説明

光ファイバ余長処理用具

【課題】本発明の課題は、個々の現場で必要な量の配線長を確保することができ、且つ光ファイバケーブルと形状記憶合金ワイヤを密着して効果的に記憶形状に変形させることができる光ファイバ余長処理用具を提供することにある。
【解決手段】本発明は、光ファイバケーブル24の所定部分を伸縮自在に形成する光ファイバ余長処理用具であって、常温で固体で加熱により液状となり流動性を示すホットメルト接着剤26を用いて、記憶形状が長手方向に弾性機能を有する形状記憶合金ワイヤ25をほぼ直線状にしたまま固体化させた形状記憶部材22と、形状記憶部材22が内部に挿入され、且つ光ファイバケーブル24が通線可能な熱収縮スリーブ21とを具備することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ素線、光ファイバコード、または光ファイバケーブルの所定部分を伸縮自在に形成する光ファイバ余長処理用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、FTTH(Fiber To The Home)の進展による戸建て住宅および集合住宅への光ファイバケーブルの引き込み配線が一般的となってきている。このような光配線においては、光ドロップケーブル、インドアケーブル、ターミネーションケーブル、光コードが用いられている。
【0003】
図3は従来の光ドロップケーブルを示す断面図である。図3に示すように、光ドロップケーブルに加わる曲げや張力から、光ファイバ素線11の光損失増加や破断を防止するために補強材となるテンションメンバ(FRP)12と光ファイバ素線11が一体となった構造を有している。図3中、13は支持線(鋼線)、14は外被シース(難燃性ポリエチレン)、15はノッチである。
【0004】
これまで光ドロップケーブルを引き込み配線する際には、非特許文献1に記載されているように、屋外光キャビネット内の心線収容トレイに光ファイバ余長を所定の曲げ半径にて巻き取って収容するのが一般的であった。
【0005】
また非特許文献2に示すように、主に宅内配線の光アウトレットと情報機器間の光接続を目的として光カールコードが販売されている。これは、両端コネクタ付の光コードの中央部に直径16mmのカール部を設け伸縮性を持たせたもので、任意の2点間を効率的に配線することができる。
【0006】
【非特許文献1】青山 浩 他著 「FTTHの即応化・経済化を実現する宅内光配線技術」 NTT技術ジャーナル Vol.17 No.2 2005年2月 p.42−45
【非特許文献2】“最新のニュースリリース”、[online]、NTTアドバンステクノロジ株式会社、[2005年7月28日検索]、インターネット<URL:http://www.ntt-at.co.jp/news/2005/release02.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記光カールコードでは以下のような課題がある。
〔1〕個々の現場における所望の配線長は大きく分布するために、非常に長い光ファイバをカール状にして用いることはコストが高い。
〔2〕コードの端部近傍のみをカール状にする場合においても、個々の現場で必要となる配線長全てに対応可能な光カールコードを製造時に用意するのは配線長は大きく分布するため、事実上、困難である。
【0008】
尚、形状記憶材料を用いた光ファイバ用筒状取付用具に光ファイバケーブルを通線させ、加熱により、形状記憶材料の記憶形状である、コイル形状に変形させ、変形したコイル形状部分の長さを可変にさせることができるという特徴を持つ技術が考えられる。しかし、前述のような光ファイバ用筒状取付用具においても、形状記憶材料は、記憶形状のコイル形状に記憶処理をした後に、張力を加えて直線形状に強制的に塑性変形させた上で光ファイバケーブルが収容されることとなる。しかしながら、実際には、形状記憶材料全体に均一の負荷ひずみを加えることはできないため、張力を除荷すると、負荷ひずみの小さい部分は、材料固有の弾性力のために記憶形状に戻ろうとするために、大きな曲がり等が残り、直線形状にはならない。そのため、筒状である前記光ファイバ用筒状取付用具に収容し難いという課題が残る。また、光ファイバ用筒状取付用具の内径を大きくして収容できたとしても、使用時に光ファイバケーブルを通線させ、加熱により、記憶形状に変形させる時に、光ファイバケーブルと光ファイバ用筒状取付用具が密着しない部分があるために、光ファイバケーブルを形状記憶材料の記憶形状に効果的に変形させることができないという課題が残る。一方、過度の張力を光ファイバ用筒状取付用具に加えれば直線形状にすることが期待できるが、例えば、形状記憶合金の場合、記憶形状に回復するための許容ひずみは最大でも約8%であるため、これを超える部分が材料の大部分を占めると、記憶形状に変形する機能そのものが大きく損なわれることになる。