説明

倒立二輪型車両、その動作方法、及びプログラム

【課題】倒立二輪型車両の動作特性を踏まえて、倒立二輪型車両のより快適な乗車を提供することが望まれている。
【解決手段】倒立二輪型車両100は、ピッチ方向(z軸に沿う方向)におけるハンドル部45のピッチ角速度の増加に応じて制限値が低減される条件にて、倒立二輪型車両100の移動速度が制限値以上であるか否かを判定し、当該判定結果に応じて、倒立二輪型車両100の搭乗者に対してハンドル部45の急操作の是正を促すべく報知動作する。例えば、倒立二輪型車両100は、警告音を発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立二輪型車両、その動作方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動性能が高く、かつコンパクトサイズである倒立二輪型車両が注目を集めている。倒立二輪型車両は、2つの車輪を個別に駆動制御することにより、搭乗者の重心移動等に応じて任意の方向へ移動することができるユニークな車両である。
【0003】
特許文献1には、同文献の要約に記載されているように、搭乗者がより適切に移動速度を認識できる走行装置が開示されている。例えば、同文献の段落0049には、周期算出部により算出された移動速度と、周期マップと、に基づいて、その移動速度に応じた周期を算出することが説明されている。また、同段落には、ライト装置、音出力装置等は、算出された周期で、光、音等を発生させる点が開示されている。これにより、搭乗者は、より適切に走行装置の移動速度を認識することができる点が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−95121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、他の車両と同様、倒立二輪型車両においては、搭乗者により装置に入力される操作指示は、時間的に遅延して装置側にて処理される。従って、倒立二輪型車両は、このタイムラグが実用上の問題とならない程度にまでチューニングされていることが一般的である。しかしながら、本願発明者らの検討の結果、短時間に大きな速度変更を指示する場合、倒立二輪型車両の快適な乗車が劣化してしまう場合があることが明らかになった。具体的には、倒立二輪型車両の速度がオーバーシュートしたような態様にて変化してしまう場合があることが明らかになった。
【0006】
上述の説明から明らかなように、倒立二輪型車両の動作特性を踏まえて、倒立二輪型車両のより快適な乗車を提供することが望まれている。なお、倒立二輪型車両の速度がオーバーシュートする態様にて変化することは、倒立二輪型車両の快適な乗車を損ねる一例として把握されるべきものであり、これを根拠として、本願発明の技術的範囲を狭く解釈することは許されない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る倒立二輪型車両は、ピッチ方向におけるハンドル部の角速度の増加に応じて判定閾値が低減される条件にて、倒立二輪型車両の移動速度が前記判定閾値以上であるか否かを判定する判定手段と、当該判定手段による判定結果に応じて、当該倒立二輪型車両の搭乗者に対して前記ハンドル部の急操作の是正を促すべく作動する報知手段と、を備える。
【0008】
当該倒立二輪型車両は、前記ハンドル部の急操作に起因して、当該倒立二輪型車両の移動速度が時間軸に沿ってオーバーシュートした態様にて変化するように構成されている、と良い。
【0009】
前記判定手段は、前記判定閾値に対する当該倒立二輪型車両の移動速度の乖離の程度を評価し、当該評価結果に応じて異なる態様にて作動することを前記報知手段に対して指示する、と良い。
【0010】
前記判定手段は、ピッチ方向における前記ハンドル部の前記角速度が所定閾値以上となったとき、前記報知手段に対して作動を指令する、と良い。
【0011】
前記判定手段は、ピッチ方向における前記ハンドル部の前記角速度が所定閾値以上となったとき、前記報知手段に対して作動を指令する、上記いずれかに記載の倒立二輪型車両であって、前記閾値は、当該倒立二輪型車両の移動速度の増加に応じて減少する、と良い。
【0012】
当該倒立二輪型車両は、前記搭乗者による前記ハンドル部の操作に応じた指令速度と当該倒立二輪型車両の現在速度とに応じて、次時点における速度が調整されるように構成されている、と良い。
【0013】
前記報知手段は、少なくとも音、光、及び振動のいずれか一つを報知媒体としている、と良い。
【0014】
