説明

信号処理装置及び信号処理方法

【課題】輻射やDCオフセットの発生、1/fノイズなどの低周波ノイズの問題を解消して、より高感度で安定な信号処理を実現する。
【解決手段】入力信号源1は一般的に差動回路で形成され、一つの信号に対して正転及び反転の信号が取り出されるものである。そこでこれらの正転及び反転の信号が、それぞれ極性切り替えスイッチ2A、2Bに供給される。さらに、この切り替えスイッチ2A、2Bでは、入力信号源1からの正転及び反転の信号が、信号源3からのクロック信号によって交互に振り分けられる。そして、振り分けられた信号が相互に合成されることによって、正転及び反転の信号がクロック信号ごとに交互に標本化された信号が形成される。このようにして形成された信号が、離散時間フィルタ4に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる時間離散フィルタを用いることにより、全デジタル化を可能にした無線装置やセンサー処理回路等に使用して好適な信号処理装置及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線受信機において、時間離散フィルタを用いて受信信号と局部発振信号とを混合する混合回路として、例えば非特許文献1のFig.12に示されるような回路がある。この回路では、入力信号を局部発振信号で標本化して時間離散フィルタに供給することにより、受信信号と局部発振信号とを混合している。
【0003】
【非特許文献1】K. Muhanmad (TI) et al.“All-Digital TX Frequency Synthesizer and Discrete-Time Receiver for Bluetooth Radio in 130-nm CMOS”(IEEE Journal of Solid-State Circuits Vol.39, No.12, pp. 2278-2291, Dec. 2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の離散時間信号処理回路では、例えば図7に示すように標本化信号をそのまま離散時間フィルタに入力していた。このため標本化クロック周波数のN倍(N=0,1,2…)の周波数が通過帯域になっていた。このような従来の離散時間信号処理回路では、例えば1GHzのキャリア信号を復調する装置ではクロックを同一周波数の1GHzとしていた。
【0005】
ところが、このような離散時間信号処理回路では、クロック信号とキャリア信号が同一となるために、クロックの輻射が発生して他の無線装置等に妨害を与えるという不都合が生じる。また、クロックの回り込みによりDCオフセットが発生するなどのDCコンバージョン特有の問題が生じてしまう。さらに、この離散時間信号処理回路では、DCレベルも通過帯域となるので、デバイス特有の1/fノイズなどの低周波ノイズを受け、それによって、S/N比が低下するなどの問題があった。
【0006】
この発明はこのような問題点に鑑みて成されたものであって、本発明の目的は、上述したキャリア周波数と同一のクロック周波数の輻射や、DCオフセットの発生、1/fノイズなどの低周波ノイズの問題を解消することで、より高感度で安定な無線装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の信号処理装置及び信号処理方法は、時間離散フィルタを用いて標本化されたアナログ差動信号の演算処理を行う装置あるいは方法であって、アナログ差動信号における正転信号及び反転信号をクロック信号の周期ごとに交互に取り出した信号を時間離散フィルタの入力信号として用いることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の好ましい形態としては、クロック信号の周波数を、前記時間離散フィルタの通過帯域の2倍の周波数としたことを特徴とするものである。
【0009】
更に、本発明の好ましい形態としては、DC成分を時間離散フィルタの通過帯域から除外するとともに、fs/2(fsは標本化周波数)を通過帯域とするように変換することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の信号処理装置及び信号処理方法によれば、例えば1GHzのキャリア信号を復調する場合に、2GHzの標本化周波数を用いることができるので、キャリア周波数と同一のクロック周波数を用いることによる輻射や、DCオフセットの発生が抑制される。また、DCレベルが通過帯域から除外されることにより、1/fノイズなどの低周波ノイズを受け難くなるので、より高感度で安定な無線装置やセンサー処理回路を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明を説明する。図1は、本発明の信号処理装置及び信号処理方法を実施するための基本的な構成図である。図1において、入力信号源1は一般的に差動回路で形成され、一つの信号に対して正転及び反転の信号が取り出される。そしてこれらの正転及び反転の信号が、それぞれ極性切り替えスイッチ2A、2Bに供給される。
【0012】
さらにこの切り替えスイッチ2A、2Bでは、入力信号源1からの正転及び反転の信号が、信号源3からのクロック信号に同期して交互に振り分けられる。そして、振り分けられた信号が互いに合成されることによって、正転及び反転の差動信号がクロック信号ごとに交互に反転された標本化信号が形成される。このようにして、入力信号の極性をクロック毎に交互に入れ替えた標本化信号が、離散時間フィルタ4に供給される。
【0013】
図1に示した回路構成よって、z変換におけるz→−zの変換が実現される。すなわち、z変換の理論によれば、標本化されたk番目の信号をf(k)とすると標本化信号列は〔数1〕で表される。
【数1】

