充填剤及び該充填剤を含有する歯科用複合材料
【課題】高い耐水・耐酸性を有し、かつフッ素イオンなどのイオンの高い放出機能を有し、さらに高い審美性を長期的に維持することのできる充填剤、ならびに該充填剤を含有し、耐水・耐酸性、イオン放出性及び審美性に優れる歯科用複合材料を提供すること。
【解決手段】少なくとも1種の金属酸化物と、少なくとも1種の水溶性金属塩を含み、該金属酸化物と該水溶性金属塩が互いに独立した相を形成してなる充填剤であって、該水溶性金属塩の相が平均粒径0.001μm〜0.3μmの該水溶性金属塩の結晶からなる充填剤の製造方法であって、前記金属酸化物および/または加水分解可能な有機金属化合物の加水分解物と前記水溶性金属塩の水溶液とを混合した後、得られた混合物の乾燥を行うことを特徴とする、充填剤の製造方法。
【解決手段】少なくとも1種の金属酸化物と、少なくとも1種の水溶性金属塩を含み、該金属酸化物と該水溶性金属塩が互いに独立した相を形成してなる充填剤であって、該水溶性金属塩の相が平均粒径0.001μm〜0.3μmの該水溶性金属塩の結晶からなる充填剤の製造方法であって、前記金属酸化物および/または加水分解可能な有機金属化合物の加水分解物と前記水溶性金属塩の水溶液とを混合した後、得られた混合物の乾燥を行うことを特徴とする、充填剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填剤(以下、フィラーという場合がある)及び該充填剤を含有する歯科用複合材料に関する。本発明の歯科用複合材料は、歯科用充填用コンポジットレジン、支台築造用コンポジットレジン、歯冠用コンポジットレジン、義歯床用レジン、歯科用接着性レジンセメント、歯科用フィッシャーシーラント、歯科用バーニッシュ又はコーティング剤、歯科用ボンディング剤、歯質接着用プライマー、歯科用マニキュア、根管充填材などに使用される。
【背景技術】
【0002】
歯の齲蝕や欠損の治療に際して、従来の金属材料に代わって、樹脂と無機充填剤からなる歯科用複合材料(以下、複合材料という場合がある)が多く使用されている。このような複合材料は、機械的強度、審美性、耐久性などに優れており、目的の部位の形態の復元や、歯科用材料を歯に接着するための接着剤として有用である。
【0003】
近年、これらの複合材料にイオン放出機能、特にフッ素イオンを放出する機能を付加した材料が臨床で用いられるようになった。これらの材料は、修復後の歯に対してフッ素イオンを供給することによって、歯の構成主成分であるハイドロキシアパタイトをより耐酸性の高いフルオロアパタイトに変化させて歯の抗齲蝕性を高めたり、唾液や組織液中のミネラル成分の石灰化を促進させるなどの機能を有する。それゆえ、齲蝕の発生や再発の予防のために臨床で使用される機会が増えてきている。
【0004】
これらの複合材料においてフッ素イオン放出源として働くフィラーとして従来から用いられているものには、フルオロアルミノシリケートガラスのようにフッ素を含有するガラスや、フッ素を含有する有機高分子化合物(特許文献1参照)、金属フッ化物の溶液の溶媒を昇華して得られる微粒子(特許文献2参照)等が知られている。また、最近では、表面にポリシロキサン被覆層を有する金属フッ化物(特許文献3参照)が提案されている。該文献では、該金属フッ化物を含む複合材料は機械的強度やフッ素イオン放出量に優れることが開示されている。かかる技術は、基本的には、金属フッ化物の粒子の表面をシランカップリング剤で表面処理して用いる技術の範囲内と考えられる。
【特許文献1】特開平5−85915号公報
【特許文献2】特開平2−258602号公報
【特許文献3】特開平10−36116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フッ化ナトリウムやフルオロアルミノシリケートガラスをフィラーとして含有する複合材料を歯の欠損部に充填した後研磨仕上げをした場合、口腔内に露出したこれらの粒子が水分に接触した時に、フッ素イオンが効果的に口腔内に放出される一方、同時にフィラー自身が徐々に溶解し、複合材料の表面から脱落したり、フィラーの内部にボイドを生じ、複合材料の審美性や機械的強度が低下する。もっとも高頻度で使用されているフルオロアルミノシリケートガラスは、曝露される水の酸性度が高くなると溶解しやすく、口腔内で起こるpH変動の範囲内(pH5〜7)でも溶解が生ずる。
【0006】
一方、フッ素を含有する高分子化合物は、上述したような複合材料の表面性状の劣化や、機械的強度の低下を生じさせることはないが、該高分子化合物自身の透明性が低いために複合材料の審美性を低下させる。また、複合材料からのフッ素イオンの放出速度は緩やかであるので、早期に臨床的な効果が現れにくい。
【0007】
フッ素イオン放出源を複合材料のフィラーとして用いる場合、複合材料の審美性を確保するために、複合材料の適度な透明性が重要である。複合材料の透明性を確保するためには、フィラーに用いられる、例えば、フルオロアルミノシリケートガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラス、ランタン含有ガラスなどのX線不透過性ガラスと、複合材料を構成する樹脂との可視光線の屈折率の差を低減することが有効である。ところが、フッ素イオン放出源としてしばしば用いられるフッ化ナトリウムは、前述したフィラーや高分子化合物と比べて著しく光屈折率が低いため、多量に添加すると複合材料の透明度の低下をもたらし、複合材料の審美性を悪化させてしまう。
【0008】
前述の特許文献3に示された表面にポリシロキサン被覆層を有する金属フッ化物を用いる技術においても、用いられている金属フッ化物の粉末の粒径が大きいため、口腔内での金属フッ化物粒子の溶解に起因して生じるボイド(穴)が大きかったり、これを含む複合材料の透明性が低下するという欠点があった。
【0009】
本発明の課題は、高い耐水・耐酸性を有し、かつフッ素イオンなどのイオンの高い放出機能を有し、さらに高い審美性を長期的に維持することのできる充填剤と、該充填剤を含有し、耐水・耐酸性、イオン放出性及び審美性に優れる歯科用複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を満足する充填剤及び該充填剤を含有する歯科用複合材料を得るため鋭意検討した結果、少なくとも1種の金属酸化物と少なくとも1種の水溶性金属塩の混合物からなる充填剤において、両成分の相を互いに独立したものとし、かつ該水溶性金属塩の相を特定の平均粒径を有する該水溶性金属塩の結晶とすること、並びに該充填剤を歯科用複合材料に配合することによって上記課題が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、
少なくとも1種の金属酸化物と、少なくとも1種の水溶性金属塩を含み、該金属酸化物と該水溶性金属塩が互いに独立した相を形成してなる充填剤であって、該水溶性金属塩の相が平均粒径0.001μm〜0.3μmの該水溶性金属塩の結晶からなる充填剤の製造方法であって、前記金属酸化物および/または加水分解可能な有機金属化合物の加水分解物と前記水溶性金属塩の水溶液とを混合した後、得られた混合物の乾燥を行うことを特徴とする、充填剤の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い耐水・耐酸性を有し、かつフッ素イオンなどのイオンの高い放出機能を有し、さらに高い審美性を長期的に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の充填剤は、少なくとも1種の金属酸化物と少なくとも1種の水溶性金属塩を含み、該金属酸化物と該水溶性金属塩とが互いに独立した相を形成してなるものであり、該水溶性金属塩の相が平均粒径0.001μm〜0.3μmの該水溶性金属塩の結晶からなることを1つの大きな特徴とする。かかる構成を有することから、本発明の充填剤は、例えば、以下のような優れた性質を有する。
【0014】
(1)イオン放出性
本発明の充填剤はイオン放出源として微小な水溶性金属塩の結晶を含むことから、例えば、該充填剤が水と接触した場合に迅速なイオンの放出が生ずる。従って、該充填剤を、例えば、歯科用複合材料に用いた場合、齲蝕の発生や再発の予防等の臨床的な効果の早期発現が成されうる。
【0015】
(2)耐水性および耐酸性
本発明の充填剤に含まれる水溶性金属塩の結晶は微小であるので、イオンの放出に伴う該水溶性金属塩の相の崩壊による充填剤構造への実質的な影響はない。従って、例えば、該充填剤を歯科用複合材料に用いた場合、口腔内のような水系の酸性状態において、従来のイオン放出性充填剤とは異なり、イオンの放出に伴う影響、例えば、歯科用複合材料からの充填剤の脱落、充填剤と樹脂部との間隙の形成、充填剤中のボイドの形成等が生じないという、優れた耐水性および耐酸性を示す。
【0016】
(3)機械的強度
本発明においては金属酸化物として従来のイオン放出性を有しない無機充填剤の構成成分である金属酸化物が使用され、当該金属酸化物は本発明の充填剤の主として骨格として機能する(すなわち、金属酸化物はドメイン相であって、水溶性金属塩は分散相ということができる)。従って、本発明の充填剤は従来の無機充填剤と同等の機械的強度(主に圧縮耐性)を有する。また、本発明の充填剤はイオン放出性を示すにもかかわらず、前記するように優れた耐水性および耐酸性を有することから、例えば、口腔内のような環境に長時間に渡って曝露されても充填剤の構造崩壊は実質的に起こらず、従って、優れた耐久性を示す。
【0017】
(4)審美性
本発明の充填剤に含まれる水溶性金属塩の結晶は微小であるので、該水溶性金属塩は充填剤自身の屈折率に対して実質的な影響は及ぼさない。それゆえ、使用する金属酸化物を適宜選択することにより該充填剤の透明性を向上させることができる。歯科用複合材料の透明性の向上には、充填剤と該複合材料を構成する樹脂との可視光線の屈折率の差を低減することが有効であるが、本発明においては充填剤に使用される金属酸化物と歯科用複合材料に使用される樹脂との関係を両者の屈折率の観点から調整するだけで該複合材料の透明性を向上させることができる。例えば、充填剤の屈折率は使用する金属酸化物の含有量を調節したり、当該金属酸化物の種類を変えたりすることで容易に調節することができる。また、歯科用複合材料の透明性の向上には、屈折率以外に充填剤に含まれる水溶性金属塩の結晶の粒径が大きく関与する。すなわち、充填剤内部の該結晶の粒径が大きい場合、内部での光散乱が大きくなり、歯科用複合材料の透明性が低下する。本発明の充填剤に含まれる水溶性金属塩の結晶の粒径は微小であるので、同等の屈折率を有する公知のイオン放出性充填剤と比べて、歯科用複合材料に用いた場合、当該複合材料はより優れた透明性を発揮しうる。さらに、本発明の充填剤は前記するように優れた耐水性および耐酸性を有することから、口腔内のような環境に曝された場合にも外観の様相が変化することはない。このように、本発明の充填剤は審美性にも優れる。
【0018】
本発明によれば、以上のような、従来の充填剤、特にイオン放出性の充填剤に比べ非常に優れた性質を有する充填剤が提供される。当該充填剤は歯科用複合材料の構成成分として非常に有用である。また、当該充填剤を使用して、耐水・耐酸性、イオン放出性及び審美性に優れる歯科用複合材料が得られる。
【0019】
本発明の充填剤は少なくとも1種の金属酸化物と少なくとも1種の水溶性金属塩とが互いに独立した相を形成してなるものである。ここで、「独立した相を形成する」とは、金属酸化物と水溶性金属塩が溶解して完全に均一な相を形成しているのではなく、別個の相を形成していることをいう。例えば、金属酸化物の相中に水溶性金属塩の結晶からなる相が実質的に均一に分布しているのが好ましい。なお、これらの相の状態は第1図又は第3図の写真に示されるように、例えば後述する実施例に記載の方法により、走査型電子顕微鏡(例えば、倍率:30000倍)を用いて確認することができる。
【0020】
水溶性金属塩の相を形成する該水溶性金属塩の結晶の平均粒径としては、本発明の所望の効果の発現の観点から、0.001μm〜0.3μmの範囲である。また、充填剤の透明性、耐水・耐酸性、さらには該充填剤を含む歯科用複合材料のイオン放出性、透明性がより優れているという観点から、前記結晶の平均粒径としては0.001μm〜0.25μmであるのが好ましく、0.001μm〜0.2μmであるのがより好ましい。さらに、耐水・耐酸性により一層優れたものが得られるので、粒径0.3μm以上の結晶数の割合が20%以下であるのが好ましく、10%以下であるのがより好ましく、5%以下であるのが更に好ましい。ここで、結晶数とはドメイン相中の分散相の数をいう。結晶の粒径及び平均粒径は後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0021】
本発明に使用される金属酸化物は従来の歯科用充填剤に使用される金属酸化物でよく特に限定されるものではない。例えば、350℃以下の空気中において結晶構造、分子構造に変化がなく化学的に安定なものであればよく、当該金属酸化物としては、例えば、二酸化珪素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウム等が挙げられる。本発明においては、それらの具体的に例示した金属酸化物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物が好適であり、充填剤のイオン放出性、透明性、製造コストという観点から、中でも二酸化珪素がより好適である。
【0022】
また、X線遮蔽(不透過)性の面からは原子番号の大きな元素を含む金属酸化物、例えば、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウム等が特に好適であり、それらの具体的に例示した金属酸化物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物がさらに好適である。
【0023】
また、金属酸化物の組み合わせとしては、二酸化珪素と、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化ランタンおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1種の化合物との組み合わせが好ましく、二酸化珪素と、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1種の化合物との組み合わせがより好ましい。
【0024】
本発明で使用する水溶性金属塩は水に溶解してイオンを放出するものであれば特に限定されるものではなく、水に難溶であっても僅かに溶解するものも含まれる。例えば、水溶性金属塩としては、25℃の中性の水に対する溶解度が0.1重量%以上であるものが好適に使用される。かかる水溶性金属塩としては、歯の表面の再石灰化や、歯の抗齲蝕性の付与の観点からは、フッ素を含有する水溶性金属塩が好ましく用いられる。具体的には、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マンガン(II)、フッ化鉄(II)、フッカ鉄(III)、フッ化コバルト(II)、フッ化銅(II)、フッ化亜鉛、フッ化アンチモン(III)、フッ化鉛(II)、フッ化銀(I)、フッ化カドミウム、フッ化錫(II)、フッカ錫(IV)、フッ化ジアンミン銀、フッ化アンモニウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化水素カリウム、フルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロチタン酸カリウム、ヘキサフルオロ珪酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロ錫(IV)ナトリウム、ヘキサフルオロ錫酸(IV)アラニン、ペンタフルオロ二錫酸(II)ナトリウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸カリウム等を用いることができる。
【0025】
なかでも、周期表の第I属と第II属の金属のフッ化物であるフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウムなどが好ましく、とくにフッ化ナトリウムが好ましい。
【0026】
上記フッ素化合物以外の水溶性金属塩としては、該金属塩が水に溶解することによって、ハイドロキシアパタイトの材料となるカルシウムイオンやリン酸イオンを遊離する物質、及びハイドロキシアパタイトの結晶化を促進すると考えられている炭酸イオンや、マグネシウムイオンを遊離する物質などをあげることできる。
【0027】
当該水溶性金属塩としては、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物が好適に使用される。それらの具体例としては、ビス(リン酸二水素)カルシウム、リン酸四カルシウム、塩化カルシウムなどの水溶性カルシウム塩、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウムなどの水溶性リン酸塩などをあげることができる。
