説明

光トランシーバ及び光トランシーバの制御方法

【課題】ノイズの検出値に応じて、特性を最適に設定できる光トランシーバ及び光トランシーバの制御方法を提供する。
【解決手段】光トランシーバ1に、電源ノイズを検出するノイズ検出部14を搭載し、電源ノイズを検出し、このノイズ検出結果を制御部13にフィードバックし、このノイズ検出結果に応じて、光受信回路11における受信側電気波形再生部22のデータ判別閾値や、光送信回路12における光送信器31のレーザーダイオードの駆動電流等を最適に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号−光信号変換および光信号−電気信号変換をすることで光送受信を実現し、光通信装置および光ケーブルと接続する光トランシーバ及び光トランシーバの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光トランシーバは、電気信号−光信号変換および光信号−電気信号変換をすることで光送受信を実現し、光通信装置および光ケーブルを介して双方向に接続する光送受信モジュールである。FTTH(Fiber To The Home)サービスの普及等に伴い、光トランシーバの普及が進み、光トランシーバ製品の小型化、単一電源化、標準化が進められている。
【0003】
しかしながら、光トランシーバ製品が小型化・低消費電力化が進むにつれ、製品動作時に供給される電源ノイズ成分が特性に与える影響が増大してくる。例えば、ノイズが増えることで、受信時の特性において、受信した光信号変換後の電気信号を0/1判定する際、電気信号にノイズが乗ることでデータを判別する際の判別閾値の精度に影響を与える。また、光トランシーバの送信特性では、電源ノイズが光送信用の半導体レーザの駆動電流などに重畳されると、光信号における周波数チャーピングが発生し、伝送特性を劣化させる要因となる。これらは光トランシーバの動作環境や搭載装置などといった供給電源にも依存するためトランシーバ-搭載装置間の特性・仕様整合における大きな課題となっている。
【0004】
ノイズの影響を改善するための対策としては、電源回路に安定化回路、レギュレータ回路を搭載する手法がある。また、電源回路を安定させる技術としては、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されているようなものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−92348号公報
【特許文献2】特開2004−88638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載されているような方法や、電源回路に安定化回路やレギュレータ回路を搭載することで電源電圧の安定化を図るようにすると、回路規模が増大する。また、電源回路に安定化回路やレギュレータ回路を搭載すると、これらの回路搭載に伴う内部電源の電圧降下のリスクがある。
【0007】
また、例えば、WDM(Wavelength Division Multiplexing)装置など、光増幅器を用いたネットワークにおける伝送装置に搭載された動作環境化下では、電源ノイズに加え光信号の伝送中に自然放出光の成分も自然光分がノイズとして発生する。このような自然放出光分によるノイズは、安定化回路やレギュレータ回路では改善できない。
【0008】
また、光トランシーバの使用環境は様々であり、使用環境によって、ノイズの発生状況も異なる。したがって、出荷時に光トランシーバ単体で計測された特性と、実際にシステムに組み込まれたときの特性とでは、異なる場合がある。このため、光トランシーバを実際にシステムに組み込んで使用すると、ノイズ成分の影響を受け、出荷時に計測された性能を実現できず、仕様不整合や問題解決策に時間を要することがある。
【0009】
また、光トランシーバにより送受されるデータの仕様としては、SONET,SDH,Ethernet(登録商標)等がある。光トランシーバの搭載アプリケーションは、これらの仕様をサポートする必要がある。光トランシーバを共通製品として採用しても、これら仕様の異なるアプリケーションのすべてを満足するような特性を確保することは困難である。
【0010】
なお、装置側からの閾値設定をサポートする光トランシーバ製品も多く登場しているが、このような光トランシーバでは、閾値設定を動かすと、製品出荷時の設定値と異なることになることから、製品特性を保証することが難しくなる。また、光トランシーバの特性評価仕様にある電源ノイズ耐力特性評価に関しては、電源ノイズ振幅、周波数を条件とした受信特性や送信特性の評価を行ってきたが、その評価に関する標準的な手法は確立していない。
