説明

光アクセスネットワークシステム及びその通信冗長化方法

【課題】 二重化された通信経路のうち、片方の通信経路の通信に異常が起きた場合においても、もう一方の通信経路でサービスを利用することができ、通信ネットワークの高信頼化を実現する
【解決手段】 通信経路を二重化し、各通信経路(7,8)のうち一方の通信経路の信号光の波長を他方の経路とは異なる波長に変換し(54)、試験パルス光による各通信経路の光路長差を測定し(52)、その測定結果に基づいて光路長が互いに一致するように光路長を制御し(55,53)。続いて、試験パルス光による各通信経路の光パワーレベル差を測定し(51b)、その光パワーレベル差が許容範囲となるように、第2の通信線路8の光パワーレベルを減衰し調整を図る。このように、通信装置1,2間でリンクが切断しない範囲内で光路長を常に調整することによって、片方の通信経路の通信に異常が起きた場合においても、もう一方の通信経路でサービスを利用可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アクセスネットワークの通信経路を二重化し、一方の通信経路の異常時に速やかにもう一方の通信経路に切り替えられる光アクセスネットワークシステムとその通信冗長化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光加入者アクセスサービスで一般的に用いられている専用線サービスによる光アクセスネットワークシステムでは、1つの光アクセス終端装置と1つの光ネットワークユニット(ONU:Optical Network Unit)、ならびに、これらを接続する光ファイバによる通信線路を用いて構成される。ONUは、例えば光加入者アクセスサービスの加入者宅に置かれ、光アクセス終端装置は、サービス事業者のビル等に置かれる。
【0003】
尚、光アクセス終端装置に相当する機能を有したカードをOSU(Optical Subscriber Unit)と称し、このカードを複数枚収容するとともにオペレーションシステムと通信を行う装置をOLT(Optical Line Terminal)と称する場合が多い。但し、OLTとOSUの機能分担は必要に応じて再構成可能であるため、以降においては、これらを総称して「光アクセス終端装置」と呼ぶ。
【0004】
ところで、通信ネットワークの高信頼化を実現するために、従来から、光アクセス終端装置とONUを複数の光ファイバで接続できるようにしておき、片方の光ファイバに異常があった場合でも、もう一方の光ファイバでサービスを利用できるようにしておく、通信経路の二重化による冗長構成が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、IP通信のエンドポイントとなるONUが現用系および予備系の2つの系を備え、現用系に故障が発生したときに即座に予備系に切り替える二重化系切替方式が提案されている。
この方式では、光アクセス終端装置とONUの通信経路を二重化しておくことが必要である。二重化するには、例えば光アクセス終端装置に光カプラを配置し、ONUの手前に光カプラを配置する構造が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−189321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のように、IP通信のエンドポイントとなるONUが現用系および予備系の2つ系を備え、現用系に故障が発生したときに即座に予備系に切り替える二重化系切替方式の場合には、予備系に切り替える際にサービス断が発生してしまうことが問題となっていた。また、通信経路を二重化しただけでは、光カプラで光を合波する際に光の干渉が発生したり、各通信経路によって信号の到達時間が異なったりすることによりサービス断が発生することが問題となっていた。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するもので、光アクセス終端装置とONUとの通信経路を二重化した際に、片方の通信経路の光ファイバの通信に異常が起きた場合においても、もう一方の通信経路の光ファイバでサービスの提供を継続することのできる光アクセスネットワークシステム及びその通信冗長化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光アクセスネットワークシステムは、以下のような態様の構成とする。
