説明

健康状態判断装置

【課題】健康な人あるいは疾病予備軍に該当する人の健康状態を適切に評価し得る新規な評価手法及び指標を提供する。また、計測等により収集された数多くのデータをユーザにとって有益かつ有用な意味情報へと加工するための新規な手法を提供する。
【解決手段】健康状態判断装置は、評価対象者の健康状態を評価するための情報として、計測装置により測定される測定値及び操作者により入力される入力値を含む複数項目の元指標を取得する取得手段と、前記複数項目の元指標の値に基づいて、前記評価対象者の健康状態を年齢に換算した指標である健康年齢を算出する健康状態判断手段と、前記健康年齢を表示する表示手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康な人または疾病予備軍に該当する人を主な対象とした、個人的かつ能動的な自己健康管理を支援するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、健康への関心が高まりをみせており、血圧や体重、摂取カロリーなどを日頃から管理したり、ジョギングやウォーキングなどの運動を積極的に行う人が増えはじめている。従来より、個人向け・家庭向けの健康関連機器としては血圧計、血糖計、体重計、体組成計、体温計などのさまざまな種類の計測装置が普及し、また運動を支援するための機器としては歩数計や活動量計などが提供されており、これらは健康管理ツールの一つとして活用されている。しかしながら、これらの機器で得ることができる情報は、あくまでも単なる数値(しかも測定した時点のスポット的な数値)でしかなく、その数値をどのように健康管理に生かすかはユーザ次第であるのが現状であった。
【0003】
なお、特許文献1〜3には、血圧や血糖値などの情報から疾病の発症リスクや健康度などの指標を計算し出力する装置が提案されている。この種の指標は健康状態を把握するのにある程度の参考にはなるものの、従来の指標及び出力形態は、個人での健康管理を支援することを考えた場合、必ずしも有用とは言い難い。
【特許文献1】特開2006−163932号公報
【特許文献2】特開2005−319283号公報
【特許文献3】特開2004−246521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような実情に鑑み、本発明者らは、個人や家庭における健康管理のあるべき姿とそのために必要な要素技術について鋭意検討を重ねてきた。
【0005】
従来のシステムは、疾病管理や診断のために必要な数値情報(血圧値、血糖値など)を与えることを目的とするものが殆どであった。しかしながら、個人や家庭における健康管理の対象となるユーザには、疾病をもつ人だけでなく、健康な人や疾病予備軍(発症してはいないが身体のどこかに兆候が現れ得る状態)の人も多く含まれる。健康な人や疾病予備軍の人の場合は、計測装置で得られる測定値は正常範囲にあるため、そのような値だけでは自分の健康状態(疾病リスク度)を把握することはできない。また、どのような疾病を発症する虞があるかわからない段階では、ユーザは具体的に何の数値をどのように注意し管理すべきかを明確に特定することができない。つまり、各種の計測装置を利用すれば、家庭でも血圧値、血糖値、体重、体組成、体温など、さまざまな生体指標を計測できるものの、殆どのユーザは個別の測定値をどのように健康管理に役立てればよいかわからないのである。将来的には、さまざまな種類の計測装置が普及し、家庭で多種類の生体指標を日常的に計測する環境が実現するものと期待されるが、計測等により得られる生データの数が膨大になり情報過多になるほど、一般のユーザはそこから有意な情報、つまり自己の健康管理に有益な情報を得ることが難しくなるものと懸念される。
【0006】
健康な人や疾病予備軍の人が知りたい情報は、ある一時点における個別の測定値ではなく、たとえば、自分は人と比べて健康なのかどうなのか、健康であるとしてもどの程度健康なのか、あるいは健康でないとしたらどれくらい深刻なのか、といった総合的な評価であったり、さらには、その評価を維持するには又はその評価を改善するにはどのようなアクションを採るべきなのか、といった具体的な指針であると考えられる。
【0007】
また、個人や家庭における健康管理を支援するために欠くことのできない観点として「継続性」が挙げられる。健康な状態を保つため、あるいは、疾病の発症リスクを下げるためには、日常的に生体指標を計測し評価したり、定期的な運動を心がけたりといった習慣が最も効果的であるし、また長期の測定値が蓄積されるほど有益な情報を提供できるからである。このような継続性を実現するには、ユーザのモチベーションを向上し維持する仕掛けが必要であり、さらにその仕掛けを実現するには、納得性及び信頼性のある情報をいかに分かり易い形でユーザに提供できるかが一つの鍵になるものと思われる。なお別の見方をすれば、個人用・家庭用の計測装置は、一回だけのスポット的な計測というよりも、ユーザ本人が気軽に定期的・日常的に生体指標を計測し蓄積できるところにこそ存在意義がある。したがって、継続という点に実現性及び付加価値がなければ、個人や家庭における健康管理は成立しないともいえる。
【0008】
図13は、本発明者らが想定する健康管理システムのコンセプトモデルを示している。同システムは、大きく分けて、「CHECK」、「PLAN」、「ACTION」の3つのカテゴリの機能を備え、生体から情報を収集し(CHECK)、その情報に基づき健康を維持・改善するための計画を立て(PLAN)、その計画の実施を支援する(ACTION)というサイクル(以下、CPAサイクルという)を総合的にサポートするものである。このようなCPAサイクルの提供により、個人や家庭における能動的な自己健康管理の継続実施が実現されるものと期待できる。
【0009】
本出願に係る発明は、上記コンセプトモデルの中のCHECK機能に関わる要素技術を提供することを目的とするものである。具体的には本発明の目的の一つは、健康な人あるいは疾病予備軍に該当する人の健康状態を適切に評価し得る新規な評価手法及び指標を提供することにある。また本発明の目的の一つは、計測等により収集された数多くのデータをユーザにとって有益かつ有用な意味情報へと加工するための新規な手法を提供することにある。また本発明の目的の一つは、ユーザにとって納得性及び信頼性の高い情報を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らの採用する解決手段は概略次のようなものである。すなわち、各種計測装置から得られる生体指標の測定値の因果関係をモデリングし、当該モデルによる因子間の影響度の伝播を評価することで、複数種類の複合指標を算出する。この際、複合指標の算出に用いる測定値としては、確定的な値を用いるだけでなく、不確かさを有する値(たとえば、ばらつきの範囲、値域、分布などを有する値)も用いることもできる。また生体指標だけでなく生活指標を因子の一つとして考慮することもでき、さらに測定値に加えて、ユーザにより入力される属性指標も因子の一つとして考慮することもできる。そして、複数の複合指標を総合的に評価して総合健康指標を算出し、ユーザに提示する。
