説明

光並列演算素子

【課題】より高性能な並列演算をより高速に行うことができる光並列演算素子を提供する。
【解決手段】本光並列演算素子は、隣接して複数の光学セルが設けられ、各光学セルは、上部に光の入射部を有するとともに、隔壁と底部で区画化された空間に、光の情報を受けたときに応答する光応答性物質を収容し、隔壁は光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい特定波長の光の波長に対応した間隔で備え付けられた銀製の支柱を設けるか、もしくは光の透過側と接する部分に銀をコーティングする。光応答性物質は所定波長Wiの光が照射されたとき所定の波長領域にわたって分布する光を発光し、この発光した光は隔壁を介して規定波長Wfの光として隣接する光学セルに入射し、この隣接する光学セルに所定波長Wiの光が照射されている状態のときに、規定波長Wfの光が入射すると波長Wfの明るい光が発生し、この波長Wfの明るい光に基づいて光学セル間のアナログ演算を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光並列演算時に互いの光情報を組み入れることで、より高性能な並列演算をより高速に行うための光並列演算素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理装置の高速化・高性能化の要求に伴い、演算処理の並列化が要求されている。このため、デジタル演算処理回路が複数組み込まれた並列演算素子が提供されているが、アナログ情報に関しては個々の信号を毎回デジタル信号に変換した後に並列デジタル演算を行わなければならない。そのために、演算処理の高速化には複数のアナログ信号をアナログのまま一度に並列に演算できる演算素子が必要となってくる。
【0003】
従来のアナログ演算素子において、単一の回路のものはオペアンプのような従来の半導体素子を用い、複数の回路では、まずアナログ信号をデジタル信号に変換して、その後、複数のデジタル信号を演算処理していた。そのため、複数のアナログ信号のアナログ演算を並列に行うには、入力回路数と同数のアナログ−デジタル変換回路が必要となってしまう。しかも、回路数が多くなればなるほど複数のアナログ−デジタル変換回路同士の同期を取ることが難しくなるといった問題も生じてしまう。
【0004】
一方、光を用いて演算を行う素子が提案されている。図13に従来の光演算素子の構成を模式的に断面図で示す。この光演算素子は、二次元配列した複数の光学セル51を備え、それぞれの光学セル51は隔壁52と底部53よりなる区画に光の情報を受けたときに応答する光応答性物質54を収容している。各光学セル51には演算光照射装置55により所定波長の光56が照射し、光56が照射された光学セル51内の光応答性物質54は光応答性を示し、その状態を検出することにより、演算が行われるようになっている。
【0005】
しかしながら、このような従来の光演算素子は、演算の並列化を行う場合、それぞれ独立した光学セル51によって行われており、並列演算中は隣接した光学セル51どうしの間での情報の遣り取りは行われていない。もし、隣り合った光学セル51どうしの演算が必要な場合には、並列演算を一旦止めて、光学セル51どうしの演算を行い、その後、並列演算を再開するといった作業を行っていた。
【0006】
従って、光学セル51間の情報の遣り取りが多くなればなるほど、複数の光学セル51による並列演算の演算速度が低下してしまうといった問題を生じていた。並列演算には、並列演算を行う前処理にデータの並び替え等の処理が必要なため、場合によっては単独の光学セル51による演算の方が早くなるといった問題も生じてしまう。
【非特許文献1】C. Genet and T. W. Ebbesen, “Light in tiny holes”, Nature, 445, 39 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、より高性能な並列演算をより高速に行うことができる光並列演算素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、第1には、互いに隣接して設けられる複数の光学セルを有し、各光学セルは、上部に光の入射部を有するとともに、隔壁と底部で区画化された空間に、光の情報を受けたときに応答する光応答性物質を収容し、隔壁は光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい規定波長Wfの光に対応した間隔で備え付けられた銀製の支柱が設けられるかもしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされており、光応答性物質は所定波長Wiの光が照射されたとき所定の波長領域にわたって分布する光を発光し、この発光した光は隔壁を介して規定波長Wfの光として隣接する光学セルに入射し、この隣接する光学セルに所定波長Wiの光が照射されている状態のときに、規定波長Wfの光が入射すると波長Wfの明るい光が発生し、この波長Wfの明るい光に基づいて光学セル間のアナログ演算を行うことを特徴とする光並列演算素子を提供する。
