説明

充電段階または放電段階において電池の充電状態を決定する方法

電池の充電状態を決定する方法は、電池の充電段階中または放電段階中に、電池の電気的パラメータを測定することと、それに続いて、休止期間(t0〜t3)中に電池を開回路にすることと、を備える。休止期間(t0〜t3)中には、電池端子における少なくとも2つの電圧値が測定される。その後、電気的パラメータと休止期間中に測定された電圧値とに基づいて、指標が計算され、それに続いて、この指標に対応する充電状態が、電池の充電状態に応じて指標の変動を表す較正曲線を用いて決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の充電中または放電中に、電池の充電状態を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池においては、充電状態(state of charge:SOC)は、一般的に、開回路(ゼロ電流)での電池の電圧に従った広い範囲で変化し、例えば、図1に示されるように、1ボルトよりも大きい幅で変化する(2001年に刊行された「Journal of Power Sources」におけるSabine Pillerらによる「Methods for state−of−charge determination and their applications」という論文の第113頁〜第120頁)。したがって、これらの電池の充電状態は、簡単な電位測定によって決定することができ、この決定の精度は、電圧測定の精度と、電池の充電状態に従った電池の放電曲線の勾配と、に依存する。
【0003】
また、充電状態は、非ゼロ電流での電圧を測定することによって決定することもできる。したがって、精度は、電圧の測定の精度だけでなく、電流の測定の精度と、電池の充電状態に従った電池の放電曲線特性の勾配と、さらには、非ゼロ電流での電池電圧の推定パラメータと、にも依存する。
【0004】
電位の補間によるこれらの方法は、最近のある種の電池にとっては適切なものではなく、とりわけ、充電された状態と放電した状態との間の電圧差が小さいような、二相材料(biphasic material)から作られた正極を備えたリチウム・イオン型の電池にとっては適切なものではない。実際、図2に示されるように、充電状態(SOC)に応じたボルト単位における電池の電圧変動Uは、3.3Vの電圧の場合には、充電状態が60%よりも40%に近いか否かを区別できないほどに小さい。
【0005】
また、公知の方法においては、電池の充電状態は、時間の関数として電流を積分することによって決定することもできる。この方法を用いた推定の精度は、電流測定の精度に依存する。また、セルの初期容量、総充電容量、および、ファラデー効率を知る必要がある。この技術の主な欠点の1つは、サイクルを繰り返すたびに誤差が累積していき、次第により大きな不確実性(セルの初期容量の推定と、セルの総容量の推定と、に依存する)をもたらすことである。したがって、この技術は、長期間にわたる電池の管理には利用できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、正確で、かつ、実施が容易な、充電状態を決定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、本発明による方法が、
−電池の電気的パラメータを測定するステップと、
−休止期間中に、電池を開回路にするステップと、
−休止期間中の異なる時刻に、電池の端子において、少なくとも第1の電圧値と第2の電圧値とを測定するステップと、
−電気的パラメータと、休止期間中に測定された電圧値と、に基づいて、指標を決定するステップと、
−充電段階中または放電段階中の充電状態に応じた指標の変動を表す較正曲線を用いて、指標に対応する充電状態を決定するステップと、
を含む一連のステップを、充電段階中または放電段階中に備えることによって達成される。
【0008】
発展形態によれば、測定される電気的パラメータは、電池が開回路にされる前に電池に流れる電流Iであるか、または、電池が開回路にされる前の電池端子における電圧U(t0)である。
【0009】
電池端子における電圧U(t0)をパラメータとして使用する第1の変形例によれば、指標ind1は、式:
【数1】

によって与えられる。ここで、U(t1)は、休止期間中の第1の電圧測定値であり、U(t2)は、休止期間中の第2の電圧測定値であり、αは、単調較正曲線を得るために、αの逐次代入法によって較正段階中に事前に決定されたパラメータである。
【0010】
電流Iをパラメータとして使用する第2の変形例によれば、指標は、式:
【数2】

