説明

光バッファメモリ装置及び光信号記録方法

【課題】光学部品点数を低減させ、低コスト化を図ることができ、光パルス信号列を電気変換を行うことなく蓄積し、常温で使用可能であり、高速光ネットワークや量子コンピュータといった最新の光技術への本格的な対応が期待される光バッファメモリ装置を提供する。
【解決手段】本光バッファメモリ装置は、特定の波長のパルス状の信号光5を、信号光5とは異なる波長のパルス状の変換光7に変換する波長変換器1と、波長変換器1により波長変換されたパルス状の変換光7の情報を、書込み及び読出し可能な記録媒体に一時的に記録させた後、前記特定の波長のパルス状の信号光10として取出す記録再生装置2を有する。波長変換器1は、信号光5に対し吸収性を示し変換用光6に対し透過性を示す波長帯域を持つ光吸収層を含み、所定の光照射条件で熱レンズ形成光素子11を形成する。熱レンズ形成光素の光吸収層には、信号光5と変換用光6とを各々集光点を光軸に対して直角方向で異ならせて集光させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光バッファメモリ装置及び光信号記録方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、特に高速光ネットワーク、量子コンピュータ等の最新の光技術分野に好ましく適用される光バッファメモリ装置及び光信号記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光を用いた高速光ネットワーク、量子コンピュータ等の最新の光技術に不可欠の光ルーター、高効率非線形デバイスなどの実現のためには、情報を載せた光の情報を電気的な方法を用いないで光を利用して保存・蓄積する光バッファメモリが必要である。そこで媒質中において光パルスを低群速度で伝播させること、あるいは一時的に蓄積する技術が求められている。
【0003】
現在は、光ファイバーなどを用いた遅延回路が主に使用されている。ところが、このような方法では、高速光ネットワーク、量子コンピュータ等の最新の光技術には十分に対応することができない。
【0004】
一方、最近、電磁誘導透過を利用して、固体中で光パルスの減速と蓄積を観測したとの報告がなされている(非特許文献1)。この報告では、絶対温度5Kに冷却されたPr:YSO(プラセオジウム・イットリウムシリケート;強い単色光を当てると、吸収スペクトル中でその波長の吸収が起きなくなるスペクトルホールバーニング現象を示す)結晶に、波長606nmの制御光とプローブ光パルスを入射し、制御光の強度を調整してプローブ光の伝播を制御することにより、群速度が45m/sまで低減され、制御光のオン・オフによりプローブ光を約0.3msの間一時的に蓄積することができたとされている。
【0005】
ところが、電磁誘導透過を利用した上記方式は実験段階にあり、また極低温での現象であるので、将来は実用化の可能性はあるかもしれないが、現在高速光ネットワーク等などで渇望されている光バッファメモリとしての実用化には程遠い状況である。
【0006】
そこで、本発明者らは、特許文献1において、光パルス信号列を電気変換を行うことなく蓄積し、常温で使用が可能であり、高速光ネットワークや量子コンピュータといった最新の光技術への対応が期待される光バッファメモリ装置を提案した。この光バッファメモリ装置は、特定の波長のパルス状の信号光を、信号光とは異なる波長のパルス状の変換光に変換する波長変換器と、波長変換器により波長変換されたパルス状の変換光の情報を、書込み及び読出し可能な記録媒体に一時的に記録させた後、前記特定の波長のパルス状の信号光として取出す記録再生装置を有する光バッファメモリ装置であって、前記波長変換器が、特定の波長のパルス状信号光を入射する信号光入力部又は特定の波長のパルス状信号光を出射する信号光光源と、信号光とは異なる波長の変換用光を照射する変換用光光源と、信号光に対し吸収性を示し、変換用光に対し透過性を示す波長帯域を持つ光吸収層と、光吸収層に、信号光と変換用光が焦点を結ぶように各々収束させて照射する手段と、前記光吸収層を含み、前記光吸収層が信号光を吸収した領域及びその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、信号光が照射されず熱レンズが形成されない場合は収束された変換用光が通常の開き角度で出射する状態と、制御光が照射されて熱レンズが形成される場合は収束された変換用光が通常の開き角度よりも大きい開き角度で出射する状態とを、信号光の照射の有無に対応させて実現させる熱レンズ形成光素子と、出射した変換用光のうち、通常の開き角度よりも大きい角度で出射する変換用光のみを変換光として出射する変換光選択手段と、変換光選択手段からの変換光を集光して、信号光とは異なる波長のパルス状変換光とする集光部
を備えることを特徴とするものである。
【0007】
さらに特許文献2には、電気的又は機械的手段を採らず、制御ビームの照射でスイッチ物質の屈折率を変え、信号ビームの光路を変える光スイッチが提案されている。
【非特許文献1】A.V.Turukhin et al., "Observation of ultraslow and stored light pulses in a solid", Physical Review Letters 88, 023602, 2002
【特許文献1】特開2006−139224号公報
【特許文献2】米国特許第4,585,301号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1において提案した光バッファメモリ装置によれば、光パルス信号列を電気変換を行うことなく蓄積し、常温で使用可能であり、上記従来技術の問題を解消することができるようになったものの、依然、多くの光学部品を必要とするため、本格的な実用化のためにはさらに改善の余地があった。
【0009】
