説明

傾斜記録用磁気記録媒体

【課題】傾斜磁気記録を実現するための磁気記録媒体の構造、材料、製造方法が必要とされている。
【解決手段】傾斜磁気記録媒体は、(111)配向で堆積されたL10磁性材料の記録層34と軟下地層(SUL)32を持つ磁気記録層を有する。L10磁性材料の記録層34とSUL32の間に中間層(シード層または下地層)33を設けるのが望ましい。中間層33は、L10磁性材料の記録層34の(111)配向を促進するために最密表面構造(三角格子)をとることができる。例えば、中間層33は、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、FePt、FePdまたはFePdPt合金のような(111)配向した面心立方(fcc)材料であってもよく、または、中間層33は、ルテニウム、レニウムまたはオスミウムのような(100)配向した六方最密(hcp)材料でもよい。あるいは、中間層33は非晶質材料であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記憶装置、磁気記録用磁気記憶装置及び磁気記録媒体、より具体的には、上記媒体の表面から傾斜した磁化容易軸の好ましい配向を有する薄膜磁気媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
垂直磁気記録を用いた先行技術による典型的なディスク・ドライブ・システム10を図1に示す。動作中、磁気変換器(ヘッド)14は、それが回転ディスク16の上方を浮上するので、サスペンション(図示せず)によって支持される。磁気変換器14は、通例「ヘッド」または「スライダ」と呼ばれるが、磁気遷移の読み取り及び書き込みのタスクを行なう素子から成る。垂直記録を用いるディスク・ドライブにおいて、記録ヘッドは、記録層を通ってディスク平面に垂直な方向に磁束を向けるように設計される。通例、垂直記録用ディスク16は、硬質磁気記録層28及び軟下地層29を含んで成る薄膜21を有する。単磁極型ヘッドを用いる記録動作の間、磁束は記録ヘッドの主磁極から垂直に硬質磁気記録層を通って、軟下地層の平面に向けられ、そして、記録ヘッドのリターン磁極へ戻る。主磁極及びすべてのシールドの形状とサイズは、トラック幅を決定する上で主要な要素である。ヘッド14の書き込みヘッド部(図示せず)は、磁極片42を用いる。
【0003】
Litvinovらによる特許文献1(米国特許第6531202号明細書)は、垂直記録用磁気記録媒体の一例を開示している。上記媒体は、基板上に堆積される軟下地層を含んで成る。適切な軟磁材料には、CoFe及びその合金、FeAlN、NiFe、CoZrNb及びFeTaNなどがあると言われており、CoFe及びFeAlNが好ましい軟質材料である。磁気的に硬質な記録層は、軟下地層の上に堆積される。記録層に適した硬質磁気材料は、多層のCo/PdまたはCo/Pt、CoPd、FePt、CoPd及びFePdのL10相、及びhcp Co合金などであると言われており、そのような多層及びL10相が好ましい硬質材料である。
【0004】
Ga-Lane Chenによる特許文献2(米国特許第6524730号明細書)において、垂直記録用軟質磁気下地層は、「キーパー層」と称される。軟質磁気下地層は、磁気記録媒体のヘッドの書き込み磁極から磁束を引き下げることによって、より良好な書き込み効率をもたらすと言われている。既知の軟磁性材料の例は、NiFe、CoZrNb及びFeAlNxである。
【0005】
CoPt及びFePtのような、バルク正方晶L10 秩序相材料(CuAu (I) 材料とも称される)は、それらの高い磁気結晶異方性及び磁気モーメントで知られており、上記特性は、高密度磁気記録媒体にとっても望ましい。L10相のC軸は、hcp CoPt合金のC軸と類似しており、両者とも磁化容易軸である。従って、Co及びPtの無秩序面心立方結晶(fcc)固溶体は、立方対称性及び低い磁気異方性を有するのに対して、秩序L10相は、hcp CoPt合金に類似しているが、より大きな一軸異方性を有する。Thieleらによる特許文献3(米国特許第6007623号明細書)には、その磁気膜として、正方晶L10構造に化学的に秩序化されたFePtまたはFePtX(またはCoPtまたはCoPtX)の粒子を持つグラニュラー膜を有する水平磁気記録媒体を製造するための方法が述べられている。
【0006】
