説明

偏光性拡散フィルムおよび偏光性拡散フィルムを含む液晶表示装置

【課題】 偏光選択性および拡散性を有するフィルムと、それを容易に製造する手段とを提供する。
【解決手段】
実質的に1種類の固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂からなるフィルムを一軸延伸して得られる偏光性拡散フィルムであって、可視光線に対する全光線透過率が50〜90%であり、可視光線に対する透過ヘイズが15〜90%であり、かつ可視光線に対する透過偏光度が20〜90%である、偏光性拡散フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光性拡散フィルムおよび偏光性拡散フィルムを含む液晶表示装置に関し、特に液晶表示装置に適した偏光性拡散フィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、コンピューター、テレビおよび携帯電話などの表示装置として幅広く用いられているが、表示特性の更なる向上や、消費電力を低減させたいという要求がある。これら要求に対する手段として、光源からの光を適度に拡散させること、光源の光利用効率を向上させることがある。光源からの光を適度に拡散させると、液晶表示装置の視野角を広げることができたり、輝度などの面内均一性を高めたりすることが可能となる。また、光源の光利用効率が高くなると、液晶表示装置の全体の輝度を高めて明るい画質を得ること、消費電力を低減させることが可能となる。
【0003】
偏光aを透過する一方、偏光aと直交する偏光bを反射する反射偏光子、およびこの反射偏光子を含む液晶表示装置が開示されている(特許文献1を参照)。この液晶表示装置は、表示面側から順に、液晶セル、反射偏光子、バックライトおよび拡散反射板を備える。
この液晶表示装置のバックライトから発せられた光のうち、偏光aは反射偏光子を透過して表示光となり、一方、偏光bは反射偏光子で反射されて反射光となる。反射偏光子で反射された偏光bは、拡散反射板で反射されるとともに、偏光状態がランダム化されて、偏光aと偏光bとを含む光となる。ランダム化された光のうち、偏光aは、反射偏光子を透過して表示光となり、偏光bは再び反射光となる。このようにして、バックライトから発せられた光の利用効率を高めるとされている。この反射偏光子は、ポリエチレンナフタレートからなるフィルムAと、酸成分としてナフタレンジカルボン酸およびテレフタル酸等を用いたコポリエステルからなるフィルムBとが多層に重ね合わされた多層フィルムである。
【0004】
他の反射偏光子として、第1の透明樹脂で構成された連続相に、第2の透明樹脂が粒子状または所定の形状に分散してなるシートであって、偏光aを透過し、偏光aと直交する偏光bを反射するシートが開示されている(特許文献2および9を参照)。このシートは、二種類の異なる樹脂の混合物を押出成形して得られる。
【0005】
また、ヘイズ異方性を付与したライトガイド用のフィルムやシートが開示されている(特許文献3〜5を参照)。このフィルムの端面から入射された非偏光のうち、特定偏光のみが散乱出射するので、フィルム端面から照射された光の利用効率を高めうる。このフィルムは、フィラーを含有するか、またはフィラーを含有しないポリエチレンナフタレートなどのフィルムを一軸延伸して得られる。
【0006】
さらに、結晶化された未配向の樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂など)を二軸延伸配向して、容器用途の樹脂物品を得る方法が記載されている(特許文献6を参照)。
【0007】
一方、液晶表示装置にとって重要な特性の一つに、正面輝度がある。正面輝度を向上させる手段として、光学フィルム(例えば反射偏光子)の表面形状をプリズム形状とすることで、フィルム表面からの出射角度を調整することが知られている(特許文献7および8を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平9−506985号公報
【特許文献2】特開2003−075643号公報
【特許文献3】特開平11−281975号公報
【特許文献4】特開2001−264539号公報
【特許文献5】特開2001−49008号公報
【特許文献6】特表2005−531445号公報
【特許文献7】特開2007−272052号公報
【特許文献8】特開2007−206569号公報
【特許文献9】特表2000−506989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の反射偏光子は、フィルムAと、これとは化学構造の異なるフィルムBとを多層に重ね合わせた積層体であるため、製造方法が複雑であり、コストを低減することが困難であった。また、拡散性能を付与するために、拡散機能を有する部材または層を、貼合や塗装などによりさらに形成する必要があった。また、特許文献2および9に記載のシートはポリマーアロイにより製造されるため、製造方法が複雑であり、また、偏光特性や拡散性能を緻密に制御することが困難であった。
【0010】
特許文献3〜5に記載されたフィルムまたはシートは、比較的光学特性を制御しやすい方法で製造されうるが、フィルムまたはシートの端面から入射された光を導光するための部材である。よって、特許文献3〜5に記載されたシートは、シート表面から入射される光のうちの特定偏光を透過させる性能は有さず、その透過光を拡散させる機能もない。その理由は、延伸前のフィルムの結晶化度が小さく、また透過ヘイズも小さいためでありうる。
【0011】
特許文献6では、結晶化樹脂を延伸して、その透明性を高めているが、偏光性や拡散性は不十分であった。
【0012】
特許文献7および8に記載のフィルムは、二種類の異なる樹脂により得られるため、製造方法が複雑であり、偏光特性や拡散性能を緻密に制御することが困難であった。
【0013】
すなわち従来、フィルム表面から入射される光のうち特定方向の直線偏光を透過する一方、それと直交する直線偏光を効率よく反射し(つまり「偏光選択性」を有する)、かつ拡散性を有するフィルムが望まれていた。ところが、性能および製造容易性の両面において満足のゆくフィルムは提供されていない。
【0014】
本発明は、偏光選択性および拡散性を有するフィルムと、それを容易に製造する手段とを提供することを目的とする。さらに、本発明は、液晶表示装置の正面輝度を高めるフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1は、以下の偏光性拡散フィルムに関する。
[1] 実質的に1種類の固有複屈折が0.1以上の結晶性樹脂からなる偏光性拡散フィルムであって、可視光線に対する全光線透過率が50〜90%であり、可視光線に対する透過ヘイズが15〜90%であり、かつ可視光線に対する透過偏光度が20〜90%である、偏光性拡散フィルム。
[2] 前記偏光性拡散フィルムの結晶化度は、8〜40%であり、前記偏光性拡散フィルムに多色光を照射したときの、交差ニコル下における偏光顕微鏡観察において、明部と暗部とが観察され、前記明部と暗部が、実質的に同一の組成からなり、前記明部は、長軸を有し、かつ各明部の前記長軸が互いに略平行であり、前記明部は、前記暗部よりも高い結晶化度および高い配向度を有する、[1]記載の偏光性拡散フィルム。
[3] 前記偏光性拡散フィルムの結晶化度は、8〜40%であり、前記偏光性拡散フィルムに多色光を照射したときの、交差ニコル下における偏光顕微鏡観察において、明部と暗部とが観察され、前記明部と暗部が、実質的に同一の組成からなり、前記明部は、長軸を有し、かつ各明部の前記長軸が互いに略平行であり、前記偏光性拡散フィルムの前記明部の長軸方向に対して略平行な切断面において、前記明部の長軸方向に対して略垂直なラインであって、明部と暗部とを通過する5μmのライン上を、アルゴンイオンレーザーラマン分光光度計により、514.5nmの波長を有する光を照射して0.5μm間隔で走査して得たラマンスペクトルの、1730cm−1付近のラマンバンドの半値幅を測定位置に対してプロットしたときの、隣り合う極大ピークと極小ピークの差分の少なくとも1つが0.2cm−1以上であり、かつ前記偏光性拡散フィルムの前記明部の長軸方向に対して略平行な切断面において、前記明部の長軸方向に対して略垂直なラインであって、明部と暗部とを通過する5μmのライン上を、アルゴンイオンレーザーラマン分光光度計により、前記明部の長軸方向に対して平行および垂直な偏光を照射して0.5μm間隔で走査して得たラマンスペクトルの、前記明部の長軸方向に平行な偏光を照射したときの1615cm−1付近のラマンバンド強度Ipと、前記明部の長軸方向に垂直な偏光を照射したときの1615cm−1付近のラマンバンド強度Ivとの強度比(Ip/Iv)を測定位置に対してプロットしたときの、隣り合う極大ピークと極小ピークの差分の少なくとも1つが0.03以上である、[1]または[2]記載の偏光性拡散フィルム。
[4] 前記偏光性拡散フィルムの結晶化度は、8〜40%であり、前記偏光性拡散フィルムは、前記固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂の一軸延伸樹脂フィルムからなり、前記一軸延伸樹脂フィルムは、フィルム厚さを100μmとしたときの、可視光線に対する透過ヘイズが20〜90%であり、前記一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して垂直な切断面のTEM像(撮像範囲のフィルム厚さ方向の距離は0.1μm、かつ撮像面積は45μm)で明暗構造が観察され、前記明暗構造の明部と暗部とが実質的に同一の組成で構成される、[1]〜[3]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[5] マイクロ波透過型分子配向計で測定される、前記偏光性拡散フィルムの、基準厚さを100μmとしたときの規格化分子配向MOR−cが1.2〜7である、[1]〜[4]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[6] 前記明暗構造の二値化画像における明部の面積分率が6〜80%である、[4]記載の偏光性拡散フィルム。
[7] フィルム厚さを100μmとしたときの、透過偏光度が30〜90%である、[1]〜[6]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[8] 前記結晶化度が8〜30%である、[2]〜[7]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[9] 前記結晶性樹脂は、ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、または液晶性樹脂である、[1]〜[8]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[10] 前記結晶性樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂である、[1]〜[9]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[11] 前記偏光性拡散フィルムの少なくとも一方の表面が、集光機能を有する表面形状を有する、[1]〜[10]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム。
[12] 前記集光機能を有する表面形状が、前記偏光性拡散フィルムの表面形状であるか、または前記偏光性拡散フィルムの表面に接する樹脂層の形状である、[11]記載の偏光性拡散フィルム。
[13] 前記集光機能を有する表面形状が、一次元プリズム、二次元プリズム、またはマイクロレンズである、[11]または[12]記載の偏光拡散フィルム。
【0016】
本発明の第2は、以下の偏光性拡散フィルムの製造方法に関する。
[14] [1]〜[13]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルムの製造方法であって、固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂からなる非晶状態のシートを加熱して、結晶化シートを得るステップと、前記結晶化シートを主として一軸方向に延伸するステップと、を含む、偏光性拡散フィルムの製造方法。
[15] 前記結晶化シートを得るステップでは、下記式(1)で表される温度Tにおいて、結晶化度が3%以上となるまで前記非晶状態のシートを加熱する、[14]記載の偏光性拡散フィルムの製造方法。
Tc−30℃≦T<Tm−10℃ (1)
(式(1)において、Tcは前記結晶性樹脂の結晶化温度、Tmは前記結晶性樹脂の融点を表す)
[16] 前記結晶化シートの、可視光線に対する透過ヘイズが7〜70%であり、かつ結晶化度が3〜20%である、[14]または[15]記載の偏光性拡散フィルムの製造方法。
【0017】
本発明の第3は、偏光性拡散フィルムを用いた液晶表示装置に関する。
[17] (A)液晶バックライト用面光源、(B)少なくとも1つの光学素子および/またはエアギャップ、(C)[1]〜[13]のいずれかに記載の偏光性拡散フィルム、ならびに(D)液晶セルを2以上の偏光板で挟んでなる液晶パネルを含み、かつ前記(A)から(D)の各部材が、上記の順に配置されている、液晶表示装置。
[18] 前記(C)偏光性拡散フィルムは、前記(D)液晶パネルに隣接して配置されている、[17]記載の液晶表示装置。
[19] 前記(C)偏光性拡散フィルムは、前記(D)液晶パネルを構成する偏光板の光源側保護フィルムを兼ねる、[17]または[18]記載の液晶表示装置。
[20] 前記(C)偏光性拡散フィルムの反射軸と、前記(D)液晶パネルを構成する偏光板であって前記光源側に配置される偏光板の吸収軸方向とは、ほぼ同じである、[17]〜[19]のいずれかに記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、偏光選択性および拡散性を有するフィルムと、それを容易に製造する手段とを提供することができる。さらに、液晶表示装置の正面輝度がより高い偏光性拡散フィルムを提供できる。これにより、偏光性拡散フィルムを有する、高輝度かつ広視野角で輝度ムラを少ない液晶表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】本発明の偏光性拡散フィルムの、延伸方向に平行な断面TEM像の一例である。
【図1B】本発明の偏光性拡散フィルムの、延伸方向に垂直な断面TEM像の一例である。
【図1C】図1Bに示されるTEM像の二値化画像である。
【図2A】本発明の偏光性拡散フィルムの、延伸方向に平行な断面の偏光顕微鏡像の一例である。
【図2B】図2Aにおいて、ラマン分光光度計によりライン分析した箇所を示す図である。
【図3】図2Bのある測定位置におけるラマンスペクトルの一例を示す図である。
【図4】図2Bの測定位置ごとの1730cm−1付近のバンドの半値幅をプロットした図である。
【図5】図2Bのある測定位置におけるラマンスペクトルの一例を示す図である。
【図6】図2Bの測定位置ごとの1615cm−1付近のバンドの強度比を測定位置ごとにプロットした図である。
【図7】規格化分子配向MOR−cと透過偏光度との関係の一例を示す図である。
【図8】本発明の偏光性拡散フィルムの表面形状の第1の例を示す、フィルム断面を含む斜視図である。
【図9】本発明の偏光性拡散フィルムの表面形状の第2の例を示す、フィルム断面を含む斜視図である。
【図10】本発明の偏光性拡散フィルムの表面形状の第3の例を示す、上面図および断面図である。
【図11】液晶表示装置の構成の一例を示す図である。
【図12】液晶表示装置の構成の他の例を示す図である。
【図13】液晶表示装置の表示機構を説明する図である。
【図14】実施例/比較例の測定結果を示す表である。
【図15】実施例/比較例の偏光性拡散フィルムの製造条件を示す表である。
【図16】実施例/比較例の偏光性拡散フィルムの製造条件を示す表である。
【図17】実施例/比較例の偏光性拡散フィルムの光学特性の測定結果を示す表である。
