説明

偏光板用粘着剤組成物

【課題】液晶表示装置を構成する偏光板に使用する粘着剤組成物であって、耐久性や加工適性を損なうことなく、偏光板の伸縮に起因する液晶表示装置の色むら・白抜け現象の発生を防止でき、リワーク性にも優れた粘着剤層を形成するための粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】官能基を有するアクリル樹脂(A)100質量部と、官能基を有さないアクリル樹脂(B)100〜500質量部と、架橋剤(C)と、シランカップリング剤(D)とを含み、モノマーaと、モノマーbとが、そのモノマー組成において少なくとも90質量%が同一であることを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の液晶セルなどの光学部品に偏光板を貼着するために用いる偏光板用粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置を構成する液晶セルは、所定の方向に配向した液晶成分を2枚のガラス基板で挟み、これらのガラス基板の外側に光学用粘着剤組成物から形成された粘着剤層を介して偏光板または偏光板と位相差板との積層体などの光学機能性フィルムを貼着してなるものである。近年、車両搭載用、屋外計器用およびパソコンなどのディスプレイまたはテレビなどの表示装置の軽量化および薄型化により、液晶表示装置が広く使用されるようになり、その需要はますます増加傾向にある。それに伴い液晶表示装置の使用環境も、屋内外を問わず非常に過酷になってきている。
【0003】
液晶表示装置に使用される偏光板は、ポリビニルアルコール系偏光子の両面をトリアセチルセルロース系保護フィルムで挟んだ3層構造を有しているが、それらの材料の特性から寸法安定性に乏しい。また、偏光板などの光学機能性フィルムは延伸によって成形されているため、経時による伸縮が起こり易い。このため、液晶表示装置においては、光学機能性フィルムの伸縮により生じる内部応力を、粘着剤層が吸収・緩和することができないと、光学機能性フィルムに作用する残留応力の分布が不均一となり、特にその周縁部に応力が集中する。その結果、液晶表示装置の周縁部が中央より明るくなったり、または暗くなったりし、液晶表示装置に色むら・白抜け現象が発生する原因になる。
【0004】
また、液晶表示装置に色むら・白抜け現象が発生する他の要因として、応力によって光学機能性フィルムや粘着剤層に発生する光学的な歪(複屈折の発生など)が考えられる。
【0005】
上記の問題点を解決するために多くの手段が検討されてきた。例えば、特許文献1では、官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする分子量100万以上の高分子量ポリマーと、官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする分子量3万以下の低分子量ポリマーとからなる粘着剤組成物が開示されている。また、特許文献2では、反応性官能基を含有する重量平均分子量100〜250万の高分子量アクリル系ポリマーと、反応性官能基を含有する重量平均分子量3〜10万の低分子量アクリル系ポリマーとからなる粘着剤組成物が開示されている。これらの粘着剤は、高分子量化合物と低分子量重合物とを混合することにより、粘着剤自体に柔軟性を持たせ、偏光板が収縮した時の歪みなどの応力を緩和させることが可能なため、色むら・白抜けに関しては良好である。しかしながら、耐久性や加工適性にやや劣るという新たな問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−279907号公報
【特許文献2】特許第4072309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、液晶表示装置を構成する偏光板に使用する粘着剤組成物であって、耐久性や加工適性を損なうことなく、偏光板の伸縮に起因する液晶表示装置の色むら・白抜け現象の発生を防止でき、リワーク性にも優れた粘着剤層を形成するための粘着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、官能基を有するアクリル樹脂(A)100質量部と、官能基を有さないアクリル樹脂(B)100〜500質量部と、架橋剤(C)と、シランカップリング剤(D)とを含み、上記アクリル樹脂(A)が、(メタ)アクリルエステルモノマー(a)(以下「モノマーa」という場合がある)100質量部と、官能基含有モノマー(c)0.1〜5質量部との重量平均分子量100万〜250万の共重合体であり、上記アクリル樹脂(B)が、官能基含有モノマーを含まない(メタ)アクリルエステルモノマー(b)(以下「モノマーb」という場合がある)の重量平均分子量100万〜250万の重合体であり、上記モノマーaと、上記モノマーbとが、そのモノマー組成において90質量%以上同一であることを特徴とする偏光板用粘着剤組成物を提供する。