【0011】
ここで「属性指標」とは、個人の属性を客観的に識別するための尺度、およびその数値であり、例えば性別、年齢、身長、病歴などが該当する。属性指標は基本的に自身の意思により制御することはできない。「生体指標」とは、身体の生理的な状態を示す尺度、およびその数値である。例えば血圧値(最高血圧値、最低血圧値)、血糖値(空腹時血糖値、随時血糖値)、体重、体脂肪率、血清総コレステロール等が生体指標に該当する。生体指標は基本的に自身の意思により制御することが困難である。「生活指標」とは、日常の活動(睡眠、食事、運動)を示す尺度、およびその数値である。例えば、歩行情報(単位時間における断続歩行時間、連続歩行時間、連続歩行回数、歩行パターンの規則性等)、睡眠情報(睡眠時間、寝返り回数、呼吸回数等)、食事情報(摂取カロリー量等)、その他の情報(喫煙習慣の有無、アルコール摂取頻度等)が生活指標に該当する。生活指標は基本的に自身の意思により制御することが可能であり、健康維持・改善のための制御対象
となりうる。
【0012】
「複合指標」とは、生体指標、生活指標、および属性指標の中から選ばれた複数の指標と、統計的に得られた疫学情報(死亡率等)との関係に基づいた、特定の疾病に対するリスク又は特定の身体器官若しくは身体機能の状態を示す尺度、およびその数値である。例えば、特定の疾病に対するリスクを示す複合指標には、脳卒中リスク、心血管系リスク、冠動脈系リスク等が該当する。特定の身体器官若しくは身体機能の状態を示す複合指標には、血管年齢、血圧年齢、体力年齢、筋力年齢等が該当する。これらの複合指標は、直接的に制御することが困難であり、生活指標の制御により間接的に調整されるものである。
【0013】
「総合健康指標」とは、複数の複合指標と大規模な母集団の実年齢との傾向との対応に基づいた、母集団における個人の相対的な健康状態を示す尺度、およびその数値である。例えば、健康年齢、健康偏差値等が総合健康指標に該当する。
【0014】
以下、各種指標を区別するために、生体指標、生活指標、属性指標のように測定又は入力によって得られる指標を「元指標」、複数の元指標から求められる複合指標を「中間指標」、複数の複合指標から求められる総合健康指標を「最終指標」とも称する。
【0015】
本発明は、上記構成により、ユーザ個人の疾病リスク、健康状態等をその人自身から得られた元指標等に基づき評価することができる。また、元指標から最終的な総合健康指標を直接導くのではなく、測定値や入力値等の生データを一旦、中間指標(複合指標)に加工した上で、最終指標(総合健康指標)を導出している。中間指標を出力することの利点は、情報の粒度を粗くすることでユーザによる情報の取り扱いや把握を容易にできる一方で、ブラックボックス的に生データから最終指標を出力するのに比べてユーザに納得性や信頼性を与えることができる点にある。しかも中間指標として、特定の疾病又は特定の身体器官や身体機能に関連する指標を採用したことで、ユーザが理解し易くかつ有益な意味情報を提供できるという利点もある。さらに、不確かさ(「信頼性」と言い換えることができる)をもつ測定値を取り扱うことにより、複合指標や総合健康指標を算出する際に算出結果の信頼性を評価することができ、複合指標や総合健康指標をその信頼性とともにユーザに提示することができる。このような信頼性の情報は、ユーザにとって、疾病リスク等に対する対策を考える際の判断情報として有用である。また、装置の出力結果の信頼性を明示することは、結果的に装置の出力に対する安心感や信頼を増すことにもつながる。そして、本発明はユーザの健康状態を総合健康指標で提示するので、自分自身の健康状態を対母集団との比較により相対的に把握することができるという利点がある。例えば、総合健康指標として「健康年齢」が示された場合、ユーザはその健康年齢と自分自身の実年齢との比較により、自分がどの程度健康なのかを直感的に理解できる。
【0016】
具体的には、本発明に係る健康状態判断装置は、以下の構成を採用する。
【0017】
本発明の第1態様に係る健康状態判断装置は、評価対象者の健康状態を評価するための情報として、計測装置により測定される測定値及び操作者により入力される入力値を含む複数項目の元指標を取得する取得手段と、前記複数項目の元指標の値に基づいて、前記評価対象者の健康状態を年齢に換算した指標である健康年齢を算出する健康状態判断手段と、前記健康年齢を表示する表示手段と、を備える。
【0018】
この第1態様において、前記健康状態判断手段は、前記複数項目の元指標の値から、前記元指標の項目数よりも少ない数の複数の中間指標の値を算出した後に、前記複数の中間指標の値から最終指標である前記健康年齢を算出することが好ましい。また、前記中間指標は、特定の疾病に対するリスク、又は、特定の身体器官若しくは身体機能の状態を表す指標であることが好ましい。また、前記健康状態判断手段は、疫学データに基づいて生成
された評価モデルを用いて、前記中間指標を算出することが好ましい。また、前記元指標の値として、1つの確定的な数値に定まらない、信頼性を表す情報を含む値を用いることが好ましい。また、前記健康状態判断手段は、前記健康年齢の値として、1つの確定的な数値に定まらない、信頼性を表す情報を含む値を算出し、前記表示手段は、前記信頼性を表す情報を含む表現形式で前記健康年齢を表示することが好ましい。
【0019】
本発明の第2態様に係る健康状態判断装置は、評価対象者の健康状態を評価するための情報として、計測装置により測定される測定値及び操作者により入力される入力値を含む複数項目の元指標を取得する取得手段と、前記複数項目の元指標の値から、前記元指標の項目数よりも少ない数の複数の中間指標の値を算出するとともに、前記複数の中間指標の値から、所定の母集団における前記評価対象者の相対的な健康状態を示す総合健康指標を算出する健康状態判断手段と、前記複数の中間指標および前記総合健康指標を表示する表示手段と、を備える。
【0020】
この第2態様において、前記中間指標は、特定の疾病に対するリスク、又は、特定の身体器官若しくは身体機能の状態を表す指標であることが好ましい。また、前記健康状態判断手段は、疫学データに基づいて生成された評価モデルを用いて、前記中間指標を算出することが好ましい。また、前記元指標の値として、1つの確定的な数値に定まらない、信頼性を表す情報を含む値を用いることが好ましい。また、前記健康状態判断手段は、前記総合健康指標の値として、1つの確定的な数値に定まらない、信頼性を表す情報を含む値を算出し、前記表示手段は、前記信頼性を表す情報を含む表現形式で前記総合健康指標を表示することが好ましい。