本発明に係る倒立二輪型車両の動作方法は、ピッチ方向におけるハンドル部の角速度の増加に応じて判定閾値が低減される条件にて、倒立二輪型車両の移動速度が前記判定閾値以上であるか否かを判定し、当該判定結果に応じて、当該倒立二輪型車両の搭乗者に対して前記ハンドル部の急操作の是正を促すべく報知動作する。
【0015】
本発明に係るプログラムは、倒立二輪型車両に組み込まれるコンピュータの動作を規定するプログラムであって、ピッチ方向におけるハンドル部の角速度の増加に応じて判定閾値が低減される条件にて、倒立二輪型車両の移動速度が前記判定閾値以上であるか否かをコンピュータに判定させ、当該判定結果に応じて、報知手段に対する作動指令をコンピュータに生成させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、搭乗者によるハンドル部の急操作に応じて倒立二輪型車両の乗り心地が劣化することの回避を搭乗者に促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1にかかる倒立二輪型車両の正面図である。
【図2】実施の形態1にかかる倒立二輪型車両の側面図である。
【図3】実施の形態1にかかる倒立二輪型車両の乗車状態を示す模式図である。
【図4】実施の形態1にかかる時間軸に沿ったピッチ角と速度との関係を示すグラフである。
【図5】実施の形態1にかかるオーバーシュートが生じた速度軌跡を示すグラフである。
【図6】実施の形態1にかかる速度規制と倒立二輪型車両の走行状態との関係を説明するための模式図である。
【図7】実施の形態1にかかる倒立二輪型車両に組み込まれる駆動制御装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【図8】実施の形態1にかかる判定制御の態様を示す概略的なブロック図である。
【図9】実施の形態1にかかるピッチ角速度と制限値との関係(制限値の算出方法)を示すグラフである。
【図10】実施の形態1にかかる倒立二輪型車両の動作を示すフローチャートである。
【図11】実施の形態1にかかる速度制御の態様を示すブロック図である。
【図12】実施の形態2にかかる報知部の関連の構成を示すブロック図である。
【図13】実施の形態2にかかる制限値と現在速度との乖離の程度を示すグラフである。
【図14】実施の形態2にかかる超過量と音量との関係を示すグラフである。
【図15】実施の形態2にかかる制限値と現在速度との乖離の程度を場合分けした状態を示すグラフである。
【図16】実施の形態2にかかる報知態様の調整態様を示す表である。
【図17】実施の形態3にかかるピッチ角速度と制限値との関係を示すグラフである。
【図18】実施の形態3にかかる速度とピッチ角速度から求まる制限値との関係を示すグラフである。
【図19】実施の形態3にかかる報知制御の態様を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。本実施形態に係る倒立二輪型車両100(図1及び図2参照)は、ピッチ方向(図2に示すz軸に沿う方向)におけるハンドル部45のピッチ角速度の増加に応じて制限値(判定閾値)が低減される条件にて(図9参照)、倒立二輪型車両100の移動速度が制限値以上であるか否かを判定し(図10のステップS104参照)、当該判定結果に応じて、倒立二輪型車両100の搭乗者に対してハンドル部45の急操作の是正を促すべく報知動作する(図10のステップS105参照)。端的には、図9に模式的に示すように、ピッチ角速度の増加に応じて制限値が減少する条件にて、倒立二輪型車両100は、現在速度が制限値以上か否かを判定する。倒立二輪型車両100は、この判定結果に応じて、例えば、アラーム音を鳴らす。これにより、搭乗者に対して、ハンドル部45の急操作の是正を促すことができる。搭乗者によるハンドル部の急操作に起因して倒立二輪型車両が不自然に走行することの回避を搭乗者に促し、これにより、搭乗者に対して倒立二輪型車両のより快適な乗車を提供することが可能となる。
【0019】
以下、図面を参照して更に説明する。なお、後述の説明は、あくまで具体例に留まり、この説明を理由として本願発明を限定解釈することは許されない。図1は、倒立二輪型車両の正面図である。図2は、倒立二輪型車両の側面図である。図3は、倒立二輪型車両の乗車状態を示す模式図である。図4は、時間軸に沿ったピッチ角と速度との関係を示すグラフである。図5は、オーバーシュートが生じた速度軌跡を示すグラフである。図6は、速度規制と倒立二輪型車両の走行状態との関係を説明するための模式図である。図7は、倒立二輪型車両に組み込まれる駆動制御装置の概略的な構成を示すブロック図である。図8は、判定制御の態様を示す概略的なブロック図である。図9は、ピッチ角速度と制限値との関係(制限値の算出方法)を示すグラフである。図10は、倒立二輪型車両の動作を示すフローチャートである。図11は、速度制御の態様を示すブロック図である。
