説明

傘布用シート状物

【課題】 片面透視性と防水性とを兼ね備えている傘布用シート状物を提供することを課題としている。
【解決手段】 傘布用シート状物1は、片面透視性を有するベース生地2と透明フィルム3とが接着層4を介して一体積層されたものである。ベース生地2には、編織物素地の糸部分5と生地目となる空隙部分6とがあり、かかる空隙部分6を通じて裏面側(図1下側)からの透視性が確保される。また、傘布用シート状物1は、ベース生地2の表面側(図1上側)には接着剤が塗布され、この接着剤が硬化する前にベース生地2の表面に透明フィルム3がラミネーションされて一体積層されたものである。ベース生地は、その表面側の色の明度に比べて、その裏面側の色の明度を低くすることで、そのベース生地の裏面における光反射率が低くされると共にその透視性が高められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、晴雨兼用傘又は純パラソル(雨傘)の傘布として用いられる傘布用シート状物に関し、特に、片面透視性と防水性とを兼ね備えている傘布用シート状物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、傘布として、メッシュ生地から形成された傘布を有し、その傘布表面の光反射率を高くすると共にその傘布裏面の光反射率を低くすることで、日差しの遮蔽性があって傘布ごしの視認性があるとしたものが、下記特許文献1において提案されている。この傘布を用いた傘は、雨傘として使用する場合、傘布表面を覆う防水シートを装着する一方、日傘として使用する場合、傘布表面から防水シートを取り外すようになったものであった。
【特許文献1】特開平10−215927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した傘は、その傘布自体に防水性がないため、天候状況に応じて防水シートを着脱せねばならず、かかる防水シートの脱着が極めて煩雑なため、事実上、雨傘として使用頻度も低く雨傘として機能しえないという問題点があった。しかも、風を受けると防水シートと傘布との間に空気が入り込んで防水シートがばたつくため、雨傘として十分な防水性を確保できないという問題点もあった。
【0004】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、片面透視性と防水性とを兼ね備えている傘布用シート状物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、請求項1の傘布用シート状物は、編織物素地の裏面に比べて表面の光反射率が高く形成され、かつ、その編織物素地の表面に比べて裏面の透視性が高くされることで片面透視性が付与されているベース生地と、そのベース生地に接着層を介して一体積層される防水性を有した透明フィルムとを備えている。
【0006】
請求項2の傘布用シート状物は、請求項1の傘布用シート状物において、前記透明フィルムは、前記ベース生地に塗布される接着剤からなる前記接着層を介して、そのベース生地に一体積層されるものである。
【0007】
請求項3の傘布用シート状物は、請求項1又は2の傘布用シート状物において、前記透明フィルムは、前記ベース生地の表面に前記接着層を介して一体積層されている。
【0008】
請求項4の傘布用シート状物は、請求項1から3のいずれかの傘布用シート状物において、前記ベース生地は、そのベース生地の生地目の開口率が10%〜40%の範囲内である。
【0009】
請求項5の傘布用シート状物は、請求項1から4のいずれかの傘布用シート状物において、前記ベース生地は、そのベース生地の表面透視明度差ΔLが3未満であって、そのベース生地の裏面透視明度差ΔLが9を越えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の傘布用シート状物によれば、その裏面側からの透視性が表面側からの透視性に比べて高く形成されるので、この傘布用シート状物の表面側を傘の外側に向け、且つ、その裏面側を傘の内側に向けるようにして傘に取り付けられることで、傘内側から外側を見たときの視認性を確保することができる一方で、傘外側から内側を覗き見たり日差しが透過することを防止できるという効果がある。
【0011】
