説明

元素分析装置および元素分析方法

【課題】計測対象物表面の表面汚染物質や計測雰囲気中の分子の影響を抑制してレーザ誘起ブレイクダウン分光法による元素分析の分析精度を向上させる。
【解決手段】試料16に含有される元素濃度を分析する元素分析装置は、試料16に照射するとプラズマ光21が発生するパルスレーザ光3を生成するレーザ光発振装置1および分析ヘッド51を有する。分析ヘッド51は、パルスレーザ光3を伝送するレーザ光伝送部52と、パルスレーザ光3を試料16の照射表面16aに集光させるレーザ光集光部10と、照射表面16aにパルスレーザ光3を照射するレーザ光照射部15を有する。レーザ光照射部15の先端と試料16との間に気密を保持しながら配置された気密保持手段17、18が配置される。レーザ光照射部15の側面には、レーザ光照射部15内の雰囲気を置換するためのバッファガスを供給するバッファガス供給口19およびバッファガスを排出するバッファガス排出口20が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ誘起ブレイクダウン法を用いた元素分析装置およびその分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に含まれる各種元素を検出して定量する元素分析は、多くの分野で用いられている技術である。例えば、鉄鋼の生産ラインでは、製品に含有する不純物元素を管理することは必須の工程である。
【0003】
鉄鋼成分の元素分析では、先ず銑鉄をサンプリングし、分析装置で測定可能な形状に試料を切り出す。その後に、例えばスパーク分光分析装置で含有する炭素(C)や硫黄(S)などの軽元素から重金属元素までを、生産ラインとは別の場所で分析している。このような元素分析では、サンプリングや試料の加工、その後のオフライン分析などに多くの時間を必要とする。
【0004】
一方、鉄鋼生産や鉄鋼取り扱いの現場では、ライン上で短時間に構成元素の成分が分析可能な手法が要求されている。
【0005】
この手法の一つとして、レーザ光を用いた新しい技術であるレーザ誘起ブレイクダウン分光法(Laser-induced Breakdown Spectroscopy;以下LIBS法と称す。)が開発されている。このLIBS法では、例えば特許文献1および特許文献2に開示されているように、パルスレーザ光を測定試料に直接照射してプラズマを発生させる。このプラズマから発生するプラズマ光を分光し、原子固有の波長の発光を検出することによって、試料中の元素の種類、元素の量等を検出できる。このため、試料の前処理が不要で、迅速且つ簡便な元素分析が可能である。
【特許文献1】特開2000−310596号公報
【特許文献2】特開2004−205266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LIBS法は、元素から発せられる蛍光を測定対象としている。この蛍光発光には、試料に含有する元素の他に、試料表面に付着した原子や雰囲気中に含まれる原子の発光が含まれる。これらの発光は一般には分析精度を低下させる要因となる。また、この発光には空間分布があり、生成されるプラズマの空間位置において、発光強度が最も高くなる位置は測定対象元素の種類によって異なる。
【0007】
このため、生成される蛍光中に含まれる元素毎の発光を詳細に測定するためには、バックグラウンドとなる表面汚染物質または雰囲気中に含まれる分子の影響を排除する必要がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、計測対象物表面の表面汚染物質や計測雰囲気中の分子の影響を抑制して、LIBS法による元素分析の分析精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る元素分析装置は、試料に含有される元素濃度を分析する元素分析装置において、前記試料に照射するとプラズマが発生するレーザ光を生成するレーザ光発振装置と、前記レーザ光を伝送するレーザ光伝送部と、前記レーザ光伝送部により伝送された前記レーザ光を所定の位置に集光させるレーザ光集光部と、前記レーザ光集光部で集光された前記レーザ光を試料表面に照射するレーザ光