説明

倍力装置

【課題】倍力装置において、マスタシリンダのピストンの軸方向の長さを短くする。
【解決手段】ブレーキペダルの操作によって入力ロッド34及び入力ピストン32を前進させ、入力ピストン32の移動に応じて電動モータ40を駆動し、ボールねじ機構41を介して2マスタシリンダのプライマリピストン10を推進する。これにより、プライマリ室16及びセカンダリ室17に所望の液圧を発生させて、各車輪のブレーキキャリパに供給する。このとき、入力ピストン32によって、プライマリ室16内の液圧の一部を受圧することにより、制動時の液圧の反力の一部をブレーキペダルにフィードバックする。プライマリ、セカンダリピストン10、11間に介装したバネアセンブリ26のリテーナ29を中空構造として、入力ピストン32の先端部を挿入することにより、プライマリピストン10の軸方向の長さを短くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキ機構に用いられる倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキ機構に用いられる倍力装置において、例えば特許文献1に記載されたもののように、電動モータを倍力源として利用する電動倍力装置が知られている。この電動倍力装置は、ブレーキペダルの操作と連動する入力ピストンの移動に応じて電動モータを駆動してボールねじ(回転−直動変換機構)を介してマスタシリンダのピストンを推進し、所望の液圧を発生させて、各車輪のブレーキキャリパに供給する。このとき、ピストンを摺動可能に貫通してマスタシリンダ内に挿入した入力ピストンによって、マスタシリンダ内の液圧の一部を受圧することにより、制動時の液圧の反力の一部をブレーキペダルにフィードバックする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−296782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された電動倍力装置は、プライマリ及びセカンダリの2つのピストンによって2系統の液圧ポートから液圧を供給するいわゆるタンデム型のマスタシリンダを備えており、一方の液圧系統が失陥した場合でも、他方の系統によって制動機能を維持することができる。そして、プライマリピストンとセカンダリピストンとの間に、コイルスプリング、バネ受、バネ受間を連結してコイルスプリングにセット荷重を付与するスプリングステムとからなるスプリングアセンブリが介装されている。プライマリピストンを貫通する入力ピストンとスプリングステムとは、マスタシリンダ内において同軸上に配置されているため、入力ピストンとスプリングステムとの干渉を避けつつ、入力ピストンの充分なストロークを確保するには、プライマリピストンのマスタシリンダ側端部から入力ピストンが挿通されるシール部までの長さを充分に長くする必要があった。これは、倍力装置の小型化の要請に反する一因となっている。
【0005】
本発明は、マスタシリンダのピストンのマスタシリンダ側端部から入力ピストンが挿通されるシール部までの長さを短くすることができる倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の倍力装置は、有底筒状のシリンダ本体内に液圧を発生する圧力室を有するマスタシリンダと、ブレーキペダルの操作により、進退移動する入力ピストンと、
該入力ピストンに相対移動可能に外装された円筒状のピストンと、
該ピストンを進退移動させるアクチュエータとを備え、
前記入力ピストン及び前記ピストンを前記シリンダ本体に挿入して、それぞれの前端部を前記液圧室に臨ませた倍力装置において、
前記圧力室の内部には、前記ピストンを後退方向に付勢するバネと、該バネの両端から挿入されて軸方向に相対移動可能に結合されて、前記バネの最大長を規定する少なくとも2つの部材からなるリテーナとを有するバネアセンブリが設けられ、
前記リテーナは、前記少なくとも2つの部材の内部が共に前記入力ピストンの前端部を挿入可能な中空形状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る倍力装置によれば、マスタシリンダのピストンのマスタシリンダ側端部から入力ピストンが挿通されるシール部までの長さを短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動倍力装置の縦断面図である。