【0028】
すなわち、本発明においては、水溶性金属塩として、(i)フッ素化合物、および/または(ii)アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物が好適に使用される。
【0029】
本発明の充填剤と該充填剤を含有する歯科用複合材料が発現する驚くべき特性の一つは、これらが水と接触したときに、水溶性金属塩からのフッ素イオンなどのイオンの高い放出量が得られると共に、耐水・耐酸性に優れることである。前記充填剤や歯科用複合材料がこのような特性を発揮するためには、充填剤中に、金属酸化物が60〜95モル%、水溶性金属塩が5〜40モル%含まれるように配合するのが好ましい。また、金属酸化物が70〜90モル%、水溶性金属塩が10〜30モル%含まれるように配合するのがより好ましい。
【0030】
なお、本発明の充填剤には、本発明の所望の効果の発現を阻害しない限り、その他の成分を含有させてもよい。
【0031】
本発明の充填剤は、金属酸化物の相内部に、水溶性金属塩の相が平均粒径0.3μm以下の大きさで分布していることを1つの特徴とする。かかる充填剤の製造は、金属酸化物および/または当該金属酸化物の起源となりうる物質である、加水分解可能な有機金属化合物(例えば、後述の金属アルコキシド化合物等)の加水分解物と、水溶性金属塩の水溶液とを攪拌して混合し、しかる後に得られた混合物を乾燥することにより行うことができる。なお、混合物の乾燥前には、所望により溶媒を濾過等の方法により予め除去してもよい。また、乾燥後には、所望により粉砕を行ってもよい。さらに乾燥する際に同時に、例えば、混合物を常圧下、好ましくは50〜180℃、より好ましくは50〜150℃に維持することにより、効率的な溶媒の除去や、金属アルコキシドの加水分解物の脱水縮合の促進を目的として、同時に熱処理を行ってもよい。かかる本発明の充填剤の製造方法は本発明に包含される。
【0032】
より具体的には、例えば、(1)平均粒径が0.1μm以下の金属酸化物の微粒子(例えば、金属酸化物ゾル)を水溶性金属塩の水溶液に分散させ、水を蒸発させて得られた固形物を熱処理して金属酸化物の微粒子を融着させ、得られたバルクを粉砕する方法、(2)加水分解可能な有機金属化合物の少なくとも1種を水を含む溶媒に均一に混合して、酸性、中性、またはアルカリ性の条件下で加水分解し、得られた加水分解物の水溶液と水溶性金属塩の水溶液とを混合し、金属酸化物を生成させると同時に金属酸化物の相内部に水溶性金属塩の相を形成する当該水溶性金属塩の結晶を取り込ませる方法、また、これと類似の方法で、(3)加水分解可能な有機金属化合物を加水分解して金属酸化物をゾルとして得て、この金属酸化物ゾルと水溶性金属塩の水溶液とを均一に混合した後、溶媒を蒸発させ、得られた固形物を必要に応じて解砕する方法を挙げることができる。これらの方法は、本発明において好ましく用いられる。
【0033】
前記金属酸化物ゾルの例としては、例えば、シリカゾル(例えば、日産化学社製の商品名「スノーテックス」)、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾルが挙げられる。
【0034】
加水分解可能な有機金属化合物の例としては、以下のような有機珪素化合物等を挙げることができる。有機珪素化合物の場合、Si(OR)4で表される化合物(ここで、Rは炭素数1〜8の直鎖のもしくは分岐したアルキル基を表し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられる)が特に好ましい。また、有機珪素化合物以外では、周期表の第II、III、IV族の元素(例えば、Ti、Zr、Ba、La、Mg、Ni、Taなど)を含む有機金属化合物が好ましく、MII(OR)2、MIII(OR)3、MIV(OR)4(ここで、MIIは第II族の金属、MIIIは第III族の金属、MIVは第IV族の金属を表し、Rは炭素数1〜8の直鎖のもしくは分岐したアルキル基を表し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられる)で表される化合物が好適に用いられる。また、Zr[Al(OC3H7)4]2の様に、金属アルコキシドを2種以上含む多金属アルコキシドも用いられることがある。
【0035】
上記の(2)および(3)の製造方法において、金属酸化物の加水分解物や金属酸化物ゾルを含む溶液と、水溶性金属塩の水溶液とを混合すると、混合物として透明〜半透明の含水ゲルが生成することがある。このような含水ゲルから水を含む溶媒を蒸発させて乾燥させる方法は、本発明の充填剤の製造方法として特に好ましい。当該ゲルを乾燥した後、得られたバルクを所望により適宜粉砕することで目的の充填剤が得られる。
【0036】
本発明の充填剤の製造方法においては、前記混合物を乾燥する際の乾燥速度が該充填剤において金属酸化物の相内部に分散する水溶性金属塩の相を成す該金属塩の結晶の粒径(相の大きさ)に関与するため、該結晶が所望の平均粒径を有するものとなるように混合物の乾燥速度を調節する必要がある。すなわち、混合物中の水の蒸発に伴って混合物の内部では水溶性金属塩が徐々に析出してくるが、蒸発の速度が速いほど該結晶の粒径が大きくなる傾向があるので、該結晶の粒径を小さく調節するためには、乾燥速度をなるべく遅く設定することが望ましい。乾燥は通常、常圧下、室温(20℃)〜180℃において数時間〜数十日間程度で行うことが好適である。
【0037】
なお、金属酸化物や水溶性金属塩を溶解及び/又は分散するための溶媒としては、除去し易く、歯科用途に悪影響を及ぼさないものであればよく、前記例示の方法において使用する水以外にも、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール類を水と混合して、もしくは単独で使用してもよい。なお、当該低級アルコール類は複数種類を併用してもよい。また、本発明の充填剤の製造方法における加水分解や粉砕は公知の方法に従って行えばよい。
【0038】
以上のようにして得られる本発明の充填剤は歯科用複合材料の構成成分などの歯科用に使用するのが好ましい。よって、本発明により、さらに当該充填剤を含有してなる歯科用複合材料が提供される。
【0039】
かかる歯科用複合材料は本発明の充填剤(a)、重合性単量体(b)及び重合開始剤(c)を含有してなるものであり、その構成は、本発明の充填剤(a)を含有する点を除く他は、公知の歯科用複合材料と同様である。
【0040】
本発明の歯科用複合材料における充填剤(a)の含有量は本発明の所望の効果が得られる限り特に限定されるものではないが、特にフッ素イオン放出量と該複合材料の耐水(酸)性の確保の観点から、充填剤(a)の含有量としては1〜90重量%であるのが好ましい。また、当該含有量としては1〜50重量%であるのがより好ましく、5〜30重量%であるのがさらに好ましい。
【0041】
歯科用複合材料を製造するには、前記した充填剤(a)、重合性単量体(b)及び重合開始剤(c)を混合、調製すればよい。
【0042】
歯科用複合材料の透明性は高い方が望ましいが、このためには、該複合材料を構成する充填剤と、充填剤が分散される分散媒の硬化物(樹脂)との可視光線の屈折率をできるだけ合致させるのがよい。
【0043】
通常、歯科用複合材料に充填剤として使用されるX線不透過性を有する金属酸化物やこれらの酸化物を原料とするガラスは光屈折率が高い。従って、歯科用複合材料の透明性を上げるためには、当該複合材料に配合される樹脂の屈折率に応じて、配合される充填剤の屈折率を、好ましくは1.4〜1.7の範囲に調整するのが望ましい。そのような充填剤は、例えば、金属酸化物と水溶性金属塩とを前記好適な範囲内で含有するように配合することにより得られる。具体的には、金属酸化物として二酸化珪素を使用する場合、二酸化珪素(もしくは、その他の金属酸化物との混合物)を60〜95モル%、水溶性金属塩、好ましくはフッ化ナトリウム(もしくは、その他の水溶性金属塩との混合物)を5〜40モル%の範囲で配合するのが好ましく、二酸化珪素(もしくは、その他の金属酸化物との混合物)を70〜90モル%、フッ化ナトリウム(もしくは、その他の水溶性金属塩との混合物)を10〜30モル%の範囲で配合するのがより好ましい。
【0044】
また、歯科用複合材料に使用される充填剤(a)の粒径は当該歯科用複合材料の目的により適宜選択されうるが、充填剤(a)の平均粒径は好ましくは1μm〜20μm、より好ましくは1μm〜5μmの範囲内である。中でも、全ての充填剤の粒径が0.1μm〜100μmの範囲内にあるものが好適である。
【0045】
重合性単量体(b)として、例えば、本発明の歯科用複合材料を歯科用充填修復材や歯冠用複合材料や義歯床用複合材料として使用する場合には、疎水性の重合性単量体を使用すると、当該複合材料の耐水性を補強することができるので好ましい。かかる疎水性の重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、アルキルエステルの場合アルキル基の炭素数1〜12、芳香族基を含むエステルでは炭素数6〜12、なお、これらの基にポリエチレングリコール鎖等の置換基を含むものはそれらの炭素数も含める)のような単官能の(メタ)アクリレート、アルカンジオールのジ(メタ)アクリレート、その他の多官能性の(メタ)アクリル酸エステル類や、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート2モルとジイソシアネート1モルとの反応生成物であるウレタン(メタ)アクリル酸エステル類、具体的には特公昭55−33687号公報や特開昭56−152408号公報に開示されているモノマー等が好適である。
【0046】
単官能の(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0047】
2官能の疎水性の重合性単量体としては、例えば、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネンペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、7,7,9−トリメチル−4,13−ジオキサ−3,14−ジオキソ−5,12−ジアザヘキサデカン−1,16−ジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0048】
3官能以上の疎水性重合性単量体としては、例えば、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0049】
その他、さらに前記(メタ)アクリレートがエチレンオキサイド変性された(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)との反応生成物、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物などを例示することができる。
【0050】
また、本発明の歯科用複合材料を歯科用ボンディング剤や歯科用セメントに使用する場合には、当該複合材料の歯質への接着性を向上させるために、上記疎水性重合性単量体に、低分子量又は高分子量の親水性重合性単量体を加えて使用するのが好ましい。このような低分子量の親水性重合性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−及び2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル−1,3−ジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリ(メタ)アクリレート、メソエリスリトールのモノ、ジ、トリ(メタ)アクリレート、キシリトールのモノ、ジ、トリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレートの塩酸塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−アルキル−N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、2−及び3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールのモノ及びジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールのモノ及びジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルメタアクリレート、ピロリドンの(メタ)アクリレート、ソルビトールの(メタ)アクリレートなどをあげることができる。
【0051】
低分子量の親水性重合性単量体で、分子内に一つ以上の酸性基、例えばリン酸基、ピロリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等を有する重合性単量体は、根管充填材の歯質に対する接着強さを向上させるために好適に用いられる。かかる重合性単量体のうち、リン酸基を有する重合性単量体としては、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスフェート等、及びこれらの酸塩化物をあげることができる。
【0052】
ピロリン酸基を有する親水性重合性単量体としては、ピロリン酸ジ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)等、及びこれらの酸塩化物を例示することができ、カルボン酸基を有する親水性重合性単量体としては、マレイン酸、マレイン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸無水物、5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸等及びこれらの酸塩化物を例示することができ、スルホン酸基を有する親水性重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレートなどをあげることができる。
【0053】
高分子量の親水性重合性単量体、いわゆるマクロモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールのモノ及びジ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリビニルアルコールの(メタ)アクリレートなどをあげることができる。
【0054】
以上の重合性単量体は単独でもしくは2種以上混合して使用することができる。
【0055】
本発明の歯科用複合材料における重合性単量体(b)の含有量は特に限定されるものではないが、本発明の所望の効果の発現の観点から、5〜99重量%が好ましく、10〜90重量%がより好ましい。また、前記するように、例えば、複合材料の歯質への接着性を向上させることを所望する場合のように、性質の異なる重合性単量体を使用する場合の各単量体の含有量比は所望する効果に応じて適宜調整すればよい。
【0056】
本発明の歯科用複合材料は1包装形態又は2包装形態以上で提供される。該複合材料は、公知の方法により前記充填剤(a)、前記重合性単量体(b)及び重合開始剤(c)を各形態に応じて各包装ごとに任意に混合することにより製造することができる。各包装の内容物の原料組成としては、保存時に歯科用複合材料が重合硬化しないものであるのが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0057】
1包装形態で提供される場合は、重合開始剤(c)として可視光線を利用する光重合開始剤を用いるのが好適である。光重合開始剤としては、例えば、特開昭48−49875号公報に記載されたカンファーキノンとアミン、特開昭57−203007号公報に記載されたカンファーキノンと有機過酸化物及びアミン、特開昭60−26002号公報に記載されたカンファーキノンとN,N−ジメチル安息香酸アルキルエステル、特開昭60−149603号公報に記載されたカンファーキノンとアルデヒド及び有機過酸化物、特開昭60−197609号公報に記載されたカンファーキノンとメルカプタン、特願昭61−290780号公報に記載されたカンファーキノンとアゾ化合物等が好適に用いられる。
【0058】
さらにアシルホスフィンオキサイド型の光重合開始剤も好適に用いられる。かかるアシルホスフィンオキサイドとしては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド及び特公平3−57916号公報に開示されている水溶性のアシルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。
【0059】
上記の光重合開始剤は単独でもしくは2種以上混合して使用してもよい。また、各種アミン類、アルデヒド類、メルカプタン類、スルフィン酸塩等の還元剤と併用して使用してもよい。
【0060】
