説明

光ファイバおよび光ファイバ線路の曲げ損失の長手方向分布の測定方法、光線路の試験方法および光ファイバの製造方法

【課題】双方向OTDR測定法によって、光ファイバ長手方向の曲げ損失の分布を測定できるようにすることにある。
【解決手段】光ファイバの双方向OTDR測定により得られた2つの後方散乱光の位置xでの2つの後方散乱光強度から相加平均値I(x)を算出し、この相加平均値から算出される位置xにおけるモードフィールド径2W(x)と比屈折率差Δ(x)から、位置xにおける曲げ損失値を得る光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法である。曲げ損失値を得るときに、対象となる光ファイバを、その光ファイバの屈折率分布がこれと等価なステップ型屈折率分布を有する光ファイバとみなし、このステップ型屈折率分を有する光ファイバの規格化周波数Vとコア半径aとモードフィールド径2Wの関係式から位置xにおける曲げ損失値を算出することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光ファイバの長手方向の曲げ損失の分布を双方向OTDR測定法によって測定する方法、この測定方法を用いて曲げ損失の不良位置を検出する光線路の試験方法およびこの曲げ損失分布の測定方法を利用して曲げ損失の小さい光ファイバを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの長手方向分布の特性を測定する手法として、双方向OTDR測定法と呼ばれる手法が知られている(非特許文献1、2参照)。
通常のOTDR測定法は、光ファイバの一端部から入射したパルス光の後方散乱光の時間分布から得られる長手方向の後方散乱光波形(OTDR波形)の取得を行い、光ファイバの長手方向の異常部や接続箇所、損失等の情報を得る手法である。
双方向OTDR測定法では、光ファイバの両端部からパルス光を入射して、両端部で双方向の2つのOTDR波形を取得し、これらの波形を計算処理することによって光ファイバの長手方向の比屈折率差やモードフィールド径(以下、MFDと表記する)等の分布を取得できる方法である。
双方向OTDR測定法は、光ファイバの長手方向の特性分布を非破壊で測定できることから実用上非常に有用なツールとなっている。
【0003】
しかしながら、これまで、双方向OTDR測定法を用いた光ファイバの光学特性の長手方向分布の測定では、比屈折率差、MFD、カットオフ波長、材料分散については知られているものの、光ファイバの重要な光学特性のひとつである曲げ損失の長手方向分布の測定については知られていない。
一方、たとえば非特許文献3に記載された曲げ損失の測定方法を光ファイバの長手方向の複数の箇所で実施する方法もあるが、この方法は当該箇所において実際に曲げを印加して測定する手法であるため、曲げ損失を測定できる箇所が限定されたり、所望の箇所の曲げ損失を得るための作業が煩雑になってしまうなどの問題が生じる。
近年、曲げ損失低減型光ファイバがいくつか提案されており、曲げ損失特性の重要性が増してきている。したがって、光線路内での曲げ損失特性分布の把握や、光線路内での曲げ損失が高い箇所の特定を行うことができる手法が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】信学技報 OSC2005−89
【非特許文献2】ITU−勧告 G.650.1(06/2004)
【非特許文献3】IEC標準書 IEC60793−1−47 Ed.3
【非特許文献4】「DWDM光測定技術」69〜71頁 波平 宜敬編 オプトニクス社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明における課題は、双方向OTDR測定法によって、光ファイバ長手方向の曲げ損失の分布を測定できるようにすることにある。また、この測定方法を利用して既設の光線路の曲げ損失分布とその異常点の検出が可能な光線路の試験方法を得ることにある。さらに、この測定方法を利用して曲げ損失の少ない光ファイバを製造する方法を得ることにもある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、光ファイバの双方向OTDR測定により得られた2つの後方散乱光の位置xでの2つの後方散乱光強度から相加平均値I(x)を算出し、この相加平均値から算出される位置xにおけるモードフィールド径2W(x)と比屈折率差Δ(x)から、位置xにおける曲げ損失値を得ることを特徴とする光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法である。