また、傘布用シート状物の表面は裏面に比べて光反射率が高いので、傘外側から傘内側へ入射しようとする光の透過量を低減でき、傘内側へ入射する日差しを遮蔽できるという効果がある。しかも、このような片面透視性を有するベース生地には防水性を有する透明フィルムが接着層を介して一体積層されるので、かかるベース生地の片面透視性を阻害することなく、傘布用シート状物自体に防水性が付与されるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい一実施の形態である傘布用シート状物について説明する。この傘布用シート状物は、片面透視性と防水性とを兼ね備えるものであり、主として、ベース生地と透明フィルムとを備えており、このベース生地と透明フィルムとが接着層を介して一体積層されたものである。
【0013】
<ベース生地>
ベース生地は、片面透視性を有した生地である。ここで、片面透視性とは、生地の表面と裏面とで透視性が異なっていることから、生地の表面又は裏面のいずれ一方にのみ透視性が発揮される性質のことをいう。特に、本実施形態におけるベース生地にあっては、その表面に比べてその裏面の透視性が高められている。
【0014】
つまり、本実施形態において、ベース生地が保有する片面透視性とは、そのベース生地の裏面について光反射率が低くされることで透視性が確保され、かつ、そのベース生地の表面について光反射率が高くされることで透視性がないか又はあってもベース生地の表面に比べて低くされている性質をいう。
【0015】
このベース生地は、編織物が素材として用いられており、編織物とは、織物および編物の総称を意味する。このベース生地の素材として用いられる編織物(以下、「編織物素地」という。)は、ベース生地に片面透視性を付与するため、例えば、搦み織(絡み織、又は、からみ織ともいう。以下、本明細書では「絡み織」という。)、強撚ジョウゼット、メッシュ、トリコット、ラッシェル等の織密度又は編み密度が粗いものが用いられる。
【0016】
ここで、ベース生地の編織物素地は、そのベース生地に透視性を付与するため、その生地目の開口率が10%〜40%の範囲内とされており、より好ましくは、その生地目の開口率が15%〜30%の範囲内とされる。ここで、生地目の開口率とは、編織物素地における生地面の所定面積範囲内において開いている生地目(空隙)の比率をいう。
【0017】
しかも、ベース生地の編織物素地の糸には、例えば、撚糸やモノフィラメント糸が用いられる。もっとも、かかる糸の繊維の種類については、必ずしも特定のものに限定されない。このように、ベース生地の編織物素地は、上記した生地目の開口率の範囲を採用すると共に上記した撚糸やモノフィラメント糸を使用して形成されることで、透視性を確保するための粗い織密度又は編み密度とされ、なおかつ、その強度低下が防止されている。
【0018】
(ベース生地の片面透視化処理)
また、ベース生地は、上記した編織物素地に対して、その編織物素地の表面の光反射率を高くして当該編織物素地の裏面の光反射率を低くする処理(以下「片面透視化処理」という。)が施されることによって、片面透視性が付与される。具体的には、ベース生地における表面側の色の明度に比べて、そのベース生地の裏面側の色の明度を低くすることで、そのベース生地の裏面における光反射率が低くされると共にその透視性が高められている。
【0019】
そして、この編織物素地に対して施される片面透視化処理としては、例えば、昇華型熱転写印刷方式、蒸着方式、スパッタリング方式、又は、グラビア塗工方式などが用いられる。
【0020】
例えば、昇華型熱転写印刷方式によれば、銀色、白色又は淡色などの明度の高い色(以下「高明度色」という。)をした編織物素地の片面(ベース生地の裏面)に対して、昇華型熱転写印刷によって黒色又は濃色などの明度の低い色(以下「低明度色」という。)を着色することで、この編織物素地の片面側の光反射率が低下させられて、片面透視性が付与されたベース生地が生成される。
【0021】
また、蒸着方式によれば、表裏面ともに低明度色に着色された編織物素地の片面(ベース生地の表面)に対して、アルミニウムなどの蒸着材料を用いた蒸着を施すことによって、かかる編織物素地の片面(ベース生地の表面)を高明度色にすることで、この編織物素地の片面側の光反射率が高められて、片面透視性が付与されたベース生地が生成される。
【0022】
また、スパッタリング方式によれば、表裏面ともに低明度色に着色された編織物素地の片面(ベース生地の表面)に対して、ステンレス鋼(SUS)や酸化物などを用いたスパッタリングを施すことによって、かかる編織物素地の片面(ベース生地の表面)を高明度色にすることで、この編織物素地の片面側の光反射率が高められて、片面透視性が付与されたベース生地が生成される。
