説明

偽造防止用途のための屈折率が整合した蛍光体および基板

隠れた偽造防止対策として、プラスチック基板の中または表面に組み込むことができる蛍光体組成物を提供する。プラスチック基板は透明にすることができ、蛍光体組成物は、透明性を維持するために、プラスチック基板の屈折率に効果的に整合する屈折率を有する。蛍光体組成物は、赤外線領域に吸収を有し、よって、赤外発光源による本組成物の励起および検出を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年12月17日に出願された現在係属中の米国仮特許出願第61/287,447号の優先権を主張するものである。
本技術は、蛍光体のプラスチック製品への組み込みと、組み込まれた蛍光体の偽造防止対策としての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
偽造防止対策を文書または他の物品に組み込むことが望ましい多くの用途がある。そのような偽造防止対策は、物品を認証または検証することで偽造を防止する方法を提供する。人間の目に見える偽造防止対策もあるが、隠れているか目に見えないために特殊な検出装置の使用を必要とするものもある。目に見える偽造防止対策としては、例えば、ホログラム、透かし画像、エンボス画像、偽造防止リボンもしくはホイル、着色糸もしくは繊維を挙げることができる。隠れているか目に見えない偽造防止対策としては、例えば、蛍光繊維、化学的感応染料、および物品の基板に組み込むことができる蛍光顔料もしくは色素、物品表面に印刷されるインク、または物品を積層するためのフィルムを調製するのに使用される樹脂を挙げることできる。
【0003】
偽造防止対策を含む物品は、プラスチックなどの高分子化合物を含む様々な基板から製造することができる。オーストラリアは、例えば、紙ではなく二軸延伸ポリプロピレン製の通貨を開発した。通貨の高分子基板は、非常に紙のように機能し、従来の印刷技術を使用してインクが表面に塗布されている。そのような高分子通貨内に含めることができる偽造防止対策の1つは透明窓であり、例えば、光学的に可変な素子を挙げることができ、それは、写真複写機またはスキャナを用いた通貨の偽造をより難しくする回折格子を利用している。
【発明の概要】
【0004】
本技術は、プラスチック基板に組み込むことができる蛍光体系偽造防止対策に関する。特に、本明細書に開示されている例によって、赤外発光源による励起によって検出可能な蛍光体組成物を含んでなる視覚的に透明なプラスチック基板を提供することができる。
【0005】
一側面では、屈折率を有する透明プラスチック材料と、該プラスチック材料に組み込まれた蛍光体組成物とを含んでなるプラスチック基板が提供される。該蛍光体組成物は、少なくとも1種の活性イオンと、フッ化物含有結晶性ホスト格子材料とを含む。該蛍光体組成物は、赤外線領域に吸収を有し、該プラスチック材料の屈折率に効果的に整合する屈折率を有する。
【0006】
別の側面では、プラスチック基板を用意する工程と、該プラスチック基板に赤外発光源を導いて、蛍光体組成物を励起させる工程とを含む、該プラスチック基板の中に隠れた蛍光体系偽造防止対策の検出方法が提供される。該プラスチック基板は、屈折率を有する透明プラスチック材料と、赤外線領域に吸収を有し、該プラスチックに組み込まれた蛍光体組成物とを含む。該蛍光体組成物は、少なくとも1種の活性イオンと、フッ化物含有結晶性ホスト格子材料とを含み、該プラスチック材料の屈折率に効果的に整合する屈折率を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
多くの用途において、プラスチック基板から形成された物品が本物であるという検証を可能にするために、プラスチック基板に蛍光体系偽造防止対策を組み込むことが望ましい。蛍光体系偽造防止対策は、少なくとも1種の活性イオンと、好適なホスト格子材料とを含む蛍光体組成物とを含むことができる。活性イオンという用語は、UV(紫外線)からIR(赤外線)までの光学スペクトルでエネルギーを吸収、放出および/または移動させるイオンを指す。蛍光体系偽造防止対策は、プラスチック基板に組み込むことができ、プラスチック基板に導かれた蛍光体組成物を励起する赤外発光源を利用して、蛍光体の存在を検出することができる。いくつかの例では、限定されるものではないが、蛍光体が980nmのレーザーポインタなどのレーザーによって好適に励起されるアップコンバータである場合には、蛍光体組成物の励起は、人間の目で検出することができる。他の例では、限定されるものではないが、蛍光体組成物が極めて弱い信号または可視スペクトル外の信号を発する場合には、蛍光体組成物の励起を機械読み取り可能な形態にしてもよい。
