特性インピーダンスの補正を行うことができる。
【0040】
第1の実施形態によれば、信号伝送路の特性インピーダンスの変動を抑えることができ、信号伝送信号の劣化を抑え、信号を安定して信号伝送することが可能となる。
【0041】
[第2の実施形態]
次に、図面を参照しながら本発明に係る第2の実施形態を詳細に説明する。第2の実施形態では、可動する信号伝送路の特性インピーダンス補正について説明する。
【0042】
図12は、カメラヘッドが水平方向(PAN)、垂直方向(TILT)に回転する機能を有し、カメラヘッドとボトムケース間で信号伝送を行うネットワークカメラの内部信号伝送路の構造を示す図である。図12に示す(A)は、ネットワークカメラの外形とその内部の機器内信号伝送路を示す図である。図12に示す(B)は、ネットワークカメラ内の信号伝送路を5つの領域に分けた図である。また、信号伝送路はFFCやFPCなどのフレキシブルな素材を筐体に組み込んだものである。
【0043】
図12に示す(A)のように、ネットワークカメラは、カメラヘッド1201、ターンテーブル1202、ボトムケース1203、支柱1204、垂直方向の回転軸1205で構成されている。撮像系を含むカメラヘッド1201は、支柱1204の回転軸1205を中心として垂直方向に回転する。支柱1204はターンテーブル1202に固定されている。ボトムケース1203とターンテーブル1202は分離された構造をとり、ターンテーブル1202、支柱1204、カメラヘッド1201が水平方向に回転する。
【0044】
また、信号、電源伝送路などの接点はボトムケース1203に存在する。カメラヘッド1201とボトムケース1203内部にある電気回路は信号伝送路で接続される。カメラヘッド1201にて撮影された映像信号が信号伝送路を介してボトムケース1203内部の基板(図示せず)に伝送される。
【0045】
図12に示す(B)のように、信号伝送路は、回転部であるカメラヘッド1201からボトムケース1203内部の基板(図示せず)に映像信号を伝送する1本の信号伝送路である。便宜上、この信号伝送路を5つの領域1211〜1215に分けて説明する。第1領域1211はカメラヘッド1201から支柱1204の回転軸までの領域とする。第2領域1212は垂直方向の回転部(チルト回転部)とする。第3領域1213は支柱1204との近接部分とする。第4領域1214は水平方向の回転部(パン回転部)とする。第5領域1215はボトムケース1203の内部の領域とする。
【0046】
チルト回転部及びパン回転部では、カメラヘッド1201及びターンテーブル1202が回転するため、回転部と固定部を接続する信号伝送路を回転軸に数回巻き付けを行い、回転時の動きを吸収させている。第2領域1212のチルト回転部、第4領域1214のパン回転部では、信号伝送路を回転軸に数回巻き付けているため、信号伝送路間の間隔がある値以下になり、信号伝送路間の静電結合により特性インピーダンスに影響が生じる。また、第3領域1213では支柱1204に近接して配置されるため、支柱1204の影響を受けて特性インピーダンスが変動する。第1領域1211、第5領域1215は信号伝送路の近くに近接する導体物がないため、自由空間上での特性インピーダンスとほぼ同様の値となる。
【0047】
従来、VGAの映像をパラレルに信号伝送する場合、第2領域1212のチルト回転部、第4領域1214のパン回転部、第3領域1213の筐体近接部での特性インピーダンス変動は大きな問題とならなかった。それは、信号伝送路が筐体や信号伝送路同士で近接した際の静電結合の影響が、VGAの映像信号伝送に必要な周波数(数十MHzまで)において支配的でなかったためである。しかし、SXGA、HDのような多画素な映像の信号伝送やVGAの映像信号を多重化して信号伝送するようになると、信号伝送周波数は100MHzを超え、静電結合による影響が大きな問題となる。
【0048】
【数4】

【0049】
上記(5)式は背景技術にて説明した信号伝送路の特性インピーダンスの(1)式に、信号伝送路の損失を考慮した式である。ここでω=2πfである。映像信号を伝送する周波数fが数十MHz以下の低い周波数帯の場合、上記(5)式により、静電結合C、インダクタンスLよりも抵抗R、Gが特性インピーダンス値を決定するのに支配的なことがわかる。しかし、特性インピーダンスとしては、周波数fが増大するにつれ、静電結合C、インダクタンスLが支配的な要素となってくる。そのため、高周波の信号伝送において今までは問題とならなかった静電結合変化による特性インピーダンスの変動がより顕著となっている。特性インピーダンスが大きく変動すると信号品質に悪影響となり、伝送エラーなどのリスクが増大する。これ以降、特に明示しないが、本発明はこのような高速な信号伝送を行う際の信号伝送路の改善に関するものである。
