説明

光ドーピング用材料及び光増幅媒体

【課題】 有機重合体を用いた光増幅器に使用される光ドーピング用材料の耐熱性を向上させる。
【解決手段】 希土類金属の塩と金属アルコキシドを反応させて得られる複合体と、キレート剤と、を有機溶媒中に混合して得られる光ドーピング用材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号光の強度を、励起光によって増幅する光増幅器に用いられる光ドーピング用材料に関するものであって、特に、光通信、光インターコネクション等において、励起光及び/又は信号光が光ファイバや光導波路等を伝搬させる光増幅器に用いられる光ドーピング用材料及びそれを用いた光増幅媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会における光通信技術の役割は非常に重要であり、インターネット、国内幹線系、メトロネットワーク、FTTH(Fiber To The Home)等、光通信網が全世界をカバーしている。1990年代には、アレイ導波路回折格子(Arrayed Waveguide Grating、以下、「AWG」ともいう)の登場により、1本の光ファイバ中に波長の異なる多数の光信号を同時に伝送させる波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing、以下、「WDM」ともいう)伝送方式が商用化され、大容量高速情報通信網の構築が加速された。
【0003】
このようなWDM伝送方式の商用化を可能にした要素技術のひとつとして、石英系光ファイバの低損失波長領域(1.55μm帯)における光増幅技術が挙げられる。波長980nm、1480nm等の半導体レーザを励起光として、波長1550nm帯の信号光を増幅する技術がすでに商用化されている。このとき、これら信号光と励起光が伝搬する光ファイバ中に希土類金属がドープされており、この希土類金属が励起光によって励起されたのち放出する1550nm帯の光を信号光に重畳することによって、長距離伝送過程で減衰する信号光強度を補っている。このような光ファイバ中にドープされる希土類金属としては、エルビウムが最もよく知られており、エルビウム・ドープ光ファイバ増幅器として広く商用に供せられている。また、エルビウムのほか、利用する信号光波長帯に応じて、プラセオジウム、ツリウム等の希土類金属を利用した光増幅器の開発が、活発に進められている。
【0004】
一般的に、希土類金属は石英系光ファイバ中に500〜1000ppm程度の濃度でドープされている。これ以上の濃度でドープすると希土類金属同士が凝集し、励起光によって励起された希土類金属のエネルギーが信号光波長相当の光を放射する前に隣接する希土類金属に移動してしまい、所望の発光を得られないという現象が起こることが知られている。これは「濃度消光」と呼ばれており、石英系光ファイバ中に希土類金属をドープできる限界を左右している(例えば、非特許文献1参照)。このため、励起光によって実用上必要な強度まで信号光を増幅するために、100m程度の長尺な光ファイバが必要となり、光増幅器の小型化を阻む要因となっている。
【0005】
一方、さらなる高機能化、低コスト化を目指し、光増幅器の石英系母材を有機重合体母材に置き換える検討がなされている。一般的に、有機重合体中にドープできる希土類金属として、希土類金属含有蛍光体があげられる。ここでいう蛍光体とは、ホスト材料、活性剤、活性助剤の3成分からなり、ホスト材料としては、酸化物結晶やイオン化合物結晶が用いられている。すなわち、活性剤成分としてそれ自体で蛍光性を有する希土類金属を有機重合体中に直接ドープするのではなく、希土類金属を、イットリウムアルミニウムガーネット(Yttrium Aluminum Garnet、以下、「YAG」ともいう)等の酸化物結晶に一旦ドープしたのち、この結晶を粉砕して有機重合体に混ぜ込むことによって目的を達成している。しかしながら、このような手法に拠った場合、YAG結晶を形成するために1400℃程度の高温で焼成する必要があり、プロセスコストが高くなる。また、粉砕された希土類金属含有蛍光体の粒径は、一般的に1000nm(1μm)以上であり、光増幅器への応用を目的として高濃度で分散させた場合、光散乱による透明性低下をきたし、光伝送路として機能しなくなる。従って、結晶等のホスト材料に希土類金属含有蛍光体を有機重合体にドープできる濃度には限界があり、ドープ量の高濃度化に伴う光増幅器の小型化と、光伝送媒質として有機材料を利用することによる経済性改善を両立させることができない。
【0006】