照射部と、前記レーザ光照射部先端に配置されて、前記レーザ光照射部内およびレーザ光照射を受ける前記試料表面の雰囲気を気密に保持する気密保持手段と、前記レーザ照射部の側面に配置されて、前記レーザ光照射部内の雰囲気を置換するためのバッファガスを供給するバッファガス供給口と、前記レーザ照射部の側面に配置されて、前記レーザ光照射部内の前記バッファガスを排出するバッファガス排出口と、前記レーザ光照射装置内のレーザ光軸と垂直な方向で、前記レーザ光照射部の内部から壁面を貫通して外側に延びて、前記プラズマから発生する蛍光の一部を集光するライトガイドと、前記ライトガイドにより集光された前記蛍光を検出する蛍光検出装置と、前記蛍光検出装置で検出した前記蛍光の波長および強度に基づいて元素含有量を定量する手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る元素分析方法は、試料に含有される元素濃度を分析する元素分析方法において、前記試料が設置された雰囲気をバッファガスに置換するバッファガス置換工程と、前記バッファガス置換工程の後に、パルスレーザ光を前記試料に照射させてプラズマ光を発生させるレーザ光照射工程と、前記レーザ光照射工程の後に、前記プラズマ光から発生する蛍光の一部を集光する蛍光検出工程と、前記蛍光検出工程の後に、集光された前記蛍光の元素含有量を定量する元素分析工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、計測対象物表面の表面汚染物質や計測雰囲気中の分子の影響を抑制して、LIBS法による元素分析の分析精度を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る元素分析装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
[第1の実施形態]
本発明の元素分析装置に係る第1の実施形態について、図1〜図4を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施形態の元素分析装置の構成を示す一部縦断面のブロック図である。図2は、図1のレーザ光照射部15の拡大縦断面図である。図3は、図1のレーザ光照射部15のみを取り出した状態の外観であって、図1のレーザ光照射部15にさらに第3ライトガイド用スリーブ24cを配置した状態を示す概略斜視図である。図4は、図3のレーザ光照射部15にさらに第4ライトガイド用スリーブ24dを配置した状態を示す概略下面斜視図である。
【0015】
本実施形態の元素分析装置は、固体の試料16に含まれる成分元素を分析する装置である。この元素分析装置は、分析ヘッド51、レーザ発振器1、レーザ電源2、タイミングコントローラ31、蛍光検出器27、アライメント用レーザ発振器7および計測制御用コンピュータ29を有している。
【0016】
レーザ発振器1は、レーザ電源2に接続されており、例えばYAGレーザ等を発振する装置である。レーザ電源2は、タイミングコントローラ31に接続されている。蛍光検出器27は、元素分析を行うための蛍光を検出する装置であって、計測制御用コンピュータ29を介してタイミングコントローラ31に接続されている。
【0017】
分析ヘッド51は、レーザ光伝送部52、レーザ光集光部10およびレーザ光照射部15を有する。
【0018】
レーザ光伝送部52は、第1反射ミラー4および第2反射ミラー5などを有し、レーザ発振器1で発振されたパルスレーザ光3を、これらの反射ミラー4、5で反射させてレーザ光集光部10へ伝送する。
【0019】
レーザ光集光部10は、例えば円筒形状で、その内部は平板状のダイクロイックミラー11が円筒軸に対して斜めに取り付けられている。このダイクロイックミラー11は、これに入射するパルスレーザ光3の全部またはほとんどを反射して、可視光の一部を透過させる特性を有している。
【0020】
レーザ光集光部10の側面には、例えば透明なガラス等により形成された第1光学窓9が設けられている。レーザ光集光部10は、この第1光学窓9からレーザ光伝送部52により伝送されたパルスレーザ光3を内部に取り込んで、ダイクロイックミラー11で反射させる。この反射によって、パルスレーザ光3の光軸は、レーザ光集光部10の円筒軸方向になるように光路変更される。