【0020】
図1及び図2に模式的に示すように、倒立二輪型車両100(以下、単に車両100と呼ぶ場合がある)は、ベースユニット10、ハンドル部45、及びグリップ部46を有する。ベースユニット10は、一組の車輪11、12、一組のフットプレート13、14、及び格納部15を有する。車輪11と車輪12は、格納部15を挟んで対向配置されている。フットプレート13とフットプレート14は、格納部15を挟んで対向配置されている。
【0021】
搭乗者は、フットプレート13、14上に自身の各足を載せた状態で、グリップ部46を両手で把持し、ベースユニット10上で自身の重心を移動する。搭乗者が自身の重心を移動する過程で、ハンドル部45の姿勢は変化する。ハンドル部45の姿勢変化を介して、車両100に対して指令(操作指令、操舵指令、操縦指令)が入力される。
【0022】
なお、ハンドル部45の姿勢変化は、例えば、ハンドル部45に組み込まれた加速度センサ、角速度センサ(ジャイロセンサ)等のセンシング手段により検知される。ロータリー型又はリニア型のポテンションメーターを活用してハンドル部45の姿勢変化を検出しても良い。この他、光学的/磁気的な手法を活用してハンドル部45の姿勢変化を検出しても良い。何らかの方法でセンシングされたハンドル部45の姿勢情報は、車両100に内蔵されたコンピュータ(コントローラ/制御装置/制御部)へ供給されて演算処理され、速度指令が生成される。
【0023】
図1に示すように、ハンドル部45は、円柱状部材である。例えば、ハンドル部45の下端は、ベースユニット10内の保持部品により保持されている。ハンドル部45は、自身の下端を回転中心として、任意の方向(前後/左右/前斜め右/前斜め左/後斜め右/後斜め左方向)へ傾斜調整可能となっている。ベースユニット10から見てハンドル部45が所定方向に傾斜した状態をハンドル部45が"寝た状態"と呼ぶ場合もある。ベースユニット10から見てハンドル部45が垂直に起立した状態をハンドル部45が"起立した状態"と呼ぶ場合もある。
【0024】
なお、図1及び図2に示したy軸は、鉛直方向に一致する。x軸は、鉛直方向に対して垂直な軸線である。車両100が配置されている基準面(接地面)は、x軸方向を含む平面である。z軸は、車両100の直進方向に一致する。
【0025】
グリップ部46は、搭乗者により把持される部分であり、ハンドル部45の上端に固定されている。図1に示すように、グリップ部46は、2つの環状部46a、46bが連結したように構成されている。環状部46aは、ハンドル部45の上端に固定され、略3角形状に構成されている。環状部46bは、環状部46aの一辺に対して連結し、略矩形状に構成されている。環状部46bは、前方へ寝た姿勢となるように環状部46aに対して配置されている。これにより、搭乗者によるグリップ部46の把持態様の自由度を高めること等ができる。
【0026】
図1及び図2に示すベースユニット10は、車両100の本体部分であり、搭乗者によるハンドル部45の操作に応じて、車輪11、12を個別駆動する。ベースユニット10内には、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、マザーボード、各種センサ(加速度センサ、角加速度センサ、ジャイロセンサ、ロータリーエンコーダ等)、機械部品(平行リンク機構20、バネ、シャフト、連結部材等)等が収容される。
【0027】
フットプレート13は、搭乗者の左足が載せられる。フットプレート14は、搭乗者の右足が載せられる。フットプレート13は、搭乗者の足が実際に載置される平坦部、湾曲部、及びカバー部が連続した形状となっている。平坦部と湾曲部が連続した部分は、略U字状となっている。カバー部は、車輪11のホイールを覆うように配置されている。カバー部を設けることにより、車輪11のホイールを汚れ等から保護することができる。フットプレート14は、フットプレート13と同様、平坦部、湾曲部、及びカバー部を有する。フットプレート14の構成は、フットプレート13の構成と略同様であり、重複説明は省略する。なお、格納部15内には、CPU、メモリ等により構成されたコンピュータが内蔵されている。
【0028】
図1に示すように、ベースユニット10には、平行リンク機構20が組み込まれている。平行リンク機構20は、リンク21、リンク22、リンク23、リンク24により構成されている。リンク21とリンク22は、x軸方向(横方向)を長手方向とするリンクであり、互いに平行配置されている。リンク23とリンク24は、y軸方向(高さ方向)に沿って延在するリンクであり、互いに平行配置されている。平行リンク機構20は、周知のように、リンク21とリンク22間の平行及びリンク23とリンク24間の平行配置状態を保持しながら姿勢変化(変形)する。
