説明

信号識別方法及び信号識別装置

【課題】専門知識がなくても適切な学習用データセットを設定するとともに、学習用データセットの設定に必要な処理時間を短縮する。
【解決手段】特徴量抽出部2が、特徴量データ種類選択部3で選択された特徴量データの種類及び抽出範囲選択部4で選択された抽出範囲で学習信号から特徴量データを複数抽出する。確度演算部6が、複数の特徴量データの各要素を各要素番号で昇順に並び換えた状態で、各要素を有する特徴量データに応じて複数領域に区分けされた判定画像を作成し、判定画像から要素番号ごとに複数領域の乱雑度及びこれらの乱雑度の総和を求める。全範囲で上記処理を行った後、乱雑度の総和が最小となるものを学習用データセットとする。ニューラルネットワーク演算部7のマップ作成部71が教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70に学習用データセットを入力し、クラスタ判定部72が検査時に用いるクラスタリングマップを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物の状態を識別する信号識別方法及び信号識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、検査対象物の状態を識別する信号識別装置は、特許文献1に開示されているように、確度演算手段が、前置処理手段での処理内容ごとに複数の特徴量データ(学習用データセット)を競合学習型ニューラルネットワークに入力して対象信号のカテゴリ分類結果の確度を求め、求めた対象信号のカテゴリ分類の確度が最大になる処理内容を自動的に選択する。
【0003】
また、従来の信号識別装置の他の例として、特許文献2の信号識別装置は、特徴量データの種類(処理内容)だけでなく特徴量データの各要素の範囲も選択し、異なる特徴量の種類及び各要素の範囲の組み合わせごとに、特徴量データから成る分類対象データ(学習用データセット)を競合学習型ニューラルネットワークに入力して対象信号のカテゴリ分類結果の確度を求め、求めた対象信号のカテゴリ分類結果の確度が最大になる組み合わせを選択する。
【特許文献1】特開2005−115569号公報(段落0024〜0040及び第1図)
【特許文献2】特開2006−72659号公報(段落0018〜0033及び第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の信号識別装置には、対象信号のカテゴリ分類結果の確度を求める際に競合学習型ニューラルネットワークに学習用データセットを入力することから、特徴量データの種類や各要素の範囲を選択するための処理時間が長くなってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、専門知識がなくても適切な学習用データセットを設定することができるとともに、学習用データセットの設定に必要な処理時間を短縮することができる信号識別方法及び信号識別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の信号識別方法の発明は、学習用データセットを競合学習型ニューラルネットワークに入力して、検査対象物の状態を表す複数のカテゴリが設定されたクラスタリングマップを作成した後に、前記検査対象物の状態に基づく検査データを前記クラスタリングマップに入力し、前記検査データを前記複数のカテゴリに分類する信号識別方法であって、前記検査対象物の状態に基づく電気信号から抽出可能であり複数の要素をそれぞれ異なる要素番号に対応付けて有する特徴量データの種類と当該特徴量データの各要素の抽出範囲との組み合わせを選択可能とし、選択した前記組み合わせごとに前記電気信号から複数の前記特徴量データを抽出し、抽出した前記複数の特徴量データを選択データセットとした後に、前記選択データセットのそれぞれに対して、前記複数の特徴量データの各要素を前記要素番号ごとに分け、各要素番号で前記要素を昇順又は降順に並び換えた状態で、並び換えた各要素を有する特徴量データに応じて複数領域に区分けした後、各要素番号での前記複数領域の区分けから前記検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定し、推定確度の最も高い選択データセットを自動的に選択して前記学習用データセットとすることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の信号識別方法の発明は、請求項1に記載の発明において、前記選択データセットのそれぞれに対して、前記要素番号ごとに前記複数領域の区分けの乱雑度Ent(i)を次式で求め、その後、前記乱雑度の総和を求めて前記検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定した後、前記乱雑度の総和が最小となる選択データセットを前記推定確度の最も高い選択データセットとすることを特徴とする。
【0008】
【数3】

