説明

光ファイバの製造方法および光ファイバ製造装置

【課題】コア部とクラッド部とが一体化された光ファイバ母材を線引きする場合に、コア径が一定で、特性が均一な光ファイバを容易に製造すること。
【解決手段】コア部とクラッド部とが一体化された光ファイバ母材21を溶融させ、溶融した光ファイバ母材21を線引きすることにより光ファイバを製造する場合に、コア径測定部13およびクラッド径測定部14が、線引きされた光ファイバ母材21のコア径とクラッド径をそれぞれ測定し、制御部20が、測定されたコア径とクラッド径に基づいて、コア径が所定の値となるクラッド径の目標値を算出し、算出した目標値と測定されたクラッド径とが一致するよう線引き速度、及び/または、光ファイバ母材送り速度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材を溶融させ、溶融した光ファイバ母材を線引きすることにより光ファイバを製造する光ファイバの製造方法および光ファイバ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの製造には、光ファイバ母材を加熱して溶融状態にし、溶融した光ファイバ母材を線引きする方法が一般に用いられている。この方法では、線引き速度、光ファイバ母材送り速度などを変化させることにより、光ファイバのクラッド径(外径)を調整することができる。
光ファイバの特性を長手方向で一定に保つためには、光ファイバのクラッド径を適切な径に調整することが必要である。そのため、必要な特性が得られるような光ファイバのクラッド径が選択され、一般的にはこれが一定となるように制御される。
【0003】
しかし、たとえクラッド径が適切に選択され、一定に制御されたとしても、コア径が変化すると、モードフィールド径などの光ファイバの特性にばらつきが生じてしまう。例えば、コア径とクラッド径の比率が光ファイバ母材の長手方向に沿って変化している場合、光ファイバのクラッド径を一定にしたとしても、コア径が変化してしまう。
【0004】
コア径を一定にする技術として、例えば、特許文献1には、コア用ロッドをクラッド用石英管内に挿入した状態で加熱軟化させ、コア用ロッドとクラッド用石英管との間の空間部を埋めながら一体に線引きする光ファイバの製造装置であって、クラッド径だけでなくコア径についても調節を行う製造装置が開示されている。
【0005】
この製造装置は、線引き直後の光ファイバのコア径を測定するコア径測定部とファイバ外径を測定するファイバクラッド径測定部を備え、コア径測定部により測定した値に基づいてコア用ロッドの送り速度を調節し、ファイバクラッド径測定部により測定した値に基づいてクラッド用石英管の送り速度を調節することにより、コア径およびクラッド径を調節している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−260441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1の従来技術は、コア用ロッドとクラッド用石英管とを一体化しながら線引きするロッドイン線引きと呼ばれる技術であり、コア用ロッドの送り速度とクラッド用石英管の送り速度とを独立に調整するものである。そのため、コア部とクラッド部が予め一体化された光ファイバ母材を線引きする場合に、上述した特許文献1の技術を適用することはできない。
【0008】
また、特許文献1の従来技術は、コア径が所望の値から外れた場合に、コア用ロッドの送り速度を変更してコア径を調整するものであるが、特にコア径を測定する時間間隔が長い場合には、コア用ロッドの送り速度を再設定する時間間隔が長くなってしまう。その結果、コア径を所望の値に戻すまでに時間がかかり、光ファイバの特性を均一にすることができなくなる。
【0009】
本発明は、上述した実状に鑑みてなされたもので、コア部とクラッド部とが一体化された光ファイバ母材を線引きする場合に、コア径が一定で、特性が均一な光ファイバを容易に製造することができる光ファイバの製造方法および光ファイバ製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光ファイバの製造方法は、コア部とクラッド部とが一体化された光ファイバ母材を溶融させ、溶融した光ファイバ母材を線引きすることにより光ファイバを製造する光ファイバの製造方法で、線引きされた光ファイバ母材のコア径とクラッド径を測定し、測定されたコア径とクラッド径に基づいて、コア径が所定の値となるクラッド径の目標値を算出し、算出した目標値と測定されたクラッド径とが一致するよう線引き速度、及び/または、光ファイバ母材送り速度を制御することによりコア径を制御する。
【0011】
また、本発明による光ファイバの製造方法では、光ファイバ母材を線引きする際、1000m以下の線引きの間隔でコア径の測定を行い、コア径が測定される度に、クラッド径の目標値を算出し直すことができる。また、この製造方法では、測定されたコア径の変動が、上記所定の値の±2%以内となるよう線引き速度、及び/または、光ファイバ母材送り速度を制御することができる。
【0012】