一方、特許文献2に開示されている光路切替手法をこの光バッファメモリ装置に適用することも考えられるが、その場合、偏向角をあまり大きくできず、また屈折率変化を行わせるレーザ光は大パワーが必要であるという問題があった。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、光学部品点数を低減させ、低コスト化を図ることができ、光パルス信号列を電気変換を行うことなく蓄積し、常温で使用可能であり、高速光ネットワークや量子コンピュータといった最新の光技術への本格的な対応が期待される光バッファメモリ装置及びそれを可能とする光信号記録方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたもので、第1には、特定の波長のパルス状の信号光を、信号光とは異なる波長のパルス状の変換光に変換する波長変換器と、波長変換器により波長変換されたパルス状の変換光の情報を、書込み及び読出し可能な記録媒体に一時的に記録させた後、前記特定の波長のパルス状の信号光として取出す記録再生装置を有する光バッファメモリ装置であって、前記波長変換器が、特定の波長のパルス状信号光を入射する信号光入力部と、信号光とは異なる波長の変換用光を照射する変換用光光源と、信号光に対し吸収性を示し変換用光に対し透過性を示す波長帯域を持つ光吸収層を有する熱レンズ形成光素子と、光吸収層に信号光と変換用光とを各々集光点を光軸に対して直角方向で異ならせて集光させる第1の集光部を備え、熱レンズ形成光素子は、光吸収層が信号光を吸収した領域及びその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、信号光が照射されず熱レンズが形成されない場合は変換用光を進行方向を変えない非偏向光として出射する状態と、信号光が照射されて熱レンズが形成された場合は変換用光を進行方向を変えた偏向光として出射する状態とを、信号光の照射の有無に対応させて実現させ、さらに、熱レンズ形成光素子より出射した出射した変換用光のうち、偏向光である変換用光のみを変換光として出射する変換光選択部と、変換光選択部からの変換光を集光して、信号光とは異なる波長のパルス状変換光とする第2の集光部を備えることを特徴とする光バッファメモリ装置を提供する。
【0012】
また、第2には、特定の波長のパルス状の信号光を、信号光とは異なる波長のパルス状の変換光に変換する波長変換器と、波長変換器により波長変換されたパルス状の変換光の情報を、書込み及び読出し可能な記録媒体に一時的に記録させた後、前記特定の波長のパルス状の信号光として取出す記録再生装置とを有する光メモリバッファ装置であって、前
記波長変換器が、特定の波長のパルス状信号光を出射する信号光光源と、信号光とは異なる波長の変換用光を照射する変換用光光源と、信号光に対し吸収性を示し変換用光に対し透過性を示す波長帯域を持つ光吸収層を有する熱レンズ形成光素子と、光吸収層に信号光と変換用光とを各々集光点を光軸に対して直角方向で異ならせて集光させる第1の集光部を備え、熱レンズ形成光素子は、光吸収層が信号光を吸収した領域及びその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、信号光が照射されず熱レンズが形成されない場合は変換用光を進行方向を変えない非偏向光として出射する状態と、信号光が照射されて熱レンズが形成された場合は変換用光を進行方向を変えた偏向光として出射する状態とを、信号光の照射の有無に対応させて実現させ、さらに、熱レンズ形成光素子より出射した出射した変換用光のうち、偏向光である変換用光のみを変換光として出射する変換光選択部と、変換光選択部からの変換光を集光して、信号光とは異なる波長のパルス状変換光とする第2の集光部を備えることを特徴とする光バッファメモリ装置を提供する。
【0013】
第3には、上記第1又は第2の発明において、前記記録再生装置が、信号光とは異なる波長の光で前記記録媒体に記録を行う記録ヘッドと、信号光と同じ波長の光で読出しを行う再生ヘッドを有することを特徴とする光バッファメモリ装置を提供する。
【0014】
第4には、上記第1から第3のいずれかの発明において、前記記録媒体が、DVDであることを特徴とする光バッファメモリ装置を提供する。
【0015】
また、本発明は、第5には、特定の波長のパルス状の信号光を、信号光とは異なる波長のパルス状の変換光に変換し、波長変換されたパルス状の変換光の情報を、書込み及び読出し可能な記録媒体に一時的に記録させた後、前記特定の波長のパルス状の信号光として取出す方法であって、前記波長変換の方法として、特定の波長のパルス状信号光に対し吸収性を示し信号光とは異なる波長の変換用光に対し透過性を示す波長帯域を持つ光吸収層を含む熱レンズ形成光素子の該光吸収層に、信号光と変換用光とを各々集光点を光軸に対して直角方向で異ならせて集光させ、光吸収層が信号光を吸収した領域及びその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、信号光が照射されず熱レンズが形成されない場合は変換用光を進行方向を変えない非偏向光として出射する状態と、制御光が照射されて熱レンズが形成された場合は変換用光を進行方向を変えた偏向光として出射する状態とを、信号光の照射の有無に対応させて実現させ、出射した変換用光のうち、偏向光である変換用光のみを変換光として出射させ、出射した変換光を集光して、信号光とは異なる波長のパルス状変換光とする方法を用いることを特徴とする光信号記録方法を提供する。
【0016】
第6には、上記第5の発明において、信号光とは異なる波長の光で前記記録媒体に記録を行い、信号光と同じ波長の光で読出しを行うことを特徴とする光信号記録方法を提供する。
【0017】
第7には、上記第5又は第6の発明において、前記記録媒体としてDVDを用いることを特徴とする光信号記録方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光パルス信号列を電気変換を行うことなく蓄積し、常温で使用可能な光バッファメモリ装置及びそれを可能とする光信号記録方法が提供される。また、熱レンズ形成光素子を利用して波長変換を行うので、電気回路や機械的可動部分を用いないで、応答速度が非常に高速で、種々の波長(光通信帯の近赤外領域から紫外領域まで)の光の利用が可能となる利点がある。さらに、既に製品化されており、200Mbit/秒の転送速度を実現しているDVDが活用され、高速光ネットワーク、量子コンピュータ等、最
