説明

光ファイバコネクタ及びその組立方法

【課題】光ファイバコネクタの組立作業を簡易化する。
【解決手段】光ファイバ調心部21と光ファイバ把持部30との間に、光ファイバ心線40の被覆付部分を軸方向に移動可能に収容するファイバガイドA10及びB22、光ファイバ心線40の被覆を除去した部位の外径とほぼ同じ又は僅かに大きい幅もしくは内径を有する被覆除去部23及び被覆収容部24を配置することにより、被覆が付いたままの状態で劈開され、該劈開された端面の角が被覆ごと斜めに研削され、テーパ状に加工されてなる一端を備えた光ファイバ心線40を挿入するのみで、光ファイバ調心部21から裸光ファイバ素線41の先端を僅かに突出させ、PC接続可能とした光ファイバコネクタの組立を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバコネクタ、特に現場での組立作業性に優れた光ファイバコネクタ及びその組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバコネクタでは、コアを伝搬してきた光が光ファイバの端面から出射する際に、コアと屈折率の異なる空気によって反射されることを抑え、良好な反射損失特性を実現する必要がある。この光ファイバの端面における空気との反射を抑える方法として、接続する光ファイバの端面同士の間にコアと同じ屈折率を有する屈折率整合剤を介在させることで抑える方法と、光ファイバのコア同士を直接、密着(Physical Contact:PC)接続させることで抑える方法がある。
【0003】
従来、コア同士をPC接続するには、フェルールに接着剤で固定した光ファイバの端面を研磨する必要があり、光ファイバの端面を研磨するためには、専用の研磨ツールと砥粒が埋め込まれた研磨シートとを用意する必要があった。
【0004】
一方、光ファイバの先端をフェルールより突き出した状態で保持させておき、接続時に光ファイバがコネクタの内部で座屈する(撓む)ことにより発生する押圧力を利用して、光ファイバの端面を研磨することなくPC接続を実現する方法が提案されている(非特許文献1参照)。但し、端面研磨されていない光ファイバの端面、即ちファイバカッタなどにより切断された光ファイバの劈開面には円周部にリップルが生じており、前述した方法であっても、このリップルを取り除く加工については別途実施する必要があった。
【非特許文献1】電子情報通信学会2008年総合大会講演論文集、“ファイバ端面研磨が不要な現場組立PCコネクタの検討”、B−13−14
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した光ファイバのコア同士をPC接続する光ファイバコネクタでは、光ファイバコネクタを組み立てる際、まず、被覆付き光ファイバ(光ファイバ心線)から特殊工具によって被覆を除去して裸光ファイバ素線とし、さらに裸光ファイバ素線のカット及び端面の研削加工を行わなければならないが、裸光ファイバ素線は取り扱いが難しく、専門スキルが必要であるという問題があった。
【0006】
本発明は、光ファイバの被覆を除去する特殊工具も、当該特殊工具を用いた被覆除去作業も必要とすることなく、さらに裸光ファイバ素線を取り扱うこともなく、組立可能な光ファイバコネクタを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、このような目的を達成するため、被覆付き光ファイバの被覆が除去された先端部を保持する光ファイバ調心部と、被覆付き光ファイバの被覆付部分を保持・固定する光ファイバ把持部と、光ファイバ調心部と光ファイバ把持部との間に配置される光ファイバ心線ガイド部、被覆除去部及び被覆収容部とを少なくとも備え、前記光ファイバ心線ガイド部は、被覆付き光ファイバの被覆付部分を軸方向に移動可能に収容し、被覆除去部は、被覆付き光ファイバの被覆を除去した部位の外径とほぼ同じ又は僅かに大きい幅もしくは内径を有し、被覆収容部は、被覆付き光ファイバが光ファイバ心線ガイド部から前記被覆除去部まで挿入され、その被覆が前記被覆除去部に当接し、さらに前記被覆付き光ファイバが前記被覆除去部側に押し込まれた時に発生する応力によって当該被覆付き光ファイバから剥かれた被覆を収容する空間を有する光ファイバコネクタを提案する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被覆付き光ファイバの一端を光ファイバ心線ガイド部に収容し、被覆除去部及び被覆収容部側へ挿入するのみで、前記一端の被覆を除去できるとともに当該被覆が除去された先端部を光ファイバ調心部に収容して調心することができるため、従来のような特殊工具を用いた被覆付き光ファイバに対する被覆除去作業や裸光ファイバ素線のカット及び端面の研削加工が不要となるとともに、裸光ファイバ素線そのものを取り扱う必要がなくなり、そのための専門スキルも必要でなくなり、組立作業を簡易化できる。