本発明の歯科用複合材料が1包装形態で提供される場合、使用時においては、歯科臨床で一般的に使用されている歯科用可視光線照射器による可視光の照射により重合硬化させるのが簡便であり好ましい。
【0061】
また、1包装形態の場合に重合開始剤(c)として加熱重合型重合開始剤を使用することも可能である。この場合は、40〜100℃に使用温度範囲を有する、公知の過酸化物、アゾ化合物等の重合開始剤の使用が好適である。使用時においては、用いる重合開始剤の性質に応じて、歯科用複合材料を適宜、公知の方法で加熱することにより重合硬化させる。
【0062】
一方、本発明の歯科用複合材料が2包装形態以上で提供される場合には、使用時に各包装の内容物を混合することにより重合硬化を開始できるように各包装の内容物を配合するのが好ましい。この場合は、レドックス系のラジカル重合開始剤が好適に用いられる。このような重合開始剤は、酸化剤と還元剤からなっているので、該複合材料の保存中に重合しないように、酸化剤と還元剤とを別々に分割包装するのが好ましい。
【0063】
酸化剤としては、例えば、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などの有機過酸化物を挙げることができる。中でもジアシルパーオキサイド類が好適であり、具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド等があげられる。
【0064】
還元剤としては、ジエタノールパラトルイジンのような芳香族3級アミンや、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム等の芳香族スルフィン酸、芳香族スルフィン酸塩が好適に用いられる。
【0065】
上記に列挙したこれらの重合開始剤は1種又は数種の組み合わせで用いられる。
【0066】
本発明の歯科用複合材料の組成物中、重合開始剤の含有量としては、その種類とは無関係に、通常0.01〜20重量%の範囲が好ましく、0.1〜5重量%の範囲がより好ましい。
【0067】
本発明の歯科用複合材料には、以上にあげた原料の他に、公知のフィラーやその他の添加物を配合してもよい。かかるフィラーとしては、石英、石英ガラス、フュームドシリカ、ゾル−ゲル法合成シリカなどの二酸化珪素粒子、二酸化珪素やアルミナを主成分とし、ランタン、バリウム、ストロンチウム等の各種重金属と共にホウ素又はアルミニウムを含む各種ガラス類、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン等の公知の物質が好適に使用される。これらのフィラーは、通常1種類又は数種類の組み合わせで用いられ、その配合量は該複合材料中、好ましくは5〜90重量%の範囲である。
【0068】
また、これらのフィラーは、目的に応じてシランカップリング剤や界面活性剤などにより表面処理が施される場合がある。かかる表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤、例えば、ω−メタクリロキシアルキルトリメトキシシラン(例えば、メタクリロキシ基と珪素原子との間の炭素数が3〜12のもの)、ω−メタクリロキシアルキルトリエトキシシラン(例えば、メタクリロキシ基と珪素原子との間の炭素数が3〜12のもの)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等の有機珪素化合物や、(メタ)アクリロイルオキシアルキルハイドロジェンホスフェート〔例えば、(メタ)アクリロイル基とリン酸基の間の炭素数が2〜16のもの〕、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸等の酸性基を有する重合性単量体などが用いられる。界面活性剤としては、高級脂肪酸の金属塩、アルキルリン酸の金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸の金属塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ソルビタンモノラウレート等のノニオン系界面活性剤などが用いられる。
【0069】
本発明の複合材料には、実用上の観点や機能性の向上の観点から、次のような成分が添加されることがある。実用上の観点から添加されることのある成分としては、例えば、保存時の重合を抑制するための重合禁止剤として、例えば、ブチルヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシトルエン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等を添加することがある。さらに所望により酸化防止剤、顔料、染料等を添加してもよい。機能性の向上の観点から添加される成分としては、抗菌性を付与する目的では、例えば、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド等のカチオン性基を有する重合性単量体や、ポリヘキサメチレンジグアニドハイドロクロライドなどのカチオン性基を有するポリマーなどを配合してもよい。
【0070】
本発明の歯科用複合材料は、例えば、歯科用充填用コンポジットレジン、支台築造用コンポジットレジン、歯冠用コンポジットレジン、義歯床用レジン、歯科用接着性レジンセメント、歯科用フィッシャーシーラント、歯科用バーニッシュ又はコーティング剤、歯科用ボンディング剤、歯質接着用プライマー、歯科用マニキュア、根管充填材などに使用される。
【0071】
本発明の歯科用複合材料は、その重合硬化物が水と接触すると、イオンが水中へ放出される。イオンの水中への放出現象は、イオン交換水あるいはほぼ中性に調整された緩衝液中に該複合材料の重合硬化物を浸漬し、該硬化物から溶出する該水溶性金属塩、及び/又は該水溶性金属塩を構成するイオンを、原子吸光光度法やイオン種に適応したイオン電極を用いて電気化学的に測定することによって定量的に確認することができる。放出量としては、該複合材料の重合硬化物の1cm2の研磨表面から1日に放出される量が少なくとも5μg以上であるのが好ましい。
【0072】
なお、本発明の充填剤及び歯科用複合材料の各種物性・性質は後述の実施例に記載の方法により評価することができる。
【0073】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において用いられる試験方法、材料等を以下にまとめて示す。
【実施例】
【0074】
(1)充填剤の調製
製法A:攪拌モーターをセットしたビーカーで、まず飽和濃度の水溶性金属塩を含有する水溶液を調製し、次いで、該水溶性金属塩の水溶液を激しく攪拌しながら、金属酸化物ゾルを、10分間かけて滴下し、金属酸化物と水溶性金属塩のモル比が表1及び表2のようになるように調製して、水溶性金属塩と金属酸化物の混合物を得た。滴下速度は、金属酸化物と水溶性金属塩の反応速度に応じて適宜調整すればよい。
【0075】
水溶性金属塩がフッ化ナトリウムである場合は、フッ化ナトリウムが触媒として働いてコロイド粒子間の縮合によってネットワークが出来、上記混合物は、次第に増粘し、ハイドロゲルを形成した。
【0076】
滴下終了後、そのまま室温にて一晩静置した。得られた混合物を金属製のバットに移して2〜3cm程度の厚さに薄く広げ、70℃の熱風乾燥機で24時間乾燥させた。重量変化が無くなった時点で乾燥を停止し、回転式ボールミルを用いて15時間かけて微粉砕した。
【0077】
製法B:0.1%のアンモニアを含む水溶性金属塩の飽和水溶液を調製した。次いで、各金属アルコキシド化合物を0.35Nの塩酸を含有するイソプロピルアルコール中に均一に溶解し、室温で2時間攪拌して、金属アルコキシド化合物を加水分解した。前記飽和水溶液を攪拌しながら、金属アルコキシドの加水分解溶液を約1時間かけてゆっくりと滴下し、金属酸化物と水溶性金属塩とのモル比が表1及び表2に示す値になるように調製して、水溶性金属塩と金属酸化物の混合物を得た。滴下終了後、1晩室温下にて静置した。得られた混合物を50℃の熱風乾燥機で恒量になるまで乾燥し、粗く解砕した後、回転ボールミルで15時間粉砕して充填剤を得た。
【0078】
製法C:乾燥工程において、200℃の熱風乾燥機中で恒量になるまで乾燥する以外は製法Aと同一である。
【0079】
(2)歯科用複合材料用重合性基材の調製
表4に記載する4種類の重合性基材(A〜D)を調製した。各々所定の組成の重合性単量体と重合禁止剤であるジブチルヒドロキシトルエンを混合し、均一に各成分を溶解した。その後、光重合開始剤やレドックス系重合開始剤を添加し、さらに攪拌して均一に溶解した。
【0080】
(3)歯科用複合材料の調製
粉砕した充填剤をその他の成分と、表1及び表2に示す組成でガラス製乳鉢を用いて均一なペースト状に混練し、減圧脱泡してこれを各種評価に用いた。
【0081】
(4)歯科用複合材料の重合硬化物の製造
以下の試験方法で用いた歯科用複合材料の重合硬化物は、所定の大きさの円盤状の孔の開いたステンレス製金型を用いて、片側の開口面をガラス板で塞いで未重合のペースト状態の歯科用複合材料を充填した後、金型の他方の開口面にガラス板を圧接し、金型の両方の開口部からガラス板ごしに歯科用可視光線照射器ライテルII(モリタ製作所社製)を用いて40秒間光照射を行い、重合硬化させて得たものである。
【0082】
(5)電子顕微鏡観察
走査型電子顕微鏡S−4000(日立製作所社製)を使用し、本発明の充填剤に含まれる各構成成分の該充填剤中における微細な相分散状態の観察や、後述する研磨面耐酸性の評価を2次電子像の観察により行った。
【0083】
充填剤を含有する歯科用複合材料の重合硬化物は、ダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨し、充填剤やその他のフィラーに含有される水溶性物質が溶出しないように、ヘキサンを用いて研磨面を洗浄した。本発明の充填剤の微細構造の観察では、サンプルの研磨表面をカーボン蒸着し、電子銃の印加電圧を5keVとした。金属酸化物と水溶性金属塩の分散状態の観察では、2次電子の検出強度差を利用するが、2次電子の検出強度差が最適になるようサンプル表面への導電性物質の真空蒸着条件や、電子銃の印加電圧を調整した。また、併せて充填剤中の水溶性金属塩の結晶からなる相の平均粒径(nm)を、当該相の粒径を電子顕微鏡写真上で任意に100点測定し(相の最長の長さと最短の長さの平均値を粒径とした)、その平均値を算出することにより求めた。さらに100点測定した粒径のなかで、0.3μm以上の粒径の個数の割合を算出した。一方、後述する研磨面耐酸性試験における電子顕微鏡観察では、サンプル表面に金とパラジウムの真空蒸着を施し、電子銃の印加電圧を15keVとした。
【0084】
(6)X線回折試験
前述の方法で得られた各種イオン放出性充填剤につき、回転対陰極X線回折装置RINT−2400(理学電機社製)を使用し、X線広角回折を測定した。測定条件は、印加電圧40kV、電流100mA、ターゲットCu、X線波長(CuKα1)λ=1.5405Å、検出器走査速度1°/minとして、2θ=5〜80°の範囲で測定を行った。
【0085】
(7)透明性試験
本発明の充填剤自体の光学的透明性は、金属顕微鏡OPTIPHOT(ニコン社製)を用いて透過光観察によって評価した。すなわち、本試験に供する該充填剤(0.1g)を少量のグリセリン中に分散し、このスラリーをスライドガラス上に置いてカバーガラスで挟んで観察を行い、粒子内部が光学的に実質的に均一に透明である場合を「良好」、そうでない場合を「不良」として評価した。
【0086】
(8)屈折率試験
本発明の充填剤を、屈折率が既知である有機溶媒(2種以上の有機溶媒を混合して各種の屈折率に調整)中に一定量(0.1g/mL)分散させ、分散液の589nmの光透過率が最大となる有機溶媒の屈折率(nD25)を求め、この屈折率を該充填剤の屈折率とした。該有機溶媒の屈折率は、アッベ屈折率計1T(アタゴ社製)を用いてNa−D光源で測定し、該分散液の光透過率は、紫外可視分光光度計UV−2400(島津製作所社製)を用いて、光路長10mmの石英セル中で測定した。
【0087】
(9)イオン放出性試験
厚さ1mm、直径18mmの歯科用複合材料の硬化物円盤を作製し、表面をSiC研磨紙#1000で研磨して、pH7のリン酸バッファー中に浸して、37℃の恒温漕中に1か月間保管した。1か月間のフッ素イオンまたはカルシウムイオンのリン酸バッファー中への放出量を、フッ素電極またはカルシウム電極を接続したデジタルイオンメーター920−A(オリオン社製)で測定した。なお、歯科用複合材料からのイオン放出量は前記硬化物円盤の円形表面の単位面積当りでのフッ素イオンまたはカルシウムイオンの放出量(μg/cm2)として表わした。
【0088】
(10)研磨面耐酸性試験
厚さ1mm、直径18mmの歯科用複合材料の硬化物円盤を前述の要領で作製し、表面をSiC研磨し#1500で研磨後、ダイヤモンドペーストで表面研磨した。研磨後の硬化物円盤を、pH5.6のクエン酸バッファーに7日間浸漬し、浸漬前後の電子顕微鏡写真を比較した。研磨面耐酸性は、pH5.6のバッファーへの浸漬後、該充填剤の脱落や、該充填剤と樹脂部との間隙の形成、該充填剤中のボイドの形成などが実質的に生じていない場合を「良好」、生じている場合を「不良」とした。
【0089】
本試験においては、酸性の水系緩衝液を用いて耐酸性の評価を行った。かかる実験系は単に充填剤を水に接触させるよりもイオン放出の観点からは過酷な条件である。従って、当該実験系において耐酸性が認められた場合、耐水性にも優れるといえる。
【0090】
(11)圧縮強度試験
高さ4mm、直径4mmの歯科用複合材料の硬化物円柱を10個作製し、37℃の水中に24時間浸漬した。該硬化物のうち5個は、浸漬後直ちに万能試験機1175(インストロン社製)を用い、クロスヘッドスピード2mm/minで圧縮破壊強度を測定した(初期圧縮強度)。他の5個の硬化物は、4℃、及び60℃の水中に各々1分間づつ交互に10000回浸漬し、同様に圧縮破壊強度を測定した(熱サイクル10000回後の圧縮強度)。各場合、5個の測定値の平均値をその材料の圧縮強度(MPa)とした
【0091】
以下、具体的実施例による試験結果を示すが、使用した充填剤の仕様と、該充填剤を含む歯科用複合材料の組成を表1及び表2に、該複合材料に配合する本発明の充填剤以外の充填剤の仕様を表3に、該複合材料に配合する重合性基材の組成を表4に、試験結果を表5及び表6に記載した。
【0092】
実施例1〜2
イオン放出性充填剤を構成する金属酸化物として、コロイド粒子の形状や粒径の異なるシリカゾルを用いた。実施例1に使用したシリカゾルST−50(日産化学社製)は平均約20nmの粒径を有するコロイドであり、実施例2に使用したシリカゾルST−PS−M(日産化学社製)は、平均約20〜30nmの粒子が、分岐した数珠状に連なって、全体の粒径が100〜200nmとなったものである。水溶性金属塩としてはフッ化ナトリウムを用いた。また、いずれの場合も前記(1)の製法Aで充填剤を製造した。得られた充填剤は、両者とも光学的透明性が良好であった。第1図及び第3図にそれぞれの充填剤の割断面の電子顕微鏡写真を掲載するが、両者とも金属酸化物のコロイド粒子同士の結合による均質なマトリックス(相)を形成し、その中にフッ化ナトリウムの微分散相が独立して存在していることがわかる。
【0093】
これらの充填剤のX線回折試験を行った結果、実施例1及び2の双方においてフッ化ナトリウムの結晶に由来する回折ピーク(2θ=39°,56°,70°)と非晶質SiO2と考えられるハロー(2θ=22°)が検出され、シリカコロイドからなるマトリックス中にフッ化ナトリウムの超微結晶が均一に分散していることが確認された。フッ化ナトリウムがナノスケールで均一分散することによって前述したような光学的透明性が得られたものと考えられる。これらの充填剤を使用した歯科用複合材料はフッ素イオン放出量が良好で、研磨表面からの水中へのフィラーの溶解や脱落も見られず耐酸性に優れており、さらに審美性および機械的強度(圧縮強度)の耐久性も良好であった。
【0094】
実施例3
イオン放出性充填剤を構成する金属酸化物としてシリカゾルST−OL(日産化学社製)およびジルコニアゾルNZS−30A(日産化学社製)を用い、水溶性金属塩としてフッ化ナトリウムを用いた。二酸化珪素、酸化ジルコニウム及びフッ化ナトリウムのモル比が53:19:28となるように各水溶液を均一に混合し、前記(1)の製法Aでイオン放出性充填剤を製造した。この充填剤は、歯科用複合材料に広く利用されているX線遮蔽性を有するバリウムガラスなどと同等の高い屈折率を示し、歯科用複合材料の透明性を向上させるのに有効であることがわかる。フッ素イオン放出量をはじめ、その他の項目についても良好であった。
【0095】
実施例4〜7