(1)上部側通信装置に接続され、前記上部側通信装置からの信号光を第1の入出力端子から取り込んで第3及び第4の入出力端子に分岐出力し、前記第3及び第4の入出力端子に入射される信号光を合波して第2の入出力端子から出力する第1の光カプラを備える光アクセス終端装置と、下部側通信装置に接続され、試験光を発生する光源と、第1及び第2の入出力端子に入射される信号光を合波して第3の入出力端子から出力し、前記光源で発生される試験光を前記第4の入出力端子から取り込んで第1及び第2の入出力端子に分岐出力する第2の光カプラとを備える光ネットワークユニットと、前記第1の光カプラの第3の入出力端子及び前記第2の光カプラの第1の入出力端子間に接続される第1の通信線路と、前記第1の光カプラの第4の入出力端子及び前記第2の光カプラの第1の入出力端子間に接続される第2の通信線路とを具備し、前記光アクセス終端装置は、前記第2の通信線路の伝送光の波長を前記第1の通信線路の伝送光とは異なる波長に変換する波長変換手段と、前記第2の通信線路の光路長を指示に応じて調整する光路長調整手段と、前記第2の通信線路の伝送光を指示に応じて減衰する可変光減衰手段と、前記光ネットワークユニットの光源から出力されて前記第2のカプラにて分岐され、前記第1の通信線路を経由して前記第1の光カプラに前記第3の入出力端子から取り込まれ、その第2の入出力端子から出力される第1の経路の試験光と、前記第2の通信線路を経由して、前記波長変換手段で波長変換されて前記第1の光カプラに前記第4の入出力端子から取り込まれ、その第2の入出力端子から出力される第2の経路の試験光との光路長差を測定し、その光路長差に基づいて前記第2の通信線路が前記第1の通信線路と一致するように前記光路長調整手段に指示を送る光路長制御手段とを備える態様とする。
【0010】
(2)(1)のシステム構成において、前記光路長制御手段は、前記測定された光路長差に基づいて光アクセス終端装置と光ネットワークユニット間で通信のリンクが切断しない範囲内で各通信経路の光路長が常に一致し、信号光のビット符号が常に一致するように光路長の調整を指示する態様とする。
【0011】
(3)(1)のシステム構成において、さらに、前記第1の経路の試験光と前記第2の経路の試験光それぞれの光パワーレベル差を測定し、そのレベル差が許容範囲となるように前記可変光減衰手段に指示を送る光パワーレベル制御手段を備える態様とする。
【0012】
(4)(1)のシステム構成において、前記上部側通信装置と前記光アクセス終端装置との間、前記下部側通信装置と光ネットワークユニットとの間には、それぞれ前記試験光を遮断して通信光のみを通過させる試験光遮断フィルタが配置され、前記第1の光カプラの第2の入出力端子の入出力経路に前記通信光を遮断し前記試験光のみを通過させる通信光遮断フィルタが配置されることを特徴とする請求項1記載の光アクセスネットワークシステム。
【0013】
(5)(1)のシステム構成において、前記光源は、前記試験光として、周波数チャープしたパルス光を発生する態様とする。
また、本発明に係る光アクセスネットワークシステムの通信冗長化方法は、以下のような態様の構成とする。
(6)部側通信装置に接続される光アクセス終端装置と下部側通信装置に接続される光ネットワークユニットとの間に形成される通信経路を二重化して第1及び第2の通信経路を形成し、前記光ネットワークユニットから試験光を発生して前記第1及び第2の通信経路に分岐出力し、前記光アクセス終端装置内で、前記第1及び第2の通信経路からそれぞれ前記試験光を受信して両者の受信タイミングから前記第1及び第2の通信経路の光路長差を測定し、その測定結果に基づいて前記第1及び第2の通信経路それぞれの光路長が一致するように前記第1及び第2の通信経路のいずれか一方の光路長を調整する態様とする。
【0014】
(7)(6)の方法において、前記光路長の調整は、測定された光路長8に基づいて光ネットワークユニット間で通信のリンクが切断しない範囲内で各通信経路の光路長が常に一致し、信号光のビット符号が常に一致するように調整する態様とする。