【0050】
図13に示す(A)は、従来のコプレーナ構造のフレキケーブル(図5)を用いた際の各ポイントでの特性インピーダンスを示す図である。図13に示す(A)のように、特性インピーダンスは、筐体に組み込まれ、その影響を受けて、図12に示す(B)の5つの領域1211〜1215では領域毎に変動している。また、領域毎に、変動幅が異なっている。
【0051】
図14は、第2の実施形態における特性インピーダンスの部分変化を施した構造例を示す図である。この構造例は図6に示す第1の実施形態と同様に、フレキケーブルの上面図であり、誘電体101、導体箔(信号線)102、導体箔(GND)103で形成される。また、パン及びチルトの回転部では、回転時の動きを吸収させるために、信号伝送路を回転軸に数回巻き付けを行っている。そのため、回転部では信号伝送路が重なり合うことになる。第2領域1212のチルト回転部1402に関しては、信号伝送路が重なり合うことにより導体間が近接し、その結果、近接する導体間の静電結合が強まり、特性インピーダンスは減少する。この特性インピーダンスが減少する分を、予め特性インピーダンスを高く設定することにより補正する。即ち、信号伝送路の信号線幅を細くすることで補正する。また、第4領域1214のパン回転部1404に関しても同様である。
【0052】
ここで、パン回転部1404とチルト回転部1402での特性インピーダンスは、信号伝送路間の間隔が異なるため、特性インピーダンスが違う値となる。そこで、パン回転部1404とチルト回転部1402の特性インピーダンスの補正値をそれぞれ変えている。また、第3領域1213の筐体近接部1403に関しては筐体面との近接で特性インピーダンスが減少するので、その補正を行っている。更に、第1領域1211、第5領域1215の部分1401、1405に関しては特性インピーダンスが自由空間上とほぼ同等のため、フレキケーブルの配線幅は変化させない。尚、補正値の具体的な算出式については、第1の実施形態にて記載している方法と同様である。
【0053】
図13に示す(B)は、第2の実施形態による信号伝送路の特性インピーダンスの改善結果を示す図である。図13に示す(B)では、図14に示す信号伝送路を使用することにより第2領域1212、第3領域1213、第4領域1214の特性インピーダンスの変動が従来の信号伝送路を使用した場合より軽減されている。従って、筐体に設置された場合の静電結合による特性インピーダンスの変化が50%以上低減されるように信号線幅を細くすれば、インピーダンス不整合による信号劣化を十分に軽減することができる。
【0054】
このように、コプレーナ構造の信号伝送路が周辺の導体物と近接する領域に対して導体幅を変化させ、特性インピーダンスの変動を抑えるようにしたことにより、信号伝送路での信号の劣化を抑え、高速な信号を安定して伝送することが可能となる。
【0055】
また、信号伝送路が可動する場合、間隔の条件において特性インピーダンスは異なる。図15は、パン機能及びチルト機能を有するネットワークカメラの構造例である。図15では、カメラヘッドが前方1501を向いている位置から水平方向に回転を行ったときの位置として右斜め後方1502、左斜め後方1503を向いた場合を示している。また、カメラヘッドが前方1511を向いている位置から垂直方向の回転軸を軸として垂直方向に回転を行ったときの位置として上方1512、後方1513を向いた場合を示している。つまり、撮像系を含むカメラヘッドは、支柱1204の回転軸を中心として垂直方向に回転するチルト機能を有する。そして、ボトムケース1203とターンテーブル1202は分離された構造をとり、ターンテーブル1202、支柱1204、カメラヘッドが水平方向に回転するパン機能を有する。
【0056】
図16に示す(A)及び(B)は、ネットワークカメラにおける回転部と固定部を接続する信号伝送路の構造例を示す図である。この例では、回転軸に垂直な面で切った断面図である。図16に示す(A)は、回転部1603が固定部1602を軸に左回りに回転した状態であり、図16に示す(B)は逆に右回りに回転した状態である。
【0057】
信号伝送路1605は、FFCやFPCなどのフレキシブルな素材を用いて回転部1603と固定部1602の間を接続し、固定部1602を軸に巻き付けた状態で収容する。図16に示す(A)のように、回転部1603が左回りに回転した場合、信号伝送路1605は巻き緩み、反対に図16に示す(B)のように、右回りに回転した場合、信号伝送路1605は巻き締まる。このように、回転角度に応じて、巻き付け状態(巻き締まり/巻き緩み)が変化する構造にすることで、回転部と固定部の接続を可能にしている。
【0058】
