説明

偏光板、及びそれを用いた液晶表示装置

【課題】偏光板の製造工程での乾燥不足による偏光子の劣化の防止をし、密着性及び高温高湿下での耐久性が高く、光学特性の変動が少ない偏光板を提供する。また、それを用いた液晶表示装置を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)、偏光子、及びセルロースエステルフィルム(B)を具備する偏光板であって、当該セルロースエステルフィルム(B)を構成するセルロースエステル樹脂のアシル基平均置換度が2.0〜2.5の範囲内であることを特徴とする偏光板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温高湿下での耐久性が高く、光学特性の変動が少ない偏光板、及びそれを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、低電圧・低消費電力で小型化・薄膜化が可能など様々な利点からパーソナルコンピューターや携帯機器のモニター、テレビ用途に広く利用されている。特に、最近では、テレビの大型化、壁掛けテレビ等が進展し、テレビ用途の液晶表示装置に用いられる偏光板の薄膜化が求められている。
【0003】
当該偏光板には、偏光子保護フィルム、位相差フィルム等の光学フィルムとして樹脂フィルムが用いられているが、従来、トリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)などのセルロースエステルフィルムの組み合わせによる偏光板が用いられてきた。しかし、これらの偏光板は、高温高湿での寸法安定性などの耐久性に乏しいなどの欠点があった。
【0004】
一方、アクリル樹脂とセルロース樹脂との混合フィルムは、コストが安く、高温高湿での耐久性に優れ、高い透明性を持つなどの長所を有することから、偏光子保護フィルムとしての利用が期待される。
【0005】
しかし、トリアセチルセルロースからなる偏光子保護フィルムを、その代替として、上記アクリル樹脂とセルロース樹脂との混合フィルムに置き換えた場合、その吸湿性の低さから偏光子の水分が抜けにくく、偏光子の着色や偏光板のムラ、密着性、生産性が問題となっていた。また、アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂との混合フィルム/偏光子/TACの構成において水抜けしやすいトリアセチルセルロース(TAC)を配置した偏光板を作製したが、乾燥工程後の水抜けは、まだ不十分で、更なる改善が必要であった(例えば特許文献1参照)。
【0006】
一方、ジアセチルセルロース(DAC)を用いた偏光板は、水抜けはよく、生産性もよいが、寸法変動が大きく耐久性が劣るため光漏れなどの問題があった(例えば特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2009/047924号
【特許文献2】特開2009−269970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題・状況にかんがみてなされたものであり、その解決課題は、偏光板の製造工程での乾燥不足による偏光子の劣化の防止をし、密着性及び高温高湿下での耐久性が高く、光学特性の変動が少ない偏光板を提供することである。また、それを用いた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
1.アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)、偏光子、及びセルロースエステルフィルム(B)を具備する偏光板であって、当該セルロースエステルフィルム(B)を構成するセルロースエステル樹脂のアシル基平均置換度が2.0〜2.5の範囲内であることを特徴とする偏光板。
【0011】
2.前記アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)が下記要件(1)〜(3)の全てを満たすことを特徴とする前記第1項に記載の偏光板。
(1)アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂の含有比(モル比)が、95:5〜30:70の範囲内である。
(2)前記アクリル樹脂の重量平均分子量が、80000以上である。
(3)前記セルロースエステル樹脂のアシル基の置換度が2.0〜3.0の範囲内であり、かつ当該セルロースエステル樹脂の重量平均分子量Mwが75000以上である。
【0012】
3.前記第1項又は第2項に記載の偏光板を少なくとも一枚と液晶セルを有する液晶表示装置であって、当該偏光板の前記アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)が、前記セルロースエステルフィルム(B)より、液晶セルから遠い位置に備えられていることを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記手段により、偏光板の製造工程での乾燥不足による偏光子の劣化の防止をし、密着性及び高温高湿下での耐久性が高く、光学特性の変動が少ない偏光板を提供することができる。また、それを用いた液晶表示装置を提供することができる。
【0014】
すなわち、本発明においては、セルロースエステルフィルム(B)を構成するセルロースエステルのアシル基平均置換度が2.0〜2.5の範囲内であるという特徴を有することから、偏光板の乾燥工程において、温和な条件、或いは高速な条件下でも、水を吸いながら通す効果により、水抜けが速く、乾燥工程の生産速度・効率を向上させることができる。
【0015】
また、偏光子を挟んでセルロースエステルフィルム(B)と対向する側に、透湿性が低く、寸法安定性に優れたアクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)を設けることで、セルロースエステルフィルム(B)の寸法変化を抑えることができ、その結果として、偏光板の偏光度等の光学的特性のムラが防止でき、かつ生産性及び耐久性を高めることができる。
【0016】
さらに、本発明の偏光板を液晶表示装置に用いる場合、当該偏光板の前記アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)が、前記セルロースエステルフィルム(B)より、液晶セルから遠い位置に備えることで、外部からの水分を通さないために高温高湿での偏光子の光学的特性のムラや、セルロースエステルフィルム(B)の寸法変動を防ぐことが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の偏光板は、アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)、偏光子、及びセルロースエステルフィルム(B)を具備する偏光板であって、当該セルロースエステルフィルム(B)を構成するセルロースエステル樹脂のアシル基平均置換度が2.0〜2.5の範囲内であることを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項3までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0018】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)が前記要件(1)〜(3)の全てを満たすことが好ましい。
【0019】
また、本発明の偏光板は、液晶表示装置に好適に用いることができる。その場合、当該偏光板の前記アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)が、前記セルロースエステルフィルム(B)より、液晶セルから遠い位置に備えられている態様の液晶表示装置であることが好ましい。
【0020】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。
【0021】
なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0022】
(アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A))
本発明の偏光板は、アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)(以下において、「アクリル樹脂含有フィルム」ともいう。)を具備していることを特徴とする。
【0023】
本発明の偏光板の実施態様としては、当該アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)が、下記要件(1)〜(3)の全てを満たすことが好ましい。
(1)アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂の含有比(モル比)が、95:5〜30:70の範囲内である。
(2)前記アクリル樹脂の重量平均分子量が、80000以上である。
(3)前記セルロースエステル樹脂のアシル基の置換度が2.0〜3.0の範囲内であり、かつ当該セルロースエステル樹脂の重量平均分子量Mwが75000以上である。
【0024】
以下において、当該フィルム(A)の構成要素について詳細な説明をする。
【0025】
〈アクリル樹脂〉
本発明に用いられるアクリル樹脂には、メタクリル樹脂も含まれる。樹脂としては特に制限されるものではないが、メチルメタクリレート単位50〜99質量%、及びこれと共重合可能な他の単量体単位1〜50質量%からなるものが好ましい。
【0026】
共重合可能な他の単量体としては、アルキル数の炭素数が2〜18のアルキルメタクリレート、アルキル数の炭素数が1〜18のアルキルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸、スチレン、α−メチルスチレン、核置換スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル、無水マレイン酸、マレイミド、N−置換マレイミド、グルタル酸無水物等が挙げられ、これらは単独で、あるいは二種以上を併用して用いることができる。
【0027】
これらの中でも、共重合体の耐熱分解性や流動性の観点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が好ましく、メチルアクリレートやn−ブチルアクリレートが特に好ましく用いられる。
【0028】
本発明に係るアクリル樹脂含有フィルムに用いられるアクリル樹脂は、フィルムとしての機械的強度、フィルムを生産する際の流動性の点から重量平均分子量(Mw)が80000〜1000000であることが好ましい。
【0029】
本発明に係るアクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。測定条件は以下の通りである。
【0030】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=2,800,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0031】