希土類金属を直接有機重合体中にドープする手法として、(a)ピリジン類、フェナントロリン類、キノリン類、β−ジケトン等の有機配位子と希土類金属との有機錯体を形成して、有機重合体中に希土類金属を分散させる、(b)希土類金属を有機包摂化合物中にとりこんだものを有機重合体に分散させる、等の有機無機複合体合成手法が提案されてきた(例えば、特許文献1、2、非特許文献2参照)。
【0007】
上記(a)、(b)に示された手法は、希土類金属の種類や濃度の制御幅を広げられる特徴を有している。また、このようにして得られた希土類金属含有分散相は分子オーダーであるため、この分散相が多少凝集しても数nm〜20nm程度の大きさに抑えることができるので、光散乱に伴う透明性の低下を来たすことなく高濃度ドープできるという特徴を有する。しかしながら、これらの方法に拠った場合、励起光によって励起された希土類金属の励起状態エネルギーが、量子力学で知られるフランク−コンドン原理によって希土類金属に直結する有機包摂化合物や有機配位子中のCH基やOH基の分子振動へと移行してしまい、希土類金属固有の発光過程が阻害される(消光される)という問題がある。
【0008】
このような問題を解決する手段として、希土類金属錯体の有機配位子や有機包摂化合物、又は有機重合体のCH基をフッ素化する、又は重水素化することによって希土類金属の励起エネルギー準位と有機配位子や有機包摂化合物中の励起エネルギー準位とが重ならないようにして、消光を抑制する手法が提案されている(例えば、特許文献3、4、5、6、非特許文献3参照)。
【0009】
CH基をフッ素化する手法は、希土類金属を高濃度で有機媒質中へ溶解分散することを可能にしつつ消光を抑制する上で効果的であるが、原料として用いられるフッ化物や重水素化物が非情に高価であるため、有機重合体を母材とする光増幅器を実用化することによって期待される光伝送網の経済性改善の効果を招来できない。
【0010】
効果的に希土類金属材料を有機重合体中にドープする方法として、希土類金属含有有機無機複合体を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献7参照)。希土類金属イオンに他の遷移金属が酸素を介して配位した無機分散相を光ドーピング材料として使用しているが、熱分解温度が低いために有機重合体を成型及び/又は微細加工する際の熱により希土類金属含有有機無機複合体が分解し、期待される増幅効果を得られないという問題が残る。
【特許文献1】特開平05−088026号公報
【特許文献2】特開2000−208851号公報
【特許文献3】米国特許6292292号公報
【特許文献4】米国特許6538805号公報
【特許文献5】特開2000−256251号公報
【特許文献6】特開平6−1914号公報
【特許文献7】特開2006−222403号公報
【非特許文献1】須藤昭一等編『光ファイバと光ファイバ増幅器』共立出版(2006年)、第172頁
【非特許文献2】C. Koeppen等、「Journal of Optical Society of America, B」、第14巻、第155頁(1997年)
【非特許文献3】L. H. Slooff等、Journal of Applied Physics、第91巻、第3955頁(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、さまざまな方法によって希土類金属材料を有機重合体にドープされた有機無機複合体の合成手法が提案されてきたが、希土類金属イオンの高濃度ドープ化、消光の抑制、光学的透明性の確保、熱安定性の改良の4点を全て満たしながら光増幅器に応用できる材料は知られていない。
【0012】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、(1)希土類金属イオンの高濃度ドープが可能で、(2)消光の抑制、(3)光学的透明性の確保、及び(4)熱安定性の改良が満たされた光ドーピング用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、希土類金属の塩と金属アルコキシドを反応させて得られる複合体と、キレート剤と、を有機溶媒中に混合して得られる光ドーピング用材料が耐熱性に優れることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0015】
(1)希土類金属の塩と金属アルコキシドを反応させて得られる複合体と、キレート剤と、を有機溶媒中に混合して得られる光ドーピング用材料。
【0016】
(2)前記キレート剤は、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボニル基からなる群から選ばれる、少なくとも2つの基を有する化合物である上記(1)に記載の光ドーピング用材料。
