説明

信号処理装置、信号処理方法

【課題】異なるサンプリング周波数のオーディオ信号に対し、サンプリング周波数に合わせて内部の係数等の変更をする必要のない信号処理装置を提供する。
【解決手段】所定の固定周波数(n・Fso)のノイズキャンセル処理用クロックに基づいたフィルタ処理で、マイクロホンで収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成する。そして非同期のクロックでサンプリングされているデジタルオーディオ信号を、ノイズキャンセル処理用クロックに同期するサンプリング周波数にレート変換したうえで、ノイズキャンセル信号に加算する。すなわちノイズキャンセリングにおけるサンプリングレートに、入力されたオーディオ信号のサンプリング周波数を合わせるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、いわゆるヘッドホンやイヤホンなどの音響再生装置に出力するデジタルオーディオ信号に対する信号処理を行う信号処理装置として、特にデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数によらずにノイズキャンセル処理が可能となる信号処理装置とその方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2002−158619号公報
【特許文献2】特開平07−212190号公報
【特許文献3】特開2008−193421号公報
【特許文献4】特開2009−33309号公報
【特許文献5】特開2011−19209号公報
【背景技術】
【0003】
上記特許文献1、2には、デジタルオーディオ信号のサンプリング周波数を任意のサンプリング周波数に変換する技術が開示されている。
上記特許文献3には、ヘッドホン装置により楽曲などのコンテンツの音声(オーディオ信号)を再生しているときに聴こえてくる外部のノイズをデジタル回路によりキャンセルする技術が開示されている。
【0004】
オーディオ信号は、音楽ソースから、例えばCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体から再生されたり、SPDIF(Sony Philips Digital InterFace)による光ケーブルまたは同軸ケーブルの入力、或いはBluetooth等により無線通信により信号処理装置等に入力される。そして信号処理装置では、例えばオーディオ信号に対してノイズキャンセル処理などを施し、信号処理装置により処理された信号が例えばヘッドホンスピーカ等の音響再生装置に供給され再生等される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの音楽ソースから供給されるオーディオ信号のサンプリング周波数は、32kHz、44.1kHz、48kHz、96kHzなど様々な値が存在する。このため信号処理装置では、多様なサンプリング周波数に対応してオーディオ信号を処理することが必要となる。
例えばサンプリング周波数が異なるオーディオ信号を処理するには各サンプリング周波数毎に信号処理装置内部のフィルタの係数等を変更して対応しなければならない。
【0006】
これでは処理負担も大きく、またフィルタ係数の変更のために一度システムを停止させ、再起動が必要になるなどの場合もある。
また信号処理装置では、多くは受信するオーディオ信号から基準となるクロックを再生し、そのクロックに同期して動作するが、その場合、信号処理装置内でサンプリング周波数の異なるオーディオ信号に対して、サンプリング周波数が変化しても内部係数等の変更の必要のない信号処理装置を実現することは困難であった。
【0007】
本開示はこのような状況に鑑み、異なるサンプリング周波数のオーディオ信号に対し、サンプリング周波数に合わせて内部の係数等の変更をする必要のない信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の信号処理装置は、所定の固定周波数のノイズキャンセル処理用クロックを生成するノイズキャンセル処理用クロック発生部と、上記ノイズキャンセル処理用クロックに基づいて動作し、マイクロホンで収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセリングフィルタ、及び該フィルタで生成した上記ノイズキャンセル信号をデジタルオーディオ信号に重畳する加算部を有するノイズキャンセル部と、入力された、上記ノイズキャンセル処理用クロックとは非同期のクロックでサンプリングされているデジタルオーディオ信号を、上記ノイズキャンセル処理用クロックに同期するサンプリング周波数にレート変換して、上記加算部に供給するデジタルオーディオ信号とするサンプリングレート変換部とを備える。
例えば上記信号処理装置の上記サンプリングレート変換部は、入力されたデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数を上昇させるアップサンプリング部と該アップサンプリング部により上昇させたサンプリング周波数を、上記ノイズキャンセル処理用クロックに基づいた周波数に低下させるダウンサンプリング部とを備える。
【0009】
本開示の信号処理方法は、所定の固定周波数のノイズキャンセル処理用クロックに基づいたフィルタ処理で、マイクロホンで収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成し、入力された、上記ノイズキャンセル処理用クロックとは非同期のクロックでサンプリングされているデジタルオーディオ信号を、上記ノイズキャンセル処理用クロックに同期するサンプリング周波数にレート変換し、上記ノイズキャンセル信号と、上記レート変換されたデジタルオーディオ信号とを加算する。
【0010】
本開示によれば、音楽ソースの違いによりオーディオ信号のサンプリング周波数が相異したとしても、信号処理装置側のノイズキャンセル用クロックの周波数に変換されたうえで、ノイズキャンセル部で処理されるため、ノイズキャンセル部のフィルタ係数等は変更の必要が無い。
【発明の効果】
【0011】
上記のように本開示によれば、入力されたオーディオ信号についてサンプリング周波数が異なる毎に、信号処理装置において内部フィルタ係数の変更や、そのための再起動等は必要なくなり、処理負担の軽減、動作の効率化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ノイズキャンセル動作について具体例を表した図である。
【図2】サンプリング周波数の違いによるフィルタ特性の変化を表した図である。
【図3】第1の実施の形態を説明する図である。
