説明

光グラフト重合用レンズおよび製膜装置

【課題】人工関節部材の摺動面のような曲面に高分子の層を形成する際、モノマーの溶液の使用量を低減することができるレンズを提供する。
【解決手段】本発明に係るレンズは、人工関節部材の摺動面のような曲面に、高分子の層を光グラフト重合によって形成させる際に用いられるレンズであって、少なくとも一部が上記曲面に沿って対向するよう形成され、上記モノマーを含む溶液を、上記曲面と、当該レンズの、上記曲面に対向する面との間に保持可能であり、かつ、上記曲面に上記高分子の層を形成するため、当該モノマーを光グラフト重合させる光を透過可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光グラフト重合法、特に人工関節部材の摺動面等の曲面に、溶液を用いる光グラフト重合法によって、高分子の層を形成する際に用いるレンズおよび製膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工関節の摩耗耐久性向上を目的として、その摺動面に種々のコーティングを施すことが試みられている。特に最近では、超高分子量ポリエチレン等からなる人工関節の摺動面に、ホスホリルコリン基を有する高分子をグラフト重合する方法が開発され、その有用性が示されている(特許文献1)。特許文献1では、人工関節の部材をホスホリルコリン基を含むモノマーの溶液に完全に浸漬した状態で、当該摺動面に紫外線を光照射して所望のコーティング膜を製膜している。
【0003】
上記のようなコーティング方法を適用できる人工関節の摺動部材の材料としては、超高分子量ポリエチレンの他、架橋ポリエチレンやポリエーテルエーテルケトン等の高分子材料、コバルトクロム基合金などの金属材料や、アルミナやジルコニアなどのセラミック材料があげられる。特許文献2には、金属およびセラミックへの上記手法の応用発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−202965号公報
【特許文献2】特開2007−260247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ホスホリルコリン基を有するモノマーの様な薬剤は非常に高価であるため、人工関節部材のような曲面を持った部材を溶液に完全に浸すという方法では、多量の溶液が必要となり、製造コストが嵩むという問題があった。また、モノマー溶液は一旦使用されると、溶液全体が化学変化しているため再使用は不可能であり、廃棄される。そのため、できるだけ当該溶液の使用量を低減することが望まれる。
【0006】
したがって、本発明は、人工関節部材のような曲面を持った部材に、溶液を用いる光グラフト重合法によって高分子の層を形成する際、当該溶液の使用量を低減することができるレンズおよび製膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本目的を達成するため、本発明に係るレンズは、人工関節部材の摺動部のような曲面に、高分子の層を光グラフト重合によって形成させる際に用いられるレンズであって、少なくとも一部が上記曲面に沿って対向するよう形成され、上記高分子のモノマーを含む溶液を、上記曲面と、当該レンズの、上記曲面に対向する面との間に保持可能であり、かつ、上記曲面に上記高分子の層を形成するため、当該高分子又はそのモノマーを光グラフト重合させる光を透過可能であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る製膜装置は、人工関節部材のような曲面を持った部材の曲面に高分子の層を光グラフト重合により形成する製膜装置であって、上記部材を収容する収容部を有する基体と、収容される部材の摺動面に沿って対向して配置される上記のレンズと、該レンズを介して光グラフト重合可能な光を照射する光照射手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、当該レンズの少なくとも一部が上記曲面に沿って対向するよう形成され、上記溶液を、上記曲面と、当該レンズの、上記曲面に対向する面との間に保持可能であるため、当該曲面に当該高分子の層を形成する際に使用される当該溶液の量は、上記曲面と、当該レンズの、上記曲面に対向する面との間に含まれる量で済み、当該溶液の量を極端に少量に抑えることが可能である。
【0010】
したがって、本発明によれば、上記溶液の使用量を低減することができるレンズおよび製膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明に係るレンズの概略斜視図である。