【0017】
(3)前記キレート剤は、ジケトン、三級アミノアルコールのいずれかである上記(2)に記載の光ドーピング用材料。
【0018】
(4)前記希土類金属はランタノイド系列より選ばれた元素であり、且つ前記金属アルコキシドの金属は、3B族、4B族、4A族、5A族、6A族金属、希土類金属より選ばれた1種又は2種以上の元素の組み合わせである上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の光ドーピング用材料。
【0019】
(5)DSC測定による熱分解温度が200℃以上であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の光ドーピング用材料。
【0020】
(6)励起光波長及び信号光波長において透明性を有する有機重合体に、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の光ドーピング用材料がドープされた光増幅媒体。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光ドーピング用材料は、希土類金属イオンの高濃度ドープが可能で、濃度消光を抑制することが出来、光学的透明性の確保を有する上に、さらに耐熱性が向上されたものである。
【0022】
本発明の光増幅媒体は、光増幅が効果的に発現しえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の光ドーピング用材料は、希土類金属の塩と金属アルコキシドを反応させて得られる複合体を、キレート剤で化学修飾することで耐熱性の向上を有することができる。
【0024】
<複合体>
まず、希土類金属の塩と金属アルコキシドを反応させて得られる複合体について説明する。
【0025】
本発明における複合体は、希土類金属イオンに対して金属アルコキシドの酸素が配位した構造を有するものであり、例えば、溶媒中に上記希土類金属の塩と金属アルコキシドを配合し、還流させることで得ることができる。
【0026】
複合体を得るための還流に用いる溶媒としては、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME)、トルエン、ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。
【0027】
本発明の光ドーピング用材料を構成するために用いる希土類金属の塩と金属アルコキシドを反応させて得られる複合体としては、一つの希土類金属イオンと、該希土類金属イオンに酸素を介して配位可能な金属であれば、どのような組み合わせであってもよい。
【0028】
本発明における複合体は、1つの希土類金属イオンが酸素を介して他の金属イオンが少なくとも1つ配位したものである。ここで、重要なことは、酸素を介した隣接位置への同種の希土類金属イオンの存在を可能な限り低減することである。従って、酸素及び他の金属イオンからなる配位子の数や種は固定されたものではない。すなわち、1つの希土類金属イオンに対して、1つ以上の他の金属イオンが酸素を介して配位することが可能であり、配位子(他の金属イオン)の数は希土類金属イオン、金属アルコキシドの金属の種により変わる。
【0029】
上記希土類金属の塩としては、特に限定されないが、例えば、希土類金属の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物、ギ酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、クロム塩等を用いることができる。アニオン不純物の低減等を考えると、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩が好ましい。より好ましくは、酢酸塩が用いられる。希土類金属の酢酸塩は、通常結晶水を含んでおり、配位させる他の金属の種類によってはそのまま使用することも可能であるが、反応前に脱水処理を行った方が好ましい。酢酸塩以外の希土類金属の塩も、110〜120℃で1〜2時間程度脱水したものであることが好ましい。
【0030】
なお、希土類金属とは、ランタニド類(ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu))、スカンジウムおよびイットリウムを指し、本発明においては、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)が有用であり、好ましい。光通信において1.5μm帯(S帯1460−1530nm、C帯1530−1565nm、L帯1565−1625nm)と呼ばれる波長領域における光増幅器へ応用する際に、特にエルビウムは、1533nmを中心波長とする蛍光発光の準位を持つことから、好ましい。
