説明

偏光調整型電気光学装置のための液晶ディスプレイ用ナノロッド配合物

【課題】 本発明の目的は、広い視野角、十分なコントラスト比、装置を稼動するためのしきい(電圧)の低下、および印加電場に対する迅速な応答を示す偏光調整型電気光学装置のための液晶ディスプレイ用ナノロッド配合物を提供することである。
【解決手段】 本発明の液晶ディスプレイ用ナノロッド配合物は、
(A)(ホストとしての)ネマチック液晶と、
(B)(ドーパントとしての)ドメイン状構造を有する流動性の有機界面活性剤でコーティングされた硫化亜鉛若しくは酸化亜鉛ナノロッドと、
を含んで成り、前記ドメイン領域内の各々のナノロッドは平行な状態に並んでいる。
前記構成成分(B)の含有量は、好ましくは前記構成成分(A)1mlにつき0.1mg〜0.4mgである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ(LCD)用ナノロッド配合物、および前記ナノロッド配合物を用いた液晶ディスプレイ装置に関する。LCD装置は、腕時計からパーソナルコンピュータに及ぶその広範な用途のために、近代生活の必要不可欠な部品であると考えられる。
【背景技術】
【0002】
液晶(LC)の配向は、セル表面のトポグラフィ、化学的性質、流動性、または処理の影響を非常に受け易い。しかし、液晶の長距離配向の制御は、LC装置の性能とその応答電圧の両方に弊害をもたらす非配向の転位領域が形成されるため、開発研究されている。長距離配向は、アライメント層の使用、LCセルの変更、あるいはLC分子のナノ寸法の凝集体間の相互作用の利用などの種々の方法により試みられてきた(非特許文献1参照)。
【0003】
アクティブマトリックス成分としてナノ粒子を液晶類(LCs)中に分散させることは、近年、科学的および工学的にかなりの注目を集めてきており、そして装置のより速い応答速度のために、長距離配向、すなわち大規模にLC配向を操作することに対する要求や、その要求を満たすことがこの研究の動機付けとなってきた(非特許文献1〜5参照)。
【0004】
更に、ナノコロイドの合成制御における急速な発展は、多彩な大きさと形を有する広範な無機材料類の出現をもたらしてきた。ナノ材料をLCマトリックスに組み込む場合、ナノ材料の大きさ、形、および結晶相を適正に選択することが、配合物の性能を高めるのに重要である。ナノ材料をLCマトリックスへ組み込むことにより、コロイド種の表面付近でのダイレクタ場の歪に起因して位相幾何学的欠陥の形成が生じ、これによって配合物の連続対称性が断ち切られる(非特許文献3〜5参照)。位相幾何学的欠陥は、材料の含浸面積が大きくなり、そしてその濃度が高くなるにつれて更に深刻となる。複合流体中でドーパント粒子によって生じる欠陥を理解することと、前記欠陥に対する制御を強化することは、重要な科学的問題である。
【0005】
ナノ材料の形と結晶相は、また配合物の長距離秩序を考慮するときにも関連する。例えば、球状粒子または中心対称の材料は外部電場にあまり応答せず、長距離秩序化された構造を形成する傾向がない。他方で、固有の永久双極子モーメントを有する伸長した異方性ナノ材料は、印加電場で劇的に応答して、その電場の方向に沿って配向を助長する(非特許文献6、7参照)。
【0006】
更に、ナノ結晶の光学特性は、ナノ結晶の大きさや形を変えることによって制御可能に調整することができ、その特徴は、ある範囲のスペクトル色を発生させるのに有用である。(J.G.ルー(Lu, J. G.)ら、2006年;Z.タング(Tang, Z.)ら、2002年)。異方性ナノ材料は、独特の偏光軸を有しており、それは配合物の偏光状態および視野角を制御するのに有用であり得る(J.G.ルーら、2006年;Z.タングら、2002年;J.フー(Hu, J.)ら、2001年)。外部電場を加えてナノロッドの配向状態を変えることも可能であり、その結果、配合物の偏光度が調整される。この態様は、画像変更パターンを表示するのに役立つ(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.ヤダ(Yada, M.)ら;「光ピンセットを用いたネマチックコロイド中での異方性粒子間力の直接観察(Direct observation of anisotropic interparticle forces in nematiccolloids with optical tweezers)」、フィジカル・レヴュー・レターズ(Phys. Rev.Letts.)、第92巻、185501〜185505ページ、(2004年) )。
