説明

偏光板用接着剤およびこれを用いた偏光板

【課題】熱衝撃に対して耐久性のある偏光板用接着剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部と、硬化剤10〜40質量部と、金属化合物コロイド200質量部を超えて300質量部未満と、を含む偏光板用接着剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板を製造する際に使用される、偏光子と保護フィルムとを接着するための接着剤組成物およびこれを用いて製造した偏光板に関する。より詳細には、本発明は、熱衝撃による偏光子割れを防止し得る、熱衝撃に対する耐久性に優れた偏光板を提供できる接着剤組成物およびそのような偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等のフラットディスプレイが、省スペースであり高精細であることから、表示装置として広範に使用されている。このうち、液晶ディスプレイは、より省電力であり高精細であるため注目され、開発が進められている。
【0003】
液晶ディスプレイパネルには、その機能を発揮するため光シャッターの役割をする偏光板が液晶と組み合わせて使用されている。偏光板は偏光子を備える、液晶ディスプレイパネルに必須の部品である。通常偏光子は、ポリビニルアルコール樹脂を5〜6倍の長さに一軸延伸して製造されるため、延伸方向に裂けやすく、脆いという欠点がある。そのため、偏光子は、その表面および/または裏面に保護フィルムを接着し、偏光板を構成して使用されている。その際、偏光子に保護フィルムを接着するための接着剤にも、偏光板を使用する場合に要求される特性を満たすことが求められる。
【0004】
このような偏光板用接着剤に関する技術として、下記特許文献1は、ポリビニルアルコール系樹脂、架橋剤および金属化合物コロイドを含有し、前記金属化合物コロイドがポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して200重量部以下の割合で配合されている接着剤を開示している。特許文献1には、この接着剤が、偏光子と保護フィルムとを貼り合わせる際に生じる界面の凹凸欠陥(クニック欠陥)の低減に有効であることが併せて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−15483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、偏光板は、上記のように一軸方向に大きく延伸されているため、熱衝撃(高温および低温に曝される繰り返し)によって大きく伸縮する傾向がある。その際、偏光子の伸縮を、接着剤および保護フィルムが抑制できず、延伸方向に脆い偏光子が割れてしまうという問題があった。しかしながら、上記の従来技術は、熱衝撃に対する接着剤の耐性については検討されておらず、偏光板が繰り返し熱に曝されるような使用態様では、偏光子割れを十分に防止することはできていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱衝撃に起因する偏光子割れを効果的に防止し得る、熱衝撃に対する耐久性に優れた偏光板用接着剤組成物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明の他の目的は、そのような接着剤組成物を使用することにより、熱衝撃に対して十分な耐久性のある偏光板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、特定量の金属化合物コロイドおよび硬化剤を含有した接着剤組成物を用いて製造した偏光板は、熱衝撃に対しても偏光子割れを効果的に防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部と、硬化剤10〜40質量部と、金属化合物コロイド200質量部を超えて300質量部未満と、を含む偏光板用接着剤組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の接着剤組成物を用いて構成された偏光板は、熱衝撃に曝されても、偏光子の割れが生じることがなく、熱衝撃に対する十分な耐久性を有している。したがって、本発明の接着剤組成物を使用した偏光板は、液晶ディスプレイに好適に使用でき、高温または低温に曝される環境においても耐久性が高く、優れた液晶ディスプレイを提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例における偏光板の製造工程を説明するための概略図である。
【図2】実施例における熱衝撃試験の方法を説明するための概略図である。(a)は試片の構成を示す概略断面図であり、(b)は偏光子割れの測定位置を示す概略図である。
