説明

傾斜計

【課題】水平方向に延びる孔の傾斜測定を容易にする傾斜計を提供することを課題とする。
【解決手段】ボアホール100内を移動可能な傾斜計101は、本体10と、本体10を自走させる第一走行輪11a及び第二走行輪12aと、本体10の傾斜量を検出する二軸傾斜センサ32と、本体10の移動量を検出するX軸回転数センサ24及び26並びにY軸回転数センサ23及び25とを備える。なお、X軸回転数センサ24及び26はそれぞれ、第一走行輪11a及び第二走行輪12aのX軸回りの方向の回転移動量を検出し、Y軸回転数センサ23及び25はそれぞれ、第一走行輪11a及び第二走行輪12aのY軸回りの方向の回転移動量を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、傾斜計に係り、特に、地中に設けた孔の傾斜を測定する傾斜計に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルや地下空間の掘削、地盤の掘削、又は、斜面の形成のための切土若しくは盛土等を行う際、掘削した地山又は盛土の崩壊を防ぐために、地山又は盛土の変位が測定・監視される。
例えば、特許文献1には、地盤面から地中に向かって穿孔した孔内に地中埋設管を埋設し、この埋設管の傾斜を計測する地中変位計測システムが記載されている。
【0003】
特許文献1の地中変位計測システムでは、地中埋設管には、その外周面に地中埋設管の中心軸回り90度毎に板状の突設部が設けられ、突設部のそれぞれの端部には地中埋設管の軸方向に沿って光ファイバセンサが設けられている。そして、地中埋設管に設けられた光ファイバセンサによって地中埋設管の傾斜量が測定される。さらに、地中埋設管の内部には、車輪を備え且つワイヤで吊るされた傾斜計が挿入され、地中埋設管の内周面に形成された溝に沿って車輪を走行させる。そして、傾斜計を地中埋設管の軸方向に沿って移動させることでも、地中埋設管の傾斜量が測定される。そしてさらに、光ファイバセンサによる測定値を傾斜計による測定値によって検証している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−61985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の地中変位計測システムでは、傾斜計は、ワイヤで吊り下げられて地中埋設管(孔)内を移動するため、鉛直方向に延びる地中埋設管の傾斜測定は容易に実施することが可能であるが、水平方向に延びる地中埋設管に対しては傾斜計の挿入が困難であり傾斜測定は容易でないという問題がある。
【0006】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、水平方向に延びる孔の傾斜測定を容易にする傾斜計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明に係る傾斜計は、孔内を移動可能な傾斜計であって、本体と、本体を自走させる走行手段と、本体の傾斜量を検出する傾斜量検出手段と、本体の移動量を検出する移動量検出手段とを備える。
上記傾斜計は、本体の移動に伴って孔の孔壁に接触しつつ回転する回転体を備え、移動量検出手段は、回転体の回転移動量を検出することにより本体の移動量を検出してもよい。
回転体は、少なくとも孔の軸方向に沿った第一方向及び第一方向に垂直な第二方向に向かって回転可能であり、移動量検出手段は、第一方向及び第二方向について本体の移動量を検出してもよい。
【0008】
上記傾斜計は、走行手段に対向して設けられ且つ走行手段に向かう第三方向及び第三方向に反対の第四方向に移動可能な第二回転体と、第二回転体を第四方向に向かって付勢する付勢部材と、第二回転体における第三方向及び第四方向への移動量を検出する第二移動量検出手段とをさらに備え、第二回転体は、付勢部材の付勢力によって孔の孔壁に押し付けられてもよい。
上記傾斜計は、孔における所定位置への本体の接近を感知する接近感知センサと、走行手段の動作を制御する制御手段とをさらに備え、制御手段は、接近感知センサが所定位置への本体の接近を感知すると走行手段を停止させてもよい。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る傾斜計によれば、水平方向に延びる孔の傾斜測定を容易にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態に係る傾斜計の構成を示す模式断面側面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った模式断面図である。
