説明

光フリップフロップ回路

【課題】 本発明は、小さな光強度で高速の状態遷移が可能となり、サイズを小型化できる光フリップフロップ回路を提供することを目的とする。
【解決手段】 常にベース光を入力される第1の導波路と、第1、第2の共振モードを持ち第1の導波路から第1の共振モードの共振波長であるベース光を入力されると共に、第2の共振モードの共振波長である第1の制御光を入力されるとオン状態となり、第1の制御光が入力されずベース光の光強度が低下するとオフ状態となる第1の光共振器と、第3、第4の共振モードを持ち第1の導波路から第3の共振モードの共振波長であるベース光を入力されると共に、第4の共振モードの共振波長である第2の制御光を入力されるとオン状態となり、第2の制御光が入力されずベース光の光強度が低下するとオフ状態となる第2の光共振器を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光フリップフロップ回路に関し、光入力に応じて光出力が切り替わる光フリップフロップ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信技術において、その潜在能力を全て引き出すには、構築したシステムの全光化が必要とされる。光のみを用いて駆動する記憶素子の実現も、そうした要求事項の一つである。
【0003】
光フリップフロップ回路は光記憶素子の実現の一つの目安であり、光フリップフロップ回路が実現すれば、電子回路におけるフリップフロップ同様、スタティックRAMに相当する光素子や、より高度な機能を持つ光素子の実現が可能である。
【0004】
これまでに報告されている光フリップフロップ回路としては、例えば非特許文献1に記載の光フリップフロップがある。この光フリップフロップは、図1に示すように、2個のエタロン共振器1,2と、光ファイバ3〜7によって構成される。エタロン共振器1,2は光双安定状態を持つ素子であり、前後にGRIN(屈折率分布)レンズ8を有している。光ファイバ3,4からエタロン共振器1,2に供給される同一波長の入力光Ain,Binの光強度が小さいとき、エタロン共振器1,2はともに光遮断状態であり、光ファイバ6,7から光出力はされない。
【0005】
ここで、入力光Ainとして光強度が大きい光パルスが入来すると、エタロン共振器1は光導通状態となり、光ファイバ6から光出力Aoutが出力される。また、エタロン共振器2は光遮断状態であるので入力光Binはエタロン共振器2で反射され、光ファイバ5を通してエタロン共振器1に供給されており、入力光Ainが小さくなっても入力光AinとBinの和によってエタロン共振器1は光導通状態を維持する。
【0006】
この後、入力光Binとして光強度が大きい光パルスが入来すると、エタロン共振器2は光導通状態となり、光ファイバ7から光出力Boutが出力される。また、エタロン共振器2で入力光Binが反射されないために、エタロン共振器1に供給される入力光はAinだけとなってエタロン共振器1は光遮断状態に遷移し、光ファイバ6からの光出力が停止される。また、エタロン共振器1は光遮断状態であるので入力光Ainはエタロン共振器1で反射され、光ファイバ5を通してエタロン共振器2に供給され、入力光Binが小さくなっても入力光AinとBinの和によってエタロン共振器2は光導通状態を維持する。
【非特許文献1】Hiroyuki Tsuda and Takashi Kurokawa, Applied Physics Letters,Vol.55,1990,pp1724−1726
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載の光フリップフロップは、2つの問題を有している。第1の問題は、GRINレンズ付きの2つのエタロン共振器と光ファイバで構成されるためにサイズが大きく動作速度が遅いということである。
【0008】
第2の問題は、光双安定を示すエタロン共振器を光遮断状態から光導通状態に遷移させるために大きな光強度の光パルスが必要となることである。また、2つの状態を異なる入力ポートから入力される同一波長の光によって制御するため、何らかの方法でこの2つの入力光を分離する必要がある。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みなされたものであり、小さな光強度で高速の状態遷移が可能となり、サイズを小型化できる光フリップフロップ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光フリップフロップ回路は、常にベース光を入力される第1の導波路と、