【0021】
本発明の第3態様に係る健康状態判断装置は、評価対象者の健康状態を評価するための情報として、最高血圧値、糖尿病の有無、総コレステロール、性別、年齢、および喫煙習慣を少なくとも含む複数項目の元指標を取得する取得手段と、予め用意されている脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクそれぞれの疾病リスク評価モデルに、前記複数項目の元指標の値を代入することにより、前記評価対象者の脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクの値を算出する疾病リスク評価手段と、予め用意されている健康年齢の算出モデルに、算出された脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクの値を代入することにより、前記評価対象者の健康状態を年齢に換算した指標である健康年齢を算出する健康年齢変換手段と、算出された脳卒中リスク、冠動脈系リスク、心血管系リスク、および健康年齢の値を表示する表示手段と、を備える。
【0022】
この第3態様において、前記疾病リスク評価モデルは、疫学データに基づいて生成された比例ハザードモデルであることが好ましい。また、前記健康年齢の算出モデルは、疫学データに基づいて生成された、脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクの線形和で表されるモデルであることが好ましい。また、前記最高血圧値と総コレステロールの値として、ばらつきの範囲、値域、若しくは分布で表現される、信頼性を表す情報を含む値を用いることが好ましい。また、前記疾病リスク評価手段は、前記脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクの値として、ばらつきの範囲、値域、若しくは分布で表現される、信頼性を表す情報を含む値を算出し、前記表示手段は、前記信頼性を表す情報を含む表現形式で前記脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクの値を表示することが好ましい。また、前記健康年齢変換手段は、前記健康年齢の値として、ばらつきの範囲、値域、若しくは分布で表現される、信頼性を表す情報を含む値を算出し、前記表示手段は、前記信頼性を表す情報を含む表現形式で前記健康年齢の値を表示することが好ましい。
【0023】
本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する健康状態判断装置として捉えてもよいし、その健康状態判断装置と1以上の計測装置とを備える健康状態判断システムとして捉え
てもよい。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む健康状態判断方法、または、かかる方法をコンピュータに実行させるためのプログラムやそのプログラムを記録した記録媒体として捉えることもできる。なお、上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、健康な人あるいは疾病予備軍に該当する人の健康状態を適切に評価し得る新規な評価手法及び指標を提供することができる。また、本発明は、計測等により収集された数多くのデータをユーザにとって有益かつ有用な意味情報へと加工するための新規な手法を提供することができる。また本発明は、ユーザにとって納得性及び信頼性の高い情報を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0026】
(健康管理システムの全体像)
図1は、本発明に関わる健康管理システムの全体的な構成を示している。この健康管理システムは、前述したCPAサイクルをサポートするためのシステムである。「CHECK」に関わる機能として、日々の健康状態を測定するための「生体情報測定機能」と、測定で得られた情報から将来のリスクを推定するための「リスク推定機能」を備える。また、「PLAN」に関わる機能として、CHECKで得られた結果に基づきリスクの要因となる生活習慣等の因子を抽出するための「リスク因子抽出機能」と、改善目標の設定や改善計画の提案を行うための「改善計画支援機能」を備える。また、「ACTION」に関わる機能として、PLANで得られた改善目標・計画に従って生活改善活動(運動)の実施を支援するための「改善効果確認機能」と、必要に応じて計画・目標を修正するための「改善計画修正機能」を備える。これらのCHECK、PLAN、ACTIONの各機能が有機的に結びつき、そのサイクルを繰り返すことで、複数の生体指標に基づく総合的な健康状態の判断、将来的な健康リスクの評価、及び当該リスクと日常生活における活動との関係を可視化することができ、個人や家庭における能動的な自己健康管理の継続実施を支援することができるものと期待できる。
【0027】
以下に述べる総合健康状態判断システムは、上記健康管理システムの構成のうちのCHECK機能(より詳しくはリスク推定機能)を担う要素技術として位置付けられるものである。
【0028】
(総合健康状態判断システム)
図2は、本発明の実施形態に係る総合健康状態判断システム(以下、単に「システム」ともいう。)の一構成例を示す図である。
【0029】
このシステムは、総合健康状態判断装置1と、1以上の計測装置2〜5とから構成される。計測装置としては、人の身体から生体指標(生体情報ともいう)を測定するための装置や、人の活動や生活習慣などの生活指標を測定するための装置などを用いることができる。生体指標の計測装置としては、たとえば、体重、体組成(体脂肪、筋肉など)、BMIなどを測定可能な体重体組成計、血糖値を測定する血糖計、血圧及び脈拍数を測定する血圧計、体温を測定する体温計、心拍数を測定する心拍計などがある。また生活指標の計測装置としては、たとえば、身体活動量や運動強度を測定する活動量計、歩数を測定する歩数計、睡眠の状態を測定する睡眠センサ、食事のカロリー計算を行うカロリー計などがある。図2に示す本実施形態のシステムでは、体重体組成計(2)、血糖計(3)、血圧計(4)、及び活動量計(5)が用いられている。
【0030】