【非特許文献2】Y.ウィリアムズ(Williams, Y.)ら、「半導体ナノロッドをドーピングした液晶の電気光学的特性および非線形光学特性(Electro-optical and nonlinear optical properties of semiconductornanorod doped liquid crystals)」、SPIE予稿集(Proc. of SPIE)、第5936巻、5936131〜5936136ページ、(2005年))。
【非特許文献3】K−J.ウー(Wu, K-J.)ら、「スマート光電子デバイス用の、液晶中セルの中に埋め込まれたCdSナノロッド(CdS nanorods imbedded in liquid crystal cells for smartoptoelectronic devices)」、ナノ・レターズ(NanoLetts.)、第7巻、1908〜1913ページ、(2007年))。
【非特許文献4】C.ラポナイト(Lapointe, C.)ら、「ネマチック液晶による金属ワイヤの弾性トルクとその浮揚(Elastic torque and the levitation of metal wires by a nematic liquidcrystal)」、サイエンス(Science)、第303巻、652〜655ページ、(2004年))。
【非特許文献5】コーニング・ジュニア(Koening Jr.)ら、「サーモトロピック液晶内での局所的な秩序へ化学官能化された金ナノ粒子のプラズモン共鳴の結合(Coupling of the plasmon resonance of chemically functionalized goldnanoparticles to local order in thermotropic liquid crystals)」、ケミカル・マテリアルズ(Chem. Mater.)、第19巻、1053〜1061ページ、(2003年))。
【非特許文献6】S.アチャルヤ(Acharya, S.)ら、「極細ZnSeナノロッドの偏光特性と応答可能なアセンブリ(Polarization properties and switchable assembly of ultranarrow ZnSenanorods)」、アドバンスド・マテリアルズ(Adv.Mater.)、第19巻、1105〜1108ページ、(2007年))。
【非特許文献7】S.アチャルヤ(Acharya, S.)ら、「極細CdSナノワイヤおよびナノロッドの、応答可能なアセンブリ(Switchable Assembly of Ultra Narrow CdS Nanowires and Nanorods)」、米国化学会誌(J. Am. Chem. Soc.)、第128巻、9294〜9295ページ、(2006年))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
LCD装置は、その広範な用途のために近代生活の必要不可欠な部品であると考えられているが、液晶ディスプレイはいくつかの技術的な欠陥を難点としており、これらは科学界や産業界で熱心に研究されているテーマである。LCDの最大限の可能性が実現され得る前に、狭い視野角、不十分なコントラスト比、および過大な応答時間といった問題を更に解決する必要がある。加えて、液晶の長距離配向を制御することも、LC装置の性能とその応答電圧の両方に弊害をもたらす非配向の転位領域が形成され、開発研究されているテーマである。
【0009】
好適な長距離秩序性を有する外部ドーピング剤は、LC分子のナノ寸法凝集体とドーパントとの間の相互作用を調整することによって、配合物の長距離配向特性を改良する可能性がある。そのため、アクティブマトリックス成分としてナノ粒子を液晶類(LCs)中へ分散させることは、近年、科学的および技術的にかなり注目を集めてきており、長距離配向、大規模にLC配向を操作すること、及び装置のより速い応答速度を満たすためへの要求が、この研究の動機付けとなってきた。ナノロッド/ナノワイヤの限界寸法、それらの結晶相、調整可能な発光特性、適切な界面活性剤の選択、またはLC分子中に界面活性剤類として埋め込まれるナノ材料の設計に関する課題には十分な余地が残されており、これによって配合物の欠陥を最小限にして性能を高めることが確かに可能であるかもしれない。