【0009】
第2には、互いに隣接して設けられる複数の光学セルを有し、各光学セルは、上部に光の入射部を有するとともに、隔壁と底部で区画化された空間に、光の情報を受けたときに応答する光応答性物質を収容し、隔壁は光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい規定波長Wfの光の波長と同じ間隔で備え付けられた銀製の支柱が設けられるかもしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされており、底部には上方から入射した光を反射して光学窓を介して隣接した光学セルに導くためのミラーが設けられ、光応答性物質は所定波長Wiの光が照射されたとき所定の波長領域にわたって分布する光を発光し、この発光した光は隔壁を介して規定波長Wfの光として隣接する光学セルに入射し、この隣接する光学セルに所定波長Wiの光が照射されている状態のときに、規定波長Wfの光が入射すると波長Wfの明るい光が発生し、この波長Wfの明るい光に基づいて光学セル間のアナログ演算を行うことを特徴とする光並列演算素子を提供する。
【0010】
第3には、互いに隣接して設けられる複数の光学セルを有し、各光学セルは、上部に光の入射部を有するとともに、隔壁と底部で区画化された空間に、光の情報を受けたときに応答する光応答性物質を収容し、隔壁は光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい規定波長Wfの光の波長と同じ間隔で備え付けられた銀製の支柱が設けられるかもしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされており、光応答性物質は所定波長Wiの光が照射されたとき所定の波長領域にわたって分布する光を発光し、この発光した光は隔壁を介して規定波長Wfの光として隣接する光学セルに入射し、特定のセルに隣接する2以上の光学セルから規定波長Wfの光が入射すると波長Wfの明るい光が発生し、この波長Wfの明るい光に基づいて光学セル間のアナログ演算を行うことを特徴とする光並列演算素子を提供する。
【0011】
第4には、互いに隣接して設けられる複数の光学セルを有し、各光学セルは、上部に光の入射部を有するとともに、隔壁と底部で区画化された空間に、光の情報を受けたときに応答する光応答性物質を収容し、隔壁は光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい規定波長Wfの光の波長と同じ間隔で備え付けられた銀製の支柱が設けられるかもしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされており、底部には上方から入射した光を反射して隔壁を介して隣接する光学セルに導くためのミラーが形成され、光応答性物質は所定波長Wiの光が照射されたとき所定の波長領域にわたって分布する光を発光し、この発光した光は隔壁を介して規定波長Wfの光として隣接する光学セルに入射し、特定のセルに隣接する2以上の光学セルから規定波長Wfの光が入射すると波長Wfの明るい光が発生し、この波長Wfの明るい光に基づいて光学セル間のアナログ演算を行うことを特徴とする光並列演算素子を提供する。
【0012】
第5には、上記第1ないし第4のいずれかの発明において、光応答性物質がレーザー色素であることを特徴とする光並列演算素子を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光学セル間に光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい特定波長の光の波長と同じ間隔で備え付けられた銀製の支柱もしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされたもので作られた隔壁を備え、複数の光学セル内の光応答性分子に対する光の遣り取りを利用して演算を行うことで、複数のセルの情報を足し合わせることが可能になり、より高性能な並列演算を高速で行う演算素子を実現でき、係るアナログ演算装置の性能向上に寄与するところが大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1実施形態に係る光並列演算素子の構成を模式的に示す平面図、図2は、第1実施形態に係る光並列演算素子の光学セルの構成を示す断面図、図3は、第1実施形態に係る光並列演算素子の原理説明図である。
【0016】
