説明

光ファイバー温度計を利用した火災感知方法および装置

【課題】 火災の火源位置を二次元的に正確に感知することが可能で、高温雰囲気にも耐えられる、光ファイバー温度計を利用した火災感知方法および装置を提供する。
【解決手段】 部屋の天井面4に光ファイバー温度計のセンサー2を矩形状に敷設し、信号処理装置3は、一方の相対するセンサー2A、2Bによる温度分布のピークを結んだ直線(L1)と、他方の相対するセンサー2C、2Dによる温度分布のピークを結んだ直線(L2)との交点を求め、前記交点を火源位置として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光ファイバー温度計を利用した火災感知方法および装置、特に、火災の火源位置を二次元的に正確に感知することが可能で、高温雰囲気にも耐えられる、光ファイバー温度計を利用した火災感知方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバー温度計を利用した温度計が知られている。この温度計の原理を簡単に説明すれば、以下の通りである。
【0003】
光ファイバーにレーザー光が入射すると、ファイバーの各部で後方散乱が起こり、ごく僅かであるが、入射光の一部が入射側に戻ってくる。この散乱光には、以下のものがある。
(1)入射光と同じ波長のレイリー散乱光。
(2)僅かに入射光より波長の長いストークス光。
(3)僅かに入射光より波長の短いアンチストークス光。
【0004】
このうち、光ファイバーの温度の影響を受けにくい、(2)のストークス光と、ストークス光とは逆に光ファイバーの温度の影響を受けやすい、(3)のアンチストークス光とを波長の違いを利用して分離・検出し、その強度比から光ファイバー各部の温度を求める。
【0005】
そして、どの位置からの散乱光であるかは、光ファイバー内の光の伝播速度は一定であり、伝播距離に比例した伝播時間を要するので、散乱光が入射部分に戻ってくるまでに要する時間を計測し、分解して判別することによって求める。
【0006】
このような光ファイバー温度計をトンネル火災感知システムとして利用した例が、特許文献1(特開平11−120457号公報)に開示されている。このシステムは、図10に示すように、光ファイバー温度計のセンサー12をトンネル11の長さ方向に沿って敷設し、これ以外に、一酸化炭素濃度計測システム13、視程距離計測システム14および監視カメラ15等を設置して、トンネル11内の温度分布を管理センター16において三次元画像で視覚的に表示可能としたものである。
【0007】
【特許文献1】特開平11−120457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術によれば、トンネル11内の火災の火源位置を監視カメラ15等により三次元画像で視覚的に検知することができるので、トンネル1内の防災に寄与するものと思われる。
【0009】
しかしながら、従来技術のように光ファイバー温度計のセンサー12を一次元的に、すなわち、トンネルの11の長手方向にのみ敷設した場合には、トンネル11の長手方向の火災の火源位置は感知できるが、長手方向の道路のどの位置、すなわち、火災がトンネルの下り車線で発生したのか上り車線で発生したのかは分からない。そこで、従来技術では、監視カメラ15等を設置しているが、カメラ設備に防熱対策はとられているにせよ熱損傷しやすく、場合によって火災現場を撮影できない場合もある。
【0010】
従って、この発明の目的は、火災の火源位置を二次元的に正確に感知することが可能で、高温雰囲気にも耐えられる、光ファイバー温度計を利用した火災感知方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0012】
請求項1記載の発明は 建造物の構成面に光ファイバー温度計のセンサーを二次元的に敷設し、前記センサーによる温度分布に基づいて火源位置を検出することに特徴を有するものである。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、構成面は、床面、壁面または天井面であることに特徴を有するものである。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、構成面に光ファイバー温度計のセンサーを矩形状に敷設し、一方の相対するセンサーによる温度分布のピークを結んだ直線と、他方の相対する前記センサーによる温度分布のピークを結んだ直線との交点を求め、前記交点を火源位置として検出することに特徴を有するものである。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、光ファイバー温度計のセンサーを構成面に蛇行させて敷設したことに特徴を有するものである。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明において、構成面としての天井の内側と外側に光ファイバー温度計のセンサーを敷設し、内側の温度と外側の温度変化を比較し、外側温度が内側温度より高い場合には、火災ではないと判断し、外側温度が内側温度より低い場合には、火災と判断し、前記センサーによる温度分布に基づいて火源位置を検出することに特徴を有するものである。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項1から5の何れか1つに記載の発明において、建造物は、船舶であることに特徴を有するものである。