によって与えられる。ここで、U(t1)は、休止期間中に測定された第1の電圧値であり、U(t2)は、休止期間中に測定された第2の電圧値であり、αは、単調較正曲線を得るために、αの逐次代入法によって較正段階中に事前に決定されたパラメータである。
【0011】
その他の利点および特徴が、非限定的な例示目的のみで与えられ、かつ、添付の図面に示された、以下の本発明の特定の実施形態の記述から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】先行技術による開回路電圧測定を用いて電池の充電状態を決定する曲線を示す図である。
【図2】リチウム・イオン電池の充電状態に応じた開回路電圧の変動を示す図である。
【図3】本発明による電池の充電状態を決定する段階中の放電段階における、時刻に応じた電池電圧の変動を示す図である。
【図4】充電状態に応じて休止期間の後に決定された指標を表す較正曲線を示す図である。
【図5】充電状態に応じた指標の値の変動を表す、それぞれが異なるαに対応する異なる曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図3に示されるように、充電段階中または放電段階中に、電池の充電状態または蓄電池の充電状態を決定するために、図3は、充電状態を決定するステップを備えた放電段階の場合の、時刻に応じた電池電圧の変動を示す。時刻t0とt3との間で電池が休止状態にされる前に、最初に、電池の電気的パラメータが測定される。電池を休止状態にすることは、電池を開回路にすることに対応し、これは、電池を流れる電流が存在しないことを意味する。この休止状態にすることは、電池端子における電圧の変動を引き起こす。典型的には、この変動は、電池が放電段階にあれば、電圧の増加に対応し(図3)、電池が充電段階にあれば、電圧の減少に対応する(図示しない)。休止期間(t0〜t3)は、好ましくは、電圧が一般的に安定電圧(plateau voltage)に到達する時間である60秒以下である。
【0014】
休止期間(t0〜t3)中には、電池端子における電圧の値が、少なくとも2つの異なる時刻t1およびt2において測定される。時刻t2は、時刻t3に等しくてもよく、すなわち、電圧は、電池の充電段階または放電段階が再開される直前に測定される。その後、指標が、電気的パラメータの測定値と、休止期間t0〜t3中に測定された電圧値U(t1)およびU(t2)の測定値と、から決定される。
【0015】
指標は、電気的パラメータとしての電流の測定、または、電気的パラメータとしての電圧の測定、による2つの異なる方法で得られてもよい。
【0016】
第1の変形例によれば、測定される電気的パラメータは、休止期間よりも前、すなわちt0における電池端子の電圧Uである。休止期間中に、時刻t1およびt2において少なくとも2つの電圧値を測定した後に、指標が、次の式を適用することによって決定されてもよい。
【数3】

ここで、U(t1)およびU(t2)は、それぞれ、時刻t1およびt2において測定された電圧を表し、
αは、電池の充電または放電に依存したパラメータである。
【0017】
パラメータαは、電池の種類に依存する。そのパラメータαは、充電状態に応じた指標を表す単調較正曲線を得るために、αの考えられる値、例えば、0Vと電池の定格電圧との間に存在する値を逐次代入することによって、較正段階中に事前に決定される。図5は、18650型であり容量が1.4AhであるようなLiFePO/LiC型電池の10時間にわたる放電段階の場合に、それぞれ、2.5Vのαの値、3.1Vのαの値、3.2Vのαの値、3.3Vのαの値、および、3.4Vのαの値に対する充電状態(SOC)に応じた指標の値の変動特性を示す。α=3.2Vの値に対応する曲線が、最も単調であり、すなわち、この曲線は、いかなる勾配の変化または勾配の反転をも示さない。これとは対照的に、α=2.5Vおよびα=3.1Vに対応する曲線は、充電状態のレベルが70%である場合において、勾配の変化および勾配の反転を示す。同様に、α=3.4Vに対応する曲線は、多数の勾配変化を示す。α=3.3Vに対応する曲線に関する限り、充電状態が15%である場合において変化が得られる。単調性を示さないこの曲線は、満足できるものではない。なぜなら、この場合には、同じ指標に対して、対応する複数の充電状態値が存在し得るからである。したがって、図5において検査された種類の電池の場合には、保持されるべきαの値は、3.2Vである。
【0018】
上記の例においては、αは、較正段階中に逐次代入法によって決定されたが、検査される電池が、LiFePO/グラファイト(LiFePO/Graphite)またはLiFePO/LiTi12である材料を含む電極を有する場合には、その値αは、電池の充電時または放電時の平均電位に近接することに注意されたい。LiFePO/LiTi12の場合には、対応するαは、1.8Vである。平均電位は、所定の充電率または放電率に対して、電池エネルギー(単位:W・h)と電池容量(単位:A・h)との比によって定義される。
【0019】
第2の変形例によれば、測定される電気的パラメータは、休止期間の前、すなわちt0において電池に流れる電流Iである。電流Iが測定された後、電池は、ある期間にわたって休止状態にされ、この期間中に、少なくとも2つの電圧値が、それぞれ、時刻t1およびt2において測定される。その後、指標ind2が、次の式を適用することによって決定されてもよい。
【数4】