【0009】
(ただし、pi(j)=(要素番号iにおけるj番目の領域の長さ)/(特徴量データの数)、M:要素番号iにおける領域の数)
請求項3に記載の信号識別装置の発明は、学習用データセットを競合学習型ニューラルネットワークに入力して、検査対象物の状態を表す複数のカテゴリが設定されたクラスタリングマップを作成するマップ作成手段と、前記検査対象物の状態に基づく検査データを前記クラスタリングマップに入力し、前記検査データを前記複数のカテゴリに分類する分類手段とを備える信号識別装置であって、前記検査対象物の状態に基づく電気信号から抽出可能であり複数の要素をそれぞれ異なる要素番号に対応付けて有する特徴量データの種類を選択可能とする特徴量データ種類選択手段と、前記特徴量データ種類選択手段で選択された前記特徴量データの種類に応じて当該特徴量データの各要素の抽出範囲を選択可能とする抽出範囲選択手段と、前記特徴量データ種類選択手段で選択された前記特徴量データの種類と前記抽出範囲選択手段で選択した前記特徴量データの各要素の抽出範囲との組み合わせごとに、前記電気信号から複数の前記特徴量データを抽出し、抽出した前記複数の特徴量データを選択データセットとする特徴量抽出手段と、前記選択データセットのそれぞれに対して、前記複数の特徴量データの各要素を前記要素番号ごとに分け、各要素番号で前記要素を昇順又は降順に並び換え、並び換えた各要素を含む特徴量データに応じて複数領域に区分けする機能、各要素番号での前記複数領域の区分けから前記検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定し、推定確度の最も高い選択データセットを自動的に選択して前記学習用データとする機能を有する確度演算手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の信号識別装置の発明は、請求項3に記載の発明において、前記確度演算手段が、前記選択データセットのそれぞれに対して、前記要素番号ごとに前記複数領域の区分けの乱雑度Ent(i)を次式で求め、前記乱雑度の総和を求めて前記検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定する機能、前記乱雑度の総和が最小となる選択データセットを前記推定確度の最も高い選択データセットとする機能を有することを特徴とする。
【0011】
【数4】

【0012】
(ただし、pi(j)=(要素番号iにおけるj番目の領域の長さ)/(特徴量データの数)、M:要素番号iにおける領域の数)
【発明の効果】
【0013】
請求項1又は3に記載の発明によれば、選択した特徴量データの種類と各要素の抽出範囲との組み合わせごとに、検査データのカテゴリ分類結果の確度を競合学習型ニューラルネットワークによる学習を行うことなく自動的に推定することができるので、専門知識がなくても適切な学習用データセットを設定することができるとともに、学習用データセットの設定に必要な処理時間を大幅に短縮することができる。
【0014】
請求項2又は4に記載の発明によれば、要素番号ごとの乱雑度の総和を求めることによって、検査データのカテゴリ分類結果の推定を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施形態1)
本発明の実施形態1について図1〜9を用いて説明する。図1は、実施形態1の信号識別装置の構成を示すブロック図である。図2は、実施形態1の信号識別装置による特徴量データの要素の範囲設定を説明するための図である。図3は、実施形態1の信号識別装置による乱雑度の算出方法を説明するための図である。図4は、実施形態1の信号識別装置による判定画像を示す図である。図5,6,9は、実施形態1の信号識別方法を示すフローチャートである。図7,8は、実施形態1の信号識別方法における特徴量データの要素の範囲設定方法を示す図である。
【0016】
まず、実施形態1の信号識別装置の構成について説明する。この信号識別装置は、検査対象物の正常状態及び異常状態を識別するものであり、図1に示すように、信号入力部1と、特徴量抽出部2と、特徴量データ種類選択部3と、抽出範囲選択部4と、学習データ記憶部5と、確度演算部6と、ニューラルネットワーク演算部7と、出力部8とを備えている。なお、検査対象物(図示せず)は例えば回転機器を含む装置や設備などであるが、限定されるものではない。
【0017】
信号入力部1は、振動センサ10と、マイクロホン11とを備えている。振動センサ10は検査対象物(図示せず)の振動を検出し、検出した振動をアナログの電気信号に変換する。一方、マイクロホン11は検査対象物の音を検出し、検出した音をアナログの電気信号に変換する。
【0018】