第1、第2の共振モードを持ち前記第1の導波路から前記第1の共振モードの共振波長であるベース光を入力されると共に、前記第2の共振モードの共振波長である第1の制御光を入力されるとオン状態となり、前記第1の制御光が入力されず前記ベース光の光強度が低下するとオフ状態となる第1の光共振器と、
第3、第4の共振モードを持ち前記第1の導波路から前記第3の共振モードの共振波長である前記ベース光を入力されると共に、前記第4の共振モードの共振波長である第2の制御光を入力されるとオン状態となり、前記第2の制御光が入力されず前記ベース光の光強度が低下するとオフ状態となる第2の光共振器を有することにより、小さな光強度で高速の状態遷移が可能となる。
【0011】
また、前記光フリップフロップ回路において、
前記第1の光共振器に前記第1の制御光を入力する第2の導波路と、
前記第2の光共振器に前記第2の制御光を入力する第3の導波路と、
前記第1の光共振器から第1の出力光を出力する第4の導波路と、
前記第2の光共振器から前記第1の出力光を反転した第2の出力光を出力する第5の導波路を有することができる。
【0012】
また、前記光フリップフロップ回路において、
前記第1、第2の制御光を排出する第6の導波路を有することができる。
【0013】
また、前記光フリップフロップ回路において、
前記第1の光共振器の第1の共振モードと前記第2の光共振器の第3の共振モードは空間対称性が異なることにより、第1、第2の光共振器が同時にオン状態になり、または、点滅する現象を防止できる。
【0014】
また、前記光フリップフロップ回路において、
前記第1、第2の光共振器と、前記第1乃至第6の導波路は、フォトニック結晶上に形成されることにより、サイズを小型化できる。
【0015】
また、前記光フリップフロップ回路において、
前記第1、第2の光共振器は、幅調整欠陥光共振器であり、
前記第1の導波路は、線欠陥導波路であり、
前記第2、第3の導波路は、部分幅寄せ線欠陥導波路であり、
前記第4、第5の導波路は、横奇モード導波路であることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、小さな光強度で高速の状態遷移が可能となり、サイズを小型化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0018】
<本発明の原理>
図2は、本発明の光フリップフロップ回路の原理構成図を示す。同図中、セット回路用の光共振器CVSと、リセット回路用の光共振器CVRは、ベースとなる光Bを入力する導波路WGBに対し、共通の結合端を持つように配置されている。
【0019】
光共振器CVRは2つの共振モードCVRH(共振波長λR:第2の共振モード),CVRL(共振波長λB:第1の共振モード)を持ち、光共振器CVSは2つの共振モードCVSH(共振波長λS:第4の共振モード),CVSL(共振波長λB:第3の共振モード)を持つように設計する。
【0020】
ここで、図3の波長スペクトルに示すように、共振モードCVRLとCVSLは共振波長が互いに同一、または、非常に近い波長となるように設計し、また、共振モードCVRHとCVSHは互いにモードが干渉しないように設計する。即ち、共振モードCVRHとCVSHは波長が異なるように設計する、もしくは、互いに空間対称性の異なるモードを使い、かつ、互いに結合しないように配置する。
【0021】
この光共振器対に共通となる導波路WGBには、常に出力信号の元となる共通の光B(波長λB+△λB)を入力する。光Bは光共振器CVR,CVSいずれに対しても、「オフ状態の光共振器をオンにすることはできないが、オン状態の光共振器をオンに保つことができる。しかし、半分の強度ではオン状態の光共振器もオンに保つことができない。」程度の強度の入力レベルを持つ。
【0022】
ここで、光共振器CVR,CVSそれぞれの光B以外の共振モードに対し、制御光パルスを設定する。光共振器CVRに対し制御光CR(波長λR+△λR)を設定し、光共振器CVSに対し制御光CS(波長λS+△λS)を設定する。制御光CR,CSそれぞれの光強度は、図4に示すように、制御光CR,CSそれぞれだけ、もしくは光Bと合波して、対応する光共振器CVR,CVSの状態をオンにすることができるものとする。
【0023】