(8)(6)の方法において、さらに、前記第1の通信経路の試験光と前記第2の通信経路の試験光それぞれの光パワーレベル差を測定し、そのレベル差が許容範囲となるように前記第1及び第2の通信経路のいずれか一方の光パワーレベルを減衰させる態様とする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明は、通信経路を二重化し、各通信経路の光路長差を測定し、その結果に応じて光路長調整器でその光路長差が信号光のビット符号が常に一致するようになるまで変化させ、常に各通信経路の光路長を一致させる。このとき、伝送装置間でリンクが切断しない範囲内で光路長を常に調整することによって、片方の通信経路の光ファイバの通信に異常が起きた場合においても、もう一方の通信経路の光ファイバでサービスを利用することができる光アクセスネットワークを提供することが可能となる。これにより、通信ネットワークの高信頼化を実現することができる。
【0016】
したがって、本発明によれば、光アクセス終端装置とONUとの通信経路を二重化した際に、片方の通信経路の光ファイバの通信に異常が起きた場合においても、もう一方の通信経路の光ファイバでサービスの提供を継続することのできる光アクセスネットワークシステム及びその通信冗長化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る光アクセスネットワークシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すシステムの通信冗長化方法による処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
図1は、本実施形態に係る光アクセスネットワークシステムの概略構成を示すブロック図である。図1において、1は所内装置(上部)、2は所外装置(下部)であり、所内装置1は試験光遮断フィルタ3を介して光アクセス終端装置5に接続され、所外装置2は試験光遮断フィルタ4を介してONU6に接続され、光アクセス終端装置5とONU6とは、それぞれ第1及び第2の通信線路7,8によって接続される。
【0019】
上記光アクセス終端装置5は、光カプラ51、光路長差監視装置52、光路長調整装置53、波長変換装置54、制御装置55、通信光遮断フィルタ56、可変光減衰器57を備える。光カプラ51は第1乃至第4の入出力端子51a,51b,51c,51dを備える。一方、上記ONU6は、光カプラ61、光路長差計測用光源62を備える。光カプラ61は第1乃至第4の入出力端子61a,61b,61c,61dを備える。
【0020】
すなわち、図1に示すシステムでは、第1の通信線路7より上部側の光アクセス終端装置5、下部側のONU6にそれぞれ光カプラ51,61が設置される。上記第1の通信線路7は、一方端が上部側光カプラ51の第3の入出力端子51cに接続され、他方端が下部側光カプラ61の第1の入出力端子61aに接続される。また、上記第2の通信線路8は、一方端が上部側光カプラ51の第4の入出力端子51dに接続され、他方端が下部側光カプラ61の第2の入出力端子61bに接続される。上記光アクセス終端装置5内において、第2の通信線路8には、光路長調整装置53、波長変換装置54、可変光減衰器57が介在される。
【0021】
これにより、所内装置1から出射された信号光は、光カプラ51によって2つに分波され、それぞれ第1の通信線路7と第2の通信線路8を介して下部側に送られ、その後光カプラ61にて合波され、その合波された出力光は所外装置2に送られる。
上記光カプラ61は、光路長差計測用光源62から送出されるパルス光を第1の通信線路7を伝搬する信号光に光結合するもので、パルス光が結合された信号光の一部は光カプラ61を介して第2の通信線路8に入射され、その出射光は光カプラ51に送られ、第1の通信線路7を伝搬する信号光と合波される。
【0022】
ここで、光路長差計測用光源62から出射された周波数チャープした試験パルス光Lを用いて、光路長差監視装置52により第1の通信線路7の光路長と第2の通信線路8の光路長との差を常に測定し、この光路長差に基づいて信号光のビット符号が常に一致するように、光路長調整装置53によって第2の通信線路8の光路長の調整を繰返し行う。
【0023】
上記光カプラ51の第2の入出力端子51bには第1の通信線路7と第2の通信線路8との光路長差を測定・監視するための光路長差監視装置52が接続される。そして、光カプラ51の第2の入出力端子51bと光路長差監視装置52との間には、試験パルス光Lを透過し、かつ所外装置2を送出した上り信号光を遮断する通信光遮断フィルタ56が設置される。
【0024】