【図2】図1のマスタシリンダ部を拡大して示す図である。
【図3】図1に示す電動倍力装置において、プライマリピストン、セカンダリピスト及び入力ピストンが最大ストロークした状態のマスタシリンダ部を拡大して示す図である。
【図4】図1に示す電動倍力装置のバネアセンブリの拡大縦断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るバネアセンブリの要部を拡大して示す縦断面図である。
【図6】本発明の更に他の実施形態に係るバネアセンブリの拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に本実施形態に係る倍力装置である電動倍力装置1の全体図を示し、図2に要部の拡大図を示す。図1及び図2に示すように、電動倍力装置1は、タンデム型のマスタシリンダ2と、アクチュエータ3及びコントローラ(図示せず)を内装するケース4とを備え、マスタシリンダ2には、リザーバ5が接続されている。マスタシリンダ2は、略有底円筒状のシリンダ本体2Aを含み、その開口部側がケース4の前部にスタッドボルト6A及びナット6Bによって結合されている。ケース4の後部には、平坦な取付座面7が形成され、取付座面7からマスタシリンダ2と同心の円筒状の案内部8が突出している。そして、電動倍力装置1は、車両のエンジンルーム内に配置され、案内部8をエンジンルームと車室との隔壁に貫通させて車室内に延ばし、取付座面7を隔壁に当接させて取付座面7に設けられたスタッドボルト9を用いて固定される。
【0010】
マスタシリンダ2のシリンダ本体2A内には、開口側に、先端部がカップ状に形成された円筒状のプライマリピストン10(ピストン)が嵌装され、底部側にカップ状のセカンダリピストン11が嵌装されており、プライマリピストン10の後端部は、マスタシリンダ2の開口部からケース4内に突出して、案内部8付近まで延びている。プライマリピストン10及びセカンダリピストン11は、シリンダ本体2Aのシリンダボア12内に嵌合されたスリーブ13の両端側に配置された環状のガイド部材14、15によって摺動可能に案内されている。シリンダ本体2A内は、プライマリピストン10及びセカンダリピストン11によってプライマリ室16及びセカンダリ室17の2つの圧力室が形成され、プライマリ室16及びセカンダリ室17には、液圧ポート18、19がそれぞれ設けられている。液圧ポート18、19には、各車輪のブレーキキャリパに液圧を供給するための2系統の液圧回路がそれぞれ接続される。
【0011】
また、シリンダ本体2Aの側壁の上部側には、プライマリ室16及びセカンダリ室17をリザーバ5に接続するためのリザーバポート20、21が設けられている。シリンダ本体2Aのシリンダボア12と、プライマリピストン10及びセカンダリピストン11との間は、それぞれ2つのシール部材22A、22B及び23A、23Bによってシールされている。シール部材22A、22Bは、軸方向に沿ってリザーバポート20を挟むように配置されており、プライマリピストン10が図1及び図2に示す非制動位置にあるとき、プライマリ室16がプライマリピストン10の側壁に設けられたポート24を介してリザーバポート20に連通し、プライマリピストン10が非制動位置から前進したとき、シール部材22Aによってプライマリ室16がリザーバポート20から遮断されるようになっている。また、シール部材23A、23Bは、軸方向に沿ってリザーバポート21を挟むように配置されており、セカンダリピストン11が図1及び図2に示す非制動位置にあるとき、セカンダリ室17がセカンダリピストン11の側壁に設けられたポート25を介してリザーバポート21に連通し、セカンダリピストン11が非制動位置から前進したとき、シール部材23Aによってセカンダリ室17がリザーバポート21から遮断されるようになっている。
【0012】
プライマリ室16内のプライマリピストン10とセカンダリピストン11との間には、バネアセンブリ26が介装され、セカンダリ室17内のマスタシリンダ2の底部とセカンダリピストン11との間には、圧縮コイルばねである戻しバネ27が介装されている。バネアセンブリ26は、図4に示すように、圧縮コイルばねであるバネ28を伸縮可能な円筒状のリテーナ29によって所定の圧縮状態で保持し、バネ28のバネ力に抗して圧縮可能としたものであり、詳細については後述する。