【0023】
また、グラビア塗工方式によれば、表裏面ともに低明度色に着色された光反射率の高い編織物素地の片面(ベース生地の表面)に対して、アルミペーストなどの金属ペースト又は白色顔料を接着用樹脂とともにグラビア塗工機により印刷することによって、かかる編織物素地の片面(ベース生地の表面)を高明度色にすることで、編織物素地の片面(ベース生地の表面)の光反射率が高められて、片面透視性が付与されたベース生地が生成される。
【0024】
(ベース生地の片面透視性)
このようにして片面透視性が付与されることによって、ベース生地は、その表面透視明度差ΔLが3未満(ΔL<3)とされており、かつ、その裏面透視明度差ΔLが9を越える(ΔL>9)ものとされている。
【0025】
ここで、表面透視明度差ΔLとは、ベース生地の裏面を白色紙側に向けた状態で当該ベース生地を白色紙上に重畳載置した場合に、このベース生地の表面から当該ベース生地ごしに透視される白色紙の明度(以下「表面白色明度」という。)L11を測色機により測定し、更に、このベース生地の裏面を黒色紙側に向けた状態で当該ベース生地を黒色紙上に重畳載置した場合に、このベース生地の表面から当該ベース生地ごし現われる黒色紙の明度(以下「表面黒色明度」という。)L12を測色機により測定し、その表面白色明度L11から表面黒色明度L12を引いた差分値(ΔL=L11−L12)をいう。
【0026】
また、裏面透視明度差ΔLとは、ベース生地の表面を白色紙側に向けた状態で当該ベース生地を白色紙上に重畳載置した場合に、このベース生地の裏面から当該ベース生地ごしに透視される白色紙の明度(以下「裏面白色明度」という。)L21を測色機により測定し、更に、このベース生地の表面を黒色紙側に向けた状態で当該ベース生地を黒色紙上に重畳載置した場合に、このベース生地の裏面から当該ベース生地ごし現われる黒色紙の明度(以下「裏面黒色明度」という。)L22を測色機により測定し、その裏面白色明度L21から裏面黒色明度L22を引いた差分値(ΔL=L21−L22)をいう。
【0027】
<透明フィルム>
透明フィルムは、ベース生地の片面透視性を維持しつつ、かかるベース生地に防水性(疎水性)を付与するためのものである。この透明フィルムとしては、その耐水度が350mmHO(水注)(1kgf/cm≒0.098MPa)以上となる疎水性を有する透明状の高分子フィルムが用いられる。
【0028】
ここで、JUPA基準(日本洋傘振興協議会)においては、傘の防水性を示す基準として耐水度(耐水圧)が250mmHO以上あることが規定されている。これに対し、本実施形態の傘布用シート状物は、かかる透明フィルムがベース生地に接着層を介して一体積層されることで、この透明フィルムが発揮するのと等しい耐水度が確保されており、上記JUPA基準を十分に満たすものとなっている。
【0029】
また、具体的に、この透明フィルムとして用いられる疎水性透明フィルムとしては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸エステル、ビニル系ポリマー、ポリフロロエチレン系ポリマーなどの高分子フィルムが用いられる。
【0030】
さらに、この透明フィルムは、ラミネーション方法によってベース生地と一体積層される。ここで、ラミネーション方法は、透明フィルムをベース生地に接着剤からなる接着層を介して接着することで、そのベース生地に透明フィルムを一体積層するものである。
【0031】
透明フィルムをベース生地にラミネーションする場合、透明フィルムが積層されるベース生地の表面又は裏面に対して接着剤を塗工(塗布)し、そこに透明フィルムを貼り合わせるようにするのが好ましい。このように接着剤をベース生地に対して塗工することで、本実施形態の傘布用シート状物は、ラミネーション後においても、その片面透明性が消滅することなく維持されるのである。
【0032】
これに対し、透明フィルムをベース生地にラミネーションする場合に接着剤を透明フィルムの表面に塗工すると、傘布用シート状物の透視性が消滅してしまう。これは、透明フィルム上に塗工された接着剤によって、透明フィルム上に凹凸のある非平滑層が形成されることで、透明フィルム上で光が乱反射することに起因するものと考えられる。
【0033】