【図3】図1の傾斜計による傾斜測定動作の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
実施の形態
まず、図1〜3を用いて、この発明の実施の形態に係る傾斜計101の構成を説明する。なお、本実施形態では、水平に延びる孔であるボアホールの傾斜を測定するために、傾斜計101を使用した場合の例について説明する。
【0012】
図1を参照すると、傾斜計101は、本体10を有している。本体10は、筒状の形状を形成する、平坦な底部10a、平坦な上部10b、側部10e及び側部10f(図2参照)と、筒状の形状の両側を閉じて互いに平行である端部10c及び10dとによって形成されている。そして、底部10a及び上部10bは互いに平行に形成されている。
なお、説明の便宜上、紙面上で本体10の底部10aから上部10bに向かう方向を上方と呼び、上部10bから底部10aに向かう方向を下方と呼ぶ。また、これに伴い、本体10における符号10aの部位を底部と呼び、符号10bの部位を上部と呼んでいる。
【0013】
傾斜計101は、本体10の内部に球体形状をした回転可能な第一走行輪11a及び第二走行輪12aを有している。第一走行輪11a及び第二走行輪12aはそれぞれ、底部10aからその一部を突出させ、端部10cから端部10dに向かう方向に沿って、第一走行輪11a、第二走行輪12aの順序で一列に配置されている。
ここで、第一走行輪11a及び第二走行輪12aは、走行手段及び回転体を構成している。
【0014】
また、傾斜計101は、本体10の内部に球体形状をした回転可能な第一補助輪11b及び第二補助輪12bを有している。第一補助輪11b及び第二補助輪12bはそれぞれ、上部10bからその一部を突出させ、端部10cから端部10dに向かう方向に沿って第一補助輪11b、第二補助輪12bの順序で一列に配置されている。そして、第一補助輪11b及び第二補助輪12bはそれぞれ、第一走行輪11a及び第二走行輪12aと対向する位置関係にある。
ここで、第一補助輪11b及び第二補助輪12bは、第二回転体を構成している。
【0015】
本体10の内部では、隔壁10gが、端部10cから端部10dに向かって形成され、第一走行輪11a及び第一補助輪11bの間に延びている。
隔壁10gは、隔壁10gにおける底部10a側に設けられた支持部21を介して第一走行輪11aを回転方向を自在とした状態で支持している。さらに、隔壁10gは、隔壁10gにおける上部10b側に設けられたバネ17を介して第一補助輪11bを回転方向を自在とした状態で支持している。そして、バネ17は、第一補助輪11bを底部10aから上部10bに向かう上方向である第四方向に付勢している。さらに、第一補助輪11bは、バネ17の付勢力に抗して押し付けられると、上部10bから底部10aに向かう下方向である第三方向に向かって移動することができる。
【0016】
また、本体10の内部では、隔壁10hが、端部10dから端部10cに向かって形成され、第二走行輪12a及び第二補助輪12bの間に延びている。
隔壁10hは、隔壁10hにおける底部10a側に設けられた支持部22を介して第二走行輪12aを回転方向を自在とした状態で支持している。さらに、隔壁10hは、隔壁10hにおける上部10b側に設けられたバネ19を介して第二補助輪12bを回転方向を自在とした状態で支持している。そして、バネ19は、第二補助輪12bを底部10aから上部10bに向かう上方向に付勢している。さらに、第二補助輪12bは、バネ19の付勢力に抗して押し付けられると、上部10bから底部10aに向かう下方向に移動することができる。
ここで、バネ17及び19は、付勢部材を構成している。
【0017】
よって、傾斜計101は、第一走行輪11a及び第二走行輪12aを地面等の支持面に当接させた状態で支持面に沿っていずれの方向にも移動することができ、また、第一補助輪11b及び第二補助輪12bを支持面に当接させた状態でも支持面に沿っていずれの方向にも移動することができる。
【0018】
また、本体10の内部では、第一走行輪11a及び第二走行輪12aのそれぞれには、円筒状をした駆動ローラ13a及び14aが当接している。