【0009】
上記本発明においては、モノマーaおよびモノマーbが、それぞれ(メタ)アクリル酸の炭素数が1〜18のアルキルエステルモノマーであること;架橋剤(C)の含有量が、上記アクリル樹脂(A)100質量部あたり0.01〜2質量部であること;モノマーaとモノマーbとが、そのモノマー組成において95質量%以上同一であること;アクリル樹脂(A)および/またはアクリル樹脂(B)が、芳香族モノマー単位を含むこと;およびアクリル樹脂(A)およびアクリル樹脂(B)の単独の多分散度(Mw/Mn)が、それぞれ1.5〜4.0であり、且つアクリル樹脂(A)とアクリル樹脂(B)との混合物の多分散度が、1.5〜5.0であることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明においては、架橋剤(C)が、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物、1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物、1分子中にアジリジニル基を2個以上有するポリアジリジン化合物、1分子中にオキサゾリン基を2個以上有するポリオキサゾリン化合物および金属キレート化合物から選ばれる少なくとも1種であること;本発明の粘着剤組成物の30℃における貯蔵弾性率G´が1.0×104〜105Paであり、且つ30℃から100℃の貯蔵弾性率低下率が20%以下であること;本発明の粘着剤組成物の塗工厚25μmでのヘイズ値が1.0以下であること;および本発明の粘着剤組成物のゲル分率が5〜40%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液晶表示装置を構成する偏光板に使用する粘着剤組成物であって、耐久性や加工適性を損なうことなく、偏光板の伸縮に起因する液晶表示装置の色むら・白抜け現象の発生を防止でき、リワーク性にも優れた粘着剤層を形成するための粘着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に発明を実施するための形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明の特許請求の範囲および明細書における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」および「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。
【0013】
本発明の粘着剤組成物は、官能基を有するアクリル樹脂(A)100質量部と、官能基を有さないアクリル樹脂(B)100〜500質量部と、架橋剤(C)と、シランカップリング剤(D)とを含み、特に上記アクリル樹脂(A)と、アクリル樹脂(B)のモノマー組成に特徴がある。
【0014】
上記本発明で使用するアクリル樹脂(A)は、モノマーaと、架橋剤(C)と架橋構造形成が可能な反応性官能基を含有する共重合可能なモノマー(c)(以下単に「モノマーc」という場合がある)を主モノマーとする分子量100万〜250万の共重合体である。
【0015】
前記モノマーaとしては、(メタ)アクリル酸の炭素数が1〜18のアルキルエステルモノマーであり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独でも或いは組み合わせてもよい。
【0016】
前記モノマーcとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシルエチル(メタ)アクリレート、カルボキシルペンチル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基含有モノマー、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシルブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシルヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどの水酸基含有モノマー、その他、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシルブチル(メタ)アクリレート、ジメチル(メタ)アクリルアミドであり、これらは単独でも或いは組み合わせてもよい。