また、所内装置1と光カプラ51の第1の入出力端子51aとの間には、所内装置1からの下り信号光と所外装置2からの上り信号である通信光と透過し、かつ試験パルス光Lを遮断する試験光遮断フィルタ3が設置される。さらに、所外装置2と光カプラ61の第3の入出力端子61cとの間には所内装置1からの下り信号光と所外装置2からの上り信号である通信光と透過し、かつ試験パルス光Lを遮断する試験光遮断フィルタ4が設置される。
【0025】
これにより、光路長差計測用光源62を起点に、第4の入出力端子61d、光カプラ61、第1の入出力端子61a、第1の通信線路7、第3の入出力端子51c、第2の入出力端子51b、光路長差監視装置52に至る試験パルス光Lが伝搬する第1の経路Aと、第4の入出力端子61d、光カプラ61、第2の入出力端子61b、第2の通信線路(波長変換装置54、可変光減衰器57、光路長調整装置53はその線路中に介在されるものとする)8、第4の入出力端子51d、第2の入出力端子51b、光路長差監視装置52に至る試験パルス光Lが伝搬する第2の経路Bが形成される。
【0026】
この二つの経路A,Bの光路長差は、光路長差計測用光源62から第4の入出力端子61dまでの間と、第2の入出力端子51bから光路長差監視装置52の間までの経路が共通であるので、第4の入出力端子61dから第2の入出力端子51bの間において各経路A,Bの光路長差となる。これにより、第1の通信線路7を伝搬する信号光と試験パルス光Lを分岐して第2の通信線路8に流すことができ、通信を二重化することができる。
【0027】
上記光路長差計測用光源62から送出した周波数チャープした試験パルス光Lは、光カプラ61によって分岐され、第1の通信線路7および第2の通信線路8を通過して、光カプラ51によって合波され、周波数チャープした合波試験パルス光として第2の入出力端子51bから出射され、その後、光路長差監視装置52に入射される。これにより、光路長差監視装置52は第1の経路Aと第2の経路Bとの伝達時間の差を常に検出して光路長差を算出する。
【0028】
上記光路長差情報は制御装置55に与えられる。この制御装置55は各経路の光路長を一致させるために、第2の通信線路8の光路長調整装置53を制御して第2の経路Bの光路長を調整し、第1の経路Aと第2の経路Bの光路長を常に一致させる。
光路長差監視装置52としては、例えばオシロスコープがあり、オシロスコープによって第1の通信線路7と第2の通信線路8を伝播した両方の周波数チャープした試験パルス光Lを受光し、両方の周波数チャープした試験パルス光Lの波形が近づくように光路長調整装置53を調整し、両方の周波数チャープした試験パルス光Lがおおよそ一致した後に、おおよそ一致した両方の周波数チャープした試験パルス光Lの両経路A,Bの光路長差から発生する周波数チャープ量(位相および波長の変化量)の差により測定される周波数が零になるように光路長調整装置53を調整することが可能である。
【0029】
なお、光路長差計測用光源62から送出した試験パルス光Lの替わりに、所外装置2からパルス光を送出してもよい。また、片方の系に周波数シフタ(周波数を変化させる装置)を具備し、第1の経路と第2の経路の伝達時間の差を周波数で表し、光路長差監視装置52において、その時間差相当の周波数の値に基づいて光路長差を算出するようにしてもよい。
【0030】
上記光路長調整装置53は、制御装置55からの制御指示に従って第2の通信線路8の光路長を調整可能な装置である。例えば、第2の通信線路8の一部を光無線通信(FSO:Free Space Optics)に置き換えて、光ファイバと空間との伝搬速度の差を利用し、信号光に遅延を与えることができる。
【0031】
この他、第2の通信線路8において、伝搬する信号光をいったん光/電気変換し、遅延量に相当する時間を信号蓄積器(例えばメモリ)によって遅延量時間だけ停止させ、再度、電気/光変換して元に送出するようにしてもよい。
また、上記第1及び第2の通信線路7,8として、一対の偏波分離カプラと偏波合成カプラから構成される偏波保持光ファイバによる二重化線路を構成し、光線路長を一定長ステップで変化させることの可能な光ファイバ切替装置と、それぞれの線路に導通する光パワーをモニタするための分岐カプラを上記二重化線路のそれぞれに配置し、かつ一定長の半分の長さを有する光ファイバを上記二重化線路の一方に配置し、上記偏波分離カプラの入力ポート側に外部信号フィードバック偏波コントローラを備え、上記二重化線路の光パワーレベルを交互に外部信号フィードバック偏波コントローラに供給することを特徴とする光路長調整装置を用いてもよい。
