説明

偏光機能素子

【課題】低コストで作成可能な偏光機能素子であって、特定波長または周波数では、直線偏光素子として作用し、別の波長または周波数では旋光子として作用する偏光機能素子を提供する。
【解決手段】偏光機能素子1は、第1方向に延在する第1直線部4a及び第2直線部4bと、第1直線部の末端及び第2直線部の末端を連結するとともに第1方向と異なる方向に延在する連結部4cとを備える屈曲体4が、第1方向と、第1方向に直交する第2方向に互いに離間して複数配列されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置、光通信、光記録等に使用される偏光機能素子に関する。
【背景技術】
【0002】
直線偏光板は、一定方向の偏波面の光だけを通す材料であり、例えば、液晶表示素子においては電界による液晶の配向の変化を可視化させる役割を担っている。
【0003】
直線偏光素子として、例えば特許文献1に記載のワイヤーグリッド偏光子が知られている。特許文献1のワイヤーグリッド偏光子は、光透過性を有する基体上に下地層が形成され、下地層の上に、ワイヤーグリッドとしての複数の金属細線が一定の間隔で互いに平行となるように配置されている。ワイヤーグリッド偏光子は、金属細線が延在する方向と直交する方向に振動する電気ベクトルを持つ偏光成分を透過し、金属細線が延在する方向に振動する電気ベクトルを持つ偏光成分を反射することにより、金属細線が延在する方向と直交する方向の直線偏光を得ている。
【0004】
旋光素子は、直線偏光が通過するときに、直線偏光の偏光面を回転させる性質を有する素子であり、例えば、水晶等の1軸異方性結晶を用いたλ/2位相板が知られている。1軸異方性結晶を用いたλ/2位相板は、概略厚みが等しい1軸異方性がある水晶の結晶箔片を2枚互いに直交方向に貼り合わせた後、一方を所定の波長におけるリターデーションが正確にλ/2になるよう光学計測をしながら研磨する必要があるので、大量生産することが出来ず、低コストの旋光素子を作るのが困難である。
【0005】
【特許文献1】特開2005−70456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、低コストで作成可能な旋光子を実現し、かつ直線偏光子としても活用できる新規な素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従えば、第1方向に延在する第1直線部及び第2直線部と、第1直線部の末端及び第2直線部の末端を連結するとともに第1方向と異なる方向に延在する連結部とを備える屈曲体が、第1方向と、第1方向に直交する第2方向に互いに離間して複数配列されてなる偏光機能素子が提供される。
【0008】
本発明者は、偏光機能素子を構成する要素が特定の屈曲体形状及び配列構造を備えることにより、従来のワイヤーグリッド偏光子のように直線偏光素子としての作用のみならず、特定周波数では旋光子として作用することを見出した。
【0009】
従来のワイヤーグリッド偏光子では、各ワイヤー(金属細線)がワイヤーの長手方向と直交する方向に配列しており、ワイヤーの長手方向に振動する偏光成分(電場)が、ワイヤーグリッド偏光子に入射すると、ワイヤーの金属中の自由電子がそのような偏光成分によりワイヤーの長手方向に振動させられ、振動する自由電子が光を入射側に再放出するために、ワイヤーグリッド偏光子を通過することができない。一方、ワイヤーの長手方向と直交する方向に振動する偏光成分(電場)は、振動振幅が各ワイヤーの線幅よりも十分大きいためにワイヤーを通過することができる。このため、ワイヤーグリッド偏光子はワイヤーの長手方向と直交する方向に振動する偏光以外を通過させない直線偏光子として機能する。
【0010】
これに対して、本発明の偏光機能素子を構成する屈曲体は、屈曲体の長手方向(第1方向)に延在する互いに平行な第1直線部及び第2直線部の各末端を連結して長手方向と異なる方向、つまり長手方向に対して傾斜する方向に延在する連結部を有している。このような連結部(屈曲部)を有するために、屈曲体の長手方向に振動する偏光は屈曲体の自由電子を屈曲体の連結部にて屈曲体の長手方向とは異なる方向(斜め方向)に振動させることになる。このような自由電子の振動により屈曲体の長手方向と直交する方向(第2方向)の成分を有する偏光成分が発生すると考えられる。