【0013】
プライマリピストン10は、カップ状の先端部と円筒状の後部と、内部を軸方向に仕切る中間壁30とを備え、中間壁30には、案内ボア31が軸方向に沿って貫通されている。案内ボア31には、段部32Aを有する段付形状の入力ピストン32の小径の先端部が摺動可能かつ液密的に挿入されており、入力ピストン32の先端部は、プライマリ室16内のバネアセンブリ26の円筒状のリテーナ29に挿入されている。案内ボア31と入力ピストン32との間は、2つのシール部材33A、33Bによってシールされており、プライマリピストン10の中間壁30には、案内ボア31のシール部材33A、33B間に開口する通路33が径方向に沿って貫通されている。そして、通路33は、シリンダ本体2Aのシリンダボア12とプライマリピストン10との間をシールする2つのシール部材22A、22B間に開口するように配置されている。
【0014】
入力ピストン32の後端部には、ケース4の円筒部8及びプライマリピストン10の後部に挿入された入力ロッド34の先端部が連結され、入力ロッド34の後端側は、円筒部8から外部に延出され、その端部には、ブレーキペダル(図示せず)が連結される。プライマリピストン10の後端部には、フランジ状のバネ受35が取付けられ、プライマリピストン10は、ケース4の前壁側とバネ受35との間に介装された圧縮コイルばねである戻しバネ36によって後退方向に付勢されている。また、入力ピストン32は、プライマリピストン10の中間壁30との間及びバネ受35との間にそれぞれ介装されたバネ37、38によって、図1及び図2に示す中立位置に弾性的に保持されている。入力ロッド34の後退位置は、ケース4の円筒部8の後端部に設けられたストッパ39によって規定されている。
【0015】
ケース4内には、電動モータ40及び電動モータ40の回転を直線運動に変換してプライマリピストン10に推力を付与するボールネジ機構41を含むアクチュエータ3が設けられている。電動モータ40は、ケース4に固定されたステータ42と、ステータ42に対向させてベアリング43、44によってケース4に回転可能に支持された中空のロータ45とを備えている。ボールネジ機構41は、ロータ45の内周部に固定された回転部材であるナット部材46と、ナット部材46及びケース4の円筒部内に挿入されて軸方向に沿って移動可能で、かつ、軸回りに回転しないように支持された直動部材である中空のネジ軸47と、これらの対向面に形成されたネジ溝間に装填された複数のボール48とを備え、ナット部材46の回転により、ネジ溝に沿ってボール48が転動することにより、ネジ軸47が軸方向に移動するようになっている。なお、ボールネジ機構41は、ナット部材46とネジ軸47との間で、回転及び直線運動を相互に変換可能となっている。
【0016】
ボールネジ機構41のネジ軸47は、ケース4の前壁側との間に介装された圧縮テーパコイルバネである戻しバネ49によって後退方向に付勢され、ケース4の円筒部8に設けられたストッパ39によって後退位置が規制されている。ネジ軸47内には、プライマリピストン10の後端部が挿入され、ネジ軸47の内周部に形成された段部50にバネ受35が当接してプライマリピストン10の後退位置が規制されている。これにより、プライマリピストン10は、ネジ軸47と共に前進し、また、段部50から離間して単独で前進することができる。そして、図1及び図2に示すように、ストッパ39に当接したネジ軸47の段部50によってプライマリピストン10の非制動位置が規定され、非制動位置にあるプライマリピストン10及びバネアセンブリ26の最大長によって、セカンダリピストン11の後退位置、すなわち、非制動位置が規定されている。ネジ軸47の段部50は、ナット部材46の軸方向の長さの範囲に配置されている。
【0017】
次に図4を参照して、バネアセンブリ26について詳細に説明する。