特徴量抽出部2は、振動センサ10、マイクロホン11、特徴量データ種類選択部3、抽出範囲選択部4、学習データ記憶部5及びニューラルネットワーク演算部7と接続している。この特徴量抽出部2は、学習時に振動センサ10又はマイクロホン11から、検査対象物(図示せず)の正常状態及び異常状態における電気信号を学習信号として入力する。学習信号を入力した後、特徴量抽出部2は、入力した学習信号に対してノイズを除去する前処理を行い、特徴量データ種類選択部3で選択された特徴量データの種類と抽出範囲選択部4で選択された特徴量データの各要素の抽出範囲との組み合わせを用いて、前処理を行った学習信号から複数の特徴量データを抽出し、抽出した複数の特徴量データを選択データセットとする。特徴量データは、複数の要素をそれぞれ異なる要素番号に対応付けて含んでいる。特徴量データの種類として、例えば、高速フーリエ変換によってフーリエ係数を求める「FFT」や高速フーリエ変換によって求めた周波数分布パターンについてウェーブレット変換を行う「FFT+ウェーブレット」、時間軸方向に設定した窓内の振幅を積算する「投影波形」、確率密度関数を求める「確率密度関数」、実効値を求める「実効値」などがある。「FFT」については、複数種類のパラメータを選択可能としている。実施形態1では、入力した学習信号にフーリエ変換を施すことによって、複数の周波数成分のそれぞれを要素とする特徴量データを複数抽出し、抽出した複数の特徴量データを選択データセットとする。選択データセットを作成した後、特徴量抽出部2は選択データセットを学習データ記憶部5に出力する。
【0019】
一方、検査時において、特徴量抽出部2は振動センサ10又はマイクロホン11から検査対象物(図示せず)の状態に基づく電気信号を検査信号として入力する。検査信号を入力した後、特徴量抽出部2は、学習時に選択した特徴量データの種類と同様のものを採用して、入力した検査信号から特徴量データを抽出する。実施形態1では、入力した検査信号にフーリエ変換を施すことによって、後述で設定された抽出範囲の周波数成分を要素とする特徴量データを抽出し、抽出した特徴量データからなる検査データを作成する。検査データを作成した後、特徴量抽出部2は、作成した検査データをニューラルネットワーク演算部7に出力する。
【0020】
特徴量データ種類選択部3は、特徴量抽出部2、抽出範囲選択部4及び確度演算部6と接続し、検査対象物(図示せず)の状態に基づく学習信号から抽出可能な特徴量データの種類を選択可能とする。特徴量データの種類は、例えば「FFT」や「FFT+ウェーブレット」、「投影波形」、「確率密度関数」、「実効値」などがある。実施形態1では「FFT」を選択している。
【0021】
抽出範囲選択部4は、特徴量抽出部2、特徴量データ種類選択部3及び確度演算部6と接続し、特徴量データ種類選択部3で選択された特徴量データの種類に応じて特徴量データの各要素の抽出範囲を選択可能とする。実施形態1では、「FFT」が選択されているので、抽出範囲選択部4は、特徴量データの抽出周波数範囲(下限値及び上限値)を調節する。調節時の周波数の刻み幅(単位)はFFTの分解能とする。
【0022】
ここで、特徴量データの各要素における抽出範囲の下限値及び上限値の調節方法について図2を用いて説明する。図2の横軸は周波数を示し、縦軸は信号レベルを示す。まず、学習信号として想定している周波数の最大値と0Hzとの間を特徴量データの要素数で等分割する。各抽出範囲の下限値の調節範囲は、等分割した各周波数領域D1〜D3の中心周波数と低周波側に隣接する周波数領域D1〜D3の中心周波数との間とする。一方、各抽出範囲の上限値の調節範囲は、等分割した各周波数領域D1〜D3の中心周波数と高周波側に隣接する周波数領域D1〜D3の中心周波数との間とする。例えば周波数領域D2の下限値を調節する範囲をCLで示し、上限値を調節する範囲をCHで示している。
【0023】
なお、着目する周波数領域D1〜D3の低周波側に隣接する周波数領域D1〜D3が存在しない場合には下限値を0Hzとし、着目する周波数領域D1〜D3の高周波側に隣接する周波数領域D1〜D3が存在しない場合には上限値を学習信号として想定している周波数の最大値とする。
【0024】
また、検査データのカテゴリ分類結果の確度が大きくなる抽出範囲を使用者が経験的に認識していることもあるから、上記抽出範囲の下限値及び上限値が存在する範囲を使用者が推定することができる場合には、その範囲に絞り込んで下限値及び上限値を求めるようにすれば、抽出範囲の調節に要する時間を短縮することができる。
【0025】
学習データ記憶部5は、図1に示すように、例えば半導体メモリなどを備え、特徴量抽出部2、確度演算部6及びニューラルネットワーク演算部7と接続している。この学習データ記憶部5は、学習時に特徴量抽出部2で作成された複数の選択データセットを記憶するとともに、記憶している選択データセットのうち学習用データセットとなるものをニューラルネットワーク演算部7に出力する。また、学習データ記憶部5は後述の乱雑度の総和を確度演算部6から入力して記憶する。
【0026】