【0032】
上記波長変換装置54は、第2の通信線路8を伝搬する信号光の波長を第1の通信線路7を伝搬する信号光の波長と異なる波長に変換する装置であり、変換後の波長でも通信が確立することを特徴とする。例えば、半導体光アンプ(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)に第2の通信線路8を伝搬する信号光と変換したい波長の連続光を入射することによって、変換したい波長の連続光に信号を乗せることが可能である。
【0033】
上記制御装置55は、光路長差監視装置52を通じて第1の経路Aと第2の経路Bの光路長差を常に把握し、その光路長差を監視しながら光路長調整装置53を制御し、第2の通信線路8の光路長を調整する。
図1の通信線路7,8を有する第1及び第2の経路A,Bにおいて、信号光が伝搬されている際に各通信線路7,8の信号光を合波した後に信号光が途絶しない、または信号光が途絶せずとも伝送データの欠落や伝送装置間でリンクが途絶しないためには、各通信線路7,8の光路長が一致し、ビット符号が一致しなければならない。光カプラ61を起点として第1の通信線路7と第2の通信線路8とに分岐した試験パルス光Lが光カプラ51に到達し、その後、第2の入出力端子51bから光路長差監視装置52に入力されるまでに生じた第1の経路Aと第2の経路Bの光路長差は、第1の通信線路7と第2の通信線路8との光路長差に他ならない。
【0034】
上記光路長差計測用光源62としては、例えば、光源に直接、強度変調をかける方法や、光源と音響光学スイッチとを用い、光源から出力された連続光を音響光学スイッチでパルス化する方法が考えられる。また、光路長差監視装置52としては、例えば、信号光の信号の1周期よりも一桁小さなサンプリング分解能を有するものが望ましい。
【0035】
次に、第1の通信線路7と第2の通信線路8の光路長とを常に一致させる手順を説明する。
先ず、光路長差計測用光源62からの周波数チャープした試験パルス光Lを光カプラ61で分岐させ、第1の通信線路7側と第2の通信線路8側を通過する周波数チャープした試験パルス光を光カプラ51で合波し、合波した周波数チャープした試験パルス光を光路長差監視装置52で測定する。この時、第1の通信線路7が第2の通信線路8より短ければ、第2の通信線路8を第1の通信線路7より短くする。これにより、第1の通信線路7側と第2の通信線路8側の光路長差をメートルオーダまで一致させることができる。
【0036】
次に、第1の通信線路7側と第2の通信線路8側の光路長差を信号ビット列レベルのずれまで厳密に一致させるため、上記の光路長調整に加えて、第1の通信線路7側と第2の通信線路8側を伝搬した周波数チャープした試験パルス光を光カプラ51で合波し、合波した後の周波数チャープした試験パルス光を光路長差監視装置52で測定し、合波した後の周波数チャープした試験パルス光から光路長差監視装置52で両経路A,Bの光路長差を測定し、制御装置55から光路長調整装置53を制御し、両経路A,Bを通過する信号光の到達時間(光路長差をミリオーダーで零に近づける)を、両経路A,Bを伝播した信号光の信号ビット列が一致するように近づける。
【0037】
尚、光ファイバはその特性上、温度の変化(天候の変化)により屈折率が変化するため、光路長に変動が生じることは避けられない。そのため、上記のように二重化された経路A,Bの光路長を一致させた後であっても、光路長の変動にあわせて調整を継続する必要がある。そこで、第1の通信線路7側と第2の通信線路8側を伝搬した周波数チャープした試験パルス光を合波し、合波した後の周波数チャープした試験パルス光を光路長差監視装置4で測定し続け、常に光路長差監視装置4で両経路の光路長差を監視し、制御部21から光路長調整装置6を制御し、両経路A,Bを通過する信号光の到達時間を、両経路A,Bを伝播した信号光の信号ビット列が一致するように近づける処理を行う。
【0038】
具体的には、光路長差計測用光源62から送出された周波数チャープした試験パルス光Lは、第4の入出力端子61dに入射され、光カプラ61によって第1の通信線路7と第2の通信線路8とに分岐する。
第1の通信線路7側に伝搬した周波数チャープした試験パルス光は、第1の入出力端子61a、第1の通信線路7、第3の入出力端子51cを経由し、光カプラ51で分岐し、第2の入出力端子51bを経由し、光路長差監視装置52で検出される。