総合健康状態判断装置1と各計測装置2〜5とは、有線または無線によりデータ通信可能である。各計測装置で得られた測定値は、総合健康状態判断装置に送られ集約される。なお総合健康状態判断装置と計測装置とが常に接続されている場合には、測定が行われるたび若しくは予め決められたタイミングで、計測装置から総合健康状態判断装置へのデータ送信が行われるとよい。これにより両装置間のデータの同期が図られる。一方、総合健康状態判断装置と計測装置とが常時接続でない場合には、計測装置または総合健康状態判断装置が接続の有無を監視し、接続を検知したときに自動的にデータの同期をとるとよい。もちろん、ユーザ自身の操作により、測定値を健康状態判断装置に転送してもよい。
【0031】
(総合健康状態判断装置のハードウエア構成)
図3は、総合健康状態判断装置1のハードウエア構成を模式的に示すブロック図である。
【0032】
図3に示すように、総合健康状態判断装置1は、CPU(中央演算処理装置)101、ボタン102及びユーザI/F(インターフェイス)制御部103、通信コネクタ104及び機器通信制御部105、RTC(リアルタイムクロック)106及びRTC制御部107、パネル108及び表示制御部109、音源装置110及び音制御部111、ROM(リードオンリーメモリ)112・RAM(ランダムアクセスメモリ)113及び記憶媒体制御部114、電源115及び電源制御部116を備えている。この装置は、専用の機器として構成することもできるし、パーソナルコンピュータなどの汎用機器に必要なハードウエア(例えば計測機器との通信コネクタ)及び必要なプログラムを実装することで構成してもよい。
【0033】
ボタン102は、総合健康状態判断装置1に情報や指示を入力するための入力手段である。ボタン102の操作により入力された情報や指示はユーザI/F制御部103を介してCPU101に通知される。
【0034】
通信コネクタ104及び機器通信制御部105は、各種計測装置2〜5との間のデータ通信を実現するための通信手段である。通信方式としては、USB、IEEE1394などの有線通信でもよいし、Bluetooth、ZigBee、IrDA、無線LANなどの無線通信でもよい。
【0035】
RTC106及びRTC制御部107は、計時機能を提供する部分である。
【0036】
パネル108及び表示制御部109は、後述する各種の指標を表示するための表示手段である。パネル108としては、たとえば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどを好適に用いることができる。
【0037】
音源装置110及び音制御部111は、アラートや音声ガイドなどを出力する出力手段である。
【0038】
ROM112は、総合健康状態判断装置1としての機能を提供するプログラム、各種設定値、各計測装置2〜5から取得した測定値、入力手段から入力された情報、後述する各種の指標などが格納される記憶媒体である。EEPROM(Erasable Programmable ROM
)のように書き換え可能なメモリで構成される。RAM113は、プログラム実行時のワークメモリとして利用される記憶媒体である。ROM112及びRAM113へのアクセスは記憶媒体制御部114によって制御される。なお、EEPROMに加えて、あるいはEEPROMの代わりに、ハードディスクなどの記憶媒体を設けてもよい。
【0039】
電源115及び電源制御部116は、総合健康状態判断装置1に電力を供給する機能で
ある。電源115としては電池でもよいしAC電源でもよい。
【0040】
(総合健康状態判断装置の機能構成)
図4は、総合健康状態判断装置1の機能を模式的に示す機能構成図である。
【0041】
図4に示すように、総合健康状態判断装置1は、その機能として、機能遷移制御機能130、初期設定機能140、生活習慣設定機能150、生体指標収集機能160、総合健康状態判断機能170を備える。また、初期設定機能140は、属性指標設定機能141、日付・時刻設定機能142を備える。また、生体指標収集機能160は、測定値通信機能161、測定値信頼性評価機能162、測定値記録機能163を備える。総合健康状態判断機能170は、健康状態抽出機能171と健康状態表示機能174を備え、さらに健康状態抽出機能171は疾病リスク評価機能172と健康年齢変換機能173を備え、健康状態表示機能174は健康年齢表示機能175と健康プロファイル表示機能176を備える。これらの機能は、CPU101がROM112に格納されたプログラムを読み込み実行することにより実現されるものである。
【0042】
(機能遷移制御機能)
機能遷移制御機能130は、ユーザの操作、計測装置との通信、実行中のプログラムなどで発生したイベント(割り込み)に従って、初期設定機能140、生活習慣設定機能150、生体指標収集機能160、総合健康状態判断機能170の切り替えを統括制御する機能である。
【0043】
(初期設定機能)
属性指標設定機能141は、ユーザに属性指標(属性情報ともいう)を入力させるための機能である。属性指標としては、たとえば、年齢、性別、身長、病歴などが想定される。属性指標設定機能141は、「年齢?__」のように属性指標の入力画面をパネルに表示し、ユーザに属性指標の入力を促す。ボタンなどの入力手段の操作により属性指標が入力されると、その情報がROM112内のユーザ情報DBに記録される。
【0044】
日付・時刻設定機能142は、現在日時(ローカルタイム)を装置に設定するための機能である。日付・時刻設定機能は、「年月日?______」のような設定画面をパネル108に表示し、ユーザに現在日時の設定を促す。ボタン102などの入力手段の操作により現在日時が設定されると、その値がRTC106に書き込まれる。以降は、RTC106が現在日時を計時する。
【0045】
(生活習慣設定機能)
生活習慣設定機能150は、ユーザに生活指標(生活習慣ともいう)を入力させるための機能である。生活指標としては、たとえば、喫煙習慣の有無、睡眠時間などが想定される。生活習慣設定機能150は、「喫煙習慣?あり/なし」のような入力画面をパネル108に表示し、ユーザに入力を促す。ボタン102などの入力手段の操作により生活指標が入力されると、その情報がROM112内のユーザ情報DBに記録される。
【0046】
以上述べた属性指標、現在日時、及び生活指標の設定は、原則として、総合健康状態判断装置1の初回起動時に行われる。つまり、総合健康状態判断装置1が起動されると、機能遷移制御機能130がROM112に属性指標等が設定されているかを調べ、未設定であれば初期設定機能140等を自動的に呼び出すのである。なお設定済みの場合でも、ユーザの変更操作により属性指標、現在日時、及び生活指標の設定値を変更することができる。
【0047】
(生体指標収集機能)
測定値通信機能161は、通信コネクタ104を介して、各種の計測装置から測定値を取得する機能である。取得した測定値は、測定値記録機能163によって、ROM112に蓄積される。このとき、測定値の測定日時又は取得日時を表すタイムスタンプとともに測定値が記録される。