【0017】
モノマーcの使用量は、モノマーaを100質量部としたときに0.1〜5質量部である。前記モノマーcの使用割合が0.1質量部未満であると、アクリル樹脂(A)を架橋剤(C)で架橋させたときに、架橋後のゲル分率が低く、粘着剤層の耐久性が劣り、粘着剤層の剥がれが発生し、十分に色むら・白抜けを抑えることができず、リワーク性も不十分である。一方、前記モノマーcの使用割合が5質量部を超えると、架橋剤添加後のアクリル樹脂(A)のゲル化を促進してしまうためゲル分率が高くなり、粘着剤層の耐久性試験において剥がれ易くなる。
【0018】
上記本発明で使用するアクリル樹脂(A)は、さらに、芳香族モノマー単位を含有し得る。芳香族モノマーとは、構造中に芳香族基を含むモノマーであり、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。これら芳香族モノマーを共重合することにより、形成した粘着剤層の屈折率および複屈折を調整でき、色むら・白抜けの発生を防止することが可能となる。芳香族モノマーを使用する場合の芳香族モノマーの使用量は、前記モノマーa100質量部あたり5〜30質量部の範囲が好ましい。
【0019】
本発明で使用するアクリル樹脂(B)は、反応性官能基を含有しないモノマーbを主モノマーとする分子量100万〜250万の重合体である。
【0020】
前記モノマーbとしては、モノマーaと同様に(メタ)アクリル酸の炭素数が1〜18のアルキルエステルモノマーであり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独でも或いは組み合わせてもよい。
【0021】
上記本発明で使用するアクリル樹脂(B)は、さらに、芳香族モノマー単位を含有し得る。芳香族モノマーとは、構造中に芳香族基を含むモノマーであり、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。これら芳香族モノマーを共重合することにより、形成した粘着剤層の屈折率および複屈折を調整でき、色むら・白抜けの発生を防止することが可能となる。芳香族モノマーを使用する場合の芳香族モノマーの使用量は、前記モノマーb100質量部あたり5〜30質量部の範囲が好ましい。
【0022】
上記本発明で使用するアクリル樹脂(A)および(B)の重量平均分子量(GPC測定、標準ポリスチレン換算)は100万〜250万である。アクリル樹脂(A)および(B)の重量平均分子量が100万未満であると、粘着剤組成物とし、かつ粘着剤層を形成した場合、その粘着剤層の耐久性が不十分となる。一方、アクリル樹脂(A)および(B)の重量平均分子量が250万を超えると、色むら・白抜け現象の発生の抑制が不十分である。
【0023】
また、本発明で使用するアクリル樹脂(A)および(B)を構成するモノマーaとモノマーbの組成は、そのモノマー組成において90質量%以上同一である必要がある。好ましくは、そのモノマー組成において95質量%以上同一である。モノマーaとモノマーbのモノマー組成の同一の割合が90質量%未満であると、アクリル樹脂(A)と(B)の相溶性が悪くなるため、加工適性が悪く、粘着剤層のヘイズ値が高くなるばかりでなく、リワーク時に糊残りが発生するなど、リワーク性にも劣る。
【0024】
本発明で使用するアクリル樹脂(A)および(B)の単独の多分散度(Mw/Mn)は、それぞれ1.5〜4.0であり、且つアクリル樹脂(A)と(B)との混合物の多分散度は、1.5〜5.0であることが好ましい。
ここで、「多分散度」とは、アクリル樹脂中の高分子量成分と低分子量成分の分布をみるための指標であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とによりMw/Mnで表される。この多分散度の数値が小さいほど、その分子量分布のピークはシャープなものとなる。従来の色むら・白抜けに関して良好な低分子量アクリルポリマーを含む粘着剤組成物の多分散度は6.0以上と大きく、これは耐久性や加工適性を低下させる原因となる。本発明の粘着剤組成物は、アクリル樹脂単独の多分散度、およびアクリル樹脂の混合物の多分散度を低く設計した粘着剤組成物であるため、形成した粘着剤層の耐久性や加工適性は優れたものとなる。
【0025】
アクリル樹脂(A)および(B)の単独の多分散度を1.5未満にすることは困難であり、一方、単独の多分散度が4.0を超えると、粘着剤組成物の多分散度が高くなり、粘着剤層の耐久性や加工適性が低下するので好ましくない。また、アクリル樹脂(A)と(B)との混合物の多分散度を1.5未満とすることは困難であり、一方、混合物の多分散度が5.0を超えると粘着剤層の耐久性や加工適性が低下するので好ましくない。
