説明

光スイッチング素子

【課題】 応答速度を可変にできる光スイッチング素子を提供する。
【解決手段】 第1の光源73から光媒体(試料)71に対してフェムト秒パルス光P(ω、k)(ωは周波数、kは波数)が定常的に透過しており、光媒体(試料)71に回折格子71aが形成されている。スイッチをオンしたいタイミングにおいて、第2の光源75より別のフェムト秒パルスP(ω、k)を、光媒体(試料)71上に時間的、空間的に重ねるように出射する。2つの光パルスP、Pに基づくDFWMの信号が、回折格子71aにより2k−kの方向に第2パルスPが入射された直後に放射され、光パルスP2によるDFWM信号に関するスイッチングが行われる。又、第2の光源75から出射される光パルスPの強度により、擬似的な回折格子71bにより回折されたDFWM光の減衰に関する時定数τを調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、光スイッチング素子に関し、より詳細には、モット絶縁体において3次非線形光学応答に基づく光スイッチの応答速度を変化させることができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の高速通信技術の発展に伴い、光スイッチング素子の重要性が高まってきている。研究段階においては、半導体又はそのナノ構造体(例えば、量子細線、量子井戸、量子ドットなど)の励起子状態や金属微粒子の表面プラズモン状態による3次非線形光学効果を用いた光スイッチング現象に関して、数多くの報告がなされている。
【0003】
3次非線形光学効果光スイッチング素子における重要なパラメータである位相緩和時間に関しては、従来III−V族、II−V族のバルク半導体(特許文献1参照)や量子井戸(特許文献2参照)、微粒子(特許文献3参照)などのナノ構造体において、2ビーム型縮退4光波混合法によって観測されている。この方法は、位相緩和時間を知るための最も簡便な測定法の一つである。図1は、2ビーム型縮退4光波混合法(以下「2DFWM法」と称する。)の原理を示す図である。図1においては下記の式で表される均一な2準位系を仮定している。
【0004】
【数1】

図1に示すように、ある物質(光媒質)1に対して2つの異なる方向からそれぞれ波数kと波数kとを有するパルス光を入射させると、波数k、kの2つのフェムト秒パルスPとP(いずれも周波数はωであり、電場強度はEである。すなわち、PとPの光の強度I=Eである。)を同時に物質1に入射させると、物質1中に誘起される3次の非線形分極は、以下の式で表される。
【0005】
【数2】

ここで、Tは、位相緩和時間である。この際、2k−kの方向に、3次非線形分極に基づく光が放射される。この現象は、縮退4光波混合(DFWM)と呼ばれている。
1)すなわち、光媒質1に対して第1のフェムト秒パルス光Pを照射すると、光媒質1において分極が生じる。すなわち、双極子(dipole)が周波数ωで振動する。2)次いで、第2のフェムト秒パルス光Pを照射すると、同様に光媒質1において第2の分極が生じる。3)上記1)と2)との過程において生じた分極波同士が干渉することによりが形成される。この擬似的な回折格子によってパルス光Pが2k2−の方向に回
折される。これが、3次非線形効果によって生じる縮退4光波混合現象の原理である。
【0006】
ここで、DFWMの信号強度I(t)は、 以下の関係にある。
【0007】
【数3】

但し、IはEに比例し、時間プロファイルは、位相緩和時間Tによって決まる。2DFWM法では、P、Pの間の時間差τ12を掃引することにより、I(t)の時間相関関数Is(τ12)が測定でき、その寿命τは、位相緩和時間Tの2倍に等しくなる(ただし、系が均一系である場合を仮定している。)。種々の半導体において実測されている位相緩和に関する時間スケールは極めて短く、その多くは極低温(<10K)でも通常1〜2ps以下であり、室温ではフォノンの分布確率が上がるため、100fsをはるかに下回るために通常は測定できないほど高速である。
また、上記の場合において励起強度を大きくすると、励起キャリアや励起子間の散乱により、更に位相緩和が速くなることが知られている。位相緩和時間の制御に関する研究としては、最近、質の高い自己組織化半導体量子ドットにおいて100psの位相緩和が観測されている(特許文献4参照)。これは、分極とフォノンとの散乱過程において、量子 閉じ込め効果によってフォノンの状態密度が制限され、結果的に散乱確率が減少するという機構によるものと考えられている。しかしながら、この機構は、試料作成において、精密な制御が必要であり、更に、外場によってアクティブに応答速度を変化させることは不可能である。また、そのような試料を用いた場合でさえ、ピコ秒時間スケールまで位相緩和時間が伸びるのは極低温の場合のみであり100K以上では1psよりもはるかに位相緩和速度は短い。
【非特許文献1】L. Banyai et al. Phys.Rev. Lett. 75,2188, (1995).