請求項2にかかる発明は、曲げ損失値を得るときに、対象となる光ファイバを、その光ファイバの屈折率分布がこれと等価なステップ型屈折率分布を有する光ファイバとみなし、このステップ型屈折率分布を有する光ファイバの規格化周波数Vとコア半径aとモードフィールド径2Wの関係式から位置xにおける曲げ損失値を算出することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法である。
【0007】
請求項3にかかる発明は、位置xにおけるモードフィールド径2W(x)を得るときに、光ファイバ中の任意の2点の参照点におけるモードフィールド径を用いて相加平均値I(x)からモードフィールド径2W(x)を得ることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法である。
請求項4にかかる発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の方法によって得られた曲げ損失の長手方向分布と長手方向の任意の点の実際に測定された曲げ損失の値を用いて、長手方向の位置xにおける曲げ損失値の絶対値を得ることを特徴とする光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法である。
【0008】
請求項5にかかる発明は、光ファイバの双方向OTDR測定により得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から算出される相加平均値I(x)を用いてモードフィールド径2W(x)を導出し、予め求められたモードフィールド径2W(x)と曲げ損失値との相関関係に基づいて、位置xにおける曲げ損失値を求めることを特徴とする光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法である。
請求項6にかかる発明は、測定対象物の光ファイバが曲げ損失低減型光ファイバからなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法である。
【0009】
請求項7にかかる発明は、曲げ損失低減型光ファイバが、空孔付き光ファイバもしくはトレンチ付き光ファイバもしくは微細気泡付き光ファイバであることを特徴とする請求項6に記載の光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法である。
請求項8にかかる発明は、光ファイバが敷設されているものであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法である。
請求項9にかかる発明は、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載された測定方法を用いて、敷設された光線路の曲げ損失の欠陥位置を検出し特定することを特徴とする光線路試験方法である。
【0010】
請求項10にかかる発明は、光ファイバ素線から光ファイバケーブルまたは光ファイバコードを製造する第一の工程と、第一の工程で得られた光ファイバケーブルまたは光ファイバコードの特性を測定する第二の工程を有する光ファイバケーブルまたは光ファイバコードの製造方法であって、
前記第二の工程において、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載された測定方法を用いて、光ファイバケーブルまたは光ファイバコードの曲げ損失の欠陥位置を検出することを特徴とする光ファイバケーブルまたは光ファイバコードの製造方法である。
請求項11にかかる発明は、光ファイバ素線を製造する第一の工程と、第一工程で得られた光ファイバ素線の特性を測定する第二の工程を有する光ファイバ素線の製造方法であって、
前記第二の工程において、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載された測定方法を用いて、光ファイバ素線の曲げ損失の欠陥位置を検出することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の測定方法によれば、光ファイバの重要な光学特性のひとつである曲げ損失の長手方向分布の測定が非破壊で可能になる。
また、本発明の光線路の試験方法によれば、光ファイバを実使用状態のままで、すなわちフィールドに敷設された状態のままで移動や撤去等をせずに、曲げ損失の長手方向分布の測定ができるとともに、実際に敷設された光線路での曲げ損失に起因する欠陥位置の検出・特定も可能である。
さらに、本発明の製造方法によれば、光ファイバの曲げ損失の長手方向分布を測定し、あるしきい値を超える箇所を除去することできるため、曲げ損失の高い箇所を含まない光ファイバを実現でき、高品質な光ファイバが製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1での光ファイバの長手方向のMFDの分布を示すグラフである。
