説明

優れた撥水性を有するスパンライク様2層構造糸

【課題】本発明の目的は、スパンライクな外観、風合を有する2層構造糸(複合巻付糸)に優れた撥水性能を付与し、長期間の使用や繰返しの洗濯等により初期の撥水性が低下することのないスパンライク様2層構造糸とすることを目的とする。
【解決手段】伸度の小なるフィラメント糸が芯部を構成し、前記フィラメント糸より伸度の大なるフィラメント糸が芯部の周りを交互撚糸状にとりまいて外層部を構成しているスパンライク2層構造糸において、該外層部のフィラメント糸を、特定の構造のエステル反応性シリコーン化合物を特定量含む固有粘度が0.61dl/g以上のポリエステル繊維とすることにより解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
長期間の使用や繰返しの洗濯等により撥水性が低下することのないスパンライク様2層構造糸を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、機械的強度、耐薬品性、耐熱性などに優れ、衣料用途で広く用いられている。近年、市場ニーズが多様化してきており、かかるポリエステル繊維、特にポリエステル長繊維で、高級ウールのようなスパンライクな風合や嵩高性をポリエステル繊維に付与する方法として、例えば特公昭60−11130号公報、特開平8−13275号公報、特開2006−169697号公報等に示されるように、2種以上の伸度差を有するポリエステル長繊維を組み合わせたスパンライク様仮撚2層構造糸により嵩高性を向上させることが提案されている。こうした方法により嵩高性でスパンライクなポリエステル織物が得られている。
しかしながら近年スポーツ用、カジュアル用に用いる場合このようなスパンライク性に加えて撥水機能やよりウールタッチに近いヌメリ感の付与など、更なる高機能化、風合いの改良が求められている。
【0003】
従来から、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂を含有する分散液等で布帛を処理して布帛表面にこれらの樹脂を付着せしめて、撥水処理を施すことは広く行われている。しかしながら、これらの加工処理で得られた布帛には撥水性はあるものの、耐久性が低く、布帛の使用に伴って処理した樹脂が、その表面から脱落して撥水性を失い易いという欠点を有している。一方、十分な撥水耐久性を付与する程の量を処理すると布帛の風合いが硬くなるという問題点があった。そのためにポリエステル繊維のスポーツウェア分野等撥水耐久性と風合いが共に要求される分野への応用が大きく制限されていた。
こうした現状に鑑み高耐久撥水性のあるスパンライクポリエステル2層構造糸の開発が大いに望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特公昭60−11130号公報
【特許文献2】特開平8−13275号公報
【特許文献3】特開2006−169697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、このような現状に鑑み、スパンライクな外観、風合を有する2層構造糸(複合巻付糸)に優れた撥水性能を付与し、長期間の使用や繰返しの洗濯等により初期の撥水性が低下することのないスパンライク様2層構造糸とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、このような問題を解決するために検討した結果、
伸度の小なるフィラメント糸が芯部を構成し、該芯部フィラメント糸より伸度の大なるフィラメント糸が芯部の周りを交互撚糸状にとりまいて外層部を構成しており、芯部と外層部の境界部において両フィラメント糸の一部が互いに混合、交錯して、交絡部を形成してなる2層構造糸であって、下記要件を満足するスパンライク様2層構造糸とする。
a)外層部を構成する伸度の大なるフィラメント糸が下記一般式(1)で示されるエステル反応性シリコーンを外層部ポリエステル繊維全重量に対して2.0〜20.0重量%含有するフィラメント糸であること。
b)外層部を構成するエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維の撥水性が、液量500ピコリットルの純水を単繊維上に乗せたとき、単繊維と水滴との接触角が110度以上であること。
c)エステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維の固有粘度が0.61dl/g以上であること。
【0007】
【化1】

[上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。]