イオン放出性充填剤を構成する金属酸化物の原料として、テトラエチルオルソシリケート(和光純薬工業社製)、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(関東化学社製)、アルミニウムイソプロポキシド(東京化成社製)、チタニウムイソプロポキシド(和光純薬工業社製)などの金属アルコキシド化合物を使用し、前記(1)の製法Bでイオン放出性充填剤を製造した。実施例4及び実施例5では、酸化ジルコニウムのモル比の増大によって、充填剤の屈折率が増大した。この結果は、本発明による充填剤が金属酸化物のモル比の調製により屈折率を任意に調製できることを示している。一方、実施例6及び7では、充填剤を形成する金属酸化物の種類(酸化アルミニウム、酸化チタン)により屈折率を調整することが可能であることを示している。実施例4〜7のいずれにおいても、フッ素イオン放出量をはじめその他の項目について良好な結果が得られた。
【0096】
実施例8
イオン放出性充填剤を構成する金属酸化物として、酸化アルミニウムのコロイド粒子を含むゾルであるアルミナゾル−200(日産化学社製)のみを使用し、前記(1)の製法Aで充填剤を製造した。シリカゾルのみを使用した実施例1及び実施例2と同様に良好な結果が得られた。
【0097】
実施例9〜11
イオン放出性充填剤を構成する金属酸化物として、実施例2と同じシリカゾルST−PS−M(日産化学社製)を使用し、水溶性金属塩として、実施例9ではモノフルオロリン酸ナトリウム(アルドリッチ社製)、実施例10では第1リン酸カルシウム(和光純薬工業社製)、実施例11では塩化カルシウムを使用して前記(1)の製法Aで充填剤を製造した。実施例9では、歯科用複合材料からのフッ素イオンの放出が、実施例10及び実施例11ではカルシウムイオンの放出が確認され、修復した歯の石灰化を促進する成分を放出できる充填剤であることが確認された。なお、その他の項目についても良好な結果が得られた。
【0098】
実施例12〜13
実施例1と同一の原料を用いて、実施例1に対してフッ化ナトリウムの量を増減させたイオン放出性充填剤を前記(1)の製法Aにより製造した。実施例12では、充填剤中のフッ化ナトリウムが5mol%であり、歯科用複合材料のフッ素イオン放出量は少ないが、歯質の耐酸性を向上するのに十分な量が放出された。また充填剤中のフッ化ナトリウムの量の多い実施例13では、高いフッ素イオン放出量が得られた。さらに、いずれの場合もその他の項目で良好な結果が得られた。
【0099】
実施例14〜15
実施例2で製造したイオン放出性充填剤を、実施例14では5重量%、実施例15では80重量%を歯科用複合材料に配合した。実施例15ではイオン放出性充填剤の含有量が多く、歯科用複合材料のフッ素イオン放出量が高かったが、圧縮強度の熱サイクル後の値は低下することなく、また良好な耐酸性を示した。その他の項目についても良好な結果であった。
【0100】
実施例16〜17
実施例2で製造したイオン放出性充填剤を、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの親水性モノマーや10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートなどの歯質接着性モノマーを含有する重合性基材、ならびにその他のフィラーと混合して歯科用複合材料とした。重合性基材として親水性重合性単量体を使用しても、またその際にイオン放出量が著しく増大しても熱サイクル後の圧縮強度が低下することは殆どなかった。他の項目についても良好な結果が得られた。
【0101】
比較例1
イオン放出性充填剤として実施例1と同じ組成の原料を使用し、前記(1)の製法Cで充填剤を製造した。この充填剤の透明性は不良であり、この充填剤を配合した歯科用複合材料の研磨面の耐酸性は悪かった。研磨面の耐酸性試験後のサンプルをSEM観察した結果、研磨面からのフィラーの脱落や溶解、フィラー内部のボイドの形成が確認された。これは、ミクロンオーダーの粒径を持つフッ化ナトリウムの結晶がフッ素イオン放出性充填剤の内部に存在していることを示す。実施例1及び2と比較することにより、フッ化ナトリウムの結晶が大きくとも300nmの平均粒径で二酸化珪素のマトリックス中に実質的に均一に分散した構造が、充填剤の透明性や、歯科用複合材料の研磨面の耐酸性の確保に重要であることを示唆している。
【0102】
比較例2
表2の組成に従って各原料を混合し、フッ化ナトリウムの結晶粉末(平均粒径:2.8μm、粒径範囲:0.1μm〜25μm)をイオン放出性充填剤として5重量%配合した歯科用複合材料を調製した。歯科用複合材料のフッ素イオン放出量は良好であったが、研磨面の耐酸性は極めて悪く、熱サイクル後の圧縮強度にも低下が見られた。
【0103】
比較例3
シリカゾルST−50(日産化学社製)を金属製のバットに厚さ2〜3cmになるよう広げて、70℃の熱風乾燥機中で重量変化がなくなるまで乾燥させた。乾燥して得られた白色固体を乳鉢で1mm程度の粒径まで粉砕したのち、回転式ボールミルで24時間粉砕した。得られた粉体を用い、表2の組成に従って歯科用複合材料を調製した。該歯科用複合材料の物性評価の結果、研磨面の耐酸性、熱サイクル後の圧縮強度は良好であったが、フッ素イオンは放出されなかった。
【0104】
比較例4
特開平10−36116号公報の記載を参考にして、ポリシロキサン被覆フッ化ナトリウム粒子を製造した。ビニルトリエトキシシラン100g及び水100gの混合液に酢酸0.2gを加え、系が均一になるまで室温下で攪拌した。この水溶液に飽和食塩水を加えた後、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル溶液を、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、酢酸を除去した後、酢酸エチル溶液を無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤を濾過した除去し、酢酸エチルを減圧留去したところ、加水分解されたビニルトリエトキシシラン23gが得られた。加水分解されたビニルトリエトキシシラン10gをトルエン10gに溶解し、さらに硬化触媒として3−アミノプロピルトリエトキシシラン0.5gを加えた。この溶液をフッ化ナトリウム粉末(平均粒径:2.8μm、粒径範囲:0.1μm〜25μm)10gに加え、攪拌した後、トルエンを減圧留去し、引き続いて、120℃の加熱処理を30分間行い、白色の固体19gを得た。
【0105】
この粉体をイオン放出性充填剤として用い、歯科用複合材料を調製した。フッ素イオン放出量は高く且つ熱サイクル後の圧縮強度も良好であったが、充填剤の透明性や、歯科用複合材料の研磨面の耐酸性は不良であった。
【0106】
比較例5
平均粒径が約1.5μmのフルオロアルミノシリケートガラスG018−117をイオン放出性充填剤として用いて、歯科用複合材料を調製した。高いフッ素イオン放出量が得られたが、研磨面の耐酸性は不良であり、熱サイクル後の圧縮強度の低下がやや大きかった。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
実施例18
水18gに少量の塩酸を加え、テトラエチルオルソシリケート(和光純薬工業社製)52gを添加し、室温で約1時間均一になるまで撹拌し、テトラエチルオルソシリケートを加水分解した。さらに、水50gにフッ化ナトリウム(和光純薬工業社製)2gを溶解させたフッ化ナトリウム水溶液を、得られた加水分解物の水溶液に徐々に滴下した。この混合液をステンレス製のバットに移して薄く広げ、熱風乾燥機内に入れて70℃で24時間乾燥した後、回転式ボールミルで15時間かけて粉砕し、白色粉末17gを得た。フッ化ナトリウム相の平均粒径は0.152μmであり、粒径が0.3μm以上のものの割合は0%であった。
【0113】
得られた白色粉末をイオン放出性充填剤として用い、歯科用複合材料を作製した。即ち、重合性単量体組成物として、表4に記載の重合性基材Aを用いた。さらに、表3に記載の充填剤Aおよび充填剤Bを用いた。ここで、充填剤Aは、バリウム含有ガラス粉末(8235、ショット社製)100重量部に対して2重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(以下γ−MPSと称する)を用いて表面処理を行った表面処理粉砕バリウムガラスフィラーで、平均粒径が2μm、粒径範囲が0.1〜15μmの範囲にある。また、充填剤Bは、高分散性のフュームドシリカ粉末(アエロジル130、日本アエロジル社製)100重量部に対して40重量部のγ−MPSを用いて表面処理を行った粉末である。
【0114】
重合性基材Aを22重量%、イオン放出性充填剤を10重量%、充填剤Aを65重量%、充填剤Bを3重量%それぞれ混合して、ペースト状の歯科用複合材料を作製した。得られた充填剤および歯科用複合材料について前述の各種試験を行った。これらの試験結果を表6に示す。また、第7図に耐酸性試験後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真を示す。
【0115】
比較例6
特開平2−258602号公報に記載の実施例を参考にして、フッ化ナトリウム微粉末を製造した。具体的には、水100gにフッ化ナトリウム1gを溶解させたフッ化ナトリウム水溶液を、−60℃のメタノール浴で凝固したのち、減圧下で水を昇華し、フッ化ナトリウム微粉末(平均粒径0.44μm、粒径0.3μm以上のものの割合が38%、粒径範囲が0.1μm〜1.1μm)を得た。
【0116】
エタノール50gに該フッ化ナトリウム微粉末2gを分散させた液を、実施例18と同様に調製したテトラエチルオルソシリケートの加水分解物の水溶液に徐々に加えた後、これ以降は実施例18と同じ方法で、乾燥及び粉砕し、白色粉末18gを得た。
【0117】
得られた白色粉末をイオン放出性充填剤として用い、実施例18と同じ重合性基材A、充填剤A、充填剤Bを用いて、同じ組成で歯科用複合材料を作製した。得られた充填剤及び歯科用複合材料を使用して、実施例18と同じ試験を行った。これらの試験結果を表6に示す。また、第8図に耐酸性試験後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真を示す。
【0118】
実施例19
実施例2で得たイオン放出性充填剤、即ち、シリカゾルST−PS−M(日産化学社製)とフッ化ナトリウムからなるイオン放出性充填剤を同様に作製した。具体的には、水50gにフッ化ナトリウム2gを溶解させたフッ化ナトリウム水溶液をシリカゾル42.75gに徐々に加えた後は、実施例18と同じ方法で乾燥及び粉砕し、白色粉末(イオン放出性充填剤)17gを得た。フッ化ナトリウム相の平均粒径は0.088μmであり、粒径が0.3μm以上のものの割合は0%であった。
【0119】
実施例18と同じ重合性基材Aを15重量%、充填剤Aを72重量%、充填剤Bを3重量%、上述のイオン放出性充填剤10重量%を混練して、歯科用複合材料を作製した。得られた充填剤及び歯科用複合材料を使用して、実施例18と同じ試験を行った。これらの試験の結果を表6に示す。また、第10図に耐酸性試験後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真を示す。
【0120】
比較例7
実施例19で用いたシリカゾルと、比較例6で得たフッ化ナトリウム微粉末を用いて、イオン放出性充填剤を作製した。即ち、実施例19において用いたフッ化ナトリウム水溶液の替わりに、比較例6で得られたフッ化ナトリウム微粉末をエタノールに分散させた分散液を用いた他は、実施例19と同じ方法で作製した。具体的には、エタノール50gにフッ化ナトリウム微粉末2gを分散させたフッ化ナトリウム分散液をシリカゾル42.75gに徐々に加えた後は、実施例18と同じ方法で乾燥及び粉砕し、白色粉末17gを得た。
【0121】
得られた白色粉末をイオン放出性充填剤として用い、実施例19と同じ重合性基材A、充填剤A、充填剤Bを用いて、同じ組成で歯科用複合材料を作製した。得られた充填剤及び歯科用複合材料を使用して、実施例19と同じ試験を行った。これらの試験結果を表6に示す。また、第11図に耐酸性試験後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真を示す。
【0122】
【表6】
【0123】
実施例18と19は共に、SiO2とNaFからなる本発明の充填剤であり、該充填剤において、SiO2からなるマトリックス中にNaFが平均粒径0.3μm以下の非常に微細なレベルで分散している構造をとっている。一方、比較例6と7は、SiO2とNaFの微粉末から調製した充填剤で、SiO2からなるマトリックス中に、用いたNaFの微粉末が均一に分散しておらず、部分的に凝集していると考えられる。
【0124】
表6に示すように、実施例18および19で得られた本発明の充填剤の透明性は良好で、充填剤の粒子内部は光学的に実質的に均一であったが、比較例6および7では充填剤の粒子内部の均一性はかなり低かった。これは充填剤内部のNaFの粒径が大きいため、内部で光を散乱したためと考えられる。同様に、研磨面の耐酸性試験においても、比較例6および7の場合はNaFの粒子が溶解して充填剤の表面に多くの大きなボイドが生じているのが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明により、歯科用複合材料に対し良好な耐水(酸)性や、フッ素イオンやその他のイオンの高い放出機能を付与し、さらには該複合材料の高い審美性を長期的に維持させうる歯科用複合材料用として好適な充填剤と、該充填剤を含有する物理的耐久性、イオン放出性、審美性に優れた歯科用複合材料を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】第1図は、実施例1におけるイオン放出性充填剤の電子顕微鏡写真である。
【図2】第2図は、第1図に表示した白線囲い内の拡大説明図である。
【図3】第3図は、実施例2におけるイオン放出性充填剤の電子顕微鏡写真である。
【図4】第4図は、第3図に表示した白線囲い内の拡大説明図である。
【図5】第5図は、実施例1におけるイオン放出性充填剤のX線回折チャートである。
【図6】第6図は、実施例2におけるイオン放出性充填剤のX線回折チャートである。
【図7】第7図は、実施例18の研磨面耐酸性試験におけるクエン酸バッファー浸漬後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真である。
【図8】第8図は、比較例6の研磨面耐酸性試験におけるクエン酸バッファー浸漬後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真である。
【図9】第9図は、第8図の概略説明図である。
【図10】第10図は、実施例19の研磨面耐酸性試験におけるクエン酸バッファー浸漬後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真である。
【図11】第11図は、比較例7の研磨面耐酸性試験におけるクエン酸バッファー浸漬後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真である。
【図12】第12図は、第11図の概略説明図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填剤(以下、フィラーという場合がある)及び該充填剤を含有する歯科用複合材料に関する。本発明の歯科用複合材料は、歯科用充填用コンポジットレジン、支台築造用コンポジットレジン、歯冠用コンポジットレジン、義歯床用レジン、歯科用接着性レジンセメント、歯科用フィッシャーシーラント、歯科用バーニッシュ又はコーティング剤、歯科用ボンディング剤、歯質接着用プライマー、歯科用マニキュア、根管充填材などに使用される。
【背景技術】
【0002】
歯の齲蝕や欠損の治療に際して、従来の金属材料に代わって、樹脂と無機充填剤からなる歯科用複合材料(以下、複合材料という場合がある)が多く使用されている。このような複合材料は、機械的強度、審美性、耐久性などに優れており、目的の部位の形態の復元や、歯科用材料を歯に接着するための接着剤として有用である。
【0003】
近年、これらの複合材料にイオン放出機能、特にフッ素イオンを放出する機能を付加した材料が臨床で用いられるようになった。これらの材料は、修復後の歯に対してフッ素イオンを供給することによって、歯の構成主成分であるハイドロキシアパタイトをより耐酸性の高いフルオロアパタイトに変化させて歯の抗齲蝕性を高めたり、唾液や組織液中のミネラル成分の石灰化を促進させるなどの機能を有する。それゆえ、齲蝕の発生や再発の予防のために臨床で使用される機会が増えてきている。
【0004】
これらの複合材料においてフッ素イオン放出源として働くフィラーとして従来から用いられているものには、フルオロアルミノシリケートガラスのようにフッ素を含有するガラスや、フッ素を含有する有機高分子化合物(特許文献1参照)、金属フッ化物の溶液の溶媒を昇華して得られる微粒子(特許文献2参照)等が知られている。また、最近では、表面にポリシロキサン被覆層を有する金属フッ化物(特許文献3参照)が提案されている。該文献では、該金属フッ化物を含む複合材料は機械的強度やフッ素イオン放出量に優れることが開示されている。かかる技術は、基本的には、金属フッ化物の粒子の表面をシランカップリング剤で表面処理して用いる技術の範囲内と考えられる。