【図2】図2は、本発明に係るレンズの上面図である。
【図3】図3は、本発明に係るレンズのA-A断面図である
【図4】図4は、人工関節部材の一種である人工股関節の模式図である。
【図5】図5は、人工股関節の臼蓋カップの概略斜視図である。
【図6】図6は、本発明に係る基体の概略図である。
【図7】図7は、本発明に係る基体の断面図である。
【図8】図8は、本発明に係る基体に臼蓋カップ及びレンズを配置した場合の断面図である。
【図9】図9は、本発明に係る製膜装置の概略図である。
【図10】図10は、光がレンズから溶液に入射する角度αを説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るレンズおよび製膜装置に関して詳細に説明する。本発明に係るレンズは、人工股関節部材の臼蓋カップの形状に対応する形状に限定されることはなく、コーティングの対象となる如何なる形状の曲面に対応させることができる。例えば、人工肩関節、人工膝関節、人工肘関節、人工足関節、人工指関節等の摺動部の曲面形状に合わせた形状に一致させることができ、また、椎体固定用器具や人工歯根の生体組織接触表面、血液ポンプ(体内埋め込み型および体外循環用)やステント等の血液接触部位の表面にコーティングを行う際に、それらの表面形状に合わせた形状に一致させることができる。当該曲面は、凹面に限定されることはなく、凸面であってもよい。
以下に示す実施の形態は、本発明を例示するものであって、限定するものではない。なお、各図において、共通する部材、構成要素については同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1に係るレンズ1の概略斜視図であり、図2は、その上面図、図3は、そのA-A断面図である。
本発明の実施の形態1に係るレンズ1は、人工股関節部材の摺動面16に、ホスホリルコリン基を有する高分子をグラフト重合させる際に用いられるレンズ1であって、図8に示すように、人工股関節部材(例えば臼蓋カップ10)の摺動面16に沿って対向するよう形成された湾曲部2と、人工関節部材の臼蓋カップ10を収容する基体20の開放端21に載置される載置部3と、を有する。
【0014】
本発明の実施の形態1において、レンズ1は、その湾曲部2が人工関節部材の臼蓋カップ10の摺動面16に沿って対向するよう形成されているため、ホスホリルコリン基を有するモノマーを含む溶液を、摺動面16と、レンズ1の、摺動面16に対向する面4との間に保持可能である。面4の形状と摺動面16の形状とは一致することが好ましいが、完全に一致することまでは要しない。面4と摺動面16との間の最小距離は、0.1mm〜20mmであることが好ましく、さらに好ましくは0.2mm〜5mmであり、最も好ましくは0.2mm〜2mmである。最小距離の上限値が20mm以下であれば、溶液の使用量を十分に低減することができる。一方、最小距離の下限値が0.1mm以下であると、部材の加工公差によりレンズと部材が接触してしまう恐れがある。当該下限値が0.1mm以上であれば、摺動面16に高分子層30を良好に形成することができる。
【0015】
また、本発明のレンズは、高分子層30を形成するため、当該高分子を光グラフト重合させる光を透過可能である。そのためには、本発明に係るレンズ1は、石英ガラスやパイレックス(登録商標)ガラスのような無機系のガラス、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、およびポリカーボネート等の透光性プラスティックからなる群から選択される少なくとも一種により構成されることが好ましい。特許文献1に記載のように光グラフト重合のために照射される光は、波長300nmから400nmの紫外線が好適に用いられる。そのため、この波長範囲の光の透過率が高いことが一般に知られている石英ガラスは材質としては好適である。しかしながら、石英ガラスは材料コストが高く、加工も困難であるため、本発明のレンズにおいては、透過率は劣るが材料コストが低く、加工も容易な透光性プラスティックを用いることがより好ましい。透過率の低さに関しては、レンズの厚みを抑えることで補うことが可能である。本発明のレンズは、所望の高分子又はそのモノマーを光グラフト重合させる光を透過可能であれば如何なる材料から構成されていてもよく、上記材料に限定されることはない。
【0016】