本発明におけるアクリル樹脂の製造方法としては、特に制限は無く、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法のいずれを用いても良い。ここで、重合開始剤としては、通常のパーオキサイド系及びアゾ系のものを用いることができ、また、レドックス系とすることもできる。重合温度については、懸濁又は乳化重合では30〜100℃、塊状又は溶液重合では80〜160℃で実施しうる。さらに、生成共重合体の還元粘度を制御するために、アルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用いて重合を実施することもできる。
【0032】
この分子量とすることで、耐熱性と脆性の両立を図ることができる。
【0033】
本発明に係るアクリル樹脂としては、市販のものも使用することができる。例えば、デルペット60N、80N(旭化成ケミカルズ(株)製)、ダイヤナールBR52、BR80、BR83、BR85、BR88(三菱レイヨン(株)製)、KT75(電気化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0034】
〈セルロースエステル樹脂〉
本発明に係るフィルム(A)に含有されるセルロースエステル樹脂は、脂肪族のアシル基、芳香族のアシル基のいずれで置換されていても良いが、アセチル基で置換されていることが好ましい。
【0035】
本発明に係るセルロースエステル樹脂が、脂肪族アシル基とのエステルであるとき、脂肪族アシル基は炭素原子数が2〜20で具体的にはアセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ラウロイル、ステアロイル等が挙げられる。
【0036】
本発明において、前記「脂肪族アシル基」とは、更に置換基を有するものも包含する意味であり、置換基としては上述の芳香族アシル基において、芳香族環がベンゼン環であるとき、ベンゼン環の置換基として例示したものが挙げられる。
【0037】
上記セルロースエステル樹脂が、芳香族アシル基とのエステルであるとき、芳香族環に置換する置換基の数は0又は1〜5個であり、好ましくは1〜3個で、特に好ましいのは1又は2個である。
【0038】
さらに、芳香族環に置換する置換基の数が2個以上のとき、互いに同じでも異なっていてもよいが、また、互いに連結して縮合多環化合物(例えばナフタレン、インデン、インダン、フェナントレン、キノリン、イソキノリン、クロメン、クロマン、フタラジン、アクリジン、インドール、インドリンなど)を形成してもよい。
【0039】
上記セルロースエステル樹脂において置換もしくは無置換の脂肪族アシル基、置換もしくは無置換の芳香族アシル基の少なくともいずれか一種選択された構造を有する構造を有することが本発明に係るセルロース樹脂に用いる構造として用いられ、これらは、セルロースの単独又は混合酸エステルでもよい。
【0040】
本発明に係るセルロースエステル樹脂の置換度は、アシル基の総置換度(T)が2.00〜3.00であることが好ましく、アセチル基置換度(ac)が0〜1.89であることが好ましい。より好ましくは、アセチル基以外のアシル基置換度(r)が2.00〜2.89である。なお、アセチル基以外のアシル基は炭素数が3〜7であることが好ましい。
【0041】
本発明に係るセルロースエステル樹脂において、炭素原子数2〜7のアシル基を置換基として有するもの、即ちセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートベンゾエート、及びセルロースベンゾエートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0042】
これらの中で特に好ましいセルロースエステル樹脂は、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。
【0043】
混合脂肪酸として、さらに好ましくは、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの低級脂肪酸エステルであり、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有するものが好ましい。
【0044】
アシル基で置換されていない部分は通常ヒドロキシル基(水酸基)として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することができる。
【0045】
なお、アセチル基の置換度や他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めたものである。
【0046】
本発明に係るセルロースエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、75000以上であれば、1000000程度のものであっても本発明の目的を達成することができるが、生産性を考慮すると75000〜280000のものが好ましく、100000〜240000のものが更に好ましい。
【0047】
〈アクリル粒子〉
本発明においては、アクリル樹脂含有フィルムにアクリル粒子を含有させてもよい。
【0048】
本発明に係るアクリル粒子は、前記アクリル樹脂及びセルロースエステル樹脂とアクリル樹脂含有フィルム中で粒子の状態(「非相溶状態」ともいう。)で存在させることが好ましい。当該アクリル粒子については、具体的には、特開2010−122340号公報の段落〔0065〕〜〔0102〕に記載されているアクリル粒子(C)を用いることが好ましい。
【0049】
〈その他の添加剤〉
本発明に係るアクリル樹脂含有フィルムにおいては、組成物の流動性や柔軟性を向上するために、可塑剤を併用することも可能である。可塑剤としては、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系、あるいはエポキシ系等が挙げられる。
【0050】
この中で、ポリエステル系とフタル酸エステル系の可塑剤が好ましく用いられる。ポリエステル系可塑剤は、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル系の可塑剤に比べて非移行性や耐抽出性に優れるが、可塑化効果や相溶性にはやや劣る。
【0051】
従って、用途に応じてこれらの可塑剤を選択、あるいは併用することによって、広範囲の用途に適用できる。
【0052】
ポリエステル系可塑剤は、一価ないし四価のカルボン酸と一価ないし六価のアルコールとの反応物であるが、主に二価カルボン酸とグリコールとを反応させて得られたものが用いられる。代表的な二価カルボン酸としては、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。
【0053】
特に、アジピン酸、フタル酸などを用いると可塑化特性に優れたものが得られる。グリコールとしてはエチレン、プロピレン、1,3−ブチレン、1,4−ブチレン、1,6−ヘキサメチレン、ネオペンチレン、ジエチレン、トリエチレン、ジプロピレンなどのグリコールが挙げられる。これらの二価カルボン酸及びグリコールはそれぞれ単独で、あるいは混合して使用してもよい。
【0054】
このエステル系の可塑剤はエステル、オリゴエステル、ポリエステルの型のいずれでもよく、分子量は100〜10000の範囲が良いが、好ましくは600〜3000の範囲が可塑化効果が大きい。
【0055】
また、可塑剤の粘度は分子構造や分子量と相関があるが、アジピン酸系可塑剤の場合相溶性、可塑化効率の関係から200〜5000mPa・s(25℃)の範囲が良い。さらに、いくつかのポリエステル系可塑剤を併用してもかまわない。
【0056】
可塑剤はアクリル樹脂を含有する組成物100質量部に対して、0.5〜30質量部を添加するのが好ましい。可塑剤の添加量が30質量部を越えると、表面がべとつくので、実用上好ましくない。
【0057】
本発明に係るアクリル樹脂を含有する組成物は紫外線吸収剤を含有することも好ましく、用いられる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、2−ヒドロキシベンゾフェノン系又はサリチル酸フェニルエステル系のもの等が挙げられる。例えば、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のトリアゾール類、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類を例示することができる。
【0058】
ここで、紫外線吸収剤のうちでも、分子量が400以上の紫外線吸収剤は、高沸点で揮発しにくく、高温成形時にも飛散しにくいため、比較的少量の添加で効果的に耐候性を改良することができる。
【0059】
また、特に薄い被覆層から基板層への移行性も小さく、積層板の表面にも析出しにくいため、含有された紫外線吸収剤量が長時間維持され、耐候性改良効果の持続性に優れるなどの点から好ましい。
【0060】
分子量が400以上の紫外線吸収剤としては、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等のベンゾトリアゾール系、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系、さらには2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、1−[2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の分子内にヒンダードフェノールとヒンダードアミンの構造を共に有するハイブリッド系のものが挙げられ、これらは単独で、あるいは二種以上を併用して使用することができる。これらのうちでも、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾールや2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が特に好ましい。
【0061】
さらに、本発明に係るアクリル樹脂含有フィルムに用いられるアクリル樹脂には成形加工時の熱分解性や熱着色性を改良するために各種の酸化防止剤を添加することもできる。また帯電防止剤を加えて、アクリル樹脂含有フィルムに帯電防止性能を与えることも可能である。
【0062】
本発明に係るアクリル樹脂組成物として、リン系難燃剤を配合した難燃アクリル系樹脂組成物を用いても良い。
【0063】
ここで用いられるリン系難燃剤としては、赤リン、トリアリールリン酸エステル、ジアリールリン酸エステル、モノアリールリン酸エステル、アリールホスホン酸化合物、アリールホスフィンオキシド化合物、縮合アリールリン酸エステル、ハロゲン化アルキルリン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステル、含ハロゲン縮合ホスホン酸エステル、含ハロゲン亜リン酸エステル等から選ばれる一種、あるいは二種以上の混合物を挙げることができる。
【0064】
具体的な例としては、トリフェニルホスフェート、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド、フェニルホスホン酸、トリス(β−クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等が挙げられる。
【0065】
〈アクリル樹脂含有フィルム(フィルム(A))の製膜〉
アクリル樹脂含有フィルム(フィルム(A))の製膜方法の例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0066】
