説明

修飾ホスファターゼ

本発明は、ホスファターゼに関し、より詳細には、(遺伝的)修飾ホスファターゼ、(遺伝的)修飾ホスファターゼを有する医薬組成物、およびたとえば敗血症、炎症性腸疾患もしくは他の炎症性疾患または腎不全といった処置すなわち治療のための(遺伝的)修飾ホスファターゼの使用、に関する。本発明はさらに、ホスファターゼの生産方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファターゼに関し、より詳細には、(遺伝的)修飾ホスファターゼ、(遺伝的)修飾ホスファターゼを有する医薬組成物、およびたとえば敗血症、炎症性腸疾患もしくは他の炎症性疾患または腎不全などの処置すなわち治療のための(遺伝的)修飾ホスファターゼの使用、に関する。本発明はさらに、ホスファターゼの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスファターゼは、その基質を脱リン酸化する、すなわち、リン酸モノエステルを、リン酸イオンおよび遊離ヒドロキシル基を有する分子に加水分解する酵素である。この作用は、ATPのようなエネルギ分子を用いることによって基質にリン酸基を付着するホスホリラーゼおよびキナーゼの作用とは正反対である。ホスファターゼは、2つの主要カテゴリに分類され得る。すなわちシステイン依存性ホスファターゼ(CDP)およびメタロホスファターゼである。後者のホスファターゼは、活性のために、ホスファターゼの活性部位において1またはそれ以上の金属イオンの存在に依存する。
【0003】
CDPは、ホスホ−システイン中間体を介してリン酸エステル結合の加水分解を触媒する。遊離システイン求核剤が、リン酸部分のリン原子との結合を形成し、好適に配置された酸性アミノ酸残基または水分子のいずれかによって、リン酸基をチロシンに連結しているP−O結合がプロトン化される。ホスホ−システイン中間体はその後、別の水分子によって加水分解され、別の脱リン酸化反応のための活性部位を再生する。
【0004】
メタロホスファターゼは、1またはそれ以上の触媒作用に必須の金属イオンをその活性部位内に配位している。現在、これらの金属イオンの識別において幾分の混乱がある。なぜなら、これらの金属イオンを識別しようとする継続的な試みが、異なる回答をもたらすからである。現在、これらの金属は、マグネシウム、マンガン、鉄、亜鉛またはこれらのあらゆる組合せであり得るという証拠がある。2つの金属イオンをブリッジする水酸化イオンが、リン酸基への求核攻撃に参加すると考えられている。
【0005】
ホスファターゼは、たんぱくにリン酸基を追加するキナーゼ/ホスホリラーゼとは反対に作用する。リン酸基の追加は、酵素を活性化もしくは非活性化し得(たとえば、キナーゼシグナル経路)、またはたんぱく−たんぱく相互作用を生じさせることができる(たとえば、SH3ドメイン)。したがって、ホスファターゼは多くのシグナル変換経路に不可欠である。リン酸の追加および除去が、酵素の活性化または阻害に必ずしも対応しないこと、および種々の酵素が、機能調節を活性化または阻害する別個のリン酸化反応部位を有すること、に注意しなければならない。CDKはたとえば、リン酸化される特定のアミノ酸残基に依存して、活性化または非活性化され得る。リン酸は、リン酸が付着するたんぱくを調節するので、シグナル変換において重要である。調節効果を逆転させるのに、リン酸が除去される。これは、加水分解によって自身で起こるか、たんぱくホスファターゼによって媒介される。
【0006】
本発明を限定しないが、アルカリホスファターゼが、明細書に記載され、クレームされるホスファターゼの例としてより詳細に議論される。アルカリホスファターゼ(ALP)(EC 3.1.3.1)は、ヌクレオチド、たんぱくおよびアルカロイドを含む多くの種類の分子からリン酸基を除去するのに関与する加水分解酵素である。リン酸基の除去プロセスは、脱リン酸化と呼ばれる。名前が示すように、アルカリホスファターゼはアルカリ環境において最も効果的である。
【0007】
アルカリホスファターゼは、分子生物学の実験室において有用なツールとなっている。というのも、DNAは通常5’末端にリン酸基を有するからである。これらのリン酸の除去が、DNAをライゲーション(同一または他の分子の3’末端への5’末端の付着)から防止する;また、リン酸基の除去は、プロセスまたは実験におけるさらなるステップを通して標識DNAの存在を測定するための放射性標識(放射性リン酸基による置換)を可能とする。これらの目的のために、エビ由来のアルカリホスファターゼが最も有用である。というのも、一旦仕事が済むと、不活性化が最も容易であるからである。
【0008】
アルカリホスファターゼの別の重要な使用は、酵素イムノアッセイの標識としてのものである。
【0009】
さらに、アルカリホスファターゼは、たとえば敗血症、炎症性腸疾患または腎不全の治療に使用される。
【0010】
現在利用可能な(アルカリ)ホスファターゼは、診断および疾患の治療の双方において有用であるけれども、たとえば、改変された(たとえば改良された)比活性度、安定性(たとえば、in vivo T1/2、または貯蔵に関する安定性(保管寿命))または基質特異性を有する、代わりのホスファターゼが必要である。さらに、異なるpH、温度または塩(非)依存プロフィールを有するホスファターゼも必要である。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、代わりの(遺伝的)修飾ホスファターゼを提供する。
第1の実施形態において、本発明は、クラウンドメインおよび触媒ドメインを有する、単離または組換えアルカリホスファターゼを提供し、前記クラウンドメインおよび前記触媒ドメインは、異なるアルカリホスファターゼから得られる。これらの変異体は、ここではさらに「ドメインスワップ変異体」と呼ぶ。
【0012】
アルカリホスファターゼ(AP);IUBMB 酵素命名法に従うEC 3.1.3.1、一般名アルカリホスファターゼ(AP)は、リン酸モノエステルおよびHOの、アルコールおよびリン酸への反応を触媒する酵素である。APの他の名前は、アルカリホスホモノエステラーゼ;ホスホモノエステラーゼ;グリセロホスファターゼ;アルカリホスホヒドロラーゼ、アルカリフェニルホスファターゼ、オルトリン酸モノエステルホスホヒドロラーゼ(アルカリ最適)である。APの系統名は、リン酸モノエステルホスホヒドロラーゼ(アルカリ最適)である。
【0013】
APは、広い特異性の酵素であり、リン酸転移をも触媒する。ヒトおよび他の哺乳類において、少なくとも4つの異なる、関連するアルカリホスファターゼが周知である。ヒトにおいて、これらは、腸、胎盤、胎盤様、および肝臓/骨/腎臓(すなわち組織非特異的)アルカリホスファターゼである。最初の3つは、第2染色体に一緒に座乗し、組織非特異型は第1染色体に座乗する。APの正確な生理学的機能は知られていないが、APは、多くの生理学的プロセスに関与するように思われる。
【0014】
胎盤アルカリホスファターゼは、ここではALPPまたはPLAPと省略する。略称ALPIまたはIAPは、腸アルカリホスファターゼを表す。胎盤様2アルカリホスファターゼは、ここではALPP2、ALPGまたはGCAPと省略し、略称ALPL、TNSALP、TNAPまたはBLKは、ここでは肝臓/組織非特異的アルカリホスファターゼを表すのに使用される。同一のアルカリホスファターゼについての異なる略称は、ここでは同じように用いられる。
【0015】
立体配座の観点から、アルカリホスファターゼはおおよそ2つのドメイン、すなわちクラウンドメインおよび活性部位ドメインから成る。活性部位ドメインは、触媒残基および3つの金属イオン部位(Zn1、Zn2およびMg3)のように、別個の部分に分けることができる。一次構造の観点から、クラウンドメインは、活性部位ドメインを形成するアミノ酸の横に並ぶ(flank)ことが明らかである。ゆえに、好ましい実施形態において、触媒ドメインは、連続した配列のアミノ酸から構成されるのではなく、クラウンドメインの横に並んでいる。
【0016】
アルカリホスファターゼのアミノ酸配列、ならびに触媒ドメインおよびクラウンドメインの相対位置は、当業者によって周知である。例として、図1を参照して、これはとりわけ、4つのヒトアルカリホスファターゼのアミノ酸配列を示す。クラウンドメインはこれらの配列において下線が引かれている。本発明のドメインスワップ変異体は好ましくは、(下線が引かれているような)自身のクラウンドメインを、(下線が引かれているような)別のホスファターゼのクラウンドメインと置換することによって、作られた。たとえば、ALPPのクラウンドメインは、アミノ酸366〜430間に位置するので、クラウンドメインに関する好ましい実施形態において、図1のアミノ酸366〜430に対応する。すなわち、好ましい実施形態において、本発明は、クラウンドメインおよび触媒ドメインを有する単離または組換えアルカリホスファターゼを提供し、前記クラウンドメインおよび前記触媒ドメインは、異なるアルカリホスファターゼから得られ、図1のALPPのクラウンドメインは、アミノ酸366〜430間に位置する。
【0017】
アルカリホスファターゼは、細菌からヒトまで、実質的にすべての生物に存在する。好ましい実施形態において、本発明は、クラウンドメインおよび触媒ドメインを有する、単離または組換えアルカリホスファターゼを提供し、前記クラウンドメインおよび前記触媒ドメインは、異なるアルカリホスファターゼから得られ、前記異なるホスファターゼの少なくとも1つは、ヒトホスファターゼである。他方のホスファターゼは、たとえばECAP(Escherichia coliアルカリホスファターゼ)または7つの周知のBIAP(ウシ腸アルカリホスファターゼ)の1つである。好ましい実施形態において、本発明は、クラウンドメインおよび触媒ドメインを有する、単離または組換えアルカリホスファターゼを提供し、前記クラウンドメインおよび前記触媒ドメインは、異なるアルカリホスファターゼから得られ、異なるアルカリホスファターゼは、ヒトホスファターゼである。このことは、修飾ホスファターゼがその後、たとえば敗血症、炎症性腸疾患もしくは他の炎症性疾患または腎不全の治療といった、ヒトの治療において用いられる場合に、特に有用である。ヒト起源のそのような(遺伝的)修飾ホスファターゼは、免疫原性がない、または非常に低いと予想される。しかし、当業者にとって、修飾ホスファターゼがたとえば「in vitro」または「ex vivo」診断で使用される場合、修飾ホスファターゼは、たとえばヒトおよびE. coliのアルカリホスファターゼで構成されてもよいこと、またはウシおよびE. coliのアルカリホスファターゼで構成されてもよいことは、明確である。
【0018】
さらに別の好ましい実施形態において、本発明は、クラウンドメインおよび触媒ドメインを有する、単離または組換えアルカリホスファターゼを提供し、前記クラウンドメインおよび前記触媒ドメインは、異なるアルカリホスファターゼから得られ、前記クラウンドメインは、ALPPのクラウンドメインであり、前記触媒ドメインは、ALPIの触媒ドメインである。好ましくは、前記異なるホスファターゼの少なくとも1つは、ヒトホスファターゼであり、さらにより好ましい実施形態において、双方の異なるホスファターゼは、ヒトホスファターゼである。
【0019】
本発明まで、アルカリホスファターゼの触媒ドメインは、比活性に関して、最も重要であると一般に考えられた。さらに、クラウンドメインは、アルカリホスファターゼの安定性に関与すると考えられた。ゆえに、ALPIの触媒ドメインおよびALPPのクラウンドメイン(さらに触媒ALPI/クラウンALPPと呼ぶ)を有する組換えアルカリホスファターゼを試験すると、この組換えアルカリホスファターゼの活性は、ALPIの活性に匹敵すると予想されていた。しかし、たとえばFreestyle(商標)293発現培地(GIBCO)といった、Zn2+のない、または非常に少ない培地における触媒ALPI/クラウンALPPの生産が、おおよそ600U/mgの比活性度をもたらしたが、同じ細胞系および同じ培地で生産されたALPIは、約30U/mgの比活性度をもたらした。
【0020】
さらにより驚いたのは、生産細胞の増殖培地にZn2+イオンを加える効果であった:このことは、触媒ALPI/クラウンALPPの比活性度にほとんど効果がないが、ALPIの比活性度は、おおよそ750U/mgに増大した。生産後のよく似た濃度のZn2+の追加が、16時間後のALPIの比活性度においてほんの2倍の増大を誘導しただけであった。
【0021】
これらの結果の要約が、表1および表2に挙げられる。
理論に制約されるのではないが、ALPPのクラウンドメインは、生産された組換え触媒ALPI/クラウンALPPに立体配座変化を与え、この立体配座変化が、より高い比活性度およびZn2+非依存性酵素をもたらすと思われる。すなわちALPPのクラウンドメインの存在は、比較的高い比活性度をもたらし、Zn2+非依存性であると考えられる。
【0022】
さらに、ALPIは、酵素の比活性度を増大させるのに、生産中、高いZn2+濃度を必要とするだけでなく、ALPIの比活性度は、Zn2+欠乏培地において24時間以内に減少するが、同じ条件下で、触媒ALPI/クラウンALPPは、その初期の比活性度を維持することが示された。これらの結果は、in vivo活性がZn2+非依存性であることを暗示している。活性がZn2+非依存性であるそのような酵素は、Zn2+欠乏が病状の一部である病気(たとえば、栄養不良、アルコール依存症および腸完全性障害、敗血症または炎症性疾患を概して含む慢性感染症)において、またはZn2+の追加が禁忌であるかもしれない病気(たとえば、敗血症の急性期、自己免疫疾患)において、有用であり得る。生産および用途の利点は別として、触媒ALPI/クラウンALPPは、貯蔵中の安定性に関しても利点を有する。
【0023】
上に述べたように、ALPIなどの天然APは、低いZn2+濃度の環境においてその酵素活性を失うことが示されてきた。ゆえに、Zn2+欠乏が病状の一部である疾患において、前記天然のAPは、最も有益であると考えられる部位、たとえば炎症の部位にて、その酵素活性を現すことができない。反対に、たとえば触媒ALPI/クラウンALPPといった、低いZn2+濃度に感受性でない組換えAPは、低いZn2+濃度の環境において、たとえば炎症部位にて、その活性を維持する。健康な個体で、Zn2+血清標準値が10〜20μMである。たとえば、アルコール依存症において、または栄養不良中、そのレベルは10μM未満、または1μM未満にさえ減少し得る。ヒトの体内の種々の酵素は、その活性のためにZn2+に依存しており、たとえば免疫応答は、充分なレベルのZn2+が存在すれば、より効果的である。免疫システムの先天的部分および特異的部分は、亜鉛によって影響されることが知られており、亜鉛含有たんぱくが炎症部位に蓄積することが立証されてきた。さらに、リウマチ性関節炎、敗血症およびクローン病などの(亜)慢性炎症は、血清亜鉛欠乏を呈する。驚いたことに、本発明はまた、触媒ALPI/クラウンALPPが、非修飾(組換え体)アルカリホスファターゼよりもかなり広いpH範囲においてその活性を維持するという見識を与える。炎症および/または虚血などの多くの疾患が、組織のpHの攪乱を包含するという事実を踏まえて、触媒ALPI/クラウンALPPは、そのような疾患の治療に特に有用である。したがって、1つの実施形態において、本発明は、ALPIの触媒ドメインおよびALPPのクラウンドメインを、好ましくは攪乱された組織のpHが付随する疾患の治療における使用のための薬剤として有するホスファターゼの使用を提供し、好ましくは前記疾患が、炎症性疾患および/または虚血が付随する疾患を含む。
【0024】
本発明は、ALPIの触媒ドメインおよびALPPのクラウンドメインを有する組換えホスファターゼ(触媒ALPI/クラウンALPP)が、局所性または全身性Zn2+欠乏が付随する疾患の治療に特に有用であるという見識を与える。したがって別の実施形態において、本発明は、ALPIの触媒ドメインおよびALPPのクラウンドメインを、好ましくはZn2+欠乏が付随する疾患の治療における使用のための薬剤として有するホスファターゼの使用を提供する。好ましくは、前記疾患は、より好ましくは、自己免疫疾患、リウマチ性関節炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化、炎症性腸疾患、敗血症、神経皮膚炎および表10に表わされる疾患から成る群から選ばれる、炎症性疾患を含む。
【0025】
別の実施形態において、本発明は、Zn2+欠乏が付随する疾患の治療のための薬剤の調製における、ALPIの触媒ドメインおよびALPPのクラウンドメインを有するホスファターゼの使用を提供し、好ましくは、前記疾患は炎症性疾患を含み、より好ましくは、自己免疫疾患、リウマチ性関節炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化、炎症性腸疾患、敗血症、神経皮膚炎および表10に表わされる疾患から成る群から選ばれる疾患を含む。
【0026】
さらに別の実施形態において、本発明は、Zn2+欠乏が付随する疾患を治療するための、対象(好ましくはヒト)の治療方法を提供し、前記治療方法は、ALPIの触媒ドメインおよびALPPのクラウンドメインを有する有効量のホスファターゼを、ホスファターゼを必要とする対象に投与することを含み、前記疾患は、好ましくは炎症性疾患を含み、より好ましくは、自己免疫疾患、リウマチ性関節炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化、炎症性腸疾患、敗血症、神経皮膚炎および表10に表わされる疾患から成る群から選ばれる。
【0027】
別の好ましい実施形態において、本発明は、クラウンドメインおよび触媒ドメインを有する、単離または組換えアルカリホスファターゼを提供し、前記クラウンドメインおよび前記触媒ドメインは、異なるアルカリホスファターゼから得られ、前記クラウンドメインはALPIのクラウンドメインであり、前記触媒ドメインはALPPの触媒ドメインである(さらに触媒ALPP/クラウンALPIと呼ぶ)。好ましくは、前記異なるホスファターゼの少なくとも1つは、ヒトホスファターゼであり、さらにより好ましい実施形態において、双方の異なるホスファターゼは、ヒトホスファターゼである。
【0028】
ヒトアルカリホスファターゼに基づく他の好ましいドメインスワップ変異体は以下のとおりである。