図4に示すように、バネアセンブリ26は、圧縮コイルばねであるバネ28と、バネ28に挿入されてバネ28を所定の圧縮状態で保持する伸縮可能なリテーナ29とから構成されている。リテーナ29は、2つの円筒状の保持部材51、52をバネ28の両端側から挿入してストッパ部材59によって軸方向に相対移動可能に結合したものである。保持部材51、52は、一端部に拡径化されたフランジ状のバネ受部53、54が形成され、他端側の側壁は、スリットを挟んで複数の軸方向延長部55、56を形成して櫛形とされている。軸方向延長部55、56の先端部は、内側に鉤形に屈曲されて係止部57、58を形成している。保持部材51、52は、円筒状の部分が同径で、入力ピストン32の先端部を挿入可能であり、軸方向延長部55、56を円周方向に沿って交互にスリットに挿入するようにして組合わされ、係止部57、58の間に、リング状のストッパ部材59を組込むことによって、互いに結合されている。これにより、リテーナ29は、軸方向延長部55、56が相対移動することによって伸縮することができ、係止部57、58がストッパ部材59に当接することによって、バネ28の最大長を規制している。係止部57、58は、径方向の寸法がストッパ部材59を構成する線材の直径以下であり、その先端部がストッパ部材59の内周側に突出しないようになっている。
【0018】
電動倍力装置1には、入力ピストン32の変位を検出する変位センサ(図示せず)、電動モータ40のロータ45の回転位置を検出する回転位置センサ60、プライマリ、セカンダリ室17、18の液圧を検出する液圧センサ(図示せず)及びこれらを含む各種センサからの検出信号に基づいて電動モータ40の回転を制御するコントローラ(ケース4内に収容される)が設けられている。
【0019】
以上のように構成した本実施形態の作用について、次に説明する。
ブレーキペダルを操作して入力ロッド34によって入力ピストン32を前進させると、入力ピストン32の変位を変位センサによって検出し、コントローラによって入力ピストン32の変位に基づいて電動モータ40の作動を制御し、ボールネジ機構41を介してプライマリピストン10を前進させて入力ピストン32の変位に追従させる。これにより、プライマリ室16に液圧が発生し、また、この液圧がセカンダリピストン11を介してセカンダリ室17に伝達され、これらの液圧を液圧ポート18、19を介して各車輪のブレーキキャリパに供給して制動力を発生させる。
【0020】
このとき、プライマリ室16の液圧の一部を入力ピストン32によって受圧し、その反力を入力ロッド34を介してブレーキペダルにフィードバックする。これにより、所定の倍力比をもって所望の制動力を発生させることができる。また、入力ピストン32に対するプライマリピストン10の追従位置を適宜調整して、バネ37、38のバネ力を入力ピストン32に作用させて、入力ロッド34に対する反力を加減することにより、倍力制御、ブレーキアシスト制御、車間車両安定性制御、車間制御、回生協調制御等の自動ブレーキ制御時に適したブレーキペダル反力を得ることができる。
【0021】
電動倍力装置1は、タンデム型のマスタシリンダ2を備えているので、万一、液圧ポート18、19に接続されている2つの液圧系統の一方が失陥した場合でも、残りの他方の液圧系統への液圧の供給を維持することができる。このとき、プライマリ室16側の液圧系統が失陥した場合には、プライマリ室16の液圧が低下し、プライマリピストン10がバネアセンブリ26をバネ28のバネ力に抗して圧縮してセカンダリピストン11に当接し、セカンダリピストン11を前進させることによってセカンダリ室17に液圧を発生させる。また、セカンダリ室17側の液圧系統が失陥した場合には、セカンダリ室17の液圧が低下してセカンダリピストン11がマスタシリンダ2の底部に当接して固定され、プライマリピストン10、入力ピストン32及び戻しばねアセンブリ26がセカンダリピストン11と共にマスタシリンダ2の底部側に移動し、この状態からプライマリピストン10が更に前進することによってプライマリ室16に液圧を発生させる。
【0022】
万一、アクチュエータ3が故障した場合には、ブレーキペダルによって入力ロッド34を操作すると、入力ピストン32が前進し、入力ピストン32の段部32Aがプライマリピストン10の中間壁30に当接し、これを押圧することにより、プライマリピストン10がボールネジ機構41のネジ軸47の段部50から離間して前進するので、これにより、手動で液圧を発生させることができる。このとき、入力ピストン32は、先端部がリテーナ29に挿入されて、非制動位置における段部32Aと中間壁30との距離の分だけ、リテーナ29の内部を移動可能として、そのストロークを確保する。
