説明

健康医療器具

【課題】磁力線効果と赤外線効果の相乗効果を効率的に発揮できる健康医療器具を提供する。
【解決手段】耐食性・耐酸化性に優れ、大きい高エネルギー積を有するSmFe−N希土類磁石の特性を利用し、その磁石粉末と1種又は2種以上の赤外線放射材料との混合粉末を有機樹脂で結合して成型された有機樹脂ボンド型複合磁石を用いた。これにより、成型加工性と耐食性に優れ、装飾用保護金属膜の膜厚を可能な限り薄くすることにより材料固有の放射赤外線の透過能を大きくして、従来型酸化物複合磁石では得られない磁力線及び赤外線の相乗効果を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康医療器具、とくにSm−Fe−N系有機樹脂ボンド複合磁石を使用した健康医療器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁力線の人体への血行促進効果を利用するため、磁石材料をチップ状化し、これを粘着テープ等で人体に貼りつけて健康医療器具として使用することは、広く行われている。
磁石には、(BH)maxが3程度のフェライト磁石、(BH)maxが5ないし10程度のアルニコ系金属磁石が用いられ、また最近では、(BH)maxが10ないし30にもなるエネルギー積の大きな希土類磁石の使用が提案されている(特許文献1)。
【0003】
赤外線にも、血行促進効果、神経繊維活性化効果、鎮痛効果等があることが認められ、磁石同様にチップ状に加工され、健康医療器具として使用されてきている。赤外線放射材料としては、波長100μm程度の遠赤外線を出すGeから、波長10−15μmの赤外線を出すトルマリン等も使用されてきている。
【0004】
また、最近では、磁力線単体又は赤外線単体ではその作用効果が限定されるため、磁力線及び赤外線の相乗効果を狙って磁石材料と赤外線放射材料からなる複合磁石が提案されている(例えば、特許文献1)。
しかしながら、Nd−Fe−B系等希土類磁石は耐食性が悪いため、また、赤外線放射材料との樹脂ボンド型複合磁石では樹脂が水分等を通すため、それぞれ表面に充分厚い金属保護膜を必要とする。金属保護膜は赤外線反射能が大きいため、トルマリン等の材料から出る特有な波長を持つ赤外線を殆ど反射して人体表面には浸透できないので、複合型磁石の効果を充分に発揮できず、実用化に難点があった。
また、磁石成型過程での磁石粉末と結合剤である樹脂との反応による磁気特性の劣化も問題であった。
【特許文献1】特開平5−347206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
提案されているNd−Fe−B等の希土類磁石粉末は、耐食性、特に耐酸化性がないので、複合磁石成型過程でガラス等の酸化性結合剤が使用できず、また、加熱成型時の温度を上げられないので、磁石材料と赤外線材料との複合粉末成型過程では、結合剤として有機高分子樹脂が使用されている。成型後の加熱硬化処理工程中に有機樹脂の官能基との反応による磁気特性の劣化及び成型後結合剤となる樹脂は吸湿性があるため、その表面をNi−P等の無電解メッキにより膜厚3−10μmの保護コーティングをした樹脂ボンド型複合磁石として使用されている。
【0006】
希土類磁石は導電性の金属材料であり、赤外線をほぼ完全に反射するが、樹脂は基本となる高分子主鎖に付随した官能基による赤外線吸収能があるとはいえ、磁石内部の赤外線放射材料が体温で活性化されて出てくる材料固有の赤外線は複合磁石表面に減衰しながら到達する。しかしながら、Nd−Fe−B等の従来型希土類磁石は耐食性がなく、健康医療器具として人体表面に密着して使用する場合は、表面保護のための金属膜厚は3−10μm必要とされた。金属膜は赤外線反射能が大きいため、複合磁石保護のための金属膜厚が3−10μmあると、赤外線放射材料からの赤外線はほぼ完全に内部に反射され、複合磁石表面には出てこないため、配合された赤外線放射材料は有効に利用されていない。