【0039】
一方、第2の通信線路8側に伝搬した周波数チャープした試験パルス光Lは、第2の入出力端子61b、第2の通信線路8、波長変換装置54、光路長調整装置53、第4の入出力端子51dを経由して、光カプラ51で分岐され、第2の入出力端子51bを経由し、光路長差監視装置52で検出される。この第1の通信線路7側と第2の通信線路8側を伝搬した周波数チャープした試験パルス光を合波し、合波波した後の周波数チャープした試験パルス光Lを光路長差監視装置52で測定したときに検知される両経路A,Bの光路長差を制御装置55から光路長調整装置53を制御し、各通信線路の光路長を、各通信線路を通過した信号光の信号ビット列が一致するように正確に一致させる。
【0040】
光路長を調整する際には、伝送装置間でリンクが切断されない範囲内の速さで光路長を調整する。一般に、ONUやOLTは、データの“0”と“1”を識別するために識別パワーの閾値を設けているが、この閾値については、経路が切り替わるタイミングで急激に変化した場合には、伝送装置間でリンクが断(提供サービスが断)となる場合がある。
【0041】
そこで、通信を二重化する際には、第1の通信線路7と第2の通信線路8を伝搬した信号光の光パワーレベル差を伝送装置が許容可能な範囲に抑える必要がある。例えば、第2の通信線路8に可変光減衰器57を設置することにより、光路長差監視装置52で測定した試験パルス光の光パワー差を測定し、制御装置55から可変光減衰器57を制御し、第1の通信線路7と第2の通信線路8を伝搬した信号光の光パワーレベル差を伝送装置が許容可能な範囲に調整することが可能である。
【0042】
すなわち、上記実施形態のシステムでは、図2に示すように、通信経路を二重化し(ステップS1)、各通信経路A,Bのうち一方の通信経路の信号光の波長を他方の経路とは異なる波長に変換し(ステップS2)、試験パルス光による各通信経路の光路長差を測定し(ステップS3)、その測定結果に基づいて光路長が互いに一致するように光路長を制御する(ステップS4)。続いて、試験光パルスによる各通信経路の光パワーレベル差を測定し(ステップS5)、その光パワーレベル差が許容範囲となるように、第2の通信線路8の光パワーレベルを減衰し調整を図る(ステップS6)。
【0043】
したがって、上記実施形態による光アクセスネットワークシステムによれば、通信線路を二重化し、二重化された各通信線路(経路A,B)7,8の光路長差を測定し、その結果に応じて光路長調整装置53でその光路長差が信号光のビット符号が常に一致するようになるまで変化させ、常に通信経路の光路長を一致させ、両者の光パワーレベル差が許容範囲となるように光入力を減衰させる。このとき、伝送装置1,2間でリンクが切断しない範囲内で光路長を常に調整することによって、片方の通信経路の光ファイバの通信に異常が起きた場合においても、もう一方の通信経路の光ファイバでサービスを利用することができる。これにより、通信ネットワークの高信頼化を実現することができる。
【0044】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成を削除してもよい。さらに、異なる実施形態例に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…所内装置(上部)、
2…所外装置(下部)、
3,4…試験光遮断フィルタ、
5…光アクセス終端装置、51…光カプラ、52…光路長差監視装置、53…光路長調整装置、54…波長変換装置、55…制御装置、56…通信光遮断フィルタ、57…可変光減衰器、51a,51b,51c,51d…第1乃至第4の入出力端子、
6…ONU、61…光カプラ、62…光路長差計測用光源、61a,61b,61c,61d…第1乃至第4の入出力端子、
7…第1の通信線路,8…第2の通信線路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部側通信装置に接続され、前記上部側通信装置からの信号光を第1の入出力端子から取り込んで第3及び第4の入出力端子に分岐出力し、前記第3及び第4の入出力端子に入射される信号光を合波して第2の入出力端子から出力する第1の光カプラを備える光アクセス終端装置と、