また、本発明による光ファイバ製造装置は、コア部とクラッド部とが一体化された光ファイバ母材を溶融させ、溶融した光ファイバ母材を線引きすることにより光ファイバを製造する光ファイバ製造装置で、線引きされた光ファイバ母材のコア径を測定するコア径測定部と、線引きされた光ファイバ母材のクラッド径を測定するクラッド径測定部と、コア径測定部により測定されたコア径とクラッド径測定部により測定されたクラッド径に基づいて、光ファイバ母材のコア径が所定の値となる光ファイバ母材のクラッド径の目標値を算出し、算出した目標値とクラッド径測定部により測定されたクラッド径とが一致するよう線引き速度、及び/または、光ファイバ母材送り速度を制御することによりコア径を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コア径とクラッド径の測定値に基づいて、コア径が所定の値となるクラッド径の目標値を算出し、算出された目標値とクラッド径の測定値とが一致するよう線引き速度、及び/または、光ファイバ母材送り速度を制御するので、コア部とクラッド部とが一体化された光ファイバ母材の線引きにおいて、コア径が一定で、特性が均一な光ファイバの製造が容易になる。また、コア径を測定する時間間隔を長くしても、刻々と変化するクラッド径の測定値に基づいて、コア径が所定の値になるようなクラッド径に制御するので、コア径が一定で、特性が均一な光ファイバを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る光ファイバ製造装置の一例を示す図である。
【図2】制御対象となるクラッド径の算出方法の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明による光ファイバの製造方法および光ファイバ製造装置について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る光ファイバ製造装置10の一例を示す図である。
図1に示すように、この光ファイバ製造装置10は、線引き炉11、ヒータ12、コア径測定部13、クラッド径測定部14、樹脂塗布ダイス15、硬化炉16、ガイドローラ17、キャプスタン18、巻取りドラム19、および、制御部20を備える。
【0016】
線引き炉11には、光ファイバ母材21がセットされる。光ファイバ母材21は、その中心部にコア部を、コア部の周りにクラッド部を有する。ここで、例えば、光ファイバ母材21の外径は100±2mmであり、光ファイバ母材21のコア径は6.5±0.3mmである。光ファイバ母材21がヒータ12により加熱されると、光ファイバ母材21の先端部は溶融して落下し、光ファイバ22が線引きされる。
【0017】
この線引き工程において、光ファイバ22には、樹脂塗布ダイス15を用いて樹脂(保護被覆)が塗布され、次いで、光ファイバ22は硬化炉16に送られて、塗布された樹脂が固化される。線引きされた光ファイバ22は、ガイドローラ17等を経由してキャプスタン18により引き取られ、さらに巻取りドラム19により巻き取られる。一回の線引き工程で光ファイバ母材21から、例えば1000kmの光ファイバ22が製造される。
【0018】
また、樹脂塗布ダイス15の上流には、コア径測定部13とクラッド径測定部14とが設置される。コア径測定部13は、線引きされた光ファイバ22のコア径を測定する。クラッド径測定部14は、線引きされた光ファイバ22のクラッド径を測定する。
【0019】
ここで、コア径測定部13は、顕微鏡と高速度撮像カメラ等により光ファイバ22の側面の透光画像を撮像し、撮像した透光画像から光ファイバ画像の輝度プロファイルを生成する。そして、コア径測定部13は、生成した輝度プロファイルを画像処理して光ファイバ22のコア部を検出し、コア径を測定する。コア部の検出や画像処理には時間がかかるため、コア径の測定には、クラッド径の測定よりも長時間を要する。
なお、クラッド径測定部14には一般的な外径測定器が用いられ、クラッド径測定部14は、数ms程度の間隔でクラッド外径を測定する。
【0020】
制御部20は、コア径測定部13およびクラッド径測定部14によりそれぞれ測定されたコア径およびクラッド径から、コア径が所望の値となるようなクラッド径を算出し、算出したクラッド径と、クラッド径測定部14により測定されるクラッド径とが一致するようにキャプスタン18の光ファイバ22の引き取り速度(線引き速度)、及び/または、光ファイバ母材送り速度を制御する。すなわち、引き取り速度を制御する場合、クラッド径を小さくするには、制御部20は引き取り速度を大きい値に設定し、クラッド径を大きくするには、制御部20は引き取り速度を小さい値に設定し、算出したクラッド径と測定されるクラッド径とが一致するようにする。光ファイバ母材送り速度を制御する場合、クラッド径を小さくするには、制御部20は光ファイバ母材送り速度を小さい値に設定し、クラッド径を大きくするには、制御部20は光ファイバ母材送り速度を大きい値に設定し、算出したクラッド径と測定されるクラッド径とが一致するようにする。なお、引き取り速度の制御と光ファイバ母材送り速度の制御は、両者を組み合わせて制御することとしても良い。
【0021】
図2は、制御対象となるクラッド径の算出方法の一例について説明する図である。図2には、光ファイバ22のコア部30とクラッド部31が示されている。ここで、コア径測定部13により測定されたコア径をAとし、クラッド径測定部14により測定されたクラッド径をBとし、目標とするコア径をAxとし、コア径をAxにするためのクラッド径の目標値をBxとする。この場合、制御部20は、クラッド径の目標値BxをB/A×Axに設定する。
例えば、測定されたコア径Aおよびクラッド径Bが、それぞれ8μm、125μmであり、コア径Axが8.1μmである光ファイバ22を製造する場合、クラッド径の目標値Bxは、126.5μm(≒125/8×8.1)に設定される。
【0022】