【0029】
平行リンク機構20は、ハンドル部45の姿勢変化に同調して姿勢変化する。一組の車輪11、12は、ハンドル部45/平行リンク機構20の姿勢変化に同調して姿勢変化する。このように構成することによって、車両100が平坦面を移動する際、車両100に搭乗している搭乗者が感じる車両操縦感覚を高めることができる。これにより、車両100を操縦する搭乗者に対して、走る楽しさ/走る喜びを提供することができる。なお、平行リンク機構20とハンドル部45とは、例えば、機械的に固定/接続等されている。平行リンク機構20と一組の車輪11、12とは、機械的に固定/接続等されている。
【0030】
ハンドル部45は、上述のように搭乗者によって任意の方向へ倒されて傾く。ベースユニット10内には、このように任意に姿勢変化されるハンドル部45を初期姿勢へ復帰させるための復帰機構が組み込まれている。一方側に配置される復帰機構は、バネ56を含んで構成される。他方側に配置される復帰機構は、バネ66を含んで構成される。
【0031】
バネ66は、x軸方向を長手方向とする。バネ66は、保持部材と保持部材との間に挟まれている。バネ66の変形方向をx軸方向に規制するためのシャフトも設けても良い。シャフトは、例えば、螺旋状に巻かれたバネ66の内部空間に配置される。バネ66の一端は、リンク21に固定され、バネ66の他端は、リンク22に対して固定される。これにより、平行リンク機構20とバネ66が機械的に接続された状態となり、バネ66を活用して平行リンク機構20の姿勢を初期姿勢に保つ力を生じさせることができる。なお、バネ66も、バネ56と同様に、平行リンク機構20に対して固定されているものとする。
【0032】
図3に模式的に示すように、車両100に乗車した状態の搭乗者の重心をxyz座標の原点にて模式的に示すことができる(なお、図3に示す座標系は、図1及び図2に示した座標系とは異なる)。搭乗者は、自身の重心をx軸に沿って前方向に移動する。これに応じて、ハンドル部45は、前方に倒れることになり、車両100は、前進を指示する指令を生成することになる。搭乗者は、自身の重心をy軸に沿って左方向に移動する。これに応じて、ハンドル部45は、左方に倒れることになり、車両100は、左旋回を指示する指令を生成することになる。後方、右旋回の場合も同様に考えることができる。
【0033】
図4乃至図6を参照して、車両100の特性について説明する。図4に示すように、ハンドル部45のピッチ角がゆっくりと変化するとき、車両100の速度は、緩慢に上昇し、その後、円滑に目標速度に至る。他方、図4に示すように、ハンドル部45のピッチ角が急変化するとき、車両100の速度は、急上昇し、その後、目標速度を超えた態様、すなわちオーバーシュートした態様を経て目標速度に至る。車両100がこのように挙動することは、急加速の場合、減速状態を介して加速状態から定速状態へ推移することになるためである。また、ハンドル部45を介した操作指令の生成タイミングと車両100の実動作との間のタイムラグにも起因する。また、車両100は、現在速度を指令速度に近付けるという制御系にて動作していることにも起因する。
【0034】
図4に示した速度軌跡は、図5に示すようにも表現できる。図5に模式的に示すように、オーバーシュートは、減速時にも生じる。図5に示すように、時刻t1−t2間は、車両速度は、比例関数的/直線的に増加する。時刻t2−t3間は、車両速度は、目標速度を超え、そして、目標速度に戻る。時速t3−t4間は、車両速度は、一定速度に保たれている。時刻t4−t5間は、車両速度は、目標速度を超え、そして、目標速度に戻る。時刻t5−t6間は、車両速度は、略直線的に減少し、速度0の停止状態に至る付近では緩やかに減少する。
【0035】
図6(a)は、図5の時刻t1−t2間付近の範囲R10に対応した倒立二輪型車両の挙動を模式的に示す。図6(b)は、図5の時刻t2−t3間付近の範囲R20に対応した倒立二輪型車両の挙動を模式的に示す。図6(c)は、図5の時刻t4−t5間付近の範囲R30に対応した倒立二輪型車両の挙動を模式的に示す。図6(d)は、図5の時刻t5−t6間付近の範囲R40に対応した倒立二輪型車両の挙動を模式的に示す。
【0036】
