説明

偏光分離素子

【課題】 偏光分離素子の特性の均一化及びコンパクト化を図ると共に、その耐環境性を高める。
【解決手段】 表面に凹凸状の周期格子が形成された基板1と、この基板1の凹凸部1a,1bの少なくとも凸部1a上に形成された酸化チタン配向膜からなる複屈折材料層2と、を具備し、凹部と凸部の間の常光の位相差と異常光の位相差のうち何れか一方がπの偶数倍、となるように、複屈折材料層2の厚み及び基板1の凹部深さを設定してなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、偏光分離素子に関する。更に詳述すると、光磁気ディスクの偏光子やアイソレータ等の光学装置に適した偏光分離素子に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、例えば光磁気ディスク等の各種光学装置にあっては、偏光方向によって回折効率を異ならしめる偏光分離素子が備えられている。この偏光分離素子に関しては種々の提案がなされており、例えば特開昭63−262602号公報等に記載されている。
【0003】この特開昭63−262602号公報記載の偏光分離素子は、光学的等方性基板の主面に凹凸状の周期格子を形成し、該周期格子の表面を、主屈折率の一方が上記等方性基板の屈折率と等しい屈折率を有する液晶で覆うというものであり、例えば常光に対する屈折率が上記等方性基板のそれと一致し、異常光に対する屈折率が上記等方性基板のそれと異なる液晶を用いれば、該偏光分離素子は、常光に対しては回折格子としての機能を果たさないが、異常光に対しては回折格子としての機能を果たすといったものである。
【0004】また、液晶に代えて、ニオブ酸リチウム結晶を用いるものも知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記偏光分離素子にあっては、以下の問題がある。すなわち、特開昭63−262602号公報記載の偏光分離素子にあっては、液晶の屈折率の温度係数が大きく、環境に対する性能が不安定になるといった問題がある。
【0006】また、従来の一般的な偏光分離素子にあっては、等方性基板上に形成される複屈折材料の複屈折が小さいので、膜厚が比較的厚くなり、コンパクトにできないといった問題や、結晶性が低いので、特性が不均一になるといった問題もある。
【0007】そこで、本発明は、耐環境性が高く、しかも均一な特性を有し、その上コンパクト化がなされる偏光分離素子を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1の偏光分離素子は、上記目的を達成するために、光学的等方性基板上に酸化チタン配向膜からなる複屈折材料層を形成すると共に、表面に凹凸状の周期格子が形成し、該凹部に、複屈折材料の常光屈折率または異常光屈折率の何れか一方に等しい屈折率の物質を充填してなる。
【0009】請求項2の偏光分離素子は、上記目的を達成するために、光学的等方性基板上に酸化チタン配向膜からなる複屈折材料層を形成すると共に、この複屈折材料層に凹凸状の周期格子を形成し、前記凹部と凸部の間の常光の位相差と異常光の位相差のうち何れか一方がπの偶数倍、となるように、前記複屈折材料層の凹凸部の厚みを設定してなる。
【0010】請求項3の偏光分離素子は、上記目的を達成するために、表面に凹凸状の周期格子が形成された光学的等方性基板と、この光学的等方性基板の前記凹凸部の少なくとも凸部上に形成された酸化チタン配向膜からなる複屈折材料層と、を具備し、前記凹部と凸部の間の常光の位相差と異常光の位相差のうち何れか一方がπの偶数倍、となるように、前記複屈折材料層の厚み及び前記基板の凹部深さを設定してなる。
【0011】請求項4の偏光分離素子は、上記目的を達成するために、光学的等方性基板上に酸化チタン配向膜からなる複屈折材料層を形成すると共に、表面に凹凸状の周期格子を形成し、該凹部に、光学的等方性物質を充填してなる偏光分離素子であって、該光学的等方性物質の屈折率(nc)と、該複屈折材料の常光屈折率(no)、異常光屈折率(ne)との間に、以下の数式2に示す関係があることを特徴とする。
【0012】
【数2】
nc=no+m(no−ne);(m=±1,±2,±3…)
=ne+l(no−ne);(l=±1,±2,±3…)
請求項5の偏光分離素子は、上記目的を達成するために、請求項1乃至6に加えて、表裏面の少なくとも一方の面に、反射防止膜を具備した。