これらグラニュラー膜は、個々の粒子内に極めて高い磁気結晶異方性を示す。上記膜は、単一の合金ターゲットからのスパッタリングまたはいくつかのターゲットから同時スパッタリングすることによって製造される。グラニュラー構造及び化学的秩序化は、例えば、温度及び堆積速度などのスパッタ・パラメータを用いて、または、引き続いてスパッタ堆積されたグラニュラー磁気膜のために構造を提供する、エッチングされたシード層の利用によって制御される。シード層の構造は、スパッタ・エッチング、プラズマ・エッチング、イオン照射またはレーザー照射によって得られる。例えば、HC及び面モーメント密度Mrtなどの磁気特性は、粒状度(粒径及び粒子分布)、化学的秩序化の程度、及びCr、Ag、Cu、TaまたはBのような、1つ以上の非磁性体の添加によって制御される。これら非磁性体は、部分的に粒子へ組み込まれるが、主として粒界に堆積する。従って、非磁性体の役割は、磁性を「希釈」し、粒子間の磁気交換を分断することである。
【0007】
垂直磁気記録媒体においてエピタクシーを崩壊させることなく、粒界形成を増大させるためにSiO2をCoPtCrと共に用いることについて非特許文献1に記述されている(T. Oikawa, et al., “Microstructure and Magnetic Recording Properties of CoPtCr-SiO2 Perpendicular Recording Media”, IEEE Transactions on Magnetics, vol. 38, no. 5, Sept. 2002, pp. 1976-1978.)。
【0008】
傾斜磁気記録は、ハード・ディスク・ドライブ(HDD)の面密度を1Tb/in2以上に、そして、データ転送速度を1Gb/s以上に拡張するための最有力候補である技術の1つである。必要なことは、ディスク表面の平面から約45度の異方性方向を持つ高SNR媒体をつくるための製造可能な方法である。垂直記録のためのヘッド構造及び基本的な媒体の製造方法は、傾斜媒体と共に用いることができる。傾斜記録装置にかかるコストは、現在利用可能な技術とほぼ同じであると予測することができる。
【0009】
傾斜記録は、垂直記録に勝る多くの利点を有する。第1に、上記媒体の異方性磁界及び磁性は、粒子が所定の最大ヘッド磁界に対してより反転しやすいので、両者ともおよそ2倍になることが可能である(約Hk 30 kOe及びMs = 800 emu/cc)。エネルギー密度が4倍に増えることは、熱的安定性の問題なしに、粒子の容積が4分の1に減少することを意味する。第2に、異方性角度の分布のために、スイッチング磁界変動は、傾斜記録に対して最高で10倍小さくなる。この結果、ビット遷移はずっとシャープになり、ビット密度はより大きくなる。第3に、トラック間の保護周波数帯は、スイッチング磁界及びエネルギー障壁が、トラック端面でのより大きな書き込み磁界角度に対して増加するので、傾斜記録ではずっと狭い。第4に、傾斜記録は、その反転トルクがずっと高いので、垂直記録よりもデータ転送速度がずっと速い。切り替え時間が、垂直記録よりも最大で10倍短縮されることが報告されている。
【0010】
Gao及びBertramは、単磁極ヘッドと共にディスク平面から45度傾斜した異方性を持つ磁気層を有する軟下地層を用いることを提案している。その異方性配向は、トラックに交差して、トラック下方に、またはランダムに分布してもよい。Gao及びBertramは、彼らの理論的論文(非特許文献2)においては、彼らが分析した仮想的媒体を製造するための材料あるいは技術を提供していない(Kai-Zhong Gao and H. Neal Bertram, “Magnetic Recording Configuration for Densities Beyond 1 Tb/in2 and Data Rates Beyond 1 Gb/s” IEEE Transactions on Magnetics, vol. 38, no. 6, Nov. 2002, pp.3675-3683.)。
【0011】
L10 FePt (111)膜の結晶配向を改善するためにMgO下地層を用いることが、Jae-Yoon Jeongらによって検討されてきた。FePtは300゜Cの温度で堆積され、その後400゜Cから500゜Cで1時間アニールされた。非特許文献3(Jae-Yoon Jeong, et al., “Controlling the Crystallographic Orientation in Ultrathin L10 FePt (111) Films on MgO (111) Underlayer,” IEEE Transactions on Magnetics, vol. 37, no. 4, July 2001, pp. 1268-1270.)