【図2】実施例1での光ファイバの長手方向の実効クラッド屈折率の分布を示すグラフである。
【図3】実施例1での光ファイバの長手方向の相対曲げ損失の分布を示すグラフである。
【図4】実施例1での光ファイバの長手方向の曲げ損失値の分布を示すグラフである。
【図5】実施例2でのMFDと曲げ損失値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の技術的要素に関して説明する。
双方向OTDR測定法で得られる相加平均値I(x)は、2つの後方散乱光波形における位置(x)での2つの後方散乱光強度から求められるもので、この相加平均値は一般的に構造不整合損失と呼ばれ、後方散乱光の捕獲率に関する項であることが知られている。
後方散乱光の捕獲率は光ファイバのMFDと相関があり、その関係はある参照点(x0)におけるMFDと相加平均値I(x0)を用いて次の式(1)で表される。
【0014】
【数1】

【0015】
一方、比屈折率差Δの長手方向の分布は、光ファイバの長手方向のガラスの屈折率がほとんど変化しないという条件(通常の光ファイバでは一般的に成立する条件である)のもと、レイリー散乱係数RをR=R(1+kΔ)と記載すると、次式(4)で与えられる。
【0016】
【数2】

【0017】
一般に、任意の屈折率分布を有する光ファイバを、その屈折率分布と等価なステップ型屈折率分布を有する光ファイバと仮定して取り扱う計算手法がある。
ここでも、得られた相加平均値I(x)から曲げ損失の長手方向分布を算出するにあたり、測定対象となる光ファイバをそのようなステップ型屈折率分布を有する光ファイバと仮定する。
【0018】
ステップ型屈折率分布を有する光ファイバにおいては、規格化周波数VとMFDは次式のような関係を持つことが一般的に知られている。
【0019】
【数3】

【0020】
ここで、2aはステップ型屈折率分布光ファイバのコア直径(aはコア半径)である。
式(1)または式(3)と、式(4)および式(5)から、コア半径の長手方向分布a(x)および規格化周波数の長手方向の分布V(λ,x)を得ることができる。さらに、長手方向の任意の地点におけるa(x)およびV(λ,x)を用いて、次式(6)を計算することにより、被測定光ファイバの曲げ半径Rにおける曲げ損失の長手方向分布αb(λ,R,x)を導出できる。
【0021】
【数4】

【0022】
また、K1は、1次の第2種変形ベッセル関数である。
以上のようにして、相加平均値I(x)からMFDを算出し、このMFDと比屈折率差とから曲げ損失の長手方向分布αb(λ,R,x)を導出可能であることがわかる。
【0023】
前述の説明では、測定対象となる光ファイバを、その屈折率分布と等価なステップ型屈折率分布を有する光ファイバと仮定して取り扱ったが、適切な導出が可能であれば、このような仮定を行う必要はない。
また、MFDと相加平均値I(x)の関係式も、2点(xおよびx)の参照点を用いたが、参照点を1点としても問題ない。ただし、MFDの推定精度は低下するため、2点を参照することが望ましい。
このとき、算出される曲げ損失の長手方向分布αの曲げ損失の計算値の絶対値は、必ずしも正しくないことが多い。そのため、上記の方法で得られる曲げ損失の長手方向分布は、相対的な曲げ損失の変化を表している。そのため、長手方向の任意の一点(複数点でも良い)で曲げ損失値を実測し、その実測値とその点における計算値の比率から、長手方向における曲げ損失の絶対値の分布を算出可能である。
【0024】
また、定式による算出をしない方法として、予め得ている曲げ損失と相加平均値との相関関係から、曲げ損失の長手方向分布を得る方法もある。
ここで、曲げ損失の長手方向分布を得るための相関関係として、直接相加平均値I(x)と曲げ損失値との相関関係を用いても良いし、前記(1)式により相加平均値I(x)からMFDを求め、このMFDと曲げ損失値との相関関係を用いても良い。曲げ損失値の推定精度が高い後者のほうがより望ましい。
【0025】
また、本発明の測定方法は、測定対象光ファイバが曲げ損失低減型光ファイバ(BIFと略して呼ばれることが多い)であるときに、より効果的である。なぜなら、曲げ損失低減型光ファイバは、宅内、ビル内、MDU(マルチデュエリングユニット:集合住宅用設備)などの非常に小さな曲げ径(例えば、曲げ半径5mmから15mm程度)で曲げられることを想定して作られる光ファイバであるので、曲げ損失が長手方向で安定して低いことが重要であるからである。