【0007】
希土類磁石粉末と赤外線放射材料粉末の樹脂ボンド型複合磁石の耐食性及び耐磨耗性の性能の問題を解決するため、樹脂を使用しないMn−Al系磁石粉末と赤外線放射材料粉末との混合品を熱間押出加工して成型する複合磁石も提案されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献2】特開平9−55309号公報
【0008】
Mn−Al系磁石は、基本となる磁気特性が希土類磁石として低いため、赤外線放射材料10wt%配合で(BH)maxは3−4程度と、フェライト並みに劣化し、赤外線材料の効果を充分に出す配合量30wt%では、磁気特性が(BH)max2程度に下がり、磁力線の効果が期待できない。また、機械加工性も劣化するので、製造コストがアップする。
【0009】
本発明は、上記従来の複合磁石を用いる健康医療器具の欠点を排除するためになされたものである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、磁力線と赤外線の相乗効果を十分に発揮する健康医療器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、耐食性の優れたSm−Fe−N系希土類磁石粉末と赤外線放射材料粉末を有機樹脂で結合した樹脂ボンド型複合磁石を用いることを特徴としている(請求項1)。
Sm−Fe−N系磁石粉末と赤外線放射材料粉末を有機樹脂で結合した樹脂ボンド製複合磁石は、その表面に金属保護膜を備えていることが望ましい(請求項2)。
前記金属保護膜は、膜厚が0.2−3μmの無電解又は真空メッキによる金属膜であることが望ましい(請求項3)。
赤外線放射材料の中の遠赤外線放射材料粉末には、禁止帯幅0.7eV以下の半導体粉末を使用することが望ましい(請求項4)。
遠赤外線放射材料には、Ge,InSbを使用することもできる(請求項5)。
赤外線放射材料には、禁止帯幅1.5eV以上の圧電焦電材料を使用することもできる(請求項6)。
赤外線放射材料には、トルマリン、黒水晶、チタン酸バリウムを使用することもできる(請求項7)。
赤外線放射材料の磁石材料に対する体積比は5ないし70%とし、結合剤としてエポキシ樹脂、ナイロン樹脂又はゴム系樹脂を使用することが望ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、耐食性に優れたSm−Fe−N系希土類磁石粉末を利用するので、耐酸化性の弱い希土類磁石粉末を用いる従来技術と異なり、表面保護膜を必要としないか、又は0.2−3μm程度の薄い装飾を兼ねた保護膜で済むため、配合された赤外線放射材料の赤外線と磁力線の複合効果の利用が可能になった。
【0012】
請求項2によれば、樹脂ボンド型複合磁石の内部で体温により活性化された赤外線輻射材料から出てくる赤外線は、樹脂による吸収減衰を受けながら複合磁石表面に到達し、表面保護用金属膜は存在しても3μm以下と薄いので、赤外線放射量の50%以上が透過し、赤外線の人体に対する有効利用が促進される。
【0013】
請求項3の発明によれば、Sm−Fe−N系の耐食性のよい希土類粉末と赤外線放射材料の有機樹脂ボンド複合磁石の金属保護膜として、無電解メッキ又は真空メッキによる膜厚0.2−3μmの金属膜を用いるので、表面保護用金属膜の膜質として他の希土類複合磁石に比較して緻密でない装飾用の膜も使用でき、メッキ浴管理又は真空雰囲気管理等の費用が下げられる。
溶液中又は真空中で作成される膜は、通常ピンホールを含むので、気密な膜には基板洗浄雰囲気管理等特別な注意を必要とし、膜厚も3μm以上が要求される。
【0014】
請求項4の発明によれば、人体内部まで浸達する100μm程度の遠赤外線が利用でき、磁力線の深い人体貫通力との強い相乗効果が期待できる。