【0031】
また、上記金属アルコキシドは、特に限定されないが、好ましくは、周期表上の3B族(バリウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等)、4A族(チタン、ジルコニウム、ハフニウム等)、4B族(ケイ素、ゲルマニウム等)、5A族(バナジウム、ニオブ、タンタル等)、6A族(モリブデン、タングステン等)または希土類金属の金属に、炭素数1〜5のアルコキシドが1以上結合したものであり、より好ましくは、アルミニウム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、ニオブまたはタンタル等の金属に、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシド等のアルコキシド基が1以上結合したものである。特にアルミニウムのアルコキシドは、石英ガラスを母材としエルビウムをドーパントとする光アンプ用光ファイバにおいて、エルビウムとアルミニウムを共添加するとプラス効果があることから好ましい。また、上記金属アルコキシドは、単独でも2種以上併用してもよい。
【0032】
上記希土類金属の塩と上記金属アルコキシドを反応させる際のそれぞれの配合比は、希土類金属の価数に応じて適宜決定すればよく、特に限定されないが、例えば、エルビウム塩とアルミニウムアルコキシドを用いる場合には、3価であるエルビウム1モルに対してアルミニウムが3モルとなるようにそれぞれを配合する。また、希土類金属の塩と金属アルコキシドを反応させる際に用いる溶媒や反応条件等は、両者の反応が完結するように適宜決定すればよく、特に限定されない。
【0033】
<光ドーピング用材料>
本発明の光ドーピング用材料は、前記複合体をキレート剤で有機溶媒中、混合して化学修飾することで耐熱性の向上ができる。希土類金属イオンとその他の金属イオンが近傍に共に存在することで、濃度消光を抑制することができ、希土類金属イオンの有機重合体への高濃度ドープが可能になる。
【0034】
また、希土類金属イオンと他の金属イオンが近傍に共に存在することにより、光増幅器に用いたとき、有機重合体中のCH基やOH基と希土類金属との間のエネルギー移動による振動消光を抑制することができる。
【0035】
しかし、希土類金属の塩と金属アルコキシドを反応させて得られる複合体では、熱分解温度が低いために、光増幅器に用いる際に、有機重合体を成型及び/又は微細加工するときの熱により、希土類金属の塩と金属アルコキシドを反応させて得られる複合体が分解し、期待される増幅効果が得られない。
【0036】
そこで、分子内に、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボニル基からなる群から選ばれる、少なくとも2つの基を有するキレート剤を用いて、前記複合体を化学修飾することにより耐熱性を向上させることができる。
【0037】
本発明におけるキレート剤は、金属イオンに配位できる配位座が2つ以上であれば特に制限はないが、好ましくはジケトン、三級アミノアルコールが挙げられる。
【0038】
上記ジケトンとして、例えば下記式Iで示すジケトンが挙げられ、具体的には、アセチルアセトン、エチルアセチルアセテート、アセトニルアセトン、ヘキサンジオン等が挙げられる。
【0039】
(CO)R(CO)R 式I
上記式中、R、Rは、アルキル基;又は反応性を有するビニル基、アリル基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基等の官能基を含有するアルキル基;であり、Rはアルキレン基である。
【0040】
より好ましくは、上記式中、R、Rは、C1〜C4のアルキル基;又は反応性を有するビニル基、アリル基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基等の官能基を含有するC1〜C4のアルキル基;であり、RはC1〜C2アルキレン基である。
【0041】
本発明に用いられる三級アミノアルコールとしては、下記式IIで示すものが挙げられ、具体的には、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジプロピルアミノエタノール、ジメチルアミノプロパノール等が挙げられる。また、キニジンも好ましく用いられる。
