説明

光データ記憶媒体へのデータ記録方法及び光データ記憶媒体

【課題】書込工程時に他のデータ層に影響を与えずにホログラフィック記憶媒体にデータを記録する方法を提供する。
【解決手段】(i)(a)熱可塑性ポリマーマトリックス、(b)潜酸発生剤、(c)非線形増感剤及び(d)潜発色団を含む反応体を含有する光データ記憶媒体を形成する。(ii)非線形増感剤から潜酸発生剤への上方三重項エネルギー移動を引き起こすのに十分な波長及び強度を有する入射光を含む干渉パターンで光データ記憶媒体のボクセルを照射し、それにより酸を発生させる。但し、潜酸発生剤は入射光に対して実質的に非応答性である。(iii)少なくとも1つの保護された発色団を発生した酸と反応させて少なくとも1つの発色団を形成し、それによりボクセル内部で屈折率変化を引き起こし、(iv)干渉パターンに対応する屈折率変動を照射ボクセル内部で生じさせ、それにより光学的に読取可能なデータを作り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光データ記憶媒体にデータを記録する方法に関する。特に、本発明は、ホログラフィック記憶媒体にマイクロホログラフィックデータを記録する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィック記憶はデータをホログラムとして示す光データ記憶である。ホログラムは、2つの光ビームの交わりによって感光性媒体に作り出される3次元の干渉パターン(縞)のイメージである。具体的には、参照ビームとデジタルコード化したデータを含むシグナルビームの重ね合わせにより、媒体の体積内部で3D干渉パターンを形成し、その結果感光性媒体の屈折率を変化又は変調させる化学反応が起こる(記録又は書込工程)。この変調が、上記シグナルからの強度と位相情報の両方をホログラムとして記録する。参照ビームのみを記憶媒体に当てることにより、後でホログラムを再生することができる。即ち、参照ビームが記憶されたホログラフィックデータと相互作用し、ホログラフィックイメージを記憶するのに用いた最初のシグナルビームに比例する復元シグナルビームを発生する(読出工程)。
【0003】
ホログラフィックデータ記憶の最近の研究は、データ記録のためのビット単位のアプローチに注目している。このアプローチでは、情報の各ビット(又は数ビット)を表すホログラムを媒体内部の微小体積に局在化して、読出光を反射する領域を形成する。このような局在化された体積ホログラフィックマイクロリフレクタを媒体の全体積にわたる多数のデータ層に配列することができる。ビット単位データ記憶アプローチに対応できる材料が強く求められている。これは、このような材料に対する読出や書込に使用する装置が、現在市販されているか、既に市販されている読出及び書込用装置を変更することで容易に用意できるからである。
【0004】
しかし、ビット単位のホログラフィックデータを記憶する従来法は、線形感光性材料又は入射光の出力密度(強度)とは無関係に光化学変化を受けやすい材料を用いる。これらの線形材料はまた、書込及び読出条件の両方で光化学変化を受けやすい。さらに、ビット単位のアプローチでは、層中のデータの読出や記録が、隣接層を記録/読出光にさらすことになるのをさけられない。したがって、線形材料を用いたビット単位のホログラフィック媒体を記録/読出する従来法は、記録/読出時に媒体の意図しない消去又はデータ損失につながるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7771915号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、書込工程時に他のデータ層に影響を与えずにホログラフィック記憶媒体にデータを記録する方法が必要である。さらに、ホログラフィックデータを記録するビット単位のアプローチには、記録したデータに読出工程が悪影響を与えないように独立した書込及び読出条件が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様では、光データ記憶媒体にホログラフィックデータを記録する方法を提供する。本方法では、(i)(a)熱可塑性ポリマーマトリックス、(b)潜酸発生剤、(c)非線形増感剤及び(d)潜発色団を含む反応体を含有する光データ記憶媒体を形成する。本方法ではさらに、(ii)非線形増感剤から潜酸発生剤への上方三重項エネルギー移動を引き起こすのに十分な波長及び強度を有する入射光を含む干渉パターンで光データ記憶媒体のボクセルを照射し、それにより酸を発生させる。但し、潜酸発生剤は入射光に対して実質的に非応答性である。本方法ではさらに、(iii)少なくとも1つの保護された発色団を発生した酸と反応させて少なくとも1つの発色団を形成し、それによりボクセル内部で屈折率変化を引き起こし、(iv)干渉パターンに対応する屈折率変動を照射ボクセル内部で生じさせ、それにより光学的に読取可能なデータを作り出す。
【0008】
本発明の別の態様では、光データ記憶媒体にホログラフィックデータを記録する方法を提供する。本方法では、(i)(a)熱可塑性ポリマーマトリックス、(b)潜酸発生剤、(c)非線形増感剤及び(d)保護されたベンゾフェノンを含む反応体を含有する光データ記憶媒体を形成する。本方法ではさらに、(ii)非線形増感剤から潜酸発生剤への上方三重項エネルギー移動を引き起こすのに十分な波長及び強度を有する入射光を含む干渉パターンで光データ記憶媒体のボクセルを照射し、それにより酸を発生させる。但し、潜酸発生剤は入射光に対して実質的に非応答性である。本方法ではさらに、(iii)複数の保護ベンゾフェノンを発生した酸と反応させて複数のヒドロキシベンゾフェノンを形成し、それによりボクセル内部で屈折率変化を引き起こし、(iv)干渉パターンに対応する屈折率変動を照射ボクセル内部で生じさせ、それにより光学的に読取可能なデータを作り出す。
【0009】
本発明の他の態様では、光データ記憶媒体を提供する。光データ記憶媒体は、(a)熱可塑性ポリマーマトリックス、(b)上方三重項励起を引き起こすのに十分な波長と強度を有する入射光を吸収することができる非線形増感剤、(b)非線形増感剤からの三重項励起時に酸を発生することができ、入射光に対して実質的に非応答性である潜酸発生剤及び(d)潜発色団を含む反応体を含有する。少なくとも1つの潜発色団が発生した酸と反応することにより少なくとも1つの発色団を形成し、それにより光データ記憶媒体中で屈折率変化を引き起こすことができる。ある実施形態では、複数の潜発色団が発生した酸毎に複数の発色団を形成することができる。
【0010】
本発明のその他の実施形態、態様、特徴及び効果は、以下の詳細な説明、添付の図面及び特許請求の範囲から当業者には明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点は、添付図面を参照にして以下の詳細な説明を読むことで、一層明らかになるであろう。図面全体を通して同じ参照番号は同じ部品を表す。
【図1A】化学線に対する線形増感剤の応答を示すグラフである。
【図1B】化学線に対する非線形増感剤の応答を示すグラフである。
【図2】光記憶媒体の断面図であり、媒体が線形増感剤を含有する場合の化学線の影響領域及び媒体が非線形増感剤を含有する場合の化学線の影響領域を示す。
【図3】逆可飽和吸収を示す非線形増感剤の上方三重項Tn励起状態吸収及びそれから生じるエネルギー移動を示すエネルギー準位図である。
【図4】本発明の一実施形態のPE1増感剤の合成スキームである。
【図5】本発明の一実施形態のt−BOCポリマーの合成スキームである。
【図6】本発明の一実施形態のMOMポリマーの合成スキームである。
【図7】本発明の一実施形態の試料に記録した代表的な配列のホログラムの読出スキャンである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に詳細に説明するように、本発明の実施形態は、ビット単位のアプローチを用いて光データ記憶媒体にホログラフィックデータを記録するのに適した方法を含む。
【0013】
光データ記憶媒体は、熱可塑性ポリマーマトリックス、非線形増感剤、潜酸発生剤及び潜発色団を含有する。非線形増感剤は、入射光が閾値より高い強度をもつときにだけ三重項エネルギーを潜酸発生剤に移動し、その後に酸を発生させることができる。発生した酸が、潜発色団と反応し、発色団を形成し、その結果媒体内部での屈折率変化をもたらす。しかし、潜酸発生剤及び潜発色団それぞれは、入射光に対して非応答性であり、強度が閾値未満の場合、非線形増感剤は非応答性である。したがって、媒体は、望ましいことに、入射光に対して非線形応答性である、換言すれば、閾値未満の強度をもつ入射光では屈折率に変化を起こさずに、閾値より上では屈折率に顕著な変化を起こす。
【0014】
このような媒体への記録は閾値を超える強度をもつ入射光でのみ可能であり、記録後のデータは閾値より低強度の光で繰り返しかつ実質的に非破壊的に読出すことができるので有利である。さらに、本方法は、多層にホログラフィックデータを、他の層に記録したデータに悪影響を与えずにビット単位方式で記録することができるので有利である。
【0015】
さらに、本発明の実施形態は、ホログラフィックデータを化学増幅によってビット単位方式で記録する方法を含む。本発明のある実施形態によれば、発生した酸毎に、複数の潜発色団が発色団に転化して媒体に一層大きな屈折率変化をもたらす。したがって、本方法は、少ない光子、即ち低い出力密度を用いながらも1以上の量子効率(QE)を可能にするので有利である。
【0016】
本明細書及び特許請求の範囲全体を通して用いた近似的な表示は、それが関与する基本機能に変化をもたらすことなく変動することが許される量的表現を修飾するのに適用することがある。したがって、「約」のような用語で修飾された値は、特定された正確な値に限定されない。いくつかの例では、近似的な表示はその値を測定する計器の精度に対応する。
【0017】
本明細書及び特許請求の範囲において、単数表現は、文脈上明らかにそうでない場合以外は、複数も含む。
【0018】