なお、透明フィルムのラミネーションに使用される接着剤は透明系のものであることが好ましいが、ベース生地側に接着剤を塗工するのであれば、かかる必ずしも透明でなくても良い。例えば、接着剤の塗工量が少量であれば、塗工された接着剤の多くはベース生地の糸部分に存在し、ベース生地の空隙部分に接着剤が存在しないか又は存在しても極僅かとなるため、ベース生地の空隙部分に存在する接着剤が原因となってベース生地の透視性が阻害されることはないからである。
【0034】
また、透明フィルムは、ベース生地の表面又は裏面のいずれに積層形成しても、かかるベース生地に対して防水性を付与することができるものであるが、より好ましくは、ベース生地の表面側に積層形成させたほうが、ベース生地が元来有している裏面側の片面透視性を阻害することがなく、傘布用シート状物において、より顕著な片面透視性を確保することができる。
【0035】
なぜなら、光反射率が低くかつ透視性が高いベース生地の裏面に対し、透明フィルムを積層形成すると、かかる透明フィルムによって光の乱反射が誘発されて、ベース生地の裏面の透視性が低下するので、かかる弊害を防止するためである。しかも、ベース生地の表面側に透明フィルムを積層形成させることによって、かかる透明フィルムの光反射性能も、傘布用シート状物の表面側に加えられるので、ベース生地の表面の光反射性とあいまって、傘布用シート状物の表面の光反射性が高められるからである。
【0036】
なお、ベース生地に防水性を付与する手段として、従来より用いられている一般的なコーティング剤による防水加工(コーティング処理)があるにも関わらず、これを用いないのは、かかるコーティング剤により形成される防水皮膜の表面が平面的とはならずに凹凸のある非平滑面となるため、かかる防水皮膜の表面で光の乱反射が発生して、ベース生地の透視性が消滅しまうからである。
【0037】
また、透明フィルムは、傘布用シート状物のベース生地の紫外線遮蔽性を高める機能も有している。ここで、上記したJUPA基準においては、純パラソルの紫外線防止加工に関する表示を認める基準値として、紫外線カット率が70%以上であることが規定されている。なお、紫外線カット率とは、紫外線の遮蔽率を意味している。
【0038】
これに対し、本実施形態の傘布用シート状物では、透明フィルムがベース生地に積層形成されることで、JUPA基準の純パラソルに関する基準値以上の紫外線カット率が確保される。例えば、ベース生地単体の場合、紫外線カット率が約80%であるものが、ベース生地に透明フィルムを積層させることで紫外線カット率が約90%まで高められる。
【0039】
また、JUPA基準では、晴雨兼用傘の紫外線防止加工に関する表示を認める基準値として、紫外線カット率が90%以上であることが規定されているが、透明フィルムとして紫外線防止性を有するものを使用すれば、紫外線カット率が99%程度にまで高められるため、かかる基準も容易にクリアできる。
【0040】
また、透明フィルムがベース生地の表面に積層形成される場合、即ち、傘布用シート状物の表面側に透明フィルムが存在する場合には、かかる透明フィルムとして疎水性フィルムを使用することで、傘布用シート状物の表面に撥水性が付与される。一方、透明フィルムがベース生地の裏面に積層形成される場合、即ち、には、傘布用シート状物の表面がベース生地の表面となる場合には、ベース生地に撥水加工が施されることで、傘布用シート状物の表面に撥水性が付与される。
【0041】
このように傘布用シート状物の表面の撥水性が付与されることで、JUPA基準に規定される撥水度の基準である3級以上とされている。
【0042】
次に、本明細書において、傘布用シート状物に対して行った評価方法や測定方法について、以下に説明する。
【0043】
(生地目の開口率)
生地目の開口率は、ベース生地について、デジタルマイクロスコープ((株)キーエンス社製・型式:VHX−900)を用いて測定したものである。例えば、生地目の開口率の測定では、デジタルマイクロスコープなどの撮影計測機器によって、ベース生地に用いられる編織物素地面を撮影した画像に基づいて、測定用の画像が生成され、この測定用画像の全面積に対する当該測定用面画像内に存在する空隙部分の全面積の比率が演算され、この演算結果である比率が生地目の開口率として得られる。
【0044】
また、この生地目の開口率の測定では、測定用画像として、デジタルマイクロスコープなどの撮影計測機器によって編織物素地面を実際に撮影した画像から、その編織物素地面で生じる乱反射の影響が除去された補正後の画像が用いられる。これによって、より精密な生地目の開口率の演算が行われる。