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維は、スパンライクな外観、風合を有する2層構造糸(複合巻付糸)に優れた撥水性能を付与し、長期間の使用や繰返しの洗濯等により初期の撥水性が低下することのないスパンライク様2層構造糸を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明におけるスパンライク様2層構造糸は、伸度の小なるフィラメント糸が芯部を、前記フィラメント糸より伸度の大なるフィラメント糸が芯部の周りを交互撚糸状にとりまく外層部からなる2層構造糸であるが、この外層部を構成する撥水ポリエステル繊維に特徴があり、これについて詳述する。
【0010】
本発明で2層構造糸の外層部を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびこれらを主体としたポリエステルにエステル反応性シリコーンを含有するポリエステルであることが必要である。
【0011】
ここでエステル反応性シリコーンとしてはポリエステル成分の酸成分とエステルを形成する官能基を有するものを指し、ポリマーに共重合する上で2官能性エステル反応性シリコーンが好ましく、具体的には下記式(1)で示されるエステル反応性シリコーンが好ましく挙げられる。
【0012】
【化2】

[上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。]
【0013】
更に、エステル反応性シリコーンを含有するポリエステルとは、エステル反応性シリコーンがポリエステルに対して化学結合により分子鎖に取り込まれて共重合されている状態であっても、ポリエステルとは化学結合せずブレンド状態で存在する状態、又両方の状態であっても良い。共重合していない成分はブレンド状態でポリエステル組成物中に安定に存在し、繊維化での悪影響を及ぼさない。これはエステル反応性シリコーン共重合ポリエステルが未反応のエステル反応性シリコーン部分を安定化するのではないかと推定している。
【0014】
更にエステル反応性シリコーンのうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの全重量に対して、20〜50重量%の範囲であることが好ましい。20%未満ではブレンド状態のエステル反応性シリコーンのポリエステル中への分散性が悪化し好ましくなく、50%を超える場合はポリエステル繊維の強度が低下し好ましくない。好ましくはエステル反応性シリコーンの共重合量は25〜40%重量である。
【0015】
本発明におけるエステル反応性シリコーン含有ポリエステルを得る方法としては、公知の任意の方法で合成すればよい。例えば、ジカルボン酸成分がテレフタル酸の場合、テレフタル酸とアルキレングリコールとを直接エステル化反応させる方法と、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとアルキレングリコールとをエステル交換反応や又はテレフタル酸とアルキレンオキサイドを反応させる方法によってテレフタル酸のグリコールエステルを生成させる第一段の反応を行い、引続いて重合触媒の存在下に減圧加熱して所望の重合度になるまで重縮合させる第二段の反応によって製造する方法があるが、どちらの方法でも可能である。エステル反応性シリコーン化合物の添加時期は、共重合の割合を満足させる観点から、このポリエステルの重縮合反応の前から重縮合反応の終了以前に行なうのが好ましく、複数回に分けて添加しても良い。そして、この添加時期や添加量、反応時間等によって上記ポリエステルに共重合しているエステル反応性シリコーン化合物の割合を調整することができる。 次に該外層部のエステル反応性シリコーン含有ポリエステルはエステル反応性シリコーン化合物を2.0〜20.0重量%含有するポリエステル繊維とする必要がある。2.0重量%未満では、十分な撥水性が得られず、20.0重量%を超える場合には、繊維としての強度が低下するために長期間のランニングなどで安定した生産が困難になる。
【0016】
本発明のエステル反応性シリコーン含有ポリエステルの固有粘度は0.61以上であることが必要で、0.61未満であればスポーツ用途等の高強度用途に好ましくない。
反応の途中若しくは反応終了後のいずれかにおいて安定剤を添加することも好ましい。その安定剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類、トリフェニルホスファイト等の亜リン酸エステル類、メチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート等の酸性リン酸エステル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、若しくはポリリン酸等のリン化合物、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が好ましい。