ここで定義する用語「光学的に透明」は、光学的に透明な基体又は光学的に透明な材料に適用したとき、該基体又は材料が1未満の吸光度をもつことを意味する。換言すれば、約300nm〜約1500nmの範囲の少なくとも1つの波長で入射光の10%以上が材料を透過する。例えば、ホログラフィックデータ記憶媒体に用いるのに適当な厚さの膜として構成された場合、該膜が約300nm〜約1500nmの範囲の少なくとも1つの波長で1未満の吸光度を示す。
【0019】
ここで用いる用語「ボクセル」(volume element)は全体積の3次元構成部分を意味する。
【0020】
ここで用いる用語「光学的に読取可能データ」は、ホログラフィックデータ記憶媒体の1つ又は2つ以上のボクセル内部にホログラムパターンとして記憶したデータをいう。
【0021】
ここで用いる用語「回折効率」は、ホログラム位置で入射プローブビーム出力に対して測定した、ホログラムにより反射されたビーム出力の割合を意味し、一方、用語「量子効率」は吸収された光子が化学変化をもたらし屈折率変化を起こす確率を意味する。
【0022】
ここで用いる用語「フルエンス」(fluence)はビーム断面の単位面積を通過した光ビームエネルギーの量を意味し(例えば、J/cm2単位で測定される)、一方、用語「強度」(intensity)は光の放射フラックス密度、例えば単位時間にビーム断面の単位面積を通過するエネルギーの量を意味する(例えば、W/cm2単位で測定される)。
【0023】
ここで用いる用語「感度」は、レーザー光で膜のスポットを照射するのに用いたフルエンス量に対して得られた屈折率変化の量と定義する。フルエンス(F)値及び屈折率変化量がわかる場合、次式を用いて、エネルギー移動過程の感度(S)を推定できる。
【0024】
感度=Δn/F
式中、Δn=転化%xΔn(max)、Δn(max)は屈折率変化材料の最大能力である。F=実際のフルエンス
ここで用いる用語「芳香族基」は、少なくとも1つの芳香族部分を有する原子価1以上の原子の配列を示す。少なくとも1つの芳香族部分を有する原子価1以上の原子の配列は、窒素、硫黄、セレン、ケイ素、酸素などのヘテロ原子を含んでも、或いは炭素及び水素のみから構成されてもよい。ここで用いる用語「芳香族基」は、フェニル、ピリジル、フラニル、チエニル、ナフチル、フェニレン及びビフェニル基を含むが、これらに限らない。上記の通り、芳香族基は少なくとも1つの芳香族部分を有する。芳香族部分は常に、(4n+2)つの「非局在化」電子を有する環状構造であり、ここでnは1以上の整数であり、具体的にはフェニル基(n=1)、チエニル基(n=1)、フラニル基(n=1)、ナフチル基(n=2)、アズレニル基(n=2)、アントラセニル基(n=3)などがある。芳香族基は非芳香族成分を含有してもよい。例えば、ベンジル基はフェニル環(芳香族部分)とメチレン基(非芳香族成分)とを含む芳香族基である。同様に、テトラヒドロナフチル基は、芳香族部分(C63)が非芳香族成分−(CH24−に縮合した芳香族基である。記述の便宜上、用語「芳香族基」はここでは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、ハロ芳香族基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステル、アミドなどのカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広い範囲の官能基の導入を包含すると定義する。例えば、4−メチルフェニル基は、メチル基を有するC7芳香族基であり、ここでメチル基はアルキル基である官能基である。同様に、2−ニトロフェニル基は、ニトロ基を有するC6芳香族基であり、ここでニトロ基は官能基である。芳香族基はハロゲン化芳香族基を含み、例えば、4−トリフルオロメチルフェニル、ヘキサフルオロイソプロピリデンビス(4−フェニ−1−イルオキシ)(即ち、−OPhC(CF32PhO−)、4−クロロメチルフェニ−1−イル、3−トリフルオロビニル−2−チエニル、3−トリクロロメチルフェニ−1−イル(即ち、3−CCl3Ph−)、4−(3−ブロモプロピ−1−イル)フェニ−1−イル(即ち、4−BrCH2CH2CH2Ph−)などがある。芳香族基の別の例には、4−アリルオキシフェニ−1−オキシ、4−アミノフェニ−1−イル(即ち、4−H2NPh−)、3−アミノカルボニルフェニ−1−イル(即ち、NH2COPh−)、4−ベンゾイルフェニ−1−イル、ジシアノメチリデンビス(4−フェニ−1−イルオキシ)(即ち、−OPhC(CN)2PhO−)、3−メチルフェニ−1−イル、メチレンビス(4−フェニ−1−イルオキシ)(即ち、−OPhCH2PhO−)、2−エチルフェニ−1−イル、フェニルエテニル、3−ホルミル−2−チエニル、2−ヘキシル−5−フラニル、ヘキサメチレン−1,6−ビス(4−フェニ−1−イルオキシ)(即ち、−OPh(CH26PhO−)、4−ヒドロキシメチルフェニ−1−イル(即ち、4−HOCH2Ph−)、4−メルカプトメチルフェニ−1−イル(即ち、4−HSCH2Ph−)、4−メチルチオフェニ−1−イル(即ち、4−CH3SPh−)、3−メトキシフェニ−1−イル、2−メトキシカルボニルフェニ−1−イルオキシ(例えば、メチルサリチル)、2−ニトロメチルフェニ−1−イル(即ち、2−NO2CH2Ph)、3−トリメチルシリルフェニ−1−イル、4−t−ブチルジメチルシリルフェニ−1−イル、4−ビニルフェニ−1−イル、ビニリデンビス(フェニル)などがある。用語「C3−C10芳香族基」は炭素原子数3個以上10個以下の芳香族基を含む。芳香族基1−イミダゾリル(C322−)は、C3芳香族基の1例である。ベンジル基(C77−)はC7芳香族基の1例である。
【0025】
ここで用いる用語「脂環式基」は、環状であるが、芳香族ではない、原子の配列を含む、原子価1以上の基を示す。ここで定義する用語「脂環式基」は芳香族基を含まない。「脂環式基」は1つ又は2つ以上の非環状成分を含有してもよい。例えば、シクロヘキシルメチル基(C611CH2−)は、シクロヘキシル環(環状であるが、芳香族ではない、原子の配列)とメチレン基(非環状成分)からなる脂環式基である。脂環式基は、窒素、硫黄、セレン、ケイ素、酸素などのヘテロ原子を含んでも、或いは炭素と水素のみから構成されてもよい。記述の便宜上、用語「脂環式基」はここでは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステル、アミドなどのカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広い範囲の官能基の導入を包含すると定義する。例えば、4−メチルシクロペンタ−1−イル基は、メチル基を有するC6脂環式基であり、ここでメチル基はアルキル基である官能基である。同様に、2−ニトロシクロブタ−1−イル基は、ニトロ基を有するC4脂環式基であり、ここでニトロ基は官能基である。脂環式基は1個又は2個以上のハロゲン原子を有してもよく、その場合ハロゲン原子は同じでも異なってもよい。ハロゲン原子には、例えばフッ素、塩素、臭素及びヨウ素がある。1個又は2個以上のハロゲン原子を有する脂環式基には、2−トリフルオロメチルシクロヘキサ−1−イル、4−ブロモジフルオロメチルシクロオクタ−1−イル、2−クロロジフルオロメチルシクロヘキサ−1−イル、ヘキサフルオロイソプロピリデン−2,2−ビス(シクロヘキサ−4−イル)(即ち、−C610C(CF32610−)、2−クロロメチルシクロヘキサ−1−イル、3−ジフルオロメチレンシクロヘキサ−1−イル、4−トリクロロメチルシクロヘキサ−1−イルオキシ、4−ブロモジクロロメチルシクロヘキサ−1−イルチオ、2−ブロモエチルシクロペンタ−1−イル、2−ブロモプロピルシクロヘキサ−1−イルオキシ(例えば、CH3CHBrCH2610O−)などがある。脂環式基の他の例には、4−アリルオキシシクロヘキサ−1−イル、4−アミノシクロヘキサ−1−イル(即ち、H2NC610−)、4−アミノカルボニルシクロペンタ−1−イル(即ち、NH2COC58−)、4−アセチルオキシシクロヘキサ−1−イル、2,2−ジシアノイソプロピリデンビス(シクロヘキサ−4−イルオキシ)(即ち、−OC610C(CN)2610O−)、3−メチルシクロヘキサ−1−イル、メチレンビス(シクロヘキサ−4−イルオキシ)(即ち、−OC610CH2610O−)、1−エチルシクロブタ−1−イル、シクロプロピルエテニル、3−ホルミル−2−テトラヒドロフラニル、2−ヘキシル−5−テトラヒドロフラニル、ヘキサメチレン−1,6−ビス(シクロヘキサ−4−イルオキシ)(即ち、−OC610(CH26610O−)、4−ヒドロキシメチルシクロヘキサ−1−イル(即ち、4−HOCH2610−)、4−メルカプトメチルシクロヘキサ−1−イル(即ち、4−HSCH2610−)、4−メチルチオシクロヘキサ−1−イル(即ち、4−CH3SC610−)、4−メトキシシクロヘキサ−1−イル、2−メトキシカルボニルシクロヘキサ−1−イルオキシ(即ち、2−CH3OCOC610O−)、4−ニトロメチルシクロヘキサ−1−イル(即ち、NO2CH2610−)、3−トリメチルシリルシクロヘキサ−1−イル、2−t−ブチルジメチルシリルシクロペンタ−1−イル、4−トリメトキシシリルエチルシクロヘキサ−1−イル(例えば、(CH3O)3SiCH2CH2610−)、4−ビニルシクロヘキセン−1−イル、ビニリデンビス(シクロヘキシル)などがある。用語「C3−C10脂環式基」は、炭素原子数3個以上10個以下の脂環式基を含む。脂環式基2−テトラヒドロフラニル(C47O−)はC4脂環式基の1例である。シクロヘキシルメチル基(C611CH2−)はC7脂環式基の1例である。
【0026】