【0021】
レーザ光集光部10は、パルスレーザ光3を所定の位置に集光させるための集光用レンズ12が配置されている。この集光用レンズ12は、可動レンズホルダ13などによって移動可能に構成されて、集光調整することができる。なお、パルスレーザ光3を集光させる手段は、集光用レンズ12に限らず、例えば凹面鏡などを用いてもよい。
【0022】
さらにレーザ光集光部10の下側の先端部は、例えば透明なガラス等により形成された第2光学窓14が設けられている。
【0023】
レーザ光照射部15は、レーザ光集光部10の第2光学窓14が配置された位置に気密を保ちながら連結されている。このレーザ照射部15のパルスレーザ光3の下流側の先端部は開口されており、この開口部には試料ホルダ固定リング18が取り付けられている。この試料ホルダ固定リング18には、試料16を設置するための試料ホルダ17が取り付けられている。これらの試料ホルダ固定リング18および試料ホルダ17によって、レーザ光照射部15内部および試料16が設置された雰囲気は気密に保たれている。
【0024】
なお、本実施形態では、試料16が試料ホルダ17内に収まる大きさであるものとして、試料16を試料ホルダ17内に装荷する。元の試料16が大きくて試料ホルダ17内の収まらない場合には、小片を作成して、試料ホルダ17に装荷すればよい。
【0025】
レーザ光照射部15の側面には、その内部の雰囲気を所望のバッファガスに置換するためのバッファガス導入口19およびバッファガス排出口20が形成されている。例えば内部雰囲気の水分を排除して試料16中の水素や酸素を検出する場合には、バッファガスとしてHeガスなどが用いられる。このバッファガス導入口19およびバッファガス排出口20それぞれの開口方向は、レーザ光照射部15内を通るパルスレーザ光3の光軸に対して垂直としている。また、バッファガス導入口19およびバッファガス排出口20は、この光軸を中心に互いに対向する位置に形成されている。
【0026】
さらに、このレーザ光照射部15の側面には、2つのライトガイド用スリーブ、すなわち第1ライトガイド用スリーブ24aおよび第2ライトガイド用スリーブ24bが形成されている。第1および第2ライトガイド用スリーブ24a、24bは、互いに平行で且つパルスレーザ光3の光軸に対して垂直な方向に延びるように形成された略円筒形であって、パルスレーザ光3の光軸方向に並んでいる。これらの第1および第2ライトガイド用スリーブ24a、24bそれぞれには、略円柱状の第1ライドガイド23aおよび第2ライトガイド23bが挿入されている。
【0027】
試料16にパルスレーザ光3が集光照射されると、いわゆるブレイクダウンが生じて、試料16の照射表面16aの一部がプラズマ化する。このプラズマ化により発生したプラズマ光21は、集光照射された照射表面16aからレーザ光照射部15内を通るパルスレーザ光3の光軸に沿って発生する。第1および第2ライトガイド23a、23bは、このプラズマ光21のうち、照射表面16aからの距離が互いに異なる領域で発生した蛍光22を、導光する機能を有している。
【0028】
また、ライトガイドは、光学ガラスの円柱棒で構成された部材であって、その太さDは、ライトガイドのNA(開口数:numerical aperture)、ライトガイド端部とプラズマ光21との距離L、および蛍光22の測定領域におけるパルスレーザ光3の光軸方向(高さ方向)の幅Hなどにより決まる。
【0029】
ここで、NAは、ライトガイド23にどれだけの光量を集光できるかを示すパラメータであり、一般的には、光ファイバの特性を表すものである。ライトガイドが伝搬できる光線の最大入射角度θとNAの関係は、式(1)で表される。
【0030】
NA= sinθ …(1)
例えば、NA=0.2のライトガイドを用いると、このライトガイドによる蛍光22の測定領域の幅Hとこのライトガイド端部からプラズマ光21までの距離Lとの関係は、式(2)で表される。
【0031】
H=L・tan [sin-1(NA)] ≒ 0.2 L …(2)
このHで規定される領域で発光する蛍光22が、このライトガイドを透過することができる。この領域以外の蛍光22は透過できない。