【図3】実施例における強制剥離試験の方法を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を各要素に分けて詳細に説明する。
【0014】
(1)偏光板用接着剤組成物
本発明の第一の態様は、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部と、硬化剤10〜40質量部と、金属化合物コロイド200質量部を超えて300質量部未満と、を含む偏光板用接着剤組成物である。
【0015】
(A)金属化合物コロイド
本発明の接着剤組成物は、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、金属化合物コロイドを200質量部を超えて300質量部未満含むことが特徴である。
【0016】
金属化合物コロイドとは、金属化合物からなる微小な粒子を分散媒中に分散させた際に、粒子が電荷を帯びているために粒子同士が反発しあい、粒子同士が凝集したり沈降したりすることなく一定の距離を保ち、長時間安定に分散状態が保たれているものをいう。本発明では、接着剤組成物を構成する際にこのような安定した分散状態が保たれるものであれば、基本的にはどのような金属化合物コロイドも使用することができる。
【0017】
上記のような配合量で金属化合物コロイドを含むことにより、本発明の接着剤組成物を使用して形成した接着層は、せん断強度が向上する。そのため、偏光子を接着して偏光板を構成すると、熱衝撃によって偏光子が伸縮した場合にも、偏光子の動きを、接着層が効果的に抑え得る。したがって、本発明の接着剤組成物による接着層は、このような場合にも偏光子の割れを効果的に防止することができる。
【0018】
本発明の接着剤組成物を用いて形成された接着層のせん断強度が向上する理由は、以下のように推測される。本発明の接着剤組成物のうち、主として接着性を発揮するのはポリビニルアルコール系樹脂であるが、ポリビニルアルコール系樹脂は分子内に多数の水酸基を有している。一方、金属化合物コロイドも粒子の外側表面が電荷を帯びており、これがポリビニルアルコール系樹脂の水酸基との水素結合的な相互作用を生じていると考えられる。このような、接着層内部のコロイド粒子と樹脂との相互作用により、接着層のせん断強度が向上すると考えられる。しかしながら、上記は推測であり、本発明はこのようなメカニズムに限定はされない。
【0019】
また、単純には、接着層のせん断強度を強くするには、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度を大きくすることができる。しかしながら、この場合には、接着剤組成物の粘度が高くなるため、塗工性が低下し、塗膜が厚くなるために塗膜にうねりが発生する、塗工筋に起因する厚さむらが生じる等の恐れがある。また、硬化剤を増量し、ポリビニルアルコール系樹脂の架橋度を上げることでもせん断強度は向上し得るが、この場合には、接着剤組成物の可使時間(ポットライフ)が短くなり、実使用に適さないという恐れがある。
【0020】
本発明に使用し得る金属化合物コロイドとしては、Al、SnO、SiO、SbO、ZnO、TiO等のコロイドが挙げられる。上記金属化合物コロイドは、単独で使用されても、または2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。このうち、特に接着剤組成物としたときに分散性が優れること、および、入手しやすさの点から、AlコロイドおよびSnOコロイドが好ましい。
【0021】
金属化合物コロイドの平均粒径は、1〜200nmが好ましく、より好ましくは5〜100nmである。このような範囲の平均粒径であれば、接着剤組成物中でコロイド状態が安定して維持されやすい。
【0022】
金属化合物コロイドの分散媒としては、水が好ましい。偏光板用接着剤組成物に使用する場合には、ポリビニルアルコール系樹脂を使用する接着剤組成物自体が水溶系であるため、混合しやすいからである。
【0023】
金属化合物コロイドは、自ら調製してもよいが、市販品を使用することもできる。本発明に使用し得る市販品としては、川研ファインケミカル株式会社製アルミゾル−10A、アルミゾル−A2、日産化学工業株式会社製セルナックス(登録商標)CX−S301H、CX−Z610M−F2、日産化学工業株式会社製スノーテックス(登録商標)ST‐C、ST−O、ST−OL、ST−OYL、ナノユース(登録商標)ZR−30BF、ZR−30AL、アルミナゾル−100、−200、−520日揮触媒化成株式会社製オプトレイク(登録商標)TR−502、TR504、TR505、多木化学株式会社製タイノックA−6、タイノックM−6、タイノックAM−15、セラメースS−8、セラメースC−10、パイラールAl−L7等が挙げられる。このうち、接着剤組成物中での分散安定性や入手し易さの観点から、アルミゾル−10Aおよびセルナックス(登録商標)CX−S301Hが特に好ましい。
