像加熱装置
【課題】 定着ローラの表面に加熱部材が接触する接触式の外部加熱定着装置において、定着ローラ表面に発生する傷を抑える。
【解決手段】 定着ローラと定着ローラ表面に接触する加熱部材を、加熱部材が接触した状態で相対的に定着ローラ回転方向に対して交差する方向へ移動させる。
【解決手段】 定着ローラと定着ローラ表面に接触する加熱部材を、加熱部材が接触した状態で相対的に定着ローラ回転方向に対して交差する方向へ移動させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の複写機・レーザービームプリンタ等の画像形成装置に搭載される定着装置として用いれば好適な像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置に搭載する定着装置として、加熱部材を定着ローラの表面(外周面)側に配置し、定着ローラを外周面側から加熱する方式(以下、外部加熱定着方式と記す)が提案されている(特許文献1)。定着ローラの外周面のみを加熱することで、定着ローラ表面を所望の温度に立ち上げるまでの時間を短縮すると共に、消費電力を低減することが可能である。この外部加熱定着方式の定着装置としては、加熱部材を定着ローラ外周面に接触させる接触式と、熱源としてハロゲンヒータ等を用いて定着ローラの外周面を加熱する非接触式とに大別される。接触式の外部加熱定着装置は、セラミックヒータ等の熱源を直接定着ローラに接触させ熱を伝えるので非接触式に比べ熱の伝搬効率が高いというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−186327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接触式の外部加熱定着装置では加熱部材が定着ローラ表面と接触するので、定着ローラ表面に摺擦傷が付くことがある。加熱部材と定着ローラの間に紙紛などの異物が挟まった場合、加熱部材と定着ローラの間に挟まっている異物が定着ローラ表面の同じ個所を摺擦するので、定着ローラ表面に回転方向に沿った傷がついてしまう。トナー像を記録材に定着する時に定着ローラの表面形状が記録材上のトナー像に転写されるため、定着ローラの表面に付いた傷による縦筋等の画像不良が定着後のトナー像に現れることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するための本発明は、画像を担持する記録材と接触する回転体と、前記回転体の表面に接触し前記回転体を加熱する加熱部材と、前記回転体と共に画像を担持する記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有する像加熱装置において、前記回転体と前記加熱部材のうち少なくとも一方が、前記回転体の回転方向に対して交差する交差方向へ前記回転体と前記加熱部材が接触した状態で移動可能であることを特徴とする。
【0006】
また、本発明は、画像を担持する記録材と接触する回転体と、前記回転体の表面に接触し前記回転体を加熱する加熱部材と、前記回転体と共に画像を担持する記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有する像加熱装置において、前記回転体の表面を部分的に前記回転体の回転方向に対して交差する交差方向に引き伸ばし鱗片状の表面に変形させる機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転体と加熱部材のうち少なくとも一方が、回転体の回転方向に対して交差する交差方向へ回転体と加熱部材が接触した状態で移動可能であるので、回転体表面の傷の深さを浅く抑えることができ、回転体表面の傷に起因する画像への影響を抑えることができる。
【0008】
また、回転体の表面を部分的に回転体の回転方向に対して交差する方向に引き伸ばし鱗片状の表面に変形させる機能を有するので、回転体表面に傷が生じてもそれを修復でき、回転体表面の傷に起因する画像への影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の像加熱装置の断面図。
【図2】実施例1の像加熱装置の正面図。
【図3】実施例1の像加熱装置を上方から見た図。
【図4】実施例1の像加熱装置と比較例の像加熱装置の印字耐久試験による定着ローラ表面の傷の発生状況果を示す図。
【図5】実施例1の像加熱装置の変形例であり、加熱部材の一部である摺動層のみをスライドさせる構成の正面図。
【図6】実施例2の像加熱装置の正面図。
【図7】図6の像加熱装置の加熱部材の位置とは異なる位置に加熱部材をスライドさせた状態を示す正面図。
【図8】実施例2の像加熱装置の変形例であり、加熱部材の一部である摺動層のみをスライドさせる構成の正面図。
【図9】実施例2の像加熱装置の変形例であり、定着ローラをスライドさせる構成の正面図。
【図10】定着ローラがR2方向に回転し且つA6方向にスライドする場合に定着ローラ表面が受ける摩擦力を示した図。
【図11】(1)は定着装置製造時に定着装置に装着する前の新品の定着ローラの表面の偏光顕微鏡写真、(2)は定着ローラを10分間往復移動させた後の定着ローラの表面の偏光顕微鏡写真である。
【図12】新品の定着ローラ表面の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真とその模式図。
【図13】発熱している状態の加熱部材に対して定着ローラを往復移動させて摺擦させた後の定着ローラ表面の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真とその模式図。
【図14】(1)は定着ローラと加熱部材が両者共に軸方向へスライドしないように固定した比較例の構成で、定着ローラを回転させた後のローラ表面の偏光顕微鏡観察写真及びその模式図、(2)は定着ローラと加熱部材が軸方向へ相対移動する実施例の構成で、定着ローラを回転させた後のローラ表面の偏光顕微鏡観察写真及びその模式図。
【図15】加熱部材の往復移動方向を定着ローラの回転軸方向に対して角度Yずらせた構成で、定着ローラがR2方向に回転し且つA8方向にスライドする場合に定着ローラ表面が受ける摩擦力を示した図。
【図16】実施例3の像加熱装置の正面図。
【図17】実施例3の像加熱装置の断面図。
【図18】実施例4の像加熱装置の断面図。
【図19】実施例4の像加熱装置で定着ローラ表面が受ける摩擦力を示した図。
【図20】実施例5の像加熱装置の断面図。
【図21】実施例5の像加熱装置に用いられる定着ベルトの断面構成図。
【図22】実施例5の像加熱装置を上方から見た図。
【図23】本発明の像加熱装置を定着装置として搭載した画像形成装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施例1)
本発明の実施例1を以下に説明する。まず、本実施例の像加熱装置を定着装置として搭載した画像形成装置を説明し、次いで、本発明に係わる像加熱装置について詳しく説明する。
【0011】
[画像形成装置本体構成]
被加熱体である記録材上に未定着トナー像を形成する方法は一般的であり、図23に示す概略図を用いて説明する。
【0012】
本実施例における画像形成装置50は、記録材搬送ベルト9上に担持した一枚の記録材P上にイエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの4色のトナー像を順次転写することで、一つの画像を形成する方式のフルカラープリンタである。感光ドラム1の周囲には、回転方向(矢印R1方向)に沿って順に、帯電器2、画像情報に応じたレーザ光を感光ドラム1に照射する露光装置3、感光ドラム1に形成された静電潜像にトナーを付着させて現像する現像器5が配置されている。また、記録材搬送ベルト9の感光ドラム1が配置された側とは反対側には感光ドラム1から記録材Pへトナー像を転写させる電圧が印加される転写ローラ10が配置されている。番号16は感光ドラムクリーナである。
【0013】
画像形成を実行する場合、感光ドラム1は、その表面が帯電器2によって負極性に帯電される。負極性に帯電された感光ドラム1は、露光手段3から出射するレーザ光Lにより走査され表面に静電潜像が形成される(露光された部分は表面電位が上がる)。そして1色目のイエロートナーが入った現像器5によって、感光ドラム上の静電潜像部にトナーを付着させ、感光ドラム1上にトナー像を形成する。
【0014】
一方、記録材搬送ベルト9は、二つの支持軸(駆動ローラ12、テンションローラ14)に支持されており、図中矢印R4方向に回転する駆動ローラ12によって、矢印R3方向に回転する。記録材Pは、給紙ローラ4によって給紙されると、正極性のバイアスが印加された吸着ローラ6によって帯電され、記録材搬送ベルト9上に静電吸着し搬送される。記録材Pが転写ニップN1に搬送されると、記録材搬送ベルト9に従動回転する転写ローラ10に不図示の電源から正極性の転写バイアスが印加され、感光ドラム1上のイエロートナー像は、転写ニップ部N1において記録材P上に転写される。転写後の感光ドラム1は、弾性体ブレードを有する感光ドラムクリーナ16によってクリーニングされる。
【0015】
以上の帯電、露光、現像、転写、クリーニングの一連の画像形成プロセスを、2色目のマゼンタM30、3色目のシアンC30、4色目のブラックk30の各現像カートリッジについても順次行い、記録材搬送ベルト9上の記録材Pに4色のトナー像を重ね合わせる。4色のトナー像を担持した記録材Pは定着装置100に搬送されて記録材P上のトナー像は記録材Pに加熱定着され、その後プリンタの外に排出される。
【0016】
[定着装置(像加熱装置)]
次いで、本発明の特徴である定着装置100について以下に説明する。本実施例の定着装置100は、上述のように立ち上げ時間の短縮や低消費電力化を目的とした接触式の外部加熱定着装置である。上述のように接触式の外部加熱定着装置では、加熱部材と定着ローラの接触部に紙紛などの異物が挟まった場合、定着ローラの回転により異物が定着ローラ表面の同じ個所を摺擦するため、定着ローラの回転方向に沿った傷が定着ローラ表面に付くことがある。本実施例では、定着ローラの回転方向とは異なる方向(交差方向)に加熱部材と定着ローラを相対的に摺動させることで、定着ローラの回転方向の傷を抑えることができる。以下に詳しく説明する。
【0017】
図1に本実施例における定着装置の概略断面図を示す。定着ローラ(回転体)110の表面(外周面)には定着ローラ110を加熱する加熱部材112が接触しており、接触加熱部N1を形成している。また、加圧ローラ(バックアップ部材)111が定着ローラ110に接触しており定着ニップ部N2を形成している。トナー像Tを担持する記録材Pは定着ニップ部N2で挟持搬送されて加熱定着される。
【0018】
定着ローラ110は外径φ20mmであり、外径φ12mmの鉄製の芯金117の外側にシリコーンゴムを発泡した厚さ4mmの弾性層116(発泡ゴム層)が形成されている。定着ローラ110は、熱容量が大きく且つ熱伝導率が大きいと、外周面から受ける熱が定着ローラ110内部へ吸収され易く、表面温度が上昇しにくくなる。すなわち、弾性層116はできるだけ低熱容量で熱伝導率が低く、断熱効果の高い材質の方が、定着ローラ110表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。上記シリコーンゴムを発泡した発泡ゴムの熱伝導率は0.11〜0.16W/(m・K)であり、0.25〜0.29W/(m・K)程度のソリッドゴムよりも熱伝導率が低い。また、熱容量に関係する比重は、ソリッドゴムが約1.05〜1.30であるのに対して、発泡ゴムが約0.75〜0.85であり、低熱容量でもある。従って、弾性層として発泡ゴムを用いれば定着ローラ110の表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。
【0019】
定着ローラ110の外径は小さい方が熱容量を抑えられるが、小さ過ぎると接触加熱部N1の定着ローラ回転方向の幅が狭くなってしまうので適度な大きさが必要である。このことを考慮した本実施例の定着ローラ110の外径はφ20mmである。弾性層116の肉厚に関しても、薄過ぎれば金属製の芯金117に熱が逃げ易いので適度な厚みが必要である。このことを考慮した本実施例の定着ローラの弾性層116の厚さは4mmである。
【0020】
弾性層116の上には、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)からなる離型層118が形成されている。離型層118は弾性層116にチューブを被覆させたもの、弾性層116表面に塗料をコートしたもの、いずれであっても良いが、本実施例では耐久性が優れるチューブを使用した。離型層118の材質としては、PFAの他に、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂(FEP)等のフッ素樹脂や、離型性の良いフッ素ゴムやシリコーンゴム等を用いても良い。
【0021】
定着ローラ110の表面硬度は、低ければ軽圧でも接触加熱部N1の幅が得られるが、低すぎると耐久性が悪化するため、本実施例の定着ローラ110の表面硬度は、Asker−C硬度(4.9N荷重)で、40〜45°とした。定着ローラ110は、不図示の駆動源から動力を受けて図中矢印R2方向に表面移動速度60mm/secで回転するようになっている。
【0022】