【0009】
また、この際、被覆付き光ファイバとして、被覆が付いたままの状態で劈開され、該劈開された端面の角が被覆ごと斜めに研削され、テーパ状に加工されてなる一端を備えた被覆付き光ファイバを用いれば、光ファイバを被覆除去部を通して光ファイバ調心部に挿入する際のファイバ端面のクリアランスが大きくなり、裸光ファイバ素線の挿入性を向上できる。さらに、加工の際に削られた被覆の端面は脆くなるので、被覆除去部での被覆の除去性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、これにより本発明の範囲が制限されるものではない。
【0011】
図1は本発明の光ファイバコネクタの実施の形態の一例を示すもので、図中、10はファイバガイドA、20はフェルール、30は光ファイバ把持部、40は被覆付き光ファイバ(光ファイバ心線)である。また、図2は組立時のようすを示す説明図、図3はフェルールの被覆除去部を中心とする拡大断面図、図4は光ファイバ心線の先端部の一例を示す側面図、図5はテーパ加工された光ファイバの端面径とそのコア同士をPC接続するために必要な荷重の測定結果を示すグラフである。
【0012】
ファイバガイドA10は、光ファイバ心線40の被覆付部分を軸方向に移動可能に収容するV溝(又はU溝)を備えた本体11と、図2に示すように前記本体11に対してスライド可能に取り付けられた押さえ蓋12(図1では図示せず)との組合せからなり、本体11に対して押さえ蓋12が移動可能な空間によって光ファイバ心線40が撓み得る撓み空間13が構成される。
【0013】
なお、ファイバガイドA10は、その一端から他端まで光ファイバ心線40の被覆付部分の外径とほぼ同じ内径の貫通孔を有する一つの部材で構成しても良く、この際、貫通孔の中間部位の内径を他の部位より拡大して撓み空間を形成することもできる。
【0014】
フェルール20は、ファイバガイドA10の本体11の一端に取り付けられ、その内部には途中で内径が変化する貫通孔によって形成された光ファイバ調心部21、ファイバガイドB22、被覆除去部23及び被覆収容部24を備えている。
【0015】
即ち、フェルール20の貫通孔の一端側は裸光ファイバ素線の外径(通常、125μm)とほぼ等しい内径を有し、裸光ファイバ素線を収容・保持する光ファイバ調心部21を構成している。また、フェルール20の貫通孔の他端側は、光ファイバ心線の外径(通常、250μm)とほぼ等しい内径を有し、光ファイバ心線を軸方向に移動可能に収容するファイバガイドB22を構成している。さらにまた、フェルール20の貫通孔の中間部は、光ファイバ心線の外径より大きめの内径(350〜450μm程度)を有し、光ファイバ心線から除去された被覆を収容する被覆収容部24を構成するとともに、該被覆収容部24と光ファイバ調心部21との境界部が被覆除去部23を構成している。
【0016】
なお、前述したファイバガイドA10及びファイバガイドB22により、特許請求の範囲でいう光ファイバ心線ガイド部が構成される。
【0017】
図3はフェルール20の被覆除去部23を中心とする拡大断面を示すものである。光ファイバ調心部21の内径φcは光ファイバを良く調心できるよう、裸光ファイバ素線のクラッド径とほぼ等しいか多くとも数μmしか違わない構造でなければいけない。これは従来の光コネクタと同様の寸法で良い。また、被覆除去部23の内径φaは光ファイバ心線の外径より小さく且つ内径φc以上でなければならず、内径φcと等しくても良い。また、被覆除去部23が光ファイバの挿入方向に対してなす角度bはほぼ直角または鋭角でなければならない。
【0018】
ここで、光ファイバ心線に対して、後述するテーパ加工を施さない場合は、被覆の厚みのばらつきやファイバの偏心により、被覆除去部23の内径φaは、通常、190μm程度はないと規格品のファイバの全てに適用することができない。このため、この内径φaから光ファイバ調心部21の内径φcまで変化するテーパを、光ファイバ調心部21の端部に設けなくてはならなくなる。一方、光ファイバ心線に対して、後述するテーパ加工を施した場合は、光ファイバを被覆除去部23を通して光ファイバ調心部21に挿入する際のファイバ端面のクリアランスが大きくなるため、前述したようなテーパを、光ファイバ調心部21の端部にテーパを設ける必要はない。また、光ファイバ心線に対するテーパ加工の際に削られた被覆の端面は脆くなるため、被覆除去部23での被覆の除去性も向上する。