【0017】
上記により得られたポリエステルは公知の方法により製糸する。例えば、得られたシリコーン含有ポリエステルを溶融状態で繊維状に押出し、それを500〜3500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸、熱処理する方法、1000〜5000m/分の速度で溶融紡糸し、延伸する方法、5000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法などが好ましく挙げられる。 得られたエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維は液量500ピコリットルの純水に対する単繊維の接触角が110度以上好ましくは115度以上である。110度未満の場合では、布帛にした場合に十分な撥水性が得られない。
【0018】
また、エステル反応性シリコーンを含有させることにより繊維に様々な撥水性とともに他の特性を付与できる。特に式(1)で表されるエステル反応性シリコーンを共重合させることにより、繊維化後に独特のヌメリタッチを付与することが出来る他に、エステル反応性シリコーン共重合により、繊維形成時にポリエステルの非晶部分の配向を乱す効果が大きく、濃染化が可能になる。この濃染特性は混繊鞘糸に配置した時にいっそう優位になる。これらの効果は片末端にエステル反応性基があるためポリエステルに共重合したときポリオルガノシロキサン部分はポリマー主鎖からペンダント状に分岐して存在することにより、より効果が大きくなるものと推定している。
外層部糸のエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維の伸度は45%以上であることが必要である。45%以下では2層構造糸の嵩高性が得られずめ好ましくない。
【0019】
本発明の外層部糸の単繊維繊度は4dtex以下が好ましい。4dtexを超える場合には、混繊時に芯鞘構造とすることが難しい。一方、単繊維繊度の下限については特に制限はないが、実用的に繊維形成可能で、かつ布帛の耐摩耗性を著しく損なわないという観点から、0.1dtex以上が好ましい。
本発明の外層部糸のエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維の断面形状は、用途等に応じて任意の形状とすることができ、例えば円形の他、三角、偏平、星型、V型等の異形断面またはそれらの中空断面が例示できる。
【0020】
次に、本発明の2層構造糸の芯糸としては、ポリエステル繊維が好ましく、伸度25%以下であることが好ましい。25%を超える場合2層構造糸の嵩高性が取れなくなる恐れが有り好ましくない。
又芯糸と外層部糸とは伸度の差が20%以上あることが必要である。20%未満の場合、同様に嵩高性が低下し好ましくない。
【0021】
上記の芯糸および外層部糸は、引きそろえて空気交絡処理に付されその後非接触ヒーターで延伸仮撚加工する工程を経ることにより2層構造糸とする。この場合、両者の使用割合は芯糸:外層部糸=25:75〜75:25(重量)とすればよい。空気交絡としては、インターレース、タスラン加工の何れであってもよい。
ここで、交絡付与後にオーバーフィードをかけながらヒーターで熱処理すると、芯糸は収縮し、外層部糸は殆ど収縮しないかあるいは自己伸張し、芯糸と外層部糸との間に糸足差が生じ、これが布帛とした時の膨らみ、スパンライク性に繋がる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
[測定方法]
(1)強度・伸度
JIS−L−1013に基づいて20℃、65%RHの雰囲気下で引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で測定したときの、破断時の強度及び伸度である。測定数は10とし、その平均を求めた。
【0024】
(2)固有粘度:
1,1,2,2−テトラクロルエタン40重量%とフェノール60重量%の混合溶媒中に試料を溶解して定法に従って35℃にて測定した。
【0025】
(3)含有シリコーン化合物量:
1H−NMR法にてポリエステル組成物中に含有している変性シリコーン量を定量した。更にポリエステル試料を適切な溶媒に溶解させて貧溶媒を加えて再沈殿操作を行い、濾過により得られた固形物についても1H−NMR測定を行った。後者の再沈殿操作後の測定結果の値からポリエステル中に共重合している変性シリコーン化合物の量を定量し、前者の再沈殿前の測定結果の値と、後者の測定結果の値との差からブレンドしているシリコーン化合物量を定量した。また変性シリコーン化合物の化学構造においてはブレンドしている成分については再沈殿操作の溶媒中の成分を回収成分を、共重合されている成分については再沈殿後のポリエステルを加水分解後の残渣成分を測定することにより行うことができる。
【0026】
(4)接触角(繊維の撥水性)
試験片から単糸を採取し、協和界面科学(株)社製 自動微小接触角測定装置「MCA−2」を使用し、蒸留水を使用して単糸表面の繊維上に500pLの蒸留水を滴下したときの繊維と水滴との接触角を測定した。接触角が大きいほど、撥水性に優れると判断した。
【0027】
(5)撥水性(布帛の撥水性)
各実施例および比較例で得られたポリエステル繊維を経糸及び緯糸に使用して、平織物を製織し、この布帛を常法により精錬、乾燥したのち、180℃でヒートセットした。該布帛を、JIS−L−1092(スプレー法)(1992)により測定した。その測定後の布帛の状態から該JIS規格に記載の以下の基準で0〜100点の点数で評価を行った。
100点:表面に湿潤や水滴の付着が無いもの。
90点:表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの。
80点:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの。
70点:表面の半分以上に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すもの。
50点:表面全体に湿潤を示すもの。
0点:表面及び裏面が全体に湿潤を示すもの。
【0028】
[実施例1]
速度4500m/minの紡糸によって得られた伸度70%のポリエステルフィラメント糸(96de/24f)と、水酸基を2つ有し、シリコーン分子鎖が分岐しているエステル反応性シリコーン(チッソ製FM−DA11)を10重量%含有するポリエチレンテレフタレートを用いて、285℃で溶融し、公知の溶融紡糸法により紡糸速度2500m/分で捲取り、得られた伸度150%のポリエステルフィラメント糸(180de/48f)とを引き揃えて図1の工程で交絡処理及び延伸仮撚加工を行った。
即ち前記2糸条をフィードローラー6に供給し、第1デリベリローラ8との間で、オーバーフィード率0.5%、圧空圧4Kg/cm2でインターレースノズル7によりインターレース処理し、40個/mの交絡を付与し、引き続いてローラ8を介して仮撚ゾーンに供給し、延伸倍率1.284倍、仮撚数2400T/m、ヒーター温度210℃、糸速即ち第2デリベリローラ11の速度250m/minで延伸仮撚加工した。
【0029】
このようにして得た加工糸を顕微鏡で観察すると均斉な交互撚2層構造糸で、かつ芯部を構成する糸条(伸度30%)と外層部(伸度55%)を構成する糸条との間にフィラメントが互いに入り組んでなる部分的交絡(23ケ/M)を有する加工糸であった。またこの糸を使って製織したところ、製織工程でのネップ発生等のトラブルもなく、得られた織物もスパンライクな風合を有していた。また、撥水性能についても90点と良好な結果が得られた。
【0030】
[実施例2]
速度3500m/minの紡糸によって得られた伸度112%のポリエステルフィラメント糸(115de/24f)と、実施例1のエステル反応性シリコーン含有ポリエステルを速度1500m/minの紡糸で得られた伸度350%のポリエステルフィラメント糸(220de/72f)とを引き揃えて第9図の工程で交絡処理及び延伸仮撚加工を行った。
【0031】
インターレースノズルによりオーバーフィード率0.5%、圧空圧4Kg/cm2で42個/mの交絡を付与し、引き続いて延伸倍率1.55倍、仮撚数2500T/m、ヒーター温度180℃、糸速350m/minで延伸仮撚加工した。尚ここでは加工速度をより高速にする為、仮撚装置に外接式摩擦仮撚装置を用いた。
このようにして得た加工糸は、均斉な交互撚2層構造糸で、かつ芯部を構成する糸条(伸度39%)と外層部(伸度84%)との間に部分的交絡(28ケ/M)を有する加工糸であった。またこの糸を使って製織したところ、製織工程でのネップ発生等のトラブルもなく、得られた織物もスパンライクな風合を有していた。また、撥水性能も90点で良好な結果が得られた。
【0032】
[実施例3]
速度2500m/minの紡糸によって得られた伸度150%のポリエステルフィラメント糸(140de/24f)と、実施例1のエステル反応性シリコーン含有ポリエステルを速度1500m/minの紡糸で得られた伸度350%のポリエステルフィラメント糸(220de/72f)とを引き揃えて下図の工程で交絡処理及び延伸仮撚加工を行った。