【0011】
上述の課題を鑑み、本発明は、ノイズの検出値に応じて、特性を最適に設定できる光トランシーバ及び光トランシーバの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明に係る光トランシーバは、光ケーブルから受信した光信号を電気信号のデータに変換して出力する光受信手段と、電気信号のデータを光信号に変換して光ケーブルに送信する光送信手段とを具備する光トランシーバであって、さらに電源ノイズを検出するノイズ検出手段を搭載し、ノイズ検出手段の検出結果に応じて、光受信手段及び/又は光送信手段の動作特性を設定することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る光トランシーバの制御方法は、光ケーブルから受信した光信号を電気信号のデータに変換して出力する光受信手段と、電気信号のデータを光信号に変換して光ケーブルに送信する光送信手段とからなる光トランシーバの制御方法であって、光トランシーバにはノイズ検出手段が搭載されており、ノイズ検出手段により光トランシーバの電源ノイズを検出する工程と、ノイズ検出の検出結果に応じて、光トランシーバの送信及び/又は受信の動作特性を設定する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光トランシーバ内に電源ノイズを検出するノイズ検出部が搭載されている。このノイズ検出部の検出結果に応じて、データ判別閾値やレーザーダイオードの駆動電流等を最適に設定することができる。また、本発明によれば、電源ノイズに起因する特性劣化を最小限に抑えることができる。また、本発明によれば、使用環境や仕様に応じて光トランシーバの特性を最適に設定することができる。また、本発明によれば、製品特性を評価する際に、電源ノイズに関する動作環境の違いを定量的に検出して、標準仕様を行うことができる。また、本発明によれば、装置環境に依存することなく、電源ノイズに対しては、安定した製品動作特性を実現することができる。また、本発明によれば、光トランシーバ認定評価時において、ネットワーク構成や装置アプリケーションに対する依存性が抑えられることから評価パラメータの削減につながり、評価コストが低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光トランシーバの構成を示すブロック図である。
【図2】光トランシーバにおけるノイズ検出部をアナログ回路で実現した場合の一例を示すブロック図である。
【図3】ノイズ検出部におけるピーク検出回路の一例の接続図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る光トランシーバの実装例を示す分解斜視図である。
【図5】光トランシーバにおけるノイズ検出部をA/Dコンバータのみで構成した場合のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る光トランシーバ1の構成を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態の光トランシーバ1は、光受信回路11と、光送信回路12と、制御部13と、ノイズ検出部14とを備えている。
【0018】
光受信回路11は、光ケーブル2から光信号を受信して、この光信号を電気信号のデータに変換し、データ処理装置3に送るための回路である。光受信回路11は、例えばフォトディテクタからなる光受信器21と、光受信器21の出力信号とデータ判別閾値とを比較して、「0」又は「1」のデータを判別する受信側電気波形再生部22とを備えている。
【0019】
光送信回路12は、データ処理装置3からの電気信号のデータを光信号に変換して、光ケーブル2に送信するための回路である。光送信回路12は、データ処理装置3からの電気信号を再生する送信側電気波形再生部32と、例えばレーザーダイオードからなる光送信器31とを備えている。
【0020】
制御部13は、光受信回路11及び/又は光送信回路12を制御するための回路で、マイクロコンピュータで構成されている。光受信回路11や光送信回路12の各種設定は、制御部13の制御の基に設定可能である。また、制御部13は、シリアル通信による光トランシーバ1の外部との通信機能及び内部のモニター機能を有している。
【0021】
ノイズ検出部14は、電源回路33からの電源電圧に含まれるノイズを検出する。ノイズ検出部14のノイズ検出結果は、制御部13に送られる。制御部13は、ノイズ検出部14からのノイズ検出結果に応じて、光受信回路11における受信側電気波形再生部22のデータ判別閾値や、光送信回路12における光送信器31のレーザーダイオードの駆動電流等を最適に設定する。