【0019】
なお、ここでは一般に、光ファイバコネクタの調心機構を構成するフェルールの内部にファイバガイドB、被覆除去部及び被覆収容部を一体的に設けたが、光ファイバ調心部、ファイバガイドB、被覆除去部及び被覆収容部をそれぞれ別々の部材で構成しても良い。また、ファイバガイドA10とファイバガイドB22とを別々の構成としているが、これらは一体的に構成されていても良い。
【0020】
光ファイバ把持部30は、ファイバガイドA10の本体11の他端側に設けられ、光ファイバ心線40の被覆付部分を機械的または接着剤などにより保持・固定する機能を有する。なお、この光ファイバ把持部30は、組立時には、光ファイバ心線40を自由に挿通させることができることは言うまでもない。
【0021】
前記構成にかかる光ファイバコネクタを組み立てるには、まず、接続しようとする一端を被覆が付いたままの状態で劈開させた光ファイバ心線40を用意する。
【0022】
光ファイバ心線の劈開切断は、裸光ファイバ素線を切断する場合と同様、初期傷の加傷とファイバの曲げにより行うことができる。光ファイバ心線を劈開切断する場合、適切な初期傷を加えるためには、通常、裸光ファイバ素線を切断する場合に比べて刃圧を大きくすることが必要である。具体的には、例えば、電子情報通信学会2008年総合大会講演論文集、“被覆付き光ファイバ心線の切断技術の検討”、B−13−15、に記載の方法がある。
【0023】
次に、前述した光ファイバ心線40の劈開させた端面の角を被覆ごと斜めに研削、詳細には図4に示すように被覆とともにクラッドの一部、即ちクラッドの外周部から所定の範囲まで研削してテーパ状に加工する。
【0024】
図2(a)に示すように光ファイバ心線40のテーパ加工した一端を、光ファイバ把持部30を通してファイバガイドA10の本体11のV溝内に収容する。なお、この時点では光ファイバ把持部30は光ファイバ心線40を固定していない。
【0025】
この状態で、光ファイバ心線40をファイバガイドA10の一端側及びファイバガイドB22へ挿入してゆくと、その被覆が被覆除去部23に当接する。さらに光ファイバ心線40を被覆除去部23側に押し込んでゆくと、その時に発生する応力によって、図1に拡大して示したように被覆が当該光ファイバ心線40から剥かれ、被覆収容部24に収容される。
【0026】
前述したようにファイバガイドA10は撓み空間13を有するが、十分な挿入力を得るために、挿入の際、一時的に撓みを制限する構造としても良い。撓みを一時的に制限する構造の一例として、本実施の形態では、ファイバガイドA10の押さえ蓋12を移動可能とした。即ち、ファイバ先端に加えることのできる挿入力は最も撓み長の長い撓みの座屈力で決まるので、図2(a)に示したように押さえ蓋12をその移動可能な範囲のほぼ中間に位置させることで撓み長を小さくし、その分、挿入力を大きくとることが可能である。なお、撓み空間13は、光ファイバのコア同士を直接、密着(Physical Contact:PC)接続させる際に、光ファイバが座屈する(撓む)ことにより発生する押圧力を利用するためのものであるが、組立時には必要ではない。
【0027】
而して、図2(b)に示すように、被覆が除去され、裸光ファイバ素線41とされた光ファイバ心線40の接続しようとする一端は光ファイバ調心部21に収容されて調心される。さらに、裸光ファイバ素線41の先端面がフェルール20の端面から所定の長さだけ突き出た状態で光ファイバ把持部30により光ファイバ心線40をファイバガイドA10に固定するとともに、押さえ蓋12を本体11の一端側寄りへ移動させることで十分な撓み空間13を形成する。
【0028】
前記の如くして組み立てられた光ファイバコネクタと他の同様な光ファイバコネクタとの接続時、双方のフェルールの端面同士が密着する状態になると、フェルール20の端面から突き出た裸光ファイバ素線41の部分は光ファイバコネクタ内に押し込まれるが、光ファイバ心線40自体は光ファイバ把持部30によりファイバガイドA10に固定されているため、撓み空間13内で撓みを生じる。この撓みが戻ろうとする復元力によって裸光ファイバ素線41の端面は対向する他の光ファイバコネクタの裸光ファイバ素線の端面に押し付けられる。裸光ファイバ素線41の端面は、通常は周辺部に発生するバリ、リップルが前述した角を落とす加工により無くなっているので、この復元力による押し付けでPC接続することができる。
【0029】