図6(a)に模式的に示すように急加速する際には、倒立二輪型車両は、停止状態から加速状態となり、ハンドル部45は前方へ比較的大きく傾いた状態となる。車両及び搭乗者は、前方への加速力を持つことになる。図6(b)に示すように目標速度に至る際には、車両100は、加速状態→減速状態→定速状態と順に推移する。車両100が加速状態から減速状態になる際、ハンドル部45は後方へ引き戻される。図6(c)に示すように急減速する際、車両100の動作状態は、定速状態から減速状態へと推移する。車両100が定速状態から減速状態になる際、ハンドル部45は後方へ引き戻される。図6(d)に示すように停止する際、車両100の動作状態は、減速状態から停止状態へと推移する。車両100が減速状態から停止状態になる際、ハンドル部45は、後方へ引き戻されることはなく、前方への加速状態を維持しつつ、最終的に中立状態となる。
【0037】
図6(b)に示したように、車両100が加速状態から定速状態へと推移するためには、加速状態から減速状態へ推移して、その後、所定速度に収束させることになる。加速状態が緩慢であれば、図4に示したように、加速状態から所定速度へ緩慢に推移することができる。しかし、急加速した場合、所定速度に収束させるためのブレが大きくなり、図4に示したように、速度がオーバーシュートした態様にて推移せざるを得ない。急加速状態から減速指示を入力するとき、車両100を前方へ傾動した姿勢から後方へ傾動した姿勢に移行する際に、車両100は倒立状態を維持しながら減速するため、車輪11、12が搭乗者を後方から前方へ追い越すために速度を上げる必要があることも要因の一つと考えられる。
【0038】
本実施形態に係る車両100は、ピッチ方向におけるハンドル部45のピッチ角速度の増加に応じて制限値が低減される条件にて、当該車両100の移動速度が制限値以上であるか否かを判定し、当該判定結果に応じて、倒立二輪型車両100の搭乗者に対してハンドル部45の急操作の是正を促すべく報知動作する。端的には、図9に模式的に示すように、ピッチ角速度の増加に応じて制限値が減少する条件にて、車両100は、現在速度が制限値以上か否かを判定する。車両100は、この判定結果に応じて、例えば、アラーム音を鳴らす。これにより、搭乗者に対して、ハンドル部45を急操作するのではなく緩慢操作することを促すことができる。搭乗者によるハンドル部の急操作に起因して倒立二輪型車両が不自然に走行することの回避を搭乗者に促すことによって、搭乗者に対して倒立二輪型車両のより快適な乗車を提供することが可能となる。
【0039】
以下、図7乃至図11を参照して、車両100の具体的な構成について説明する。
【0040】
図7に示すように、倒立二輪型車両(駆動制御装置)は、センシング部70、入力部75、コントローラ80、報知部93、駆動系95、駆動系96、及びストレージ97を有する。センシング部70は、加速度検出部70a、角速度検出部70b、回転量検出部70cを有する。駆動系95は、ドライバ95a、モーター95bを有する。駆動系96は、ドライバ96a、モーター96bを有する。なお、車両100の内蔵バッテリーから各機能部品へは電力供給されているものとする。報知部93は、本実施形態では、警告音生成部として機能する。
【0041】
センシング部70に含まれる構成要素の各出力は、コントローラ80に供給される。コントローラ80の出力は、報知部93、ドライバ95a、ドライバ96aに個別に供給される。ドライバ95aの出力は、モーター95bに接続される。ドライバ96aの出力は、モーター96bに接続される。コントローラ80とストレージ97は、データ入出力可能に相互接続される。
【0042】
加速度検出部70aは、一般的な加速度センサユニットであり、例えば、ハンドル部45に設けられる。加速度センサユニットは、3軸方向の加速度を個別に検出する3つの加速度センサを含んで構成される。コントローラ80は、加速度検出部70aの出力に基づいてハンドル部45の傾斜角、旋回角等を算出する。なお、加速度検出部70aに対して個別に回路素子等を接続し、この回路素子によりハンドル部45の傾斜角、旋回角等を算出させても良い。
【0043】
角速度検出部70bは、一般的な角速度センサ(ジャイロセンサと呼ばれることもある)であり、例えば、ハンドル部45に設けられる。なお、加速度センサユニットと演算器を活用して角速度を算出しても良い。演算器は、加速度センサユニットの出力に基づいて、ピッチ方向のハンドル部45の角速度を算出する。なお、任意の種類のジャイロスコープ等により、角速度検出部70bを構成しても良い。
【0044】
回転量検出部70cは、各車輪11、12に対応づけて設けられたロータリーエンコーダ及び演算器を含んで構成される。演算器は、ロータリーエンコーダの出力に基づいて車輪の単位時間当たりの回転量を算出する。回転量検出部70cに代えて、ベースユニット10に対して加速度センサユニットを組み込み、この出力を活用して車両の速度を検出しても良い。ロータリーエンコーダの種類は任意であり、アブソリュート型であっても良い。
