説明

個体潤滑剤及びそれを用いた潤滑油

【課題】 低摩擦係数で、耐摩耗が高く、耐熱性があり、長時間大きな荷重で使用しても機械要素の表面に傷をつける危険性の低い、燃焼してもフッ素ガスを放出することのない環境に優しい、二流化モリブデンに頼らなくてもよい潤滑油を提供することを課題とする。
【解決手段】 潤滑油に混合する個体潤滑剤としては使えないと見なされていたポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂について、固体潤滑剤に用いることができる粒径分布におけるピーク粒径と粒径分布があることを見いだし、PEEK樹脂を所定の条件に粉末化して用いることによって課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は個体潤滑剤及びそれを用いた潤滑油に関し、さらに具体的には、摩擦性および耐摩耗性に優れ、使用中あるいは廃棄時にフッ素ガスを生じることのない環境に優しい個体潤滑剤及びそれを用いた潤滑油として、潤滑油基材(潤滑油基油)にポリエーテルエーテルケトン樹脂を混合した潤滑油に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンや軸受けなど機械要素の摩擦摺動する二面間に用いられる潤滑油は、エンジンの効率の向上、機械要素の機能性能の維持などのために重要な役割を有するため、機械要素においてきわめて重要なものとして、古くから多くの研究開発がなされ、数多くの改善が提案されてきている。
【0003】
潤滑剤は一般に低摩擦係数と耐摩耗性の両立をめざすことになり、高荷重環境下での潤滑性の向上のために、たとえば、潤滑油基油に個体潤滑剤を混ぜて潤滑油を構成することが多い。
【0004】
潤滑油基油に混ぜて潤滑油を構成する固体潤滑剤の例としては、たとえば、多く使われているものとして二硫化モリブデン(MoS2)が知られているが、このほかに、特許文献1〜7に記載されているように、二硫化タングステン、有機モリブデン化合物、黒鉛、六方晶窒化ホウ素(h−BN)、四フッ化エチレン(PTFE)などが提案されている。
【0005】
その中で、特許文献1〜11に記載されているように、潤滑油基油に固体潤滑剤として二硫化モリブデンを混ぜて潤滑油を構成する提案が特に多くみられる。
【0006】
二硫化モリブデンは優れた摩擦低減剤で、耐摩耗性、極圧性を著しく向上するとして、大きな機械から腕時計のような小型精密機械まで広く使用されている。しかし、黒色で劣化の判断がしにくいこと、湿気や高温で分解すること、面圧が高いと摺動面に付着しやすく、長時間使用するとたとえば軸受け内で回転する歯車の金属製の軸に傷をつけてしまうなど、いくつかの欠点も知られている。
【0007】
また、大気中における耐荷重能は、二硫化モリブデンの実用値を800とすると、窒化ホウ素は300,PTFEは200で、大気中における耐熱温度は、窒化ホウ素が700°Cで、二硫化モリブデンが350−400°C、PTFEは200−260°C である。PTFEの長時間使用可能温度は200°C以下とされている。
【0008】
また、PTFEは前記のように耐熱性に問題があるとともに、フッ素樹脂であり、燃焼したときにフッ素ガスを発生するという問題がある。
【0009】
近年、エンジンや軸受けなど機械要素においては、たとえば、自動車の低燃費化、機械の小型化および高性能化が強く求められており、極限の追求が行われているといっても過言ではない状況にある。その結果、機械要素の潤滑油においても、高温、極圧、高剪断条件での耐性が求められるとともに、永く供給することができる素材で、使用中あるいは使用後の燃焼も含めて環境に害の少ない潤滑油の実現が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−297555号公報
【特許文献2】特開2009−221307号公報
【特許文献3】特開2009−286951号公報
【特許文献4】特開2009−298890号公報
【特許文献5】特開2010−001326号公報
【特許文献6】特開2010−024318号公報
【特許文献7】特開2010−065072号公報
【特許文献8】特開2009−221314号公報
【特許文献9】特開2009−235258号公報
【特許文献10】特開2010−031082号公報
【特許文献11】特開2010−053236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、本発明の解決すべき課題は、低摩擦係数で、耐摩耗が高く、耐熱性があり、長時間大きな荷重で使用しても機械要素の表面に傷をつける危険性の低い、燃焼してもフッ素ガスを放出することのない環境に優しい、二流化モリブデンに頼らなくてもよい潤滑油を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、後述のように、粉末にする加工が極めて難しい上に、潤滑性のコーティング剤としては用いられていたが潤滑油の固体潤滑剤としては用いられていなかったPEEK樹脂を潤滑油の固体潤滑剤に適した粉末条件を見いだして新規の固体潤滑剤を作製して課題を解決したものである。