確度演算部6は、特徴量データ種類選択部3、抽出範囲選択部4及び学習データ記憶部5と接続している。この確度演算部6は選択データセットのそれぞれに対して、複数の特徴量データの各要素を要素番号ごとに昇順に並び換え、並び換えた各要素を含む特徴量データに応じて複数領域に区分けする。また、確度演算部6は選択データセットのそれぞれに対して、要素番号ごとに複数領域の区分けの乱雑度(エントロピー)Ent(i)を次式で求め、さらに、乱雑度の総和を求め、求めた乱雑度の総和を学習データ記憶部5に出力する。
【0027】
【数5】

【0028】
(ただし、pi(j)=(第i要素におけるj番目の領域の長さ)/(特徴量データの数)、M:要素番号iにおける領域の数)
上記の確度演算部6について図3を用いて具体的に説明する。図3(a)には、1つの選択データセットに含まれている正常状態の第1,2の特徴量データ及び異常状態の第3,4の特徴量データを示している。なお、第1〜4の特徴量データの要素数は説明を容易に行うために4つとしているが、4つに限定されるものではなく適宜設定される。確度演算部6は、第1〜4の特徴量データの各要素を要素番号ごとに図3(b)に示すように並び換えて、図3(c)に示すような判定画像60を作成する。判定画像60は、正常状態の領域である正常領域600と異常状態の領域である異常領域601とに区分けされている。図3(c)の第1要素では、特徴量データ数が4、1番目の領域(左側の正常領域600)の長さが1、2番目の領域(異常領域601)の長さが2、3番目の領域(右側の正常領域600)の長さが1である。同様に、第2要素では、1番目の領域(左側の異常領域601)の長さが1、2番目の領域(左側の正常領域600)の長さが1、3番目の領域(右側の異常領域601)の長さが1、4番目の領域(右側の正常領域600)であり、第3,4要素では、1番目の領域(正常領域600)の長さが2、2番目の領域(異常領域601)の長さが2である。第1〜4要素のそれぞれにおいて乱雑度を求め、さらに、これらの乱雑度の総和を求める。
【0029】
すべての選択データセットのそれぞれに対して乱雑度の総和を求めた後、確度演算部6は、学習データ記憶部5からすべての選択データセットに対する乱雑度の総和を入力し、これらの乱雑度の総和が最小となる選択データセットを推定確度の最も高い選択データセットとして自動的に選択し、選択した選択データセットを学習用データセットとする。
【0030】
ここで、判定画像と後述のマップ作成部71で作成されるクラスタリングマップとの相関について図4を用いて説明する。図4(a)の判定画像60aは正常領域と異常領域とが全体に入り乱れて乱雑度が大きいものであり、これにより、乱雑度の総和は大きくなるとともに、クラスタリングマップ73aは判定不能カテゴリ732の大きいものになる。図4(b)の判定画像60bは判定画像60aより乱雑度が小さいものの半分の領域において乱雑度が大きいままであり、クラスタリングマップ73bは判定不能領域732を含むものになる。これに対して、図4(c)の判定画像60cは乱雑度が小さいものであり、これにより、乱雑度の総和は小さくなるとともに、クラスタリングマップ73cは判定不能カテゴリを含まず、正常カテゴリ730及び異常カテゴリ731に明確に区分けされたものになる。つまり、乱雑度の総和が小さくなると、クラスタリングマップ73a〜73cに含まれる判定不能カテゴリ732も最小となり、判定の確度が高くなる。したがって、乱雑度の総和から検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定することができる。
【0031】
ニューラルネットワーク演算部7は、図1に示すように、例えばマイクロコンピュータなどであり、教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70と、マップ作成部71と、クラスタ判定部72とを備え、特徴量抽出部2、学習データ記憶部5、出力部8、マップ記憶部74及び判定結果記憶部75と接続している。
【0032】
マップ作成部71は、学習時に学習データ記憶部5から学習用データセットを入力し、この学習用データセットを教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70に入力する。教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70は、複数の入力層ニューロンと複数の出力層ニューロンとの2層で構成されている。複数の出力層ニューロンはクラスタリングマップを構成する。このクラスタリングマップは、複数の特徴量データを用いた学習によって出力層ニューロンごとに重み係数データが決定される。これまでに特徴量データが教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70に入力されていなかった場合、マップ作成部71は、学習開始時に、入力した特徴量データの要素ごとの平均値に乱数による一定範囲内のバラツキを与えた異なる値を各出力層ニューロンに初期値として与える。マップ作成部71は、出力層ニューロンごとに各特徴量データと重み係数データとのユークリッド距離を算出し、ユークリッド距離が最小となる特徴量データのカテゴリを設定してクラスタリングマップを作成する。