本発明に係るアクリル樹脂含有フィルムの製膜方法としては、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルジョン法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制などの観点から流延法による溶液製膜が好ましい。
【0067】
(有機溶媒)
本発明に係るアクリル樹脂含有フィルムを溶液流延法で製造する場合のドープを形成するのに有用な有機溶媒は、アクリル樹脂、セルロースエステル樹脂、その他の添加剤を同時に溶解するものであれば制限なく用いることができる。
【0068】
例えば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることが出来、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用し得る。
【0069】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒系でのアクリル樹脂、セルロースエステル樹脂の溶解を促進する役割もある。
【0070】
特に、メチレンクロライド、及び炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、アクリル樹脂と、セルロースエステル樹脂と、アクリル粒子の3種を、少なくとも計15〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
【0071】
炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらの内ドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からエタノールが好ましい。
【0072】
以下、本発明に係るアクリル樹脂含有フィルムの好ましい製膜方法について説明する。
【0073】
1)溶解工程
アクリル樹脂、セルロースエステル樹脂に対する良溶媒を主とする有機溶に、溶解釜中で該アクリル樹脂、セルロースエステル樹脂、場合によってアクリル粒子、その他の添加剤を攪拌しながら溶解しドープを形成する工程、或いは該アクリル樹脂、セルロースエステル樹脂溶液に、場合によってアクリル粒子溶液、その他の添加剤溶液を混合して主溶解液であるドープを形成する工程である。
【0074】
アクリル樹脂、セルロースエステル樹脂の溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、又は特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
【0075】
ドープ中のアクリル樹脂と、セルロースエステル樹脂は、計15〜45質量%の範囲であることが好ましい。溶解中又は後のドープに添加剤を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
【0076】
濾過は捕集粒子径0.5〜5μmでかつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることが好ましい。
【0077】
この方法では、粒子分散時に残存する凝集物や主ドープ添加時発生する凝集物を、捕集粒子径0.5〜5μmでかつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることで凝集物だけ除去できる。主ドープでは粒子の濃度も添加液に比べ十分に薄いため、濾過時に凝集物同士がくっついて急激な濾圧上昇することもない。
【0078】
図1は本発明に好ましい溶液流延製膜方法のドープ調製工程、流延工程及び乾燥工程を模式的に示した図である。
【0079】
必要な場合は、アクリル粒子仕込釜41より濾過器44で大きな凝集物を除去し、ストック釜42へ送液する。その後、ストック釜42より主ドープ溶解釜1へアクリル粒子添加液を添加する。
【0080】
その後主ドープ液は主濾過器3にて濾過され、これに紫外線吸収剤添加液が16よりインライン添加される。
【0081】
多くの場合、主ドープには返材が10〜50質量%程度含まれることがある。返材にはアクリル粒子が含まれることがある、その場合には返材の添加量に合わせてアクリル粒子添加液の添加量をコントロールすることが好ましい。
【0082】
アクリル粒子を含有する添加液には、アクリル粒子を0.5〜10質量%含有していることが好ましく、1〜10質量%含有していることが更に好ましく、1〜5質量%含有していることが最も好ましい。
【0083】
アクリル粒子の含有量の少ない方が、低粘度で取り扱い易く、アクリル粒子の含有量の多い方が、添加量が少なく、主ドープへの添加が容易になるため、上記の範囲が好ましい。
【0084】
返材とは、アクリル樹脂含有フィルムを細かく粉砕した物で、アクリル樹脂含有フィルムを製膜するときに発生する、フィルムの両サイド部分を切り落とした物や、擦り傷などでスペックアウトしたアクリル樹脂含有フィルム原反が使用される。
【0085】
また、予めアクリル樹脂、セルロースエステル樹脂、場合によってアクリル粒子を混練してペレット化したものも、好ましく用いることができる。
【0086】
2)流延工程
ドープを送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイ30に送液し、無限に移送する無端の金属ベルト31、例えばステンレスベルト、或いは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。
【0087】
ダイの口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。或いは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
【0088】
3)溶媒蒸発工程
ウェブ(流延用支持体上にドープを流延し、形成されたドープ膜をウェブと呼ぶ)を流延用支持体上で加熱し、溶媒を蒸発させる工程である。
【0089】
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/又は支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱方法が乾燥効率が良く好ましい。又、それらを組み合わせる方法も好ましく用いられる。流延後の支持体上のウェブを40〜100℃の雰囲気下、支持体上で乾燥させることが好ましい。40〜100℃の雰囲気下に維持するには、この温度の温風をウェブ上面に当てるか赤外線等の手段により加熱することが好ましい。
【0090】
面品質、透湿性、剥離性の観点から、30〜120秒以内で該ウェブを支持体から剥離することが好ましい。
【0091】
4)剥離工程
金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。
【0092】
金属支持体上の剥離位置における温度は好ましくは10〜40℃であり、更に好ましくは11〜30℃である。
【0093】
尚、剥離する時点での金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により50〜120質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易いため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。
【0094】
ウェブの残留溶媒量は下記式で定義される。
【0095】
残留溶媒量(%)=(ウェブの加熱処理前質量−ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
尚、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
【0096】
金属支持体とフィルムを剥離する際の剥離張力は、通常、196〜245N/mであるが、剥離の際に皺が入り易い場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましく、更には、剥離できる最低張力〜166.6N/m、次いで、最低張力〜137.2N/mで剥離することが好ましいが、特に好ましくは最低張力〜100N/mで剥離することである。
【0097】
本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃とするのが好ましく、10〜40℃がより好ましく、15〜30℃とするのが最も好ましい。
【0098】
5)乾燥及び延伸工程
剥離後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置35、及び/又はクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター延伸装置34を用いて、ウェブを乾燥する。
【0099】
乾燥手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウェーブを当てて加熱する手段もある。余り急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。高温による乾燥は残留溶媒が8質量%以下くらいから行うのがよい。全体を通し、乾燥は概ね40〜250℃で行われる。特に40〜160℃で乾燥させることが好ましい。
【0100】
テンター延伸装置を用いる場合は、テンターの左右把持手段によってフィルムの把持長(把持開始から把持終了までの距離)を左右で独立に制御できる装置を用いることが好ましい。また、テンター工程において、平面性を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。
【0101】
また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
【0102】
尚、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することも好ましい。また、二軸延伸を行う場合には同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。
【0103】
この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。即ち、例えば、次のような延伸ステップも可能である。
【0104】
・流延方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
・幅手方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
また、同時2軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。同時2軸延伸の好ましい延伸倍率は幅手方向、長手方向ともに×1.01倍〜×1.5倍の範囲でとることができる。
【0105】
テンターを行う場合のウェブの残留溶媒量は、テンター開始時に20〜100質量%であるのが好ましく、かつウェブの残留溶媒量が10質量%以下になる迄テンターを掛けながら乾燥を行うことが好ましく、更に好ましくは5質量%以下である。
【0106】
テンターを行う場合の乾燥温度は、30〜150℃が好ましく、50〜120℃が更に好ましく、70〜100℃が最も好ましい。
【0107】