【0022】
例えば、ノイズ値に応じたデータ判別閾値は、以下のように設定できる。
制御部13は、予め、データ判別閾値Vthを記憶しておく。Vthは、電源ノイズが無い場合に光送受信トランシーバ1が正常に動作するように設定されたデータ判別値である。ここで、電源にノイズが発生すると、送信信号及び受信信号の波形は、元の信号に当該ノイズが重畳した波形となる。そこで、制御部13は、ノイズ検出部14によりノイズのピーク値が検出されると、予め記憶されていたデータ判別値Vthに、検出されたノイズピーク値ΔVpを加算した値(Vth+ΔVp)を、受信側電気波形再生部22、送信側電気波形再生部32で実際の判別に用いるデータ判別閾値として設定する。このように、実際に判別に用いるデータ判別閾値を(Vth+ΔVp)に設定することで、電源ノイズに応じた最適な値にデータ判別閾値が設定されることになる。この場合、光送受信トランシーバは、制御部13が予め記憶しているデータ判別閾値を変更せずに、ノイズ検出部14で検出されたノイズ判別結果に応じて、実際に用いるデータ判別閾値を動的に決定しているため、製品出荷時から設定値を変更せずに、製品特性を補償することができる。
【0023】
また、上述のように、実際に判別に用いるデータ判別閾値を(Vth+ΔVp)とする方法以外の方法としては、ノイズピーク値に、実際に用いるデータ判別閾値を関連付けたテーブルを記憶するROMを備え、 制御部13が、ノイズ検出部14が検出したノイズピーク値に対応するデータ判別閾値を、ROMが記憶するテーブルの情報を用いて補間計算により算出し、当該データ判別閾値を用いて信号の値の判別を行う方法がある。ROMが記憶するテーブルに、ノイズピーク値の範囲と閾値とを関連付けておくことで、補間計算を行わずに閾値を決定するようにしても良い。
【0024】
図2は、ノイズ検出部14をアナログ回路で実現した場合の一例を示すものである。
図2に示すように、ノイズ検出部14は、ピーク検出回路101と、A/Dコンバータ部102とから構成される。図2において、電源回路33からの電源電圧は、ピーク検出回路101に供給される。ピーク検出回路101で、電源電圧がピーク検波される。ピーク検出回路101の出力は、A/Dコンバータ部102に供給され、電源電圧のピーク検波値がアナログ値からディジタル値に変換される。A/Dコンバータ部102の出力が制御部13に供給される。
【0025】
ピーク検出回路101は、例えば、図3に示すように構成できる。
図3において、演算増幅器201の反転入力端子は、抵抗202を介して、入力端子200に接続される。演算増幅器201の非反転入力端子は接地される。演算増幅器201の出力端子は、ダイオード203のアノードに接続される。ダイオード203のカソードと演算増幅器201の反転入力端子との間に、抵抗204が接続される。これら、演算増幅器201と、抵抗202、204と、ダイオード203により、検波回路が構成される。
【0026】
ダイオード203のカソードと接地間に、トランジスタ205が接続される。また、ダイオード203のカソードと接地間に、抵抗206及びコンデンサ207が接続される。抵抗206及びコンデンサ207は、演算増幅器201、抵抗202、204、ダイオード203の検波出力を平滑化して、検波出力の包絡線を検出する。トランジスタ205は、検波出力をクリアするために設けられる。
【0027】
ダイオード203のカソードと抵抗206及びコンデンサ207との接続点は、抵抗208を介して、演算増幅器209の反転入力端子に接続される。演算増幅器209の非反転入力端子は接地される。演算増幅器209の出力端子とその反転入力端子との間に、抵抗210が接続される。抵抗208,210、演算増幅器209は、ピークレベルの検出値を反転増幅するバッファアンプを構成する。演算増幅器209の出力端子からは、電源のノイズピークに相当する電圧が出力される。
【0028】
図3に示すように、ノイズ検出部14のピーク検出回路101は、演算増幅器201、209、ダイオード203、トランジスタ205等により、アナログ回路で構成される。トランジスタ、ダイオード、演算増幅器の微細化・広帯域化技術の向上により、これらは、数平方ミリメートル程度の最小限の実装面積にて実現が可能である。また、小型化が進む光トランシーバの内部回路には、マイクロコンピュータ(制御部13)やA/Dコンバータ部102などのディジタル制御回路は、既に標準的に搭載されている。したがって、このようなノイズ検出部14を光トランシーバ1に搭載したとしても、余分な部品の追加は殆どなく、回路規模の増大は僅かなものである。A/Dコンバータの動作特性の向上を考慮すると、このようなノイズ検出部14により、ピーク・トゥー・ピークで、数十mVまでのノイズ検出は可能である。