【0026】
本発明では、前記アクリル樹脂(B)の使用量は、アクリル樹脂(A)100質量部に対して100〜500質量部である。アクリル樹脂(B)の使用量が100質量部未満であると、形成した粘着剤層は応力緩和性に劣り、色むら・白抜け現象の発生を防止できない。一方、アクリル樹脂(B)の使用量が500質量部を超えると、色むら・白抜け現象の発生は防止できるが、形成した粘着剤層の耐久性に劣る。
【0027】
上記本発明で使用する架橋剤(C)は、アクリル樹脂(A)を構成するモノマーcの反応性官能基と反応し、架橋構造を形成し得るものであり、例えば、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物、1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物、1分子中にアジリジニル基を2個以上有するポリアジリジン化合物、1分子中にオキサゾリン基を2個以上有するポリオキサゾリン化合物および金属キレート化合物から選ばれる少なくとも1種である。
【0028】
具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどとトリメチロールプロパンなどとのアダクト体、イソシアヌレート化合物、ビュレット型化合物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどのポリイソシアネート化合物、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキサミド)、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサミド)、N,N’−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキサミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートなどのポリグリシジル化合物、2,2’−p−フェニレン−ビス−(1,3−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(1,3−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)などの低分子量ポリ(1,3−オキサゾリン)化合物、2−イソプロペニル−1,3−オキサゾリンなどの1,3−オキサゾリン基含有ビニル系単量体の単独重合体、または該1,3−オキサゾリン基含有ビニル系単量体を共重合可能な各種のビニル系単量体と共重合させた、1,3−オキサゾリン基を含有するビニル系重合体、アルミニウムキレート、ジルコニウムキレート、チタニウムキレートなどの金属キレート化合物などが挙げられ、特に、ポリイソシアネート化合物、ポリグリシジル化合物、金属キレート化合物が好ましい。これらの架橋剤は、1種類もしくは2種類以上の併用で使用することが可能である。
【0029】
架橋剤(C)の使用量は、アクリル樹脂(A)100質量部に対して0.01〜2質量部であるのが好ましい。架橋剤(C)の使用量が0.01質量部未満であると、粘着剤(樹脂)の架橋密度が下がり、耐久性が劣るので好ましくない。また、架橋剤(C)の使用量が2質量部を超えると、粘着剤(樹脂)の架橋密度が上がり過ぎて、耐久性試験において剥がれやすくなり、色むら・白抜けも十分に抑えられなくなるので好ましくない。
【0030】
本発明で使用するシランカップリング剤(D)は、粘着剤の分野において公知のシランカップリング剤が使用でき、例えば、メルカプト基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤などが挙げられる。シランカップリング剤(D)の使用量は、アクリル樹脂(A)100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましい。
【0031】
本発明のアクリル樹脂(A)および(B)は、通常の溶液重合、塊状重合、乳化重合または懸濁重合などにより製造することができるが、上記アクリル樹脂(A)および(B)が溶液として得られる溶液重合により製造することが好ましい。上記アクリル樹脂(A)および(B)が溶液として得られることにより、そのまま本発明の粘着剤組成物の製造に使用することができる。この溶液重合に使用する溶剤としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、n−ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤を挙げることができる。