【0045】
(透視性)
透視性の評価は、視力検査表を用いて通常の視力測定を行える状況において、通常の視力測定時に被検者が視力検査表から離れるべき距離を、視力検査表と判定者との間に確保した上で、視力1.0の判定者の眼前50cmの位置に判定対象となる傘布用シート状物を垂らした状態で、視力検査表の検査標識(ランドルト環など)の判読(又は判断)を行い、その結果、判読できた検査標識の中で最も高い視力値を、透視性を判断するための評価値(以下「透視性評価値」という。)としたものである。
【0046】
例えば、この透視性の評価方法を実施することで、判定者が視力0.1の検査標識を判読等でき、視力0.2以上の検査標識を判読等できなければ、判定者が判読できた検査標識の中で最も高い視力値に相当するのは視力値0.1となるので、このときの傘布用シート状物の透視性評価値は0.1ということとなる。
【0047】
また、この透視性評価値は、傘布用シート状物の表面及び裏面の双方についてそれぞれ判定される。なお、傘布用シート状物の「表面」について透視性を評価する場合、傘布用シート状物は、その「表面」が判定者側に向けられた状態で上記所定箇所に垂れ下げられる。一方、傘布用シート状物の「裏面」について透視性を評価する場合、傘布用シート状物は、その「裏面」が判定者側に向けられた状態で上記所定箇所に垂れ下げられる。
【0048】
(片面透視性)
片面透視性の評価は、上記した透視性の評価方法を用いて傘布用シート状物の表面及び裏面の双方について透視性評価値をそれぞれ判定し、その際に、傘布用シート状物の表面の透視性評価値が、その傘布用シート状物の裏面の透視性評価値の1/2倍以下である場合に、傘布用シート状物について片面透視性があるものと評価するものである。
【0049】
例えば、傘布用シート状物の表面及び裏面の双方について透視性を評価し、その結果、その表面の透視性評価値が0.1であり、その裏面の透視性評価値が0.3である場合には、前者が後者の1/2倍以下であるので、この傘布用シート状物については、片面透視性があるものと評価する。一方、表面の透視性評価値が0.2であり、その裏面の透視性評価値が0.3である場合には、前者が後者の1/2倍を越えるので、この傘布用シート状物については、片面透視性がないものと評価する。
【0050】
(紫外線カット率)
紫外線カット率は、傘布用シート状物について、紫外可視分光光度計(日本分光(株)社製・型式:V−650)を用いて測定した280nm〜400nmの波長域で、全波長域平均法により算出したものである。
【0051】
(撥水度)
撥水度は、傘布用シート状物について、JIS規格L1092「繊維製品の防水性試験方法」における「撥水度試験(スプレー試験)」に準拠して測定したものである。
【0052】
(耐水度)
耐水度は、傘布用シート状物について、JIS規格L1092「繊維製品の防水性試験方法」における「耐水度試験(静水圧法)」の「A法(低水圧法)」に準拠して測定したものである。
【実施例】
【0053】
次に、本発明の実施例について、添付図面及び表を参照して説明する。なお、下記実施例及び比較例において用いられる「部」は重量部を表している。
【0054】
図1は、本発明の第1及び第2実施例における傘布用シート状物1の構造を示した部分的な概略断面図である。図1に示すように、傘布用シート状物1は、片面透視性を有するベース生地2と透明フィルム3とが接着層4を介して一体積層されたものである。ベース生地2には、編織物素地の糸部分5と生地目となる空隙部分6とがあり、かかる空隙部分6を通じて裏面側(図1下側)からの透視性が確保される。
【0055】
この傘布用シート状物1は、ベース生地2の表面側(図1上側)に接着剤が塗布され、この接着剤が硬化する前にベース生地2の表面に透明フィルム3がラミネーションされて一体積層されたものである。つまり、接着剤が硬化することで接着層4となり、この接着層4を介してベース生地2の表面に透明フィルム3が一体積層されている。
【0056】
<第1実施例>
第1実施例の傘布用シート状物1は、そのベース生地2に用いられる編織物素地としてポリエステル製の絡み織地が用いられており、この絡み織地の糸太さが84デシテックスとされている。この絡み織地は、その生地目の開口率が23%とされている。
【0057】
ここで、第1実施例のベース生地2は、この編織物素地である絡み織地に対して、下記する第1工程及び第2工程からなる片面透視化処理を施すことによって生成される。