【0011】
また、屈曲体の長手方向と直交する方向(第2方向)に振動する偏光が屈曲体に入射する場合は、屈曲体の直線部を通過可能である。また、屈曲体の連結部は、長手方向とは異なる方向に延在しているために、屈曲体の長手方向と直交する方向の偏光と作用し、連結部の自由電子を振動させて、その結果、屈曲体の長手方向に振動する偏光成分を連結部の方向のベクトル成分として生じさせると考えられる。こうして、連結部の存在により、屈曲体の長手方向及びそれと直交する方向(第1方向及び第2方向)のいずれの偏光成分であっても、屈曲体を通過することで、それらとは異なる方向の偏光成分を生じさせる。その結果、入射偏光の偏光角を回転させる旋光性が現れると考えられる。
【0012】
特に、本発明に従い、屈曲体の長手方向と直交する方向(第2方向)に隣設している屈曲体が互いに屈曲体の長手方向(第1方向)にオフセットされて、すなわち屈曲体の長手方向の位相がずれて配置されることにより、本発明の効果は顕著になることが確認された。これは以下のように考えられる。
【0013】
屈曲体の長手方向に振動する偏光成分が偏光機能素子に入射すると、図2に示すように、隣設している屈曲体はその長手方向にずれて配置されているので、屈曲体の末端に存在する自由電子の密度分布は隣設している屈曲体では逆となる。すなわち、ある屈曲体の図2中の下側末端では自由電子が密となり、それに隣設する屈曲体の上側末端では自由電子が疎となる。従って、屈曲体の長手方向と直交する方向(短手方向)には、自由電子の疎密パターンが生じることになる。この疎密パターンはアンテナとして機能するために屈曲体の長手方向と直交する方向に振動する電場を発生する。このため、屈曲体の長手方向(第1方向)に振動する直線偏光が偏光機能素子に入射しても、屈曲体の長手方向と直交する方向(第2方向)に振動する偏光成分が生じやすくなると考えられる。
【0014】
本発明の偏光機能素子は、金属製の上記屈曲体が光透過性基板上に配列されており、特定の電磁波周波数では、直線偏光素子として作用し、別の特定周波数では旋光子として作用することを特徴とする。また、前記別の特定周波数における旋光角が40度以上であり、前記屈曲体の線幅が、入射光の波長以下であることを特徴とする。さらに、前記屈曲体の第1方向長さが、前記特定の周波数に対応する電磁波の真空中における波長に概ね等しいことを特徴とする。また、前記屈曲体の厚みは100nm以上であることが好ましく、300nm以上であることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低コストでワイヤーグリッド偏光子機能とλ/2波長板機能を併せ持つ素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明に係る偏光機能素子について説明する。図1は、本発明の偏光機能素子1の斜視図であり、図2は、本発明の偏光機能素子1の一部を示す平面図である。
【0017】
偏光機能素子1は、図1に示すように、光透過性基板2と、その上に形成された密着層3と、密着層3上に配列された金属製の屈曲体4とを有する。光透過性基板2は矩形の平面形状であり、透明ガラス板や石英基板等の光透過性材料から形成することができる。密着層3は、光透過性基板2に対して、屈曲体4を密着させるための層であり、例えばCrなどの金属材料を光透過性基板2上にスパッタリング法などで堆積させることにより形成することができる。屈曲体4は、偏光機能素子1に入射する光を偏光及び/または旋光させるための素子であり、例えばAgを密着層3上にスパッタリングにより堆積してAg薄膜を形成した後、FIB(集光イオンビーム法)で所定のパターンが残るように選択的にAg薄膜を除去することにより形成することができる。複数の屈曲体4は、矩形状の光透過性基板2の一辺の方向である第1方向と、第1方向と直交する第2方向とにアレイ状に配列されている。
【0018】
各屈曲体4は、図2に示すように、第1方向に延在する第1直線部4aと、第1方向に延在する(第1直線部4aと平行な)第2直線部4bと、第1直線部4aの末端(下端)及び第2直線部4bの末端(上端)を連結するとともに、第1方向と異なる方向に延在する連結部4cとを備える。連結部4cは第1方向に対して傾斜する方向に延在している。