加圧ローラ111は、定着ローラ110から熱を奪いにくいように、低熱容量で低熱伝導率のものが好ましい。本実施例の加圧ローラ111は定着ローラ110と同様の構成のものを用いた。加圧ローラ111の外径はφ20mmであり、φ12mmの鉄製の芯金121の外側に厚さ4mmの発泡ゴム弾性層122が形成され、最表層にはPFAからなる離型層123が設けられている。加圧ローラ111は、加圧ローラ加圧バネ124によって軸受け125を介して図中矢印A2方向に147Nの力で加圧されている。これにより定着ローラ110との間に幅7mmの定着ニップ部N2が形成されている。加圧ローラ111は定着ローラ110から動力を受けて矢印R3方向へ従動回転する。
【0023】
定着ローラ110の離型層118に接触する本実施例の加熱部材112は、熱源である加熱ヒータ113と、加熱ヒータ113を保持する耐熱樹脂製のヒータホルダ119と、加熱ヒータ113の定着ローラ110側の面に設けられており定着ローラ110と接触する摺動層120を有する。
【0024】
加熱部材112は、加圧バネ114によって図中矢印A1方向に98Nの力で加圧されている。これにより、定着ローラ回転方向の幅が5.5mmの接触加熱部N1が形成されている。加熱ヒータ113は、定着ローラ回転方向の幅6mm、厚さ1mmのセラミック基板(本実施例の基板の材質はアルミナ)と、セラミック基板上にスクリーン印刷した厚み10μmのAg/Pd(銀パラジウム)の発熱抵抗層と、発熱抵抗層を覆う保護層としての厚み50μmのガラス層と、を有する。
【0025】
加熱ヒータ113のガラス面を定着ローラ110表面に直接接触させて定着ローラ110表面を加熱しても良いが、本実施例では、加熱ヒータ113の表面に離型性と摺動性に優れた摺動層120を設けた。この摺動層120は、定着ローラ110の表面にオフセットしたトナーが加熱部材112へ付着するのを抑えると共に、定着ローラ110との摺動による摩擦力を低減させる。摺動層120の材質としては、トナーとの離型性に優れたPFAや、摺動性に優れたPTFE等のフッ素樹脂を用いると良い。摺動層120は、厚すぎると加熱ヒータ113の熱が定着ローラ110に伝わりにくくなり、薄すぎると耐久性が不足するため、厚さは1〜100μmが好ましい。また摺動層120は、加熱ヒータ113との接触熱抵抗を少なくするため加熱ヒータ113のガラス層に直接コートしても良く、あるいは耐久性と表面性が良好なシート状のものを加熱ヒータ113と定着ローラ110の間に設置する構成でも良い。シート状のものを用いた場合、加熱ヒータ113の定着ローラ回転方向上流側エッジ及び下流側エッジ部を覆うように設置できるため、加熱ヒータ113のエッジから定着ローラ110を保護できる利点がある。本実施形態においては、摺動層120として厚さ50μmのPFAシートを用い、加熱ヒータ113のエッジを覆うように設置した。
【0026】
加熱ヒータ113の背面には、発熱抵抗層の発熱に応じて昇温したセラミック基板の裏の温度を検知する温度検知素子115が配置されている。この温度検知素子115の信号に応じて、セラミック基板長手方向(定着ローラの回転方向に対して直交する方向)端部にある不図示の電極部から発熱抵抗層に供給する電力を適切に制御することで、加熱ヒータ113の温度を調整している。本実施例では、温度検知素子115の検知温度が目標温度を維持するように発熱抵抗層への通電を制御している。そして、加熱ヒータ113が発する熱は、接触加熱部N1を介して定着ローラ110の表面に伝わる。定着処理中の目標温度は180℃である。
【0027】
なお、本実施例の定着装置の熱源は定着ローラ110の離型層118に接触する加熱部材112だけであり、定着ローラ110の内部に熱源はない。また、加熱ヒータ113が発する熱を定着ローラ110へ効率よく伝えるためヒータホルダ119の材質は断熱効果が高いものが好ましい。
【0028】
未定着トナー像Tが転写された記録材Pが、不図示の搬送手段により定着ニップ部N2に搬送されると、定着ローラ110の表面の熱は未定着トナー像Tと記録材Pに移り、記録材P表面にトナー像Tが加熱定着されるようになっている。
【0029】
次に、加熱部材112と定着ローラ110を定着ローラ回転方向に対して交差する方向へ相対的に摺動させる構成、すなわち回転体と加熱部材のうち少なくとも一方が回転体の回転方向に対して交差する交差方向へ回転体と加熱部材が接触した状態で移動可能な構成(移動機構)について説明する。
【0030】
図1中矢印A3方向から見た正面図を図2に示す。加熱部材112の長手方向端部には、ラック127が設けられており、不図示の駆動手段により(ピニオン)ギア126を図中矢印R4方向に回転させることで、加熱部材112は図中矢印A4方向(定着ローラの軸方向)にスライドするようになっている。加熱部材112のA4方向へのスライドは、定着ローラ110の回転、停止にかかわらず、常に行なわれても良いが、定着ローラ110の停止時に行なわれると、定着ローラ110表面に軸方向と平行な傷がついてしまう可能性がある。本実施例では、定着ローラ110が回転している時だけ加熱部材112をスライドさせるようにした。本実施例の定着装置は、定着ローラ110を軸方向(長手方向)へ動かす構造は有していない。したがって、加熱部材112が軸方向へスライドする時、定着ローラ110は軸方向には動かず固定されている。
【0031】
図3に、図2中矢印A1方向からみた図を示す。点線で示した加熱部材112は、定着ローラ110が矢印R2方向に回転する時に矢印A5方向にスライドする。そのため、図3のように加熱部材112側の固定点から定着ローラ110表面を見ると、定着ローラ110表面は、定着ローラ110のR2方向への回転による移動(ベクトルVr)と加熱部材112のA5方向へのスライドによる移動(ベクトルVh)との合成方向Vl(=Vr+Vh)へ移動することになる。
【0032】
定着ローラ110表面は、加熱部材112に対して、定着ローラ110の回転方向R2と交差する方向である斜め方向Vlへ常に動くため、接触加熱部N1の中に紙紛などの異物が挟まっても、異物が定着ローラ表面の同じ個所を摺擦することがない。そのため、定着ローラ110表面の傷が画像上に縦筋として現れてしまう程の深さや太さとなるのを抑えられる。
【0033】
定着ローラの回転方向と交差する方向に定着ローラと加熱部材が相対的に摺動する構成でない場合、定着ローラと加熱部材の間に異物が挟まると、定着ローラの表面に深い傷が生じてしまうことがある。定着ローラの傷は、定着時に記録材上のトナー像に転写される。文書やハーフトーンなどの低印字率画像では定着ローラの傷がトナー画像に縦筋として現れにくいが、ベタ画像や写真などの高印字率画像では定着ローラの傷がトナー画像に縦筋として現れやすい。また、トナー画像に生じる縦筋は、光沢を必要とする光沢紙などに画像を形成する場合に特に見えやすい。なぜなら、画像の光沢度を上げるには、トナーを充分に溶融させて定着ローラの表面形状をトナー画像の表面に充分転写させる必要があるためである。
【0034】
定着ローラの傷の深さは、深いほど縦筋として見えやすく、表面粗さ(十点平均粗さRz)が3μm以上になると、光沢を必要とする光沢紙などにおいて高印字率画像を定着させた場合に縦筋として見えてしまう。更に、表面粗さ(十点平均粗さRz)が6μm以上になると、光沢紙では縦筋が目立つようになってしまい、光沢を必要としない普通紙においても画像の印字率によっては縦筋が見えてしまう場合がある。そのため、定着ローラの表面粗さとしては、十点平均粗さRzで3μm以下に抑える必要がある。十点平均粗さRzが3μm以下の深さの傷では、光沢を必要とする光沢紙などにおいて高印字率画像を定着させても、縦筋として人の目により判別しにくくなる。
【0035】
定着ローラの回転方向と交差する方向に、定着ローラと加熱部材が相対的に摺動する本実施例の構成と、定着ローラと加熱部材が定着ローラ回転方向と交差する方向へ相対移動しない比較例の構成において、印字耐久試験を行い比較した。印字耐久試験は、印字率5%の画像を複数枚の記録材に連続印字し、連続1万枚までは1000枚毎に、連続1万枚以降は1万枚毎に、定着ローラの傷の確認を行った。定着ローラの傷の確認は、表面粗さ計による傷の深さの測定と、普通紙と光沢紙によるベタ画像上の縦筋の有無で確認した。
【0036】
図4に、印字耐久試験による定着ローラの傷の深さの結果を示す。なお、横軸のスケールは、数値10が10000枚を示している。比較例の構成では、4000枚印字の時点で定着ローラの傷の深さ(十点平均粗さRz)が3μm以上になり、光沢紙のベタ画像上に縦筋が発生した。更に3万枚印字の時点で定着ローラの傷の深さ(十点平均粗さRz)が6μm以上になってしまい、普通紙にベタ画像を形成した場合においても画像上に縦筋が発生してしまった。
【0037】
一方、本実施例の構成では、定着ローラ110の回転時に加熱部材112が定着ローラ110の回転方向と直角方向に両者が接触した状態でスライドするため、本実施例の定着器の寿命である10万枚まで、定着ローラの傷の深さ(十点平均粗さRz)を3μm以下に抑えることができた。そのため、縦筋が見えやすい光沢紙に画像形成し定着しても、定着器の寿命までベタ画像上に縦筋状の画像不良が発生することがなかった。
【0038】
また、小サイズの紙を多量に通紙した場合など、紙コバ(エッジ)で定着ローラ110に回転方向の傷が発生してしまうことがあるが、本実施例の構成により、小サイズの紙を多量に通紙した場合などにおいても、小サイズ紙のエッジが要因の縦筋が画像上に現れるのを抑えることができる。
【0039】
なお、以上説明した構成においては、加熱部材112全体をスライドさせる構成であるが、加熱ヒータ113やヒータホルダ119は固定したまま、摺動層120と定着ローラ110を定着ローラ110の回転方向に対して交差する方向に相対的に摺動させても良い。例えば、加熱ヒータ113及びヒータホルダ119を固定し、摺動層120のみを軸方向にスライドさせた構成でも良い。
【0040】
図5に一例として、摺動層120のみをスライドさせる構成を示す。シート状の摺動層120を巻き取る巻き取りローラ128が設けられており、定着ローラ110のR2方向への回転時に、巻き取りローラ128はR5方向に回転し、摺動層120を巻き取る構成である。この構成においても、加熱部材112の摺動層120が矢印A5方向にスライドするため、図2の構成と同様に、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向R2と交差する斜め方向へ動く。そのため、画像上に縦筋として現れてしまう深さの傷が定着ローラ110表面に発生するのを抑えることができる。
【0041】
また、本実施例の構成では、定着ローラ110を固定し、加熱部材112をスライドさせた構成であるが、加熱部材112を固定し、定着ローラ110の回転方向とは交差する交差方向へ定着ローラ110をスライドさせても良い。もしくは、加熱部材112と定着ローラ110の両方を交差方向へ相対的にスライドさせるような構成でも良い。
【0042】
加熱部材112や定着ローラ110のスライド方向も軸方向に限らない。定着ローラ110の回転方向に対して交差する方向へ加熱部材112と定着ローラ110が摺動すれば、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向とは異なる斜め方向へ動くため同様の作用効果が得られる。
【0043】
なお、本実施例のように、加熱部材が定着ローラ(回転体)を加熱しつつ定着ローラが回転している時に、定着ローラと加熱部材のうち少なくとも一方が、定着ローラの回転方向に対して交差する交差方向へ定着ローラと加熱部材が接触した状態で移動可能な構成にすれば、定着ローラの表面を部分的に回転体の回転方向に対して交差する交差方向に引き伸ばし鱗片状の表面に変形させる機能を有し、定着ローラ表面に発生する傷を修復する効果もある。このことに関しては次の実施例2以降で説明する。
【0044】
(実施例2)
本発明の実施例2を以下に説明する。実施例1と同じ部材は実施例1と同一の符号及び番号で示し、説明を省略する。
【0045】
本実施例では、加熱部材112と定着ローラ110の少なくとも一方が、両者が接触した状態で定着ローラ110の回転方向に対して交差する交差方向へ往復移動する。以下に詳しく説明する。
【0046】
図6は、本実施例における接触式の外部加熱定着装置の正面図である。実施例1同様、定着ローラ110は軸方向には固定されており、定着ローラ110の矢印R2方向の回転によって加圧ローラ111は矢印R3方向に従動回転する。
【0047】
加熱部材112は定着ローラの回転軸方向と平行な方向にスライド可能であり、片側から加圧バネ130により矢印A7方向へ49Nの力で加圧され矢印A6方向へスライドする。一方、加熱部材112の加圧バネ130が設置された側とは反対側にはカム129が設けられており、カム軸133を中心に矢印R6方向に不図示の回転手段により回転するようになっている。
【0048】
図6に対してカム129が180°回転した様子を図7に示す。カム129が図6に示す位相から180°回転すると、加熱部材112はカム129に押され矢印A8方向にスライドする。更にカム129が矢印R6方向に180°回転すると、加熱部材112は加圧バネ130により矢印A7方向に加圧されているため図6の位置に戻る。すなわち、カム129が矢印R6方向に回転している間、加熱部材112が軸方向(定着ローラ110の回転方向に対して交差する交差方向)へ往復移動する。カム129は、定着ローラ110の回転時に矢印R6方向へ回転し加熱部材112を往復移動させる。そのため、実施例1同様に、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向R2とは異なる斜め方向へ動き、定着ローラ110表面に発生する傷の深さを浅く抑える効果がある。