本発明の実施の形態1に係るレンズ1は、図2、3に示すように、載置部3と湾曲部2との間にこれらに連続する連続曲面5を有することが好ましい。ここで、載置部3とは、レンズ1のうち、レンズ1を収容する基体20の開放端21に載置される部分であって、レンズ1が、基体20のレンズ収容部22の中の所定の位置に設置されるようにすることができる。また、湾曲部2とは、レンズ1のうち、レンズ中央部に位置する部分であって、人工関節部材の臼蓋カップ10の摺動面16に沿って対向するように湾曲して形成された部分を意味する。載置部3と湾曲部2とに連続する連続曲面5とは、図2、3に示すように、レンズ1の載置部3と湾曲部2との間に載置部3と湾曲部2とに連続するように形成された曲面であって、レンズ1の中心軸を中心として略円形状に形成された曲面を意味する。
【0017】
本発明の実施の形態1において、レンズ1の載置部3と連続曲面5との境界6、及び連続曲面5と湾曲部2との境界7に照射された光の方向が大きく乱されることの無いよう、載置部3と連続曲面5、および連続曲面5と湾曲部2とは滑らかに連続した曲面を形成することが好ましい。ここで、レンズ1の載置部3と連続曲面5とが「滑らかに連続する」とは、載置部3と連続曲面5との接点における、載置部3の傾斜と連続曲面5の傾斜とが略一致し、かつ、当該接点において載置部3と連続曲面5とが接触していることを意味する。また、上記同様、連続曲面5と湾曲部2とが「滑らかに連続する」とは、連続曲面5と湾曲部2との接点における、連続曲面5の傾斜と湾曲部2の傾斜とが略一致し、かつ、当該接点において連続曲面5と湾曲部2とが接触していることを意味する。上記のように構成することにより、レンズ1に照射された光は、載置部3と連続曲面5との境界6、及び連続曲面5と湾曲部2との境界7においてもその方向を大きく乱されることなく、レンズ下の溶液を透過して基材表面にまで到達し光重合反応を良好に促進することができる。なお、載置部3と連続曲面5、および連続曲面5と湾曲部2とが滑らかに連続するように形成されてさえいれば、必ずしも連続曲面5を一定の曲率半径を有するように形成する必要はないが、レンズの設計においては一定の曲率とした方が、作製が簡便である。
【0018】
実施の形態1において、レンズ1の中心軸を含む断面における連続曲面5の曲率半径は、載置部3に略垂直な光が連続曲面5において全反射されない範囲に設定されていることが好ましい。連続曲面5において当該光が全反射されてしまうと、レンズ下に光が届かずレンズ下の溶液中の高分子やモノマーの光グラフト重合反応を促進することができない。曲率半径の設定は、次の段落に示されているレンズ材質に依存するレンズ/溶液間の屈折率と光の入射角との関係を考慮して、個々の部材サイズに合わせて適宜計算し定めることができる。
【0019】
図10は、光がレンズから溶液に入射する角度αを説明するための概略図である。本実施の形態1において、図10に示すように、レンズ1に入射された光がレンズ1から溶液31に入射される際の入射角αが、レンズ1のいずれの箇所においても全反射角度とならないように設定することが肝要である。入射角αとは、レンズ1と溶液31との界面において、当該界面の法線32と、レンズ1から当該界面に入射される光33とのなす角を意味する。一例として、レンズ材質としてアクリル(ポリメチルメタクリレート)を選択した場合、以下の式から全反射条件の臨界角θmが求められる。
Sinθm=N(溶液)/N(ア)=1.333/1.491≒0.895
三角関数換算表よりθm≒63°
ここで、
θm:臨界角
N(溶液):溶液の屈折率(≒水の屈折率)=1.333(20℃において)
N(ア):アクリルの屈折率=1.491(20℃において)
である。
【0020】
上記計算より、入射角αが臨界角(θm≒63°)より小さい時、レンズに入射した光は溶液との界面で全反射されず、溶液中に進入して部材の表面に達し、光グラフト重合を促進することができる。同様の計算を各材質にておこなうと、石英ガラスまたはパイレックス(登録商標)ガラスからなる場合は、入射角αは、レンズ1のいずれの部分においても64°未満となるように設定することが好ましく、また、レンズ1がポリカーボネートからなる場合は、58°未満となるように設定することが肝要である。
【0021】
これにより、載置部3に略垂直な光がレンズ1のいずれの箇所においても全反射されることはなく当該光の少なくとも一部が溶液を通って部材の表面に到達し、摺動面16において光グラフト重合を良好に促進することができる。
【0022】
(人工関節部材の作製方法)
本発明に係るレンズ1を用いて、人工関節部材の摺動面16に、ホスホリルコリン基を有する高分子の層を光グラフト重合によって形成させ、人工関節部材を作製する方法について説明する。
【0023】