【0008】
プラスチック基板は一般に、プラスチック材料と、例えば、本明細書に記載されている蛍光体組成物などの所与の用途に望ましい任意の添加剤とを含む。プラスチック基板は、所望の用途に適した任意の厚さとすることができ、単層または多層にすることができる。例えば、プラスチック基板が積層された多層フィルムである場合などのようにプラスチック基板が複数の層を有する場合には、蛍光体組成物をフィルムの一つの層に組み込むことができる。プラスチック基板は、限定されるものではないが、貨幣価値を持つ証券(例えば、債券または銀行券)などの多種多様の偽造防止を必要とする物品の中に形成することができる。プラスチック基板が貨幣価値を持つ証券に使用されているいくつかの例では、プラスチック基板の厚さを、例えば、約0.05mm〜約2mmにすることができる。
【0009】
いくつかの用途では、プラスチック基板またはその少なくとも一部は、透過性すなわち視覚的に透明なプラスチック材料を含むことができる。例えば、プラスチック基板は、完全に透明であっても、透明部分または透明窓を含んでいてもよい。プラスチック基板の任意の部分が透過性すなわち視覚的に透明である場合(人間がプラスチック基板を透視することができ、かつプラスチック基板が、実質的な不透明性、曇りまたは光散乱を呈していないことを意味する)、プラスチック基板が好ましくは同じもしくは実質的に同じレベルの透過性すなわち視覚的透明性を維持するように、本明細書に開示されている蛍光体組成物の屈折率を、プラスチック基板中の透明プラスチック材料の屈折率に効果的に整合させることができる。蛍光体組成物が多層のプラスチック基板の1つの層に組み込まれている場合、蛍光体組成物の屈折率を、その1つの層の中のプラスチック材料の屈折率に効果的に整合させることができる。
【0010】
本技術の蛍光体組成物は、当業者に知られている非常に多くの方法によって調製することができる。これらの方法としては、例えば、直接合成、沈降が挙げられ、これらの方法は、後処理と共に複数の工程プロセスも含むことができる。
【0011】
蛍光体組成物を含むプラスチック基板と、厚さおよび組成が同じであるが蛍光体組成物を含まないそれ以外のプラスチック基板との間に、人間の目に対して透過性のレベルに実質的な差が全く認められない場合には、蛍光体組成物の屈折率とプラスチック材料の屈折率との有効な整合を達成することができる。いくつかの用途では、例えば、蛍光体組成物の屈折率の値がプラスチック材料の屈折率の値の約2%以内である場合に(これは、蛍光体組成物の屈折率の値が、プラスチック材料の屈折率の値に等しいか約±2%であることを意味している)、蛍光体組成物の屈折率とプラスチック材料の屈折率との間に有効な整合を得ることができる。他の用途では、蛍光体組成物の屈折率の値が、プラスチック材料の屈折率の値の約1%以内、約0.5%以内、約0.25%以内、約0.2%以内または約0.2%未満以内である場合に、蛍光体組成物の屈折率とプラスチック材料の屈折率との間に有効な整合を得ることができる。
【0012】
蛍光体組成物の屈折率とプラスチック材料の屈折率との有効な整合は、例えば、プラスチック材料の厚さおよびプラスチック基板の形成の際にプラスチック材料に添加される蛍光体組成物の量などの要因に依存し得る。例えば、蛍光体組成物の屈折率とプラスチック材料の屈折率との間の所与の差の視覚的効果は、プラスチック材料の厚さに応じて変動してもよい。従って、蛍光体組成物の屈折率とプラスチック材料の屈折率との差が薄い用途のプラスチック材料で高くなることは、プラスチック材料における差の視覚的効果はそれ程重要ではないため、許容可能であってもよい。しかし、プラスチック材料の厚さが増加するにつれて屈折率間の差の視覚的効果は増加する傾向があるため、蛍光体組成物の屈折率とプラスチック材料の屈折率との差を減少させることが好ましい。同様に、プラスチック材料に組み込まれる蛍光体組成物の量が増加するにつれて、蛍光体組成物の屈折率とプラスチック材料の屈折率との差を減少させることが好ましい。