光共振器CVRがオンの状態の時に光共振器CVSに制御光CSを入力すると、光共振器CVSはオン状態となり、光Bは光共振器CVS、CVRに分配される。これにより、各光共振器CVR,CVSに供給される光Bの強度は半分になるため、光共振器CVRはオフ状態になる。従って、光Bは光共振器CVRに供給されなくなり、光Bは全て光共振器CVSに入射される。この時点で制御光CSのパルスが終了しても光共振器CVSはオン状態を保つ。
【0024】
制御光CRに対しても同様である。光共振器CVSがオンの状態の時に光共振器CVRに制御光CRを入力すると、光共振器CVRはオン状態となり、光Bは光共振器CVS、CVRに分配される。これにより、各光共振器CVS,CVRに供給される光Bの強度は半分になるため、光共振器CVSはオフ状態になる。従って、光Bは光共振器CVSに供給されなくなり、光Bは全て光共振器CVRに入射される。この時点で制御光CRのパルスが終了しても光共振器CVRはオン状態を保つ。
【0025】
これにより、この光共振器対(CVR,CVS)は最後に制御光パルスが入力された側の光共振器のみがオン状態となり、光Bを出力信号とした光SR(セット、リセット)型フリップフロップ動作が可能となり、る。
【0026】
<本発明の構成>
図5は、本発明の光フリップフロップ回路の第1実施形態の構成図を示す。同図中、セット回路用の光共振器CVSと、リセット回路用の光共振器CVRは、ベースとなる光Bを入力する導波路WGBに対し、共通の結合端を持つようにそれぞれの一端を近接させて配置されている。また、光共振器CVS,CVRの他端は結合しないように離間されている。
【0027】
光共振器CVRの他端と結合するように制御光CRを入力する導波路WGRと反転出力光QBを出力する導波路WGQBが配置されている。また、光共振器CVSの他端と結合するように制御光CSを入力する導波路WGSと出力光Qを出力する導波路WGQが配置されている。
【0028】
制御光CS,CRそれぞれは光共振器CVS,CVRをオンにした後、光共振器CVS,CVRで反射されて入力側の導波路WGS,WGRに戻っても良く、導波路WGQとWGQBをドレイン(排出口)として動作しても良い。
【0029】
図6は、本発明の光フリップフロップ回路の第2実施形態の構成図を示す。同図中、セット回路用の光共振器CVSと、リセット回路用の光共振器CVRは、ベースとなる光Bを入力する導波路WGBに対し、共通の結合端を持つようにそれぞれの一端を近接させて配置されている。また、光共振器CVS,CVRは近接して平行に配置されている。
【0030】
光共振器CVRの他端と結合するように制御光CRを入力する導波路WGRと反転した出力光QBを出力する導波路WGQBが配置されている。また、光共振器CVSの他端と結合するように制御光CSを入力する導波路WGSと出力光Qを出力する導波路WGQが配置されている。
【0031】
光共振器CVS,CVRは共振モードの空間対称性を異ならせて共振モードCVRL,CVSLのモード結合を抑制している。共振モードCVSLとCVRLが強く結合している場合には、光共振器CVS,CVRが両方同時にオン状態になり、または、点滅する現象の発生のおそれがあるが、共振モードCVRL,CVSLのモード結合を抑制することで、上記現象の発生を抑えることができる。
【0032】
制御光CS,CRそれぞれは光共振器CVS,CVRをオンにした後、光共振器CVS,CVRで反射されて入力側の導波路WGS,WGRに戻っても良く、導波路WGQとWGQBをドレインとして動作しても良い。
【0033】
更に、図6の変形例として、図7に示すように、光共振器CVR,CVSの他端と結合するように、導波路WGDを配置し、光共振器CVS,CVRをオンにした後に制御光CS,CRを導波路WGDに排出する構成としても良い。
【0034】
<本発明の動作>
図6の回路動作について説明する。光共振器CVRは2つの共振モードCVRH(共振波長λR),CVRL(共振波長λB)を持ち、光共振器CVSは2つの共振モードCVSH(共振波長λS),CVSL(共振波長λB)を持つように設計する。
【0035】
ここで共振モードCVRLとCVSLは共振波長が互いに同じで、空間対称性が異なる(図中では位相関係が(+ +)と(+ −))なるようにする。この設計により光共振器CVR,CVSは互いに直接結合しない。
【0036】
この光共振器対(CVR,CVS)に共通となる導波路WGBから、常に共通の光B(波長λB+△λB)を入力する。光Bは光共振器CVR,CVSのいずれに対しても、「オフ状態の光共振器をオンにすることはできないが、オン状態の光共振器をオンに保つことができる。しかし、半分の強度ではオン状態の光共振器もオンに保つことができない。」程度の強度の入力レベルを持つ。