【0010】
本発明の目的は、上記問題点を解決する偏光調整型電気光学装置のための液晶ディスプレイ用ナノロッド配合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明者らは硫化亜鉛若しくは酸化亜鉛ナノロッドとネマチック液晶との新規配合物を提案し、それを検討し、こうして本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(A)(ホストとしての)ネマチック液晶と、
(B)ドメイン状構造を有する、(ドーパントとしての)流動性の有機界面活性剤でコーティングされた硫化亜鉛若しくは酸化亜鉛ナノロッドであって、ドメイン内の各々のナノロッドは実質的に平行な状態に並んでいるナノロッドと、
を含んでいる液晶ディスプレイ用ナノロッド配合物を提供する。
【0012】
本発明はまた、前記ナノロッド配合物を含んで成る液晶ディスプレイ装置も提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のナノロッド配合物は、液晶ディスプレイ装置に利用可能である。
本発明の液晶ディスプレイ装置は、次の特徴を示す。
1)広い視野角、
2)十分なコントラスト比、
3)装置を稼動するためのしきい(電圧)の低下、そして
4)印加電場に対する迅速な応答。
【0014】
従来、「平行」偏光軸を有する異方性ナノ材料は、偏光状態と視野角を制御しようとする際に利用されてきた。しかしながら、平行偏光軸はLCの配向状態と合致するため、視野角とコントラスト比を広範な角度に亘って適応するように制限する。重要なことに、本発明の配合物は、LCディスプレイのコントラスト比および視野角を改良するために、有意に調節可能な異方性によって、垂直視野からかすめ視野まで調整可能な偏光を示す。本発明による硫化亜鉛若しくは酸化亜鉛ナノロッドの垂直偏光軸は、配合物の配向秩序と常に直行状態にある。外部電場は配合物の配向秩序に影響を与える可能性があり、配合物内部では、この直行状態の偏光が、電気光学特性を結局は垂直視野からかすめ視野まで調整し続ける配合物の配向状態に影響を与える可能性がある。ナノロッドの強い固有の双極子モーメントは、より速い駆動電圧を変調して商業上の要件を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】オクタデシルアミン類でコーティングされたZnSナノロッドの模式図。
【図2】オクタデシルアミン類でコーティングされたZnSナノロッドのTEM画像。矢印は、ドメインの対応方向を示す。
【図3】オクタデシルアミン類でコーティングされたZnSナノロッドのHR−TEM画像。差し込み図は、前記ナノロッドのフーリエ変換画像(Fourier electron transfer image)を示しており、単結晶性を表している。
【図4】透過スペクトルの異方性が配合物中のZnSナノロッドの重量に依存することを表すグラフ。
【図5】偏光依存スペクトル。ここで、(i)は、励起偏光子の回転が平行方向〜平行方向までに設定されていることを表しており、そして(ii)は、励起偏光子の回転が垂直方向〜垂直方向までに設定されていることを表している。
【図6】本発明の配合物を用いて製造されたLCD装置の電圧対透過率曲線。
【図7】本発明の配合物を用いて製造されたLCD装置の「オン−オフ」電気光学応答時間。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述のように、本発明は、
(A)ネマチック液晶と、
(B)ドメイン状構造を有する、流動性の有機界面活性剤でコーティングされた(極めて小さな)硫化亜鉛若しくは酸化亜鉛ナノロッドであって、ドメイン内の各々のナノロッドは実質的に平行な状態に並んでいるナノロッドと、
を含んでいる液晶ディスプレイ用ナノロッド配合物を提供する。
本明細書では、構成成分(A)のネマチック液晶は、ホストとしての役割を果たし、そして構成成分(B)の界面活性剤でコーティングされた極めて小さな硫化亜鉛若しくは酸化亜鉛ナノロッドは、ドーパントとしての役割を果たす。構成成分(B)の含有量は、好ましくは構成成分(A)1mlにつき0.1mg〜0.4mgである。
【0017】
ネマチック液晶として、好ましくはZLI−4792(メルク(Merck))を使用することができ、これはディスプレイ成分として広く使用されており、実際にはホストマトリックスとしても有用な、産業上標準的な試験用液晶の一つである。