【非特許文献2】L. Schultheis et al.Phys. Rev. B. 34,9027(1986).
【非特許文献3】R. W. Schoenlein et al.Phys. Rev. lett. 70,1014(1993).
【非特許文献4】D. Birkedel et al. Phys.Rev. Lett. 87,227401(2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記位相緩和時間は、光スイッチング素子の応答速度に関連するため、位相緩和時間を制御できること、特に観測可能な時間領域において制御できることは、光スイッチング素子としての利用上好ましいことである。
本発明の目的は、応答速度を可変にできる光スイッチング素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、3d遷移金属化合物からなる光媒質と、該光媒質に対して第1のパルス光P1(ω、k)を第1の位置から入射させる第1の光源と、前記光媒質に対して第2のパルス光P2(ω、k)を前記第1の位置とは異なる第2の位置から入射さ
せる第2の光源と、を有する光スイッチング素子が提供される。
また、強相関電子系を構成する材料からなる光媒質と、該光媒質に対して第1のパルス光P1(ω、k)を第1の位置から入射させる第1の光源と、前記光媒質に対して第2のパルス光P(ω、k)を前記第1の位置とは異なる第2の位置から入射させる第2の光源と、を有する光スイッチング素子が提供される。さらに、遷移金属ハロゲン化物からなるモット絶縁体又は一次元銅酸化物ACuO(A−Ca,Sr,Ba,La)又は二次元銅酸化物ACuO,ACuOCl(A−Ca,Sr,Ba,La,Nd)からなる光媒質と、該光媒質に対して第1のパルス光P(ω、k)を第1の位置から入射させる第1の光源と、前記光媒質に対して第2のパルス光P(ω、k)を前記第1の位置とは異なる第2の位置から入射させる第2の光源と、を有する光スイッチング素子が提供される。但し、ωは、光の周波数、k、kは波数ベクトルである。
【0010】
上記光スイッチング素子を用いると、DFWMの信号が、2k−kの方向に第2パルスPが入射された直後に放射される(これは、2つの光パルスP、Pに基づく分極波の干渉効果により屈折率の変調(つまり過渡的な回折格子)が光媒質中に生じ、その回折格子によってP自身が回折されることによるものとして理解することができる。過渡的な回折格子は、位相緩和時間内だけ存在する。)。光パルスPを出射させない場合には、2k−kの方向には、光が放射されない。従って、光パルスPによりDFWM信号に関するスイッチングが可能なことになる。
前記第2のパルス光Pの照射強度を可変にする照射光強度制御手段を有することを特徴とする。第2の光源から出射される光パルスPの強度により、DFWM光の減衰に関する時定数τを調整することができる。
本発明の他の観点によれば、上記光スイッチング素子と、前記出射側の2k−kの位置又はその近傍に配置され、2ビーム型縮退4光波混合法に基づくDFWM信号をある時間範囲において検出する検出器ゲートとを有することを特徴とする光論理ゲート装置が提供される。前記検出器ゲートは、前記ある時間範囲を遅延させる遅延手段を有していることを特徴とする。DFWM信号を検出すると、その出力は、励起パルス光Pの光強度に対して高い非線形性を示し、ある励起強度で明確な閾値を有する入出力特性が得られる。前記遅延手段は、遅延時間可変の遅延手段であるのが好ましい。これにより、論理ゲートの閾値を変更することができ、ゲートの入出力特性を調整することができる。
本発明の別観点によれば、3d遷移金属化合物からなる光媒質又は強相関電子系を構成する材料からなる光媒質に対して第1のパルス光P(ω、k)を第1の位置から入射させるステップと、前記光媒質に対して第2のパルス光P(ω、k)を前記第1の位置とは異なる第2の位置から入射させるステップと、出射側の2k−kの位置又はその近傍においてDFWM信号を検出するステップとを有する光検出方法が提供される。但し、ωは光の周波数、k、kは波数である。