【0019】
偏光機能素子1は、図2に示すように、第1方向と第2方向とに互いに離間して複数配列された、上記のような形状の屈曲体4を有する。第1方向に隣設している2つの屈曲体4は、互いに第1方向に所定間隔を隔てて配置されており、各屈曲体4の第1直線部4aは第1方向に沿って同一直線上に配置されるように形成されており、第2直線部4bも同様に、第1方向に沿って同一直線上に配置されるように形成されている。つまり、第1方向に隣設している2つの屈曲体4は、第2方向にはオフセットしないように配置されている。そして、一方の屈曲体4の第2直線部4bと、他方の屈曲体4の第1直線部4aとは、第1方向について部分的に重なるように配置されている。一方、第2方向に隣設している2つの屈曲体4は、第1方向にオフセットするように形成されている。
【実施例1】
【0020】
次に、本発明の実施例1について説明する。光透過性基板2としては、縦10mm×横10mm×厚み1mmの矩形状の石英基板を用いた。石英基板の上に、スパッタリングにより、密着層3としてのCr層を約10nm厚で形成した。次に、Cr層の上に、スパッタリングによりAg薄膜を膜厚約300nmで形成した。その後、FIB(集光イオンビーム法)により図2のようなパターンの屈曲体4のアレイが残るように選択的にAg薄膜を除去した。
【0021】
本実施例で得られた屈曲体4の形状及び配列について、図2を参照して説明する。第1直線部4a、第2直線部4b、及び連結部4cを含めた屈曲体4の第1方向の長さLは約0.6μmであり、連結部4cは第1方向に対して約63°傾斜する方向に延在しており、第1直線部4aと第2直線部4bの第2方向の変位量S1は約100nmである。第1直線部4a、第2直線部4b、及び連結部4cの幅Wはいずれも、約50nmである。また、屈曲体4の厚みは約300nmである。
【0022】
本実施例では、第1方向に隣設されている2つの屈曲体4について、図2の上側の屈曲体4の第2直線部4bと、図2の下側の屈曲体4の第1直線部4aとが第1方向に重なる部分の長さL1は、約100nmである。また、第2方向に隣接されている2つの屈曲体4は、第1方向にオフセットしている。つまり、図2の右側の屈曲体4の第1直線部4aの上側の端部と、図2の左側の屈曲体4の第1直線部4aの上側の端部とは、第1方向にL2だけオフセットしていて、L2の長さは約250nmである。また、屈曲体4の第1方向の列の、第2方向の配置間隔Sは、約250nmである。
【0023】
次に、上記の偏光機能素子1に対して、入射光の波長及び偏光方向を変えながら、透過光の透過率を測定した結果について説明する。まず、上記偏光機能素子1に対して、入射光の偏光方向を0度(第2方向に振動する偏光成分)に維持したまま、波長を400nm、450nm、500nm、550nm、600nm、650nm、700nm、750nm、800nm、850nmと変化させ、各波長について0度方向成分の偏光透過率を、株式会社ラムダビジョン製顕微リターデーション分光システムを用いて測定した。次に、入射光の偏光方向が90度(第1方向に振動する偏光成分)の場合について、上記のように入射光の波長を変化させながら、0度方向成分の偏光透過率を測定した。図3は、この測定結果を示したものである。
【0024】
次に、上記偏光機能素子1に対して、入射光の偏光方向を0度に維持したまま、白色光を入射させ、分光により400nm、450nm、500nm、550nm、600nm、650nm、700nm、750nm、800nm、850nmの各波長について90度方向成分の偏光透過率を、上記顕微分光システムを用いて測定した。さらに、入射光の偏光方向が90度の場合についても、上記のように入射光の波長を変化させながら、90度方向成分の偏光透過率を測定した。図4は、この測定結果を示したものである。
【0025】
図4から分かるように、波長450nmから550nmの範囲においては、入射光の偏光方向に関係なく、90度方向(第1方向)成分の偏光透過率がほぼ0となっている。90度方向成分がほぼ0ということは、透過光は第2方向に対する斜め方向の成分を有していないということを意味するので、本実施例の偏光機能素子1は、上記波長の範囲において、直線偏光子として作用しているといえる。
