説明

光ディスク装置

【課題】回路規模や消費電力の増加を抑えつつ、充分な検波性能を有する光ディスク装置を提供する。
【解決手段】ウォブル信号を検出する信号処理回路6と、ウォブル信号と周波数が同じか又はN倍の周波数でそのウォブル信号に位相が同期したキャリア信号を生成するPLL回路8と、ウォブル信号をデルタシグマ変調するデルタシグマ変調器7と、デルタシグマ変調器の出力とキャリア信号との演算を行う演算器と、演算器の出力から低域成分だけを通過させるローパスフィルタ10と、ローパスフィルタ10の出力からアドレス情報を再生する再生回路とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクに情報を記録又は再生する光ディスク装置、特に、光ディスクのウォブルを変調することでアドレス情報等を記録した光ディスクからアドレス情報等を再生する際の信号処理回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より光ディスクからデータを記録或いは再生する場合には、光ディスク上の位置を知るため、予め光ディスクに埋め込まれたアドレス情報を検出している。そして、光ディスク上の目的とする位置にアクセスした上で、その位置からユーザデータの記録や再生を行っている。光ディスクの多くは、光ディスク上のグルーブ溝を溝の幅方向に微小に偏移させるという、いわゆるウォブリングさせることでアドレス情報やクロック情報が埋め込まれている。
【0003】
通常、ウォブリング構造は略正弦波状であり、連続する正弦波の一部をFSK/PSK/MSK等の変調を行うことでアドレス情報等が記録されている。ウォブリングされたトラック形状に対応するウォブル信号を再生し、各種変調に対して復調(或いは検波と呼ぶ)することでアドレス情報を再生する。
【0004】
ウォブリング変調方式としては、例えば、特許文献1に記載されているように単一周波数のウォブリングの一部の位相を180度変化させる、いわゆるPSK(Phase Shift Keying)変調等がある。
【0005】
また、光ディスクのディスクアドレスを再生する方法としては、例えば、特許文献2に記載された方法がある。即ち、まず、PSK変調を施されたウォブリングを再生したウォブル信号に対してPLLにより周波数位相同期した搬送波を生成する。この搬送波からウォブル信号と位相の揃ったキャリア信号を生成し、ウォブル信号とキャリア信号を乗算することでPSK変調成分から被変調情報の検出即ちPSK検波を行う。検波を行うためには同期したキャリア信号生成器、乗算器、LPF(ローパスフィルタ)、2値化器で構成される検波回路が用いられる。
【0006】
また、特許文献3に記載されているようにPSK変調された信号をAD変換し、その後の乗算やLPFをデジタル回路で構成してウォブル信号と位相ロックしたキャリア信号を生成する方法がある。そしてそのキャリア信号を基にしてPSK検波することによりアドレス情報を検出する。
【特許文献1】特開平10−069646号公報
【特許文献2】特開2001−126413号公報
【特許文献3】特開平05−260413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のPSK検波回路においては、多ビットの高速AD変換器を用いるため、AD変換器まわりの回路規模が増大し、それに伴い消費電力も増大するという問題点がある。具体的には、まず、レーザ光量やディスク反射率で振幅等が変動するウォブル信号を精度よく処理するため、多ビットのAD変換器が用いられる。更に、その後段にあたる乗算器では多ビットで表現されるキャリア信号との乗算を行う。
【0008】
例えば、再生するウォブル信号の周波数を約960kHzとすると、正確に信号を再現するにはその20倍以上のサンプリング周波数が必要とされるので、AD変換器の動作周波数は約20MHzを必要とする。更に、ADのビット数は10ビット、キャリア信号のビット数を8ビットとすると、乗算器としては18ビット出力で、しかも20MHzで動作することが要求される。
【0009】
通常、AD変換器の動作周波数やビット数が大きくなると、AD変換器そのものの回路が複雑になり、消費電力が増加する。乗算する2つの入力それぞれのビット数が大きくなると、後段の乗算器においても回路規模が増大し、また全体の回路規模が増大することに伴い、実際のIC回路での動作速度は制限される。
【0010】
一方、ウォブル信号のビット数を少なくしたり、サンプリング周波数を下げることは、デジタル後のウォブル信号のS/Nや検波回路における検波後の信号のS/Nを低下を招く。その結果、被変調成分の検出精度を悪化させることになってアドレス検出性能を劣化させかねない。
【0011】