【0013】
課題を解決するためになされた本発明の例としての第1の発明(以下、発明1という)は、潤滑油基油に機械的に粉砕したポリエーテルエーテルケトン樹脂(以下、PEEK樹脂という)粉末を固体潤滑剤として混ぜたことを特徴とする潤滑油である。
【0014】
発明1を展開してなされた本発明の例としての第2の発明(以下、発明2という)は、発明1に記載の潤滑油において、前記PEEK樹脂粉末の粒径分布におけるピーク粒径すなわち粒径分布曲線における最大個数を示す粒径(以下、ピーク粒径という)が15μm以下であることを特徴とする潤滑油である。
【0015】
発明2を展開してなされた本発明の例としての第3の発明(以下、発明3という)は、発明2に記載の潤滑油において、前記PEEK樹脂粉末のピーク粒径が7μm以下であることを特徴とする潤滑油である。
【0016】
発明1〜3を展開してなされた本発明の例としての第4の発明(以下、発明4という)は、発明1〜3のいずれかに記載の潤滑油において、前記固体潤滑剤が前記粒径分布曲線におけるピーク粒径±3割の粒径分布範囲以内に70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布している固体潤滑剤であることを特徴とする潤滑油である。
【0017】
発明4を展開してなされた本発明の例としての第5の発明(以下、発明5という)は、発明4に記載の潤滑油において、前記固体潤滑剤が前記粒径分布曲線におけるピーク粒径±1割の粒径分布範囲以内に70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布している固体潤滑剤であることを特徴とする潤滑油である。
【0018】
発明1〜5を展開してなされた本発明の例としての第6の発明(以下、発明6という)は、発明1〜5のいずれかに記載の潤滑油において、前記PEEK樹脂粉末が、粉末化する前の固形の樹脂から粉末化のための機械的粉砕処理を施されて後、融点近傍の温度環境に晒されて粉末の表面細部形状を変形させる加工を施された粉末であることを特徴とする潤滑油である。
【0019】
発明1〜6を展開してなされた本発明の例としての第7の発明(以下、発明7という)は、発明1〜6のいずれかに記載の潤滑油において、前記固体潤滑剤が六方晶窒化ホウ素微粉末を混練したPEEK樹脂を機械的に粉砕したものであることを特徴とする潤滑油である。
【0020】
発明1〜7を展開してなされた本発明の例としての第8の発明(以下、発明8という)は、発明1〜7のいずれかに記載の潤滑油において、前記PEEK樹脂粉末のピーク粒径が1μm以下であることを特徴とする潤滑油である。
【0021】
課題を解決するためになされた本発明の例としての第9の発明(以下、発明9という)は、潤滑油基油に機械的に粉砕したPEEK樹脂粉末が主成分であることを特徴とする固体潤滑剤である。
【0022】
発明9を展開してなされた本発明の例としての第10の発明(以下、発明10という)は、発明9に記載の固体潤滑剤において、前記PEEK樹脂粉末の粒径分布におけるピーク粒径が15μm以下であることを特徴とする固体潤滑剤である。
【0023】
発明10を展開してなされた本発明の例としての第11の発明(以下、発明11という)は、発明10に記載の固体潤滑剤において、前記PEEK樹脂粉末のピーク粒径が7μm以下であることを特徴とする固体潤滑剤である。
【0024】
発明9〜11を展開してなされた本発明の例としての第12の発明(以下、発明12という)は、発明9〜11のいずれかに記載の固体潤滑剤において、前記固体潤滑剤が前記粒径分布曲線におけるピーク粒径±3割の粒径分布範囲以内に70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布していることを特徴とする固体潤滑剤である。
【0025】
発明12を展開してなされた本発明の例としての第13の発明(以下、発明13という)は、発明12に記載の固体潤滑剤において、前記固体潤滑剤が前記粒径分布曲線におけるピーク粒径±1割の粒径分布範囲以内に70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布していることを特徴とする固体潤滑剤である。
【0026】
発明9〜13を展開してなされた本発明の例としての第14の発明(以下、発明14という)は、発明9〜13のいずれかに記載の固体潤滑剤において、前記PEEK樹脂粉末が、粉末化する前の固形の樹脂から粉末化のための機械的粉砕処理を施されて後、融点近傍の温度環境に晒されて粉末の表面細部形状を変形させる加工を施された粉末であることを特徴とする固体潤滑剤である。
【0027】
発明9〜14を展開してなされた本発明の例としての第15の発明(以下、発明15という)は、発明9〜14のいずれかに記載の固体潤滑剤において、前記固体潤滑剤が六方晶窒化ホウ素微粉末を混練したPEEK樹脂を機械的に粉砕したものであることを特徴とする固体潤滑剤である。
【0028】