【0026】
また、図3において、入射光の偏光方向を0度、波長を650nmとした場合の0度方向成分の偏光透過率は約0.3であり、図4において入射光の偏光方向を0度、波長を650nmとした場合の90度方向成分の偏光透過率は約0.3となっている。つまり、波長650nmの光を偏光方向0度で偏光機能素子1に入射させた場合、透過光の0度方向成分と90度方向成分の強度比が1:1となっている。なお、0度方向成分と90度方向成分の相対位相差は、30度以下であることが実測できた。このことから、本実施例の偏光機能素子1は、波長650nmの光を入射した場合、角度換算45度程度の旋光性を有する旋光子として作用しているといえる。
【0027】
以上より、本実施例の偏光機能素子1は、特定波長(または周波数)では直線偏光素子として作用し、別の特定波長では旋光子として作用しているといえる。
【実施例2】
【0028】
次に、実施例2について説明する。本実施例は、屈曲体14の厚みを約100nmに変更した以外は、偏光機能素子1の形状や製造方法、屈曲体14の配列パターン、透過光の測定方法等は、実施例1と同様である。
【0029】
本実施例においても、実施例1と同様に、入射光の波長及び偏光方向を変えながら、透過光の透過率を測定した。図5は0度方向成分の偏光透過率を表し、図6は90度方向成分の偏光透過率を表している。
【0030】
図6から分かるように、入射光の偏光方向が0度の場合と90度の場合とで、90度方向成分の偏光透過率がともに0になる波長域は存在しないが、波長が700〜750nmの間で90度方向成分の偏光透過率は、入射光の偏光方向が0度、90度とも0.1以下であり、かつ、0度方向成分の偏光透過率は入射光の偏光方向が0度で0.8以上であるので、完全ではないが、直線偏光子として使用可能である。また、図5及び図6に示すように、入射光の偏光方向が0度の場合、透過光の0度成分と90度成分の大きさが等しくなる波長域は存在しないが、入射光の偏光方向が0度の場合、波長800nmでは、0度方向成分の偏光透過率に対して、90度方向成分の偏光透過率が1/2程度であるため、30度程度の旋光性が存在しているといえる。また、入射光の偏光方向が90度の場合、波長800nmでは0度方向成分の偏光透過率と90度方向成分の偏光透過率がほぼ等しくなっているので、約45度の旋光性が存在しているといえる。
【実施例3】
【0031】
次に、実施例3について説明する。本実施例は、屈曲体14の厚みを約200nmに変更した以外は、偏光機能素子1の形状や製造方法、屈曲体14の配列パターン、透過光の測定方法等は、実施例1と同様である。
【0032】
本実施例においても、実施例1と同様に、入射光の波長及び偏光方向を変えながら、透過光の透過率を測定した。図7は0度方向成分の偏光透過率を表し、図8は90度方向成分の偏光透過率を表している。
【0033】
図8から分かるように、入射光の偏光方向が0度の場合と90度の場合とで、90度方向成分の偏光透過率がともに0になる波長域は存在しないが、波長が650〜800nmの間で、90度方向成分の偏光透過率は、入射光の偏光方向が0度、90度の場合のいずれも0.1以下であり、かつ、0度方向成分の偏光透過率は比較的高いので、完全ではないが、直線偏光子として使用可能である。また、図7及び図8に示すように、入射光の偏光方向が0度の場合、透過光の0度成分と90度成分の大きさが等しくなる波長域は存在せず、入射光の偏光方向が90度の場合も、透過光の0度成分と90度成分の大きさが等しくなる波長域は存在しないが、入射光の偏光方向が0度の場合、波長600nmでは、0度方向成分の偏光透過率に対する90度方向成分の偏光透過率は1/2強であるので、30度程度の旋光性が存在しているといえる。
【実施例4】
【0034】
次に、本発明の実施例4について説明する。本実施例は、屈曲体4の配列パターン以外は、偏光機能素子21の形状や製造方法、屈曲体4の形状、透過光の測定方法等は、実施例1と同様である。
【0035】