【0033】
また、マップ作成部71はクラスタリングマップを作成した後に、すべての特徴量データを教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70に再入力し、正常状態の特徴量データと異常状態の特徴量データとが同じ出力層ニューロンに属していないかを確認する。
【0034】
上記より、マップ作成部71は、検査対象物(図示せず)の状態を表す複数のカテゴリが設定されたクラスタリングマップを作成する。マップ作成部71で作成されたクラスタリングマップはマップ記憶部74に記憶される。
【0035】
クラスタ判定部72は、検査時に特徴量抽出部2から検査データを入力し、この検査データをクラスタリングマップに入力する。このクラスタ判定部72はクラスタリングマップ上の出力層ニューロンごとに、出力層ニューロンの重み係数データと検査データとのユークリッド距離を算出し、これらのユークリッド距離の中から最小値を抽出し、ユークリッド距離が最小値となる出力層ニューロンのカテゴリに検査データを分類する分類手段である。検査データの分類によって検査対象物の状態が判定され、この判定結果が判定結果記憶部75に記憶される。
【0036】
出力部8はニューラルネットワーク演算部7から判定結果を入力し、入力した判定結果に基づいて警告音を鳴らしたり、警告画面を表示したりする。
【0037】
次に、実施形態1の信号識別装置を用いた信号識別方法のうち学習方法について図5を用いて説明する。まず、特徴量抽出部2(図1参照)が、検査対象物(図示せず)の状態に基づく学習信号を特徴量抽出部2に入力する(S11)。その後、特徴量抽出部2が前処理を行ってノイズを除去した後(S12)、特徴量データ種類選択部3(図1参照)が特徴量データの種類を1乃至複数選択し、確度演算部6(図1参照)が、選択した種類ごとに乱雑度の総和を算出する(S13)。選択したすべての種類で確度を推定する(S14)。その後、確度演算部6が、乱雑度の総和が最小となる選択データセットを自動的に選択して学習用データセットとする(S15)。マップ作成部71(図1参照)が学習用データセットを教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70(図1参照)に入力してSOMでの学習を行い(S16)、検査対象物の状態を表す複数のカテゴリが設定されたクラスタリングマップを作成する(S17)。
【0038】
続いて、上記の学習方法のうち確度推定方法について図6を用いて詳細に説明する。まず、特徴量抽出部2(図1参照)がフーリエ変換を学習信号に施して周波数成分信号を生成する(S21)。その後、抽出範囲選択部4(図1参照)が抽出範囲の始終点周波数を初期化し(S22)、始点周波数を設定し(S23)、終点周波数を設定する(S24)。その後、特徴量抽出部2が周波数成分信号から特徴量データを複数抽出し、抽出した複数の特徴量データを選択データセットとする(S25)。その後、確度演算部6(図1参照)が、選択データセットに対して、複数の特徴量データの各要素を要素番号ごとに分け、各要素番号で要素を昇順に並び換えた状態で、並び換えた各要素を有する特徴量データに応じて複数領域に区分けされた判定画像60(図3(c)参照)を作成する(S26)。その後、要素番号ごとに複数領域の区分けの乱雑度を求め、各要素番号の乱雑度から乱雑度の総和を求める(S27)。このような処理を、下限値及び上限値の調節範囲の全範囲について行った後(S28),(S29)、乱雑度の総和が小さい順に選択データセットを並び換える(S30)。
【0039】
ここで、上記の技術を用いて良品と不良品とにカテゴリを分類する例について図7,8を用いて説明する。図7,8の横軸は周波数、縦軸は信号レベルを示し、符号GD,NGは、それぞれ良品と不良品とに対応する成分であることを意味する。図7(a),(b)は良品の周波数分布、図7(c),(d)は不良品の周波数分布を示している。図8(a)〜(c)は、それぞれ異なる抽出範囲の選択例であり、図8(a)は確度が最も高くなる場合、図8(c)は確度が最も低くなる場合を示している。また、抽出範囲は2区間を採用している。図8(a)〜(c)では図7(a)〜(d)の周波数分布を重ね合わせて示してあり、良品と不良品との周波数成分が混在している。図8(a)のように確度が最大になる抽出範囲を選択したときには、抽出範囲F1が良品の特徴を表し、抽出範囲F2が不良品の特徴を表す。これに対して、図8(b)では抽出範囲F2に不良品以外の良品に対応する周波数成分が存在しているからカテゴリの分類が曖昧になり、図8(c)では抽出範囲F1,F2で良品の周波数成分と不良品の周波数成分とが混在しているからカテゴリの分類がさらに曖昧になる。
【0040】