【0029】
明瞭にする目的で、ALPIは腸APであり、ALPPは胎盤APであり、GCAPは胎盤様APであり、TNAPは組織非特異的APである。
【0030】
ECAPまたはヒト型(ALPI、ALPP、GCAPまたはTNAP)のいずれかの触媒ドメインと、BIAPのクラウンドメインとの組合せもなされ得ることが明らかである。さらに、BIAPのクラウンドメインとECAPまたはヒト型のいずれかの触媒ドメインとの組合せも生産され得る。
【0031】
明細書、例および当該技術の文献を通して、他の命名が、アルカリホスファターゼの各アイソフォームを指定するのに使用される。明瞭にする目的で、以下の表において、一般に使用される、または本願において使用される、名前および略称が記載される。

【0032】
有用な修飾ホスファターゼの別のクラスは、自然条件下では、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカを介して細胞膜に連結するホスファターゼであるが、ホスファターゼはもはや細胞膜に付着しないように今や修飾される。GPIアンカされるホスファターゼの例は、アルカリホスファターゼおよび5 ’-ヌクレオチダーゼである。すべてのアイソザイムは、細胞膜において機能的にアクティブであり、GPIアンカ欠損型は、検出可能なレベルで自然に存在しない。血清アルカリホスファターゼ活性が明示されてきたけれども、酵素は、放出膜画分または膜小胞においてなお存在することが通常認められる。乳汁のAP活性は、膜小胞を含む画分にも存在する。GPIアンカは、トランスアミダーゼを介して付着部位に付着する、前駆体分子として細胞に貯蔵される。GPIアンカのバックボーンは哺乳類において同一であるが、細胞型依存性修飾が知られている。
【0033】
アルカリホスファターゼは、原形質膜と関連して、そのGPIアンカを介して、主に見られる。たとえば、好中球が、炎症性微環境内に酵素を放出する代わりに、好中球の負にチャージされた細胞膜のバックグラウンドに対して酵素を提示する。この理由により、APの最適なin vivo活性のために、酵素は、細胞膜または小胞膜に組込まれなければならないことが一般的に認められる。さらに、ポリアニオン性基質が、アルカリ性のpHにて通常最適であるホスファターゼ酵素およびその誘導体のホスファターゼ活性、特にアルカリホスファターゼのホスファターゼ活性に好適なアニオン性条件にさらに寄与し得ることが観察されてきた。
【0034】
ヒト対象者におけるAPの医薬的使用について、ほとんどの用途について、ヒト型の酵素を薬剤および治療に適用することが必要条件である。というのも、他種から得られたAP型は、ヒト対象者において免疫原性となり得、治療が免疫学的反応および病理学的副作用を引起し得るからである。いくつかの対象において、致死的な副作用、すなわちアナフィラキシショック(発明者らの動物研究で示された)でさえ起こり得るので、免疫学的副作用の危険は最小化されなければならない。ヒトからのAPの単離は、実際的に実現可能ではないので、APたんぱくのヒト組換え型が、異なる組換え発現プラットフォームにおいて、定められた手順に従って生産され得る。しかし、GPI含有の膜アンカたんぱくの発現および精製は、知っての通り困難である。GPIたんぱくは、膜から分離するのが困難であり、単離および精製するのが困難である。しかし、GPIアンカおよび膜局在性は、APの生物学的活性に不可欠であると常にみなされてきた。
【0035】
本発明のこの部分は、GPIアンカを欠くヒトAP酵素が、可溶性であり、組換えたんぱく発現システムによって容易に分泌され、肝細胞ベースの生物学的アッセイにおいて、生理学的pHレベルにてかなりのホスファターゼ活性を、生物学的に関連のあるリン酸化基質に向けて提示するという驚くべき発見に基づいている。
【0036】
1つの実施形態において、本発明は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)シグナル配列における修飾を含む、単離または組換えホスファターゼを提供し、前記修飾は分泌ホスファターゼをもたらす、すなわちホスファターゼは細胞膜に付着しない。
【0037】
好ましい実施形態において、本発明は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)シグナル配列における修飾を含む、単離または組換えホスファターゼを提供し、前記修飾は、生物学的にアクティブである、すなわち生物学的(関連)基質に向けて活性を示す分泌ホスファターゼをもたらす。
【0038】
GPIアンカの付着に関与する一般的な配列はないが、明確なコンセンサスはある。
1)C−末端のアミノ酸の疎水性ストレッチ(少なくとも11のアミノ酸だが、好ましくは12以上のアミノ酸)
2)疎水性領域の上流に、親水性アミノ酸のスペーサ(5〜12のアミノ酸)
3)GPIが、小さいアミノ酸:グリシン、アスパラギン酸、アスパラギン、アラニン、セリンまたはシステイン、に付着している
4)GPI付着部位の下流の、2つの続くアミノ酸は、小さいアミノ酸でなければならず、大多数の場合、グリシン、アスパラギン酸、アスパラギン、アラニン、セリンまたはシステインから選ばれる。
【0039】
このコンセンサスに基づいて、当業者はたとえば、1つまたは多数のアミノ酸を挿入し、コンセンサスの一部を乱すことによって、コンセンサスを変異させることができる。しかし、好ましい実施形態において、本発明は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)シグナル配列における修飾を含む、単離または組換えホスファターゼを提供し、前記修飾は分泌ホスファターゼを提供し、前記修飾は、コンセンサスGPIシグナル配列を包含するアミノ酸配列の変異または欠失を含む。
【0040】
ヒトの治療における用途について、結果として得られる修飾ホスファターゼは、免疫原性がない、または非常に低いこと、すなわち修飾ホスファターゼは、原則的にヒト起源のものであることが所望される。好ましい実施形態において、本発明は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)シグナル配列における修飾を含む、単離または組換えホスファターゼを提供し、前記修飾は(好ましくは生物学的に関連のある基質に対する活性を有する)分泌ホスファターゼをもたらし、前記ホスファターゼは、ヒトホスファターゼである。
【0041】
GPIアンカされるホスファターゼの例は、アルカリホスファターゼおよび5’−ヌクレオチダーゼであるので、好ましい実施形態において、本発明は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)シグナル配列における修飾を含む、単離または組換えホスファターゼを提供し、前記修飾は分泌ホスファターゼをもたらし、前記ホスファターゼは、たとえば、ヒト肝−腎−骨ホスファターゼ、ヒト腸アルカリホスファターゼ、またはヒト胎盤様アルカリホスファターゼなどのヒトアルカリホスファターゼといったアルカリホスファターゼである。
【0042】
記載されるあらゆる分泌型修飾ホスファターゼは、たとえば、宿主細胞内に、前記分泌型ホスファターゼを調節配列と操作可能に連鎖してコードし、前記宿主細胞が前記分泌型ホスファターゼを発現することを可能にする核酸を導入することによって、および生産されたホスファターゼを、宿主細胞が増殖および/または維持される培地から随意的に単離することによって、生産し得ることが明確である。しかし、前述のGPI付着配列における変異とは別に、GPIアンカなしの分泌たんぱくを作る他の方法が存在する。
【0043】
1)膜アンカたんぱくとしての発現後、GPIアンカを切除するのにホスホリパーゼが使用されてもよい。ゆえに、本発明はまた、膜アンカホスファターゼを発現することができる宿主を培養することを含む分泌ホスファターゼの生産方法を提供し、前記宿主細胞が、前記ホスファターゼを生産することを可能にし、得られた細胞をホスホリパーゼとインキュベートして、放出されたホスファターゼを随意的に単離する。膜アンカホスファターゼは、たとえば、野生型(または自然もしくは非修飾の)ホスファターゼである。しかし、膜アンカホスファターゼは、その配列の他の部分(たとえばクラウンドメイン)に変異を含むことができる。
【0044】
2)GPIアンカの生産への干渉、またはGPIアンカ生産が欠損している細胞(型)の使用が、そうでなければGPI−アンカされるたんぱくの分泌型を作るのに利用されてもよい。GPIアンカリング生化学が欠損させられた細胞系の例は、たとえばJur kat、AM-B、C84、BW、S49、CHOおよびRajiである。さらに別の実施形態において、本発明は従って、分泌型(アルカリ)ホスファターゼを発現することができる宿主細胞(たとえば、言及した修飾分泌(アルカリ)ホスファターゼのいずれかをコードする核酸配列を有する宿主細胞)を培養することを含む分泌ホスファターゼの生産方法を提供し、前記宿主が前記分泌型ホスファターゼを生産することを可能にし、生産されたホスファターゼを随意的に単離し、前記宿主細胞は、機能的GPIアンカたんぱくの生合成が可能ではない。しかし、宿主細胞は、機能的GPIシグナル配列を有するホスファターゼを生産してもよい。
【0045】
3)トランスアミダーゼへの干渉、またはトランスアミダーゼが欠損した細胞の使用が、たんぱくへのGPIアンカの付着を阻害するのに使用されてもよく、たんぱくをアンカなしに、かつ分泌可能にする。このような欠損細胞は、CHOにおける変異生成を通して得られた。
【0046】
クラウンドメインおよび触媒ドメインを有する修飾ホスファターゼであって、前記クラウンドメインおよび前記触媒ドメインが、異なるアルカリホスファターゼから得られる修飾ホスファターゼが、さらに修飾され、分泌可能にされることが可能であることは、当業者に明らかである。ゆえに、好ましい実施形態において、本発明は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)シグナル配列に修飾を含む、単離または組換えホスファターゼを提供し、前記修飾が分泌ホスファターゼをもたらし、前記組換えホスファターゼはさらに、異なるホスファターゼから得られるクラウンドメインおよび触媒ドメインを有する。このような(アルカリ)ホスファターゼ変異体の例が、図1に与えられる。このような結合または「二重」変異体は、たとえば、ある比活性、安定性または基質特異性を有する修飾ホスファターゼをもたらすと同時に、このような生産物の生産は、生産細胞を囲繞する培地から単離することができるという事実によって、大いに改善する。