【図4】イコライザを使用する場合についての具体例を表した図である。
【図5】第2の実施の形態を説明する図である。
【図6】第3の実施の形態を説明する図である。
【図7】第3の実施の形態の変形例を説明する図である。
【図8】第4の実施の形態を説明する図である。
【図9】第5の実施の形態を説明する図である。
【図10】第6の実施の形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について以下の順に説明する。

<1.実施の形態に至る具体的事情の説明>
<2.第1の実施の形態>
<3.第2の実施の形態>
<4.第3の実施の形態>
<5.第4の実施の形態>
<6.第5の実施の形態>
<7.第6の実施の形態>
【0014】
<1.実施の形態に至る具体的事情の説明>

まず、実施の形態の説明に先だって、実施の形態の技術に至った具体的事情を説明する。
図1は、ノイズキャンセル動作を行う信号処理装置1の一例を表した図である。
この図に示されるノイズキャンセリングシステムとしての構成はフィードフォワード方式に基づいたものとなっている。ただし、本開示に係る信号処理装置はフィードフォワード方式に限定されるものではない。
フィードフォワード方式は、外部音(ノイズ)を収音した音声信号を得て、この音声信号について適切なフィルタリング処理を施して、キャンセル用音声信号を生成するようにされる。そして、このキャンセル用音声信号を、再生すべき音声信号に合成する。そして、この合成後の音声信号をヘッドホン等から音として出すことにより、外部音を打ち消すようにしてノイズキャンセルを図ろうとするものである。
この図により、各音楽ソースのサンプリング周波数が相異した場合のノイズキャンセリング動作の概要を説明する。
【0015】
図1に示すように、デジタルオーディオ信号の音楽ソースとして、例えばCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)12、SPDIF(Sony Philips Digital InterFace )13、Blue Tooth14による無線通信などが存在する。これらの音楽ソースのサンプリング周波数Fsiは32kHz、44.1kHz、48kHz、96kHzなど様々なものが存在する。
サンプリング周波数のm1(整数)倍のマスタークロック15(mcki)で動作するシステムにより、これら音楽ソースからデジタルオーディオ信号が読み出され、信号処理装置1に入力される。信号処理装置1では、その入力されたデジタルオーディオ信号からマスタークロックを生成し、その生成されたクロックを基準にして(同期して)動作する。
【0016】
信号処理装置1は、アップサンプリング部2、ノイズキャンセリングフィルタ5、加算部4、ダウンサンプリング部6、DA変換部3およびAD変換部7で構成できる。
アップサンプリング部2は、入力されたデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数をより高いサンプリング周波数(n・Fsi)でサンプリングされた信号に変換するものとされる。nは通常4、8、16などである。nを1としていないのは、後段のDA変換部3としてΔΣ型のDA変換器を使用する場合、その入力として4倍程度以上にオーバーサンプリングされた信号を用いられることが多いこと、および、ノイズキャンセル全体の信号処理動作の遅延を防止するためである。
【0017】
ユーザが装着するヘッドホンには、音響再生のための振動板を備えたスピーカ(振動板ユニット)10と、外来ノイズ収音用のマイクロホン11が設けられる。
なお、この図では、L、Rの何れか一方のチャンネルに対応して設けられるスピーカ10及びマイクロホン11が示されている。
【0018】
AD変換部7は、マイクロホン11により収音され、アンプ9により適正レベルに増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換するものである。このAD変換部7は、例えばΔΣ型1ビットAD変換器などとされ、アナログ信号を64・Fsiなど、非常に高いサンプリング周波数のデジタル信号に変換する。
マイクロホン11は、キャンセル対象となるヘッドホン周囲の外部音(外部ノイズ)を収音するためのものである。ここでは、図示していないが、フィードフォワード方式の場合、このマイクロホン11は、実際には、スピーカ10が設けられたL、Rの各チャンネルごとに対応するヘッドホン筐体外部に対して設けるようにされるのが一般的である。
【0019】
ダウンサンプリング部6は、AD変換部7によりサンプリングされたキャンセル対象のデジタル信号のサンプリング周波数をより低いサンプリング周波数でサンプリングされた信号に変換するものである。この場合、アップサンプリング部2で変換された周波数(n・Fsi)に合わせるものである。
ノイズキャンセリングフィルタ5は、ダウンサンプリング部6からの出力が入力され、外部音をキャンセルする作用を持つ音のオーディオ信号(キャンセル用音声信号)を生成し出力する。かかるキャンセル用音声信号として最も簡単なものとしては、例えば、外部音を収音して得た信号に対して逆位相となる信号である。そのうえで、実際にあっては、ノイズキャンセリングシステムの系中における回路、空間などの伝達特性を考慮した特性が与えられるようにされる。
さらに、キャンセル用音声信号はフィルタに通され数kHz以上の不要な信号は除去される。
【0020】
加算部4は、アップサンプリング部2から出力されたデジタルオーディオ信号にノイズキャンセリングフィルタ5から出力されたキャンセル用音声信号を重畳するものである。これにより、デジタルオーディオ信号とキャンセル用音声信号とが合成されたデジタルオーディオ信号が得られる。
この合成されたデジタルオーディオ信号は、DA変換部3に入力され、アナログ信号に変換された後、アンプ8により増幅されスピーカ10により耳で聞く音に再生されることになる。
このようにして再生される音は、音楽ソースの音成分と、キャンセル用音声信号の音成分とが合成されたものとなるが、キャンセル用音声信号の音成分により、外部から耳に到達してくる外部音を打ち消す(キャンセルする)効果を生じることになる。この結果、ヘッドホン装着者が耳で聴く音としては、外部音がキャンセルされて、相対的に音楽ソースの音が強調されたものとなる。
【0021】
以上がノイズキャンセリング動作の概要である。ここで、図1のノイズキャンセリングフィルタ5は、数kHz以上の不要な信号を除去するフィルタ特性を有するが、音楽ソースの種類によりそのデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数が相異すると、それに合わせてフィルタのカットオフ周波数を調整する必要がある。