【0058】
(第1工程)
第1工程では、ベース生地2の編織物素地として用いられる上記絡み織地の表面及び裏面の双方、即ち、当該絡み織地の全体が黒色(カラーコード:#000000)に染色された後、この染色後の絡み織地の片面(表面)に対してカレンダー加工が施される。
【0059】
(第2工程)
第2工程では、上記第1工程によりカレンダー加工された絡み織地のカレンダー光沢面にアルミニウムが蒸着されることで、ベース生地2の片面(表面)に膜厚1000Åのアルミニウム蒸着層が形成される。
【0060】
このように第1及び第2工程によって、片面透視化されたベース生地2に透明フィルム3が積層形成されることで、第1実施例の傘布用シート状物1が生成される。
【0061】
ここで、透明フィルム3は、ポリウレタン製フィルム(ラックスキンU−2265(セイコー化成(株)社製))であり、そのフィルム厚が20μとされている。そして、この透明フィルム3は、下記する第3工程によってベース生地2に一体積層される。
【0062】
(第3工程)
第3工程では、ベース生地2の表面であるアルミニウム蒸着面上に、2液型ウレタンが接着剤として塗工され、この接着剤の塗工されたベース生地2のアルミニウム蒸着面に上記透明フィルム3がグラビアコータによってラミネートされる。その後、接着剤が硬化することで、透明フィルム3は、ベース生地2に接着層4を介して一体的に接合されるのである。
【0063】
なお、接着剤として用いた2液型ウレタンは、具体的には、クリスボンAD−865(DIC(株)社製)であり、その架橋剤としてクリスボンDN−950(DIC(株)社製)が、架橋促進剤としてアクセルT−81(DIC(株)社製)が用いられている。
【0064】
<第2実施例>
第2実施例の傘布用シート状物1は、そのベース生地2に用いられる編織物素地としてポリエステル製の強撚ジョウゼット地が用いられており、この強撚ジョウゼット地の糸太さが84デシテックスとされている。この強撚ジョウゼット地は、その生地目の開口率が23%とされている。
【0065】
ここで、第2実施例のベース生地2は、この編織物素地である強撚ジョウゼット地に対して、下記する第1工程及び第2工程からなる片面透視化処理を施すことによって生成される。
【0066】
(第1工程)
第1工程では、ベース生地2の編織物素地として用いられる上記強撚ジョウゼット地の表面及び裏面の双方、即ち、当該強撚ジョウゼット地の全体が黒色(カラーコード:#000000)に染色された後、この染色後の強撚ジョウゼット地の片面(表面)に対してカレンダー加工が施される。
【0067】
(第2工程)
第2工程では、上記第1工程によりカレンダー加工された強撚ジョウゼット地のカレンダー光沢面にステンレスがスパッタリング加工されることで、ベース生地2の片面(表面)に膜厚600Åのスパッタリング層が形成する。
【0068】
このように第1及び第2工程によって、片面透視化されたベース生地2に透明フィルム3が積層形成されることで、第2実施例の傘布用シート状物1は生成される。
【0069】
ここで、透明フィルム3は、紫外線吸収剤(Hostavin3206(クラリアント社製))を2部を含んだポリウレタン(ラックスキンU−2265(セイコー化成(株)社製)製のものであり、そのフィルム厚が22μのものである。そして、この透明フィルム3は、下記する第3工程によってベース生地2に一体積層される。
【0070】
(第3工程)
第3工程では、ベース生地2の表面であるスパッタリング加工面上に、2液型ウレタンが接着剤として塗工され、この接着剤の塗工されたベース生地2のアルミニウム蒸着面に上記透明フィルム3がグラビアコータによってラミネートされる。なお、接着剤として用いた2液型ウレタンは、上記第1実施例と同一のものである。
【0071】
以上のようにして得られた第1及び第2実施例の傘布用シート状物1については、その透視性、片面透視性、紫外線カット率、撥水度、及び、耐水度に関し、上記した方法を用いてそれぞれ評価及び測定した結果が、下記する表1に示されている。なお、この表1には、下記する比較例に関し、本実施例の傘布用シート状物1と同じ項目についての評価結果及び測定結果が併記されている。
【0072】
【表1】

【0073】
<比較例>