【0013】このような請求項1乃至5における偏光分離素子によれば、酸化チタン膜は、その特性として屈折率の温度変化が小さいので、偏光分離素子の耐環境性を高めるよう働く。また、その特性として結晶性が高いので、偏光分離素子の特性を均一化するよう働く。さらにまた、その特性として複屈折が大きいので、膜厚を薄くするよう働く。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】図1は本発明の一実施形態を示す偏光分離素子の斜視図、図2は図1の偏光分離素子の縦断面図である。
【0016】図1、図2において、符号1は、例えばガラス材よりなる等方性基板を示しており、このガラス基板1表面には凹凸による周期的な格子が形成されている。なお、本実施形態では基板をガラス材により形成しているが、等方性基板であればプラスチック等の他の材質により形成しても構わない。そして、ガラス基板1表面の凸部1a上には酸化チタン薄膜2が形成されており、この酸化チタン薄膜2は主面X−Y面内で配向がなされている。
【0017】ここで、ガラス基板1の凸部の厚さをt、ガラス基板1の凹部1bの溝深さをd1、酸化チタン薄膜(配向膜)2の厚さをd2、ガラス基板1の屈折率をns、酸化チタン薄膜2の常光に対する屈折率をno、酸化チタン薄膜2の異常光に対する屈折率をne、ガラス基板1の凹凸部及び酸化チタン薄膜2により形成される溝内の屈折率をnc、光の波長をλとし、k=2π/λとすると、酸化チタン薄膜2が形成された偏光分離素子を通過する(図2におけるAの領域を通過する)常光の位相は、数3に示す値になる。
【0018】
【数3】{ns・t+no・d2}k酸化チタン薄膜2が形成されていない偏光分離素子を通過する(図2におけるBの領域を通過する)常光の位相は、数4に示す値になる。
【0019】
【数4】{ns(t−d1)+nc(d1+d2)}k従って、常光の位相差OPD(o)は、(数1の値)−(数2の値)により、数式5に示すようになる。
【0020】
【数5】OPD(o)={(ns−nc)d1+(no−nc)d2}k一方、Aの領域を通過する異常光の位相は、数6に示す値になる。
【0021】
【数6】{ns・t+ne・d2}kBの領域を通過する異常光の位相は、数7に示す値になる。
【0022】
【数7】{ns(t−d1)+nc(d1+d2)}k従って、異常光の位相差OPD(e)は、(数6の値)−(数7の値)により、数式8に示すようになる。
【0023】
【数8】OPD(e)={(ns−nc)d1+(ne−nc)d2}k因みに、ガラス基板1の凹凸部及び酸化チタン薄膜2により形成される溝内には空気が充填されていると考えて、nc=1となる。
【0024】ここで、異常光が回折しないようにするためには、上記数式5と数式8のうち数式8がπの偶数倍となるようにすれば良い。すなわち、数式9のようになる。
【0025】
【数9】
OPD(e)={(ns−nc)d1+(ne−nc)d2}k =2pπ、(p=0,±1,±2…)
また、常光が回折しないようにするためには、上記数式5と数式8のうち数式5がπの偶数倍となるようにすれば良い。すなわち、数式10のようになる。
【0026】
【数10】
OPD(o)={(ns−nc)d1+(no−nc)d2}k =2pπ、(p=0,±1,±2…)
ところで、これら2条件下では、d1及びd2の設定によっては、常光・異常光のうち回折させる光の中にも、回折しない光量が存在する場合がある。本発明の偏光分離素子は、例えば光ディスク装置のピックアップの中に用いることができるが、このような用途があっては、常光・異常光のうち一方は全て回折させ、他方は全く回折しないようにすることが望ましい。このような目的のためには、数式9に加えて、常光の位相差OPD(o)を数式11に示すようにすれば良い。
【0027】
【数11】
OPD(o)={(ns−nc)d1+(no−nc)d2}k =(2q+1)π、(q=0,±1,±2…)
或いは、数式10に加えて、異常光の位相差OPD(e)を数式12に示すようにすれば良い。
【0028】
【数12】
OPD(e)={(ns−nc)d1+(ne−nc)d2}k =(2q+1)π、(q=0,±1,±2…)
この時、酸化チタン配向膜2の厚さd2を決めるためには、(数式11)−(数式9)及び(数式10)−(数式12)より求められる数式13が成り立つように、d2を決めれば良い。
【0029】
【数13】
OPD(o)−OPD(e)=(no−ne)d2・k=(2j+1)π、(j=0,±1,±2…)
因みに、d2=π(2j+1)/{k・|no−ne|}となり、d2は酸化チタン配向膜2のnoとneの差に依存していることが分かる。すなわち、d2を小さくするには、(no−ne)の絶対値が大きい方が良いことになる。