【図18】実施例/比較例の偏光性拡散フィルムの光学特性の測定結果を示す表である。
【図19】実施例の偏光性拡散フィルムの測定位置ごとの結晶化度と配向度を示すグラフである。
【図20】実施例の測定結果を示す表である。
【図21】比較例の測定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の説明では、「〜」を使用して数値範囲を規定するが、本発明の「〜」は、境界値を含む。例えば、「10〜100」とは、10以上100以下である。
【0021】
1.偏光性拡散フィルム
偏光性拡散フィルムとは、「偏光選択性」と「拡散性」を兼ね備えたフィルムである。偏光選択性とは、特定方向の直線偏光を、これと直交する直線偏光よりも多く透過させ、特定方向の直線偏光と直交する直線偏光をより多く反射する特性をいう。一方、拡散性とは、透過光を拡散させる特性をいう。すなわち、偏光性拡散フィルムとは、特定方向の直線偏光を透過させて拡散させるが、これと直交する直線偏光は反射して光入射側へ戻すことができる。
【0022】
偏光性拡散フィルムは、一定以上の、可視光線に対する全光線透過率を有する。本発明の偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する全光線透過率は、50%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。前記全光線透過率は、高いほど好ましいが、フィルム両面での表面反射が生じるため、通常は90%以下になる。ただし、反射防止膜等を設けることによって、さらに全光線透過率を高めることもできる。
【0023】
前記全光線透過率を50%以上とすることによって、本発明の偏光性拡散フィルムを含む液晶表表示装置の輝度を著しく損なわずに、偏光選択性(偏光反射性)と拡散性の効果によって高輝度化することができる。
【0024】
本願における可視光線に対する全光線透過率は、全光線透過率の視感平均値であって、以下の手順で求めることができる。
1)分光光度計の積分球の光線入射口側の試験片設置部の手前に偏光解消板をセットし、偏光解消板表面の法線方向から光を入射できるようにする。これにより、試験片であるフィルム表面の法線方向から無偏光の光を入射できるようにする。フィルム表面に、偏光解消板を透過した波長範囲380〜780nmの光を入射させて、10nm毎に全光線透過率を測定する。
2)前記1)で得られた全光線透過データから、JIS R−3106に基づいて、視感平均値の全光線透過率Ttotalを算出する。
3)算出された全光線透過率Ttotalを、フィルム厚さtを100μmとしたときの値(Ttotal@100μm)に変換してもよい。具体的には、以下の式にあてはめればよい。
【数1】

【0025】
このように偏光解消板を使用することにより、分光光度計の分光光がある程度偏光しているとしても、それを補正し、フィルム本来の特性を評価することができる。あるいは、偏光解消板を使用しない場合は、全光線透過率Ttotalを、以下のように測定することもできる。
【0026】
1)フィルム表面に、波長範囲380〜780nmの光を照射して、10nm毎に全光線透過率を測定する。
2)前記1)のフィルムを、フィルム表面を含む平面内で90度回転させて、1)と同様にして全光線透過率を測定する。
3)前記1)と2)で測定した全光線透過率データの各波長での平均値を求めて、平均した全光線透過データを得る。平均した全光線透過データから、視感平均値の全光線透過率Ttotalを算出する。
【0027】
偏光性拡散フィルムの偏光選択性を示す指標の一つの例が「透過偏光度」である。フィルムの透過偏光度とは、偏光Vと、偏光Vに直行する偏光Pのいずれかを、選択的に透過する性質を示す指標である。つまり本発明の偏光性拡散フィルムは、後述するように一軸延伸樹脂フィルムを含むが、その延伸方向(延伸軸)に対して垂直な偏光Vを、延伸方向(延伸軸)に対して平行な偏光Pよりも選択的に透過する性質を有する。「反射軸」とは、その軸に平行な偏光を、その軸に対して垂直な偏光をよりも選択的に反射する軸である。
【0028】
透過偏光度は、下記式で示される。下記式において、「Tv」は前記延伸軸に対して垂直な偏光Vに対する、フィルムの全光線透過率(%)を示す。一方、「Tp」は前記延伸軸に対して平行な偏光Pに対する、フィルムの全光線透過率(%)を示す。
【数2】

【0029】
本発明の偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する透過偏光度は、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。また、前記透過偏光度は、拡散性との兼ね合いから90%以下である。
【0030】
本発明の偏光性拡散フィルムにとって「単位厚み当たりのフィルムの透過偏光度」も重要なパラメータである。単位厚み当たりのフィルムの透過偏光度が低すぎると、偏光性拡散フィルムの性能を確保するために、フィルムを極端に厚くする必要が生じうる。そのため、フィルムの取り扱いや樹脂必要量の観点から好ましくない。従って、フィルム厚さを100μmとしたときの透過偏光度(透過偏光度@100μm)が、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがであることがより好ましい。フィルム厚さtを100μmとしたときの透過偏光度は、フィルム厚さtを100μmとしたときのTvおよびTp(Tv@100μmおよびTp@100μm)を式(3)と式(4)から算出して、算出されたTv@100μmおよびTp@100μmを、式(5)にあてはめて求めればよい。
【数3】

【0031】
特に、偏光性拡散フィルムを液晶表示装置に適用する場合には、偏光Vに対するフィルムの全光線透過率Tvを、偏光Pに対するフィルムの全光線透過率Tpよりも、10%以上高くすることが好ましい。それにより、液晶表示装置により優れた表示特性を付与することができる。
【0032】
透過偏光度の測定は、以下の手順にて行えばよい。
1)分光光度計の積分球の試験片設置部の手前に偏光板をセットして、セットされた偏光板表面の法線方向から光を入射できるようにする。これにより、試験片に、偏光板の吸収軸に対して垂直な直線偏光を入射できる。
2)試験片であるフィルムを偏光板に密着させてセットして、偏光線に対する全光線透過率を測定する。
3)まず、試験片であるフィルムの延伸軸を、入射する直線偏光の偏光方向に対して平行とする。波長範囲380〜780nmの直線偏光を照射して、波長10nm毎に全光線透過率を測定する。測定値を、偏光板の全光線透過率で除し、JIS R−3106に基づいて、延伸軸に平行な偏光の全光線透過率Tpを求める。求めたTpを、Tp@100μmに変換してもよい。
4)次に、試験片であるフィルムを、フィルム表面を含む平面内で90度回転させて、試験片であるフィルムの延伸軸を、入射する直線偏光の偏光方向に対して垂直とする。3)と同様に、波長範囲380〜780nmの直線偏光を照射して、波長10nm毎に全光線透過率を測定する。3)と同様に、測定値を、偏光板の全光線透過率で除し、JIS R−3106に基づいて、延伸軸と垂直な偏光の全光線透過率Tvを求める。求めたTvを、Tv@100μmに変換してもよい。
5)得られた全光線透過率TpとTv、またはTp@100μmとTv@100μmを、前記式(2)または式(5)にあてはめて、透過偏光度を算出する。
【0033】
一方、偏光性拡散フィルムの拡散性を示す指標の一つの例が「透過ヘイズ」である。本発明の偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する透過ヘイズは、15%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましい。液晶表示装置の光拡散フィルムに適用したときに、装置に、ムラの低減と均一な輝度を与えるためである。また、前記透過ヘイズは、90%以下であることが好ましい。透過ヘイズが高すぎるフィルムは、高い拡散性を有するものの、光線損失などにより液晶表示装置の輝度を下げるからである。
【0034】
本発明の偏光性拡散フィルムにとって「単位厚み当たりのフィルムの透過ヘイズ」も重要なパラメータである。単位厚み当たりのフィルムの透過ヘイズが低すぎると、偏光性拡散フィルムの性能を確保するために、フィルムを極端に厚くする必要が生じうる。そのため、フィルムの取り扱いや樹脂必要量の観点から好ましくない。一方、単位厚み当たりのフィルムの透過ヘイズが高すぎると、所望の厚みのフィルムの透過ヘイズが高くなりすぎ、光線損失などにより液晶表示装置の輝度を下げてしまう場合もある。従って、フィルム厚さを100μmとしたときの透過ヘイズ(透過ヘイズ@100μm)が、20〜90%であることが好ましく、30〜80%であることがより好ましい。
【0035】
透過ヘイズおよび透過ヘイズ@100μmの測定は、以下の手順で行えばよい。
1)分光光度計の光線入射口の試験片設置部の手前に偏光解消板をセットし、偏光解消板表面の法線方向から光を入射できるようにする。これにより、試験片であるフィルム表面の法線方向から無偏光の光を入射できるようにする。フィルム表面に、波長範囲380〜780nmの光を照射して、波長10nm毎に平行光線透過率を測定する。
2)前記1)で得られた平行光線透過データから、JIS R−3106に基づいて、視感平均値の平行光線透過率Tparaを算出する。
3)前記2)算出された平行光線透過率Tparaと、前述の全光線透過率Ttotalから、透過へイズを以下の式(6)から算出する。
4)前記2)で算出された平行光線透過率Tparaを、フィルム厚さtを100μmとしたときの値(Tpara@100μm)に変換する。具体的には、以下の式(7)にあてはめればよい。
5)前記4)で算出されたフィルム厚さtを100μmとしたときの平行光線透過率(Tpara@100μm)と前述のフィルム厚さtを100μmとしたときの全光線透過率(Ttotal@100μm)から、フィルム厚さtを100μmとしたときの透過へイズ(透過ヘイズ@100μm)を以下の式(8)から算出する。
【数4】

【0036】
以上の通り、本発明の偏光性拡散フィルムは、光学特性においては主に、可視光線に対する「全光線透過率」、「透過偏光度」および「透過ヘイズ」の3つの光学特性で特徴付けられうる。つまり、本発明の偏光性拡散フィルムにおいて、3つの光学特性が高次元でバランスされている。特に、「単位厚み当たりの透過ヘイズ」と、「透過偏光度」との両立に利点がある。この利点は、後述のフィルムの結晶化度や「結晶性が相対的に高く、分子配向が相対的に強い部分」と「結晶性が相対的に低く、分子配向が相対的に弱い部分」との混在状態により実現されていると考えることができる。
【0037】
前述の透過偏光度、透過ヘイズ、および全光線透過率の測定は、例えば、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4100と、必要に応じて150φ積分球付属装置を用いて行えばよい。
【0038】
本発明の偏光性拡散フィルムは、結晶性樹脂の樹脂フィルムを含み、好ましくは結晶性樹脂の一軸延伸樹脂フィルムを含む。本発明の偏光性拡散フィルムは、さらに好ましくは実質的に1種類の結晶性樹脂の一軸延伸樹脂フィルムを含む。一軸延伸樹脂フィルムが、複数種の異なる樹脂からなる樹脂アロイであると、種類の異なる樹脂同士の間に界面が生じて相分離し易いためである。特に、複数種の樹脂同士の相溶性が低いと、界面の接着力が弱いため、延伸時に界面が剥離してボイドが生じ易くなる。ボイドが生じると、ボイドにおける光線散乱が強くなりすぎて光線損失の原因となり、光拡散性の制御が困難となる。
【0039】
結晶性樹脂とは結晶性高分子を含む樹脂であり、結晶質領域の形成が多い樹脂材料である。ここで結晶性樹脂の固有複屈折が、一定以上の値であることが好ましい。
【0040】
固有複屈折とは「高分子の分子配向性の高さを示すパラメータ」であり、以下の式で示される。下記式において、Δnは固有複屈折;nは平均屈折率;Nはアボガドロ数;ρは密度;Mは分子量;αは分子鎖方向の分極率;αは分子鎖と垂直方向の分極率を示す。
【数5】

【0041】
固有複屈折が高い樹脂は、延伸やその他の手段で加工したときに、分子が配向して、その複屈折が大きくなる特性を示す。
【0042】
種々の樹脂の固有複屈折は、例えば特開2004−35347号公報などに記載されている。本発明の偏光性拡散フィルムに含まれる一軸延伸樹脂フィルムの結晶性樹脂の固有複屈折は、0.1以上であることが好ましい。固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂の例には、ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂および液晶性樹脂が含まれる。
【0043】
固有複屈折が0.1以上であるポリエステル系樹脂の具体例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが含まれ、好ましくはポリエチレンレテフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートである。固有複屈折が0.1以上であるポリエステル系樹脂の具体例には、さらに、前記ポリエステル樹脂の共重合体や、前記ポリステル樹脂にコモノマーとしてイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、ジメチルテレフタレートなどが0.1mol%以上含まれたものも含まれる。
【0044】
固有複屈折が0.1以上である芳香族ポリエーテルケトン樹脂の具体例には、ポリエーテルエーテルケトンが含まれる。固有複屈折が0.1以上である液晶性樹脂の具体例には、エチレンテレフタレートとp−ヒドロキシ安息香酸の重縮合体が含まれる。
【0045】
固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂の主成分は、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートの例には、テレフタル酸とエチレングリコールとをモノマー成分とする重縮合体(ホモポリマー);テレフタル酸とエチレングリコール以外のコモノマー成分をさらに含む共重合体(コポリマー)が含まれる。
【0046】
ポリエチレンテレフタレートのコポリマーにおけるコモノマー成分の例には、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のジオール成分;アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のカルボン酸成分;およびジメチルテレフタレート等のエステル成分などが含まれる。
【0047】
ポリエチレンテレフタレートのコポリマーにおけるコモノマー成分の含有量は、5重量%以下であることが好ましい。一般的に、コモノマー成分は、結晶化を阻害する傾向があるが、上記範囲であれば、後述する明暗構造の形成を阻害しないからである。コモノマー成分は、結晶化を阻害する傾向があるので、結晶性の低い暗部で比較的多く含まれてもよい。なお、暗部と明部にそれぞれ含まれるコモノマー成分等の含有量は、異なっていてもよい。
【0048】
ポリエチレンテレフタレートの例には、同種類の樹脂の混合物として、前記ホモポリマーと前記コポリマーとの混合物;分子量の異なる前記ホモポリマー同士の混合物;分子量の異なる前記コポリマー同士の混合物なども含まれる。
【0049】
ポリエチレンテレフタレートは、本発明の効果を損なわない範囲で、該ポリエチレンテレフタレートと相溶する異種類の樹脂を含んでもよい。このような異種類の樹脂の例には、ポリエチレンナフタレートやポリブチレンテレフタレート等が含まれる。ただし、異種類の樹脂を多く添加しすぎると相分離することがある。このため、異種類の樹脂の含有量は、ポリエチレンテレフタレートに対して5重量%以下であることが好ましい。異種類の樹脂とポリエチレンテレフタレートとの混合による相分離の形成を確実に抑制するために、ナフタレンジカルボン酸等をコモノマー成分として少量共重合させることが好ましい。
【0050】