【0045】
コントローラ80は、加速度検出部70aから供給される加速度、角速度検出部70bから供給される角速度、及び回転量検出部70cから供給される単位時間当たりの回転量等に基づいて、駆動系95、96を個別に制御する。コントローラ80は、ストレージ97から読みだしたプログラムを実行するCPU(演算処理器)を含んで構成される。なお、駆動系95は、車輪11を駆動する機構である。駆動系96は、車輪12を駆動する機構である。
【0046】
コントローラ80は、図8に模式的に示すように、制限値算出部82、速度算出部84、及び判定部86を含んで構成される。制限値算出部82は、角速度検出部70bの出力(ピッチ角速度)に基づいて制限値を算出する。速度算出部84は、回転量検出部70cの出力(回転量/単位時間)に基づいて現在の移動速度を算出する。判定部86は、制限値算出部82により算出された制限値と速度算出部84により算出された速度値とを比較し、速度値が制限値に達したか否かを判定する。判定部86は、速度値が制限値以上となったと判定したとき、報知部93に対して報知動作の始動を指示する。
【0047】
本実施形態では、制限値算出部82により算出される制限値は、図9に示すように、ピック角速度の上昇に応じて減少する。これにより、ピッチ角速度が速い場合には、より低い速度にて上述の報知動作を作動させることが可能となる。これにより、図4乃至図6を参照して説明したようなオーバーシュートが生じることを回避するように搭乗者を促すことを効果的に遂行することが可能となる。
【0048】
図10を参照して車両100の動作について補足的に説明する。なお、図10に示すフローチャートは、ストレージ97に格納されたプログラムにより記述される。コントローラ80は、ストレージ97に格納されたプログラムをリードし、これを実行する。これにより、図10に示すフローチャートが示すステップが実行される。
【0049】
車両100は、走行状態にある(S101)。S101のとき、ピッチ角速度を算出する(S102)。具体的には、車両100の角速度検出部70bが作動する。次に、制限値を算出する(S103)。具体的には、制限値算出部82は、図9に示す条件を規定するアルゴリズム/計算式を活用して、ピッチ角速度から制限値を算出する。
【0050】
次に、制限値以上の速度に達したか否か判定する(S104)。具体的には、判定部86は、制限値算出部82により算出された制限値と速度算出部84により算出された速度値とを比較する。速度値が制限値に達したとき、数秒間にわたりアラームを発生させる(S105)。具体的には、判定部86は、報知部93に対して報知動作の始動を指示する。報知部93は、判定部86からの報知動作の始動指示に応じて、数秒間だけアラームを鳴らす。これにより、搭乗者によるハンドル操作状況に応じて、搭乗者に対してハンドル操作を緩やかにするように的確に促すことが可能となる。
【0051】
なお、図11に示すように、コントローラ80は、速度指令生成部88a、実速度算出部88b、加算器88c、及び速度調整部88dを含んで構成されると良い。速度指令生成部88aは、加速度検出部70a、角速度検出部70bの出力等に基づいて、目標となる速度を示す速度値を生成する。実速度算出部88bは、回転量検出部70cの出力に基づいて、現在の速度を示す速度値を生成する。加算器88cは、速度指令生成部88aから供給された速度値から速度指令生成部88aから供給された速度値を減算する。速度調整部88dは、加算器88cから供給された速度値を算出処理等により値を調整する。速度調整部88dの出力は、駆動系95のドライバ95aに供給される。ドライバ95aは、調整された値の速度値に応じてモーター95bを駆動する。モーター95bにより生成された回転力は、車輪11へ伝達し、車輪11は回転する。なお、速度指令生成部88aは、旋回角に応じて目標速度を調整すると良い。これにより、各車輪11、12間で回転量の差が生じ、倒立二輪型車両の旋回が実現される。
【0052】
実施の形態2
本実施形態では、実施の形態1とは異なり、車両100は、制限値と現在速度に対応する速度値との差分を評価し、この差分に応じて異なる態様にて報知動作する。具体的には、車両100は、現在速度が制限値を大きく超えたとき、大きな報知音等を生成する。車両100は、現在速度が制限値を僅かに超えたとき、比較的小さな報知音等を生成する。このように両者の乖離の程度に応じて報知の程度を変化させることにより、制限値を基準とした現在の運転状態の評価状態を搭乗者に報知することが可能となり、搭乗者に対してより適切な運転を促すことが可能となる。
【0053】