図5はテーパ加工された後の光ファイバの端面径とそのコア同士をPC接続するために必要な荷重(押圧力)の測定結果を示すものである。ここで、前述した復元力による押圧力が最大で1.5[N]程度であるとすると、PC接続が可能となる端面径は図5より80μm程度以下であることが分かる。従って、光ファイバのクラッドの外周部の径(裸光ファイバ素線の外径)は通常、125μmであることから、端面を周辺から少なくとも20μm程度削っておけばPC接続可能であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の光ファイバコネクタの実施の形態の一例を示す要部拡大斜視図
【図2】組立時のようすを示す説明図
【図3】フェルールの被覆除去部を中心とする拡大断面図
【図4】光ファイバ心線の先端部の一例を示す側面図
【図5】テーパ加工された光ファイバの端面径とそのコア同士をPC接続するために必要な荷重の測定結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0031】
10:ファイバガイドA、11:本体、12:押さえ蓋、20:フェルール、21:光ファイバ調心部、22:ファイバガイドB、23:被覆除去部、24:被覆収容部、30:光ファイバ把持部、40:光ファイバ心線、41:裸光ファイバ素線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆付き光ファイバの被覆が除去された先端部を保持する光ファイバ調心部と、被覆付き光ファイバの被覆付部分を保持・固定する光ファイバ把持部と、光ファイバ調心部と光ファイバ把持部との間に配置される光ファイバ心線ガイド部、被覆除去部及び被覆収容部とを少なくとも備え、
前記光ファイバ心線ガイド部は、被覆付き光ファイバの被覆付部分を軸方向に移動可能に収容し、
被覆除去部は、被覆付き光ファイバの被覆を除去した部位の外径とほぼ同じ又は僅かに大きい幅もしくは内径を有し、
被覆収容部は、被覆付き光ファイバが光ファイバ心線ガイド部から前記被覆除去部まで挿入され、その被覆が前記被覆除去部に当接し、さらに前記被覆付き光ファイバが前記被覆除去部側に押し込まれた時に発生する応力によって当該被覆付き光ファイバから剥かれた被覆を収容する
ことを特徴とする光ファイバコネクタ。
【請求項2】
前記被覆付き光ファイバとして、被覆が付いたままの状態で劈開され、該劈開された端面の角が被覆ごと斜めに研削され、テーパ状に加工されてなる一端を備えた被覆付き光ファイバを用いる
ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバコネクタ。
【請求項3】
被覆付き光ファイバのテーパ状に加工される範囲は、被覆を除去した部位の外周部から少なくとも20μmの範囲である
ことを特徴とする請求項2に記載の光ファイバコネクタ。
【請求項4】
前記被覆除去部は、被覆付き光ファイバの挿入方向に対して鋭角または直角の端面を有する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光ファイバコネクタ。
【請求項5】
前記光ファイバ心線ガイド部は、その中間部位に被覆付き光ファイバが撓む撓み空間を有する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光ファイバコネクタ。
【請求項6】
接続しようとする一端を被覆が付いたままの状態で劈開させた被覆付き光ファイバの当該劈開させた端面の角を被覆ごと斜めに研削してテーパ状に加工する工程と、
テーパ状に加工した被覆付き光ファイバの一端を、請求項1乃至5のいずれかに記載の光ファイバコネクタの光ファイバ心線ガイド部に光ファイバ把持部を介して収容する工程と、
被覆付き光ファイバの一端を前記光ファイバコネクタの被覆除去部まで挿入してその被覆を当接させる工程と、
被覆付き光ファイバをさらに押し込んで前記被覆除去部によりその被覆を除去するとともに、当該被覆が除去された被覆付き光ファイバの先端部を光ファイバ調心部に収容して調心する工程とを少なくとも含む
ことを特徴とする光ファイバコネクタの組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−96981(P2010−96981A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267562(P2008−267562)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】