【0049】
また、実施例1と同様に、定着ローラ110表面に発生した傷を修復する効果も得られる。カム129による加熱部材112のスライド量W1を1mm程度とすると定着ローラ表面の傷を浅くしたり、傷を修復する効果が得られるが、スライド量W1は大きい方がその効果は大きく、本実施例ではスライド量W1を4mmとした。また、加熱部材112の往復の周期は、定着ローラ110の回転周期と重なってしまうと接触加熱部N1において定着ローラ表面の同じ個所を摺擦しまうため、少なくとも加熱部材112一往復の周期と定着ローラ110の一周期とは同期させないほうが好ましい。本実施例では、定着ローラ110の一周期が約1.05秒であるのに対して、加熱部材112のスライドスピードを一往復あたり6秒とした。
【0050】
本実施例の構成では、加熱部材112を軸方向にスライドさせるのに往復移動を利用しているため、スライドさせる部材の長手方向長さによらず半永久的にスライドを行なうことができる。
【0051】
以上説明した構成により、実施例1と同様の印字耐久試験を行なった。加熱部材112の軸方向の往復移動により、実施例1の構成と同様、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向とは異なる斜め方向へ動く。そのため、定着ローラ110表面の傷の深さ(十点平均粗さRz)を3μm以下に抑えることができ、実施例1と同様に、紙種及び画像印字率を問わず、定着器の寿命まで縦筋等の画像不良の発生を抑えることができた。
【0052】
なお、本実施例は加熱部材112全体を往復移動させた構成であるが、加熱部材の一部である摺動層120のみを軸方向に往復移動させる構成でも良い。図8に、一例として摺動層120のみを往復移動させる構成を示す。シート状の摺動層120を往復移動させる巻き取りローラ131、132が加熱部材112の両端部に設けられており、定着ローラ110のR2方向への回転時に巻き取りローラ131、132は矢印R7方向に往復回転し、摺動層120を往復移動させる構成である。この構成においても、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向とは異なる斜め方向へ動くため上述と同様の作用効果が得られる。
【0053】
また、本実施例の構成では、定着ローラ110を固定し加熱部材112を軸方向へ往復移動させた構成であるが、加熱部材112を固定し定着ローラ110を軸方向へ往復移動させる、もしくは加熱部材112と定着ローラ110の両方を相対的に往復移動させるような構成でも良い。図9に、一例として加熱部材112を固定し定着ローラ110を軸方向へ往復移動させる構成の正面図を示す。図6、図7に示す加熱部材112を往復移動させる構成と同様に、カム129と加圧バネ130により定着ローラ110を往復移動させる構成である。また、加熱部材112や定着ローラ110を往復移動させる構成はこれらに限らず、実施例1のようにラックアンドギア(図2)を用いてギア126を往復回転させる構成などでも良い。加熱部材112や定着ローラ110を往復移動させる方向も、定着ローラの軸方向と平行な方向に限らず、定着ローラ110の回転方向と異なる方向へ加熱部材112と定着ローラ110が相対的に摺動すれば、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して、定着ローラ110の回転方向とは異なる斜め方向へ動くため上述と同様の作用効果が得られる。
【0054】
次に、定着ローラ110が回転し且つ加熱部材112と定着ローラ110が接触した状態で交差方向へ相対移動している時に、定着ローラ110が加熱部材112との摺動によって受ける摩擦力を図10を用いて説明する。なお、以下の説明では、加熱部材112を固定し定着ローラ110を軸方向に往復移動させる構成を前提とする。
【0055】
定着ローラ110は回転しているため、加熱部材112との接触加熱部N1で定着ローラ表面は回転方向とは逆向きの摩擦力Frを受ける。さらに、定着ローラが軸方向に往復運動しているため、定着ローラ表面はその移動方向とは逆向きの摩擦力を受ける。図10では定着ローラ110がA6方向に移動中の場合に受ける摩擦力Fsを示した。この2つの摩擦力の合力として定着ローラ表面は力F1を受けることになる。このように定着ローラ110が往復運動をしているため、力F1は回転方向以外の成分を持ち、また力の大きさも時間とともに周期的に変化する。
【0056】
定着ローラと加熱部材が相対的に交差方向へスライドしない構成の場合、接触加熱部N1に紙粉などの異物が挟まると、異物は接触加熱部N1内にひっかかり留まりやすい傾向にあった。したがって異物が接触加熱部N1に留まってしまうと、異物が定着ローラ表面の同じ箇所を削り、定着ローラの回転方向に深い傷が発生してしまうことになる。
【0057】
これに対し定着ローラと加熱部材が相対的にスライドする構成を用いると、接触加熱部N1で異物が受ける摩擦力は、前述のように定着ローラの回転方向以外にも発生するため、仮に接触加熱部N1に異物がはさまっても異物が接触加熱部N1をすり抜けやすい性質が生じる。
【0058】
そのため、異物が定着ローラ表面の同じ箇所を傷つけることはなくなり、定着ローラ表面上に深い傷が発生するのを抑えることができる。
【0059】
また、上述の摩擦力F1と加熱部材112からの加熱により、定着ローラ110の表面の離型層118が部分的に定着ローラの回転方向に対して交差する方向に引き伸ばされ鱗片状の表面に変形する。図11(1)は定着装置製造時に定着装置に装着する前の新品の定着ローラの表面の写真、図11(2)は実施例2の方法で定着ローラ110を10分間往復運動させた後の定着ローラの表面の写真である。それぞれ偏光顕微鏡で観察した結果である。図11(2)のように、鱗片状に引き伸ばされた離型層118が、定着ローラ110の表面全体に発生する。
【0060】
次に、定着ローラ表面に発生する傷が本実施例の構成によって修復できる仕組みを説明する。
【0061】
上記のように、離型層のうち鱗片状に引き伸ばされ変形した部分が定着ローラ110表面の傷を覆うことで、定着後の画像上に縦筋が現れにくくなる。この鱗片状に引き伸ばされ変形した部分が定着ローラ110表面の傷全てを覆いつくすことができなくても、傷の上を所々覆うことができていれば、定着ローラの傷による画像不良が定着後の画像上に現れるのを大幅に抑えられることが判明した。
【0062】
ここで図12及び図13は、定着ローラ110表面の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したものである。図12は新品の定着ローラ110表層を、図13は発熱している状態の加熱部材112に対して定着ローラ110を往復運動させて摺擦させた後の表層を、それぞれ観察した写真及び模式図である。
【0063】
図12のように新品の定着ローラ表層(離型層)が平滑であるのに対し、図13のように摺擦後の定着ローラ表層(離型層)には部分的に鱗片状に引き伸ばされ変形した部分があり、この変形した部分が傷の上を覆っている様子がわかる。
【0064】
上述のように、離型層118を部分的に燐片状に引き伸ばし変形させるには、定着ローラ110表面(離型層)を軟化させ且つ引き伸ばすための摩擦力と温度が必要である。
【0065】
まず、定着ローラ110表面に掛かる摩擦力は、前述したように定着ローラ110と加熱部材112の摺動によって発生する摩擦力F1がある。この摩擦力F1を得るために、本実施例では接触加熱部N1の面圧ピーク値を1.2×105N/m2にしている。効果的に離型層118を燐片状に引き伸ばす摩擦力F1を得るために、接触加熱部N1の面圧ピーク値は9.8×104N/m2以上であることが好ましい。
【0066】
次に、離型層118を燐片状に引き伸ばす効果を得るための温度としては、離型層118のガラス転移点(Tg)以上の温度が必要である。本実施例において用いた離型層の材質であるPFAのガラス転移点が約118℃であり、本実施例の定着装置の定着処理中の加熱部材設定温度である180℃であれば、定着処理中に離型層118を効果的に鱗片状に引き伸ばすことができる。
【0067】
ところで、定着ローラ110と加熱部材112が両者ともにスライドしないように固定され、定着ローラ110と加熱部材112が回転方向のみ摺動する場合においても、上述した摩擦力と温度条件を満たしているため、離型層118は部分的に燐片状に引き伸ばされ変形する。しかしながら、本実施例のような傷を修復する効果は得られない。その理由を以下に説明する。
【0068】
前述したように、定着ローラ110と加熱部材112が両者ともにスライドしないように固定された構成では、定着ローラ110表面にかかる摩擦力Frは回転方向のみである。この場合、離型層118は回転方向に燐片状に引き伸ばされるため、鱗片状に引き伸ばされた部分が回転方向に深く発生した傷の上に覆い被さることがほとんどない。したがって傷を修復することができないのである。
【0069】
図14(1)及び図14(2)は、定着ローラ110と加熱部材112が両者共に軸方向へスライドしないように固定した比較例の構成と、定着ローラ110と加熱部材112が軸方向へ相対移動する実施例の構成、それぞれの構成における定着ローラ回転後の表面を比較したものである。図中の写真は偏光顕微鏡観察画像であり、その隣に表層の状態をわかりやすく示した模式図を示してある。なお、比較例及び実施例共に、定着ローラ110の表面温度(≒加熱部材の目標温度)が180℃を維持するように制御された状態で10分間定着装置を駆動させた後の表面状態を示している。
【0070】
図14(1)に示したように、比較例の場合、離型層118が傷の方向と同じ方向に沿うように燐片状に伸ばされているため、鱗片状の部分が傷を覆っていない。また、傷自体も大きく深くなっている。
【0071】
一方、本実施例の場合、定着ローラ110が軸方向に往復運動し加熱部材と定着ローラが定着ローラ回転方向に対して交差する方向へ相対移動するため、定着ローラ110の表面(離型層)が受ける摩擦力は回転方向以外の成分を持っている。したがって、図14(2)に示すように、離型層118は回転方向以外のランダムな方向に鱗片状に引き伸ばされるため、鱗片状の部分が回転方向に発生した傷の上を覆い、傷を修復していることがわかる。また、図14(1)に比べて傷自体も小さく浅いものになっている。
【0072】
また、定着ローラ110表面の離型層118が燐片状に変形すると、仮に接触加熱部N1に異物が留まり定着ローラ表面を削っても、離型層の燐片状に変形した部分によって傷が断続的に途切れるため、傷が記録材上の画像に転写されにくくなるという効果も得ることができる。
【0073】
本実施例のように定着ローラ110を往復移動させる構成においても、定着ローラ110上の離型層118を回転方向以外のランダムな方向(回転方向に対して交差する交差方向)に鱗片状に引き伸ばす機能を備えているため、上述の傷発生抑制効果と傷修復効果により、定着器の寿命である10万枚まで定着ローラの表面粗さ(十点平均粗さRz)を3μm以下に抑えることができる。そのため、定着ローラの回転方向の傷が要因の縦筋が記録材上の画像に現れやすい光沢紙にベタ画像を形成する場合においても、画像不良が発生するのを抑えることができる。
【0074】
また本実施例の構成により定着ローラ表層に鱗片状の凹凸が形成されても、この鱗片状の部分により定着後の画像の光沢度が低下するなどの弊害は起きにくい。なぜなら、離型層は鱗片状に変形する際に加熱と摩擦力によって十分に引き伸ばされるので、鱗片状の部分が定着後の画像の光沢度低下を招くような極端な段差にならないためである。
【0075】
なお、定着ローラ110や加熱部材112を往復運動させる方向は軸方向に限らない。例えば加熱部材112の往復移動方向が定着ローラ110の回転軸に対して非平行となるようにずらした構成にしても良い。図15は加熱部材112の往復移動方向を定着ローラ110の回転軸方向に対して角度Yずらせた構成を装置の上面から見た図である。この構成によっても、定着ローラ110の回転によって発生する摩擦力Frと、加熱部材112の往復運動による摩擦力Fsが生ずる(図では加熱部材112がA8方向に移動している場合を示す)。摩擦力FrとFsの合力F1は、定着ローラ110の回転方向以外の方向に成分を持つため、前述したように傷の発生を抑制し傷が発生しても修復することができる。
【0076】
定着ローラ110の回転軸と加熱部材112の長手方向とのずらし角度Yがあまり大きくなると、定着ローラ110の表面にその軸方向(母線方向)に亘って均一に加熱部材を当接させるのが難しくなるため、角度Yは0°≦Y≦10°の範囲で設定するのが好ましい。本実施例ではY=5°とした。
【0077】
本実施例では摺動層120にフッ素樹脂であるPTFEのシートを用いたが、ヒータの熱を効率良く定着ローラ110に伝達するために、アルミ(Al)やステンレス(SUS)等の金属シートを用いてもよい。
【0078】
以上説明したように、定着ローラと加熱部材のうち少なくとも一方が定着ローラの回転方向に対して交差する交差方向へ定着ローラと加熱部材が接触した状態で往復移動可能な移動機構を設ければ、接触加熱部内の異物が定着ローラの軸方向の同一個所を傷つけるのを抑えることができる。また、定着ローラと加熱部材のうち少なくとも一方が、加熱部材が定着ローラを加熱している時に交差方向へ往復移動する構成にすれば、定着ローラ表面の傷を修復する効果が得られる。画像を担持する記録材を加熱処理(定着処理)している時にこのような往復移動を行うようにすれば、傷を修復するための時間を特別に設ける必要もないので特に好ましい。このように、定着装置に、定着ローラの表面を部分的に定着ローラの回転方向に対して交差する交差方向に引き伸ばし鱗片状の表面に変形させる機能を持たせれば、定着ローラ表面は交差方向に摩擦力を受けるため、鱗片状の離型層が形成され傷修復効果が得られる。