光学セル11は、隔壁12と底部13で区画化された空間を有し、その空間に光の情報を受けたときに応答する光応答性物質14が収容されている。隔壁12は光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい規定波長Wfの光の波長に対応した間隔で備え付けられた銀製の支柱が設けられているかもしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされている(図1には銀がコーティングされた構造体15が示されている)。ここで規定波長Wfの光の波長に対応した間隔とは、規定波長Wfより10%程度の範囲で短い(Wf−0.1×Wf)隙間を示す。光学セル11の上側は開口するように記載されているが、装置化にあたっては光応答性物質14を密閉した構造とする。この密閉化は、光透過性材料でふたをする方法で行ってもよく、カプセル化してもよい。光学セル11内の光応答性物質14は上側から光の照射が行えるようになっている。なお、ここで上側とは、図2では紙面の上方向を指し、実際の使用にあたっては任意の方向を向いていてよい。本実施形態では、後述する第2実施形態のように底部13にミラーを設けた構成となっていないが、ミラーを設けるかどうかは、光応答性物質14として使用する分子の種類や演算方法、あるいは得ようとする光信号の大きさ等により決めることができる。
【0017】
光学セル11の材料としては、光透過性の透明材料、例えば石英、ガラス、窒化シリコン、酸化シリコン、サファイア、透明アルミナ等が用いられる。光学セル11の寸法としては、例えば、縦100μm、横100μm、深さ200μm程度のものが使用されるが、これに限定されない。そして、隔壁12はこの光透過性の透明材料に対し、上記のように、透過させたい規定波長Wfの光の波長に対応した間隔で備え付けられた銀製の支柱が設けられるかもしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされている。ここで銀製の支柱は、銀製の支柱を備える部分に選択的に銀メッキを施すことにより備え付けられる。光応答性物質14は、所定波長の光Wiが照射されたときには所定の波長領域にわたって分布する光を発光し、この発光した光は隔壁12を介して規定波長Wfの光として隣接する光学セル11に入射し、この隣接する光学セル11に所定波長Wiの光が照射されている状態のときに、規定波長Wfの光が入射すると波長Wfの明るい光(発光強度大)が発生する材料を用いる。光応答性物質14としては、例えば、Benzoic Acid, 2-[6-(ethylamino)-3-(ethylimino)-2,7-dimethyl-3H-xanthen-9-yl]-ethyl ester, mono-hydro-chloride (以下、Rhodamine 6Gと略す。)、o-(6-Amino-3-imino-3H-xanthen-9-yl)-benzoic acid (通称、Rhodamine 110))等のレーザー色素を、メタノール、エタノール、等のアルコール類やジメチルスルホキシド等の溶媒に溶解させたもの等を用いることができる。
【0018】
ここで、銀がコーティングされた構造体15と銀製の支柱について述べる。図7は、銀がコーティングされた構造体15を説明するための平面図、図8は、同構造体15を模式的に示す斜視図である。図7に示すように、同構造体15は一定の厚みs3を有し、配列方向にピッチs2で複数のものが離間配置され、幅s1のスリットが形成され、このスリットが透過光の導波路としての役割を担うようになっている。このスリット、すなわち光を透過する部分の間隔s1は透過させる光の波長Wfより短い間隔に設定される。ちなみに、寸法例としては透過する光の波長が623nmの場合、s1=150nm、s2≒600nm、s3=300〜500nmである。
【0019】
銀のコーティングの方法の一例を図9に示す。たとえば図9(a)に示すように銀をコーティングする部分と光学セルが加工された石英に、図9(b)に示すように銀をコーティングする部分以外をレジストで覆い、図9(c)に示すようにスパッタ工程により銀を蒸着させ、図9(d)に示すように銀をコーティングする部分以外の銀をリフトオフにより除く。
【0020】
また、銀製の支柱の作製プロセスの一例を図10に示す。たとえば図10(a)に示すように土台のシリコンと壁面の石英に金メッキを施し、図10(b)に示すようにこれらの材料を貼り合わせる。次に、図10(c)に示すように光学セルの部分をレジストで覆い、図10(d)に示すようにDeepRIEによる異方性エッチングを行い、次に図10(e)に示すように銀製の支柱を作製するところ以外の部分をレジストで覆い、図10(f)に示すように銀メッキの工程により、銀製の支柱を作製する。
【0021】