更に、乗算器等の全て又は一部の回路をアナログ回路で構成する場合、温度特性や素子ばらつきに敏感になり、充分な回路性能を維持することが難しい。このような点から、回路規模や消費電力の増加を抑えつつ、充分な性能を有するウォブル変調に対応する検波回路が望まれていた。
【0012】
本発明の目的は、回路規模の増大や消費電力の増大を抑制しつつ十分な性能を得ることが可能な光ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ウォブル信号をAD変換するAD変換器としてデルタシグマ変調器を用い、そのデルタシグマ変調器の出力とキャリア信号との演算を行い、また、その演算器の出力からローパスフィルタによって低域成分だけを通過させることによってウォブルの変調情報の検波を行う。デルタシグマ変調器の出力とキャリア信号との演算を1ビットで処理できるため、回路規模を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ウォブル用のAD変換器に回路構成が簡単なデルタシグマAD変換器を用いて1ビットのデジタルビットストリームを出力し、そのままキャリア信号との演算処理を行うことにより、回路規模を簡単化することが可能となる。即ち、従来において回路規模が増大していたAD変換を簡単化でき、更に1ビットで処理することからその後段の処理回路をも簡単化することが可能となる。また、従来の性能を保ちつつ回路規模の簡単化に伴い消費電力を低減することが可能となる。
【0015】
更に、デルタシグマ変調後のデシメーションフィルタとヘテロダイン検出におけるLPFを兼用できるため、この点からも回路規模を低減可能となる。また、回路規模が簡単になることで、コストダウンだけでなく、従来よりも高速に動作することができ、光ディスクの高倍速にも対応することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は本発明に係る光ディスク装置の一実施形態を示すブロック図である。図1では主にPSK検波回路を詳細に示す。なお、図1では光ディスクに情報を記録するための回路や再生するための回路、フォーカス制御やトラッキング制御を行うサーボ制御回路、或いは装置全体を制御するコントローラや機構等に関しては省略している。
【0018】
図中1は情報を記録或いは再生する光ディスクである。光ディスク1の情報トラックには上述のようにウォブルが施され、アドレス情報等が記録されている。2は光ディスク1を回転駆動するスピンドルモータである。3はスピンドルモータ2を駆動するモータドライバーを含むモータ制御回路である。5は光ディスク1に対してレーザ光を照射して記録或いは再生を行うための光ピックアップである。
【0019】
6は光ピックアップ5内の光ディスク1からの反射光を検出する複数のセンサの出力を増幅し、プッシュプル出力であるウォブル成分の信号を生成するアナログ信号処理回路である。7はデルタシグマ変調を用いたデルタシグマAD変換器、8はウォブルPLL回路、9はPSK検波回路、10は2値化器である。
【0020】
スピンドルモータ2はモータ制御回路3により制御され、光ディスク1を適切な回転数で回転駆動する。次に、光ピックアップ5内の図示しない半導体レーザのレーザ光束が光ディスク1に照射され、光ディスク1からの反射光を光ピックアップ5内のセンサで受光する。光ピックアップ5内のセンサからの信号を基に図示しないサーボ制御回路は光ディスク1への照射光が光ディスク1上の溝に焦点を合わせつつ、その溝に沿って走査するようにサーボ制御を行う。
【0021】
光ピックアップ5内のセンサからの出力信号はアナログ信号処理回路6に供給され、アナログ信号処理回路6はその信号をもとにマトリックス演算を行うことでウォブル信号を検出する。アナログ信号処理回路6で生成されたウォブル信号はデルタシグマAD変換器7に送られる。
【0022】
デルタシグマAD変換器7は入力されたクロック周波数で高速サンプリングし、1ビットのデジタルビットストリームに変換する。通常、この1ビットのビットストリームは後段のデシメーションフィルタ11にて高域のノイズ成分が除かれる。更に、デシメーションフィルタ11はデルタシグマAD変換器7の動作クロックより遅いレートの周波数で再サンプリングし、多ビットのデジタルデータに変換する。その後、PLL回路8によりウォブル信号と同期した正弦波キャリアを再生する。正弦波キャリアはPSK検波回路9に入力される。
【0023】
PSK検波回路9はデシメーションフィルタ11に入る前のビットストリーム化されたウォブル信号とPLL回路8の出力である正弦波キャリアとの演算を行い、PSK情報を検出する。この演算はデルタシグマAD変換器7の動作クロックと同じクロックで演算処理を行う。その演算処理は詳しく後述する。
【0024】