図2は、音楽ソースのサンプリング周波数の違いによるカットオフ周波数の違いを表した図である。図2Aは、サンプリング周波数が32kHzの場合のフィルタ特性である。この場合、カットオフ周波数は5kHzとなる。
一方、図2Bは、サンプリング周波数が48kHzの場合のフィルタ特性である。この場合、カットオフ周波数は7.5kHzである。
【0022】
このように音楽ソースの種類によりそのデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数が相異すると、ノイズキャンセリングフィルタ5のカットオフ周波数を調整する必要がある。つまり、スピーカ10で聴取するために入力される音楽ソースが変わり、デジタルオーディオ信号のサンプリング周波数Fsiが変化すると、ノイズキャンセリングフィルタ5のフィルタ係数を変更する必要が生ずる。その場合、一度システムを停止させて、ノイズキャンセリングフィルタ5のフィルタ係数を再設定し、再起動させることが必要になる。
【0023】
<2.第1の実施の形態>

本開示の実施の形態では、そのような処理を不要とする。つまりデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数Fsiが変化しても、ノイズキャンセリングフィルタ5のフィルタ係数を変更せずに、適切なノイズキャンセリング処理を実行できることとなる。
【0024】
図3は、第1の実施の形態に係る信号処理装置20について説明するための図である。
以下の説明において、既に説明した部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
本実施の形態に係る信号処理装置20は、信号処理装置20自身がマスタークロック30を持ち、そのマスタークロック30に同期しノイズキャンセル動作をするものである。
このマスタークロック30の周波数は、サンプリング周波数(Fso)のm2(整数)倍の周波数(mcko)を想定している。サンプリング周波数Fsoは32kHz、44.1kHz、48kHz、96kHz等のうち、いずれかの周波数でありFsiとは相異している。
【0025】
図3に示すように、信号処理装置20は、サンプリングレート変換部(SRC)23、ノイズキャンセリングフィルタ27、加算部22、ダウンサンプリング部28、DA変換部21、AD変換部29およびマスタークロック部30で構成できる。
サンプリングレート変換部23は、アップサンプリング部24、ダウンサンプリング部25およびFsi/Fso計測部26により構成できる。
サンプリングレート変換部23は、音楽ソースからの、サンプリング周波数Fsiでサンプリングされたデジタルオーディオ信号を信号処理装置20のマスタークロック30に同期して動作できるサンプリング周波数(n・Fso)でサンプルされたデジタルオーディオ信号に変換するものである。音楽ソースからのデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数はFsiなので、このままでは信号処理装置20のマスタークロックと同期せず、正常動作しないからである。
【0026】
音楽ソースからのデジタルオーディオ信号は、まずアップサンプリング部24により、そのデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数をより高いサンプリング周波数でサンプリングされた信号に変換するものとされる。ここでは256倍程度の変換(256・Fsi)を行う。
つぎにダウンサンプリング部25により、高いサンプリング周波数でサンプリングされた信号に変換されたデジタルオーディオ信号をより低いサンプリング周波数(n・Fso)でサンプリングされた信号に変換する。
【0027】
サンプリングレート変換部23では、特許文献2にあるように、入力サンプリングレートFsiで入力された信号を出力サンプリングレートn・Fsoで再サンプリングするための再サンプリング点の特定にFsi/Fsoの周波数比を用いている。この比はFsi/Fso計測部26により求めることができる。具体的には、Fsoの周期をTsoとすると、N・Tsoの期間をmckiで動作するカウンタで計数することにより求めることができる。ここでNは例えば、N=216(=65536)などであり、この値を大きくとることで、Fsiやmckiに含まれるジッタ成分を平均化・除去しながら、サンプリングレート変換を行うことができる。計数された周波数比を累積加算して、n・Fso再サンプリング点を生成し、そのn・Fso再サンプリング点についての直前・直後の256・Fsiサンプリング信号の生成、およびその直線補間によって、n・Fsoサンプリングレートへの変換を行っている。
これにより、音楽ソースのFsiでサンプリングされたデジタルオーディオ信号がマスタークロック30の下で動作が可能となる。
【0028】
以上のサンプリングレート変換部23の動作は、入力されるオーディオ信号のサンプリング周波数を、ノイズキャンセリング処理で用いるサンプリング周波数(n・Fso)にあわせるように、サンプリングレート変換を行うものとなる。
【0029】
ユーザが装着するヘッドホンには、音響再生のための振動板を備えたスピーカ(振動板ユニット)10と、外来ノイズ収音用のマイクロホン11が設けられる。
AD変換部29は、マイクロホン11により収音され、アンプ9により適正レベルに増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換するものである。AD変換部29は、例えばΔΣ型1ビットAD変換器などとされ、アナログ信号を64・Fsoなど、非常に高いサンプリング周波数のデジタル信号に変換する。
マイクロホン11は、ノイズキャンセル対象となるスピーカ10を有するヘッドホンの周囲の外部音(外部ノイズ)を収音するためのものである。
【0030】
ダウンサンプリング部28は、AD変換部29によりサンプリングされたキャンセル対象のデジタル信号(外部ノイズに相当)を,サンプリング周波数(n・Fso)でサンプリングされた信号に変換するものである。
上述したサンプリングレート変換部23の動作は、このノイズキャンセリング処理のためのサンプリング周波数(n・Fso)に合わせる動作となる。
【0031】
このようにAD変換部29及びダウンサンプリング部28が外部ノイズデジタル化処理を行う。すなわち、マイクロホン11で収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号が、ノイズキャンセル処理用クロックの周波数に同期したデジタル信号に変換され、ノイズキャンセリングフィルタ27に供給される。
【0032】