新の光技術への対応が期待できる。その上、光学部品点数を低減させ、低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明による光バッファメモリ装置の一実施形態の概念図を図1(a)、(b)に示す。また、この実施形態の光バッファメモリ装置における波長変換器の概念図を図2に示し、図2の熱レンズ形成光素子に使用される一例の光吸収層に用いる材料(この場合、色素)の波長と吸収特性及び透過特性との関係を図3に示す。
【0020】
本実施形態の光バッファメモリ装置は、図1に示すように波長変換器1とDVD装置2を有する。図1では、便宜的にファイバー増幅器からなる信号入力部3(図2の12)と変換用光光源4(図2の13)を波長変換器1の外側に示してあるが、実際はこれらを含んでいるものとする。
【0021】
本光バッファメモリ装置では、書込みの際には、波長変換器1が、たとえばファイバー増幅器からなる信号入力部3より波長1.55μmの入力パルス信号光5(図2の14)を入力するとともに、変換用光光源4(図2の13)より波長650nmの変換用光6(図2の15)を入力し、波長変換を行い、変換光7(図2の16)とする。そしてこの変換光7を利用して、DVD装置2は書込み及び読出し可能なDVDに信号パルス列の情報を一時的に書込む。この場合、波長650nm用の記録ヘッド(図示せず)が使用される。
【0022】
読出しの際には、入力パルス信号5と同じ波長の1.55μmのレーザ光を出射する読出し光用光源(レーザダイオード)8により、波長1.55μm用の再生ヘッド(図示せず)を使用して、DVD装置8のDVDから一時記録されていた信号パルス列の情報を再生し、ファイバー増幅器からなる信号出力部9より出力パルス信号光10として出射する。
【0023】
なお、記録ヘッドと再生ヘッドは共通に設けられたものでも、別々に設けられたものでもよい。
【0024】
ここで、本実施形態の光バッファメモリ装置における波長変換器の概念について説明する。なお、ここでは、信号光、変換用光、変換光の波長は特定せず、一般的な場合について述べる。図2に示すように、波長変換器では、光制御型熱レンズ形成光素子11を用い、信号入力部12より任意波長Aの光パルス信号を信号光14として入射するとともに、変換用光光源13より任意波長Bの連続光を変換用光15として入射し、任意波長Bの光パルスを変換光16として出射する。信号入力部12より入射する信号光14はレーザ光源をはじめ従来から使用されている各種の光源からの光を用いることができる。また、変換用光光源13にはレーザ装置が好適に用いられるが、これに限定されない。
【0025】
熱レンズ形成光素子11には、図3に示すような波長帯域を持つ光吸収層を設ける。すなわち、この光吸収層は、波長Aに対して吸収率が大であり、波長Bに対して透過率が大で、かつ、屈折率効果(温度の変化に対して大きな屈折率変化を示す)を有するものとする。このような波長帯域の形態は、光吸収層の材料によって様々な形態をとるので、材料の選択により波長A、Bは任意に選ぶことができる。以上は、本発明者らが先に特許文献1で述べたものと同様であるが、以下に詳述する点において相違している。
【0026】
次に、本実施形態の光バッファメモリ装置を、波長変換器1の構成を中心に、より具体的に説明する。
【0027】
図4は本実施形態の光バッファメモリ装置における波長変換器の要部構成を模式的に示した図である。この波長変換器は図示しない変換用光光源(図2の13)を有し、この変換用光光源からの連続(CW)光である変換用光21を取り込むための入力ポート22と、変換用光21の波長とは異なる波長を有するパルス状信号光23を取り込むための入力ポート24が設けられている。入力ポート22の下流側には入射した変換用光21を平行光とするための第1のコリメートレンズ25が配置され、入力ポート24の下流側には入射した信号光23を平行光とするための第2のコリメートレンズ26が配置されている。なお、便宜上、図4には、平行光を幅を持たない直線で表してある。第1のコリメートレンズ25と第2のコリメートレンズ26の下流側には光混合器27が配置され、光混合器27は、第1のコリメートレンズ25からの平行光である変換用光21は透過させ、第2のコリメートレンズ26からの平行光である信号光23は反射しその光路を変える。光混合器27の下流側には第1の集光レンズ28、熱レンズ形成光素子29、第3のコリメートレンズ30、波長選択透過フィルター31、分岐ミラー32、第2の集光レンズ33がそれぞれ配置されている。第1の集光レンズ28は光混合器27からの変換用光21及び信号光23を熱レンズ形成光素子29の光吸収層に集光(収束)させる。ここで、第1の集光レンズ28には変換用光21と信号光23は光軸に直角な方向にずれた位置にて入射し、熱レンズ形成光素子29の光吸収層にも光軸に直角な方向にずれた位置にて入射し、集光点が分離するようになっている。
【0028】
熱レンズ形成光素子29は、変換用光21のみが入射した場合には進行方向を変えない非偏向光として出射し、変換用光21と信号光23が同時に入射した場合には熱レンズを形成し、変換用光21の進行方向を変えた偏向光として出射する。第3のコリメートレンズ30は変換用光21(非偏向光及び偏向光)と信号光23を平行光とする。波長選択透過フィルター31は、変換用光21は透過させ、信号光23はカットする。波長選択透過フィルター31の下流に設けられた分岐ミラー32は非偏向光と偏向光とを分岐し、偏向光は反射しその光路を変える。非偏向光はそのまま直進することになる。また、分岐ミラー32の図中上方には、光路を変えた偏向光の光路を更に変えるミラー34と、ミラー34からの光を集光する第3の集光レンズ35が配置されている。また、本波長変換器は2つの出力ポート36、37を有している。出力ポート36は信号光23のオフ時に第2の集光レンズ33で集光された非偏向光の光出力を行う。出力ポート37は信号光23のオン時に分岐ミラー32及びミラー34で光路を変えられ、第3の集光レンズ35で集光された偏向光を変換光として光出力を行う。