PSK検波回路9で検出されたPSK検波信号は、後段の2値化器10において2値化され、被変調成分であるPSK2値化信号を再生する。その後、図示しないアドレス検出部においてPSK2値化信号のビット列から同期信号を検出し、アドレスビットを判定してアドレス情報を再生する。
【0025】
次に、図1のデルタシグマAD変換器7について説明する。デルタシグマAD変換器の基本構成を図2に示す。図2における入力は図1におけるデルタシグマAD変換器7の入力にあたるウォブル信号である。
【0026】
デルタシグマAD変換器7は、積分器22、積分器22の出力を所定の閾値で2値化し1ビットの出力信号を生成するコンパレータ23、コンパレータ23の出力を動作クロックである20MHzの1クロック分遅延させる遅延器24を含んでいる。また、遅延器24の出力を閾値を中心レベルとするアナログの2値に変換するDA変換器25、DA変換器25の出力と入力信号の減算を行う減算回路21から構成されている。
【0027】
詳細な説明は省略するが、このような構成を採用することでデルタシグマAD変換器7は1ビット出力でありながら20MHzという高速のサンプリング周波数を有する。そして、ノイズスペクトルを高域にシェーピングすることで、低域の周波数成分については高S/Nを有するようにAD変換を行う。
【0028】
図3は本発明の主要部であるPSK検波回路9の一例を示す。図中31は信号の値を−1倍する符号反転回路、32はスイッチ、33はLPFである。図1のPLL回路8から出力された正弦波キャリア信号は符号反転回路31により正負が反転した信号に変換される。スイッチ32はデルタシグマ変調器7の出力を切り替え制御信号とし、キャリア信号そのものと符号反転回路31の出力とを切り替える。つまり、デジタルシグマAD変換器7の出力が1である時は正負反転していない信号を選択し、0である時は正負反転している信号を選択する。
【0029】
LPF33はスイッチ32の出力信号から不要な高域成分を除去し、PSK検波信号を出力する。なお、キャリア信号を2の補数表現とすることで、−1倍は乗算回路ではなくビット数分のNOT論理と加算器で実現できる。つまり、各ビットを反転するNOT論理と1を加算するための加算器で実現できる。以上の動作はデルタシグマAD変換器7の出力レートである動作クロックと同じクロックで動作する。
【0030】
次に、図3の回路動作を図4を参照して説明する。図4(a)はアナログ信号処理回路6から出力されたウォブル信号、図4(b)はデルタシグマAD変換器7でデルタシグマ変調された1ビットのビットストリーム信号である。図4(c)はPLL回路8から出力された正弦波キャリア信号である。正弦波キャリア信号の出力は8ビットであるが、図4ではその値を理解し易いようにアナログ用に表現している。また、正弦波キャリア信号はウォブル信号と周波数が略同じで、位相がウォブル信号に同期している。
【0031】
まず、図4(b)に示すデルタシグマAD変換器7出力のビットストリームのH/Lに従い、スイッチ32は図4(c)に示す正弦波キャリア信号と符号反転回路31により反転された信号(図示せず)とを切り替える。図4(d)はその切り替え結果を示す信号である。図4(d)に示す信号は次段のLPF33で平滑化され、キャリア周波数成分やデルタシグマ変調によりシェーピングされたノイズ成分が除去され、図4(e)に示すようにPSK変調された情報を検出する。
【0032】
本実施形態では、キャリア信号をデルタシグマ変調された信号で正負切り替えることで乗算処理を実現している。乗算することで、ウォブル信号成分とキャリア信号成分の位相差を検出できる。即ち、ウォブル信号のPSK成分をDC領域に周波数変換することで元の変調情報を再生する。
【0033】
ここで、ウォブル信号をSIN(θ+α)と表現する。但し、無変調時α=0、PSK変調時α=πである。更に、キャリア信号をSINθとする。乗算結果は以下のように計算できる。
【0034】
SIN(θ+α)×SIN(θ)
=(1/2)・{COS(α)−COS(2θ+α)}
この演算式で、第1項は位相の変化即ちPSKによる被変調成分を、後者は位相の和の成分を示す。即ち、第1項は無変調時COS(0)=1、PSK変調時COS(π)=−1となり、ビット判別できる信号に変換される。後者はほぼウォブルの2倍周波数の成分となるので、後段のLPFでノイズシェーピングされたデルタシグマ変調ノイズとともに除去される。
【0035】
本実施形態では、回路規模が増大するAD変換器とその後の乗算処理を、デルタシグマAD変換器とスイッチを用いて行うことにより、従来と同等の検出精度を保ちつつAD変換器だけではなく乗算回路についても回路規模を低減できる。それに伴い消費電力の増大を抑制できる。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態の全体構成は図1に示す構成と同等なので説明を省略する。第2の実施形態ではPSK検波回路9の構成が図1と異なっている。