発明9〜15を展開してなされた本発明の例としての第16の発明(以下、発明16という)は、発明9〜15のいずれかに記載の固体潤滑剤において、前記PEEK樹脂粉末のピーク粒径が1μm以下であることを特徴とする固体潤滑剤である。
【発明の効果】
【0029】
以上説明した本発明の固体潤滑剤およびそれを用いた潤滑油は、固体潤滑剤として二硫化モリブデンを用いた従来の潤滑油における焼き付け現象を生じることがなく、固体潤滑剤としてPTFEを用いた従来の潤滑油における200°C以下での使用に制限されることもなく、燃焼してフッ素ガスを放出する恐れは全くなく、従来の潤滑油の潤滑性能に勝るとも劣らない優れた潤滑性能を示すという多大な効果を発揮するものであり、将来二硫化モリブデンが使用できなくなった場合にもその代替潤滑油としての機能を果たすことができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態例について説明する。なお、説明の重複を避けるため、固体潤滑剤としての説明で潤滑油の説明を兼ねることもあり、その逆の場合もある。以下に、本発明の実施の形態例について説明する。
【0031】
本発明の発明者等は、まず、低摩擦係数でり、耐摩耗性があり、耐熱性が300°C以上で、色が黒色でなく、比重が二流化モリブデンよりも大幅に小さい物質で、粉末の固体潤滑剤として潤滑油基油に混入して潤滑油として用いることができる物質を種々検討し、潤滑油として従来行われている潤滑特性の評価を行った。
【0032】
その結果、PEEK樹脂を粉砕して工業用としての固体潤滑剤に用いることができることを見いだした。
【0033】
PEEK樹脂はその優れた物性に着目され、優れた摺動性、非粘着性、機械的特性、高耐熱性などに厳しい特性が要求される摺動機械部品にコーティング剤として用いられている。PEEK樹脂をコーティングした摺動機械部品として、たとえば、ローラーベアリング、金型、紡績機械、炊飯器などがある。
【0034】
PEEK樹脂は、融点が340°C以上で、連続使用温度が250°C以上で、硬く、一般的な溶剤に侵されることなく、酸、塩基、炭化水素、塩分、蒸気に対して優れた耐薬品性を有し、比重が1.2〜1.5(比較として、PTFEが2.14〜2.20、窒化ホウ素が2.34、二流化モリブデンが4.80)である。PEEK樹脂粉末を主成分とするコーティング剤の機械部品へのコーティング加工は、380〜400°Cの加工温度で行われる。
【0035】
PEEK樹脂は前記のように低摩擦特性、耐摩耗特性、耐熱性、耐薬品性などの優れた特性のため、摺動性の機械部品の表面に膜として用いられるが、潤滑油の固体潤滑剤としては用いられていない。
【0036】
その理由は、コーティング剤としてのPEEK樹脂粉末として要求される製品規格が潤滑油の固体潤滑剤としての規格とは全く異なることにあると思われる。すなわち、コーティング剤としてのPEEK樹脂粉末は最終使用形態が粉末状態ではなく380〜400°Cの加工温度で加工された膜の状態であり、粉末としての粒径とそのバラツキはコーティング加工上の条件さえ満たせばよいことになる。また、一般の企業にとってはPEEK樹脂粉末の製造はきわめて難しい技術を要求され、加工自体がほとんどできないという事情がある。このような背景も影響して、PEEK樹脂粉末を潤滑油の固体潤滑剤として使用しようという実用上の発想が思い浮かばなかったものと思われる。
【0037】
本発明の発明者らは、PEEK樹脂粉末を潤滑油の固体潤滑剤として使用するために必要な条件をいろいろな角度から検討した結果、PEEK樹脂粉末に適切な規格を設定することによってPEEK樹脂粉末を潤滑油の固体潤滑剤として使用することができることを見いだした。
【0038】
まず、潤滑油の固体潤滑剤として使用するためには潤滑油の用途あるいは形態によって適切な粒径と粒径分布を適切に設定し、その条件をできるだけ長期間維持することが重要である。
【0039】
潤滑油基油に混ぜて用いる固体潤滑剤として樹脂を用いる場合、潤滑性に加えて、機械要素の摺動する二面間の圧力などによって固体潤滑剤に加えられるが外力などの影響で、固体潤滑剤が再粉砕されて粒径に関する条件が変化しやすいことを避けることが望ましい。そのためにも、本発明においては、PEEK樹脂の粉砕に、従来PTFEなど他の樹脂の粉砕に用いられている放射線を樹脂に照射する方法を用いずに、機械的力による機械粉砕方法を用いた。
【0040】
PEEK樹脂は極めて堅いものであり、その粉末化は極めて難しいものとされており、液中における粉末化が試みられ、工業材料として固体潤滑剤に用いることができるPEEK樹脂の粉末を得られなかったため、PEEK樹脂の固体潤滑剤としての実用化は行われず、固体潤滑剤としてPEEK樹脂を用いようとの計画も進められなかった。しかし、本発明の発明者は潤滑油としての多方面からの検討の結果、PEEK樹脂の機械的粉砕によって作製された粉末は、以下に詳述するように、潤滑油中の固体潤滑剤としてこれまで二硫化モリブデンを用いてきた潤滑油に勝るとも劣らない優れた潤滑油を工業レベルで提供することができることを見いだした。
【0041】