【0029】
本波長変換器においては、上述したように、変換用光21の波長は、熱レンズ形成光素子29の光吸収層に対して透過性を示す波長の光を用いる。また、信号光23の波長は、熱レンズ形成光素子29の光吸収層に対して吸収性を示す波長の光を用いる。
【0030】
本波長変換器で使用される熱レンズ形成光素子29中の光吸収層の材料、変換用光21の波長帯域、及び信号光23の波長帯域は、例えば、先ず、信号光23の波長ないし波長帯域を決定し、次に、これを制御するのに最適な光吸収層の材料と変換用光21の波長の組み合わせを選定することができるが、これに限定されない。
【0031】
第1のコリメートレンズ25、第2のコリメートレンズ26、第3のコリメートレンズ30としては、例えば焦点距離8mmの非球面レンズを用いることができるが、焦点距離は8mmである必要はなく、より小型の波長変換装置にするためにさらに短い焦点距離を用いてもよいことは言うまでもない。また、非球面レンズである必要はないが、小型軽量にするためには非球面レンズが好ましい。
【0032】
光混合器27としては、例えば変換用光21は透過し、信号光23は反射するダイクロイックミラーなどの公知の光学部材を用いることができる。もちろん、入力ポート22と
入力ポート24の位置を入れ替えて、変換用光21が反射し、信号光23が透過するように構成してもよいことは言うまでもない。
【0033】
第1の集光レンズ28、第2の集光レンズ33、第3の集光レンズ35には、例えば焦点距離8mmの非球面レンズを用いることができるが、焦点距離は8mmである必要はなく、より小型の波長変換装置にするためにさらに短い焦点距離を用いてもよいことは言うまでもない。また、非球面レンズである必要はないが、小型軽量にするためには非球面レンズが好ましい。
【0034】
本波長変換器では、変換用光21と信号光23は、第1の集光レンズ28により、光の進行方向で熱レンズ形成光素子29の光吸収層の入射面又はその近辺において集光させる。変換用光21と信号光23とを熱レンズ形成光素子29の光吸収層の入射面近辺の同一の所に集光させると変換用光21はドーナツ状に拡がる。この状況を図5に示す。信号光23がない場合には図5(a)の写真1aのように変換用光21は丸ビームであるが、信号光23が同時に同一の所に照射されると、図5(b)の写真1bのようにドーナツ形状となる。このドーナツ形状が鮮明で大きく形成されるのが、光吸収層の入射面であると思われる。本波長変換器において光吸収層の入射面という場合は、変換用光21と信号光23を同一の所に集光させたときにこのドーナツ形状が鮮明で大きく形成される位置に相当する面とする。もちろん、本波長変換器で実際に用いる変換用光21と信号光23とは集光点の位置では光軸に直角な方向に25〜50μmほど離間させるので、ドーナツ形状は形成されないが、調整時には変換用光21と信号光23とを同一点に入射させ、ドーナツ形状を形成させ、その後、変換用光21と信号光23との集光点を分離させ、位置調整を行う。なお、変換用光21と信号光23との集光点間の距離が25μm未満の場合には、図5(a)に示すような丸ビームにならず、三日月型ビームになってしまう。変換用光21が三日月型ビームになると、のちに集光させ光ファイバーに入射させた場合には入射効率が減少してしまい、実用性にかけるおそれがある。また、上記距離が50μmを超えると、偏向角が低下傾向となる。
【0035】
熱レンズ形成光素子29は、図6に示したような概略構成であるが、図4では説明を容易にするため、光吸収層のみを図示してある。図6において、熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42は、色素を溶剤に溶解したものをガラス容器43に封じて用いる。溶剤に可溶性の色素としては、使用する信号光の波長領域に吸収性を示し、使用する変換用光の波長領域に吸収性がなく透過性を示す色素を使用することができる。例えばレーザ光44が透過するガラス容器43のガラスの厚みは約500μm程度、光吸収層42の厚みは200〜1000μm程度とすることができる。
【0036】
色素の具体例としては、例えば、ローダミンB、ローダミン6G、エオシン、フロキシンBなどのキサンテン系色素、アクリジンオレンジ、アクリジンレッドなどのアクリジン系色素、エチルレッド、メチルレッドなどのアゾ色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、3,3’−ジエチルチアカルボシアニンヨージド、3,3’−ジエチルオキサジカルボシアニンヨージドなどのシアニン色素、エチル・バイオレット、ビクトリア・ブルーRなどのトリアリールメタン系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド系色素、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド系色素などを好適に使用することができる。また、これらの色素を単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
溶剤としては、少なくとも使用する色素を溶解するものを用いることができるが、熱レンズ形成時の温度上昇に際し、熱分解することなく、かつ、沸騰する温度(沸点)が100℃以上、好ましくは200℃以上、さらに好ましくは300℃以上のものを好適に用いることができる。具体的には、硫酸などの無機系溶剤、o−ジクロロベンゼンなどのハロ
ゲン化芳香族炭化水素系、1−フェニル−1−キシリルエタン又は1−フェニル−1−エチルフェニルエタンなどの芳香族置換脂肪族炭化水素系、ニトロベンゼンなどのニトロベンゼン誘導体系、などの有機溶剤を好適に用いることができる。
【0038】