図4は、人工関節の一種である人工股関節41の模式図である。人工股関節41は、寛骨42の臼蓋43に固定される臼蓋カップ10と、大腿骨44の近位端に固定される大腿骨ステム46とから構成されている。臼蓋カップ10は、ほぼ半球状の臼蓋固定面14とほぼ半球状に窪んだ摺動面16とを有するカップ基材45と、摺動面16に被覆された高分子の層30と、からなる。臼蓋カップ10のカップ基材45の摺動面16に大腿骨ステム46の骨頭47を嵌め込んで摺動させることにより、股関節として機能する。以下、臼蓋カップ10のカップ基材45の摺動面16にモノマーを光グラフト重合させて高分子の層30を形成する場合について説明する。
【0024】
まず、臼蓋カップ10を準備する。臼蓋カップ10のカップ基材45は、金属材料やセラミック材料も用いられているが、最も広く普及しているのは、超高分子量ポリエチレン(以下、UHMWPEと称する)である。UHMWPEは、高分子材料のうちでも耐摩耗性、耐変形性等の機械的特性に優れているので、カップ基材45に適している。UHMWPEは、分子量が大きいほど耐摩耗性が高くなるので、少なくとも分子量100万g/モル以上の、好ましくは分子量300万g/モル以上のUHMWPEを用いるのが好ましい。また、カップ基材45としてUHMWPEを架橋処理したクロスリンクポリエチレンを用いてもよい。
【0025】
続いて、上記した、臼蓋カップ10のためのレンズ1を作製する。レンズ1は、臼蓋カップ10のカップ基材45の摺動面16に沿う様に作製する。図8に示すように、レンズ1の湾曲部2は、人工関節部材の臼蓋カップ10の摺動面16に沿って対向するよう形成され、レンズ1の湾曲部2と、臼蓋カップ10との間には、生体適合性材料を含む溶液を保持するスペース23が形成される。
【0026】
レンズの作製方法は、一般に用いられるどの様な方法であっても良く、例えば、ブロック状の材料からの切削または研削加工、ペレット状材料を用いる射出成形、コンプレッションモールディング、板材を用いる絞り加工や、粉末材料を用いた溶融鋳造法などで作製できる。レンズ表面は、照射される光を乱反射しないように滑らかに仕上げることが求められるが、カメラなどに用いられる光学レンズ並の高度な仕上げとする必要はない。
【0027】
次に、図6に示すような、人工関節部材の臼蓋カップ10を収容する収容部22を有する基体20を準備し、上記した臼蓋カップ10をその開放端側が上方に向いた状態で収容部22に収容する。つづいて、臼蓋カップ10にホスホリルコリン基を有するモノマー溶液(生体適合性材料の前駆物質)を適量注入し、その後、基体20の開放端部21にレンズの載置部3を設置することで、臼蓋カップ10の摺動面16に沿って、所定の厚みの溶液を保持する形でレンズ1の湾曲部2を設置することができる。この時、溶液中に空気の泡が存在すると、均一なコーティングに支障を来すため、振動、傾斜、減圧などで適宜脱気を行うと良い。続いて、臼蓋カップ10の上方から、生体適合性材料の前駆物質を光重合させることができる光を照射する。一例としては、ホスホリルコリン基を有するモノマーが2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンである場合は300〜400nmの波長を有する光を照射する。これにより、臼蓋カップ10の摺動面16に高分子の層(生体適合性材料からなる層)30を形成することができる。本発明に係るレンズ1を用いることにより、生体適合性材料を含む溶液を、臼蓋カップ10の摺動面16と、レンズ1の、摺動面16に対向する面4との間に保持可能であるため、摺動面16に当該高分子の層30を形成する際に使用される当該溶液の量は、摺動面16と面4との間を満たす量で済み、当該溶液の量を極端に少量に抑えることが可能である。
【0028】
本実施の形態1に係る生体適合性材料の前駆物質としては、ホスホリルコリン基を有する重合性モノマーを用いるが、特に、一端にホスホリルコリン基を、他端に臼蓋カップ10を構成する材料とグラフト重合可能な官能基を有するモノマーを選択することにより、臼蓋カップ10の摺動面16に高分子の層30をグラフト結合させることができる。
【0029】
本発明に好適な重合性モノマーとしては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、4−メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6−メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、ω−メタクリロイルオキシエチレンホスホリルコリン、4−スチリルオキシブチルホスホリルコリン等がある。特に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPCと称す)が好ましい。