もし、敷設光線路に曲げ損失の大きい箇所があってその箇所で光ファイバが曲げられた場合、信号光の損失が大きくなり通信が不可能になるという問題が起きるので、曲げ損失の長手方向分布が非破壊で検出できる本測定方法をそのような曲げ損失低減型光ファイバに適用することは非常に有用である。
【0026】
また、曲げ損失低減型光ファイバは非常に曲げ損失が小さくなるよう設計・製造されているので、実際に既存の曲げ損失の実測を長手方向の複数箇所で実施するとしても、測定値のばらつきに注意しながら実測することは実用上困難であり、本測定方法でなければ精度良く曲げ損失の長手方向分布を得ることができない。
さらに、曲げ損失低減型光ファイバのなかでも、その光ファイバの構造が空孔付き光ファイバもしくはトレンチ付き光ファイバもしくは微細気泡付き光ファイバであると、本手法による曲げ損失の長手方向分布測定が精度良く行える。なぜなら、これらの曲げ損失低減型光ファイバの曲げ損失の低減は、低屈折率となるトレンチクラッド層あるいは空孔クラッド層あるいは微細気泡クラッド層などの特殊クラッド層をクラッドの一部に配置することで実現されている。つまり、曲げ損失の長手方向の変化は、コアの構造変化よりもこれらの特殊クラッド層の長手方向の構造変化の寄与が大きいためである。
【0027】
また、これらの光ファイバでは、コアの屈折率分布は略ステップ型と呼んでも差し支えない構造をしており、コアの長手方向の構造変化に起因する光学特性の長手方向の変動は小さい。そのため、双方向OTDRで得られた相加平均値I(x)から特殊クラッド層の長手方向変動に起因した曲げ損失の変動を抽出しやすいという利点があり、曲げ損失値の推定精度を高くすることが可能となっている。
【0028】
次に、本発明の測定方法を適用できる光ファイバの形態について述べる。
本発明における光ファイバとは、以下のものを包含するものとする。すなわち、1本の光ファイバからなるものに限られず、同種または異種の2本以上の光ファイバを縦列に接続したものを含む。また、その品種としては、特に限定されず、シングルモード光ファイバ、マルチモード光ファイバ、分散シフト光ファイバ、分散補償光ファイバ、偏波保持光ファイバ、前述の曲げ損失低減型光ファイバなどが挙げられる。
【0029】
さらに、その接続形態は、融着接続、コネクタ接続、メカニカルスプライスによる接続など全ての形態が含まれる。また、光ファイバ素線、光ファイバ心線、光ファイバコード、光ファイバケーブルのいずれかの形態であっても良い。光ファイバケーブルでは単心であっても多心であってもよい。
【0030】
光ファイバが光ファイバケーブルや光ファイバコードの形態であっても、双方向OTDRが測定可能であれば本測定方法は適用できる。光ファイバケーブルや光ファイバコードの形態のままで測定可能であることで、光ファイバケーブルや光ファイバコードを解体しなくとも、曲げ損失の長手方向分布の測定ができる。
また、本発明においては、光ファイバの縦列接続物でも曲げ損失の長手方向分布の測定に支障はなく、光ファイバの縦列接続物はそのままの形態で曲げ損失の長手方向分布の測定ができる。さらに、その接続箇所が、クロージャやMDUなどのターミネーションユニット等に収納されている状態であっても適用可能である。そのため、光ファイバの縦列接続物(光ファイバケーブルや光ファイバコードの縦列接続物も含む)が、接続、収納された状態のままで、曲げ損失の長手方向分布の測定ができる。
【0031】
本発明の測定方法によれば、光ファイバを実使用状態のままで、すなわちフィールドに敷設された状態のままで移動や撤去等をせずに、曲げ損失の長手方向分布の測定ができる。ここで、フィールドとは、屋外であっても、宅内、ビル内であってもよく、架空であっても、埋設であっても、坑道、マンホール内、海底であってもよく、特に限定されるものではない。さらには、実際に敷設された光ファイバ線路での曲げ損失に起因する欠陥位置の検出・特定も、この方法によって実施可能である。
【0032】
このフィールドに敷設された光線路を対象とする際には、設備設置上の点から、できれば一方の端部からの測定で双方向OTDRを測定できるとコスト面で有利である。
そのため、例えば非特許文献4に記載のように、光ファイバの遠端に測定波長で全反射する反射膜もしくは反射鏡などを配置し、光ファイバの近端からの測定でも、双方向OTDRと同様の測定をできるようにすること(全反射OTDR測定法と呼ばれることがある)が好ましい。
この時の相加平均値I(x)は、光線路長をLとすると、近端から距離xの位置での後方散乱光強度と、近端から距離2L−xの位置での後方散乱光強度とから求められることになる。
【0033】
また、本発明の測定方法は、光ファイバや光ファイバケーブルの製造方法における検査工程としても適用可能である。
