説明

光スイッチおよびその製造方法

【課題】半導体あるいは非線形光学材料を用いた光制御光スイッチで、化学的に安定で量子効率が高く高周波動作が可能なスイッチを提供し、高速・大容量通信に資する。
【解決手段】光スイッチング材料をナノサイズとし、多孔質の高誘電率材料の空隙に支持させる。例えば、光スイッチング材料であるGaAs微結晶1をカーボンナノホーン2の表面に支持させる。光スイッチング材料がナノサイズであることにより、光励起電子・正孔対の発生効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光スイッチおよびその製造方法に関し、特に、制御光の照射の有無によって若しくはその強弱によって信号光の進路を変更する光スイッチとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の技術の発展に伴い、高速データ通信技術は、モバイル系ターミナル、ITサーバ、高速科学技術計算機などさまざまな分野で用途が広がっている。それに伴って、信号光の進路を変更させる光スイッチの需要が増すとともにその動作の高速性一層要請されるようになってきている。光スイッチの従来技術としては、小型のミラーを駆動させて光路を変更させるタイプ(例えば、特許文献1参照)や、半導体材料にキャリヤを注入して半導体の屈折率を変化させるもの(例えば、特許文献2参照)が主であった。一方、有機光学応答材料を利用し高速スイッチング動作を達成したもの(例えば、非特許文献1参照)も知られている。この方式では、光励起などで生成された電子正孔ペアの存在が、高速な分子内部の運動を引き起こし、その運動にしたがって分子の誘電率が変わりスイッチング効果を示す。この現象は、過飽和吸収光学効果として知られている。このスイッチでは分子内部運動に要する時間でスイッチング動作させる周波数が決まる。
【特許文献1】特開2006−154574号公報
【特許文献2】特開2006−113178号公報
【非特許文献1】Chollet et al., Science, Vol. 307, pp.86-89 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載されたミラー駆動タイプでは、機械的動作速度によってスイッチの動作周波数が限定される。また、特許文献2に記載された方式では、注入されたキャリヤの寿命によりスイッチの動作周波数が限定される。つまり、オフ時の屈折率回復時間が注入キャリヤの寿命で決まり、スイッチング動作周波数がそれにより限定される。高速動作を可能ならしめるには短寿命(1p以下)のキャリヤを持つ材料を選定しなければならないが、その場合、実用デバイスを目指す際には、その材料へのキャリヤ注入、あるいは光励起によるキャリヤ生成の量子効率が下がるという難点がある。
【0004】
一方、非特許文献1に記載されたものでは、光学応答材料としてEDO-TTFと呼ばれる有機材料が用いられており、これが分子性結晶であるために大気中では水分などによる劣化が避けられない。さらに結晶の作成も困難で実用デバイスには不向きである。この原因は、材料が分子間力という弱い相互作用で結晶をつくっていることに起因する。
本発明の課題は、上述した従来技術の問題点を解決することであって、その目的は、高効率(低強度の光によるスイッチング)で高速動作がで可能な、しかも化学的に安定したデバイスを提供できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明によれば、制御光の強弱ないしその照射の有無によって信号光の進路を変化させる光スイッチであって、多数の空隙若しくは穴を有する支持体と、前記支持体の表面に支持された、光スイッチング材料からなるナノサイズの微結晶体と、を有することを特徴とする光スイッチ、が提供される。
そして、好ましくは、前記支持体は、高誘電率誘電体材料を用いて形成される。また、一層好ましくは、前記支持体は、カーボンナノホーンを用いて形成される。
【0006】
また、上記の目的を達成するため、本発明によれば、制御光の強弱ないしその照射の有無によって信号光の進路を変化させる光スイッチの製造方法であって、基板上に多数の空隙若しくは穴を有する支持体を誘電体材料を用いて作成する工程と、前記支持体の表面に結晶成長法により光スイッチング材料を成長させナノサイズの光スイッチ結晶体を作成する工程と、を有することを特徴とする光スイッチの製造方法、が提供される。
〔作用〕
【0007】
本発明の光スイッチでは、過飽和吸収光学効果を利用して光のスイッチングが行なわれる。光スイッチ動作する材料をナノサイズ化することで、光励起による電子・正孔生成確率が上昇し量子効率が上がる。そして、ナノサイズの光スイッチ材料を支える支持体を高誘電率材料を用いて形成した場合には、入力光による電界強度分布を光スイッチング材料近傍で増大させる効果も期待できる。図1は、高誘電率材料に電界が印加された際の電界分布を示すシミュレーション電界分布図であって、2は、高誘電率材料であるカーボンナノホーンを、3は、印加電界を示す。等電位線の分布から高誘電率材料の近傍において電界を強められていることが分かる。本発明においては、この電界の強化された領域に光スイッチング材料が保持されるために、量子効率を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0008】