【0037】
図5は本実施形態のPSK検波回路9の構成を示す。図中51は2値化器、52はEXOR回路(排他的論理和)、53はLPFである。
【0038】
図5のPSK検波回路9の動作を図6の信号を参照して説明する。図6(a)はAD変換される前のウォブル信号、図6(b)はデルタシグマAD変換器7でデルタシグマ変調された1ビットのビットストリーム信号である。
【0039】
図6(c)は8ビットで到来するキャリア信号である。2値化器51はこのキャリア信号を中心レベルで2値化し、図6(d)に示すように正弦波キャリアの2値化信号を出力する。EXOR回路52は図6(b)の1ビットのビットストリーム信号と2値化器51の2値化出力とのEXOR論理演算を行う。キャリア信号はウォブル信号と周波数が略同じで、位相がウォブル信号に同期している。
【0040】
図6(e)はEXOR論理後の信号を示す。この信号は次段のLPF53で平滑化され、キャリア周波数成分や2倍キャリア周波数成分が除去され、図6(f)に示すようにPSK変調成分を検出する。
【0041】
本実施形態では、キャリア信号をキャリア信号の符号のみを表現する2値化パルスにすることで、デルタシグマ変調されたウォブル信号との乗算をより簡便なEXOR回路で実現することが可能となる。
【0042】
なお、本実施形態においてはEXOR回路を使用したが、第1の実施形態と同様にスイッチを使用し、片方の論理で他方を反転させる構成でも良いことは排他的論理和の論理から明らかである。
【0043】
また、本実施形態においてはキャリア信号も2値化して1ビットとし、更に1ビットで出力するデルタシグマAD変換器とEXOR回路を用いることで、回路規模を低減でき、消費電力も低減できる。また、簡単な回路構成となっているので、従来よりも高速に動作することが可能となる。
【0044】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態の全体構成は図1に示す構成と同等なので説明を省略する。本実施形態ではPSK検波回路9の構成が同様に異なっている。
【0045】
本実施形態のPSK検波回路は図3と同様にスイッチを利用するが、キャリア信号とその符号反転したものを切り替えるものではない。即ち、キャリア信号を3値にして、デルタシグマAD変換されたウォブル信号と、その反転信号との中間値となる基準値とを切り替えるものである。
【0046】
図7は本実施形態のPSK検波回路9の構成を示す。図中71と72はそれぞれ2系統の入力の値を比較し、大小関係を判定するコンパレータ、73は所定の値を出力する基準値出力回路、74はNOT回路、75と76はそれぞれスイッチ、77はLPFである。コンパレータ71は振幅Aを有するキャリア信号を入力とし、他方の入力である+0.7Aと比較して大きい場合にHIGHを出力する。
【0047】
同様にコンパレータ72はキャリア信号を入力とし、他方の入力である−0.7Aと比較して大きい場合にHIGHを出力する。NOT回路74はデルタシグマAD変換され、1ビットとなったウォブル信号を反転する。基準値出力回路73はデルタシグマAD変換され、1ビットとなったウォブル信号の出力論理値の中心値を出力する。
【0048】
図7の動作を図8に示す各部の信号を参照して説明する。図8(a)はデルタシグマAD変換される前のウォブル信号、図8(b)はデルタシグマAD変換器7でデルタシグマ変調された1ビットのビットストリーム信号である。
【0049】
図8(c)は正弦波キャリア信号であり、デジタル振幅として、A=±100デジットp−pを有するものとする。正弦波キャリア信号はウォブル信号と周波数が略同じで、位相がウォブル信号に同期している。
【0050】
コンパレータ71はレベル0.7A=70デジットとキャリア信号を比較し、図8(d)に示すようにキャリア信号が大きい時にはHIGHを出力する。つまり、キャリア信号をSINφとすると、φ=90±45度の範囲でHIGHとなる信号を出力する。
【0051】
コンパレータ72は同様にレベル−0.7A=−70デジットと比較し、図8(e)に示すようにキャリア信号が大きい時はHIGHを出力する。つまり、同様にφ=270度±45度の範囲でLOWを出力する。
【0052】
スイッチ75はコンパレータ71の出力がHIGHの場合にはデルタシグマAD変換され、1ビットとなったウォブル信号を、LOWの場合にはスイッチ76の出力を切り替えて出力する。スイッチ76はコンパレータ72の出力がHIGHの場合には基準値出力回路73の出力を、LOWの場合にはNOT回路74の出力を切り替えて出力する。最終的にスイッチ75は図8(f)に示すような信号を出力する。切替動作を整理すると以下の通りとなる。