【0024】
金属化合物コロイドの配合量は、接着剤組成物中、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して200質量部を超えて300質量部未満である。200質量部以下では、熱衝撃に対して十分な耐久性を実現することが困難である。一方、300質量部以上では、偏光板用接着剤としての保護フィルムと偏光子との接着性が不十分となる恐れがある。本発明において金属化合物コロイドの配合量としては、より好ましくは210〜290質量部である。この範囲であれば、熱衝撃に対する耐久性と偏光子および保護フィルムに対する接着性がよりバランス良く実現され、実使用に好適である。
【0025】
(B)硬化剤
本発明の接着剤組成物中には、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、硬化剤が10〜40質量部含まれる。硬化剤は、接着性を主として発揮するポリビニルアルコール系樹脂が熱可塑性であるため熱によって凝集力が低下する現象を、接着層内部に架橋を形成することによって防止する役割がある。さらに、本発明においては、後述するように接着剤組成物のpHを調整する役割をも有している。
【0026】
硬化剤としては、特に制限はなく、ポリビニルアルコール系樹脂に対して反応性を有する官能基を有する化合物であればよく、従来ポリビニルアルコール系樹脂と共に使用されている硬化剤を使用することができる。例えば、グリオキザール、マロンジアルデヒド、スクシンジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、マレインジアルデヒド、フタルジアルデヒド等のジアルデヒド類;グリオキシル酸ナトリウム、グリオキシル酸カリウムなどのグリオキシル酸の金属塩;エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン類;トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリレンジイソシアネートアダクト、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビス(4−フェニルメタントリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート類;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジまたはトリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン等のエポキシ類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等のモノアルデヒド類;メチロール尿素、メチロールメラミン、アルキル化メチロール尿素、アルキル化メチロール化メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンとホルムアルデヒドとの縮合物等のアミノ−ホルムアルデヒド樹脂;更にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、ニッケル、ジルコニウム等の二価金属から四価金属の塩及びその酸化物が挙げられる。これら硬化剤は、単独で使用されても、2種以上を混合した形態で使用されてもよい。これらのなかでも、金属化合物コロイドの安定性を維持する観点からジアルデヒド類およびグリオキシル酸の金属塩がより好ましく、グリオキザールおよびグリオキシル酸ナトリウムが特に好適である。
【0027】
硬化剤の使用量は、接着剤組成物中10〜40質量部であり、より好ましくは、15〜35質量部である。10質量部を下回ると、偏光子および保護フィルムとの接着性が低下し、結果として偏光板の耐湿熱性が低下する。一方、40質量部を上回ると、ポリビニルアルコール系樹脂の架橋度が増すためせん断強度が上がるものの、接着剤組成物として混合した後の可使時間(ポットライフ)が短くなるため実用的ではなくなる。
【0028】
(C)ポリビニルアルコール系樹脂
ポリビニルアルコール系樹脂は、偏光板用の接着剤として、接着性を示す主要な成分である。ポリビニルアルコール系樹脂は、分子内に多数の水酸基を有しており、この水酸基が接着性を発現する。
【0029】