ポリエチレンテレフタレートは、本発明の効果を損なわない範囲で、低分子量ワックス、可塑剤、高級脂肪酸およびその金属塩等のその他成分を含んでもよい。ポリエチレンテレフタレートは、重合段階または重合後において、結晶核剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、耐光剤、アンチブロッキング剤、増粘剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、顔料、難燃剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0051】
結晶核剤は、主に、フィルムの機械的特性に影響をおよぼす、結晶化速度または結晶サイズを制御しうる。つまり、ポリエチレンテレフタレートの結晶化度は、樹脂の種類によってほぼ決定されるものであり、結晶核剤等の各種添加剤によって大きく影響されるものではない。結晶核剤の例には、リン酸、亜リン酸及びそれらのエステル並びにシリカ、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、タルク、アルミナ等の無機粒子;各種有機粒子が含まれる。
【0052】
その他成分および各種添加剤の添加量は、ポリエチレンテレフタレートに対して5重量%以下であることが好ましい。その他成分および各種添加剤は、例えばppmオーダーなどの少量しか含まれない場合は、必ずしもポリエチレンテレフタレートに対して相溶性を有しなくてもよい。
【0053】
本発明の偏光性拡散フィルムは、前述の一軸延伸樹脂フィルムを含むが;当該一軸延伸樹脂フィルムには、紫外線をカットするための公知の紫外線吸収剤、難燃性向上のための公知の難燃剤、耐光性向上のための公知の耐光剤、表示装置の画質を調整するための色剤などが適量含まれていてもよい。
【0054】
本発明の偏光性拡散フィルムに含まれる、結晶性樹脂からなる一軸延伸樹脂フィルムの結晶化度は、フィルムの寸法安定性を優先的に得るためには、8〜40%であることが好ましく;高い透過偏光度を優先的に得るためには、8〜30%であることが好ましい。すなわち、熱固定(延伸後に延伸状態を固定するための熱処理)した前記一軸延伸樹脂フィルムは、結晶化度が高くなり、透過偏光度が若干低下するが、高温保存後の光学特性の低下や寸法変化が少ないという利点があるためである。
【0055】
結晶性樹脂からなる一軸延伸樹脂フィルムの結晶化度は、11〜29%であることがさらに好ましい。前述の所望の全光線透過率、透過ヘイズ、偏光選択性を得るためである。
【0056】
結晶化度は、延伸前の結晶性樹脂からなるシートの結晶化度と同様に、密度法による測定やX線回折法による測定から求めることができる。密度法とは、樹脂の密度から結晶化度を求める方法である。基準とする樹脂の密度は、例えば以下の文献に記載されている。
R.de.P.Daubeny,C.W.Bunn,C.J.Brrown,Proc.Roy.Soc.,A226,531(1954)
【0057】
樹脂の密度の測定の好ましい例には、密度勾配管法による測定が含まれる。密度勾配管法とはJIS−7112に規定されており、測定溶液の調製以外はJIS−7112に準じて行うことができる。密度勾配管法による密度測定は、例えば、密度勾配管法比重測定用水槽(OMD−6/池田理化工業株式会社)を用いて行えばよい。
【0058】
また、結晶性樹脂からなる結晶化シートを一軸延伸することによって得たフィルム内には、結晶相と非晶相とが混在する。本発明の偏光性拡散フィルムにおいて、「結晶性が相対的に高い部分」と「非晶性が相対的に高く結晶性が相対的に低い部分」との混在状態は、フィルムを薄切片化して観察した透過型電子顕微鏡(TEM)画像により観察されうる。その混在状態は、フィルムを薄切片化して観察したTEM画像により、「明暗構造」として観察されうる。
【0059】
TEMで観察される明暗構造とは、TEM画像において「明部」と「暗部」とが混在している構造;具体的には「明部」と「暗部」とが海島を形成している構造をいう。後述の図1Aおよび図1Bに示された本発明の偏光性拡散フィルムのTEM画像では、「明部」が、結晶性が相対的に高い部分であり;「暗部」が、結晶性が相対的に低い部分であると考えられる。TEM像における「明部」と「暗部」の結晶性の比較は、後述の顕微ラマン分析(分解能1μm)で明部と暗部との両方横切るようにスキャンして、ラマンスペクトルを分析して確認されうる。
【0060】
明部と暗部とは、実質的に同一組成の樹脂(高分子)で構成される。「明部と暗部とが実質的に同一組成の樹脂で構成される」とは、「明部を構成する樹脂」中に「暗部を構成する、異なる組成の樹脂粒子やフィラーなど」がある状態ではなく;両者を構成する成分が、実質的に同一組成の樹脂成分であることを意味する。
【0061】
図1Aは、延伸方向に平行なフィルム断面TEM像であり;図1Bは、延伸方向に垂直なフィルム断面TEM像である。図1Aおよび図1Bの撮像範囲のフィルム厚さ方向の距離は0.1μmであり、かつ撮像面積は45μmである。延伸方向に平行なフィルム断面TEM像には、延伸方向に伸びた構造の明部が見られる(図1A参照)。一方、延伸方向に対して垂直なフィルム断面TEM像には、方向性のない島状の明部か、またはフィルム表面と平行な方向に若干伸びた明部が見られる(図1B参照)。
【0062】
図1Bの延伸方向に垂直なフィルム断面TEM像における、島状の明部の長軸の大きさは、特に制限はないが、光学的な効果を実現する観点からは100nm以上、特に好ましくは100nm〜20μmである。なお、100nm未満の島相がともに存在していても差し支えない。
【0063】
さらに、本発明の偏光性拡散フィルムは、延伸方向に対して垂直な断面のTEM像(図1B参照)の二値化処理画像(図1C参照:図1BのTEM像を二値化処理した画像)における「明部の面積分率」が、6〜80%であることが好ましく、10〜75%であることがより好ましく、30〜60%であることがさらに好ましい。なお、図1Cは、明部と暗部が反転した二値化画像である。
【0064】
TEM像における「明部」と、「暗部」とは、必ずしも明らかではいないが、その部分の樹脂の密度や結晶性が異なると考えられる。密度や結晶性が相違するために、その屈折率や、配向性や、複屈折も相違すると考えられる。
【0065】
フィルムの断面TEM像において、明部が、暗部に分散している場合には、それぞれを構成する樹脂の屈折率の違いから、フィルムの界面反射あるいは光散乱が生じる。したがって、フィルムの断面TEM像において、適度な量の明部が分散していれば、フィルムの透過ヘイズが好適な範囲に調整されうる。
【0066】
TEM像における「明部」と、「暗部」とは、その樹脂の密度・結晶化度の違いから配向性が異なり、延伸後の複屈折に差が生じる。複屈折に差が生じる結果、延伸方向に対して平行な方向と垂直な方向とでは、異なる屈折率差が発生する。そのため、延伸方向に対して平行な偏光に対する反射率や光散乱と、垂直な偏光に対する反射率や光散乱に差が生じる。ポリエチレンテレフタレートのように、正の複屈折を有する結晶性樹脂では、延伸方向に対して平行方向の屈折率差が、垂直方向の屈折率差よりも大きくなるため、延伸方向に対して平行な偏光がより反射、散乱されやすい。
【0067】
フィルムの断面TEM像における明部と暗部との界面が多いほど、延伸方向に対して平行な偏光と垂直な偏光とで、反射量や散乱量の差が大きくなり、フィルムの透過偏光度が大きくなる。各明部の面積が大きすぎたり、明部が連結して互いに分離していなかったりすると、暗部との界面が少なくなる。一方、明部と暗部との界面が多すぎると、散乱しすぎて光線損失が増えたり偏光が乱れたりする。従って、フィルムの断面TEM像における明部が、適度な量、適度な形状で分散していることが重要である。
【0068】
一軸延伸樹脂フィルムの断面のTEM画像を得るには、まず一軸延伸樹脂フィルムを切断して薄切片試料を得る。前記切断面を、一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して垂直として、かつフィルムの厚み方向に対して平行とする。薄切片試料は、一般的な手法で得ることができ、例えば樹脂包理されたフィルムサンプルを、ウルトラミクロトームの試料ホルダーに固定し;剃刀刃を用いてトリミングを行い;ガラスナイフあるいは人工サファイヤナイフで面出しをして;ウルトラミクロトームのダイヤモンドナイフで0.1〜1μm厚みの薄切片を切り出す、ことにより得ることができる。
【0069】
得られた薄切片試料は、任意に染色をされてもよい。例えば、四酸化ルテニウム結晶の入った染色容器に切片試料を入れて、常温で約2時間蒸気染色してもよい。
【0070】
染色された、または染色されていない薄切片試料の切断面を、透過電子顕微鏡装置にて撮像して、TEM像(エンドビュー像)を得る。透過電子顕微鏡装置の例には、日立ハイテクノロジーズ社製H−7650が含まれる。加速電圧を、数10〜100kV程度に設定することが好ましい。観察倍率を、例えば、約1000〜4000倍とし;観察視野範囲を5〜10000μmとすることが好ましく、10〜1000μmとすることがより好ましい。約5000〜50000倍で画像を出力する。
【0071】
出力されたTEM画像のピクセル(画素)ごとの明るさと、画像全体の明るさの平均とを得る。全ピクセルの数に対する、平均よりも明るいピクセルの数の比率を「明部の面積分率」とする。
【0072】
画像処理は、一般に利用されている画像解析ソフト(例えば WayneRasband作成のImageJ 1.32S)を用いて行うことができる。具体的には、TEM画像をJPEGなどの一般的な画像デジタルファイル(グレースケール、例えば256階調)として;ピクセル毎に階調を求めて、ピクセル数と階調とをヒストグラム化して、画像全体の平均階調を求めて;平均階調を閾値として二値化処理を行い、閾値以上の階調(明るい)のピクセルを1、閾値未満の階調(暗い)のピクセルを0として;全ピクセル数に対する、値1のピクセルの数を算出して、明部の面積分率とする。
【0073】
なお、TEM観察状態あるいは画像出力における要因により、実際には同一の明るさを有するにも係わらず、出力された画像においては異なる明るさとして出力されることがある。例えば、画像の左側領域と右側領域とで、実際には同一の明るさを有するにも係わらず、異なる明るさとして出力されたり;画像の左側から右側にいくに従って、実際には同一の明るさを有するにも係わらず、徐々に明るくなる結果として出力されたりすることがある。このような場合には、バックグランド補正を行ってから、ヒストグラム化および平均階調算出、二値化処理をして、明部の面積分率を算出することが好ましい。
【0074】
本発明の偏光性拡散フィルムにおいて、「結晶性が相対的に高い部分」と「非晶性が相対的に高く結晶性が相対的に低い部分」との混在状態は、偏光性拡散フィルムの交差ニコル下での偏光顕微鏡画像により、「明暗構造」としても観察されうる。後述の図2Aに示された交差ニコル下での偏光顕微鏡画像では、「明部」が、結晶性が相対的に高い部分であり;「暗部」が、結晶性が相対的に低い部分である。交差ニコル下での偏光顕微鏡画像における「明部」と「暗部」の、結晶性および配向性の比較は、後述の顕微ラマン分析(分解能1μm)で明部と暗部との両方横切るようにスキャンして、ラマンスペクトルを分析して確認されうる。
【0075】
明部と暗部とは、前述と同様に、実質的に同一組成の樹脂(高分子)で構成される。すなわち、「明部と暗部とが実質的に同一組成の樹脂で構成される」とは、明部を構成する成分と、暗部を構成する成分とが実質的に同一組成の樹脂成分であることを意味する。
【0076】
図2Aは、結晶性樹脂の一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して平行な切断面に多色光を照射したときの直交ニコル下における偏光顕微鏡写真(観察範囲は約200μm)である。図2Aに示されるように、延伸方向に平行なフィルム断面の偏光顕微鏡像には、相対的に明るく見える「明部」と;相対的に暗く見える「暗部」とが観察される。「明部」と「暗部」とは海島構造を形成してもよい。明部は、主に延伸方向に伸びた長軸を有する島状でありうる。
【0077】
交差ニコル(直交ニコルを含む)下における偏光顕微鏡写真において、相対的に明るく見える部分(明部)は、結晶化度および配向度がいずれも高い傾向にあり、相対的に暗く見える部分(暗部)は、結晶化度および配向度がいずれも低い傾向にある。つまり、明部の結晶化度および配向度は、暗部の結晶化度および配向度よりも高い。結晶化度が大きいと、配向し易くなり;配向度が大きいと複屈折が大きくなる。したがって、「明部の結晶化度と配向度が暗部のそれよりも大きい」とは、「明部の複屈折が暗部よりも大きい」ことを意味する。
【0078】
このように、図1BのTEM像における「明部」は、図2Aの偏光顕微鏡像における「明部」と対応しており;図1BのTEM像における「暗部」は、図2Aの偏光顕微鏡像における「暗部」とほぼ対応していると考えられる。
【0079】
偏光顕微鏡画像は、透過像の入射光側、観察光側にそれぞれ偏光子(偏光フィルム)を配置した装置:NIKON OPTIPHOT−2を用いて観察される。偏光像は、撮影装置:CANON POWERSHOT A650を用いて、対物レンズ:×100、観察倍率:1000倍に設定して撮影される。
【0080】
一軸延伸樹脂フィルムの偏光顕微鏡画像は、フィルム表面をそのまま観察することにより得られるが、高い分析精度の偏光顕微鏡画像を得るためには、一軸延伸樹脂フィルムを切断して薄切片試料を得ることが好ましい。前記切断面を、一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して平行として、かつフィルムの厚み方向に対して平行とする。薄切片試料は、前述と同様の一般的な手法で得ることができる。一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して平行な切断面を有する切片の厚みは、明暗構造を観察し易くする点から、0.5〜2μmであることが好ましく、さらにラマン分析の空間分解能が1μmであることを考慮すると、切片の厚みは1〜2μmであることがより好ましく、1μmであることがさらに好ましい。
【0081】
本発明における交差ニコル状態とは、フィルムサンプルを挟む2つの偏光子の偏光軸のなす角が互いに交差する状態(平行ニコルでない状態)をいう。2つの偏光子の偏光軸が交差する状態で、これらの偏光軸の交差する角度を変えて明暗コントラストが最も高くなる角度を探し;その角度(例えば90°など)で明暗像を観察することが好ましい。
【0082】
本発明の偏光性拡散フィルムの結晶化度および配向度の分布状態は、例えば、図2Bに示されるように、レーザーラマン分光光度計を用いて、延伸方向に対して垂直方向(明部の長軸方向に対してほぼ垂直方向)に、ライン分析することにより測定されうる。具体的には、結晶化度の分布状態は、514.5nmの波長を有する光を照射して得られるアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルから測定される。配向度の分布状態は、延伸方向に対して平行な偏光および垂直な偏光をそれぞれ照射して得られるアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルから測定される。
【0083】
ライン分析とは、レーザーラマン分光光度計をライン走査しながら、一定間隔ごとにレーザーラマンスペクトルを測定することである。走査するラインは、延伸方向に対して略垂直方向(明部の長軸方向に対してほぼ垂直方向)で、かつ少なくとも明部と暗部を含むラインであればよい。このため、偏光顕微鏡で明暗構造を確認した後、ラマンスペクトルを走査測定するラインを設定することが好ましい。
【0084】
図2Bの偏光顕微鏡写真のラインA〜C上において、測定開始位置から0〜1.5μm付近の位置は、相対的に明るく見える部分(明部)であり;測定開始位置から3〜4μm付近の位置は、相対的に暗く見える部分(暗部)である。ラインA〜Cは、走査するラインを延伸方向に1μmずつ移動させたものである。
【0085】