【0023】
また、万一、プライマリピストン10の入力ピストン32との間の2つのシール部材33A、33Bの高圧側のシール部材33Aに漏れが生じた場合、漏れたブレーキ液は、通路33を通り、マスタシリンダ2のシリンダボア12とプライマリピストン10との間の2つのシール部材22A、22B間に導かれ、リザーバポート20を介してリザーバ5に送られることになり、プライマリピストン10からケース4の円筒部8を通して車室内に流入することがない。
【0024】
バネアセンブリ26のリテーナ29を中空として、その中に入力ピストン32の先端部を挿入する構造としたことにより、図3に示すように、プライマリピストン10がセカンダリピストン11側に移動しても、入力ピストン32の先端部がリテーナ29に干渉することなく、セカンダリピストン11の近傍まで接近することができるので、マスタシリンダ2側端部から入力ピストン32が挿通されるシール部材33A、33B(シール部)までの長さを短くでき、ひいてはプライマリピストン10の軸方向の寸法を充分小さくすることができる。これにより、プライマリピストン10の摺動性を向上させることができる。プライマリピストン10は、マスタシリンダ2側端部がガイド部材15によって案内されながら、後端部がネジ軸47の内周部に形成された段部50によって前進させられる構造となっているため、その軸方向の寸法(両端部の間の距離)が小さいほど、偶力が発生しにくく、いわゆるこじりが発生しにくいからである。
【0025】
入力ピストン32の先端部は、図1及び図2に示す非制動状態では、リテーナ29の一方の保持部材51に挿入された状態となり、入力ピストンが最も前進したとき(図3参照)、他方の保持部材52に挿入された状態となる。なお、図3は、プライマリピストン10及びセカンダリピストン11が最もマスタシリンダ2の底部側に移動した状態を示している。リテーナ29は、櫛形の保持部材51、52を組合わせてストッパ部材59によって係止することにより、保持部材51、52の円筒部を同径としているので、一定の外径に対してこれらの内径を最大限に大きくすることができる。また、保持部材51、52を共通化することができ、部品点数の削減が可能になる。
なお、リテーナ29は、径の異なる保持部材を組合わせて中空構造としても良い。この場合、各保持部材を櫛形とする必要がないので、強度が高い形状(例えば円筒状)とすることができる。
【0026】
次に、上記実施形態におけるバネアセンブリ26の変形例について、図5及び図6を参照して説明する。なお、以下の説明において、図4に示すものに対して、同様の部分には同一の符号を付して異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0027】
図5に示す変形例では、一方の保持部材51の軸方向延長部55の先端の係止部57Aがストッパ部材59に、ほぼ半周にわたって巻き付けられた形状に形成され、ストッパ部材59が係止部57Aによって保持されている。これにより、リテーナ29が圧縮されたとき、ストッパ部材59は、一方の保持部材51の係止部57Aによって保持されるので、傾いたり脱落したりしにくくなり、リテーナ29の安定した伸縮動作が可能になる。
【0028】
図6に示す変形例では、ストッパ部材59が省略され、保持部材51、52は、スリットが幅広で、軸方向延長部55、56の先端部には、円周方向に広がる半円形の係止部60、61が形成され、保持部材51、52を組合わせたとき、リテーナ29の伸長方向の移動に対して隣接する軸方向延長部55、56の係止部60、61が互いに係合して保持部材51、52の移動を規制する。これにより、ストッパ部材59が不要になり、その分だけリテーナ29の有効内径を大きくすることができる。
【0029】
バネアセンブリ26のリテーナ29は、上述の2つの部材(保持部材51、52)を組合わせたもののほか、3つ以上の部材を伸縮可能に結合して中空構造とし、バネ28の最大長さを規定するものとしてもよい。
【0030】