第1の効果は、光スイッチング材料をナノサイズとすることで、キャリヤ生成効率を高めることができることである。その理由は、ナノサイズの光スイッチング材料内では波動関数の局在性が高まり光励起の確率が高まるからである。
第2の効果は、光スイッチング材料の支持体の材料としてポーラスな高誘電率材料を用いることにより、スイッチング材料近傍の有効電界を増大させたことができ、キャリヤ生成効率を一層高めることが可能になる。この効果は、原理は異なるものの第1の効果と見かけ上は同じになる。第1および第2の効果により、高速動作に適したキャリア寿命の短い材料を用いた場合においても、励起の量子効率を高くすることができる。

第3の効果は、光スイッチング材料として不安定な材料を用いる場合にも、これをナノサイズとしそして多孔質の誘電体材料の空隙中に確保とすることで、安定性を増大させることができることである。但し、水分により劣化し易い材料の場合、多孔質誘電体材料の空隙に水分の混入を防ぐ工夫は劣化を防ぐために重要である。そのためには、光スイッチング材料と疎水性分子をポーラスな高誘電率物質の空隙に混入する技術が有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図2は、本発明の一実施の形態の光スイッチにおいて光スイッチング材料の支持体として用いられるカーボンナノホーンの電子顕微鏡写真である。支持体として用いられるカーボンナノホーンは、各々は2−5nmの直径を持つナノホーンがホーンの先端を外側にして球形に集合した凝集体であるが、その凝集体の直径は30−150nmのものが使用可能である。カーボンナノホーンの形成方法は、例えば、S. Iijima et al., Chemical Physics Letters, Vol. 309, pp.165-170(1999)などに開示されている。このカーボンナノホーンは、基板(図示なし)上に保持されている。
【0010】
図3は、支持体に光スイッチング材料が支持された状態を示す模式図である。支持体であるカーボンナノホーン2は、中央の共通部から外側に伸びた中空体であって、その先端部はとがっている。そして、個々のカーボンナノホーン2に光スイッチング材料であるナノサイズのGaAs微結晶1が支持されている。GaAs微結晶1は、材料のサイズがナノメートルオーダーに縮小されたまま、分散して存在している。分散したままで存在している理由は、結晶同士の結合を妨げるポーラスな誘電体が間に存在しているからである。GaAs微結晶1は、大きく成長した結晶体と異なり、ナノサイズとなっているので、光による励起や注入により生成されたキャリヤの波動関数に局在性が強い。よって、高い量子効率を実現することができる。
【0011】
また、高誘電率材料であるカーボンナノホーンの存在は、光入射の場合、これらナノ誘電物質の外側に位置するGaAs微結晶1が感じる有効電荷を増大させる効果がある(図1のシミュレーション結果を参照)。この意味で、光スイッチング材料はナノホーンの中空内部ではなく、外側に保持されていることが肝要である。
【0012】
次に、本実施の形態の光スイッチの製造方法を簡単に説明する。直径が30−150nm程度に揃えられたカーボンナノホーン凝集体を溶媒中に混入したものを、透明な例えばガラス基板上に塗布する。そして、溶媒を揮発させて、基板上にカーボンナノホーン凝集体を保持させる。次に、トリメチルガリウムとアルシンを原料とする有機金属気相成長法を用いてGaAsを成長させ、カーボンナノホーンの表面にGaAsを結晶成長させる。成長は、ナノサイズの結晶が形成された時点で終了する。有機金属気相成長法に代えて分子線成長法を用いてGaAs微結晶を形成してもよい。
【0013】
図4は、本実施の形態の光スイッチの動作を説明する摸式図であって、図4(a)は光透過時の状態を、図4(b)は光非透過時の状態を示している。基板4上には、光スイッチング材料であるGaAs微結晶体を支持するカーボンナノホーン(図示なし)が保持されている。図4(a)に示すように、十分な強度の制御光5が照射された状態のときには、信号光6は基板4を透過して透過光7となる。これに対して、制御光5が照射されない場合あるいはこれが微弱光である場合、図4(b)に示すように、信号光6は基板4を透過することができない。このように、本発明によると、電気的回路を要することなく光スイッチを実現することができる。
【0014】