【0037】
ここで、光共振器CVR,CVSそれぞれの光B以外の共振モードに対し、制御光パルスを設定する。光共振器CVRに対し制御光CR(波長λR+△λR)を設定し、CVSに対し制御光CS(波長λS+△λS)を設定する制御光CR,CSそれぞれの光強度は、図4に示すように、制御光CR,CSそれぞれだけ、もしくは光Bと合波して、対応する光共振器CVR,CVSの状態をオンにすることができるものとする。
【0038】
光共振器CVRがオンの状態の時に光共振器CVSに制御光CSを入力すると、光共振器CVSはオン状態となり、光Bは光共振器CVS、CVRに分配される。これにより、各光共振器CVR,CVSに供給される光Bの強度は半分になるため、光共振器CVRはオフ状態になる。従って、光Bは光共振器CVRに供給されなくなり、光Bは全て光共振器CVSに入射される。この時点で制御光CSのパルスが終了しても光共振器CVSはオン状態を保つ。
【0039】
制御光CRに対しても同様である。光共振器CVSがオンの状態の時に光共振器CVRに制御光CRを入力すると、光共振器CVRはオン状態となり、光Bは光共振器CVS、CVRに分配される。これにより、各光共振器CVS,CVRに供給される光Bの強度は半分になるため、光共振器CVSはオフ状態になる。従って、光Bは光共振器CVSに供給されなくなり、光Bは全て光共振器CVRに入射される。この時点で制御光CRのパルスが終了しても光共振器CVRはオン状態を保つ。
【0040】
これにより、この光共振器対(CVR,CVS)は最後に制御光パルスが入力された側の光共振器のみがオン状態となり、光Bを出力信号とした光SR(セット、リセット)型フリップフロップ動作が可能となる。
【0041】
<光共振器対の実施形態>
図8(A)は、光共振器対(CVR,CVS)の一実施形態の構成図を示す。同図中、三角格子空気孔2次元フォトニック結晶11は、高屈折率媒質である半導体のスラブ12に、三角格子状の低屈折率媒質である空気孔13を設けたものである。なお、空気孔13は空気に限らず、スラブ12の材料より低屈折率のガラスやポリマー等の材料で埋めても良く、以下、単に「空気孔」という。
【0042】
光共振器(CVR)15,光共振器(CVS)16それぞれは、Y軸方向に連続する7個の空気孔13を除去した線欠陥を基本とし、Y軸方向の両端に接する空気孔14a,14bを線欠陥から離すように0.15aずらし、直径を0.3aとしている。なお、aは格子定数である。更に、光共振器(CVR)15,光共振器(CVS)16の共振モードの波長をずらすため、線欠陥のX軸方向両側に隣接する空気孔列の各空気孔位置をX軸方向に(線欠陥中心に近づける向きを−とし、線欠陥中心から遠ざける向きを+とする)にシフトする。つまり、光共振器15,16は幅調整7点欠陥光共振器である。
【0043】
図9に、シフト量を変化させたときの共振モードM1,M2,M3それぞれの共振波長の計算結果を実線M1,M2,M3で示す。ここで、共振モードM1(例えば縦奇モード)と共振モードM3(例えば縦奇モード)は空間対称性が同じであり、共振モードM1,M3(例えば縦奇モード)と共振モードM2(例えば縦偶モード)は空間対称性が異なっている。
【0044】
図9の計算結果を基にして、光共振器(CVS)16はシフト量−0.02aとして共振モードM1,M3の共振波長を利用し、光共振器(CVR)15はシフト量+0.018aとして共振モードM2,M3の共振波長を利用する。
【0045】
図8(B)は光共振器(CVS)16内で励振した場合の磁界パワー分布を示し、図8(C)は光共振器(CVR)15内で励振した場合の磁界パワー分布を示す。なお、磁界パワー分布の単位は、磁界パワーの振幅の相対値[A/m]である。
【0046】
図8(B),(C)は、それぞれ同じ波長(≒1620nm)で異なる空間対称性となる。つまり、図8(B)は縦奇モード、図8(C)は縦偶モードであり、一方の光共振器CVS(またはCVR)で励起した場合に、他方の光共振器CVR(またはCVS)は励起されていないことが判る。
【0047】
<フォトニック結晶に構成した光フリップフロップ回路>
図10は、フォトニック結晶に構成した光フリップフロップ回路の一実施形態の構成図を示す。同図中、三角格子空気孔2次元フォトニック結晶21は、高屈折率媒質である半導体のスラブ22に、三角格子状の低屈折率媒質である空気孔23を設けたものである。