【0030】ここで、酸化チタン配向膜の結晶がルチル型結晶である場合は複屈折が約0.3となり、アナターゼ型結晶である場合は複屈折が約0.1となる。このため、ルチル型結晶の方が、d2を小さくすることができる。
【0031】また、数式9または数式10を満足するように、酸化チタン配向膜2の膜厚d2、ガラス基板1の溝深さd1を設定すれば、上記偏光分離素子は回折格子として機能し、常光または異常光の何れか一方のみを回折させないようにすることができる。
【0032】このように、本実施形態においては、表面に凹凸状の周期格子が形成されたガラス基板1と、このガラス基板1の凸部1a上に形成され、該ガラス基板1の主面の面内方向に配向された酸化チタン配向膜2と、を具備し、凹部1bと凸部1aの間の常光の位相差と異常光の位相差のうち何れか一方がπの偶数倍、となるように、酸化チタン配向膜の厚みd2及び基板1の凹部深さd1を設定するようにしたので、上述のように、偏光分離素子として機能させることができるようになっている。ここで、酸化チタン配向膜2は、その特性として屈折率の温度変化が小さいので、偏光分離素子の耐環境性を高めることが可能となっている。また、その特性として結晶性が高いので、偏光分離素子の特性を均一化することが可能となっている。さらにまた、その特性として複屈折が大きいので、膜厚を薄くできるようになっており、偏光分離素子をコンパクト化することが可能となっている。
【0033】次に、このように構成された偏光分離素子の製造方法について説明する。
【0034】ガラス基板1上に、ECRスパッタ法、イオンビームスパッタ法、レーザアブレーション法のいずれかの方法で酸化チタンの薄膜を形成する。この場合、ガラス基板1が500℃以下の温度であっても、アナターゼ型結晶を形成することなくルチル型結晶を形成することができる。このため、特に高温での加熱処理を不要とし、高価な耐熱ガラスや石英を用いることなくルチル型結晶の酸化チタンを得ることができる。
【0035】一方、上述の方法とは別に、ガラス基板1上に、スパッタ、CVD、蒸着等の方法によって酸化チタンの薄膜を形成することができる。この場合、形成された酸化チタン膜の結晶形態は、アナターゼ型結晶となるか、または非晶質となる。そして、ガラス基板1に600〜1000℃の加熱処理を行うことにより、酸化チタン膜の結晶形態をルチル型結晶とすることができる。
【0036】いずれの方法であっても、ルチル型結晶では(110)面が明瞭であるので、膜面の配向性を定める処理は必要ない。なお、偏光分離素子を製造するためには、ルチル型結晶とアナターゼ型結晶とは共に(110)面が明瞭であるので、いずれの結晶形であっても構わない。ルチル型結晶とした場合は、膜厚d2を小さくすることができる。また、アナターゼ型結晶とした場合は、製造を容易に行うことができる。
【0037】次いで、酸化チタン膜上に凹凸格子を形成するためのレジストを塗布し、露光、現像処理を行った後に、ガラス基板1の凹部1bの溝深さが所定値d1となるまでエッチング処理を行う。この一連のエッチング処理は、半導体の製造プロセスに採用されている公知の簡易な方法である。このような処理を施すと、図1、図2R>2に示されるような偏光分離素子が得られることになる。
【0038】図3は、本発明の第2実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【0039】この第2実施形態の偏光分離素子が第1実施形態のそれと違う点は、ガラス基板1における所定深さd1を有する凹部1b上に、厚さd3の酸化チタン配向膜12を新たに形成した点である。因みに、本実施形態及び後述の実施形態の偏光分離素子の製造方法は、上記各方法を適宜採用できる。
【0040】ここで、図3におけるAの領域を通過する常光の位相は、数14に示す値になる。
【0041】
【数14】{ns・t+no・d2}k図3におけるBの領域を通過する常光の位相は、数15に示す値になる。
【0042】
【数15】{ns(t−d1)+no・d3+nc(d1+d2−d3)}k従って、常光の位相差OPD(o)は、(数14)−(数15)より、数式16で示すようになる。
【0043】
【数16】OPD(o)={(d2−d3)no+ns・d1−nc(d1+d2−d3)}k一方、Aの領域を通過する異常光の位相は、数17に示す値になる。
【0044】
【数17】{ns・t+ne・d2}kBの領域を通過する異常光の位相は、数18に示す値になる。
【0045】
【数18】{ns(t−d1)+ne・d3+nc(d1+d2−d3)}k従って、異常光の位相差OPD(e)は、(数17)−(数18)より、数式19に示すようになる。