ポリビニルアルコール系樹脂としては特に制限はなく、いずれを使用してもよい。より具体的には、本発明に用い得るポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られたポリビニルアルコール;その誘導体;更に酢酸ビニルと共重合性を有する単量体との共重合体のケン化物; ポリビニルアルコールをアセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化等した変性ポリビニルアルコールが挙げられる。前記単量体としては、(無水)マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸及びそのエステル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン、(メタアリルスルホン酸(ソーダ)、スルホン酸ソーダ(モノアルキルマレート)、ジスルホン酸ソーダアルキルマレート、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミドアルキルスルホン酸アルカリ塩、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリドン誘導体等が挙げられる。これらポリビニルアルコール系樹脂は一種を単独でまたは二種以上を併用することができる。
【0030】
上記のうち、ポリビニルアルコール系樹脂としては、特にアセトアセチル基を有するポリビニルアルコール樹脂が好ましい。アセトアセチル基は反応性が高く、偏光板用接着剤に使用した場合に、架橋によって、高い耐久性を示すためである。アセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂とジケテンとを公知の方法で反応させて得られる。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂を酢酸等の溶媒中に分散させ、これにジケテンを添加する方法、ポリビニルアルコール系樹脂をジメチルホルムアミドまたはジオキサン等の溶媒にあらかじめ溶解させ、これにジケテンを添加する方法等が挙げられる。また、ポリビニルアルコールにジケテンガスまたは液状ジケテンを直接接触させる方法が挙げられる。
【0031】
上記のようなポリビニルアルコール系樹脂は自ら合成してもよいが、市販品を使用してもよい。本発明に用いることのできるポリビニルアルコール系樹脂としては、日本合成化学工業株式会社製ゴーセファイマー(登録商標)Z Z−100、Z−200、Z−205、Z-210、Z-300、Z−320、Z−410、株式会社クラレ製クラレポバールPVA−117、PVA−217、電気化学工業株式会社製デンカポバール(登録商標)K−05、K17−E、K−17C、H−12、H−17、PC−1000等が挙げられる。このうち特に好ましいものは、日本合成化学工業株式会社製ゴーセファイマー(登録商標)Z Z−200やZ−410である。
【0032】
本発明に使用するポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、1000〜2500が好ましい。偏光板用接着剤として使用するには耐久性および耐熱性が求められるため、そのような観点からは重合度は高い方が好ましい。一方で、重合度が高くなると溶液の粘度が高くなり、塗工性に劣るため、塗膜が厚くなるために偏光板にうねりが発生する、塗工筋に起因する厚さむらが生じる等の恐れがあるため、上記の範囲が好ましい。また、本発明に使用するポリビニルアルコール系樹脂のけん化度は、90〜100モル%が好ましく、96〜99モル%がより好ましい。この範囲のけん化度であれば、上記の範囲の重合度のポリビニルアルコール系樹脂を用いた場合に十分な耐久性および耐熱性を示し得る。
【0033】
(D)接着剤組成物の製造方法
本発明の接着剤組成物を製造するには、特に制限はなく、通常は、ポリビニルアルコール系樹脂および硬化剤を混合し、適宜濃度を調整して水溶液としたのち、金属化合物コロイドを混合して、接着剤組成物が得られる。混合方法にも特に制限はなく、室温(25℃)で、液体内が均一になるまで十分に攪拌混合すればよい。
【0034】
本発明の接着剤組成物を安定した状態で得るためには、金属化合物コロイドおよび硬化剤の組み合わせを、金属化合物コロイドの安定性を考慮して適当に選択することが好ましい。金属化合物コロイドは、上述したように粒子の表面が電荷を帯びることによってコロイド状態が保たれており、その状態が維持される適当なpH範囲がある。金属化合物コロイドの種類によって電荷が異なるため、媒体中で安定に分散できる適当なpHの範囲も異なってくる。一方、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液のpHは5〜6であり、硬化剤も種類によってその水溶液のpHは異なる。したがって、接着剤組成物中で安定にコロイドが維持されるpHになるように、金属化合物コロイドの種類と硬化剤の種類とを適当に組み合わせることが好ましい。言い換えれば、金属化合物コロイドの種類に応じて、硬化剤の選択によって接着剤組成物内のpHを制御できる。
【0035】