【0013】
材料の屈折率は、真空中の光の速度と物質中のその速度との比である。いくつかの例では、蛍光体組成物の屈折率とプラスチック材料の屈折率との有効な整合は、約400nm〜約700nmの間のスペクトルの可視域で行うことができる。一般に、この範囲外(例えば赤外線)での材料の屈折率の不整合は、人間の目には見えず、よって、赤外線カメラなどの実験室計測機器を用いて測定することはできるが、材料の視覚的透明性に影響を与えない。屈折率の整合の質は、用途にとって望ましい透明性レベル、用途にとって必要とされる蛍光体の量および基板材料の厚さの関数とすることができる。視覚的透明性のレベルを測定するための比較は、蛍光体組成物の存在下および非存在下で、同じ厚さの材料を観察している人間の目で行うことができる。
【0014】
例えば透明プラスチックなどの本技術の偽造防止対策を作る際に、任意の好適なプラスチック材料を利用することができる。透明プラスチックは視覚的に透明であってもよく、本体の色を実質的に全く呈することができないため、可視スペクトル領域に吸収を実質的に全く有していない。多くの市販の透明プラスチックは、約1.35〜約1.65の範囲の屈折率を有する。例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)(通常PMMAと呼ばれる)は一般に、約1.485〜約1.49の屈折率を有する。以下の表1は、さらなる例として、いくつかのさらなる材料の屈折率を提供する。
【0015】
【表1】

【0016】
但し、酸化物、ガーネット、酸硫化物または硫化物などの蛍光体ホスト格子材料を利用する蛍光体組成物は、1.7以上、1.75以上またはさらに2以上の屈折率を有する傾向がある。蛍光体組成物がプラスチックに組み込まれている場合、プラスチックの屈折率と蛍光体組成物の屈折率との差により、光学散乱または光散乱が生じる。例えば、酸化物系蛍光体組成物が添加されている場合、PMMAの透明性は低下し、PMMA単独と酸化物系蛍光体組成物を含有するPMMAとの目に見える差は、人間の目で検出することができる。大きな屈折率差と多量の蛍光体が存在する場合には、ほんの数%(重量%)の蛍光体でさえ、材料は実質的に不透明になり得る。対照的に、蛍光体組成物が約1.48の屈折率を有するPMMAに添加されている場合には、光学散乱の量を著しく減少させることができ、PMMAの視覚的透明性を維持することができる。
【0017】
本明細書に開示されている蛍光体組成物は、1.7未満の屈折率を有し、約1.35〜約1.65の屈折率を有することができる。従って、これらの蛍光体組成物は、様々なプラスチック材料との屈折率整合性を有することができ、プラスチック材料の中または表面に組み込んで、透過性すなわち視覚的に透明なプラスチック基板を製造することができる。本蛍光体組成物は、任意の好適な量でプラスチック材料に添加することができ、プラスチック材料のプロセス可能性または最終製品の構造的完全性に容認できないほどの悪影響を与えない量であることが好ましい。いくつかの例では、蛍光体組成物は、プラスチック材料に組み込まれる場合、組成物全体の約0.1重量%〜約5重量%の量でプラスチック材料に添加することができ、ここで、組成物全体は、プラスチック材料、蛍光体組成物およびプラスチック基板を形成する際に使用される任意の他の添加剤を含む。例えば、プラスチック材料がナイロンであるような他の例では、蛍光体組成物は、組成物全体の最大約30重量%の量で添加することができる。
【0018】
蛍光体組成物が実質的に全く本体の色を有さず、よって可視スペクトル領域に吸収を実質的に全く有しないことも好ましい。可視スペクトル領域に吸収を実質的に全く有しない蛍光体組成物中の蛍光体は、可視スペクトルレーザーまたは発光ダイオード(LED)からの放射による励起によって検出することができない。但し、プラスチック材料は、赤外線透過性ならびに可視スペクトル透過性とすることができる。プラスチック基板に組み込まれた蛍光体は、赤外線レーザーまたは赤外線発光LEDによる蛍光体の励起による赤外線の吸収帯または吸収線を有する場合には、そのようにして検出することができる。蛍光体の励起がIRで生じ、かつ発光がより短い波長で生じる場合には、蛍光体からの発光を、アップコンバージョンモードで可視光から近赤外光にすることができる。一般に、この種の材料の励起は、蛍光体組成物に応じて、900〜1000nmのスペクトル範囲ならびに1500〜1600nmの範囲で生じる。発光された波長が励起波長よりも長い場合には、蛍光体からの発光は、ダウンコンバージョンによるものであってもよい。