【0048】
光共振器(CVR)25,光共振器(CVS)26それぞれは、図8(A)に示す構成であり、Y軸方向に連続する7個の空気孔23を除去した線欠陥を基本とし、Y軸方向の両端に接する空気孔24a,24bを線欠陥から離す向きに0.15aずらし、直径を0.3aとし、更に、線欠陥のX軸方向両側に隣接する空気孔列の各空気孔位置をX軸方向にシフトしている。光共振器(CVS)26はシフト量−0.02aとし、光共振器(CVR)25はシフト量+0.018aとしている。
【0049】
線欠陥導波路27は光共振器25,26にベースとなる光Bを入力する導波路WGBである。線欠陥導波路27は、Y軸方向に延在して光共振器25,26の一端に対し共通の結合端を持つように一端を近接させて配置されている。線欠陥導波路は、フォトニック結晶の配列方向のΓK軸と重なるY軸方向に延在する一列もしくは複数列の空気孔を除去して構成されている。
【0050】
部分幅寄せ線欠陥導波路28は制御光CRを入力する導波路WGRであり、Y軸方向に延在して光共振器25の他端と結合するように一端を近接させて配置されている。部分幅寄せ線欠陥導波路29は制御光CSを入力する導波路WGSであり、Y軸方向に延在して光共振器26の他端と結合するように一端を近接させて配置されている。部分幅寄せ線欠陥導波路は、Y軸方向に延在する線欠陥導波路の最内の空気孔列及び2番目に内側の空気孔列の位置を線欠陥の中央側に幅寄せすることにより透過帯域を制御している。
【0051】
横奇モード導波路30,31は、出力光QB,Qそれぞれを出力する導波路WGQB,WGQであり、フォトニック結晶21の結晶配位方向のΓK軸と重なるY軸±60度方向に延在し、横奇モード導波路30,31それぞれの一端は光共振器25,26の一端と結合するように近接させて配置されている。また、横奇モード導波路30,31それぞれの他端には出力光QB,Qそれぞれを出力するためのY軸方向に延在する線欠陥導波路32,33の一端が結合するように近接させて配置されている。
【0052】
図11に、横奇モード導波路の構成図を示す。同図中、三角格子空気孔2次元フォトニック結晶41は、高屈折率媒質である半導体のスラブ42に三角格子状の低屈折率媒質である空気孔43を設けたものである。導波路44は、図面中央の結晶配位方向のΓK軸と重なるY軸方向に延在する破線で示す一列の空気孔45を除去した線欠陥を基本とし、この線欠陥の最も内側に配位された複数の空気孔を、線欠陥の中心(Y軸)を軸として対称位置にある空気孔と互いに連結させて(言い換えると、線欠陥を挟んで対向する空気孔同士を互いに連結させて)複数の連結空気孔46を構成し、1列の連結空気孔46にて横奇モード導波路44を構成している。
【0053】
横奇モード導波路44はX軸方向の幅が広いため、典型的にバンドギャップ内に存在する導波モードで最も低周波数側に存在するモード(以下、基本モード)として、波長分散が逆分散となる横奇モードを持つ。なお、導波路の断面において、場の分布が横方向に奇関数的に分布しているのが横奇モードである。
【0054】
横奇モード導波路44の横奇モードの空間分布は、導波路中心を中心とした片側半分が従来の線欠陥導波路の基本モードの空間分布に非常に近いため、別の線欠陥導波路との接合が容易である。また、接続する線欠陥導波路は横奇モード導波路44と直線上或いは平行線上にある必要が無く、特定の別の方向へ変更しても効率の劣化がない。
【0055】
図10に示す光フリップフロップ回路各部の設計値を図12に示す。図12において、半導体のスラブ22の等価屈折率は2.78とした。光共振器25,26は、線欠陥のY軸方向の両端に接する空気孔24a,24bは直径0.3aとし、線欠陥から離すように0.15aずらしている。
【0056】
線欠陥導波路27の一端に隣接する空気孔24cは直径0.45aとした。部分幅寄せ線欠陥導波路28,29それぞれで、線欠陥導波路の最内の空気孔列及び2番目に内側の空気孔列の位置を線欠陥の中央側に幅寄せする幅寄せ量Sは0.06aとした。
【0057】
また、部分幅寄せ線欠陥導波路28の端部に隣接する空気孔24dの直径は0.40aとし、部分幅寄せ線欠陥導波路29の端部に隣接する空気孔24eの直径は0.20aとした。横奇モード導波路30の一端に接する空気孔24fの直径は0.60aとし、横奇モード導波路31の一端に接する空気孔24gの直径は0.55aとした。
【0058】