しかし、巻き付け状態(巻き締まり/巻き緩み)の変化により、近接する信号伝送路間の間隔1601、信号伝送路の径1604は変化する。信号伝送路間の間隔が変化すれば、上述した通り、近接する導体同士の静電結合に変化が生じ、信号伝送路の特性インピーダンスは変化してしまう。
【0059】
このような信号伝送路を用いて信号伝送を行った場合、巻き付け状態の変化により特性インピーダンスが変化してしまうため、インピーダンス整合がとれなくなり、信号伝送路中で信号波形が劣化し、信頼性の高い通信を行うことができなくなる。
【0060】
ここで、可動部の特性インピーダンス変動について、チルト回転部1402を例に説明する。尚、パン回転部1404に関してはチルト回転部1402と同様であるため、その説明は割愛する。
【0061】
図17に示す(A)は、チルト回転部での特性インピーダンスの変動を示す図である。信号伝送路の間隔が最も密着する条件(図16の(B))と、最も緩くなる条件(図16の(A))とでは、チルト回転部1402での特性インピーダンスが異なる。間隔が最も密着する条件での特性インピーダンスが二点鎖線で、最も緩くなる条件での特性インピーダンスが一点鎖線である。また、ΔZ0_1は目標とする特性インピーダンスに対しての特性インピーダンスのズレ幅である。また、パン回転部1404での特性インピーダンスは、チルト回転部1402での特性インピーダンスと同様なので図示していない。
【0062】
図17に示す(A)のように、信号伝送路同士の間隔が密着するほど特性インピーダンスは小さくなる。これは導体間の距離が近づくことにより静電結合(C成分)が増大し、信号伝送路の特性インピーダンスに影響を与えているためである。逆に間隔が緩くなっていけば特性インピーダンスは自由空間の値に近づいていく。これは導体間の距離が離れるほどに静電結合(C成分)が減少していくためである。
【0063】
従って、信号伝送路間の間隔の条件によって特性インピーダンスが変動する信号伝送路では、最も密着する条件と最も緩くなる条件の平均値を目標とする特性インピーダンスの値に近づけるように補正する。目標としている特性インピーダンスの値に対して最も変動が少なくなるように設定する。即ち、図17に示す(B)のように、特性インピーダンスを設定する。図17に示す(B)で、間隔が最も密着する条件での特性インピーダンスが二点鎖線で、最も緩くなる条件での特性インピーダンスが一点鎖線である。また、ΔZ0_2は目標とする特性インピーダンスの値に対してチルト回転部1402が最も密着する条件での特性インピーダンスのズレ幅である。また、ΔZ0_3は目標とする特性インピーダンスの値に対してチルト回転部1402が最も緩くなる条件での特性インピーダンスのズレ幅である。
【0064】
ここで、特性インピーダンスの変化率は、
従来例: ΔZ0_1/Z0
本発明: ΔZ0_2/Z0 or ΔZ0_3/Z0
と表すことができる。Z0は目標とする特性インピーダンスの値である。特性インピーダンスの変化率が従来例と比較して本発明のほうが、目標値からの変動が少なくなる。これは、ΔZ0_1>(ΔZ0_2 or ΔZ0_3)のためである。
【0065】
このように、目標となる特性インピーダンスの値からの変動を少なくすることにより、可動型構造の信号伝送路でも、伝送信号の劣化を低減し、信号を安定して伝送することが可能になる。よって、このような信号伝送路を用いることにより、アイパターンにおける規定マスクからのマージンを大きくすることができる。
【0066】
[第3の実施形態]
次に、図面を参照しながら本発明に係る第3の実施形態を詳細に説明する。第3の実施形態では、部分的に誘電体(シート)を巻き付けて特性インピーダンスを補正する方法について説明する。
【0067】
図18は、第3の実施形態における信号伝送路の構成を示す図である。第3の実施形態では、第1の実施形態で説明した図3に示す(A)の構成に、誘電体のシート1801を信号伝送路の筐体近接部分の領域312に巻き付けている。
【0068】
第1の実施形態で説明したように、信号伝送路に従来のコプレーナ構造のフレキケーブルを使用した場合、筐体近接部分の領域312において特性インピーダンスが変動する。第1の実施形態では線幅を部分変化させることで特性インピーダンスを補正した。第3の実施形態では、線幅を変化させるのでなく、誘電体のシート1801を巻き付けることにより特性インピーダンスを補正する。
【0069】
信号伝送路の外面に空気の誘電率と異なる誘電体を巻き付けると、その個所で特性インピーダンスに変化が生じる。これは(4)式に示す通り、誘電率εを小さくすれば、特性インピーダンスが上昇するためである。また、誘電体厚みHを大きくしても特性インピーダンスは上昇する。そこで、誘電体のシート1801を、特性インピーダンスが変動する信号伝送路の領域312に巻き付けて誘電体の誘電率と厚みを変化させることにより特性インピーダンスを部分的に補正する。
【0070】