【0019】
多くの好適な蛍光体組成物は本質的に等方性であり、波長の関数として単一の屈折率のみを呈する。複屈折を呈するより複雑な結晶構造の蛍光体組成物も存在する。複屈折の例では、単一の波長に対して、2つ以上の屈折率値を得ることができ、それは一般に、結晶軸に沿って最大となる。複屈折を呈する材料の利用により、完全な屈折率整合はもはや不可能になるため、光学散乱の量が増加しやすい可能性がある。但し、複屈折値が低い場合には、近い整合を得ることができ、様々な偽造防止対策用途にとって十分なものになり得る。蛍光体組成物が複屈折性である場合には、複数の屈折率の平均値に基づいて、最適な屈折率整合を得ることができる。
【0020】
本技術の蛍光体組成物に適した蛍光体ホスト格子材料としては、フッ化物を含有する蛍光体ホスト格子材料が挙げられる。蛍光体ホスト格子材料は結晶性であってもよく、本体の色を実質的に全く呈していないことが好ましい。フッ化物含有蛍光体ホスト格子材料は、他の種類の上記蛍光体ホストよりも低い屈折率を有することができる。フッ化物含有蛍光体ホスト格子材料としては、例えば、フッ化物またはオキシフッ化物を挙げることができる。様々なプラスチック材料との屈折率整合性を有するために使用し得る多くのフッ化物含有蛍光体ホスト格子材料が存在する。多くのフッ化物系蛍光体組成物を調製する際には、フッ化水素酸を利用することが多く、大量規模で生成する間に重大な安全問題が生じる可能性がある。いくつかの例では、フッ化物含有蛍光体ホスト格子材料としてのフッ化イットリウムナトリウム(NaYF)の利用によって、安全性の懸念を減少さてもよい。好適なフッ化物含有蛍光体ホスト格子材料の別の例は、フッ化イットリウムリチウム(YLiF)である。以下の表2は、フッ化物含有蛍光体ホスト格子材料のいくつかの例に関するさらなる情報を提供する。
【0021】
【表2】

【0022】
本技術の蛍光体組成物は、少なくとも1種の希土類元素活性イオンまたは遷移金属活性イオンを含むことができる。蛍光体含有組成物に使用される希土類元素活性イオンまたは遷移金属活性イオンは、アップコンバータであってもよく、活性イオンに応じて、約900nm〜約1000nmまたは約1500nm〜約1600nmなどのより長い赤外波長で励起可能であってもよい。約900nm〜約1000nmの範囲で励起されるとアップコンバージョンする希土類元素活性イオンまたは遷移金属活性イオンとしては、エルビウム、ホルミウムおよびイッテルビウムが挙げられるが、これらに限定されない。典型的には、これらの活性イオンは、容易に入手可能な980nmダイオードレーザーなどにより980nmで励起させることができ、複数の980nm光子の吸収によって可視スペクトルで発光して、より高エネルギーの可視光子を生成する。例えば、緑色のアップコンバータである希土類元素活性イオンまたは遷移金属活性イオンを使用する場合、プラスチックフィルムもしくは平板を通して980nmレーザーを照射すると、プラスチック材料内の活性イオンが緑色で発光し、レーザー経路を辿る。
【0023】
本技術の蛍光体組成物のいくつかの例は、希土類元素活性イオンを含む。そのような蛍光体組成物は、少なくとも第1の希土類元素活性イオンを含むことができ、第2の希土類元素活性イオンをさらに含んでいてもよい。第1の希土類元素活性イオンは、例えば、イッテルビウム、エルビウム、ホルミウム、ツリウム、プラセオジム、ネオジムまたはそれらの混合物であってもよい。同様に、第2の希土類元素活性イオンは、例えば、イッテルビウム、エルビウム、ホルミウム、ツリウム、プラセオジム、ジスプロシウム、ネオジムまたはそれらの混合物であってもよい。
【0024】