【0079】
(実施例3)
本発明の実施例3を以下に説明する。本実施例において、未定着トナー像を形成する画像形成装置については実施例1と同じく一般的であり説明を省略する。また、接触式の外部加熱定着装置についても、実施例1と同じ部材は実施例1と同一の符号で示し説明を省略する。本実施例では、接触加熱部N1において、定着ローラ110表面が加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向とは異なる方向(交差方向)へ動くようにするために、加熱部材112を定着ローラ110の回転方向とは異なる方向へ回転させている。以下に詳しく説明する。
【0080】
図16は、本実施例における接触式の外部加熱定着装置の正面図である。実施例1同様、定着ローラ110は、軸方向には動かないように固定されており、定着ローラ110の矢印R2方向の回転により加圧ローラ111は矢印R3方向に従動回転する。
【0081】
加熱部材112は、熱源である加熱ヒータ113がヒータホルダ119に保持され、定着ローラ110と接触する部分にはベルト状の摺動層137が設けられた構成となっている。摺動層137は駆動ローラ135とテンションローラ134に架け渡され、テンションバネ138により9.8Nの力で張られている。
【0082】
図16中矢印A10方向から見た定着装置の側面図を図17に示す。摺動層137の幅W2は15mmであり、ヒータホルダ119と幅6mmの加熱ヒータ113は、摺動層137に覆われている。加熱部材112の加圧は、支点139を支点にして回動する2枚の加圧板136が、摺動層137のベルト間を通り、加圧バネ114の力でヒータホルダ119を押圧することで行なわれる。加圧バネ114によりヒータホルダ119が矢印A1方向に押圧される力は、98Nである。定着ローラ110の回転時に駆動ローラ135が図16中矢印R8方向へ回転し、摺動層137は矢印A9方向に回転移動するようになっている。そのため、実施例1同様に、定着ローラ110表面は、加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向R2とは異なる方向へ動き、画像上に縦筋として現れてしまう深さの傷が定着ローラ110表面に発生するのを抑えることができる。また、実施例1と同様に、定着ローラ110表面に発生した傷を修復する効果も得られる。本実施例の構成では、加熱部材112を軸方向に移動させるのに、回転運動を利用しているため、移動させる部材の長手方向長さによらず、半永久的に、且つ滑らかに加熱部材112を移動させることができる。
【0083】
以上説明した構成により、実施例1と同様の印字耐久試験を行なった。加熱部材112の軸方向の回転運動により、実施例1同様、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向とは異なる方向へ動くため、定着ローラ110表面の傷の深さをRzで3μm以下に抑えることができ、実施例1と同様に、紙種及び画像印字率を問わず、定着器の寿命まで縦筋等の画像不良の発生を抑えることができた。
【0084】
(実施例4)
本発明の実施例4を以下に説明する。本実施例において、未定着トナー像を形成する画像形成装置については実施例1と同じく一般的であり説明を省略する。また、接触式の外部加熱定着装置についても、実施例1と同じ部材は実施例1と同一の符号で示し説明を省略する。
【0085】
実施例3で説明した構成においては、加熱部材112を定着ローラの軸方向に回転させたが、加熱部材112の回転方向は軸方向に限らず、定着ローラ110の回転方向と異なる方向に回転させた構成であれば上述と同様の作用効果が得られる。例えば、図18に示すように、加熱部材112としてハロゲンランプを内包した熱ローラなどの回転体を用いた接触式の外部加熱装置において、定着ローラ110の回転軸に対して加熱部材112の回転軸をずらした構成にしても良い。
【0086】
図18中矢印A1方向から見た図を図19に示す。点線で示した加熱部材112の回転軸Z1は、定着ローラ110の回転軸Z2に対してずれている。加熱部材112から定着ローラ110表面を見ると、定着ローラ110表面は、定着ローラ110のR2方向への回転による動きVrと、加熱部材112のR9方向への回転による動きVhとの合成方向Vl=Vr+Vhへ動くことになる。定着ローラ110表面は、加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向R2とは異なる方向の斜め方向Vlへ常に動くことになる。加熱部材112の回転軸Z1と定着ローラ110の回転軸Z2のずらし角度Xは、大きいほどV1方向への移動量が大きくなり上述の定着ローラ傷抑制と傷修復効果は高くなるが、大きすぎると加熱部材112と定着ローラ110とが形成する接触加熱部が定着ローラ軸方向で不均一になる。そのため、角度Xは1°≦X≦15°の範囲内に設定するのが好ましく、本実施例ではX=5°とした。
【0087】
本実施例の外部加熱装置の場合、加熱部材112の表面(加熱ローラの表面)と定着ローラ110の表面の移動方向が同じであるため、そもそも定着ローラ110に回転方向の傷は発生しにくい。しかしながら、小サイズの紙を多量に通紙した場合など、紙コバで定着ローラ110に回転方向の傷が発生してしまうことがある。本実施例の構成では、定着ローラ110表面は、加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向R2とは異なる方向Vlへ常に動くため、実施例1同様、定着ローラ110表面の傷抑制効果と傷修復効果がある。そのため、小サイズの紙を多量に通紙した場合などにおいても、画像上に縦筋として現れてしまう深さの傷が定着ローラに発生するのを抑えることができる。また、万一、画像上に縦筋として現れてしまう深さの傷が定着ローラに発生した場合でも、本実施例の構成によって発生した傷を修復することが可能である。
【0088】
(実施例5)
本発明の実施例5を以下に説明する。本実施例において、未定着トナー像を形成する画像形成装置については上記実施例1と同じく一般的であり説明を省略する。また、接触式の外部加熱定着装置についても実施例1と同じ部材は実施例1と同一の符号で示し説明を省略する。本実施例では、画像を担持する記録材と接触する回転体として定着ベルト135を用いた。
【0089】
図20は、本実施例における接触式の外部加熱定着装置の概略断面図である。定着ローラ110は軸方向に移動しないように固定されており、矢印R2方向に回転する。記録材と接触する回転体である定着ベルト135は定着ローラ110とテンションローラ133に掛け渡されており、定着ローラ110の回転により矢印R9方向に従動回転する。定着ベルト135を介して定着ローラ110と定着ニップ部N2を形成する加圧ローラ111は、定着ベルト135の回転に伴い矢印R3方向に従動回転する。
【0090】
定着ベルト135を効率良く温めるために、定着ベルト135の表面には加熱部材112が接触している。定着ベルト135と加熱部材112の接触領域は接触加熱部N1となっている。加圧バネ137により加熱部材112を矢印A3方向に押圧する力は98Nに設定している。
【0091】
ここで、図21を参照して本実施例の定着装置で用いている定着ベルト135の層構成について説明する。定着ベルト135は、例えばポリイミド樹脂等の樹脂製の基層153の外側にプライマ層(接着層)を介して弾性層152が設けられており、この弾性層152の外側にフッ素樹脂の離型層151を設けた構成である。
【0092】
弾性層152にはシリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等の耐熱性と熱伝導率に優れたものが用いられる。本実施例では熱伝導率が0.25W/m・K以上0.29W/m・K以下のソリッド状のシリコーンゴムを使用した。離型層151の材質はパーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)である。
【0093】
未定着トナー像Tが転写された記録材Pが、不図示の搬送手段により定着ニップ部N2に搬送されると、定着ベルト135の表面の熱は未定着トナー像Tと記録材Pに移り、記録材P表面にトナー像Tが加熱定着される。
【0094】
本実施例のように画像を担持する記録材と接触する回転体としてベルト構造のものを用いた場合にも、その表面に加熱部材を接触させていると定着ベルト表面に傷が発生しやすい。
【0095】
そこで本実施例においては、定着ベルト表層を部分的に鱗片状に引き伸ばす手段を備えている。表層を鱗片状に引き伸ばす手段として、加熱部材112をテンションローラ133の軸方向に左右に往復運動させる構成を用いている。図22に本実施例の定着装置を上面から見た図を示す。加熱部材112が左右に往復運動する機構は実施例2と全く同じであるため、詳細な説明は省略する。カム129の回転と加圧バネ130により加熱部材112がテンションローラの軸方向に往復運動し、一方、不図示の制御部により定着ベルトは約180℃という高温を維持するように制御されているため、定着ベルト135の表層を鱗片状にランダムな方向に引き伸ばすことができる。
【0096】
上述のように定着ベルト135の離型層118を、定着ベルトの回転方向以外の方向に鱗片状に引き伸ばす手段により、定着ベルト135の表層には傷が入りにくく、傷が発生しても傷を修復可能となる。
【0097】
なお、本実施例では定着ローラ110を駆動源により駆動することで回転させ、テンションローラ136や加圧ローラ111を従動回転させたが、テンションローラ136や加圧ローラ111を駆動源で駆動し、その他のローラを従動回転させる構成でも良い。
【0098】
また本実施例では加熱部材112全体を往復運動させた構成であるが、加熱部材112のうち摺動層120のみテンションローラ回転方向とは異なる方向に摺動成分を持つように移動させる手段を用いてもよい。
【0099】
以上の実施例は画像形成装置に搭載する定着装置を例にして説明したが、本発明の像加熱装置は画像形成装置に搭載する定着装置に限るものではない。例えば、画像の光沢度を向上させるために定着装置によって定着された画像を再度加熱するため、オプションとして販売されるような光沢付与装置にも本発明の技術思想を適用できる。また、回転体表面に接触する加熱部材と回転体内部に配置する加熱部材(例えばハロゲンヒータ)の両方を有する構成の像加熱装置にも適用できる。本発明は、その用途や装置形態に拘わらず、画像を担持する記録材と接触する回転体と、回転体表面に接触し回転体を加熱する加熱部材と、回転体と共に画像を担持する記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、有する像加熱装置に適用できる。
【符号の説明】
【0100】
100 定着装置(像加熱装置)
110 定着ローラ(回転体)
111 加圧ローラ(バックアップ部材)
112 加熱部材
113 加熱ヒータ
115 温度検知素子
118 離型層
120 摺動層
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の複写機・レーザービームプリンタ等の画像形成装置に搭載される定着装置として用いれば好適な像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置に搭載する定着装置として、加熱部材を定着ローラの表面(外周面)側に配置し、定着ローラを外周面側から加熱する方式(以下、外部加熱定着方式と記す)が提案されている(特許文献1)。定着ローラの外周面のみを加熱することで、定着ローラ表面を所望の温度に立ち上げるまでの時間を短縮すると共に、消費電力を低減することが可能である。この外部加熱定着方式の定着装置としては、加熱部材を定着ローラ外周面に接触させる接触式と、熱源としてハロゲンヒータ等を用いて定着ローラの外周面を加熱する非接触式とに大別される。接触式の外部加熱定着装置は、セラミックヒータ等の熱源を直接定着ローラに接触させ熱を伝えるので非接触式に比べ熱の伝搬効率が高いというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−186327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接触式の外部加熱定着装置では加熱部材が定着ローラ表面と接触するので、定着ローラ表面に摺擦傷が付くことがある。加熱部材と定着ローラの間に紙紛などの異物が挟まった場合、加熱部材と定着ローラの間に挟まっている異物が定着ローラ表面の同じ個所を摺擦するので、定着ローラ表面に回転方向に沿った傷がついてしまう。トナー像を記録材に定着する時に定着ローラの表面形状が記録材上のトナー像に転写されるため、定着ローラの表面に付いた傷による縦筋等の画像不良が定着後のトナー像に現れることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するための本発明は、画像を担持する記録材と接触する回転体と、前記回転体の表面に接触し前記回転体を加熱する加熱部材と、前記回転体と共に画像を担持する記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有する像加熱装置において、前記回転体と前記加熱部材のうち少なくとも一方が、前記回転体の回転方向に対して交差する交差方向へ前記回転体と前記加熱部材が接触した状態で移動可能であることを特徴とする。