ここで用いる用語「脂肪族基」は、環状でない原子の直鎖状もしくは枝分れ配列からなる、原子価1以上の有機基を示す。脂肪族基は1個以上の炭素原子を有すると定義される。脂肪族基を構成する原子の配列は、窒素、硫黄、ケイ素、セレン、酸素などのヘテロ原子を含んでも、或いは炭素と水素のみから構成されてもよい。記述の便宜上、用語「脂肪族基」は、「環状でない原子の直鎖状もしくは枝分れ配列」の一部として、広い範囲の官能基、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステル、アミドなどのカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などのを包含すると定義する。例えば、4−メチルペンタ−1−イル基は、メチル基を有するC6脂肪族基であり、ここでメチル基はアルキル基である官能基である。同様に、4−ニトロブタ−1−イル基は、ニトロ基を有するC4脂肪族基であり、ここでニトロ基は官能基である。脂肪族基は1個又は2個以上のハロゲン原子を有するハロアルキル基でもよく、その場合ハロゲン原子は同じでも異なってもよい。ハロゲン原子には、例えばフッ素、塩素、臭素及びヨウ素がある。1個又は2個以上のハロゲン原子を有する脂肪族基には、アルキルハライド、具体的にはトリフルオロメチル、ブロモジフルオロメチル、クロロジフルオロメチル、ヘキサフルオロイソプロピリデン、クロロメチル、ジフルオロビニリデン、トリクロロメチル、ブロモジクロロメチル、ブロモエチル、2−ブロモトリメチレン(即ち、−CH2CHBrCH2−)などがある。脂肪族基の他の例には、アリル、アミノカルボニル(即ち、−CONH2)、カルボニル、2,2−ジシアノイソプロピリデン(即ち、−CH2C(CN)2CH2−)、メチル(即ち、−CH3)、メチレン(即ち、−CH2−)、エチル、エチレン、ホルミル(即ち、−CHO)、ヘキシル、ヘキサメチレン、ヒドロキシメチル(即ち、−CH2OH)、メルカプトメチル(即ち、−CH2SH)、メチルチオ(即ち、−SCH3)、メチルチオメチル(即ち、−CH2SCH3)、メトキシ、メトキシカルボニル(即ち、CH3OCO−)、ニトロメチル(即ち、−CH2NO2)、チオカルボニル、トリメチルシリル(即ち、(CH33Si−)、t−ブチルジメチルシリル、3−トリメトキシシリルプロピル(即ち、(CH3O)3SiCH2CH2CH2−)、ビニル、ビニリデンなどがある。さらに例示すると、C1−C10脂肪族基は1個以上10個以下の炭素原子を含む。メチル基(即ち、CH3−)はC1脂肪族基の1例である。デシル基(即ち、CH3(CH29−)はC10脂肪族基の1例である。
【0027】
上述したように、ホログラフィックデータを光データ記憶媒体に記録する方法を提供する。本方法では、(a)熱可塑性ポリマーマトリックス、(b)潜酸発生剤、(c)非線形増感剤及び(d)潜発色団を含む反応体を含有する光データ記憶媒体を形成する。
【0028】
ここで用いる用語「非線形増感剤」は光強度に依存した感度をもつ材料をいう、換言すれば、感度は、高(記録)強度で高く、低(読出)強度で低い。例えば、読出強度が書込強度の約1/20〜約1/50である場合、感度(材料が耐える必要がある読出寿命及び/又は読出サイクルの回数についての特定の想定に基づく)は初期感度の約1/104〜約1/105以下にできる。強度及び感度における差は材料が示す必要がある非線形性の大きさとなる。用語「非線形増感剤」及び「増感剤」は本明細書では同義である。
【0029】
これをさらに図1A及び1Bに示す。図1Aは入射光に対する線形感光性材料の応答を示し、一方、図1Bは入射光に対する非線形増感剤の応答を示す。図1Aに示すように、線形感光性材料は、どのような出力密度(強度)の記録光でも反応を起こし、材料が受け取る放射エネルギー(フルエンス)が同じ場合、材料に生じる屈折率変化の量(Δn)は同じである。対照的に、非線形増感剤は、特定の光強度以上の記録光でのみ反応を起こす。
【0030】
上述したように、非線形増感剤は、入射光を、例えば1つ又は2つ以上の光子の形態で吸収し、その後エネルギーを潜酸発生剤に移動して酸を発生させることができる。ある実施形態では、非線形増感剤は2つの光子を、通常逐次的に吸収することができる。さらに、ある実施形態では、本発明の増感剤は、吸収したエネルギーを潜酸発生剤に移動したら、元の状態に戻り、このプロセスを何度も繰り返すことができる。したがって、増感剤は実質的に時間とともに消費されることはないが、エネルギーを吸収し、1つ又は2つ以上の潜酸発生剤にエネルギーを放出する能力が時間とともに低下することがある。これは、感光性材料として従来知られる材料とは異なっている。感光性材料は、エネルギー(通常、単一の光子)を吸収でき、別の分子にそのエネルギーを移動することはできないが、新しい構造に転化したり、別の分子と反応して、その際に新しい化合物を形成したりする。
【0031】
一実施形態では、非線形増感剤には、逆可飽和吸収体(RSA=reverse saturable absorber)がある。ここで用いる用語「逆可飽和吸収体」又は「RSA」は、所定の波長で極めて小さい線形吸収を示し、この波長の光をほとんどすべて透過する化合物をいう。しかし、これらの所定の波長の高強度の光の照射を受けると、この低いレベルの線形吸収は分子がより高い吸収断面積をもち、同一波長で高吸収性である状態に変わり、化合物が次の光子を強く吸収するようになる。この非線形吸収をしばしば逐次的2光子吸収という。
【0032】
非線形増感剤の適当な例には、約532nmの波長をもつ入射光で照射すると光励起するRSAがある。この波長は可視スペクトルの緑色領域にあるので、通常これらのRSAを「緑色」RSAという。非線形増感剤の別の適当な例には、約405nmの波長をもつ入射光で照射すると光励起するRSA、即ち「青色」RSAがある。
【0033】
一実施形態では、非線形増感剤は、約300nm〜約532nmの範囲の波長の入射光を吸収できる逆可飽和吸収体である。特定の実施形態では、非線形増感剤は、約360nm〜約500nmの範囲の波長の入射光を吸収できる逆可飽和吸収体である。特定の実施形態では、非線形増感剤は本質的に、約405nmの波長の入射光を吸収して潜酸発生剤への上方三重項−三重項エネルギー移動を起こすことができる逆可飽和吸収体である。一実施形態では、非線形増感剤は、405nmで逆可飽和吸収体特性を示すことができ、このため媒体の記憶容量が最適になり、しかも媒体は現行の記憶フォーマット、例えばブルーレイなどと互換性もある。
【0034】
上述したように、本発明の光記憶媒体に用いるのに適当な非線形増感剤は、入射光の強度が閾値を超えた場合のみ上記の波長範囲の入射光を吸収することができる。一実施形態では、非線形増感剤が屈折率連鎖反応を開始できる閾値は約20MW/cm2〜約300MW/cm2の範囲である。一実施形態では、非線形増感剤が屈折率連鎖反応を開始できる閾値は約50MW/cm2〜約300MW/cm2の範囲である。
【0035】
さらに、非線形増感剤は、強度が実質的に閾値未満である場合、上記の波長範囲の入射光に対して実質的に非応答性である。一実施形態では、非線形増感剤が実質的に非反応性である閾値は約5MW/cm2〜約50MW/cm2の範囲である。一実施形態では、非線形増感剤が実質的に非反応性である閾値は約5MW/cm2〜約20MW/cm2の範囲である。
【0036】
本方法の一実施形態では、約300nm〜約532nmの範囲の波長で吸光度又は吸光係数が小さい非線形増感剤を選択する。本方法の一実施形態では、約360nm〜約500nmの範囲の波長で吸光係数が約200cm-1-1未満である非線形増感剤を選択する。本方法の一実施形態では、約405nmの波長で吸光係数が約200cm-1-1未満である非線形増感剤を選択する。本方法の一実施形態では、約405nmの波長で低い基底状態吸収及び非常に高い励起状態吸収(RSA特性)をもつ非線形増感剤を選択する。
【0037】
ある実施形態では、非線形増感剤は白金エチニル錯体である。ある実施形態では、非線形増感剤はtrans−白金エチニル錯体である。一実施形態では、非線形増感剤には、ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニルビフェニル)白金(略号、PPE)、ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニル−1−(2−フェニルエチニル)ベンゼン)白金(略号、PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−n−ブチルフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号、n−Bu−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−フルオロフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号、F−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−メトキシフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号、MeO−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−メチルフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号、Me−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(3,5−ジメトキシフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号、3,5−diMeO−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号、DMA−PE2)又はこれらの組合せがある。
【0038】
ある実施形態では、非線形増感剤には、ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニル−1−メトキシベンゼン)白金(略号、PE1−OMe)、ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニル−1−フルオロベンゼン)白金(略号、PE1−F)、ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニル−1−メチルベンゼン)白金(略号、PE1−Me)、ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニル−2,5−メトキシベンゼン)白金(略号、PE1−(OMe)2)又はこれらの組合せがある。上記の非線形増感剤又は逆可飽和吸収分子は例示であり、多種多様の逆可飽和吸収分子又は非線形吸収を示す他の分子を本発明の光データ記憶媒体に用いることができる。