【0032】
また、重合に使用する重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物または高分子アゾ重合開始剤などを挙げることができ、これらは単独でもまたは組み合わせても使用することができる。また、上記重合においては、アクリル樹脂(A)および(B)の分子量を調整するために従来公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0033】
本発明の粘着剤組成物は、さらに粘着力を調整する目的など、必要な特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、種々の添加剤を配合してもよい。例えば、テルペン系、テルペン−フェノール系、クマロンインデン系、スチレン系、ロジン系、キシレン系、フェノール系または石油系などの粘着付与樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料などを配合することができる。また、本発明の粘着剤組成物の製造方法自体は公知の方法でよく特に限定されないが、有機溶剤を含んだ溶液形態であることが好ましく、この場合、粘着剤層の形成が容易となる。
【0034】
本発明の粘着剤組成物は、偏光板用の粘着剤として適しており、本発明の粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成した偏光板は、高温或いは高温高湿下においてもガラス基板などから剥れることなく、粘着剤層に発泡が生じることのない特性(耐久性)と、長期間時間が経過しても容易に剥離でき、また、剥離後において基板などに残留物が生じない特性(リワーク性)とを併せ持つ。
【0035】
すなわち、上記偏光板が、ディスコティック液晶がコートされている偏光板である場合には、コートされていない偏光板(一般的には、無処理トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、通常接触角は60〜70°)に比べて、85〜95°と接触角が高く、粘着剤との密着性が劣るため、粘着剤層とパネルガラス表面との間の発泡または偏光板の浮き、剥がれが発生しやすく、かつ白抜けが発生しやすいなどの課題があるが、本発明の粘着剤組成物の使用により上記課題が解決された。
【0036】
ディスコティック液晶がコートされている偏光板とは、TACフィルム上に、側鎖の末端に架橋基を有しているトリフェニレン系のディスコティック化合物が架橋し、配向状態に保たれたディスコティック層が有する視野角拡大フィルムと偏光フィルムとが一体化してなる偏光板であり、例えば、ポリビニルアルコール系偏光子(PVA)の両面に、それぞれTACフィルムを貼り合わせてなる偏光フィルムの片面に、例えば、ディスコティック液晶からなる視野角拡大機能層を塗布により設けたもの、あるいは視野角拡大フィルムを接着剤で貼り合わせたものなどを挙げることができる。特に、ディスコティック液晶がコートされた偏光板は、モニター(通常7〜26インチ)用に使用され、上記で説明したように視野角を拡大するために使用されている。
【0037】
また、上記偏光板が、延伸フィルム、例えば、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルムまたは延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とした偏光板である場合には、一般的な偏光板(無処理TACフィルムを使用したもの)に比べて、フィルムが延伸されているために収縮率が大きく、特に、対角型に色むら・白抜け現象が発生し、それを抑制するのに不十分であるなどの課題がある。上記偏光板は、テレビ(通常15〜60インチ)用に使用され、色相、コントラストを向上させ、位相差をなくすためのものであり、このような課題が本発明の粘着剤組成物の使用により解決された。
【0038】
ここで、従来の応力緩和型の粘着剤組成物の場合、粘着剤層の30℃から100℃の貯蔵弾性率は、高温領域において低下するため貯蔵弾性率低下率は大きくなり、高温領域での耐久性に悪影響を及ぼしていた。しかし、本発明の粘着剤組成物は、従来の応力緩和型の粘着剤組成物に含まれる低分子量成分を含まないため、高温領域においても貯蔵弾性率を低下させず、上記貯蔵弾性率低下率を小さくすることが可能となり、高温での耐久性に優れた粘着剤層を形成することができる。
【0039】