ノイズキャンセリングフィルタ27は、周波数(m2・Fso)のマスタークロック30から生成されたノイズキャンセル処理用クロック(周波数:n・Fso)に基づいてフィルタ処理を行う。
このノイズキャンセリングフィルタ27は、ダウンサンプリング部28からの出力が入力され、これに対するフィルタ処理で、外部音をキャンセルする作用を持つ音のオーディオ信号(キャンセル用音声信号)を生成し出力する。さらにキャンセル用音声信号においては数kHz以上の不要な信号は除去される。
【0033】
加算部22は、サンプリングレート変換部23から出力されたデジタルオーディオ信号にノイズキャンセリングフィルタ27から出力されたキャンセル用音声信号を重畳するものである。これにより、デジタルオーディオ信号とキャンセル用音声信号とが合成されたデジタルオーディオ信号が得られる。
この合成されたデジタルオーディオ信号は、DA変換部21に入力され、アナログ信号に変換された後、アンプ8により増幅されスピーカ10により耳で聞く音に再生されることになる。
上述の外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセリングフィルタ27、及び該フィルタで生成されるノイズキャンセル信号をデジタルオーディオ信号に重畳する加算部22とからノイズキャンセル部が構成される。
このようにして再生される音は、音楽ソースの音成分と、キャンセル用音声信号の音成分とが合成されたものとなるが、キャンセル用音声信号の音成分により、外部から耳に到達してくる外部音を打ち消す(キャンセルする)効果を生じることになる。この結果、ヘッドホン装着者が耳で聴く音としては、外部音がキャンセルされて、相対的に音楽ソースの音が強調されたものとなる。
【0034】
以上のノイズキャンセル動作はサンプリング周波数がn・Fsoという通常より高い周波数で処理するものであるが、これはAD変換部29からノイズキャンセリングフィルタ27を経由してDA変換部21に至までの遅延を少なくするためである。
そして本例の場合、サンプリングレート変換部23から出力されるデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数も、このサンプリング周波数(n・Fso)にあわせられる。
【0035】
上述の通り、ノイズキャンセリングフィルタ27、加算部22、ダウンサンプリング部28、DA変換部21およびAD変換部29はすべてマスタークロック30の周波数でノイズキャンセリング動作をする。
特にノイズキャンセリングフィルタ27の有する機能である、数kHz以上の不要な信号を除去する機能において、再生すべきデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数はFsoを基礎としたサンプリング周波数の信号に変換されており、ノイズキャンセリングフィルタ27が対象とする信号はサンプリング周波数がFsoを基礎とする信号となる。
したがって、そのフィルタ特性のカットオフ周波数は音楽ソースのデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数(Fsi)によらない固定の値とすることができる。すなわち、音楽ソースのデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数(Fsi)が変わる毎に、フィルタ係数の入れ替えをするといった処理は不必要となり、処理負担が少なく動作効率の良い信号処理装置を提供することができる。
【0036】
<2.第2の実施の形態>

続いて第2の実施の形態について説明する。
以下の説明において、既に説明した部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0037】
第2の実施の形態の説明に先立って、イコライザを使用する場合のノイズキャンセリングの動作についての一例を図4で説明する。
イコライザとは、オーディオ信号の周波数特性を変更する音響機器のことであるが、一般的にノイズキャンセリングに用いるヘッドホンは低域の再生特性を重視しているので、好適な音楽再生をするにはあらかじめ低域をカットすることが行われる。
図4において、イコライザ16は音楽ソースからのデジタルオーディオ信号を直接受け、低域をカットする等の処理を行い、その信号をアップサンプリング部2に出力する。
【0038】
この場合、音楽ソースからのデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数(Fsi)が変化するとイコライザ16の特性をそれに合わせて変化させてやらないと同一の特性を得ることはできない。すなわち、イコライザ16のイコライザ係数の入れ替え、装置の再起動等の操作が必要となる。
【0039】
図5は、第2の実施の形態を説明する図である。
本実施の形態にかかる信号処理装置40は、イコライザ41を有し、信号処理装置40自身がマスタークロック30を持ち、そのマスタークロック30に同期しノイズキャンセル動作を行うものである。
図5に示すように、サンプリングレート変換部23と加算部22の間にイコライザ41を配置する。これにより、サンプリングレート変換部23から出力された、n・Fsoのサンプリング周波数でサンプリングされたデジタルオーディオ信号がイコライザ41で低域カット等の処理が行われ、その信号が加算部22に入力され、キャンセル用音声信号に加算される。
【0040】
この場合、n・Fsoを基準にした信号処理が行われるので、音楽ソースからのデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数(Fsi)が変わったとしてもイコライザ41の特性をそれに合わせて変化させる必要はない。すなわち、イコライザ41の特性を変えるための係数の入れ替え、装置の再起動等の操作をする必要がなくなる。
【0041】
<2.第3の実施の形態>

図6は第3の実施の形態を説明する図である。信号処理装置50はマスタークロック30を単独で持っていることから、ノイズキャンセリング機能を単独で動作させることができる。したがって、音楽ソースからのデジタルオーディオ信号の入力が途切れたとしてもノイズキャンセリング機能を動作させることができる。
以下の説明において、既に説明した部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
図6に示すように、本実施の形態では、入力検出部53、ゲート52およびゲート51が図3で説明した構成に付加される。
入力検出部53は、サンプリングレート変換部23から出力されたデジタルオーディオ信号について、加算部22への供給の可否を切り換える供給切換部の一例となる。
【0042】
