説明

個人の血圧値に基づいた脳卒中発症予測システム

【課題】
高血圧治療や血圧上昇を防ぐ日常生活の注意に心がける動機付けを、血圧変化と脳卒中発症の関係を示して増大させ、公衆衛生面で重大な被害を及ぼす脳卒中発症を低下させるコンピュータシステムの提供。
【解決手段】
対象者の性、年齢、最大血圧値、喫煙、肥満、糖尿病の有無を入力して、脳卒中発症期待値を計算して、その結果を標準的な脳卒中発症率と比較して、定量的に脳卒中発症危険を示して、入力項目の改善による予防効果の推測も再計算し表示するシステムによって、対象者個人に危険因子改善努力を強く促す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人の脳卒中発症と血圧、喫煙、肥満、糖尿病の関係を定量的に測定し、これら項目の改善による脳卒中予防の効果を可視的に示すソフトウエアである。(図1)
【背景技術】
【0002】
脳卒中の予防に最も効果的な方法は血圧値を下げることで、血圧が正常な人においても、血圧が低いほど脳卒中の発症率が低いことが知られている。一方、現在の脳卒中発症者の半数は高血圧治療を受けていて、40%は生活習慣の改善で血圧を下げる軽症の高血圧ないし正常血圧の人である。このことは、正常血圧を含めた集団全体に対する血圧低下の働きかけが必要であることを示している。この背景から集団と個人に対して目標値を定めた介入計画が健康日本21として提案されていた。
【0003】
これまで、高血圧では正常に比して数倍の発症危険があり、その中で個人がどこの危険因子群に入るかを示すことはできたが、個人の脳卒中発症率を正確に予測する方法は存在せず、個人レベルでの改善目標を定めることが困難であり、生活改善と治療に対する強い動機付けに乏しかった。
【特許文献1】特許第3656642号
【非特許文献1】日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会著 「高血圧治療ガイドライン2004」 日本高血圧学会 2004年
【非特許文献2】健康日本21企画検討会・計画策定検討会 「健康日本21検討会報告書」 財団法人健康・体力づくり事業財団 2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脳卒中は血圧が低いほど発症率は低下する事が知られているが、その知識は医療従事者にも浸透していないため、血圧が治療目標値まで十分に下がっている人は高血圧患者の半数に満たない。正常血圧の人においても脳卒中予防知識の欠落から、健診などで高血圧ではないと判定されると、脳卒中発症危険は極めて低いと思い込み、血圧をさらに下げる努力に結びつかない。
【0005】
不十分な治療と予防知識の欠落を解決する情報伝達手段の開発を課題として本発明が生まれた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
血圧を下げること、喫煙、肥満、糖尿病が個人の脳卒中発症率低下にどのように関与するかを自分の測定値に基づいて、同年齢と性の集団との対比として示すことで、血圧や他の危険因子の重要性を正しく理解でき、とりわけ高血圧治療や血圧上昇を防ぐ日常生活の注意に心がけるようになることを通して、重大な公衆衛生面での被害を及ぼす脳卒中発症を低下させることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって血圧低下による脳卒中予防効果を図と数値で視覚的かつ具体的に示すことができ、全ての人に対して血圧への興味を増大させ、数値目標を設定した血圧低下の努力をうながすことができる。正常血圧を含めた集団全体の血圧値の低下によって、脳卒中発症が大巾に減少することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、個人の脳卒中危険因子を基に、脳卒中危険が同じ性と年齢の平均に比してどこに位置付き、血圧を低下させるとどれだけ安全になるかを定量的に示すことができ、自分の血圧をどこまで下げるか、目標値の設定を容易に決定できるようになった。
【実施例1】
【0009】
表示画面は、個人の危険因子の程度を入力および修正するデータ入力画面(図2)、結果を示す結果表示画面(図3)、結果のなかでの関心領域を示す拡大画面(図4)からなり、いずれの画面もカラー表示であり、プリンターへの出力機能を有する。
【0010】
図2の項目を入力して、グラフ表示ボタンをクリックすると、縦軸に脳卒中発症率、横軸に25歳から87歳までの年齢が示され、そのグラフ内に個人の脳卒中発症期待値に対する比較の標準となる脳卒中発症率を表示した折れ線グラフと、対象者の年齢の位置に脳卒中発症期待値を赤丸で示す。(図3)
図3の画面の右にある入力画面の値や危険因子の項目を修正すると、瞬時に新しい結果が表示され、危険因子の改善を定量的に知ることができる。
【0011】
求める値は人口10万人に対する発症期待値であるが、脳卒中の危険をイメージし難いため、発症期待値が何歳の脳卒中発症に相当するかを提示し、さらに血圧を現在より5mmHg、10mmHg、15mmHg、20mmHg、25mmHg、30mmHg、低下させたときの発症期待値をその発症率を示す年齢に変換したものと、現在の発症期待値に相当する年齢から年歳若返るかを示す表をグラフの下に示した。