まず、潤滑油の固体潤滑剤として使用するためには、固体潤滑剤の素材として有する物性に加えて、潤滑油の用途あるいは形態によって適切な粒径と粒径分布を選択することが重要である。本発明の発明者が種々検討した結果、固体潤滑剤としてPEEK樹脂粉末を用いる場合、PEEK樹脂粉末の粒径分布におけるピーク粒径すなわち粒径分布曲線における最大個数を示す粒径が15μm以下であることが望ましく、粒径分布が、たとえばピーク粒径が15μmの場合に、15μm±5μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布していることが好ましく、15μm±3μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布していることがさらに好ましく、15μm±1.5μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布していることが極めて好ましい潤滑性能を発揮することを見いだした。
【0042】
ピーク粒径が7μmで、7μm±0.7μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布している固体潤滑剤(以下、試料7−1という)、7μm±1.4μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料7−1には該当しない固体潤滑剤(以下、試料7−2という)、7μm±2.1μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料7−1にも試料7−2にも該当しない固体潤滑剤(以下、試料7−3という)、7μm±4.7μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料7−1〜試料7−3のいずれにも該当しない固体潤滑剤(以下、試料7−4という)、ピーク粒径が10μmで、10μm±1μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布している固体潤滑剤(以下、試料10−1という)、10μm±2μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料10−1には該当しない固体潤滑剤(以下、試料10−2という)、10μm±3μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料10−1にも試料10−2にも該当しない固体潤滑剤(以下、試料10−3という)、10μm±6.7μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料10−1〜試料10−3のいずれにも該当しない固体潤滑剤(以下、試料10−4という)、ピーク粒径が15μmで、15μm±1.5μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布している固体潤滑剤(以下、試料15−1という)、15μm±3μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料15−1には該当しない固体潤滑剤(以下、試料15−2という)、15μm±5μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料15−1にも試料15−2にも該当しない固体潤滑剤(以下、試料15−3という)、15μm±10μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料15−1〜試料15−3のいずれにも該当しない固体潤滑剤(以下、試料15−4という)、ピーク粒径が20μmで、20μm±2μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布している固体潤滑剤(以下、試料20−1という)、20μm±4μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料20−1には該当しない固体潤滑剤(以下、試料20−2という)、20μm±6.7μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料20−1にも試料20−2にも該当しない固体潤滑剤(以下、試料20−3という)、20μm±14μmに70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布しているが試料20−1〜試料20−3のいずれにも該当しない固体潤滑剤(以下、試料20−4という)を作製し、流動性の潤滑油基油と半固体状の潤滑油基油にそれぞれ混ぜ、潤滑性の評価を行った。
【0043】
潤滑油基油としては、従来グリースとして使われているもの、組み立て用潤滑剤として使われているペーストに使われているものを用い、評価方法も従来と同様の方法を適用して評価を行った。
【0044】