光ファイバ素線を用いて常法により光ファイバケーブルまたは光ファイバコードを製造する第一の工程と、この第一の工程で得られた光ファイバケーブルまたは光ファイバコードの特性を測定する第二の工程を有する光ファイバケーブルまたは光ファイバコードの製造に際して、前記第二の工程において、前述の測定方法によって曲げ損失の長手方向分布を測定し、あるしきい値を超える箇所を前記第二の工程において除去することで、曲げ損失の高い箇所を含まない光ファイバケーブルまたは光ファイバコードを実現できる。このことで、高品質な光ファイバケーブルまたは光ファイバコードを製造可能になる。
【0034】
同様に、常法により光ファイバ素線を製造する第一の工程と、この第一の工程で得られた光ファイバ素線の特性を測定する第二の工程を有する光ファイバの製造に際して、前記第二の工程において前述の測定方法によって曲げ損失の長手方向分布を測定し、あるしきい値を超える箇所を前期第二の工程において除去することで、曲げ損失の高い箇所を含まない光ファイバ素線を実現できる。このことで、高品質な光ファイバ素線を製造可能になる。
【0035】
以下、具体例を示す。
(実施例1)
図1は、光ファイバ縦列接続物の双方向OTDR測定法によって得た相加平均値から、式(3)を用いて得られた該光ファイバ縦列接続物の長手方向のMFDの分布の測定結果を示すグラフである。
この光ファイバ縦列接続物は、図1のグラフ中に示すように、近端となる距離0kmから、標準シングルモード光ファイバ(〜約1km)、曲げ損失レベルの異なる3種の空孔付き曲げ損失低減光ファイバ(それぞれ約1〜7km、約7〜14km、約14〜21km)および標準シングルモード光ファイバ(約21〜22km)の5本の光ファイバを縦列に接続したものである。
【0036】
測定は、市販のOTDR測定装置を用いて縦列接続物の両端(0kmの箇所および約22kmの箇所)からOTDRデータを得た。測定波長は1550nm、パルス幅は100nsである。なお、測定波長やパルス幅は、目的や必要分解能等から適宜決定される。双方向OTDRの結果から、各光ファイバのMFDの違いが測定できており、各光ファイバの端部で別途ITU−T G.650.1記載の手法で実測したMFDとも一致した。
【0037】
図1のデータをもとに、曲げ損失の長手方向分布の算出を試みた。図2は、式(4)から求めた屈折率の長手方向分布の結果である。ここで、図2のグラフの縦軸は、比屈折率差ではなく、クラッドの実効屈折率でプロットしている。一般的な曲げ損失低減型光ファイバにおいては、前述のように、クラッドの構造変化が相加平均の変動に寄与しているため、曲げ損失低減型光ファイバにおいてはこのようなプロットが適切である。
ここで、実効クラッド屈折率は、前述の等価なステップ型屈折率分布を仮定し、そのときのクラッドの屈折率を用いている。
【0038】
さらに、図3に、式(5)を用いて得た相対曲げ損失分布の長手方向分布を示す。ここで、図3のグラフの縦軸での曲げ損失は相対的な曲げ損失であることに注意すべきである。
一般に、解析的な曲げ損失の計算では、絶対値の同定が難しいことが知られており、相対的な曲げ損失の分布までしか得ることができない。
図3から明らかなように、曲げ損失の長手方向の相対的分布を得られている。
【0039】
次に、図3の結果から、空孔付き曲げ損失低減光ファイバの中の1点(図中約1kmの点)で別途IEC60793−1−47 Ed.3記載の手法で実測した曲げ損失結果(0.002dB/1turn、波長1550nm、曲げ半径5mm時)を用いて相対値を絶対値に同定して得た曲げ損失分布の長手方向分布を図4に示す。
このとき、相対値から絶対値への変換は、図3の相対値の値と別途実測した曲げ損失の絶対値が比例するとして行った。このとき、その他の空孔付き曲げ損失低減光ファイバの各光ファイバ端で別途IEC60793−1−47 Ed.3記載の手法で実測した曲げ損失結果と図4の結果を比較したところ、両者は測定ばらつきの範囲内で一致した。
以上から、本測定方法で、曲げ損失の長手方向分布を得ることができることが確認された。
【0040】
(実施例2)
予め実測により得ている曲げ損失と相加平均値との相関関係から、曲げ損失の長手方向分布を得る方法によって曲げ損失の長手方向分布を測定した。
図5は、空孔付き曲げ損失低減型光ファイバでの、ITU−T G.650.1記載の方法で測定したMFDとIEC60793−1−47 Ed.3記載の手法で実測した曲げ損失との関係を示している。