入力検出部53は、音楽ソースからのデジタルオーディオ信号の有無を検出し、その信号の有無に基づいて制御信号(オン又はオフ)を出力するものである。
ゲート52とゲート51は、入力信号を切断又は接続して出力端子に出力するものである。
制御信号としてオン信号(例えば1)が供給されれば、オン状態となり、ゲート52とゲート51の出力端子には他の一方の端子に入力された信号(音楽ソースからのオーディオ信号)がそのまま出力されることになる。
逆に、制御信号としてオフ信号(例えば0)がゲート52とゲート51に供給されれば、ゲート52とゲート51はオフ状態となり、ゲート52とゲート51の出力端子には他の一方の端子に入力された信号(音楽ソースからのオーディオ信号)は出力されないことになる。
したがって、音楽ソースからのデジタルオーディオ信号が途切れたとしても、回路の接続状態をそのままとすることができ、ノイズキャンセリング効果を安定して維持することができる。
なお、ゲート52とゲート51は2つ持たせてもいいし、いずれか一方を持たせてもよい。
【0043】
図7は上記実施の形態の変形例を説明する図である。ノイズキャンセリング機能が単独で動作することから考えられる変形例である。
以下の説明において、既に説明した部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
これは図6の入力検出部53に代えてゲート制御部54を有する例である。ゲート制御部54は、サンプリングレート変換部23から出力されたデジタルオーディオ信号について、加算部22への供給の可否を切り換える供給切換部の一例となる。
【0044】
図7に示すように、信号処理装置50はマスタークロック30を単独で持っている。このため、音楽ソースからのデジタルオーディオ信号が信号処理装置50に入力されなくてもノイズキャンセル機能が単独で動作可能である。すなわち、外部音(ノイズ)をマイクロホン11から収音し、アンプ9、AD変換部29、ダウンサンプリング部28を経由した音声信号を得て、この音声信号について適切なフィルタリング処理を施して、キャンセル用音声信号を生成することができる。そして、このキャンセル用音声信号を加算部22に入力する。再生すべき音声信号がないとすれば、キャンセル用音声信号は収音した外部ノイズとは逆位相をしているので、この加算部22による合成後の音声信号をスピーカ10で聴くと、外部音が低減したものとなる。すなわち、外部のノイズを低減させることができる。いわゆる遮音効果を発揮できる。具体的には、航空機、車等に乗ったときの外部のエンジン音等を低減させることができる。
【0045】
図7において、ゲート制御部54は、音楽ソースからのデジタルオーディオ信号を信号処理装置50に供給するかどうかの制御信号をゲート52とゲート51出力するものである。制御信号としてオン信号がゲート52とゲート51に供給されれば、ゲート52とゲート51はオン状態となり、ゲート52とゲート51の出力端子には他の端子に入力された信号がそのまま出力されることになる。
ゲート制御部53によるゲート52とゲート51の制御により、音楽ソースからのデジタルオーディオ信号に対してノイズキャンセリングをするのか、音楽ソースからのデジタルオーディオ信号なしの状態でノイズキャンセリングをするのかの選択が可能となる。
例えばユーザ操作に応じてゲート制御部54が制御信号を出力するものとすれば、スピーカ10及びマイクロホン11を有するヘッドホンを装着したユーザが、音楽等を聴かずに遮音効果を望む場合に、ノイズキャンセリング動作による遮音効果を発揮できることとなる。
この場合も、ゲート52とゲート51の2つを持たせてもよいし、いずれか1つを持たせてもよい。
【0046】
<3.第4の実施の形態>

図8は、第4の実施の形態に係る信号処理装置60について説明するための図である。 信号処理装置60自身がマスタークロック30を持ち、フィードバック方式によるノイズキャンセリングシステムにおいて、ノイズキャンセリングフィルタ27の前後に音楽ソースからのデジタルオーディオ信号をそれぞれ加算してダイナミックレンジを確保しようとするものである。フィードバック方式においては、マイクロホンから再生する音声と共に外部ノイズを取り込むので、ダイナミックレンジを確保することは、ノイズキャンセルを際立たせるうえで有効なこととされている。
以下の説明において、既に説明した部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0047】
図8に示すように、先ずヘッドホン69としては、例えば操作者の耳全体を密閉するようにして覆うようにされた装着部61を有する、いわゆる密閉型のヘッドホン装置であるものとする。ヘッドホン69には、音響再生のための振動板を備えたスピーカ(振動板ユニット)62と、マイクロホン63とが備えられている。スピーカ62は、装着部69の内側に対して設けられる。そしてDA変換部21からの出力されたアナログ信号がアンプ64を経由してスピーカ62に入力され音を出力するように構成される。
また、マイクロホン63は、操作者によってスピーカ62からの出力音とヘッドホン69外部の音(外部音)とが聴取される聴取点と近接するような位置関係となるようにして、装着部61の内側に対して設けられる。
【0048】
この図8の実施の形態では、図3の構成に加えて、アップサンプリング部66、ダウンサンプリング部65、フィルタ67,68、加算部93が追加されている。
すなわち音楽ソースからのデジタルオーディオ信号を信号処理装置60が受信する経路として、サンプリングレート変換部91内にアップサンプリング部66およびダウンサンプリング部65の経路が追加される。アップサンプリング部66およびダウンサンプリング部65で周波数(n・Fso)にサンプリングレート変換されたデジタルオーディオ信号は、加算部93に供給される。すなわちこの経路を経由して、加算部93により音楽ソースからのデジタルオーディオ信号にダウンサンプリング部28から出力されたキャンセル用音声信号が重畳され、その重畳された信号がノイズキャンセリングフィルタ27に入力される。
図8ではノイズ入力のためのマイクを筐体内側、すなわちスピーカと同じ側にあるフィードバック形式のノイズキャンセリングシステムを想定している。この場合、フィードフォワード同様に音楽ソース信号は、ノイズキャンセリング信号と重畳されるが、この時、音楽ソース信号もフィードバックの系に組み込まれることに留意すべきである。一般的には、この重畳は、音楽ソース信号に適切なフィルタを掛けた後、ノイズキャンセリングフィルタ27の後に行われるが、この場合、フィルタには、おおまかにはノイズキャンセル特性の逆特性に近い形状のフィルタが必要となり、ノイズキャンセル量が大きいほど、極端にゲインの大きなフィルタが必要となり、結果、システムとしてダイナミックレンジを損なうことになる。