潤滑油基油と固体潤滑剤としての前記各試料の混合割合は、混合後の潤滑油量100に対して重量%で、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、65%の試料を作成して、荷重が50kgf、100kgf、150kgf、200kgf、250kgfの場合、使用温度が常温、100°度C,150°C, 200°C、250°Cの場合に関して評価した。また、従来の二硫化モリブデンを固体潤滑剤として使用したグリースとペーストについても評価した。
【0045】
その結果、混合割合が65%に比較して60%以下が優れた潤滑特性を示し、潤滑油としての用途も広いことがわかった。使用温度はPTFEの場合に軟化温度の問題で使用が難しい200°C以上の場合も全く問題がなく、250°Cでも全く問題がなく、さらに260°C以上の温度でも使用可能であることがわかった。また、潤滑油基油に混合する固体潤滑剤として二硫化モリブデンを用いた潤滑油のように、長期間使用における固体潤滑剤の沈着や機械要素表面への付着の問題は全く生じなかった。
【0046】
そして、潤滑性能は試料7−1〜7−4では試料7−1が最もよく、7−1,7−2,7−3,7−4の順位で若い試料番号の方が良い結果を示し、試料10−1〜10−4では試料10−1が最もよく、10−1,10−2,10−3,10−4の順位で若い試料番号の方が良い結果を示し、試料15−1〜15−4では試料15−1が最もよく、15−1,15−2,15−3,15−4の順位で若い試料番号の方が良い結果を示し、試料20−1〜20−4では試料20−1が最もよく、20−1,20−2,20−3,20−4の順位で若い試料番号の方が良い結果を示したが、試料7−1〜7−4、試料10−1〜10−4、試料15−1〜15−4の何れよりも潤滑性能が劣るという結論に達した。また、PTFEではできなかった200°C以上の使用温度での長期間使用にも耐えることができるということが確認できた。さらに、従来の二硫化モリブデンを固体潤滑剤として使用した潤滑油において150kgf以上の荷重の場合にしばしばみられた焼き付きと摺動面に傷をつけるという問題は全くみられなかった。経時的潤滑性能も安定しており、粒径に変化を生じた形跡も全くみられなかった。なお、前記各試料の評価及びその条件の周辺条件の検討から、本発明に用いるPEEK粉末は、ピーク粒径±3割の粒径以内に当該粉末の70%以上が分布するように構成すると優れた潤滑性能を示すことがわかり、ピーク粒径±1割の粒径以内に当該粉末の70%以上が分布するように構成すると極めて優れた潤滑性能を示すことがわかった。
【0047】
本発明の固体潤滑剤を混合して本発明の潤滑油を作製するのに用いる潤滑油基油としては、従来潤滑油として用いられていた潤滑油の潤滑油基油を広く用いることができるものである。
【0048】
また、本発明の固体潤滑剤は前記形態例に狭く限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内において多くのバリエーションを可能とするものである。
【0049】
前記PEEK樹脂粉末は、PEEKを機械的に粉砕したPEEK樹脂粉末を用いたが、本発明に用いるPEEK樹脂粉末はこれに狭く限定されるものではなく、PEEK樹脂粉末としての潤滑特性を活かして多くのバリエーションを可能とするものである。たとえば、本発明の固体潤滑剤としてのPEEK樹脂粉末は、PEEK樹脂に六方晶窒化ホウ素粉末を混合したものを粉砕したPEEK樹脂粉末を本発明の固体潤滑剤用PEEK樹脂粉末として用いることができる。
【0050】
たとえば、PEEK樹脂を融点以上の加熱状態にしたものに、ピーク粒径が0.2μmの六方晶窒化ホウ素を、PEEK樹脂100に対して重量比で40%混合したものと5%混合したものをそれぞれ準備し、それぞれ十分に混練して冷却し、それらを機械的に粉砕して粉砕してピーク粒径が7μm、3μm、0.5μmのPEEK樹脂粉末を作製し、それを潤滑油基油に混合した潤滑油を作製し、従来と同様に固体潤滑剤及び潤滑油としての潤滑性能の評価を行ったところ、良好な潤滑性能を示すという結果が得られた。ピーク粒径が9μm以下のPEEK樹脂粉末はこれまで全くなかったものであり、今後固体潤滑剤として重要なものとなる。特にピーク粒径が1μm以下のPEEK樹脂粉末を用いた固体潤滑剤およびそれを混合した潤滑油としての用途が極めて広くなるものである。
【0051】
また、本発明の潤滑油は、オイルなどの流動性の高い潤滑油に基油に、たとえば1%混合して潤滑油を構成することができる。
【0052】
前記実施の形態例における本発明の固体潤滑剤に用いる機械的に粉砕したPEEK樹脂粉末は、機械的粉砕工程の後に、粉末同士が凝縮しない融点の近傍における適切な条件下において、加熱処理工程を経ることによって、粉末の細部形状の端部を丸めるなどの変形加工を施して、潤滑油としての性能を一層高めることができる。
【0053】