【0032】
この蛍光22における測定対象の元素の発光強度は、プラズマ光21が発生している領域、すなわちパルスレーザ光3の光軸方向に沿った位置によって異なる。このため、第1および第2ライトガイド23a、23bを挿入する位置、すなわち第1および第2ライトガイド用スリーブ24a、24bを形成する位置は、測定対象の元素の発光強度が最も高くなる位置になるよう調整する。
【0033】
ここで異なる種類の元素Aおよび元素Bについて分析する例について図2を用いて説明する。この例では、元素Aは第1ライトガイド23aで検出し、元素Bは第2ライトガイド23bで検出する。元素Aから放出される蛍光22の発光強度が最も高くなる位置を図2中のA部で示し、元素Bから放出される蛍光22の発光強度が最も高くなる位置をB部で示している。
【0034】
このとき、第1ライトガイド23aが延びる方向の延長線が、A部と交わるように、第1ライトガイド用スリーブ24aを形成しておく。同様に、第2ライトガイド23bが延びる方向の延長線が、B部と交わるように、第2ライトガイド用スリーブ24bを形成する。
【0035】
なお、図中のA部およびB部に示すHおよびHは、元素Aおよび元素Bそれぞれの蛍光22の測定領域におけるパルスレーザ光3の光軸方向(高さ方向)の幅を示している。Lは第1ライトガイド23aの端部からA部までの距離を示し、Lは第2ライトガイド23bの端部からB部までの距離を示している。第1および第2ライトガイド23a、23b共にNA=0.2のものを用いた場合、これらのパラメータの関係は上記式(2)から式(3)、(4)のようになる。
【0036】
=L・tan [sin-1(NA)] ≒ 0.2 L …(3)
=L・tan [sin-1(NA)] ≒ 0.2 L …(4)
A部で発光する元素Aによる蛍光34aは、第1ライトガイド23a内に導光される。このとき元素Aにおける最大入射角θで第1ライトガイド23aへ入射した元素A最大入射蛍光35aは、第1ライトガイド23aの内面を反射しながら進んでいく。同様に、B部で発光する元素Bによる蛍光34bは、第2ライトガイド23b内に導光される。このとき元素Bにおける最大入射角θで第2ライトガイド23bへ入射した元素B最大入射蛍光35bは、元素A最大入射蛍光35aと同様に、第2ライトガイド23bの内面を反射しながら進んでいく。
【0037】
このように第1および第2ライトガイド用スリーブ24a、24bの位置を規定することによって、高い検出感度で元素検出を行うことができる。
【0038】
上記例の元素Aおよび元素Bのように、発光強度の最も高くなる位置は、元素の種類によって異なる場合が多い。このため、測定対象の元素が複数ある場合には、それぞれの元素の発光強度の最も高くなる位置と、ライトガイド用スリーブ24a、24bが形成される位置とを合わせておく。
【0039】
例えば、3種類の元素を分析する場合には、図3に示すように、パルスレーザ光3の光軸方向に沿って、第1ライトガイド用スリーブ24a、第2ライトガイド用スリーブ24b、第3ライトガイド用スリーブ24cを配置する。このとき、これらの第1〜第3ライトガイド用スリーブ24a、24b、24cそれぞれは、パルスレーザ光3の光軸に垂直に向いて且つ互いに平行に配置されて、3種類の元素それぞれの発光強度が最も高くなる位置に対応するように配置されている。これらの第1〜第3ライトガイド用スリーブ24a、24b、24cそれぞれに第1ライトガイド23a、第2ライトガイド23b、第3ライトガイド23cを配置する。これにより、複数の元素の検出を効果的に行うことが可能となる。
【0040】
このように、測定対象の元素の種類の数と同じ数のライトガイド23a、23b、23cを配置してもよいが、発光強度が最も高くなる位置が互いにほぼ等しい場合には、1つのライトガイド用スリーブ、例えば第1ライトガイド用スリーブ24aに挿入された第1ライトガイド23aによって検出してもよい。
【0041】
一方、レーザ光集光部10の上端部には、ダイクロイックミラー11と対向する位置にモニタ用カメラ33が配置されている。このモニタ用カメラ33には、集光用レンズ12の位置を移動したときに生じる焦点位置のシフトを補正する機能などが備えられている。このモニタ用カメラ33によって、レーザ光照射部15内や照射表面16aのレーザ光照射の状況を常時モニタすることが可能である。