【0053】
コンパレータ71の出力がHIGH →ウォブル信号をデルタシグマAD変換したビットストリーム信号
コンパレータ72の出力がLOW →ウォブル信号をデルタシグマAD変換したビットストリーム信号の反転信号
それ以外 →基準値(ここではビットストリームのHIGHとLOWの中間値)
LPF77は図8(f)に示すスイッチ75の出力からキャリア周波数成分を除去し、低域成分だけを通過させて図8(g)に示すPSK検波信号を出力する。
【0054】
本実施形態では、キャリア信号を3値とみなしてキャリア信号周期の一部の期間だけで、デルタシグマ変調されたウォブル信号を反転、非反転させることで乗算処理を実現している。このように1ビットで出力するデルタシグマAD変換器とスイッチや簡単な論理回路を用いることで回路規模を低減でき、消費電力も低減できる。
【0055】
また、本実施形態では、第1の実施形態に比べてスイッチ回路等が増加するものの、簡単な回路構成によりキャリア信号を3値化したことと等価な信号処理が実現できる。同様な考えに従って、スイッチ個数を増やすことでより多ビット化することが可能である。即ち、簡単な回路構成により精度よいキャリア信号のままで、多ビットと多ビットの乗算が可能となるので、従来よりも回路規模を低減でき、更には従来よりも高速に動作することが可能である。
【0056】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。第4の実施形態の全体構成は図1に示す構成と同等なので説明を省略する。第4の実施形態では同様にPSK検波回路9の構成が異なっている。本実施形態では、第2の実施形態と同様にEXOR論理を利用するが、前後の複数のサンプル点を用いて演算することで、より高精度な検出を実現するものである。
【0057】
図9は本実施形態のPSK検波回路9の構成を示す。図中81は1クロックサンプル分の遅延を発生させる遅延器で、これが3段縦続接続されている。82は入力を2値化する値化器、83はEXOR回路、84は4入力の加算器、85はLPFである。
【0058】
デルタシグマ変調されたウォブル信号は1段目の遅延器81に入力され、1サンプルクロックづつ遅延され後段に伝播する。一方、2値化器82は正弦波キャリア信号を2値化し、1ビットのパルス(正か負かを示す)として出力する。また、デルタシグマ変調されたウォブル信号は1段目のEXOR回路83の一方の入力端子に入力されている。2段目、3段目、4段目のEXOR回路83の一方の入力端子には1段目、2段目、3段目の各遅延器81の出力が入力されている。
【0059】
1段目から4段目の各EXOR回路83の他方の入力端子には、それぞれ2値化器82の出力が入力されている。この構成により、各遅延結果と2値化キャリア信号とのEXOR論理を実現するものである。加算器84はEXOR回路83の各出力結果を加算し、EXOR論理後の移動平均処理を行う。LPF85は加算器84の出力からキャリア周波数成分を除去し、低域成分だけを通過させてPSK検波信号を出力する。
【0060】
本実施形態は、第2の実施形態の動作を前後数ビットに拡張したものであり、各部の信号の様子は第2の実施形態と同等であるので説明を省略する。本実施形態では、前後のサンプル点での演算結果を用いることで、デルタシグマ変調により高域にシェーピングされたノイズを除去しつつ、合わせて乗算処理も行う。
【0061】
なお、本実施形態においては、EXOR回路で2系統の1ビットのビット演算を実施したが、図7の実施形態のようにNOT回路とスイッチを用いて、同様の効果を得ることは可能である。
【0062】
また、EXOR回路出力をそのまま加算器で加算するのではなく、加算器の直前の各信号ラインに係数器を付加し、より高次のフィルタ特性となるような構成としても良い。この時、本回路で直接高域のノイズ成分を除去できるので、キャリア周波数成分等を除去する機能を兼用し、後段のLPFを省略しても良い。
【0063】
通常、デルタシグマ変調出力のビットストリームは、1ビットだけで情報を表現しているわけではなく、前後数ビットでAD変換前の信号のレベルを表現している。そのため、デルタシグマ変調されたウォブル信号と2値化されたキャリア信号のEXOR論理をとるだけではなく、前後数サンプルから移動平均を行うと良い。例えば、本実施形態のように前後4サンプルからの加算処理を行うことで、乗算器を利用することなく、簡単な回路構成で位相の変化であるPSK検波をより良い精度で実現できる。
【0064】
従って、本実施形態においては、フィルタと乗算器を一体化することで、全体の回路規模を低減しつつ所望の処理を実現できる。