【0033】
インターレースノズルによりオーバーフィード率1.0%、圧空圧3.5Kg/cm2で38個/mの交絡を付与し、引き続いて延伸倍率1.892倍、仮撚数2450T/m、ヒーター温度200℃、糸速400m/minで延伸仮撚加工した。ここでも仮撚装置は外接式摩擦仮撚装置を用いた。
このようにして得た加工糸は、均斉な交互撚2層構造糸で、かつ芯部を構成する糸条(伸度28%)と外層部(伸度62%)との間に部分的交絡(32ケ/M)を有する加工糸であった。またこの糸を使って製織したところ、製織工程でのネップ発生等のトラブルもなく、得られた織物もスパンライクな風合を有していた。また、撥水性能についても90点で良好な結果が得られた。
【0034】
[実施例4]
外層部として使用したポリエステルフィラメント糸が含有するエステル反応性シリコーンを2.0重量部とした以外は実施例1と同様の方法で交絡処理及び延伸仮撚加工を行った。
このようにして得た加工糸を顕微鏡で観察すると均斉な交互撚2層構造糸で、かつ芯部を構成する糸条(伸度30%)と外層部(伸度55%)を構成する糸条との間にフィラメントが互いに入り組んでなる部分的交絡(23ケ/M)を有する加工糸であった。またこの糸を使って製織したところ、製織工程でのネップ発生等のトラブルもなく、得られた織物もスパンライクな風合を有していた。また、撥水性能についても良好な結果が得られていた。
【0035】
[実施例5]
外層部として使用したポリエステルフィラメント糸が含有する変性シリコーンを変性シリコーンを20重量部とした以外は実施例1と同様の方法で交絡処理及び延伸仮撚加工を行った。
このようにして得た加工糸を顕微鏡で観察すると均斉な交互撚2層構造糸で、かつ芯部を構成する糸条(伸度30%)と外層部(伸度55%)を構成する糸条との間にフィラメントが互いに入り組んでなる部分的交絡(23ケ/M)を有する加工糸であった。またこの糸を使って製織したところ、製織工程でのネップ発生等のトラブルもなく、得られた織物もスパンライクな風合を有していた。また、撥水性能についても良好な結果が得られていた。
【0036】
[比較例1]
伸度27%の延伸ポリエステルフィラメント糸(75de/15f)と速度3500m/minで紡糸したポリエステルフィラメント糸(115de/36f)とを引き揃えて、下図の工程で交絡処理及び仮撚加工を行った。
ここで交絡処理は実施例1と同様に行い、仮撚条件は伸度27%の延伸糸が延伸仮撚できない糸である為、オーバーフィード率3%で、撚数2400T/m、ヒーター温度220℃、糸速200m/minで仮撚加工した。
このようにして得た加工糸は、2層構造の程度が悪く、しかも交互撚構造をも有しない糸であった。また、この糸を使って製織したところ、製織工程でのトラブルはなかったが、織物はスパンライクな風合に欠け、通常のウーリー糸織物と大差なかったエステル反応性シリコーンが含まれないため撥水性は0点であった。
【0037】
[比較例2]
速度4500m/minの紡糸によって得られた伸度70%のポリエステルフィラメント糸(96de/24f)と、紡糸速度3000m/minとした以外は実施例1と同様な方法で得られた伸度130%のエステル反応性シリコーン含有ポリエステルフィラメント(180de/48f)とを引き揃えて図1の工程で交絡処理及び延伸仮撚加工を行った。加工条件はインターレース、仮撚とも実施例1と同条件で加工した。
このようにして得た加工糸は、一応芯部を構成する糸条と外層部を構成する糸条とからなっていたが、交互撚巻付構造は殆どできなかった。また、この糸を使って製織したところ、製織工程でのトラブルはほとんどなかったが、織物はスパンライクな風合に欠け、通常のウーリー糸織物と大差なかった。撥水性は90点であった。
【0038】
[比較例3]
外層部として使用したポリエステルフィラメント糸が含有するエステル反応性シリコーンを1.0重量部とした以外は実施例1と同様の方法で交絡処理及び延伸仮撚加工を行った。
このようにして得た加工糸を顕微鏡で観察すると均斉な交互撚2層構造糸で、かつ芯部を構成する糸条(伸度30%)と外層部(伸度55%)を構成する糸条との間にフィラメントが互いに入り組んでなる部分的交絡(23ケ/M)を有する加工糸であった。またこの糸を使って製織したところ、製織工程でのネップ発生等のトラブルもなく、得られた織物もスパンライクな風合を有していたが、撥水性能は70点で十分な撥水性は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、優れた撥水性を有するスパンライク様2層構造糸に関する。更に詳しくは、長期間にわたる仕様においても撥水性の低下が見られないスパンライク様2層構造糸に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例で使用した本発明の延伸仮撚加工を実施する装置の一態様を示す概略図である。