【特許文献1】米国特許第6531202号明細書
【特許文献2】米国特許第6524730号明細書
【特許文献3】米国特許第6007623号明細書
【非特許文献1】T. Oikawa, et al., “Microstructure and Magnetic Recording Properties of CoPtCr-SiO2 Perpendicular Recording Media”, IEEE Transactions on Magnetics, vol. 38, no. 5, Sept. 2002, pp. 1976-1978.
【非特許文献2】Kai-Zhong Gao and H. Neal Bertram, “Magnetic Recording Configuration for Densities Beyond 1 Tb/in2 and Data Rates Beyond 1 Gb/s” IEEE Transactions on Magnetics, vol. 38, no. 6, Nov. 2002, pp.3675-3683.
【非特許文献3】Jae-Yoon Jeong, et al., “Controlling the Crystallographic Orientation in Ultrathin L10 FePt (111) Films on MgO (111) Underlayer,” IEEE Transactions on Magnetics, vol. 37, no. 4, July 2001, pp. 1268-1270.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
傾斜磁気記録を実現するための磁気記録媒体の構造、材料、製造方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による記録媒体は、(111)配向の好ましい配向で堆積されたL10磁性材料の記録層、及び軟下地層(SUL)を持つ磁気記録層を有する。一連の実施の形態は、L10媒体とSULの間の中間層(シード層または下地層)を含んで成る。上記中間層は、L10 媒体の(111)配向を促進するために最密表面構造(三角格子)をとることができる。例えば、中間層は、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、FePt、FePdまたはFePdPt合金のような(111)配向した面心立方(fcc)材料であってもよく、または、中間層は、ルテニウム、レニウムまたはオスミウムのような(100)配向した六方最密(hcp)材料でもよい。あるいは、中間層は非晶質材料であってもよい。
【0014】
本発明によるL10記録層は、SiOX 、炭素(C)、ホウ素(B)、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(BC)、CN、SiN、SiC、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、AlOX、またはMgOXのようなマトリックス材料と共に堆積し、粒界を形成して、L10材料の粒子の磁気的な孤立を提供することができる。粒界を形成する上記マトリックス材料は、好ましくは、厚さが約1nmである。あるいは、Cr、Ag、Au、Cu、TaまたはBをL10記録層と共に堆積してもよい。先に述べられたように、これら非磁性体は、部分的に粒子に組み込まれるが、主として粒界に蓄積する。従って、非磁性体の役割は、磁性を「希釈」し、粒子間の磁気交換を切り離すことである。
【0015】
オプションとして、本発明による媒体は、機械的にテクスチャ加工された(傷をつけた)基板を含んで成ることが可能であり、媒体磁化ベクトルの面内構成要素の配向を、トラック内またはトラックを交差する方向へ促進する。L10材料を堆積する好ましい方法では、200゜Cから600゜Cの間の高い温度が用いられる。高温ガラス・セラミック基板を用いることが可能である。
【0016】
L10記録層の1つの実施の形態は、ほぼ等しい原子量のA及びBを有する正方晶AB材料を含んでおり、
A=((Co及び/またはFe)及びオプションとしてNi、Mn、Cu)、そして
B=(磁化容易軸が膜の平面から36度である(Pt及び/またはPd)
である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、傾斜磁気記録を実現するための磁気記録媒体の構造、材料、製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
垂直書き込み磁界を発生させる書き込みヘッドは、本発明による媒体と共に用いることができる。軟下地層(SUL)は、傾斜記録層と共に用いられ、垂直磁界に適用するために単磁極ヘッドと組み合わせて垂直記録と類似の方法で書き込みプロセスを支援する。傾斜記録層に適した材料には、CoまたはFeと部分置換されたMn、NiまたはCuを恐らくは有するCoPtまたはFePt、及び/またはPtと部分または完全置換されたPdなどがある。一連の実施の形態で、上記記録層は、2Dランダム面内ベクトルを持つ平面から36度の傾斜角を有する。
【0019】