【0039】
ここで用いる用語「潜酸発生剤」は、刺激を受けると酸又はプロトンを発生できる材料をいう。一実施形態では、潜酸発生剤は、非線形増感剤から潜酸発生剤へ三重項エネルギーが移動すると酸を発生できる。実施形態によっては、潜酸発生剤は、非線形増感剤から三重項エネルギーが移動したときだけ酸を発生でき、それ以外の状態では上記入射光に対して実質的に非応答性である。ここで用いる用語「非応答性」は、潜酸発生剤が入射光に実質的に透明である、即ち記録又は書込工程時に光記憶媒体に照射された入射光を吸収しないことを意味する。したがって、ある実施形態の潜酸発生剤は、入射光に対して実質的に非応答性であり、非線形増感剤が存在しない場合酸を発生しない。これは、照射されると直ちに酸を発生できる「光酸発生剤」を用いるフォトレジスト系とは対照的である。
【0040】
図3に、エネルギー準位図300を示す。エネルギー準位図300は、逆可飽和吸収を示す増感剤の上方三重項Tn励起状態吸収及びそれから生じるエネルギー移動を示す。本発明の光データ記憶媒体に使用する潜酸発生剤は矢印307で示す三重項エネルギーをもち、これは矢印308で示す増感剤のT2状態のエネルギーより下、かつ矢印309で示す増感剤のT1状態のエネルギーより上にある。また、潜酸発生剤は、増感剤の上方三重項状態(T2又はさらに上位)からエネルギーを受け取り、反応して酸を発生することができ、酸は潜発色団と反応して発色団を形成し、ポリマーマトリックス内部での屈折率変化をもたらし、その結果記録されたホログラムを与える。
【0041】
本方法の一実施形態では、増感剤からの三重項励起で酸を発生することができ、書込工程時に用いる入射光に対して実質的に非応答性である潜酸発生剤を選択する。本方法の一実施形態では、増感剤のT2状態のエネルギーより下、かつ増感剤のT1状態のエネルギーより上にある三重項エネルギーをもつ潜酸発生剤を選択する。
【0042】
さらに、本方法の一実施形態では、約300nm〜約532nmの範囲の波長で吸光度又は吸光係数が小さい潜酸発生剤を選択する。本発明の特定の実施形態では、約360nm〜約500nmの範囲の波長で吸光度又は吸光係数が小さい潜酸発生剤を選択する。本発明の特定の実施形態では、約405nmの波長で吸光度又は吸光係数が小さい潜酸発生剤を選択する。
【0043】
一実施形態では、潜酸発生剤は、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホネート、トリフラート及びこれらの組合せから選択される。適当な潜酸発生剤の例としては、(4−ブロモフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフラート、(4−クロロフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフラート、(4−フルオロフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフラート、(4−ヨードフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフラート、(4−メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフラート、(4−メチルフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフラート、(4−メチルチオフェニル)メチルフェニルスルホニウムトリフラート、(4−フェノキシフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフラート、(4−フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフラート、(4−tert−ブチルフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフラート、(tert−ブトキシカルボニルメトキシナフチル)ジフェニルスルホニウムトリフラート、Boc−メトキシフェニルジフェニルスルホニウムトリフラート、トリフェニルスルホニウムトリフラート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムp−トルエンスルホネート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムペルフルオロ−1−ブタンスルホネート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフラート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムナイトレート、ジフェニルヨードニウムp−トルエンスルホネート、ジフェニルヨードニウムペルフルオロ−1−ブタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムトリフラート、2−(4−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、N−ヒドロキシナフタルイミドトリフラート、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミドペルフルオロ−1−ブタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムペルフルオロ−1−ブタンスルホネート、トリス(4−tert−ブチルフェニル)スルホニウムペルフルオロ−1−ブタンスルホネート、トリス(4−tert−ブチルフェニル)スルホニウムトリフラート、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート及びこれらの組合せがあげられるが、これらに限らない。
【0044】
ここで用いる用語「反応体」は、化学変化して媒体内部で屈折率変化の変調をもたらす「生成物」を形成することができる材料をいう。一実施形態では、反応体は潜発色団を含む。ここで用いる用語「潜発色団」は、刺激に応答して発色団を発生することができる物質をいう。さらに、用語「潜発色団」は、潜発色団とは異なる吸収又は光学特性をもつ発色団を発生することができる物質をいう。したがって、ホログラフの記録又は書込工程時に、発色団の発生が、反応体(潜発色団)及び生成物(発色団)の濃度に局所的な変動をもたらし、それに応じて屈折率の局在的な変調を引き起こす。
【0045】
これは、屈折率の変調が光データ記憶媒体の寸法の変化をもたらすモノマーの重合に影響を受ける、フォトポリマーを用いた光データ記憶媒体の記録とは対照的である。さらに、これは、反応体を酸の存在下で可溶/不溶にするが屈折率は変調しないフォトレジスト系とも対照的である。
【0046】
一実施形態では、潜発色団が記録/書込工程時に入射光に対して実質的に非応答性である。さらに、ある実施形態では、潜発色団は、間接的に、例えば、酸と接触した場合だけ、発色団を発生することができ、入射光に直接曝露されても発色団を発生しない。したがって、潜発色団は、非線形増感剤又は潜酸発生剤が存在しない場合、入射光に対して実質的に非応答性である。
【0047】
一実施形態では、潜発色団は、保護発色団である。ここで用いる用語「保護発色団」は保護基で置換された発色団分子をいう。ここで用いる用語「保護基」は、潜発色団分子上のヒドロキシル、窒素又は他のヘテロ原子に結合すると、この基で望ましくない反応が起こるのを防止し、酸触媒による脱保護で除去されて「無保護」のヒドロキシル、窒素又は他のヘテロ原子基を発生することができる任意の基をいう。ある実施形態では、保護基は、tert−ブチルオキシカルボニル(t−BOC)などのエステル又はメトキシメチルエーテル(MOM)基などのアセタール及びケタールである。一実施形態では、潜発色団は、酸不安定基或いは酸又はプロトンの作用で切断されやすい基を有する。
【0048】
一実施形態では、潜発色団は保護ベンゾフェノンを含む。ここで用いる用語「保護ベンゾフェノン」は、保護基で置換されたベンゾフェノン分子をいう。一実施形態では、潜発色団は、酸不安定基或いは酸又はプロトンの作用で切断されやすい基で置換されたベンゾフェノン分子を含む。一実施形態では、潜発色団が形成する発色団はヒドロキシベンゾフェノンを含む。
【0049】
一実施形態では、潜発色団が構造式(I)で表される部分を含む。
【0050】
【化1】

式中、aは1〜5の整数であり、bは1〜4の整数であり、R1は保護基であり、R2及びR3は各々独立に水素、ハロゲン、C1−C20脂肪族基、C3−C20脂環式基又はC2−C30芳香族基であり、R4は水素又はOR1である。保護基は上記で定義されたとおりである。
【0051】
一実施形態では、潜発色団が構造式(II)〜(V)で表される部分を含む。
【0052】
【化2】

式中、aは1〜5の整数であり、bは1〜4の整数であり、R1は保護基であり、R2及びR3は各々独立に水素、ハロゲン、C1−C20脂肪族基、C3−C20脂環式基又はC2−C30芳香族基であり、R4は水素又はOR1である。保護基は上記で定義されたとおりである。
【0053】
ある実施形態では、反応体を熱可塑性ポリマーマトリックスに分散させる。ある実施形態では、潜発色団をポリマーマトリックスに実質的に均一に分散させることができる。別の実施形態では、反応体をポリマーマトリックスと結合する。ある実施形態では、反応体をポリマーマトリックスと共有結合又は会合することができる。例えば、ある実施形態では、保護ベンゾフェノンで官能化されたポリマーをポリマーマトリックスとして用いることができる。
【0054】