なお、本実施形態では、図12に模式的に示すように、報知部93は、音生成部93a、点灯表示部93b、及び振動生成部93cを含んで構成される。音生成部93aは、スピーカー及びこの駆動回路を含んで構成される。点灯表示部93bは、LED(Light Emitting Diode)等の発光素子及びこの駆動回路を含んで構成される。振動生成部93cは、振動子及びこの駆動回路を含んで構成される。なお、報知部93の具体的な構成は任意であり、上述の具体例に限定されるべきものではない。
【0054】
図13に模式的に示すように、判定部86は、現在速度に対応する速度値P10と、ピッチ角速度から算出された制限速度との差分を算出する。図14に模式的に示すように、判定部86は、差分値の増加に応じて、報知部93に対してより大きな音で報知動作することを指示する。なお、ある一定の差分量以上では、音量は増加しない。これにより、搭乗者に対して不要なストレスを与えることを抑制することができる。
【0055】
図15に模式的に示すように、現在速度に対応する速度値P10と、ピッチ角速度から算出された制限速度とが一致する状態をL1とする。現在速度に対応する速度値P10が、ピッチ角速度から算出された制限速度よりも差分W1だけ乖離している状態をL2とする。現在速度に対応する速度値P10が、ピッチ角速度から算出された制限速度よりも差分W2だけ乖離している状態をL3とする。
【0056】
図16の表に示すように、各状態L1〜L3に応じて報知態様を変えると良い。状態L1は、レベル1に対応し、状態L2は、レベル2に対応し、状態3は、レベル3に対応する。レベル1のとき、音生成部93aは、所定期間(例えば、4〜6秒)に亘り、小音量の低音の警告音を鳴らす。点灯表示部93bは、所定期間に亘り、遅い周期で黄色く点灯する。振動生成部93cは、所定期間に亘り、遅い周期で小さく振動する。レベル3のとき、音生成部93aは、所定期間に亘り、大音量の高音の警告音を鳴らす。点灯表示部93bは、所定期間に亘り、早い周期で赤色く点灯する。振動生成部93cは、所定期間に亘り、早い周期で大きく振動する。
【0057】
本実施形態では、現在速度に対応する速度値P10とピッチ角速度から算出された制限値との乖離の程度が大きくなると、早い周期、かつ大きな程度にて報知動作する。これにより、状況に応じた的確な操作を搭乗者に促すことが可能となる。なお、報知手段に対して送風機構を組み込み、搭乗者に対する報知動作を送風の強弱により行っても良い。車両100に対してタッチパネル搭載のディスプレーを実装する場合には、このディスプレーを報知手段として用いても良い。
【0058】
実施の形態3
本実施形態では、上述の実施の形態とは異なり、車両100の現在速度が制限値未満であったとしても、ピッチ角速度が閾値th1以上となったとき事前警告のために報知動作する。これにより、現在速度に対応する速度値が制限値に達する前にハンドルの急操作を改めるように搭乗者に促すことが可能となる。これにより、搭乗者に対してより的確な操作を促すことが可能となる。更に、図18に模式的に示すように、車両100は、現在速度の増加に応じて、閾値th1の値を減少させても良い。これにより、高速移動時には、より早い事前警告をすることができることになる。
【0059】
図17に示すように、閾値th1は、ピッチ角速度の増加に応じて制限値が減少する開始点に対応づけて設定されている。閾値th1と制限値の傾斜軌跡とにより三角形状の警告領域が設定される。車両100の現在速度が当該警告領域内に含まれる場合、車両100は、例えば、上述の実施形態の報知動作の1/2の程度で報知動作する。これにより、搭乗者は、警告が通知されるような運転状態であることを事前把握することができ、自身の操縦態様を早期に是正することができる。なお、1/2の程度で報知動作するとは、例えば、音量が半減した条件で報知動作することを意味する。事前警告と本警告との間で報知態様が異なれば良く、強弱を逆転させても良い。閾値th1の設定方法は任意であり、他の所定値としても良い。
【0060】
ピッチ角速度が閾値th1以上であるか否かの判定は、コントローラ80(判定部86)により実行されるものとする。閾値th1は、ストレージ97に格納し、コントローラ80により読みだされる。
【0061】
図18に示すように、車両100の速度増加により、閾値th1を減少させる。これにより、図17に示した閾値th1が紙面左側へ推移することになる。より遅いピッチ角速度にて閾値th1を超えることとなり、より早い段階で事前警告することができる。なお、図18に示す場合には、図19に示すようなブロック構成(アルゴリズム)を採用すると良い。速度算出部84により、現在速度に対応した速度値が算出される。閾値算出部88は、図18のようにグラフ化される関数に対して、算出された速度値を代入し、閾値th1を求める。判定部86は、算出された閾値th1と算出したピッチ角速度とを比較する。ピッチ角速度が閾値th1以上のとき、判定部86は、事前警告としての報知動作を報知部93に指示する。