【0047】
アルカリホスファターゼの触媒ドメインは、酵素の一次配列において隣接しない様々なアミノ酸配列から構成される。触媒ドメインは、脱リン酸化反応において基質から切除されたリン酸基のアクセプタとして機能する触媒セリン残基(ALPPにおけるSer92)を含む。酵素の触媒ドメインはさらに、1またはそれ以上の金属イオンを有する。触媒ドメイン内に含まれる特定のアミノ酸残基が、脱リン酸化反応に関与する金属イオンの結合および配位に関与する。ALPPにおいて、金属配位残基は:Asp42、His153、Ser155、Glu311、Asp316、His320、Asp357、His358、His360およびHis432である。
【0048】
さらに別の実施形態において、本発明は、触媒残基付近および/または金属イオン配位リン酸結合ポケット内に変異を有する、単離または組換えホスファターゼを提供する。当業者は、触媒残基周り(すなわち、好ましくは立体配座の、触媒残基付近の)、および/または金属イオン配位リン酸ポケット内の、アミノ酸を確実に識別し、変異させることができる。すでに前述されたように、ホスファターゼの配列は周知である。例のように、図1は、とりわけ4つのヒトアルカリホスファターゼのアミノ酸配列を示す。
【0049】
好ましい実施形態において、本発明は、触媒残基付近および/または金属イオン配位リン酸結合ポケット内に変異を有する、単離または組換えホスファターゼを提供し、前記ホスファターゼはヒトホスファターゼである。このことは、修飾ホスファターゼがその後、たとえば敗血症、炎症性腸疾患もしくは他の炎症性疾患または腎不全の治療といった、ヒトの治療において用いられる場合に、特に有用である。ヒト起源のそのような(遺伝的)修飾ホスファターゼは、免疫原性がない、または非常に低いと予想される。しかし、当業者にとって、修飾ホスファターゼがたとえば「in vitro」または「ex vivo」診断で使用される場合、修飾ホスファターゼは、たとえばヒトおよびE. coliのアルカリホスファターゼで構成されてもよく、またはウシおよびE. coliのアルカリホスファターゼで構成されてもよいことは、明確である。
【0050】
さらに別の好ましい実施形態において、前記ホスファターゼはアルカリホスファターゼである。
【0051】
金属イオン配位リン酸結合ポケットは、少なくともヒトアルカリホスファターゼアイソフォームについて、保存されている。このポケットは、2つのZn結合ストレッチおよび1つのMg結合ストレッチから構成され、Zn1についてアミノ酸Asp316、His320およびHis432を、Zn2についてAsp42、Asp357およびAsp358を、ならびにMgについてSer155およびGlu31をそれぞれ有する(図1のALPPが参照される)。
【0052】
配位アミノ酸残基および/または配位残基付近に配置される残基の変異が、積極的または消極的に、結果として生じる変異体酵素の触媒特性に影響を及ぼしそうである。たとえば、ALPPにおいて、アミノ酸残基44,87,93,322,323および429が、配位残基付近に配置される。これらの残基の、ALPIの対応する1,2,3または4つのアミノ酸との置換による変異生成が、酵素の触媒特性に影響を及ぼし得る。逆に、ALPIのアミノ酸残基44,87,93,322,323および429の、ALPPの対応するアミノ酸との置換が、ALPI酵素の触媒特性に影響を及ぼし得る。表4および表5は、置換され得るアミノ酸(の組合せ)を示す。
【0053】
ゆえに、好ましい実施形態において、本発明は、触媒残基付近および/または金属イオン配位リン酸結合ポケット内に変異を有する、単離または組換えホスファターゼを提供し、前記変異は、表4、表5または表6に表わされるような変異である。
【0054】
触媒残基付近および/または金属イオン含有リン酸結合ポケット内に変異を有する、単離または組換えホスファターゼが、たとえばGPIシグナル配列において修飾を有するようにさらに修飾されることが可能であることは、当業者に明らかである。このような変異体は、触媒のドメインおよびクラウンドメインによって、すなわち前記クラウンドメインおよび触媒ドメインが異なるホスファターゼから得られるように、さらに修飾されることさえ可能である。
【0055】
さらに別の実施形態において、触媒残基付近および/または金属イオン配位含有リン酸結合ポケット内に変異を有する、単離または組換えホスファターゼが、触媒およびクラウンドメインのドメインスワップによってさらに修飾される、すなわち前記クラウンドメインおよび触媒ドメインが異なるホスファターゼから得られるようにすることも可能である。
【0056】
さらに、さらに別の実施形態において、本発明は、触媒残基付近および/または金属イオン配位リン酸結合ポケット内に変異を有する、単離または組換えホスファターゼを提供する。
【0057】
記載されたあらゆる(遺伝的)修飾ホスファターゼに達するための分子生物学の技術は、当業者にとって周知であり、制限酵素インキュベーション、ライゲーション、PCR、変異の導入などの技術を含む。
【0058】
さらに別の実施形態において、本発明は、たとえば、ドメインスワップ変異体をコードする核酸配列、分泌ホスファターゼをコードする核酸、または分泌ドメインスワップ変異体をコードする核酸配列など、明細書に記載されるホスファターゼをコードする核酸配列を提供する。本発明はさらに、明細書に記載されるホスファターゼをコードする核酸配列を有するベクタを提供する。このようなベクタは好ましくは、ホスファターゼをコードする核酸配列の転写/翻訳に必須の要素(たとえば、プロモータおよび/または終了配列)などの、追加的な核酸配列を含む。前記ベクタは、前記ベクタで形質転換された宿主細胞を選択または維持するための選択マーカ(たとえば抗生物質)をコードする核酸配列を有してもよい。適切なベクタの例は、クローニングベクタまたは発現ベクタである。適切な宿主細胞における発現を仲介するのに適切なあらゆるベクタが、宿主細胞において統合されるか、エピソームとして複製するかのいずれかで、本発明に従って使用されてもよい。ベクタは、プラスミド、(レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、バキュロウイルスを含む)ウイルス、コスミド、ファージもしくはファージミド、エピゾームベクタまたは人工染色体であってもよい。
【0059】
さらに、本発明はまた、明細書に記載される核酸配列またはベクタを有する宿主細胞を提供する。細胞は、組換えたんぱくの生産に適している、真核細胞、好ましくは哺乳類細胞、植物細胞または酵母細胞であってもよい。適切な酵母宿主細胞は、Saccharomyces
cerevisiaeおよびPichia pastorisを含む。好ましい宿主細胞は、BHK、HEK293、CHOまたはPerC6(商標)などの、哺乳類(またはより好ましくはヒト)由来細胞である。
【0060】
明細書に記載されるホスファターゼをコードする核酸配列、前記核酸配列を有するベクタ、前記核酸配列を有する宿主細胞、または前記核酸配列を有するベクタが、修飾ホスファターゼの生産に非常に有用である。ホスファターゼはグリコシル化部位を含むので、ホスファターゼは好ましくは、所望のグリコシル化パターンを提供する細胞において生産される。好ましい実施形態において、使用される生産システムは、哺乳類(たとえばヒト)in vitro生産プラットフォームであり、さらにより好ましくは、生産は大規模生産を含む。別の好ましい実施形態において、用いられる生産システムは、人工のヒト様グリコシル化パターンが導入される、植物、酵母または哺乳類(好ましくは非ヒト)プラットフォームである。
【0061】
異なる生産方法を試験すると、本発明の発明者らは驚いたことに、野生型または変異体(アルカリ)ホスファターゼの生産中のZn2+イオンの存在が、生産されるホスファターゼの比活性度に影響を及ぼし得ることを見出した。たとえば、ALPIの比活性度は、使用される宿主細胞の増殖培地にZn2+を加えることによって、30U/mgから750U/mgに増大し得る。宿主細胞を培養するのに標準的に使用される培地は、0.5〜3nM Zn2+を有する。1mMまでZn2+を加えると、比活性度が大幅に改善した。したがって、ALPIはZn2+依存性ホスファターゼであると結論される。このことは、Zn2+非依存性であるように思われる、すなわち、宿主細胞の培養中のZn2+の不在が、生産されるホスファターゼの比活性度に有意に影響を及ぼさず、貯蔵中および反応中のZn2+の不在が、比活性度を低下させない、すでに記載した触媒ALPI/クラウンALPP変異体とは対照的である。
【0062】
さらに別の実施形態において、本発明はホスファターゼの生産方法を提供し、Zn2+を有する培地において前記ホスファターゼを発現することができる宿主細胞を培養し、細胞が前記ホスファターゼを生産することを可能にすることを含む。好ましい実施形態において、前記宿主細胞は哺乳類細胞であり、別の好ましい実施形態において、前記ホスファターゼはヒトホスファターゼである。さらに別の実施形態において、前記ホスファターゼはアルカリホスファターゼである。本発明の方法は、野生型(または自然もしくは非遺伝的修飾の)ホスファターゼを生産するのに使用することができ、たとえば明細書に記載されるあらゆるホスファターゼである、遺伝的修飾ホスファターゼを生産するのにも同様に使用することができる。
【0063】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、ホスファターゼの生産方法を提供し、前記方法は、Zn2+を有する培地において前記ホスファターゼを発現することができる宿主細胞を培養し、細胞が前記ホスファターゼを生産することを可能とすることを含み、前記方法はさらに、前記ホスファターゼを単離することを含む。本発明はさらに、ホスファターゼの生産方法によって得ることができるホスファターゼを提供し、前記生産方法は、Zn2+を有する培地において前記ホスファターゼを発現することができる宿主細胞を培養し、細胞が前記ホスファターゼを生産することを可能とすることを含む。
【0064】