例えば、金属化合物コロイドとしてAlを使用する場合には、Alコロイドが安定に存在するpHは2〜5と低いため、硬化剤としては水溶液が同等のpH2〜5を示すものを組み合わせて使用することができる。このような例としては、グリオキサール(10質量%水溶液中pH3.3)が挙げられる。また、金属化合物コロイドとしてSnOを使用する場合には、SnOコロイドが安定に存在するpHは5〜7であるため、硬化剤としては水溶液が同等のpH5〜7を示すものを組み合わせて使用できる。このような硬化剤の例としては、グリオキシル酸ナトリウム(10質量%水溶液中pH6.3)が挙げられる。本発明に特に好適な組み合わせとしては、Alコロイドおよびグリオキザール、並びに、SnOコロイドおよびグリオキシル酸ナトリウムである。
【0036】
本発明の接着剤組成物の粘度は、特に制限はないが、塗工し易さを考慮すると、1〜50mPa・sが好ましい。
【0037】
また、本発明の偏光板用接着剤組成物には、必要に応じて、粘着剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐加水分解安定剤、シランカップリング剤等のシラン化合物等を添加してもよい。
【0038】
(2) 偏光板
本発明の第二の態様によれば、本発明の接着剤組成物を用いて接着した、保護フィルムと、偏光子とを備える偏光板が提供される。本発明の偏光板は、熱衝撃に対して十分な耐久性を有している。
【0039】
(A)偏光子
偏光子としては、特に制限はなく、従来公知のものを使用できる。例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性材料を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。
【0040】
このうち、平均重合度2000〜2800、けん化度90〜100モル%のポリビニルアルコールフィルムをヨウ素で染色し、5〜6倍に一軸延伸して製造した偏光子が特に好ましい。より具体的には、このような偏光子は、例えばポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素の水溶液に浸漬して染色し、延伸して得られる。ヨウ素の水溶液としては、例えば、ヨウ素/ヨウ化カリウムの0.1〜1.0質量%水溶液に浸漬することが好ましい。必要に応じて50〜70℃のホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬してもよく、洗浄や染色むら防止のために、25〜35℃の水に浸漬してもよい。延伸はヨウ素で染色した後に行っても、染色しながら延伸しても、延伸してからヨウ素で染色してもよい。染色および延伸後は、水洗し、35〜55℃で1〜10分程度乾燥してもよい。このような偏光子は、多種多様のものが市販されている。
【0041】
(B)保護フィルム
保護フィルムとしては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れる材料が好ましい。例えば、セルロースジアセテートやセルローストリアセテート等のセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系樹脂、イミド系樹脂、スルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、アリレート系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、または前記樹脂のブレンドなどが挙げられる。
【0042】
上記のうち、偏光板には、セルロースと脂肪酸のエステルであるセルロース系樹脂が好ましい。セルロース系樹脂としでは、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリプロピオネート、セルロースジプロピオネート等が挙げられる。これらのなかでも、入手し易さやコストの点からセルローストリアセテートが特に好ましい。市販品としては、富士フイルム株式会社製UV−50、UV−80、SH−80、TD−80U、TD−TAC、UZ−TAC、コニカミノルタオプト株式会社製のKCシリーズ等が挙げられる。
【0043】
(C)製造方法
偏光板の製造方法としては特に制限はなく、従来公知の方法によって、保護フィルムと偏光子とを、本発明の接着剤組成物を用いて貼り合わせ、加熱乾燥することによって製造し得る。塗布した接着剤組成物は、乾燥により接着性を発現して接着層を構成する。
【0044】
接着剤組成物を塗布する際は、保護フィルム、偏光子のいずれに塗布してもよく、双方に塗布してもよい。接着剤組成物は、乾燥後の接着層の厚みが10〜300nmになるように塗布するのが好ましい。接着層の厚みは、均一な面内厚みを得ることと、十分な接着力を得ることから、より好ましくは10〜200nmである。接着層の厚みは、接着剤組成物の溶液中の固形分濃度や接着剤組成物の塗布装置によって調整することができる。また、接着層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)によって断面を観察することにより、確認できる。接着剤組成物を塗布する方法にも特に制限はなく、接着剤組成物を直接滴下する方法、ロールコート法、噴霧法、浸漬法等の各種手段を採用できる。