【0030】
MPCモノマーは、下記に示すような化学構造式を有しており、ホスホリルコリン基と、重合性のメタクリル酸ユニットとを備えている。MPCモノマーは、ラジカル重合により容易に高分子量のMPCポリマーを形成することができるという特徴がある(Ishiharaら:Polymer Journal誌22巻 355頁(1990))。そのため、高分子の層30をMPCモノマーから合成すると、高分子の層30と摺動面16とのグラフト結合を、比較的緩やかな条件で行うことができ、さらに、密度の高い高分子の層を形成して、多量のホスホリルコリン基を摺動面16に形成させることができる。
【0031】
【化1】

【0032】
なお、本実施の形態で使用できる高分子の層30は、ホスホリルコリン基を有する単一の重合性モノマーから構成した単独重合体のみならず、ホスホリルコリン基を有するモノマーと、例えば他のビニル化合物モノマーとから成る共重合体から形成することもできる。これにより、高分子の層30に機械的強度向上等の機能を付加することもできる。
【0033】
(実施の形態2)
図9は、本発明の実施の形態2に係る製膜装置51の概略図である。製膜装置51は、部材を収容する収容部22を有する基体20と、基体20を収容する収容部材52と、部材の曲面に沿って対向して配置される上記実施の形態1に記載のレンズ1と、レンズ1を介してレンズ1の上方からグラフト重合可能な光を照射する光照射手段53と、を備える。さらに、部材の曲面16とレンズ1との間に、生体適合性材料を含む溶液を注入する注入手段(不図示)を備えても良い。
【0034】
本実施の形態2に係る基体20は、その上部に上方に開放した収容部22を有し、例えば、図5に示す人工股関節の臼蓋カップ10を収容する。当該収容部22は、臼蓋カップ10を当該収容部22内において安定して保持できるように臼蓋カップ10の外周の形状と一致する形状を有することが好ましい。しかしながら、後続の光照射工程を良好に行いうる限り収容部22の形状は臼蓋カップ10の外形と完全に一致している必要はない。
【0035】
本実施の形態2に係る製膜装置51に用いられるレンズは、上記実施の形態1に係るレンズ1と同様であって、レンズ1の湾曲部2の形状は、臼蓋カップ10の摺動面16の形状とほぼ一致する。なお、本発明にかかるレンズは、レンズ1のように臼蓋カップ10の形状に合わせた形状に限定されることはなく、コーティングの対象となるどの様な曲面に合わせた形状としても良い。例えば、人工肩関節、人工膝関節、人工肘関節、人工足関節、人工指関節等の摺動部の曲面形状に合わせた形状に一致させることができる。また、椎体固定用器具や人工歯根の生体組織接触表面、血液ポンプ(体内埋め込み型および体外循環用)やステント等の血液接触部位の表面にコーティングを行う際に、それらの表面形状に合わせた形状に作製することができる。当該曲面は、凹面に限定されることはなく、凸面であってもよい。
【0036】
上述の通り、レンズ1の湾曲部2と臼蓋カップ10の摺動面16との間は、所定間隔開いていることが肝要である。基体20の収容部22に臼蓋カップ10がその開放端が上方を向くように収容された後、レンズ1は臼蓋カップ10の摺動面16に沿うように配置される。ここで、レンズ1が臼蓋カップ10の摺動面16に沿って収容された状態において、レンズ1の載置部3は、基体20の開放端21に載置されている。臼蓋カップ10が基体20の収容部22に収容され、レンズ1が臼蓋カップ10の摺動面16に沿うように配置された基体20を収容部材52に収容し、収容部材52を光照射手段53の下側に配置する。収容部材52は、図9に示すように、引き出しのようにスライド可能である。これにより、収容部材52に収容された基体20並びに基体20に収容された臼蓋カップ10を光照射手段53の下側に容易に配置することができる。
【0037】
本実施の形態2に係る光照射手段53は、レンズ1を介して当該レンズ1の上方からグラフト重合可能な光を照射するものであって、当該光照射手段53の発光部品としては、具体的には、市販のUVランプが好適に用いられるが、所望の波長の光を発生する発光ダイオードやレーザーであっても良い。当該光は本実施形態では鉛直下向きに照射されるが、しかしながら、光重合反応を行いうる限り照射光を鉛直下向きに対して傾斜させてもよい。また、基体20とレンズ1との当接部位に気密シール構造を持たせることにより、溶液を保持したまま基体20およびレンズ1をいかようにも傾斜、反転させることができ、光照射手段53との所望の位置関係を設定することができる。また、光照射手段53や基体20およびレンズ1は、複数備えていてもよい。