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、光ファイバケーブル等の所定部分を伸縮自在に形成することにより、個々の現場で必要な量の配線長を確保することができ、且つ形状記憶材をほぼ直線形状にしたまま固体化させることができ、光ファイバケーブル等と形状記憶材を密着して効果的に記憶形状に変形させることができる光ファイバ余長処理用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、光ファイバ素線、光ファイバコード、または光ファイバケーブルの所定部分を伸縮自在に形成する光ファイバ余長処理用具であって、常温で固体で加熱により液状となり流動性を示す接着剤または樹脂を用いて、記憶形状が長手方向に弾性機能を有する形状記憶材をほぼ直線状にしたまま固体化させた形状記憶部材と、前記形状記憶部材が内部に挿入され、且つ光ファイバ素線、光ファイバコード、または光ファイバケーブルが通線可能な筒状部材とを具備することを特徴とするものである。
【0011】
また本発明は、前記光ファイバ余長処理用具において、形状記憶材が、形状記憶合金ワイヤであることを特徴とするものである。
【0012】
また本発明は、前記光ファイバ余長処理用具において、筒状部材が、熱収縮スリーブであることを特徴とするものである。
【0013】
また本発明は、前記光ファイバ余長処理用具において、筒状部材の内部に挿入され、光ファイバ素線、光ファイバコード、または光ファイバケーブルが通線可能な熱収縮スリーブを有することを特徴とするものである。
【0014】
また本発明は、前記光ファイバ余長処理用具において、記憶形状が、コイル形状であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光ファイバ余長処理用具は、光ファイバケーブル等の所定部分を伸縮自在に形成することにより、個々の現場で必要な量の配線長を確保することができる。また、形状記憶材をほぼ直線形状にしたまま固体化させることができため、光ファイバケーブル等と形状記憶材を密着して効果的に記憶形状に変形させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る光ファイバ余長処理用具を示す構成説明図である。図1に示すように、筒状部材である熱収縮スリーブ21の内部には形状記憶部材22及び熱収縮スリーブ23が挿入され、前記熱収縮スリーブ23内には光ファイバケーブル24が通線される。尚、光ファイバケーブル24の代りに光ファイバ素線、または光ファイバコードを用いても同様に実施できる。前記形状記憶部材22は記憶形状が例えばコイルばね形状等の長手方向に弾性機能を有する形状記憶材である形状記憶合金ワイヤ25をホットメルト接着剤26内にほぼ直線状にしたまま埋設固体化して形成される。前記ホットメルト接着剤25は常温で硬化した固体で加熱により液状となり流動性を示す接着剤または樹脂であり、熱可塑性の合成樹脂又はゴムをベースとした接着剤で、具体例としては、エチレン酢酸ビニル共重合物(EVA)、ポリアミド、ポリオレフィン共重合物、合成ゴム等を成分とするものを用いることができる。
【0017】
すなわち、熱収縮スリーブ21,23及び形状記憶部材22よりなる光ファイバ余長処理用具を光ファイバケーブル24の所定の位置に取り付け、その後、前記光ファイバ余長処理用具を加熱することにより、形状記憶部材22が長手方向に弾性機能を有する例えばコイルばね形状等の記憶形状に変形し、光ファイバケーブル24の所定部分を伸縮自在に形成することができる。したがって、光ファイバケーブル24の所定部分に形成された伸縮自在部分で光ファイバケーブル24の余長を処理することができる。
【0018】
前記熱収縮スリーブ23は主に前記形状記憶部材22を熱収縮スリーブ21内に安定して配置するために用いられる。また、前記形状記憶合金ワイヤ25は、張力を加えられ、直線に近い形状に変形させられたまま、前記ホットメルト接着剤26に埋め込まれている。前記熱収縮スリーブ21,23は、加熱により主に半径方向に大きな収縮率を持つという特徴を有しており、一般的に電気ケーブルの防水や絶縁、光ファイバの融着接続部の補強用途で広く用いられているものと同様な材料を用いることができる。前記形状記憶合金ワイヤ25については、Ni−Ti合金、Ni−Ti−X三元合金、Cu−Al−Mn合金などを使用することができる。
【0019】
本発明の実施形態に係る光ファイバ余長処理用具の使用形態としては、まず光ファイバケーブル24を前記熱収縮スリーブ23に通線させる。次に、光ファイバ余長処理用具をドライヤー等の熱源によって加熱することで、まず前記熱収縮スリーブ21,23が半径方向に収縮を開始し、前記ホットメルト接着剤26と通線させた光ファイバケーブル24を密着させる。その後、ホットメルト接着剤26が液化し流動性を示すと、前記ホットメルト接着剤26に埋め込まれた前記形状記憶合金ワイヤ25は、その記憶回復効果によって、通線させた光ファイバケーブル24とともに光ファイバ線長手方向に弾性機能を有する記憶形状に変形する。その後、冷却され常温に戻ると前記ホットメルト接着剤26は再び硬化する。
【0020】
したがって、光ファイバ余長処理用具の構造材料である、熱収縮スリーブ21,23の変態開始温度をT1、形状記憶合金ワイヤ25の変態開始温度をT2、ホットメルト接着剤26の変態開始温度をT3とすると、T1≦T3≦T2と設定する必要がある。