図13に、光共振器25,26それぞれと、線欠陥導波路27,部分幅寄せ線欠陥導波路28,29,横奇モード導波路30,31それぞれとの間の結合の強さ(Qh)と波長を示す。図13において、上段の数字が波長、下段の数字が対応する波長における結合の強さ(Qh)の見積である。
【0059】
すなわち、光共振器(CVR)25と線欠陥導波路27間の波長(λB)1619.330nmのQhは4000であり、波長(λR)1577.06nmのQhは3000である。光共振器25と部分幅寄せ線欠陥導波路28間の波長(λR)1576.879nmのQhは2500〜4000である。光共振器25と横奇モード導波路30間の波長(λB)1619.353nmのQhは2500〜4000である。
【0060】
また、光共振器(CVS)26と線欠陥導波路27間の波長(λB)1620.537nmのQhは20000であり、波長(λS)1563.296nmのQhは1700である。光共振器26と部分幅寄せ線欠陥導波路29間の波長(λS)1563.595nmのQhは3200である。光共振器26と横奇モード導波路31間の波長(λB)1620.537nmのQhは5000である。
【0061】
<フォトニック結晶に構成した光フリップフロップ回路の動作>
図14に示すタイミング(1)〜(5)で線欠陥導波路27と部分幅寄せ線欠陥導波路28,29に光Bと制御光CS,CRを入力し、横奇モード導波路30,31から出力光QB,Qを出力する動作のシミュレーションを行った。なお、図15に光B(一点鎖線)と制御光CS(実線)と制御光CR(破線)の磁界パワーの時間変化を示す。
【0062】
ここでは、非線形定数に光カー効果を仮定し、非線形パラメータはχ/ε=0.001であり、電束Dに対しD=(εε+χ|E|)Eで作用する。ここで、χは3次の非線型定数、εは真空誘電率、εは比誘電率、Eは電界である。
【0063】
この回路構成例では、波長λBに対する光共振器(CVS)26のQhバランスが最適化されていないため少々動作が不安定であり、これを補うため光Bにはクロック信号に相当する変調を上乗せしている。また、光Bの波長は1623.9nm、制御光CSの波長は1565.934nm、制御光CRの波長は1580.532nmとした。
【0064】
図16及び図17に2次元FDTD(Finite Difference Time Domain Method)によるシミュレーション結果を示す。図16では、出力光QBを実線で示し、出力光Qを破線で示す。
【0065】
図17(A)は初期状態の時刻Taにおける磁界パワー分布を表し、図17(B)は初期状態から制御光CSが入力された時刻Tbにおける磁界パワー分布を表している。図17(C)は出力光Q=1となった状態の時刻Tcにおける磁界パワー分布を表し、図17(D)は制御光CRが入力された時刻Tdにおける磁界パワー分布を表している。
【0066】
また、図17(E)は出力光Q=0となった状態の時刻Teにおける磁界パワー分布を表し、図17(F)は制御光CSが入力された時刻Tfにおける磁界パワー分布を表し、更に、図17(G)は出力光Q=1となった状態の時刻Tgにおける磁界パワー分布を表している。なお、図17における磁界パワーの大きさの指標は図8に示すものと同一である。上記の図16及び図17から光SR型フリップフロップの動作がなされていることがわかる。
【0067】
このように、2次元フォトニック結晶をベースとする2次元光回路内で波長の異なる光B、制御光CS,CRを伝搬させるため、サイズを小型化でき、かつ、小さな光強度で高速の状態遷移が可能となり、また、波長が多重化された光回路を実現することができ、素子のモノリシック集積、カスケード接続等が可能であり、極めて微少で大規模な、光回路、光ロジック、光メモリを構成することが可能となる。
【0068】
なお、導波路WGBが請求項記載の第1の導波路に相当し、光共振器CVRが第1の光共振器に相当し、CVSが第2の光共振器に相当し、導波路WGRが第2の導波路に相当し、導波路WGSが第3の導波路に相当し、導波路WGQBが第4の導波路に相当し、導波路WGQが第5の導波路に相当し、導波路WGDが第6の導波路に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】従来の光フリップフロップの一例の構成図である。
【図2】本発明の光フリップフロップ回路の原理構成図である。
【図3】光共振器の波長スペクトルを示す図である。
【図4】制御光の光強度と光共振器の状態の関係を示す図である。