ある実施形態では、上述したように、潜発色団をポリマーマトリックスに化学結合することができる。このような場合、式(I)〜(V)で表される部分はさらに、ポリマーマトリックスに化学結合することができる官能基を有することができる。別の実施形態では、式(I)〜(V)で表される部分はさらに、重合反応して熱可塑性ポリマーマトリックスを形成することができる官能基(例えば、ビニル基)を有することができる。ある実施形態では、式(I)〜(V)のR2及びR3はさらに、熱可塑性マトリックスに結合することができるか、重合反応して熱可塑性ポリマーマトリックスを形成することができる官能基を有することができる。
【0055】
熱可塑性ポリマーマトリックスは直鎖状、枝分れ状又は架橋型のポリマー又はコポリマーを含むことができる。内部に増感剤及び反応体をほぼ均一に分散させることができるか、反応体が容易に結合することができればどのようなポリマーでも用いることができる。さらに、使用するポリマーは、上方三重項エネルギーの移動過程を実質的に妨害しないことが望ましい。ポリマーマトリックスは、光データ記憶媒体の記録及び読出に想定される波長で光学的に透明であるか、或いは少なくとも高い透明性を有するポリマーが望ましい。
【0056】
ポリマーマトリックスに使用するのに適当なポリマーの具体例としては、ポリ(アルキルメタクリレート)、例えばポリ(メチルメタクリレート)(略号、PMMA)、ポリビニルアルコール、ポリ(アルキルアクリレート)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びこれらの組合せがあるが、これらに限らない。上述したように、反応体をポリマーマトリックスと共有結合又は会合することもできる。例えば、ベンゾフェノン部分を含むポリアクリレートなどのポリマーは簡単に入手でき、或いはベンゾフェノン部分を含むようにポリマーを官能化することも容易である。
【0057】
上述したように、光記憶媒体内部の屈折率変化は、潜発色団からの発色団の形成に影響を受ける。これは、フォトポリマーを用いた光データ記憶媒体、即ちモノマーの光開始重合によって記録される媒体とは対照的である。したがって、データ記録に伴う寸法変化は、フォトポリマーを用いたデータ記録に伴う寸法変化より小さくすることができる。さらに、熱可塑性ポリマーマトリックスを用いた本発明の光データ記憶媒体は、安定、実質的に硬質の媒体を提供するので有利であり、これは、ゲル状のフォトポリマーを用いた媒体とは対照的である
本方法の一実施形態では、所望の成分を含有する光データ記憶媒体を製造又は入手することにより光データ記憶媒体を提供する。本方法の一実施形態では、光データ記憶媒体を製造することにより光データ記憶媒体を提供する。ある実施形態では、本発明の光データ記憶媒体は、所望の潜酸発生剤、増感剤、反応体及びポリマーマトリックスをブレンドすることにより製造することができる。反応体がポリマーマトリックスに結合した別の実施形態では、本発明の光データ記憶媒体は、所望の潜酸発生剤、増感剤及び反応体が結合したポリマーマトリックスをブレンドすることにより製造することができる。成分の割合は、広い範囲にわたり変化させることができ、当業者はブレンドの最適な割合及び方法を容易に決めることができる。
【0058】
本方法の一実施形態ではさらに、光データ記憶媒体を製造することができる。ある実施形態では、本製造方法は、熱可塑性ポリマーマトリックス、非線形増感剤、潜酸発生剤及び反応体を含有する組成物の膜、押出物又は射出成形部品を形成する工程を含む。本方法の一実施形態では、熱可塑性ポリマーマトリックス、非線形増感剤、潜酸発生剤及び反応体を含有する組成物を溶液流延、スピンコート、射出成形又は押出する。
【0059】
一実施形態では、潜酸発生剤は、光データ記憶媒体の約0.01重量%〜約15重量%の範囲の量で存在する。別の一実施形態では、潜酸発生剤は、光データ記憶媒体の約0.1重量%〜約10重量%の範囲の量で存在する。
【0060】
光データ記憶媒体に用いる非線形増感剤の量は、ホログラムを記録するのに用いる光の波長での光学密度に依存する。増感剤の溶解度も1つの要因となることがある。一実施形態では、非線形増感剤は光データ記憶媒体の約0.001重量%〜約15重量%の量で存在する。別の実施形態では、増感剤は光データ記憶媒体の約0.01重量%〜約10重量%の量で存在する。他の実施形態では、増感剤は光データ記憶媒体の約0.1重量%〜約10重量%の量で存在する。
【0061】
反応体は、比較的高濃度で存在して、ポリマーマトリックス内部での光学特性に大きな変化を生じ、かつ効率的な化学増幅を促進することができる。一実施形態では、反応体は、光データ記憶媒体の約5重量%〜約95重量%の範囲の量で光データ記憶媒体に存在する。別の実施形態では、反応体は、光データ記憶媒体の約10重量%〜約90重量%の範囲の量で光データ記憶媒体に存在する。他の実施形態では、反応体は、光データ記憶媒体の約20重量%〜約80重量%の範囲の量で光データ記憶媒体に存在する。
【0062】
一実施形態では、光データ記憶媒体はさらに、非線形増感剤から潜酸発生剤に三重項エネルギーを移動することができる媒介物を含有する。一実施形態では、媒介物の三重項状態(T1m)は、(a)増感剤の三重項状態(Tn;n>1)より下であり、かつ増感剤の三重項状態(T1)より上にあり、(b)潜酸発生剤の三重項状態(T1)より上にあり、即ち約55kcal/mol〜90kcal/molであることが望ましい。媒介物がポリマーマトリックス内部に分散している一実施形態では、媒介物はポリマーマトリックスに約1重量%〜約20重量%の範囲の量で存在することができる。
【0063】
適当な媒介物の例には、アセトフェノン(T1m≒78kcal/mol)、ジメチルフタレート(T1m≒73kcal/mol)、プロピオフェノン(T1m≒72.8kcal/mol)、イソブチロフェノン(T1m≒71.9kcal/mol)、シクロプロピルフェニルケトン(T1m≒71.7kcal/mol)、デオキシベンゾイン(T1m≒71.7kcal/mol)、カルバゾール(T1m≒69.76kcal/mol)、ジフェニレンオキシド(T1m≒69.76kcal/mol)、ジベンゾチオフェン(T1m≒69.5kcal/mol)、2−ジベンゾイルベンゼン(T1m≒68.57kcal/mol)、ベンゾフェノン(T1m≒68kcal/mol)、ポリビニルベンゾフェノン(T1m≒68kcal/mol)、1,4−ジアセチルベンゼン(T1m≒67.38kcal/mol)、9H−フルオレン(T1m≒67kcal/mol)、トリアセチルベンゼン(T1m≒65.7kcal/mol)、チオキサントン(T1m≒65.2kcal/mol)、ビフェニル(T1m≒65kcal/mol)、フェナントレン(T1m≒62kcal/mol)、フェナントレン(T1m≒61.9kcal/mol)、フラボン(T1m≒61.9kcal/mol)、1−ナフトニトリル(T1m≒57.2kcal/mol)、ポリ(ナフトイルスチレン)(T1m≒55.7kcal/mol)、フルオレノン(T1m≒55kcal/mol)及びこれらの組合せがあるが、これらに限らない。
【0064】
一実施形態では、光データ記憶媒体はさらに塩基を含有する。塩基は、潜酸発生剤の約0.1モル%〜約10モル%の範囲の量で光データ記憶媒体に存在する。理論に束縛されるものではないが、塩基は潜発色団の所望の脱保護後の酸を奪活し、媒体の寿命を延ばすと考えられる。
【0065】
本発明の光データ記憶媒体は、自立形態にすることができる。或いは、データ記憶媒体を支持材料、例えばポリメチルメタクリレート(略号、PMMA)、ポリカーボネート、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリスチレン又は酢酸セルロースに被覆することができる。支持材料を使用することが望ましい実施形態では無機支持材料、例えばガラス、石英又はケイ素を用いることもできる。
【0066】
このような実施形態では、支持材料の表面を処理して支持材料への光データ記憶媒体の密着性を向上することができる。例えば、支持材料の表面を光データ記憶媒体を設ける前にコロナ放電で処理することができる。また、アンダーコート、例えばハロゲン化フェノール又は部分的に加水分解された塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマーを支持材料に適用して支持材料への光データ記憶媒体の密着性を高めることができる。
【0067】
本方法ではさらに、非線形増感剤から潜酸発生剤への上方三重項エネルギー移動を引き起こすのに十分な波長及び強度を有する入射光を含む干渉パターンで光データ記憶媒体のボクセルを照射し、それにより酸を発生させる。
【0068】
本方法の一実施形態では、入射光の波長及び強度値を選択するにあたり、線形増感剤が、その波長範囲内で強度が閾値より低い場合、小さい吸収又は小さい吸光係数をもち、強度が閾値より高い場合大きい吸収をもつように波長及び強度値を選択する。本方法の一実施形態では、約300nm〜約532nmの範囲の波長をもつ入射光で媒体を照射する。本方法の一実施形態では、約300nm〜約532nmの範囲の波長をもつ入射光で媒体を照射する。本方法の特定の一実施形態では、約405nmの波長をもつ入射光で媒体を照射する。
【0069】
本方法の一実施形態では、閾値より高い強度をもつ入射光で光データ記憶媒体を照射する。用語「閾値」は、入射光のある強度、即ちその値より高い強度での非線形増感剤の吸収が、その値より低い(閾値未満)強度での吸収より大きくなる入射光の強度を示す。本方法の一実施形態では、周囲光より2桁以上大きい強度をもつ入射光で光データ記憶媒体を照射する。本方法の特定の実施形態では、約405nmの波長及び閾値より高い強度をもつ入射光で媒体を照射する。本方法の特定の実施形態では、約405nmの波長及び約50MW/cm2〜約300MW/cm2の範囲の強度をもつ入射光で媒体を照射する。
【0070】
上述したように、本方法では、非線形増感剤から潜酸発生剤への上方三重項エネルギー移動を引き起こす。ここで用いる用語「上方三重項エネルギー移動」は、非線形増感剤の上方三重項エネルギー状態(Tn)と潜酸発生剤のT1状態との間のエネルギーの非放射移動をいう。
【0071】