しかしながら、特許文献4によると、図8のように、音楽ソース信号に対して、適切なフィルタ67及びフィルタ68を経由して、ノイズキャンセリングフィルタ27の前後の両方で、重畳することで、フィルタに対して過剰なゲインのフィルタの使用を抑えることができ、システムのダイナミックレンジをより大きくとることができ、有効である。
なお、フィルタ68及びフィルタ67は、一方、または双方に対して、フィルタにより周波数の調整でなくゲインの調整のみとすることもできる。
【0049】
このように本実施の形態では、入力されたデジタルオーディオ信号についてフィルタ68で第1のフィルタ処理されたデジタルオーディオ信号成分は、サンプリングレート変換部91(24,25)でレート変換された後、加算部22でノイズキャンセル信号が重畳される。加えて、入力されたデジタルオーディオ信号についてフィルタ67で第2のフィルタ処理されたデジタルオーディオ信号成分が、サンプリングレート変換部91(66,65)でレート変換された後、ノイズキャンセリングフィルタ27への入力信号に重畳される。
なお、フィルタ68とフィルタ67によるフィルタ処理は、信号処理60側のサンプリング周波数n・Fsoの単位で行うより、音楽ソース側のサンプリング周波数Fsiの単位で行ったほうが演算回数が少なくて済み、全体としての消費電力および処理に負担が少なく好適である。
【0050】
<4.第5の実施の形態>

図9は、第5の実施の形態にかかる信号処理装置70について説明するための図である。信号処理装置70自身がマスタークロック30を持ち、マイクロホン11から収音された外部ノイズに基づいて、最適な周波数特性を音楽ソースからのデジタルオーディオ信号に付与しようとするものである。
以下の説明において、既に説明した部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0051】
図9Aに示すように、5バンドイコライザ部73、5バンドレベル解析部、ダウンサンプリング部71およびアップサンプリング部72が、図3の実施の形態に対して付加される。
【0052】
5バンドイコライザ部73は、音楽ソースからのデジタルオーディオ信号に対し、周波数特性を変更するものとされる。ここでは、例えば0〜Fsi/2の周波数を5つのバンドに分割した構成とされており、各バンドについてその信号特性を大きくしたり、小さくしたり変化させることができる。
サンプリングレート変換部92内のアップサンプリング部72とダウンサンプリング部71は、それぞれダウンサンプリング部25およびアップサンプリング部24と逆特性を有する。すなわち、b/a=b’/a’の関係になっている。
そしてマイクロホン11から収音されて、アンプ9、AD変換部29およびダウンサンプリング部28を経由して、n・Fsoの周波数でサンプリングされた信号となっている音声信号を、まずアップサンプリング部72によりそのキャンセル用音声信号をサンプリング周波数が、例えば256・Fsoの周波数でサンプリングした信号に変換する。つぎにダウンサンプリング部71により、Fsi/Fsoの周波数比を用いて、256・Fsoサンプリングのデータを直線補間して、必要となるFsiサンプリング周波数の信号に変換する。
5バンドレベル解析部74は、ダウンサンプリング部71からの信号(すなわちマイクロホン11から収音された外部ノイズ)を解析するものであり、その信号がどの帯域に集中しているか解析することができる。
そして5バンドイコライザ部73のイコライジング特性が、5バンドレベル解析部74での解析結果に応じて可変制御される。
【0053】
このように本実施の形態では、図3の構成に加えて、サンプリングレート変換部92では、マイクロホンで収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号について、音楽ソースから入力されるデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数に同期するサンプリング周波数でサンプリングされた信号にレート変換する。そして該レート変換された信号の周波数特性を解析する5バンドレベル解析部74、解析結果に基づいて 入力されるデジタルオーディオ信号の周波数特性を変更する5バンドイコライザ部73を備える構成である。
【0054】
図9Bは、5バンドイコライザ部73の制御状態を視覚的に表した図である。図に示すように、各バンド毎にその音声レベルを変化させることができる。
図9Cは、マイクロホン11から収音された音声信号の周波数特性を5バンド毎に表した図である。
ここで例えば、あるバンドにおいてそのノイズキャンセリング信号のレベルが他のバンドより高い場合、そのバンドに対応する5バンドイコライザ部73のバンドのレベルをブースト方向に制御する、他方その逆の場合、5バンドイコライザ部73のバンドのレベルをカット方向に制御することによりノイズキャンセリング効果を最適な状態にすることができる。
ノイズレベルの解析において低域成分のみに特化して解析する場合、5バンドレベル解析部74内でさらに1/2,1/4等のデシメーションを行ってもよい。
なお、上記ではバンドを5つに分割しているがこれに限定されるものではない。
また、5バンドレベル解析部74はmcki同期で動作するが、mcki/mckoの関係によらず常に同じバンドレベル解析結果およびイコライザ係数を用いることができる。
【0055】
<5.第6の実施の形態>

図10は、第6の実施の形態にかかる信号処理装置80について説明するための図である。信号処理装置80自身がマスタークロック30を持つという本開示の技術を、MFB(Motional FeedBack : モーショナルフィードバック)処理に適用したものである。
以下の説明において、既に説明した部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
MFBは、スピーカユニットにおける振動板の動きを検出し、入力オーディオ信号に負帰還をかけて、例えばスピーカユニットの振動板と入力オーディオ信号とが同じ動きとなるように制御する技術である。これにより、例えば低域共振周波数f0近辺の振動に対してダンピングが与えられ、聴感上は、いわゆる「ボンつき」などといわれる、好ましくない低域の響きが抑制される。
【0056】
図10に示すように、MFBの処理系は、イコライザ84、加算部86、MFB対応デジタル信号処理部87、DA変換部85、パワーアンプ82、スピーカ(振動板ユニット)81、ブリッジ回路90、検出/増幅回路83、AD変換部88から構成できる。
【0057】