駆動ローラ13a及び14aはそれぞれ、ギヤ13b及び14b(図2参照)と一体に回転するように連結されており、さらに、ギヤ13b及び14bはそれぞれ、本体10の内部に設けられたギヤボックス15の駆動ギヤ15a及び15bとギヤ係合している。また、ギヤボックス15内の図示しないギヤは、本体10の内部に設けられたモータ16の駆動軸とギヤ係合している。よって、駆動ローラ13a及び14aはそれぞれ、ギヤボックス15のギヤを介してモータ16の駆動力が伝達されて回転し、それによって、本体10を端部10cから端部10dに向かう方向又はその逆方向に走行させるように、第一走行輪11a及び第二走行輪12aを回転させる。なお、モータ16は、本体10の内部に設けられた制御装置50と電気的に接続されており、制御装置50によってその動作が制御される。
ここで、制御装置50は、制御手段を構成している。
【0019】
また、本体10の内部では、第一補助輪11b及び第二補助輪12bのそれぞれには、第一伸縮量検出センサ18及び第二伸縮量検出センサ20が当接している。
第一伸縮量検出センサ18及び第二伸縮量検出センサ20はそれぞれ、バネ17及び19の内側に設けられて隔壁10g及び10hによって支持され、制御装置50に電気的に接続されている。そして、第一伸縮量検出センサ18及び第二伸縮量検出センサ20はそれぞれ、底部10aから上部10bに向かう上方向及びその反対の下方向に伸縮可能となっており、第一補助輪11b及び第二補助輪12bが上下方向に移動することによって変動する伸縮量を制御装置50に送る。
ここで、第一伸縮量検出センサ18及び第二伸縮量検出センサ20は、第二移動量検出手段を構成している。
【0020】
また、本体10の内部では、第一走行輪11aに対して、Y軸回転数センサ23及びX軸回転数センサ24が設けられ、第二走行輪12aに対して、Y軸回転数センサ25及びX軸回転数センサ26が設けられている。さらに、第一補助輪11bに対して、Y軸回転数センサ27及びX軸回転数センサ28が設けられ、第二補助輪12bに対して、Y軸回転数センサ29及びX軸回転数センサ30が設けられている。
【0021】
図2を参照すると、Y軸回転数センサ23は、第一走行輪11aに当接して共に回転する円筒状のローラ部23aと、ローラ部23aの回転数を検出する検出部23bとによって構成され、検出部23bが制御装置50に電気的に接続されて検出した回転数情報を制御装置50に送る。つまり、ローラ部23aは、本体10の側部10eから側部10fに向かう底部10aに平行な軸であるY軸を中心とする方向に回転し、Y軸回転数センサ23が検出する回転数は、第一走行輪11aにおけるY軸回りの方向の回転移動量、すなわち、Y軸に垂直であり且つ本体10の端部10cから端部10dに向かう底部10aに平行な軸であるX軸方向(第一方向)への回転移動量に対応する。
【0022】
また、X軸回転数センサ24は、第一走行輪11aに当接して共に回転する円筒状のローラ部24aと、ローラ部24aの回転数を検出する検出部24bとによって構成され、検出部24bが制御装置50に電気的に接続されて検出した回転数情報を制御装置50に送る。つまり、ローラ部24aは、X軸を中心とする方向に回転し、X軸回転数センサ24が検出する回転数は、第一走行輪11aにおけるX軸回りの方向の回転移動量、すなわち、Y軸方向(第二方向)への回転移動量に対応する。
【0023】
また、Y軸回転数センサ25は、Y軸回転数センサ23と同様の構成を有しており、第二走行輪12aと共に回転するローラ部25aと検出部25bとによって構成され、第二走行輪12aのY軸回りの方向の回転移動量に対応するローラ部25aの回転数を検出し、検出した回転数情報を送るように制御装置50に電気的に接続されている。X軸回転数センサ26は、X軸回転数センサ24と同様の構成を有しており、第二走行輪12aと共に回転するローラ部26aと検出部26bとによって構成され、第二走行輪12aのX軸回りの方向の回転移動量に対応するローラ部26aの回転数を検出し、検出した回転数情報を送るように制御装置50に電気的に接続されている。
ここで、Y軸回転数センサ23,25及びX軸回転数センサ24,26は、移動量検出手段を構成している。
【0024】