次に、実施形態1の信号識別装置を用いた信号識別方法のうち検査方法について図9を用いて説明する。まず、信号入力部1の振動センサ10又はマイクロホン11(図1参照)が検査対象物(図示せず)の状態を検出して電気信号に変換し、特徴量抽出部2(図1参照)が振動センサ10又はマイクロホン11から電気信号を検査信号として入力する(S31)。続いて、特徴量抽出部2が前処理を行ってノイズを除去した後(S32)、検査信号から周波数成分を要素とする特徴量データを抽出し、検査データを作成する(S33)。その後、クラスタ判定部72が検査データをクラスタリングマップに入力し(S34)、検査データをカテゴリに分類し、検査データの状態を判定する(S35)。
【0041】
以上、実施形態1によれば、検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定する際に、教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70による学習を行うことなく、選択した特徴量データの種類及び各要素の抽出範囲の組み合わせごとに自動的に行うことができるので、専門知識がなくても適切な学習用データセットを設定することができるとともに、学習用データセットの設定に必要な処理時間を大幅に短縮することができる。
【0042】
(実施形態2)
本発明の実施形態2について図1,10を用いて説明する。図10は、実施形態2の信号識別方法のうち確度推定方法を示すフローチャートである。
【0043】
まず、実施形態2の信号識別装置の構成について説明する。この信号識別装置は、図1に示すように、信号入力部1と、特徴量抽出部2と、特徴量データ種類選択部3と、抽出範囲選択部4と、学習データ記憶部5と、確度演算部6と、ニューラルネットワーク演算部7と、出力部8とを実施形態1の信号識別装置と同様に備えているが、実施形態1の信号識別装置にはない以下に記載の特徴部分を有する。
【0044】
実施形態2の特徴量データ種類選択部3は、特徴量データの種類として「FFT」に代えて「投影波形」を選択する。この選択により、実施形態2の抽出範囲選択部4は、特徴量データの抽出時間範囲(下限値及び上限値)を調節する。なお、実施形態2の特徴量データ種類選択部3及び抽出範囲選択部4は上記以外の点において実施形態1の特徴量データ種類選択部及び抽出範囲選択部と同様である。
【0045】
これにしたがって、実施形態2の特徴量抽出部2は、入力した学習信号ごとに抽出時間範囲を設定して特徴量データを複数抽出し、抽出した複数の特徴量データを選択データセットとする。なお、実施形態2の特徴量抽出部2は上記以外の点において実施形態1の特徴量抽出部と同様である。
【0046】
次に、実施形態2の信号識別装置を用いた信号識別方法の学習方法のうち確度推定方法について図10を用いて説明する。まず、抽出範囲選択部4(図1参照)が始点時間及び終点時間を初期化し(S41)、始点時間を設定し(S42)、終点時間を設定する(S43)。その後、特徴量抽出部2(図1参照)が学習信号のうち設定した抽出時間範囲の積を特徴量データとして複数抽出して選択データセットを作成する(S44)。その後、実施形態1の(S26),(S27)と同様に、確度演算部6が、選択データセットの複数の特徴量データを用いて判定画像60(図3(c)参照)を作成し(S45)、乱雑度の総和を求める(S46)。このような処理を、下限値及び上限値の調節範囲の全範囲について行った後(S47),(S48)、実施形態1の(S30)と同様に、確度演算部6が乱雑度の総和が小さい順に選択データセットを並び換える(S49)。
【0047】
その後は、実施形態1と同様に、確度演算部6(図1参照)が、乱雑度の総和が最小となる選択データセットを自動的に選択して学習用データセットとする。そして、マップ作成部71(図1参照)が学習用データセットを教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70(図1参照)に入力してSOMでの学習を行い、クラスタリングマップを作成する。
【0048】
なお、実施形態2の信号識別方法の学習方法及び検査方法は、上記以外の点において実施形態1の信号識別方法の学習方法及び検査方法と同様である。
【0049】
以上、実施形態2によれば、特徴量データの種類を「投影波形」に選択した場合であっても、検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定する際に、教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70による学習を行うことなく、選択した特徴量データの種類及び各要素の抽出範囲の組み合わせごとに自動的に行うことができるので、専門知識がなくても適切な学習用データセットを設定することができるとともに、学習用データセットの設定に必要な処理時間を大幅に短縮することができる。
【0050】
(実施形態3)
本発明の実施形態3について図1,11を用いて説明する。図11は、実施形態3の信号識別方法のうち確度推定方法を示すフローチャートである。
【0051】
