説明

光ファイバ製造方法

【課題】クラッド部に比べコア中心部の比屈折率が0.5%以上大きいガラス母材を線引する場合であっても所望の光学的特性を有する光ファイバを歩留りよく製造することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明の光ファイバ製造方法は、透明ガラス管材を加熱して中実のガラス母材を作製する中実化工程を含み、クラッド部に比べコア中心部の比屈折率が0.5%以上大きいガラス母材を線引して光ファイバを製造する方法であって、ガラス母材の中心軸に垂直であって互いに異なるN方向それぞれからプリフォームアナライザによりガラス母材の屈折率分布を測定することでN個の屈折率分布測定結果を取得し(ただし、Nは4以上の整数)、これらN個の屈折率分布測定結果に基づいて線引後の光ファイバの光学的特性を予測し、この予測により得られた光学的特性予測値に基づいて以降の製造条件を決定し、この決定した製造条件に基づいて光ファイバを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ製造方法として、透明ガラス管材を加熱して中実のガラス母材を作製する中実化工程を含み、ガラス母材を線引して光ファイバを製造する方法が知られている。特許文献1,2に開示された光ファイバ製造方法は、出発ロッドの外周にガラス微粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を作製する堆積工程、堆積工程の後に出発ロッドをガラス微粒子堆積体から引き抜く引抜工程、引抜工程の後にガラス微粒子堆積体を加熱して透明ガラス管材を作製する透明化工程、および、透明化工程の後に透明ガラス管材の内部を減圧するとともに透明ガラス管材を加熱して中実のガラス母材を作製する中実化工程を経て、光ファイバ用母材を製造し、この光ファイバ用母材を線引することで光ファイバを製造する。
【0003】
また、このような光ファイバ製造方法において、特許文献3に開示されているようにガラス母材の屈折率分布をプリフォームアナライザにより測定し、この屈折率分布測定結果に基づいて線引後の光ファイバの光学的特性を予測し、この予測により得られた光学的特性予測値に基づいて以降の製造条件を決定し、この決定した製造条件に基づいて光ファイバを製造することが行われている。このようにすることで、所望の光学的特性を有する光ファイバを歩留りよく製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4233052号明細書
【特許文献2】米国特許第4204850号明細書
【特許文献3】特開平6−43068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、中実化(コラプス)工程を経て製造されるガラス母材において、透明ガラス管材の中心孔が閉塞された後のコラプス部の周辺は、非円形状となることがあり、コラプス部周辺領域の屈折率分布を完全な軸対称形状とすることは困難である。特に、コラプス部周辺領域の比屈折率差が大きい(凡そ0.5%以上)ガラス母材では、コラプス部周辺領域での屈折率分布の軸対称性が大きく崩れるため、コラプス部周辺領域が非円形状となった場合、プリフォームアナライザでの測定方向がその測定値に与える影響は大きい。
【0006】
図1は、透明ガラス管材1の断面およびガラス母材2A〜2Cそれぞれの断面を模式的に示す図である。この図は中心軸に垂直な断面を示している。同図(a)に示される透明ガラス管材1は、透明化工程により得られるものであって、中央に円形断面の中心孔を有している。このような透明ガラス管材1が中実化工程において中実化されると、同図(b)〜(d)に示されるようなガラス母材2A〜2Cとなる。ガラス母材2Aでは中心孔の閉塞跡は直線状になっており、ガラス母材2Bでは中心孔の閉塞跡は曲線状になっており、また、ガラス母材2Cでは中心孔の閉塞跡はY字状になっている。ガラス母材において、中心孔の閉塞跡の形状は様々であり、それ故、コラプス部周辺領域に発生する屈折率分布の歪みも様々である。
【0007】