【0018】
請求項7記載の発明は、建造物の構成面に二次元的に敷設された光ファイバー温度計のセンサーと、光ファイバー温度計本体と、前記光ファイバー温度計本体からの温度データに基づいて、火災の有無の判定および火源位置を検出する信号処理装置とを備えたことに特徴を有するものである。
【0019】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、構成面は、床面、壁面または天井面であることに特徴を有するものである。
【0020】
請求項9記載の発明は、請求項7または8記載の発明において、光ファイバー温度計のセンサーは、構成面に矩形状に敷設され、信号処理装置は、一方の相対する前記センサーによる温度分布のピークを結んだ直線と、他方の相対する前記センサーによる温度分布のピークを結んだ直線との交点を求め、前記交点を火源位置として検出することに特徴を有するものである。
【0021】
請求項10記載の発明は、請求項7または8記載の発明において、光ファイバー温度計のセンサーは、構成面に蛇行させて敷設されていることに特徴を有するものである。
【0022】
請求項11記載の発明は、光ファイバー温度計のセンサーは、構成面としての天井の内側と外側に敷設され、信号処理装置は、内側の温度と外側の温度変化を比較し、外側温度が内側温度より高い場合には、火災ではないと判断し、外側温度が内側温度より低い場合には、火災と判断し、前記センサーによる温度分布に基づいて火源位置を検出することに特徴を有するものである。
【0023】
請求項12記載の発明は、請求項7から11の何れか1つに記載の発明において、建造物は、船舶であることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、火災の火源位置を二次元的に正確に感知することが可能である。すなわち、この発明の火災感知装置を、たとえば、部屋に設置した場合、火災の火源位置が部屋のどの位置であるかを正確に感知することが可能となるので、消火が迅速かつ最小限に行える。しかも、光ファイバー温度計のセンサーは、400℃程度の高温に長時間耐えられるので、火災時の高温ガス等による焼損によって、火災の検出が不可能になる恐れもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、この発明の光ファイバー温度計を利用した火災感知装置の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、この発明の光ファイバー温度計を利用した火災感知装置のセンサーを部屋の天井に敷設した場合の火源の検出法を示す概略図である。
【0027】
図1において、1は、光ファイバー温度計本体、2は、部屋の天井面4の周囲に沿って矩形状に敷設された光ファイバー温度計本体1に接続された光ファイバーセンサー(以下、単にセンサーという。)、3は、信号処理装置である。なお、図1以外の図面において、同一番号は同一物を示す。
【0028】
この発明によれば、信号処理装置3は、光ファイバー温度計本体1からの温度データに基づいて火源位置を検出する。すなわち、一方の相対するセンサー2A、2Bによる温度分布(P1、P2)のピークを結んだ直線(L1)と、他方の相対するセンサー2C、2Dによる温度分布(P3、P4)のピークを結んだ直線(L2)との交点を求め、前記交点を火源位置として検出する。
【0029】
このように、部屋の天井面4の周囲に沿ってセンサー2を矩形状に敷設することによって、部屋のどの位置に火源があるのかが二次元的に正確に検出することができる。従って、たとえば、天井に設置されたスプリンクラーを全て作動させるのでなく、火源近傍のスプリンクラーのみを作動させることが可能となるので、必要最小限の消火で済む。しかも、センサー2は、400℃程度の高温に長時間耐えられるので、火災時の高温ガス等による焼損によって、火災の検出が不可能になる恐れもない。
【0030】
センサー2を矩形状に敷設する以外に、図2に示すように、センサー2を天井面4に蛇行して敷設することによっても、火源の二次元的な検出が可能となる。
【0031】
センサー2を天井面4以外に床面、壁面等に敷設しても良い。図3に、センサー2を壁面5に蛇行させて敷設した状態を示す。これによって、床付近と天井付近の温度を分離して計測できるので、火源位置をさらに厳密に推定することができる。