【0048】
測定値信頼性評価機能162は、測定値の信頼性を評価する機能である。測定値の信頼性とは、測定値に見込まれるばらつきの程度を表す情報(尺度)である。測定値の不確かさ(あるいは確かさ)と言い換えることもできる。測定値の信頼性は、計測装置の精度、計測環境、計測モード、その他の外乱などに影響を受ける。たとえば同じ血圧計でも手首式と上腕式では精度が異なる可能性があるし、ハイエンド機と普及機でも精度が異なる可能性がある。また同じ装置を用いても、計測する場所や外気温などの影響で測定値にばらつきがでる可能性がある。計測モードとは、たとえば、電子体温計の予測モードと実測モードが該当する。予測モードのほうが実測モードよりも精度が劣る。それ以外にも、測定の体勢や他の外乱要因により測定値にばらつきがでる可能性がある。測定値信頼性評価機能162は、計測装置から測定値の精度を取得できるのであればそれを測定値の信頼性として用いることができる。また、測定値は測定対象者自身の状態(体調、疲労、睡眠、食事等)によってもばらつくため、測定値信頼性評価機能162は、過去の所定期間の測定値の分布やばらつきを評価し、それを測定値の信頼性として用いることもできる。
【0049】
測定値の信頼性を表す情報の表現手法はさまざまなものが考えられ、そのいずれを採用してもよい。例えば、「最高血圧値:135±6」のようにばらつきの範囲により信頼性を表現してもよいし、「最高血圧値:128〜139」のように値域により信頼性を表現してもよい。また、平均値と分散により測定値の分布やばらつきを表現してもよい。あるいは、「最高血圧値:135±約6」とか「最高血圧値:約128〜約139」のようにファジィ集合によりばらつきの範囲や値域の境界を曖昧にすることも可能である。以下、「値が幅をもつ」という表現を、「値が信頼性を表す情報を含んでおり、1つの確定的な数値に定まらない」という意味で用いる。
【0050】
以上述べた生体指標収集機能160によって、各種計測装置から随時測定値が収集され、必要に応じて、測定値の信頼性を表す情報とともに、ROM112内のユーザ情報DBに蓄積されていく。
【0051】
なお、活動量計、歩数計、睡眠センサなどの生活指標の計測装置で計測された測定値についても、生体指標と同じように生体指標収集機能160によって収集され、ROM112内のユーザ情報DBに蓄積されるものとする。
【0052】
(総合健康状態判断機能:健康状態抽出機能171)
((疾病リスク評価機能))
疾病リスク評価機能172は、ユーザ情報DBに蓄積された生体指標、生活指標、属性指標(以下、これらのユーザ情報DBに蓄積された情報を元指標とよぶ。)を用いて、複合指標たる疾病リスクを推定する機能である。疾病リスク評価機能172は、元指標の因果関係をモデリングしたリスク評価モデルを用い、当該モデルによる因子間の影響度の伝播を評価することで、疾病リスクの算出を行う。以下、詳しく説明する。
【0053】
図5は、ユーザ情報DBに蓄積された生体指標、生活指標、属性指標と疾病リスクの因果関係の一例を示すものである。なお、実際の装置では、十数〜数十個の因子を用いて、より複雑な因果関係を構成することも可能である。また、本実施形態では複合指標として、脳卒中リスク、冠動脈系リスク、心血管系リスクの3つの疾病リスクを用いるが、他の疾病に関するリスクを用いてもよいし、血管年齢や筋力年齢のように身体器官や身体機能に関する指標を用いてもよい。また複合指標の数は3つに限らず、2つでもよいし、4つ
以上でもよい。元指標と複合指標の間の因果関係は、疫学の知見から人が設計してもよいし、公知の因果構造推定手法を利用して自動的に生成してもよい。図5から、「脳卒中リスク」の因子として、属性指標の「性別」及び「年齢」と、生活指標の「喫煙習慣の有無」と、生体指標の「最高血圧値」、「糖尿病の有無」及び「総コレステロール」が影響を及ぼし得ることがわかる。また「冠動脈系リスク」及び「心血管系リスク」についても、「性別」、「年齢」、「喫煙習慣の有無」、「最高血圧値」、「糖尿病の有無」、「総コレステロール」などの因子が影響を及ぼすことがわかる。
【0054】
リスク評価モデルとは、各因子の影響の強さをモデル化したものである。図6に、脳卒中リスクのリスク評価モデルの一例を示す。本実施形態では、リスク評価モデルとして、比例ハザードモデルを採用している。すなわち、下記式のように、時点tにおける脳卒中リスクRCEを、時間の関数であるR(t)と各影響因子の線形和の指数関数との積で表している。

脳卒中リスクのモデル:
CE=R(t)×exp(αA+αG+αBPDM+αTC+ε)

【0055】
ここで、R(t)は、脳卒中による時間t後の統計的な死亡率であり、基準ハザードとよばれる。例えば、当初の母数が100人である場合、t=0の時点では100人全員が生存しているため、R(0)=0%である。もし、t=t1の時点で、9人が脳卒中で死亡し、10人が他の原因による死亡や移住等により生存が確認できない場合、母数は90人(=100人−10人)と考え、R(t1)=(9/90)×100%=10%となる。このように、時間の経過とともに脳卒中以外の原因による死亡者数(生存が確認できない者含む)を母数から除外していくことで、脳卒中による純粋な死亡率を表現することができる。なお、ここでは、死亡率を基準ハザードR(t)に選んだが、もちろん、死亡以外のイベントの発生率を基準ハザードR(t)に選んでもよい。例えば、入院、障害、重度の症状などの、日常生活に支障をきたすようなイベントの発生率などが考えられる。
【0056】
Aは年齢、Gは性別、BPは最高血圧値、DMは糖尿病の有無、TCは総コレステロールである。αは、各因子がR(t)に及ぼす影響強度を示すパラメータ(重み)である。またεは、A、G、BP、DM、TC以外の因子によるR(t)への影響を示すパラメータである。パラメータα、εの生成手法としては、Exact法(モンテカルロ正確確率検定)、Breslow法、Efron法(ブートストラップ)、離散法等を利用することができる。
【0057】