【0042】
アライメント用レーザ発振器7は、パルスレーザ光3とは別のレーザ光を発振させる装置であって、例えば上記の照射表面16aのモニタのために用いられている。この場合のアライメント用レーザ光8は、先ず第2反射ミラー5を透過してレーザ光集光部10へ送られる。レーザ光集光部10へ送られたアライメント用レーザ光8の一部は、ダイクロイックミラー11で反射して試料16を照射する。試料16で反射したアライメント用レーザ光8の一部は、ダイクロイックミラー11を透過して、モニタ用カメラ33に取り込まれる。モニタ用カメラ33では、このアライメント用レーザ光8を利用して、照射表面16aやレーザ光集光部10内の状態をモニタすることができる。
【0043】
バッファガスは、図2に示す矢印36のように、バッファガス導入口19からレーザ光照射部15内を通ってバッファガス排出口20に向かって流れている。このようにバッファガスを流すことにより、レーザ光照射部15の内部の雰囲気を、バッファガスに置換している。
【0044】
上記のように複数のライトガイド用スリーブ24a、24b、24cが形成されているため、ライトガイド23は、パルスレーザ光3の光軸に垂直で且つバッファガス導入口19およびバッファガス排出口20の開口方向に垂直に配置されている。よって、バッファガスは、パルスレーザ光3の光軸に垂直で且つ各ライトガイド23a、23b、23cが延びる方向に垂直に流れる。これにより、レーザ光照射などにより生じるヒューム等が、各ライトガイド23a、23b、23cの端部に付着することを抑制できる。
【0045】
また、図4に示すように、第1〜第3ライトガイド用スリーブ24a、24b、24cに対向する位置に、第4ライトガイド用スリーブ24dを配置してもよい。この場合においても、これらの第1〜第4ライトガイド用スリーブ24a、24b、24c、24dは、パルスレーザ光3の光軸に垂直で且つバッファガス導入口19およびバッファガス排出口20の開口方向に垂直に形成される。
【0046】
このような構成によって、より多くのライトガイドの配置が可能になり、多くの元素を効率よく検出することができる。
【0047】
次に、元素分析装置におけるパルスレーザ光3、プラズマ光21、および蛍光22の作用について説明する。
【0048】
レーザ発振器1によって1つのパルスのエネルギが10mJ程度で、パルス幅5ns程度のパルスレーザ光3を発生させる。このようなパルスレーザ光3の1パルスの出力は、約2MWとなる。集光用レンズ12等を介して試料16にパルスレーザ光3が集光照射されると、上記のように、照射表面16aの一部がプラズマ化する。このプラズマ化によりプラズマ光21が発生する。
【0049】
このプラズマ光21はパルスレーザ光3の照射終了と共に再結合が始まる。数μs〜数十μsの間は、試料16を構成する元素が励起状態の原子となる。このときの励起状態の原子は、下準位に遷移するときに原子数に比例した蛍光22を放出する。
【0050】
この蛍光22のうち、プラズマ光21の上記のA部またはB部などの計測領域で発生したもののみが第1ライトガイド23aまたは第2ライトガイド23bに導光されて、光ファイバ統合器25および蛍光伝送用光ファイバ26を介して、蛍光検出器27に入射する。蛍光検出器27に入射した蛍光22は、電気信号に変換された蛍光信号28となって計測制御用コンピュータ29に伝達される。
【0051】
計測制御用コンピュータ29は、タイミングコントローラ31により出力されたタイミング信号32から、所定時間だけ遅れた蛍光測定用のゲート信号30を伝達する。これらの信号伝達によって、計測制御用コンピュータ29は、レーザ光照射後の特定の時間帯に生成された蛍光22のみを計測する。
【0052】
以上の説明からわかるように、本実施形態では、試料16の雰囲気をバッファガスで置換して、測定対象元素の測定位置を最適化して、パルスレーザ光3の照射後の特定の時間帯でプラズマ光21中の蛍光22を測定する。これにより、雰囲気中の分子の影響を抑制して、測定対象の元素から放出される蛍光22を高感度で且つ高S/N(信号対雑音比)で測定できる。よって、LIBS法による元素分析の精度を向上させることが可能となる。