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、フィルムの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
【0108】
6)巻き取り工程
ウェブ中の残留溶媒量が2質量%以下となってからアクリル樹脂含有フィルムとして巻き取り機37により巻き取る工程であり、残留溶媒量を0.4質量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0109】
巻き取り方法は、一般に使用されているものを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使いわければよい。
【0110】
本発明に係るアクリル樹脂含有フィルムは、長尺フィルムであることが好ましく、具体的には、100m〜5000m程度のものを示し、通常、ロール状で提供される形態のものである。また、フィルムの幅は1.3〜4mであることが好ましく、1.4〜2mであることがより好ましい。
【0111】
本発明に係るアクリル樹脂含有フィルムの膜厚に特に制限はないが、後述する偏光板保護フィルムに使用する場合は20〜200μmであることが好ましく、25〜100μmであることがより好ましく、30〜80μmであることが特に好ましい。
【0112】
(セルロースエステルフィルム(B))
本発明の偏光板は、セルロースエステルフィルム(B)を具備し、かつ当該セルロースエステルフィルムフィルム(B)を構成するセルロースエステルのアシル基平均置換度が2.0〜2.5の範囲内であることを特徴とする。
【0113】
本発明の偏光板は、この特徴を有することから、偏光板の乾燥工程において、温和な条件、或いは高速な条件下でも、水を吸いながら通す効果により、水抜けが速く、乾燥工程の生産速度を向上させることができる。
【0114】
〈セルロースエステル樹脂〉
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)は、アシル基平均置換度が2.0〜2.5の範囲内であるセルロースエステル樹脂を含有することを特徴とする。
【0115】
本発明に係るセルロースエステル樹脂は、アシル基平均置換度が2.0〜2.5の範囲内であるが、2.2〜2.5の範囲内であることがより好ましい。
【0116】
ここでいう「アシル基平均置換度」は、セルロースを構成する無水グルコース(基本単位当たり)が有する3個のヒドロキシル基(水酸基)のうち、エステル化(アシル化)されているヒドロキシル基(水酸基)の数の平均値を示し、0〜3の範囲内の値を示す。
【0117】
セルロースエステル樹脂の平均アシル置換度が2.0を下回る場合には、ドープ粘度の上昇によるフィルム面品質の劣化、延伸張力の上昇によるヘイズアップなどが発生することがある。また、総アシル置換度が2.5より大きいの場合は、必要な位相差が得られない。
【0118】
本発明において前記アシル基は、脂肪族アシル基であることが好ましい。アシル基で置換されていない部分は通常ヒドロキシル基(水酸基)として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することができる。
【0119】
本発明に係るセルロースエステル樹脂としては、特にセルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらの中で特に好ましいセルロースエステル樹脂は、セルロースジアセテートである。
【0120】
なお、アセチル基の置換度や他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96(セルロースアセテート等の試験方法)に規定の方法により求めたものである。
【0121】
本発明に係るセルロースエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、30,000〜300,000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。更に50,000〜200,000のものが好ましく用いられる。
【0122】
セルロースエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnの値は、1.4〜3.0であることが好ましい。
【0123】
セルロースエステル樹脂の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
【0124】
測定条件は以下の通りである。
【0125】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0126】
本発明に係るセルロースエステル樹脂の原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0127】
本発明に係るセルロースエステル樹脂は、公知の方法により製造することができる。一般的には、原料のセルロースと所定の有機酸(酢酸、プロピオン酸など)と酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸など)、触媒(硫酸など)と混合して、セルロースをエステル化し、セルロースのトリエステルができるまで反応を進める。トリエステルにおいてはグルコース単位の三個のヒドロキシル基(水酸基)は、有機酸のアシル酸で置換されている。同時に二種類の有機酸を使用すると、混合エステル型のセルロースエステル、例えばセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートを作製することができる。次いで、セルロースのトリエステルを加水分解することで、所望のアシル置換度を有するセルロースエステル樹脂を合成する。その後、濾過、沈殿、水洗、脱水、乾燥などの工程を経て、セルロースエステル樹脂ができあがる。
【0128】
具体的には、特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0129】
市販品としては、ダイセル化学工業(株)社のL20、L30、L40、L50、イーストマンケミカル社のCa398−3、Ca398−6、Ca398−10、Ca398−30、Ca394−60Sが挙げられる。
【0130】
本発明においては、本発明に係るセルロースエステルフィルムの融点が200〜290℃の範囲内にすることが好ましい。当該融点を上記範囲内に調整する方法としては、セルロースエステル樹脂の置換度を制御する、又は可塑剤を添加するなどがある。
【0131】
なお、本発明に係るセルロースエステルフィルムには、本発明の効果を害しない限りにおいて、上記セルロースエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂を併用することもできる。
【0132】
ここで、「熱可塑性樹脂」とは、ガラス転移温度又は融点まで加熱することによって軟らかくなり、目的の形に成形できる樹脂のことをいう。
【0133】
熱可塑性樹脂としては、一般的汎用樹脂としては、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂等を用いることができる。
【0134】
また、強度や壊れにくさを特に要求される場合、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、環状ポリオレフィン(COP)等を用いることができる。
【0135】
さらに、高い熱変形温度と長期使用できる特性を要求される場合は、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等を用いることができる。
【0136】
なお、本発明の用途にそって樹脂の種類、分子量の組み合わせを行うことが可能である。
【0137】
(加水分解防止剤)
本発明においては、加水分解防止剤として、例えば、ピラノース構造又はフラノース構造の少なくとも一種を1〜12個有しその構造のOH基の一部がエステル化されたエステル化合物の混合物を好ましく用いることができる。
【0138】
ピラノース構造又はフラノース構造の少なくとも一種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物のエステル化の割合としては、ピラノース構造又はフラノース構造内に存在するOH基の70%以上であることが好ましい。
【0139】
本発明においては、上記エステル化合物を総称して、糖エステル化合物とも称す。
【0140】
本発明に用いられるエステル化合物の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0141】
グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、あるいはアラビノース、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースあるいはケストース挙げられる。
【0142】
この他、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
【0143】
これらの化合物の中で、特にピラノース構造とフラノース構造を両方有する化合物が好ましい。
【0144】
例としては、スクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、更に好ましくは、スクロースである。
【0145】
ピラノース構造又はフラノース構造中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化するのに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。
【0146】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0147】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、酢酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
【0148】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができ、より、具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m−アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸を挙げることができるが、特に安息香酸、ナフチル酸が好ましい。
【0149】
オリゴ糖のエステル化合物を、本発明に係るピラノース構造又はフラノース構造の少なくとも一種を1〜12個を有する化合物として適用できる。
【0150】
オリゴ糖は、澱粉、ショ糖等にアミラーゼ等の酵素を作用させて製造されるもので、本発明に適用できるオリゴ糖としては、例えば、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖が挙げられる。
【0151】
また、前記エステル化合物は、下記一般式(A)で表されるピラノース構造又はフラノース構造の少なくとも一種を1個以上12個以下縮合した化合物である。ただし、R11〜R15、R21〜R25は、炭素数2〜22のアシル基又は水素原子を、m、nはそれぞれ0〜12の整数、m+nは1〜12の整数を表す。
【0152】
【化1】