【符号の説明】
【0041】
1:伸度の低い方の糸
2:伸度の高い方の糸
3,3′:原糸
4:ガイド
5:張力装置
6:フイードローラ
7:インターレースノズル
8:第1デリベリローラ
9:ヒーター
10:仮撚具、
11:第2デリベリローラ
12:巻取ローラ
13:巻取チーズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸度の小なるフィラメント糸が芯部を構成し、該芯部フィラメント糸より伸度の大なるフィラメント糸が芯部の周りを交互撚糸状にとりまいて外層部を構成しており、芯部と外層部の境界部において両フィラメント糸の一部が互いに混合、交錯して、交絡部を形成してなる2層構造糸であって、下記要件を満足することを特徴とするスパンライク様2層構造糸。
a)外層部を構成する伸度の大なるフィラメント糸が下記一般式(1)で示されるエステル反応性シリコーンを外層部ポリエステル繊維全重量に対して2.0〜20.0重量%含有するフィラメント糸であること。
b)外層部を構成するエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維の撥水性が、液量500ピコリットルの純水を単繊維上に乗せたとき、単繊維と水滴との接触角が110度以上であること。
c)エステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維の固有粘度が0.61dl/g以上であること。
【化1】

[上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。]
【請求項2】
エステル反応性シリコーン化合物のうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの重量に対して20〜50重量部の範囲である請求項1記載のスパンライク様2層構造糸。
【請求項3】
芯部のフィラメント糸の伸度が25%以上である請求項1〜2いずれか1項記載のスパンライク様2層構造糸。
【請求項4】
外層部のフィラメント糸の伸度が45%以上である請求項1〜3いずれか1項記載のスパンライク様2層構造糸。
【請求項5】
芯部のフィラメント糸と外層部のフィラメント糸との間に少なくとも20%以上の伸度差が存在する請求項1〜4いずれか1項記載のスパンライク様2層構造糸。
【請求項6】
伸度の小なるフィラメント糸が芯部を構成し、該芯部フィラメント糸より伸度の大なるフィラメント糸が芯部の周りを交互撚糸状にとりまいて外層部を構成しており、芯部と外層部の境界部において両フィラメント糸の一部が互いに混合、交錯して、交絡部を形成してなる2層構造糸であって、下記要件を満足するスパンライク様2層構造糸を含む布帛。
a)該外層部のフィラメント糸のエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維が、液量500ピコリットルの純水を単繊維上に乗せたとき、単繊維と水滴との接触角が110度以上であること。
b)シリコーン化合物の含有量がエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維全重量に対して2.0〜20.0重量%であること。
c)エステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維の固有粘度が0.61dl/g以上であること。
d)エステル反応性シリコーン化合物のうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの重量を基準として、20〜50重量部の範囲であること。
e)エステル反応性シリコーン化合物が下記一般式(1)で示されるシリコーン化合物であること。
【化2】

[上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。]

【図1】
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【公開番号】特開2009−19289(P2009−19289A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180827(P2007−180827)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】