明細書に記載される(遺伝的)修飾ホスファターゼがある比活性度、ある基質特異性またはある安定性(たとえばpH、温度、in vivo半減期の時間)を有するか否かは、当業者が、市販の基質を用い、アルカリホスファターゼとのインキュベートによる無機リン酸の放出を市販のキットで測定することによって、容易に試験することができる。さらに、修飾ホスファターゼが生物学的に関連のある活性を有するかを判定する、明細書の実験部に記載の試験を用いることも可能である。
【0065】
すでに言及したように、明細書に記載の(遺伝的)修飾ホスファターゼは、診断および治療に有用である。1つの実施形態において、本発明は、たとえば、
クラウンドメインおよび触媒ドメインを有し、前記クラウンドメインおよび前記触媒ドメインは、異なるアルカリホスファターゼから得られる、単離もしくは組換えアルカリホスファターゼ、
グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)シグナル配列において修飾を有し、前記修飾が分泌ホスファターゼをもたらす、単離もしくは組換えホスファターゼ、
触媒残基付近に変異を含む、単離もしくは組換えホスファターゼ、
またはそれらのあらゆる組合せといった、修飾ホスファターゼを有する医薬組成物を提供する。前記医薬組成物は随意的に、医薬的に受入れ可能なキャリア、希釈剤または賦形剤を有する。
【0066】
医薬組成物は、たとえばタブレットとして、注射可能な液体として、または点滴液としてなど、あらゆる形態で提示されてもよい。さらに、(遺伝的)修飾ホスファターゼは、たとえば静脈、直腸、気管支または経口といった、異なる経路を介して投与することができる。投与のさらに別の適切な経路は、十二指腸点滴の使用である。
【0067】
好ましい実施形態において、投与の使用経路は静脈内投与である。当業者にとって、好ましくは有効量の(遺伝的)修飾ホスファターゼが供給されることが明らかである。開始点として1〜5,000U/kg/日を使用することができる。静脈経路の投与が用いられる場合、(遺伝的)修飾ホスファターゼが(少なくともある時間)好ましくは持続注入を介して適用される。
【0068】
組成物は随意的に、医薬的に許容可能な賦形剤、安定剤、活性剤、キャリア、浸透剤、推進剤、消毒剤、希釈剤および防腐剤を有してもよい。適切な賦形剤は、医薬製剤の技術において周知であり、当業者によって容易に獲得および適用され得、たとえば参考文献にRemmington’s Pharmaceutical Sciences(Mace Publishing社、ペンシルベニア州フィラデルフィア、第17版編、1985年)がある。
【0069】
経口投与について、分泌型APはたとえば、カプセル、(好ましくは腸溶性コーティングを施した)タブレットおよび粉末などの固形剤形状で、またはエリクサ、シロップおよび懸濁液などの液体剤形状で投与することができる。APは、グルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、でんぷん、セルロースまたはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、滑石、炭酸マグネシウムなどの非活性成分および粉末キャリアとともに、ゼラチンカプセル内に封入することができる。所望の色、味、安定性、緩衝能力、分散または他の周知の所望の特徴を与えるのに追加され得る追加的非活性成分の例は、赤色酸化鉄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、可食白色インクなどである。同様の希釈剤は、圧縮タブレットを製造するのに使用することができる。数時間かけた薬剤の継続的放出を提供する持続的放出産物として、タブレットおよびカプセルの双方を製造することができる。圧縮タブレットは、不快なあらゆる味を覆い隠すために、およびタブレットを空気から保護するために、糖衣もしくはフィルムコーティングすることができ、または消化管における選択的分解のために腸溶コーティングすることができる。経口投与のための液体剤形状は、患者の受入れを高めるために色付けおよび香り付けを含むことができる。
【0070】
好ましい実施形態において、(遺伝的)修飾ホスファターゼの源を含む組成物は、経口投与に適しており、胃液および低pHの悪影響からAPを保護する腸溶コーティングを有する。腸溶コーティングおよび制御放出製剤は、当該技術において周知である。当該技術における腸溶コーティング組成物は、水溶液中に分散し、その後乾燥および/またはペレット化されてもよい、(遺伝的)修飾ホスファターゼおよび他の賦形剤などの活性成分と混合された水溶性腸溶コーティングポリマの溶液から構成されてもよい。形成された腸溶コーティングは、貯蔵中の大気水分および酸素、ならびに摂取後の胃液および低pHによる(遺伝的)修飾ホスファターゼの攻撃に対して抵抗性を示す一方で、より下位の腸管に存在するアルカリ条件下で容易に分解する。
【0071】
前述の医薬組成物は、たとえば敗血症、炎症性腸疾患もしくは他の炎症性疾患および/または腎不全などの治療に非常に有用である。
【0072】
したがって、別の実施形態において、本発明は、好ましくは敗血症、炎症性腸疾患、腎不全、ならびにリウマチ性関節炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化、炎症性腸疾患、敗血症、神経皮膚炎および表10に表わされる疾患から成る群から好ましくは選ばれる炎症の治療用の薬剤としての使用のための、明細書に記載される(遺伝的)修飾ホスファターゼを提供する。
【0073】
さらに別の実施形態において、本発明は、敗血症、炎症性腸疾患もしくは他の炎症性疾患および/または腎不全の治療用の薬剤の調製における、明細書に記載される(遺伝的)修飾ホスファターゼの使用を提供する。
【0074】
敗血症は、感染が大いに疑われるか証明され、以下の全身性炎症反応症候群(SIRS)基準の2またはそれ以上が満たされる場合、存在すると考えられる:
・毎分>90回の心拍数
・<36°C(96.8°F)または>38°C(100.4°F)の体温
・毎分>20回の過呼吸(高い呼吸速度)、または血液ガスについて32mmHg未満のPaCO
・<4,000細胞/mmもしくは12,000細胞/mm(<4×10または>12×10細胞/L)の白血球数、または10%を超える帯状体(未熟な白血球)。
【0075】
しかし、コンセンサスな定義は、臨床的経験を反映するために、敗血症の兆候および症状のリストの最近の拡大とともに展開し続ける。敗血症のより重篤なサブセットは、重症敗血症(深刻な器官不全を伴う敗血症)および敗血性ショック(難治性動脈低血圧症を伴う敗血症)である。そうではなく、2つまたはそれ以上の全身性炎症反応症候群基準が、感染の証拠なしに満たされる場合、患者は単に「SIRS」と診断されるだろう。SIRSおよび深刻な器官不全を伴う患者は、「重症SIRS」と呼ばれ得る。患者は、敗血症に加えて、末端器官の機能不全または4mmol/dLを超える血清乳酸のいずれかの、全身性循環不全の兆候がある場合、「重症敗血症」の状態にあるとして定義される。患者は、敗血症に加えて、適切な流体ボーラス投与(通常20ml/kgの晶質)後に低血圧症の状態にある場合、敗血性ショックの状態にあるとして定義される。本発明は、本発明に従う(遺伝的)修飾ホスファターゼが敗血症の治療に特に適しているという見識を与える。敗血症の場合、明細書に記載される(遺伝的)修飾ホスファターゼは、好ましくは静脈内投与される。
【0076】
炎症性腸疾患(IBD)は、大腸、場合によっては小腸の炎症状態の群である。IBDの主な形態は、クローン病および潰瘍性大腸炎(UC)である。はるかに少ない例を説明すると、他のIBDの形態がある:コラーゲン蓄積大腸炎、リンパ球性大腸炎、虚血性大腸炎、空置性大腸炎、ベーチェット症候群、感染性大腸炎、不確定大腸炎。クローン病とUCとの主な差異は、消化管における炎症性変化の位置および性質である。クローン病は、口から肛門まで消化管のあらゆる部位に影響を及ぼし得るが、大多数の場合は回腸末端に始まる。反対に、潰瘍性大腸炎は、大腸および肛門に制限される。 顕微鏡的に見ると、潰瘍性大腸炎は粘膜(大腸の上皮層)に制限されるが、クローン病は腸壁全体に影響を及ぼす。最後に、クローン病および潰瘍性大腸炎は、(肝臓障害、関節炎、皮膚症状および眼疾患などの)腸外症状を異なった割合で呈する。まれに、患者は、クローン病および潰瘍性大腸炎の双方と診断されてきたが、これは、組合せであるか、単に、一方であるか他方であるかが不確かで識別不能であるか、である。非常に異なる疾患であるが、双方は以下のいずれかの兆候を呈し得る:腹痛、嘔吐、下痢、血便、体重減少および種々の付随する病気または疾患(関節炎、壊疽性膿皮症、原発性硬化性胆管炎)。診断は概して、病理学的病変の生検を伴う大腸内視鏡検査による。IBDの場合、明細書に記載される(遺伝的)修飾ホスファターゼは好ましくは、腸溶性コーティングされたタブレットを介して、または十二指腸点滴を介して投与される。
【0077】
炎症性腸疾患の群の次に、本発明は、本発明に従うホスファターゼが他の炎症性疾患を治療するのに適しているという見識を与える。炎症性疾患は、肺、関節、肝臓、膵臓、皮膚またはさらに神経組織などの様々な器官に影響を及ぼし得る。表10は、炎症性の影響を受け得る器官の非限定のリストを与える。幅広い種類の病原物質が、そのような炎症性疾患を引起す、または維持することが、示されてきた。前記病原物質の非限定の例は、微生物(細菌、菌類、ウイルス)、アレルゲン、自己免疫、外傷および虚血/再かん流である。原因物質および病因は非常に多様であり得るが、(亜)慢性炎症は、乱れた免疫反応に由来する。そのような狂った免疫反応は、免疫システムを活性化する炎症誘導組織障害を含む悪循環を通じて維持されると一般に考えられている。とりわけ、ATPは前述の悪循環において役割を果たすことが示されてきた。本発明は、明細書に記載される(遺伝的)修飾ホスファターゼが、ATPを脱リン酸化することができ、ゆえに前記悪循環を破り、このことが前記炎症性疾患を患う個体に有益であるという見識を与える。そのような炎症性疾患を治療する場合、本発明に従う(遺伝的)修飾ホスファターゼは好ましくは、静脈内投与されるか、局所的に実行可能である場合、たとえば、リウマチ性関節炎の場合は関節内に、(中枢)神経系の炎症の場合はくも膜下に、(アレルギー性)ぜんそくの場合は気管支内に、またはたとえば神経皮膚炎の場合は局所に投与される。さらに、敗血症、クローン病、リウマチ性関節炎などの(亜)慢性炎症反応は、(血清)亜鉛欠乏が付随することが記載されてきた。本発明に従うホスファターゼは、亜鉛欠乏環境に与えられた場合、その酵素活性を失わず、前記炎症性疾患を治療するのに特に適している。本発明は、本発明に従うホスファターゼが、ALPIの触媒ドメインおよびALPPのクラウンドメインを有し、0.01μMという低い準生理学的な(sub-physiological)Zn2+濃度にてその活性を維持するという見識を与える。