波長選択透過フィルター31としては、熱レンズ形成光素子41(29)をわずかに透過する信号光3を遮光し、変換用光1は透過する誘電体フィルターなどを用いることができる。熱レンズ形成光素子41(29)で実用上問題ない程度に信号光23が吸収されれば、必ずしも波長選択透過フィルター31を用いる必要はない。
【0039】
また、熱レンズ形成光素子41(29)は、基本的に上記のような吸収、透過の波長特性を持ち、熱レンズの形成可能な光吸収層を有しておればよく、光吸収を促進させる層や、伝熱層、保温層等、本発明者らの出願に係る特開2005−265986号公報に記載されているような各種の構造のものとすることができる。
【0040】
ここで、熱レンズ形成光素子41(29)における熱レンズ形成による変換用光21の偏向について説明する。
【0041】
熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層で信号光23が吸収されると、光吸収層の温度が上昇し、屈折率が変わる。温度が上昇するので、一般に屈折率は下がる方向に変化する。通常のレーザ光源から出射するレーザ光や、通常のレーザ光源から出射し光ファイバーを透過してきたレーザ光の強度分布はガウス分布である。また、前記レーザ光をレンズ等で集光した光もガウス分布をしている。よって、信号光23が照射された光吸収層での屈折率分布は、信号光23の光軸で屈折率が一番低下し、信号光23の周辺では屈折率の低下が少なくなる。また、熱伝導があるので、光の照射されていない部分でも屈折率が変化する。
【0042】
図7は、変換用光45(21)が偏向する状況を説明した図である。なお、説明を簡単にするため、図7では光吸収層と光吸収層の周りの媒質との屈折率の違いによる光の屈折は無視している。図7には、熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42に、変換用光45(21)のみが照射された場合と、変換用光45(21)と信号光46(23)が同時に照射された場合が示されている。図中、47は、信号光46(23)が照射されなかった場合の熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42を透過した変換用光である。48は、信号光46(23)が照射された場合の熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42を透過した変換用光である。また、熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42の入射面近辺での信号光の光強度分布49、及び、熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42の出射面近辺での光強度分布50が併せて示されている。
【0043】
図7aはレーザ光を集光しない場合、図7bは本波長変換器のようにレーザ光を集光した場合のレーザ光の光路を模式的に示したものである。レーザ光を集光しない場合のレーザ光の強度分布領域49、50は、光吸収層42の入射面近辺と出射面近辺では変わらない。このことは、変換用光45(21)が光吸収層42を進むに従って、屈折率の変化の少ない領域を通過することを意味する。一方、レーザ光を集光した場合はレーザ光の強度分布領域49、50は、光吸収層42の入射面近辺と出射面近辺では大きく変わり、出射面近辺では領域が拡がっている。このことは、屈折率も徐々に拡がっていることになり、変換用光45(21)が光吸収層42を進むに従ってより大きな偏向を受ける作用が及んでくることになる。なお、屈折率変化は信号光パワーにほぼ比例して変化するので、光吸収層42を進むに従って屈折率変化は小さくなる。
【0044】
図7bでは、変換用光45(21)も熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42の入射面に集光するようにしているが、入射面近辺であってもよい。特に変換用光45(
21)は、光吸収層42のもう少し出射面側に集光するようにしてもよい。また、変換用光45(21)と信号光46(23)とは光の進行方向で同一面に入射するようにしているが、全く同一面である必要はなく、多少ずれていても構わない。
【0045】
偏向角は、次の条件が変わると変化する。
【0046】
1.熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42の、変換用光45(21)と信号光46(23)の第1の集光レンズ28の集光(収束)点に対する位置
2.信号光パワー
3.信号光位置(第1の集光レンズ28の集光点での変換用光45(21)と信号光46(23)の光軸に直角方向の距離)
4.熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42の厚み
5.信号光波長及び変換用光波長
6.光吸収層42の色素濃度
これ以外にも、光吸収層42の材質、光吸収層42への信号光46(23)及び変換用光45(21)の集光角等によっても変化する。
【0047】
本波長変換器の一例では、波長1550nmの変換用光21をコア径9.5μmのシングルモード石英光ファイバーで入力ポート22に入射させ、波長980nmの信号光23をコア径9.5μmのシングルモード石英光ファイバーで入力ポート24に入射させ、焦点距離8mmの第1のコリメートレンズ25及び第2のコリメートレンズ26で変換用光21及び信号光23をほぼ平行光にし、光吸収層の厚み500μmであって光吸収層の波長1550nmにおける透過率95%及び波長980nmにおける透過率0.2%の熱レンズ形成光素子29に、焦点距離8mmの第1の集光レンズ28で集光(収束)して入射させた。
【0048】