【0006】
また、本発明は、画像を担持する記録材と接触する回転体と、前記回転体の表面に接触し前記回転体を加熱する加熱部材と、前記回転体と共に画像を担持する記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有する像加熱装置において、前記回転体の表面を部分的に前記回転体の回転方向に対して交差する交差方向に引き伸ばし鱗片状の表面に変形させる機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転体と加熱部材のうち少なくとも一方が、回転体の回転方向に対して交差する交差方向へ回転体と加熱部材が接触した状態で移動可能であるので、回転体表面の傷の深さを浅く抑えることができ、回転体表面の傷に起因する画像への影響を抑えることができる。
【0008】
また、回転体の表面を部分的に回転体の回転方向に対して交差する方向に引き伸ばし鱗片状の表面に変形させる機能を有するので、回転体表面に傷が生じてもそれを修復でき、回転体表面の傷に起因する画像への影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の像加熱装置の断面図。
【図2】実施例1の像加熱装置の正面図。
【図3】実施例1の像加熱装置を上方から見た図。
【図4】実施例1の像加熱装置と比較例の像加熱装置の印字耐久試験による定着ローラ表面の傷の発生状況果を示す図。
【図5】実施例1の像加熱装置の変形例であり、加熱部材の一部である摺動層のみをスライドさせる構成の正面図。
【図6】実施例2の像加熱装置の正面図。
【図7】図6の像加熱装置の加熱部材の位置とは異なる位置に加熱部材をスライドさせた状態を示す正面図。
【図8】実施例2の像加熱装置の変形例であり、加熱部材の一部である摺動層のみをスライドさせる構成の正面図。
【図9】実施例2の像加熱装置の変形例であり、定着ローラをスライドさせる構成の正面図。
【図10】定着ローラがR2方向に回転し且つA6方向にスライドする場合に定着ローラ表面が受ける摩擦力を示した図。
【図11】(1)は定着装置製造時に定着装置に装着する前の新品の定着ローラの表面の偏光顕微鏡写真、(2)は定着ローラを10分間往復移動させた後の定着ローラの表面の偏光顕微鏡写真である。
【図12】新品の定着ローラ表面の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真とその模式図。
【図13】発熱している状態の加熱部材に対して定着ローラを往復移動させて摺擦させた後の定着ローラ表面の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真とその模式図。
【図14】(1)は定着ローラと加熱部材が両者共に軸方向へスライドしないように固定した比較例の構成で、定着ローラを回転させた後のローラ表面の偏光顕微鏡観察写真及びその模式図、(2)は定着ローラと加熱部材が軸方向へ相対移動する実施例の構成で、定着ローラを回転させた後のローラ表面の偏光顕微鏡観察写真及びその模式図。
【図15】加熱部材の往復移動方向を定着ローラの回転軸方向に対して角度Yずらせた構成で、定着ローラがR2方向に回転し且つA8方向にスライドする場合に定着ローラ表面が受ける摩擦力を示した図。
【図16】実施例3の像加熱装置の正面図。
【図17】実施例3の像加熱装置の断面図。
【図18】実施例4の像加熱装置の断面図。
【図19】実施例4の像加熱装置で定着ローラ表面が受ける摩擦力を示した図。
【図20】実施例5の像加熱装置の断面図。
【図21】実施例5の像加熱装置に用いられる定着ベルトの断面構成図。
【図22】実施例5の像加熱装置を上方から見た図。
【図23】本発明の像加熱装置を定着装置として搭載した画像形成装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施例1)
本発明の実施例1を以下に説明する。まず、本実施例の像加熱装置を定着装置として搭載した画像形成装置を説明し、次いで、本発明に係わる像加熱装置について詳しく説明する。
【0011】
[画像形成装置本体構成]
被加熱体である記録材上に未定着トナー像を形成する方法は一般的であり、図23に示す概略図を用いて説明する。
【0012】
本実施例における画像形成装置50は、記録材搬送ベルト9上に担持した一枚の記録材P上にイエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの4色のトナー像を順次転写することで、一つの画像を形成する方式のフルカラープリンタである。感光ドラム1の周囲には、回転方向(矢印R1方向)に沿って順に、帯電器2、画像情報に応じたレーザ光を感光ドラム1に照射する露光装置3、感光ドラム1に形成された静電潜像にトナーを付着させて現像する現像器5が配置されている。また、記録材搬送ベルト9の感光ドラム1が配置された側とは反対側には感光ドラム1から記録材Pへトナー像を転写させる電圧が印加される転写ローラ10が配置されている。番号16は感光ドラムクリーナである。
【0013】
画像形成を実行する場合、感光ドラム1は、その表面が帯電器2によって負極性に帯電される。負極性に帯電された感光ドラム1は、露光手段3から出射するレーザ光Lにより走査され表面に静電潜像が形成される(露光された部分は表面電位が上がる)。そして1色目のイエロートナーが入った現像器5によって、感光ドラム上の静電潜像部にトナーを付着させ、感光ドラム1上にトナー像を形成する。
【0014】
一方、記録材搬送ベルト9は、二つの支持軸(駆動ローラ12、テンションローラ14)に支持されており、図中矢印R4方向に回転する駆動ローラ12によって、矢印R3方向に回転する。記録材Pは、給紙ローラ4によって給紙されると、正極性のバイアスが印加された吸着ローラ6によって帯電され、記録材搬送ベルト9上に静電吸着し搬送される。記録材Pが転写ニップN1に搬送されると、記録材搬送ベルト9に従動回転する転写ローラ10に不図示の電源から正極性の転写バイアスが印加され、感光ドラム1上のイエロートナー像は、転写ニップ部N1において記録材P上に転写される。転写後の感光ドラム1は、弾性体ブレードを有する感光ドラムクリーナ16によってクリーニングされる。
【0015】
以上の帯電、露光、現像、転写、クリーニングの一連の画像形成プロセスを、2色目のマゼンタM30、3色目のシアンC30、4色目のブラックk30の各現像カートリッジについても順次行い、記録材搬送ベルト9上の記録材Pに4色のトナー像を重ね合わせる。4色のトナー像を担持した記録材Pは定着装置100に搬送されて記録材P上のトナー像は記録材Pに加熱定着され、その後プリンタの外に排出される。
【0016】
[定着装置(像加熱装置)]
次いで、本発明の特徴である定着装置100について以下に説明する。本実施例の定着装置100は、上述のように立ち上げ時間の短縮や低消費電力化を目的とした接触式の外部加熱定着装置である。上述のように接触式の外部加熱定着装置では、加熱部材と定着ローラの接触部に紙紛などの異物が挟まった場合、定着ローラの回転により異物が定着ローラ表面の同じ個所を摺擦するため、定着ローラの回転方向に沿った傷が定着ローラ表面に付くことがある。本実施例では、定着ローラの回転方向とは異なる方向(交差方向)に加熱部材と定着ローラを相対的に摺動させることで、定着ローラの回転方向の傷を抑えることができる。以下に詳しく説明する。
【0017】
図1に本実施例における定着装置の概略断面図を示す。定着ローラ(回転体)110の表面(外周面)には定着ローラ110を加熱する加熱部材112が接触しており、接触加熱部N1を形成している。また、加圧ローラ(バックアップ部材)111が定着ローラ110に接触しており定着ニップ部N2を形成している。トナー像Tを担持する記録材Pは定着ニップ部N2で挟持搬送されて加熱定着される。
【0018】
定着ローラ110は外径φ20mmであり、外径φ12mmの鉄製の芯金117の外側にシリコーンゴムを発泡した厚さ4mmの弾性層116(発泡ゴム層)が形成されている。定着ローラ110は、熱容量が大きく且つ熱伝導率が大きいと、外周面から受ける熱が定着ローラ110内部へ吸収され易く、表面温度が上昇しにくくなる。すなわち、弾性層116はできるだけ低熱容量で熱伝導率が低く、断熱効果の高い材質の方が、定着ローラ110表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。上記シリコーンゴムを発泡した発泡ゴムの熱伝導率は0.11〜0.16W/(m・K)であり、0.25〜0.29W/(m・K)程度のソリッドゴムよりも熱伝導率が低い。また、熱容量に関係する比重は、ソリッドゴムが約1.05〜1.30であるのに対して、発泡ゴムが約0.75〜0.85であり、低熱容量でもある。従って、弾性層として発泡ゴムを用いれば定着ローラ110の表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。
【0019】
定着ローラ110の外径は小さい方が熱容量を抑えられるが、小さ過ぎると接触加熱部N1の定着ローラ回転方向の幅が狭くなってしまうので適度な大きさが必要である。このことを考慮した本実施例の定着ローラ110の外径はφ20mmである。弾性層116の肉厚に関しても、薄過ぎれば金属製の芯金117に熱が逃げ易いので適度な厚みが必要である。このことを考慮した本実施例の定着ローラの弾性層116の厚さは4mmである。
【0020】
弾性層116の上には、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)からなる離型層118が形成されている。離型層118は弾性層116にチューブを被覆させたもの、弾性層116表面に塗料をコートしたもの、いずれであっても良いが、本実施例では耐久性が優れるチューブを使用した。離型層118の材質としては、PFAの他に、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂(FEP)等のフッ素樹脂や、離型性の良いフッ素ゴムやシリコーンゴム等を用いても良い。
【0021】
定着ローラ110の表面硬度は、低ければ軽圧でも接触加熱部N1の幅が得られるが、低すぎると耐久性が悪化するため、本実施例の定着ローラ110の表面硬度は、Asker−C硬度(4.9N荷重)で、40〜45°とした。定着ローラ110は、不図示の駆動源から動力を受けて図中矢印R2方向に表面移動速度60mm/secで回転するようになっている。
【0022】
加圧ローラ111は、定着ローラ110から熱を奪いにくいように、低熱容量で低熱伝導率のものが好ましい。本実施例の加圧ローラ111は定着ローラ110と同様の構成のものを用いた。加圧ローラ111の外径はφ20mmであり、φ12mmの鉄製の芯金121の外側に厚さ4mmの発泡ゴム弾性層122が形成され、最表層にはPFAからなる離型層123が設けられている。加圧ローラ111は、加圧ローラ加圧バネ124によって軸受け125を介して図中矢印A2方向に147Nの力で加圧されている。これにより定着ローラ110との間に幅7mmの定着ニップ部N2が形成されている。加圧ローラ111は定着ローラ110から動力を受けて矢印R3方向へ従動回転する。
【0023】
定着ローラ110の離型層118に接触する本実施例の加熱部材112は、熱源である加熱ヒータ113と、加熱ヒータ113を保持する耐熱樹脂製のヒータホルダ119と、加熱ヒータ113の定着ローラ110側の面に設けられており定着ローラ110と接触する摺動層120を有する。
【0024】
加熱部材112は、加圧バネ114によって図中矢印A1方向に98Nの力で加圧されている。これにより、定着ローラ回転方向の幅が5.5mmの接触加熱部N1が形成されている。加熱ヒータ113は、定着ローラ回転方向の幅6mm、厚さ1mmのセラミック基板(本実施例の基板の材質はアルミナ)と、セラミック基板上にスクリーン印刷した厚み10μmのAg/Pd(銀パラジウム)の発熱抵抗層と、発熱抵抗層を覆う保護層としての厚み50μmのガラス層と、を有する。
【0025】
加熱ヒータ113のガラス面を定着ローラ110表面に直接接触させて定着ローラ110表面を加熱しても良いが、本実施例では、加熱ヒータ113の表面に離型性と摺動性に優れた摺動層120を設けた。この摺動層120は、定着ローラ110の表面にオフセットしたトナーが加熱部材112へ付着するのを抑えると共に、定着ローラ110との摺動による摩擦力を低減させる。摺動層120の材質としては、トナーとの離型性に優れたPFAや、摺動性に優れたPTFE等のフッ素樹脂を用いると良い。摺動層120は、厚すぎると加熱ヒータ113の熱が定着ローラ110に伝わりにくくなり、薄すぎると耐久性が不足するため、厚さは1〜100μmが好ましい。また摺動層120は、加熱ヒータ113との接触熱抵抗を少なくするため加熱ヒータ113のガラス層に直接コートしても良く、あるいは耐久性と表面性が良好なシート状のものを加熱ヒータ113と定着ローラ110の間に設置する構成でも良い。シート状のものを用いた場合、加熱ヒータ113の定着ローラ回転方向上流側エッジ及び下流側エッジ部を覆うように設置できるため、加熱ヒータ113のエッジから定着ローラ110を保護できる利点がある。本実施形態においては、摺動層120として厚さ50μmのPFAシートを用い、加熱ヒータ113のエッジを覆うように設置した。
【0026】