すなわち、本発明の粘着剤組成物は、粘着剤層を形成した場合、その粘着剤層の30℃での貯蔵弾性率G´が1.0×104〜105Paであり、且つ30℃から100℃の貯蔵弾性率低下率が20%以下であることが好ましい。30℃での貯蔵弾性率が1.0×104Pa未満であると、色むらおよび白抜けに関しては良好だが、低温領域での耐久性に劣り、また、30℃での貯蔵弾性率が1.0×105Paを超えると、応力緩和型としての色むらおよび白抜けに劣る。一方で、30℃から100℃の貯蔵弾性率低下率が20%を超えると、高温領域での耐久性が劣るため好ましくない。
【0040】
本発明の粘着剤組成物は、通常使用されている塗布装置、例えば、ロール塗布装置などを用いて、上記偏光板の片面或いは両面に塗工し、塗工層を乾燥することにより粘着剤層を形成するのに使用する。また、本発明の粘着剤組成物を、まず、シリコーン樹脂などの剥離剤を表面にコートしたポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)などの保護フィルムに粘着剤組成物を塗布して乾燥し粘着剤層を形成した後に、該粘着剤層に上記偏光板を貼り合わせる方法でも使用できる。
【0041】
本発明の粘着剤組成物の塗布量は、乾燥後の粘着剤層の厚さが、10〜25μmとなる程度であることが好ましい。特に、上記粘着剤層の25μm塗工厚でのヘイズ値を1.0以下とすることで、より耐久性とリワーク性のバランスがとれた偏光板となる。
【0042】
また、本発明の粘着剤組成物により形成された粘着剤層のゲル分率は5〜40%であることが好ましく、より好ましくは10〜30%である。上記ゲル分率が5%未満であると、色むら・白抜け現象の発生に対しては良好であるが、耐久性および偏光板加工時の加工適性に劣り、一方で、ゲル分率が40%を超えると、十分に色むら・白抜け現象の発生を防止できず、好ましくない。以上の本発明の粘着剤組成物を用いた偏光板は、通常使用されている手段にて、液晶表示装置のガラス基板上に貼着することができる。
【実施例】
【0043】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」とあるのは質量基準である。
<アクリル樹脂(A)および(B)の調製>
[A−1〜6、B−1〜6]
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後、この反応装置中に、ブチルアクリレート100部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを0.1部、および反応溶剤として酢酸エチルを100部加えた。これを攪拌させながら、窒素ガス気流中において、60℃で8時間反応させた後、酢酸エチルで希釈して重量平均分子量200万のアクリル樹脂A−1の溶液を固形分15質量%で得た。同様にして表1に記載のモノマー組成でアクリル樹脂A−2〜6、B−1〜6の溶液を固形分15質量%で得た。これらのアクリル樹脂の溶液には、芳香族モノマーを含む例も含まれている。
【0044】

【0045】
BA:ブチルアクリレート
MA:メチルアクリレート
PHEA:フェノキシエチルアクリレート
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
AAc:アクリル酸
4HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート
CEA:カルボキシエチルアクリレート
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
【0046】
上記において、重量平均分子量(Mw)の値は、GPC(GEL Permeation Chromatography)法により測定したポリスチレン換算分子量である。詳しくは、重合体を常温で乾燥させて得られた塗膜をテトラヒドロフランに溶解し、高速液体クロマトグラフ(島津製作所製、LC−10ADvp、カラムKF−G+KF−806×2本)で測定し、ポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0047】
ここで、下記表2に示す「モノマー組成の同一割合」とは、モノマーaおよびbのモノマー組成をそれぞれ100質量%とした場合における、モノマーaおよびbに共通するモノマーの合計の割合を算出した値である。例えば、上記表1中、A−2とB−3では、モノマーaおよびbに共通するモノマーは、BAが80質量%であるので、A−2とB−3におけるモノマー組成の同一割合は80%となる。また、A−2とB−5では、モノマーaおよびbに共通するモノマーは、BAが80質量%とMAが5質量%であるので、A−2とB−5におけるモノマー組成の同一割合は85%となる。
【0048】
<粘着剤組成物、偏光板の作製および評価>
[実施例1〜8、比較例1〜5]