図1に戻り、第一補助輪11bに対して設けられたY軸回転数センサ27及びX軸回転数センサ28もそれぞれ、Y軸回転数センサ23及びX軸回転数センサ24と同様の構成を有し、第一補助輪11bのY軸回りの方向の回転移動量に対応するローラ部の回転数及びX軸回りの方向の回転移動量に対応するローラ部の回転数を検出し、検出した回転数情報を送るように制御装置50に電気的に接続されている。さらに、第二補助輪12bに対して設けられたY軸回転数センサ29及びX軸回転数センサ30もそれぞれ、Y軸回転数センサ23及びX軸回転数センサ24と同様の構成を有し、第二補助輪12bのY軸回りの方向の回転移動量に対応するローラ部の回転数及びX軸回りの方向の回転移動量に対応するローラ部の回転数を検出し、検出した回転数情報を送るように制御装置50に電気的に接続されている。
【0025】
また、本体10の内部では、二軸傾斜センサ32が設けられ、制御装置50と電気的に接続されている。二軸傾斜センサ32は、本体10のX軸方向中心軸10CLx及びY軸方向中心軸10CLy(図2参照)の水平面に対する傾斜角を本体10の傾斜量として検出するものである。そして、二軸傾斜センサ32は、検出した傾斜角度情報を制御装置50に送る。なお、X軸方向中心軸10CLxは、端部10dの中心を通ってX軸に平行に延びる中心軸であり、Y軸方向中心軸10CLyは、側部10f(図2参照)の中心を通ってY軸に平行に延びる、X軸方向中心軸10CLxに垂直な中心軸である。
ここで、二軸傾斜センサ32は、傾斜量検出手段を構成している。
【0026】
また、本体10の端部10dには、磁界の強さを検出する磁気センサ31が外側に突出して設けられている。磁気センサ31は、制御装置50と電気的に接続され、検出した磁界の強度を信号化して制御装置50に送る。
また、本体10の端部10cには、制御装置50と電気的に接続された温度センサ33が設けられている。温度センサ33は、本体10の外側の温度を測定し、測定した温度情報を制御装置50に送る。
ここで、磁気センサ31は、接近感知センサを構成している。
【0027】
また、制御装置50には、本体10の内部から外部に延びる電気ケーブル51が接続されている。そして、電気ケーブル51は、管理装置130(図3参照)とも接続されている。電気ケーブル51は、管理装置130からの電力を制御装置50に供給すると共に、制御装置50と管理装置130との間で、制御装置50への指令及び制御装置50からの情報の送受信を仲介する。そして、制御装置50は、供給された電力をモータ16及び各センサに供給する。
また、本体10の端部10cには、外側からピアノ線60の一方の端部が連結されており、ピアノ線60の他方の端部は、巻取機120(図3参照)に延びて巻取ドラム121(図3参照)に巻き付けられている。
【0028】
また、図3を参照すると、巻取機120は、内部のモータによって回転駆動されてピアノ線60を巻き取る巻取ドラム121と、巻取ドラム121へピアノ線60を誘導する複数の誘導ローラ123とを有している。さらに、誘導ローラ123と巻取ドラム121との間には、ピアノ線60を両側から挟むローラ122aを備えたパルスエンコーダ122が設けられている。パルスエンコーダ122では、巻き取り等によって移動するピアノ線60と共にローラ122aが回転し、ローラ122aの回転数からピアノ線60の移動量が算出される。
そして、パルスエンコーダ122は、管理装置130に電気的に接続されており、算出したピアノ線60の移動量を管理装置130に送る。
【0029】
次に、図1〜3を用いて、この発明の実施の形態に係る傾斜計101の動作を説明する。
図3を参照すると、地山の沈下及び隆起等の変位を測定するためのボアホール100が地山に対して水平方向に削孔されている。ボアホール100の内部には、塩ビ管等からなり且つ継手111を介して連結された一定断面を有するパイプ110が、ボアホール100との間に空隙を有さないようにして挿入されている。さらに、ボアホール100の最深部100bに位置するパイプ110の先端部には、磁石112が取り付けられている。
【0030】
そして、地山の変位を確認するためにボアホール100の傾斜量を測定する際、巻取機120の巻取ドラム121から延びるピアノ線60が連結され且つ管理装置130から延びる電気ケーブル51が接続された傾斜計101が、計測者によってパイプ110の開放端である入口110aからパイプ110内に挿入される。このとき、傾斜計101は、バネ17及び19(図1参照)の付勢力によって、第一補助輪11b及び第二補助輪12b(図1参照)並びに第一走行輪11a及び第二走行輪12a(図1参照)がパイプ110の内周面110cに押し付けられた状態となる。