まず、結晶化度の分布状態の測定方法について説明する。図3(A)は、514.5nmの波長を有する光を照射したときの、図2BのラインA上の測定開始地点から0.5μmの位置でのラマンスペクトルを示し;図3(B)は測定開始地点から3.5μmの位置でのラマンスペクトルを示す。図3(A)および図3(B)に示されるように、1615cm−1付近の、ベンゼン環の炭素−炭素二重結合に由来するピークと、1730cm−1付近の、エステルカルボニル基に由来するピークとが確認される。
【0086】
結晶化度は、1730cm−1付近のエステルカルボニル基に由来するバンドの半値幅によって評価されうる。1730cm−1付近のバンドの半値幅と結晶化度との間には、明確な逆比例の関係がみられるためである。半値幅とは、バンドのピーク強度の最大値の1/2の強度でのバンド幅をいう。結晶化度が高くなるほど、バンド幅の狭い、鋭いピーク形状となり、半値幅も小さくなる。延伸方向に対して垂直なライン上を、一定間隔ごとにラマンスペクトルデータを採りながら走査分析することで、結晶化度の分布状態を測定しうる。
【0087】
図4は、図2BのラインA〜C上をそれぞれ0.5μm間隔でライン分析したときの、1730cm−1付近のバンドの半値幅を測定位置ごとにプロットした図である。同図において、半値幅が小さいほど結晶化度が高く;半値幅が大きいほど結晶化度が低いことを示す。
【0088】
図4に示されるように、ラインAおよびBに着目すると0〜1.5μm付近の測定位置で、ラインCに着目すると0〜1μm付近の測定位置で、それぞれ半値幅が小さく、結晶化度が高いことが示唆される。一方、ラインA〜Cのいずれにおいても3〜4μm付近の測定位置では、半値幅が大きく、結晶化度が低いことが示唆される。そして、0〜5μmの測定範囲のうち、1730cm−1付近のバンドの半値幅の隣り合う極大ピークと極小ピークの差分が0.9cm−1以上であることが示される。極大ピークおよび極小ピークは、例えば図4に示されるラインCの半値幅プロットにおいて、矢印(1〜4)で示される。これらの極大ピークと極小ピークのうち、隣り合う極大ピークと極小ピークとの間の差分;すなわち、極小ピーク1と極大ピーク2との差分;極大ピーク2と極小ピーク3との差分;極小ピーク3と極大ピーク4との差分をそれぞれ求める。このように、本発明において「明部と暗部とが存在する」とは、1730cm−1付近のバンドの半値幅の隣り合う極大ピークと極小ピークの差分の少なくとも1つが、0.2cm−1以上であり、好ましくは0.5cm−1以上であり、より好ましくは1.5cm−1以上であり、さらに好ましくは2cm−1以上であることをいう。
【0089】
次に、配向度の分布状態の測定方法について説明する。図5(A)は、延伸方向に平行および垂直な偏光を照射したときの、図2BのラインA上の測定開始地点から0.5μmの測定位置でのラマンスペクトルを示し;図5(B)は、測定開始地点から3.5μmの測定位置でのラマンスペクトルを示す。
【0090】
配向度は、1615cm−1付近のベンゼン環の炭素−炭素二重結合に由来するバンド強度の異方性によって評価されうる。1615cm−1付近のバンドは、テレフタル酸ユニットの長軸方向に遷移モーメントを有するためである。バンド強度の異方性とは、延伸方向に平行な偏光を照射したときのバンド強度Ipと、延伸方向に垂直な偏光を照射したときのバンド強度Ivとの強度比Ip/Ivをいう(バンド強度とは、1615cm−1付近でのバンド強度の最大値である)。配向度が高いほど、バンド強度比(Ip/Iv)が大きくなる。延伸方向に対して垂直なライン上を、一定間隔ごとにラマンスペクトルデータを採りながら走査分析することで、配向度の分布状態を測定しうる。
【0091】
図6は、図2BのラインA〜C上をそれぞれ0.5μm間隔でライン分析したときの、1615cm−1付近のバンド強度比(Ip/Iv)を測定位置ごとにプロットした図である。同図において、バンド強度比が低いほど配向度が低く;バンド強度比が高いほど配向度が高いことを示す。
【0092】
図6に示されるように、ラインAおよびBに着目すると0〜1.5μm付近の測定位置で、ラインCに着目すると0〜1μm付近の測定位置で、それぞれバンド強度比が比較的高く、配向度が高いことが示唆される。一方、ラインA〜Cのいずれにおいても、3〜4μm付近の測定位置では、バンド強度比が小さく、配向度が低いことが示唆される。そして、0〜5μmの測定範囲のうち、1615cm−1付近のバンド強度比の隣り合う極大ピークと極小ピークの差分が0.09以上であることが示される。極大ピークおよび極小ピークは、例えば図6に示されるラインCの強度比プロットにおいて、矢印(1〜6)で示される。これらの極大ピークと極小ピークのうち、隣り合う極大ピークと極小ピークとの間の差分;すなわち、極大ピーク1と極小ピーク2との差分;極小ピーク2と極大ピーク3との差分;極大ピーク3と極小ピーク4との差分;極小ピーク4と極大ピーク5との差分;極大ピーク5と極小ピーク6との差分をそれぞれ求める。このように、「明部と暗部とが存在する」とは、1615cm−1付近のバンド強度比(Ip/Iv)の隣り合う極大ピークと極小ピークの差分の少なくとも1つが0.03以上であり、好ましくは0.08以上であり、より好ましくは0.7以上であり、さらに好ましくは1以上であることをいう。
【0093】
さらに、「明部と暗部とが存在する」とは、1730cm−1付近のバンドの半値幅の隣り合う極大ピークと極小ピークの差分の少なくとも1つが0.2cm−1以上であり、かつ1615cm−1付近のバンド強度比(Ip/Iv)の隣り合う極大ピークと極小ピークの差分の少なくとも1つが0.03以上であることがより好ましい。
【0094】
このように、図2Bの偏光顕微鏡写真において、相対的に明るく見える明部(測定位置が0〜1.5μmまたは0〜1μm付近)では、結晶化度および配向度がいずれも高く;相対的に暗く見える暗部(測定位置が3〜4μm付近)では、結晶化度および配向度がいずれも低いことが確認される。
【0095】
ラマンスペクトルは、公知のレーザーラマン分光法、例えばRamanor T−64000(Jobin Yvon/愛宕物産)を用いて測定されうる。試料は、偏光性拡散フィルムを延伸方向に平行に切断して得られる厚み1μmの試料片を用いる。この試料片を、ビーム径:1μm、クロススリット:100〜200μm、光源:アルゴンイオンレーザー/514.5nm)、レーザーパワー:5〜30mW、の条件で測定すればよい。
【0096】
前述のミクロ構造における配向度とは別に、一軸延伸フィルム全体としての配向性を表す指標として「分子配向度MOR」がある。分子配向度MOR(Molecular Orientation Ratio)は、分子の配向の度合いを示す値であり、以下のようなマイクロ波測定法により測定される。
【0097】
すなわち、試料(フィルム)を、周知のマイクロ波分子配向度測定装置のマイクロ波共振導波管中に、マイクロ波の進行方向に前記試料面(フィルム面)が垂直になるように配置する。そして、振動方向が一方向に偏ったマイクロ波を試料に連続的に照射した状態で、試料をマイクロ波の進行方向と垂直な面内で0〜360°回転させて、試料を透過したマイクロ波強度を測定することにより分子配向度MORを求める。
【0098】
本発明における規格化分子配向MOR−cとは、基準厚さtcを100μmとしたときのMOR値であって、下記式により求めることができる。
【数6】

【0099】
規格化分子配向MOR−cは、公知の分子配向計、例えば王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−2012AやMOA−6000等により、12.54〜12.56の共振周波数で測定することができる。
【0100】
図7は、結晶性樹脂の一軸延伸フィルムの、規格化分子配向MOR−cと100μm厚みあたりの透過偏光度との関係の一例を示したグラフである。図7に示されるように、結晶性樹脂の一軸延伸フィルムの透過偏光度を30%以上とするには、固定端延伸したフィルムの規格化分子配向MOR−cは1.5〜5.1であることが好ましく;自由端延伸したフィルムの規格化分子配向MOR−cは1.2〜7であることが好ましい。規格化分子配向MOR−cが低すぎると、フィルム全体の配向が不十分であるため、十分な透過偏光度が得られない。規格化配向度MOR−cが高すぎると、結晶性が低い部分も配向してしまうため、延伸後に暗部と明部との配向度差、ひいては複屈折差が得られず、所望の透過偏光度が得られ難い。
【0101】
規格化分子配向MOR−cは、後述の通り、主に一軸延伸フィルムの延伸前の加熱処理条件(加熱温度および加熱時間)や延伸条件(延伸温度および延伸速度)等によって制御されうる。
【0102】
2.偏光性拡散フィルムの製造方法
結晶性樹脂の一軸延伸フィルムは、例えば、(1)結晶性樹脂からなる結晶化シートを準備するステップ、(2)結晶性樹脂からなる結晶化シートを主として一軸方向に延伸するステップ、を含むフローにて製造されうる。規格化分子配向MOR−cを制御するためには、(1)のステップにおける「加熱処理時間および加熱処理温度」、および(2)のステップにおける「延伸速度および延伸温度」の調整が重要である。
【0103】
前記の通り、結晶性樹脂は、その固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂であることが好ましい。加工性、光学特性に優れ、かつ低コストであるため、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。結晶性樹脂からなるシートは、市場から入手可能なものでもよく、押出成形などの公知のフィルム成形手段で作製されてもよい。結晶性樹脂からなるシートは、単層であっても、多層であっても構わない。
【0104】
結晶性樹脂からなる結晶化シートは、一定の結晶化度(例えば、3〜20%)を有していればよい。過剰に高い結晶化度を有するシートには、大きい結晶粒が含まれることがある。このため、一軸延伸させて得られたフィルムに、偏光性拡散フィルムとしての所望の光学特性が付与できなかったり、結晶化度が高すぎて延伸自体が困難になったりすることがある。
【0105】
結晶性樹脂からなる結晶化シートは、非晶状態の樹脂シートを加熱処理して結晶化させて得ることができる。1)非晶状態の樹脂シートを加熱処理により結晶化したシートを、延伸装置にセットして、延伸加工をしてもよいし(オフラインによる加熱処理)、または2)加熱処理により結晶化されていない非晶状態の樹脂シートを、延伸装置にセットして、延伸装置にて加熱処理して、その直後に延伸加工をしてもよい(インラインによる加熱処理)。
【0106】
非晶状態の樹脂シートを結晶化するための加熱処理温度(T)は、特に限定されず、ガラス転移温度Tgと結晶性樹脂の融解温度Tmとの間の温度範囲に設定されるか、または以下の式の関係を満たすことが好ましい。下記式において、Tcは結晶性樹脂の結晶化温度であり、Tmは結晶性樹脂の融解温度である。
【数7】

【0107】
結晶性樹脂の結晶化温度(Tc)は、シートまたは結晶化していない状態の(過冷却状態にある)結晶性樹脂の示差走査熱量分析(DSC)により求めることが好ましい。示差走査熱量分析(DSC)は、JIS K7122に準拠して行えばよい。結晶性樹脂の融解温度(Tm)も、JIS K7122に従って示差走査熱量分析により求めることが好ましい。
【0108】
加熱処理時間は、所望の結晶化度(3〜20%)を満たし、かつ延伸後の規格化分子配向MOR−cが1.5〜5.1(固定端延伸の場合)または1.2〜7(自由端延伸の場合)を満たすように調整されればよい。加熱処理時間が長くなると、延伸前の結晶化度も高くなり、延伸後の規格化分子配向MOR−cも高くなる。加熱処理時間が短くなると、結晶化度も低くなり、延伸後の規格化分子配向MOR−cも低くなる。
【0109】
延伸前の結晶化度が高すぎると、フィルムが硬くなって延伸応力がよりかかるので、結晶性が比較的高い部分だけでなく、結晶性が比較的低い部分も配向が強くなり、延伸後の規格化分子配向MOR−cも高くなりすぎると考えられる。延伸前の結晶化度が低すぎると、配向する結晶が少なく延伸応力があまりかからないため、結晶性が比較的高い部分も配向し難くなり、延伸後の規格化分子配向MOR−cも低くなると考えられる。
【0110】
加熱処理時間は、温度とフィルム厚み、フィルムを構成する樹脂の分子量、添加剤やコポリマーの種類または量によって異なる。また、フィルムを結晶化させる実質的な加熱処理時間は、予熱前の加熱処理時間と、延伸直前の予熱時間との和に相当する。非晶状態のシートの加熱処理時間は、通常は5秒〜20分であり、好ましくは10秒〜10分である。例えば、ポリエチレンテレフタレートからなる結晶化シートを120℃で加熱処理する場合、加熱処理時間は1.5〜10分程度であることが好ましく、1.5〜7分程度であることがより好ましい。
【0111】
延伸後のフィルムに偏光性と拡散性の両方を効果的に付与するには、延伸前のフィルムの結晶化度と透過ヘイズとを調整しておくことが重要である。すなわち、延伸により結晶化樹脂の透明性が向上する理由は、延伸による応力が球晶に集中し、球晶が可視光線に不感応な大きさにまで破壊されるためと考えることもできる。結晶化された樹脂を延伸させると、延伸条件によっては、樹脂の透明性を下げることができ、それにより偏光性や拡散性を高めることができると考えられる。
【0112】
結晶性樹脂からなる結晶化シートの、延伸直前の樹脂フィルムの結晶化度は、延伸処理後の樹脂フィルムの結晶化度が8〜40%、好ましくは8〜30%となるように設定されることが好ましい。そのため、通常は、延伸直前での結晶化度が3%以上、好ましくは3〜30%、より好ましくは3〜20%であることが好ましい。
【0113】
結晶性樹脂からなる結晶化シートの結晶化度は、密度法による測定やX線回折法による測定から求めることができる。結晶粒の大きさは、偏光顕微鏡による観察により求めることができる。具体的には、後述の一軸延伸フィルムの結晶化度の測定と同様に行えばよい。
【0114】
結晶性樹脂からなる結晶化シートの透過ヘイズは、延伸直前において7〜70%であることが好ましく、15〜60%であることがより好ましい。延伸後の透過ヘイズを適切に調整し、実用的な偏光度を得るためである。オフラインによる加熱処理を行う場合は、その後の延伸装置での延伸直前の予熱段階で、さらに透過ヘイズが増加するため、予熱条件を考慮して低めの透過ヘイズに調整する必要がある。
【0115】
結晶化シートの透過ヘイズは、前述の偏光性拡散フィルムの透過ヘイズと同様に測定されうる。ただし、延伸前の結晶化シートは光学的異方性を有さないので、その透過ヘイズの測定は、偏光性拡散フィルムの向きを変えて平均値を求める必要はない。
【0116】
結晶性樹脂からなる延伸前のシートの厚みは、(2)の工程の延伸により得ようとする偏光性拡散フィルムの厚みと延伸倍率によって主に決められるが、好ましくは50〜2000μmであり、より好ましくは80〜1500μm程度である。
【0117】
結晶性樹脂からなる結晶化シートを、一軸延伸する手段は特に限定されない。「一軸延伸」とは、一軸方向の延伸を意味するが、本発明の効果を損なわない程度に、当該一軸方向とは異なる方向に延伸されていてもよい。用いる延伸設備などによっては、一軸方向に延伸しようとしても、当該一軸方向とは異なる方向にも、実質的に延伸されることがある。前記「一軸延伸」には、このような延伸も含まれると解される。
【0118】
例えば、所望とする延伸方向に対して垂直な方向にも、シートが延伸されることがある。通常、純然たる一軸延伸とは、延伸前のシート原反4辺のうちの相対する2辺だけを固定して、延伸方向に垂直な方向の両端をフリーな状態にして延伸する(「横フリー一軸延伸」ともいう)。横フリー一軸延伸では、延伸に伴い延伸方向に垂直な方向はポアソン変形により収縮する。よって、延伸方向に垂直な方向には延伸されない。
【0119】
一方、バッチ延伸機を用いて延伸する場合、原反の4辺を固定(クランプ)する。このため、一方向にのみ原反を延伸しても、延伸方向に垂直な方向の端部は固定されている(「横固定一軸延伸」ともいう)ため収縮できず、延伸方向に垂直な方向にも、僅かではあるが実質的に延伸されたことになる。
【0120】
前記「一軸延伸」は、横フリー一軸延伸および横固定一軸延伸を含む。横フリー一軸延伸の例には、ロール延伸法等が含まれ、横固定一軸延伸には、上記以外にテンター法による横一軸延伸が含まれる。