【0045】
接着剤組成物を塗布した後は、偏光子と保護フィルムとをロールラミネーター等により貼り合わせる。貼り合わせた後には、乾燥工程を実施する。接着剤組成物の層は、乾燥により接着層を構成し、偏光板が完成される。乾燥温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜85℃であり、乾燥時間は1〜10分が好ましく、より好ましくは3〜7分である。
【実施例】
【0046】
以下本発明を、実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0047】
<固形分>
ポリビニルアルコール系樹脂が溶解している溶液の固形分の測定は、以下の方法で行った。ポリビニルアルコール系樹脂溶液 約1gを、精秤したガラス皿に精秤する。105℃で1時間乾燥した後室温(25℃)に戻し、ガラス皿と残存固形分との合計の質量を精秤する。ガラス皿の質量をX、乾燥する前のガラス皿と樹脂溶液との合計の質量をY、ガラス皿と残存固形分との合計の質量Zとして、下記数式1により固形分を算出した。
【0048】
【数1】

【0049】
<実施例1>
<接着剤組成物の調製>
ポリビニルアルコール樹脂(日本合成化学工業株式会社製ゴーセファイマー(登録商標)Z Z−410)を固形分2質量%になるように調整して水溶液とした。この水溶液に、硬化剤として、有効成分10質量%に調製したグリオキシル酸ナトリウム水溶液(pH6.3)を混合した。次いでこの混合液に、固形分10質量%に調整し分散させたSnOコロイド(日産化学工業株式会社製セルナックス(登録商標)CX−S301H、pH6.9、平均粒径10nm)を、室温(25℃)で、目視で均一になるまで混合し、接着剤組成物溶液とした。それぞれの材料の配合比(有効成分比)は、下記表1に示すとおりである。
【0050】
<偏光板の製造>
偏光子は、以下の方法で作成した。平均重合度2400、けん化度99.9%の厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを、28℃の温水中に90秒間浸漬し膨潤させ、次いで、ヨウ素/ヨウ化カリウム(重量比2/3)の濃度0.6重量%の水溶液に浸漬し、2.1倍に延伸させながらポリビニルアルコールフィルムを染色した。その後、60℃のホウ酸エステル水溶液中で合計の延伸倍率が5.8倍となるように延伸を行い、水洗、45℃で3分乾燥を行い、偏光子を作成した。
【0051】
図1に示すように、セルローストリアセテートフィルム(厚み80μm、TACと略記する)2枚の間に上記の偏光子(厚み80μm)を挟み、上記のように得られた接着剤組成物溶液を、TACと偏光子とのそれぞれの間にスポイトによって適量滴下し、ロールプレスによって貼り合わせた。このように貼り合わせた乾燥前の偏光板は、70℃で5分間乾燥し、接着層によって接着された偏光板を得た。
【0052】
得られた偏光板は、下記のようにして、熱衝撃試験、光学特性測定、裁断試験、強制剥離試験および耐湿熱試験を実施し、評価した。評価結果は、接着剤組成物の組成と共に後掲の表1に示す。
【0053】
<熱衝撃試験(偏光子割れ)>
得られた偏光板を、Thomson刃で5cm×5cmに裁断し、試片とした。この試片を、図2(a)に示すように、瞬間接着剤(東亞合成株式会社製アロンアルファ(登録商標)一般用)で、耐水研磨紙(♯280)で研磨したSUS板に貼り合わせた。その後、室温(25℃)で24時間熟成を行った。
【0054】
熟成した試片を用い、85℃で1時間放置し、次いで−40℃で1時間放置することを連続して30サイクル繰り返す、熱衝撃試験を行った。熱衝撃を与えた後、図2(b)に示すように、偏光子の延伸方向に、偏光板の端部から割れが入っているかどうか、入っている場合にはその割れの長さを観察した。割れが複数観察される場合には、平均値とした。割れの長さが端部から0.5mm未満であれば、熱衝撃による偏光子割れが防止できたと判断した。
【0055】
<光学特性>
得られた偏光板は、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製 HazeMeter NDH5000W)を用いて、透過率およびヘイズの測定を行った。透過率は43%以上、ヘイズは0.5%以下であれば、偏光板として実使用に適するとした。
【0056】
<裁断試験>
得られた偏光板を、Thonsom刃で5cm×5cmに裁断し、裁断の際の端部のはがれの状態を目視で観察した。はがれの長さが端部から0.5mm未満であれば、接着性が十分であるとした。
【0057】