【0062】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限られたものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、倒立二輪型車両の具体的な構成、搭乗方法等は任意である。
【符号の説明】
【0063】
100 倒立二輪型車両
10 ベースユニット
11、12 車輪
13、14 フットプレート
15 格納部
20 平行リンク機構
45 ハンドル部
46 グリップ部
56、66 バネ
70 センシング部
70a 加速度検出部
70b 角速度検出部
70c 回転量検出部
80 コントローラ
82 制限値算出部
84 速度算出部
86 判定部
93 報知部
93a 音生成部
93b 点灯表示部
93c 振動生成部
95、96 駆動系
97 ストレージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチ方向におけるハンドル部の角速度の増加に応じて判定閾値が低減される条件にて、倒立二輪型車両の移動速度が前記判定閾値以上であるか否かを判定する判定手段と、
当該判定手段による判定結果に応じて、当該倒立二輪型車両の搭乗者に対して前記ハンドル部の急操作の是正を促すべく作動する報知手段と、
を備える倒立二輪型車両。
【請求項2】
当該倒立二輪型車両は、前記ハンドル部の急操作に起因して、当該倒立二輪型車両の移動速度が時間軸に沿ってオーバーシュートした態様にて変化するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の倒立二輪型車両。
【請求項3】
前記判定手段は、前記判定閾値に対する当該倒立二輪型車両の移動速度の乖離の程度を評価し、当該評価結果に応じて異なる態様にて作動することを前記報知手段に対して指示することを特徴とする請求項1又は2に記載の倒立二輪型車両。
【請求項4】
前記判定手段は、ピッチ方向における前記ハンドル部の前記角速度が所定閾値以上となったとき、前記報知手段に対して作動を指令することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の倒立二輪型車両。
【請求項5】
前記判定手段は、ピッチ方向における前記ハンドル部の前記角速度が所定閾値以上となったとき、前記報知手段に対して作動を指令する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の倒立二輪型車両であって、
前記所定閾値は、当該倒立二輪型車両の移動速度の増加に応じて減少する。
【請求項6】
当該倒立二輪型車両は、前記搭乗者による前記ハンドル部の操作に応じた指令速度と当該倒立二輪型車両の現在速度とに応じて、次時点における速度が調整されるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の倒立二輪型車両。
【請求項7】
前記報知手段は、少なくとも音、光、及び振動のいずれか一つを報知媒体としていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の倒立二輪型車両。
【請求項8】
ピッチ方向におけるハンドル部の角速度の増加に応じて判定閾値が低減される条件にて、倒立二輪型車両の移動速度が前記判定閾値以上であるか否かを判定し、
当該判定結果に応じて、当該倒立二輪型車両の搭乗者に対して前記ハンドル部の急操作の是正を促すべく報知動作する、
倒立二輪型車両の動作方法。
【請求項9】
倒立二輪型車両に組み込まれるコンピュータの動作を規定するプログラムであって、
ピッチ方向におけるハンドル部の角速度の増加に応じて判定閾値が低減される条件にて、倒立二輪型車両の移動速度が前記判定閾値以上であるか否かをコンピュータに判定させ、
当該判定結果に応じて、報知手段に対する作動指令をコンピュータに生成させる、プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−240484(P2012−240484A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110397(P2011−110397)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】