アクリル樹脂A−1の固形分100部に対して、アクリル樹脂B−1を500部、コロネートLを0.2部、KBM−403を0.1部混合して実施例1の粘着剤組成物とした。該組成物をシリコーン樹脂コートされたPETフィルム上に塗布後、90℃で乾燥することによって溶媒を除去し、厚さ25μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層を形成した面に、厚さ180μmの偏光板(EWV)を貼り合わせた後、23℃、50%RHの雰囲気で7日間養生することにより、実施例1の偏光板を作製した。該実施例1と同様にして表2に記載の成分を混合して実施例1〜8および比較例1〜5の粘着剤組成物および偏光板を得た。なお、加工適性についても表2に示す。
【0049】

【0050】
コロネートL:日本ポリウレタン工業(株)製 ポリイソシアネート
タケネートD−110N:三井化学(株)製 キシレンジイソシアネート化合物
TAZM:相互薬工(株)製 トリメチロールプロパン−トリス−(β−アジリジニルプロピオナート
タケネートD−120N:三井化学(株)製 水添キシレンジイソシアネート化合物
アルミキレートA:川研ファインケミカル(株)製 アルミニウムトリスアセチル
テトラッドC:三菱瓦斯化学(株)製 ポリグリシジル化合物
KBM−403:信越化学工業(株)製 3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
KBM−803:信越化学工業(株)製 γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン
KBM−802:信越化学工業(株)製 γ−メルカプトプロピルメチルトリメトキシシラン
X−41−1810:信越化学工業(株)製 メチルメルカプト系アルコキシオリゴマー
X−41−1805:信越化学工業(株)製 メルカプト系アルコキシオリゴマー
【0051】
[混合物の多分散度の測定方法]
上記表2中の混合物の多分散度は、アクリル樹脂(A)と(B)とを表2に記載の割合で混合したものを用い、従来の分子量測定と同様の方法で測定することにより得られる。
【0052】
[加工適性]
実施例および比較例の粘着剤組成物を塗工し、偏光板に転写した枚葉の偏光板を30枚重ねて、偏光板打ち抜き機で断裁した時の偏光板側面からの粘着剤のはみ出しを目視にて観察した。
・評価基準
○:断裁側面から粘着剤のはみ出しが確認されない。
△:断裁側面から粘着剤のはみ出しが僅かに確認された。
×:断裁側面から粘着剤のはみ出しが確認された。
【0053】
この偏光板を後述する試験方法にて耐久性、ゲル分率(%)、貯蔵弾性率(Pa)、貯蔵弾性率低下率(%)、ヘイズ値および白抜けの評価を行った。実施例の評価結果は全ての項目で良好であった。評価結果を表3に示す。
【0054】
<試験方法および評価基準>
[耐久性試験]
実施例および比較例における偏光板を、それぞれ200mm×300mmに断裁し、PETフィルムを剥離した後、ガラス基板上に貼り付け、オートクレーブ処理を行い、評価用サンプルを作製した。得られた評価用サンプルについて、それぞれ下記項目の試験を行った。
【0055】
(1)80℃
上記評価用サンプルを、80℃(DRY)の雰囲気下に500時間放置した後、発泡および剥がれの発生状態について目視により確認した。評価基準は下記の通りである。
(2)60℃・90%RH
上記評価用サンプルを、60℃・90%RHの雰囲気下に500時間放置した後、発泡および剥がれの発生状態について目視により確認した。評価基準は下記の通りである。
【0056】
・評価基準
○:偏光板に発泡、剥がれが確認されない。
△:偏光板に発泡、剥がれが僅かに確認された。
×:偏光板に発泡、剥がれが確認された。
【0057】
[ゲル分率]
架橋後の粘着剤皮膜を0.2g正確に秤量(W1)して酢酸エチル50mlに1日間浸漬した後、200メッシュの金網を秤量後(W2)ろ過して可溶分を抽出した。その後乾燥させて不溶部分の重量(W3)を求めた。これら測定値から以下の式を使いゲル分率(重量%)を算出した。
ゲル分率(重量%)=((W3−W2)/W1)×100
【0058】
[貯蔵弾性率]
架橋後の粘着剤皮膜25μmを固体剪断治具に挟み、(株)ユービーエム製Rheogel−E4000を用いて30℃での貯蔵弾性率(G´)を周波数1Hzで測定した。
[貯蔵弾性率低下率]
上記と同様にして、100℃での貯蔵弾性率を測定し、以下の式より算出した。
(100℃の貯蔵弾性率(G´)/30℃の貯蔵弾性率(G´))×100
【0059】
[ヘイズ値]