3d遷移化合物を含む材料又は強相関電子系を構成する材料の少なくとも一方からなる光媒質と、該光媒質に対して第1のパルス光P(ω、k)を第1の位置から入射させる第1の光源と、前記光媒質に対して第2のパルス光P(ω、k)を前記第1の位置とは異なる第2の位置から入射させる第2の光源と、を有する光スイッチング素子が提供される。この場合、第1のパルス光Pと第2のパルス光Pの周波数は、基本的には同一の周波数(ω)であることが必要である。但し、フェムト秒パルス光のスペクトルはパルス幅の逆数程度の幅を持つため、その周波数軸における裾同士が少なくとも重なっていれば、たとえ中心周波数が異なっていても周波数的に近似している範囲内に入るため、動作可能である。従って、これらのケースも本発明の範囲内に入るものである。
【発明の効果】
【0011】
本実施の形態による光スイッチング素子は、第2の光源から出射されるパルス光の有無によりDFWM光をオン/オフさせることができる。また、パルスの強度により、DFWM光の減衰の時定数を変調させることができる。
通常、3次の非線形光学応答を用いた光スイッチは、入射光強度に対して3次の依存性を持つが、この場合は、応答速度が入射光強度により変調されることで、3次よりも遥かに高い依存性が実現できるため、光論理ゲートのオン/オフに関するマージンが大きくなるという利点がある。
また、本発明の光論理ゲートにおいては、検出器のゲートを遅延させるための遅延時間を可変にすることで閾値を調整することができるため、使用目的に応じた励起強度の近傍に閾値をもってくることができるため、設計の自由度が増すという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、非線形光学応答の速度を決める要因について説明する。3次光学非線形に基づく光スイッチの開発は、高速光演算素子の実現のための中心課題の一つである。絶対感度とともにその重要な因子である応答速度は、光励起状態の位相緩和時間あるいは、分極緩和時間によって支配される。光励起状態は、基底状態
と励起状態位 からなる二準位系を仮定すると、それらの重ね合わせで記述できる。
【0013】
【数4】

ただしaおよびaは、各準位の確率振幅を表す。非線形光学応答は、光励起によって物質中に作られる分極(双極子モーメント)によるものであり、二準位系の作る分極の期待値<P(t)>は、次の式で与えられる。
【0014】
【数5】

ただし、ρは二準位系の密度行列、μは、電気双極子遷移の行列要素を表し、Trは、行列の対角和を意味する。物質は、上記のような二準位がたくさんある集団と考えることができるので、結局、物質中の分極の期待値は、上記<P(t)>の統計平均をとることになる。コヒーレントな光源であるレーザーで励起(デルタ関数的なパルスで励起したと仮定する)した直後は、全ての二準位系において双極子モーメントの位相が揃った「コヒーレントな」状態にある。しかし、物質中のランダムな相互作用(例えば格子振動=フォノンとの散乱)によって、次第に二準位間の位相は乱されていくため、各二準位の双極子モーメントは統計平均を取ることによって互いに打ち消しあう。位相が完全にランダムになった後では、<P(t)>の統計平均は消失し、光誘起分極による非線形性も消える。以上のような理
由により、非線形分極による光学応答の速度は、格子振動などのランダムな素励起との散乱過程による励起状態の位相緩和で支配されている。
以下、上記の原理に基づいて動作する本発明の実施の形態による光スイッチング素子について図面を参照しつつ説明を行う。本実施の形態について説明する前に、対象となる物質について説明する。
強相関電子系又は3d遷移化合物に含まれるモット絶縁体においては、3d電子間に働く強い電子間相互作用、オンサイトクーロン相互作用によって電子構造が支配されており、化学構造的には金属になるはずでありながら電子間相互作用に基づいて絶縁体的性質を示す。この系では、化学的なキャリアドープによって絶縁体−金属転移など特異な物性が起こることが知られている。高温超伝導体の母体物質である二次元銅酸化物などは、その最もよく知られた例である。
図2は、典型的な電荷移動型モット絶縁体の1つである臭素架橋ニッケル錯体(Ni−Br)の結晶構造を示す図である。図2に示す構造では、Ni15と、X=Br17と、N21とハロゲンY=(Br,Cl,NO)23と、C25と、を含んだ化学構造を有している。この一次元モット絶縁体(電荷移動型)である[Ni(chxn)2Br]Br2(Ni−Br)では、ハロゲンイオンX(Br)15を挟んで隣り合う3d遷移金属イオン(図2では、Ni21)間に強い交換相互作用が働き、隣接スピンは反強磁性的な秩序を持つ。その結果、この系は、素励起としてフォノンのほかにスピン励起(マグノン)を持つため、素励起による電子分極の散乱過程である位相緩和のダイナミクスも通常の半導体とは異なる側面を持つと推測される。