比較例の傘布用シート状物は、上記第2実施例と同一の編織物素地に対して、上記第2実施例における第1工程及び第2工程を施すことでベース生地をうる点において、上記第2実施例と共通するものである。つまり、比較例のベース生地は、上記した第2実施例におけるベース生地と同一のものが用いられている。ただし、比較例の傘布用シート状物は、第2実施例の傘布用シート状物に対し、上記した透明フィルムに代えて、下記のコーティング工程によるコーティング処理が行われたものである。
【0074】
(比較例のコーティング工程)
この比較例のコーティング工程では、ベース生地の表面であるスパッタリング加工面に対し、撥水剤(アサヒガードAG−710(旭硝子(株)社製)を3部含んだ溶液)を用いてパッド法により撥水加工し、それを乾燥させた後、その撥水加工されたスパッタリング加工面に対し、紫外線吸収剤(UV−SUNCUT(ハンツマン社製))3部を含んだポリウレタン溶液(シャインバインダーB−1006((株)松井色素化学工業所社製))を粘度15000cpsにてコーティングし、これを乾燥させた後、更に熱処理が行われる。
【0075】
表1によれば、本発明の第1及び第2実施例の傘布用シート状物は、比較例の傘布用シート状物が片面透視性がないものであるのに対して、片面透視性が確保されたものとなり、その上、撥水度及び紫外線カット率が純パラソルに関するJUPA基準値をクリアするものが得られた。しかも、第2実施例に至っては、紫外線カット率が晴雨兼用傘に関するJUPA基準値をクリアするものが得られた。特に、耐水度については、JUPA基準値を大幅に超える高い測定結果が得られた。
【0076】
以上、実施形態および実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0077】
例えば、本実施形態および実施例における傘布用シート状物は、雨傘や晴雨兼用傘などの傘布用のシート状物であることを前提に説明したが、かかるシート状物の用途は必ずしも、これらに限定されるものではなく、例えば、簡易テントなどのテント生地として適用しても良い。
【0078】
また、本実施形態および実施例における傘布用シート状物で用いられるベース生地は、例えば、日傘、カーテン、ほろ蚊帳、ベビーベッドの覆い、網戸、暖簾などの用途に適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1及び第2実施例における傘布用シート状物の構造を示した部分的な概略断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
編織物素地の裏面に比べて表面の光反射率が高く形成され、かつ、その編織物素地の表面に比べて裏面の透視性が高くされることで片面透視性が付与されているベース生地と、
そのベース生地に接着層を介して一体積層される防水性を有した透明フィルムとを備えていることを特徴とする傘布用シート状物。
【請求項2】
前記透明フィルムは、前記ベース生地に塗布される接着剤からなる前記接着層を介して、そのベース生地に一体積層されるものであることを特徴とする請求項1記載の傘布用シート状物。
【請求項3】
前記透明フィルムは、前記ベース生地の表面に前記接着層を介して一体積層されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の傘布用シート状物。
【請求項4】
前記ベース生地は、そのベース生地の生地目の開口率が10%〜40%の範囲内であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の傘布用シート状物。
【請求項5】
前記ベース生地は、そのベース生地の表面透視明度差ΔLが3未満であって、そのベース生地の裏面透視明度差ΔLが9を越えるものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の傘布用シート状物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−119492(P2010−119492A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294479(P2008−294479)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(392017624)平松産業株式会社 (15)
【出願人】(505263476)株式会社繊維リソースいしかわ (3)
【出願人】(591038820)株式会社デサント (42)
【Fターム(参考)】