【0046】
【数19】OPD(e)={(d2−d3)ne+ns・d1−nc(d1+d2−d3)}k因みに、nc=1である。
【0047】ここで、異常光が回折しないようにするためには、上記数式16と数式19のうち数式19がπの偶数倍となるようにすれば良く、数式20に示すようになる。
【0048】
【数20】
OPD(e)
={(d2−d3)ne+ns・d1−nc(d1+d2−d3)}k =2pπ、(p=0,±1,±2…)
また、常光が回折しないようにするためには、上記数式16と数式19のうち数式16がπの偶数倍となるようにすれば良く、数式21に示すようになる。
【0049】
【数21】
OPD(o)
={(d2−d3)no+ns・d1−nc(d1+d2−d3)}k =2pπ、(p=0,±1,±2…)
ところで、これら2条件下では、d1及びd2並びにd3の設定によっては、常光・異常光のうち回折させる光の中にも、回折しない光量が存在する場合がある。本発明の偏光分離素子は、例えば光ディスク装置のピックアップの中に用いることができるが、このような用途にあっては、常光・異常光のうち一方は全て回折させ、他方は全く回折しないようにすることが望ましい。このような目的のためには、数式20に加えて、常光の位相差OPD(o)を数式22に示すようにすれば良い。
【0050】
【数22】
OPD(o)
={(d2−d3)no+ns・d1−nc(d1+d2−d3)}k =(2q+1)π、(q=0,±1,±2…)
或いは、数21に加えて、異常光の位相差OPD(e)を数式23に示すようにすれば良い。
【0051】
【数23】
OPD(e)
={(d2−d3)ne+ns・d1−nc(d1+d2−d3)}k =(2q+1)π、(q=0,±1,±2…)
この時、酸化チタン配向膜2,12の厚さd2,d3を決めるためには、(数式22)−(数式20)及び(数式21)−(数式23)より求められる数式24が成り立つように、d2,d3を決めれば良い。
【0052】
【数24】
OPD(o)−OPD(e)=(no−ne)・(d2−d3)k =(2j+1)π、(j=0,±1,±2…)
数式20または数式21を満足するように、酸化チタン配向膜2,12の膜厚d2,d3、ガラス基板1の溝深さd1を設定すれば、上記偏光分離素子は回折格子として機能し、常光または異常光の何れか一方のみを回折させないようにすることができる。なお、d2=d3とすると、数式24が0となってしまうので、この条件は除外される。
【0053】このように構成しても、第1実施形態と同様な効果を得ることができるというのはいうまでもない。また、凹部、凸部それぞれの複屈折材料が異なっていても良い。この場合もこれまでと同様に計算できる。
【0054】図4は、本発明の第3実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【0055】この第3実施形態の偏光分離素子が第1実施形態のそれと違う点は、平坦なガラス基板1上に、凹凸状の酸化チタン配向膜2,22を形成した点である。
【0056】この凹状の酸化チタン配向膜22及び凸状の酸化チタン配向膜2は、第1実施形態の第1の製造方法における酸化チタン膜上に凹部を形成する際に、ガラス基板1上に酸化チタン膜22が所定厚d3残るように、エッチング処理を行い、凹部には等方性のncの媒質を充填し、得ることができる。
【0057】この第3実施形態にあっても、上記第1、第2実施形態と同様の要領で計算を行うと、数式25、数式26の関係となる。
【0058】
【数25】
OPD(o)=(d2−d3)・(no−nc)・k
【0059】
【数26】
OPD(e)=(d2−d3)・(ne−nc)・k因みに、nc=1である。
【0060】従って、常光を回折させないためには、常光の位相差OPD(o)を数式27に示すようにすれば良い。
【0061】
【数27】
OPD(o)=(d2−d3)・(no−nc)・k=2qπ、(q=0,1,2…)
また、異常光を回折させないためには、異常光の位相差OPD(e)を数式28に示すようにすれば良い。
【0062】
【数28】
OPD(e)=(d2−d3)・(ne−nc)・k=2qπ、(q=0,1,2…)
数式27または数式28を満足するように、酸化チタン配向膜2の膜厚d2、酸化チタン配向膜22の膜厚d3及びncを設定すれば、偏光分離素子として、常光または異常光の何れか一方のみを回折させないようにすることができる。