ZLI−4792以外に、様々なネマチック液晶、例えば、ZLI−1167、ZLI−4282、ZLI−2303、ZLI−3219、およびSLI−4749(メルク(Merck))など、並びに5CBおよび8CB(メルク(Merck))などの他の液晶を使用することも可能である。
【0018】
構成成分(B)としての界面活性剤でコーティングされた極めて小さな硫化亜鉛若しくは酸化亜鉛ナノロッドは高度に単分散している。ナノロッドはキャッピング有機分子が付加された特定の2D超結晶構造配置のままである(図1に示す)。ロッドの直径は0.5nm〜2.0nmであり、そして前記ロッドの長さは3.0nm〜20nmである(図3参照)。これは、あらゆるナノロッド系において非常に特別な構造である。単一ドメイン内ではナノロッドは高度に秩序化された状態にあり、そして互いに平行な状態にある。しかしながら、ドメインは、互いにランダムに配向している(図2参照)。
硫化亜鉛若しくは酸化亜鉛ナノロッドは、エフリマ(Efrima)とその共同研究者らが記載した方法(以降で説明する)を僅かに変更したものに従って調製することが可能である。本明細書では、流動性の有機界面活性剤として好ましくはオクタデシルアミン類を使用することが可能である。オクタデシルアミン類以外に様々な有機界面活性剤、たとえばドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、トリオクチルアミン、およびジオクチルアミンを使用することも可能である。
【0019】
これらの極めて小さな硫化亜鉛若しくは酸化亜鉛ナノロッドは、強い双極子モーメントを有しており、高濃度でもLCホストとの優れた混和性を示して、極めて組織的な局所的に秩序化された配向アレイを形成する。局所的な秩序性は、外部電場に応じて配合物の大域的な秩序性に有意に影響を及ぼして電気光学特性を調整させることができる。配合物は調整可能な偏光を示し、これがLCディスプレイのコントラスト比および視野角を改良するために、有意に調整可能な異方性と共にLCディスプレイのコントラスト比および視野角を改良するために、有意に調整可能な異方性を持つ独特の「垂直」偏光されたロッド軸を確立する。極めて小さなナノロッドの調整可能な偏光とLC内でのその長距離秩序との組み合わせが、配合物を、基本相互作用を制御可能な方法で研究するための、および優れた装置用途において最大限の可能性を探し出すためのモデル系として魅力的なものにしている。
【0020】
実際に、硫化亜鉛若しくは酸化亜鉛ナノロッドをLCホスト内に組み込むと、LCホストのダイレクタ力場によって生じる、特定方向でのドメインの秩序性が観察される。この結果として得られる配合物は電場の供給によって配向することができ、純粋なLCまたはいかなる配合物によってもこれまで達成されたことのなかった、より速い応答、制御された偏光、および改良されたコントラスト比を示す。
【実施例】
【0021】
実施例1〜4 液晶ディスプレイ用ナノロッド配合物の調製
(a)極細ZnSロッド(ZnSナノロッド)の調製
極細ZnSロッドは、エフリマ(Efrima)とその共同研究者らが記載した方法(N.プラダン(Pradhan, N.)ら、物理化学会誌B(J. Phys. Chem. B)、第108巻、11964〜11970ページ、2004年)を少し改変したものに従って調製した。更に具体的には、エチルキサントゲン酸カリウム塩と過塩素酸亜鉛六水和物とを用いて、前駆体であるエチルキサントゲン酸亜鉛を調製した。得られたエチルキサントゲン酸亜鉛を、溶融したオクタデシルアミン(ODA、C1839N)に90℃において8分間溶解させた。40℃まで冷却した後、ODAでコーティングされたZnS粒子は、試料をメタノールでフロキュレーションすることによって採取した後、遠心分離し、そしてトルエンに再分散させ1.0mg/mlの極細ZnS標準原液が調製された。
ナノロッドの形態を図2(TEM画像)および図3(HR−TEM画像)にそれぞれ示した。高解像度透過型電子顕微鏡(HR−TEM)は、JEOL−JEM2000を用い、200kVで稼動して行った。
【0022】