FePt及びCoPtのような材料は、それらの極めて高い異方性、高い磁性、及び(100)方向のc軸を有するfct構造のために、傾斜記録用の理想的な有力候補であると考えられる。fct構造は、(100)方向へわずかに圧縮された(通常約3%)fcc構造である。これは、(111)集合組織化したL10膜が、およそアークサイン[(1/3)1/2=35度の固定された面外角度で傾斜していることを意味する((100)方向に沿ったfct圧縮では、これは約36度に増加する)。L10媒体が、極めて高温で堆積されて(または、極めて高温でポスト・アニールされて)、十分な厚みを有する場合、L10媒体は、通常(111)集合組織を持つ非晶質基板上を指向する。(100)集合組織が、適切な条件下、またはマトリックス材料が粒子を孤立させるために用いられる場合に非晶質基板上で(垂直記録用に)達成可能なことも、近年示されている。
【0020】
しかし、(111)集合組織を有するL10媒体を低温で、そしてマトリックス材料と共に確実に成長させることが可能なことが望ましい。確実な(111)集合組織化したL10媒体は、シード層上のエピタキシャル成長によって最も良好に得ることができる。近年、(111)集合組織化したL10 FePt媒体が、長手記録の目的のために特別な反応性スパッタリング・プロセスを用いた(111)集合組織を有する酸化物シード層(MgO)の利用によって達成されている。理想的には、(100)配向したL10膜及び最新技術による垂直媒体で行なわれてきたように、容易に堆積される金属シード層を用いることが好ましいであろう。既に長手記録用のL10媒体の成長のための(111)集合組織を持つPtまたはPdシード層の利用について開示されている。好ましくは、粒子は、SiOXのようなマトリックス材料と分離されるべきである。
【0021】
本発明の第1の実施例が図2に示されており、ディスク16上の薄膜21の断面を示す。記録層34は、垂直書き込み磁界を有する傾斜記録の目的のための軟下地層(SUL)32上に堆積された(111)配向したグラニュラーL10磁性材料41から成る。記録層34の磁気特性は、ディスク表面上の薄膜の平面から傾斜している、スイッチング(異方性)の容易軸を提供するために選択される。磁性材料の磁化容易軸は、薄膜平面から約36度外側である。図面中の膜の厚さは、縮尺に基づいていない。実際の膜厚は、本明細書に断りがある場合を除いて、先行技術に従って決定することができる。好ましくは、L10記録層の膜厚は20nm未満であり、L10媒体の下端部とSULの上端部の間の距離は20nm未満である。膜平面での平均粒径は、2nmと8nmの間である。L10磁性材料41の堆積は、好ましくは200゜Cと600゜Cの間の高い温度で行なわれる。ディスク用の高温ガラス・セラミック基板(図示せず)も好ましい。
【0022】
グラニュラー(111)で配向したL10は、ほぼ等しい原子量のA及びBを有する正方晶AB材料を含んでおり、
A=((Co及び/またはFe)及びオプションとしてNi、Mn、Cu)、そして
B=(Pt及び/またはPd)
である。Ni、Mn、Cuのような元素は、オプションとして含有され、保磁力を減少させる。
【0023】
本技術分野で周知のように、Co及びFe原子は、原子平面に配置され、化学的に秩序化されてPtの原子平面と交互になっている(Co及びFe原子が膜の約50%、そしてPtが残りの50%を構成するように)。これらの平面は(100)方向に対して垂直である。本技術分野で周知のように、Ptは、一部または全部をPdで置換されて、磁気特性を調節することができる。Co及びFe(またはCoFe)は、一部をMn、NiまたはCuで置換されて、磁気特性を調節することができる。例えば、傾斜層は、高温で堆積されたfct Fe50Pd25Pt25材料で構成され、化学的に秩序化された相の成長を促進することができる。
【0024】
軟下地層(SUL)32は軟磁性材料で作られる。多くの軟磁性材料が周知であり、下地層として機能を果たすことができる。1つの例は、磁気記録ヘッドに広範に用いられるNiFe(パーマロイ)である。従来の保護膜35を用いることが可能である。オプションとして、周辺研磨または機械的に集合組織化した(傷をつけた)基板を用いて、媒体磁化ベクトルの面内構成要素の配向をトラック内またはトラックを交差する方向に促進することが可能である。傾斜した堆積のような異方性応力を導入するためのその他の周知の方法を用いることが可能である。
【0025】
本発明の第2の実施例が図3に示されており、記録層34とSUL32の間に堆積された中間層33を持つディスク16上の薄膜21の断面を示す。上記中間層材料は、L10膜に適合する緊密な格子を有するように選択される。1つの実施の形態で、本発明は、エピタキシャルL10傾斜媒体のための中間層として(111)集合組織を持つ格子適合fcc金属層を含んで成る。例えば、CoPtは、a軸格子定数が3.80オングストローム、c軸格子定数が3.68オングストロームであるのに対して、FePtは、a=3.85オングストローム、そしてc=3.71オングストロームである。十分に格子適合したFcc金属には、白金(a=c=3.92オングストローム)、パラジウム(a=c=3.89オングストローム)、イリジウム(a=c=3.84オングストローム)、及びロジウム(a=c=3.80オングストローム)などがある。あるいは、(100)集合組織を持つhcp金属は、三角最密表面構造を有し、(111)配向したL10傾斜媒体のためのエピタクシーを確立するために用いることもできる。例えば、ルテニウム、レニウム及びオスミウムは、それぞれ3.82、3.90及び3.87オングストロームの上張層成長のための「効果的な」格子定数を有する。中間層33は、好ましくは、