【特許文献1】特開平5−85915号公報
【特許文献2】特開平2−258602号公報
【特許文献3】特開平10−36116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フッ化ナトリウムやフルオロアルミノシリケートガラスをフィラーとして含有する複合材料を歯の欠損部に充填した後研磨仕上げをした場合、口腔内に露出したこれらの粒子が水分に接触した時に、フッ素イオンが効果的に口腔内に放出される一方、同時にフィラー自身が徐々に溶解し、複合材料の表面から脱落したり、フィラーの内部にボイドを生じ、複合材料の審美性や機械的強度が低下する。もっとも高頻度で使用されているフルオロアルミノシリケートガラスは、曝露される水の酸性度が高くなると溶解しやすく、口腔内で起こるpH変動の範囲内(pH5〜7)でも溶解が生ずる。
【0006】
一方、フッ素を含有する高分子化合物は、上述したような複合材料の表面性状の劣化や、機械的強度の低下を生じさせることはないが、該高分子化合物自身の透明性が低いために複合材料の審美性を低下させる。また、複合材料からのフッ素イオンの放出速度は緩やかであるので、早期に臨床的な効果が現れにくい。
【0007】
フッ素イオン放出源を複合材料のフィラーとして用いる場合、複合材料の審美性を確保するために、複合材料の適度な透明性が重要である。複合材料の透明性を確保するためには、フィラーに用いられる、例えば、フルオロアルミノシリケートガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラス、ランタン含有ガラスなどのX線不透過性ガラスと、複合材料を構成する樹脂との可視光線の屈折率の差を低減することが有効である。ところが、フッ素イオン放出源としてしばしば用いられるフッ化ナトリウムは、前述したフィラーや高分子化合物と比べて著しく光屈折率が低いため、多量に添加すると複合材料の透明度の低下をもたらし、複合材料の審美性を悪化させてしまう。
【0008】
前述の特許文献3に示された表面にポリシロキサン被覆層を有する金属フッ化物を用いる技術においても、用いられている金属フッ化物の粉末の粒径が大きいため、口腔内での金属フッ化物粒子の溶解に起因して生じるボイド(穴)が大きかったり、これを含む複合材料の透明性が低下するという欠点があった。
【0009】
本発明の課題は、高い耐水・耐酸性を有し、かつフッ素イオンなどのイオンの高い放出機能を有し、さらに高い審美性を長期的に維持することのできる充填剤と、該充填剤を含有し、耐水・耐酸性、イオン放出性及び審美性に優れる歯科用複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を満足する充填剤及び該充填剤を含有する歯科用複合材料を得るため鋭意検討した結果、少なくとも1種の金属酸化物と少なくとも1種の水溶性金属塩の混合物からなる充填剤において、両成分の相を互いに独立したものとし、かつ該水溶性金属塩の相を特定の平均粒径を有する該水溶性金属塩の結晶とすること、並びに該充填剤を歯科用複合材料に配合することによって上記課題が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、
少なくとも1種の金属酸化物と、少なくとも1種の水溶性金属塩を含み、該金属酸化物と該水溶性金属塩が互いに独立した相を形成してなる充填剤であって、該水溶性金属塩の相が平均粒径0.001μm〜0.3μmの該水溶性金属塩の結晶からなる充填剤の製造方法であって、前記金属酸化物および/または加水分解可能な有機金属化合物の加水分解物と前記水溶性金属塩の水溶液とを混合した後、得られた混合物の乾燥を行うことを特徴とする、充填剤の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い耐水・耐酸性を有し、かつフッ素イオンなどのイオンの高い放出機能を有し、さらに高い審美性を長期的に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の充填剤は、少なくとも1種の金属酸化物と少なくとも1種の水溶性金属塩を含み、該金属酸化物と該水溶性金属塩とが互いに独立した相を形成してなるものであり、該水溶性金属塩の相が平均粒径0.001μm〜0.3μmの該水溶性金属塩の結晶からなることを1つの大きな特徴とする。かかる構成を有することから、本発明の充填剤は、例えば、以下のような優れた性質を有する。
【0014】
(1)イオン放出性
本発明の充填剤はイオン放出源として微小な水溶性金属塩の結晶を含むことから、例えば、該充填剤が水と接触した場合に迅速なイオンの放出が生ずる。従って、該充填剤を、例えば、歯科用複合材料に用いた場合、齲蝕の発生や再発の予防等の臨床的な効果の早期発現が成されうる。
【0015】
(2)耐水性および耐酸性
本発明の充填剤に含まれる水溶性金属塩の結晶は微小であるので、イオンの放出に伴う該水溶性金属塩の相の崩壊による充填剤構造への実質的な影響はない。従って、例えば、該充填剤を歯科用複合材料に用いた場合、口腔内のような水系の酸性状態において、従来のイオン放出性充填剤とは異なり、イオンの放出に伴う影響、例えば、歯科用複合材料からの充填剤の脱落、充填剤と樹脂部との間隙の形成、充填剤中のボイドの形成等が生じないという、優れた耐水性および耐酸性を示す。
【0016】
(3)機械的強度
本発明においては金属酸化物として従来のイオン放出性を有しない無機充填剤の構成成分である金属酸化物が使用され、当該金属酸化物は本発明の充填剤の主として骨格として機能する(すなわち、金属酸化物はドメイン相であって、水溶性金属塩は分散相ということができる)。従って、本発明の充填剤は従来の無機充填剤と同等の機械的強度(主に圧縮耐性)を有する。また、本発明の充填剤はイオン放出性を示すにもかかわらず、前記するように優れた耐水性および耐酸性を有することから、例えば、口腔内のような環境に長時間に渡って曝露されても充填剤の構造崩壊は実質的に起こらず、従って、優れた耐久性を示す。
【0017】
(4)審美性
本発明の充填剤に含まれる水溶性金属塩の結晶は微小であるので、該水溶性金属塩は充填剤自身の屈折率に対して実質的な影響は及ぼさない。それゆえ、使用する金属酸化物を適宜選択することにより該充填剤の透明性を向上させることができる。歯科用複合材料の透明性の向上には、充填剤と該複合材料を構成する樹脂との可視光線の屈折率の差を低減することが有効であるが、本発明においては充填剤に使用される金属酸化物と歯科用複合材料に使用される樹脂との関係を両者の屈折率の観点から調整するだけで該複合材料の透明性を向上させることができる。例えば、充填剤の屈折率は使用する金属酸化物の含有量を調節したり、当該金属酸化物の種類を変えたりすることで容易に調節することができる。また、歯科用複合材料の透明性の向上には、屈折率以外に充填剤に含まれる水溶性金属塩の結晶の粒径が大きく関与する。すなわち、充填剤内部の該結晶の粒径が大きい場合、内部での光散乱が大きくなり、歯科用複合材料の透明性が低下する。本発明の充填剤に含まれる水溶性金属塩の結晶の粒径は微小であるので、同等の屈折率を有する公知のイオン放出性充填剤と比べて、歯科用複合材料に用いた場合、当該複合材料はより優れた透明性を発揮しうる。さらに、本発明の充填剤は前記するように優れた耐水性および耐酸性を有することから、口腔内のような環境に曝された場合にも外観の様相が変化することはない。このように、本発明の充填剤は審美性にも優れる。
【0018】
本発明によれば、以上のような、従来の充填剤、特にイオン放出性の充填剤に比べ非常に優れた性質を有する充填剤が提供される。当該充填剤は歯科用複合材料の構成成分として非常に有用である。また、当該充填剤を使用して、耐水・耐酸性、イオン放出性及び審美性に優れる歯科用複合材料が得られる。
【0019】
本発明の充填剤は少なくとも1種の金属酸化物と少なくとも1種の水溶性金属塩とが互いに独立した相を形成してなるものである。ここで、「独立した相を形成する」とは、金属酸化物と水溶性金属塩が溶解して完全に均一な相を形成しているのではなく、別個の相を形成していることをいう。例えば、金属酸化物の相中に水溶性金属塩の結晶からなる相が実質的に均一に分布しているのが好ましい。なお、これらの相の状態は第1図又は第3図の写真に示されるように、例えば後述する実施例に記載の方法により、走査型電子顕微鏡(例えば、倍率:30000倍)を用いて確認することができる。
【0020】
水溶性金属塩の相を形成する該水溶性金属塩の結晶の平均粒径としては、本発明の所望の効果の発現の観点から、0.001μm〜0.3μmの範囲である。また、充填剤の透明性、耐水・耐酸性、さらには該充填剤を含む歯科用複合材料のイオン放出性、透明性がより優れているという観点から、前記結晶の平均粒径としては0.001μm〜0.25μmであるのが好ましく、0.001μm〜0.2μmであるのがより好ましい。さらに、耐水・耐酸性により一層優れたものが得られるので、粒径0.3μm以上の結晶数の割合が20%以下であるのが好ましく、10%以下であるのがより好ましく、5%以下であるのが更に好ましい。ここで、結晶数とはドメイン相中の分散相の数をいう。結晶の粒径及び平均粒径は後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0021】
本発明に使用される金属酸化物は従来の歯科用充填剤に使用される金属酸化物でよく特に限定されるものではない。例えば、350℃以下の空気中において結晶構造、分子構造に変化がなく化学的に安定なものであればよく、当該金属酸化物としては、例えば、二酸化珪素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウム等が挙げられる。本発明においては、それらの具体的に例示した金属酸化物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物が好適であり、充填剤のイオン放出性、透明性、製造コストという観点から、中でも二酸化珪素がより好適である。
【0022】
また、X線遮蔽(不透過)性の面からは原子番号の大きな元素を含む金属酸化物、例えば、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウム等が特に好適であり、それらの具体的に例示した金属酸化物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物がさらに好適である。
【0023】
また、金属酸化物の組み合わせとしては、二酸化珪素と、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化ランタンおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1種の化合物との組み合わせが好ましく、二酸化珪素と、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1種の化合物との組み合わせがより好ましい。
【0024】
本発明で使用する水溶性金属塩は水に溶解してイオンを放出するものであれば特に限定されるものではなく、水に難溶であっても僅かに溶解するものも含まれる。例えば、水溶性金属塩としては、25℃の中性の水に対する溶解度が0.1重量%以上であるものが好適に使用される。かかる水溶性金属塩としては、歯の表面の再石灰化や、歯の抗齲蝕性の付与の観点からは、フッ素を含有する水溶性金属塩が好ましく用いられる。具体的には、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マンガン(II)、フッ化鉄(II)、フッカ鉄(III)、フッ化コバルト(II)、フッ化銅(II)、フッ化亜鉛、フッ化アンチモン(III)、フッ化鉛(II)、フッ化銀(I)、フッ化カドミウム、フッ化錫(II)、フッカ錫(IV)、フッ化ジアンミン銀、フッ化アンモニウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化水素カリウム、フルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロチタン酸カリウム、ヘキサフルオロ珪酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロ錫(IV)ナトリウム、ヘキサフルオロ錫酸(IV)アラニン、ペンタフルオロ二錫酸(II)ナトリウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸カリウム等を用いることができる。
【0025】
なかでも、周期表の第I属と第II属の金属のフッ化物であるフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウムなどが好ましく、とくにフッ化ナトリウムが好ましい。
【0026】
上記フッ素化合物以外の水溶性金属塩としては、該金属塩が水に溶解することによって、ハイドロキシアパタイトの材料となるカルシウムイオンやリン酸イオンを遊離する物質、及びハイドロキシアパタイトの結晶化を促進すると考えられている炭酸イオンや、マグネシウムイオンを遊離する物質などをあげることできる。
【0027】
当該水溶性金属塩としては、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物が好適に使用される。それらの具体例としては、ビス(リン酸二水素)カルシウム、リン酸四カルシウム、塩化カルシウムなどの水溶性カルシウム塩、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウムなどの水溶性リン酸塩などをあげることができる。
【0028】
すなわち、本発明においては、水溶性金属塩として、(i)フッ素化合物、および/または(ii)アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物が好適に使用される。
【0029】
本発明の充填剤と該充填剤を含有する歯科用複合材料が発現する驚くべき特性の一つは、これらが水と接触したときに、水溶性金属塩からのフッ素イオンなどのイオンの高い放出量が得られると共に、耐水・耐酸性に優れることである。前記充填剤や歯科用複合材料がこのような特性を発揮するためには、充填剤中に、金属酸化物が60〜95モル%、水溶性金属塩が5〜40モル%含まれるように配合するのが好ましい。また、金属酸化物が70〜90モル%、水溶性金属塩が10〜30モル%含まれるように配合するのがより好ましい。
【0030】
なお、本発明の充填剤には、本発明の所望の効果の発現を阻害しない限り、その他の成分を含有させてもよい。
【0031】
本発明の充填剤は、金属酸化物の相内部に、水溶性金属塩の相が平均粒径0.3μm以下の大きさで分布していることを1つの特徴とする。かかる充填剤の製造は、金属酸化物および/または当該金属酸化物の起源となりうる物質である、加水分解可能な有機金属化合物(例えば、後述の金属アルコキシド化合物等)の加水分解物と、水溶性金属塩の水溶液とを攪拌して混合し、しかる後に得られた混合物を乾燥することにより行うことができる。なお、混合物の乾燥前には、所望により溶媒を濾過等の方法により予め除去してもよい。また、乾燥後には、所望により粉砕を行ってもよい。さらに乾燥する際に同時に、例えば、混合物を常圧下、好ましくは50〜180℃、より好ましくは50〜150℃に維持することにより、効率的な溶媒の除去や、金属アルコキシドの加水分解物の脱水縮合の促進を目的として、同時に熱処理を行ってもよい。かかる本発明の充填剤の製造方法は本発明に包含される。
【0032】
より具体的には、例えば、(1)平均粒径が0.1μm以下の金属酸化物の微粒子(例えば、金属酸化物ゾル)を水溶性金属塩の水溶液に分散させ、水を蒸発させて得られた固形物を熱処理して金属酸化物の微粒子を融着させ、得られたバルクを粉砕する方法、(2)加水分解可能な有機金属化合物の少なくとも1種を水を含む溶媒に均一に混合して、酸性、中性、またはアルカリ性の条件下で加水分解し、得られた加水分解物の水溶液と水溶性金属塩の水溶液とを混合し、金属酸化物を生成させると同時に金属酸化物の相内部に水溶性金属塩の相を形成する当該水溶性金属塩の結晶を取り込ませる方法、また、これと類似の方法で、(3)加水分解可能な有機金属化合物を加水分解して金属酸化物をゾルとして得て、この金属酸化物ゾルと水溶性金属塩の水溶液とを均一に混合した後、溶媒を蒸発させ、得られた固形物を必要に応じて解砕する方法を挙げることができる。これらの方法は、本発明において好ましく用いられる。
【0033】
前記金属酸化物ゾルの例としては、例えば、シリカゾル(例えば、日産化学社製の商品名「スノーテックス」)、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾルが挙げられる。
【0034】