【0042】
【化1】

上記式中、R、Rは、アルキル基;又は反応性を有するビニル基、アリル基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基等の官能基を含有するアルキル基;であり、Rはアルキレン基;又は反応性を有するビニル基、アリル基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基等の官能基を含有するアルキレン基である。
【0043】
より好ましくは、上記式中、R、Rは、C1〜C4のアルキル基;又は反応性を有するビニル基、アリル基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基等の官能基を含有するC1〜C4のアルキル基;であり、Rは、C1〜C2のアルキレン基;又は反応性を有するビニル基、アリル基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基等の官能基を含有するC1〜C2のアルキレン基である。
【0044】
前記複合体とキレート剤を混合する際に用いる有機溶媒は特に限定されるものではなく、光ドーピング用材料を有機重合体に分散でき、且つ複合体とキレート剤に対して溶解性があれば何を用いてもよい。このような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等の1級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコール−α−モノメチルエーテル、プロピレングリコール−α−モノエチルエーテル等のグリコールエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル;アセトニトリル;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素化合物;ジメチルアセトアミド(DMAc)等が用いられる。
【0045】
上記キレート剤の上記複合体に対する混合割合は特に限定はされないが、上記希土類金属の金属1モルに対して3当量以上であることが好ましい。
【0046】
本発明の光ドーピング用材料は、上記複合体と上記キレート剤を上記有機溶媒中で混合、詳しくは20〜28℃、大気中あるいは窒素雰囲気下等で、1〜2時間攪拌することで得ることができる。得られる反応溶液を、溶液のまま、あるいは溶媒分離等により溶媒を除去後固体として、有機重合体を含む有機溶媒と混合して用いられる。
【0047】
本発明の光ドーピング用材料は、熱分解温度が200℃以上であることが好ましい。より好ましくは、230℃以上である。
【0048】
熱分解温度は、示差走査熱量測定により測定可能である。
【0049】
示差走査熱量測定(DSC)装置(例えばPerkinElmer製、製品名:Pyris 1)を用い、下記の測定条件で熱分解温度の測定を行う。光ドーピング用材料をプロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン等の溶媒に10〜30質量%の濃度となるように溶解し、該溶液の55mgをアルミニウムパンに取り、溶媒除去のため130℃で30分保持する。その後、一旦室温まで冷却の後に、昇温速度10℃/min.で500℃まで加熱した。測定は開放系にて行う。
【0050】
<光増幅媒体>
本発明の光増幅媒体は、上記光ドーピング用材料と、励起光波長及び信号光波長において透明性を有する有機重合体と、を有するものである。
【0051】
なお、光増幅媒体に用いる光ドーピング用材料は、異なる希土類金属からなる組み合わせを用いることも好ましい。
【0052】
本発明における有機重合体としては、励起光波長及び信号光波長において透明性を有し、上記光ドーピング用材料を凝集させることなく分散できるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは、光学機能の発現が利用される波長帯域、特に励起光波長及び信号光波長において実質的に透明性を有するものが用いられる。ここで光学機能の発現が利用される波長帯域とは、紫色〜赤色の可視帯に限られるものではなく、波長約400nmの紫色よりも波長が短い紫外線やX線、及び波長約750nmの赤色よりも波長が長い赤外線の帯域であってもよい。
【0053】