【0121】
一軸延伸をする直前に、結晶性樹脂からなるシートを予熱してもよい。予熱温度は、通常ガラス転移温度Tgから融点Tmまでの温度で任意選択できるが、前記延伸前のシートの透過ヘイズと結晶化度とを、前記のように調整する、すなわち結晶化度を8〜30%に調整するため、Tc−30℃≦T<Tm−10℃で行なうことが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートからなるシートの場合は、予熱温度を100〜240℃とする。
【0122】
予熱時間は、(1)で得られた結晶化シートを所定の温度まで加熱できるに十分な時間以上であればよい。一方で、長時間の予熱は、結晶化度を過剰に(例えば、30%超に)高め、延伸を困難にすることがある。したがって予熱時間は、所望の結晶化度となるように適宜調整される。例えば、ポリエチレンテレフタレートからなるシートの場合は、予熱時間は0.1〜10分が好ましい。
【0123】
一軸延伸の延伸速度は特に限定されないが、5〜500%/秒とすることが好ましく、より好ましくは9〜500%秒、さらに好ましくは9〜300%/秒、特に好ましくは20〜300%/秒である。延伸速度とは、初期のサンプル長さをLoとし、時間t後における延伸されたサンプルの長さをLとしたとき、以下の式で表される。延伸速度が速すぎると、延伸応力が増大して設備への負担が大きくなり、結果として均一に延伸し難いことがある。一方、延伸速度が遅すぎると、生産速度が極端に遅くなるため、生産性が低下することがある。
【数8】

【0124】
延伸速度は、延伸後の規格化分子配向MOR−cが1.5〜5.1(固定端延伸の場合)または1.2〜7(自由端延伸の場合)を満たすように調整されればよい。延伸速度が大きいほど、延伸時に結晶化シートにかかる応力が大きいため、延伸後の規格化分子配向MOR−cも高くなる。延伸速度が小さいほど、延伸時に結晶化シートにかかる応力が小さいため、延伸後の規格化分子配向MOR−cも低くなる。なお、最適な延伸速度は、延伸前の結晶化度によって変わりうる。結晶化度が高くなるほど、フィルムが硬くなって延伸応力が大きくなるため、最適な延伸速度は低めになる傾向がある。
【0125】
例えば、ポリエチレンテレフタレートからなる結晶化シートを約120℃で延伸する場合、延伸速度は5〜220%/secであることが好ましい。なお、延伸工程の初期から後期にわたって延伸速度は必ずしも一定でなくてもよく、例えば、初期は25%/sec、全体としては10%/secとしてもよい。
【0126】
延伸温度は、延伸後の規格化分子配向MOR−cが1.5〜5.1(固定端延伸の場合)または1.2〜7(自由端延伸の場合)を満たすように調整されればよい。延伸温度が高いと、延伸時に結晶化シートにかかる応力が小さいため、結晶性が比較的高い部分ではなく結晶性が比較的低い部分があまり配向せずに伸びてしまうため、延伸後の規格化分子配向MOR−cは低くなる。延伸温度が低いと、延伸時に結晶化シートにかかる応力が大きいため、結晶性が比較的高い部分だけではなく結晶性が比較的低い部分も配向するため、延伸後の規格化分子配向MOR−cは高くなる。例えば、ポリエチレンテレフタレートからなる結晶化シートを延伸する場合、延伸温度は105〜135℃であることが好ましい。
【0127】
延伸温度は、予熱温度と同じであっても異なってもよい。二槽式のバッチ延伸機を用いる場合は、予熱槽と延伸槽とで異なる温度に設定できるので、延伸温度は予熱温度と異なる温度に設定されうる。一槽式のバッチ延伸機を用いる場合は、予熱槽と延伸槽が同じ槽であるので、延伸温度は予熱温度と同じ温度に設定される。
【0128】
延伸倍率も、選択する樹脂に応じて選択され、特に限定されない。ポリエステル系樹脂の場合は、2〜10倍が好ましい。延伸倍率が大きすぎると、延伸切れが発生する可能性が高くなることがあり、小さすぎると十分な分子配向状態が得られないことがある。
【0129】
本発明の偏光性拡散フィルムの厚みは、20〜500μmであり、好ましくは30〜300μmである。薄すぎる偏光性拡散フィルムは、十分な剛性を有さず、平面性を保持し難くなり、取り扱いや液晶表示装置への組み込みが困難になる場合がある。一方、厚すぎる偏光性拡散フィルムは、ロール形態に巻くことが困難であったり、必要樹脂量が増えて生産性を低下させたりする場合がある。
【0130】
従来のフィルム製造条件で、結晶性樹脂の原反や結晶化シートを一軸延伸した場合、原反段階で存在する微結晶(一般的にはラメラ晶で構成される球晶)や結晶化シートの球晶の大部分が解体され、一様に分子鎖が引き伸ばされることが多かった。このため、得られる延伸樹脂フィルムは、ほぼ均一な配向構造を有し、透明性も高かった。これに対して、本発明の一軸延伸樹脂フィルムは、前述のような特別な条件で結晶性樹脂の結晶化シートを一軸延伸して得られることから、前述のような明暗構造を有する。これにより、所望の光学特性を発現する延伸樹脂フィルムを得ることができる。
【0131】
3.偏光性拡散フィルムの用途
本発明の偏光性拡散フィルムは、好ましくは液晶表示装置の部材として用いられる。本発明の偏光性拡散フィルムを、液晶表示装置内に配設したときに、液晶表示装置の輝度、特に正面輝度を高めるために、本発明の偏光性拡散フィルムの一方の面、または両方の面は、集光機能を有する表面形状を有することが好ましい。通常、一方の面にだけ集光機能を有する形状を有することがより好ましい。例えば、偏光性拡散フィルムを、液晶表示装置の部材として用いる場合には、「偏光板と接する側の表面」に集光機能を有する表面形状を有することが好ましい。
【0132】
偏光性拡散フィルムの表面形状を、集光機能を有する表面形状とすることにより、偏光選択性により選択的に透過し、拡散性により斜め方向に出射する偏光を正面方向に集めることができるので、正面輝度がより向上する。このように、集光機能と偏光反射特性とを併せもつ偏光性拡散フィルムは、「従来から用いられるプリズムフィルムまたはマイクロレンズフィルムと、偏光性拡散フィルムとを組み合わせる」場合よりも、低コストで正面輝度をより向上させることができる。
【0133】
従来から用いられるプリズムフィルムやマイクロレンズフィルムとして一般的なフィルムは、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを表面加工したフィルムである。これらのフィルムと、偏光選択性を有する偏光性拡散フィルムとを組み合わせても、二軸延伸PETフィルムの位相差が大きいため、選択された偏光が二軸延伸PETフィルムを透過するときに、偏光が乱れる。そのため、偏光反射の効果が損なわれる。また、プリズムフィルムまたはマイクロレンズフィルムと偏光性拡散フィルムとを組み合わせて用いる場合に比べて、本発明の偏光性拡散フィルムは、コスト低減を実現し、且つ、液晶表示装置の厚みを減らすこともできる。
【0134】
集光機能を有する表面形状の例には、一次元プリズム状(図8参照)、二次元プリズム状(図9参照)、マイクロレンズ形状(図10参照)、ウェーブ状などが含まれるが、特に限定されない。
【0135】
一次元プリズムとは、複数の三角柱が列状に配置されている状態をいう(図8参照)。図8には、一次元プリズム状の表面形状を有する偏光性拡散フィルムの、プリズムの稜線に対して垂直な断面図が示される。プリズムピッチP1は等ピッチでも不等ピッチでも良いが約1〜200μmであることが好ましく、プリズム頂角θ1は約85〜95度であることが好ましく、プリズムの高さh1は約0.4〜110μmであることが好ましい。プリズムの稜線は、偏光性拡散フィルムの一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に平行に沿っているか、または直交していることが好ましい。偏光性拡散フィルムの製造において、一軸延伸樹脂フィルムのシート取り効率を高めるためである。
【0136】
二次元プリズムとは、複数の四角錐がマトリクス状に配置されている状態をいう(図9参照)。図9には、二次元プリズム状の表面形状を有する偏光性拡散フィルムの、断面を含む斜視図が示される。四角錐の頂点同士の距離P2は等ピッチでも不等ピッチでも良いが約1〜200μmであることが好ましく;四角錐の底面からの高さh2は約0.4〜110μmであることが好ましい。プリズム頂角θ2は、約85〜95度であればよい。
【0137】
マイクロレンズ形状とは、複数の凸レンズがフィルム表面に配置されている状態をいう(図10参照)。凸レンズは、規則性をもって配置されていてもよく、ランダムに配置されていてもよい。規則性をもった配置とは、最密充填されるように配置されることなどをいう。レンズ形状は球面、非球面のいずれかに特に限定されず、形状及び大きさは所望する集光性能および拡散性能に応じて適宜選択される。図10(A)には、マイクロレンズ形状の表面形状を有する偏光性拡散フィルムの上面図が示され;図10(B)には、フィルムの断面図が示される。各マイクロレンズのレンズ径Dは約4〜200μmであることが好ましく、レンズの高さh’は約2〜100μmであることが好ましい。
【0138】
本発明の集光機能を有する表面形状を備えた偏光性拡散フィルムの厚さは、集光機能を有する表面形状の厚さも合わせて、20〜650μmであることが好ましい。
【0139】
前記の通り、本発明の偏光性拡散フィルムの表面は、集光機能を有する表面形状を有してもよいが、当該表面形状は、前述の一軸延伸樹脂フィルム自体の表面形状であってもよく;一軸延伸樹脂フィルムの表面に別個に配置された層の形状であってもよい。別個に配置された層は、一軸延伸樹脂フィルムに直接接触している層であることが好ましく;つまり、接着層などを介さずに、直接配置されていることが好ましい。
【0140】
集光機能を有する表面形状を形成する方法は特に限定されず、慣用の方法を利用することができる。例えば、一軸延伸樹脂フィルム自体の表面形状を、集光機能を有する表面形状にするには、一軸延伸樹脂フィルムの表面に金型を、例えば樹脂のガラス転移温度Tg以上、結晶化温度Tc以下の温度条件で熱プレスして、冷却固化後、金型を剥離することにより形成すればよい。熱プレスは、平板積層プレスのほか、賦形ロールを用いたロールプレス、ダブルベルトプレスなどの方法を用いて行うことができる。
【0141】
また、一軸延伸樹脂フィルムの表面に別個に配置された層の形状を、集光機能を有する表面形状にするには、一軸延伸樹脂フィルムの表面に、活性エネルギー線硬化樹脂を注入した金型を重ねて密着状態とし;これに活性エネルギー線を照射して樹脂硬化を行い;金型を剥離すればよい。活性エネルギー線硬化樹脂の例には、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂などが含まれる。
【0142】
本発明の偏光性拡散フィルムの表面に、公知の易接着処理や易滑処理を施してもよい。さらに偏光性拡散フィルムの表面に、公知の処理方法により反射防止処理やアンチニュートンリング処理、帯電防止処理、ハードコート処理を施してもよい。
【0143】
4.液晶表示装置
本発明の偏光性拡散フィルムは、液晶表示装置に一部材として用いられることが好ましい。具体的に、本発明の液晶表示装置は、(A)液晶バックライト用面光源、(B)少なくとも1の光学素子および/またはエアギャップ、(C)本発明の偏光性拡散フィルム、ならびに(D)液晶セルを2以上の偏光板で挟んでなる液晶パネルを含む。ここで、前記(A)から(D)の各部材は、上記の順に配設されている。
【0144】
(A)液晶バックライト用面光源
液晶バックライト用面光源は、公知の光源を導光板側面に配設したサイドライト(エッジライト)型面光源、あるいは拡散板下に公知の光源を配列させた直下型面光源などでありうる。公知の光源の例には、冷陰極管(CCFL)や熱陰極管(HCFL)、外部電極蛍光管(EEFL)、平面蛍光管(FFL)、発光ダイオード素子(LED)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)が含まれる。
【0145】
(B)光学素子および/またはエアギャップ
光学素子とは、液晶バックライト用面光源からの光を拡散する素子である。前記光学素子の例には、フィラーあるいはビーズ含有のバインダーを塗装した拡散フィルム、プリズムシート、およびマイクロレンズシートが含まれる。
エアギャップとは、液晶バックライト用面光源と本発明の偏光性拡散フィルムの間に設けられる空気層である。この空気層は液晶バックライト用面光源と偏光性反射フィルムとの間の反射界面となり、かつ液晶バックライト用面光源からの光を拡散することができる。エアギャップの例には、プリズムシートの凹部に形成される空気層が含まれる。
【0146】
(D)液晶セルを2以上の偏光板で挟んでなる液晶パネル
液晶セルは、二枚の基板の間にシールされた液晶を含む装置である。基板は、公知の材料で構成されればよく、その例には、ガラス板、プラスチックフィルムが含まれる。偏光板も公知の材料で構成されていればよく、その例には、二色性色素を用いた二色性偏光板が含まれる。下部偏光板は、(A)面光源側に配置され;上部偏光板は、表示画面側に配置される。下部偏光板の吸収軸と、上部偏光板の吸収軸とは、互いに直交している。
【0147】
大型の表示画面(例えば20インチ以上)を有する液晶表示装置では、一般的に偏光板の吸収軸が表示画面の横方向と一致していることが多い。一方、中小型の表示画面(例えば20インチ未満)を有する液晶表示装置では、一般的に偏光板の吸収軸を、表示画面の縦横に対して、45°傾けて配置することが多い。
【0148】
前記(A)〜(D)の各部材は、(A),(B),(C),(D)の順に配置されていることが好ましい。図11は、本発明の液晶表示装置の一例を示す分解図である。図11において(A)サイドライト型の液晶バックライト用面光源は、導光板50と反射シート60と光源70とで構成される。図11には、(C)偏光性拡散フィルム30と、ビーズ塗布型拡散フィルム等の(B)光学素子40とが示される。なお、図11において光学素子40が、複数枚配置される態様もありうるし、配置されない態様もありうる。(D)液晶パネルは、液晶セル10と上部偏光板20と下部偏光板21とで構成される。
【0149】
図12は、本発明の液晶表示装置の他の例を示す分解図である。(A)サイドライト型の液晶バックライト用面光源に代えて、(A)直下型面光源と、拡散板とが配置された以外は、図11の液晶表示装置とほぼ同様に構成される。(A)直下型面光源は、面内に配列された光源70と、反射シート60とで構成される。拡散板80は、(A)直下型面光源と、拡散フィルム、プリズムシート、マイクロレンズシート等の(B)光学素子40との間に配置される。なお、図12において、光学素子40が、複数枚配置される態様もありうるし、配置されない態様もありうる。
【0150】
図13は、本発明の液晶表示装置の表示機構を説明する図である。図13において、偏光性拡散フィルム30の延伸軸が、紙面水平となるように配置されている。偏光性拡散フィルム30は、その延伸軸に垂直な偏光を透過させ、延伸軸と平行な偏光を反射する性能を有する。下部偏光板21は、吸収軸が紙面水平となるように配置されている。
【0151】
光源から発せられた非偏光100は、偏光性拡散フィルム30の延伸軸に平行な偏光方向を有する偏光Pと、偏光性拡散フィルム30の延伸軸に垂直な偏光方向を有する偏光Vとを有する。非偏光100に含まれる偏光Vの多くは、偏光性拡散フィルム30を透過し、偏光V101となる。偏光V101は、下部偏光板21に吸収されずに透過し、表示光となる。偏光V101の大部分は、偏光を維持したまま光線出射方向に拡散しているため、広い視野角において表示光となる。
【0152】
一方、非偏光100に含まれる偏光Pの一部は、偏光性拡散フィルム30を透過して拡散し、偏光P102となる。偏光P102は、下部偏光板21で吸収される。また、非偏光100に含まれる偏光Pの残りの多くは反射されて、反射された光の多くは偏光P103となる。
【0153】
偏光P103は、さらに光学素子や反射シート(いずれも図示せず)で反射されるとともに偏光が解消され、反射光104となる。反射光104は、非偏光100として再利用される。本発明の液晶表示装置は、このような機構により、光を再利用できるので、視野角を広げつつ輝度を高くすることが可能となる。