【0038】
本発明に係る製膜装置51によれば、摺動面16に対応する形状を有するレンズ1を用いることにより、生体適合性材料を含む溶液を、臼蓋カップ10の摺動面16と、レンズ1の、摺動面16に対向する面4との間に保持可能であり、摺動面16に高分子の層30を形成する際に使用される当該溶液の量は、摺動面16と面4との間を満たす量で済むため、当該溶液の量を極端に少量に抑えることが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 レンズ
2 湾曲部
3 載置部
4 レンズの、臼蓋カップの摺動面に対向する面
5 載置部と湾曲部との間の曲面
6 載置部と曲面との境界
7 曲面と湾曲部との境界
10 臼蓋カップ
14 臼蓋シェル
16 摺動面
20 基体
21 基体の開放端
22 収容部
23 溶液を保持するスペース
30 高分子の層
31 溶液
32 法線
33 入射光
41 人工股関節
42 寛骨
43 臼蓋
44 大腿骨
45 カップ基材
46 大腿骨ステム
47 骨頭
51 製膜装置
52 収容部材
53 光照射手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面を持った部材の該曲面に、高分子の層を光グラフト重合によって形成させる際に用いられるレンズであって、
少なくとも一部が上記曲面に沿って対向するよう形成され、上記高分子のモノマーを含む溶液を、上記曲面と、当該レンズの、上記曲面に対向する面との間に保持可能であり、かつ、
上記曲面に上記高分子の層を形成するため、当該高分子又はそのモノマーを光グラフト重合させる光を透過可能であるレンズ。
【請求項2】
当該レンズが、
上記曲面に沿って対向するよう形成された湾曲部と、
上記レンズの上記曲面に対向する面が上記曲面から離間して保持されるように、上記曲面開放端に載置される載置部と、を有してなり、
上記載置部と上記湾曲部との間にこれらに連続する連続曲面が形成されていることを特徴とする請求項1記載のレンズ。
【請求項3】
上記レンズの上記連続する連続曲面が、上記載置部に略垂直な光が当該レンズの上記連続する連続曲面から当該溶液に入射する際に全反射されない入射角範囲に設定されていることを特徴とする請求項2記載のレンズ。
【請求項4】
当該レンズが、石英ガラス、パイレックスガラス、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、およびポリカーボネートからなる群から選択される材料により構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレンズ。
【請求項5】
当該レンズが石英ガラスまたはパイレックスガラスからなり、かつ当該レンズに入射した上記光が当該レンズから当該溶液に入射する角度が、当該レンズのいずれの部分においても64°未満となるようにしたことを特徴とする請求項3記載のレンズ。
【請求項6】
当該レンズがポリメチルメタクリレート(アクリル)からなり、かつ当該レンズに入射した上記光が当該レンズから当該溶液に入射する角度が、当該レンズのいずれの部分においても63°未満となるようにしたことを特徴とする請求項3記載のレンズ。
【請求項7】
当該レンズがポリカーボネートからなり、かつ当該レンズに入射した上記光が当該レンズから当該溶液に入射する角度が、当該レンズのいずれの部分においても58°未満となるようにしたことを特徴とする請求項3記載のレンズ。
【請求項8】
曲面を持った部材の該曲面に高分子の層を光グラフト重合により形成する製膜装置であって、
部材を収容する収容部を有する基体と、
収容される部材の摺動面に沿って対向して配置される請求項1〜7のいずれかに記載のレンズと、
該レンズを介してグラフト重合可能な光を照射する光照射手段と、を備える製膜装置。
【請求項9】
上記部材が人工関節の摺動部材である請求項8記載の製膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−197544(P2011−197544A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66320(P2010−66320)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】