上記銀がコーティングされた構造体15あるいは銀製の支柱は、次のようにして規定波長Wfの光を透過させる。通常、回折限界のために光は波長よりも狭い穴を透過することができない。しかし、透過させる波長と同じ周期の間隔で穴を開けた構造で、しかも照射する部分の材質が銀の場合には、図11のように表面に電磁波の分布が発生し、その隙間を導波管のように電磁波が伝搬し、その後、照射面とは反対の面に電磁波が発生し、ある特定の波長の光が発生する。この一連のメカニズムにより、穴の開いた間隔と同じ波長の光が透過する(非特許文献1)。この効果は、スリットに対してもある偏光に対して効果があるため、発光面(図11の下側)から、選択された光が出射される。
【0022】
演算動作について述べると、まず図3(i)に示すように、一次元配列の光学セルを考える。波長Wiの光を光学セルA(11)に入れた光応答性物質14に照射する。同時に、波長Wiの光を光学セルB(11)に入れた光応答性物質14に照射する。この時、光応答性物質14からは波長が広く分布した光が発光される。光学セルA(11)で発光した光の一部は図示しない左隣の光学セルと右隣の光学セルB(11)に向かい、光学セルB(11)で発光した光の一部は左隣の光学セルA(11)と右隣の光学セルC(11)に向かうが、銀がコーティングされた構造体15が設けられた隔壁12により規定波長Wfのみの光がそれぞれ光学セルA(11)と光学セルB(11)に透過し、光学セルA(11)と光学セルB(11)に入れられた光応答性物質14にそれぞれ照射される。このとき、光学セルA(11)と光学セルB(11)内の光応答性物質12に照射される光は所定量以上の光量となり、光応答性物質14は励起され、強く発光する(図3(ii)、(iii))。また、光学セルA(11)の左隣の光学セルのみや光学セルC(11)のみへの光照射では光量が足りず、光学セルA(11)や光学セルB(11)のような発光は起こらないようになっている。そして発光の有無とその強度が隣接する光学セル11どうしの演算結果となる。従って、特定光学セルに隣接する複数の光学セルから光の情報が同時に入力された場合に起こる光応答性物質14の変化を利用することで、複数の入力情報による演算が可能になる。
【0023】
以上、本発明の光並列演算素子の原理を一次元配列の光学セルを用いた場合を例に説明してきたが、もちろん、本発明では、多数の光学セルを二次元配列した素子構成とすることができる。
【0024】
次に、本発明の第2の実施形態について述べる。図4は、第2実施形態に係る光並列演算素子の構成を模式的に示す平面図、図5は、第2実施形態に係る光並列演算素子の光学セルの構成を示す断面図、図6は、第2実施形態に係る光並列演算素子の原理説明図である。図4〜図6において図1〜図3と同様な要素には同じ符号を付してある。
【0025】
前述の第1の実施形態と同様に、光学セル11は、隔壁12と底部13で区画化された空間を有し、その空間に光の情報を受けたときに応答する光応答性物質14が収容されている。隔壁12は光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい規定波長Wfの光の波長に対応した間隔で備え付けられた銀製の支柱が設けられているかもしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされている(図4には銀がコーティングされた構造体15が示されている)。また、底部13Aは図5に示すように断面が三角形状となっており、その2辺に相当する部分に図示のようにミラー16が形成されている。このミラー16は隣接する光学セル11と光の情報の遣り取りをより良好にするために設けられている。第2の実施形態では、第1の実施形態とこの底部13Aの形状とミラー16が設けられている構成が異なっており、その他の構成は同様である。
【0026】
演算動作について述べると、まず図6(i)に示すように、一次元配列の光学セルを考える。波長Wiの光を光学セルA(11)に入れた光応答性物質14に照射する。同時に、波長Wiの光を光学セルC(11)に入れた光応答性物質14に照射する。この時、光応答性物質14からは波長が広く分布した光が発光される。光学セルA(11)で発光した光の一部はミラー16で反射され、図示しない左隣の光学セルと右隣の光学セルB(11)に向かい、光学セルC(11)で発光した光の一部はミラー16で反射され、左隣の光学セルB(11)と右隣の光学セルD(11)に向かうが、銀がコーティングされた構造体15が設けられた隔壁12により規定波長Wfのみの光が透過し、光学セルB(11)に入れられた光応答性物質14に照射される。このとき、光学セルB(11)内の光応答性物質12に照射される光は所定量以上の光量となり、光応答性物質14は励起され、強く発光する(図6(ii)、(iii))。また、光学セルA(11)のみや光学セルC(11)のみへの光照射では光量が足りず、発光は起こらないようになっている。そして前記現象の結果生じた強い光が隣接する光学セルB(11)と光学セルA(11)、C(11)との演算結果となる。従って、特定光学セルに隣接する複数の光学セルから光の情報が同時に入力された場合に起る光応答性物質14の変化を利用することで、複数の入力情報による演算が可能になる。