【0063】このように構成しても、先の第1、第2実施形態と同様な効果を得ることができるというのはいうまでもない。なお、図4における偏光分離素子の酸化チタン配向膜22の厚みd3を0にするように構成することも可能である。また、ncは空気でなくとも等方性材料であれば良い。
【0064】図5は、本発明の第4実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【0065】同図において、符号11は光学的等方性基板を示しており、この基板11の表面には、上記酸化チタン配向膜32が形成されている。この酸化チタン配向膜32には凹凸による周期的な格子が形成されており、該酸化チタン配向膜32の凹部の底面は基板11の表面に達するまで掘下げられている。この酸化チタン配向膜32の凹部、すなわち酸化チタン配向膜32の凸部側面と基板11の表面により囲まれる領域には、上記酸化チタン配向膜32の異常光に対する屈折率neに等しい屈折率ncの物質13が充填されている。
【0066】従って、異常光に対しては屈折率差がないために回折光を生じないが、常光に対しては屈折率差が生じ、位相格子として作用し回折光を生じる。
【0067】このように構成しても偏光分離素子として機能し、かつ酸化チタン配向膜32は、その特性として屈折率の温度変化が小さいので、偏光分離素子の耐環境性を高めることが可能となっている。また、その特性として結晶性が高いので、偏光分離素子の特性を均一化することが可能となっている。さらにまた、その特性として複屈折が大きいので、膜厚を薄くできるようになっており、偏光分離素子をコンパクト化することが可能となっている。
【0068】図6は、本発明の第5実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【0069】この第5実施形態の偏光分離素子が第4実施形態のそれと違う点は、酸化チタン配向膜32の凹部の底面を基板11の表面に達するまで掘り下げずに所定厚残し、この残された部分32aの表面及び両隣の酸化チタン配向膜32の凸部側面により囲まれる領域に、上記第4実施形態と同様な物質13を充填した点である。
【0070】このように構成しても、第4実施形態と同様な作用・効果を奏するというのはいうまでもない。
【0071】なお、第4、第5実施形態においては、酸化チタン配向膜32の凹部に、該酸化チタン配向膜32の異常光に対する屈折率neに等しい屈折率ncの物質13を充填するようにしているが、常光に対する屈折率noに等しい屈折率の物質を充填するようにしても良い。この場合には、異常光に対しては屈折率差が生じ位相格子として作用し回折光を生じるが、常光に対しては屈折率差がないために回折光を生じない。
【0072】因みに、図2に示されるように、表面に凹凸状の周期格子が形成された光学的等方性基板1と、この光学的等方性基板1の凸部上に形成された酸化チタン配向膜2と、を具備し、光学的等方性基板1の凹凸部及び酸化チタン配向膜2により形成される溝内に、酸化チタン配向膜の常光屈折率または異常光屈折率の何れか一方に等しい屈折率の物質を充填するようにした偏光分離素子にあっても、前述の数式13並びに数式11若しくは数式12を満足するように、酸化チタン配向膜2の厚み及び基板1の凹部1bの深さを設定すれば、上記第4、第5実施形態と同様に、常光または異常光の何れか一方のみを回折させることができるというのはいうまでもない。
【0073】図7は、本発明は第6実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【0074】同図において、符号1は、例えばガラス材よりなる光学的等方性基板を示しており、このガラス基板1の表面には、酸化チタン配向膜2が形成されている。この酸化チタン配向膜2には凹凸による周期的な格子が形成されており、該酸化チタン配向膜2の凹部の底面はガラス基板1の表面に達するまで掘り下げられている。酸化チタン配向膜2の凹部、すなわち酸化チタン配向膜2の凸部側面とガラス基板1の表面により囲まれる領域には、充填物質(但し、常光屈折率noまたは異常光屈折率neにほぼ等しい屈折率を有する物質を除く)40が充填されており、該充填物質40の屈折率(nc)と、該酸化チタン配向膜2の常光屈折率(no)、異常光屈折率(ne)との間に、数式29に示す関係が成り立っている。
【0075】
【数29】
nc=no+m(no−ne);(m=±1,±2,±3…)
=ne+l(no−ne);(l=±1,±2,±3…)
ここで、ガラス基板1の厚さをt、酸化チタン配向膜2の厚さをd2、ガラス基板1の屈折率をns、酸化チタン配向膜2の常光に対する屈折率をno、酸化チタン配向膜2の異常光に対する屈折率をne、充填物質40の屈折率をnc、光の波長をλ、k=λ/2π、とすると、Aの領域を通過する常光の位相は数30で表され、