本実施例における屈曲体4の配列パターンについて、図9を参照して説明する。図9は本実施例の偏光機能素子21の一部を示す平面図である。偏光機能素子21は、図9に示すように、実施例1と同じ形状の屈曲体4が、第1方向と第2方向とに互いに離間して複数配列されている。第1方向に隣設されている2つの屈曲体4は、実施例1と同様に、各屈曲体4の第1直線部4aは第1方向に沿って同一直線上に配置されるように形成されており、第2直線部4bも、第1方向に沿って同一直線上に配置されるように形成されている。つまり、第1方向に隣設されている2つの屈曲体4は、第2方向にはオフセットしないように配置されている。そして、実施例1と同様に、一方の屈曲体4の第2直線部4bと、他方の屈曲体4の第1直線部4aとは、第1方向について部分的に重なるように配置されている。本実施例においても、一方の屈曲体4の第2直線部4bと、他方の屈曲体4の第1直線部4aとが第1方向に重なる部分の長さL1は、約100nmである。
【0036】
一方、第2方向に隣設されている2つの屈曲体4は、図9に示すように、実施例1とは異なり、第1方向についてオフセットしないように形成されている。また、屈曲体4の第1方向の列は、第2方向に間隔Sで複数配列されていて、間隔Sは約250nmである。
【0037】
次に、図9に示すような偏光機能素子21を用いて、実施例1と同様に、入射光の波長及び偏光方向を変えながら、透過光の透過率を測定した。図10は入射光0度方向成分の偏光透過率を表し、図11は入射光90度方向成分の偏光透過率を表している。
【0038】
図11から分かるように、波長450〜550nm、及び750〜850nmにおいては、入射光の偏光方向に関係なく、90度方向成分の偏光透過率が0.1以下となっている。特に波長450nm及び550nmにおいては、入射光の偏光方向に関係なく90度方向成分の偏光透過率がほぼ0となっている。このことから、本実施例の偏光機能素子21は、上記波長において、直線偏光子として作用しているといえる。
【0039】
また、図10において、入射光の偏光方向を0度、波長を650nmとした場合の0度方向成分の偏光透過率は約0.55であり、図11において入射光の偏光方向を0度、波長を650nmとした場合の90度方向成分の偏光透過率は約0.2となっている。つまり、波長650nmの光を偏光方向0度で偏光機能素子21に入射させた場合、透過光の0度方向成分と90度方向成分の強度比が約11:4となっている。このことから、本実施例の偏光機能素子21は、波長650nmの光を入射した場合、角度換算20度程度の旋光性を有する旋光子として作用しているといえる。
【0040】
以上より、本実施例の偏光機能素子21も、特定波長(または周波数)では直線偏光素子として作用し、別の特定波長では旋光子として作用しているといえる。
【比較例】
【0041】
ワイヤーグリッド偏光子を用いた比較例について説明する。本比較例においては、図12に示すように、ワイヤーグリッド偏光子31を構成する金属細線が屈曲体ではなく、第1方向に延在する直線形状素子34であり、直線形状素子34が、第1方向と第2方向とに複数配列されている。各直線形状素子34の第1方向の長さLは約600nm、幅Wは約50nmである。また、第2方向に隣設されている2つの直線形状素子34は、互いに第1方向に所定間隔L2、第2方向に所定間隔S1で配置され、第1方向に重なる部分の長さL1は、約100nmである。また同時に、第2方向に所定間隔Sで隣設されている2つの直線形状素子34は、第1方向にはオフセットしないように配置されている。所定間隔Sは約250nmである。なお、ワイヤーグリッド偏光子31の製造方法、透過光の測定方法等は、実施例と同様である。
【0042】
本比較例においても、入射光の波長及び偏光方向を変えながら、透過光の透過率を測定した。図13は入射光0度方向成分の偏光透過率を表し、図14は入射光90度方向成分の偏光透過率を表している。
【0043】
図14から分かるように、入射光の偏光方向に関らず、ほとんどの波長域で90度方向の透過成分が小さくなっており、特に波長域500nm以上では、透過成分がほぼ0となっていることから、本比較例のワイヤーグリッド偏光子31は、直線偏光子として作用しているといえる。一方で、90度方向の透過成分が0度方向の透過成分に対して、ほとんどの波長域で小さくなっている。このことから、本比較例のワイヤーグリッド偏光子31は、旋光性を有していないことが分かる。