図8に、図4の分岐ミラー32の直前で、光軸に直角に紙面内方向に、スリット開口を持った光検出器を設けて、この光検出器を動かして測定した変換用光21の光強度分布を示す。図8において、線51(丸点を結ぶ実線)は信号光が照射されなかった場合の非偏向光、線52(四角点を結ぶ実線)は信号光パワー7.8mWが照射された場合の偏向光、線53(×点を結ぶ実線)は信号光パワー12.9mWが照射された場合の偏向光の光強度分布を示す。信号光パワー7.8mWが照射された場合の偏向光の場合51は、非偏向光の場合52と強度分布の裾のところで重なり合っておりお互いの分離が不充分であるが、信号光パワー12.9mWが照射された場合の偏向光の場合53は、非偏向光の場合52と充分に分離している。よって、分岐ミラー52で非偏向光と信号光パワー12.9mWが照射された場合の偏向光とは分離できることがわかる。なお、図8において、信号光位置(第1の集光レンズ28の集光点での変換用光21と信号光23の光軸に直角方向の距離)は35μmであり、信号光23と変換用光21は光吸収層の光入射面から約30μm進んだところに集光し、光吸収層の厚みは500μmであった。
【0049】
また、信号光パワーと偏向角との関係を図9に示す。信号光パワーが大きくなると偏向角が大きくなることがわかる。なお、図9において、信号光位置(第1の集光レンズ28の集光点での変換用光21と信号光23の光軸に直角方向の距離)は35μm、信号光23と変換用光21は光吸収層の光入射面から約60μm進んだところに集光させた。
【0050】
本波長変換器では、図4に示す第3のコリメートレンズ30と第2の集光レンズ33及び第3の集光レンズ35の焦点距離は同じ8mmのものを用いたので、偏向角は、分岐ミラー32で分岐しなかった場合の偏向光の光軸と非偏向光の光軸とのなす角度となる。本例の場合、信号光パワー7.8mWの場合は約6.7度、信号光パワー12.9mWの場合は約10.1度、信号光パワー18mWの場合は約13.2度となった。
【0051】
図10に、図6に示した熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42への変換用光21と信号光23の集光点の入射位置(「光吸収層位置」と記す)と偏向角との関係を示す。図10において、横軸の光吸収層位置は熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42への光の入射面の位置(信号光23と変換用光21の集光点に対する位置)である。0点は信号光23と変換用光21の集光点の位置であり、図7bの状態である。マイナス方向が光の進行方向であり、プラスの位置では変換用光21と信号光23が熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42内で集光する。縦軸は偏向角である。なお、図10において、信号光パワーは約12.9mWであり、信号光位置(図4の第1の集光レンズ28の集光点での変換用光21と信号光23の光軸に対して直角方向の距離)は35μm、光吸収層42の厚みは500μmであった。
【0052】
さらに、図11に、図6に示す熱レンズ形成光素子41(29)の光吸収層42への変換用光21と信号光23の集光点の入射位置(すなわち、光吸収層位置)と非偏向光と偏向光との分離距離の測定データの例を示す。光吸収層42への入射位置が約60μmの場合は分離距離が0に近いが、これからずれると分離距離が大きくなる。図11で分離距離の正負の符号は、変換用光21の入射点を原点(すなわち0点)とし、偏向する方向を正とした。図11において、信号光パワーは15.4mW、光吸収層42の厚みは1000μmであり、信号光位置(第1の集光レンズ28の集光点での変換用光21と信号光23の光軸に直角方向の距離)は25μmであった。
【0053】
なお、偏向角は、信号光波長及び変換用光波長によっても異なる。波長が短いほど偏向角が大きくなる。
【0054】
以上、本実施形態で用いる波長変換器の一例を説明してきたが、本発明は上記に限定されるものではなく、種々の変形、変更が可能である。
【0055】
例えば、本発明によれば、図4の入力ポート22、24、第1のコリメートレンズ25、第2のコリメートレンズ26、光混合器27よりなる信号入力部に代えて、図12に断面図で示すような2芯光ファイバーフェルール65を用いた信号入力部としてもよい。2芯光ファイバーフェルール65は変換用光光出射ファイバー66と信号光光出射ファイバー67を並設して備えている。これらの光ファイバー66、67としては、例えば、コア9.5μmのシングルモード石英光ファイバーのクラッド層をフッ酸で所望の太さにエッチングして用いる。エッチングする部分は、光ファイバーの先端数mmだけとする。エッチングした後の光ファイバーの太さ「ω」は、光吸収層に集光した変換用光と信号光の集光点の光軸に直角方向の距離「χ」と次の関係で決めることができる。
(式1)
ω=χ/m
ここでmは、第1の集光レンズ28の結像倍率である。
【0056】
このような構成としても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる上、光入射部の構成をより簡素化できる利点がある。
【0057】
したがって、信号光23のパルスのオン・オフ(あるいはhigh・low)により、熱レンズの形成の有無が繰り返され、信号光23の波長のデータが、変換光の波長のデータに変換される。熱レンズ形成素子の応答速度は数十ナノ秒と非常に高速なため、電気回路や機械的可動部分を用いないで、応答速度が非常に高速で、種々の波長の光の利用が可能となり、しかも耐久性が高い波長変換が可能となる。
【0058】
このようして集光された変換光は信号光23の情報を載せている。そして、変換光によ
り、DVD装置2(図1)でDVDにパルス信号列の情報の書込みが行われ、一時的に情報が記録される。DVDに一時記録した情報の読出しは上述したとおりである。
【0059】
このようにして、電気的方法を用いないで、常温で使用可能な光バッファメモリ装置が実現される。
【0060】
また、上記実施形態では、外部からの特定の波長のパルス状信号光を信号光入射部より入射したが、特定の波長のパルス状信号光を出射する信号光光源を設けて、それにより出射される信号光を利用してもよい。
【0061】