場合によっては、イッテルビウム(Yb)は、好適な希土類元素活性イオンであってもよく、任意の好適な量、例えば、最大約20の原子百分率(単位:%)で蛍光体組成物中に存在することができ、ここで、イッテルビウムの原子百分率は、蛍光体中の全ての希土類イオンに対するイッテルビウム原子の割合である。場合によっては、吸収状態で最大98%のYbを使用することができる。イッテルビウム(Yb)は、発光することができる活性イオンであるが、多光子プロセスによって、より高い周波数を発することができる第2の希土類元素活性イオンに効率的かつ非放射的にエネルギーを移動させる。従って、いくつかの例では、蛍光体組成物は、第1の希土類元素活性イオンと第2の希土類元素活性イオンを含む。一例では、第1の希土類元素活性イオンは、イッテルビウムであり、第2の希土類元素活性イオンは、エルビウム、ホルミウム、ツリウム、プラセオジムまたはネオジムである。蛍光体組成物がイッテルビウムと第2の希土類元素活性イオンを含む例では、プラスチック基板内で蛍光体組成物の励起後に観察される可視発光は、より高位状態からの第2の希土類元素活性イオンを特徴とする発光であってもよい。いくつかの希土類元素(例えば、エルビウムおよびホルミウム)は可視スペクトルの吸収を呈するが、極めて弱い状態であったり可視スペクトルの赤外端近傍であったりする傾向がある。蛍光体組成物の視覚的透明性に対する可視スペクトルの吸収を呈するそのような希土類元素活性イオンの効果は、蛍光体組成物に含まれる希土類元素活性イオンの量に基づいて制御することができる。いくつかの例では、蛍光体組成物は、第2の希土類元素活性イオンを最大約8.0の原子百分率で含んでいてもよい。
【実施例】
【0025】
実施例1
蛍光体ホストとしての六方相フッ化ナトリウムイットリウムを含有し、かつ以下の組成を有する蛍光体組成物を調製した:Na(Y0.78Yb0.20Er0.02)F、Na(Y0.798Yb0.20Ho0.002)F、Na(Y0.799Yb0.20Tm0.001)FおよびNa(Y0.793Yb0.20Nd0.007)F。各蛍光体組成物は、PMMAとの良好な屈折率整合性を有することが分かった。これらの材料はPMMAとの良好な屈折率整合性を有し、かつプラスチック加工温度は、蛍光体生成温度よりも摂氏数百度も低いため、極めて僅かな蛍光体効率の損失で、PMMAまたは同様の屈折率を有する他のプラスチック材料で作られた物品への偽造防止対策としてのこれらの蛍光体組成物の組み込みを達成することができる。
【0026】
1mmから5mmまで1mmずつ厚さを大きくして様々な厚さを有する試料を得るために、透明な面を有するプラスチック平板をマスターバッチから成形した。蛍光体組成物を0.5重量%の量で、プラスチックに組み込んだ。比較目的のために、同じ厚さを有するプラスチック平板も蛍光体組成物を含有しないPMMAから成形した。蛍光体組成物を含む平板は、蛍光体組成物を含まない平板に外観上は極めて類似していた。どちらの平板も視覚的には透明に見え、蛍光体含有平板が有意により多くの光を散乱しているようには見えなかった。蛍光体組成物を含む平板は、可視光アップコンバージョンプロセスにより、緑色の線として材料を通る980nmのレーザー光線の経路を示した。
【0027】
NaYF:Er:Yb蛍光体組成物のさらなる試験によって、蛍光体組成物の所望の視覚的透明性および赤外吸収特性を維持しながら、その中の元素濃度を変化させることによって屈折率を変えることができることが分かった。従って、NaYF:Er:Yb蛍光体組成物の屈折率を所望どおりに変更して、特定の用途のために使用されているプラスチックの屈折率に整合させることができる。
【0028】
実施例2
PMMAと、蛍光体ホストとしてフッ化イットリウムナトリウムを利用する蛍光体組成物とを含む、厚さが0.125インチの平板を調製した。蛍光体組成物は、式:Na(Y0.7993Yb0.20Nd0.007)Fを有していた。上記平板は、極めて低いネオジムイオン濃度と無色のイッテルビウム含有量により、顕著な色を全く呈しなかった。20原子百分率(単位:%)のイッテルビウムと0.7原子百分率(単位:%)のネオジムを含有する蛍光体組成物は、PMMAとの良好な屈折率整合性を有し、観察された光学散乱損失は極めて低かった。蛍光体組成物は、ネオジムとイッテルビウムとの間のエネルギー移動を利用することによって、PMMA内の機械読み取り可能な形態として機能した。平板は、約760nmのネオジム吸収線の中への760nmの赤外線LEDによって励起された。検出されたIR発光は1020nm(1.02ミクロン)であり、これは、このホスト物質中の特徴的なイッテルビウム発光である。1020nmの発光は、シリコン検出器の検出範囲内であることに留意されたい。シリコン検出器は、極めて高品質であり、可視光〜約1000nmで高感度を呈し、低い電子ノイズを呈し、かつ比較的安価であるため、望ましいものとなり得る。