図3は、図2に示す臭素架橋ニッケル錯体(Ni−Br)における2DFWMの測定結果を示す図であり、横軸は時間(遅延時間)、縦軸は2DFWM強度である。図3に示すように、4Kにおいて、弱励起(励起密度<1μJ/cm)では300fs程度の高速な位相緩和が観測されるが、より強い励起(10μJ/cm)においては5ps以上の比較的遅い位相緩和が観測される。このような位相緩和時間の励起強度依存性は、通常の半導体において見られるものとは逆である。すなわち、従来からの位相緩和の研究対象である、GaAsなどIII-V, II-IV族の半導体においては、励起強度が高くなると、キャリア間の散乱確率が増加することによって位相緩和時間は短くなる。ところが、モット絶縁体においては、それとは逆に、強励起にすると位相緩和時間が遅くなるという現象が見られた。この現象に関する詳細なメカニズムは現段階では明らかではないが、強い電子相関効果により、高いコヒーレンスを持つ巨視的な凝縮相が作られることにより、散乱過程による位相緩和が抑制されたとも考えられる。
図4及び図5は、推測されるメカニズムの概要を示す図である。図4は、一般的な半導体51における位相緩和の様子を熱浴中の励起子間の相互作用という観点から示した図である。図4に示すように、弱励起状態では分極のコヒーレンスは励起子と格子振動間の相互作用によって乱される。但し強励起状態においては励起子密度が高くなるため、励起子格子振動の散乱に加え、励起子間の散乱確率の寄与が大きくなり位相緩和が高速化する。
図5は、モット絶縁体61などの強相関電子系における位相緩和の様子を示す図である。図5に示すように、強相関電子系では、弱励起の場合、すなわち励起子63が低密度の場合に比べて、強励起の場合、すなわち励起子63が高密度の場合には、励起子状態間の相互作用により巨視的なコヒーレンスが形成され、コヒーレンスが維持されるようになるためと考えられる。このようなモット絶縁体の特異性に基づいて、照射光強度を高くした強励起の場合ほど位相緩和時間が長くなったものと推測される。
次に、上記モット絶縁体の位相緩和に関する特異性を利用した本実施の形態による光スイッチング素子について説明を行う。図6は、本実施の形態による光スイッチング素子の構成例を示す図である。図6(A)は弱励起の場合の例であり、図6(B)は強励起の場合の例である。図6に示すように、本実施の形態による光スイッチング素子は、モット絶縁体からなる光学媒体(試料)71と、第1の光源73と、第2の光源75と、を備えている。第1の光源73からの光が試料71を通過して直進した場合の延長線上のある位置Xとは異なる位置Y(図6(A)),Z(図6(B))にDFWM信号を検出する検出器を
設けることで、DFWMの強度を検出することができる。
より具体的なスイッチング素子の動作について説明する。まず、第1の光源73から試料71に対してフェムト秒パルス光P(ω、k)を例えば定常的に透過させておく。但し、ωは周波数、kは波数である。
次いで、スイッチをオンしたいタイミングにおいて、別のフェムト秒パルスP(ω、k)を、試料上に時間的、空間的に重ねるように出射する。2つの光パルスP、Pに基づくDFWMの信号が、上記2式に基づいて説明した擬似的な回折格子71aにより2k−kの方向に第2パルスPが入射された直後に放射される。光パルスPを出射させない場合には、2k−kの方向には、光が放射されない。従って、光パルスPによりDFWM信号に関するスイッチングが可能なことになる。ここで特徴的なことは、第2の光源75から出射される光パルスPの強度により、回折格子71bにより回折されたDFWM光の減衰に関する時定数τを調整することができる点である。図6(B)に示す強励起状態ではDFWMの信号が図6(A)に示す信号とは異なる。
より詳細には、図6(A)に示すように、弱励起の場合のDFWM信号は、100fs程度の減衰時定数でDFWM光は消滅するが、図6(B)に示す強励起の場合のDFWM光は、その100倍程度の10ps程度の減衰に関する比較的長い時定数を持つ。このように、本実施の形態による光スイッチング素子は、第2の光源から出射されるパルス光の照射光強度に依存してDFWM光の減衰の時定数を変調させることができる。より具体的には、照射光強度が高くなるほど、DFWM光の減衰の時定数が大きくなるという特徴的な挙動を示す。