また、信号光23と変換用光21の波長の組合せは任意に行うことができ、たとえば記録再生装置にDVD装置を用いた場合、波長420nm等のレーザ光を利用してもよい。信号光23としては、光通式波長である1.3〜1.55μmや780nmなどの近赤外の波長の光が好ましく利用されるが、これに限定されない。変換用光21としては可視〜近赤外の通常の記録媒体用の波長の光が好ましく利用されるが、これに限定されない。
【0062】
また、記録再生装置で記録再生に用いる、書込み及び読出しが可能な記録媒体としては、DVDに限らず、光を利用して書込み及び読出しが可能であれば適宜の記録媒体が使用可能である。
【0063】
さらに、記録再生装置についてもDVDに限定されず、光を利用して記録媒体に対し書込み読出しが可能なものであれば使用することができる。
【実施例】
【0064】
次に、本発明の実施例を述べる。
【0065】
本実施例の光バッファメモリ装置は、その全体構成は、図1に示すとおりで、波長変換器の要部構成は図4に示す通りである。
【0066】
図4の波長変換器において、熱レンズ形成光素子29は、信号光23に対し高い吸収性を示し、変換用光21に対し高い透過性を示す波長帯域を持つ色素含有溶液を光吸収層として透明な光学セルに収容したものを用いた。詳しくは、熱レンズ形成光素子29の光吸収層として、色素(商品名CIR−960;日本カーリット社製:近赤外領域(780〜1500nm)に大きな吸収を示す)のテトラヒドロフラン(TFT)溶液を透明な光学セル内に収容したものを用いた。なお、この色素CIR−960の吸収及び透過の波長帯域の形態は図3のものとは異なっており、上記のような波長帯域となっている。
【0067】
図4の構成の波長変換器において、入力ポート24であるファイバー増幅器から波長1.55μmのパルス状信号光23を入射し、第2のコリメートレンズ26により平行光として光混合器27に送った。一方、変換用光光源であるレーザダイオードより波長650nmのレーザ光(連続光)を変換用光21として入力ポート22に取り込み、第1のコリメートレンズ25により平行光とし、光混合器27に送った。
【0068】
光混合器27で、送られてきた信号光23と変換用光21を、熱レンズ形成光素子29の光吸収層に、各々集光点を光軸に対して直角方向で異ならせて集光させた。
【0069】
熱レンズ形成光素子29では、パルス状の信号光23がオン(又はhigh)のときは、光吸収層が波長1.55μmの光に高い吸収性を持つため、熱レンズを形成した。このとき、変換用光21は、形成された熱レンズのため、その屈折率の特性により、進行方向を変えた偏向光の変換用光21として出射した。この変換用光21は第3のコリメートレ
ンズ30により平行光とされ、信号光23は波長選択透過フィルター31でカットされ、分岐ミラー32で反射して向きを変えられ、ミラー34で更に反射し、第3の集光レンズ35で変換光として出力ポート37から光ファイバーに出射された。
【0070】
一方、熱レンズ形成光素子29では、パルス状の信号光23がオン(又はlow)のときは、光吸収層には信号光23が照射されないため、熱レンズは形成されない。したがって、変換用光21は、非偏向光として出力ポート36から出力され、図示しない遮断手段によりカットされる。
【0071】
したがって、信号光23のパルスのオン・オフ(あるいはhigh・low)により、熱レンズの形成の有無が繰り返され、信号光23の波長のデータが、同位相の変換光の波長のデータに変換される。熱レンズ形成光素子の応答速度は数十ナノ秒と非常に高速なため、電気回路や機械的可動部分を用いないで、応答速度が非常に高速で、種々の波長の光の利用が可能となり、しかも耐久性が高い波長変換が可能となる。さらに、光学部品を低減させることができるため、低コスト化を図ることができる。
【0072】
このようして集光された変換光は、この例の場合波長650nmで、信号光23の情報を載せている。そして、変換光により、DVD装置でDVDにパルス信号列の情報の書込みが行われ、一時的に情報が記録される。DVDに一時記録した情報の読出しは上述したとおりである。
【0073】
このようにして、電気的方法を用いないで、常温で使用可能な光バッファメモリ装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】この出願の発明の光バッファメモリ装置の一実施形態の概念図である。
【図2】上記実施形態の光バッファメモリ装置における波長変換器の概念図である。
【図3】波長変換器の熱レンズ形成素子に使用される一例の光吸収層膜に用いる材料 の波長と吸収特性及び透過特性との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る波長変換器の要部構成を示す図である。
【図5】熱レンズ形成光素子の光吸収層へ変換用光と信号光とを同一の所に集光させるときに、信号光がない場合と信号光がある場合の変換用光の出射の状況を示す図である。
【図6】熱レンズ形成光素子の概略構成を示す断面図である。
【図7a】集光しない場合の変換用光が偏向する状況の説明図である。
【図7b】集光した場合の変換用光が偏向する状況の説明図である。
【図8】信号光を照射しない場合と、信号光のパワーを変えて照射した場合の光強度分布を示す図である。
【図9】信号光パワーと偏向角との関係を示すグラフである。
【図10】光吸収層の位置と偏向角との関係を示すグラフである。
【図11】非偏向光と偏向光の分離距離の関係を示すグラフである。
【図12】本発明で用いる別例の光スイッチの2芯光ファイバーフェルールの概念図である。
【符号の説明】
【0075】
1 波長変換器
2 DVD装置
3 信号入力部(ファイバー増幅器)
4 変換用光光源(レーザダイオード)
5 信号光
6 変換用光
7 変換光
8 読出し用光源(レーザダイオード)
9 信号出力部
10 出力パルス信号光
11 熱レンズ形成光素子
12 信号入力部(ファイバー増幅器)
13 変換用光光源(レーザダイオード)
14 信号光
15 変換用光
16 変換光
21 変換用光