請求項5の発明によれば、Ge,InSbは比較的耐食性能が良い材料であるので、作用効果が向上する。
請求項6の発明によれば、波長10−15μmの赤外線が利用でき、この波長帯域は比較的人体に吸収され易いので、赤外線効果が大きい。
請求項7によれば、トルマリン、黒水晶、チタン酸バリウムは産業上得やすい安価な材料であるので、本発明の健康医療器具を安価に提供することができる。
請求項8によれば、磁石体積に対する赤外線材料の体積が5ないし70%の範囲では、磁気エネルギー積は4MGOe以上あり、赤外線輻射能も充分大きい。最適配合比としては10−30%が望ましい。
【0015】
また、結合用樹脂として使用されるエポキシ樹脂、ナイロン樹脂及びゴム系樹脂は、粉末成型後の熱硬化処理で希土類磁石との反応が比較的少なく、磁気特性を劣化させず、硬化処理後の赤外線透過能が良いので、熱励起赤外線が複合磁石表面に到達し、人体に放射されて有効に利用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、耐酸化性の良いSm−Fe−N系希土類磁石合金の耐食性に注目し、赤外線放射材料との結合に所定の有機樹脂を使用し、人体への応用場所によっては無電解メッキ又は真空メッキにより薄い金属保護膜をコーティングして使用されるものである。
【0017】
Sm−Fe−N系磁石としては、急冷ロール法で製造され、粉砕され、アニールされた後、窒素処理された結晶粒系の細かい粉末を使用することが、磁気特性を維持する上から好ましい。
本発明を具現化する磁石の製法としては、急冷ロール法で製造された1μm以下の微細結晶粒からなるSm−Fe−N系希土類磁石粉末を使用することが好ましい。この磁石は、急冷ロール法で作られたSm−Feフレークを粉砕後、窒素化処理して格子間に窒素を含浸させることにより保磁力を出しているが、この処理の過程で粉末に耐酸化性が付与される。
【0018】
磁石材料粉末に混合される赤外線材料粉末の体積比は、5ないし70%が有効値である。赤外線材料が5体積%以下では赤外線輻射能が減少し、70体積%以上では磁力線密度が減少して、磁力線と赤外線の相乗効果が期待できなくなる。最適な配合比は10〜50%である。この範囲では、磁気エネルギー積は4MGOe以上あり、赤外線輻射能も充分大きい。また、人体深部及び表面と磁力線の同時相乗効果を期待する場合は、禁止帯幅0.7eV以下の半導体粉末、Ge,InSb、禁止帯幅1.5eV以上の圧電焦電材料、トルマリン、黒水晶、チタン酸バリウムを混合して使用することが望ましい。
【0019】
結合剤としての樹脂には、エポキシ系樹脂、ナイロン樹脂及びゴム系樹脂が使用される。樹脂ボンド型複合磁石の成型方法としては、圧縮成型方法や射出成型方法等を採用することができる。また、結合剤としてゴム系樹脂を使用する場合は、カレンダーロールを使用しての成型方法も採用することができる。結合剤として熱硬化性エポキシ樹脂を使用する場合は、成型後に100−200℃程度の温度で硬化処理をする。
金属保護膜としては、無電解Ni−P非磁性金属膜及びCr又はTi等の非磁性金属膜がイオンプレーティング法により着けられる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例を説明する。
表1の実施例1〜6は、磁石粉末として前記方法で作られたSm−Fe−N系希土類磁石を、結合剤としてエポキ樹脂を、赤外線輻射材料としてトルマリンをそれぞれ使用し、所定の配合比で混合した後、7トン/cm2の圧力でプレス成型し、加熱処理により直径10mm×厚み7mmの大きさに成型した。
表1の比較例1〜6は、磁石粉末としてNd−Fe−B系希土類磁石を用いるほかは、用いた結合剤及び赤外線輻射材料並びに成型方法が実施例と同一である。
いずれも成型後150℃で1時間の熱硬化処理を行った。
保護膜として、下記の通常のメッキ浴を使用して、無電解Ni−P膜を所定の厚みにつけた。
メッキ浴の組成(単位g/1リットル水) PH5 液温40℃