【0021】
尚、硬化時のホットメルト接着剤26の剛性が十分大きい時には、T1≦T2≦T3とすることもできる。すなわち、形状記憶合金ワイヤ25がホットメルト接着剤26より先に変態開始温度に到達しても、ホットメルト接着剤26は硬化したままであり、形状記憶合金ワイヤ25が記憶形状に戻ろうとする回復力よりも大きな拘束力が得られる場合には、ホットメルト接着剤26がT3に到達し、流動性を示すまでは形状記憶合金ワイヤ25は変形を開始しないためである。
【0022】
以上のような光ファイバ余長処理用具の構造、使用形態によって、光ファイバケーブルの変形した部分の長さを可変にさせ、配線することができる。
尚、本発明において、前記形状記憶合金ワイヤの他に、コイルばね形状のように長手方向に弾性機能を有する形状を記憶形状とする形状記憶樹脂製の丸棒等の形状記憶材でも良い。
【0023】
図2(a),(b),(c)は本発明の実施形態に係る形状記憶材の記憶形状を示す説明図である。すなわち、図2(a)に示すような立体形状のコイル状の他に、図2(b)に示すような平面形状のループ状、図2(c)に示すような平面形状の波状であってもよい。
【0024】
以上のように本発明の実施形態に係る光ファイバ余長処理用具によれば以下のような効果が得られる。
〔1〕光ファイバケーブルの所定部分を伸縮自在に形成することにより、個々の現場で必要な量の配線長を確保することができる。
〔2〕形状記憶合金ワイヤをほぼ直線形状にしたまま固体化させることができため、光ファイバケーブルと形状記憶合金ワイヤを密着して効果的に記憶形状に変形させることができる。
〔3〕形状記憶合金ワイヤを直線に近い形状のまま、ホットメルト接着剤で固体化できるため、容易に作製が可能となる。
〔4〕光ファイバケーブルを通線させる部分を、ホットメルト接着剤部と分離させることができるため、光ファイバケーブルを筒状の光ファイバ余長処理用具に通線させやすくなる。
〔5〕記憶形状に変形させた後、使用時においても、ホットメルト接着剤内部に形状記憶合金ワイヤが埋め込まれるため、防水性のホットメルト接着剤を用いた場合には、光ファイバ余長処理用具自体の防水効果や、形状記憶合金ワイヤの耐候性を向上させることができる。
【0025】
なお、本発明は、上記実施形態例そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態例に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態例に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る光ファイバ余長処理用具を示す構成説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る形状記憶材の記憶形状を示す説明図である。
【図3】従来の光ドロップケーブルを示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
21…熱収縮スリーブ、22…形状記憶部材、23…熱収縮スリーブ、24…光ファイバケーブル、25…形状記憶合金ワイヤ、26…ホットメルト接着剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ素線、光ファイバコード、または光ファイバケーブルの所定部分を伸縮自在に形成する光ファイバ余長処理用具であって、
常温で固体で加熱により液状となり流動性を示す接着剤または樹脂を用いて、記憶形状が長手方向に弾性機能を有する形状記憶材をほぼ直線状にしたまま固体化させた形状記憶部材と、
前記形状記憶部材が内部に挿入され、且つ光ファイバ素線、光ファイバコード、または光ファイバケーブルが通線可能な筒状部材と
を具備することを特徴とする光ファイバ余長処理用具。
【請求項2】
形状記憶材が、形状記憶合金ワイヤであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ余長処理用具。
【請求項3】
筒状部材が、熱収縮スリーブであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ余長処理用具。
【請求項4】
筒状部材の内部に挿入され、光ファイバ素線、光ファイバコード、または光ファイバケーブルが通線可能な熱収縮スリーブを有することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の光ファイバ余長処理用具。
【請求項5】
記憶形状が、コイル形状であることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の光ファイバ余長処理用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−163693(P2007−163693A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358053(P2005−358053)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】