【図5】本発明の光フリップフロップ回路の第1実施形態の構成図である。
【図6】本発明の光フリップフロップ回路の第2実施形態の構成図である。
【図7】本発明の光フリップフロップ回路の第2実施形態の変形例の構成図である。
【図8】光共振器対の構成図及び磁界パワー分布を示す図である。
【図9】光共振器におけるシフト量と共振波長の関係を示す図である。
【図10】フォトニック結晶に構成した光フリップフロップ回路の一実施形態の構成図である。
【図11】横奇モード導波路の構成図である。
【図12】光フリップフロップ回路各部の設計値を示す図である。
【図13】各光共振器と各導波路間の結合の強さと波長の値を示す図である。
【図14】光フリップフロップ回路の光入力と光出力のタイミングを示す図である。
【図15】光Bと制御光CS,CRの磁界パワーの時間変化を示す図である。
【図16】出力光のシミュレーション結果を示す図である。
【図17】図16の各時刻における磁界パワー分布を表す図である。
【符号の説明】
【0070】
CVS セット回路用の光共振器
CVR リセット回路用の光共振器
WGB 光Bを入力する導波路
WGR 制御光CRを入力する導波路
WGQB 出力光QBを出力する導波路
WGQ 出力光Qを出力する導波路
WGD 制御光CS,CRを導波路
21 三角格子空気孔2次元フォトニック結晶
22 スラブ
23 空気孔
25,26 光共振器
27,32,33 線欠陥導波路
28,29 部分幅寄せ線欠陥導波路
30,31 横奇モード導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常にベース光を入力される第1の導波路と、
第1、第2の共振モードを持ち前記第1の導波路から前記第1の共振モードの共振波長であるベース光を入力されると共に、前記第2の共振モードの共振波長である第1の制御光を入力されるとオン状態となり、前記第1の制御光が入力されず前記ベース光の光強度が低下するとオフ状態となる第1の光共振器と、
第3、第4の共振モードを持ち前記第1の導波路から前記第3の共振モードの共振波長である前記ベース光を入力されると共に、前記第4の共振モードの共振波長である第2の制御光を入力されるとオン状態となり、前記第2の制御光が入力されず前記ベース光の光強度が低下するとオフ状態となる第2の光共振器を
有することを特徴とする光フリップフロップ回路。
【請求項2】
請求項1記載の光フリップフロップ回路において、
前記第1の光共振器に前記第1の制御光を入力する第2の導波路と、
前記第2の光共振器に前記第2の制御光を入力する第3の導波路と、
前記第1の光共振器から第1の出力光を出力する第4の導波路と、
前記第2の光共振器から前記第1の出力光を反転した第2の出力光を出力する第5の導波路を
有することを特徴とする光フリップフロップ回路。
【請求項3】
請求項2記載の光フリップフロップ回路において、
前記第1、第2の制御光を排出する第6の導波路を
有することを特徴とする光フリップフロップ回路。
【請求項4】
請求項2または3記載の光フリップフロップ回路において、
前記第1の光共振器の第1の共振モードと前記第2の光共振器の第3の共振モードは空間対称性が異なることを特徴とする光フリップフロップ回路。
【請求項5】
請求項3または4記載の光フリップフロップ回路において、
前記第1、第2の光共振器と、前記第1乃至第6の導波路は、フォトニック結晶上に形成されることを特徴とする光フリップフロップ回路。
【請求項6】
請求項5記載の光フリップフロップ回路において、
前記第1、第2の光共振器は、幅調整欠陥光共振器であり、
前記第1の導波路は、線欠陥導波路であり、
前記第2、第3の導波路は、部分幅寄せ線欠陥導波路であり、
前記第4、第5の導波路は、横奇モード導波路であることを特徴とする光フリップフロップ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−349951(P2006−349951A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175536(P2005−175536)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月29日 社団法人応用物理学会発行の「2005年(平成17年)春季 第52回 応用物理学関係連合講演会講演予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】