【0053】
[第2の実施の形態]
本発明に係る元素分析装置の第2の実施形態について、図5を用いて説明する。図5は、本実施形態の元素分析装置のレーザ光照射部15の縦断面図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0054】
試料16が大きな平面状にあって且つ小片を作成ができない場合には、この試料16を試料ホルダ17内へ設置することが困難になる。これに対応するために、本実施形態では、試料ホルダ17を外し、試料ホルダ固定リング18に、試料16を直接取り付ける。図5に示す例で、試料16は、例えば既設の大形装置の壁面の一部である。
【0055】
この試料ホルダ固定リング18の試料取付け部18aは、例えば柔軟性のあるシール材などにより気密性が保たれた構造にして、ガス置換を行えるように形成されている。
【0056】
これより、大きな試料16に対して、この試料16の照射表面16aにレーザ光を照射する前にバッファガスで雰囲気を置換して、元素分析を行うことができる。また、このような試料16に対応可能であるため、元素分析を行う対象物がプラント等に設置された状態でも、元素分析を行うことができる。
【0057】
[第3の実施の形態]
本発明に係る元素分析装置の第3の実施形態について、図6を用いて説明する。図6は、本実施形態の元素分析装置の一部を示す縦断面図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0058】
試料16には、試料ホルダ17内に収まらない大きさで且つ試料16の照射表面16aが曲面形状である場合がある。この場合には、第2の実施形態と同様に、先ず、試料ホルダ17を取り外して、試料ホルダ固定リング18に試料16を直接取り付ける。
【0059】
さらに、図6に示すように、試料ホルダ固定リング18の試料取付け部18a、すなわち試料16との接触面は、試料16表面の曲面に適合可能に形成されている。この図の例で、試料16は、例えば既設プラントの配管の一部である。この試料取付け部18aは、第2の実施形態と同様に、例えば柔軟性のあるシール材などにより気密性が保たれた構造にして、ガス置換を行えるように形成されている。また、このような試料16に対応可能であるため、第2の実施形態と同様に、元素分析を行う対象物がプラント等に設置された状態でも、元素分析を行うことができる。
【0060】
[第4の実施の形態]
本発明に係る元素分析装置の第4の実施形態について、図7を用いて説明する。図7は、本実施形態の元素分析装置の構成を示す一部縦断面のブロック図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0061】
本実施形態のレーザ光伝送部52は、光ファイバによってレーザ光集光部10へ伝送する。
【0062】
レーザ発振器1から発振されたパルスレーザ光3は、光ファイバ入射光学系38に入り、光ファイバ出射光学系39から照射される。光ファイバ出射光学系39から照射されたパルスレーザ光3は、第1光学窓9の外側付近に配置されたコリメータレンズ40を介して、レーザ光集光部10に送られる。
【0063】
本実施形態によれば、レーザ発振器1の持ち込み困難な場所に配置された分析対象物に対しても、その場で第1〜第3の実施形態と同様に、元素分析を行うことが可能である。
【0064】
[その他の実施形態]
上記の実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成はこれらの実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0065】
上記の第1〜第4の実施形態では、レーザ発振器1にはYAGレーザ発振器が適用されているが、これに限らない。レーザブレイクダウンが可能なパルスレーザであれば、例えばエキシマレーザやCO2レーザなどを用いることもできる。
【0066】
また、第1〜第4の実施形態の特徴を組み合わせることも可能である。例えば第2または第3の実施形態の元素分析装置に、第4の実施形態の特徴である光ファイバを用いることもできる。