【0078】
したがって、1つの実施形態において、本発明は、10μM未満のZn2+濃度、好ましくは1μM未満のZn2+濃度、より好ましくは0.1μM未満のZn2+濃度を含む環境における、基質、好ましくはアデノシンリン酸の脱リン酸化のための、ALPIの触媒ドメインおよびALPPのクラウンドメインを有するホスファターゼの使用を提供する。
【0079】
急性腎不全(ARF)が、血清中クレアチニンレベルの増大をもたらす腎機能の急性損失として定義される。急性腎不全において、糸球体ろ過率が、数日から数週間にわたって減少する。結果として、窒素性廃棄物の排出が減少し、流体および電解質平衡が維持され得ない。急性腎不全の患者はしばしば無症候であり、状態は、血中尿素窒素(BUN)および血清中クレアチニンレベルの上昇が観察されることによって診断される。完全な腎機能停止は、血清中クレアチニンレベルが1日にdLあたり少なくとも0.5mg上昇し、尿排出量が1日に400mL未満である(乏尿症)場合に、存在する。明細書に記載の(遺伝的)修飾ホスファターゼは、腎不全の治療において使用することができるだけでなく、特に腎機能が少なくとも部分的に障害がある/低下している場合に、腎機能を改善することもできる。好ましい実施形態において、使用された投与経路は、静脈である。好ましくは、有効量の(遺伝的)修飾ホスファターゼが送達されることが、当業者にとって明らかである。開始点として、1〜5,000U/kg/日を用いることができる。静注ルートの投与が用いられる場合、(遺伝的)修飾ホスファターゼは好ましくは(少なくともある時間の)持続注入を介して適用される。
【0080】
さらに別の実施形態において、本発明は、敗血症、炎症性腸疾患もしくは他の炎症性疾患および/または腎不全を患う対象の治療方法を提供し、前記治療方法は、前記対象に有効量の、本明細書に記載されるあらゆる修飾ホスファターゼを投与することを含む。
【0081】
本明細書に記載される(遺伝的)修飾ホスファターゼが医薬組成物に組込まれ得るという事実の他に、そのようなホスファターゼは栄養組成物の一部でもあり得る。
【0082】
本発明の好ましい実施形態において、(遺伝的)修飾ホスファターゼの源は、乳汁、好ましくは牛乳から好ましくは生産または単離される(遺伝的)修飾ホスファターゼである。乳汁は、野生型の動物と比較して、乳汁においてより高いレベルの(遺伝的)修飾ホスファターゼを生産するために育種または遺伝子操作された動物から得られてもよい。乳汁からの(遺伝的)修飾ホスファターゼ強化画分の調製は、当該技術において周知である。たとえば、乳脂肪球皮膜強化画分または由来画分は、好ましい(遺伝的)修飾ホスファターゼ強化乳画分であり、生乳の従来のスキミングによって定められた手順に従って得られてもよい。乳汁から単離された(遺伝的)修飾ホスファターゼが、医薬組成物において、および食品組成物または栄養補助食品において処方されてもよい。
【0083】
好ましい実施形態において、(遺伝的)修飾ホスファターゼの、本発明に従う消化管の粘膜への経口投与用の(遺伝的)修飾ホスファターゼ含有組成物は、(遺伝的)修飾ホスファターゼが強化された食品または栄養補助食品である。1つの実施形態において、食品は、随意的に、高いレベルの(遺伝的)修飾ホスファターゼを含むように遺伝子操作された植物、果物または野菜であってよい。別の実施形態において、(遺伝的)修飾ホスファターゼ含有食品または栄養補助食品は、酪農製品である。特に、好ましくは牛乳である、無殺菌乳またはその画分を含有する製剤および組成物は、高いレベルの(遺伝的)修飾ホスファターゼを含み、本発明に従う(遺伝的)修飾ホスファターゼの源として経口投与に特に適している。
【0084】
本発明はまた、好ましくは乳汁、乳画分または乳製品である、(遺伝的)修飾ホスファターゼ強化酪農製品の調製方法に関する。この方法は、あまり腐敗しない(遺伝的)修飾ホスファターゼ強化酪農製品を得るために、好ましくは牛乳である生乳の画分化、(遺伝的)修飾ホスファターゼを含有しないか強化していない画分の低温殺菌、および無殺菌の(遺伝的)修飾ホスファターゼ強化画分との前記画分の再処方、を含む。無殺菌の(遺伝的)修飾ホスファターゼ強化画分は、非限定の、紫外線、X線もしくはガンマ線による照射、ろ過、加圧、浸透圧、化学物質または抗生物質などの他の手段によって滅菌されてもよく、このことが、(遺伝的)修飾ホスファターゼ酵素が実質的にアクティブなままであり、乳画分が実質的に無菌となることを確実にする。この酪農製品は、組成物に使用されてもよく、または進行性敗血症、IBDもしくは腎不全を患うか、その危険のある対象に直接的に投与されてもよい。しかし、(遺伝的)修飾ホスファターゼ強化酪農製品は、腸の構造的完全性の保全用の医薬または栄養補助製品として、健康な対象に提供されてもよい。
【0085】
さらに、本発明の修飾ホスファターゼはまた、(乳汁などの)栄養物において生産される代わりに、前記栄養物に加えられ得る。さらに、後に栄養物に加えられるか、ヒトによって直接的に摂取され得る、タブレットおよび/またはカプセルが調製され得る。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】4つのヒトアルカリホスファターゼアイソザイムの配列である。注意:これらは成熟たんぱくの(すなわち、シグナル配列のない)配列であるが、キメラAPを除き、GPIアンカの追加、およびC−末端アミノ酸の付随的処理の前である。
【図2】ATPだけでは、T84の上清とのインキュベーションでのRAW細胞におけるIL−6の生産を、刺激するのに充分でない。APを追加しても、IL−6の生産への影響は見られない。
【図3】ATP濃度の増大が、T84の上清とのインキュベーションでのRAW細胞におけるLPS誘導IL−6の生産を増幅する。アルカリホスファターゼは、ATPの増幅効果を阻害するが、LPS誘導IL−6の生産それ自身を阻害しない。
【図4】触媒ALPI/クラウンALPPの比活性度は、Zn非依存性である。
【図5】ALPIの比活性度は、触媒ALPI/クラウンALPPと異なり、やがて減少する。
【図6】肝臓スライスによるLPS誘導NO生産が、ヒトアルカリホスファターゼの異なる分泌型アイソフォームによって阻害される。
【図7】異なるpH値の0.1Mバッファにおいて24時間貯蔵した、異なる分泌型ヒト組換えアルカリホスファターゼおよびウシ腸ホスファターゼ(BIAP)の相対酵素活性度。
【図8】異なる組換えアルカリホスファターゼの生産中に培地へ追加された異なる亜鉛塩の、酵素活性度への影響。
【図9】亜鉛の存在下における、A 室温、C 37°CおよびE 56°Cでの、または亜鉛の不在下における、B 室温、D 37°CおよびF 56°Cでの貯蔵後に判定した、異なるアルカリホスファターゼの酵素活性度の安定性。
【図10】SDS−PAGE:精製した分泌型hIAPおよび分泌型hPLAPのたんぱくプロフィール。レーン1)MWマーカ、レーン4+5)分泌型hIAPの10倍および25倍希釈、レーン12+13)分泌型hPLAPの10倍および25倍希釈。
【図11】AP活性度判定の標準的な化学的基質である、パラニトロフェニルリン酸(pNPP)に対する4つのヒトAPおよびウシAPの酵素比活性度。
【発明を実施するための形態】
【0087】
本発明は、以下の非限定の例においてより詳細に説明される。
実験の部
材料および方法
【0088】
実施例1
異なるホスファターゼによる、生物学的にアクティブな基質ATPの脱リン酸化
Perkin Elmerから得られるATPlite(商標)Kitは、以下の試薬を含む:哺乳類の溶解溶液、基質バッファ溶液、凍結乾燥基質溶液および凍結乾燥ATPスタンダード。
【0089】
凍結乾燥ATPスタンダードの調製:凍結乾燥ATP標準溶液のバイアルをミリQでもどし、10mM ストック溶液を得る。ミリQの追加後、1分間回転させることによってATPを完全に溶解する。
【0090】
ATP脱リン化活性の判定:
開始濃度が20μM ATPの6つの標準曲線を調製し、連続希釈を作製する。最終容積はウェルあたり100μlにすべきである。
【0091】
1U/mlのホスファターゼ酵素活性を調製する。開始濃度が1U/mlの3つの標準曲線を用意し、連続希釈を作製する。最終容積は50μlにすべきである。
【0092】
40μM ATP溶液を調製する。
50μlの1U/ml ホスファターゼ酵素溶液標準曲線および50μlの40μM ATP溶液を、96ウェルの黒色のOptiplate(商標)(Perkin Elmer)に加えて合わせる。各ウェルの最終容積は100μlになる。
【0093】
プレートを振とうし、37°Cで90分インキュベートする。
試薬を室温に平衡化させる。
【0094】
製造者の勧告に従って、適切な量の基質溶液バッファを加えることによって、1つの凍結乾燥基質溶液バイアルをもどす。溶液が均質化するまでやさしく攪拌する。
【0095】
50μlの哺乳類細胞溶解溶液を加え、プレートを5分間700rpmで振とうする。
【0096】
50μlの基質溶液をウェルに加え、プレートを5分間700rpmで振とうする。
プレート上に70% アルコールを噴霧することによって、気泡を除去する。
【0097】
10分間プレートを暗順応させ、Viktor3(商標)Multi Label Reader (Perkin Elmer)上で発光を測定する。
【0098】
実施例2
アルカリホスファターゼの異なるアイソフォームを用いた、肝臓スライスアッセイ
/NO/Forene麻酔下でラットを犠牲にし、肝臓を取出し、スライスの調製までウィスコンシン大学器官保存溶液(UW)中で貯蔵した。コア(直径5mm)を肝臓組織の一片から作成し、スライスするまで氷冷UW溶液中で貯蔵した。スライスは、Krumdieckスライサで行った。グルコースを最終濃度の25mMまで補充した氷冷KHBをスライスバッファとして用いた。ラット肝臓スライス(厚さ200〜250μm;湿重量±3mg)を標準の設定(サイクル速度30;中断モード)で調製した。スライス後、実験開始までラット肝臓スライスをUW溶液中で貯蔵した。
【0099】