加熱ヒータ113の背面には、発熱抵抗層の発熱に応じて昇温したセラミック基板の裏の温度を検知する温度検知素子115が配置されている。この温度検知素子115の信号に応じて、セラミック基板長手方向(定着ローラの回転方向に対して直交する方向)端部にある不図示の電極部から発熱抵抗層に供給する電力を適切に制御することで、加熱ヒータ113の温度を調整している。本実施例では、温度検知素子115の検知温度が目標温度を維持するように発熱抵抗層への通電を制御している。そして、加熱ヒータ113が発する熱は、接触加熱部N1を介して定着ローラ110の表面に伝わる。定着処理中の目標温度は180℃である。
【0027】
なお、本実施例の定着装置の熱源は定着ローラ110の離型層118に接触する加熱部材112だけであり、定着ローラ110の内部に熱源はない。また、加熱ヒータ113が発する熱を定着ローラ110へ効率よく伝えるためヒータホルダ119の材質は断熱効果が高いものが好ましい。
【0028】
未定着トナー像Tが転写された記録材Pが、不図示の搬送手段により定着ニップ部N2に搬送されると、定着ローラ110の表面の熱は未定着トナー像Tと記録材Pに移り、記録材P表面にトナー像Tが加熱定着されるようになっている。
【0029】
次に、加熱部材112と定着ローラ110を定着ローラ回転方向に対して交差する方向へ相対的に摺動させる構成、すなわち回転体と加熱部材のうち少なくとも一方が回転体の回転方向に対して交差する交差方向へ回転体と加熱部材が接触した状態で移動可能な構成(移動機構)について説明する。
【0030】
図1中矢印A3方向から見た正面図を図2に示す。加熱部材112の長手方向端部には、ラック127が設けられており、不図示の駆動手段により(ピニオン)ギア126を図中矢印R4方向に回転させることで、加熱部材112は図中矢印A4方向(定着ローラの軸方向)にスライドするようになっている。加熱部材112のA4方向へのスライドは、定着ローラ110の回転、停止にかかわらず、常に行なわれても良いが、定着ローラ110の停止時に行なわれると、定着ローラ110表面に軸方向と平行な傷がついてしまう可能性がある。本実施例では、定着ローラ110が回転している時だけ加熱部材112をスライドさせるようにした。本実施例の定着装置は、定着ローラ110を軸方向(長手方向)へ動かす構造は有していない。したがって、加熱部材112が軸方向へスライドする時、定着ローラ110は軸方向には動かず固定されている。
【0031】
図3に、図2中矢印A1方向からみた図を示す。点線で示した加熱部材112は、定着ローラ110が矢印R2方向に回転する時に矢印A5方向にスライドする。そのため、図3のように加熱部材112側の固定点から定着ローラ110表面を見ると、定着ローラ110表面は、定着ローラ110のR2方向への回転による移動(ベクトルVr)と加熱部材112のA5方向へのスライドによる移動(ベクトルVh)との合成方向Vl(=Vr+Vh)へ移動することになる。
【0032】
定着ローラ110表面は、加熱部材112に対して、定着ローラ110の回転方向R2と交差する方向である斜め方向Vlへ常に動くため、接触加熱部N1の中に紙紛などの異物が挟まっても、異物が定着ローラ表面の同じ個所を摺擦することがない。そのため、定着ローラ110表面の傷が画像上に縦筋として現れてしまう程の深さや太さとなるのを抑えられる。
【0033】
定着ローラの回転方向と交差する方向に定着ローラと加熱部材が相対的に摺動する構成でない場合、定着ローラと加熱部材の間に異物が挟まると、定着ローラの表面に深い傷が生じてしまうことがある。定着ローラの傷は、定着時に記録材上のトナー像に転写される。文書やハーフトーンなどの低印字率画像では定着ローラの傷がトナー画像に縦筋として現れにくいが、ベタ画像や写真などの高印字率画像では定着ローラの傷がトナー画像に縦筋として現れやすい。また、トナー画像に生じる縦筋は、光沢を必要とする光沢紙などに画像を形成する場合に特に見えやすい。なぜなら、画像の光沢度を上げるには、トナーを充分に溶融させて定着ローラの表面形状をトナー画像の表面に充分転写させる必要があるためである。
【0034】
定着ローラの傷の深さは、深いほど縦筋として見えやすく、表面粗さ(十点平均粗さRz)が3μm以上になると、光沢を必要とする光沢紙などにおいて高印字率画像を定着させた場合に縦筋として見えてしまう。更に、表面粗さ(十点平均粗さRz)が6μm以上になると、光沢紙では縦筋が目立つようになってしまい、光沢を必要としない普通紙においても画像の印字率によっては縦筋が見えてしまう場合がある。そのため、定着ローラの表面粗さとしては、十点平均粗さRzで3μm以下に抑える必要がある。十点平均粗さRzが3μm以下の深さの傷では、光沢を必要とする光沢紙などにおいて高印字率画像を定着させても、縦筋として人の目により判別しにくくなる。
【0035】
定着ローラの回転方向と交差する方向に、定着ローラと加熱部材が相対的に摺動する本実施例の構成と、定着ローラと加熱部材が定着ローラ回転方向と交差する方向へ相対移動しない比較例の構成において、印字耐久試験を行い比較した。印字耐久試験は、印字率5%の画像を複数枚の記録材に連続印字し、連続1万枚までは1000枚毎に、連続1万枚以降は1万枚毎に、定着ローラの傷の確認を行った。定着ローラの傷の確認は、表面粗さ計による傷の深さの測定と、普通紙と光沢紙によるベタ画像上の縦筋の有無で確認した。
【0036】
図4に、印字耐久試験による定着ローラの傷の深さの結果を示す。なお、横軸のスケールは、数値10が10000枚を示している。比較例の構成では、4000枚印字の時点で定着ローラの傷の深さ(十点平均粗さRz)が3μm以上になり、光沢紙のベタ画像上に縦筋が発生した。更に3万枚印字の時点で定着ローラの傷の深さ(十点平均粗さRz)が6μm以上になってしまい、普通紙にベタ画像を形成した場合においても画像上に縦筋が発生してしまった。
【0037】
一方、本実施例の構成では、定着ローラ110の回転時に加熱部材112が定着ローラ110の回転方向と直角方向に両者が接触した状態でスライドするため、本実施例の定着器の寿命である10万枚まで、定着ローラの傷の深さ(十点平均粗さRz)を3μm以下に抑えることができた。そのため、縦筋が見えやすい光沢紙に画像形成し定着しても、定着器の寿命までベタ画像上に縦筋状の画像不良が発生することがなかった。
【0038】
また、小サイズの紙を多量に通紙した場合など、紙コバ(エッジ)で定着ローラ110に回転方向の傷が発生してしまうことがあるが、本実施例の構成により、小サイズの紙を多量に通紙した場合などにおいても、小サイズ紙のエッジが要因の縦筋が画像上に現れるのを抑えることができる。
【0039】
なお、以上説明した構成においては、加熱部材112全体をスライドさせる構成であるが、加熱ヒータ113やヒータホルダ119は固定したまま、摺動層120と定着ローラ110を定着ローラ110の回転方向に対して交差する方向に相対的に摺動させても良い。例えば、加熱ヒータ113及びヒータホルダ119を固定し、摺動層120のみを軸方向にスライドさせた構成でも良い。
【0040】
図5に一例として、摺動層120のみをスライドさせる構成を示す。シート状の摺動層120を巻き取る巻き取りローラ128が設けられており、定着ローラ110のR2方向への回転時に、巻き取りローラ128はR5方向に回転し、摺動層120を巻き取る構成である。この構成においても、加熱部材112の摺動層120が矢印A5方向にスライドするため、図2の構成と同様に、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向R2と交差する斜め方向へ動く。そのため、画像上に縦筋として現れてしまう深さの傷が定着ローラ110表面に発生するのを抑えることができる。
【0041】
また、本実施例の構成では、定着ローラ110を固定し、加熱部材112をスライドさせた構成であるが、加熱部材112を固定し、定着ローラ110の回転方向とは交差する交差方向へ定着ローラ110をスライドさせても良い。もしくは、加熱部材112と定着ローラ110の両方を交差方向へ相対的にスライドさせるような構成でも良い。
【0042】
加熱部材112や定着ローラ110のスライド方向も軸方向に限らない。定着ローラ110の回転方向に対して交差する方向へ加熱部材112と定着ローラ110が摺動すれば、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向とは異なる斜め方向へ動くため同様の作用効果が得られる。
【0043】
なお、本実施例のように、加熱部材が定着ローラ(回転体)を加熱しつつ定着ローラが回転している時に、定着ローラと加熱部材のうち少なくとも一方が、定着ローラの回転方向に対して交差する交差方向へ定着ローラと加熱部材が接触した状態で移動可能な構成にすれば、定着ローラの表面を部分的に回転体の回転方向に対して交差する交差方向に引き伸ばし鱗片状の表面に変形させる機能を有し、定着ローラ表面に発生する傷を修復する効果もある。このことに関しては次の実施例2以降で説明する。
【0044】
(実施例2)
本発明の実施例2を以下に説明する。実施例1と同じ部材は実施例1と同一の符号及び番号で示し、説明を省略する。
【0045】
本実施例では、加熱部材112と定着ローラ110の少なくとも一方が、両者が接触した状態で定着ローラ110の回転方向に対して交差する交差方向へ往復移動する。以下に詳しく説明する。
【0046】
図6は、本実施例における接触式の外部加熱定着装置の正面図である。実施例1同様、定着ローラ110は軸方向には固定されており、定着ローラ110の矢印R2方向の回転によって加圧ローラ111は矢印R3方向に従動回転する。
【0047】
加熱部材112は定着ローラの回転軸方向と平行な方向にスライド可能であり、片側から加圧バネ130により矢印A7方向へ49Nの力で加圧され矢印A6方向へスライドする。一方、加熱部材112の加圧バネ130が設置された側とは反対側にはカム129が設けられており、カム軸133を中心に矢印R6方向に不図示の回転手段により回転するようになっている。
【0048】
図6に対してカム129が180°回転した様子を図7に示す。カム129が図6に示す位相から180°回転すると、加熱部材112はカム129に押され矢印A8方向にスライドする。更にカム129が矢印R6方向に180°回転すると、加熱部材112は加圧バネ130により矢印A7方向に加圧されているため図6の位置に戻る。すなわち、カム129が矢印R6方向に回転している間、加熱部材112が軸方向(定着ローラ110の回転方向に対して交差する交差方向)へ往復移動する。カム129は、定着ローラ110の回転時に矢印R6方向へ回転し加熱部材112を往復移動させる。そのため、実施例1同様に、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向R2とは異なる斜め方向へ動き、定着ローラ110表面に発生する傷の深さを浅く抑える効果がある。
【0049】
また、実施例1と同様に、定着ローラ110表面に発生した傷を修復する効果も得られる。カム129による加熱部材112のスライド量W1を1mm程度とすると定着ローラ表面の傷を浅くしたり、傷を修復する効果が得られるが、スライド量W1は大きい方がその効果は大きく、本実施例ではスライド量W1を4mmとした。また、加熱部材112の往復の周期は、定着ローラ110の回転周期と重なってしまうと接触加熱部N1において定着ローラ表面の同じ個所を摺擦しまうため、少なくとも加熱部材112一往復の周期と定着ローラ110の一周期とは同期させないほうが好ましい。本実施例では、定着ローラ110の一周期が約1.05秒であるのに対して、加熱部材112のスライドスピードを一往復あたり6秒とした。
【0050】
本実施例の構成では、加熱部材112を軸方向にスライドさせるのに往復移動を利用しているため、スライドさせる部材の長手方向長さによらず半永久的にスライドを行なうことができる。
【0051】
以上説明した構成により、実施例1と同様の印字耐久試験を行なった。加熱部材112の軸方向の往復移動により、実施例1の構成と同様、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向とは異なる斜め方向へ動く。そのため、定着ローラ110表面の傷の深さ(十点平均粗さRz)を3μm以下に抑えることができ、実施例1と同様に、紙種及び画像印字率を問わず、定着器の寿命まで縦筋等の画像不良の発生を抑えることができた。
【0052】
なお、本実施例は加熱部材112全体を往復移動させた構成であるが、加熱部材の一部である摺動層120のみを軸方向に往復移動させる構成でも良い。図8に、一例として摺動層120のみを往復移動させる構成を示す。シート状の摺動層120を往復移動させる巻き取りローラ131、132が加熱部材112の両端部に設けられており、定着ローラ110のR2方向への回転時に巻き取りローラ131、132は矢印R7方向に往復回転し、摺動層120を往復移動させる構成である。この構成においても、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向とは異なる斜め方向へ動くため上述と同様の作用効果が得られる。
【0053】