【0076】
【数30】{ns・t+no・d2}・kBの領域を通過する常光の位相は数31で表される。
【0077】
【数31】{ns・t+nc・d2}・k従って、常光のA,Bの位相差OPD(o)は、(数30の値)−(数31の値)より、数式32に示すようになる。
【0078】
【数32】OPD(o)=(no−nc)・d2・k一方、Aの領域を通過する異常光の位相は、数33で表され、
【0079】
【数33】{ns・t+ne・d2}・kBの領域を通過する異常光の位相は、数34で表される。
【0080】
【数34】{ns・t+nc・d2}・k従って、異常光のA,Bの位相差OPD(e)は、(数33の値)−(数34の値)より、数式35に示すようになる。
【0081】
【数35】OPD(e)=(ne−nc)・d2・kここで、ncは、数式36と数式37に示すような値となる。
【0082】
【数36】
nc=no+m(no−ne)、(但しmは整数)
【0083】
【数37】
nc=ne+l(no−ne)、(但しlは整数)
ところで、常光の位相差は、数式38に示すようになる。
【0084】
【数38】
OPD(o)=−m(no−ne)・d2・k異常光の位相差は、数式39に示すようになる。
【0085】
【数39】
OPD(e)=−l(no−ne)・d2・kどちらかのみ回折させないためには、数式40または数式41を満たすようにd2を決めれば良い。
【0086】
【数40】
OPD(o)=−m(no−ne)・d2・k=2pπ、(p=±1,±2,±3…)
【0087】
【数41】
OPD(e)=−l(no−ne)・d2・k=2pπ、(p=±1,±2,±3…)
また、この実施形態にあっても、常光・異常光のうち一方は回折させず、他方は全て回折させるようにすることが望ましく、この場合には、さらにOPD(o)とOPD(e)との差がπの奇数倍であるという条件が加わり、数式42に示すようになる。
【0088】
【数42】
OPD(o)−OPD(e)=(l−m)(no−ne)・d2・k =(2i+1)π、(i=0,±1,±2…)
ここで、(数式36)−(数式37)よりncの差をとると、数式43に示すようになる。
【0089】
【数43】
no−ne+(m−l)(no−ne)=0ここで、l−m=1であるから、数式44に示すようにd2が定められる。
【0090】
【数44】
d2=π(2i+1)/[k・|no−ne|]
=(λ/2)(2i+1)/|no−ne|このように、第6実施形態においては、光学的等方性基板としてのガラス基板1上に酸化チタン配向膜2を形成すると共に、表面に凹凸状の周期格子を形成し、その凹部に、充填物質(但し、常光屈折率noまたは異常光屈折率neに略等しい屈折率を有する物質を除く)40を充填し、該充填物質40の屈折率(nc)と、該酸化チタン配向膜2の常光屈折率(no)、異常光屈折率(ne)との間に、数式45に示す関係が成り立つようにしたので、
【0091】
【数45】
nc=no+m(no−ne);(m=±1,±2,±3…)
=ne+l(no−ne);(l=±1,±2,±3…)
上述のように、偏光分離素子として機能させることができるようになっており、かつ酸化チタン配向膜2は、その特性として屈折率の温度変化が小さいので、偏光分離素子の耐環境性を高めることが可能となっている。また、その特性として結晶性が高いので、偏光分離素子の特性を均一化することが可能となっている。さらにまた、その特性として複屈折が大きいので、膜厚を薄くできるようになっており、偏光分離素子をコンパクト化することが可能となっている。
【0092】図8は、本発明の第7実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【0093】この第7実施形態の偏光分離素子が第6実施形態のそれと違う点は、酸化チタン配向膜2の凹部の底面をガラス基板1の表面に達するまで掘下げずに所定厚残し、この残された部分22の表面及び両隣の酸化チタン配向膜2の凸部側面により囲まれる領域に、上記第6実施形態と同様な充填物質40を充填した点である。
【0094】このように構成しても、第6実施形態と同様にして計算を行うと、OPD(o)またはOPD(e)の何れか一方をπの偶数倍とすることができ、常光または異常光の何れか一方は回折せず、他方は回折することになり、第6実施形態と同様な作用・効果を奏することになる。