音楽ソースからのデジタルオーディオ信号は、アップサンプリング部24とダウンサンプリング部25を経由して、サンプリング周波数が変換され、n・Fsoの周波数でサンプリングされた周波数のデジタルオーディオ信号となる。このデジタルオーディオ信号は、先ず、イコライザ84に入力される。イコライザ84は、低域補正を行う。これにより、イコライザ84は、MFBがかけられたスピーカ81からの再生音について目標周波数特性が得られるようにして帯域補償することになる。
【0058】
イコライザ84から出力されたデジタルオーディオ信号は、加算部86に出力される。
加算部86は、入力オーディオ信号に対して負帰還を与えるための部位であり、入力されたデジタルオーディオ信号に対して、MFB対応デジタル信号処理部87から出力される帰還信号を反転させて合成する。
【0059】
この場合、加算部86の出力としてのデジタルオーディオ信号は、DA変換部85に対して入力されるようになっている。
DA変換部85は、入力されるデジタルオーディオ信号をアナログ信号に変換する。
【0060】
パワーアンプ82は、DA変換部85からのアナログオーディオ信号を増幅し、駆動信号としてスピーカ81のボイスコイルに供給する。これにより、スピーカ81からは、音楽ソースの音が再生される。
【0061】
ブリッジ回路90は、パワーアンプ82からスピーカ81への駆動信号のラインに対して、図示するようにして抵抗R1、R2、R3を接続して形成される。検出/増幅回路83は、ブリッジ回路90としてのセンサ部位からの信号を入力して、スピーカ81の動きとして、その速度に応じた検出信号を生成する。
【0062】
この場合、検出/増幅回路83から出力されるアナログの検出信号はAD変換部88によりデジタル信号に変換されて、ダウンサンプリング部89によりn・Fsoの周波数でサンプリングされた信号に変換される。その信号は、MFB対応デジタル信号処理部87に対して入力される。
【0063】
MFB対応デジタル信号処理部87は、いわゆるフィードバック回路としての信号処理系に相当し、入力されたデジタルの検出信号から帰還信号を生成する。
【0064】
このようにして、入力オーディオ信号は、スピーカ81の振動板の動きに応じた負帰還がかけられ、スピーカ81はこの負帰還がかけられたオーディオ信号の増幅出力によって駆動される。
これにより、MFBの制御系は、スピーカ81を、入力オーディオ信号波形に対して忠実に振動するようにして制御することになる。これは、例えば低域共振周波数f0を中心にしてダンピングを与えるという動作となり、その結果、例えば先にも述べたように、低域の不要な響きが抑制され、再生音が改善される。
また、本実施の形態によれば、音楽ソースのデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数が変化したとしても、イコライザ84の周波数特性およびMFB対応デジタル信号処理部87の特性を変更する必要のないMFBの処理系を実現できる。
【0065】
なお本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)所定の固定周波数のノイズキャンセル処理用クロックを生成するノイズキャンセル処理用クロック発生部と、
上記ノイズキャンセル処理用クロックに基づいて動作し、マイクロホンで収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセリングフィルタ、及び該フィルタで生成した上記ノイズキャンセル信号をデジタルオーディオ信号に重畳する加算部を有するノイズキャンセル部と、
入力された、上記ノイズキャンセル処理用クロックとは非同期のクロックでサンプリングされているデジタルオーディオ信号を、上記ノイズキャンセル処理用クロックに同期するサンプリング周波数にレート変換して、上記加算部に供給するデジタルオーディオ信号とするサンプリングレート変換部と、
を備えた信号処理装置。
(2)上記サンプリングレート変換部は、
入力されたデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数を上昇させるアップサンプリング部と、
該アップサンプリング部により上昇させたサンプリング周波数を、上記ノイズキャンセル処理用クロックに基づいた周波数に低下させるダウンサンプリング部と、
を備える上記(1)に記載の信号処理装置。
(3)上記ノイズキャンセル部は、
マイクロホンで収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号を、上記ノイズキャンセル処理用クロックの周波数に同期したデジタル信号に変換して、上記ノイズキャンセリングフィルタに供給する外部ノイズデジタル化処理部を、さらに備える上記(1)乃至(2)のいずれかに記載の信号処理装置。
(4)上記サンプリングレート変換部から出力されたデジタルオーディオ信号の周波数特性を変更するイコライザ部をさらに備える上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の信号処理装置。
(5)上記サンプリングレート変換部から出力されたデジタルオーディオ信号について、上記加算部への供給の可否を切り換える供給切換部をさらに備える上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の信号処理装置。
(6)入力されたデジタルオーディオ信号について第1のフィルタ処理されたデジタルオーディオ信号成分が、上記サンプリングレート変換部でレート変換された後、上記加算部が上記ノイズキャンセル信号を重畳するとともに、
入力されたデジタルオーディオ信号について第2のフィルタ処理されたデジタルオーディオ信号成分が、上記サンプリングレート変換部でレート変換された後、上記ノイズキャンセル部の上記フィルタへの入力信号が重畳される構成となっている上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の信号処理装置。
(7)上記サンプリングレート変換部では、マイクロホンで収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号について、上記入力されるデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数に同期するサンプリング周波数でサンプリングされた信号にレート変換するとともに、
該レート変換された信号の周波数特性を解析する信号解析部と、
信号解析部の結果に基づいて 入力されるデジタルオーディオ信号の周波数特性を変更するバンドイコライザ部と、
をさらに備える上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の信号処理装置。