【0067】
また、分析ヘッド51全体の気密性を保持することにより、液体中に配置された分析対象構造物に対する元素分析を行うこともできる。
【0068】
また、試料中の水素や酸素の原子を検出しようとする場合には、雰囲気中の水分の影響を可能な限り低減しておく必要がある。一般に、空気中におかれた試料16の表面には、水分が多く吸着している。この水分は、水素や酸素の原子の検出に対して大きな阻害要因となる。このため、試料16へパルスレーザ光3を照射してブレイクダウンが生じる前に、試料16の表面の乾燥または付着物質の除去を行う必要がある。
【0069】
これに対応する例としては、先ず、試料16を測定する前にレーザ光集光部10のレーザ光集光レンズ12の位置をデフォーカスの位置に移動してパルスレーザ光3を照射することにより、試料16表面のクリーニングを行う。この後に、レーザ光集光レンズ12の位置を所定の集光位置に移動させてパルスレーザ光3を照射して分析を行う。これにより、試料16の表面の汚れの影響が低減し、測定精度をより向上させることができる。
【0070】
また、クリーニングを行うときに、アライメント用レーザ光8を用いてもよい。この場合、アライメント用レーザ発振器7によって、レーザ光の波長やパルス幅などを選択して適切な出力となるように調整し、試料16の表面付着物を除去する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る第1の本実施形態の元素分析装置の構成を示す一部縦断面のブロック図である。
【図2】図1のレーザ光照射部の拡大縦断面図である。
【図3】図1のレーザ光照射部のみを取り出した状態の外観であって、図1のレーザ光照射部にさらに第3ライトガイド用スリーブを配置した状態を示す概略斜視図である。
【図4】図3のレーザ光照射部にさらに第4ライトガイド用スリーブを配置した状態を示す概略下面斜視図である。
【図5】本発明に係る第2の本実施形態の元素分析装置のレーザ光照射部の縦断面図である。
【図6】本発明に係る第3の本実施形態の元素分析装置の一部を示す縦断面図である。
【図7】本発明に係る第4の本実施形態の元素分析装置の構成を示す一部縦断面のブロック図である。
【符号の説明】
【0072】
1…レーザ発振器、2…レーザ電源、3…パルスレーザ光、4…第1反射ミラー、5…第2反射ミラー、7…アライメント用レーザ発振器、8…アライメント用レーザ光、9…第1光学窓、10…レーザ光集光部、11…ダイクロイックミラー、12…集光用レンズ、13…可動レンズホルダ、14…第2光学窓、15…レーザ光照射部、16…試料、16a…照射表面、17…試料ホルダ、18…試料ホルダ固定リング、18a…試料取付け部、19…バッファガス導入口、20…バッファガス排出口、21…プラズマ光、22…蛍光、23a…第1ライトガイド、23b…第2ライトガイド、23c…第3ライトガイド、24a…第1ライトガイド用スリーブ、24b…第2ライトガイド用スリーブ、24c…第3ライトガイド用スリーブ、24d…第4ライトガイド用スリーブ、25…光ファイバ統合器、26…蛍光伝送用光ファイバ、27…蛍光検出器、28…蛍光信号、29…計測制御用コンピュータ、30…ゲート信号、31…タイミングコントローラ、32…タイミング信号、33…モニタ用カメラ、34a…元素Aによる蛍光、34b…元素Bによる蛍光、35a…元素A最大入射蛍光、35b…元素B最大入射蛍光、38…光ファイバ入射光学系、39…光ファイバ出射光学系、40…コリメータレンズ、51…分析ヘッド、52…レーザ光伝送部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含有される元素濃度を分析する元素分析装置において、
前記試料に照射するとプラズマが発生するレーザ光を生成するレーザ光発振装置と、
前記レーザ光を伝送するレーザ光伝送部と、
前記レーザ光伝送部により伝送された前記レーザ光を所定の位置に集光させるレーザ光集光部と、
前記レーザ光集光部で集光された前記レーザ光を試料表面に照射するレーザ光照射部と、
前記レーザ光照射部先端に配置されて、前記レーザ光照射部内およびレーザ光照射を受ける前記試料表面の雰囲気を気密に保持する気密保持手段と、