したがって、同一のガラス母材であっても、上記した非円、閉塞跡の影響などにより、プリフォームアナライザの測定光の入射方向によって屈折率分布測定結果が異なる場合がある。このようなガラス母材の屈折率分布測定結果に基づいて線引後の光学的特性を予測し、以降の製造条件を決定して光ファイバを製造したとしても、光学的特性の予測値の誤差が大きいため、所望の光学的特性を有する光ファイバを歩留りよく製造することができない場合がある。つまり、線引後の光ファイバが、光学的特性の予測値通りにならない場合がある。このような現象は、中心部の比屈折率差が0.5%以上であるガラス母材において顕著である。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、クラッド部に比べコア中心部の比屈折率が0.5%以上大きいガラス母材を線引する場合であっても、所望の光学的特性を有する光ファイバを歩留りよく製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光ファイバ製造方法は、透明ガラス管材を加熱して中実のガラス母材を作製する中実化工程を含み、クラッド部に比べコア中心部の比屈折率が0.5%以上大きいガラス母材を線引して光ファイバを製造する方法であって、ガラス母材の中心軸に垂直であって互いに異なるN方向それぞれからプリフォームアナライザによりガラス母材の屈折率分布を測定することでN個の屈折率分布測定結果を取得し(ただし、Nは4以上の整数)、これらN個の屈折率分布測定結果に基づいて線引後の光ファイバの光学的特性を予測し、この予測により得られた光学的特性予測値に基づいて以降の製造条件を決定し、この決定した製造条件に基づいて光ファイバを製造することを特徴とする。
【0010】
N個の屈折率分布測定結果それぞれに基づいて線引後の光ファイバの光学的特性を予測することでN個の光学的特性予測値を取得し、これらN個の光学的特性予測値を平均化することで得られた平均光学的特性予測値に基づいて以降の製造条件を決定してもよい。
【0011】
N個の屈折率分布測定結果を平均化することで得られた平均屈折率分布測定結果に基づいて線引後の光ファイバの光学的特性を予測し、この予測により得られた光学的特性予測値に基づいて以降の製造条件を決定してもよい。
【0012】
N個の屈折率分布測定結果を取得する際にプリフォームアナライザによる測定方向を360°/Nずつ異ならせるのが好ましい。
【0013】
クラッド部に比べコア中心部の比屈折率が0.9%以上大きいガラス母材を線引して光ファイバを製造する場合に大きな効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、クラッド部に比べコア中心部の比屈折率が0.5%以上大きいガラス母材を線引する場合であっても、所望の光学的特性を有する光ファイバを歩留りよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】透明ガラス管材1の断面およびガラス母材2A〜2Cそれぞれの断面を模式的に示す図である。
【図2】本実施形態の光ファイバ製造方法におけるプリフォームアナライザによるガラス母材2の屈折率分布測定について説明する図である。
【図3】実施例1で得られた4個の屈折率分布測定結果それぞれを個別に示すグラフである。
【図4】実施例1で得られた4個の屈折率分布測定結果を重ねて示すグラフである。
【図5】実施例1で得られた4個の屈折率分布測定結果の比屈折率差ピーク値および各屈折率分布から求めた波長1550nmでの波長分散値を纏めた図表である。
【図6】実施例1で得られた4個の屈折率分布測定結果を平均化することで得られた平均屈折率分布測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例2で得られた4個の屈折率分布測定結果それぞれを個別に示すグラフである。
【図8】実施例2で得られた4個の屈折率分布測定結果を重ねて示すグラフである。
【図9】実施例2で得られた4個の屈折率分布測定結果の比屈折率差ピーク値および各屈折率分布から求めた波長1550nmでの波長分散値を纏めた図表である。
【図10】実施例2で得られた4個の屈折率分布測定結果を平均化することで得られた平均屈折率分布測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
本実施形態の光ファイバ製造方法は、透明ガラス管材を加熱して中実のガラス母材を作製する中実化工程を含み、ガラス母材を線引して光ファイバを製造する方法である。このガラス母材の中心部の比屈折率差は0.5%以上である。このガラス母材の中心部の比屈折率差が0.9%以上である場合に特に大きな効果が得られる。また、ガラス母材の外径非円率をコラプス部周辺の非対称性の目安とし、この外径非円率が0.03%以上程度と大きい場合に特に本実施形態の光ファイバ製造方法が有効である。
【0018】