なお、クラッド径Bとコア径Aとの比B/Aは、光ファイバ22を製造する際の通常時の線引き速度(例えば25m/s)とは異なる速度で光ファイバ22が線引きされている場合に測定したクラッド径とコア径から算出することとしてもよい。例えば、線引き開始直後で引き取り速度が小さいときに測定したクラッド径とコア径から比B/Aを算出してもよい。線引き速度が小さいときは、画像処理によるクラッド径およびコア径の測定がより精度よく行えるので、比B/Aをより正確に算出することができる。
【0023】
また、測定に時間が掛かるコア径Aの測定は、例えば、1000mの線引きごとに行われるが、1000m以下であればなお良く、短ければ短いほどより高精度な制御ができる。但し、コア径Aの測定は、上記したようにコア径測定系の処理能力に依存するため、自ずと限界がある。これに対し、クラッド径Bの測定は、ほぼ連続的に行われる。
【0024】
そして、制御部20は、コア径Aの測定結果の情報が得られる度に、コア径Aとクラッド径Bの測定値からクラッド径の目標値Bx(=B/A×Ax)を算出し直し、クラッド径がその目標値Bxとなるように、キャプスタン18における光ファイバ22の引き取り速度、及び/または、光ファイバ母材送り速度を制御する。その結果、コア径Aの変動は、規定(すなわち、目標とするコア径Ax)の±2%以内となるように制御される。なお、クラッド径のみで制御する場合は、光ファイバ母材のコア径変動がほぼそのまま光ファイバのコア径変動になるため、±4〜5%程度のコア径の変動が生じることになる。
【0025】
また、制御部20がコア径を直接制御するのではなく、クラッド径を制御するのは、上記した理由により、コア径を短い間隔で測定することがクラッド径の場合よりも難しいからである。そのため、コア径測定部13のコア径の測定間隔をクラッド径測定部14のクラッド径の測定間隔よりも長くし、コア径を測定していない間は、制御部20は、直前に測定したコア径により算出されたクラッド径の目標値Bxを用いて、コア径よりも短い間隔で測定されるクラッド径がその目標値Bxとなるように、光ファイバ22の引き取り速度、及び/または、光ファイバ母材送り速度を連続的に制御する。
【0026】
これにより、クラッド径のみを制御する場合に比べ、光ファイバ22全長にわたって、コア径を一定にすることができ、特性を均一にすることができる。すなわち、上述した方法を用いることにより、例えばモードフィールド径のばらつきを半分程度に抑えることができ、品質が均一な光ファイバを製造することが可能となる。また、長尺の光ファイバ22を分割してボビンに巻きつけた際に、ボビンごとに光ファイバ22の特性がばらつくことを抑制することができる。また、光ファイバ22をサンプリングして特性を分析し、その分析結果に基づいて試行錯誤によりコア径を調整するなどの作業が不要となり、光ファイバ22の製造効率が向上する。
【符号の説明】
【0027】
10…光ファイバ製造装置、11…線引き炉、12…ヒータ、13…コア径測定部、14…クラッド径測定部、15…樹脂塗布ダイス、16…硬化炉、17…ガイドローラ、18…キャプスタン、19…巻取りドラム、20…制御部、30…コア部、31…クラッド部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部とクラッド部とが一体化された光ファイバ母材を溶融させ、溶融した光ファイバ母材を線引きすることにより光ファイバを製造する光ファイバの製造方法であって、
線引きされた前記光ファイバ母材のコア径とクラッド径を測定し、測定されたコア径とクラッド径に基づいて、該コア径が所定の値となる前記クラッド径の目標値を算出し、算出した目標値と測定されたクラッド径とが一致するよう線引き速度、及び/または、光ファイバ母材送り速度を制御することにより前記コア径を制御することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記光ファイバ母材を線引きする際、1000m以下の線引きの間隔で前記コア径の測定を行い、該コア径が測定される度に前記クラッド径の目標値を算出し直すことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
測定された前記コア径の変動が、前記所定の値の±2%以内となるよう線引き速度、及び/または、光ファイバ母材送り速度を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項4】
コア部とクラッド部とが一体化された光ファイバ母材を溶融させ、溶融した光ファイバ母材を線引きすることにより光ファイバを製造する光ファイバ製造装置であって、
線引きされた前記光ファイバ母材のコア径を測定するコア径測定部と、
線引きされた前記光ファイバ母材のクラッド径を測定するクラッド径測定部と、
前記コア径測定部により測定されたコア径と前記クラッド径測定部により測定されたクラッド径に基づいて、前記光ファイバ母材のコア径が所定の値となる前記光ファイバ母材のクラッド径の目標値を算出し、算出した目標値と前記クラッド径測定部により測定されたクラッド径とが一致するよう線引き速度、及び/または、光ファイバ母材送り速度を制御することにより前記コア径を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする光ファイバ製造装置。

【図1】
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【図2】
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