【0065】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。第5の実施形態の全体構成は図1に示す構成と同等なので説明を省略する。第5の実施形態では同様にPSK検波回路9の構成が異なっている。
【0066】
図10は本実施形態のPSK検波回路9の構成を示す。図中91はデルタシグマ変調器、92は減算器、93はLPF、94は全波整流器である。
【0067】
図10の動作を図11の信号を参照して説明する。図11(a)はAD変換前のウォブル信号、図11(c)は図1のデルタシグマAD変換器7によりデルタシグマ変調された1ビットのビットストリーム信号である。図11(b)はデルタシグマ変調する前のキャリア信号である。キャリア信号はウォブル信号と周波数が略同じで、位相がウォブル信号に同期している。
【0068】
デルタシグマ変調器91は図1のPLL回路8から出力される正弦波キャリア信号(図11(b))をデルタシグマ変調し、図11(d)に示すように1ビットのビットストリーム信号を出力する。減算器92は既にデルタシグマ変調されたウォブル信号とデルタシグマ変調されたキャリア信号との1ビット同士の差分演算を行い、図11(e)に示すように3値の2ビットの演算結果を出力する。
【0069】
フィルタ93はキャリア周波数成分を除去し、低域成分だけを通過させて図11(f)に示すような信号を出力する。図11(f)では位相反転しているPSK変調期間だけが相殺されずに残っている。全波整流器94は信号が負の場合だけ反転することで、全波整流動作を行う。図11(g)は全波整流後の信号を示す。
【0070】
ここで、図1の2値化回路10においては単純に閾値と比較判定することも可能であるが、ウォブル周期内で検波回路の出力信号を積分することで、より正確に2値化判定することができる。
【0071】
本実施形態においては、キャリア信号がデルタシグマ変調されたビットストリーム信号であっても、乗算器を不要とし、減算器等の簡単な回路構成をとることで、回路規模を低減でき、消費電力も低減できる。
【0072】
なお、本実施形態では、キャリア信号を生成してからデルタシグマ変調を実施したが、直接デルタシグマ変調されたキャリア信号を生成するような変調器であってもよい。
【0073】
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。本実施形態では光ディスクの情報トラックのウォブリングがPSKではなく、MSKにて変調されている場合に適用するものである。そのため、本実施形態では、図1の光ディスク装置においてPSK変調をMSK変調に置き換えるものとする。即ち、図1の光ディスク1には情報トラックにMSK変調によりアドレス情報等が記録され、それに応じてPSK検波回路9はMSK検波回路に置き換えるものとする。
【0074】
MSK検波回路としては、図3と同等の回路を用いることができる。また、図5、図7、図9、図10のPSK検波回路と同等の回路を用いることもできる。ここでは、図3と同等の回路を用いるものとする。MSK変調に関しては、例えば、特開2003−123249号公報に開示されている。
【0075】
図12は図4に対応する各部の信号波形を示す。図12(a)〜図12(a)はそれぞれ図4(a)〜図4(e)に対応する。図12(a)は図1のアナログ信号処理回路6にて再生されたMSK変調波形である。上記特開2003−123249号公報に記載されているように通常の無変調部では、
無変調部(下記アイウ以外) +COS(ωt)
である。MSK変調部は、以下の3種の波形の組み合わせで構成されている。
【0076】
期間(ア)+COS(1.5ωt)
期間(イ)−COS(ωt)
期間(ウ)−COS(1.5ωt)
本実施形態では、図12(a)に示す信号がMSK変調されたウォブル信号として再生されると、デルタシグマAD変換器7によるビットストリーム信号は図12(b)に示すようになる。この場合、ウォブル信号と位相同期した信号は余弦波となるので、図12(c)におけるキャリア信号も余弦波で表している。キャリア信号はウォブル信号と周波数が略同じで、位相がウォブル信号に同期している。
【0077】
図3の検波回路における動作はPSK変調の場合と同様である。スイッチ32はこの余弦波キャリア信号を図12(b)に示す信号により反転/非反転し、図12(d)に示すような信号を出力する。即ち、スイッチ32はビットストリームに従いキャリア信号か符号反転回路31の出力かを選択する。図12(d)の信号をLPF33で平滑化すると図12(e)に示す信号が得られ、MSK変調された情報を検出できる。
【0078】
本発明は、上述のようにPSK変調だけではなく、MSK変調方式にも適用することが可能である。従って、このようなMSK変調方式の光ディスク装置においても検波回路の規模を削減することができる。