【0044】
上述した実施例1〜4において、偏光機能素子のサイズ、形状、材料、製造方法、特に屈曲体のサイズ、形状、材料、配置パターン等は例示に過ぎず、これらに限定されるものではない。例えば第2方向に隣設される屈曲体の間隔は、可視光を対象とする場合は、200nm以下であることが好ましいが、使用する波長により適宜選択することができる。また屈曲体の厚みは100nm以上であることが好ましい。屈曲体の厚みが100nmより小さい場合、直線偏光子の特性と旋光子の特性の両立が困難だからである。本発明の偏光機能素子は、例えば、液晶ディスプレイ用途、光ファイバ通信用途、光データ読み取り等の用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例1に係る偏光機能子の斜視図である。
【図2】本発明の実施例1に係る偏光機能子の一部を示す平面図である。
【図3】本発明の実施例1に係る偏光機能子透過光の0度方向成分を示す特性図である。
【図4】本発明の実施例1に係る偏光機能子透過光の90度方向成分を示す特性図である。
【図5】本発明の実施例2に係る偏光機能子透過光の0度方向成分を示す特性図である。
【図6】本発明の実施例2に係る偏光機能子透過光の90度方向成分を示す特性図である。
【図7】本発明の実施例3に係る偏光機能子透過光の0度方向成分を示す特性図である。
【図8】本発明の実施例3に係る偏光機能子透過光の90度方向成分を示す特性図である。
【図9】本発明の実施例4に係る偏光機能子の一部を示す平面図である。
【図10】本発明の実施例4に係る偏光機能子透過光の0度方向成分を示す特性図である。
【図11】本発明の実施例4に係る偏光機能子透過光の90度方向成分を示す特性図である。
【図12】本発明の比較例に係る偏光機能子の一部を示す平面図である。
【図13】本発明の比較例に係る偏光機能子透過光の0度方向成分を示す特性図である。
【図14】本発明の比較例に係る偏光機能子透過光の90度方向成分を示す特性図である。
【符号の説明】
【0046】
1,21 偏光機能子 2 光透過性基板 3 密着層 4 屈曲体 4a 第1直線部 4b 第2直線部 4c 連結部 31 ワイヤーグリッド偏光子 34 直線形状素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延在する第1直線部及び第2直線部と、第1直線部の末端及び第2直線部の末端を連結するとともに第1方向と異なる方向に延在する連結部とを備える屈曲体が、第1方向と、第1方向に直交する第2方向に互いに離間して複数配列されてなる偏光機能素子。
【請求項2】
第2方向に隣設している屈曲体が、互いに第1方向にオフセットされて配置されている請求項1に記載の偏光機能素子。
【請求項3】
前記連結部が第1方向に対して傾斜する方向に延在する請求項1に記載の偏光機能素子。
【請求項4】
金属製の上記屈曲体が光透過性基板上に配列されている請求項1に記載の偏光機能素子。
【請求項5】
特定の電磁波周波数では、直線偏光素子として作用し、別の特定周波数では旋光子として作用する請求項1に記載の偏光機能素子。
【請求項6】
前記別の特定周波数における旋光角は40度以上である請求項5に記載の偏光機能素子。
【請求項7】
前記屈曲体の線幅が、偏光機能素子に入射する入射光の波長以下である請求項1に記載の偏光機能素子。
【請求項8】
前記屈曲体の第1方向長さは、前記特定の周波数に対応する電磁波の真空中における波長に概ね等しい請求項5に記載の偏光機能素子。
【請求項9】
前記屈曲体の厚みが100nm以上である請求項1〜8のいずれか一項に記載の偏光機能素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−60795(P2010−60795A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225791(P2008−225791)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】