【0032】
図4に示すように、センサー2を通路6に沿って一筆書き状に敷設すれば、通路の温度分布を把握することができるので、火災の延焼状態や高温ガスの流れの状態を的確に把握することができる。
【0033】
図5に示すように、センサー2を防熱材7が設けられた天井面4の外側と内側に沿って敷設し、内側の温度と外側の温度変化を比較し、太陽光等により天井が暖められて、外側温度が内側温度より高い場合には、火災ではないと判断し、逆に、外側温度が内側温度より低い場合には、火災と判断し、センサー2による温度分布に基づいて火源位置を検出することもできる。これにより、夏場、太陽光等により天井が暖められることによる誤動作を防止することができる。なお、図3に示したように、壁面にセンサー2を敷設した場合には、天井面4の温度と壁面5の上部、下部の温度とを比べ、天井面4の温度のみが高温であれば、火災でないと判断することもできる。
【0034】
この発明の光ファイバー温度計を利用した火災感知装置は、ビル等の建造物に設置すれば、ビル火災を未然に防止することができ、船舶に設置すれば、船舶火災を未然に防止することができる。この発明の火災感知装置を船舶に設置した場合、船舶の曝露甲板は、夏場、かなりの高温になるので、図5に示す例が特に有効である。
【0035】
図6(a)に温度変化が小さい場合の火災か否か判定方法を示す。同図のNo.1〜5の点でセンサー2により温度を連続して計測しているものとする。また、火源は、同図のNo.3に最も近いところにあるものとする。
【0036】
この場合、No.1〜5の各点の時間的温度変化は、図6(b)のようになる。同図に示すように、No.3の点が最も温度上昇が大きい。これに隣接するNo.2、4が次いで大きく、No.1、5は、No.2、4より小さくなっている。このように、火源から遠ざかるに従って温度は上昇するものの、温度の上昇割合は小さくなる。このような特徴も基づいて、火源の位置あるいは局所的な温度上昇が起こっていることを把握すれば、わずかな温度変化から火災の前兆をとらえることができる。
【0037】
以上の説明は、センサー2が敷設経路に沿って計測した計測値をそのまま使用することを前提として火源を感知するものであるが、例えば、天井面4にセンサー2を図2に示すように規則正しく敷設することができれば問題はないが、このように規則正しく敷設することは現実にはなかなか困難である。光ファイバー温度計の計測結果は、センサー2の端部からいくらの距離であるかといった位置情報とその距離の温度情報との組み合わせである。従って、例えば、天井面4のどの部分にセンサー2の何メートルの部分が敷設してあるかを把握しておかなければ、直感的に温度分布を把握することは難しい。
【0038】
そこで、予め、センサー2の距離と天井面4の平面位置とを対応付けておき、その対応に基づいて、図7に示すように、一次元的に得られている温度データを、図8に示すように、二次元平面座標で計測点を認識することができるように変換可能としておけば、その後の処理がやりやすくなり、結果も理解しやすくなる。
【0039】
このようにすれば、図6で説明したように処理する場合、必ずしもセンサー2上で計測点が連続している必要がなくなり、信号処理や火災の判定の自由度が増す。また、同時に補完処理等を行えば、センサー2の敷設状態が均等でない場合においても温度データとしては均等な間隔に修正したものとすることができる。
【0040】
図9に信号処理の流れを示す。光ファイバー温度計本体1からの温度データは、信号処理装置3に入る。この例では、まず、図8で説明した一次元座標系から二次元座標系に温度分布データ形式を変換する。次いで、変換された温度分布データを時系列的比較が行えるように蓄積する。以降は、この蓄積したデータを取り出し、温度空間分布処理、時系列処理および隣接データ比較を行うことによって、総合判定を行う。
【0041】
ここで、温度空間分布処理とは、コンターを作成する処理である。この処理の結果、最も温度が高い位置を火源と判断する。
【0042】
時系列処理とは、任意の点の時間的温度変化を求める処理である。温度変化が明確な場合は、この処理で火災か否かを判断できる。夏場の誤動作を防止する場合にも、この時系列処理によって、夜明けと共に温度が上昇するような場合は火災ではないと判断する。
【0043】
隣接データ比較とは、時系列処理と併せて、図6に示したような処理を行うものである。火災が発生した場合は、火源の周囲は、同じような傾向の温度変化を示すので、これをとらえて火災か否かを判断する。
【0044】