なお、上記実施形態では、一例として、2系統の液圧ポート18、19を有するタンデム型のマスタシリンダ2を備えた電動倍力装置について説明しているが、本発明は、これに限らず、セカンダリピストン11及びセカンダリ室17を省略してシングル型のマスタシリンダとした電動倍力装置にも適用することができる。また、アクチュエータ3として、電動モータ40及びボールネジ機構41のほか、他の公知のアクチュエータ(例えば、ソレノイドなどの電磁式アクチュエータ、空気圧式のアクチュエータ、油圧式のアクチュエータ)を用いたものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 電動倍力装置(倍力装置)、2 マスタシリンダ、2A シリンダ本体、3 アクチュエータ、10 プライマリピストン(ピストン)、16 プライマリ室(圧力室)、32 入力ピストン、26 バネアセンブリ、28 バネ、29 リテーナ、51、52 保持部材(部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状のシリンダ本体内に液圧を発生する圧力室を有するマスタシリンダと、ブレーキペダルの操作により、進退移動する入力ピストンと、
該入力ピストンに相対移動可能に外装された円筒状のピストンと、
該ピストンを進退移動させるアクチュエータとを備え、
前記入力ピストン及び前記ピストンを前記シリンダ本体に挿入して、それぞれの前端部を前記液圧室に臨ませた倍力装置において、
前記圧力室の内部には、前記ピストンを後退方向に付勢するバネと、該バネの両端から挿入されて軸方向に相対移動可能に結合されて、前記バネの最大長を規定する少なくとも2つの部材からなるリテーナとを有するバネアセンブリが設けられ、
前記リテーナは、前記少なくとも2つの部材の内部が共に前記入力ピストンの前端部を挿入可能な中空形状に形成されていることを特徴とする倍力装置。
【請求項2】
前記入力ピストンは、前記ブレーキペダルの非操作時に、前記リテーナの1つの部材に挿入された状態となっていることを特徴とする請求項1に記載の倍力装置。
【請求項3】
前記入力ピストンは、最も前進したとき、前記リテーナのすべての部材に挿入された状態となることを特徴とする請求項2に記載の倍力装置。
【請求項4】
前記ピストンは、前記入力ピストンが挿通される案内ボアを有する中間壁が形成され、前記入力ピストンには、前記ピストンとの相対移動によって前記中間壁に当接する段部が形成されており、
前記入力ピストンは、少なくとも、前記ブレーキペダルの非操作時における前記段部と前記中間壁との距離の分だけ、前記リテーナの内部を移動可能であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の倍力装置。
【請求項5】
前記中間壁には、前記案内ボアと前記入力ピストンとの間をシールする少なくとも2つのシール部材が設けられ、該少なくとも2つのシール部材の間は、前記中間壁に設けられた径方向の通路を介して、前記マスタシリンダのリザーバに接続することを特徴とする請求項4に記載の倍力装置。
【請求項6】
前記シリンダ本体には、その底部と前記ピストンとの間にセカンダリピストンが設けられ、前記バネアセンブリは、前記ピストンと前記セカンダリピストンとの間の圧力室内に配置されて、前記ピストンに対する前記セカンダリピストンの位置を規定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の倍力装置。
【請求項7】
前記リテーナの2つの部材は、内径が同じであり、円周方向に沿って互い違いに配列される軸方向延長部と、該軸方向延長部の先端部に設けられて、当該2つの部材を互いに係止する係止部とを有していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の倍力装置。
【請求項8】
前記アクチュエータは、回転力を生じる電動モータと、該電動モータの回転を直線運動に変換するボールネジ機構とを備え、
前記ボールネジ機構は、前記電動モータの回転によって回転する回転部材と、前記ピストンに当接して直線運動する直動部材と、前記回転部材と前記直動部材との対向面に設けられたネジ溝に装填された複数のボールとを含み、
前記直動部材と前記ピストンとの当接部は、前記回転部材の軸方向の長さの範囲に配置されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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