図3に、上方三重項エネルギー移動のこの工程をさらに示す。図3は、逆可飽和吸収を示す増感剤の上方三重項Tn励起状態吸収及びそれから生じるエネルギー移動を示すエネルギー準位図である。エネルギー準位図300に示すように、矢印301は、1光子が一重項基底状態S0から第1励起状態S1に遷移するときの光子の基底状態吸収断面積を示す。矢印302で示す項間交差(ISC=intersystem crossing)率は、増感剤が励起一重項状態S1から対応する三重項状態T1に移る場合に起こるエネルギー移動を表す。矢印303は励起三重項状態吸収断面積を示す。上方レベルの三重項状態Tnが、次の線形吸収により実現すると、可能な上方励起の減衰過程が2つある。1つの可能な減衰過程は、図3に矢印304で示され、下位のT1状態に内部転換(IC=internal conversion)することによる非放射緩和である。もう1つの可能な減衰過程は、図3に矢印305で示され、増感剤からエネルギーを放出し、三重項−三重項エネルギー移動により潜酸発生剤にこのエネルギーを移動することを伴う。本方法ではさらに、矢印306で示されるように、潜酸発生剤から酸又はプロトンを発生する。
【0072】
本方法ではさらに、少なくとも1つの潜発色団を発生した酸と反応させて少なくとも1つの発色団を形成する。上述したように、潜酸発生剤から発生した酸又はプロトンが酸不安定保護基をもつ発色団の酸を用いた脱保護の触媒になり、それにより発色団を形成する。潜発色団からの発色団の発生は発色団及び潜発色団の濃度の局所的な変調につながり、材料の吸光度のこの変化はボクセル内部で屈折率に変化を引き起こす。照射したボクセル内部での発色団のこの発生は干渉パターンに対応する屈折率変動を生じ、それにより光学的に読取可能なデータ又はホログラムを生じる。図3に示すように、反応体は、310で示す変化を起こしてホログラフィックグレーティング(格子)を形成し、そこにデータを記録する。本方法の一実施形態では、ホログラムを記録する。本方法の別の実施形態では、マイクロホログラムを記録する。
【0073】
本方法の一実施形態では、複数の潜発色団を発生した酸それぞれと反応させて複数の発色団を形成する。本方法の一実施形態では、複数の保護ベンゾフェノンを発生した酸それぞれと反応させて複数のヒドロキシベンゾフェノンを形成する。理論に束縛されるものではないが、潜発色団が酸を消費しないか、潜発色団が酸を再発生して隣接する分子の脱保護に酸を供給し、こうして発生した酸それぞれについて複数の脱保護が生じると考えられる。
【0074】
上述したように、酸又はプロトンは、非線形増感剤から潜酸発生剤への上方三重項エネルギー移動時に潜酸発生剤から発生する。ある実施形態では、発生したプロトンそれぞれについて、潜発色団の複数の脱保護が可能であり、複数の発色団の発生を引き起こす。したがって、ある実施形態では、本方法は、吸収した光子ごとに多くの新しい分子(発色団)が形成され、化学増幅を引き起こす連鎖反応を含む。したがって、記録ビームへの少ない曝露で屈折率の比較的大きな変化、即ち高い感度を得ることができる。さらに、本方法は、少ない光子、即ち出力密度を用いながらも1以上の量子効率(QE)を可能にするので有利である。
【0075】
一実施形態では、本方法は約5x10-4cm2/ジュール超えの感度値を実現できるので有利である。別の実施形態では、本方法は約1x10-3cm2/ジュール超えの感度値を実現できるので有利である。他の実施形態では、本方法は約2x10-3cm2/ジュール超えの感度値を実現できるので有利である。
【0076】
上述したように、本発明の方法は、光データ記憶媒体にマイクロホログラフィックデータのビット単位記録を可能にするので有利である。本発明の光データ記憶媒体に使用する非線形増感剤は、非常に短い寿命(ナノ秒から数マイクロ秒(μs))の上方三重項状態(Tn、但しn>1)から潜酸発生剤にエネルギーを移動することができる。エネルギーをTn状態から移動する能力は、本発明の光記憶媒体に非線形、即ち閾値特性を付与する。即ち、Tn励起状態吸収は、増感剤が高強度の光によって励起された場合だけに認められ、低エネルギー照射によって励起された場合は無視できるほど小さい。これにより、非線形増感剤を含有する本発明の光データ記憶媒体が、低強度の光、例えば、読出光又は周囲光にはほぼ透明で不活性のままで、高エネルギーの記録光、例えば、読出光より2桁以上大きい強度を有する光に応答してのみその特性(吸光度、したがって屈折率)を変化させることを可能にする。結果として、本発明の光データ記憶媒体は、マイクロホログラフィックデータのビット単位記録に望ましい非線形閾値挙動を示す。
【0077】
さらに、本方法は、多層にマイクロホログラフィックデータを記録でき、書込及び/又は読出工程時に他の層のデータに影響を与えることがないので有利である。これは、線形感光性材料を含有する媒体と対照的である。図2に示すように、線形感光性材料を含有する光データ記憶媒体200では、断面201で示すように非記録位置の体積、即ち入射光が透過するほとんどすべてのところでダイナミックレンジの消費が起こるおそれがある。対照的に、光データ記憶媒体200が非線形増感剤を含有する場合、非記録位置の体積におけるダイナミックレンジの消費を低減するかなくし、消費はほぼ目標体積、即ち入射光の集点202のみで起こることができる。したがって、本発明の光データ記憶媒体に非線形増感剤を使用すると、媒体のバルクに埋め込まれた層にビット単位のデータを記録することを容易にし、すでにデータが記録されているか次の記録に使用可能な空スペースである隣接層を破壊することはない。
【0078】
また、ぴったりフォーカスしたレーザービームの光強度は、焦点スポットの深さによって急激に変化し、通常、ビームウエスト(最も狭い断面積)で最大になるので、媒体の閾値応答は、当然材料転化をビームウエストのごく近傍のみで起こるように制限する。これにより、各層中のマイクロホログラムサイズが低減し、したがって本発明の媒体の層データ記憶容量の増加が促進され、結果として媒体の全体としてのデータ記憶容量も増加する。本発明のある実施形態の方法によって製造された光データ記憶媒体は、周囲光で実質的に安定であり、周囲光へ曝露されても媒体の実質的な劣化や損傷を起こさないという利点もある。
【0079】
ある実施形態では、本発明の方法は、高データ密度でマイクロホログラムを記録するのに適当な屈折率変化(Δn)、例えば、約0.005以上又は約0.05以上の屈折率変化を示す光データ記憶媒体を提供する。本発明の光データ記憶媒体によりこのような屈折率変化/回折効率を達成することができるので、本媒体は一枚のCD又は一枚のDVDに匹敵する寸法のディスクに約1TBの情報を記憶することができる。
【0080】
一実施形態では、本発明は光データ記憶媒体にホログラフィックデータを記録する方法を提供する。本方法では、(i)(a)熱可塑性ポリマーマトリックス、(b)潜酸発生剤、(c)非線形増感剤及び(d)保護されたベンゾフェノンを含む反応体を含有する光データ記憶媒体を形成する。本方法では、(ii)非線形増感剤から潜酸発生剤への上方三重項エネルギー移動を引き起こすのに十分な波長及び強度を有する入射光を含む干渉パターンで光データ記憶媒体のボクセルを照射し、それにより酸を発生させる。但し、潜酸発生剤は入射光に対して実質的に非応答性である。本方法ではさらに、(iii)複数の保護ベンゾフェノンを発生した酸と反応させて複数のヒドロキシベンゾフェノンを形成し、それによりボクセル内部で屈折率変化を引き起こし、(iv)干渉パターンに対応する屈折率変動を照射ボクセル内部で生じさせ、それにより光学的に読取可能なデータを作り出す。
【0081】
一実施形態では、光データ記憶媒体を提供する。光データ記憶媒体は、(a)熱可塑性ポリマーマトリックス、(b)上方三重項励起を引き起こすのに十分な波長と強度を有する入射光を吸収することができる非線形増感剤、(b)非線形増感剤からの三重項励起時に酸を発生することができ、入射光に対して実質的に非応答性である潜酸発生剤及び(d)潜発色団を含む反応体を含有し、少なくとも1つの潜発色団が発生した酸と反応することにより少なくとも1つの発色団を形成することができ、それにより光データ記憶媒体中で屈折率変化を引き起こす。ある実施形態では、複数の潜発色団が発生した酸毎に複数の発色団を形成することができる。
【実施例】
【0082】
実施例1
[非線形増感剤(PE1、PPE及びPE2)の合成]
PE1及びPE2はそれぞれ、白金エチニル錯体であるビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニルベンゼン)白金及びビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニル−1−(2−フェニルエチニル)ベンゼン)白金を示す。これらの白金エチニル錯体の命名規則はフェニルエチニル基に基づいており、例えばPE1は一対のフェニルエチニル基をもつ錯体に由来し、PE2は一対の2つのフェニルエチニル基をもつ錯体に由来し、PPEは一対のフェニルフェニルエチニル(PPE)基をもつ錯体に由来する。
【0083】
図4に示すように、またJ. Phys. Chem. A 2002, 106, 10108-10115に記載されているように、PE1、即ちPt−エチニル錯体3の合成はPtCl2(PBu32と末端フェニルアセチレン2との銅触媒カップリングにより行った。様々な材料を評価するために、R基を表1に示すように多様にする。PPE誘導体には、フェニルアセチレンのビフェニル誘導体を用いた。
【0084】
PE2を用いた非線形増感剤の合成及び光学的評価は、係属中の米国特許出願第12/551410号(代理人整理番号236639−1)(本発明の教示内容と直接矛盾しない限り、その全文をあらゆる目的で本発明にも援用する)に詳細に開示されている。
【0085】
実施例2
[線形光学特性の測定]
前述のように、405nmで吸収が最小であることが青色RSA色素に必要である。実施例1にしたがって製造した白金エチニル錯体の紫外可視スペクトルを測定し、波長の関数として吸光係数に変換することにより吸収を正規化した。この実施例のデータを表1にまとめる。
【0086】
【表1】