【0153】
11〜R15、R21〜R25は、ベンゾイル基、水素原子であることが好ましい。ベンゾイル基は更に置換基R26を有していてもよく、例えばアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、フェニル基が挙げられ、更にこれらのアルキル基、アルケニル基、フェニル基は置換基を有していてもよい。オリゴ糖も本発明に係るエステル化合物と同様な方法で製造することができる。
【0154】
以下に、本発明に係るエステル化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0155】
【化2】

【0156】
【化3】

【0157】
【化4】

【0158】
【化5】

【0159】
【化6】

【0160】
【化7】

【0161】
【化8】

【0162】
【化9】

【0163】
【化10】

【0164】
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、加水分解防止剤をセルロースエステルフィルムの0.5〜30質量%含むことが好ましく、特には、2〜15質量%含むことが好ましい。
【0165】
(位相差調整剤)
本発明においては、本発明に係るセルロースエステルフィルム等に、位相差調整剤を含有させることも好ましい。
【0166】
本発明に用いる位相差調整剤は、樹脂に相応した適度な溶解性が必要であるが、化合物の配向性の観点から、例えば、下記一般式(R1)で表されるエステル系化合物を好ましく用いることができる。
【0167】
一般式(R1):B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはヒドロキシル基又はカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基又は炭素数6〜12のアリールグリコール残基又は炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基又は炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(R1)中、Bで示されるヒドロキシル基又はカルボン酸残基と、Gで示されるアルキレングリコール残基又はオキシアルキレングリコール残基又はアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基又はアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のエステル系化合物と同様の反応により得られる。
【0168】
一般式(R1)で表されるエステル系化合物のカルボン酸成分としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、脂肪族酸等があり、これらはそれぞれ一種又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0169】
一般式(R1)で表されるエステル系化合物の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用される。
【0170】
特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
【0171】
また、上記一般式(R1)で表されるエステル系化合物の炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0172】
一般式(1)で表されるエステル系化合物の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ一種又は二種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0173】
一般式(R1)で表されるエステル系化合物は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、ヒドロキシル(水酸基)価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、ヒドロキシル(水酸基)価は15mgKOH/g以下のものである。
【0174】
以下に、本発明に用いることのできる一般式(R1)で表されるエステル系化合物の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0175】
【化11】