加水分解可能な有機金属化合物の例としては、以下のような有機珪素化合物等を挙げることができる。有機珪素化合物の場合、Si(OR)4で表される化合物(ここで、Rは炭素数1〜8の直鎖のもしくは分岐したアルキル基を表し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられる)が特に好ましい。また、有機珪素化合物以外では、周期表の第II、III、IV族の元素(例えば、Ti、Zr、Ba、La、Mg、Ni、Taなど)を含む有機金属化合物が好ましく、MII(OR)2、MIII(OR)3、MIV(OR)4(ここで、MIIは第II族の金属、MIIIは第III族の金属、MIVは第IV族の金属を表し、Rは炭素数1〜8の直鎖のもしくは分岐したアルキル基を表し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられる)で表される化合物が好適に用いられる。また、Zr[Al(OC3H7)4]2の様に、金属アルコキシドを2種以上含む多金属アルコキシドも用いられることがある。
【0035】
上記の(2)および(3)の製造方法において、金属酸化物の加水分解物や金属酸化物ゾルを含む溶液と、水溶性金属塩の水溶液とを混合すると、混合物として透明〜半透明の含水ゲルが生成することがある。このような含水ゲルから水を含む溶媒を蒸発させて乾燥させる方法は、本発明の充填剤の製造方法として特に好ましい。当該ゲルを乾燥した後、得られたバルクを所望により適宜粉砕することで目的の充填剤が得られる。
【0036】
本発明の充填剤の製造方法においては、前記混合物を乾燥する際の乾燥速度が該充填剤において金属酸化物の相内部に分散する水溶性金属塩の相を成す該金属塩の結晶の粒径(相の大きさ)に関与するため、該結晶が所望の平均粒径を有するものとなるように混合物の乾燥速度を調節する必要がある。すなわち、混合物中の水の蒸発に伴って混合物の内部では水溶性金属塩が徐々に析出してくるが、蒸発の速度が速いほど該結晶の粒径が大きくなる傾向があるので、該結晶の粒径を小さく調節するためには、乾燥速度をなるべく遅く設定することが望ましい。乾燥は通常、常圧下、室温(20℃)〜180℃において数時間〜数十日間程度で行うことが好適である。
【0037】
なお、金属酸化物や水溶性金属塩を溶解及び/又は分散するための溶媒としては、除去し易く、歯科用途に悪影響を及ぼさないものであればよく、前記例示の方法において使用する水以外にも、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール類を水と混合して、もしくは単独で使用してもよい。なお、当該低級アルコール類は複数種類を併用してもよい。また、本発明の充填剤の製造方法における加水分解や粉砕は公知の方法に従って行えばよい。
【0038】
以上のようにして得られる本発明の充填剤は歯科用複合材料の構成成分などの歯科用に使用するのが好ましい。よって、本発明により、さらに当該充填剤を含有してなる歯科用複合材料が提供される。
【0039】
かかる歯科用複合材料は本発明の充填剤(a)、重合性単量体(b)及び重合開始剤(c)を含有してなるものであり、その構成は、本発明の充填剤(a)を含有する点を除く他は、公知の歯科用複合材料と同様である。
【0040】
本発明の歯科用複合材料における充填剤(a)の含有量は本発明の所望の効果が得られる限り特に限定されるものではないが、特にフッ素イオン放出量と該複合材料の耐水(酸)性の確保の観点から、充填剤(a)の含有量としては1〜90重量%であるのが好ましい。また、当該含有量としては1〜50重量%であるのがより好ましく、5〜30重量%であるのがさらに好ましい。
【0041】
歯科用複合材料を製造するには、前記した充填剤(a)、重合性単量体(b)及び重合開始剤(c)を混合、調製すればよい。
【0042】
歯科用複合材料の透明性は高い方が望ましいが、このためには、該複合材料を構成する充填剤と、充填剤が分散される分散媒の硬化物(樹脂)との可視光線の屈折率をできるだけ合致させるのがよい。
【0043】
通常、歯科用複合材料に充填剤として使用されるX線不透過性を有する金属酸化物やこれらの酸化物を原料とするガラスは光屈折率が高い。従って、歯科用複合材料の透明性を上げるためには、当該複合材料に配合される樹脂の屈折率に応じて、配合される充填剤の屈折率を、好ましくは1.4〜1.7の範囲に調整するのが望ましい。そのような充填剤は、例えば、金属酸化物と水溶性金属塩とを前記好適な範囲内で含有するように配合することにより得られる。具体的には、金属酸化物として二酸化珪素を使用する場合、二酸化珪素(もしくは、その他の金属酸化物との混合物)を60〜95モル%、水溶性金属塩、好ましくはフッ化ナトリウム(もしくは、その他の水溶性金属塩との混合物)を5〜40モル%の範囲で配合するのが好ましく、二酸化珪素(もしくは、その他の金属酸化物との混合物)を70〜90モル%、フッ化ナトリウム(もしくは、その他の水溶性金属塩との混合物)を10〜30モル%の範囲で配合するのがより好ましい。
【0044】
また、歯科用複合材料に使用される充填剤(a)の粒径は当該歯科用複合材料の目的により適宜選択されうるが、充填剤(a)の平均粒径は好ましくは1μm〜20μm、より好ましくは1μm〜5μmの範囲内である。中でも、全ての充填剤の粒径が0.1μm〜100μmの範囲内にあるものが好適である。
【0045】
重合性単量体(b)として、例えば、本発明の歯科用複合材料を歯科用充填修復材や歯冠用複合材料や義歯床用複合材料として使用する場合には、疎水性の重合性単量体を使用すると、当該複合材料の耐水性を補強することができるので好ましい。かかる疎水性の重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、アルキルエステルの場合アルキル基の炭素数1〜12、芳香族基を含むエステルでは炭素数6〜12、なお、これらの基にポリエチレングリコール鎖等の置換基を含むものはそれらの炭素数も含める)のような単官能の(メタ)アクリレート、アルカンジオールのジ(メタ)アクリレート、その他の多官能性の(メタ)アクリル酸エステル類や、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート2モルとジイソシアネート1モルとの反応生成物であるウレタン(メタ)アクリル酸エステル類、具体的には特公昭55−33687号公報や特開昭56−152408号公報に開示されているモノマー等が好適である。
【0046】
単官能の(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0047】
2官能の疎水性の重合性単量体としては、例えば、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネンペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、7,7,9−トリメチル−4,13−ジオキサ−3,14−ジオキソ−5,12−ジアザヘキサデカン−1,16−ジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0048】
3官能以上の疎水性重合性単量体としては、例えば、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0049】
その他、さらに前記(メタ)アクリレートがエチレンオキサイド変性された(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)との反応生成物、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物などを例示することができる。
【0050】
また、本発明の歯科用複合材料を歯科用ボンディング剤や歯科用セメントに使用する場合には、当該複合材料の歯質への接着性を向上させるために、上記疎水性重合性単量体に、低分子量又は高分子量の親水性重合性単量体を加えて使用するのが好ましい。このような低分子量の親水性重合性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−及び2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル−1,3−ジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリ(メタ)アクリレート、メソエリスリトールのモノ、ジ、トリ(メタ)アクリレート、キシリトールのモノ、ジ、トリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレートの塩酸塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−アルキル−N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、2−及び3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールのモノ及びジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールのモノ及びジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルメタアクリレート、ピロリドンの(メタ)アクリレート、ソルビトールの(メタ)アクリレートなどをあげることができる。
【0051】
低分子量の親水性重合性単量体で、分子内に一つ以上の酸性基、例えばリン酸基、ピロリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等を有する重合性単量体は、根管充填材の歯質に対する接着強さを向上させるために好適に用いられる。かかる重合性単量体のうち、リン酸基を有する重合性単量体としては、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスフェート等、及びこれらの酸塩化物をあげることができる。
【0052】
ピロリン酸基を有する親水性重合性単量体としては、ピロリン酸ジ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)等、及びこれらの酸塩化物を例示することができ、カルボン酸基を有する親水性重合性単量体としては、マレイン酸、マレイン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸無水物、5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸等及びこれらの酸塩化物を例示することができ、スルホン酸基を有する親水性重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレートなどをあげることができる。
【0053】
高分子量の親水性重合性単量体、いわゆるマクロモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールのモノ及びジ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリビニルアルコールの(メタ)アクリレートなどをあげることができる。
【0054】
以上の重合性単量体は単独でもしくは2種以上混合して使用することができる。
【0055】
本発明の歯科用複合材料における重合性単量体(b)の含有量は特に限定されるものではないが、本発明の所望の効果の発現の観点から、5〜99重量%が好ましく、10〜90重量%がより好ましい。また、前記するように、例えば、複合材料の歯質への接着性を向上させることを所望する場合のように、性質の異なる重合性単量体を使用する場合の各単量体の含有量比は所望する効果に応じて適宜調整すればよい。
【0056】
本発明の歯科用複合材料は1包装形態又は2包装形態以上で提供される。該複合材料は、公知の方法により前記充填剤(a)、前記重合性単量体(b)及び重合開始剤(c)を各形態に応じて各包装ごとに任意に混合することにより製造することができる。各包装の内容物の原料組成としては、保存時に歯科用複合材料が重合硬化しないものであるのが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0057】
1包装形態で提供される場合は、重合開始剤(c)として可視光線を利用する光重合開始剤を用いるのが好適である。光重合開始剤としては、例えば、特開昭48−49875号公報に記載されたカンファーキノンとアミン、特開昭57−203007号公報に記載されたカンファーキノンと有機過酸化物及びアミン、特開昭60−26002号公報に記載されたカンファーキノンとN,N−ジメチル安息香酸アルキルエステル、特開昭60−149603号公報に記載されたカンファーキノンとアルデヒド及び有機過酸化物、特開昭60−197609号公報に記載されたカンファーキノンとメルカプタン、特願昭61−290780号公報に記載されたカンファーキノンとアゾ化合物等が好適に用いられる。
【0058】
さらにアシルホスフィンオキサイド型の光重合開始剤も好適に用いられる。かかるアシルホスフィンオキサイドとしては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド及び特公平3−57916号公報に開示されている水溶性のアシルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。
【0059】
上記の光重合開始剤は単独でもしくは2種以上混合して使用してもよい。また、各種アミン類、アルデヒド類、メルカプタン類、スルフィン酸塩等の還元剤と併用して使用してもよい。
【0060】
本発明の歯科用複合材料が1包装形態で提供される場合、使用時においては、歯科臨床で一般的に使用されている歯科用可視光線照射器による可視光の照射により重合硬化させるのが簡便であり好ましい。
【0061】
また、1包装形態の場合に重合開始剤(c)として加熱重合型重合開始剤を使用することも可能である。この場合は、40〜100℃に使用温度範囲を有する、公知の過酸化物、アゾ化合物等の重合開始剤の使用が好適である。使用時においては、用いる重合開始剤の性質に応じて、歯科用複合材料を適宜、公知の方法で加熱することにより重合硬化させる。
【0062】
一方、本発明の歯科用複合材料が2包装形態以上で提供される場合には、使用時に各包装の内容物を混合することにより重合硬化を開始できるように各包装の内容物を配合するのが好ましい。この場合は、レドックス系のラジカル重合開始剤が好適に用いられる。このような重合開始剤は、酸化剤と還元剤からなっているので、該複合材料の保存中に重合しないように、酸化剤と還元剤とを別々に分割包装するのが好ましい。
【0063】
酸化剤としては、例えば、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などの有機過酸化物を挙げることができる。中でもジアシルパーオキサイド類が好適であり、具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド等があげられる。
【0064】
還元剤としては、ジエタノールパラトルイジンのような芳香族3級アミンや、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム等の芳香族スルフィン酸、芳香族スルフィン酸塩が好適に用いられる。
【0065】
上記に列挙したこれらの重合開始剤は1種又は数種の組み合わせで用いられる。
【0066】
本発明の歯科用複合材料の組成物中、重合開始剤の含有量としては、その種類とは無関係に、通常0.01〜20重量%の範囲が好ましく、0.1〜5重量%の範囲がより好ましい。
【0067】
本発明の歯科用複合材料には、以上にあげた原料の他に、公知のフィラーやその他の添加物を配合してもよい。かかるフィラーとしては、石英、石英ガラス、フュームドシリカ、ゾル−ゲル法合成シリカなどの二酸化珪素粒子、二酸化珪素やアルミナを主成分とし、ランタン、バリウム、ストロンチウム等の各種重金属と共にホウ素又はアルミニウムを含む各種ガラス類、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン等の公知の物質が好適に使用される。これらのフィラーは、通常1種類又は数種類の組み合わせで用いられ、その配合量は該複合材料中、好ましくは5〜90重量%の範囲である。
【0068】