ここで、リスク評価モデルに入力する因子の値が、たとえば「最高血圧値:135」のように確定的な値の場合は、疾病リスクも1つの値に定まる。一方、因子の値が幅をもつ場合は、疾病リスクも1つの値に定まらず、因子と同様に幅をもつ値となる。なお因子の値が幅をもつ場合には、その幅の中から複数の代表値を選び出し、各代表値をリスク評価モデルに代入することでリスク計算を行えばよい。代表値としては、例えば、因子の値の分布における−Nσと+Nσの値を用いることができる(Nは正の整数、σは標準偏差)。統計量であるNσを用いることで、因子のばらつきや確からしさといった情報をリスクの分布にも継承することができるという利点がある。あるいは、代表値として、因子の最小値と最大値を用いることもできる。工業製品のばらつき等を評価する場合は、値の分布における最小値や最大値はノイズである可能性が高く、外れ値として排除されることが一般的である。しかしながら、生体から測定される情報の場合には、そのような外れ値ほど、身体の異常の兆候を示すものとして、重要な情報である可能性が高い。したがって、本システムにあっては、因子の最小値と最大値を用いてリスク計算を行う後者の手法のほうが好ましいといえる。このように、因子の値が信頼性の情報を含む場合には、疾病リスク
についても信頼性の情報をもたせることが可能となる。
【0058】
本実施形態では、リスク評価モデルの基準ハザードR(t)及びパラメータα、εを算出するための基礎データとして、大規模疫学研究の成果である疫学データを利用する。疫学研究の代表的なものとしては、NIPPON DATA80、Framingham study(フラミンガム・スタディ)、大迫研究、久山町研究、吹田研究等がある。このような疫学データに基づき、因子間の影響強度や各時点での死亡率を求めることで、リスク評価モデルに高い精度を実現することができる。また、疫学データをエビデンスとすることで、本システムの出力する評価指標に対するユーザの納得性及び信頼性を高め、健康管理のモチベーションを向上することができると期待できる。
【0059】
((健康年齢変換機能))
健康年齢変換機能173は、疾病リスク評価機能172によって求めた複数の疾病リスクを総合的に評価し、ユーザの健康状態を年齢に換算した指標である「健康年齢」を算出する機能である。
【0060】
本実施形態では、下記式に示すように、脳卒中リスクRCE、冠動脈系リスクRAC、及び心血管系リスクRCVの線形和モデルを用いて健康年齢Aを算出する。βは、各疾病リスクが健康年齢に及ぼす影響強度を示すパラメータである。またεは、RCE、RAC、RCV以外の因子による健康年齢への影響を示すパラメータである。これらのパラメータβ、εは、前述した疫学データを利用して、回帰分析等の手法により算出することができる。疾病リスクの値が値域や分布などの信頼性の情報をもつ場合は、健康年齢Aの値も幅をもつ。

健康年齢のモデル:
=βCE+βAC+βCV+ε

【0061】
図7Aは、健康年齢のモデルのもつ意味を説明するための模式図である。ただし、説明の簡単のために、心血管系リスクRCVは固定値として無視するものとする。上記の健康年齢のモデル式の左辺(A)に「50」を代入すると、脳卒中リスクRCE−冠動脈系リスクRAC平面上に実年齢50歳に対応する1本の年齢直線を描くことができる。同様にして、モデル式の左辺に「60」、「70」、・・・を代入し各年齢に対応する年齢直線を描くと、脳卒中リスクRCE−冠動脈系リスクRAC平面上に実年齢の高さを表す等高線を描くことができる。この等高線は、モデルのパラメータの生成に用いたサンプルデータ(疫学データ)の分布に概ね一致するはずである。そして、ユーザの値として、脳卒中リスクR1、冠動脈系リスクR2が与えられると、上記モデル式により健康年齢A12が算出される。これはすなわち、サンプルデータの母集団の中から、ユーザと同じ値のリスクをもつ人を特定し、その人の年齢をユーザの健康年齢とみなす、という処理と実質的に等価である。なお、図7Bに示すように、疾病リスクの値が幅をもつ場合には、疾病リスクの代表値(±Nσ、最小値・最大値など)を用いて健康年齢の計算を行う。この処理は、サンプルデータの母集団の中から、ユーザと類似するリスクを示す集合を特定し、その集合を構成する人々の年齢分布をユーザの健康年齢とみなす、という処理と実質的に等価である。
【0062】
(総合健康状態判断機能:健康状態表示機能)
健康状態表示機能174は、上述した健康状態抽出機能171で求めた各種の指標をパネル108に表示するための機能である。以下、図8〜図12を用いて、健康状態表示機能174による画面表示の具体例を説明する。
【0063】
図8は、健康年齢表示機能175に関する画面表示の例である。たとえば、ユーザがボタン操作により健康年齢の表示を指示すると、まず図8の画面がパネルに表示される。この画面では、ユーザの健康状態の総合的な評価指標である健康年齢が表示されるとともに、その健康年齢の算出根拠である複数の疾病リスク(脳卒中リスク、冠動脈系リスク、心血管系リスク)も表示される。
【0064】
健康年齢は、数値で表示され、前述のように疾病リスクの信頼性に応じて健康年齢の値域が変化する。つまり、信頼性が高いほど健康年齢の値域が狭く、信頼性が低いほど値域が広くなる。このように、ユーザの健康状態を健康年齢という指標で提示すれば、ユーザは健康年齢と自分自身の実年齢との比較ができるため、自分自身の健康状態がどの程度なのかを直感的に把握することができる。また、確定的な数値ではなく、信頼性に応じた幅をもつ数値範囲で健康年齢を表示することで、健康年齢の信頼性(精度)をユーザに知らしめることができ、結果的に装置の出力に対する安心感や信頼を増すことにつながる。なお、健康年齢の信頼性の表現手法は、「35〜38歳」のような値域で表す手法に限られない。例えば、「37歳±2歳」とか「37歳±3%」のようにばらつきの範囲を表示してもよい。また、「約35〜約38歳」とか「37歳±約2歳」のようにファジィ数による表現を用いることにより、厳密な数値表現がもつ誤謬を解消することができる。
【0065】
一方、疾病リスクは、レーダーチャートで表される。このレーダーチャートの各軸は、ユーザと同年代かつ同性別の人の平均的な疾病リスクの値で規格化されており、比較対象としてその平均的な疾病リスクのグラフも表示される(破線の正三角形参照)。このようなレーダーチャートをみることで、ユーザは自分自身の疾病リスクが平均からどの程度乖離しているのか、また自分の健康年齢に最も大きく影響しているリスク要因はどれなのか、を容易に把握することができる。ここで、図8に示すように、健康年齢に最も大きく影響しているリスク要因を強調表示すれば、当該リスク要因にユーザの関心を向けることができるため好ましい。なお、疾病リスクの値が信頼性に応じた幅をもつ場合には、レーダーチャートのグラフの線幅を信頼性に応じて変化させるとよい。これにより、疾病リスクの信頼性(精度)についても直感的な形でユーザに知らしめることができる。このとき、グラフの境界をぼかしたり、濃淡のグラデーションを付けたりすることで、前述したファジィ表現をグラフ表示にも応用することができる。
【0066】