【0014】
さらに、クロックに同期して交互に極性を入れ替えた信号は〔数2〕のように表すことができる。
【数2】

【0015】
この〔数2〕は〔数3〕のようにまとめて記載することもできる。
【数3】

【0016】
一般に、離散時間回路の周波数特性は〔数4〕の置き換えにより得られ、Nfsに通過帯を持つ。
【数4】

【0017】
そこで、〔数4〕においてz→−zの置き換えを行うと、〔数4〕は〔数5〕となり、離散時間回路の信号通過帯域はNfs+fs/2にシフトする。
【数5】

【0018】
これにより、例えば1GHzのキャリア信号を復調する場合であっても、2GHzの標本化周波数を用いることができるので、キャリア周波数と同一のクロック周波数の輻射やDCオフセットの発生が抑制される。さらに、DCレベルが通過帯域から除外されるので、1/fノイズなどの低周波ノイズを受け難くなり、より高感度で安定な無線装置を実現することができる。
【0019】
図2は、本発明による信号処理装置及び信号処理方法を適用した時間離散フィルタを用いて受信信号と局部発振信号とを混合する混合回路の第1の実施形態の構成を示したものである。この図2において、差動の入力信号RFin+とRFin−は、差動アンプ11を通じて差動信号で供給される。
【0020】
この図2に示される回路では、差動アンプ11からの正転信号は、図3のAに示す正転の局部発振信号Lo+で駆動されるスイッチ素子12Aと、図3のBに示す反転の局部発振信号Lo−で駆動されるスイッチ素子13Bとに供給される。また、差動アンプ11からの反転信号は、正転の局部発振信号Lo+で駆動されるスイッチ素子13Aと、反転の局部発振信号Lo−で駆動されるスイッチ素子12Bとに供給される。
【0021】
さらに、これらのスイッチ素子12A、12Bで標本化された信号が、第1の離散時間フィルタ100A、100Bを構成する入力端のコンデンサ(Ch)14Aに供給される。また、スイッチ素子13A、13Bで標本化された信号が、第2の離散時間フィルタ200A、200Bを構成する入力端のコンデンサ(Ch)14Bに供給される。
【0022】
これらの第1及び第2の離散時間フィルタ100A、100B及び200A、200Bには、例えば局部発振信号Loの1/4の周波数で駆動されるシフトレジスタ300が接続されている。そして、このシフトレジスタ300からの図3のC〜Iに示す順次シフトされる信号S1、S2、…Sn、Sn+1、Sn+2.…S2nによって、各フィルタの駆動が行われる。
【0023】
すなわち、各離散時間フィルタ100A、100B及び200A、200Bでは、信号S1、S2、…Sn、Sn+1、Sn+2、…S2nの期間ごとに順次オンされるスイッチ素子によって、上述のコンデンサ(Ch)がコンデンサ(Cr)と順次結合される。これにより、コンデンサ(Cr)には、標本化された入力信号に基づく電荷が、例えば4クロック期間分ずつ順番にチャージされる。
【0024】
また、コンデンサ(Cr)は、バンクA(フィルタ100A、200A)及びバンクB(フィルタ100B、200B)ごとに、図3のJまたはKに示す信号SA、SBと、図3のLに示す信号DUMPによってオンされるスイッチ素子15A、15Bを通じて出力端のコンデンサ(Cb)16A、17Bと結合される。これにより、コンデンサ(Cr)にチャージされた電荷が、コンデンサ(Cb)16A、16Bにチャージされる。
【0025】
さらに、コンデンサ(Cb)16A、16Bにチャージされた信号が出力端子17A、17Bに取り出される。その後、コンデンサ(Cr)に残された電荷は、図3のMに示す信号RESによってオンされるスイッチ素子18A、18Bを通じてリセットされる。このような動作が、バンクA(フィルタ100A、200A)及びバンクB(フィルタ100B、200B)ごとに交互に行われる。
【0026】
このようにして、出力端子17A、17Bには、離散時間フィルタ100A、100B及び200A、200Bで処理された信号が取り出される。なお、離散時間フィルタの具体的な動作については、上記の非特許文献1のFig.12に示された回路と同等であるので、詳細な説明は省略する。ここで、非特許文献1のFig.12に示された回路の周波数特性は、図4に示すようなローパスフィルタ特性となっている。
【0027】
これに対して、本発明の第1の実施形態である、図2に示す回路では、図5に示すような周波数特性となる。すなわち、DCレベルが通過帯域から除外され、fs/2が通過帯域に変換されていることがわかる。このことは、入力信号RFin+とRFin−を交互に入力し、フィルタ特性の位相をπ変化させ、さらにオーバーサンプリングすることに起因している。
【0028】
こうして、例えば1GHzのキャリア信号を復調する場合、2GHzの標本化周波数を用いることができるので、キャリア周波数と同一のクロック周波数の輻射やDCオフセットの発生を抑制することができる。また、DCレベルが通過帯域から除外されたことで1/fノイズなどの低周波ノイズを受け難くなり、より高感度で安定な無線装置を実現できる。
【0029】
図6は、本発明の第2の実施形態を示す構成図である。この図6においては、上述の第1の実施形態における離散時間フィルタを、スイッチトキャパシタ回路で実現している。すなわち上述の第1の実施形態では離散時間フィルタをパッシブフィルタで構成したが、図6のものはアクティブフィルタで構成している。