22、24 入力ポート
23 信号光
25、26、30 コリメートレンズ
27 分離器
34 ミラー
28、33、35 集光レンズ
29 熱レンズ形成光素子
31 波長選択透過フィルター
32 分岐ミラー
36、37 出力ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の波長のパルス状の信号光を、信号光とは異なる波長のパルス状の変換光に変換する波長変換器と、波長変換器により波長変換されたパルス状の変換光の情報を、書込み及び読出し可能な記録媒体に一時的に記録させた後、前記特定の波長のパルス状の信号光として取出す記録再生装置を有する光バッファメモリ装置であって、
前記波長変換器が、
特定の波長のパルス状信号光を入射する信号光入力部と、
信号光とは異なる波長の変換用光を照射する変換用光光源と、
信号光に対し吸収性を示し変換用光に対し透過性を示す波長帯域を持つ光吸収層を有する熱レンズ形成光素子と、
光吸収層に信号光と変換用光とを各々集光点を光軸に対して直角方向で異ならせて集光させる第1の集光部を備え、
熱レンズ形成光素子は、光吸収層が信号光を吸収した領域及びその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、信号光が照射されず熱レンズが形成されない場合は変換用光を進行方向を変えない非偏向光として出射する状態と、信号光が照射されて熱レンズが形成された場合は変換用光を進行方向を変えた偏向光として出射する状態とを、信号光の照射の有無に対応させて実現させ、
さらに、熱レンズ形成光素子より出射した出射した変換用光のうち、偏向光である変換用光のみを変換光として出射する変換光選択部と、
変換光選択部からの変換光を集光して、信号光とは異なる波長のパルス状変換光とする第2の集光部を備えることを特徴とする光バッファメモリ装置。
【請求項2】
特定の波長のパルス状の信号光を、信号光とは異なる波長のパルス状の変換光に変換する波長変換器と、波長変換器により波長変換されたパルス状の変換光の情報を、書込み及び読出し可能な記録媒体に一時的に記録させた後、前記特定の波長のパルス状の信号光として取出す記録再生装置とを有する光メモリバッファ装置であって、
前記波長変換器が、
特定の波長のパルス状信号光を出射する信号光光源と、
信号光とは異なる波長の変換用光を照射する変換用光光源と、
信号光に対し吸収性を示し変換用光に対し透過性を示す波長帯域を持つ光吸収層を有する熱レンズ形成光素子と、
光吸収層に信号光と変換用光とを各々集光点を光軸に対して直角方向で異ならせて集光させる第1の集光部を備え、
熱レンズ形成光素子は、光吸収層が信号光を吸収した領域及びその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、信号光が照射されず熱レンズが形成されない場合は変換用光を進行方向を変えない非偏向光として出射する状態と、信号光が照射されて熱レンズが形成された場合は変換用光を進行方向を変えた偏向光として出射する状態とを、信号光の照射の有無に対応させて実現させ、
さらに、熱レンズ形成光素子より出射した出射した変換用光のうち、偏向光である変換用光のみを変換光として出射する変換光選択部と、
変換光選択部からの変換光を集光して、信号光とは異なる波長のパルス状変換光とする第2の集光部を備えることを特徴とする光バッファメモリ装置。
【請求項3】
前記記録再生装置が、信号光とは異なる波長の光で前記記録媒体に記録を行う記録ヘッドと、信号光と同じ波長の光で読出しを行う再生ヘッドを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光バッファメモリ装置。
【請求項4】
前記記録媒体が、DVDであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光バッファメモリ装置。
【請求項5】
特定の波長のパルス状の信号光を、信号光とは異なる波長のパルス状の変換光に変換し、波長変換されたパルス状の変換光の情報を、書込み及び読出し可能な記録媒体に一時的に記録させた後、前記特定の波長のパルス状の信号光として取出す方法であって、
前記波長変換の方法として、
特定の波長のパルス状信号光に対し吸収性を示し信号光とは異なる波長の変換用光に対し透過性を示す波長帯域を持つ光吸収層を含む熱レンズ形成光素子の該光吸収層に、信号光と変換用光とを各々集光点を光軸に対して直角方向で異ならせて集光させ、光吸収層が信号光を吸収した領域及びその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、信号光が照射されず熱レンズが形成されない場合は変換用光を進行方向を変えない非偏向光として出射する状態と、制御光が照射されて熱レンズが形成された場合は変換用光を進行方向を変えた偏向光として出射する状態とを、信号光の照射の有無に対応させて実現させ、
出射した変換用光のうち、偏向光である変換用光のみを変換光として出射させ、
出射した変換光を集光して、信号光とは異なる波長のパルス状変換光とする方法を用いることを特徴とする光信号記録方法。
【請求項6】
信号光とは異なる波長の光で前記記録媒体に記録を行い、信号光と同じ波長の光で読出しを行うことを特徴とする請求項5に記載の光信号記録方法。
【請求項7】
前記記録媒体としてDVDを用いることを特徴とする請求項5又は6に記載の光信号記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−233577(P2008−233577A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73829(P2007−73829)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年独立行政法人科学技術振興機構「全光データ配信システムの開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】