硫酸ニッケル 30
次亜燐酸ナトリウム 20
酢酸ナトリウム 14
クエン酸ナトリウム 24
塩化アンモニュウム 5
乳酸 0.5
【0021】
【表1】

【0022】
各サンプルを40℃に加熱し、赤外線分光放射装置で波長8〜50μmの全赤外線放射量を測定し、磁力線強度との積をとり、実施例(1)を基準として比較し、磁力線及び赤外線の相乗効果を判定した。また、80℃、95%RH、100時間の耐食試験を行い、表面腐食を観測した。測定結果は、表2のとおりである。
【0023】
【表2】

【0024】
以上の実験結果より、Sm−Fe−N系複合粉末と赤外線放射材料の樹脂ボンド複合磁石は、他の耐食性の弱い希土類複合磁石に比較して、成型後の磁気特性の劣化度合いも低く、金属保護皮膜の厚みも少なくて済むため、人体表面への赤外線輻射能が向上し、磁力線と赤外線の相乗効果が充分に発揮できることが明らかとなった。耐食性のある複合磁石として実用可能である。また、遠赤外線材料と赤外線材料を複合して使用した場合は、単独使用の場合よりも磁力線及び赤外線の相乗効果が向上した。
Nd−Fe−B等耐食性の余りない希土類磁石粉末については、結合樹脂中の主鎖に付随する官能基と磁石粉末が成型後の加熱硬化中に反応して磁気特性を劣化させる。また、健康医療器具として身体に近接して使用するときは、人体より出る塩類を含んだ汗等で腐食されるので、充分な厚みの金属保護膜を必要とし、このため、複合磁石内部の赤外線放射材料が体温で活性化され、出てくる赤外線をブロックしてその効果を失わせる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の磁力線効果及び赤外線効果の人体に対する複合作用を利用した健康医療器具は、ネックレス、腕輪、指輪、足輪、肌着、靴下、腹巻、シーツ、枕及び寝具等の必要とされる形状に成型して使用する以外に、動物用医療器具としても応用できる。
特に、従来の樹脂ボンド酸化物複合磁石と異なり、磁力線密度も大きく取れるので、磁力線と赤外線の複合効果が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sm−Fe−N系磁石粉末と赤外線放射材料粉末を有機樹脂で結合した樹脂ボンド型複合磁石からなる健康医療器具。
【請求項2】
磁石の表面に金属保護膜を備えた請求項1記載の健康医療器具。
【請求項3】
金属保護膜として、無電解メッキ又は真空メッキによる膜厚0.2−3μmの金属膜を用いた請求項2記載の健康医療器具。
【請求項4】
遠赤外線放射材料粉末として、禁止帯幅0.7eV以下の半導体粉末を使用した請求項1、2又は3記載の健康医療器具。
【請求項5】
遠赤外線放射材料として、Ge,InSbを使用した請求項1、2、3又は4記載の健康医療器具。
【請求項6】
赤外線放射材料として、禁止帯幅1.5eV以上の圧電焦電材料を使用した請求項1、2又は3記載の健康医療器具。
【請求項7】
赤外線放射材料として、トルマリン、黒水晶、チタン酸バリウムを使用した請求項1、2、3、4、5又は6記載の健康医療器具。
【請求項8】
赤外線放射材料の磁石材料に対する体積比が5ないし70%であり、結合剤としてエポキシ樹脂、ナイロン樹脂又はゴム系樹脂を使用した請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の健康医療器具。

【公開番号】特開2007−275218(P2007−275218A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104011(P2006−104011)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(506116016)日本アスレ株式会社 (1)
【出願人】(505461441)外山株式会社 (2)
【Fターム(参考)】