【0030】
図6において、図2と同様のスイッチ素子12A、12B及び13A、13Bで標本化された信号は、クロック信号CLK11によってオンされるスイッチを通じてコンデンサC11にチャージされると共に、クロック信号CLK12によってオンされるスイッチを通じてコンデンサC12にチャージされる。
【0031】
さらにコンデンサC11にチャージされた信号は、クロック信号CLK12によってオンされるスイッチを通じて演算増幅器(Opamp)に供給されると共に、コンデンサC13に供給されてチャージされる。また、コンデンサC12にチャージされた信号は、クロック信号CLK11によってオンされるスイッチを通じて演算増幅器(Opamp)に供給されると共に、コンデンサC14に供給されてチャージされる。
【0032】
そして、コンデンサC13にチャージされた信号は、クロック信号CLK11によってオンされるスイッチと帰還コンデンサCと演算増幅器(Opamp)を通じて次段に供給される。また、コンデンサC14にチャージされた信号は、クロック信号CLK12によってオンされるスイッチと帰還コンデンサCと演算増幅器(Opamp)を通じて次段に供給される。
【0033】
このように、第2の実施形態の回路では、各段に時間的に離散した信号がチャージされ、それらの信号を合成することによって任意の周波数特性を得ることができる。そしてこの場合も、入力信号RFin+とRFin−を交互に入力し、さらにオーバーサンプリングすることで、キャリア周波数と同一のクロック周波数の輻射やDCオフセットの発生を抑制することが可能となる。また、DCレベルが通過帯域から除外されるので、より高感度で安定な信号処理を実現することができる。
【0034】
なお、上述した実施形態の説明では、標本化されたアナログ差動信号を例にとって説明しているが、標本化前のアナログ差動信号の正転信号と反転信号をクロック信号の周期で交互に取り出した後に、標本化するようにしてもよい。
【0035】
また、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変形例、応用例を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の信号処理装置及び信号処理方法を実施するための基本的な構成を示す構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の構成を示す構成図である。
【図3】その説明のためのクロック信号の波形図である。
【図4】その説明のための周波数特性図である。
【図5】その説明のための周波数特性図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の構成を示す構成図である。
【図7】従来の信号処理装置の基本的な構成を示す構成図である。
【符号の説明】
【0037】
1…入力信号源、2A,2B…極性切り替えスイッチ、3…信号源、4…離散時間フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間離散フィルタを用いて標本化されたアナログ差動信号の演算処理を行う信号処理装置であって、
前記アナログ差動信号における正転信号及び反転信号をクロック信号の周期ごとに交互に取り出した信号を前記時間離散フィルタの入力信号として用いる
ことを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記クロック信号の周波数を、前記時間離散フィルタの通過帯域の2倍の周波数とした
ことを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記時間離散フィルタの通過帯域は、DC成分を通過帯域から除外し、fs/2(fsは標本化周波数)を通過帯域とするように変換されることを特徴とする請求項1または2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
時間離散フィルタを用いて標本化されたアナログ差動信号を処理する際の信号処理方法であって、
前記アナログ差動信号における正転信号及び反転信号をクロック信号の周期ごとに交互に取り出した信号を前記時間離散フィルタに入力する
ことを特徴とする信号処理方法。
【請求項5】
前記クロック信号の周波数を、前記時間離散フィルタの通過帯域の2倍の周波数とした
ことを特徴とする請求項4記載の信号処理方法。
【請求項6】
前記時間離散フィルタの通過帯域は、DC成分を通過帯域から除外し、fs/2(fsは標本化周波数)を通過帯域とするように変換されることを特徴とする請求項4または5に記載の信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−47975(P2008−47975A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218878(P2006−218878)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】