【0095】因みに、図2に示されるように、表面に凹凸状の周期格子が形成された光学的等方性基板1と、この光学的等方性基板1の凸部上に形成された酸化チタン配向膜2と、を具備し、光学的等方性基板1の凹凸部及び酸化チタン配向膜2により形成される溝内に、充填物質(但し、常光屈折率noまたは異常光屈折率neに略等しい屈折率を有する物質を除く)40を充填し、該充填物質40の屈折率(nc)と、該酸化チタン配向膜2の常光屈折率(no)、異常光屈折率(ne)との間に、数式46に示す関係が成り立つようにした偏光分離素子にあっても、
【0096】
【数46】
nc=no+m(no−ne);(m=±1,±2,±3…)
=ne+l(no−ne);(l=±1,±2,±3…)
前述の数式13並びに数式11若しくは数式12を満足するように、酸化チタン配向膜2の厚み及び基板1の凹部1bの深さを設定すれば、先の実施形態と同様な作用・効果を奏する。
【0097】以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、上記各実施形態で説明した偏光分離素子の表裏面の少なくとも一方の面に反射防止膜を設け、回折効率の向上を図るようにしても良い。
【0098】
【発明の効果】以上述べたように、本発明の偏光分離素子によれば、基板上に形成される酸化チタン膜は、その特性として屈折率の温度変化が小さいので、偏光分離素子の耐環境性を高めることが可能となる。また、酸化チタン膜は無機材料であるため、引っかき等の外力に対する耐久性や耐水性、耐薬品性に優れる。
【0099】さらに、その特性として結晶性が高いので、偏光分離素子の特性を均一化することが可能となる。しかも、その特性として複屈折が大きいので、膜厚を薄くでき、偏光分離素子をコンパクト化することが可能になる。また、酸化チタン膜は光を吸収することがないので、透過率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態を示す偏光分離素子の斜視図である。
【図2】図1の偏光分離素子の縦断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【図6】本発明の第5実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【図7】本発明の第6実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【図8】本発明の第7実施形態を示す偏光分離素子の縦断面図である。
【符号の説明】
1,11 基板(光学的等方性基板)
2,12,22,32,32a 酸化チタン膜
13,40 充填物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】 光学的等方性基板上に酸化チタン配向膜からなる複屈折材料層を形成すると共に、表面に凹凸状の周期格子を形成し、該凹部に、複屈折材料の常光屈折率または異常光屈折率の何れか一方に等しい屈折率の物質を充填してなる偏光分離素子。
【請求項2】 光学的等方性基板上に酸化チタン配向膜からなる複屈折材料層を形成すると共に、この複屈折材料層に凹凸状の周期格子を形成し、前記凹部と凸部の間の常光の位相差と異常光の位相差のうち何れか一方がπの偶数倍、となるように、前記複屈折材料層の凹凸部の厚みを設定してなる偏光分離素子。
【請求項3】 表面に凹凸状の周期格子が形成された光学的等方性基板と、この光学的等方性基板の前記凹凸部の少なくとも凸部上に形成された酸化チタン配向膜からなる複屈折材料層と、を具備し、前記凹部と凸部の間の常光の位相差と異常光の位相差のうち何れか一方がπの偶数倍、となるように、前記複屈折材料層の厚み及び前記基板の凹部深さを設定してなる偏光分離素子。
【請求項4】 光学的等方性基板上に酸化チタン配向膜からなる複屈折材料層を形成すると共に、表面に凹凸状の周期格子を形成し、該凹部に、光学的等方性物質を充填してなる偏光分離素子であって、該光学的等方性物質の屈折率(nc)と、該複屈折材料の常光屈折率(no)、異常光屈折率(ne)との間に、以下の数式1に示す関係があることを特徴とする偏光分離素子。
【数1】
nc=no+m(no−ne);(m=±1,±2,±3…)
=ne+l(no−ne);(l=±1,±2,±3…)
【請求項5】 請求項1から4までのいずれかに記載の偏光分離素子において、表裏面の少なくとも一方の面に、反射防止膜を具備した偏光分離素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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