【0154】
図13に示す装置においては、偏光性拡散フィルム30は、該偏光性拡散フィルム30の反射軸(一軸延伸で作成した場合は、延伸軸)が下部偏光板21の吸収軸とほぼ平行となるように設置されることが好ましい。表示光の量を多くし、かつ光の利用効率を高められるからである。
【0155】
本発明の液晶表示装置において、(C)偏光性拡散フィルムは、前記(D)液晶パネルに隣接して配置されることが好ましい。このような構成とすると、従来の液晶表示装置において(B)と(D)の間に配置された「上拡散フィルム」などが不要となりうる。すなわち、本発明の液晶用表示装置は、優れた偏光拡散性を有する(C)偏光性拡散フィルムを有するので、上拡散フィルム等の部材を有しなくても、輝度ムラが少なく、かつ輝度が向上されている。
【0156】
もちろん、(C)偏光性拡散フィルムと(D)液晶パネルの間に、他のフィルムを配置してもよいが、この場合は、当該他のフィルムは、(C)偏光性拡散フィルムから透過した偏光Vを、あまり乱さない、反射しない、または吸収しないフィルムとすることが好ましい。
【0157】
前述の通り、(C)偏光性拡散フィルムの表面に一次元プリズムが形成されている場合には、そのプリズムの稜線が、一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向と平行または垂直に配置されることが好ましい。一方、一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向と平行に配置される下側偏光板の吸収軸は、前述の通り一般的に大型の表示画面(例えば20インチ以上)を有する液晶表示装置(例えば液晶テレビ)の表示画面の縦方向と平行に配置されることが多い。
【0158】
したがって、一次元プリズムの稜線が、一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向と平行に配置された場合には、表示画面の縦方向と平行となることが多い。一次元プリズムの稜線が、延伸樹脂フィルムの延伸方向と平行であると、偏光選択性の向上が見込まれる。
一方、一次元プリズムの稜線が、延伸樹脂フィルムの延伸方向と垂直に配置された場合には、表示画面の横方向と平行となることが多い。一次元プリズムの稜線が、表示画面の横方向と平行であると、斜め方向の輝度の低下が少なくなる。
【0159】
偏光板の吸収軸を、表示画面の縦横に対して45°傾けて配置する場合には、本発明の偏光性拡散フィルムの表面を、一次元プリズムよりもむしろ、マイクロレンズ形状とすることが好ましい。
【0160】
また一般に、偏光板はその表面を保護するためにフィルムを有する。しかし、本発明の液晶表示装置においては、(C)偏光性拡散フィルムを、液晶パネルを構成する偏光板であって、光源側に配置される偏光板(下部偏光板)の保護フィルムとしての役割を有しうる。すなわち、本発明の(C)偏光性拡散フィルムは、偏光板と一体化されて「偏光性拡散機能付きの偏光板」とされてもよい。
通常、偏光板の偏光子は一軸延伸で製造され、その延伸方向が吸収軸となる。そのため、(C)縦一軸ロール延伸により製造した偏光性拡散フィルムと偏光子とを、ロール・ツー・ロールにて貼り合わせれば、容易に「偏光性拡散機能付きの偏光板」を製造できる。
【0161】
以上から、本発明の(C)偏光性拡散フィルムを用いると、従来液晶表示装置の構成部材として使用されていた部材を省略できる。部材が省略された液晶用表示装置は、低コストであり、かつ薄型であるという利点がある。
【0162】
従来の液晶表示装置は、輝度向上、輝度ムラ低減、視野角向上のいずれか、あるいはこれらの全部を達成するために、(A)と(D)の間に次の部材を含んでいる。
1枚または複数枚の拡散フィルム;1枚または複数枚の拡散フィルムと、1枚または複数枚のプリズムシート;あるいは1枚または複数枚の拡散フィルムと、1枚または複数枚のプリズムシートと、1枚の上拡散フィルム。
また、従来の液晶表示装置は、拡散フィルムの代わりにマイクロレンズフィルムを備える場合もあるし、(D)に隣接する偏光反射フィルム(住友スリーエム社製DBEF等)を備える場合もある。
【0163】
一方、本発明の液晶表示装置は、優れた偏光拡散性を有するフィルムを備えるので、プリズムシートや上拡散フィルム、DBEFなどの部材を備えずとも、高輝度かつ広視野角で輝度ムラの少ない液晶用表示装置となる。しかも、低コストな装置である。
【実施例】
【0164】
1.フィルムの光学特性と輝度特性との関係
(実施例1)
帝人化成社製A−PETシート FR(表面処理なし、厚み330μm)を、70×70mmの大きさに裁断し、一軸延伸用原反とした。次いで、この原反のMD方向が延伸方向となるように、原反の4辺をクランプに挟んで高分子フィルム二軸延伸装置(岩本製作所社製BIX−703型)にセットした。
セットされたフィルムを、予熱温度116℃、予熱時間8.5分で予熱した後、延伸速度24mm/秒で延伸倍率5倍に一軸延伸した。延伸は、フィルムの延伸方向に垂直な端を固定して行う、いわゆる横固定延伸とした。得られた偏光性拡散フィルムの厚さは、66μmであった。予熱時間を8.5分と長くとることにより、延伸直前の原反に白みが生じていた。
【0165】
(実施例2)
実施例1で原料として用いたA−PETシートを、80×80mmの大きさに裁断した。裁断されたシートが加熱により収縮しないよう4辺を固定治具で挟んだ(挟みしろ5mm)。次に、この固定されたフィルムを、ギヤオーブン(ISUZU製作所社製そよかぜSSR−113S)に装入し、温度120℃で5分間加熱し、延伸前の原反を得た。加熱後の原反は白みが生じており、原反の透過ヘイズを、日本電色工業社製濁度計NDZ2000にて測定したところ、21%であった。
この原反の前記挟みしろ部分を裁断して70×70mmの大きさにした後、実施例1と同様にして、一軸延伸した。その際、予熱温度は119℃、予熱時間は2分、延伸速度は48mm/秒、延伸倍率は5倍とした。得られた偏光性拡散フィルムの厚さは82μmであった。
【0166】
(実施例3)
実施例1で原料として用いたA−PETシートを、80×80mmの大きさに裁断した。裁断されたシートが加熱により収縮しないよう4辺を固定治具で挟んだ(挟みしろ5mm)。次に、実施例2と同様にして、この固定されたフィルムを、ギヤオーブンに装入し、温度118℃で5分間加熱し、延伸前段階の原反を得た。加熱後の原反は白みが生じており、実施例2と同様にして透過ヘイズを測定したところ27%であった。
この原反を実施例2と同様にして、一軸延伸した。ただし、本例では、予熱温度は117℃、予熱時間は2分、延伸速度は48mm/秒、延伸倍率は5倍とし、フィルムの延伸方向に垂直な端を固定しないで行う、いわゆる横フリー延伸とした。得られた偏光性拡散フィルムの厚さは165μmであった。
【0167】
(実施例4)
ギヤオーブンによる加熱時間を2分25秒とした他は、実施例3と同様にして、厚さ137μmの偏光性拡散フィルムを得た。ギヤオーブンによる加熱後の原反の透過ヘイズは8%であった。
【0168】
(実施例5)
帝人化成社製ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂(テオネックスTN8065S)を原料とし、フルフライトスクリューを備えたL/D=32の40mmφ単軸押出機にて、Tダイ製膜した。押出温度は320℃とし、得られたキャスティングシートの厚さは300μmであった。
このシートを70×70mmの大きさに裁断し、一軸延伸用原反とした。次いでこの原反のMD方向を延伸方向とし、実施例1と同様にして一軸延伸した。ただし、予熱温度は150℃、予熱時間は8.5分、延伸速度は24mm/秒、延伸倍率は5倍とした。得られた偏光性拡散フィルムの厚さは60μmであった。予熱時間を8.5分と長くとったため、延伸直前の原反には白みが生じていた。
【0169】
(比較例1)
一軸延伸における予熱時間を4分とした以外は、実施例1と同様にして厚さ64μmのフィルムを得た。延伸直前の原反にはほとんど白みが生じていなかった。
【0170】
(比較例2)
延伸倍率を2倍とした以外は、実施例1と同様にして、厚さ180μmの延伸フィルムを得た。
【0171】
得られた延伸樹脂フィルムの、全光線透過率、透過偏光度および透過ヘイズを、それぞれ測定した。これらの測定は、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4100と、150φ積分球付属装置を用いて行った。測定結果を表1に示した。
【表1】

【0172】
実施例1〜5の偏光性拡散フィルムは、30%以上の高い透過偏光度を有するのに対して、比較例1および2の延伸フィルムは、20%未満の透過偏光度しかないことがわかった。
【0173】
次に、実施例1〜5および比較例1〜2で得られた偏光性拡散フィルムを用いて、液晶表示装置を作製した。
【0174】
(実施例6)
まず10.4型VA方式TFT液晶表示装置(京セラ社製)を準備した。この装置のバックライトユニット(冷陰極管2灯サイドライト型)の導光板主面上の構成を、以下のように変更した。
1)導光板側の上にビーズ塗布型拡散フィルム(光拡散面と反対面を光入射側としたときの全光線透過率58%、透過ヘイズ91%)を配置した。
2)ビーズ塗布型拡散フィルムの上側の中央部に、実施例1の偏光性拡散フィルムを、該偏光性拡散フィルムの延伸軸(反射軸)が、液晶パネルの下部偏光板の吸収軸と略平行となるように配置した。
3)ビーズ塗布型拡散フィルムの、偏光性拡散フィルムが配置された部位以外の部位を、黒色シートにてマスク遮光した。
【0175】
(実施例7〜10)
実施例1の偏光性拡散フィルムの代わりに、実施例2〜5の偏光性拡散フィルムをそれぞれ用いた以外は、実施例6と同様に液晶表示装置を用意した。
【0176】
(実施例11)
まず10.4型VA方式TFT液晶表示装置(京セラ社製)を準備した。この装置の一部を、以下のように変更した。
1)液晶表示装置パネルの下部偏光板の光源側保護フィルムを剥離した。
2)露出した下部偏光板の中央部に、アクリル系透明粘着材シート(厚さ15μm)を介して実施例2の偏光性拡散フィルムを貼り付けた。偏光性拡散フィルムを、該偏光性拡散フィルムの延伸軸(反射軸)と下部偏光板の吸収軸とが略平行となるように配置した。
3)下部偏光板の、偏光性拡散フィルムを貼り付けた部位以外の部位を、黒色シートでマスク遮光した。
4)さらに、この液晶表示装置のバックライトユニットの導光板主面の上に、ビーズ塗布型拡散フィルム(光拡散面と反対面を光入射側としたときの全光線透過率58%、透過ヘイズ91%)のみを配置した。
【0177】
(比較例3〜5)
実施例1の偏光性拡散フィルムの代わりに、比較例1〜2の延伸フィルム、またはビーズ塗布型拡散フィルム(光拡散面と反対面を光入射側としたときの全光線透過率87%、透過ヘイズ48%)を用いた以外は、実施例6と同様に液晶表示装置を用意した。
【0178】
このようにして準備した液晶表示装置の、正面相対輝度および斜め方向相対輝度を評価した。具体的には、各実施例および各比較例で得た液晶表示装置を、色彩輝度計(トプコンテクノハウス社製BM−7)のX・Y・θステージに設置した。そして、偏光性拡散フィルムを配置した表示面中央部の輝度を視野角1°で測定した。このとき、表示面の法線方向と色彩輝度計の測定軸を一致させた場合の正面輝度、液晶表示装置を表示面の法線方向と色彩輝度計の測定軸が40°となる40°方向輝度、および液晶表示装置を表示面の法線方向と色彩輝度計の測定軸が60°となる60°方向輝度を測定した。
【0179】
一方で、実施例6の液晶表示装置において、偏光性拡散フィルムを取り除いた基準用液晶表示装置を準備した。この基準用液晶表示装置は、各実施例で得た液晶表示装置と同じ開口位置、開口寸法の黒色シート製遮光マスクを、ビーズ塗布型拡散フィルム上に配置して得た。この基準用液晶表示装置について、前述と同様に、正面輝度、40°方向輝度、および60°方向輝度を測定した。これらの輝度を100としたときの、各実施例および各比較例で得た液晶表示装置の各輝度の相対値を算出した。これらの結果を表2に示す。
【表2】

【0180】
実施例6の液晶表示装置は、比較例5のビーズ塗布型拡散フィルムを用いた液晶表示装置に比べて正面輝度の低下は5%未満であり、斜め方向相対輝度も高く、視野角が大幅に改善された。これに対して、比較例3および比較例4の液晶表示装置は、比較例5の液晶表示装置に比べて、斜め方向相対輝度は高いものの正面輝度は5%以上低く、拡散フィルムとしての効果は小さかった。
実施例7〜11の液晶表示装置は、比較例5の液晶表示装置に比べて、正面相対輝度、40°方向相対輝度、60°方向相対輝度のいずれにおいても高かった。特に実施例7、9〜11の液晶表示装置は、拡散フィルムを設けない基準用液晶表示装置よりも、正面相対輝度、40°方向相対輝度、60°方向相対輝度のいずれにおいても高い値が得られ、輝度の上昇と視野角の改善が認められた。
【0181】
2.フィルム製造条件とフィルムの光学特性との関係
延伸前の結晶化シートの結晶化度および透過ヘイズと、延伸後の樹脂フィルムの光学特性との関係を検討した。
【0182】
(実施例12)
帝人化成社製A−PETシート FR(表面処理なし、厚み330μm)を、80×80mmの大きさに裁断した。裁断されたシートが加熱により収縮しないよう4辺を固定治具で挟んだ(挟みしろ5mm)。次に、固定されたフィルムを、ギヤオーブン(ISUZU製作所社製そよかぜSSR−113S)に装入し、温度120℃で4分20秒間加熱して原反を得た。加熱後の原反は白みが生じており、原反の透過ヘイズを、日本電色工業社製濁度計NDH2000にて測定したところ、7.7%であった。
【0183】
この加熱後の原反の前記挟みしろ部分を裁断して70×70mmの大きさにし、一軸延伸用原反とした。この原反の4辺をクランプに挟んで、高分子フィルム二軸延伸装置(岩本製作所社製BIX−703型)にセットし、予熱温度116℃、予熱時間2分でセットされたフィルムを予熱した。その後、原反のMD方向を延伸方向として、延伸倍率を5倍に延伸速度24mm/秒で一軸延伸して、延伸樹脂フィルムを得た。延伸は、フィルムの延伸方向に垂直な端を固定して行う、いわゆる横固定延伸とした。得られた延伸樹脂フィルムの厚さは72μmであった。
【0184】
得られた延伸樹脂フィルムの、全光線透過率、透過偏光度および透過ヘイズを、それぞれ測定した。これらの測定は、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4100と、150φ積分球付属装置を用いて行った。測定結果を表3に示した。
【0185】
また、得られた延伸樹脂フィルムの結晶化度を求めた。具体的には、密度勾配管法比重測定用水槽(OMD−6/池田理化工業株式会社)を用いて、密度勾配管法に準じて密度を求め、求めた密度から結晶化度を算出した。結果を表3に示した。
【0186】
一方、帝人化成社製A−PETシート FRを、ギヤオーブンにて温度120℃で4分20秒間加熱した後に、高分子二軸延伸装置にセットして予熱温度116℃で2分間処理した。つまり、上記と全く同様に予熱まで行い、原反を延伸することなく装置から取り出した。この延伸前の原反(延伸前の結晶化シート)の、透過ヘイズおよび結晶化度を測定した。測定手法は上記と同様とした。
【0187】
(実施例13)
ギヤオーブンによる加熱時間を4分50秒間とした以外は、実施例12と同様にして延伸樹脂フィルムを得た。ギヤオーブンによる加熱後の原反の透過ヘイズは19.4%であった。得られた延伸樹脂フィルムの厚さは72μmであった。実施例12と同様に、延伸樹脂フィルムの全光線透過率、透過偏光度および透過ヘイズ、ならびに結晶化度を求めた。測定結果を表3に示した。
【0188】
一方、帝人化成社製A−PETシート FRを、ギヤオーブンにて温度120℃で4分50秒間加熱した後に、高分子二軸延伸装置にセットして予熱温度116℃で2分間処理した。つまり、上記と全く同様に予熱まで行い、原反を延伸することなく装置から取り出した。この延伸前の原反(延伸前の結晶化シート)の、透過ヘイズおよび結晶化度を、実施例12と同様に測定した。
【0189】
(実施例14)