そして、計測者は、管理装置130を操作して、傾斜計101の制御装置50(図1参照)に電力を供給すると共にモータ16(図1参照)及び各センサを稼動させる。
【0031】
傾斜計101は、モータ16(図1参照)によって第一走行輪11a及び第二走行輪12a(図1参照)が回転駆動され、図3の状態(3a)に示すように、パイプ110の長手方向である軸方向に沿って磁石112へ向かって、ピアノ線60及び電気ケーブル51を引き出しながら自走する。
走行中の傾斜計101の制御装置50(図1参照)は、磁気センサ31によって進行方向の磁界の強さを検出している。そして、磁気センサ31が検出する磁界の強さが所定の磁界の強さに達すると、制御装置50はモータ16を停止させる。このとき、傾斜計101は、磁石112に近接した位置で停止し、図3の状態(3b)に示す状態となる。さらに、制御装置50は、モータ16の停止情報を管理装置130に送信する。なお、制御装置50は、磁気センサ31が検出する磁界の強さを温度センサ33(図1参照)から送られる温度情報に基づき補正し、補正した磁界の強さを上記所定の磁界の強さと比較する。
【0032】
管理装置130を介して傾斜計101の停止が確認されると、計測者は、巻取機120を稼動させ、巻取ドラム121にピアノ線60を巻き取らせる。
巻き取られるピアノ線60によって、傾斜計101は、モータ16(図1参照)を停止させた状態で、図3の状態(3c)に示すようにパイプ110の入口110aに向かって移動される。そして、この傾斜計101の移動に伴って、第一走行輪11a、第二走行輪12a、第一補助輪11b、及び第二補助輪12b(図1参照)が回転方向を自在とした状態で回転する。
【0033】
このとき、傾斜計101の制御装置50(図1参照)は、各センサが検出する検出値を、管理装置130に送信する。つまり、Y軸回転数センサ23(図1参照)及びX軸回転数センサ24(図2参照)それぞれが検出する第一走行輪11a(図1参照)のX軸及びY軸回りの方向の回転移動量に対応する回転数、Y軸回転数センサ25(図1参照)及びX軸回転数センサ26(図2参照)それぞれが検出する第二走行輪12a(図1参照)のX軸及びY軸回りの方向の回転移動量に対応する回転数、Y軸回転数センサ27(図1参照)及びX軸回転数センサ28(図1参照)それぞれが検出する第一補助輪11b(図1参照)のX軸及びY軸回りの方向の回転移動量に対応する回転数、Y軸回転数センサ29(図1参照)及びX軸回転数センサ30(図1参照)それぞれが検出する第二補助輪12b(図1参照)のX軸及びY軸回りの方向の回転移動量に対応する回転数、第一伸縮量検出センサ18及び第二伸縮量検出センサ20(図1参照)それぞれが検出する第一補助輪11b及び第二補助輪12bの移動量、二軸傾斜センサ32(図1参照)が検出する傾斜角、並びに、温度センサ33(図1参照)が測定した温度の情報が、管理装置130に送られる。
【0034】
同時に、巻取機120では、パルスエンコーダ122が、巻取ドラム121に巻き取られるピアノ線60の長さを測定し、その測定値を管理装置130に送信する。
【0035】
傾斜計101の移動中、管理装置130は、受信した情報から、第一走行輪11a、第二走行輪12a、第一補助輪11b及び第二補助輪12b(図1参照)についてX軸及びY軸方向への回転移動量を算出し、さらに、この算出結果から傾斜計101のパイプ110における軸方向及び周方向への移動量を算出し、それにより、傾斜計101のパイプ110における軸方向の位置を算出する。
【0036】
また、管理装置130は、上述のようにして算出したパイプ110の軸方向の各位置における傾斜計101の傾斜量を算出する。このとき、管理装置130は、二軸傾斜センサ32(図1参照)が検出した傾斜角を温度センサ33(図1参照)が測定した温度で補正する。
さらに、管理装置130は、温度補正した傾斜角のうち、傾斜計101の本体10のY軸方向中心軸10CLy(図2参照)の水平面に対する傾斜角を、傾斜計101のパイプ110における周方向への移動量を使用して補正する。つまり、管理装置130は、パイプ110に対して相対的な内周面110cに沿う方向の傾斜計101の傾きを補正した傾斜角を算出する。
【0037】
また、管理装置130は、温度補正した傾斜角のうち、傾斜計101の本体10のX軸方向中心軸10CLx(図2参照)の水平面に対する傾斜角を、第一伸縮量検出センサ18及び第二伸縮量検出センサ20(図1参照)の検出値を使用して補正する。つまり、管理装置130は、パイプ110に対して相対的なパイプ110の軸方向から上下方向への傾斜計101の傾きを補正した傾斜角を算出する。