以上好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、適宜の変更が可能である。例えば、光スイッチング材料の支持体としては他のカーボン材料、例えばカーボンナノチューブを用いてもよい。カーボンナノチューブを基板上に保持させるには、カーボンナノホーンの場合と同様に溶媒中に混入させた溶液を塗布しその後溶媒を揮発させる方法を用いることができる。あるいは、基板上にNiやCoなどの触媒金属をシーディングし、これを核としてエチレンガスなどによりカーボンナノチューブを成長させてもよい。カーボンナノチューブを用いる場合一方向に配向したものを形成することが望ましい。
【0015】
光スイッチング材料としては、GaAsの外にも、GaN、ZnOなどの化合物半導体やSiなどの元素半導体を用いてもよい。化合物半導体は、有機金属気相成長法や分子線成長法によって微結晶体を形成することができる。また、ZnOはZnターゲットを用いた反応性スパッタ法によって形成することもできる。Siの場合は、シランなどを原料とするCVD法によって形成することができる。一方、分子性結晶である有機非線形光学材料のナノサイズ結晶体を作成する場合には、あらかじめ作成しておいた大型結晶あるいは高純度の多結晶体による粉末を摂氏数百度(具体的には100度から600度の範囲)にて昇華させ、基板上に冷却・固着させればよい。その場合に、その光学材料が水分によって劣化し易いものである場合には、疎水性材料の存在する雰囲気にて成長を行い光学材料に疎水性材料が混入するようにすることが好ましい。
また、図4に示した光スイッチでは、制御光の照射時に信号光が透過するものであったが、これとは逆に、制御光が照射されないときあるいは制御光が微弱であるときに信号光が透過するようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】高誘電率材料であるカーボンナノホーン付近で電界分布が増強される様子を示すシミュレート電界分布図。
【図2】光スイッチング材料の支持体となるカーボンナノホーンの凝集体の電子顕微鏡写真。
【図3】本発明の光スイッチングナノサイズ結晶体がカーボンナノホーンに支持された状態を示す模式図。
【図4】本発明の光スイッチの動作を説明するための模式図。
【符号の説明】
【0017】
1 GaAs微結晶
2 カーボンナノホーン
3 印加電界の方向
4 基板
5 制御光
6 信号光
7 透過光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御光の強弱ないしその照射の有無によって信号光の進路を変化させる光スイッチであって、多数の空隙若しくは穴を有する誘電体である支持体と、前記支持体の表面に支持された、光スイッチング材料からなるナノサイズの微結晶体と、を有することを特徴とする光スイッチ。
【請求項2】
前記光スイッチング材料が、半導体材料であることを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項3】
前記光スイッチング材料が、有機の非線形光学材料であることを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項4】
前記光スイッチング材料に、疎水性分子が混入されていることを特徴とする請求項3に記載の光スイッチ。
【請求項5】
前記支持体は、高誘電率の誘電体材料により形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光スイッチ。
【請求項6】
前記支持体が、カーボンにより形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光スイッチ。
【請求項7】
前記支持体が、カーボンナノホーンにより形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光スイッチ。
【請求項8】
前記支持体が、基板上に保持されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の光スイッチ。
【請求項9】
制御光の強弱ないしその照射の有無によって信号光の進路を変化させる光スイッチの製造方法であって、基板上に多数の空隙若しくは穴を有する支持体を誘電体材料を用いて作成する工程と、前記支持体の表面に光スイッチング材料を成長させナノサイズの光スイッチ結晶体を作成する工程と、を有することを特徴とする光スイッチの製造方法。
【請求項10】
前記光スイッチング材料が有機材料であって、該有機材料の成長が疎水性材料の存在する雰囲気中で行なわれることを特徴とする請求項9に記載の光スイッチの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−203396(P2008−203396A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37473(P2007−37473)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】