このような有機重合体としては例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリシクロヘキシルメタクリレート、ポリベンジルメタクリレート、ポリフェニルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリビニルカルバゾール、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリオレフィン、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリシロキサン、ポリシラン、ポリアミド、環状オレフィン樹脂等が例示できるが、これらに限定されるものではない。また、これらの有機重合体は、単独で用いてもよく2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0054】
これらの有機重合体を溶媒に溶解し、又は加熱等によって溶融したものを、上記光ドーピング用材料と混合し、目的とする光増幅媒体の形態に加工できる。また、目的とする有機重合体の前駆体となるモノマー、オリゴマー等を適宜選択し、上記光ドーピング用材料と混合したものを出発原料として用い、光増幅媒体の形態に加工する過程で重合化することもできる。
【0055】
さらには、光増幅媒体の材料に用いる有機重合体は、その主鎖や側鎖に、光や熱によって付加、架橋、重合等の反応を促す官能基を有していてもよい。このような官能基としては、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、ジアゾ基、ニトロ基、シンナモイル基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基等が例示できる。これらの官能基を有機重合体が有することにより、基板等との接着性向上を図る、また、光ドーピング用材料以外の機能性を持つ有機材料を付加反応させる等ができる。
【0056】
光増幅媒体は、可塑剤、酸化防止剤等の安定剤、界面活性剤、溶解促進剤、重合禁止剤、染料や顔料等の着色剤等の添加物を含んでいても良い。さらに、光増幅媒体は、塗布性等の成型加工性を高めるために、溶媒(水、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、炭化水素類等の有機溶媒)を含んでいてもよい。
【0057】
光ドーピング用材料を有機重合体に分散させた場合、散乱要因とならないように光ドーピング用材料は直径20nm以下で存在するのが好ましい。
【0058】
本発明の光増幅媒体は、光導波路アンプの光導波路、光アンプやレーザの微小光学素子、温度センサー材料等に利用可能である。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0060】
<複合体の作製例1>
200mLのナスフラスコに酢酸エルビウム四水和物9.04gを入れ、110℃/真空下(約7mmHg)の条件下で2時間乾燥、脱水して酢酸エルビウム7.25gを得た。窒素雰囲気下、得られた酢酸エルビウムにプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)24.1mLを攪拌しながら加え、分散させた。ついで、酢酸エルビウムのエルビウム1モルに対して、アルミニウムトリ−s−ブトキシドが6当量になるように、アルミウムトリ−s−ブトキシドのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液(濃度10.8質量%)30.6gを加えた。
【0061】
その後、120℃で還流攪拌し反応を行ったところ、5分程度で透明溶液となった。2時間後、反応溶液を室温まで冷却してEr−Al複合体のPGME溶液(淡桃色透明溶液、10.0質量%)を得た。
【0062】
<複合体の作製例2>
200mLのナスフラスコに酢酸エルビウム四水和物3.33gを入れ、110℃/真空下(約7mmHg)の条件下で2時間乾燥、脱水して酢酸エルビウム2.76gを得た。窒素雰囲気下、得られた酢酸エルビウムにトルエン14.5mLを攪拌しながら加え、分散させた。ついで、酢酸エルビウムのエルビウム1モルに対して、アルミニウムトリ−s−ブトキシドが6当量になるように、アルミウムトリ−s−ブトキシドのトルエン溶液(濃度10.0質量%)12.3gを加えた。
【0063】
その後、110℃で還流攪拌し反応を行ったところ、12時間程度で透明溶液となった。さらに2時間攪拌の後、反応溶液を室温まで冷却してEr−Al複合体のトルエン溶液(淡桃色透明溶液、10質量%)を得た。
【0064】
(実施例1)
<光ドーピング用材料の作製1>
上記の複合体の作製例1で得られたEr−Al複合体のPGME溶液(10.0質量%)を5.0g秤量し、溶液中のエルビウムイオン1.39mmolに対して6当量のアセトニルアセトン(0.95g/8.34mmol)を、シリンジを用いてゆっくりと滴下しながら攪拌し、その後1時間攪拌を行い、光ドーピング用材料1のPGME溶液を得た。