【0176】
【化12】

【0177】
【化13】

【0178】
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、位相差調整剤をセルロースエステルフィルムの0.1〜30質量%含むことが好ましく、特には、0.5〜10質量%含むことが好ましい。
【0179】
また、本発明に係るフィルムに用いられる位相差調整剤は、溶液流延法において、溶媒の揮発速度を速めたり、残留溶媒量を低減するために用いられる。また、溶融製膜法によるフィルムにおいても、位相差調整剤は着色や膜強度劣化を防止するために有用な素材である。さらに、本発明に係るフィルムに当該位相差調整剤を添加することは、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。
【0180】
添加剤の含量は、温度湿度変化に対応性、フィルムの白化防止、物理的特性等の観点から、セルロース系樹脂に対して、1〜35質量%であり、4〜30質量%であることが好ましく10〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0181】
ここで、本発明における位相差調整剤の数平均分子量は、より好ましくは数平均分子量700以上10000未満であり、さらに好ましくは数平均分子量800〜8000であり、よりさらに好ましくは数平均分子量800〜5000であり、特に好ましくは数平均分子量1000〜5000である。このような範囲とすることにより、より相溶性に優れる。
【0182】
(位相差発現剤)
本発明では、従来公知の位相差(「リターデーション」ともいう。)発現剤を含んでいてもよい。例えば、特開2009−265295号公報の段落〔0087〕〜〔0202〕に記載されている円盤状化合物及び棒状化合物、特開2010−054736号公報の段落〔0037〕〜〔0060〕に記載されているトリアジン系化合物などを位相差発現剤として用いることができる。
【0183】
位相差(リターデーション)発現剤は、セルロースエステルフィルム等に、例えば、0.5〜10質量%の割合で含有させることができ、さらには、2〜6質量%の割合で含有させることが好ましい。位相差(リターデーション)発現剤を採用することにより、低延伸倍率で高いRe発現性を得られる。
【0184】
(可塑剤)
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、本発明の効果を得る上で必要に応じて可塑剤を含有することができる。
【0185】
可塑剤は特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。
【0186】
そのうち、可塑剤を二種以上用いる場合は、少なくとも一種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
【0187】
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環又はシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0188】
本発明に好ましく用いられる多価アルコールは次の一般式(a)で表される。
【0189】
一般式(a):R1−(OH)n
但し、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/又はフェノール性ヒドロキシル基(水酸基)を表す。
【0190】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0191】
アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。
【0192】
特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0193】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0194】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0195】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖又は側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0196】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0197】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
【0198】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基あるいはエトキシ基などのアルコキシ基を1〜3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
【0199】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0200】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0201】
(酸化防止剤)
本発明においては、セルロースエステル溶液に公知の酸化防止剤、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、4,4′−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2′−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤をすることが好ましい。酸化防止剤の添加量は、セルロース系樹脂100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加する。
【0202】
(紫外線吸収剤)
本発明においては、セルロースエステル溶液に、偏光板又は液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。ヒンダードフェノール系化合物の例としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、セルロースエステルフィルム全体中に質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0203】
(マット剤)
本発明に係るセルロースエステルフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0204】
これらの微粒子は、通常平均粒子サイズが0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子サイズは0.2〜1.5μmが好ましく、0.4〜1.2μmがさらに好ましく、0.6〜1.1μmが最も好ましい。1次、2次粒子サイズはフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子サイズとした。
【0205】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0206】
これらの中で、アエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、セルロースエステルフィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0207】
本発明において、2次平均粒子径の小さな粒子を有するフィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶媒と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作製し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースエステル溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースエステルドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子がさらに再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶媒に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行い、これを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明は、これらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶媒などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がさらに好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。また、マット剤を本発明に係るセルロースエステルフィルムに添加して用いる場合の、フィルム表層におけるマット剤含有量は、フィルム表面層100質量部に対し、球形、不定形微粒子を問わず、0.05〜1.00質量部であり、好ましくは0.07〜0.60質量部であり、より好ましくは0.10〜0.40質量部である。表面層における微粒子の含有量が0.05質量部未満であると、セルロースエステルフィルム表面のすべり性・タッキング防止性を確保することが困難になり、1.00質量%を超えると透明性が悪くなる。
【0208】
使用される溶媒は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶媒を用いることが好ましい。
【0209】
(セルロースエステルフィルムの物性)
以下、本発明に係るセルロースエステルフィルムの、光学フィルムとしての、特徴について説明する。
【0210】
〈位相差(リターデーション)〉
位相差(リターデーション)は作製したセルロースエステルフィルムから試料35mm×35mmを切り出し、23℃,55%RHで2時間調湿し、自動複屈折計(KOBRA WR、王子計測(株))で、590nmにおける垂直方向から測定した値とフィルム面を傾けながら同様に測定した位相差(リターデーション)値の外挿値より各波長におけるRo(590)、Rt(590)を算出した。
【0211】
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、測定光波長590nmにおける、下記式(I)により定義される面内位相差(リターデーション)値Ro(590)が30〜70nmの範囲内であり、下記式(II)により定義にされる厚さ方向の位相差(リターデーション)値Rt(590)が100〜200nmの範囲内であり、かつ厚さが20〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0212】
本願において、Ro(590)、Rt(590)は、それぞれ、下記式(I)〜(III)によって定義される。
式(I):Ro(590)=(nx−ny)×d
式(II):Rt(590)=((nx+ny)/2−nz)×d
上式中、Ro(590)は測定光波長590nmにおけるフィルム内の面内位相差(リターデーション)値を表し、Rt(590)は測定光波長590nmにおけるフィルム内の厚さ方向の位相差(リターデーション)値を表す。また、dはフィルムの厚さ(nm)を表し、nxは測定光波長590nmにおけるフィルムの面内の最大の屈折率を表し、遅相軸方向の屈折率ともいう。nyは測定光波長590nmにおけるフィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率を表し、nzは測定光波長590nmにおける厚さ方向におけるフィルムの屈折率を表す。
【0213】
本発明においては、炭素数が2〜4の範囲内にあるアシル置換基を有し、かつアシル基置換度が2.0〜2.5の範囲内であるセルロースエステル、両親媒性添加剤、加水分解防止剤、位相差調整剤を適量含有させることで、位相差(リターデーション)値を所望の値にするとともに、延伸の温度(それぞれの区画の温度の組み合わせ)、倍率、延伸する速度、延伸する順序、延伸する時のフィルムの残留溶媒量などを調整、制御することで位相差(リターデーション)値を所望の値にすることができる。
【0214】
位相差(リターデーション)をこのような範囲に調整することにより本発明フィルムを使用した液晶表示装置の視野角を広げ、正面コントラストを改善することができる。
【0215】
正面コントラスト=(表示装置の法線方向から測定した白表示の輝度)/(表示装置の法線方向から測定した黒表示の輝度)
視野角は、液晶表示装置の観察方向を法線方向から傾けていった場合に一定レベルのコントラストを維持できる角度のことである。
【0216】
<セルロースエステルフィルムの製造方法>
本発明に係るセルロースエステルフィルムの製造は、溶液流延法において、セルロースエステル及び添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープをベルトあるいはドラムなどの金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸又は幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
【0217】
《ドープを調製する工程について》
ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースエステルの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
【0218】
有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル及び炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−及びCOO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性ヒドロキシル基(水酸基)のような他の官能基を有していてもよい。
【0219】
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0220】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトールが含まれる。
【0221】
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが含まれる。
【0222】
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート及びペンチルアセテートが含まれる。
【0223】
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノールが含まれる。
【0224】
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1又は2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。これらを良溶媒という。
【0225】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることでウェブ(支持体上にセルロース誘導体のドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロース誘導体の溶解を促進したりする役割もあり、反応性金属化合物のゲル化、析出、粘度上昇を抑える役割もある。
【0226】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良いこと等からエタノールが好ましい。これらを貧溶媒という。
【0227】
また、セルロースエステルの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。
【0228】
回収溶剤中に、セルロースエステルに添加されている添加剤が微量含有されていることもあるが、これらが含まれていても好ましく再利用することができるし、必要であれば精製して再利用することもできる。
【0229】
上記のドープを調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できる。
【0230】
溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。
【0231】
また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤あるいは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0232】
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0233】
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。
【0234】
好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
【0235】
本発明においては、冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることができる。
【0236】
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。
【0237】
このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
【0238】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0239】
濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
【0240】
輝点異物とは、二枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間にセルロースエステルフィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm以下であることが好ましい。
【0241】
より好ましくは100個/cm以下であり、更に好ましくは50個/m以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
【0242】
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。
【0243】
好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
【0244】
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0245】
《ドープの流延工程について》
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
【0246】
キャストの幅は1〜4mとすることができる。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
【0247】
好ましい支持体温度は0〜55℃であり、25〜50℃が更に好ましい。あるいは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
【0248】
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風又は冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
【0249】
セルロースエステルフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%又は60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%又は70〜120質量%である。
【0250】
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
【0251】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
尚、Mはウェブ又はフィルムを製造中又は製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0252】
《乾燥工程について》
セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
【0253】
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0254】
本発明に係るセルロースエステルフィルムを作製するためには、ウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式で幅方向(横方向)に延伸を行うことが特に好ましい。剥離張力は300N/m以下で剥離することが好ましい。
【0255】
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことができるが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
【0256】
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は40〜200℃で段階的に高くしていくことが好ましい。
【0257】
セルロースエステルフィルムの厚さ(膜厚)は、20〜50μmで好ましい。
【0258】
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、幅1〜4mのものが用いられる。特に幅1.4〜4mのものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.9〜2.5mである。この範囲にすることにより、効率的な偏光板裁断とハンドリング適性を両立させることができる。
【0259】
また、本発明に係るセルロースエステルフィルムは、1ロールあたり100m〜10000mの長さが好ましく、1000m〜10000mであることがより好ましく、5000m〜10000mであることが特に好ましい。この範囲とすることで、ロール形態での扱いが容易であり、更に偏光板の連続プロセスに適合し歩留まりを向上させる効果がある。
【0260】
セルロースエステルフィルムに下記所望の位相差(リターデーション)値Ro、Rtを付与するには、セルロースエステルフィルムが本発明の構成をとり、更に搬送張力の制御、延伸操作により屈折率制御を行うことが好ましい。
【0261】
例えば、長手方向の張力を低く又は高くすることで位相差(リターデーション)値を変動させることが可能となる。
【0262】
また、フィルムの長手方向(製膜方向)及びそれとフィルム面内で直交する方向、即ち幅手方向に対して、逐次又は同時に二軸延伸もしくは一軸延伸することが好ましい。
【0263】
互いに直交する二軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に0.8〜1.5倍、幅方向に1.1〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に0.8〜1.0倍、幅方向に1.2〜2.0倍に範囲で行うことが好ましい。
【0264】
延伸温度は120℃〜200℃が好ましく、さらに好ましくは120℃〜180℃であり、さらに好ましくは120℃〜160℃で延伸するのが好ましい。
【0265】
フィルム中の残留溶媒は20〜0%が好ましく、さらに好ましくは15〜0%で延伸するのが好ましい。
【0266】
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。
【0267】
また、所謂テンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0268】
製膜工程のこれらの幅保持あるいは横方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
【0269】
本発明に係るセルロースエステルフィルムの遅相軸又は進相軸がフィルム面内に存在し、製膜方向とのなす角をθ1とするとθ1は−1°以上+1°以下であることが好ましく、−0.5°以上+0.5°以下であることがより好ましく、−0.1°以上+0.1°以下であることがさらに好ましい。
【0270】
このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器)を用いて行うことができる。θ1が各々上記関係を満たすことは、表示画像において高い輝度を得ること、光漏れを抑制又は防止することに寄与でき、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現を得ることに寄与できる。
【0271】
(平衡含水率の湿度変化)
本発明においては、湿度変化に対応しやすく、光学特性や寸法がより変化しにくくするため、偏光子を挟む両側のアクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)及びセルロースエステルフィルム(B)それぞれの温度23℃・相対湿度20%における平衡含水率と、温度23℃・相対湿度80%における平衡含水率との差ΔH(80%−20%)の絶対値が、いずれも3.0〜5.0%の範囲内であり、かつ当該両側のフィルム(A)及び(B)それぞれの当該平衡含水率の差ΔH(80%−20%)同士の差ΔHの絶対値が0〜1.0%の範囲内であることが好ましい。
【0272】
ここで、「平衡含水率」とは、試料(フィルム)の中に平衡状態で含まれる水分量を試料質量に対する百分率で表したものである。
【0273】
平衡含水率の湿度変化の具体的な求め方のとしては、試料7mm×35mmを温度23℃、相対湿度20%RHで2時間調湿し、カールフィッシャー法微量水分測定器LE−20S(平沼産業(株)製)にて測定し、相対湿度20%での試料中の水分量(g)を試料質量(g)で除して含水率を算出した。同様の試料を温度23℃、相対湿度80%RHで2時間調湿し、カールフィッシャー法微量水分測定器LE−20S(平沼産業(株)製)にて測定し、相対湿度80%での試料中の水分量(g)を試料質量(g)で除して含水率を算出した。前記相対湿度20%の平衡含水率と前記相対湿度80%の平衡含水率の差をΔH(80%−20%)として求めた。
【0274】
また、当該両側のフィルム(A)及び(B)それぞれの当該平衡含水率の差ΔH(80%−20%)同士の差をΔHとして求めた。
【0275】
当該平衡含水率を上記範囲内に制御する手段としては、セルロースエステル樹脂の総置換度の調整、フィルム(A)及び(B)中に含有させる各種添加剤の種類及び添加量等の調整により行うことができる。
【0276】
(偏光板)
本発明の偏光板は、アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)、偏光子、及びセルロースエステルフィルム(B)を具備する偏光板であることを特徴とする。
【0277】
本発明に係る上記フィルムを使用した偏光板は、一般的な方法で作製することができる。上記フィルムの裏面側に粘着層を設け、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい貼り合わせることが好ましい。
【0278】
液晶表示装置の表面側に用いられる偏光子保護フィルムには、防眩層あるいはクリアハードコート層のほか、反射防止層、帯電防止層、防汚層、バックコート層を設けることも好ましい。
【0279】
なお、偏光板の主たる構成要素である「偏光子」とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
【0280】
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜30μmが好ましく、特に10〜20μmであることが好ましい。
【0281】
また、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、鹸化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。
【0282】
中でも熱水切断温度が66〜73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。
【0283】
このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能及び耐久性能に優れているうえに、色斑が少なく、大型液晶表示装置に特に好ましく用いられる。
【0284】
上記粘着層に用いられる粘着剤としては、粘着層の少なくとも一部分において25℃での貯蔵弾性率が1.0×10〜1.0×10Paの範囲である粘着剤が用いられていることが好ましく、粘着剤を塗布し、貼り合わせた後に種々の化学反応により高分子量体又は架橋構造を形成する硬化型粘着剤が好適に用いられる。
【0285】
具体例としては、例えば、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、水性高分子−イソシアネート系粘着剤、熱硬化型アクリル粘着剤等の硬化型粘着剤、湿気硬化ウレタン粘着剤、ポリエーテルメタクリレート型、エステル系メタクリレート型、酸化型ポリエーテルメタクリレート等の嫌気性粘着剤、シアノアクリレート系の瞬間粘着剤、アクリレートとペルオキシド系の2液型瞬間粘着剤等が挙げられる。
【0286】
上記粘着剤としては一液型であっても良いし、使用前に二液以上を混合して使用する型であっても良い。
【0287】
また上記粘着剤は有機溶剤を媒体とする溶剤系であってもよいし、水を主成分とする媒体であるエマルジョン型、コロイド分散液型、水溶液型などの水系であってもよいし、無溶剤型であってもよい。上記粘着剤液の濃度は、粘着後の膜厚、塗布方法、塗布条件等により適宜決定されれば良く、通常は0.1〜50質量%である。
【0288】
<液晶表示装置>
本発明の偏光板は種々の態様の液晶表示装置に用いることができる。例えば、本発明の偏光板を少なくとも一枚と液晶セルを有する液晶表示装置であって、当該偏光板の前記アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)が、前記セルロースエステルフィルム(B)より、液晶セルから遠い位置に備えられている態様の液晶表示装置に用いることが、本発明の効果発現の観点から、好ましい。
【0289】
本発明の偏光板を液晶表示装置に用いることによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することができる。
【0290】
本発明の偏光板はSTN、TN、OCB、HAN、VA(MVA、PVA)、IPS、OCBなどの各種駆動方式の液晶表示装置に用いることができる。好ましくは、VA(MVA,PVA)型液晶表示装置である。
【0291】
特に画面が30型以上の大画面の液晶表示装置であっても、環境変動が少なく、光漏れが低減された、色味むら、正面コントラストなど視認性に優れ液晶表示装置を得ることができる。
【実施例】
【0292】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0293】
実施例1
<セルロースエステルフィルム(B)101〜107の作製>
(セルロースエステルフィルム(B)107の作製)
(微粒子分散液)
微粒子(アエロジル R812 日本アエロジル(株)製) 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0294】
(微粒子添加液)
メチレンクロライドを入れた溶解タンクにセルロースエステルCE−7(表1参照)を添加して加熱して完全に溶解させた後、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。濾過後のセルロースエステル溶液を充分にかくはんしながら、ここに微粒子分散液をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調整した。
【0295】
メチレンクロライド 99質量部
セルロースエステルCE−7 4質量部
微粒子分散液 11質量部
セルロースエステルCE−7を用い、下記組成の主ドープ液を調整した。
【0296】
まず、加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルCE−7を攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
【0297】
(主ドープ液の組成)
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 30質量部
セルロースエステルCE−7(アセチル置換度2.43) 100質量部
加水分解防止剤(A) 10質量部
位相差調整剤(B) 2.5質量部
主ドープ液100質量部に微粒子添加液を2質量部加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer,SWJ)で十分に混合し、次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープ液を温度33℃、1500mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は30℃に制御した。
【0298】
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力130N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。
【0299】
剥離したセルロースエステルフィルム107を、160℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に36%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は15%であった。
【0300】
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は130℃で、搬送張力は100N/mとした。
【0301】
以上のようにして、乾燥膜厚40μmのセルロースアセテートフィルム(B)107を得た。
【0302】
表1に、上記で用いたセルロースエステルCE−7と下記の実施例において用いたセルロースエステルの内容を示す。なお、表1に記載されているCE−2は、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度=0.88、プロピオニル基置換度=1.58)である。
【0303】
(セルロースエステルフィルム(B)101〜106の作製)
表1に示されるセルロースエステル、及び加水分解防止剤(A)、位相差調整剤(B)を表1に記載のように変更した以外は上記と同様にしてセルロースエステル101〜106の作製を行った。
【0304】
【表1】