さらに、本発明の固体潤滑剤を潤滑油基油に単独で混合して潤滑油を構成することができるとともに、従来用いられている固体潤滑剤とともに潤滑油基油に混合して潤滑油を構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の固体潤滑剤とそれを用いた潤滑油は、自動車、工作機械、時計、金型など広い分野での摺動する近接対向二面を有する機械要素の潤滑剤として広い技術分野において使用して大きな効果を発揮するものである。ものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に機械的に粉砕したポリエーテルエーテルケトン樹脂(以下、PEEK樹脂という)粉末を固体潤滑剤として混ぜたことを特徴とする潤滑油。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑油において、前記PEEK樹脂粉末の粒径分布におけるピーク粒径すなわち粒径分布曲線における最大個数を示す粒径(以下、ピーク粒径という)が15μm以下であることを特徴とする潤滑油。
【請求項3】
請求項2に記載の潤滑油において、前記PEEK樹脂粉末のピーク粒径が7μm以下であることを特徴とする潤滑油。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑油において、前記固体潤滑剤が前記粒径分布曲線におけるピーク粒径±3割の粒径分布範囲以内に70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布している固体潤滑剤であることを特徴とする潤滑油。
【請求項5】
請求項4に記載の潤滑油において、前記固体潤滑剤が前記粒径分布曲線におけるピーク粒径±1割の粒径分布範囲以内に70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布している固体潤滑剤であることを特徴とする潤滑油。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の潤滑油において、前記PEEK樹脂粉末が、粉末化する前の固形の樹脂から粉末化のための機械的粉砕処理を施されて後、融点近傍の温度環境に晒されて粉末の表面細部形状を変形させる加工を施された粉末であることを特徴とする潤滑油。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の潤滑油において、前記固体潤滑剤が六方晶窒化ホウ素微粉末を混練したPEEK樹脂を機械的に粉砕したものであることを特徴とする潤滑油。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の潤滑油において、前記PEEK樹脂粉末のピーク粒径が1μm以下であることを特徴とする潤滑油。
【請求項9】
潤滑油基油に機械的に粉砕したポリエーテルエーテルケトン樹脂(以下、PEEK樹脂という)粉末が主成分であることを特徴とする固体潤滑剤。
【請求項10】
請求項9に記載の固体潤滑剤において、前記PEEK樹脂粉末の粒径分布におけるピーク粒径すなわち粒径分布曲線における最大個数を示す粒径(以下、ピーク粒径という)が15μm以下であることを特徴とする固体潤滑剤。
【請求項11】
請求項10に記載の固体潤滑剤において、前記PEEK樹脂粉末のピーク粒径が7μm以下であることを特徴とする固体潤滑剤。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の固体潤滑剤において、前記固体潤滑剤が前記粒径分布曲線におけるピーク粒径±3割の粒径分布範囲以内に70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布していることを特徴とする固体潤滑剤。
【請求項13】
請求項12に記載の固体潤滑剤において、前記固体潤滑剤が前記粒径分布曲線におけるピーク粒径±1割の粒径分布範囲以内に70%以上の個数のPEEK樹脂粉末が分布していることを特徴とする固体潤滑剤。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか1項に記載の固体潤滑剤において、前記PEEK樹脂粉末が、粉末化する前の固形の樹脂から粉末化のための機械的粉砕処理を施されて後、融点近傍の温度環境に晒されて粉末の表面細部形状を変形させる加工を施された粉末であることを特徴とする固体潤滑剤。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1項に記載の固体潤滑剤において、前記固体潤滑剤が六方晶窒化ホウ素微粉末を混練したPEEK樹脂を機械的に粉砕したものであることを特徴とする固体潤滑剤。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれか1項に記載の固体潤滑剤において、前記PEEK樹脂粉末のピーク粒径が1μm以下であることを特徴とする固体潤滑剤。

【公開番号】特開2011−213748(P2011−213748A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80178(P2010−80178)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(591020423)株式会社新光化学工業所 (10)
【Fターム(参考)】