表1に示すように、PE1及びPPE錯体1a〜1fは本質的に405nmで非常に小さい吸収をもつ。前述したように、非線形増感剤を用いた光データ記憶媒体の望ましい特性は、基底状態吸収が小さくかつ励起状態吸収が非常に大きいことである(RSA特性)。さらに、効率的にエネルギー移動できる共在(concomitant)距離内にドナーアクセプタを維持するのに0.04M以上の量の非線形増感剤が媒体にあることが望ましい。上記の条件を満たすには、405nmでの吸光係数は約200cm-1-1未満であることが望ましい。したがって、表1に示す材料が非線形増感剤として適当である。
【0087】
実施例3
[保護ベンゾフェノン及びアクリレートポリマーの製造]
MOM保護ベンゾフェノンアクリレートモノマーIIaの製造(図5)
500mLの丸底フラスコに24.8g(0.088モル)のアクリレートモノマーIa、22.7g(0.17モル)のジイソプロピルエチルアミン及び100mLの塩化メチレンを加えた。この混合物を氷浴で約0℃に冷却しながら窒素下で攪拌し、その後温度0℃で保ちながらクロロメチルメチルエーテルを3時間かけて滴下した。この溶液を放置して室温までもどし、終夜攪拌した。得られた溶液を各200mLの水で3回洗い、MgSO4で乾燥し、濃縮して淡黄色油状物を得た。この油状物をシリカゲルクロマトグラフィーにかけ、ヘキサン:酢酸エチル(95:5〜80:20)で溶出して精製し、濃縮し、無色固体のIIa(精製後収率>90%)を得た。
ポリ(MOM保護ベンゾフェノンアクリレート)、即ちMOMポリマーIIIaの製造(図5)
25mlの丸底フラスコに4.8gのアクリレートモノマーIIa、5.0mgのAIBN及び10mLのトルエンを加えた。この混合物を窒素で10分間脱泡し、混合物を90℃で18時間加熱し、その後冷却し、メタノール中で析出させた。濾過により白色析出物を集め、真空下50℃で24時間乾燥した(Mw90k〜125k)。
t−BOC保護ベンゾフェノンアクリレートモノマーIIbの製造(図6)
500mLの丸底フラスコに24.8g(0.088モル)のアクリレートモノマーIb、20.1g(0.092モル)の二炭酸ジ−tert−ブチル、9.2g(0.092モル)のトリエチルアミン及び100mLの塩化メチレンを加えた。この混合物を氷浴で約0℃に冷却しながら窒素下で3時間攪拌した。この溶液を放置して室温までもどし、終夜攪拌した。得られた溶液を各200mLの水で3回洗い、MgSO4で乾燥し、濃縮して淡黄色油状物を得た。この油状物をシリカゲルクロマトグラフィーにかけ、ヘキサン:酢酸エチル(95:5〜80:20)で溶出して精製し、濃縮し、無色固体のIIb(精製後収率>90%)を得た。
ポリ(t−BOC保護ベンゾフェノンアクリレート)IIIbの製造(図6)
25mlの丸底フラスコに4.8gのアクリレートモノマーIIb、5.0mgのAIBN及び10mLのトルエンを加えた。この混合物を窒素で10分間脱泡し、混合物を90℃で18時間加熱し、その後冷却し、メタノール中で析出させた。濾過により白色析出物を集め、真空下50℃で24時間乾燥した(Mw90k〜125k)。
【0088】
実施例4
[保護ベンゾフェノンの脱保護後の屈折率変化]
t−BOC置換及びMOM置換ベンゾフェノン両方の吸光度データは、脱保護後ヒドロキシベンゾフェノンで赤方偏移を示し、保護の形態のλmax280nmから290及び330nm付近に2つの新しいバンドを形成する。t−BOC保護及びMOM保護ベンゾフェノンに対応する屈折率変化はそれぞれ0.098及び0.125である。
【0089】
実施例5
[ポリマー存在下での保護ベンゾフェノンの脱保護]
酸としてトリフルオロエタンスルホン酸(TFESA)を用いて、薄膜形態のt−BOCポリマー(t−BOC保護ベンゾフェノン部分で官能化したPMMAポリマーをいう)系とMOMポリマー(MOM保護ベンゾフェノン部分で官能化したPMMAポリマーをいう)系との脱保護化学の効果を比較した。薄膜製造は以下のように行った。まず、テトラクロロエタン中でt−BOC又はMOMポリマーの2.2重量%溶液を0.1当量のTFESAと内容物が溶解するまで混合した。溶液を0.45μmのワットマン濾紙を通して濾過した。濾過後の溶液を50mmx25mmの顕微鏡スライドガラス上に流し込み、溶液をスピンコーターで約2000rpmで30秒間スピンキャストし、その後4〜6時間風乾した。
【0090】
PMMAに添加したt−BOC保護ベンゾフェノンの脱保護は、室温では15分後に無視できるほど少なく(<2%)、完全な脱保護には温度100℃で15分要した。しかし、PMMAに添加したMOM保護ベンゾフェノンでは室温でさえ最初の15分で25%までの脱保護が認められた。
【0091】
したがって、TFESAを用いた脱保護は、MOMポリマーがt−BOCポリマーに比べて量子効率評価の速度が速いことがわかった。したがって、すべての非線形増感評価はMOMポリマーで行った。しかし、速度が遅いことと高温が必要であることを考慮に入れ、t−BOCポリマーを用いてホログラムを書込むことも可能である。
【0092】
比較例1
[線形増感剤、潜酸発生剤、反応体及びポリマーを含有する膜での脱保護評価]
t−BOCポリマー、10重量%の潜酸発生剤(NapdiPhS−T、三重項エネルギー54kcal/mol)及び5重量%の線形三重項増感剤(チオキサンテン−9−オン、三重項エネルギー65kcal/mol)を含有する薄膜で対照実験を行ってベンゾフェノン脱保護を試験した。試料の5mmスポットは、405nmレーザー光を用いて励起したとき、試料を40分間露光し、その後80〜100℃に加熱した後のみでベンゾフェノン脱保護が認められた。
【0093】
チオキサンテン−9−オンが存在しない、t−BOCポリマー及び10重量%の潜酸発生剤(TPS−T)を含有する薄膜で対照実験を行った。試料の5mmスポットは、405nmレーザー光を用いて励起したとき、潜酸発生剤がその波長で吸収しないのでベンゾフェノン脱保護は認められなかった。
【0094】
t−BOCポリマー及び5重量%のチオキサンテン−9−オンを含有する薄膜で対照実験を行った。試料の5mmスポットは、360nmロングパスフィルター(チオキサンテン−9−オンのみを励起するのを確実にする)を備えたUVランプで45分間励起及び照射したとき、脱保護は認められなかった。したがって、酸の発生はベンゾフェノンの脱保護に重要である。
【0095】
実施例6
[潜酸発生剤、非線形増感剤、反応体及びポリマーを含有する薄膜の感度測定]
潜酸発生剤である、TPS−ブタン−ST(トリス(4−tert−ブチルフェニル)スルホニウムペルフルオロ−1−ブタンスルホネート)、TPS−T(トリフェニルスルホニウムトリフラート)、IPhdiPhS−T(p−ヨードフェニルジフェニルスルホニウムトリフラート)及びNapdiPhS−T(ナフチルジフェニルスルホニウムトリフラート)はSigma Aldrich社から市販品を入手し、BTBPI−TMM(ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリス(ペルフルオロメタンスルホニル)メチド)はDaychem Laboratories社から得た。表1に示す非線形増感剤は、逆可飽和吸収体(RSA)として用い、上記のように製造した。
【0096】
マイクロホログラムを書込んだ後に反射率を記録するマイクロホログラム実証用薄膜試料を以下のように製造した。2.2重量%のt−BOC又はMOMポリマーのテトラクロロエタン溶液を0.04モルのRSA(PE1、PE2又はPPE色素)及び10重量%の潜酸発生剤と攪拌プレートを用いて内容物が溶解するまで混合した。場合によっては、溶液をホットプレートで約70℃に加熱することにより内容物を溶解した。得られた溶液を0.45μmのワットマン濾紙を通して濾過した。濾過後の溶液を50mmx25mmの顕微鏡スライドガラス上に流し込み、溶液をスピンコーターで約2000rpmで30秒間スピンキャストした。その後、スライドガラスを温度約70℃のオーブンで約20分間〜約30分間乾燥した。形成したポリマー膜の厚さは約100nmであった。用いたRSA色素(非線形増感剤)及び潜酸発生剤の詳細、並びにRSA色素の量を表2に示す。比較試料(比較試料6a)は反応体としてポリビニルシンナメート(PVCm)を用いて製造した。
【0097】
エネルギー移動(ET)過程の量子効率(QE)及び感度を規定するのに下記の光学装置を用いた。光学装置は、2つの光源、即ち1つは紫外可視ランプ、もう1つは光パラメトリック発振器(OPO=optical parametric oscillator)で構成した。屈折率変化材料は材料特性により、280nmで最大吸光度をもった。選択したUVプローブの波長は約280nm〜約320nmの範囲であった。OPOシステムの出力からの405nmの波長をポンプ露光源として用いた。RSA色素が405nmの波長に吸収の小さな部分をもつことが予想されるからである。量子効率測定により得た書込強度264MW/cm2での感度値を表2に示す。
【0098】
【表2】

表2に示す感度値は、RSAの上方三重項状態(Tn>1)から潜酸発生剤へ三重項エネルギーを移動し、その結果、潜酸発生剤が酸を発生し、発生した酸がMOM保護ベンゾフェノンのメトキシメチル基を脱保護し、これが屈折率変化を起こしてパターンをつくることにより得られた。したがって、感度値は以下の過程:1)吸収/励起、2)三重項状態への項間交差、3)上方にある三重項(Tn>1)への第2の吸収、4)潜酸発生剤へのエネルギー移動、5)プロトンの発生及び6)触媒作用による保護ベンゾフェノンの脱保護のすべてを組合せた効率である。
【0099】
表2は、MOMポリマー、種々のRSA色素及び潜酸発生剤で得られた感度の結果を示す。表2に示すように、10-3cm2/J程度の感度値が試料6a〜6kで得られた。これと比べて、潜酸発生剤を含有しないポリビニルシンナメート(PVCm)系(比較試料6a)の感度値は3桁低かった。これはMOMポリマーの酸触媒の脱保護に起因するのであろう。したがって、MOM基の脱保護を助ける酸分子毎に新しい酸(H+)が副生成物として生じ、これが次のMOMベンゾフェノンポリマーを脱保護する。この現象の連鎖がターンオーバー数を大きくし、H+分子がポリマーマトリックス中の何か別のもの(例えば、塩基)によって消費されるまで脱保護は続く。
【0100】