(8)入力されるデジタルオーディオ信号は、記録媒体から再生されたデジタルオーディオ信号である上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の信号処理装置。
(9)入力されるデジタルオーディオ信号は、外部機器から有線通信又は無線通信で送信されてきたデジタルオーディオ信号である上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の信号処理装置。
【符号の説明】
【0066】
1、20、40、50、60、70、80 信号処理装置、2、24、66、72 アップサンプリング、3、21、85 DA変換部、4、22、86 加算部、5、27 ノイズキャンセリングフィルタ、6、25、28、65、71、89 ダウンサンプリング、7、29、88 AD変換部、8、9、64、65、82 アンプ、10、62、81 スピーカ、11、63 マイクロホン、16、41、84 イコライザ、23 サンプリングレート変換部、26 Fsi/Fso計測部、51、52 ゲート、53 入力検出部、54 ゲート制御部、61 ヘッドホン装着部、68、67 フィルタ、73 5バンドイコライザ部、74 5バンドレベル解析部、83 検出/増幅回路、87 MFB対応デジタル信号処理、90 ブリッジ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の固定周波数のノイズキャンセル処理用クロックを生成するノイズキャンセル処理用クロック発生部と、
上記ノイズキャンセル処理用クロックに基づいて動作し、マイクロホンで収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセリングフィルタ、及び該フィルタで生成した上記ノイズキャンセル信号をデジタルオーディオ信号に重畳する加算部を有するノイズキャンセル部と、
入力された、上記ノイズキャンセル処理用クロックとは非同期のクロックでサンプリングされているデジタルオーディオ信号を、上記ノイズキャンセル処理用クロックに同期するサンプリング周波数にレート変換して、上記加算部に供給するデジタルオーディオ信号とするサンプリングレート変換部と、
を備えた信号処理装置。
【請求項2】
上記サンプリングレート変換部は、
入力されたデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数を上昇させるアップサンプリング部と、
該アップサンプリング部により上昇させたサンプリング周波数を、上記ノイズキャンセル処理用クロックに基づいた周波数に低下させるダウンサンプリング部と、
を備える請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
上記ノイズキャンセル部は、
マイクロホンで収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号を、上記ノイズキャンセル処理用クロックの周波数に同期したデジタル信号に変換して、上記ノイズキャンセリングフィルタに供給する外部ノイズデジタル化処理部を、さらに備える請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
上記サンプリングレート変換部から出力されたデジタルオーディオ信号の周波数特性を変更するイコライザ部をさらに備える請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項5】
上記サンプリングレート変換部から出力されたデジタルオーディオ信号について、上記加算部への供給の可否を切り換える供給切換部をさらに備える請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項6】
入力されたデジタルオーディオ信号について第1のフィルタ処理されたデジタルオーディオ信号成分が、上記サンプリングレート変換部でレート変換された後、上記加算部が上記ノイズキャンセル信号を重畳するとともに、
入力されたデジタルオーディオ信号について第2のフィルタ処理されたデジタルオーディオ信号成分が、上記サンプリングレート変換部でレート変換された後、上記ノイズキャンセル部の上記フィルタへの入力信号が重畳される構成となっている請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項7】
上記サンプリングレート変換部では、マイクロホンで収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号について、上記入力されるデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数に同期するサンプリング周波数でサンプリングされた信号にレート変換するとともに、
該レート変換された信号の周波数特性を解析する信号解析部と、
信号解析部の結果に基づいて 入力されるデジタルオーディオ信号の周波数特性を変更するバンドイコライザ部と、
をさらに備える請求項1記載の信号処理装置。
【請求項8】
入力されるデジタルオーディオ信号は、記録媒体から再生されたデジタルオーディオ信号である請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項9】
入力されるデジタルオーディオ信号は、外部機器から有線通信又は無線通信で送信されてきたデジタルオーディオ信号である請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項10】
所定の固定周波数のノイズキャンセル処理用クロックに基づいたフィルタ処理で、マイクロホンで収音された外部ノイズ成分を含む入力音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成し、
入力された、上記ノイズキャンセル処理用クロックとは非同期のクロックでサンプリングされているデジタルオーディオ信号を、上記ノイズキャンセル処理用クロックに同期するサンプリング周波数にレート変換し、
上記ノイズキャンセル信号と、上記レート変換されたデジタルオーディオ信号とを加算する信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−253653(P2012−253653A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126125(P2011−126125)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】