(a)白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、FePt、FePd及びFePdPt合金などのような(111)配向したfcc材料、または
(b)ルテニウム、レニウムまたはオスミウムなどのような(100)配向したhcp材料、または
(c)SiOxのような非晶質中間層
のいずれかである。中間層33にFePt、FePd及びFePdPt合金などのような(111)配向したfcc材料を用いることにより、オプションとして、その同じ合金を記録層34及び中間層33の両方に用いることが可能である。中間層はfcc構造であるが、記録層はfct構造である。記録層34及び中間層33における適合材料の利用によって、上記層間のどんな混合の効果も軽減されるという、オプションとしての利点が提供される。
【0026】
fcc中間層は、室温で堆積することが可能であろう。1つの例として、記録層のためのfct Fe50Pd25Pt25材料は、fcc Fe50Pd25Pt25中間層の上部に成長することが可能である。上記2層は、格子面間隔に極めて密接に適合するであろう。fcc Fe50Pd25Pt25中間層は、fct構造の形成を防ぐのに十分な低い温度で堆積されることが可能であろう。fct記録層は、ディスクに高温で堆積される。十分に高温であれば、fcc構造はfct構造に変化することができるが、磁性材料用のfct構造を成長させるために必要な温度は、中間層の既存のfcc構造を変化させるのに十分高いとは限らない。また、上記2層の組成が類似している場合、上記2層間のいずれの原子相互拡散も、記録層の磁気特性に殆ど影響を及ぼさないと予想される。fct記録層に類似した組成を持つfcc材料は、通常軟磁性を有し、SULの延長として機能する。これによって、書き込みヘッドとSULの間の有効な距離が縮まり、書き込み解像度が増大する。
【0027】
2つ以上の中間層があってもよい。fcc及びhcp層は通例多結晶である。粒子は、好ましくはサイズがほぼ等しい。また、傾斜記録層粒子は、中間層の粒子上に1対1でエピタキシャルに成長しても、しなくてもよい。
【0028】
SiOXのような非晶質中間層33を用いて、SULのエピタキシャルな影響を取り除くことも可能である。非晶質材料は、エピタキシャルなシード層の役割を果たすことなく、SULと傾斜記録層の間の交換断絶層の役割を果たす。傾斜材料はガラス上に直接成長することができるので、非晶質中間層33の利用は、この成長条件を再現することができる。
【0029】
オプションとして、テクスチャ加工された基板の利用によって、異方性的に中間層を圧縮し、面内構成要素の配向を促進することができる。傾斜記録に関する殆どの報告で、媒体は、一定のトラックを交差する方向に傾斜すると仮定されている。これは、主として垂直記録と比較するための単純化として行なわれる。しかし、軸の傾きが2方向−ODからID及びIDからOD−の間のみでランダムに変化することが可能な場合、記録性能のいくつかの側面は、さらに改善が可能であることが報告されている。また、面内傾斜方向が2Dランダムである場合の理論的研究も行なわれている。すべての場合において、SNRは、垂直記録の場合よりもずっと高くなり、単独の結晶傾斜媒体では10dBの改善、そして2Dランダムの傾斜媒体では7.5dBの改善(両方の場合について面外角度の変動は5度と想定する)になることが予想される。これは、2Dランダム配向と完全配向を比較して約3dBの差異を示す、長手記録に対する予測と概ね一致すると思われる。面内配向の変動によって引き起こされるDCノイズは、遷移ノイズよりも小さいと予想することができ、傾斜媒体の殆どの利点は、2Dランダムの場合に実現することが可能である。しかし、面内方向を配向する何らかの利点があり、トラックを交差する方向に関する文献が好まれる傾向があると思われる。
【0030】
オプションとして、テクスチャ加工された基板の利用によって、中間層を異方性的に圧縮し、上張層の面内構成要素の配向を促進することができる。例えば、機械的にテクスチャ加工された基板は、通例溝に対抗するよりも溝方向により多くの圧縮を促進するが、その理由は、溝を交差する方向に、より大きな表面積と「余地」が存在するためである。圧縮異方性は通常約0.5%である。(111)平面に伝えられる約2%の圧縮を有するL10傾斜記録層において、圧縮された中間層は、溝方向に最も近い(100)傾斜方向の成長を好むことができる。中間層のhcp及びfcc中空部分が、両方とも上張層の成長に用いられる場合、傾斜角には6つの可能な方向があり、最も近い傾斜方向は、好ましい方向から大きくても30度である。圧縮異方性が、格子適合に応じて溝を交差する方向への傾斜を好むことも可能である。これは、溝方向がトラック方向と平行であることが望ましく、トラックを交差する傾斜配向が、トラック内の傾斜配向よりもSNRが高いので、望ましい。