表2はさらに、添加したポリマー(試料6k)と付加したポリマー(試料6a)の比較を示す。表2に示すように、感度値は添加ポリマー対付加ポリマーで同程度である。ある実施形態では、付加ポリマーは、マトリックスからの保護又は脱保護ベンゾフェノン分子の拡散や蒸発を回避するのに望ましい。
【0101】
実施例7
[マイクロホログラム記録]
マイクロホログラム記録用試料を10重量%の固体(表2の試料6e)のジクロロエタン(DCE)溶液を用いて以下のように製造した。溶液を処理ガラス上の金属リング内で堆積して膜をつくった。得られた膜を乾燥し、ガラス/リングから取り出し、その後、スライドガラスの間で約100℃でプレスした。膜厚は100〜200μmであった。
【0102】
405nmの波長で作用する可変光パラメトリック発振器システムをマイクロホログラムの記録及び読出用パルス光源として用いた。開口数(NA)0.4の光学系を用いて媒体試料に光をフォーカスしたところ、記録用体積のおおよその寸法は約0.65x0.65x2.6μmとなった。マイクロホログラム記録に用いるパルスエネルギーは1〜10ナノジュールであり、このようなフォーカスした記録用ビームの焦点スポットで数十〜数百MW/cm2の光強度値を実現できるようにした。マイクロホログラムから反射した光の読出は、記録用出力に対して約100〜1000倍強度を下げた同一のビームを用いて行った。
【0103】
光データ記憶媒体へのマイクロホログラムの記録は、逆方向に進行する、2つの高強度の、記録用パルスビームを記録媒体のバルクにフォーカスし、重なり合わせて、明るい領域及び暗い領域(フリンジ)からなる強度のフリンジパターンを生じさせることにより行われた。干渉パターンの照射領域は上述のような変化を起こして材料の屈折率を局所的に変更し、一方、暗い領域は影響を受けず、こうして体積ホログラムを作り出す。本発明の光データ記憶媒体は高強度の光に感応性であり、低強度の光に比較的不活性である。ビームの焦点領域付近の光強度が記録閾値(それより上では簡単に変化が起こる)を上回り、一方、ビームの焦点から離れた記録可能な領域の外側では光強度が低いままとなるように記録用ビームの出力を調整し、こうして意図しない媒体変更(記録又は消去)を回避した。
【0104】
マイクロホログラム記録時に、2分の1波長(λ/2)板及び第1偏光ビームスプリッタ(PBS)を用いて、一次記録ビームをシグナルビームと参照ビームにスプリットした。これら2つの2次ビームを逆方向に進行する幾何配置で試料に導き、0.4以下の開口数(NA)をもつ複数の同一非球面レンズにより光データ記憶媒体のバルクにフォーカスして重なり合わせた。両方のビームの偏光を2つの4分の1波長(λ/4)板で円偏光に変換し、両ビームが干渉してコントラストの高いフリンジパターンを作り出すようにした。試料及びシグナルビームレンズを25nmの分解能をもつ閉ループ3軸位置決めステージに装着した。試料の参照ビーム側に位置敏感検出器を用いてシグナルレンズのアライメントを行い、フォーカスしたシグナルビーム及び参照ビームの媒体中での重なりを最適化し、記録を最適化した。
【0105】
可変減衰器と2分の1波長板/PBSアセンブリとを用いて記録及び/又は読出時の出力レベルを制御した。これにより光データ記憶媒体のマイクロホログラフィック記録特性を記録用出力及び/又はエネルギーの関数として測定することができる。この関数依存性により、記録後のホログラムの強度が、主に媒体が得た光エネルギーの全量によって規定されるが、光強度とは無関係である線形光データ記憶媒体/記録と、記録効率が光の強度に著しく依存する非線形、即ち閾値光データ記憶媒体/記録とを区別できる。線形媒体では、露光が少ないと低強度のホログラムを与え、ホログラムは露光を増すにつれて徐々に強度を増す。対照的に、非線形、即ち閾値媒体では、記録は閾値を超える強度でのみ可能である。
【0106】
読出時には、シグナルビームを遮断し、参照ビームをマイクロホログラムによって入射方向と反対方向に反射させた。4分の1波長板及び第2偏光ビームスプリッタを用いて反射ビームを入射ビーム路から取り出し、較正済み光検出器に共焦点幾何配置で集め、絶対尺度の回折効率を得た。読出光学系に対して試料を並進することにより、マイクロホログラム回折応答の3Dプロファイルを得、マイクロホログラムの寸法を評価することができた。
【0107】
表2の試料6eに対応する試料に記録したマイクロホログラムの配列からの代表的な読出スキャン時のビーム位置に対する反射率を図7に示す。11個のホログラムすべてを強度200MW/cm2(照射フリンジ位置で)、両方の記録ビームでフルエンス40J/cm2で記録した。405nmで膜の光学密度を測定すると0.28であった。平面波カップリング形式(plane−wave coupling formalism)を用いて記録プロセスによってホログラムに発生した屈折率の変調は約0.036と推定され、記録プロセス(200MW/cm2での)で感度4.5x10-4cm2/Jが達成された。なお、マイクロホログラム記録条件から得られた感度値は、間接測定であり、記録条件の種々の不確実性、例えばグレーティング形状、正確なグレーティング深さに影響を受け、したがって、実施例6で記載したより直接的なQE測定(表2)とは系統的な差がある推定値と考えられる。
【0108】
本明細書では、具体例を挙げて、最良の形態を含む本発明を開示するとともに、当業者が本発明を実施できるようにしており、本発明の実施には装置又はシステムを製造及び使用したり、援用方法を実施することも含む。本発明の要旨は、特許請求の範囲に規定された通りで、当業者が想起できる他の例を含むことができる。このような他の例は、特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有するか、特許請求の範囲の文言と実質的に異ならない均等な構造要素を含むならば、特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0109】
200 光データ記憶媒体
201 断面
202 入射光の焦点
300 エネルギー準位図
301 光子基底状態吸収断面積
302 系間交差率
303 励起三重項状態吸収断面積
304 非放射緩和
305 三重項−三重項エネルギー移動
306 潜酸発生剤からの酸又はプロトンの発生
307 潜酸発生剤の三重項エネルギー
308 増感剤のT2状態
309 増感剤のT1状態
310 反応体の変化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラフィックデータを光データ記憶媒体に記録するにあたり、
(i)(a)熱可塑性ポリマーマトリックス、(b)潜酸発生剤、(c)非線形増感剤及び(d)潜発色団を含む反応体を含有する光データ記憶媒体を形成し、
(ii)非線形増感剤から潜酸発生剤への上方三重項エネルギー移動を引き起こすのに十分な波長及び強度を有する入射光を含む干渉パターンで光データ記憶媒体のボクセルを照射し、それにより酸を発生させ、但し潜酸発生剤が入射光に対して実質的に非応答性であり、
(iii)少なくとも1つの保護された発色団を発生した酸と反応させて少なくとも1つの発色団を形成し、それによりボクセル内部で屈折率変化を引き起こし
(iv)干渉パターンに対応する屈折率変動を照射ボクセル内部で生じさせ、それにより光学的に読取可能なデータを作り出す、
工程を含む、ホログラフィックデータの光データ記憶媒体への記録方法。
【請求項2】
工程(iii)で、複数の潜発色団を発生した酸それぞれと反応させて複数の発色団を形成する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
入射光が約360nm〜約500nmの範囲の波長及び閾値超えの強度をもつ、請求項1記載の方法。
【請求項4】
入射光が約405nmの波長をもつ、請求項1記載の方法。
【請求項5】
潜発色団が構造式(I)で表される部分を含む、請求項1記載の方法。
【化1】

式中、aは1〜5の整数であり、bは1〜4の整数であり、R1は保護基であり、R2及びR3は各々独立に水素、ハロゲン、C1−C20脂肪族基、C3−C20脂環式基又はC2−C30芳香族基であり、R4は水素又はOR1である。
【請求項6】
潜発色団が下記構造式で表される部分を含む、請求項1記載の方法。
【化2】

式中、aは1〜5の整数であり、bは1〜4の整数であり、R1は保護基であり、R2及びR3は各々独立に水素、ハロゲン、C1−C20脂肪族基、C3−C20脂環式基又はC2−C30芳香族基であり、R4は水素又はOR1である。
【請求項7】
非線形増感剤が白金エチニル錯体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
(a)熱可塑性ポリマーマトリックス、
(b)上方三重項励起を引き起こすのに十分な波長と強度を有する入射光を吸収することができる非線形増感剤、
(b)非線形増感剤からの三重項励起時に酸を発生することができ、入射光に対して実質的に非応答性である潜酸発生剤、及び
(d)潜発色団を含む反応体を含有する光データ記憶媒体であって、
少なくとも1つの潜発色団が発生した酸と反応することにより少なくとも1つの発色団を形成することができ、それにより光データ記憶媒体中で屈折率変化を引き起こす、
光データ記憶媒体。
【請求項9】
複数の潜発色団が発生した酸毎に複数の発色団を形成することができる、請求項8記載の光データ記憶媒体。
【請求項10】
潜発色団が構造式(I)で表される部分を含む、請求項8記載の光データ記憶媒体。
【化3】

式中、aは1〜5の整数であり、bは1〜4の整数であり、R1は保護基であり、R2及びR3は各々独立に水素、ハロゲン、C1−C20脂肪族基、C3−C20脂環式基又はC2−C30芳香族基であり、R4は水素又はOR1である。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−3590(P2013−3590A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−138289(P2012−138289)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】