図9は、疾病リスクの別の表示例を示している。この表示例では、横軸が年齢、縦軸が疾病リスクを示すグラフ上に、ユーザの実年齢を示すライン(破線参照)と疾病リスクの値(星マーク参照)とがプロットされている。そして、グラフの背景は、健康/やや注意/注意/危険のように複数のエリアに区分けされている。各エリアの境界を決める閾値は一定ではなく、年齢に応じて変化する(基本的には年齢が高くなるほど閾値は大きくなる)。これは、リスクの値が同じでも、20歳でリスクが50%というのと、70歳でリスクが50%というのでは、その深刻度がまったく異なることを考慮したものである。すなわち、上記エリアの境界は、各年齢に相応しいリスク評価基準を示すものといえる。この境界の閾値は、前述した疫学データから統計的に求められる。ユーザは、自分自身の疾病リスクの値がどのエリアに属するか、さらにはエリア内のどのあたりの位置にプロットされているか、を確認することで、自分自身の年齢に応じた疾病リスクの深刻度を容易に理解できる。
【0067】
図8の画面において、レーダーチャートのリスク要因を選択(クリック)すると、図10の画面表示に切り替わる。図10は健康プロファイル表示機能に関する画面表示の例であり、ある1つの疾病リスク(図10は心血管系リスクの例)に関する詳細情報を表示するための画面である。
【0068】
図10の画面では、左側に心血管系リスクの値がバー表示されている。この場合も、リ
スクの信頼性に応じて幅をもたせて表示するとよい。例えば、心血管系リスクが5%〜8%の場合には、心血管系リスクのバー(2%〜10%を示す)のうち、5%〜8%に該当する部分を別の色で表示すればよい。この場合も、5%〜8%に該当する部分の境界をぼかしたり、グラデーション表示したりすることで、ファジィ表現を行うことができる。
【0069】
また画面の右側には、心血管系リスクに影響を与える指標(因子)の値をレーダーチャートで表示する。このレーダーチャートの各軸は、ユーザと同年代かつ同性別の人の平均的な各指標の値で規格化されている。そして比較対象としてその平均的な各指標の値のグラフも表示される(破線の矩形参照)。このようなレーダーチャートをみることで、ユーザは当該疾病リスクに対してどの指標がどれくらい影響を及ぼしているのか、換言すれば、自分自身にとって改善項目とすべき指標はどれか、を容易に把握できる。なお、図10の例では、指標として、最高血圧、血糖値、総コレステロール、喫煙習慣を挙げたが、当該疾病リスクに影響を及ぼす指標であればどの項目を挙げてもよい。指標の数が多い場合には、ユーザ自身の努力で改善可能なもの(たとえば、喫煙習慣、体重、血糖値など)を優先的に選択し、ユーザ自身が制御できない指標(たとえば、性別、身長など)は表示対象から除外するとよい。なお、図8の場合と同様、指標の値が信頼性に応じた幅をもつ場合には、レーダーチャートのグラフの線幅を変化させたり、さらには境界をぼかす等してファジィ表現を行うとよい。
【0070】
図8の画面において、健康年齢の部分を選択すると、図11の画面表示に切り替わる。図11は健康プロファイル表示機能に関する画面表示の例であり、各疾病リスクの累積をレーダーチャートで表示したものである。このレーダーチャートの各軸は、図10の画面における指標(影響因子)に対応している。このような表示をみることで、ユーザは、どの指標がどの疾病リスクに大きな影響を与えているのか、換言すれば、ある指標を改善したときにどの疾病リスクを下げるのに有効なのか、を総合的に把握することができる。なお、このレーダーチャートは疾病リスクの累積を表しているので、最外殻は健康年齢を表しているといえる。
【0071】
図10又は図11の画面において、いずれかの指標の部分を選択すると、図12の画面表示に切り替わる。図12は健康プロファイル表示機能に関する画面表示の例であり、1つの元指標(図12は最高血圧の例)に関する詳細情報を表示するための画面である。
【0072】
画面左側には、ユーザが選択した指標(最高血圧)の値の時間的な推移がグラフ表示されている。具体的には、ユーザ情報DBから一ヶ月前、一週間前、今週のそれぞれの一週間分のデータが読み込まれ、各週の測定値の統計量(平均、ばらつきなど)を表示する。また画面右側には、当該指標(最高血圧)の改善に影響のある生活指標の情報がレーダーチャートで表示される。図5に示すように、最高血圧値には、生活指標の「断続歩行時間」「連続歩行時間」「連続歩行回数」「歩行パターンばらつき」などの因子が影響を与え得る。これらの指標は活動量計から得られる情報である。ここで連続歩行時間とは所定の時間以上連続して歩行した時間の一日あたりの累積値であり、断続歩行時間とは1日の総歩行時間から連続歩行時間を引いたものである。また連続歩行回数とは、一日に連続歩行を行った回数である。このような情報に基づき、図12のようなレーダーチャートを表示する。またレーダーチャートでも一ヶ月前、一週間前、今週、それぞれの平均値をグラフ表示する。これにより、日頃の運動がどの程度血圧値の改善に効果があるかを容易に把握することができるので、健康管理の継続実施のモチベーションを維持することが期待できる。
【0073】
上述した実施形態の構成は本発明の一具体例を例示したものにすぎない。本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、本発明に関わる健康管理システムの全体的な構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る総合健康状態判断システムの一構成例を示す図である。
【図3】図3は、総合健康状態判断装置のハードウエア構成を模式的に示すブロック図である。
【図4】図4は、総合健康状態判断装置の機能を模式的に示す機能構成図である。
【図5】図5は、ユーザ情報DBに蓄積された生体指標、生活指標、属性指標と疾病リスクの因果関係の一例を示す図である。
【図6】図6は、脳卒中リスクのリスク評価モデルの一例を示す図である。
【図7】図7A及び図7Bは、健康年齢のモデルのもつ意味を説明するための模式図である。
【図8】図8は、健康年齢表示機能に関する画面表示の例を示す図である。
【図9】図9は、疾病リスクの別の表示例を示す図である。
【図10】図10は、ある1つの疾病リスクに関する詳細情報を表示するための画面例を示す図である。
【図11】図11は、各疾病リスクの累積をレーダーチャートで表示する画面例を示す図である。
【図12】図12は、1つの元指標に関する詳細情報を表示するための画面例を示す図である。
【図13】図13は、健康管理システムのコンセプトモデルを示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 総合健康状態判断装置
2〜5 計測装置
101 CPU
102 ボタン
103 ユーザI/F制御部
104 通信コネクタ
105 機器通信制御部
106 RTC
107 RTC制御部
108 パネル
109 表示制御部
110 音源装置