また、これらのフィラーは、目的に応じてシランカップリング剤や界面活性剤などにより表面処理が施される場合がある。かかる表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤、例えば、ω−メタクリロキシアルキルトリメトキシシラン(例えば、メタクリロキシ基と珪素原子との間の炭素数が3〜12のもの)、ω−メタクリロキシアルキルトリエトキシシラン(例えば、メタクリロキシ基と珪素原子との間の炭素数が3〜12のもの)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等の有機珪素化合物や、(メタ)アクリロイルオキシアルキルハイドロジェンホスフェート〔例えば、(メタ)アクリロイル基とリン酸基の間の炭素数が2〜16のもの〕、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸等の酸性基を有する重合性単量体などが用いられる。界面活性剤としては、高級脂肪酸の金属塩、アルキルリン酸の金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸の金属塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ソルビタンモノラウレート等のノニオン系界面活性剤などが用いられる。
【0069】
本発明の複合材料には、実用上の観点や機能性の向上の観点から、次のような成分が添加されることがある。実用上の観点から添加されることのある成分としては、例えば、保存時の重合を抑制するための重合禁止剤として、例えば、ブチルヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシトルエン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等を添加することがある。さらに所望により酸化防止剤、顔料、染料等を添加してもよい。機能性の向上の観点から添加される成分としては、抗菌性を付与する目的では、例えば、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド等のカチオン性基を有する重合性単量体や、ポリヘキサメチレンジグアニドハイドロクロライドなどのカチオン性基を有するポリマーなどを配合してもよい。
【0070】
本発明の歯科用複合材料は、例えば、歯科用充填用コンポジットレジン、支台築造用コンポジットレジン、歯冠用コンポジットレジン、義歯床用レジン、歯科用接着性レジンセメント、歯科用フィッシャーシーラント、歯科用バーニッシュ又はコーティング剤、歯科用ボンディング剤、歯質接着用プライマー、歯科用マニキュア、根管充填材などに使用される。
【0071】
本発明の歯科用複合材料は、その重合硬化物が水と接触すると、イオンが水中へ放出される。イオンの水中への放出現象は、イオン交換水あるいはほぼ中性に調整された緩衝液中に該複合材料の重合硬化物を浸漬し、該硬化物から溶出する該水溶性金属塩、及び/又は該水溶性金属塩を構成するイオンを、原子吸光光度法やイオン種に適応したイオン電極を用いて電気化学的に測定することによって定量的に確認することができる。放出量としては、該複合材料の重合硬化物の1cm2の研磨表面から1日に放出される量が少なくとも5μg以上であるのが好ましい。
【0072】
なお、本発明の充填剤及び歯科用複合材料の各種物性・性質は後述の実施例に記載の方法により評価することができる。
【0073】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において用いられる試験方法、材料等を以下にまとめて示す。
【実施例】
【0074】
(1)充填剤の調製
製法A:攪拌モーターをセットしたビーカーで、まず飽和濃度の水溶性金属塩を含有する水溶液を調製し、次いで、該水溶性金属塩の水溶液を激しく攪拌しながら、金属酸化物ゾルを、10分間かけて滴下し、金属酸化物と水溶性金属塩のモル比が表1及び表2のようになるように調製して、水溶性金属塩と金属酸化物の混合物を得た。滴下速度は、金属酸化物と水溶性金属塩の反応速度に応じて適宜調整すればよい。
【0075】
水溶性金属塩がフッ化ナトリウムである場合は、フッ化ナトリウムが触媒として働いてコロイド粒子間の縮合によってネットワークが出来、上記混合物は、次第に増粘し、ハイドロゲルを形成した。
【0076】
滴下終了後、そのまま室温にて一晩静置した。得られた混合物を金属製のバットに移して2〜3cm程度の厚さに薄く広げ、70℃の熱風乾燥機で24時間乾燥させた。重量変化が無くなった時点で乾燥を停止し、回転式ボールミルを用いて15時間かけて微粉砕した。
【0077】
製法B:0.1%のアンモニアを含む水溶性金属塩の飽和水溶液を調製した。次いで、各金属アルコキシド化合物を0.35Nの塩酸を含有するイソプロピルアルコール中に均一に溶解し、室温で2時間攪拌して、金属アルコキシド化合物を加水分解した。前記飽和水溶液を攪拌しながら、金属アルコキシドの加水分解溶液を約1時間かけてゆっくりと滴下し、金属酸化物と水溶性金属塩とのモル比が表1及び表2に示す値になるように調製して、水溶性金属塩と金属酸化物の混合物を得た。滴下終了後、1晩室温下にて静置した。得られた混合物を50℃の熱風乾燥機で恒量になるまで乾燥し、粗く解砕した後、回転ボールミルで15時間粉砕して充填剤を得た。
【0078】
製法C:乾燥工程において、200℃の熱風乾燥機中で恒量になるまで乾燥する以外は製法Aと同一である。
【0079】
(2)歯科用複合材料用重合性基材の調製
表4に記載する4種類の重合性基材(A〜D)を調製した。各々所定の組成の重合性単量体と重合禁止剤であるジブチルヒドロキシトルエンを混合し、均一に各成分を溶解した。その後、光重合開始剤やレドックス系重合開始剤を添加し、さらに攪拌して均一に溶解した。
【0080】
(3)歯科用複合材料の調製
粉砕した充填剤をその他の成分と、表1及び表2に示す組成でガラス製乳鉢を用いて均一なペースト状に混練し、減圧脱泡してこれを各種評価に用いた。
【0081】
(4)歯科用複合材料の重合硬化物の製造
以下の試験方法で用いた歯科用複合材料の重合硬化物は、所定の大きさの円盤状の孔の開いたステンレス製金型を用いて、片側の開口面をガラス板で塞いで未重合のペースト状態の歯科用複合材料を充填した後、金型の他方の開口面にガラス板を圧接し、金型の両方の開口部からガラス板ごしに歯科用可視光線照射器ライテルII(モリタ製作所社製)を用いて40秒間光照射を行い、重合硬化させて得たものである。
【0082】
(5)電子顕微鏡観察
走査型電子顕微鏡S−4000(日立製作所社製)を使用し、本発明の充填剤に含まれる各構成成分の該充填剤中における微細な相分散状態の観察や、後述する研磨面耐酸性の評価を2次電子像の観察により行った。
【0083】
充填剤を含有する歯科用複合材料の重合硬化物は、ダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨し、充填剤やその他のフィラーに含有される水溶性物質が溶出しないように、ヘキサンを用いて研磨面を洗浄した。本発明の充填剤の微細構造の観察では、サンプルの研磨表面をカーボン蒸着し、電子銃の印加電圧を5keVとした。金属酸化物と水溶性金属塩の分散状態の観察では、2次電子の検出強度差を利用するが、2次電子の検出強度差が最適になるようサンプル表面への導電性物質の真空蒸着条件や、電子銃の印加電圧を調整した。また、併せて充填剤中の水溶性金属塩の結晶からなる相の平均粒径(nm)を、当該相の粒径を電子顕微鏡写真上で任意に100点測定し(相の最長の長さと最短の長さの平均値を粒径とした)、その平均値を算出することにより求めた。さらに100点測定した粒径のなかで、0.3μm以上の粒径の個数の割合を算出した。一方、後述する研磨面耐酸性試験における電子顕微鏡観察では、サンプル表面に金とパラジウムの真空蒸着を施し、電子銃の印加電圧を15keVとした。
【0084】
(6)X線回折試験
前述の方法で得られた各種イオン放出性充填剤につき、回転対陰極X線回折装置RINT−2400(理学電機社製)を使用し、X線広角回折を測定した。測定条件は、印加電圧40kV、電流100mA、ターゲットCu、X線波長(CuKα1)λ=1.5405Å、検出器走査速度1°/minとして、2θ=5〜80°の範囲で測定を行った。
【0085】
(7)透明性試験
本発明の充填剤自体の光学的透明性は、金属顕微鏡OPTIPHOT(ニコン社製)を用いて透過光観察によって評価した。すなわち、本試験に供する該充填剤(0.1g)を少量のグリセリン中に分散し、このスラリーをスライドガラス上に置いてカバーガラスで挟んで観察を行い、粒子内部が光学的に実質的に均一に透明である場合を「良好」、そうでない場合を「不良」として評価した。
【0086】
(8)屈折率試験
本発明の充填剤を、屈折率が既知である有機溶媒(2種以上の有機溶媒を混合して各種の屈折率に調整)中に一定量(0.1g/mL)分散させ、分散液の589nmの光透過率が最大となる有機溶媒の屈折率(nD25)を求め、この屈折率を該充填剤の屈折率とした。該有機溶媒の屈折率は、アッベ屈折率計1T(アタゴ社製)を用いてNa−D光源で測定し、該分散液の光透過率は、紫外可視分光光度計UV−2400(島津製作所社製)を用いて、光路長10mmの石英セル中で測定した。
【0087】
(9)イオン放出性試験
厚さ1mm、直径18mmの歯科用複合材料の硬化物円盤を作製し、表面をSiC研磨紙#1000で研磨して、pH7のリン酸バッファー中に浸して、37℃の恒温漕中に1か月間保管した。1か月間のフッ素イオンまたはカルシウムイオンのリン酸バッファー中への放出量を、フッ素電極またはカルシウム電極を接続したデジタルイオンメーター920−A(オリオン社製)で測定した。なお、歯科用複合材料からのイオン放出量は前記硬化物円盤の円形表面の単位面積当りでのフッ素イオンまたはカルシウムイオンの放出量(μg/cm2)として表わした。
【0088】
(10)研磨面耐酸性試験
厚さ1mm、直径18mmの歯科用複合材料の硬化物円盤を前述の要領で作製し、表面をSiC研磨し#1500で研磨後、ダイヤモンドペーストで表面研磨した。研磨後の硬化物円盤を、pH5.6のクエン酸バッファーに7日間浸漬し、浸漬前後の電子顕微鏡写真を比較した。研磨面耐酸性は、pH5.6のバッファーへの浸漬後、該充填剤の脱落や、該充填剤と樹脂部との間隙の形成、該充填剤中のボイドの形成などが実質的に生じていない場合を「良好」、生じている場合を「不良」とした。
【0089】
本試験においては、酸性の水系緩衝液を用いて耐酸性の評価を行った。かかる実験系は単に充填剤を水に接触させるよりもイオン放出の観点からは過酷な条件である。従って、当該実験系において耐酸性が認められた場合、耐水性にも優れるといえる。
【0090】
(11)圧縮強度試験
高さ4mm、直径4mmの歯科用複合材料の硬化物円柱を10個作製し、37℃の水中に24時間浸漬した。該硬化物のうち5個は、浸漬後直ちに万能試験機1175(インストロン社製)を用い、クロスヘッドスピード2mm/minで圧縮破壊強度を測定した(初期圧縮強度)。他の5個の硬化物は、4℃、及び60℃の水中に各々1分間づつ交互に10000回浸漬し、同様に圧縮破壊強度を測定した(熱サイクル10000回後の圧縮強度)。各場合、5個の測定値の平均値をその材料の圧縮強度(MPa)とした
【0091】
以下、具体的実施例による試験結果を示すが、使用した充填剤の仕様と、該充填剤を含む歯科用複合材料の組成を表1及び表2に、該複合材料に配合する本発明の充填剤以外の充填剤の仕様を表3に、該複合材料に配合する重合性基材の組成を表4に、試験結果を表5及び表6に記載した。
【0092】
実施例1〜2
イオン放出性充填剤を構成する金属酸化物として、コロイド粒子の形状や粒径の異なるシリカゾルを用いた。実施例1に使用したシリカゾルST−50(日産化学社製)は平均約20nmの粒径を有するコロイドであり、実施例2に使用したシリカゾルST−PS−M(日産化学社製)は、平均約20〜30nmの粒子が、分岐した数珠状に連なって、全体の粒径が100〜200nmとなったものである。水溶性金属塩としてはフッ化ナトリウムを用いた。また、いずれの場合も前記(1)の製法Aで充填剤を製造した。得られた充填剤は、両者とも光学的透明性が良好であった。第1図及び第3図にそれぞれの充填剤の割断面の電子顕微鏡写真を掲載するが、両者とも金属酸化物のコロイド粒子同士の結合による均質なマトリックス(相)を形成し、その中にフッ化ナトリウムの微分散相が独立して存在していることがわかる。
【0093】
これらの充填剤のX線回折試験を行った結果、実施例1及び2の双方においてフッ化ナトリウムの結晶に由来する回折ピーク(2θ=39°,56°,70°)と非晶質SiO2と考えられるハロー(2θ=22°)が検出され、シリカコロイドからなるマトリックス中にフッ化ナトリウムの超微結晶が均一に分散していることが確認された。フッ化ナトリウムがナノスケールで均一分散することによって前述したような光学的透明性が得られたものと考えられる。これらの充填剤を使用した歯科用複合材料はフッ素イオン放出量が良好で、研磨表面からの水中へのフィラーの溶解や脱落も見られず耐酸性に優れており、さらに審美性および機械的強度(圧縮強度)の耐久性も良好であった。
【0094】
実施例3
イオン放出性充填剤を構成する金属酸化物としてシリカゾルST−OL(日産化学社製)およびジルコニアゾルNZS−30A(日産化学社製)を用い、水溶性金属塩としてフッ化ナトリウムを用いた。二酸化珪素、酸化ジルコニウム及びフッ化ナトリウムのモル比が53:19:28となるように各水溶液を均一に混合し、前記(1)の製法Aでイオン放出性充填剤を製造した。この充填剤は、歯科用複合材料に広く利用されているX線遮蔽性を有するバリウムガラスなどと同等の高い屈折率を示し、歯科用複合材料の透明性を向上させるのに有効であることがわかる。フッ素イオン放出量をはじめ、その他の項目についても良好であった。
【0095】
実施例4〜7
イオン放出性充填剤を構成する金属酸化物の原料として、テトラエチルオルソシリケート(和光純薬工業社製)、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(関東化学社製)、アルミニウムイソプロポキシド(東京化成社製)、チタニウムイソプロポキシド(和光純薬工業社製)などの金属アルコキシド化合物を使用し、前記(1)の製法Bでイオン放出性充填剤を製造した。実施例4及び実施例5では、酸化ジルコニウムのモル比の増大によって、充填剤の屈折率が増大した。この結果は、本発明による充填剤が金属酸化物のモル比の調製により屈折率を任意に調製できることを示している。一方、実施例6及び7では、充填剤を形成する金属酸化物の種類(酸化アルミニウム、酸化チタン)により屈折率を調整することが可能であることを示している。実施例4〜7のいずれにおいても、フッ素イオン放出量をはじめその他の項目について良好な結果が得られた。
【0096】
実施例8
イオン放出性充填剤を構成する金属酸化物として、酸化アルミニウムのコロイド粒子を含むゾルであるアルミナゾル−200(日産化学社製)のみを使用し、前記(1)の製法Aで充填剤を製造した。シリカゾルのみを使用した実施例1及び実施例2と同様に良好な結果が得られた。
【0097】
実施例9〜11
イオン放出性充填剤を構成する金属酸化物として、実施例2と同じシリカゾルST−PS−M(日産化学社製)を使用し、水溶性金属塩として、実施例9ではモノフルオロリン酸ナトリウム(アルドリッチ社製)、実施例10では第1リン酸カルシウム(和光純薬工業社製)、実施例11では塩化カルシウムを使用して前記(1)の製法Aで充填剤を製造した。実施例9では、歯科用複合材料からのフッ素イオンの放出が、実施例10及び実施例11ではカルシウムイオンの放出が確認され、修復した歯の石灰化を促進する成分を放出できる充填剤であることが確認された。なお、その他の項目についても良好な結果が得られた。
【0098】
実施例12〜13
実施例1と同一の原料を用いて、実施例1に対してフッ化ナトリウムの量を増減させたイオン放出性充填剤を前記(1)の製法Aにより製造した。実施例12では、充填剤中のフッ化ナトリウムが5mol%であり、歯科用複合材料のフッ素イオン放出量は少ないが、歯質の耐酸性を向上するのに十分な量が放出された。また充填剤中のフッ化ナトリウムの量の多い実施例13では、高いフッ素イオン放出量が得られた。さらに、いずれの場合もその他の項目で良好な結果が得られた。
【0099】
実施例14〜15
実施例2で製造したイオン放出性充填剤を、実施例14では5重量%、実施例15では80重量%を歯科用複合材料に配合した。実施例15ではイオン放出性充填剤の含有量が多く、歯科用複合材料のフッ素イオン放出量が高かったが、圧縮強度の熱サイクル後の値は低下することなく、また良好な耐酸性を示した。その他の項目についても良好な結果であった。
【0100】
実施例16〜17
実施例2で製造したイオン放出性充填剤を、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの親水性モノマーや10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートなどの歯質接着性モノマーを含有する重合性基材、ならびにその他のフィラーと混合して歯科用複合材料とした。重合性基材として親水性重合性単量体を使用しても、またその際にイオン放出量が著しく増大しても熱サイクル後の圧縮強度が低下することは殆どなかった。他の項目についても良好な結果が得られた。
【0101】
比較例1