【0038】
例えば、傾斜計101が継手111内に形成されるパイプ110同士の隙間111aを通過する際、パイプ110に押し付けられている第一補助輪11b又は第二補助輪12b(図1参照)が移動して第一伸縮量検出センサ18又は第二伸縮量検出センサ20(図1参照)を伸縮させる。同時に、二軸傾斜センサ32(図1参照)が検出する傾斜量も変動する。このとき、第一伸縮量検出センサ18又は第二伸縮量検出センサ20の検出値に急激な変動が発生すると共に、第一伸縮量検出センサ18及び第二伸縮量検出センサ20の検出値同士の間に差異が生じる。つまり、上記のような検出値の急激な変動や検出値同士の間の差異は、パイプ110の内周面110cの凹凸や段差に起因して発生する。このため、管理装置130は、第一伸縮量検出センサ18及び第二伸縮量検出センサ20の検出値に急激な変動や検出値同士の間の差異が発生した時点においては、二軸傾斜センサ32の検出した傾斜角を採用せずに前後の検出値から傾斜角を推測する、又は、第一伸縮量検出センサ18及び第二伸縮量検出センサ20の検出値で検出された傾斜角を補正する等の補正を行う。
【0039】
上述のようにして、管理装置130は、移動中における傾斜計101に対して、パイプ110の軸方向における位置、及び、この位置での2方向の傾斜角を算出する。さらに、管理装置130は、パイプ110の軸方向における各位置での傾斜角を結合することによって、パイプ110全体、すなわちボアホール100全体の傾斜状態を二次元的又は三次元的に算出し、管理装置130に付属するモニター装置上に表及び図で表示する。つまり、地山の沈下又は隆起に伴って発生するボアホール100の傾斜状態が示される。
また、管理装置130は、ピアノ線60の巻取り長から算出した傾斜計101のパイプ110の軸方向における位置を付属のモニター装置に併せて表示し、第一走行輪11a、第二走行輪12a、第一補助輪11b及び第二補助輪12b(図1参照)から算出された傾斜計101のパイプ110の軸方向における位置を計測者が検証できるようにすることができる。
【0040】
上述の説明から、この発明に係る傾斜計101は、ボアホール100内を移動可能な傾斜計である。さらに、傾斜計101は、本体10と、本体10を自走させる第一走行輪11a及び第二走行輪12aと、本体10の傾斜量を検出する二軸傾斜センサ32と、本体10の移動量を検出するX軸回転数センサ24,26及びY軸回転数センサ23,25とを備える。
【0041】
これによって、傾斜計101は、水平方向に削孔されたボアホール100に対してもその最深部100bまで自走で移動して到達することができるため、ボアホール100への設置を容易にすることができる。さらに、傾斜計101は、ボアホール100内を移動する過程で、ボアホール100内における本体10の移動量と傾斜量とを検出することができる。そして、本体10の移動量からボアホール100内における本体10の位置を算出することによって、ボアホール100内における本体10の位置に対応させて本体10の傾斜量を検出することができる。よって、傾斜計101は、水平方向に延びるボアホール100に対して、各位置での傾斜量の測定を容易にすることを可能にする。
【0042】
また、傾斜計101は、本体10の移動に伴ってボアホール100の孔壁(パイプ110の内周面110c)に接触しつつ回転する第一走行輪11a及び第二走行輪12aを備え、X軸回転数センサ24,26及びY軸回転数センサ23,25は、第一走行輪11a及び第二走行輪12aの回転移動量を検出することにより本体10の移動量を検出する。これにより、第一走行輪11a及び第二走行輪12aの回転移動量からボアホール100内における本体10の位置を検出することができる。一方、傾斜計に取り付けたケーブルを巻き取ることによって傾斜計を移動させ、ケーブルの巻取り長から傾斜計の移動量つまり傾斜計の位置を算出する従来の傾斜計では、ケーブルにおけるトグロの発生やボアホール内での傾斜計の傾きによって、算出される傾斜計の位置に誤差が生じていた。しかしながら、第一走行輪11a及び第二走行輪12aの回転移動量から本体10の位置を算出することによって、上記の位置の誤差の発生を低減することが可能になる。
【0043】