また、本実施例の構成では、定着ローラ110を固定し加熱部材112を軸方向へ往復移動させた構成であるが、加熱部材112を固定し定着ローラ110を軸方向へ往復移動させる、もしくは加熱部材112と定着ローラ110の両方を相対的に往復移動させるような構成でも良い。図9に、一例として加熱部材112を固定し定着ローラ110を軸方向へ往復移動させる構成の正面図を示す。図6、図7に示す加熱部材112を往復移動させる構成と同様に、カム129と加圧バネ130により定着ローラ110を往復移動させる構成である。また、加熱部材112や定着ローラ110を往復移動させる構成はこれらに限らず、実施例1のようにラックアンドギア(図2)を用いてギア126を往復回転させる構成などでも良い。加熱部材112や定着ローラ110を往復移動させる方向も、定着ローラの軸方向と平行な方向に限らず、定着ローラ110の回転方向と異なる方向へ加熱部材112と定着ローラ110が相対的に摺動すれば、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して、定着ローラ110の回転方向とは異なる斜め方向へ動くため上述と同様の作用効果が得られる。
【0054】
次に、定着ローラ110が回転し且つ加熱部材112と定着ローラ110が接触した状態で交差方向へ相対移動している時に、定着ローラ110が加熱部材112との摺動によって受ける摩擦力を図10を用いて説明する。なお、以下の説明では、加熱部材112を固定し定着ローラ110を軸方向に往復移動させる構成を前提とする。
【0055】
定着ローラ110は回転しているため、加熱部材112との接触加熱部N1で定着ローラ表面は回転方向とは逆向きの摩擦力Frを受ける。さらに、定着ローラが軸方向に往復運動しているため、定着ローラ表面はその移動方向とは逆向きの摩擦力を受ける。図10では定着ローラ110がA6方向に移動中の場合に受ける摩擦力Fsを示した。この2つの摩擦力の合力として定着ローラ表面は力F1を受けることになる。このように定着ローラ110が往復運動をしているため、力F1は回転方向以外の成分を持ち、また力の大きさも時間とともに周期的に変化する。
【0056】
定着ローラと加熱部材が相対的に交差方向へスライドしない構成の場合、接触加熱部N1に紙粉などの異物が挟まると、異物は接触加熱部N1内にひっかかり留まりやすい傾向にあった。したがって異物が接触加熱部N1に留まってしまうと、異物が定着ローラ表面の同じ箇所を削り、定着ローラの回転方向に深い傷が発生してしまうことになる。
【0057】
これに対し定着ローラと加熱部材が相対的にスライドする構成を用いると、接触加熱部N1で異物が受ける摩擦力は、前述のように定着ローラの回転方向以外にも発生するため、仮に接触加熱部N1に異物がはさまっても異物が接触加熱部N1をすり抜けやすい性質が生じる。
【0058】
そのため、異物が定着ローラ表面の同じ箇所を傷つけることはなくなり、定着ローラ表面上に深い傷が発生するのを抑えることができる。
【0059】
また、上述の摩擦力F1と加熱部材112からの加熱により、定着ローラ110の表面の離型層118が部分的に定着ローラの回転方向に対して交差する方向に引き伸ばされ鱗片状の表面に変形する。図11(1)は定着装置製造時に定着装置に装着する前の新品の定着ローラの表面の写真、図11(2)は実施例2の方法で定着ローラ110を10分間往復運動させた後の定着ローラの表面の写真である。それぞれ偏光顕微鏡で観察した結果である。図11(2)のように、鱗片状に引き伸ばされた離型層118が、定着ローラ110の表面全体に発生する。
【0060】
次に、定着ローラ表面に発生する傷が本実施例の構成によって修復できる仕組みを説明する。
【0061】
上記のように、離型層のうち鱗片状に引き伸ばされ変形した部分が定着ローラ110表面の傷を覆うことで、定着後の画像上に縦筋が現れにくくなる。この鱗片状に引き伸ばされ変形した部分が定着ローラ110表面の傷全てを覆いつくすことができなくても、傷の上を所々覆うことができていれば、定着ローラの傷による画像不良が定着後の画像上に現れるのを大幅に抑えられることが判明した。
【0062】
ここで図12及び図13は、定着ローラ110表面の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したものである。図12は新品の定着ローラ110表層を、図13は発熱している状態の加熱部材112に対して定着ローラ110を往復運動させて摺擦させた後の表層を、それぞれ観察した写真及び模式図である。
【0063】
図12のように新品の定着ローラ表層(離型層)が平滑であるのに対し、図13のように摺擦後の定着ローラ表層(離型層)には部分的に鱗片状に引き伸ばされ変形した部分があり、この変形した部分が傷の上を覆っている様子がわかる。
【0064】
上述のように、離型層118を部分的に燐片状に引き伸ばし変形させるには、定着ローラ110表面(離型層)を軟化させ且つ引き伸ばすための摩擦力と温度が必要である。
【0065】
まず、定着ローラ110表面に掛かる摩擦力は、前述したように定着ローラ110と加熱部材112の摺動によって発生する摩擦力F1がある。この摩擦力F1を得るために、本実施例では接触加熱部N1の面圧ピーク値を1.2×105N/m2にしている。効果的に離型層118を燐片状に引き伸ばす摩擦力F1を得るために、接触加熱部N1の面圧ピーク値は9.8×104N/m2以上であることが好ましい。
【0066】
次に、離型層118を燐片状に引き伸ばす効果を得るための温度としては、離型層118のガラス転移点(Tg)以上の温度が必要である。本実施例において用いた離型層の材質であるPFAのガラス転移点が約118℃であり、本実施例の定着装置の定着処理中の加熱部材設定温度である180℃であれば、定着処理中に離型層118を効果的に鱗片状に引き伸ばすことができる。
【0067】
ところで、定着ローラ110と加熱部材112が両者ともにスライドしないように固定され、定着ローラ110と加熱部材112が回転方向のみ摺動する場合においても、上述した摩擦力と温度条件を満たしているため、離型層118は部分的に燐片状に引き伸ばされ変形する。しかしながら、本実施例のような傷を修復する効果は得られない。その理由を以下に説明する。
【0068】
前述したように、定着ローラ110と加熱部材112が両者ともにスライドしないように固定された構成では、定着ローラ110表面にかかる摩擦力Frは回転方向のみである。この場合、離型層118は回転方向に燐片状に引き伸ばされるため、鱗片状に引き伸ばされた部分が回転方向に深く発生した傷の上に覆い被さることがほとんどない。したがって傷を修復することができないのである。
【0069】
図14(1)及び図14(2)は、定着ローラ110と加熱部材112が両者共に軸方向へスライドしないように固定した比較例の構成と、定着ローラ110と加熱部材112が軸方向へ相対移動する実施例の構成、それぞれの構成における定着ローラ回転後の表面を比較したものである。図中の写真は偏光顕微鏡観察画像であり、その隣に表層の状態をわかりやすく示した模式図を示してある。なお、比較例及び実施例共に、定着ローラ110の表面温度(≒加熱部材の目標温度)が180℃を維持するように制御された状態で10分間定着装置を駆動させた後の表面状態を示している。
【0070】
図14(1)に示したように、比較例の場合、離型層118が傷の方向と同じ方向に沿うように燐片状に伸ばされているため、鱗片状の部分が傷を覆っていない。また、傷自体も大きく深くなっている。
【0071】
一方、本実施例の場合、定着ローラ110が軸方向に往復運動し加熱部材と定着ローラが定着ローラ回転方向に対して交差する方向へ相対移動するため、定着ローラ110の表面(離型層)が受ける摩擦力は回転方向以外の成分を持っている。したがって、図14(2)に示すように、離型層118は回転方向以外のランダムな方向に鱗片状に引き伸ばされるため、鱗片状の部分が回転方向に発生した傷の上を覆い、傷を修復していることがわかる。また、図14(1)に比べて傷自体も小さく浅いものになっている。
【0072】
また、定着ローラ110表面の離型層118が燐片状に変形すると、仮に接触加熱部N1に異物が留まり定着ローラ表面を削っても、離型層の燐片状に変形した部分によって傷が断続的に途切れるため、傷が記録材上の画像に転写されにくくなるという効果も得ることができる。
【0073】
本実施例のように定着ローラ110を往復移動させる構成においても、定着ローラ110上の離型層118を回転方向以外のランダムな方向(回転方向に対して交差する交差方向)に鱗片状に引き伸ばす機能を備えているため、上述の傷発生抑制効果と傷修復効果により、定着器の寿命である10万枚まで定着ローラの表面粗さ(十点平均粗さRz)を3μm以下に抑えることができる。そのため、定着ローラの回転方向の傷が要因の縦筋が記録材上の画像に現れやすい光沢紙にベタ画像を形成する場合においても、画像不良が発生するのを抑えることができる。
【0074】
また本実施例の構成により定着ローラ表層に鱗片状の凹凸が形成されても、この鱗片状の部分により定着後の画像の光沢度が低下するなどの弊害は起きにくい。なぜなら、離型層は鱗片状に変形する際に加熱と摩擦力によって十分に引き伸ばされるので、鱗片状の部分が定着後の画像の光沢度低下を招くような極端な段差にならないためである。
【0075】
なお、定着ローラ110や加熱部材112を往復運動させる方向は軸方向に限らない。例えば加熱部材112の往復移動方向が定着ローラ110の回転軸に対して非平行となるようにずらした構成にしても良い。図15は加熱部材112の往復移動方向を定着ローラ110の回転軸方向に対して角度Yずらせた構成を装置の上面から見た図である。この構成によっても、定着ローラ110の回転によって発生する摩擦力Frと、加熱部材112の往復運動による摩擦力Fsが生ずる(図では加熱部材112がA8方向に移動している場合を示す)。摩擦力FrとFsの合力F1は、定着ローラ110の回転方向以外の方向に成分を持つため、前述したように傷の発生を抑制し傷が発生しても修復することができる。
【0076】
定着ローラ110の回転軸と加熱部材112の長手方向とのずらし角度Yがあまり大きくなると、定着ローラ110の表面にその軸方向(母線方向)に亘って均一に加熱部材を当接させるのが難しくなるため、角度Yは0°≦Y≦10°の範囲で設定するのが好ましい。本実施例ではY=5°とした。
【0077】
本実施例では摺動層120にフッ素樹脂であるPTFEのシートを用いたが、ヒータの熱を効率良く定着ローラ110に伝達するために、アルミ(Al)やステンレス(SUS)等の金属シートを用いてもよい。
【0078】
以上説明したように、定着ローラと加熱部材のうち少なくとも一方が定着ローラの回転方向に対して交差する交差方向へ定着ローラと加熱部材が接触した状態で往復移動可能な移動機構を設ければ、接触加熱部内の異物が定着ローラの軸方向の同一個所を傷つけるのを抑えることができる。また、定着ローラと加熱部材のうち少なくとも一方が、加熱部材が定着ローラを加熱している時に交差方向へ往復移動する構成にすれば、定着ローラ表面の傷を修復する効果が得られる。画像を担持する記録材を加熱処理(定着処理)している時にこのような往復移動を行うようにすれば、傷を修復するための時間を特別に設ける必要もないので特に好ましい。このように、定着装置に、定着ローラの表面を部分的に定着ローラの回転方向に対して交差する交差方向に引き伸ばし鱗片状の表面に変形させる機能を持たせれば、定着ローラ表面は交差方向に摩擦力を受けるため、鱗片状の離型層が形成され傷修復効果が得られる。
【0079】
(実施例3)
本発明の実施例3を以下に説明する。本実施例において、未定着トナー像を形成する画像形成装置については実施例1と同じく一般的であり説明を省略する。また、接触式の外部加熱定着装置についても、実施例1と同じ部材は実施例1と同一の符号で示し説明を省略する。本実施例では、接触加熱部N1において、定着ローラ110表面が加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向とは異なる方向(交差方向)へ動くようにするために、加熱部材112を定着ローラ110の回転方向とは異なる方向へ回転させている。以下に詳しく説明する。
【0080】
図16は、本実施例における接触式の外部加熱定着装置の正面図である。実施例1同様、定着ローラ110は、軸方向には動かないように固定されており、定着ローラ110の矢印R2方向の回転により加圧ローラ111は矢印R3方向に従動回転する。
【0081】
加熱部材112は、熱源である加熱ヒータ113がヒータホルダ119に保持され、定着ローラ110と接触する部分にはベルト状の摺動層137が設けられた構成となっている。摺動層137は駆動ローラ135とテンションローラ134に架け渡され、テンションバネ138により9.8Nの力で張られている。
【0082】
図16中矢印A10方向から見た定着装置の側面図を図17に示す。摺動層137の幅W2は15mmであり、ヒータホルダ119と幅6mmの加熱ヒータ113は、摺動層137に覆われている。加熱部材112の加圧は、支点139を支点にして回動する2枚の加圧板136が、摺動層137のベルト間を通り、加圧バネ114の力でヒータホルダ119を押圧することで行なわれる。加圧バネ114によりヒータホルダ119が矢印A1方向に押圧される力は、98Nである。定着ローラ110の回転時に駆動ローラ135が図16中矢印R8方向へ回転し、摺動層137は矢印A9方向に回転移動するようになっている。そのため、実施例1同様に、定着ローラ110表面は、加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向R2とは異なる方向へ動き、画像上に縦筋として現れてしまう深さの傷が定着ローラ110表面に発生するのを抑えることができる。また、実施例1と同様に、定着ローラ110表面に発生した傷を修復する効果も得られる。本実施例の構成では、加熱部材112を軸方向に移動させるのに、回転運動を利用しているため、移動させる部材の長手方向長さによらず、半永久的に、且つ滑らかに加熱部材112を移動させることができる。