【0031】
本発明の第3の実施例が図4に示されており、記録層34M、中間層33及びSUL32を有するディスク16上の薄膜21の断面を示す。記録層34Mは、粒界を形成するマトリックス材料42を含んで成る。記録層34Mは、粒界材料と傾斜磁性材料41の共堆積によって形成される。上記材料は、堆積プロセスの間自己分離的であり、その結果、マトリックス材料によるL10材料の粒子は磁気的に孤立する。例えば、SiとOを共堆積して、非晶質SiOXマトリックス材料をL10粒子間に形成する。上記マトリックス材料は、粒子間結合を減らす役割を果たす。好ましくは、粒界材料は、厚さが約1nmである。Cr、Ag、Au、Cu、TaまたはBのようなその他の添加物を記録層に添加することが可能であり、それらの添加物は、粒界に集まる傾向があって、粒子間結合を減少させる。粒子間に非晶質材料を形成するために共堆積することも可能なその他の材料には、炭素(C)、ホウ素(B)、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(BC)、CN、SiN、SiC、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、AlOX、またはMgOXなどがある。
【0032】
図5は、書き込みプロセス中の磁気遷移を示すために用いられる。図5は、書き込み済みトラックの中心を通る傾斜記録ディスクの記録層34Mの断面を象徴的に示す。矢印は、傾斜記録層の粒子の磁化方向を表す。これらの方向は、膜平面から約36度の角度をなすが(基板の粗さ及びその他の欠陥のために、面外角度は数度変わる場合がある)、面内方向については多くの可能性が存在する。最も一般的な場合、磁化の面内構成要素は、粒子ごとにランダムであろう。あるいは、膜が、粒子の成長をトラック内方向に促進するような方法で集合組織化することが可能な場合、上方へ配向した粒子は、トラック下方方向またはトラック上方方向のいずれかに傾斜する傾向がある(これが、図5に示される場合である)。これは本技術分野で双晶傾斜媒体として周知である。上記双晶は、トラックを交差する方向に配向することもできる。傾斜媒体が、単一の方向にc軸成長を促進するように成長することが可能な場合、その媒体は単一結晶傾斜媒体として周知である。
【0033】
図5で、プラスの印は正の磁荷を示し、マイナスの印は負の磁荷を示す。例えば、書き込みヘッドは、正の磁荷が粒子の上にあるように領域内の上方向に、そして、負の磁荷が粒子の上にあるように別の領域内の下方向に、媒体を配向することが可能である。これらの領域間には、磁気ヘッドの読み出し素子によって検知され、記憶保存されたデジタル情報を表す遷移がある。単一結晶傾斜媒体では、領域内の粒子は、隣接する粒子の側の負の磁荷の隣に配置された粒子の側に正の磁荷を有する。正及び負の磁荷は互いに極めて近接しているので、それらは、正味のわずかな磁界を消去したり、つくりだすという傾向がある。しかし、双晶及び2Dランダム傾斜媒体については、側面の磁荷は多くの場合消去されず、読み取りヘッドにDCノイズをつくりだす側面の磁荷からのランダムな磁界パターンが存在する。しかし、この余分なノイズ源があっても、傾斜媒体は、垂直媒体に勝る大きな利点を提供することが予測される。
【0034】
本発明による薄膜ディスクは、標準的な薄膜製造技術を用いて製造することが可能である。本発明は、特定の実施の形態に関して述べられてきたが、本発明による材料、方法及び構造のためのその他の利用及び適用は、本技術分野の当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】垂直記録を用いた先行技術によるディスク・ドライブの主な構成要素の象徴的な図である。
【図2】傾斜記録層及びSULを含んで成る薄膜平面に垂直にとった、本発明の第1の実施例による薄膜ディスクの断面図である。
【図3】傾斜記録層、中間層及びSULを含んで成る薄膜平面に垂直にとった、本発明の第2の実施例による薄膜ディスクの断面図である。
【図4】マトリックス材料を有する傾斜記録層、中間層及びSULを含んで成る薄膜平面に垂直にとった、本発明の第3の実施例による薄膜ディスクの断面図である。
【図5】記録層の領域の磁性を説明するために用いられる薄膜平面に垂直にとった、本発明の1つの実施例による傾斜記録層の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
16…ディスク、
21…薄膜、
32…軟下地層、
33…下地層、
34、34M…記録層、
35…保護膜、
41…傾斜磁気材料、
42…マトリックス材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気的な軟下地層と、
前記磁気的な軟下地層の上部に(111)配向を持つL10磁性材料と、
を有することを特徴とする傾斜磁気記録媒体。
【請求項2】
さらに前記L10磁気材料と前記磁気的な軟下地層の間に中間層を有することを特徴とする請求項1記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項3】
前記中間層が、最密表面構造(三角格子)を有することを特徴とする請求項2記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項4】