また、傾斜計101において、第一走行輪11a及び第二走行輪12aは、少なくともボアホール100の軸方向に沿った第一方向(X軸方向)及び第一方向(X軸方向)に垂直な第二方向(Y軸方向)に向かって回転可能であり、Y軸回転数センサ23,25及びX軸回転数センサ24,26はそれぞれ、第一方向(X軸方向)及び第二方向(Y軸方向)について本体10の移動量を検出する。
【0044】
このとき、ボアホール100の軸方向に沿った第一方向(X軸方向)への第一走行輪11a及び第二走行輪12aの回転移動量から傾斜計101の本体10の移動距離を算出することによって、ボアホール100の軸方向における本体10の位置を正確に算出することが可能になる。さらに、第二方向(Y軸方向)への第一走行輪11a及び第二走行輪12aの回転移動量から本体10の移動距離を算出することによって、第一方向(X軸方向)に対する本体10の傾き量又はボアホール100の周方向への本体10の移動量を算出することができる。そして、上記の算出した移動量を使用することによって、二軸傾斜センサ32が算出する傾斜量に対して、本体10の第一方向(X軸方向)に対する傾き又はボアホール100の周方向への移動を補正することができるため、さらに精度の高い傾斜量の算出が可能になる。また、ボアホール100の周方向への本体10の移動を拘束することなく本体10の傾斜量を検出することができるため、パイプ110に本体10を拘束・誘導する溝等が不要となり、コストを低減することが可能になる。
【0045】
また、傾斜計101は、第一走行輪11a及び第二走行輪12aのそれぞれに対向して設けられ且つ第一走行輪11a及び第二走行輪12aに向かう第三方向(下方向)及び第三方向に反対の第四方向(上方向)に移動可能な第一補助輪11b及び第二補助輪12bと、第一補助輪11b及び第二補助輪12bをそれぞれ第四方向に向かって付勢するバネ17及び19と、第一補助輪11b及び第二補助輪12bのそれぞれにおける第三方向及び第四方向への移動量を検出する第一伸縮量検出センサ18及び第二伸縮量検出センサ20とをさらに備える。そして、第一補助輪11b及び第二補助輪12bはそれぞれ、バネ17及び19の付勢力によってボアホール100の孔壁(パイプ110の内周面110c)に押し付けられる。
【0046】
これによって、第一補助輪11b及び第二補助輪12bは、パイプ110の内周面110cの凹凸や段差を通過する際に第三方向又は第四方向に移動し、このとき、第一伸縮量検出センサ18及び第二伸縮量検出センサ20が検出する移動量に変動や差異が発生する。上記のような移動量の変動や差異が発生する際に二軸傾斜センサ32が検出した本体10の傾斜量を補正することによって、パイプ110の内周面110cの凹凸や段差による本体10の傾斜量への影響を排除することができ、さらに精度が高い傾斜量の検出が可能になる。
【0047】
また、傾斜計101は、ボアホール100における所定位置への本体10の接近を感知する磁気センサ31と、第一走行輪11a及び第二走行輪12aの動作を制御する制御装置50とをさらに備え、制御装置50は、磁気センサ31が所定位置への本体10の接近を感知すると第一走行輪11a及び第二走行輪12aを停止させる。ボアホール100の所定位置まで傾斜計101を挿入して傾斜量を測定する際、傾斜計101をボアホール100の所定位置に自動的に設置することができる。よって、ボアホール100の端部である最深部100bまで傾斜計101を挿入する場合に、ボアホール100の端部壁面との衝突による傾斜計101の損傷を防ぐと共に、ボアホール100の端部壁面との衝突を避けるための慎重な傾斜計101の挿入作業が不要となるため、作業時間を短縮することが可能になる。
【0048】
また、実施の形態の傾斜計101において、本体10の傾斜量を検出するために2つの軸についての傾斜角を検出する二軸傾斜センサ32を使用していたが、これに限定されるものでない。傾斜量を検出するセンサは、3つの軸についての傾斜角を検出する三軸傾斜センサであってもよい。三軸傾斜センサを使用することによって、本体10について、X軸方向中心軸10CLx及びY軸方向中心軸10CLyの水平面に対する傾斜角、並びに、鉛直方向の軸を中心とする回転方向の傾斜角を検出することができる。
【0049】
また、実施の形態の傾斜計101における二軸傾斜センサ32は、X軸方向中心軸10CLx及びY軸方向中心軸10CLyの水平面に対する傾斜角を検出していたが、これに限定されるものでない。二軸傾斜センサ32は、X軸方向中心軸10CLxの水平面に対する傾斜角、Y軸方向中心軸10CLyの水平面に対する傾斜角、及び、鉛直方向の軸を中心とする回転方向の傾斜角のいずれか2つを検出するものであってもよい。