図2は、本実施形態の光ファイバ製造方法におけるプリフォームアナライザによるガラス母材2の屈折率分布測定について説明する図である。この図は中心軸に垂直な断面を示している。本実施形態では、プリフォームアナライザによるガラス母材2の屈折率分布測定に際して、ガラス母材2の中心軸に垂直であって互いに異なるN方向それぞれからガラス母材2に対して測定光を入射させることで屈折率分布を測定して、N個の屈折率分布測定結果を取得する。ここで、Nは4以上の整数である。同図にはN=4 の場合が示されている。
【0019】
そして、本実施形態では、これらN個の屈折率分布測定結果に基づいて線引後の光ファイバの光学的特性を予測し、この予測により得られた光学的特性予測値に基づいて以降の製造条件を決定し、この決定した製造条件に基づいて光ファイバを製造する。このようにすることにより、クラッド部に比べコア中心部の比屈折率が0.5%以上大きいガラス母材を線引する場合であっても、光学的特性の予測の精度が向上するため、所望の光学的特性を有する光ファイバを歩留りよく製造することができる。
【0020】
このとき、N個の屈折率分布測定結果それぞれに基づいて線引後の光ファイバの光学的特性を予測することでN個の光学的特性予測値を取得し、これらN個の光学的特性予測値を平均化することで得られた平均光学的特性予測値に基づいて以降の製造条件を決定してもよい。或いは、N個の屈折率分布測定結果を平均化することで得られた平均屈折率分布測定結果に基づいて線引後の光ファイバの光学的特性を予測し、この予測により得られた光学的特性予測値に基づいて以降の製造条件を決定してもよい。
【0021】
図1(c),(d)に示されるように中心孔の閉塞跡が複雑な形状である場合や、非円形状がいびつな場合は、図2に示されるように、N個の屈折率分布測定結果を取得する際にプリフォームアナライザによる測定方向を360°/Nずつ異ならせるのが好ましい。なお、図1(b)に示されるように中心孔の閉塞跡が単純な形状である場合には、プリフォームアナライザの測定を180°半周に渡り実施することでも効果が期待できる。
【0022】
次に、図3〜図10を用いて実施例1,2について説明する。実施例1,2では N=4 とした。実施例1では、中心部の比屈折率差のピークが0.58%となるように製造したガラス母材の屈折率分布をプリフォームアナライザにより測定した。また、実施例2では、中心部の比屈折率差のピークが0.93%となるように製造したガラス母材の屈折率分布をプリフォームアナライザにより測定した。
【0023】
図3〜図6は、実施例1の場合の測定結果を示す。図3は、実施例1で得られた4個の屈折率分布測定結果それぞれを個別に示すグラフである。同図(a)は角度0°方向からの屈折率分布測定結果を示し、同図(b)は角度90°方向からの屈折率分布測定結果を示し、同図(c)は角度180°方向からの屈折率分布測定結果を示し、また、同図(d)は角度270°方向からの屈折率分布測定結果を示す。図4は、実施例1で得られた4個の屈折率分布測定結果を重ねて示したグラフである。なお、図中グラフの横軸に用いている「a.u.」は、「arbitrary unit (任意のスケール)」の略である。
【0024】
図5は、実施例1で得られた4個の屈折率分布測定結果の比屈折率差ピーク値、および各屈折率分布から光学的特性の一つである波長1550nmにおける波長分散値の予測値を求め、これらを纏めた図表である。4個の屈折率分布測定結果それぞれの比屈折率差ピーク値の平均値は0.577%であり、標準偏差(ばらつき)は0.009%であった。また、4個の屈折率分布測定結果それぞれの比屈折率差ピーク値のうち最大値と最小値との差は0.20%であり、測定方向によって比屈折率差ピーク値が大きく異なっていた。これら各屈折率分布から求めた波長1550nmにおける波長分散値の予測値は、それぞれ図表のようになり、その平均値は14.23ps/nm/kmであり、標準偏差は0.11ps/nm/kmであった。つまりこのことは、一方向からの屈折率分布の測定結果から求めた予測値では、最大2%程度の誤差を生じることを意味している。
【0025】
図6は、実施例1で得られた4個の屈折率分布測定結果を平均化することで得られた平均屈折率分布測定結果を示すグラフである。この平均屈折率分布測定結果における比屈折率差ピーク値は0.577%となっており、4個の屈折率分布測定結果それぞれの比屈折率差ピーク値の平均値と一致する。また、図6の屈折率分布から光学的特性の一つである波長1550nmでの波長分散値の予測値を求めると、14.22ps/nm/kmとなり、図5の平均値とほぼ一致する。また、このときの線引後の光ファイバの波長1550nmでの波長分散は14.24ps/nm/kmとなり、前記した図5の平均値、及び図6から求めた予測値とほぼ一致した。