ここで、U(t1)およびU(t2)は、それぞれ、時刻t1およびt2において測定された電圧を表し、
αは、電池の充電または放電に依存するパラメータであり、単調較正曲線を得るために、上記の変形例に類似する方法で決定されるパラメータである。
【0020】
その後、指標は、基準電池から事前に得られた較正曲線(図4)から電池の充電状態(SOC)を決定するのに使用され、この曲線は、充電段階中または放電段階中の電池の充電状態に応じた指標の変動を表す。較正曲線は、好ましくは、所定のαに対する指標と電池の充電状態との関係を提供する。使用される較正曲線は、好ましくは、最良のαを決定可能にする較正曲線である。図4の曲線は、電池を流れるアンペア数(ind2)が電気的パラメータとして測定されるような変形例に対応する較正曲線を表す。較正曲線は、電池充電段階または電池放電段階のどちらが関連しているかで、実際には異なるので、2つの較正曲線が、作図されなければならない。図4に示されるように、較正曲線は、放電段階中の電池の充電状態に応じた指標ind2の変動を表す。この曲線は、これまでに説明されたαの逐次代入法によって較正段階中に得られたものである。同一銘柄の3つの基準電池に対して行われた検査は、5%未満の標準偏差で測定の高い再現性を得るのを可能にするような、結果の小さなばらつきを示すものであった。
【0021】
このように、一実施形態によれば、放電段階において、18650型であり容量が1.4Ahであるシリンダ形のLiFePO/LiC型セルに対して、かつ、t2=t3であり、30秒の休止期間に対して、ind2の計算は、
【数5】

を与える。ここで、20時間の電池の放電段階の場合に、U(30s)=3.25V、U(1s)=3.21V、および、I=0.07Aである。したがって、0.0875Aというind2の値が得られる。
【0022】
図4の曲線を読み取ることによって、25%という充電状態(SOC)の推定値が得られる。
【0023】
また、t2=30秒の代わりに、t2=1秒において測定された第2の電圧に対して行われたこの同じ計算は、20%未満の充電状態の標準偏差で較正曲線の良好な単調性を示す。
【0024】
本発明による方法は、電池の化学的性質に適したものであり、特に、一方または両方が二相材料から作られた一対の電極を有する電池の充電状態を決定可能にする。この方法は、特に、LiFePO電極材料およびLiTi12電極材料を含む電池により適している。そのような電池の充電状態を確立することは、10%未満の不確実性を備えた大きな精度で達成されるのに対して、先行技術による方法によれば、不確実性は、15%よりも大きい。また、以前の電池の充電および放電に関するデータに従って補正を行うメモリおよび回路を組み込む必要もない。
【0025】
このきわめて興味深い方法は、光発電分野において利用されてもよい。また、この方法は、電話およびコンピュータのような携帯機器の分野において利用されてもよく、または、厳格な充電評価規格を使用することが重要なハイブリッド自動車または電気自動車の分野において利用されてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の充電または放電段階中に、電池の充電状態を決定する方法であって、
前記電池の電気的パラメータを測定するステップと、
休止期間(t0〜t3)中に、前記電池を開回路にするステップと、
前記休止期間(t0〜t3)中の異なる時刻(t1、t2)に、前記電池の端子において、少なくとも第1及び第2の電圧値を測定するステップと、
前記電気的パラメータと、前記休止期間中に測定された前記電圧値と、に基づいて、指標(ind1、ind2)を決定するステップと、
前記充電段階中または前記放電段階中の充電状態に応じた指標の変動を表す較正曲線を用いて、前記指標に対応する充電状態を決定するステップと、
を含む一連のステップを、前記段階中に備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電気的パラメータは、前記電池が開回路にされる前に前記電池に流れる電流Iであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気的パラメータは、前記電池が開回路にされる前の前記電池の端子における電圧U(t0)であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記指標は、式:
【数1】

によって与えられ、ここで、U(t1)は、前記休止期間中に測定された第1の電圧値であり、U(t2)は、前記休止期間中に測定された第2の電圧値であり、αは、単調較正曲線を得るために、αの逐次代入法によって較正段階中に事前に決定されたパラメータであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
指標ind1は、式:
【数2】

によって与えられ、ここで、U(t1)は、前記休止期間中の第1の電圧測定値であり、U(t2)は、前記休止期間中の第2の電圧測定値であり、αは、単調較正曲線を得るために、αの逐次代入法によって較正段階中に事前に決定されたパラメータであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記休止期間は、60秒以下の期間を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−507018(P2012−507018A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533607(P2011−533607)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/007732
【国際公開番号】WO2010/049148
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(510225292)コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ (97)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】Batiment Le Ponant D,25 rue Leblanc,F−75015 Paris, FRANCE
【出願人】(509252265)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT POLYTECHNIQUE DE GRENOBLE
【Fターム(参考)】