即ち、第3の実施形態では、導体周囲の誘電体の厚み或いは導体周囲の誘電体の誘電率を変化させるものである。筐体に設置された場合の静電結合による特性インピーダンスの変化が50%以上低減されるように誘電率と厚みを変化させれば、インピーダンス不整合による信号劣化を十分に軽減することができる。
【0071】
これにより、フレキケーブルの配線幅を変更せずに特性インピーダンスを補正することができ、各導電路の電気抵抗値を実質的に同一に設定したまま、インピーダンスの補正を行える。また、信号伝送路の特性インピーダンスの変動を抑えることができ、伝送信号の劣化を抑え、信号を安定して伝送することが可能となる。
【0072】
従って、アイパターンの規定マスクからのマージンを大きくすることができる。また、フレキケーブルに対して信号伝送路の一部領域312に誘電体シート1801を巻き付けたが、本発明はフレキケーブルに限るものではなく、導体線を用いた配線材等においても、同様の効果を得ることができる。
【0073】
尚、筐体や導体に近接した際に変動する特性インピーダンスを補正する方法を説明したが、特性インピーダンスを補正する手法はこれに限るものではない。例えば、信号伝送路の領域毎に誘電体厚みの変更、導体厚みの変更、信号線の間隔変化、GND面の配置変更を行っても同様の効果を得ることができる。
【0074】
また、LVDSなど差動信号の信号伝送路においても適用可能である。また、最も効果の高いコプレーナ構造のフレキケーブルに関して説明したが、マイクロストリップラインの上端にGND面がきた場合も特性インピーダンスは変動するため、本発明を適用可能である。その場合、マイクロストリップラインを筐体近接部のみ擬似的なストリップラインとして特性インピーダンスの近似値を算出し、補正を行えば良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体の中に導体箔の信号線及びGNDが形成されて筐体に設置された場合に静電結合の影響を受ける信号伝送路であって、
前記導体箔を前記筐体に設置する場合は、前記信号伝送路の送信端と受信端の間で一定に構成した場合よりも、アイパターンにおける規定のマスクからのマージンが大きくなるように前記導体箔の形状を構成することを特徴とする信号伝送路。
【請求項2】
前記信号伝送路における一部領域に対して特性インピーダンスを変化させるように前記導体箔の形状を構成することを特徴とする請求項1に記載の信号伝送路。
【請求項3】
前記信号伝送路における一部領域とは、前記信号伝送路のGND又は導体と近接する領域であることを特徴とする請求項2に記載の機器内信号伝送路。
【請求項4】
フラット配線材による信号伝送路において導体幅を変化させることにより特性インピーダンスを変化させるように前記導体箔の形状を構成することを特徴とする請求項1に記載の信号伝送路。
【請求項5】
前記フラット配線材は、巻き込み構造をとる機器の動きに応じて、配線材の距離が変化することを特徴とする請求項4に記載の信号伝送路。
【請求項6】
誘電体の中に導体箔の信号線及びGNDが形成されて筐体に設置された場合に静電結合の影響を受ける信号伝送路であって、
前記導体箔を前記筐体に設置する場合は、前記信号伝送路の送信端と受信端の間で一定に構成した場合よりも、アイパターンにおける規定のマスクからのマージンが大きくなるように前記導体箔の間隔を構成することを特徴とする信号伝送路。
【請求項7】
誘電体の中に導体箔の信号線及びGNDが形成されて筐体に設置された場合に静電結合の影響を受ける信号伝送路であって、
前記導体箔を前記筐体に設置する場合は、前記信号伝送路の送信端と受信端の間で一定に構成した場合よりも、アイパターンにおける規定のマスクからのマージンが大きくなるように前記導体箔の誘電率を変更することを特徴とする信号伝送路。
【請求項8】
誘電体の中に導体箔の信号線及びGNDが形成されて筐体に設置された場合に静電結合の影響を受ける信号伝送路であって、
前記導体箔を前記筐体に設置する場合は、前記信号伝送路の送信端と受信端の間で一定に構成した場合よりも、アイパターンにおける規定のマスクからのマージンが大きくなるように前記導体箔の厚みを構成することを特徴とする信号伝送路。
【請求項9】
前記アイパターンにおける規定のマスクからのマージンは、信号波形のタイミング又は電圧のマージンであることを特徴とする請求項1に記載の信号伝送路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−101327(P2011−101327A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256545(P2009−256545)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)