【0026】
図7〜図10は、実施例2の場合の測定結果を示す。図7は、実施例2で得られた4個の屈折率分布測定結果それぞれを個別に示すグラフである。同図(a)は角度0°方向からの屈折率分布測定結果を示し、同図(b)は角度90°方向からの屈折率分布測定結果を示し、同図(c)は角度180°方向からの屈折率分布測定結果を示し、また、同図(d)は角度270°方向からの屈折率分布測定結果を示す。図8は、実施例2で得られた4個の屈折率分布測定結果を重ねて示すグラフである。
【0027】
図9は、実施例2で得られた4個の屈折率分布測定結果の比屈折率差ピーク値、および各屈折率分布から光学的特性の一つである波長1550nmにおける波長分散値の予測値を求め、これらを纏めた図表である。4個の屈折率分布測定結果それぞれの比屈折率差ピーク値の平均値は0.929%であり、標準偏差(ばらつき)は0.019%であった。また、4個の屈折率分布測定結果それぞれの比屈折率差ピーク値のうち最大値と最小値との差は0.44%であり、測定方向によって比屈折率差ピーク値が大きく異なっていた。4個の屈折率分布測定結果それぞれの比屈折率差ピーク値のバラツキは、実施例1の場合より実施例2の場合の方が大きかった。これら各屈折率分布から求めた波長1550nmにおける波長分散値の予測値は、それぞれ図表のようになり、その平均値は16.07ps/nm/kmであり、標準偏差は0.24ps/nm/kmであった。
【0028】
図10は、実施例2で得られた4個の屈折率分布測定結果を平均化することで得られた平均屈折率分布測定結果を示すグラフである。この平均屈折率分布測定結果における比屈折率差ピーク値は0.929%となっており、4個の屈折率分布測定結果それぞれの比屈折率差ピーク値の平均値と一致する。また、図10の屈折率分布から光学的特性の一つである波長1550nmでの波長分散値の予測値を求めると、16.07ps/nm/kmとなり、図9の平均値とほぼ一致する。また、このときの線引後の光ファイバの波長1550nmでの波長分散は16.09ps/nm/kmとなり、前記した図9の平均値、及び図10から求めた予測値とほぼ一致した。
【符号の説明】
【0029】
1…透明ガラス管材、2,2A〜2C…ガラス母材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ガラス管材を加熱して中実のガラス母材を作製する中実化工程を含み、クラッド部に比べコア中心部の比屈折率が0.5%以上大きいガラス母材を線引して光ファイバを製造する方法であって、
前記ガラス母材の中心軸に垂直であって互いに異なるN方向それぞれからプリフォームアナライザにより前記ガラス母材の屈折率分布を測定することでN個の屈折率分布測定結果を取得し(ただし、Nは4以上の整数)、
これらN個の屈折率分布測定結果に基づいて線引後の光ファイバの光学的特性を予測し、この予測により得られた光学的特性予測値に基づいて以降の製造条件を決定し、この決定した製造条件に基づいて光ファイバを製造する、
ことを特徴とする光ファイバ製造方法。
【請求項2】
前記N個の屈折率分布測定結果それぞれに基づいて線引後の光ファイバの光学的特性を予測することでN個の光学的特性予測値を取得し、これらN個の前記光学的特性予測値を平均化することで得られた平均光学的特性予測値に基づいて以降の製造条件を決定する、ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項3】
前記N個の屈折率分布測定結果を平均化することで得られた平均屈折率分布測定結果に基づいて線引後の光ファイバの光学的特性を予測し、この予測により得られた光学的特性予測値に基づいて以降の製造条件を決定する、ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項4】
前記N個の屈折率分布測定結果を取得する際にプリフォームアナライザによる測定方向を360°/Nずつ異ならせる、ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項5】
クラッド部に比べコア中心部の比屈折率が0.9%以上大きいガラス母材を線引して光ファイバを製造する、ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の光ファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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