【0050】
また、実施の形態において、ボアホール100の最深部100bへの傾斜計101の接近時にモータ16を停止させるために、磁気センサ31及び磁石112を使用していたが、これに限定されるものでない。磁気センサ31の代わりに磁気型、誘導型又は静電容量型の近接センサを使用し、最深部100bへの接近を感知する近接センサによる制御でモータ16を停止するようにしてもよい。また、磁気センサ31及び磁石112のそれぞれの代わりに、レーザー距離計及びレーザー反射器を使用し、レーザー距離計が測定するレーザー反射器との距離に基づき、モータ16を停止するようにしてもよい。また、磁気センサ31と磁石112とのそれぞれの代わりに、超音波センサ及び超音波発信器と超音波反射器とを使用し、超音波センサが検知する超音波反射器で反射された超音波の強度に基づき、モータ16を停止するようにしてもよい。また、磁気センサ31の代わりに、直接接触して押されることによってON又はOFF状態となるスイッチを使用してもよい。
【0051】
また、実施の形態において、傾斜計101は、水平方向に削孔されたボアホール100に設置されていたがこれに限定されるものでなく、鉛直又は斜め方向のボアホールに設置されてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 本体、11a 第一走行輪(走行手段,回転体)、11b 第一補助輪(第二回転体)、12a 第二走行輪(走行手段,回転体)、12b 第二補助輪(第二回転体)、17,19 バネ(付勢部材)、18 第一伸縮量検出センサ(第二移動量検出手段)、20 第二伸縮量検出センサ(第二移動量検出手段)、23,25 Y軸回転数センサ(移動量検出手段)、24,26 X軸回転数センサ(移動量検出手段)、31 磁気センサ(接近感知センサ)、32 二軸傾斜センサ(傾斜量検出手段)、50 制御装置(制御手段)、100 ボアホール(孔)、101 傾斜計、110 パイプ、110c 内周面(孔壁)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔内を移動可能な傾斜計であって、
本体と、
前記本体を自走させる走行手段と、
前記本体の傾斜量を検出する傾斜量検出手段と、
前記本体の移動量を検出する移動量検出手段と
を備える傾斜計。
【請求項2】
前記本体の移動に伴って前記孔の孔壁に接触しつつ回転する回転体を備え、
前記移動量検出手段は、前記回転体の回転移動量を検出することにより前記本体の移動量を検出する請求項1に記載の傾斜計。
【請求項3】
前記回転体は、少なくとも前記孔の軸方向に沿った第一方向及び前記第一方向に垂直な第二方向に向かって回転可能であり、
前記移動量検出手段は、前記第一方向及び前記第二方向について前記本体の移動量を検出する請求項2に記載の傾斜計。
【請求項4】
前記走行手段に対向して設けられ且つ前記走行手段に向かう第三方向及び前記第三方向に反対の第四方向に移動可能な第二回転体と、
前記第二回転体を前記第四方向に向かって付勢する付勢部材と、
前記第二回転体における前記第三方向及び前記第四方向への移動量を検出する第二移動量検出手段とをさらに備え、
前記第二回転体は、前記付勢部材の付勢力によって前記孔の孔壁に押し付けられる請求項2または3に記載の傾斜計。
【請求項5】
前記孔における所定位置への前記本体の接近を感知する接近感知センサと、
前記走行手段の動作を制御する制御手段とをさらに備え、
前記制御手段は、前記接近感知センサが前記所定位置への前記本体の接近を感知すると前記走行手段を停止させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の傾斜計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−96814(P2013−96814A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239292(P2011−239292)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(500519987)株式会社ジェイアール総研情報システム (14)
【出願人】(511264766)株式会社エス・ケー・ラボ (2)