【0079】
なお、本実施形態においては、第1の実施形態のPSK検波回路をMSK検波回路として用いる例を説明したが、その他の実施形態のPSK検出回路と同等の回路をMSK変調方式に適用することも可能である。
【0080】
(第7の実施形態)
次に、本発明の第7の実施形態について説明する。本実施形態は、光ディスクの情報トラックのウォブリングがHMWにて変調されている場合に適用するものである。HMW変調に関しては、例えば、特開2003−123249号公報に開示されている。HMWはその波形が鋸状であることからSTW(Saw Tooth Wobble)とも呼ばれている。
【0081】
本実施形態では、図1の光ディスク装置において光ディスク1の情報トラックにHMW変調によりアドレス情報等が記録され、図1のPSK検波回路9はHWM検波回路に置き換えるものとする。HWM検波回路としては、例えば、図3のPSK検波回路と同等の回路を用いることができる。
【0082】
図13は図4に対応する各部の信号波形を示す。図13(a)〜図13(a)はそれぞれ図4(a)〜図4(e)に対応する。図13(a)はアナログ信号処理回路6で再生されたHMW変調波形である。上記特開2003−123249号公報に記載されているように通常の無変調部では、
無変調部(下記アイウ以外) +COS(ωt)
である。HMW変調部では、例えば、k=0.25として、被変調データが1の時、
+COS(ωt)+k×SIN(2ωt)
という変調を行う。この波形を図13の期間(エ)に示す。また、被変調データが0の時には、+COS(ωt)−k×SIN(2ωt)
という変調を行う。この波形を図13の期間(オ)に示す。
【0083】
実際には、この変調方式による波形がNウォブル連続している場合もあり得る。ここでは表記上の都合から、
無変調、被変調データが1、無変調、被変調データが0、無変調、
の組み合わせのウォブル信号にて説明する。
【0084】
本実施形態では、図13(a)に示すようにMSK変調されたウォブル信号が再生されると、ビットストリーム信号は図13(b)に示すようになる。ウォブル信号と周波数並びに位相同期した信号は1倍周波数の余弦波となるが、PLL回路8においてその2倍の周波数となる正弦波は用意に生成可能である。この場合のキャリア信号はウォブル信号と同じ周波数ではなく、2倍の周波数の信号になる。図13(c)におけるキャリア信号もそのように表している。
【0085】
図3の検波回路の動作はPSK変調の場合と同様である。スイッチ32はこの2倍周波数の正弦波キャリア信号を図13(b)の信号により反転/非反転し、図13(d)に示すような信号を出力する。即ち、上述のようにスイッチ32はビットストリームに従いキャリア信号か符号反転回路31の出力かを選択する。この信号をLPF33で平滑化すると、図13(e)に示す信号が得られる。
【0086】
ここで、図13(e)に示すようにLPF33からの出力信号は期間(エ)と期間(オ)とでHMW変調された被変調データにより正負にシフトしている。実際には、Nウォブル連続するので、Nウォブルにわたり長期間積分することで、より正確に被変調データを検出する。
【0087】
本発明においては、PSKやMSKといった単純な変調方式だけではなく、2つの波形を混合し、その一方の位相が反転するような変調方式にも適用することが可能である。従って、このようなHMW方式の光ディスク装置においても、検波回路の規模を低減することができる。
【0088】
本実施形態では、第1の実施形態のPSK検波回路をHMW検出回路として用いる例を説明したが、その他の実施形態の検出回路についても同様にHMW変調方式に適用することが可能である。
【0089】
また、以上の実施形態ではPSK、MSK、HMW変調における位相変調の検波について説明したが、本発明はFSK変調についても同様に使用可能であり、それらを組み合わせた変調方式についても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に係る光ディスク装置の第1の実施形態を示すブロック図である。
【図2】デルタシグマ変調を用いたAD変換器の基本ブロック図を示す図である。
【図3】第1の実施形態のPSK検波回路を示すブロック図である。
【図4】図3の各部の信号を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態のPSK検波回路を示すブロック図である。
【図6】図5の各部の信号を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態のPSK検波回路を示すブロック図である。
【図8】図7の各部の信号を示す図である。
【図9】本発明の第4の実施形態のPSK検波回路を示すブロック図である。