前記中間層が、(111)配向したfcc構造を有することを特徴とする請求項2記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項5】
前記中間層が、主として白金、パラジウム、イリジウムまたはロジウムを含むことを特徴とする請求項4記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項6】
前記中間層が、主としてFe、Co、Pd及びPtを含むfcc合金であることを特徴とする請求項4記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項7】
前記中間層が、(100)配向したhcp材料であることを特徴とする請求項2記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項8】
前記中間層が、主としてルテニウム、レニウムまたはオスミウムを含むことを特徴とする請求項7記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項9】
さらに前記L10磁気材料の粒子を孤立させる粒界材料を含むことを特徴とする請求項1記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項10】
前記粒界材料が、SiOX 、炭素(C)、ホウ素(B)、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(BC)、CN、SiN、SiC、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、AlOX、MgOX、Cr、Ag、Au、CuまたはTaを含んでいることを特徴とする請求項9記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項11】
さらに周方向にテクスチャ加工された基板を有することを特徴とする請求項1記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項12】
さらに半径方向にテクスチャ加工された基板を有することを特徴とする請求項1記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項13】
前記L10磁気材料が、A=(Co、FeまたはCoFe)、B=(Pt、PdまたはPtPd)とする場合に、ほぼ等しい原子量のA及びBを有する正方晶AB材料であることを特徴とする請求項1記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項14】
前記L10磁気材料が、A=(Co、FeまたはCoFe)と(Ni、MnまたはCu)、B=(Pt、PdまたはPtPd)とする場合に、ほぼ等しい原子量のA及びBを有する正方晶AB材料であることを特徴とする請求項1記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項15】
前記L10磁気材料が、前記中間層の材料組成物とほぼ等しい材料組成物を有することを特徴とする請求項2記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項16】
前記中間層が軟磁性であることを特徴とする請求項2記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項17】
前記中間層が非晶質材料であることを特徴とする請求項2記載の傾斜磁気記録媒体。
【請求項18】
磁気的な軟下地層を堆積するステップと、
前記磁気的な軟下地層の上部に(111)配向を持つL10磁性材料を堆積するステップと、
を含むことを特徴とする傾斜磁気媒体の製造方法。
【請求項19】
前記L10磁性材料を堆積するステップが、200゜Cと600゜Cの間に高められた温度を用いることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
磁気的な軟下地層と、前記磁気的な軟下地層の上部の(111)配向を持つL10磁性材料とを有する傾斜磁気記録媒体と、
前記傾斜磁気記録媒体に磁気遷移を記録するための書き込みヘッドと、
を有することを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項21】
前記傾斜磁気記録媒体がさらに、前記L10磁気材料と前記磁気的な軟下地層の間に中間層を有することを特徴とする請求項20記載の磁気記憶装置。
【請求項22】
前記中間層が、最密表面構造(三角格子)または(111)配向したfcc構造を有することを特徴とする請求項21記載の磁気記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−19000(P2006−19000A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183000(P2005−183000)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】