【0027】
以上、本発明の光並列演算素子の原理を一次元配列の光学セルを用いた場合を例に説明してきたが、もちろん、本発明では、多数の光学セルを二次元配列した素子構成とすることができる。
【0028】
また、第1の実施形態では隣どうしの光学セルに着目し、第2の実施形態では特定光学セルとその両隣の光学セルに着目したが、両者の関係を入れ替えても同様に光並列アナログ演算を行うことができる。
【0029】
また、上記の第2の実施形態では、各光学セルの形状が平面視正方形状であり、底部の形状が四角錐状である場合を例に述べたが、各光学セルは、その形状が平面視正三角形状であり、底部の形状が三角錐状であるものとして、これらを細密に配置してもよく、また、その形状を平面視正六角形状とし、底部の形状が六角錐状として、これらを蜂の巣状に配置してもよい。これらは、各光学セルの形成にマイクロマシーン技術を使用した場合、リソグラフィーのマスクのパターンを変えるだけで作製することができる。また、各光学セルの底部の形状は上部が平らとなっていてもよい。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0031】
図12は本発明の実施例に係る光並列演算素子の原理説明図である。図12の光並列演算素子は4つの光学セルを有しているが、これは例示のためであり、実際には所要数の光学セルを二次元配列させたものとすることができる。
【0032】
光学セルは石英をマイクロマシーン技術により微細加工して図12(i)のように隔壁と底部で区画化された空間を形成した。また、隔壁には623nmの光のみが増強されるよう図10に示す手法により623nmの間隔で銀の支柱を設けた。断面が三角形の底部には金を蒸着してミラーを設けた。このミラーは、上方から入ってきた光を、隔壁を通して隣接する光学セルに向かって反射するように形成した。光学セル内には光応答性物質として、Rhodamine101の0.75gを1000mlの溶媒(メタノール)に溶解した混合液を入れた。
【0033】
この光並列演算素子の動作について説明すると、図12(i)に示すように、光学セルAに入れた光応答性物質Rhodamine101に波長Wi=308nmの光を照射する同時に、光学セルCに入れた同じ光応答性物質に波長308nmの光を照射した。この時、光学セルAとCのRhodamine101が波長308nmの光により励起し発光した。この光はミラーで反射し、隔壁で波長623nmの光のみが増強され、光学セルBに照射された。光学セルBのRhodamine101は、光学セルAとCからの増強された波長623nmの光を同時に受け、誘導放出により波長623nmの光を強く発光した。光学セルAのみやCのみを光照射した時には、光学セルBにおいてRhodamine101を発光させるだけの光量が足りず、光学セルDのようにRhodamine101による波長623nmの強い発光は起きなかった。この一連の現象の結果として光学セルBで生じた強い光が隣接する演算結果となる。
【0034】
また、波長Wiが488nmの光、532nmの光についてもRhodamine101の2.5gを1000mlの溶媒(メタノール)に溶解した混合液、Rhodamine101の0.5gを1000mlの溶媒(メタノール)に溶解した混合液を用いて上記と同様な演算を行ったところ、同様な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光並列演算素子の構成を模式的に示す平面図である。
【図2】第1実施形態に係る光並列演算素子の光学セルの構成を示す断面図である。
【図3】第1実施形態に係る光並列演算素子の原理説明図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る光並列演算素子の構成を模式的に示す平面図である。
【図5】第2実施形態に係る光並列演算素子の光学セルの構成を示す断面図である。
【図6】第2実施形態に係る光並列演算素子の原理説明図である。
【図7】銀がコーティングされた構造体を説明するための平面図である。
【図8】前記構造体を模式的に示す斜視図である。
【図9】銀のコーティングの方法の一例を示す工程図である。
【図10】銀製の支柱の作製プロセスの一例を示す工程図である。
【図11】銀製の支柱あるいは銀のコーティングを設けた構造における規定波長の光の透過のメカニズムの説明図である。
【図12】本発明の実施例に係る光並列演算素子の原理説明図である。
【図13】従来の光演算素子の構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
11 光学セル
12 隔壁
13、13A 底部
14 光応答性物質
15 銀がコーティングされた構造体