【0065】
<熱安定性の測定>
示差走査熱量測定(DSC)装置(例えばPerkinElmer製、製品名:Pyris 1)を用い、得られた光ドーピング用材料1の熱分解温度(Td)を測定した。その結果、Td=218.7℃であった。得られたDSC測定のスペクトルを図1に示す。
【0066】
熱分解温度の測定の条件は以下のとおりである。
【0067】
上記溶液の55mgをアルミニウムパンに取り、溶媒除去のため130℃で30分保持した。その後、一旦室温まで冷却の後に、昇温速度10℃/min.で500℃まで加熱した。測定は開放系にて行った。
【0068】
(実施例2)
<光ドーピング用材料の作製2>
上記の複合体の作製例1で得られたEr−Al複合体のPGME溶液(10.0質量%)を5.0g秤量し、溶液中のエルビウムイオン1.39mmolに対して3当量のジメチルアミノプロパノール(0.43g/4.17mmol)を、シリンジを用いてゆっくりと滴下しながら攪拌し、その後1時間攪拌を行い、光ドーピング用材料2のPGME溶液を得た。
【0069】
<熱安定性の測定>
実施例1と同様に、熱安定性の測定を行ったところ、Td=358.3℃であった。得られたDSC測定のスペクトルを図2に示す。
【0070】
(実施例3)
<光ドーピング用材料の作製3>
上記の複合体の作製例1で得られたEr−Al複合体のPGME溶液(10.0質量%)を5.0g秤量し、溶液中のエルビウムイオン1.39mmolに対して6当量のジメチルアミノエタノール(0.86g/8.34mmol)を、シリンジを用いてゆっくりと滴下しながら攪拌し、その後1時間攪拌を行い、光ドーピング用材料3のPGME溶液を得た。
【0071】
<熱安定性の測定>
実施例1と同様に、熱安定性の測定を行ったところ、Td=238.0℃であった。得られたDSC測定のスペクトルを図3に示す。
【0072】
(実施例4)
<光ドーピング用材料の作製4>
上記の複合体の作製例1で得られたEr−Al複合体のPGME溶液(10.0質量%)を5.0g秤量し、溶液中のエルビウムイオン1.39mmolに対して12当量のアセチルアセトン(1.67g/16.68mmol)を、シリンジを用いてゆっくりと滴下しながら攪拌し、その後1時間攪拌を行い、光ドーピング用材料4のPGME溶液を得た。
【0073】
<熱安定性の測定>
実施例1と同様に、熱安定性の測定を行ったところ、Td=213℃であった。得られたDSC測定のスペクトルを図4に示す。
【0074】
(実施例5)
<光ドーピング用材料の作製5>
上記の複合体の作製例1で得られたEr−Al複合体のPEGME溶液から溶媒置換により調製された、Er−Al複合体のジメチルアセトアミド(DMAc)溶液(10.0質量%)を0.6g秤量し、溶液中のエルビウムイオン0.06mmolに対して3当量のキニジン(0.06g/0.18mmol)のDMAc溶液(20.0質量%)を、シリンジを用いてゆっくりと滴下しながら攪拌し、その後1時間攪拌を行い、光ドーピング用材料5のDMAc溶液を得た。
【0075】
なお、PGME溶液からDMAcへの溶媒置換は、以下のようにして行った。Er−Al複合体のPGME溶液より、真空条件下、室温にて溶媒を留去した。DMAcを加え、窒素雰囲気下で均一となるまで攪拌し、Er−Al複合体のDMAc溶液を得た。
【0076】
<熱安定性の測定>
実施例1と同様に、熱安定性の測定を行ったところ、Td=251.9℃であった。得られたDSC測定のスペクトルを図5に示す。
【0077】
(実施例6)
<光ドーピング用材料の作製6>
上記の複合体の作製例1で得られたEr−Al複合体のPEGME溶液から溶媒置換により調製された、Er−Al複合体のDMAc溶液(10.0質量%)を0.6g秤量し、溶液中のエルビウムイオン0.06mmolに対して6当量のキニジン(0.12g/0.36mmol)のDMAc溶液(20.0質量%)を、シリンジを用いてゆっくりと滴下しながら攪拌し、その後1時間攪拌を行い、光ドーピング用材料6のDMAc溶液を得た。
【0078】
<熱安定性の測定>
実施例1と同様に、熱安定性の測定を行ったところ、Td=282.0℃であった。得られたDSC測定のスペクトルを図6に示す。
【0079】
(比較例1)
<熱安定性の測定>
光ドーピング用材料として、光ドーピング用材料1の代わりにキレート剤を混合する前の上記Er−Al複合体を用いて、熱安定性の測定を行ったところ、Tdは197℃であった。得られたDSC測定のスペクトルを図7に示す。
【0080】
(比較例2)