まず、実施形態3の信号識別装置の構成について説明する。この信号識別装置は、図1に示すように、信号入力部1と、特徴量抽出部2と、特徴量データ種類選択部3と、抽出範囲選択部4と、学習データ記憶部5と、確度演算部6と、ニューラルネットワーク演算部7と、出力部8とを実施形態2の信号識別装置と同様に備えているが、実施形態2の信号識別装置にはない以下に記載の特徴部分を有する。
【0052】
実施形態3の抽出範囲選択部4は、実施形態2とは異なり、特徴量データに含まれる時間軸方向の配列に着目するのではなく、振幅に着目し振幅成分の分解能によって特徴量データを規定する。分解能を選択する際には、特徴量データの振幅が±1の範囲となるように正規化し、分解能を10〜1000までの範囲で刻み幅を10として探索する。この刻み幅は学習信号を量子化する際の分解能とする。ただし、分解能の選択範囲及び刻み幅は利用者が任意に設定してもよい。なお、実施形態3の抽出範囲選択部4は上記以外の点において実施形態2の抽出範囲選択部と同様である。
【0053】
次に、実施形態3の信号識別装置を用いた信号識別方法の学習方法のうち確度推定方法について図11を用いて説明する。まず、抽出範囲選択部4(図1参照)が分解能を初期化した後(S51)、分解能を10に設定する(S52)。その後、特徴量抽出部2(図1参照)が学習信号から特徴量データを複数抽出して選択データセットを作成する(S53)。その後、実施形態2の(S45),(S46)と同様に、確度演算部6が、選択データセットの複数の特徴量データを用いて判定画像60(図3(c)参照)を作成し(S54)、乱雑度の総和を求める(S55)。このような処理を、分解能を10ずつ増加させながら分解能が1000になるまで繰り返した後(S56)、実施形態2の(S49)と同様に、確度演算部6が乱雑度の総和が小さい順に選択データセットを並び換える(S57)。
【0054】
その後は、実施形態2と同様に、確度演算部6(図1参照)が、乱雑度の総和が最小となる選択データセットを自動的に選択して学習用データセットとする。そして、マップ作成部71(図1参照)が学習用データセットを教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70(図1参照)に入力してSOMでの学習を行い、クラスタリングマップを作成する。
【0055】
なお、実施形態3の信号識別方法の学習方法及び検査方法は、上記以外の点において実施形態2の信号識別方法の学習方法及び検査方法と同様である。
【0056】
以上、実施形態3によれば、学習信号の振幅の分解能を変化させた場合であっても、検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定する際に、教師なし競合学習型ニューラルネットワーク70による学習を行うことなく、選択した特徴量データの種類及び各要素の抽出範囲の組み合わせごとに自動的に行うことができるので、専門知識がなくても適切な学習用データセットを設定することができるとともに、学習用データセットの設定に必要な処理時間を大幅に短縮することができる。
【0057】
なお、実施形態1〜3のいずれかの変形例として、確度演算部6が、選択データセットに対して、複数の特徴量データの各要素を要素番号ごとに昇順ではなく降順に並び換えてもよい。このようにしても、実施形態1〜3と同様に、専門知識がなくても適切な学習用データセットを設定することができるとともに、学習用データセットの設定に必要な処理時間を大幅に短縮することができる。
【0058】
また、実施形態1〜3のいずれかにおける他の変形例として、特徴量データ種類選択部3が複数種類の特徴量データを選択してもよい。このような場合であっても、確度演算部6がそれぞれの選択データセットに対して乱雑度の総和を求め、乱雑度の総和が最も小さい選択データセットを学習用データセットとすることで、実施形態1〜3と同様に、専門知識がなくても適切な学習用データセットを設定することができるとともに、学習用データセットの設定に必要な処理時間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態1〜3における信号識別装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態1の信号識別装置による特徴量データの要素の範囲設定を説明するための図である。
【図3】同上の信号識別装置による乱雑度の算出方法を説明するための図である。
【図4】同上の信号識別装置による判定画像を示す図である。
【図5】同上の信号識別方法のうち学習方法を示すフローチャートである。
【図6】同上における信号識別方法のうち確度推定方法を示すフローチャートである。
【図7】同上の信号識別方法における特徴量データの要素の範囲設定方法を示す図である。
【図8】同上の信号識別方法における特徴量データの要素の範囲設定方法を示す図である。