実施例および比較例の粘着剤組成物を25μm厚で塗工し、ガラス上に貼り合わせ、日本電色工業製 NDH5000Wヘーズメーターによって、ヘイズ値を測定した。
【0060】
[白抜け試験]
実施例および比較例における偏光板を用いた80℃耐久性試験後の同試料を2枚クロスニコルにして貼り合わせた後、19inch角の試料を作成し、液晶モニターのバックライト上に置き、白抜けの状態を目視で観察した。
【0061】
・評価基準
○:偏光板に白抜けが観察されなかった。
△:偏光板に白抜けが僅かに観察された。
×:偏光板に白抜けが観察された。
【0062】

EWV:ディスコティック液晶がコートされている偏光板
延伸TAC:延伸トリアセチルセルロースフィルムを使用した偏光板
延伸CAP:延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを使用した偏光板
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、液晶表示装置を構成する偏光板に使用する粘着剤組成物であって、耐久性や加工適性を損なうことなく、偏光板の伸縮に起因する液晶表示装置の色むら・白抜け現象の発生を防止でき、リワーク性にも優れた粘着剤層を形成するための粘着剤組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基を有するアクリル樹脂(A)100質量部と、官能基を有さないアクリル樹脂(B)100〜500質量部と、架橋剤(C)と、シランカップリング剤(D)とを含み、
上記アクリル樹脂(A)が、(メタ)アクリルエステルモノマー(a)(以下「モノマーa」という場合がある)100質量部と、官能基含有モノマー(c)0.1〜5質量部との重量平均分子量100万〜250万の共重合体であり、上記アクリル樹脂(B)が、官能基含有モノマーを含まない(メタ)アクリルエステルモノマー(b)(以下「モノマーb」という場合がある)の重量平均分子量100万〜250万の重合体であり、上記モノマーaと、上記モノマーbとが、そのモノマー組成において90質量%以上同一であることを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。
【請求項2】
モノマーaおよびモノマーbが、それぞれ(メタ)アクリル酸の炭素数が1〜18のアルキルエステルモノマーである請求項1に記載の偏光板用粘着剤組成物。
【請求項3】
架橋剤(C)の含有量が、前記アクリル樹脂(A)100質量部あたり0.01〜2質量部である請求項1または2に記載の偏光板用粘着剤組成物。
【請求項4】
モノマーaとモノマーbとが、そのモノマー組成において95質量%以上同一である請求項1〜3の何れか1項に記載の偏光板用粘着剤組成物。
【請求項5】
アクリル樹脂(A)および/またはアクリル樹脂(B)が、芳香族モノマー単位を含む請求項1〜4の何れか1項に記載の偏光板用粘着剤組成物。
【請求項6】
アクリル樹脂(A)およびアクリル樹脂(B)の単独の多分散度(Mw/Mn)が、それぞれ1.5〜4.0であり、且つアクリル樹脂(A)とアクリル樹脂(B)との混合物の多分散度が、1.5〜5.0である請求項1〜5の何れか1項に記載の偏光板用粘着剤組成物。
【請求項7】
架橋剤(C)が、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物、1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物、1分子中にアジリジニル基を2個以上有するポリアジリジン化合物、1分子中にオキサゾリン基を2個以上有するポリオキサゾリン化合物および金属キレート化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6の何れか1項に記載の偏光板用粘着剤組成物。
【請求項8】
30℃における貯蔵弾性率G´が1.0×104〜105Paであり、且つ、30℃から100℃の貯蔵弾性率低下率が20%以下である請求項1〜7の何れか1項に記載の偏光板用粘着剤組成物。
【請求項9】
塗工厚25μmでのヘイズ値が1.0以下である請求項1〜8の何れか1項に記載の偏光板用粘着剤組成物。
【請求項10】
ゲル分率が5〜40%である請求項1〜9の何れか1項に記載の偏光板用粘着剤組成物。

【公開番号】特開2011−122104(P2011−122104A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282213(P2009−282213)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000105877)サイデン化学株式会社 (39)
【Fターム(参考)】