16 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隣接して設けられる複数の光学セルを有し、
各光学セルは、上部に光の入射部を有するとともに、隔壁と底部で区画化された空間に、光の情報を受けたときに応答する光応答性物質を収容し、隔壁は光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい規定波長Wfの光の波長に対応した間隔で備え付けられた銀製の支柱が設けられるかもしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされており、
光応答性物質は所定波長Wiの光が照射されたとき所定の波長領域にわたって分布する光を発光し、この発光した光は隔壁を介して規定波長Wfの光として隣接する光学セルに入射し、この隣接する光学セルに所定波長Wiの光が照射されている状態のときに、規定波長Wfの光が入射すると波長Wfの明るい光が発生し、この波長Wfの明るい光に基づいて光学セル間のアナログ演算を行うことを特徴とする光並列演算素子。
【請求項2】
互いに隣接して設けられる複数の光学セルを有し、
各光学セルは、上部に光の入射部を有するとともに、隔壁と底部で区画化された空間に、光の情報を受けたときに応答する光応答性物質を収容し、隔壁は光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい規定波長Wfの光の波長に対応した間隔で備え付けられた銀製の支柱が設けられるかもしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされており、底部には上方から入射した光を反射して光学窓を介して隣接した光学セルに導くためのミラーが設けられ、
光応答性物質は所定波長Wiの光が照射されたとき所定の波長領域にわたって分布する光を発光し、この発光した光は隔壁を介して規定波長Wfの光として隣接する光学セルに入射し、この隣接する光学セルに所定波長Wiの光が照射されている状態のときに、規定波長Wfの光が入射すると波長Wfの明るい光が発生し、この波長Wfの明るい光に基づいて光学セル間のアナログ演算を行うことを特徴とする光並列演算素子。
【請求項3】
互いに隣接して設けられる複数の光学セルを有し、
各光学セルは、上部に光の入射部を有するとともに、隔壁と底部で区画化された空間に、光の情報を受けたときに応答する光応答性物質を収容し、隔壁は光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい規定波長Wfの光の波長に対応した間隔で備え付けられた銀製の支柱が設けられるかもしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされており、
光応答性物質は所定波長Wiの光が照射されたとき所定の波長領域にわたって分布する光を発光し、この発光した光は隔壁を介して規定波長Wfの光として隣接する光学セルに入射し、特定のセルに隣接する2以上の光学セルから規定波長Wfの光が入射すると波長Wfの明るい光が発生し、この波長Wfの明るい光に基づいて光学セル間のアナログ演算を行うことを特徴とする光並列演算素子。
【請求項4】
互いに隣接して設けられる複数の光学セルを有し、
各光学セルは、上部に光の入射部を有するとともに、隔壁と底部で区画化された空間に、光の情報を受けたときに応答する光応答性物質を収容し、隔壁は光透過性の透明材料よりなり且つ透過させたい規定波長Wfの光の波長に対応した間隔で備え付けられた銀製の支柱が設けられるかもしくは光の透過側と接する部分に銀がコーティングされており、底部には上方から入射した光を反射して隔壁を介して隣接する光学セルに導くためのミラーが形成され、
光応答性物質は所定波長Wiの光が照射されたとき所定の波長領域にわたって分布する光を発光し、この発光した光は隔壁を介して規定波長Wfの光として隣接する光学セルに入射し、特定のセルに隣接する2以上の光学セルから規定波長Wfの光が入射すると波長Wfの明るい光が発生し、この波長Wfの明るい光に基づいて光学セル間のアナログ演算を行うことを特徴とする光並列演算素子。
【請求項5】
光応答性物質がレーザー色素であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の光並列演算素子。

【図3】
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【図6】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−42312(P2009−42312A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204747(P2007−204747)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】