【0029】
実施例3
蛍光体ホストとして六方相フッ化イットリウムナトリウムを含有し、かつ以下の式を有する蛍光体組成物を調製した:Na(Y0.78Yb0.20Er0.02)F、Na(Y0.798Yb0.20Ho0.002)F、Na(Y0.799Yb0.20Tm0.001)FおよびNa(Y0.793Yb0.20Nd0.007)F。各蛍光体組成物は、ポリプロピレンとの良好な屈折率整合性を有することが分かった。これらの材料は、ポリプロピレンとの良好な屈折率整合性を有し、かつプラスチック加工温度は、蛍光体生成温度よりも摂氏数百度も低いため、極めて僅かな蛍光体効率の損失で、ポリプロピレンまたは同様の屈折率を有する他のプラスチック材料で作られた物品の中への偽造防止対策としてのこれらの蛍光体組成物の組み込みを達成することができる。
【0030】
複数の厚さおよび透明な面を有するプラスチック平板をマスターバッチから成形した。比較目的のために、蛍光体組成物を含有しないポリプロピレンからもプラスチック平板を成形した。蛍光体組成物を含む平板は、蛍光体組成物を含まない平板に外観上は極めて類似していた。どちらの平板も視覚的には透明に見え、蛍光体含有平板が有意により多くの光を散乱しているようには見えない。蛍光体組成物を含む平板は、可視光アップコンバージョンプロセスにより、緑色の線として材料を通る980nmのレーザー光線経路を示す。
【0031】
実施例4
ポリプロピレンと、蛍光体ホストとしてフッ化イットリウムナトリウムを利用する蛍光体組成物とを含む、厚さが0.125インチの平板を調製した。蛍光体組成物は、式:Na(Y0.7993Yb0.20Nd0.007)Fを有していた。上記平板は、極めて低いネオジムイオン濃度と無色のイッテルビウム含有量により、顕著な色を全く呈しなかった。20原子百分率(単位:%)のイッテルビウムと0.7原子百分率(単位:%)のネオジムを含有する蛍光体組成物は、ポリプロピレンとの良好な屈折率整合性を有し、観察された光学散乱損失は極めて低かった。蛍光体組成物は、ネオジムとイッテルビウムとの間のエネルギー移動を利用することによって、ポリプロピレン内の機械読み取り可能な形態として機能する。平板は、約760nmのネオジム吸収線の中への760nmの赤外線LEDによって励起された。検出されたIR発光は1020nm(1.02ミクロン)であり、これは、このホスト物質中の特徴的なイッテルビウム発光である。
【0032】
実施例5
蛍光体ホストとして六方相フッ化イットリウムナトリウムを含有し、かつ以下の式を有する蛍光体組成物を調製した:Na(Y0.78Yb0.20Er0.02)F、Na(Y0.798Yb0.20Ho0.002)F、Na(Y0.799Yb0.20Tm0.001)FおよびNa(Y0.793Yb0.20Nd0.007)F。各蛍光体組成物は、アクリル樹脂との良好な屈折率整合性を有することが分かった。これらの材料はアクリル樹脂との良好な屈折率整合性を有し、かつプラスチック加工温度は、蛍光体生成温度よりも摂氏数百度も低いため、極めて僅かな蛍光体効率の損失で、アクリル樹脂または同様の屈折率を有する他のプラスチック材料で作られた物品への偽造防止対策としてのこれらの蛍光体組成物の組み込みを達成することができる。
【0033】
複数の厚さおよび透明な面を有するプラスチック平板をマスターバッチから成形した。比較目的のために、蛍光体組成物を含有しないアクリル樹脂からもプラスチック平板を成形した。蛍光体組成物を含む平板は、蛍光体組成物を含まない平板に外観上は極めて類似している。どちらの平板も視覚的には透明に見え、蛍光体含有平板が有意により多くの光を散乱しているようには見えなかった。蛍光体組成物を含む平板は、可視光アップコンバージョンプロセスにより、緑色の線として材料を通る980nmのレーザー光線経路を示す。
【0034】
実施例6