【0083】
以上説明した構成により、実施例1と同様の印字耐久試験を行なった。加熱部材112の軸方向の回転運動により、実施例1同様、定着ローラ110表面は加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向とは異なる方向へ動くため、定着ローラ110表面の傷の深さをRzで3μm以下に抑えることができ、実施例1と同様に、紙種及び画像印字率を問わず、定着器の寿命まで縦筋等の画像不良の発生を抑えることができた。
【0084】
(実施例4)
本発明の実施例4を以下に説明する。本実施例において、未定着トナー像を形成する画像形成装置については実施例1と同じく一般的であり説明を省略する。また、接触式の外部加熱定着装置についても、実施例1と同じ部材は実施例1と同一の符号で示し説明を省略する。
【0085】
実施例3で説明した構成においては、加熱部材112を定着ローラの軸方向に回転させたが、加熱部材112の回転方向は軸方向に限らず、定着ローラ110の回転方向と異なる方向に回転させた構成であれば上述と同様の作用効果が得られる。例えば、図18に示すように、加熱部材112としてハロゲンランプを内包した熱ローラなどの回転体を用いた接触式の外部加熱装置において、定着ローラ110の回転軸に対して加熱部材112の回転軸をずらした構成にしても良い。
【0086】
図18中矢印A1方向から見た図を図19に示す。点線で示した加熱部材112の回転軸Z1は、定着ローラ110の回転軸Z2に対してずれている。加熱部材112から定着ローラ110表面を見ると、定着ローラ110表面は、定着ローラ110のR2方向への回転による動きVrと、加熱部材112のR9方向への回転による動きVhとの合成方向Vl=Vr+Vhへ動くことになる。定着ローラ110表面は、加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向R2とは異なる方向の斜め方向Vlへ常に動くことになる。加熱部材112の回転軸Z1と定着ローラ110の回転軸Z2のずらし角度Xは、大きいほどV1方向への移動量が大きくなり上述の定着ローラ傷抑制と傷修復効果は高くなるが、大きすぎると加熱部材112と定着ローラ110とが形成する接触加熱部が定着ローラ軸方向で不均一になる。そのため、角度Xは1°≦X≦15°の範囲内に設定するのが好ましく、本実施例ではX=5°とした。
【0087】
本実施例の外部加熱装置の場合、加熱部材112の表面(加熱ローラの表面)と定着ローラ110の表面の移動方向が同じであるため、そもそも定着ローラ110に回転方向の傷は発生しにくい。しかしながら、小サイズの紙を多量に通紙した場合など、紙コバで定着ローラ110に回転方向の傷が発生してしまうことがある。本実施例の構成では、定着ローラ110表面は、加熱部材112に対して定着ローラ110の回転方向R2とは異なる方向Vlへ常に動くため、実施例1同様、定着ローラ110表面の傷抑制効果と傷修復効果がある。そのため、小サイズの紙を多量に通紙した場合などにおいても、画像上に縦筋として現れてしまう深さの傷が定着ローラに発生するのを抑えることができる。また、万一、画像上に縦筋として現れてしまう深さの傷が定着ローラに発生した場合でも、本実施例の構成によって発生した傷を修復することが可能である。
【0088】
(実施例5)
本発明の実施例5を以下に説明する。本実施例において、未定着トナー像を形成する画像形成装置については上記実施例1と同じく一般的であり説明を省略する。また、接触式の外部加熱定着装置についても実施例1と同じ部材は実施例1と同一の符号で示し説明を省略する。本実施例では、画像を担持する記録材と接触する回転体として定着ベルト135を用いた。
【0089】
図20は、本実施例における接触式の外部加熱定着装置の概略断面図である。定着ローラ110は軸方向に移動しないように固定されており、矢印R2方向に回転する。記録材と接触する回転体である定着ベルト135は定着ローラ110とテンションローラ133に掛け渡されており、定着ローラ110の回転により矢印R9方向に従動回転する。定着ベルト135を介して定着ローラ110と定着ニップ部N2を形成する加圧ローラ111は、定着ベルト135の回転に伴い矢印R3方向に従動回転する。
【0090】
定着ベルト135を効率良く温めるために、定着ベルト135の表面には加熱部材112が接触している。定着ベルト135と加熱部材112の接触領域は接触加熱部N1となっている。加圧バネ137により加熱部材112を矢印A3方向に押圧する力は98Nに設定している。
【0091】
ここで、図21を参照して本実施例の定着装置で用いている定着ベルト135の層構成について説明する。定着ベルト135は、例えばポリイミド樹脂等の樹脂製の基層153の外側にプライマ層(接着層)を介して弾性層152が設けられており、この弾性層152の外側にフッ素樹脂の離型層151を設けた構成である。
【0092】
弾性層152にはシリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等の耐熱性と熱伝導率に優れたものが用いられる。本実施例では熱伝導率が0.25W/m・K以上0.29W/m・K以下のソリッド状のシリコーンゴムを使用した。離型層151の材質はパーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)である。
【0093】
未定着トナー像Tが転写された記録材Pが、不図示の搬送手段により定着ニップ部N2に搬送されると、定着ベルト135の表面の熱は未定着トナー像Tと記録材Pに移り、記録材P表面にトナー像Tが加熱定着される。
【0094】
本実施例のように画像を担持する記録材と接触する回転体としてベルト構造のものを用いた場合にも、その表面に加熱部材を接触させていると定着ベルト表面に傷が発生しやすい。
【0095】
そこで本実施例においては、定着ベルト表層を部分的に鱗片状に引き伸ばす手段を備えている。表層を鱗片状に引き伸ばす手段として、加熱部材112をテンションローラ133の軸方向に左右に往復運動させる構成を用いている。図22に本実施例の定着装置を上面から見た図を示す。加熱部材112が左右に往復運動する機構は実施例2と全く同じであるため、詳細な説明は省略する。カム129の回転と加圧バネ130により加熱部材112がテンションローラの軸方向に往復運動し、一方、不図示の制御部により定着ベルトは約180℃という高温を維持するように制御されているため、定着ベルト135の表層を鱗片状にランダムな方向に引き伸ばすことができる。
【0096】
上述のように定着ベルト135の離型層118を、定着ベルトの回転方向以外の方向に鱗片状に引き伸ばす手段により、定着ベルト135の表層には傷が入りにくく、傷が発生しても傷を修復可能となる。
【0097】
なお、本実施例では定着ローラ110を駆動源により駆動することで回転させ、テンションローラ136や加圧ローラ111を従動回転させたが、テンションローラ136や加圧ローラ111を駆動源で駆動し、その他のローラを従動回転させる構成でも良い。
【0098】
また本実施例では加熱部材112全体を往復運動させた構成であるが、加熱部材112のうち摺動層120のみテンションローラ回転方向とは異なる方向に摺動成分を持つように移動させる手段を用いてもよい。
【0099】
以上の実施例は画像形成装置に搭載する定着装置を例にして説明したが、本発明の像加熱装置は画像形成装置に搭載する定着装置に限るものではない。例えば、画像の光沢度を向上させるために定着装置によって定着された画像を再度加熱するため、オプションとして販売されるような光沢付与装置にも本発明の技術思想を適用できる。また、回転体表面に接触する加熱部材と回転体内部に配置する加熱部材(例えばハロゲンヒータ)の両方を有する構成の像加熱装置にも適用できる。本発明は、その用途や装置形態に拘わらず、画像を担持する記録材と接触する回転体と、回転体表面に接触し回転体を加熱する加熱部材と、回転体と共に画像を担持する記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、有する像加熱装置に適用できる。
【符号の説明】
【0100】
100 定着装置(像加熱装置)
110 定着ローラ(回転体)
111 加圧ローラ(バックアップ部材)
112 加熱部材
113 加熱ヒータ
115 温度検知素子
118 離型層
120 摺動層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を担持する記録材と接触する回転体と、前記回転体の表面に接触し前記回転体を加熱する加熱部材と、前記回転体と共に画像を担持する記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有する像加熱装置において、
前記回転体と前記加熱部材のうち少なくとも一方が、前記回転体の回転方向に対して交差する交差方向へ前記回転体と前記加熱部材が接触した状態で移動可能であることを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記回転体と前記加熱部材のうち少なくとも一方を前記交差方向へ移動させる移動機構を有することを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記回転体と前記加熱部材のうち少なくとも一方が画像を担持する記録材を加熱処理している時に前記交差方向へ移動することを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項4】
画像を担持する記録材と接触する回転体と、前記回転体の表面に接触し前記回転体を加熱する加熱部材と、前記回転体と共に画像を担持する記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有する像加熱装置において、
前記回転体の表面を部分的に前記回転体の回転方向に対して交差する交差方向に引き伸ばし鱗片状の表面に変形させる機能を有することを特徴とする像加熱装置。
【請求項5】
前記加熱部材が前記回転体を加熱しつつ前記回転体が回転している時に、前記回転体と前記加熱部材のうち少なくとも一方が前記交差方向へ前記回転体と前記加熱部材が接触した状態で移動することによって前記回転体の表面が前記鱗片状に変形することを特徴とする請求項4に記載の像加熱装置。
【請求項6】
前記回転体は表面に離型層を有し、前記離型層が前記鱗片状に変形することを特徴とする請求項4に記載の像加熱装置。
【請求項1】
画像を担持する記録材と接触する回転体と、前記回転体の表面に接触し前記回転体を加熱する加熱部材と、前記回転体と共に画像を担持する記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有する像加熱装置において、
前記回転体と前記加熱部材のうち少なくとも一方が、前記回転体の回転方向に対して交差する交差方向へ前記回転体と前記加熱部材が接触した状態で移動可能であることを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記回転体と前記加熱部材のうち少なくとも一方を前記交差方向へ移動させる移動機構を有することを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記回転体と前記加熱部材のうち少なくとも一方が画像を担持する記録材を加熱処理している時に前記交差方向へ移動することを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項4】
画像を担持する記録材と接触する回転体と、前記回転体の表面に接触し前記回転体を加熱する加熱部材と、前記回転体と共に画像を担持する記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有する像加熱装置において、
前記回転体の表面を部分的に前記回転体の回転方向に対して交差する交差方向に引き伸ばし鱗片状の表面に変形させる機能を有することを特徴とする像加熱装置。
【請求項5】
前記加熱部材が前記回転体を加熱しつつ前記回転体が回転している時に、前記回転体と前記加熱部材のうち少なくとも一方が前記交差方向へ前記回転体と前記加熱部材が接触した状態で移動することによって前記回転体の表面が前記鱗片状に変形することを特徴とする請求項4に記載の像加熱装置。
【請求項6】
前記回転体は表面に離型層を有し、前記離型層が前記鱗片状に変形することを特徴とする請求項4に記載の像加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−57979(P2013−57979A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−285804(P2012−285804)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2007−292191(P2007−292191)の分割
【原出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2007−292191(P2007−292191)の分割
【原出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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