<強制剥離試験>
得られた偏光板の一面のTACフィルムに、図3に示すように、ナイフで切れ目(ハーフカット)を入れた。次いで、ハーフカット部が凸側となるように曲げ、かつ、偏光板の折れが発生するまで、図3に示すように変形を行った。その後、折れが発生している箇所のTACフィルムの剥離の状態を目視で観察した。剥離が観察されない場合に、接着性が十分であるとした。
【0058】
<耐湿熱試験>
得られた偏光板をThonsom刃で5cm×5cmに裁断し、試片とした。この試片を、60℃、99%RHの雰囲気下で3時間保管し、その後の偏光子の収縮幅を測定した。収縮幅が0.5mm未満であれば、耐湿熱性が十分であるとした。
【0059】
<実施例2〜8>
実施例2〜8では、実施例1において、下記表1および3に示す種類および配合比の、硬化剤および金属化合物コロイドをそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして偏光板を製造し、評価した。なお、Alコロイドとしては、川研ファインケミカル株式会社製アルミゾル−10A(pH3.9、平均粒径10nm)を使用し、Alコロイドを使用した場合の硬化剤としては、有効成分10質量%に調製したグリオキザール(pH3.3)を使用した。評価結果は併せて表1および3に示す。
【0060】
<比較例1〜14>
比較例1〜14では、実施例1において、下記表2、4に示す種類および配合比の硬化剤および金属化合物コロイドをそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして偏光板を製造し、評価した。なお、SnOコロイドとしては固形分10質量%に調整し分散させたSnOコロイド(日産化学工業株式会社製セルナックス(登録商標)CX−S301H、pH6.9、平均粒径10nm)を使用し、SnOコロイドを使用した場合の硬化剤は、有効成分10質量%に調製したグリオキシル酸ナトリウム水溶液(pH6.3)を使用した。また、Alコロイドとしては、川研ファインケミカル株式会社製アルミゾル−10A(pH3.9、平均粒径10nm)を使用し、Alコロイドを使用した場合の硬化剤は、有効成分10質量%に調製したグリオキザール(pH3.3)を使用した。評価結果は併せて表2、4に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
上記表1〜4に示されるように、実施例1〜6では、いずれも熱衝撃試験での偏光子割れが防止され、光学特性、接着性および耐湿熱性も十分であった。
【0066】
これに対して、金属化合物コロイドの配合量が少ない比較例1〜3、10および13では、いずれも偏光子割れが観察された。一方、金属化合物コロイドの配合量の多い比較例4、5、11、12および14では、偏光子割れは見られなかったものの、裁断試験、強制剥離試験および耐湿熱試験において剥離が観察され、本発明の偏光板よりも接着強度に劣っていることが分かる。
【0067】
また、硬化剤の配合量が少ない比較例6、8では、偏光子割れが観察されると共に、裁断試験、強制剥離試験および耐湿熱試験において剥離が観察され、接着性も十分ではないことが分かる。一方、硬化剤の配合量が多い比較例7、9では、偏光子割れは見られないものの、共通して耐湿熱試験において剥離が見られ、耐湿熱性が十分でないことが分かる。
【0068】
このように、本発明による接着剤組成物を用いた接着層はせん断強度が向上していると考えられ、偏光板への熱衝撃に対して、偏光子割れが効果的に防止できることが示された。さらに、本発明によれば、接着性、光学特性、および耐湿熱性においても、偏光板に好適な特性を示すことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂100質量部と、
硬化剤10〜40質量部と、
金属化合物コロイド200質量部を超えて300質量部未満と、
を含む偏光板用接着剤組成物。
【請求項2】
前記金属化合物コロイドが210〜290質量部含まれる請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記金属化合物コロイドが、AlおよびSnOからなる群から選択される少なくとも一種のコロイドである請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着剤組成物を用いて接着した、保護フィルムと、偏光子とを備える偏光板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−37135(P2013−37135A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172172(P2011−172172)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】