【図9】同上の信号識別方法のうち検査方法を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施形態2における信号識別方法のうち確度推定方法を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態3における信号識別方法のうち確度推定方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
2 特徴量抽出部
3 特徴量データ種類選択部
4 抽出範囲選択部
6 確度演算部
7 ニューラルネットワーク演算部
70 教師なし競合学習型ニューラルネットワーク
71 マップ作成部
72 クラスタ判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
学習用データセットを競合学習型ニューラルネットワークに入力して、検査対象物の状態を表す複数のカテゴリが設定されたクラスタリングマップを作成した後に、前記検査対象物の状態に基づく検査データを前記クラスタリングマップに入力し、前記検査データを前記複数のカテゴリに分類する信号識別方法であって、
前記検査対象物の状態に基づく電気信号から抽出可能であり複数の要素をそれぞれ異なる要素番号に対応付けて有する特徴量データの種類と当該特徴量データの各要素の抽出範囲との組み合わせを選択可能とし、選択した前記組み合わせごとに前記電気信号から複数の前記特徴量データを抽出し、抽出した前記複数の特徴量データを選択データセットとした後に、前記選択データセットのそれぞれに対して、前記複数の特徴量データの各要素を前記要素番号ごとに分け、各要素番号で前記要素を昇順又は降順に並び換えた状態で、並び換えた各要素を有する特徴量データに応じて複数領域に区分けした後、各要素番号での前記複数領域の区分けから前記検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定し、推定確度の最も高い選択データセットを自動的に選択して前記学習用データセットとすることを特徴とする信号識別方法。
【請求項2】
前記選択データセットのそれぞれに対して、前記要素番号ごとに前記複数領域の区分けの乱雑度Ent(i)を次式で求め、その後、前記乱雑度の総和を求めて前記検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定した後、前記乱雑度の総和が最小となる選択データセットを前記推定確度の最も高い選択データセットとすることを特徴とする請求項1記載の信号識別方法。
【数1】

(ただし、pi(j)=(要素番号iにおけるj番目の領域の長さ)/(特徴量データの数)、M:要素番号iにおける領域の数)
【請求項3】
学習用データセットを競合学習型ニューラルネットワークに入力して、検査対象物の状態を表す複数のカテゴリが設定されたクラスタリングマップを作成するマップ作成手段と、前記検査対象物の状態に基づく検査データを前記クラスタリングマップに入力し、前記検査データを前記複数のカテゴリに分類する分類手段とを備える信号識別装置であって、
前記検査対象物の状態に基づく電気信号から抽出可能であり複数の要素をそれぞれ異なる要素番号に対応付けて有する特徴量データの種類を選択可能とする特徴量データ種類選択手段と、
前記特徴量データ種類選択手段で選択された前記特徴量データの種類に応じて当該特徴量データの各要素の抽出範囲を選択可能とする抽出範囲選択手段と、
前記特徴量データ種類選択手段で選択された前記特徴量データの種類と前記抽出範囲選択手段で選択した前記特徴量データの各要素の抽出範囲との組み合わせごとに、前記電気信号から複数の前記特徴量データを抽出し、抽出した前記複数の特徴量データを選択データセットとする特徴量抽出手段と、
前記選択データセットのそれぞれに対して、前記複数の特徴量データの各要素を前記要素番号ごとに分け、各要素番号で前記要素を昇順又は降順に並び換え、並び換えた各要素を含む特徴量データに応じて複数領域に区分けする機能、各要素番号での前記複数領域の区分けから前記検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定し、推定確度の最も高い選択データセットを自動的に選択して前記学習用データとする機能を有する確度演算手段と
を備えることを特徴とする信号識別装置。
【請求項4】
前記確度演算手段が、前記選択データセットのそれぞれに対して、前記要素番号ごとに前記複数領域の区分けの乱雑度Ent(i)を次式で求め、前記乱雑度の総和を求めて前記検査データのカテゴリ分類結果の確度を推定する機能、前記乱雑度の総和が最小となる選択データセットを前記推定確度の最も高い選択データセットとする機能を有することを特徴とする請求項3記載の信号識別装置。
【数2】

(ただし、pi(j)=(要素番号iにおけるj番目の領域の長さ)/(特徴量データの数)、M:要素番号iにおける領域の数)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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