図7は、室温におけるDFWM光強度の時間変化を示す図である。図7に示すように、本実施の形態による光スイッチング素子においては、室温においても1psよりも長い位相緩和時間が観測されている。従来、3次非線形光学スイッチに用いられている半導体においては、室温における位相緩和時間が100fsよりも遥かに短いことを考えると、特異的な結果と言うことが出来る。すなわち、通常のフォノン散乱機構とは異なる別の機構が働いていることが示唆される。また、室温における動作も低温の場合に比べて、速度変化の範囲は狭くなるが可能であることがわかる。
上記の強相関系特有の非線形光学効果を用いることにより、以下に説明するような、ピコ秒で応答し、かつ、光強度に対して閾値的な高い非線形性を示すスイッチングを実現することが可能となる。このゲート検出器まで含めたシステムの応答速度は、ゲートの遅延とゲート幅とによって決まり、数ピコ秒程度である。ただし、非線形性、感度とのトレードオフとなる。
次に、本発明の第2の実施の形態による光論理ゲート装置について説明する。図8は、本発明の第1の実施の形態による光スイッチング素子を用いた光論理ゲートの構成例(図8(A))と、光論理ゲート特性特性の例(図8(B))を示す図である。図8(A)に示すように、励起強度I1、I2、I3、I4と励起強度が高くなるに従って、DFWM信号の減衰時間が長くなることがわかる。適切な検出器のゲートを1〜数psの遅延を掛けて配置しDFWM信号を検出すると、その出力は、図8(B)に示すように、励起パルス光P2の光強度に対して高い非線形性を示し、ある励起強度で明確な閾値を有する入出力特性が得られる。尚、弱励起の場合は、減衰が早いため見かけ上、信号が0になることを利用している。通常、3次の非線形光学応答を用いた光スイッチは、入射光強度に対して3次の依存性を持つが、この場合は、応答速度が入射光強度により変調されることで、3次よりも遥かに高い依存性が実現できるため、光論理ゲートのオン/オフに関するマージンが大きくなるという利点がある。
次に、本実施の形態による光論理ゲートについて説明する。本変形例による光論理ゲートは、検出器のゲートに遅延時間を可変にできる遅延回路を接続することを特徴とする。検出器のゲートを遅延させるための遅延時間を可変にすることで、光論理ゲートの閾値を変えることができる。すなわち、光論理ゲートの入出力特性が可変になる。これにより、DFWM強度の“0”、“1”の閾値を調整することができる。
以上に説明したように、本変形例による光論理ゲートにおいては、検出器のゲートを遅延
させるための遅延時間を可変にすることで閾値を調整することができるため、使用目的に応じた励起強度の近傍に閾値をもってくることができるため、設計の自由度が増すという利点がある。
このような強相関系特有の非線形光学効果を用いることにより、以下のような、ピコ秒応答で且つ、光強度に対して敷値的な高い非線形性を示すスイッチングを実現することが可能となる。
尚、上記各実施の形態においては、遷移金属ハロゲン化物からなる)モット絶縁体を例にして光り媒質を説明したが、その他、一次元銅酸化物ACuO(A−Ca,Sr,Ba,La)又は二次元銅酸化物ACuO,ACuOCl(A−Ca,Sr,Ba,La,Nd)からなる光媒質を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、光スイッチング素子および光論理ゲートに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】2−beam縮退4光波混合(DFWM)の原理を示す図である。
【図2】典型的な電荷移動型モット絶縁体の一つである臭素架橋ニッケル錯体(Ni-Br)の結晶構造を示す図である。
【図3】臭素架橋ニッケル錯体(Ni-Br)における2ビーム型縮退4光波混合の測定結果を示す図である。
【図4】一般的な半導体における位相緩和の様子を熱浴中の励起子間の相互作用という観点から示した図である。
【図5】モット絶縁体などの強相関電子系における位相緩和の様子を示す図である。
【図6】本実施の形態による光スイッチング素子の構成例を示す図である。図6(A)は弱励起の場合の例であり、図6(B)は強励起の場合の例である。