【0012】
全体画面表示で、グラフ部分にカーソルを移動すると、カーソルが+にかわる。関心領域の端から、左クリックでのドラックをし、範囲を指定し(図4)、クリックを離すと、選択範囲に拡大する(図4)。かつ拡大画面の状態でマウスホイールを動かし、拡大率を調整できる。
【実施例2】
【0013】
脳卒中は、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血の3病型からなり、それぞれが血圧、喫煙、肥満、糖尿病に対する危険度が異なり、同じ病型でも性と年齢によって危険度が変化するので、本発明では脳卒中の発症特徴に対応した2つの詳細な表を使用する。
【0014】
2つの表の内容は、25歳から87歳までの1歳ごとの男女、病型別脳卒中発症率と最大血圧平均値(表1)、およびそれぞれの病型について血圧が1mmHg上昇すると発症危険が何%上昇するかを年齢と性別に解析したハザード比(相対危険)からなる表2である。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
2つの表を使い、60歳男性で血圧が147mmHgの場合、表1と表2から脳卒中発症期待値を予測する例を示す。
【0018】
この例では、血圧が147mmHg であり、表1にある60歳の男性の平均137mmHgより10mmHg高いので、表2で示す60歳の脳卒中病型別相対危険を10乗した値と病型別発症率の積が病型別発症率期待値であり、病型別期待値の総和は脳卒中発症期待値となる。
【0019】
喫煙、肥満、糖尿病がある場合には、それぞれの危険因子で年齢、性、血圧を調整した病型別ハザード比を求め、該当した危険因子のハザード比と血圧値から求めた病型別の発症期待値の積を発症率とし、3病型についてそれぞれ求めた値の和を個人の脳卒中発症率とした。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、個人の脳卒中発症と血圧の関係を定量的に測定し、血圧低下の効果を可視的に示すものであり、高血圧患者および健診の結果に連動した生活習慣の指導および自己学習に有用であり、医療機関や職場の健康教育部門での利用が想定される。
【0021】
家庭血圧計に本発明を組み込むことで、自分で測定した血圧値の評価やリスク判定が正確となり、血圧測定装置の付加価値を増す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】個人の血圧値に基づいた脳卒中発症予測システムの流れ図である。
【図2】本発明の入力画面である。自分の性別を選び、年齢、最大血圧値を入力し、喫煙、BMI30以上、糖尿病など該当する項目があれば、チェックを入れる。
【図3】脳卒中発症期待値の表示画面である。縦軸は人口10万人対の脳卒中発症率、横軸は年齢を示す。黒い折れ線は25歳から87歳までの脳卒中発症率を示す。縦の色のついた記号のうち、丸は入力された条件から計算された発症率、その上下にある記号は、血圧を変化させたときの脳卒中発症期待値を示す。グラフの下の表は脳卒中発症期待値を相当する年齢に置き換えたものである。
【図4】図3を拡大した画面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の年齢、性別、血圧、喫煙、肥満、糖尿病に基づいて、25歳から87歳までの1歳ごとの男女別の脳卒中発症率と各年齢の血圧の平均値を利用して、血圧が1mmHg上昇するごとの年齢、性別の相対危険率を組み合わせて脳卒中発症期待値を予測する手段と、対象者の最大血圧値と同年齢かつ同性の平均最大血圧値の差分を求め、同年齢かつ同性の相対危険率を底として差分をべき乗した解と同年齢かつ同性の脳卒中発症率の積をもって脳卒中発症期待値とする手段と、喫煙、肥満、糖尿病がある場合には血圧値から求めた脳卒中発症期待値に、それぞれの危険因子の相対危険率をかけて期待値を再計算する手段と、脳卒中発症期待値に相当する推計年齢を脳卒中発症率から計算する手段と、その結果を脳卒中の発症率を縦軸に、25歳から87歳までの1歳ごとの年齢を横軸にした2次元表示の上に脳卒中の年齢別発症率をプロットした画面に、入力された年齢と脳卒中発症期待値で決定される点を表示して、血圧を上下に数mmHgの範囲で変化させた近傍値での脳卒中発症予測値を数値と記号さらに推計年齢を表で示す手段と、画面上の入力項目を可変として、値をかえるごとに新しい予測値が閲覧できるコンピュータ表示システム。
【請求項2】
請求項1のコンピュータ表示システムにおいて、プログラムを自動血圧計の演算部に組み込み、喫煙習慣の有無、肥満の有無、糖尿病の有無の情報を登録した状態で、測定された最大血圧値をプログラムに自動的に入力し、血圧測定にともない脳卒中発症危険が逐次表示されるコンピュータ表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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