【図10】本発明の第5の実施形態のPSK検波回路を示すブロック図である。
【図11】図10の各部の信号を示す図である。
【図12】本発明の第6の実施形態における検波回路の各部の信号を示す図である。
【図13】本発明の第7の実施形態における検波回路の各部の信号を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
1 光ディスク
2 スピンドルモータ
3 モータ制御回路
5 光ピックアップ
6 アナログ信号処理回路
7 デルタシグマAD変換器
8 PLL回路
9 PSK検波回路
10 2値化器
21 減算回路
22 積分器
23、71、72 コンパレータ
24、81 遅延器
25 DA変換器
31 符号反転回路
32、75、76 スイッチ
33、53、77、85、93 フィルタ(LPF)
51、82 2値化器
52、83 EXOR回路
73 基準値出力回路
74 NOT回路
84 加算器
91 デルタシグマ変調器
92 減算回路
94 全波整流器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報トラックにウォブルが施され、そのウォブルを変調することによってアドレス情報が記録された光ディスクに対して情報を記録又は再生する光ディスク装置において、
前記光ディスクからの反射光に基づいて前記ウォブルによるウォブル信号を検出するウォブル信号検出器と、
前記ウォブル信号と周波数が同じか又はN倍の周波数でそのウォブル信号に位相が同期したキャリア信号を生成する信号発生器と、
前記ウォブル信号をデルタシグマ変調するデルタシグマ変調器と、
前記デルタシグマ変調器の出力と前記キャリア信号との演算を行う演算器と、
前記演算器の出力から低域成分だけを通過させるローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタの出力から前記アドレス情報を再生する再生回路と、を備えたことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
前記光ディスクの情報トラックに施されたウォブルの変調は、PSK変調、MSK変調、HMW変調又はFSK変調であることを特徴とする請求項1に記載の光ディスク装置。
【請求項3】
前記演算器は、前記キャリア信号の符号を反転させる符号反転器と、前記キャリア信号と前記符号反転器の出力とを切り替えるスイッチとを含み、前記デルタシグマ変調器の出力に従い前記スイッチを切り替えることにより、前記キャリア信号と前記デルタシグマ変調器の出力との乗算を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ディスク装置。
【請求項4】
前記演算器は、前記キャリア信号を2値化する2値化器と、排他的論理和回路とを含み、前記排他的論理和回路で前記キャリア信号と前記2値化器の出力との排他的論理和をとることにより、前記キャリア信号と前記デルタシグマ変調器の出力との乗算を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ディスク装置。
【請求項5】
前記演算器は、前記キャリア信号と予め設定された第1の値、第2の値とをそれぞれ比較する第1、第2のコンパレータと、前記第1のコンパレータの出力に応じて前記キャリア信号の第1の期間に前記デルタシグマ変調器の出力を選択する第1のスイッチと、前記第2のコンパレータの出力に応じて前記キャリア信号の第2の期間に前記デルタシグマ変調器の出力の反転信号を選択する第2のスイッチとを含み、前記キャリア信号の第1、第2の期間に前記デルタシグマ変調器の出力を反転又は非反転させることにより、前記キャリア信号と前記デルタシグマ変調器の出力との乗算を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ディスク装置。
【請求項6】
前記演算器は、デルタシグマ変調された前記キャリア信号を出力する第2のデルタシグマ変調器と、差分回路とを含み、前記差分回路で前記第2のデルタシグマ変調器の出力と前記ウォブル信号をデルタシグマ変調するデルタシグマ変調器の出力との1ビット同士の差分演算を行い、更に、前記差分回路の出力を前記ローパスフィルタに通過させた後、そのフィルタ出力の全波整流を行う全波整流器を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−123616(P2008−123616A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306646(P2006−306646)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】