【0305】
【化14】

【0306】
<アクリル樹脂/セルロースエステル樹脂混合フィルム(A)108〜112の作製>
(アクリル樹脂/セルロースエステル樹脂混合フィルム(A)111の作製)
(ドープ組成液)
アクリル樹脂:ダイヤナールBR85(三菱レイヨン(株)) 70質量部
セルロースエステル樹脂:CAP482−20(アシル基総置換度2.75、アセチル基総置換度0.19、プロピオニル基総置換度2.56、Mw=200000、イーストマンケミカル(株)製) 30質量部
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 40質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱しながら、攪拌し、溶解してドープ液を調製した。次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープ液を温度22℃、2000mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は30℃に制御した。
【0307】
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力162N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。
【0308】
剥離したセルロースアセテートフィルムを、160℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に36%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は15%であった。
【0309】
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は130℃で、搬送張力は100N/mとした。
【0310】
以上のようにして、乾燥膜厚40μmのアクリル樹脂/セルロースエステル樹脂混合フィルム(A)111を得た。
【0311】
(アクリル樹脂/セルロースエステル樹脂混合フィルム(A)108〜110,112の作製)
表2に示されるアクリル樹脂及びセルロースエステル樹脂を表2に記載のように変更した以外は上記と同様にしてアクリル樹脂/セルロースエステル樹脂混合フィルム(A)108〜110、及び112を作製した。
【0312】
【表2】

【0313】
<偏光板1〜35の作製>
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸した。これを、水洗、乾燥し偏光子を得た。
【0314】
次いで、下記工程1〜5に従って、偏光子に前記セルロースエステルフィルムと、裏面側には、アクリル樹脂/セルロースエステル樹脂混合フィルムを偏光子保護フィルムとして貼り合わせて偏光板を作製した。
【0315】
工程1:セルロースエステルフィルム及びアクリル樹脂/セルロースエステル樹脂混合フィルムを50℃の2mol/Lの水酸化カリウム溶液に30秒間浸し、次いで水洗し乾燥して表面を鹸化したフィルムを得た。
【0316】
工程2:前記偏向子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤浴槽に1〜2秒浸した。
【0317】
工程3:工程2で偏向子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理したセルロースエステルフィルムの上に乗せ、更に裏面側に偏向子側にしたアクリル樹脂/セルロースエステル樹脂混合フィルムを載せて配置した。
【0318】
工程4:工程3で積層したセルロースエステルフィルムと偏向子と裏面フィルムを圧力20〜30N/cm、搬送スピードは約2m/分で貼り合わせた。
【0319】
工程5:60℃の乾燥機中に工程4で作製したセルロースエステルフィルムと裏面側フィルムを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、偏光板を作製した。
【0320】
上記の方法に従って、表3に示すような各種フィルム(A)とフィルム(B)の組合わせの偏光板1〜35を得た。これらの偏光板について以下の評価をした。
【0321】
評価方法
(密着性評価)
作製した各偏光板を5cm×5cmの大きさの正方角に断裁し、23℃・55%RHの雰囲気下に24時間放置し、その後、角の部分から偏光子、フィルムの界面から剥がし、その際の剥がれ状態を下記基準に従って目視評価した。
◎:剥がれが全く見られない
○:周りが少し剥がれる程度
×:半分以上が剥がれる。
【0322】
(偏光度ムラ防止性評価)
作製した各偏光板について、試験片として、10cm×10cmの偏光板を二枚切り出し、温度60℃・相対湿度90%RHの高温高湿雰囲気において120時間保存後、色温度5000Kのライトボックス上で同一偏光板から切り出した試験片同士をクロスニコルに配置して、その偏光度を23℃・相対湿度55%の環境下で測定して、偏光度ムラ(偏光度のバラツキ)を目視評価した
◎:偏光度ムラの発生なし
○:裸眼では偏光度ムラを認識できない
△:偏光度ムラとして見えるが、使用にあたって支障はない
×:表示品質上に問題あり。
【0323】
<液晶表示装置の作製>
液晶パネルを以下のようにして作製し、液晶表示装置としての特性を評価した。
【0324】
VAモード型液晶表示装置(SONY製BRAVIAV1、40型)の予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板の前記アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)が、前記セルロースエステルフィルム(B)より、液晶セルから遠い位置に備えられている状態になるように、液晶セルのガラス面になるように両面に貼合した。
【0325】
その際、予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように行い、液晶表示装置を各々作製した。
【0326】
なお、偏光板は、上記偏光度ムラ防止性評価と同様に温度60℃・相対湿度90%RHの高温高湿雰囲気において120時間保存した偏光板を用いた。
【0327】
《液晶表示装置の評価》
23℃、55%RHの環境下において、バックライトを12時間連続点灯し、全面黒表示状態を暗室にて目視で観察して、上記偏光板の表示均一性を評価した。
【0328】
〔表示均一性〕
黒表示時の表示均一性を目視で下記基準により評価した。
○:黒輝度がほぼ同じ
△:黒輝度にややムラがみられる
×:黒輝度に大きな差がみられる
なお、△以上であれば、使用上問題はない。
【0329】
以上の評価結果を表3に示す。
【0330】
【表3】

【0331】
表3に示した結果から明らかなように、本発明の偏光板は、比較例に比べ、密着性に優れ、かつ高温高湿雰囲気下で長時間保存後において偏光度ムラが発生しない又は認識できないレベルの耐久性を有していることが分かる。
【0332】
また、本発明の偏光板を用いた液晶表示装置は、偏光板を高温高湿雰囲気下で長時間保存したにも拘わらず、優れた表示均一性を有していることが分かる。
【0333】
以上の結果から明らかなように、本発明により、偏光板の製造工程での乾燥不足による偏光子の劣化の防止をし、密着性及び高温高湿下での耐久性が高く、光学特性の変動が少ない偏光板を提供することができる。また、それを用いた液晶表示装置を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)、偏光子、及びセルロースエステルフィルム(B)を具備する偏光板であって、当該セルロースエステルフィルム(B)を構成するセルロースエステル樹脂のアシル基平均置換度が2.0〜2.5の範囲内であることを特徴とする偏光板。
【請求項2】
前記アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)が下記要件(1)〜(3)の全てを満たすことを特徴とする請求項1に記載の偏光板。
(1)アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂の含有比(モル比)が、95:5〜30:70の範囲内である。
(2)前記アクリル樹脂の重量平均分子量が、80000以上である。
(3)前記セルロースエステル樹脂のアシル基の置換度が2.0〜3.0の範囲内であり、かつ当該セルロースエステル樹脂の重量平均分子量Mwが75000以上である。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の偏光板を少なくとも一枚と液晶セルを有する液晶表示装置であって、当該偏光板の前記アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有するフィルム(A)が、前記セルロースエステルフィルム(B)より、液晶セルから遠い位置に備えられていることを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2012−18341(P2012−18341A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156481(P2010−156481)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】