TEM画像(図2)には、ナノロッド自己集合体はナノ寸法のドメイン内では高度に秩序化された二次元(2D)超結晶構造が示されているが、これらドメインは互いに対してランダムに分布していることが示されている。矢印は、それらの対応するドメイン方向を示している。各ドメイン内では、ナノロッドが堅固なエンド・ツー・エンド型レジストリおよび並列型レジストリの2D平行配置構造を有している。超構造自体から明らかなように、ロッドの形やその均一性は、この超結晶構造の決定において重要な制御因子であると同時に、キャッピングアミン配位子のアルキル鎖長がロッド間の分離距離を定める。ドメインの自己集合型2D超結晶構造は、ロッド間の相互作用を明らかに制限し、そして粒子分散に有用である。
【0023】
HR−TEM画像(図3)には、それぞれ内径1.2nmおよび長さ4.0nmである極めて小さな寸法のナノロッドが示されており、それらは1.5nm厚の界面活性剤単層でコーティングされている(Y.ミン(Min, Y.)ら、ナノ・レターズ(Nano Letts.)、第8巻、246〜252ページ、2008年を参照のこと)。この画像は、格子面間隔が0.287±0.5nmの、長軸に対して垂直方向の格子面を示している。これはバルクのウルツ鉱型構造のc面に相当する。ウルツ鉱型ZnSは、本質的には異方性であって、一方の端部に亜鉛(II)カチオン面を、そしてもう一方の端部にスルフィドアニオン面を有する。
【0024】
外部電場が存在しない場合、ZnSナノロッド懸濁液は様々な方向に配向した本質的にランダムなドメインから構成されている(図2)。DC電場を与えると、極性ナノロッドがその力線に沿って平行に頭−尾様式で配向し、その結果、その電場の方向に沿って長距離配向が生じる(図示せず)。長距離集合体の寸法は、濃度および供給電場の強さに応じて、センチメートル規模の長さまで調整することが可能である。長距離集合体は、電場の方向によって切り替える可能であり、方向反転応答速度は、数十秒程度であって、そしてまた要求に応じて調整も可能である。
【0025】
(b)液晶ディスプレイ用ナノロッド配合物の調製
ZLI−4792(メルク(Merck))ホスト内のZnSナノロッドの体積比を、ZLI−4792につき10体積%〜40体積%まで変えた。これは以下のようにして行った:ZLI−47921mlを採取し、トルエン中ZnSナノロッド(固体粉末1mg/トルエン1ml)をそれぞれ、
(1)0.1ml、
(2)0.2ml、
(3)0.3ml、および
(4)0.4ml
加えた。すなわちLC(ZLI−4792)1mlにつき、(粉末を分散したトルエンの)体積基準でのZnS混入量10体積%、20体積%、30体積%および40体積%の配合物を作製した。換言すれば、固体粉末の含有量は、LC(ZLI−4792)1mlにつき、それぞれ0.1mg、0.2mg、0.3mg、および0.4mgと算出された。
偏光子付きUV−Vis分光光度計(JASCO V570)を用いて吸収スペクトルを測定した。
【0026】
実施例5〜8 本発明のナノロッド配合物を含有するLCセルの製造およびその評価
対抗電極としての2枚のインジウムスズ酸化物(ITO)コーティングしたガラス基板とSE130アライメント層とから成るLCセルを標準的な手順に従って製造した。トルエン懸濁液(1mg/ml)からの様々な体積(10%、20%、30%、および40%)のZnSナノロッドを一定体積のZLI−4792(100μL、0.268g)と混合した。ITOプレート間の分離距離は、シリカビーズスペーサを用いて5μmに固定した。ZnSナノロッドとZLI−4792との混合は毛管作用によって行った。
【0027】
図4は様々な体積百分率のZnSナノロッドを含有する配合物から、電場を用いずに垂直入射条件で測定された透過スペクトルにおけるそれぞれの異方性のグラフを表している。異方性の強さは配合物中のZnSナノロッドの重量に依存しており、ZnSナノロッド30体積%でピークを示している。更にこの配合物は、LCホスト中では極めて高水準のドーピングであると考えられる最大40%のドーピングでも優れた電気光学作用を示した。
【0028】
偏光子付きUV−Vis分光光度計(JASCO V570)を用いて吸収スペクトルを測定した。図5に偏光依存スペクトルを示す。ここでは(i)は、励起偏光子の回転が平行方向〜平行方向までに設定されていることを表しており、そして(ii)は、励起偏光子の回転が垂直方向〜垂直方向までに設定されている事を表している。いずれの場合も、発光偏光子は平列配置から平列配置まで回転するため、異方性は角度の関数として測定される。
配向した配合物の偏光PLスペクトルは、明らかに配合物の方向に対して垂直な方向に強い偏光依存を示している。もっとも強いスペクトルは垂直偏光設定で得られている(発光偏光)が、平行偏光では強度が本質的に遮断されている。偏光子を垂直位から水平位置まで回転させると、強度が最大値から除外点まで低下し、そしてその後、偏光子を垂直位まで動かすと徐々に増加する(図5)。