【図7】室温におけるDFWM光強度の時間変化を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態による光スイッチング素子を用いた光論理ゲートの構成例(図8(A))と、光論理ゲート特性特性の例(図8(B))を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
71…光媒体(試料)、71a…擬似的な回折格子、73…第1の光源、75…第2の光源、P、P…フェムト秒パルス光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3d遷移金属化合物からなる光媒質と、
該光媒質に対して第1のパルス光P(ω、k)を第1の位置から入射させる第1の光源と、
前記光媒質に対して第2のパルス光P(ω、k)を前記第1の位置とは異なる第2の位置から入射させる第2の光源と
を有する光スイッチング素子。
但し、ωは光の周波数、k、kは波数ベクトルである。
【請求項2】
強相関電子系を構成する材料からなる光媒質と、
該光媒質に対して第1のパルス光P(ω、k)を第1の位置から入射させる第1の光源と、
前記光媒質に対して第2のパルス光P(ω、k)を前記第1の位置とは異なる第2の位置から入射させる第2の光源と
を有する光スイッチング素子。
但し、ωは、光の周波数、k、kは波数ベクトルである。
【請求項3】
遷移金属ハロゲン化物からなるモット絶縁体又は一次元銅酸化物ACuO(A−Ca,Sr,Ba,La)又は二次元銅酸化物ACuO,ACuOCl(A−Ca,Sr,Ba,La,Nd)からなる光媒質と、
該光媒質に対して第1のパルス光P(ω、k)を第1の位置から入射させる第1の光源と、
前記光媒質に対して第2のパルス光P(ω、k)を前記第1の位置とは異なる第2の位置から入射させる第2の光源と
を有する光スイッチング素子。
但し、ωは、光の周波数、k、kは波数ベクトルである。
【請求項4】
前記第2のパルス光P2の照射強度を可変にする照射光強度制御手段を有することを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の光スイッチング素子。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の光スイッチング素子と、
前記出射側の2k−kの方向にある位置又はその近傍に配置され、2ビーム型縮退4光波混合法に基づくDFWM信号をある時間範囲において検出する検出器ゲートと
を有することを特徴とする光論理ゲート装置。
【請求項6】
前記検出器ゲートは、前記ある時間範囲を遅延させる遅延手段を有していることを特徴とする請求項5に記載の光論理ゲート装置。
【請求項7】
前記遅延手段は、遅延時間可変の遅延手段であることを特徴とする請求項6に記載の光論理ゲート装置。
【請求項8】
3d遷移金属化合物からなる光媒質に対して第1のパルス光P(ω、k)を第1の位置から入射させるステップと、
前記光媒質に対して第2のパルス光P(ω、k)を前記第1の位置とは異なる第2の位置から入射させるステップと、
出射側の2k−kの位置又はその近傍においてDFWM信号を検出するステップとを有する光検出方法。
但し、ωは光の周波数、k、kは波数ベクトルである。
【請求項9】
さらに、前記第2のパルス光Pの照射光強度により前記DFWM信号の位相緩和時間を調整するステップを有することを特徴とする光検出方法。
【請求項10】
3d遷移化合物を含む材料又は強相関電子系を構成する材料の少なくとも一方からなる光媒質と、
該光媒質に対して第1のパルス光P(ω、k)を第1の位置から入射させる第1の光源と、
前記光媒質に対して第2のパルス光P(ω、k)を前記第1の位置とは異なる第2の位置から入射させる第2の光源と、を有する光スイッチング素子であって、
前記第2のパルス光Pの照射光強度に依存して、出射側の2k−kの方向にある位置又はその近傍における2ビーム型縮退4光波混合法に基づくDFWM信号を調整することを特徴とする光スイッチング素子。





(別紙)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−39214(P2006−39214A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218958(P2004−218958)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】