三井化学社製ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PET J125)を原料とし、フルフライトスクリューを備えたL/D=32の40mmφ単軸押出機にて、Tダイ製膜してキャスティングシートを得た。押出温度を270℃とした。得られたキャスティングシートの厚さは300μmであった。
【0190】
得られたキャスティングシートを80×80mmの大きさに裁断して原反とした。次いで、ギヤオーブンによる加熱を120℃で2分50秒間としたこと以外は、実施例12と同様にして加熱原反を得た。加熱原反の透過ヘイズは9.3%であった。
【0191】
この原反の押出時MD方向を延伸方向とし、実施例12と同様にして一軸延伸して延伸樹脂フィルムを得た(ただし、延伸速度を48mm/秒とした)。得られた延伸樹脂フィルムの厚さは63μmであった。実施例12と同様に、延伸樹脂フィルムの全光線透過率、透過偏光度および透過ヘイズ、ならびに結晶化度を求めた。測定結果を表3に示した。
【0192】
一方、前述のキャスティングシートを、ギヤオーブンにて温度120℃で2分50秒間加熱した後に、高分子二軸延伸装置にセットして予熱温度116℃で2分間処理した。つまり、上記と全く同様に予熱まで行い、原反を延伸することなく装置から取り出した。この延伸前の原反(延伸前の結晶化シート)の、透過ヘイズおよび結晶化度を、実施例12と同様に測定した。
【0193】
(実施例15)
ギヤオーブンによる加熱時間を4分40秒間とし、いわゆる「横フリー延伸(フィルムの延伸方向に垂直な端を固定しないで延伸する)」とした以外は、実施例12と同様にして延伸樹脂フィルムを得た。ギヤオーブンによる加熱後の原反の透過ヘイズは8.9%であった。得られた延伸樹脂フィルムの厚さは134μmであった。実施例12と同様に、延伸樹脂フィルムの全光線透過率、透過偏光度および透過ヘイズ、ならびに結晶化度を求めた。測定結果を表3に示した。
【0194】
一方、帝人化成社製A−PETシート FRを、ギヤオーブンにて温度120℃で4分40秒間加熱した後に、高分子二軸延伸装置にセットして予熱温度116℃で2分間処理した。つまり、上記と全く同様に予熱まで行い、原反を延伸することなく装置から取り出した。この延伸前の原反(延伸前の結晶化シート)の、透過ヘイズおよび結晶化度を、実施例12と同様に測定した。
【0195】
(比較例6)
帝人化成社製A−PETシート FR(表面処理なし、厚み330μm)を、70×70mmの大きさに裁断し、一軸延伸用原反とした。この原反の4辺をクランプに挟んで、高分子フィルム二軸延伸装置(岩本製作所社製BIX−703型)にセットし、予熱温度116℃、予熱時間2分でセットされたフィルムを予熱した。延伸直前の原反に白みは視認できなかった。その後、原反のMD方向を延伸方向とし、延伸倍率4.5倍に延伸速度48mm/秒で一軸延伸して、延伸樹脂フィルムを得た。延伸は、フィルムの延伸方向に垂直な端を固定して行う、いわゆる横固定延伸とした。得られたフィルムの厚さは70μmであった。
【0196】
また、高分子二軸延伸装置にセットして予熱温度124℃で2分間、予熱するまでは、上記と全く同じとして、延伸しないで原反を装置より取り出した。この原反を延伸前の原反(延伸前の結晶化シート)として、透過ヘイズおよび結晶化度を測定した。測定結果を表3に示した。
【0197】
表3に示されるように、延伸前の結晶化シートの透過ヘイズや結晶化度を適切に制御すると、得られる延伸樹脂フィルムに所望の光学特性、つまり透過偏光度と透過ヘイズの両方をバランスよく付与することができる。
【0198】
3.フィルムの光学特性とミクロ構造との関係
延伸後の樹脂フィルムの規格化分子配向と光学特性との関係、および延伸後の樹脂フィルムのミクロ構造と光学特性との関係を検討した。
【0199】
(実施例16)
帝人化成社製A−PETシート FR(表面処理なし、厚み330μm、表1において「樹脂A」と称する)を、70×70mmの大きさに裁断し、一軸延伸用原反とした。この原反の4辺をクランプに挟んで、高分子フィルム二軸延伸装置(岩本製作所社製BIX−703型)にセットした。原反のMD方向を、延伸方向とした。セットされたフィルムを予熱した。予熱温度を118℃、予熱時間を8分とした。延伸直前の原反に白みが生じていた。その後、延伸倍率5倍に延伸速度48mm/秒で一軸延伸して、偏光性拡散フィルムを得た。延伸は、フィルムの延伸方向に垂直な端を固定して行う、いわゆる横固定延伸とした。得られたフィルムの厚さは75μmであった。
【0200】
(実施例17)
実施例16で原料として用いたA−PETシートを、80×80mmの大きさに裁断した。裁断されたシートが加熱により収縮しないよう4辺を固定治具で挟んだ(挟みしろ5mm)。次に、固定されたフィルムを、ギヤオーブン(ISUZU製作所社製そよかぜSSR−113S)に装入し、温度120℃で2.8分間加熱し、延伸前の原反を得た。加熱後の原反は白みが生じており、原反の透過ヘイズを、日本電色工業社製濁度計NDH2000にて測定したところ、22%であった。
【0201】
この原反の前記挟みしろ部分を裁断して70×70mmの大きさにした後、実施例16と同様にして、一軸延伸した。その際、予熱温度を116℃、予熱時間を2分とした。得られた偏光性拡散フィルムの厚さは76μmであった。
【0202】
(実施例18〜26および29〜30)
延伸前のギヤオーブンでの加熱処理条件(加熱温度と加熱時間)、予熱温度と予熱時間および延伸条件(延伸速度および延伸温度)を表4に示されるようにそれぞれ変更した以外は、実施例17と同様に偏光性拡散フィルムを得た。
【0203】
(実施例27〜28および31)
「横フリー延伸(フィルムの延伸方向に垂直な端を固定しないで延伸する)」とし、さらに、表4に示される、延伸前のギヤオーブンでの加熱処理条件(加熱温度と加熱時間)、予熱温度と予熱時間および延伸条件(延伸速度および延伸温度)に変更した以外は、実施例17と同様にして偏光性拡散フィルムを得た。
【0204】
(実施例32〜36)
実施例17で用いた原反の代わりに、原反として大阪樹脂化工製A−PETシート(PET26P、表面処理なし、厚み200μm)を用いた(表5において「樹脂B」と称する)。そして、延伸前のギヤオーブンでの加熱処理条件(加熱温度と加熱時間)、予熱温度と予熱時間および延伸条件(延伸速度および延伸温度)を表5に示されるようにそれぞれ変更した以外は、実施例17と同様に偏光性拡散フィルムを得た。
【0205】
(実施例37〜38)
実施例17で用いた原反の代わりに、三井化学社製ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PET SA135)を原料とし、フルフライトスクリューを備えたL/D=32の40mmφ単軸押出機にて、Tダイ製膜してキャスティングシートを原反として用いた(表5において「樹脂C」と称する)。押出温度を270℃とした。得られたキャスティングシートの厚さは300μmであった。
【0206】
そして、延伸前のギヤオーブンでの加熱処理条件(加熱温度と加熱時間)、予熱温度と予熱時間および延伸条件(延伸速度および延伸温度)を表5に示されるようにそれぞれ変更した以外は、実施例17と同様に偏光性拡散フィルムを得た。
【0207】
(実施例39〜40)
実施例17で用いた原反の代わりに、三井化学社製ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PET J125)を原料とし、フルフライトスクリューを備えたL/D=32の40mmφ単軸押出機にて、Tダイ製膜してキャスティングシートを原反として用いた(表5において「樹脂D」と称する)。押出温度を270℃とした。得られたキャスティングシートの厚さは300μmであった。
【0208】
そして、延伸前のギヤオーブンでの加熱処理条件(加熱温度と加熱時間)、予熱温度と予熱時間および延伸条件(延伸速度および延伸温度)を表5に示されるようにそれぞれ変更した以外は、実施例17と同様に偏光性拡散フィルムを得た。
【0209】
(比較例7〜13)
延伸前のギヤオーブンでの加熱処理条件(加熱温度と加熱時間)、予熱温度と予熱時間および延伸条件(延伸速度および延伸温度)を表4に示されるようにそれぞれ変更した以外は、実施例16または17と同様に偏光性拡散フィルムを得た。
【0210】
(比較例14〜15)
延伸前のギヤオーブンでの加熱処理条件(加熱温度と加熱時間)、予熱温度と予熱時間および延伸条件(延伸速度および延伸温度)を表5に示されるようにそれぞれ変更した以外は、実施例32と同様に偏光性拡散フィルムを得た。
【0211】
(比較例16〜19)
延伸前のギヤオーブンでの加熱処理条件(加熱温度と加熱時間)、予熱温度と予熱時間および延伸条件(延伸速度および延伸温度)を表5に示されるようにそれぞれ変更した以外は、実施例37または39と同様に偏光性拡散フィルムを得た。
【0212】
1)光学特性の測定
上記実施例および比較例にて得られた延伸樹脂フィルムについて、全光線透過率(Ttotal)およびフィルム厚さを100μmとしたときの全光線透過率(Ttotal@100μm);透過偏光度およびフィルム厚さを100μmとしたときの透過偏光度;透過ヘイズおよびフィルム厚さを100μmとしたときの透過ヘイズを、それぞれ測定した。これらの測定は、前述と同様に、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4100と、150φ積分球付属装置を用いて行った。
【0213】
2)結晶化度の測定
延伸樹脂フィルムについて結晶化度を求めた。具体的には、密度勾配管法比重測定用水槽(OMD−6/池田理化工業株式会社)を用いて、密度勾配管法に準じて密度を求め、求めた密度から結晶化度を算出した。
【0214】
3)規格化分子配向MOR−cの測定
規格化分子配向MOR−cは、王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−6000により測定した。基準厚さtcは、100μmに設定した。測定結果を表6および表7に示す。
【0215】
実施例16〜40の延伸樹脂フィルムは、可視光線に対する全光線透過率が50〜90%であり、可視光線に対する透過ヘイズが15〜90%であり、かつ可視光線に対する透過偏光度が20〜90%を満たすのに対して、比較例7〜13で得られた延伸樹脂フィルムは、これらのうちいずれかを満たさないことがわかる。
【0216】
中でも、透過偏光度を30%以上にするためには、延伸前の加熱処理時間、延伸速度または延伸温度を、規格化分子配向MOR−cが1.5〜5(固定端延伸の場合)または1.5〜7(自由端延伸の場合)となるように調整することが好ましいことがわかる。
【0217】
具体的には、表7の実施例37〜38および実施例39〜40から、加熱処理時間が長くなると予熱前ヘイズも高くなり;加熱処理時間が短くなると予熱前ヘイズも低くなることがわかる。また、予熱前ヘイズが高いほど、規格化分子配向MOR−cも高くなり;予熱前ヘイズが低いほど、規格化分子配向MOR−cも低いことがわかる。ただし、予熱前ヘイズが40%以上と高すぎると、延伸後の規格化分子配向MOR−cも5〜6(固定端延伸の場合)と大きくなりすぎるため、透過偏光度もやや低くなる(30%未満となる)ことがわかる。
【0218】
表6の実施例18〜19および実施例29、ならびに表7の実施例32〜33および比較例14の対比から、延伸速度が小さいほど規格化分子配向MOR−cも小さく、延伸速度が大きいほど規格化分子配向MOR−cも大きくなることがわかる。ただし、延伸速度が200m/秒と大きすぎると、配向しすぎてしまう。このため、規格化分子配向MOR−cも4.8〜5.3(固定端延伸の場合)と大きくなりすぎて、透過偏光度はやや低くなる(30%未満となる)ことがわかる。同様に、実施例27〜28および31の対比からも、延伸速度が173m/秒と大きすぎると、規格化分子配向MOR−cは6.7程度(自由端延伸の場合)と大きすぎるため、透過偏光度はやや低くなる(30%未満となる)ことがわかる。
【0219】
実施例24〜25および比較例12〜13の対比から、延伸温度が高いと延伸後の規格化分子配向MOR−cは低く、延伸温度が低いと延伸後の規格化分子配向MOR−cは高いことがわかる。ただし、延伸温度が低すぎると、配向しすぎてしまう。このため、規格化分子配向MOR−cも5.1を越えて(固定端延伸の場合)大きくなりすぎて、透過偏光度は低くなる(30%未満となる)ことがわかる。
【0220】
4)偏光顕微鏡観察・ラマン分析
さらに、実施例17および実施例35の延伸樹脂フィルムについて、延伸方向に対して平行な断面の偏光顕微鏡写真とラマンスペクトルを測定した。試料は、延伸樹脂フィルムを延伸方向に平行に切断して得られる厚み1μmの試料片を用いた。
【0221】
偏光顕微鏡画像は、以下の条件で観察した。
装置名:NIKON OPTIPHOT−2
観察条件:対物レンズ ×100
観察倍率(1000倍)
撮影装置:CANON POWERSHOT A650
偏光像を観察する条件:透過像の入射光側、観察光側に偏光フィルムを配置
【0222】
ラマンスペクトルは、以下の条件で測定した。
装置名:Ramanor T−64000(Jobin Yvon/愛宕物産)
測定モード:顕微ラマン
測定条件:ビーム径 1μm
クロススリット 100〜200μm
光源 アルゴンイオンレーザー/5145A
レーザーパワー 5〜30mW
【0223】
実施例17および実施例35の延伸樹脂フィルムでは、いずれも延伸方向に平行な明部が存在する明暗構造が確認された(このうち、実施例35の延伸樹脂フィルムの偏光顕微鏡写真は、前述の図2Aである)。
【0224】
さらに、実施例17の延伸樹脂フィルムについて、前述と同様に、測定位置ごとの結晶化度と配向度を測定した。この結果を図19に示す。図4および図6と同様に、1730cm−1付近のバンドの半値幅の隣り合う極大ピークと極小ピークの差分の少なくとも1つが0.2cm−1以上であり;1615cm−1付近のバンド強度比(Ip/Iv)の隣り合う極大ピークと極小ピークの差分の少なくとも1つが0.03以上であることを確認できた。
【0225】
5)TEM観察
さらに、得られた延伸樹脂フィルムのうち一部について、延伸方向に垂直な断面のTEM画像における、明部の面積分率を測定した。TEM観察は、日立ハイテクノロジーズ社製H−7650を用いて観察した。測定結果を、上記1)〜3)の測定結果と合わせて表8および表9に示す。
【0226】
表8の実施例では、延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して垂直な切断面のTEM観察において、明暗構造が観察されるのに対して、表9の比較例では、大部分において明暗構造が観察されないことがわかった。
【0227】
4.フィルムの表面形状と輝度特性との関係
偏光性拡散フィルムの表面形状を変えることによる、集光性能への影響を検討した。
(実施例41)
三井化学社製ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PET J125)を原料とし、フルフライトスクリューを備えたL/D=32の40mmφ単軸押出機にて、Tダイ製膜してキャスティングシートを得た。押出温度を270℃とした。得られたキャスティングシートの厚さは600μmであった。
【0228】
得られたキャスティングシートを80×80mmの大きさに裁断し、裁断されたシートを加熱により収縮しないよう4辺を固定治具で挟んだ(挟みしろ5mm)。次に、固定されたフィルムをギヤオーブン(ISUZU製作所社製そよかぜSSR−113S)に装入し、温度120℃で4分間加熱して、延伸前の加熱原反を得た。加熱後の原反は白みが生じており、原反の透過ヘイズを、日本電色工業社製濁度計NDH2000にて測定したところ、9.7%であった。
【0229】
この加熱原反の前記挟みしろ部分を裁断して70×70mmの大きさにし、一軸延伸用原反とした。この一軸延伸用原反の4辺をクランプに挟んで、高分子フィルム二軸延伸装置(岩本製作所社製BIX−703型)にセットし、セットされたフィルムを予熱温度115℃で1分30秒間、予熱した。その後、原反の押出時MD方向を延伸方向とし、延伸倍率5倍に延伸速度24mm/秒で一軸延伸して、一軸延伸樹脂フィルムを得た。延伸は、フィルムの延伸方向に垂直な端部を固定せずに行う、いわゆる横フリー延伸とした。