スライスを、12ウェルプレート(Greiner、オランダ、アルフェンアーンデンレイン)において、Glutamax I(Gibco BRL、スコットランド、ペイズリー)、50mg/ml ゲンタマイシン(Gibco BRL)を補充し、95% O/5% COで飽和した、1.3mlのWilliams培地E中で、37°Cにて個々にインキュベートした。スライスを、10μg/ml LPSの存在下または不在下で、および異なる濃度のAPの異なるアイソフォームの存在下または不在下で、24時間インキュベートした。スライスの培地は、NO測定まで−80°Cで貯蔵した。
【0100】
0.275μlの100mM NADPH、2.2μlの10U/ml 硝酸還元酵素、および0.055μlの10mM FADの混合物の、水で2倍に希釈した5μlを、110μlの上清に加えることによって、NO(NO、NOおよびNOの総体)を測定した。30分37°Cのインキュベーション後、2.2μlの0.5M Na−ピルビン酸塩および0.55μlの5mg/ml LDHを、水で1:0.82に希釈した、5μlの第2ミクスチャを加えた。5分37°Cのインキュベーション後、5μlの30% ZnSOを加え、サンプルを2,000rpmで遠心分離した。その後100μlの上清を新たなプレートに移し、0.1% スルファニルアミド、0.01% n−ナフチル−エチレン−ジアミンおよび2.5% リン酸を含む100μlのGriess試薬と混合した。最後に、マイクロプレートリーダ上で550nmにて吸光度を測定した。吸光度は、硝酸ナトリウムの標準曲線の吸光度に関連する。
【0101】
実施例3
細胞外ATPの脱リン酸化の生物学的効果
マウスマクロファージ細胞系RAW264.7およびヒト上皮細胞系T84(結腸直腸癌)を
American Type Culture Collection(ATCC、米国、メリーランド州、ロックビル)から得、4.5g/l グルコースを含む、DMEM/F12(1:1)培地およびDMEM培地においてそれぞれ維持した。両培地とも、Invitrogen社(オランダ、ブレダ)から得、Glutamax Iを含み、10% 熱不活性化FBS(Wisent社(カナダ、ケベック州))、100U/ml ペニシリンおよび100μg/ml ストレプトマイシン(双方ともIntvitrogen社)を補充した。トリプシン−EDTAを用いてT84細胞系をコンフルエントに継代培養し、ラバーポリスマンを用いてRAW264.7細胞を剥がし取った。
【0102】
4×10のT84細胞を、2mlの培地の入った12ウェルプレート(Nunc、デンマーク、ロスキレ)内にプレートした。コンフルエントに達するとすぐに培地をリフレッシュし、細胞を、図に表わされるように(格子縞模様)、異なる濃度のATPおよび/またはAPの存在下または不在下において、1μg/ml LPSの存在下(図3)または不在下(図2)で2時間インキュベートした。2時間後、上清を集めて、RAW264.7細胞を含む24ウェルプレート内に移した。これらのRAW264.7細胞は、その前日、1mlの培地中2×10の濃度で24ウェルプレート(Nunc、デンマーク、ロスキレ)内にプレートしていた。T84細胞の1mlの上清を移す前に、RAWの上清を吸引し、廃棄した。
【0103】
RAW細胞とT84の上清とを、上清を集めて市販のELISA(Biosource Europe SE、ベルギー、ニベル)を用いてサイトカイン(IL−6、TNFα)含量を調べる前に、24時間37°C、5% COでインキュベートした。
【0104】
実施例4
変異体の調製
ここに記載される変異体、より具体的には、表4、表5および表6に記載される変異体は、標準的な分子生物学的技術を用いて調製した。
【0105】
表4〜表6において言及されるアミノ酸位置は、図1に表わされる配列に対応する。変異位置のみを示す。すなわち、野生型配列から外れているもののみを示す。たとえば、表4の変異体1は、野生型配列と比較した場合、位置87,93および429にて変化していない。すなわち、位置87はK、位置93はG、位置429はEである。
【0106】
変異体は、PCRによる部位特異的変異誘発法、制限酵素分析および配列分析などの標準的な分子生物学的技術によって調製し、確認する。
【0107】
実施例5
t=0にて、450±50ユニットの異なる組換えアルカリホスファターゼを、異なるZn2+濃度の希釈バッファ(0.025M グリシン/NaOH pH9.6/1mM MgCl/1% マンニトール/0.05% BSA)に4,000倍希釈した。第2の例において、可能性のあるZn2+源としてのBSAをバッファから除外した。希釈(T=0)後1分以内に、サンプルを採取し、以下に記載されるpNPPアッセイを用いてアルカリホスファターゼ活性について測定した。90分(T=1/h)、180分(T=3h)および22時間(T=22h)後、各時間でサンプルを摂取し、以下に記載されるpNPPアッセイを用いてアルカリホスファターゼ活性について直接測定した。市販のBCAキット(Pierce)を用いて以前に得られたたんぱく含量を通して、得られたU/mlの結果を割ることによる比活性度(U/mg)によって、U/mlの活性度が逆算された。
【0108】
pNPPホスファターゼ活性測定:
作業基質:
試薬、基質、サンプルおよびインキュベーションチャンバの温度を25°Cに設定した。分光光度計を405nmの波長に設定し、光路は1cmであった。
【0109】
使い捨てキュベット内に、50μlの被検物質および1,450μlの作業基質をピペットで移して混合し、直ちにキュベットを分光光度計内に置き、405nmでの吸光度の増加を3分間記録した。
【0110】
容積あたりの活性を、以下の等式:
活性(U/ml)=ΔE405/分×1.6×希釈係数
を用いて計算した。
注意:測定範囲は0.04〜0.4U/mlでなければならない。
【0111】
実施例6
異なるホスファターゼの安定性に及ぼすpHの影響
HEK293細胞において一時的に発現するアルカリホスファターゼのpH安定性を調査した。4.0〜9.0のpH範囲を、それらの25°Cでの特異的pHで調整された5つの異なる0.1M(酢酸ナトリウム、MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)、トリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−プロパン−1,3−ジオール)およびグリシン)バッファを用いて試験した。1% マンニトールで安定化させたBiAPを参照として用いた。アルカリホスファターゼ溶液を、各バッファにおいておおよそ100U/mlに希釈し、24時間室温で貯蔵し、前述のようにpNPPホスファターゼ活性アッセイを用いて酵素活性について判定した。
【0112】
実施例7
異なるホスファターゼの発現に及ぼす亜鉛の影響
異なる亜鉛塩の、HEK293細胞において一時的に発現するアルカリホスファターゼの活性への影響を、1mM MgCl+0.1mM 亜鉛塩(ZnCl、ZnSOまたはZnAc)を補充した培地における小規模トランスフェクションを用いて調査した。HEK293細胞を、shIAP、shPLAP、Xinplap(触媒ALPI/クラウンALPP)およびsALPP−ALPI−CD(触媒ALPP/クラウンALPI)でトランスフェクトし、t=144hにてサンプルを採取し、前述のようにpNPPホスファターゼ活性アッセイを用いて酵素活性について分析した。
【0113】
実施例8
異なるホスファターゼの安定性に及ぼす亜鉛の影響
100μMのZnClの存在または不在下において、おおよそ20U/mlの異なる(組換え)アイソフォームのアルカリホスファターゼを含む溶液を、温度安定性試験のために調製した。サンプルを室温、37°Cおよび56°Cで貯蔵し、酵素活性(pNPP)を、前述のようにpNPPホスファターゼ活性アッセイを用いてt=0、2hおよび24hにて判定した。
【0114】
実施例9
アルカリホスファターゼの融合たんぱくおよび変異体の生成
適切な発現システムを選択するために、GPIアンカ配列を有する、または欠く、成熟たんぱくをコードするヒト腸(hIAP)およびヒト胎盤(hPLAP)cDNAを、様々なベクタ内にクローニングした。小規模感染の後、用いた発現ベクタは、CMVドライブされ、シスタチンシグナル配列を含み、精製を促進するためのN−末端HISタグを付加された。うまく分泌型hIAPおよびhPLAPの双方を発現した後、2つの融合ヒト分泌型アルカリホスファターゼをin silicoで構築した。1つは胎盤クラウンドメイン(成熟配列のアミノ酸360〜430)を含む腸APのバックボーンに基づき、2つ目は腸APのクラウンドメインを有する胎盤APのバックボーンに基づく(1つ目をRecAPまたは触媒ALPI/クラウンALPPと呼び、2つ目をshPLAP−shIAP−CDまたは触媒ALPP/クラウンALPIと呼ぶ)。ヒトシスタチンシグナル配列を有する上記2つの遺伝子を合成し、CMVプロモータ含有発現ベクタにクローニングした。
【0115】
実施例10
ホスファターゼ比活性度に及ぼすGPIアンカの影響
APの様々な組換え型を生産し、精製し、前述のようにpNPPホスファターゼ活性アッセイを用いて酵素活性について評価した。さらに、サンプルのたんぱく量を、SDS−PAGEおよびGelEvalソフトウェアを用いて測定した。活性度(U/ml)をたんぱく濃度(mg/ml)で割ることによって比活性度を計算し、U/mgで表わした。
【0116】
実験の部
結果
実施例1
異なるホスファターゼによる、生物学的にアクティブな基質ATPの脱リン酸化
20μMの最終濃度のATPを、異なる濃度のBIAP、sALPP、sALPIまたはキメラの触媒ALPI/クラウンALPPとインキュベートした。表9から、pNPP化学的活性は、たとえばATPといった生物学的基質に向けた活性と1:1で関連しないことが明らかである。BIAPおよびsALPIはそれぞれ、0.031および0.004のpNPPのユニット濃度で37°Cの90分後、ATPの50%を超える脱リン酸化を示すが、ALPPおよび触媒ALPP/クラウンALPPはそれぞれ、0.125および0.0625のpNPPのユニット濃度でこの量を脱リン酸化することができるだけである。
【0117】
実施例2
アルカリホスファターゼの異なるアイソフォームを用いた、肝臓スライスアッセイ