【0029】
この依存は、極細のZnSロッドが、その長軸に対して垂直な方向で独特な偏光を有することを意味しており、角度の変化により配合物の偏光状態を微調整する機会が与えられる。ナノロッドの短軸に沿ったこの独特の偏光は、結果として、ナノロッドの長さ方向と平行な入射波長ベクトルのあらゆる成分を、その垂直成分のみが透過するかまたは放出されるように本質的に排除することを意味している。ロッド添加物がない場合、LCは電場のオンオフ状態に相当する明るい透過率の状態と暗い透過率の状態とを有する。配合物は、垂直入射モードの時と及び供給印加電場がない場合とに光吸収の異方性を生じ、その異方性はロッド含有量の増加と共に増加する(図4)。
【0030】
図6は本発明の配合物を用いて製造されたLCD装置の、曲線を表している。LCD 5200を用いて性能を測定した。ここで、それぞれZLI−4792含有セル1体積につき、0%は、ZnSナノロッドセルを添加していないことを表し(ZLI−4792のみ;対照)、10%は、ZnSナノロッド10%を表し、20%はZnSナノロッド20%を表し、30%はZnSナノロッド30%を表し、そして40%はZnSナノロッド40%を表している。
これらの結果は、複合系のしきい電圧(Vth)が純粋なZLI−4792と比較して実質上10%まで低下した(約10〜20%の混合が最も有効である)ことを示している。Vthの低下は、複合系の効果的な誘電率異方性(εロッド、Lc>εLC)によって生じ、その結果、印加電場では配合物に更に大きなトルクが生じて(εロッド、Lc>εLC)、より速い配向が生じる。局所配向したZnSナノロッドは固有の双極子モーメントを有しており、印加電場の方向に沿って更に迅速に配向し、次いで配合物のより速い配向を推進し、その結果、純粋なLCに比べて優れた応答特性がもたらされる。更に、しきい電圧の低下は、それが消費電力の低減をも引き起こすことから標準的なディスプレイ装置には重要な要件でもある。
【0031】
図7は本発明の配合物を用いて製造されたLCD装置の「オン−オフ」電気光学応答時間を表している。LCD 5200を用いて、透過率対LCD装置性能の光学応答時間を測定した。ZnSナノロッドを混合したLCD装置の光学応答は、純粋なZLI−4792に比べて明らかに速く、約10〜30%の混合がもっとも有効である。
透過率状態はいずれも、電場のオン状態とオフ状態とによる配合物の2つの安定な配向状態に相当している。2つの図(図6および図7)には、最高40%のナノロッドドーピング量、強化された性能が示されている。
【0032】
酸化亜鉛(ZnO)については特に記述しないが、硫化亜鉛の場合と同様な結果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ネマチック液晶と、
(B)ドメイン状構造を有する、流動性の有機界面活性剤でコーティングされた硫化亜鉛若しくは酸化亜鉛ナノロッドであって、ドメイン内各々のナノロッドは実質的に平行な状態に並んでいるナノロッドと、
を含んでいる液晶ディスプレイ用ナノロッド配合物。
【請求項2】
前記流動性の有機界面活性剤はオクタデシルアミン類である、請求項1に記載のナノロッド配合物。
【請求項3】
前記ロッドの直径は0.5nm〜2.0nmであり、および前記ロッドの長さは3.0nm〜20nmである、請求項1または2に記載のナノロッド配合物。
【請求項4】
前記構成成分(B)の含有量は、前記構成成分(A)1mlにつき0.1mg〜0.4mgである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノロッド配合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の前記ナノロッド配合物を含んで成る液晶ディスプレイ装置。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−144032(P2010−144032A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−322401(P2008−322401)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】