図5より明らかなように、MFDと曲げ損失の間には非常によい相関関係が見られ、MFDと曲げ損失の関係は指数関数で近似できる(すなわちMFDと曲げ損失の対数はリニアの関係)ことが確認できる。この関係式をある決まった構造の光ファイバにおいてあらかじめ得ておけば、双方向OTDR測定法によって得られた相加平均値に基づいて式(3)によりMFDの長手方向の分布を求め、このMFDの長手方向分布から光ファイバの曲げ損失の長手方向分布を得ることができることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの双方向OTDR測定により得られた2つの後方散乱光の位置xでの2つの後方散乱光強度から相加平均値I(x)を算出し、この相加平均値から算出される位置xにおけるモードフィールド径2W(x)と比屈折率差Δ(x)から、位置xにおける曲げ損失値を得ることを特徴とする光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法。
【請求項2】
曲げ損失値を得るときに、対象となる光ファイバを、その光ファイバの屈折率分布がこれと等価なステップ型屈折率分布を有する光ファイバとみなし、このステップ型屈折率分布を有する光ファイバの規格化周波数Vとコア半径aとモードフィールド径2Wの関係式から位置xにおける曲げ損失値を算出することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法。
【請求項3】
位置xにおけるモードフィールド径2W(x)を得るときに、光ファイバ中の任意の2点の参照点におけるモードフィールド径を用いて相加平均値I(x)からモードフィールド径2W(x)を得ることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の方法によって得られた曲げ損失の長手方向分布と長手方向の任意の点の実際に測定された曲げ損失の値を用いて、長手方向の位置xにおける曲げ損失値の絶対値を得ることを特徴とする光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法。
【請求項5】
光ファイバの双方向OTDR測定により得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から算出される相加平均値I(x)を用いてモードフィールド径2W(x)を導出し、予め求められたモードフィールド径2W(x)と曲げ損失値との相関関係に基づいて、位置xにおける曲げ損失値を求めることを特徴とする光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法。
【請求項6】
測定対象物の光ファイバが曲げ損失低減型光ファイバからなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法。
【請求項7】
曲げ損失低減型光ファイバが、空孔付き光ファイバもしくはトレンチ付き光ファイバもしくは微細気泡付き光ファイバであることを特徴とする請求項6に記載の光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法。
【請求項8】
光ファイバが敷設されているものであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の光ファイバの曲げ損失の長手方向分布の測定方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載された測定方法を用いて、敷設された光線路の曲げ損失の欠陥位置を検出し特定することを特徴とする光線路試験方法。
【請求項10】
光ファイバ素線から光ファイバケーブルまたは光ファイバコードを製造する第一の工程と、第一の工程で得られた光ファイバケーブルまたは光ファイバコードの特性を測定する第二の工程を有する光ファイバケーブルまたは光ファイバコードの製造方法であって、
前記第二の工程において、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載された測定方法を用いて、光ファイバケーブルまたは光ファイバコードの曲げ損失の欠陥位置を検出することを特徴とする光ファイバケーブルまたは光ファイバコードの製造方法。
【請求項11】
光ファイバ素線を製造する第一の工程と、第一工程で得られた光ファイバ素線の特性を測定する第二の工程を有する光ファイバ素線の製造方法であって、
前記第二の工程において、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載された測定方法を用いて、光ファイバ素線の曲げ損失の欠陥位置を検出することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−42389(P2012−42389A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185320(P2010−185320)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】