LPS(10μg/ml)による刺激で、肝臓スライスがNOを生産する。図6は、異なる濃度での、異なるヒト組換えアルカリホスファターゼ(sALPI、sALPP、GPI−アンカALPI、触媒ALPI/クラウンALPP)の存在下において、NO生産が有意に阻害されたことを示している。この実験において、ウシ由来ALPIをポジティブコントロールとして、溶媒をネガティブコントロールとして用いた。
【0118】
LPSの追加なしでは、肝臓スライスによるNO生産は、10μM未満であり、インキュベーション中、異なるホスファターゼの存在によって有意に変化しなかった(不図示)。このことから、試験したすべてのヒトアルカリホスファターゼの組換えアイソフォームは、GPIアンカの存在に関わらず、LPS誘導NO生産に関与する生物学的基質に向けた活性を有すると結論される。
【0119】
実施例3
細胞外ATPの脱リン酸化の生物学的効果
T84の上清とのインキュベーションでのRAW264.7細胞によるIL−6の生産は、LPSに依存した。LPSなしでは(図2)、低いレベルのIL−6を生産した。ATPおよびAPは、RAW264.7細胞によって生産されるIL−6のレベルを変えられなかった。反対に、LPSが存在すると、T84の上清とインキュベートしたRAW264.7によるIL−6の生産は、ATPの濃度の増大とともに、増大した。ATPによるサイトカイン生産のこの増大は、0.1U/ml以上のAP濃度によって完全に減少し得た(図3)。
【0120】
同じプロトコルを用いたTNFαについて、ならびに上皮細胞源としてT84の代わりにHT29を用いたTNFαおよびIL−6について、同様の結果(不図示)を得た。
【0121】
APはATPを脱リン酸化することによって、LPS促進効果を減少させると結論される。APのLPSに及ぼす影響は見られなかったので、APはLPSを脱リン酸化することはありそうにない。ATPおよびLPSの組合せは単にAPによってLPS単独に等しいレベルにまで減少し得た。
【0122】
実施例5
異なるホスファターゼのZn2+依存性の判定
図4および表7に表わされるように、Zn2+は、sALPIの比活性度を有意に安定化させたが、sALPPおよびキメラの触媒ALPI/クラウンALPPは、培地におけるZn2+の存在に依存せず、初期の比活性度を維持した。この実験において、pNPPホスファターゼ活性アッセイにおいて定められた手順に従って使用されるBSAは、微量のZn2+源となり得る。したがって、第2の実験を実行した。表8および図5は、BSAの不在下およびZn2+枯渇化キレート剤EDTAの存在下において、すべてのアイソフォームが22時間後に比活性度を緩めることを示している。しかし、貯蔵中および反応中の生理学的(0.5〜10nM)濃度のZn2+の追加が、sALPPおよび触媒ALPI/クラウンALPPの初期の比活性度のそれぞれ60%および75%超を保存したが、sALPIの初期の比活性度の95%超を失った。非生理学的に高い濃度のZn2+が、sALPIの比活性度を保存するのに不可欠であった。
【0123】
したがって、キメラの触媒ALPI/クラウンALPPは、sALPIと同程度の高い比活性度、およびsALPPと同程度のZn2+非依存性の比活性度を示すと結論される。Zn2+依存性はsALPIクラウンドメインに起因し、一方、高い比活性度はsALPI触媒ドメインに起因すると結論される。
【0124】
実施例6
異なるホスファターゼの安定性に及ぼすpHの影響
BiAP、shIAP、shPLAP、RecAPを、pH値が4.0,5.0,6.0,7.0,8.0および9.0の0.1M(酢酸ナトリウム、MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)、トリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−プロパン−1,3−ジオール)およびグリシン)バッファに希釈し、室温で24時間貯蔵した。各pH値について、初期の酵素活性および貯蔵後の酵素活性を、標準的なpNPPアッセイに従って判定した。その名前によって予想および示唆されるように、アルカリホスファターゼ活性は高いpH範囲(アルカリ環境)において最適である。しかし、図7が示すように、胎盤型は、腸アイソフォームよりも安定している。さらに、この結果は、特に高いpH範囲におけるこの安定性が、触媒ドメインによってではなくクラウンドメインによって決定されることを実証している。というのも、触媒ALPI/クラウンALPP(recAP)は、shPLAPの安定性プロフィールに追随し、pH5〜9で安定しているが、BIAPおよびshIAPの安定性はpH7〜8に制限されるからである。反対に、触媒ALPP/クラウンALPI(shPLAP−hIAP−CD)は、pH9にて、胎盤型APおよび触媒ALPI/クラウンALPPよりも安定していない。このことは、触媒ALPI/クラウンALPPがその活性を、試験した天然APまたは逆キメラ(触媒ALPP/クラウンALPI)よりもかなり広い範囲のpH値において維持することを実証している。
【0125】
実施例7
異なるホスファターゼの発現に及ぼす亜鉛の影響
HEK293細胞における小規模トランスフェクションを用いて、一時的に発現するアルカリホスファターゼの活性への異なる亜鉛塩の影響を調査した。そうするために、shIAP、shPLAP、Xinplap(触媒ALPI/クラウンALPP)およびsALPP−ALPI−CD(触媒ALPP/クラウンALPI)をトランスフェクトし、t=144hにてサンプルを採取し、酵素活性について分析した。得られた結果は、酵素活性に関してZn2+イオン濃度への依存性が存在するが、観察された活性の増大は用いた亜鉛塩の種類に依存しないことを明らかにした。
【0126】
図8に示される結果から、得られた酵素活性は亜鉛に依存しているが、どの種類の亜鉛塩が使用されるかについては依存していないと結論される。さらに、亜鉛の追加は、shIAPの生産について最も好ましく、酵素活性の誘導係数が>30であることが示された。sALPPおよびXinplapについて、活性増強はそれぞれ<2および>4であった。逆キメラ(触媒ALPP/クラウンALPIとも呼ばれるsALPP−ALPI−CD)は、亜鉛不在下で生産された場合にごく僅かな活性を示したが、亜鉛存在下ではsALPPと同程度の活性を得た。
【0127】
さらに、Xinplapは、Zn/Mgイオンの追加なしに、他の試験したAPのどれよりもかなり高い酵素活性を示し(係数5)、shIAPまたは逆キメラ触媒ALPP/クラウンALPIと比較してZn/Mgにあまり依存しない。
【0128】
実施例8
異なるホスファターゼの安定性に及ぼす亜鉛の影響
図9は、異なる温度、および100μM ZnClの存在または不在下での、異なるAPの経時的な安定性プロフィールを示す。この結果から、亜鉛の不在下で、アルカリホスファターゼの腸アイソフォーム(sALPIおよびBIAP)は、酵素活性に関してかなり温度感受的であると結論される。37°Cにて、BIAPは2時間以内に活性の20%を失い、24時間後にはたった20%の酵素活性しか残っていない。shIAPは、37°Cでの貯蔵24時間後、30%の活性の低下を示す。図9Cは、37°Cでの安定性試験中の亜鉛の存在が、酵素を分解から保護することを示している。しかし、56°Cでは、亜鉛はもはや腸アイソフォームを保護せず、双方の腸アイソフォームとも最初の2時間でほぼ完全に酵素活性を失う。反対に、RecAP(触媒ALPI/クラウンALPP)およびshPLAP(sALPP)は、56°Cにてさえ22時間まで100μMの存在または不在下で優れた安定性を示す。
【0129】
実施例9
アルカリホスファターゼの融合たんぱくおよび変異体の生成
分泌型hIAPおよび分泌型hPLAPは、CMVプロモータドライブされ、シスタチンシグナル配列を含むベクタを用いてHEK293において発現し、たんぱくのN−末端部分にHISタグを有した。発現たんぱくは、HISタグを通じて精製し、SDS PAGEによって分析した(図10参照)。分泌型hIAPおよびhPLAPの懸濁培養の1リットルのたんぱく収量は、それぞれ38および16mgであり、>95%の純度を示した。hIAPおよびhPLAPの比活性度は、それぞれ21および100U/mgであった。
【0130】
これら2つの分泌型組換えホスファターゼに基づいて、2つのドメインスワップ変異型をin silicoで設計し、HEK293細胞において発現した。注目すべき結果が、胎盤アルカリホスファターゼのクラウンドメインを有する腸アルカリホスファターゼバックボーンから成るRecAPについて得られた。RecAPは、従来の培養条件下で、分泌型hIAPと比較して5倍高い酵素活性度を示した(14U/ml対2.7U/ml)。しかし、細胞培養およびホスファターゼ発現中の100μMまでの亜鉛塩の追加は、RecAPの酵素活性にほんの小さな影響しか与えなかった(18.8U/ml対亜鉛の追加なしで14.0U/ml)が、分泌型hIAPの活性度を有意に改善する(37.9U/ml対亜鉛の追加なしで2.7U/ml)。一方、腸APのクラウンドメインを有する胎盤APのバックボーンに基づくドメインスワップ変異型(触媒ALPP/クラウンALPI)は、腸型と同程度の亜鉛依存性および分泌型PLAPと同程度の最高活性度を示す。shIAPおよび触媒ALPP/クラウンALPIの活性度において観察された増大は、亜鉛が発現および精製後に酵素に加えられた場合、達成され得ないだろう。したがって、好ましくは腸型のクラウンドメインを有するアルカリホスファターゼの発現中の100μM 亜鉛の追加は、より高いアルカリホスファターゼ活性度をもたらすと結論される。
【0131】
実施例10
ホスファターゼ比活性度に及ぼすGPIアンカの影響
様々なAP組換え型を生産し、酵素活性について評価した。図11に示される結果は、ウシ腸アルカリホスファターゼ(BIAP)およびrecAP(触媒ALPI/クラウンALPP)が、分泌型hIAP、分泌型hPLAPおよびGPIアンカhIAPよりも優れた、類似の比活性度を提示することを実証している。酵素の純度は、酵素の比活性度にとって重要である。したがって、4つのヒト酵素は実験室で精製し、一方、BIAPは超高純度GMPバッチとして得たことに留意すべきである。さらに、分泌型hIAPは、GPIアンカhIAPよりもおおよそ2倍高い比活性度を有することに留意すべきである。理論に限定されるのではないが、より高い比活性度は、構造または純度のいずれかに関連し得る。というのも、分泌型APは、GPIアンカ(膜結合)APよりも容易に精製されるからである。
【0132】
【表1】