以上のように、この発明によれば、センサー2を、例えば、部屋に設置した場合、火災の火源位置が部屋のどの位置であるかを二次元的に正確に感知することが可能となるので、消火が迅速かつ最小限に行える。しかも、光ファイバー温度計のセンサーは、400℃程度の高温に長時間耐えられるので、火災時の高温ガス等による焼損によって、火災の検出が不可能になる恐れもない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の光ファイバー温度計を利用した火災感知装置のセンサーを部屋の天井に敷設した場合の火源の検出法を示す概略図である。
【図2】センサーを天井面に蛇行して敷設した場合を示す概略図である。
【図3】センサーを壁面に蛇行して敷設した場合を示す概略図である。
【図4】センサーを通路に一筆書き状に敷設した場合を示す概略図である。
【図5】センサーを天井面の内、外側に敷設した場合を示す概略図である。
【図6】温度変化が小さい場合の火災か否かの判定方法を示す図であり、同図(a)は、温度計測点を示す説明図であり、同図(b)は、火源近傍における隣接点の計測温度変化を示すグラフである。
【図7】一次元座標空間におけるデータイメージを示す図である。
【図8】一次元座標空間におけるデータイメージを示す図である。
【図9】信号処理装置における光ファイバー温度計からの信号の流れを示す図である。
【図10】従来技術を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1:光ファイバー温度計本体
2:センサー
3:信号処理装置
4:天井面
5:壁面
6:通路
7:防熱材
11:トンネル
12:センサー
13:一酸化炭素濃度計測システム
14:視程距離計測システム
15:監視カメラ
16:管理センター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の構成面に光ファイバー温度計のセンサーを二次元的に敷設し、前記センサーによる温度分布に基づいて火源位置を検出することを特徴とする、光ファイバー温度計を利用した火災感知方法。
【請求項2】
前記構成面は、床面、壁面または天井面であることを特徴とする、請求項1記載の、光ファイバー温度計を利用した火災感知方法。
【請求項3】
前記構成面に前記センサーを矩形状に敷設し、一方の相対する前記センサーによる温度分布のピークを結んだ直線と、他方の相対する前記センサーによる温度分布のピークを結んだ直線との交点を求め、前記交点を火源位置として検出することを特徴とする、請求項1または2記載の、光ファイバー温度計を利用した火災感知方法。
【請求項4】
前記センサーを前記構成面に蛇行させて敷設したことを特徴とする、請求項1または2記載の、光ファイバー温度計を利用した火災感知方法。
【請求項5】
前記構成面としての天井の内側と外側に前記センサーを敷設し、内側の温度と外側の温度変化を比較し、外側温度が内側温度より高い場合には、火災ではないと判断し、外側温度が内側温度より低い場合には、火災と判断し、前記センサーによる温度分布に基づいて火源位置を検出することを特徴とする、請求項1記載の、光ファイバー温度計を利用した火災感知方法。
【請求項6】
前記建造物は、船舶であることを特徴とする、請求項1から5の何れか1つに記載の、光ファイバー温度計を利用した火災感知方法。
【請求項7】
建造物の構成面に二次元的に敷設された光ファイバー温度計のセンサーと、光ファイバー温度計本体と、前記光ファイバー温度計本体からの温度データに基づいて、火災の有無の判定および火源位置を検出する信号処理装置とを備えたことを特徴とする、光ファイバー温度計を利用した火災感知装置。
【請求項8】
前記構成面は、床面、壁面または天井面であることを特徴とする、請求項7記載の、光ファイバー温度計を利用した火災感知装置。
【請求項9】
前記センサーは、前記構成面に矩形状に敷設され、前記信号処理装置は、一方の相対する前記センサーによる温度分布のピークを結んだ直線と、他方の相対する前記センサーによる温度分布のピークを結んだ直線との交点を求め、前記交点を火源位置として検出することを特徴とする、請求項7または8記載の、光ファイバー温度計を利用した火災感知装置。
【請求項10】
前記センサーは、前記構成面に蛇行させて敷設されていることを特徴とする、請求項7または8記載の、光ファイバー温度計を利用した火災感知装置。
【請求項11】
前記センサーは、前記構成面としての天井の内側と外側に敷設され、前記信号処理装置は、内側の温度と外側の温度変化を比較し、外側温度が内側温度より高い場合には、火災ではないと判断し、外側温度が内側温度より低い場合には、火災と判断し、前記センサーによる温度分布に基づいて火源位置を検出することを特徴とする、請求項7記載の、光ファイバー温度計を利用した火災感知装置。
【請求項12】
前記建造物は、船舶であることを特徴とする、請求項7から11の何れか1つに記載の、光ファイバー温度計を利用した火災感知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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