下部側通信装置に接続され、試験光を発生する光源と、第1及び第2の入出力端子に入射される信号光を合波して第3の入出力端子から出力し、前記光源で発生される試験光を前記第4の入出力端子から取り込んで第1及び第2の入出力端子に分岐出力する第2の光カプラとを備える光ネットワークユニットと、
前記第1の光カプラの第3の入出力端子及び前記第2の光カプラの第1の入出力端子間に接続される第1の通信線路と、
前記第1の光カプラの第4の入出力端子及び前記第2の光カプラの第1の入出力端子間に接続される第2の通信線路と
を具備し、
前記光アクセス終端装置は、
前記第2の通信線路の伝送光の波長を前記第1の通信線路の伝送光とは異なる波長に変換する波長変換手段と、
前記第2の通信線路の光路長を指示に応じて調整する光路長調整手段と、
前記第2の通信線路の伝送光を指示に応じて減衰する可変光減衰手段と、
前記光ネットワークユニットの光源から出力されて前記第2のカプラにて分岐され、前記第1の通信線路を経由して前記第1の光カプラに前記第3の入出力端子から取り込まれ、その第2の入出力端子から出力される第1の経路の試験光と、前記第2の通信線路を経由して、前記波長変換手段で波長変換されて前記第1の光カプラに前記第4の入出力端子から取り込まれ、その第2の入出力端子から出力される第2の経路の試験光との光路長差を測定し、その光路長差に基づいて前記第2の通信線路が前記第1の通信線路と一致するように前記光路長調整手段に指示を送る光路長制御手段と
を備えることを特徴とする光アクセスネットワークシステム。
【請求項2】
前記光路長制御手段は、前記測定された光路長差に基づいて光アクセス終端装置と光ネットワークユニット間で通信のリンクが切断しない範囲内で各通信経路の光路長が常に一致し、信号光のビット符号が常に一致するように光路長の調整を指示することを特徴とする請求項1記載の光アクセスネットワークシステム。
【請求項3】
さらに、前記第1の経路の試験光と前記第2の経路の試験光それぞれの光パワーレベル差を測定し、そのレベル差が許容範囲となるように前記可変光減衰手段に指示を送る光パワーレベル制御手段を備えることを特徴とする請求項1記載の光アクセスネットワークシステム。
【請求項4】
前記上部側通信装置と前記光アクセス終端装置との間、前記下部側通信装置と光ネットワークユニットとの間には、それぞれ前記試験光を遮断して通信光のみを通過させる試験光遮断フィルタが配置され、前記第1の光カプラの第2の入出力端子の入出力経路に前記通信光を遮断し前記試験光のみを通過させる通信光遮断フィルタが配置されることを特徴とする請求項1記載の光アクセスネットワークシステム。
【請求項5】
前記光源は、前記試験光として、周波数チャープしたパルス光を発生することを特徴とする請求項1記載の光アクセスネットワークシステム。
【請求項6】
上部側通信装置に接続される光アクセス終端装置と下部側通信装置に接続される光ネットワークユニットとの間に形成される通信経路を二重化して第1及び第2の通信経路を形成し、
前記光ネットワークユニットから試験光を発生して前記第1及び第2の通信経路に分岐出力し、
前記光アクセス終端装置内で、前記第1及び第2の通信経路からそれぞれ前記試験光を受信して両者の受信タイミングから前記第1及び第2の通信経路の光路長差を測定し、その測定結果に基づいて前記第1及び第2の通信経路それぞれの光路長が一致するように前記第1及び第2の通信経路のいずれか一方の光路長を調整するようにしたことを特徴とする光アクセスネットワークシステムの通信冗長化方法。
【請求項7】
前記光路長の調整は、前記測定された光路長差に基づいて光ネットワークユニット間で通信のリンクが切断しない範囲内で各通信経路の光路長が常に一致し、信号光のビット符号が常に一致するように調整することを特徴とする請求項6記載の通信冗長化方法。
【請求項8】
さらに、前記第1の通信経路の試験光と前記第2の通信経路の試験光それぞれの光パワーレベル差を測定し、そのレベル差が許容範囲となるように前記第1及び第2の通信経路のいずれか一方の光パワーレベルを減衰させることを特徴とする請求項6記載の通信冗長化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−253418(P2012−253418A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122257(P2011−122257)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】