<光ドーピング用材料の作製7>
上記の複合体の作製例2で得られたEr−Al複合体のトルエン溶液(10.0質量%)を0.6g秤量し、溶液中のエルビウムイオン0.06mmolに対して3当量のメチル−2−フェニルスルフィニルアセテート(0.03g/0.18mmol)のトルエン溶液(33.3質量%)を、シリンジを用いてゆっくりと滴下しながら攪拌し、その後1時間攪拌を行い、光ドーピング用材料7のトルエン溶液を得た。
【0081】
<熱安定性の測定>
光ドーピング用材料として、光ドーピング用材料1の代わりに上記光ドーピング用材料7を用いて、実施例1と同様に熱安定性の測定を行ったが、200℃程度で異臭がし出し、分解したようだった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の光ドーピング用材料は、信号光の強度を、励起光によって増幅する光増幅器に関して好適に用いられる。このような光増幅器の例として、すでに石英系無機材料を母材として商用化されているEDFAがあげられるが、本発明により、石英系無機材料を有機重合体によって置換え、低価格化を可能にする。
【0083】
また、従来50〜100ppm程度しかドープできなかった希土類金属イオンを10質量%(100000ppm)以上ドープできることから、長尺ものでしか実現できなかった光増幅器の小型化を可能にする。このことから、従来用いられてきた長距離幹線系の光ファイバ網だけでなく、加入者系光通信網等、伝送路の後段分岐数が増え、分岐による光伝送損失が問題となるような用途においてもその効果を発揮しえる。
【0084】
さらに、今後、コンピュータ内ボード間伝送やボード内伝送を従来の電子にかわって光に担わせることによって、情報処理容量や速度のボトルネックを打破しようとして研究が進められている光インターコネクション分野においても、本発明の効果が発揮し得る。
【0085】
また、本発明の光ドーピング用材料を用いた光増幅媒体は、光増幅器アンプだけでなく、光アンプやレーザの微小光学素子、温度センサー材料等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の光ドーピング用材料(実施例1)のDSC測定のスペクトルを示す。
【図2】本発明の光ドーピング用材料(実施例2)のDSC測定のスペクトルを示す。
【図3】本発明の光ドーピング用材料(実施例3)のDSC測定のスペクトルを示す。
【図4】本発明の光ドーピング用材料(実施例4)のDSC測定のスペクトルを示す。
【図5】本発明の光ドーピング用材料(実施例5)のDSC測定のスペクトルを示す。
【図6】本発明の光ドーピング用材料(実施例6)のDSC測定のスペクトルを示す。
【図7】本発明の光ドーピング用材料(比較例1)のDSC測定のスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属の塩と金属アルコキシドを反応させて得られる複合体と、キレート剤と、を有機溶媒中に混合して得られる光ドーピング用材料。
【請求項2】
前記キレート剤は、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボニル基からなる群から選ばれる、少なくとも2つの基を有する化合物である請求項1に記載の光ドーピング用材料。
【請求項3】
前記キレート剤は、ジケトン、三級アミノアルコールのいずれかである請求項2に記載の光ドーピング用材料。
【請求項4】
前記希土類金属はランタノイド系列より選ばれた元素であり、且つ前記金属アルコキシドの金属は、3B族、4B族、4A族、5A族、6A族金属、希土類金属より選ばれた1種又は2種以上の元素の組み合わせである請求項1〜3のいずれか一項に記載の光ドーピング用材料。
【請求項5】
DSC測定による熱分解温度が200℃以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光ドーピング用材料。
【請求項6】
励起光波長及び信号光波長において透明性を有する有機重合体に、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光ドーピング用材料がドープされた光増幅媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−200349(P2009−200349A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41942(P2008−41942)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】