約1.49の屈折率を有するアクリル樹脂と蛍光体ホストとしてフッ化イットリウムナトリウムを利用する蛍光体組成物とを含む、0.125インチの厚さの平板を調製した。蛍光体組成物は、式:Na(Y0.7993Yb0.20Nd0.007)Fを有していた。上記平板は、極めて低いネオジムイオン濃度と無色のイッテルビウム含有量により、顕著な色を全く呈しなかった。20原子百分率(単位:%)のイッテルビウムと0.7原子百分率(単位:%)のネオジムを含有する蛍光体組成物は、アクリル樹脂との良好な屈折率整合性を有し、観察された光学散乱損失は極めて低かった。蛍光体組成物は、ネオジムとイッテルビウムとの間のエネルギー移動を利用することによって、アクリル樹脂内の機械読み取り可能な形態として機能する。上記平板は、約760nmのネオジム吸収線の中への760nmの赤外線LEDによって励起された。検出されたIR発光は1020nm(1.02ミクロン)であり、これは、このホスト材料中の特徴的なイッテルビウム発光である。
【0035】
実施例7
蛍光体ホストとして六方相フッ化イットリウムナトリウムを含有し、かつ以下の式を有する蛍光体組成物を調製した:Na(Y0.78Yb0.20Er0.02)F、Na(Y0.798Yb0.20Ho0.002)F、Na(Y0.799Yb0.20Tm0.001)FおよびNa(Y0.793Yb0.20Nd0.007)F。各蛍光体組成物は、約1.49の屈折率を有するアクリル樹脂との良好な屈折率整合性を有していた。これらの材料はアクリル樹脂との良好な屈折率整合性を有し、かつプラスチック加工温度は、蛍光体生成温度よりも摂氏数百度も低いため、極めて僅かな蛍光体効率の損失で、アクリル樹脂または同様の屈折率を有する他のプラスチック材料で作られた物品への偽造防止対策としてのこれらの蛍光体組成物の組み込みを達成することができる。
【0036】
実施例8
蛍光体ホストとして六方相フッ化イットリウムナトリウムを含有し、かつ以下の式を有する蛍光体組成物を調製した:Na(Y0.78Yb0.20Er0.02)F、Na(Y0.798Yb0.20Ho0.002)F、Na(Y0.799Yb0.20Tm0.001)FおよびNa(Y0.793Yb0.20Nd0.007)F。各蛍光体組成物は、低密度ポリエチレンとの良好な屈折率整合性を有することが分かった。これらの材料は低密度ポリエチレンとの良好な屈折率整合性を有し、かつプラスチック加工温度は、蛍光体生成温度よりも摂氏数百度も低いため、極めて僅かな蛍光体効率の損失で、低密度ポリエチレンまたは同様の屈折率を有する他のプラスチック材料で作られた物品への偽造防止対策としてのこれらの蛍光体組成物の組み込みを達成することができる。
【0037】
複数の厚さを有するプラスチック平板をマスターバッチから成形した。低密度ポリエチレンは、濁ったり曇ったりした材料になりやすく、よって、低密度ポリエチレンは、最大約1ミルの厚さを有する積層フィルム内の層を含む薄膜などの用途に使用することが好ましいということに留意されたい。比較目的のために、蛍光体組成物を含有しない低密度ポリエチレンからもプラスチック平板を成形した。蛍光体組成物を含む平板は、蛍光体組成物を含まない平板に外観上は極めて類似していた。視覚的には、蛍光体含有平板が有意により多くの光を散乱しているようには見えなかった。蛍光体組成物を含む平板は、可視光アップコンバージョンプロセスにより、緑色の線として材料を通る980nmのレーザー光線経路を示す。
【0038】
実施例9
約1.51の屈折率を有する低密度ポリエチレンと、蛍光体ホストとしてフッ化イットリウムナトリウムを利用する蛍光体組成物とを含む平板を調製した。上記蛍光体組成物は、式:Na(Y0.7993Yb0.20Nd0.007)Fを有していた。上記平板は、極めて低いネオジムイオン濃度と無色のイッテルビウム含有量により、顕著な色を全く呈しなかった。20原子百分率(単位:%)のイッテルビウムと0.7原子百分率(単位:%)のネオジムを含有する蛍光体組成物は、低密度ポリエチレンとの良好な屈折率整合性を有していた。上記蛍光体組成物は、ネオジムとイッテルビウムとの間のエネルギー移動を利用することによって、低密度ポリエチレン内の機械読み取り可能な形態として機能する。上記平板は、約760nmのネオジム吸収線の中への760nmの赤外線LEDによって励起された。検出されたIR発光は1020nm(1.02ミクロン)であり、これは、このホスト物質中の特徴的なイッテルビウム発光である。