【0029】
図4は、光トランシーバ1の実装例を示す分解斜視図である。図4に示すように、プリント基板51には、光学モジュール52とICチップ53とを実装されている。光学モジュール52には、図1に示す光受信器21及び光送信器31が格納されている。ICチップ53には、図1に示す受信側電気波形再生部22、送信側電気波形再生部32、制御部13、及びノイズ検出部14とが格納されている。なお、ノイズ検出部14は、ディスクリート部品でプリント基板51上に実装しても良い。前述したように、ノイズ検出部14は、ディスクリート部品でプリント基板51上に構成しても、回路規模の増大は僅かである。光学モジュール52は、光ファイバ54を介して光レセプタクル55に接続されている。プリント基板51は、ベースプレート56上に載置され、ケース57により密閉される。
【0030】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態では、光トランシーバ1内に、電源ノイズを検出するノイズ検出部14が搭載される。ノイズ検出部14により、電源ノイズが検出され、このノイズ検出結果が制御部13にフィードバックされる。これにより、ノイズ検出結果に応じて、制御対象(光受信回路11における受信側電気波形再生部22のデータ判別閾値や、光送信回路12における光送信器31のレーザーダイオードの駆動電流等)を最適に設定することができる。
【0031】
なお、ノイズ検出部14は、図5に示すように、A/Dコンバータ301のみから構成することもできる。この場合には、A/Dコンバータ301で、電源の電圧値を取得し、制御部13で、設定電圧以上の値となるものをカウントし、その発生頻度を求めることで、ノイズ振幅の傾向を算出し、そのノイズ分布に対する事前に設定された最適値を制御部13から制御対象に設定させるようにすれば良い。
【0032】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0033】
1:光トランシーバ
2:光ケーブル
3:データ処理装置
11:光受信回路
12:光送信回路
13:制御部
14:ノイズ検出部
21:光受信器
22:受信側電気波形再生部
31:光送信器
32:送信側電気波形再生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ケーブルから受信した光信号を電気信号のデータに変換して出力する光受信手段と、
電気信号のデータを光信号に変換して光ケーブルに送信する光送信手段と、
を具備する光トランシーバであって、
さらに電源ノイズを検出するノイズ検出手段を搭載し、前記ノイズ検出手段の検出結果に応じて、前記光受信手段及び/又は前記光送信手段の動作特性を設定する
ことを特徴とする光トランシーバ。
【請求項2】
前記ノイズ検出手段は、電源電圧のアナログ値をピーク検波し、当該電源電圧のピーク検波値から電源ノイズを検出することを特徴とする請求項1に記載の光トランシーバ。
【請求項3】
前記ノイズ検出手段は、電源電圧が設定電圧以上となる発生頻度をカウントして電源ノイズを検出することを特徴とする請求項1に記載の光トランシーバ。
【請求項4】
前記ノイズ検出手段の検出結果に応じて設定される動作特性は、前記光受信手段におけるデータ判別閾値であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の光トランシーバ。
【請求項5】
前記ノイズ検出手段の検出結果に応じて設定される動作特性は、前記光送信手段におけるレーザーダイオードの駆動電流であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の光トランシーバ。
【請求項6】
光ケーブルから受信した光信号を電気信号のデータに変換して出力する光受信手段と、電気信号のデータを光信号に変換して光ケーブルに送信する光送信手段とからなる光トランシーバの制御方法であって、
前記光トランシーバにはノイズ検出手段が搭載されており、
前記ノイズ検出手段により前記光トランシーバの電源ノイズを検出する工程と、
前記ノイズ検出の検出結果に応じて、前記光トランシーバの送信及び/又は受信の動作特性を設定する工程と
を含むことを特徴とする光トランシーバの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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