前記レーザ照射部の側面に配置されて、前記レーザ光照射部内の雰囲気を置換するためのバッファガスを供給するバッファガス供給口と、
前記レーザ照射部の側面に配置されて、前記レーザ光照射部内の前記バッファガスを排出するバッファガス排出口と、
前記レーザ光照射装置内のレーザ光軸と垂直な方向で、前記レーザ光照射部の内部から壁面を貫通して外側に延びて、前記プラズマから発生する蛍光の一部を集光するライトガイドと、
前記ライトガイドにより集光された前記蛍光を検出する蛍光検出装置と、
前記蛍光検出装置で検出した前記蛍光の波長および強度に基づいて元素含有量を定量する手段と、
を有することを特徴とする元素分析装置。
【請求項2】
前記気密保持手段は、前記レーザ光照射部先端に気密を保ちながら着脱可能に取り付けられて、内部に前記試料を収容する試料ホルダを有することを特徴とする請求項1に記載の元素分析装置。
【請求項3】
前記気密保持手段は、前記レーザ光照射部先端および前記試料表面の間に気密を保ちながら配置される試料設置用リングを有することを特徴とする請求項1に記載の元素分析装置。
【請求項4】
前記バッファガス排出口は、前記レーザ光照射部を通るレーザ光を中心にして、前記バッファガス供給口と対向する位置に配置されて、
前記ライトガイドは、前記バッファガス導入口およびバッファガス排出口それぞれの開口方向に対して垂直に延びるように配置されていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項5】
前記ライトガイドは、前記レーザ光照射部内を通る前記レーザ光の光軸方向に沿って複数個所に取付け可能に構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項6】
前記レーザ光集光部は、その内部に所定の波長帯を反射させて可視光の一部を透過するように構成されたミラーが配置されて、このミラーに対して前記試料と反対側端部にはモニタ用カメラが配置されて、このモニタ用カメラによって、前記レーザ光照射部内を視認可能に構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項7】
前記レーザ光を前記試料に照射するときの集光位置から所定の距離だけ離れたデフォーカス位置に集光可能に構成されて、このデフォーカス位置で集光された前記レーザ光によって前記試料をクリーニング可能に構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項8】
アライメント用レーザ光を生成するアライメント用レーザ光発振装置を有し、
前記アライメント用レーザ光によって、前記試料をクリーニング可能に構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項9】
前記レーザ伝送部は、光ファイバにより前記レーザ光を伝送するように構成されていることを特徴とる請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項10】
試料に含有される元素濃度を分析する元素分析方法において、
前記試料が設置された雰囲気をバッファガスに置換するバッファガス置換工程と、
前記バッファガス置換工程の後に、パルスレーザ光を前記試料に照射させてプラズマ光を発生させるレーザ光照射工程と、
前記レーザ光照射工程の後に、前記プラズマ光から発生する蛍光の一部を集光する蛍光検出工程と、
前記蛍光検出工程の後に、集光された前記蛍光の元素含有量を定量する元素分析工程と、
を有することを特徴とする元素分析方法。
【請求項11】
前記レーザ光照射工程前の前に、前記レーザ光により前記試料の表面をクリーニングする試料表面クリーニング工程を有することを特徴とする請求項10に記載の元素分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−38557(P2010−38557A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198303(P2008−198303)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】