111 音制御部
112 ROM
113 RAM
114 記憶媒体制御部
115 電源
116 電源制御部
130 機能遷移制御機能
140 初期設定機能
141 属性指標設定機能
142 日付・時刻設定機能
150 生活習慣設定機能
160 生体指標収集機能
161 測定値通信機能
162 測定値信頼性評価機能
163 測定値記録機能
170 総合健康状態判断機能
171 健康状態抽出機能
172 疾病リスク評価機能
173 健康年齢変換機能
174 健康状態表示機能
175 健康年齢表示機能
176 健康プロファイル表示機能

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象者の健康状態を評価するための情報として、計測装置により測定される測定値及び操作者により入力される入力値を含む複数項目の元指標を取得する取得手段と、
前記複数項目の元指標の値に基づいて、前記評価対象者の健康状態を年齢に換算した指標である健康年齢を算出する健康状態判断手段と、
前記健康年齢を表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする健康状態判断装置。
【請求項2】
前記健康状態判断手段は、前記複数項目の元指標の値から、前記元指標の項目数よりも少ない数の複数の中間指標の値を算出した後に、前記複数の中間指標の値から最終指標である前記健康年齢を算出することを特徴とする請求項1に記載の健康状態判断装置。
【請求項3】
前記中間指標は、特定の疾病に対するリスク、又は、特定の身体器官若しくは身体機能の状態を表す指標であることを特徴とする請求項2に記載の健康状態判断装置。
【請求項4】
前記健康状態判断手段は、疫学データに基づいて生成された評価モデルを用いて、前記中間指標を算出することを特徴とする請求項3に記載の健康状態判断装置。
【請求項5】
前記元指標の値として、1つの確定的な数値に定まらない、信頼性を表す情報を含む値を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の健康状態判断装置。
【請求項6】
前記健康状態判断手段は、前記健康年齢の値として、1つの確定的な数値に定まらない、信頼性を表す情報を含む値を算出し、
前記表示手段は、前記信頼性を表す情報を含む表現形式で前記健康年齢を表示することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の健康状態判断装置。
【請求項7】
評価対象者の健康状態を評価するための情報として、計測装置により測定される測定値及び操作者により入力される入力値を含む複数項目の元指標を取得する取得手段と、
前記複数項目の元指標の値から、前記元指標の項目数よりも少ない数の複数の中間指標の値を算出するとともに、前記複数の中間指標の値から、所定の母集団における前記評価対象者の相対的な健康状態を示す総合健康指標を算出する健康状態判断手段と、
前記複数の中間指標および前記総合健康指標を表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする健康状態判断装置。
【請求項8】
評価対象者の健康状態を評価するための情報として、最高血圧値、糖尿病の有無、総コレステロール、性別、年齢、および喫煙習慣を少なくとも含む複数項目の元指標を取得する取得手段と、
予め用意されている脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクそれぞれの疾病リスク評価モデルに、前記複数項目の元指標の値を代入することにより、前記評価対象者の脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクの値を算出する疾病リスク評価手段と、
予め用意されている健康年齢の算出モデルに、算出された脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクの値を代入することにより、前記評価対象者の健康状態を年齢に換算した指標である健康年齢を算出する健康年齢変換手段と、
算出された脳卒中リスク、冠動脈系リスク、心血管系リスク、および健康年齢の値を表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする健康状態判断装置。
【請求項9】
前記疾病リスク評価モデルは、疫学データに基づいて生成された比例ハザードモデルで
あることを特徴とする請求項8に記載の健康状態判断装置。
【請求項10】
前記健康年齢の算出モデルは、疫学データに基づいて生成された、脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクの線形和で表されるモデルであることを特徴とする請求項8又は9に記載の健康状態判断装置。
【請求項11】
前記最高血圧値と総コレステロールの値として、ばらつきの範囲、値域、若しくは分布で表現される、信頼性を表す情報を含む値を用いることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の健康状態判断装置。
【請求項12】
前記疾病リスク評価手段は、前記脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクの値として、ばらつきの範囲、値域、若しくは分布で表現される、信頼性を表す情報を含む値を算出し、
前記表示手段は、前記信頼性を表す情報を含む表現形式で前記脳卒中リスク、冠動脈系リスク、および心血管系リスクの値を表示することを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の健康状態判断装置。
【請求項13】
前記健康年齢変換手段は、前記健康年齢の値として、ばらつきの範囲、値域、若しくは分布で表現される、信頼性を表す情報を含む値を算出し、
前記表示手段は、前記信頼性を表す情報を含む表現形式で前記健康年齢の値を表示することを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の健康状態判断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−26855(P2010−26855A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188456(P2008−188456)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
2.ZIGBEE
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】