【0230】
得られた一軸延伸樹脂フィルムの厚さは285μmであった。このフィルムの光学特性を、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4100と150φ積分球付属装置を用いて、既に述べたとおりに測定・算出した。全光線透過率57.7%、透過ヘイズ46.8%、透過偏光度58.1%であった。
【0231】
プリズムピッチ50μm、頂稜の角度90度、深さ25μmの断面形状のプリズム列(一次元プリズム)を有する、厚み0.3mmのニッケル電鋳シートを用意した。ニッケル電鋳シートを、上記一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向と、プリズムの稜線とが互いに垂直になるように、一軸延伸樹脂フィルムに重ねた。得られた積層体を、平坦な面を有するステンレス板で挟み込んだ。
【0232】
プレス金型温度を150℃、シートにかかる圧力を10MPaとし、上記サンプルを投入、予熱20秒、加圧10秒、冷却20秒で加圧プレスを行った。冷却後サンプルを取り出し、ニッケル電鋳シートからフィルムを剥離し、表面に一次元プリズムが賦形された偏光性拡散フィルムを得た。得られた偏光性拡散フィルムの厚さは279μmであった。
【0233】
(実施例42)
実施例41と同様の手順により一軸延伸樹脂フィルムを作製した。次に、球面の直径60μm、球面の高さ30μm、面積充填率0.8(シート上面から見たときの、シート面積に対する、凹部総面積の比率)の球面凹部を有するニッケル電鋳シートを用意した。ニッケル電鋳シートは、平均粒径60μmのガラス球を用いて、特許2626306号請求項6の手順を参照して作製した。
【0234】
実施例41と同様に、ニッケル電鋳シートを一軸延伸樹脂フィルムに重ね(重ね合わせ方向は任意とした);得られた積層体をステンレス板で挟み込み;加圧プレスを行って、表面にマイクロレンズが賦形された偏光性拡散フィルムを得た。得られた偏光性拡散フィルムの厚さは282μmであった。
【0235】
(実施例43)
実施例41と同様の手順により一軸延伸樹脂フィルムを作製した。
実施例41で使用したプリズム列を有するニッケル電鋳シートを準備した。ガラス板の上に、ニッケル電鋳シートを置いた。ニッケル電鋳シート上に、紫外線硬化樹脂(東洋合成工業製PAK−02)を、気泡が入らないよう注意しながら塗布した。塗布された樹脂の上に、一軸延伸樹脂フィルムを延伸方向とプリズムの頂稜とが互いに垂直になるように重ね、さらに別のガラス板(上部ガラス)を上部に重ね密着させた。
【0236】
この積層体の周囲をクリップにて固定し、押圧状態で、上部ガラス面から10mJ/cmの紫外線を照射して樹脂を硬化した。硬化完了後、ニッケル電鋳シートからフィルムを剥離した。これにより、プリズムが賦形された硬化樹脂層を、表面に有する偏光性拡散フィルムを得た。得られた偏光性拡散フィルムの厚さは、硬化樹脂層の厚みをあわせて310μmであった。
【0237】
(実施例44)
実施例42で用いた球面凹部を有するニッケル電鋳シートを用いること以外は、実施例43と同様の手順により、表面にマイクロレンズが賦形された硬化樹脂層を有する偏光性拡散フィルムを得た。得られた偏光性拡散フィルムの厚みは紫外線硬化樹脂層の厚みを含め312μmであった。
【0238】
(実施例45)
実施例41の一軸延伸樹脂フィルムの表面にプリズム部を形成せずに、偏光性拡散フィルムとした。
【0239】
(実施例46)
帝人化成社製ポリカーボネート樹脂フィルム(パンライトフィルム、厚み125μm)の表面に、実施例41と同様に、プリズムを賦形して偏光性拡散フィルムとした。ただし、プレス金型温度を210℃とした。得られた偏光性拡散フィルムの厚みは123μmであった。
【0240】
(実施例47)
帝人化成社製A−PETシート FR(表面処理なし、厚み330μm)の表面に、実施例41と同様に、マイクロレンズが賦形された硬化樹脂層を形成して偏光性拡散フィルムとした。得られた偏光性拡散フィルムの厚みは紫外線硬化樹脂層の厚みを含め353μmであった。
【0241】
(実施例48)
実施例41の一軸延伸樹脂フィルムの主面に、アクリル系透明粘着剤(厚さ25μm)を介して、二軸延伸PETフィルムを基材とする3M社プリズムフィルム(BEFII)の非プリズム面を貼り合せて、偏光性拡散フィルムとした。偏光性拡散フィルムの延伸方向とプリズムの頂稜とを互いに垂直にした。得られた偏光性拡散フィルムの厚さは458μmであった。
【0242】
1)輝度測定
実施例41〜48で得られた偏光性拡散フィルムを用いて、液晶表示装置を作製した。まず、10.4型VA方式TFT液晶表示装置(京セラ社製)を準備した。本装置の液晶パネルの下部偏光板の吸収軸は、表示画面縦方向に平行に設定されていた。
【0243】
本装置のバックライトユニット(冷陰極管2灯サイドライト型)の導光板主面上の構成を、以下のように変更した。
1)導光板の上に、ビーズ塗布型拡散フィルム(光拡散面と反対面を光入射側としたときの全光線透過率58%、透過ヘイズ91%)を配置した。
2)ビーズ塗布型拡散フィルムの上側(液晶パネル側)の中央部に、実施例または比較例の偏光性拡散フィルム(評価フィルム)を配置した。評価フィルムの大きさは、表示画面縦方向3.5cm、横方向2.5cmとした。
3)ビーズ塗布型拡散フィルムの、評価フィルムが配置された部位以外の部位には、黒色シートにてマスク遮光した。
【0244】
実施例41〜44、実施例45および実施例48の偏光性拡散フィルム:一軸延伸樹脂フィルムの延伸軸(反射軸)が、液晶パネルの下部偏光板の吸収軸に略平行となるように、つまり、表示画面縦方向に平行となるように配置した。
実施例46および実施例47の偏光性拡散フィルム:プリズムの頂稜が、表示画面横方向に平行となるように配置した。
実施例49:偏光性拡散フィルムを配置しなかった。つまり、マスク遮光のための黒色シートのみを、ビーズ塗布型拡散フィルムと液晶パネルの間に配設した。
【0245】
このように準備した液晶表示装置を、X・Y・θステージに設置した。色彩輝度計(トプコンテクノハウス社製BM−7)を用いて、液晶表示装置の表示面の正面輝度および輝度・積分値を測定した。
液晶表示装置の表示面の法線方向と、色彩輝度計の測定軸とを一致させたときを0°と設定した。液晶表示装置を、画面横方向に−85°〜85°回転させながら、5°毎に、評価フィルムを配置した表示面中央部の輝度を、視野角1°で測定した。0°のときの輝度を正面輝度とし;−85°〜85°の5°刻みの輝度を積算した数値を、輝度・積分値とした。結果を表10に示す。
【表3】

【0246】
実施例41〜44の偏光性拡散フィルムは、実施例45(一軸延伸樹脂シートであるが、プリズム形状を有さない)、実施例46(非延伸樹脂シートにプリズム形状を有する)、実施例47(非延伸樹脂シートにマイクロレンズ形状を有する)に比べて、正面輝度および輝度・積分値で高い値が得られた。実施例48(一軸延伸樹脂シートであり、プリズムフィルムを貼り付けたもの)では二軸延伸PETフィルム基材の大きな位相差により偏光がやや乱れて、実施例45よりも輝度がやや低かった。
【0247】
本出願は、2008年7月4日出願の特願2008−175942、2008年11月11日出願の特願2008−288868、2008年12月11日出願の特願2008−315926、2008年12月26日出願の特願2008−333997および2009年5月15日出願の特願2009−119085に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0248】
本発明により、フィルムの表面から入射される光から特定偏光を効率よく透過および拡散するとともに、それとは直交する偏光を効率よく反射するフィルムが提供される。このフィルムを用いる液晶表示装置は、高輝度かつ広視野角で輝度ムラの少ない液晶用表示装置となる。さらに、本発明の偏光性拡散フィルムは、液晶表示装置の正面輝度をも高めることができる。
【符号の説明】
【0249】
10 液晶セル
20 上部偏光板
21 下部偏光板
30 偏光性拡散フィルム
40 光学素子
50 導光板
60 反射シート
70 光源
80 拡散板
100 光源からの非偏光
101 偏光V
102 偏光P
103 偏光P
104 反射光
P1 プリズムピッチ
θ1、θ2 プリズム頂角
h1 プリズム高さ
P2 四角錐の頂点同士の距離
h2 四角錐の底面からの高さ
D 球面のレンズ径
h’ 球面高さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に1種類の固有複屈折が0.1以上の結晶性樹脂からなるフィルムを一軸延伸して得られる偏光性拡散フィルムであって、
可視光線に対する全光線透過率が50〜90%であり、
可視光線に対する透過ヘイズが15〜90%であり、かつ
可視光線に対する透過偏光度が20〜90%である、偏光性拡散フィルム。
【請求項2】
前記偏光性拡散フィルムの結晶化度は、8〜40%であり、
前記偏光性拡散フィルムに多色光を照射したときの、交差ニコル下における偏光顕微鏡観察において、明部と暗部とが観察され、
前記明部と暗部が、実質的に同一の組成からなり、
前記明部は、長軸を有し、かつ各明部の前記長軸が互いに略平行であり、
前記明部は、前記暗部よりも高い結晶化度および高い配向度を有する、
請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項3】
前記偏光性拡散フィルムの結晶化度は、8〜40%であり、
前記偏光性拡散フィルムに多色光を照射したときの、交差ニコル下における偏光顕微鏡観察において、明部と暗部とが観察され、
前記明部と暗部が、実質的に同一の組成からなり、
前記明部は、長軸を有し、かつ各明部の前記長軸が互いに略平行であり、
前記偏光性拡散フィルムの前記明部の長軸方向に対して略平行な切断面において、前記明部の長軸方向に対して略垂直なラインであって、明部と暗部とを通過する5μmのライン上を、アルゴンイオンレーザーラマン分光光度計により、514.5nmの波長を有する光を照射して0.5μm間隔で走査して得たラマンスペクトルの、1730cm−1付近のラマンバンドの半値幅を測定位置に対してプロットしたときの、隣り合う極大ピークと極小ピークの差分の少なくとも1つが0.2cm−1以上であり、かつ
前記偏光性拡散フィルムの前記明部の長軸方向に対して略平行な切断面において、前記明部の長軸方向に対して略垂直なラインであって、明部と暗部とを通過する5μmのライン上を、アルゴンイオンレーザーラマン分光光度計により、前記明部の長軸方向に対して平行および垂直な偏光を照射して0.5μm間隔で走査して得たラマンスペクトルの、前記明部の長軸方向に平行な偏光を照射したときの1615cm−1付近のラマンバンド強度Ipと、前記明部の長軸方向に垂直な偏光を照射したときの1615cm−1付近のラマンバンド強度Ivとの強度比(Ip/Iv)を測定位置に対してプロットしたときの、隣り合う極大ピークと極小ピークの差分の少なくとも1つが0.03以上である、請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項4】
前記偏光性拡散フィルムの結晶化度は、8〜40%であり、
前記偏光性拡散フィルムは、前記固有複屈折が0.1以上である結晶性樹脂の一軸延伸樹脂フィルムからなり、
前記一軸延伸樹脂フィルムは、フィルム厚さを100μmとしたときの、可視光線に対する透過ヘイズが20〜90%であり、
前記一軸延伸樹脂フィルムの延伸方向に対して垂直な切断面のTEM像(撮像範囲のフィルム厚さ方向の距離は0.1μm、かつ撮像面積は45μm)で明暗構造が観察され、
前記明暗構造の明部と暗部とが実質的に同一の組成で構成される、請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項5】
マイクロ波透過型分子配向計で測定される、前記偏光性拡散フィルムの、基準厚さを100μmとしたときの規格化分子配向MOR−cが1.2〜7である、請求項2記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項6】
マイクロ波透過型分子配向計で測定される、前記偏光性拡散フィルムの、基準厚さを100μmとしたときの規格化分子配向MOR−cが1.2〜7である、請求項3記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項7】
前記明暗構造の二値化画像における明部の面積分率が6〜80%である、請求項4記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項8】
フィルム厚さを100μmとしたときの、透過偏光度が30〜90%である、請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項9】
前記結晶化度が8〜30%である、請求項2記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項10】
前記結晶性樹脂は、ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、または液晶性樹脂である、請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項11】
前記結晶性樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂である、請求項10記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項12】
前記偏光性拡散フィルムの少なくとも一方の表面が、集光機能を有する表面形状を有する、請求項1記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項13】
前記集光機能を有する表面形状が、
前記偏光性拡散フィルムの表面形状であるか、または
前記偏光性拡散フィルムの表面に接する樹脂層の形状である、請求項12記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項14】
前記集光機能を有する表面形状が、一次元プリズム、二次元プリズム、またはマイクロレンズである、請求項12記載の偏光性拡散フィルム。
【請求項15】
(A)液晶バックライト用面光源、(B)少なくとも1つの光学素子および/またはエアギャップ、(C)請求項1に記載の偏光性拡散フィルム、ならびに(D)液晶セルを2以上の偏光板で挟んでなる液晶パネルを含み、かつ
前記(A)から(D)の各部材が、上記の順に配置されている、液晶表示装置。
【請求項16】
前記(C)偏光性拡散フィルムは、前記(D)液晶パネルに隣接して配置されている、請求項15記載の液晶表示装置。
【請求項17】
前記(C)偏光性拡散フィルムは、前記(D)液晶パネルを構成する偏光板の光源側保護フィルムを兼ねる、請求項16記載の液晶表示装置。
【請求項18】
前記(C)偏光性拡散フィルムの反射軸と、
前記(D)液晶パネルを構成する偏光板であって前記光源側に配置される偏光板の吸収軸方向とは、ほぼ同じである、請求項15記載の液晶表示装置。


【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2010−286818(P2010−286818A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19314(P2010−19314)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【分割の表示】特願2009−539566(P2009−539566)の分割
【原出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【特許番号】特許第4560584号(P4560584)
【特許公報発行日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】