イオン放出性充填剤として実施例1と同じ組成の原料を使用し、前記(1)の製法Cで充填剤を製造した。この充填剤の透明性は不良であり、この充填剤を配合した歯科用複合材料の研磨面の耐酸性は悪かった。研磨面の耐酸性試験後のサンプルをSEM観察した結果、研磨面からのフィラーの脱落や溶解、フィラー内部のボイドの形成が確認された。これは、ミクロンオーダーの粒径を持つフッ化ナトリウムの結晶がフッ素イオン放出性充填剤の内部に存在していることを示す。実施例1及び2と比較することにより、フッ化ナトリウムの結晶が大きくとも300nmの平均粒径で二酸化珪素のマトリックス中に実質的に均一に分散した構造が、充填剤の透明性や、歯科用複合材料の研磨面の耐酸性の確保に重要であることを示唆している。
【0102】
比較例2
表2の組成に従って各原料を混合し、フッ化ナトリウムの結晶粉末(平均粒径:2.8μm、粒径範囲:0.1μm〜25μm)をイオン放出性充填剤として5重量%配合した歯科用複合材料を調製した。歯科用複合材料のフッ素イオン放出量は良好であったが、研磨面の耐酸性は極めて悪く、熱サイクル後の圧縮強度にも低下が見られた。
【0103】
比較例3
シリカゾルST−50(日産化学社製)を金属製のバットに厚さ2〜3cmになるよう広げて、70℃の熱風乾燥機中で重量変化がなくなるまで乾燥させた。乾燥して得られた白色固体を乳鉢で1mm程度の粒径まで粉砕したのち、回転式ボールミルで24時間粉砕した。得られた粉体を用い、表2の組成に従って歯科用複合材料を調製した。該歯科用複合材料の物性評価の結果、研磨面の耐酸性、熱サイクル後の圧縮強度は良好であったが、フッ素イオンは放出されなかった。
【0104】
比較例4
特開平10−36116号公報の記載を参考にして、ポリシロキサン被覆フッ化ナトリウム粒子を製造した。ビニルトリエトキシシラン100g及び水100gの混合液に酢酸0.2gを加え、系が均一になるまで室温下で攪拌した。この水溶液に飽和食塩水を加えた後、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル溶液を、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、酢酸を除去した後、酢酸エチル溶液を無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤を濾過した除去し、酢酸エチルを減圧留去したところ、加水分解されたビニルトリエトキシシラン23gが得られた。加水分解されたビニルトリエトキシシラン10gをトルエン10gに溶解し、さらに硬化触媒として3−アミノプロピルトリエトキシシラン0.5gを加えた。この溶液をフッ化ナトリウム粉末(平均粒径:2.8μm、粒径範囲:0.1μm〜25μm)10gに加え、攪拌した後、トルエンを減圧留去し、引き続いて、120℃の加熱処理を30分間行い、白色の固体19gを得た。
【0105】
この粉体をイオン放出性充填剤として用い、歯科用複合材料を調製した。フッ素イオン放出量は高く且つ熱サイクル後の圧縮強度も良好であったが、充填剤の透明性や、歯科用複合材料の研磨面の耐酸性は不良であった。
【0106】
比較例5
平均粒径が約1.5μmのフルオロアルミノシリケートガラスG018−117をイオン放出性充填剤として用いて、歯科用複合材料を調製した。高いフッ素イオン放出量が得られたが、研磨面の耐酸性は不良であり、熱サイクル後の圧縮強度の低下がやや大きかった。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
実施例18
水18gに少量の塩酸を加え、テトラエチルオルソシリケート(和光純薬工業社製)52gを添加し、室温で約1時間均一になるまで撹拌し、テトラエチルオルソシリケートを加水分解した。さらに、水50gにフッ化ナトリウム(和光純薬工業社製)2gを溶解させたフッ化ナトリウム水溶液を、得られた加水分解物の水溶液に徐々に滴下した。この混合液をステンレス製のバットに移して薄く広げ、熱風乾燥機内に入れて70℃で24時間乾燥した後、回転式ボールミルで15時間かけて粉砕し、白色粉末17gを得た。フッ化ナトリウム相の平均粒径は0.152μmであり、粒径が0.3μm以上のものの割合は0%であった。
【0113】
得られた白色粉末をイオン放出性充填剤として用い、歯科用複合材料を作製した。即ち、重合性単量体組成物として、表4に記載の重合性基材Aを用いた。さらに、表3に記載の充填剤Aおよび充填剤Bを用いた。ここで、充填剤Aは、バリウム含有ガラス粉末(8235、ショット社製)100重量部に対して2重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(以下γ−MPSと称する)を用いて表面処理を行った表面処理粉砕バリウムガラスフィラーで、平均粒径が2μm、粒径範囲が0.1〜15μmの範囲にある。また、充填剤Bは、高分散性のフュームドシリカ粉末(アエロジル130、日本アエロジル社製)100重量部に対して40重量部のγ−MPSを用いて表面処理を行った粉末である。
【0114】
重合性基材Aを22重量%、イオン放出性充填剤を10重量%、充填剤Aを65重量%、充填剤Bを3重量%それぞれ混合して、ペースト状の歯科用複合材料を作製した。得られた充填剤および歯科用複合材料について前述の各種試験を行った。これらの試験結果を表6に示す。また、第7図に耐酸性試験後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真を示す。
【0115】
比較例6
特開平2−258602号公報に記載の実施例を参考にして、フッ化ナトリウム微粉末を製造した。具体的には、水100gにフッ化ナトリウム1gを溶解させたフッ化ナトリウム水溶液を、−60℃のメタノール浴で凝固したのち、減圧下で水を昇華し、フッ化ナトリウム微粉末(平均粒径0.44μm、粒径0.3μm以上のものの割合が38%、粒径範囲が0.1μm〜1.1μm)を得た。
【0116】
エタノール50gに該フッ化ナトリウム微粉末2gを分散させた液を、実施例18と同様に調製したテトラエチルオルソシリケートの加水分解物の水溶液に徐々に加えた後、これ以降は実施例18と同じ方法で、乾燥及び粉砕し、白色粉末18gを得た。
【0117】
得られた白色粉末をイオン放出性充填剤として用い、実施例18と同じ重合性基材A、充填剤A、充填剤Bを用いて、同じ組成で歯科用複合材料を作製した。得られた充填剤及び歯科用複合材料を使用して、実施例18と同じ試験を行った。これらの試験結果を表6に示す。また、第8図に耐酸性試験後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真を示す。
【0118】
実施例19
実施例2で得たイオン放出性充填剤、即ち、シリカゾルST−PS−M(日産化学社製)とフッ化ナトリウムからなるイオン放出性充填剤を同様に作製した。具体的には、水50gにフッ化ナトリウム2gを溶解させたフッ化ナトリウム水溶液をシリカゾル42.75gに徐々に加えた後は、実施例18と同じ方法で乾燥及び粉砕し、白色粉末(イオン放出性充填剤)17gを得た。フッ化ナトリウム相の平均粒径は0.088μmであり、粒径が0.3μm以上のものの割合は0%であった。
【0119】
実施例18と同じ重合性基材Aを15重量%、充填剤Aを72重量%、充填剤Bを3重量%、上述のイオン放出性充填剤10重量%を混練して、歯科用複合材料を作製した。得られた充填剤及び歯科用複合材料を使用して、実施例18と同じ試験を行った。これらの試験の結果を表6に示す。また、第10図に耐酸性試験後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真を示す。
【0120】
比較例7
実施例19で用いたシリカゾルと、比較例6で得たフッ化ナトリウム微粉末を用いて、イオン放出性充填剤を作製した。即ち、実施例19において用いたフッ化ナトリウム水溶液の替わりに、比較例6で得られたフッ化ナトリウム微粉末をエタノールに分散させた分散液を用いた他は、実施例19と同じ方法で作製した。具体的には、エタノール50gにフッ化ナトリウム微粉末2gを分散させたフッ化ナトリウム分散液をシリカゾル42.75gに徐々に加えた後は、実施例18と同じ方法で乾燥及び粉砕し、白色粉末17gを得た。
【0121】
得られた白色粉末をイオン放出性充填剤として用い、実施例19と同じ重合性基材A、充填剤A、充填剤Bを用いて、同じ組成で歯科用複合材料を作製した。得られた充填剤及び歯科用複合材料を使用して、実施例19と同じ試験を行った。これらの試験結果を表6に示す。また、第11図に耐酸性試験後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真を示す。
【0122】
【表6】
【0123】
実施例18と19は共に、SiO2とNaFからなる本発明の充填剤であり、該充填剤において、SiO2からなるマトリックス中にNaFが平均粒径0.3μm以下の非常に微細なレベルで分散している構造をとっている。一方、比較例6と7は、SiO2とNaFの微粉末から調製した充填剤で、SiO2からなるマトリックス中に、用いたNaFの微粉末が均一に分散しておらず、部分的に凝集していると考えられる。
【0124】
表6に示すように、実施例18および19で得られた本発明の充填剤の透明性は良好で、充填剤の粒子内部は光学的に実質的に均一であったが、比較例6および7では充填剤の粒子内部の均一性はかなり低かった。これは充填剤内部のNaFの粒径が大きいため、内部で光を散乱したためと考えられる。同様に、研磨面の耐酸性試験においても、比較例6および7の場合はNaFの粒子が溶解して充填剤の表面に多くの大きなボイドが生じているのが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明により、歯科用複合材料に対し良好な耐水(酸)性や、フッ素イオンやその他のイオンの高い放出機能を付与し、さらには該複合材料の高い審美性を長期的に維持させうる歯科用複合材料用として好適な充填剤と、該充填剤を含有する物理的耐久性、イオン放出性、審美性に優れた歯科用複合材料を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】第1図は、実施例1におけるイオン放出性充填剤の電子顕微鏡写真である。
【図2】第2図は、第1図に表示した白線囲い内の拡大説明図である。
【図3】第3図は、実施例2におけるイオン放出性充填剤の電子顕微鏡写真である。
【図4】第4図は、第3図に表示した白線囲い内の拡大説明図である。
【図5】第5図は、実施例1におけるイオン放出性充填剤のX線回折チャートである。
【図6】第6図は、実施例2におけるイオン放出性充填剤のX線回折チャートである。
【図7】第7図は、実施例18の研磨面耐酸性試験におけるクエン酸バッファー浸漬後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真である。
【図8】第8図は、比較例6の研磨面耐酸性試験におけるクエン酸バッファー浸漬後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真である。
【図9】第9図は、第8図の概略説明図である。
【図10】第10図は、実施例19の研磨面耐酸性試験におけるクエン酸バッファー浸漬後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真である。
【図11】第11図は、比較例7の研磨面耐酸性試験におけるクエン酸バッファー浸漬後の歯科用複合材料表面の電子顕微鏡写真である。
【図12】第12図は、第11図の概略説明図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金属酸化物と、少なくとも1種の水溶性金属塩を含み、該金属酸化物と該水溶性金属塩が互いに独立した相を形成してなる充填剤であって、該水溶性金属塩の相が平均粒径0.001μm〜0.3μmの該水溶性金属塩の結晶からなる充填剤の製造方法であって、前記金属酸化物および/または加水分解可能な有機金属化合物の加水分解物と前記水溶性金属塩の水溶液とを混合した後、得られた混合物の乾燥を行うことを特徴とする、充填剤の製造方法。
【請求項2】
水溶性金属塩の結晶において、粒径0.3μm以上の結晶数の割合が20%以下である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
金属酸化物の含有量が60〜95モル%であり、かつ水溶性金属塩の含有量が5〜40モル%である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
該金属酸化物が、二酸化珪素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化ランタンおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1種の化合物である請求項1〜3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
該金属酸化物が少なくとも二酸化珪素である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
該水溶性金属塩が、(i)フッ素化合物、および/または
(ii)アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物である請求項1〜5いずれか記載の製造方法。
【請求項7】
該フッ素化合物がフッ化ナトリウムである請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
光屈折率が1.4〜1.7である請求項1〜7いずれか記載の製造方法。
【請求項9】
歯科用の充填剤である請求項1〜8いずれか記載の製造方法。
【請求項10】
該混合物が含水ゲルである請求項1〜9いずれか記載の製造方法。
【請求項1】
少なくとも1種の金属酸化物と、少なくとも1種の水溶性金属塩を含み、該金属酸化物と該水溶性金属塩が互いに独立した相を形成してなる充填剤であって、該水溶性金属塩の相が平均粒径0.001μm〜0.3μmの該水溶性金属塩の結晶からなる充填剤の製造方法であって、前記金属酸化物および/または加水分解可能な有機金属化合物の加水分解物と前記水溶性金属塩の水溶液とを混合した後、得られた混合物の乾燥を行うことを特徴とする、充填剤の製造方法。
【請求項2】
水溶性金属塩の結晶において、粒径0.3μm以上の結晶数の割合が20%以下である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
金属酸化物の含有量が60〜95モル%であり、かつ水溶性金属塩の含有量が5〜40モル%である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
該金属酸化物が、二酸化珪素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化ランタンおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1種の化合物である請求項1〜3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
該金属酸化物が少なくとも二酸化珪素である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
該水溶性金属塩が、(i)フッ素化合物、および/または
(ii)アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物である請求項1〜5いずれか記載の製造方法。
【請求項7】
該フッ素化合物がフッ化ナトリウムである請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
光屈折率が1.4〜1.7である請求項1〜7いずれか記載の製造方法。
【請求項9】
歯科用の充填剤である請求項1〜8いずれか記載の製造方法。
【請求項10】
該混合物が含水ゲルである請求項1〜9いずれか記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−201791(P2008−201791A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98638(P2008−98638)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【分割の表示】特願2002−539440(P2002−539440)の分割
【原出願日】平成13年11月1日(2001.11.1)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【分割の表示】特願2002−539440(P2002−539440)の分割
【原出願日】平成13年11月1日(2001.11.1)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]