【0039】
実施例10
蛍光体ホストとして六方相フッ化イットリウムナトリウムを含有し、かつ以下の式を有する蛍光体組成物を調製した:Na(Y0.78Yb0.20Er0.02)F、Na(Y0.798Yb0.20Ho0.002)F、Na(Y0.799Yb0.20Tm0.001)FおよびNa(Y0.793Yb0.20Nd0.007)F。各蛍光体組成物は、約1.51の屈折率を有する低密度ポリエチレンとの良好な屈折率整合性を有していた。これらの材料は低密度ポリエチレンとの良好な屈折率整合性を有し、かつプラスチック加工温度は、蛍光体生成温度よりも摂氏数百度も低いため、極めて僅かな蛍光体効率の損失で、低密度ポリエチレンまたは同様の屈折率を有する他のプラスチック材料で作られた物品への偽造防止対策としてのこれらの蛍光体組成物の組み込みを達成することができる。
【0040】
例示目的のために具体的な例を本明細書に記載してきたが、上記から、本開示の趣旨または範囲から逸脱せずに様々な修正が可能であることが分かるであろう。上記詳細な説明は、限定的なものではなく例示としてみなされるものであり、全ての均等物を含む以下の特許請求の範囲は、請求されている主題を特に指摘し、かつ明確に請求するものであることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率を有する透明プラスチック材料と、
少なくとも1種の活性イオンと、フッ化物含有結晶性ホスト格子材料とを含み、該プラスチック材料に組み込まれた蛍光体組成物と、
を含み、
該蛍光体組成物は赤外線領域に吸収を有し、かつ該プラスチック材料の屈折率に効果的に整合する屈折率を有するプラスチック基板。
【請求項2】
少なくとも1種の活性イオンが、希土類元素活性イオンおよび遷移金属元素活性イオンからなる群から選択される、請求項1に記載のプラスチック基板。
【請求項3】
少なくとも1種の活性イオンが第1の希土類元素活性イオンを含む、請求項3に記載のプラスチック基板。
【請求項4】
第1の希土類元素活性イオンが、イッテルビウム、エルビウム、ホルミウム、ツリウム、プラセオジム、ジスプロシウム、ネオジムおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項4に記載のプラスチック基板。
【請求項5】
フッ化物含有結晶性ホスト格子材料が、フッ化イットリウムナトリウムまたはフッ化イットリウムリチウムを含む、請求項1に記載のプラスチック基板。
【請求項6】
少なくとも1種の希土類元素活性イオンまたは遷移金属活性イオンが、第1の希土類元素活性イオンと第2の希土類元素活性イオンを含む、請求項1に記載のプラスチック基板。
【請求項7】
第2の希土類元素活性イオンが、イッテルビウム、エルビウム、ホルミウム、ツリウム、プラセオジム、ジスプロシウム、ネオジムおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項7に記載のプラスチック基板。
【請求項8】
プラスチック材料の屈折率が1.35〜1.65の値を有し、該蛍光体組成物の屈折率が、該プラスチック材料の該屈折率の値の2%以内である、請求項1に記載のプラスチック基板。
【請求項9】
プラスチック基板中の隠れた蛍光体系偽造防止対策の検出方法であって、
屈折率を有する透明プラスチック材料と、赤外線領域に吸収を有し該プラスチックに組み込まれた蛍光体組成物とを含むプラスチック基材を用意する工程と、
該プラスチック基板に赤外発光源を導いて、該蛍光体組成物を励起させる工程と、
を含み、
該蛍光体組成物が、少なくとも1種の活性イオンとフッ化物含有結晶性ホスト格子材料とを含み、かつ該プラスチック材料の屈折率に効果的に整合する屈折率を有する、方法。

【公表番号】特表2013−514211(P2013−514211A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544690(P2012−544690)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/060191
【国際公開番号】WO2011/084401
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】