【0133】
【表2】

【0134】
【表3】

【0135】
【表4】

【0136】
【表5】

【0137】
【表6】

【0138】
【表7】

【0139】
【表8】

【0140】
【表9】

【0141】
【表10】

【0142】
【表10−1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウンドメインおよび触媒ドメインを有し、前記クラウンドメインおよび前記触媒ドメインは、異なるアルカリホスファターゼから得られることを特徴とする単離または組換えアルカリホスファターゼ。
【請求項2】
前記異なるホスファターゼの少なくとも1つは、ヒトホスファターゼであることを特徴とする請求項1記載のホスファターゼ。
【請求項3】
前記クラウンドメインはALPPのクラウンドメインであり、前記触媒ドメインはALPIの触媒ドメインであることを特徴とする請求項1または2記載のホスファターゼ。
【請求項4】
前記クラウンドメインはALPIのクラウンドメインであり、前記触媒ドメインはALPPの触媒ドメインであることを特徴とする請求項1または2記載のホスファターゼ。
【請求項5】
グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)シグナル配列における修飾を含み、前記修飾は分泌ホスファターゼをもたらすことを特徴とする単離または組換えアルカリホスファターゼ。
【請求項6】
前記修飾は、コンセンサスGPIシグナル配列を包含するアミノ酸配列の変異または欠失を含むことを特徴とする請求項5記載のホスファターゼ。
【請求項7】
前記ホスファターゼはヒトホスファターゼであることを特徴とする請求項5または6記載のホスファターゼ。
【請求項8】
前記ホスファターゼはアルカリホスファターゼであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のホスファターゼ。
【請求項9】
前記ホスファターゼは、ヒト肝−腎−骨ホスファターゼ、ヒト腸アルカリホスファターゼ、およびヒト胎盤様アルカリホスファターゼから選ばれることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載のホスファターゼ。
【請求項10】
異なるホスファターゼから得られるクラウンドメインおよび触媒ドメインをさらに有することを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載のホスファターゼ。
【請求項11】
触媒残基付近および/または金属イオン配位リン酸結合ポケット内に変異を有することを特徴とする単離または組換えアルカリホスファターゼ。
【請求項12】
前記ホスファターゼはヒトホスファターゼであることを特徴とする請求項11記載のホスファターゼ。
【請求項13】
前記ホスファターゼはアルカリホスファターゼであることを特徴とする請求項11または12記載のホスファターゼ。
【請求項14】
前記変異は、表4、表5または表6に表わされる変異であることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載のホスファターゼ。
【請求項15】
グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)シグナル配列において修飾をさらに有し、前記修飾が非GPIアンカホスファターゼをもたらすことを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載のホスファターゼ。
【請求項16】
異なるホスファターゼから得られるクラウンドメインおよび触媒ドメインをさらに有することを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載のホスファターゼ。
【請求項17】
異なるホスファターゼから得られるクラウンドメインおよび触媒ドメインをさらに有することを特徴とする請求項15記載のホスファターゼ。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載のホスファターゼをコードすることを特徴とする核酸配列。
【請求項19】
請求項18記載の核酸を有することを特徴とするベクタ。
【請求項20】
請求項18記載の核酸または請求項19記載のベクタを有することを特徴とする宿主細胞。
【請求項21】
ホスファターゼの生産方法であって、Zn2+を有する培地において前記ホスファターゼを発現することができる宿主細胞を培養し、細胞が前記ホスファターゼを生産することを可能にすることを含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
前記宿主細胞は哺乳類細胞であることを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記ホスファターゼはヒトホスファターゼであることを特徴とする請求項21または22記載の方法。
【請求項24】
前記ホスファターゼはアルカリホスファターゼであることを特徴とする請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記ホスファターゼは、請求項1〜17のいずれか1項に記載のホスファターゼであることを特徴とする請求項21〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記ホスファターゼを単離することをさらに含むことを特徴とする請求項21〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
請求項21〜26のいずれか1項に記載の方法によって得ることができることを特徴とするホスファターゼ。
【請求項28】
請求項1〜17および27のいずれか1項に記載のホスファターゼを有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項29】
敗血症、炎症性腸疾患もしくは他の炎症性疾患および/または腎不全の治療用の薬剤の調製における請求項1〜17および27のいずれか1項に記載のホスファターゼの使用。
【請求項30】
敗血症、炎症性腸疾患もしくは他の炎症性疾患および/または腎不全を患う対象(好ましくはヒト)の治療方法であって、請求項1〜17および27のいずれか1項に記載のホスファターゼの有効量を、前記対象に投与することを含むことを特徴とする方法。
【請求項31】
10μM未満のZn2+濃度、好ましくは1μM未満のZn2+濃度、より好ましくは0.1μM未満のZn2+濃度を含む環境における、基質、好ましくはアデノシンリン酸の脱リン酸化のための請求項3記載のホスファターゼの使用。
【請求項32】
好ましくは敗血症、炎症性腸疾患および/もしくは他の炎症性疾患ならびに/または腎不全の治療のための薬剤としての使用のための請求項1〜17または27のいずれか1項に記載のホスファターゼ。
【請求項33】
Zn2+欠乏が付随する疾患の治療における使用のためのホスファターゼであって、前記疾患は好ましくは炎症性疾患を含み、より好ましくは、自己免疫疾患、リウマチ性関節炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化、炎症性腸疾患、敗血症、神経皮膚炎および表10に表わされる疾患から成る群から選ばれることを特徴とする請求項3記載のホスファターゼ。
【請求項34】
Zn2+欠乏が付随する疾患の治療のための薬剤の調製における請求項3記載のホスファターゼの使用であって、前記疾患は好ましくは炎症性疾患を含み、より好ましくは、自己免疫疾患、リウマチ性関節炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化、炎症性腸疾患、敗血症、神経皮膚炎および表10に表わされる疾患から成る群から選ばれることを特徴とする使用。
【請求項35】
Zn2+欠乏が付随する疾患を患う対象(好ましくはヒト)の治療方法であって、有効量の請求項3記載のホスファターゼを、ホスファターゼを必要とする対象に投与することを含み、前記疾患は好ましくは炎症性疾患を含み、より好ましくは、自己免疫疾患、リウマチ性関節炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化、炎症性腸疾患、敗血症、神経皮膚炎および表10に表わされる疾患から成る群から選ばれることを特徴とする方法。

【図1】
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【図1−1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図9−1】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−524496(P2010−524496A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506102(P2010−506102)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050249
【国際公開番号】WO2008/133511
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(509296052)
【氏名又は名称原語表記】AM−Pharma B.V.
【住所又は居所原語表記】Rumpsterweg 6,Bunnik The Netherlands
【Fターム(参考)】